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特開2024-179042運転方法提案装置、並びに運転方法提案方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179042
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】運転方法提案装置、並びに運転方法提案方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20241219BHJP
【FI】
G06Q10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097535
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大和
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】産業機械への要求に柔軟に対応した運転方法を提案することができる運転方法提案装置、並びに運転方法提案方法を提供する。
【解決手段】装置の運転方法を評価する運転方法提案装置であって、装置に対する要求項目を入力する入力部と、装置の運転に関する設定項目を含む装置の稼働情報を受け付ける受付部と、受付部が受け付けた稼働情報を用いて、要求項目に関係する二つ以上の装置の運転評価項目を算出する第一算出部と、要求項目と、二つ以上の運転評価項目同士の関係性とに基づき、装置の設定項目を算出する設定項目算出部と、設定項目算出部により算出した設定項目に基づいて、二つ以上の運転評価項目を算出する第二算出部と、第二算出部が算出した2つ以上の運転評価項目を出力する出力部を備えることを特徴とする運転方法提案装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の運転方法を評価する運転方法提案装置であって、
前記装置の運転に対する要求項目を入力する入力部と、
前記装置の運転に関する設定項目を含む前記装置の稼働情報を受け付ける受付部と、
前記受付部が受け付けた前記稼働情報を用いて、前記要求項目に関係する二つ以上の前記装置の運転評価項目を算出する第一算出部と、
前記要求項目と、二つ以上の前記運転評価項目同士の関係性とに基づき、前記装置の前記設定項目を算出する設定項目算出部と、
前記設定項目算出部により算出した前記設定項目に基づいて、二つ以上の運転評価項目を算出する第二算出部と、
前記第二算出部が算出した2つ以上の前記運転評価項目を出力する出力部を備えることを特徴とする運転方法提案装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転方法提案装置であって、
前記第一算出部、前記設定項目算出部、前記第二算出部で用いられる計算モデルは、数値シミュレーションモデルまたは機械学習モデルまたはその両方で構成されることを特徴とする運転方法提案装置。
【請求項3】
請求項1に記載の運転方法提案装置であって、
前記第二算出部によって算出された運転評価項目のうち、少なくとも一つ以上が前記要求項目を満たし、異なる運転評価項目が前記要求項目よりもさらに改善できる状態である場合、要求項目よりも改善できることを示すことを特徴とする運転方法提案装置。
【請求項4】
請求項1に記載の運転方法提案装置であって、
複数ある前記要求項目に対し、達成すべき前記第二算出部によって算出された運転評価項目の優先度を設定することを特徴とする運転方法提案装置。
【請求項5】
請求項1に記載の運転方法提案装置であって、
前記装置の使用方法や使用環境、品質のばらつきに起因する外乱因子による影響を確率論的に評価することを特徴とする運転方法提案装置。
【請求項6】
計算機を用いて、装置の運転方法を評価する運転方法提案方法であって、
計算機は、前記装置の運転に対する要求項目を入力する入力部と、前記装置の運転に関する設定項目を含む前記装置の稼働情報を受け付ける受付部と、出力部と、演算部を備え、
前記演算部は、前記稼働情報を用いて、前記要求項目に関係する二つ以上の前記装置の運転評価項目を算出し、前記要求項目と、二つ以上の前記運転評価項目同士の関係性とに基づき、前記装置の前記設定項目を算出し、前記設定項目に基づいて、二つ以上の運転評価項目を算出し、
前記出力部は、算出した2つ以上の前記運転評価項目を出力することを特徴とする運転方法提案方法。
【請求項7】
請求項6に記載の運転方法提案方法であって、
前記要求項目は前記装置の保守点検作業時期と保守点検内容を変更する内容を含み、二つ以上の前記運転評価項目同士の関係性に基づき、変更後の前記装置の保守点検作業時期と保守点検内容を達成できる前記装置の前記設定項目の新たな内容を算出することを特徴とする運転方法提案方法。
【請求項8】
請求項6に記載の運転方法提案方法であって、
二つ以上の前記運転評価項目同士の関係性に基づき、変更後の前記装置の保守点検作業時期と保守点検内容を達成できる前記装置の前記設定項目の新たな内容を算出することができないときに、
前記要求項目により要求された前記装置の保守点検作業時期と保守点検内容を達成できないこと、または前記要求項目を見直すこと、または見直した前記要求項目を提案することを特徴とする運転方法提案方法。
【請求項9】
請求項6に記載の運転方法提案方法であって、
二つ以上の前記運転評価項目の予測処理を行うとともに、予測処理の際に外乱因子を考慮した予測を行うことを特徴とする運転方法提案方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械の運転方法を提案する運転方法提案装置、並びに運転方法提案方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械を運転するにあたり、使用方法や使用環境、品質のばらつき等による外乱因子により、交換部品の劣化状態は装置ごとに異なるが、既定の運転時間や使用回数に従い、劣化状態によらず一律で交換されていた。状況によっては、既定の交換タイミングに達する前に交換部品の寿命を迎え、それが原因で産業機械が故障することもあった。一方、既定の交換タイミングに達しても余寿命がまだ十分に残されていることもある。
【0003】
このことから、交換部品の余寿命に合わせた運転方法の提案が求められており、従来技術として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1では、発電設備の適切な運用を支援する発電設備の運用支援装置を提供することを目的として、「発電設備の運転を停止する停止時期を設定する発電設備の運用支援装置であって、前記停止時期の候補となる候補停止時期を設定する候補停止時期設定部と、前記発電設備の寿命を示す指標であって、前記発電設備の出力に応じて値が一方向に変化する寿命指標値の、現在以降の所定の時期である開始時期における値を取得する寿命指標値取得部と、単位時間毎の電力供給量に対して割り当てられる電力の安定供給に対する貢献度を、前記開始時期から前記候補停止時期までのそれぞれの単位時間毎に取得する貢献度取得部と、前記開始時期における前記寿命指標値と、前記開始時期から前記候補停止時期までの前記貢献度とに基づき、前記候補停止時期における前記寿命指標値が予め定めた所定値となり、かつ、前記開始時期から前記候補停止時期までの、単位時間毎の前記貢献度と電力供給量とに基づいた評価値が最大となるように、前記開始時期から前記候補停止時期までの前記発電設備の単位時間毎の出力パターンを設定する出力パターン設定部と、前記出力パターンに基づき、前記停止時期を設定する停止時期設定部と、を有する、発電設備の運用支援装置。」としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020―167926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
交換部品の劣化進行の加速と引き換えに性能向上が期待されるような産業機械であれば、運転方法を見直すことで同じ交換タイミングであっても高い性能を発揮することができる。交換タイミングが早まることを許容して性能向上を求めることや、逆に性能低下を許容して交換タイミングの延期を求めることなど、産業機械の運用者や装置を取り巻く状況によってその要求は様々である。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、そのような千差万別の要求に対応することは想定されておらず、常に評価値が最大となるよう出力パターンを設定ことが想定され、また、要求を反映する手段と実現するために劣化進行の加速と性能向上の関係性を利用していない。
【0007】
このことから本発明においては、産業機械への要求に柔軟に対応した運転方法を提案することができる運転方法提案装置、並びに運転方法提案方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のことから本発明においては「装置の運転方法を評価する運転方法提案装置であって、装置の運転に対する要求項目を入力する入力部と、装置の運転に関する設定項目を含む装置の稼働情報を受け付ける受付部と、受付部が受け付けた稼働情報を用いて、要求項目に関係する二つ以上の装置の運転評価項目を算出する第一算出部と、要求項目と、二つ以上の運転評価項目同士の関係性とに基づき、装置の設定項目を算出する設定項目算出部と、設定項目算出部により算出した設定項目に基づいて、二つ以上の運転評価項目を算出する第二算出部と、第二算出部が算出した2つ以上の運転評価項目を出力する出力部を備えることを特徴とする運転方法提案装置。」としたものである。
【0009】
また本発明においては、「計算機を用いて、装置の運転方法を評価する運転方法提案方法であって、計算機は、装置の運転に対する要求項目を入力する入力部と、装置の運転に関する設定項目を含む装置の稼働情報を受け付ける受付部と、出力部と、演算部を備え、演算部は、稼働情報を用いて、要求項目に関係する二つ以上の装置の運転評価項目を算出し、要求項目と、二つ以上の運転評価項目同士の関係性とに基づき、装置の設定項目を算出し、設定項目に基づいて、二つ以上の運転評価項目を算出し、出力部は、算出した2つ以上の運転評価項目を出力することを特徴とする運転方法提案方法。」としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、産業機械への要求に柔軟に対応した運転方法を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1に係る運転方法提案装置の構成例を示す図。
図2】産業機械の評価項目同士の関係性の例を示す図。
図3】新規に要求した保守点検作業時期に合わせて運転方法を変えた場合の交換部品の劣化度と効率の変化を示す図。
図4】新規に要求した保守点検作業時期に合わせて運転方法を変えた場合の交換部品の劣化度に余裕がある場合に新たに保守点検作業時期を提案することを示す図。
図5】要求した効率に合わせて運転方法を変えた場合の交換部品の劣化度に余裕がある場合に効率をさらに上げられる運転方法を新たに提案することを示す図。
図6】新規に要求した保守点検作業時期に交換部品の劣化度が閾値を下回るような運転方法を提案することを示す図。
図7】現在の運転方法を継続すると新規に要求した保守点検作業時期では交換部品の劣化度が閾値を上回る場合、交換部品の劣化度が閾値を下回る保守点検作業時期を新たに提案することを示す図。
図8】産業機械の評価項目同士の関係性に外乱因子による影響を加えた場合の図。
図9】外乱因子による影響を考慮して新たに運転方法を提案する方法を示す図。
図10】外乱因子による影響を考慮した算出部の入力値の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。なお運転方法提案装置について本発明の実施例1で説明し、その具体的な使用例は実施例2以降で述べるものとする。
【実施例0013】
本発明の実施例1では、運転方法提案装置の基本構成例について図1図2図3を参照して説明する。
【0014】
図1に示す運転方法提案装置100は、計算機装置により構成されており、一般的にはキーボードなどの入力装置やモニタなどの出力装置を外部に備え、ROM、RAM、演算を実行する演算部(CPU)、データベースなどがバスを介して接続されて構成されている。なお、図1では、CPUにおいてソフト処理により実行される処理機能を示しているので、上記のハードウェアは記述されていない。
【0015】
なお、本発明に係る運転方法提案装置の実現に際し、産業機械の稼働情報50を受け付ける受付部101と、産業機械の運転に対する要求項目60を入力する入力部111と、演算結果を出力する出力部143を含むパソコンを用いて実現される運転方法提案装置とするのがよい。
【0016】
まず図1において、稼働情報50は、産業機械の稼働状態を把握するための情報であり、例えば圧力や温度、回転数のような数値で表される。このとき、稼働情報が「はい」「いいえ」のような2値変数や、色や種類といったラベルで表されるカテゴリーデータ、保守点検時のサービス記録のような自然言語であってもよく、演算のために数値へ変換することが可能な情報であれば稼働情報50の形式は問わない。また、稼働情報50は、運転方法提案装置100とは異なる場所に設置された産業機械からインターネットを介して入力してもよい。
【0017】
運転方法提案装置100の受付部101にて受け付けた稼働情報50を入力値として、第一算出部102にて産業機械の運転評価項目群103を算出する。第一算出部102は、数値シミュレーションモデルや、複数の数値シミュレーションモデルを組み合わせたものや、機械学習によって得られた回帰モデル、またはそれらを組み合わせたものである。ある入力値を受け付けることで出力値を演算するものであれば数値シミュレーションモデルや回帰モデルの手法は問わない。
【0018】
運転評価項目群103は、産業機械の運転状態を評価するために予め設定した指標(運転評価項目)が集合されて群を形成したものであり、例えば消費電力や効率、生産数、出力のような産業機械の性能指標であるほか、次回の保守点検作業時期のような寿命指標が挙げられる。また、運転評価項目群103は、必ずしも第一算出部102によって算出されるものでなくても良く、稼働情報50に含まれる情報としても良い。要は産業機械の現在の運転状況に応じた複数の運転評価項目が生成されて、準備されていればよい。
【0019】
次に要求項目60は、運転評価項目群103にて指定した指標を基に、今後の運転に対する要求についての情報である。要求項目60は複数の項目を対象とすることができ、例えば、産業機械の運用に関して設定値以上の効率とし、かつ次回の保守点検時期まで交換部品が寿命を迎えないようにするといった内容が挙げられる。これらの要求項目60を運転方法提案装置100の入力部111に入力する。なお、要求項目60の入力者は、対象とする産業機械の使用者や管理者が一般的であるが、産業機械に関連する事象を元に自動で要求を決定するようなシステムであってもよい。
【0020】
運転評価項目群103と、入力部111に入力された要求項目60は、運転方法を設定する設定項目算出部131に入力される。この時、複数の運転評価項目同士の関係性121を基に、要求項目60を実現できる運転方法の設定項目132を算出する。
【0021】
ここで、図2を用いて運転評価項目同士の関係性121について説明する。図2の例では、例えば横軸に効率、縦軸に交換部品の劣化速度を取り、これらの間の関係性を特性121として表している。この図2の例の運転評価項目同士の関係性121は、高い効率で機器運用すれば部品の劣化速度が速くなり、従って交換時期が早まり、逆に低い効率で機器運用すれば部品の劣化速度が遅くなり、従って交換時期を先延ばしすることができるというものである。
【0022】
このような関係性121を持つ産業機械に対し、要求項目60において次回の保守点検作業時期の前倒しを許容すると同時に性能向上を設定した場合、運転評価項目同士の関係性121に基づいて設定項目算出部131において設定項目132を算出する。運転評価項目同士の関係性121は、例えば対象とする産業機械に対して予め想定される設定項目132の範囲に対応した応答曲面や回帰モデルとして用意しておく方法が挙げられる。その場合、第一算出部102で使用した回帰モデルと同じモデルを用いてもよい。
【0023】
最後に設定項目132を第二算出部141に入力し、運転評価項目群142を算出し、出力部151にて出力する。ここで用いる算出方法は、第一算出部102で用いたものと同様であってもよい。
【0024】
ここまでに述べた内容を、運転評価項目群103が交換部品の劣化度と効率である場合を例にとり図3を用いて説明する。図3は、新規に要求した保守点検作業時期に合わせて運転方法を変えた場合の交換部品の劣化度と効率の変化を示す図である。
【0025】
図3の横軸は時間、縦軸には交換部品の劣化度とその閾値、効率とその要求値を記載している。この図で横軸の運転時間には、入力要求時点200(一般的には現在時点)と、この産業機械の交換部品の保守点検作業の当初計画での予定時期である当初保守点検作業時期201と、当初保守点検作業時期201を早めて実施しようとする新規要求保守点検作業時期202が示されている。
【0026】
縦軸の交換部品の劣化度と効率は、現在時点200ではそれぞれ2と、1の値を有しており、このうち劣化度1は(現在の運転と同じ状態で運転が行われるものとすると)、時間経過とともに点線の11に示すような増加傾向を示し、同様に効率は時間経過とともに点線の21に示すような減少傾向を示すことが知られている。なおこの場合に当初保守点検作業時期201における劣化度1は閾値に到達していないので、当初計画ではこの時期201に保守点検作業は行うものの、部品交換までは想定していない。
【0027】
これに対し、ユーザは当初計画を変更し、時期201を時期202に早めるべく、要求入力時点200において図1の要求項目60を変更したものである。変更項目60の内容は、第1点として、保守点検作業時期を201から202に早めること、第2点として早めた時期202では交換部品の交換を行うというものである。また第3点として、早めた時期202までに交換部品の寿命を消費させてしまうような運用を実行するというものである。
【0028】
つまり当初計画では、時期202での交換部品の劣化度は11aの大きさであると推定できるところ、これを閾値の11bまで上げるような特性12の運転を行わせるというものである。このためには、図2の特性に従って効率2の要求値を挙げた運用を行うことで、短時間、高効率運転を現在時点200から修正時期200までの期間の効率要求値を21aから21bに挙げた特性22により運転するような運転要求を与えることにしたものである。
【0029】
図3の運転は、図1の運転方法提案装置100を用いて、以下のように実行されることで実現される。つまり、まず要求項目60を入力部111に入力した要求入力時点200において、第一算出部102は、稼働情報50に基づいて交換部品の劣化度1と効率2を算出する。要求入力時点200までの交換部品の劣化度1と効率2は、受付部101が、稼働情報50を受け付ける度に第一算出部102で算出しても良いし、要求入力時点200までに蓄積した稼働情報50を用いてまとめて算出しても良い。
【0030】
第一算出部102では、要求入力時点200から当初保守点検作業時期201までの将来予測を実行し、交換部品の劣化度11と効率21を得る。将来予測手法は、要求入力時点200までの交換部品の劣化度1と効率2の時系列変化を基に、カルマンフィルタやARIMAモデルのような状態空間モデルを用いる方法やトレンド分析を適用した時系列解析手法を用いる方法等が挙げられる。
【0031】
その他、要求入力時点200までの稼働情報を基に、対象とする産業機械において当初保守点検作業時期201までに生じ得る稼働情報を予測し、第一算出部102で用いた数値シミュレーションモデルや回帰モデルに入力して交換部品の劣化度11と効率21を得る方法も挙げられる。ここに記載した将来予測手法以外であっても、要求入力時点200から当初保守点検作業時期201までの運転評価項目群103の挙動を予測できれば、手法の内容は問わない。
【0032】
次に、将来予測結果である交換部品の劣化度11と効率21を基に、新規要求保守点検作業時期202における交換部品の劣化度11aと効率21aを算出する。ここでは、保守点検作業時期の前倒しを許容し、効率向上を要求項目60とした場合を想定して、新規保守点検作業時期202は、当初保守点検作業時期201よりも前に設定されている。
【0033】
図3では、交換部品の劣化度11aは、交換部品の交換が求められる劣化度の閾値以下となっており、効率21aは要求値を下回っている。この情報と、運転評価項目同士の関係性121に基づいて、設定項目算出部131では、要求入力時点200から新規要求保守点検作業時期202までの時系列変化である交換部品の劣化度12と効率22を算出し、新規要求保守点検作業時期202において、交換部品の劣化度が閾値付近11bとなり、要求値を実現する効率21bとなる設定項目132を算出する。なお、劣化度11bと閾値との差分をどの程度まで許容するかは要求項目60の入力時点等で求めることができる。
【実施例0034】
実施例1では、運転方法提案装置が備えるべき基本的な要素について説明した。本発明の実施例2以降では、実運用において生じ得る事象を想定した使用方法を説明する。図4は、新規に要求した保守点検作業時期に合わせて運転方法を変えた場合の交換部品の劣化度に余裕がある場合に新たに保守点検作業時期を提案することを示す図である。
【0035】
図4は、要求項目60に入力した新規要求保守点検作業時期202において、交換部品の劣化度11bが閾値以下であり、かつ効率21bが要求値付近となっている場合を示している。なお、新規要求保守点検作業時期202における交換部品の劣化度11bと効率21bまでの算出方法は実施例1と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0036】
この時、効率21bが対象とする産業機械で発揮できる最大効率であった場合、これ以上の効率上昇は望めない。その際は、現在提案している運転方法を継続し、交換部品の劣化度11cが閾値付近となる時期を算出し、新規提案保守点検作業時期203を提案する。
【0037】
この事例では、新規提案保守点検作業時期203は、要求項目60で入力した新規要求保守点検作業時期202よりも後となる。この結果を元に、要求項目60の入力者は、次回の保守点検作業時期を検討することができる。
【実施例0038】
実施例2では、要求項目60で入力した効率に対する要求値が、対象とする産業機械の最大効率であったため、保守点検作業時期の後ろ倒しの変更(202⇒203)を提案した。本発明の実施例3では、効率に対する要求値が最大効率よりも十分に下回っている場合を説明する。図5は、要求した効率に合わせて運転方法を変えた場合の交換部品の劣化度に余裕がある場合に効率をさらに上げられる運転方法を新たに提案することを示す図である。
【0039】
図5では、図4と同様に、要求項目60に入力した新規要求保守点検作業時期202において、交換部品の劣化度11bが閾値以下となっており、効率21bが要求値付近となっている。効率に対する要求値は、対象とする産業機械の最大効率よりも下回っているため、さらなる効率上昇が可能なる。
【0040】
この場合、交換部品の劣化度11bは、閾値に対して余裕があるため、運転評価項目同士の関係性121に基づき、交換部品の劣化度11dを閾値付近にまで上昇するような運転方法13、23とすることで効率21bを効率21dまで上昇させる。これによって、新規要求保守点検作業時期202まで、より高効率な運転が可能となる。
【実施例0041】
本発明の実施例3までは、新規要求保守点検作業時期202において、交換部品の劣化度11bが閾値を下回った場合を説明した。実施例4では、新規要求保守点検作業時期202において、交換部品の劣化度11bが閾値を上回った場合について図6を用いて説明する。図6は、新規に要求した保守点検作業時期に交換部品の劣化度が閾値を下回るような運転方法を提案することを示す図である。
【0042】
新規要求保守点検作業時期202における交換部品の劣化度11aおよび効率21aを算出する過程は、実施例3までと同様であるため、ここでは省略する。この例のように交換部品の劣化度11aが閾値を超えている場合、提案している運転方法では新規要求保守点検作業時期202までの運転継続が不可能となる。
【0043】
そこで、交換部品の劣化度11aが閾値付近まで抑制できる劣化度11eとなる運転方法を提案する。交換部品の劣化度11eとなる運転方法の算出方法は実施例1と同様である。運転評価項目同士の関係性121に基づき、効率21aは効率21eまで低下することとなるが、要求項目60の入力者がこの予測結果に基づき新規要求保守点検作業時期202まで運転を継続するか決定する。
【実施例0044】
実施例4では、効率の低下を容認して新規要求保守点検作業時期202までの運転を継続することが前提となっていた。実施例5では、効率の維持を優先し、次回の保守点検作業時期の変更を提案する方法について図7を用いて説明する。図7は、現在の運転方法を継続すると新規に要求した保守点検作業時期では交換部品の劣化度が閾値を上回る場合、交換部品の劣化度が閾値を下回る保守点検作業時期を新たに提案することを示す図である。
【0045】
実施例4と同様に新規要求保守点検作業時期202において、交換部品の劣化度11aが閾値を超えることが予測され、現在の運転方法では運転継続が不可能となる。この時、要求項目60の入力者が効率の維持を優先した場合、次回の保守点検作業時期を前倒しする新規提案保守点検作業時期203を提案する。なお、新規提案保守点検作業時期203よりもさらに前倒しすることを許容する場合は、これを参考に再度新規要求保守点検作業時期202を設定し直すことも可能である。
【実施例0046】
本発明の実施例5までは、対象とする産業機械の使用環境や使用方法の違い、また、産業機械ごとの品質のばらつきといった外乱因子による影響が考慮されていない。
【0047】
図8は、産業機械の評価項目同士の関係性に外乱因子による影響を加えた場合を示す図であり、図2の関係性を示す特性121が一義的に定まることを前提として説明したが、実際には関係性を示す特性121は外乱因子による影響を受けて所定幅内の領域内に存在することになる。具体的には図8に示すように、評価項目同士の関係性121においても外乱因子によって121aや121bのように変化することが想定される。実際の運用においては、全ての状況を当てはめることは不可能であるため、外乱因子による影響を考慮することでより柔軟な運転方法の提案が可能となる。
【0048】
そこで、稼働情報50に対し、稼働情報50を取得するためのセンサの測定誤差や経験則から得られるばらつきの程度から推定される確率分布に従い、変数毎にn個の値を発生させる。
【0049】
図10は、外乱因子による影響を考慮した算出部の入力値の一例を示す図である。図10の例では、m個の変数それぞれに対してn個の値を発生させた場合を示している。なお、m個の変数は、全て稼働情報50に含まれている必要は無く、第一算出部102や第二算出部141の入力に必要な変数であっても構わない。例えば、対象とする産業機械の寸法や重量といった設計項目であっても良く、その場合は、例えば寸法であれば設計時に指定された公差や実際の測定結果に基づいた確率分布を用いることで実現できる。
【0050】
図10に示したようなばらつきを考慮した入力値を元に算出された運転評価項目群103や142は、同様にばらつきを含んだ出力値となる。この時、出力値のばらつきを出力値の標本平均、標本分散を用いたt分布とする方法や、MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)によって求めた事後分布とする方法等を用いて確率分布にあてはめることで、信頼区間を求める。
【0051】
図9では、図3を用いて説明した実施例1に対し、信頼区間を加えたものである。実施例1では、ある一点の変数の組み合わせを入力値として求めた評価項目であったが、図9に示した本実施例のように確率分布とすることで、外乱因子による影響を考慮することができる。図9は、外乱因子による影響を考慮して新たに運転方法を提案する方法を示す図である。
【0052】
図9において例えば、新規要求保守点検作業時期202に合わせて交換部品の劣化度11bを予測する場合、新たに提案した運転方法による劣化度の変化12に対し、信頼区間12CIを示すことで、外乱因子による影響を考慮した運転方法の提案が可能となる。
【0053】
同時に効率の変化22に対しても信頼区間22CIを示すことで、外乱因子によって効率がどの程度変化し得るかも示すことができる。なお、図9では確率分布の一例として正規分布を用いたが、それに限定されるものではない。
【0054】
以上、本発明装置にかかる提案内容事例を説明したが、これらは要求項目を達成できる方向性での内容以外に、要求項目を達成できない方向性での内容として、達成できないこと、または要求項目を見直すべきこと、または見直した要求項目を含めて提案するのがよい。
【符号の説明】
【0055】
100:運転方法提案装置
50:稼働情報
60:要求項目
121:運転評価小目同士の関係性
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10