(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179032
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】水系顔料分散体
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20241219BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20241219BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/326
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097521
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 晃志
【テーマコード(参考)】
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
4J037DD23
4J037DD24
4J037FF15
4J039BE01
4J039BE16
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE23
4J039CA06
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】サーマル方式のインクジェット記録においても、吐出性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体の製造方法、並びに該水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体であって、該架橋ポリマー分散剤Aが、カルボキシ基を有するポリマー(a)由来の構造と多官能エポキシ化合物(b)由来の構造とを含み、該架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基の少なくとも一部は、アルカリ金属水酸化物で中和されてなり、該架橋ポリマー分散剤Aの架橋度及び該ポリマー(a)の酸価が下記の条件1を満たす、水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体の製造方法、並びに該水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。
条件1:〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/100〕×(ポリマー(a)の酸価)の値が、230mgKOH/g以上360mgKOH/g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体であって、
該架橋ポリマー分散剤Aが、カルボキシ基を有するポリマー(a)由来の構造と多官能エポキシ化合物(b)由来の構造とを含み、
該架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基の少なくとも一部は、アルカリ金属水酸化物で中和されてなり、
該架橋ポリマー分散剤Aの架橋度及び該ポリマー(a)の酸価が下記の条件1を満たす、水系顔料分散体。
条件1:〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/100〕×(ポリマー(a)の酸価)の値が、230mgKOH/g以上360mgKOH/g以下である。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度は、架橋ポリマー分散剤Aを構成する多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数を、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数で除した値〔(多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比である。
【請求項2】
架橋ポリマー分散剤Aの酸価が40mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である、請求項1に記載の水系顔料分散体。
【請求項3】
架橋ポリマー分散剤Aの架橋度が40モル%以上90モル%以下である。請求項1又は2に記載の水系顔料分散体。
【請求項4】
ポリマー(a)の酸価が300mgKOH/g以上800mgKOH/g以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系顔料分散体。
【請求項5】
ポリマー(a)がカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位を含むビニル系ポリマーであり、該カルボキシ基含有モノマー(a-1)が、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水系顔料分散体。
【請求項6】
ポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水系顔料分散体。
【請求項7】
多官能エポキシ化合物(b)の水溶率が45質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水系顔料分散体。
【請求項8】
架橋ポリマー分散剤Aの架橋度の、架橋ポリマー分散剤Aの中和度に対する比〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/(架橋ポリマー分散剤Aの中和度)〕が、1以上7以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の水系顔料分散体。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの中和度は、水系顔料分散体中のアルカリ金属水酸化物のモル当量数を、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数で除した値〔(アルカリ金属水酸化物のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比である(ただし、該値〔(アルカリ金属水酸化物のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比及び架橋ポリマー分散剤Aの架橋度の合計が100モル%を超える場合には、架橋ポリマー分散剤Aの中和度は、100モル%から架橋度(モル%)を差し引いた値である)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の水系顔料分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
【請求項10】
サーマル方式インクジェット記録用である、請求項9に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項11】
下記の工程1及び工程2を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の水系顔料分散体の製造方法。
工程1:顔料、カルボキシ基を有するポリマー(a)、及びアルカリ金属水酸化物を含む顔料混合物に剪断応力を加えて分散処理して顔料水分散体(d)を得る工程
工程2:工程1で得られた顔料水分散体(d)中のカルボキシ基を有するポリマー(a)のカルボキシ基と多官能エポキシ化合物(b)とを反応させて架橋ポリマー分散剤Aを形成して、顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体の製造方法、並びに該水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像が記録された記録物を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被記録媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。特に記録物の耐候性や耐水性の観点から、着色材に顔料を用いるものが主流となってきている。
一方、着色材が顔料であるインクジェット記録用水系インクは、顔料粒子が水系媒体中に分散しているため、吐出性が劣るという問題がある。
そこで、着色材が顔料であるインクジェット記録用水系インクの特性を改善するため、種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク吐出ノズルでの顔料やポリマーの固化による吐出ノズルの目詰りを抑制できる優れた再分散性と、高温下における保存安定性を確保できる水系顔料分散体等の提供を課題として、カルボキシ基を有する水不溶性ポリマー(A)と水不溶性多官能エポキシ化合物(b)によって架橋してなるポリマー分散剤、及び顔料からなる水系顔料分散体であって、該水不溶性ポリマー(A)のカルボキシ基の少なくとも一部はアルカリ金属化合物で中和されており、かつ、中和された水不溶性ポリマー(A)の酸価と中和度と架橋度が特定の条件を満たす水系顔料分散体等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、水系顔料分散体については、該水系顔料分散体をインクジェット記録用インクに用いる際の吐出性の更なる向上に対する要望が高まっている。特許文献1の水系顔料分散体は、該水系顔料分散体をピエゾ方式のインクジェット記録用水系インクに用いた際には、吐出ノズルの目詰りを抑制することができると記載されているものの、インクに熱エネルギーを印加して飛翔させる、サーマル方式のインクジェット記録への適用においては未だ不十分なものであることが判明した。
本発明は、サーマル方式のインクジェット記録においても、吐出性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体の製造方法、並びに該水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体であって、該架橋ポリマー分散剤が、カルボキシ基を有するポリマー由来の構造と多官能エポキシ化合物由来の構造とを含み、該架橋ポリマー分散剤を構成するポリマーのカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されてなり、更に該架橋ポリマー分散剤Aの架橋度及び該カルボキシ基を有するポリマーの酸価が特定の条件を満たすことにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[3]に関する。
[1]顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体であって、
該架橋ポリマー分散剤Aが、カルボキシ基を有するポリマー(a)由来の構造と多官能エポキシ化合物(b)由来の構造とを含み、
該架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基の少なくとも一部は、アルカリ金属水酸化物で中和されてなり、
該架橋ポリマー分散剤Aの架橋度及び該ポリマー(a)の酸価が下記の条件1を満たす、水系顔料分散体。
条件1:〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/100〕×(ポリマー(a)の酸価)の値が、230mgKOH/g以上360mgKOH/g以下である。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度は、架橋ポリマー分散剤Aを構成する多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数を、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数で除した値〔(多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比である。
[2]前記[1]に記載の水系顔料分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
[3]下記の工程1及び工程2を含む、前記[1]に記載の水系顔料分散体の製造方法。
工程1:顔料、カルボキシ基を有するポリマー(a)、及びアルカリ金属水酸化物を含む顔料混合物に剪断応力を加えて分散処理して顔料水分散体(d)を得る工程
工程2:工程1で得られた顔料水分散体(d)中のカルボキシ基を有するポリマー(a)のカルボキシ基と多官能エポキシ化合物(b)とを反応させて架橋ポリマー分散剤Aを形成して、顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体を得る工程
【発明の効果】
【0008】
本発明は、サーマル方式のインクジェット記録においても、吐出性に優れる水系顔料分散体、及び該水系顔料分散体の製造方法、並びに該水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[水系顔料分散体]
本発明の水系顔料分散体は、顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体であって、該架橋ポリマー分散剤Aが、カルボキシ基を有するポリマー(a)由来の構造と多官能エポキシ化合物(b)由来の構造とを含み、該架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基の少なくとも一部は、アルカリ金属水酸化物で中和されてなり、該架橋ポリマー分散剤Aの架橋度及び該ポリマー(a)の酸価が下記の条件1を満たす。
条件1:〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/100〕×(ポリマー(a)の酸価)の値が、230mgKOH/g以上360mgKOH/g以下である。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度は、架橋ポリマー分散剤Aを構成する多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数を、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数で除した値〔(多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比である。
【0010】
なお、本発明において、「水系」とは、顔料が分散されている媒体中で、水が質量基準で最大割合を占めていることを意味する。また、「記録」とは、文字や画像を記録する印刷及び印字を含む概念である。
本発明の水系顔料分散体は、サーマル方式のインクジェット記録において水系インクとして用いる際にも吐出性に優れる。そのため、本発明の水系顔料分散体は、サーマル方式インクジェット記録用水系インクとして好適に用いることができる。
また、本明細書において、サーマル方式のインクジェット記録におけるインクの吐出性を単に「インクの吐出性」ともいう。
【0011】
本発明の水系顔料分散体は、サーマル方式のインクジェット記録においても、吐出性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の水系顔料分散体は、顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する。本発明の水系顔料分散体においては、カルボキシ基を有するポリマー(a)由来の構造と多官能エポキシ化合物(b)由来の構造とを含む架橋ポリマー分散剤Aにより顔料が水系媒体に分散されてなる。そして、架橋ポリマー分散剤Aに存在するカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリ金属水酸化物で中和されてなり、更に架橋ポリマー分散剤Aの架橋度及びカルボキシ基を有するポリマー(a)の酸価が特定の条件を満たす。これにより、アルカリ金属水酸化物の強塩基性に起因して架橋ポリマー分散剤Aの間に強い電荷反発力が発現し、かつ、顔料表面に該架橋ポリマー分散剤Aを強固に吸着させることができることに起因して顔料からの該架橋ポリマー分散剤Aの脱離を抑制することができるため、水系顔料分散体及び該水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インク中の顔料の分散安定性が高まり、その結果、サーマル方式のインクジェット記録装置のヒーター上での凝集物の発生を抑制することができ、サーマル方式のインクジェット記録においても優れた吐出性を発現できると考えられる。
【0012】
<顔料>
本発明に係る顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物が挙げられる。黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックが挙げられる。白色インクにおいては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料が挙げられる。
無彩色インクにおいては、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料、有彩色インクにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
前記顔料は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明において、顔料は架橋ポリマー分散剤Aで分散され、水系媒体中に粒子の形態で含有される。
【0013】
<架橋ポリマー分散剤A>
本発明に係る架橋ポリマー分散剤Aは、カルボキシ基を有するポリマー(a)由来の構造と多官能エポキシ化合物(b)由来の構造とを含み、該架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基の少なくとも一部は、アルカリ金属水酸化物で中和されている。そして、架橋ポリマー分散剤Aの架橋構造は、該ポリマー(a)に存在するカルボキシ基の一部と多官能エポキシ化合物(b)との反応によって形成される。
【0014】
本発明の水系顔料分散体は、顔料を架橋ポリマー分散剤Aで水系媒体に分散させてなる。本発明の水系顔料分散体及び該水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インク中での顔料及び架橋ポリマー分散剤Aの存在形態としては両者共通であり、例えば、架橋ポリマー分散剤Aが顔料に吸着している状態、架橋ポリマー分散剤Aが顔料を含有している顔料内包(カプセル)状態が挙げられる。これらの中でも、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(以下、「顔料含有架橋ポリマー粒子」ともいう)の形態が好ましく、架橋ポリマー分散剤Aが顔料を内包している顔料内包架橋ポリマー粒子の形態がより好ましい。
【0015】
(カルボキシ基を有するポリマー(a))
架橋ポリマー分散剤Aを構成するカルボキシ基を有するポリマー(a)(以下、単に「ポリマー(a)」ともいう)は、顔料分散作用を発現する顔料分散剤としての機能を有する。
【0016】
ポリマー(a)としては、ポリエステル、ポリウレタン、及びビニル系ポリマーからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられるが、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、ビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系ポリマーがより好ましい。ビニルモノマーとしては、ビニル化合物、ビニリデン化合物、及びビニレン化合物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
【0017】
ポリマー(a)は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、更に好ましくはカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位を含むビニル系ポリマーであり、より更に好ましくはカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位及び疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位を含むビニル系ポリマーである。ポリマー(a)がカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位及び疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位を含む場合、カルボキシ基含有モノマー(a-1)及び疎水性モノマー(a-2)を含む原料モノマーを共重合させてなるものが好ましい。この場合、ポリマー(a)は、更にマクロモノマー(a-3)由来の構成単位及び/又はノニオン性モノマー(a-4)由来の構成単位を含んでもよい。
【0018】
〔カルボキシ基含有モノマー(a-1)〕
カルボキシ基含有モノマー(a-1)としては、カルボン酸モノマーが好ましく挙げられる。カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、及びα,β-不飽和ジカルボン酸等の不飽和ジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、カルボキシ基含有モノマー(a-1)は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。なお、前記不飽和ジカルボン酸は無水物であってもよい。
【0019】
〔疎水性モノマー(a-2)〕
本発明において「疎水性モノマー」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。
疎水性モノマー(a-2)の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0020〕~〔0022〕に記載の(メタ)アクリル酸アルキル、芳香族基含有モノマーが挙げられる。これらの中では、疎水性モノマー(a-2)は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは炭素数1以上18以下、より好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル、及び、好ましくは炭素数6以上22以下、より好ましくは炭素数6以上18以下の芳香族基を有する芳香族基含有モノマーからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、スチレン、α-メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸ベンジルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、スチレン、α-メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸ベンジルから選ばれる1種以上が更に好ましい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸アルキル等の「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの両方を含む概念である。
【0020】
〔マクロモノマー(a-3)〕
マクロモノマー(a-3)としては、片末端にメタクリロイルオキシ基等の重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下、好ましくは1,000以上10,000以下の化合物が挙げられる。
マクロモノマー(a-3)としては、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーが好ましい。芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、特開2018-83938号公報の段落〔0021〕に記載の芳香族基含有モノマーが挙げられる。それらの中でも、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーは、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、スチレン及び(メタ)アクリル酸ベンジルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの市販品例としては、例えば、東亞合成株式会社の「AS-6(S)」、「AN-6(S)」、「HS-6(S)」が挙げられる。
【0021】
〔ノニオン性モノマー(a-4)〕
ノニオン性モノマー(a-4)としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸モノエステル;アルコキシポリアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸モノエステル;フェノキシ(エチレングリコール/プロピレングリコール共重合)の(メタ)アクリル酸モノエステルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、ノニオン性モノマー(a-4)は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸モノポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、及び(メタ)アクリル酸モノポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、メタクリル酸モノポリプロピレングリコール(オキシプロピレン基の平均付加モル数:2以上30以下)が更に好ましい。
ノニオン性モノマー(a-4)の市販品例としては、例えば、新中村化学工業株式会社のNKエステルMシリーズ、日油株式会社のブレンマーPEシリーズ、ブレンマーPMEシリーズ、ブレンマーPPシリーズ、ブレンマーAPシリーズ、ブレンマー50PEP-300、ブレンマー50POEP-800B、ブレンマー43PAPE-600Bが挙げられる。
【0022】
上記のモノマー(a-1)~(a-4)は、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明においてポリマー(a)は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、カルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位を含むビニル系ポリマーであり、該カルボキシ基含有モノマー(a-1)が、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸からなる群から選ばれる1種以上であるものが好ましく、また、ポリマー(a)はアクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸から選ばれる1種以上のカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位及び疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位を含むビニル系ポリマーがより好ましく、また、ポリマー(a)はカルボキシ基含有モノマー(a-1)としてアクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸から選ばれる1種以上由来の構成単位、及び、疎水性モノマー(a-2)としてスチレン、α-メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸ベンジルから選ばれる1種以上由来の構成単位を含むビニル系ポリマーが更に好ましく、また、ポリマー(a)はカルボキシ基含有モノマー(a-1)としてマレイン酸由来の構成単位及び疎水性モノマー(a-2)としてスチレン由来の構成単位を含む、スチレン/マレイン酸共重合体がより更に好ましい。スチレン/マレイン酸共重合体については、後述する。
【0023】
(カルボキシ基を有するポリマー(a)中の各構成単位の含有量)
ポリマー(a)中のカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、より更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下、より更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは55質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下である。
ポリマー(a)中の疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは45質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
ポリマー(a)中のカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位及び疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位の合計含有量は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
ポリマー(a)中の疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位の含有量に対するカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位の含有量の質量比[カルボキシ基含有モノマー(a-1)/疎水性モノマー(a-2)]は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1以下である。
【0024】
さらに、ポリマー(a)中のマクロモノマー(a-3)由来の構成単位及び/又はノニオン性モノマー(a-4)由来の構成単位を含む場合、ポリマー(a)中のモノマー(a-1)~(a-4)に由来する構成単位の含有量は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、次のとおりである。
ポリマー(a)中のカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下である。
ポリマー(a)中の疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、より更に好ましくは45質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下である。
ポリマー(a)中のマクロモノマー(a-3)由来の構成単位の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
ポリマー(a)中のノニオン性モノマー(a-4)由来の構成単位の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
また、ポリマー(a)中のマクロモノマー(a-3)由来の構成単位を含む場合、疎水性モノマー(a-2)由来の構成単位及びマクロモノマー(a-3)由来の構成単位の合計含有量に対するカルボキシ基含有モノマー(a-1)由来の構成単位の含有量の質量比[カルボキシ基含有モノマー(a-1)/〔疎水性モノマー(a-2)+マクロモノマー(a-3)〕]は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは3.5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2.5以下、より更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.5以下である。
【0025】
(スチレン/マレイン酸共重合体)
スチレン/マレイン酸共重合体は、マレイン酸由来の構成単位及びスチレン由来の構成単位を含み、マレイン酸由来の構成単位とスチレン由来の構成単位とが交互共重合している部分が存在し、マレイン酸の構成単位とスチレンの構成単位とが規則的に配置されていることにより、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)の顔料への吸着がより均一になり、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させることができると考えられる。
ポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である場合、スチレン/マレイン酸共重合体中のマレイン酸由来の構成単位の含有量に対するスチレン由来の構成単位の含有量のモル比[スチレン/マレイン酸]は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.8以上、より更に好ましくは1以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2.8以下、更に好ましくは2.5以下、より更に好ましくは2以下である。
ポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である場合、スチレン/マレイン酸共重合体中のマレイン酸由来の構成単位の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、より更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下、より更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは55質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下である。
ポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である場合、スチレン/マレイン酸共重合体は、スチレン由来の構成単位及びマレイン酸由来の構成単位以外の他のモノマー由来の構成単位を含んでもよいが、スチレン/マレイン酸共重合体中のスチレン由来の構成単位及びマレイン酸由来の構成単位の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、更に好ましくは100質量%である。
【0026】
(カルボキシ基を有するポリマー(a)の製造)
ポリマー(a)は、上記のモノマー(a-1)、及び必要に応じて(a-2)~(a-4)を含む原料モノマーを公知の重合法により共重合させることによって製造できる。重合法としては、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、水、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性溶媒が好ましく、水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン等がより好ましい。
重合の際には、公知の重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができ、重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が好ましく、重合連鎖移動剤としては、2-メルカプトエタノール等のメルカプタン化合物が好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下であることが好ましく、重合時間は1時間以上10時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0027】
ポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である場合、スチレン/マレイン酸共重合体は、公知の方法により合成したものでもよい。また、スチレン/マレイン酸共重合体は、スチレン/無水マレイン酸共重合体から誘導されるものでもよい。スチレン/無水マレイン酸共重合体は公知の方法により合成したものでもよいし、市販品でもよい。スチレン/無水マレイン酸共重合体におけるスチレン由来の構成単位と無水マレイン酸由来の構成単位との結合形態に特に制限はないが、スチレン由来の構成単位と無水マレイン酸由来の構成単位とが交互共重合している部分が存在することが好ましい。
スチレン/無水マレイン酸共重合体の市販品としては、例えば、Polyscope社製のXIRANシリーズ、NOVA Chemicals社製のDYLARKシリーズ、Cray Valley社のSMAシリーズが挙げられる。
なお、スチレン/マレイン酸共重合体の重合度や、スチレン/マレイン酸共重合体中のスチレン由来の構成単位とマレイン酸由来の構成単位との結合形態、モル比[スチレン/マレイン酸]は、スチレン/無水マレイン酸共重合体のそれらと同じであると考えて差し支えない。
【0028】
ポリマー(a)の酸価は、好ましくは300mgKOH/g以上、より好ましくは330mgKOH/g以上、更に好ましくは350mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは800mgKOH/g以下、より好ましくは700mgKOH/g以下、更に好ましくは600mgKOH/g以下、より更に好ましくは500mgKOH/g以下、より更に好ましくは480mgKOH/g以下である。ポリマー(a)の酸価が前記範囲であれば、多官能エポキシ化合物(b)により架橋されるカルボキシ基の量及び中和されるカルボキシ基の量を確保でき、架橋ポリマー分散剤Aによって分散された顔料の分散安定性を担保でき、また、架橋ポリマー分散剤Aに、水系媒体及び顔料への親和性のバランスをとることができ、サーマル方式のインクジェット記録においても吐出性を向上させることができる。
ポリマー(a)の酸価は、実施例に記載のとおり、JIS K0070-1992に記載の中和滴定法で求めることができる。また、ポリマー(a)を構成するモノマーの質量比から算出することもできる。
また、ポリマー(a)の酸価は、後述する架橋ポリマー分散剤Aの酸価と、同じく後述する架橋ポリマー分散剤Aの架橋度から、下記式により算出することもできる。
ポリマー(a)の酸価(mgKOH/g)=100×(架橋ポリマー分散剤Aの酸価)/(100-(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度))
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの酸価の単位は「mgKOH/g」、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度の単位は「モル%」で表されるものである。
ポリマー(a)の数平均分子量は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは1,500以上、より好ましくは1,800以上、更に好ましくは2,000以上であり、そして、好ましくは20,000以下、より好ましくは18,000以下、更に好ましくは15,000以下、より更に好ましくは10,000以下、より更に好ましくは5,000以下、より更に好ましくは4,000以下である。
なお、ポリマー(a)の数平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0029】
ポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である場合、スチレン/マレイン酸共重合体の酸価は、好ましくは300mgKOH/g以上、より好ましくは330mgKOH/g以上、更に好ましくは350mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは600mgKOH/g以下、より好ましくは500mgKOH/g以下、更に好ましくは480mgKOH/g以下である。
ポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である場合、スチレン/マレイン酸共重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,500以上、より好ましくは1,800以上、更に好ましくは2,000以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下である。
【0030】
(多官能エポキシ化合物(b))
本発明に係る架橋ポリマー分散剤Aを構成する多官能エポキシ化合物(b)は、水不溶性でも水溶性でもよいが、水系媒体中で効率よくポリマー(a)中のカルボキシ基と反応させて架橋構造を形成する観点から、多官能エポキシ化合物(b)の水溶率は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下である。
【0031】
多官能エポキシ化合物(b)は、好ましくは分子中にエポキシ基を2以上有する多官能エポキシ化合物であり、より好ましくは分子中にグリシジルエーテル基を2以上有する化合物であり、更に好ましくは多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物であり、より更に好ましくは炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
多官能エポキシ化合物(b)のエポキシ当量は、好ましくは90g/eq以上、より好ましくは100g/eq以上、更に好ましくは110g/eq以上であり、そして、好ましくは300g/eq以下、より好ましくは220g/eq以下、より好ましくは180g/eq以下である。
【0032】
多官能エポキシ化合物(b)としては、例えば、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(水溶率:31質量%)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(水溶率:0質量%)トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率:27質量%)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(水溶率:0質量%)、水添ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(水溶率:0質量%)等のポリグリシジルエーテル化合物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられるが、エチレングリコールジグリシジルエーテル(水溶率:100質量%)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(水溶率:94質量%)を用いることもできる。これらの中でも、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0033】
(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)
架橋ポリマー分散剤Aの架橋度は、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは53モル%以上であり、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは86モル%以下、更に好ましくは80モル%以下である。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度は、架橋ポリマー分散剤Aを構成する多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数を、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数で除した値の百分比を意味する。
【0034】
<アルカリ金属水酸化物>
本発明に係る架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基の少なくとも一部はアルカリ金属水酸化物で中和されてなる。すなわち、架橋ポリマー分散剤Aは、カルボキシ基を有するポリマー(a)由来の構造として、該架橋ポリマー分散剤A中のカルボキシ基がアルカリ金属塩を形成した形態を有する。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
架橋ポリマー分散剤Aの中和度は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、より更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの中和度は、水系顔料分散体中のアルカリ金属水酸化物のモル当量数を、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数で除した値〔(アルカリ金属水酸化物のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比である。ただし、該値〔(アルカリ金属水酸化物のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比及び架橋ポリマー分散剤Aの架橋度の合計が100モル%を超える場合には、架橋ポリマー分散剤Aの中和度は、100モル%から架橋度(モル%)を差し引いた値である。なお、該値〔(アルカリ金属水酸化物のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比及び架橋ポリマー分散剤Aの架橋度の合計が100モル%を超えない場合には、架橋ポリマー分散剤Aの中和度はポリマー(a)の中和度と同義である。
架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基の更に少なくとも一部は、アルカリ金属水酸化物以外の化合物で中和されていてもよい。該アルカリ金属水酸化物以外の化合物の好適例としては、アンモニア、アミンが挙げられる。
なお、本発明の水系顔料分散体及び本発明の水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクがアルカリ金属水酸化物以外の化合物で中和されていたとしても、該アルカリ金属水酸化物以外の化合物による中和は、本発明の中和度には算入しない。
【0035】
<条件1>
本発明の水系顔料分散体は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、該架橋ポリマー分散剤Aの架橋度及び該ポリマー(a)の酸価が下記の条件1を満たす。
条件1:〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/100〕×(ポリマー(a)の酸価)の値が、230mgKOH/g以上360mgKOH/g以下である。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度は、前述のとおり、架橋ポリマー分散剤Aを構成する多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数を、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数で除した値〔(多官能エポキシ化合物(b)に由来するエポキシ基のモル当量数)/(ポリマー(a)に由来するカルボキシ基のモル当量数)〕の百分比である。
なお、ポリマー(a)の酸価は、前述のとおり、架橋ポリマー分散剤Aの酸価及び架橋度から算出することもできることから、条件1は、架橋ポリマー分散剤Aの酸価及び架橋度により、下記式で表すこともできる。
条件1:〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)×(架橋ポリマー分散剤Aの酸価)/(100-(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度))〕の値が、230mgKOH/g以上360mgKOH/g以下である。
【0036】
条件1は、ポリマー(a)のカルボキシ基のうち、多官能エポキシ化合物(b)との反応による架橋構造の形成に寄与しているカルボキシ基の割合を、ポリマー(a)のカルボキシ基に起因する酸価と関連付けて表したものである。
条件1の値は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、230mgKOH/g以上であり、好ましくは230mgKOH/g超、より好ましくは245mgKOH/g以上、更に好ましくは250mgKOH/g以上、より更に好ましくは255mgKOH/g以上、より更に好ましくは260mgKOH/g以上であり、そして、360mgKOH/g以下であり、好ましく330mgKOH/g以下、より好ましくは310mgKOH/g以下、更に好ましくは306mgKOH/g以下、より更に好ましくは300mgKOH/g以下、より更に好ましくは290mgKOH/g以下である。
【0037】
(比〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/(架橋ポリマー分散剤Aの中和度)〕)
本発明の水系顔料分散体は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度の、架橋ポリマー分散剤Aの中和度に対する比〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/(架橋ポリマー分散剤Aの中和度)〕の値が、1以上7以下であることが好ましい。
【0038】
本発明の水系顔料分散体において、比〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/(架橋ポリマー分散剤Aの中和度)〕が1以上であると、架橋ポリマー分散剤Aの架橋構造の部分に対して、ポリマー(a)のカルボキシ基のうちアルカリ金属塩となっている割合が多くなり過ぎずに架橋ポリマー分散剤Aのインクジェット記録用水系インクのビヒクル成分への親和性が高くなり過ぎることを抑制し、架橋ポリマー分散剤Aの顔料からの脱離を抑制することができる。一方、比〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/(架橋ポリマー分散剤Aの中和度)〕が7以下であると、架橋ポリマー分散剤Aの架橋構造の部分に対して、ポリマー(a)のカルボキシ基のうちアルカリ金属塩となっている割合が少なくなり過ぎずに、電荷反発力を発現し、顔料の凝集を抑制することができ、インクの吐出性を向上させることができる。
当該観点から、比〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/(架橋ポリマー分散剤Aの中和度)〕は、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは2.5以上であり、そして、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは6以下、より更に好ましくは5.5以下、より更に好ましくは5以下、より更に好ましくは4.5以下、より更に好ましくは4以下である。
【0039】
(架橋ポリマー分散剤Aの酸価)
架橋ポリマー分散剤Aの酸価は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは40mgKOH/g以上、より好ましくは50mgKOH/g以上、更に好ましくは60mgKOH/g以上、より更に好ましくは70mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは250mgKOH/g以下、より好ましくは230mgKOH/g以下、更に好ましくは220mgKOH/g以下である。
ここで、架橋ポリマー分散剤Aの酸価とは、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度から、下記式により算出することができ、ポリマー(a)のカルボキシ基のうち、多官能エポキシ化合物(b)との反応による架橋構造の形成に関与せずに残存するカルボキシ基の量を示す。
架橋ポリマー分散剤Aの酸価(mgKOH/g)=(ポリマー(a)の酸価)×(100-(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度))/100
ここで、ポリマー(a)の酸価の単位は「mgKOH/g」、架橋ポリマー分散剤Aの架橋度の単位は「モル%」で表されるものである。
架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)がスチレン/マレイン酸共重合体である場合、架橋ポリマー分散剤Aの酸価は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは40mgKOH/g以上、より好ましくは50mgKOH/g以上、更に好ましくは60mgKOH/g以上、より更に好ましくは70mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは250mgKOH/g以下、より好ましくは230mgKOH/g以下、更に好ましくは220mgKOH/g以下である。
【0040】
[水系顔料分散体の製造方法]
本発明の水系顔料分散体は、下記の工程1及び工程2を含む方法により製造されることが好ましい。
工程1:顔料、カルボキシ基を有するポリマー(a)、及びアルカリ金属水酸化物を含む顔料混合物に剪断応力を加えて分散処理して顔料水分散体(d)を得る工程
工程2:工程1で得られた顔料水分散体(d)中のカルボキシ基を有するポリマー(a)のカルボキシ基と多官能エポキシ化合物(b)とを反応させて架橋ポリマー分散剤Aを形成して、顔料、架橋ポリマー分散剤A、及び水系媒体を含有する水系顔料分散体を得る工程
本発明の水系顔料分散体の製造方法においては、上記の工程2でポリマー(a)のカルボキシ基の量と多官能エポキシ化合物(b)の量とを調整することにより前述の条件1を満たすようにすることが好ましい。
なお、カルボキシ基を有するポリマー(a)として、スチレン/無水マレイン酸共重合体を用いる場合には、工程1によりスチレン/無水マレイン酸共重合体がスチレン/マレイン酸共重合体に変換される。
【0041】
〔工程1〕
工程1は、ポリマー(a)を分散剤として、水系媒体中で顔料を分散し、顔料水分散体(d)を得る工程である。工程1における水系媒体とは、顔料、ポリマー(a)、アルカリ金属水酸化物以外の成分である分散媒が、質量基準で水が最大割合を占めることを意味する。
工程1において水系媒体は、顔料の濡れ性、ポリマー(a)の顔料への吸着性を向上させる観点から、有機溶媒を含有していてもよい。有機溶媒の好適な例としては、炭素数1以上3以下のアルコール、炭素数3以上6以下のケトンが挙げられる。
工程1における分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料粒子を所望の粒径となるまで微粒化してもよいが、均一な顔料水分散体(d)を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、更に本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機;マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー;ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料水分散体(d)中の顔料粒子の平均粒径を調整することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上300MPa以下であり、パス回数は、好ましくは3以上30以下である。
【0042】
工程1において、ポリマー(a)のカルボキシ基の少なくとも一部は、中和剤として少なくともアルカリ金属水酸化物で中和される。すなわち、架橋ポリマー分散剤Aを構成するポリマー(a)が有するカルボキシ基の少なくとも一部はアルカリ金属塩となり、これにより、架橋ポリマー分散剤Aが有するカルボキシ基の少なくとも一部がアルカリ金属塩となる。ポリマー(a)の中和は、ポリマー(a)とアルカリ金属水酸化物とを混合する操作により行うことが好ましい。
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。
また、中和剤は、アルカリ金属水酸化物以外の化合物を含むものであってもよい。該アルカリ金属水酸化物以外の化合物の具体例としては、前述のとおり、アンモニア、アミンが挙げられる。該アルカリ金属水酸化物以外の化合物がアンモニア、アミンである場合は、本発明の水系顔料分散体を製造する操作のいずれかの工程でアンモニア、アミンが除去されることが好ましい。
工程1におけるポリマー(a)のカルボキシ基の中和度は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、より更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
工程1におけるポリマー(a)のカルボキシ基の中和度は、アルカリ金属化合物による中和を算出に用い、該アルカリ金属水酸化物以外の化合物、例えばアンモニア、アミン等による中和は工程1におけるポリマー(a)のカルボキシ基の中和度の算出には用いない。
【0043】
工程1において、得られる顔料水分散体(d)中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。
工程1により得られる顔料水分散体(d)は、顔料をポリマー(a)で水系媒体に分散させてなるものである。ここで、顔料水分散体中での顔料及びポリマー(a)の存在形態は特に制限はなく、少なくとも顔料及びポリマー(a)により粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマー(a)に顔料が内包された粒子形態、ポリマー(a)中に顔料が均一に分散された粒子形態、ポリマー(a)の粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0044】
工程1により得られる顔料水分散体(d)の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体(d)中の顔料の分散安定性を向上させる観点、及びインクジェット記録用水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、顔料水分散体(d)の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0045】
顔料水分散体(d)中の顔料の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは9質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下である。
顔料水分散体(d)中のポリマー(a)の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
顔料水分散体(d)中のポリマー(a)に対する顔料の質量比〔顔料/ポリマー(a)〕は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは1以上、より更に好ましくは1.3以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.7以下である。
【0046】
〔工程2〕
工程2は、工程1で得られた顔料水分散体(d)中のカルボキシ基を有するポリマー(a)のカルボキシ基と多官能エポキシ化合物(b)とを反応させ、顔料を架橋ポリマー分散剤Aで水系媒体に分散させた水系顔料分散体を得る工程である。ポリマー(a)のカルボキシ基と多官能エポキシ化合物(b)との反応により架橋構造を含む架橋ポリマー分散剤Aが形成される。
【0047】
ポリマー(a)のカルボキシ基と多官能エポキシ化合物(b)との反応温度は、反応を完結させる観点、及び経済性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。また、反応時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは15時間以下、より好ましくは8時間以下である。
【0048】
本発明の水系顔料分散体の製造においては、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、工程2においてポリマー(a)のカルボキシ基の量と多官能エポキシ化合物(b)のエポキシ基の量とを調整することにより上記条件1を満たすようにすることが好ましい。
本発明の水系顔料分散体の製造においては、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、工程1における中和度、又は、工程2における架橋度を、それぞれ適切に設定することが好ましく、工程1における中和度及び工程2における架橋度を、それぞれ適切に設定することがより好ましく、工程1における中和度及び工程2における架橋度を前述の比〔(架橋ポリマー分散剤Aの架橋度)/(架橋ポリマー分散剤Aの中和度)〕の数値範囲を満たすようにすることが更に好ましい。
【0049】
本発明の水系顔料分散体中の顔料の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
本発明の水系顔料分散体中の架橋ポリマー分散剤Aの含有量は、好ましくは6質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは23質量%以下、より好ましくは17質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。
本発明の水系顔料分散体中の架橋ポリマー分散剤Aに対する顔料の質量比〔顔料/架橋ポリマー分散剤A)〕は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、より更に好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。
【0050】
本発明の水系顔料分散体中の顔料粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは130nm以下である。水系顔料分散体中の顔料粒子の平均粒径は実施例に記載の方法で測定される。
【0051】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インク(以下、「本発明のインク」ともいう)は、前述の水系顔料分散体を含有する。
本発明のインクは、インクの吐出性を向上させる観点から、有機溶媒を含有することが好ましい。該有機溶媒としては、例えば、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物が挙げられる。これらの中でも、該有機溶媒は、好ましくは多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはトリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上である。
【0052】
本発明のインクは、インクの吐出性を向上させる観点から、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられるが、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、炭素数8以上22以下のアセチレングリコール及び該アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましく挙げられ、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール又はそのエチレンオキシド付加物がより好ましい。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが挙げられる。
本発明のインクは、アセチレングリコール系界面活性剤とポリオキシエチレンアルキルエーテルとを併用して含有することが好ましい。
【0053】
本発明のインクは、更に必要に応じて、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0054】
本発明のインク中の顔料の含有量は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく7質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
本発明のインク中の顔料と架橋ポリマー分散剤Aとの合計含有量は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは17質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
本発明のインク中の架橋ポリマー分散剤Aに対する顔料の質量比〔顔料/架橋ポリマー分散剤A)〕は、顔料の分散安定性を向上させてインクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、より更に好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。
本発明のインク中の有機溶媒の含有量は、インクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
本発明のインク中の界面活性剤の含有量は、インクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
本発明のインクの製造において、前述の水系顔料分散体に加えて更にアルカリ金属水酸化物を含有させる場合は、該水系顔料分散体以外に加えたアルカリ金属水酸化物は、該水系顔料分散体に含まれる架橋ポリマー分散剤Aのカルボキシ基を中和するアルカリ金属水酸化物に合算する。
【0055】
本発明のインクジェット記録用水系インク中の顔料粒子の平均粒径は、本発明の水系顔料分散体中の顔料粒子の平均粒径と同じであることが好ましい。したがって、本発明のインクジェット記録用水系インク中の顔料粒子の好ましい平均粒径の態様も、本発明の水系顔料分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じであることが好ましい。
【0056】
(インクジェット記録)
本発明のインクは、公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて文字や画像を記録することができる。
インクジェット記録装置としては、サーマル方式及びピエゾ方式があるが、サーマル方式が好ましい。すなわち、本発明のインクは、サーマル方式インクジェット記録用として用いることが好ましい。
記録媒体としては、例えば、コート紙等の低吸水性の記録紙;PETフィルムやポリプロピレンフィルム等の非吸水性の樹脂フィルムが挙げられる。また、記録媒体として、普通紙を用いることもできる。
なお、「低吸水性」及び「非吸水性」とは、記録媒体と純水との接触時間100m秒間における該記録媒体の吸水量が10g/m2以下であることを意味する。該吸水量が10g/m2超の記録媒体は高吸水性であり、普通紙が高吸水性に分類される。
【実施例0057】
以下の調製例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0058】
(1)ポリマー(a)の酸価
測定溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒〔アセトン:トルエン=1:1(容量比)〕に変更したこと以外は、JIS K0070-1992に記載の中和滴定法に従って測定した。
【0059】
(2)ポリマー(a)の数平均分子量(Mn)の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー法により求めた。測定条件を下記に示す。
GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperAWM-H」、「TSKgel SuperAW3000」、「TSKgel guardcolum Super AW-H」
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液
流速:0.5mL/min
標準物質:分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)〕(以上、東ソー株式会社製)
測定サンプル:ガラスバイアル中にポリマー(a)0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP、PTFE、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0060】
(3)顔料水分散体(d)及び水系顔料分散体の固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ:40mm、高さ:30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム約10gを量り取って該容器と該硫酸ナトリウムとを合わせた質量を精秤し、そこへサンプル約1gを添加して混合した後、該容器と該硫酸ナトリウムとサンプルとを合わせた質量を精秤し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、該容器と該硫酸ナトリウムと揮発分除去後のサンプルとを合わせた質量を精秤して該揮発分除去後のサンプルの質量を算出し、該揮発分除去後のサンプルの質量を該容器に添加したサンプルの質量で除して固形分濃度(%)とした。
【0061】
(4)水系顔料分散体のpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃における水系顔料分散体のpHを測定した。
【0062】
(5)水系顔料分散体の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により粒径を測定し、キュムラント解析を行い、得られたキュムラント平均粒径を水系顔料分散体の平均粒径とした。
測定サンプルには、水系顔料分散体をスクリュー管(マルエム株式会社製、No.5)に計量し、固形分濃度が2×10-4%(固形分濃度換算)になるように水を加えてマグネチックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌したものを用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0063】
調製例1(カルボキシ基を有するポリマー(a1)の調製)
アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)79.7部、メタクリル酸ベンジル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)60.3部、スチレンマクロマー(商品名:AS-6S、東亞合成株式会社製 固形分50%のトルエン溶液)40.0部(固形分20.0部)、メタクリル酸モノポリプロピレングリコール(日油株式会社製、商品名:ブレンマーPP-800、プロピレンオキシド平均付加モル数13、末端:水酸基)40.0部を混合しモノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と表記する)(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)20部、重合連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
別途、滴下ロートに、前記モノマー混合液の残り(前記モノマー混合液の90%)、前記重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.27部、MEK60部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名:V-65、富士フイルム和光純薬株式会社製)2.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を撹拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、カルボキシ基を有するポリマー(a1)(数平均分子量:13,000、酸価:310mgKOH/g)のMEK溶液を得た。
【0064】
実施例1
(水系顔料分散体D1の製造)
(工程1)
調製例1で得られたカルボキシ基を有するポリマー(a1)のMEK溶液を減圧乾燥させたうちの66.6部をMEK78.6部と混合し、更に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの含有量:16.9%)21.6部を加え、カルボキシ基を有するポリマー(a1)に由来するカルボキシ基のモル当量数に対する水酸化ナトリウムのモル当量数の値の百分比が24.8モル%になるように中和し(中和度:24.8モル%)、更にイオン交換水600部を加えた。次いで、カーボンブラック顔料(商品名:Monarch800、キャボットスペシャルティケミカルズ社製)100部を加え、得られる顔料混合物をディスパー(淺田鉄工株式会社製、商品名:ウルトラディスパー)を用いて、20℃でディスパー翼を7,000rpmで回転させる条件で60分間撹拌した後、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。
得られた分散液にイオン交換水330部を加え、撹拌した後、減圧下、60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度20%の顔料水分散体(d1)を得た。
(工程2)
工程1で得られた顔料水分散体(d1)(固形分濃度:20%)の200部をねじ口付きガラス瓶に取り、多官能エポキシ化合物(b)(架橋剤)としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-321、水溶率:27%(カタログ値)、エポキシ当量:140g/eq(カタログ値))(以下、「EX-321」と表記する)9.4部及びイオン交換水37.4部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら70℃で5時間加熱した。その後、室温まで降温し、上記の5μmのアセチルセルロース製フィルターを取り付けたシリンジで濾過して、固形分濃度20%の水系顔料分散体D1(架橋ポリマー分散剤A1の架橋度:77.1モル%)を得た。
(インクジェット記録用水系インク1の調製)
得られた水系顔料分散体D1 38部に、イオン交換水50.5部、溶剤としてポリエチレングリコール400(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)10部、アセチレングリコール系界面活性剤のプロピレングリコール溶液(商品名:サーフィノール104PG-50、エアープロダクツ社製、有効分50%)1部、及び(商品名:エマルゲン120、花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)0.5部を加え、得られた混合液を上記の5μmのアセチルセルロース製フィルターを取り付けたシリンジで濾過し、インクジェット記録用水系インク1を得た。
【0065】
実施例2~7及び比較例1、2
実施例1の工程1において、表1に示すポリマー(a)の種類又は中和剤の量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度20%の顔料水分散体(d2)~(d9)をそれぞれ得た。
次いで、実施例1の工程2において、表1に示す顔料水分散体(d)の種類、多官能エポキシ化合物(b)の量及びイオン交換水の量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形分濃度20%の水系顔料分散体D2~D7及びDC1、DC2をそれぞれ得た。
次いで、実施例1のインクジェット記録用水系インクの調製において、表1に示す水系顔料分散体を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用水系インク2~7及びC1、C2をそれぞれ得た。
【0066】
なお、表1に示すポリマー(a)のうち、カルボキシ基を有するポリマー(a2)及び(a3)は以下のとおりである。
ポリマー(a2):スチレン/無水マレイン酸共重合体(Polyscope社製、商品名:XIRAN 2000、スチレン/無水マレイン酸=2(モル比)(カタログ値)、酸価:355mgKOH/g(カタログ値)、数平均分子量:2,700(カタログ値))
ポリマー(a3):スチレン/無水マレイン酸共重合体(Polyscope社製、商品名:XIRAN 1000、スチレン/無水マレイン酸=1(モル比)(カタログ値)、酸価:480mgKOH/g(カタログ値)、数平均分子量:2,300(カタログ値))
【0067】
<吐出性の評価>
実施例及び比較例で得られた各インクジェット記録用水系インクを用いて、以下の方法で吐出性の評価を行った。結果を表1に示す。
サーマル方式のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置「LPP-6010N」(LGエレクトロニクス社製)の送液チューブを引き出し、チューブをインクタンクへ投入して印刷できるように改造した装置を用い、該インクタンクに各インクジェット記録用水系インクを充填して、印刷条件をベストモード(解像度:縦1,600dpi×横1,600dpi)、Dutyは100%に設定した。
該装置を温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境に設置し、A4サイズの普通紙に1枚印刷して、光学濃度計で印字濃度を測定後、100枚ごとに該光学濃度計で印字濃度を測定する操作を挟みながら印刷を継続し、1枚目の印字濃度より0.04低くなる結果が2回連続したときの印刷できた枚数を吐出性の指標とし、その枚数を下記評価基準で評価した。下記評価基準においては、印刷できた枚数が多いほど、吐出性に優れることを示す。
なお、普通紙としてはHP All-in-One printing paper(Hewlett-Packard社製)を用い、光学濃度計はグレタグマクベス社製のスペクトロアイ(SpectroEye)を用いた。
(評価基準)
A:A4サイズ普通紙15,000枚以上
B:A4サイズ普通紙10,000枚以上15,000枚未満
C:A4サイズ普通紙5,000枚以上10,000枚未満
D:A4サイズ普通紙1,000枚以上5,000枚未満
E:A4サイズ普通紙1,000枚未満
【0068】
【0069】
表1から、実施例の水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクは、比較例の水系顔料分散体を含有するインクジェット記録用水系インクに比べて、吐出性に優れることが分かる。