IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立国際電気の特許一覧

<>
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図1
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図2
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図3
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図4
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図5
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図6
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図7
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図8
  • 特開-無線機及び無線通信システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179034
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】無線機及び無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 24/04 20090101AFI20241219BHJP
   H04W 72/0457 20230101ALI20241219BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20241219BHJP
【FI】
H04W24/04
H04W72/0457
H04B1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097523
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】四本 宏二
【テーマコード(参考)】
5K011
5K067
【Fターム(参考)】
5K011BA04
5K011DA02
5K011DA15
5K011EA01
5K011FA07
5K011KA13
5K067AA23
5K067AA33
5K067EE25
5K067EE34
5K067GG09
(57)【要約】
【課題】 降水等により通信環境が変化しても、通信速度を一定に保持したまま安定した通信品質で無線伝送を実現できる無線機及び無線通信システムを提供する。
【解決手段】 対向して送受信を行う無線機1の適応帯域幅制御部17が、受信信号から通信品質を測定、又は受信電力から減衰量を算出して、通信品質又は減衰量に基づいて、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更する無線機、及び無線機1を送信装置及び受信装置として対向で通信を行う無線通信システムとしている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向で送受信を行う無線機であって、
通信環境の変化に応じて、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更することを特徴とする無線機。
【請求項2】
受信信号の通信品質を測定して、通信環境の変化を判断することを特徴とする請求項1記載の無線機。
【請求項3】
受信電力のレベルの変化から伝送路の電波の減衰量を算出して、通信環境の変化を判断することを特徴とする請求項1記載の無線機。
【請求項4】
周波数帯域幅の最大値を記憶しており、前記最大値に達するまでは、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更し、周波数帯域幅が前記最大値に達した場合には、周波数帯域幅を前記最大値に保持しつつ変調方式を変えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の無線機。
【請求項5】
対向で送受信を行う無線通信システムであって、
請求項2又は3記載の無線機を第一の装置とし、
前記第一の装置が、受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報を第二の装置に送信し、
前記第二の装置が、受信した受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報に基づいて通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更することを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
第二の装置は、請求項2又は3記載の無線機であって、受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報を第一の装置に送信し、
前記第一の装置が、前記第二の装置から送信された受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報に基づいて周波数帯域幅における送信電力を制御し、
前記第二の装置が、前記第一の装置から送信された受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報に基づいて周波数帯域幅における送信電力を制御することを特徴とする請求項5記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向で送受信を行う無線通信システムに係り、特に、通信環境が変化しても、通信路容量を一定に保持して通信速度の低減を防ぎ、安定した通信品質で無線伝送を実現できる無線機及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
従来、1対1あるいは1対Nの無線機が互いに対向して、送受信を行う無線システムがある。このような無線システムは、中継回線やエントランス回線として広帯域伝送用途に使用されており、準ミリ波帯(3GHz~30GHz)やミリ波帯(30GHz~300GHz)が多く用いられている。
【0003】
準ミリ波帯やミリ波帯は、長距離高速伝送に有利となる広帯域を確保しやすく、また波長が短いため指向性が鋭いアンテナを小型に構成することができ、狙った伝搬路のみに放射することで周波数利用効率を高くすることが可能となっている。
【0004】
しかし、一方で、これらの周波数帯は降雨や降雪など水分による電波の減衰の影響が大きく、従来の無線通信システムでは、その対策として適応変調方式が導入されている。
適応変調方式は、降雨減衰などの影響で通信品質が悪くなった場合に、伝搬路の回線品質が低くても良好な伝送が可能な変調方式に切り替えることで通信の切断を防ぎ、通信状態を維持するものである。
【0005】
[従来の無線通信システムの構成例:図9]
適応変調方式の従来の無線通信システムの構成例について図9を用いて説明する。図9は、従来の無線通信システムの構成例を示す説明図である。
図9に示すように、従来の無線通信システムは、無線機Aと無線機Bとが対向して見通し通信を行うシステムである。尚、ここでは、無線機Aと無線機Bは同一構成としており、無線機Aと無線機Bには同じ符号を付している。
【0006】
従来の無線機の構成について説明する。
図9に示すように、従来の無線機7は、アンテナ71と、送信部72と、受信部73と、変調部74と、復調部75と、適応変調部76とを備えている。
アンテナ71は、指向性アンテナであり、無線機Aと無線機Bのアンテナ71は、互いに対向してPoint-to-Pointの送受信を行う。
送信部72は、送信信号を無線信号にアップコンバートしてアンテナ71に出力する。
受信部73は、アンテナ71で受信された無線信号をダウンコンバートして復調部75に出力する。
【0007】
変調部74は、適応変調部76から指示された変調方式で送信データを変調して送信部72に出力する。
復調部75は、適応変調部76から指示された変調方式に基づいて、受信部73から入力された信号から希望波を抽出して復調し、適応変調部76に出力する。
適応変調部76は、復調部75から入力される受信信号から通信品質を算出し、通信品質に基づいて、適切な変調方式を選択し、選択された変調方式を変調部74及び復調部75に通知する。
【0008】
適応変調方式では、通信品質が良好な場合には、変調多値数を上げて伝送速度を高くする一方、通信品質が悪い場合には変調多値数を少なくして、伝送速度よりも通信の継続を優先する。
この方法は、通信路を途切れさせないためには有効だが、降水等により通信環境が悪い場合には通信速度が遅くなってしまう。
【0009】
例えば、晴天時に4096QAM(Quadrature Amplitude Modulation)の変調方式で1Gbpsの通信路容量の高速伝送を行っていても、豪雨時には、変調方式をQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)に切り替えて通信状態を維持する。これにより、通信状態を維持できたとしても、通信速度は150Mbpsと大きく低下してしまう。
【0010】
また、従来の無線通信システムでは、割り当てられたチャネル(利用周波数帯域)で通信を行うため、通信に用いる帯域幅は固定となっている。
【0011】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開2008-167500号公報「送信電力制御方法及び無線アクセスシステム」(特許文献1)がある。
【0012】
特許文献1には、無線アクセスシステムにおいて、基地局装置が加入者基地局からの受信レベルを測定して加入者基地局に送信し、加入者基地局で最適な送信電力を計算して送信電力を調整することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008-167500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の無線通信システムでは、通信環境の変化に対して変調方式を変更して通信を継続するものの、通信速度を一定に維持したまま通信を行うものとはなっておらず、安定した通信品質で高速伝送を行うことができないという問題点があった。
【0015】
尚、特許文献1には、通信環境の変化に応じて周波数帯域幅を変更する構成の記載がない。
【0016】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、降水等により通信環境が変化しても、通信速度を一定に保持したまま安定した通信品質で無線伝送を実現できる無線機及び無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、対向で送受信を行う無線機であって、通信環境の変化に応じて、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更することを特徴としている。
【0018】
また、本発明は、上記無線機において、受信信号の通信品質を測定して、通信環境の変化を判断することを特徴としている。
【0019】
また、本発明は、上記無線機において、受信電力のレベルの変化から伝送路の電波の減衰量を算出して、通信環境の変化を判断することを特徴としている。
【0020】
また、本発明は、上記無線機において、周波数帯域幅の最大値を記憶しており、最大値に達するまでは、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更し、周波数帯域幅が最大値に達した場合には、周波数帯域幅を最大値に保持しつつ変調方式を変えることを特徴としている。
【0021】
また、本発明は、対向で送受信を行う無線通信システムであって、上記無線機を第一の装置とし、第一の装置が、受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報を第二の装置に送信し、第二の装置が、受信した受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報に基づいて通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更することを特徴としている。
【0022】
また、本発明は、上記無線通信システムにおいて、第二の装置は、上記無線機であって、受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報を第一の装置に送信し、第一の装置が、第二の装置から送信された受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報に基づいて周波数帯域幅における送信電力を制御し、第二の装置が、第一の装置から送信された受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報に基づいて周波数帯域幅における送信電力を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、対向で送受信を行う無線機であって、通信環境の変化に応じて、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更することを特徴としているので、降水等による環境の変化があっても、通信速度を維持することができ、安定した通信品質で無線伝送を実現することができる効果がある。
【0024】
また、本発明によれば、上記無線機において、周波数帯域幅の最大値を記憶しており、最大値に達するまでは、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更し、周波数帯域幅が最大値に達した場合には、周波数帯域幅を最大値に保持しつつ変調方式を変える無線機としているので、周波数帯域幅を最大値まで広くしてもなお、通信切断の恐れがある場合には、より低い回線品質でも通信可能な変調方式に切り替えて通信状態を維持することができる効果がある。
【0025】
また、本発明によれば、対向で送受信を行う無線通信システムであって、上記無線機を第一の装置とし、第一の装置が、受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報を第二の装置に送信し、第二の装置が、受信した受信信号の通信品質の情報又は電波の減衰量の情報に基づいて通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更する無線通信システムとしているので、降水等による環境の変化があっても、通信速度を維持することができると共に、通信品質又は減衰量の測定と、周波数帯域幅の変更の機能を送信装置と受信装置で分担して、各無線機の構成及び処理を簡易にすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】見通し環境における受信電力と通信路容量の関係を示す説明図である。
図2】本無線機における周波数帯域幅制御の概要を示す説明図である。
図3】第1のシステムの構成を示す説明図である。
図4】適応帯域幅制御部の構成例(1)を示す説明図である。
図5】適応帯域幅制御部の構成例(2)を示す説明図である。
図6】周波数帯域幅テーブル(1)(2)の概略説明図である。
図7】第2のシステムの構成を示す説明図である。
図8】第3のシステムの構成を示す説明図である。
図9】従来の無線通信システムの構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線機(本無線機)は、対向で送受信を行う無線機で、通信環境が変化しても通信速度を一定に保持するよう、通信環境に応じて周波数帯域幅を変更するものであり、降水等によって通信環境が劣化した場合でも、通信速度を保ったまま安定した通信品質での無線伝送を行うことができるものである。
【0028】
また、本発明の実施の形態に係る無線通信システム(本システム)は、本無線機を送信装置及び受信装置として備え、対向して見通し通信を行うシステムであり、後述するように、第1~第3のシステムがある。
【0029】
[受信電力と通信路容量:図1
本システムの構成について説明する前に、見通し環境における受信電力と通信路容量の関係について図1を用いて説明する。図1は、見通し環境における受信電力と通信路容量の関係を示す説明図である。
図1では、受信電力と通信路容量との関係を様々な周波数帯域幅について示している。ここで、本明細書では、準ミリ波帯(3GHz~30GHz)やミリ波帯(30GHz~300GHz)といった通信帯域において、実際に通信に利用する周波数の幅を周波数帯域幅(利用周波数帯域幅)と称する。
【0030】
図1では、周波数帯域幅を50MHz、100MHz、200MHz、400MHzとした場合の受信電力と通信路容量との関係を示している。
図1に示すように、特定の通信路容量を確保する場合、周波数帯域幅が広くなるにつれて、所要受信電力は小さくなる。
また、通信路の環境が良好であれば、周波数帯域幅が狭くても特定の通信路容量を保持することが可能である。ここでは、50MHzを周波数帯域幅の最小単位としている。
【0031】
例えば所望の通信容量を1Gbpsとすると、周波数帯域幅が50MHzの場合、-37dBm以上の受信電力が必要となるが、周波数帯域幅が100MHzの場合には、所要受信電力は-64dBmであり、50MHzの場合よりも受信電力が27dBm低くても所望の通信路容量を確保ことができる。
つまり、晴天時に50MHzの周波数帯域幅で通信可能な場合、100MHzの周波数帯域幅で通信を行っていれば、降水等による電波の減衰が27dBmに達するまでは、1Gbpsの通信路容量を維持することが可能となる。
【0032】
同様に、周波数帯域幅が200MHzの場合、所要受信電力は-76dBm以上であり、晴天時と比較して伝送路における電波の減衰が39dBmに達するまで、通信路容量を維持できるものである。
更に、周波数帯域幅を400MHzとした場合には、所要受信電力は-81dBm以上であり、減衰が44dBmに達するまで、同一の通信路容量を維持して、同一の伝送速度で通信を行うことが可能となる。
【0033】
本無線機及び本システムでは、このことを利用して、通信環境の変化に伴う通信品質に応じて、周波数帯域幅を適応的に制御して、降水時でも通信路容量を一定に保つようにしたものである。
【0034】
[本無線機における周波数帯域幅制御の概要:図2
次に、本無線機における周波数帯域幅制御の概要について図2を用いて説明する。図2は、本無線機における周波数帯域幅制御の概要を示す説明図である。
本無線機では、最大送信電力が固定されている条件下において、降雨や降雪による減衰を考慮して、天候による通信環境の劣化に基づいて周波数帯域幅を制御する。
【0035】
図2に示すように、晴天又は曇天の場合には降雨減衰はないので、周波数帯域幅を最小幅の50MHzとし、例えば、通常の雨の場合には100MHz、大雨の場合には200MHz、豪雨の場合には400MHzとするよう制御する。
【0036】
降水強度が強くなれば、降雨減衰も大きくなるため、それを補償して通信路容量を維持するよう、周波数帯域幅を広くする。
これにより、降雨減衰があっても、一定の通信路容量を確保して、通信速度を維持することが可能となるものである。
【0037】
[第1のシステムの構成:図3
本システムにおける第1のシステムについて図3を用いて説明する。図3は、第1のシステムの構成を示す説明図である。
図3に示すように、第1のシステムは、同一の構成を備えた無線機Aと無線機Bとが対向して無線通信を行うものである。無線機A及び無線機Bはいずれも本無線機であり、図3では、無線機Aと無線機Bに同じ符号を付している。
【0038】
図3に示すように、第1のシステムの無線機A及び無線機Bとして用いられる本無線機1は、アンテナ11と、送信部12と、変調部14と、復調部15と、適応帯域幅制御部17とを備えている。
これらの内、アンテナ11は、図9に示した従来の無線機と同様であり、送信部12、受信部13、変調部14、復調部15は、基本的な動作は、図9に示した従来の無線機と同様であるが、本無線機の特徴として、適応帯域幅制御部17によって選択され、通知された周波数帯域幅に基づいて処理を行う。
【0039】
適応帯域幅制御部17は、本無線機の特徴部分であり、環境の変化に応じて適切な周波数帯域幅を選択して、送信部12、受信部13、変調部14、復調部15における周波数帯域幅を制御する。
適応帯域幅制御部17は、復調部15から入力される受信信号の通信品質、又は受信信号の電力レベルの変化に基づいて、適切な周波数帯域幅を選択する。適応帯域幅制御部17については後述する。
そして、第1のシステムでは、無線機A及び無線機Bは、それぞれ独立して周波数帯域幅の制御を行うものとなっている。
【0040】
[適応帯域幅制御部17の構成例(1):図4]
次に、適応帯域幅制御部17の構成例(1)について図4を用いて説明する。図4は、適応帯域幅制御部の構成例(1)を示す説明図である。
図4に示すように、構成例(1)の適応帯域幅制御部17を適応帯域幅制御部17aとする。
【0041】
適応帯域幅制御部17aは、通信品質測定部171と、帯域幅選定切替制御部172とを備えている。
通信品質測定部171は、復調部15からの入力信号(希望波信号)とノイズレベルに基づいて、通信品質を測定する。
通信品質としては、希望波信号のレベルとノイズ成分のレベルとを検出して、その比(SN比等)を用いる。
【0042】
帯域幅選定切替制御部172は、予め記憶されている複数の周波数帯域幅の中から、通信品質測定部171で測定された通信品質に対応する周波数帯域幅を選択(選定)する。
具体的には、帯域幅選定切替制御部172は、後述する図6(a)に示すように、予め通信品質と、周波数帯域幅とを対応付けた周波数帯域幅テーブル(1)を備えており、当該テーブルに基づいて周波数帯域幅を選択する。
【0043】
[適応帯域幅制御部17の構成例(2):図5]
次に、適応帯域幅制御部17の構成例(2)について図5を用いて説明する。図5は、適応帯域幅制御部の構成例(2)を示す説明図である。
図5に示すように、構成例(2)の適応帯域幅制御部17を適応帯域幅制御部17bとする。
【0044】
図5に示すように、適応帯域幅制御部17bは、受信電力測定減衰量算出部173と、帯域幅選定切替制御部174とを備えている。
受信電力測定減衰量算出部173は、復調部15から入力される受信信号について受信電力を測定し、通信環境が良好な晴天時の受信電力と比較して減衰量を算出する。
降雨減衰がある場合には、減衰量が大きくなる。
【0045】
帯域幅選定切替制御部174は、予め記憶されている複数の周波数帯域幅の中から、受信電力測定減衰量算出部173で算出された減衰量に対応する周波数帯域幅を選択する。
具体的には、帯域幅選定切替制御部174は、後述する図6(b)に示すように、予め減衰量と周波数帯域幅とを対応付けた周波数帯域幅テーブル(2)を備えており、当該テーブルに基づいて周波数帯域幅を選択する。
【0046】
[周波数帯域幅テーブル:図6]
周波数帯域幅テーブル(1)(2)について、図6を用いて説明する。図6は、周波数帯域幅テーブル(1)(2)の概略説明図である。
図6(a)に示すように、周波数帯域幅テーブル(1)は、通信品質と、それに対応する周波数帯域幅とを対応付けて記憶している。
【0047】
具体的には、周波数帯域幅テーブル(1)は、通信品質に応じて、所望の通信路容量を維持するために必要な周波数帯域幅を記憶しているものであり、通信品質が良好な場合には狭い周波数帯域幅が対応付けられ、通信品質が劣悪な場合には広い周波数帯域幅が対応付けられている。
【0048】
ここでは、周波数帯域幅を、50MHz、100MHz、200MHz、400MHzの4段階としており、通信品質がA以上の場合には周波数帯域幅50MHz、B以上A未満の場合には100MHz、C以上B未満の場合には200MHz、通信品質がC未満の場合には400MHzが対応づけられている。A,B,Cは、実測やシミュレーションによって求められた通信品質の数値である。
【0049】
そして、帯域幅選定切替制御部174は、周波数テーブル(1)を参照して、通信品質測定部171で測定された通信品質が含まれる通信品質の段階(範囲)に対応する周波数帯域幅を選択する。
400MHzが利用可能な周波数帯域幅の上限値となっており、それより広い周波数帯域幅を設定することはできないものである。
【0050】
また、図6(b)に示すように、周波数帯域幅テーブル(2)は、減衰量と周波数帯域幅とを対応付けて記憶している。
周波数帯域幅テーブル(2)では、図1に示したように、所望の通信路容量を得るために、各周波数帯域幅で許容される減衰量は既知であり、これに基づいて、算出された減衰量に対応する周波数帯域幅を記憶しているものである。減衰量が小さい場合には狭い周波数帯域幅が対応付けられ、減衰量が大きい場合には広い周波数帯域幅が対応付けられている。
【0051】
図6(b)の例では、減衰量がP未満の場合には周波数帯域幅50MHz、P以上Q未満の場合には100MHz、Q以上R未満の場合には200MHz、減衰量がR以上の場合には400MHzが対応付けられている。P,Q,Rは、実測やシミュレーションによって求められた減衰量の数値である。
尚、周波数帯域幅テーブル(2)では、図1に示した許容範囲よりも余裕をもって、理論上の減衰量よりも小さい減衰量で切り替えるよう、減衰量と周波数帯域幅とを対応付けている。
図1に示すように、周波数帯域幅100MHzの場合、理論上は-64dBmまでは1Gbpsの通信路容量を維持できるものであるが、周波数帯域幅テーブル(2)においては、例えば-61dBmで切り替えるよう記憶している。
【0052】
本システムでは、起動時には、周波数帯域幅の最小単位である50MHzで動作を開始し、その後、環境に応じて適宜周波数帯域幅を選定する。
具体的には、適応帯域幅制御部17は、定期的に通信品質の測定又は減衰量の算出を行って、適切な周波数帯域幅を選択し、各部の周波数帯域幅を制御する。
【0053】
これにより、降水等によって伝搬路の環境が変わった場合でも、それに追随して周波数帯域幅を変更することができ、所望の通信路容量を維持して、通信速度を落とすことなく安定した通信品質で通信を継続させることができるものである。
また、降水が止んで伝搬路の環境が良好に戻った場合には、速やかに元の周波数帯域幅に戻すことができ、周波数資源の無駄な使用を防ぐことができるものである。
【0054】
更に、本無線機1の適応帯域幅制御部17は、通信環境の変化に応じて周波数帯域幅を制御すると共に、送信電力を制御してもよい。
具体的には、適応帯域幅制御部17は、上述した周波数帯域幅テーブルと同様に、通信品質又は減衰量と送信電力とを対応付けて記憶したテーブルを備え、受信信号から測定された通信品質又は算出された減衰量に基づいて、適切な送信電力を選択する。
【0055】
また、本無線機1の適応帯域幅制御部17は、選択可能な周波数帯域幅の最大値(400MHz)で通信を行っても、通信品質が改善しない場合には、周波数帯域幅を上限値に保持した状態で、適応変調を行う。
つまり、適応帯域幅制御部17は、図9に示した従来の適応変調部76と同等の機能を備えている。
これにより、降雨減衰等に応じて周波数帯域幅を上限まで広くしても通信切断の恐れがある場合には、より低速な変調方式に切り替えて、通信状態を維持することができるものである。
【0056】
また、第1のシステムでは、無線機A及び無線機Bが同じ処理を行ってそれぞれ独立して自装置における周波数帯域幅の制御を行うものであり、同一装置で構成することができ、低コストで実現可能となっている。
【0057】
[第2のシステムの構成:図7]
次に、本システムにおける第2のシステムについて図7を用いて説明する。図7は、第2のシステムの構成を示す説明図である。
第2のシステムは、第1のシステムにおける無線機1の適応帯域幅制御部17における通信品質の測定又は減衰量の算出の機能と、通信品質又は減衰量に基づいて周波数帯域幅を選択する機能を、対向する2台の無線機で分担して備えたものである。
【0058】
つまり、第2のシステムでは、対向通信を行う無線機の一方が通信品質又は減衰量を測定(算出)して、測定(算出)した通信品質又は減衰量を他方に通知し、他方の無線機では、通知された通信品質又は減衰量に基づいて周波数帯域幅を選択して、自装置の各部を制御すると共に、一方の無線機に選択した周波数帯域幅を通知し、一方の無線機では、通知された周波数帯域幅で各部の制御を行うものである。
尚、以下では、通信品質に基づいて周波数帯域幅を制御する場合を例として説明するが、減衰量に基づく場合も同様の制御を行う。
【0059】
図7に示すように、第2のシステムでは、無線機A(無線機2)と、無線機B(無線機3)が対向して通信を行う。尚、無線機2は請求項に記載した第一の装置に相当し、無線機3は請求項に記載した第二の装置に相当している。
無線機Aを構成する無線機2は、適応帯域幅制御部27に、通信品質測定部271と、帯域幅切替制御部272とを備えている。但し、無線機2の適応帯域制御部27は、通信品質に基づいて周波数帯域幅を選択する機能は備えていない。
ここで、帯域幅切替制御部272は、通知された周波数帯域幅の値に従って、自装置内の各部の周波数帯域幅を制御するものである。
【0060】
また、無線機Bを構成する無線機3は、適応帯域幅制御部37に、帯域幅選定切替制御部372を備えているが、受信信号から通信品質を測定する機能は備えていない。
帯域幅選定切替制御部372は、通信品質の情報に基づいて周波数帯域幅を選択すると共に、選択した周波数帯域幅を自装置内の各部に通知して、周波数帯域幅を制御するものである。
【0061】
第2のシステムにおける動作について説明する。
無線機2の適応帯域幅制御部27では、通信品質測定部271で通信品質を測定すると、通信品質の測定値を、変調部24、送信部22を介して無線機3に送信する。
【0062】
無線機3において、無線機2からの通信品質の情報が受信され、復調部35を介して適応帯域幅制御部37に通信品質の値が入力されると、帯域幅選定切替制御部372は、無線機2から受信した通信品質の値に基づいて、周波数帯域幅テーブルを参照して周波数帯域幅を選択する。
そして、無線機3の適応帯域幅制御部37は、送信部32、受信部33、変調部34、復調部35に選択された周波数帯域幅を通知して各部の周波数帯域幅を制御する。
【0063】
無線機3の適応帯域幅制御部37は、選択した周波数帯域幅の情報を、変調部34、送信部32を介して無線機2に送信する。
無線機2の適応帯域幅制御部27では、復調部25から周波数帯域幅の情報が入力されると、帯域幅切替制御部272が、送信部22、受信部23、変調部24、復調部25の周波数帯域幅を制御する。
このようにして、第2のシステムの動作が行われる。
【0064】
尚、上記第2のシステムにおける動作を開始する前に、無線機3が無線機2に選択した周波数帯域幅を通知して、無線機2から当該通知への応答を受信した後に、選択した周波数帯域幅での制御を行い、無線機2も通知された周波数帯域での制御に移行するようにしてもよい。
【0065】
第2のシステムでは、対向する2台の無線機で、周波数帯域幅制御の機能を分担して行う構成としているので、第1のシステムに比べて各無線機の負荷を低減することができるものである。
【0066】
[第2のシステムの応用例]
尚、ここでは、無線機Aと無線機Bが機能を分担する構成としたが、第2のシステムの応用例として、一方を主、他方を従として他方の制御を簡易にするよう構成してもよい。
具体的には、無線機2の帯域幅切替制御部272の代わりに、周波数帯域幅の選択も行う帯域幅選定切替制御部を設ける。
【0067】
そして、無線機2の適応帯域幅制御部271は、通信品質を測定して、その情報を無線機3に送信すると共に、当該通信品質に基づいて周波数帯域幅を選択して、保持しておく。
無線機3では、無線機2から受信した通信品質の情報に基づいて、周波数帯域幅を選択して各部を制御し、無線機2に受信確認を示す応答信号を送信する。
無線機2では、無線機3からの応答信号を受信すると、適応帯域幅制御部27が、自装置内の各部の周波数帯域幅を、保持している周波数帯域幅で制御する。
このようにして、第2のシステムの応用例における動作が行われるものである。
【0068】
第2のシステムの応用例では、従となる無線機(ここでは無線機3)は、通信品質の測定や減衰量の算出を行わずに済み、簡易な構成で実現することができるものである。
【0069】
[第3のシステム:図8
次に、本システムにおける第3のシステムについて図8を用いて説明する。図8は、第3のシステムの構成を示す説明図である。
第3のシステムでは、無線機Aからの通信品質(又は減衰量)の情報を受信した無線機Bも、受信信号から通信品質を測定(又は減衰量を算出)して、受信した通信品質の値と、独自に測定した通信品質の測定値とを両方考慮して周波数帯域幅を選択するようにしたものである。
【0070】
図8に示すように、第3のシステムでは、無線機Aを構成する無線機4と、無線機Bを構成する無線機5は同一の構成となっており、図3に示した無線機1と同等の構成であるが、動作が一部異なっている。尚、無線機4は請求項に記載した第一の装置、無線機5は請求項に記載した第二の装置に相当している。
第3のシステムにおける動作について図8を用いて説明する。
第3のシステムでは、第2のシステムと同様に無線機A(無線機4)において、適応帯域幅制御部47が、通信品質測定部471で受信信号の通信品質を測定し、無線機B(無線機5)に測定した通信品質の情報を通知する。
【0071】
無線機5では、適応帯域幅制御部57が、受信した通信品質の値を記憶しておく。
また、無線機5の適応帯域幅制御部57では、通信品質測定部571で無線機4からの受信信号の通信品質を測定し、記憶する。
そして、帯域幅選定切替制御部572が、受信した通信品質の値と、自装置で測定した通信品質との値を比較して、両者が同等である場合には、当該通信品質に対応する周波数帯域幅を選択して、自装置内の各部に周波数帯域幅を通知する。具体的には、帯域幅選定切替制御部572は、両者の差が予め設定された範囲内である場合に同等と判断する。
【0072】
また、無線機5において、帯域幅選択切替制御部572が、受信した通信品質の値と、自装置で測定した通信品質との値が同等ではないと判断した場合、一方の装置の不具合等が疑われるため、システムの管理者に対してアラームを出力して報知する、といった処理を行う。
【0073】
更に、無線機5は、自装置で測定した通信品質を、無線機4に送信してもよい。これにより、無線機4でも同様に、装置の不具合の検出を行うことが可能となる。
更にまた、無線機5及び無線機4が、それぞれ、相手装置から受信した通信品質又は減衰量の値に基づいて、送信電力を制御するように構成してもよい。
【0074】
第3のシステムでは、無線機5(及び無線機4)において、相手方から通知された通信品質と、受信信号に基づいて自装置で測定した通信品質の両方を考慮した上で周波数帯域幅をより適切に選択することができ、また、2つの通信品質に差があったには、管理者に報知して、装置の不具合等を迅速に検知できるものである。
【0075】
尚、上記第3のシステムにおける動作を開始する前に、無線機4又は無線機5が選択した周波数帯域幅を相手の無線機に通知して、相手の無線機から当該通知への応答を受信した後に、選択した周波数帯域幅での制御に移行するようにしてもよい。
【0076】
[実施の形態の効果]
本無線機及び本システムによれば、無線機1の適応帯域幅制御部17が、受信信号から通信品質又は減衰量を測定して、それに基づいて、通信路容量を一定に保持するよう周波数帯域幅を変更するものであり、降水等によって通信環境が劣化しても、通信速度を低下させることなく、通信速度を保ったまま安定した通信品質での無線伝送を行うことができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、降水等による通信環境の変化があっても、通信速度を一定に保持したまま安定した通信品質で無線伝送を実現できる無線機及び無線通信システムに適している。
【符号の説明】
【0078】
1,2,3,4,5,7…無線機、 11,21,31,41,51,71…アンテナ、 12,22,32,42,52,72…送信部、 13,23,33,43,53,73…受信部、 14,24,34,44,54,74…変調部、 15,25,35,45,55,75…復調部、 76…適応変調部、 171,271,471,571…通信品質測定部、 172,174,372,472,572…帯域幅選定切替制御部、 173…受信電力測定減衰量算出部、 272…帯域幅切替制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9