(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179056
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ブレース材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20241219BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20241219BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E04B1/58 G
E04B1/24 F
E04H9/02 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097560
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 昂平
(72)【発明者】
【氏名】成原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】安田 聡
(72)【発明者】
【氏名】氏家 大介
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB01
2E125BB16
2E125CA05
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA06
2E139BD14
2E139BD22
(57)【要約】
【課題】ブレース材としてH形鋼を用いた場合において、補強プレートを端部に接合して補剛しつつ、架構へのボルト接合のためのボルト挿通孔を設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制する。
【解決手段】ブレース材40Aは、H形鋼により形成された芯材45と、芯材45の端部において、フランジ41、42の外側表面41f、42fに接合された補強プレート48A、48Bと、を備え、補強プレート48A、48Bは、芯材45の軸線方向に沿って設けられ、補強プレート48A、48Bの軸線方向に延在する端辺48aのうち芯材45のフランジ41、42側には斜めに開先加工した側面小口48sが設けられており、補強プレート48A、48Bは、側面小口48sと、フランジ41、42の外側表面41f、42fとの間において、部分溶込み溶接で接合されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の柱梁架構と接合されるブレース材であって、
フランジとウェブとを備えるH形鋼により形成された芯材と、当該芯材の軸線方向における端部において、前記フランジの外側表面に接合された補強プレートと、を備え、
前記補強プレートは、前記芯材の前記軸線方向に沿って設けられ、当該補強プレートの前記軸線方向に延在する端辺のうち前記芯材の前記フランジ側には斜めに開先加工した側面小口が設けられており、
前記補強プレートは、前記側面小口と、前記フランジの前記外側表面との間において、部分溶込み溶接で接合されていることを特徴とする、ブレース材。
【請求項2】
前記補強プレートは、前記フランジと同幅であることを特徴とする請求項1に記載のブレース材。
【請求項3】
前記芯材の中間部を外方から覆うように設けられる、筒状の外側鋼材と、
前記外側鋼材と前記芯材との間に設けられたセメント系充填部と、
を備える座屈補剛部を、更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載のブレース材。
【請求項4】
前記補強プレートの、前記軸線方向において前記芯材の中央部側に位置する、前記軸線方向に直交する幅方向に延在する端縁は、前記フランジの前記外側表面との間において、隅肉溶接で接合されていることを特徴とする請求項1または2に記載のブレース材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製の柱梁架構と接合されるブレース材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物においては、柱や梁により構成された架構内に、ブレース材が設けられることがある。
例えば、特許文献1には、鋼管とその内部に配置された低降伏点鋼材との間にコンクリートを充填して座屈拘束ブレースを構成し、その座屈拘束ブレースを、高降伏点鋼材製柱および高降伏点鋼材製梁からなる鉄骨構造物に架設した構成が記載されている。この座屈拘束ブレースにおいては、高降伏点鋼材製梁に固着された鋼製取付金具に対し、座屈拘束ブレースの端部が、鋼製継手板及びボルトによって、連結されている。
このように、ブレース材は、ボルトにより、架構に接合されることが多い。しかし、ボルトによってブレース材を接合する際には、ブレース材の端部にボルト挿通孔を設ける必要がある。このため、ボルト挿通孔が設けられた部分における断面積が、ボルト挿通孔が設けられていない、ブレース材を構成する鋼材の中間部よりも、小さくなる。したがって、地震の際には、ブレース材が、ボルト挿通孔が設けられた部分において早期に降伏し、破断してしまう可能性がある。
【0003】
これに対し、特許文献2には、H型鋼からなる鋼製芯材の長さ方向の中間部の外周を、アンボンド層を介して、コンクリートまたはモルタル部材で覆うと共に、コンクリートまたはモルタル部材の外周を鋼管で覆って補強し、H形鋼の両端部の各フランジの外面に補強プレートを重ねて合わせて溶接した軸降伏型弾塑性履歴ブレースが記載されている。特許文献2の軸降伏型弾塑性履歴ブレースにおいては、補強プレートは、フランジの幅より小さい幅を有しており、隅肉溶接によりフランジに一体に接合されることで、鋼製芯材の両端部の断面積が高められている。
このように、フランジの表面に補強プレートを接合すれば、フランジと補強プレートを挿通するようにボルト挿通孔を設けたとしても、ボルト挿通孔が設けられた部分における断面積が、ボルト挿通孔が設けられていない、ブレース材を構成する鋼材の中間部よりも、小さくなることが抑制される。
しかし、特許文献2の構成においては、補強プレートをフランジに隅肉溶接するために、補強プレートの幅をフランジの幅よりも、少なくとも隅肉溶接のビード幅として必要とされる分だけ、小さくしている。このため、補強プレートにおいては、ボルト挿通孔から部材端までの最小距離であるへりあきが小さくなる。したがって、仮に、補強プレートを設けることで、ボルト挿通孔が設けられた部分における断面積を、ボルト挿通孔が設けられていない、ブレース材を構成する鋼材の中間部の断面積と、同等な状態としたとしても、小さくなったへりあきの部分において、地震時に作用する力に十分に抗することができず、早期に破断が生じる可能性がある。
【0004】
また、特許文献3には、材軸方向に圧縮又は引張の荷重を受けたとき塑性変形する領域を含む第1部分と第1部分の両端に設けられた第2部分とを有する芯材と、少なくとも第1部分の周囲を囲繞する補剛材と、を備えた座屈拘束ブレースが記載されている。この座屈拘束ブレースは、第2鋼材のフランジの外面に接合された鋼製の第2補強板を備えている。第2補強板は、芯材の長手方向に沿って設けられる。
特許文献3においても、特許文献2と同様に、第2補強板のへりあきが小さくなり、この部分において、地震時に作用する力に十分に抗することができず、早期に破断が生じる可能性がある。
ブレース材としてH形鋼を用いた場合において、補強プレートを端部に接合して補剛しつつ、架構へのボルト接合のためのボルト挿通孔を設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制することが、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-57820号公報
【特許文献2】特開2014-31654号公報
【特許文献3】特開2020-165239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ブレース材としてH形鋼を用いた場合において、補強プレートを端部に接合して補剛しつつ、架構へのボルト接合のためのボルト挿通孔を設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、芯材にH形鋼を用いたブレース材であって、H形鋼材のフランジの外側表面に、フランジ幅と同一幅を有する、板厚面を傾斜させた補強プレートとを部分溶込み溶接することで、鋼製の柱梁架構と接合されるブレース材の材端部であっても、ブレース材中央部のフランジと同等の降伏耐力を確保できる点に着眼し、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明のブレース材は、鋼製の柱梁架構と接合されるブレース材であって、フランジとウェブとを備えるH形鋼により形成された芯材と、当該芯材の軸線方向における端部において、前記フランジの外側表面に接合された補強プレートと、を備え、前記補強プレートは、前記芯材の前記軸線方向に沿って設けられ、当該補強プレートの前記軸線方向に延在する端辺のうち前記芯材の前記フランジ側には斜めに開先加工した側面小口が設けられており、前記補強プレートは、前記側面小口と、前記フランジの前記外側表面との間において、部分溶込み溶接で接合されていることを特徴とする。詳細には、補強プレートに形成される側面小口は、前記補強プレートの、前記軸線方向に延在する端辺は、前記フランジの側端面に沿って設けられ、当該端辺には、前記軸線方向に直交する幅方向で端に向かうにつれて、前記フランジの前記外側表面からの距離が漸次大きくなるように傾斜表面が形成されている。
上記のような構成においては、ブレース材の芯材となるH形鋼の端部の、フランジの外側表面に、芯材の軸線方向に沿って、補強プレートが接合されている。この補強プレートの、軸線方向に延在する端辺の、芯材のフランジ側には、斜めに開先加工した側面小口が設けられている。この側面小口と、フランジの外側表面との間において、部分溶込み溶接を行うことで、補強プレートがフランジに溶接される。
このように、上記のような構成においては、補強プレートを隅肉溶接ではなく部分溶け込み溶接でフランジに溶接するため、補強プレートの幅を、隅肉溶接する場合に比べると、大きくすることができる。これにより、補強プレートに設けられるボルト挿通孔のへりあきを、例えばフランジと同等の、十分な大きさに確保することが可能となる。
このようにして、ブレース材としてH形鋼を用いた場合において、補強プレートを端部に接合して補剛しつつ、架構へのボルト接合のためのボルト挿通孔を設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制することが可能となる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記補強プレートは、前記フランジと同幅である。
このような構成によれば、補強プレートが、フランジと同幅である。このため、通常なされるように、補強プレートの軸線方向に延在する端辺を、フランジの外側表面に、隅肉溶接によって溶接することはできない。しかし、側面小口と、フランジの外側表面との間において、部分溶込み溶接を行うことで、補強プレートがフランジに溶接される。
このように、上記のような構成においては、補強プレートを隅肉溶接ではなく部分溶け込み溶接でフランジに溶接するため、補強プレートの幅を、隅肉溶接する場合に比べると、大きく、フランジと同幅とすることができる。これにより、補強プレートに設けられるボルト挿通孔のへりあきを、フランジと同等の、十分な大きさに確保することが可能となる。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明のブレース材は、前記芯材の中間部を外方から覆うように設けられる、筒状の外側鋼材と、前記外側鋼材と前記芯材との間に設けられたセメント系充填部と、を備える座屈補剛部を、更に備える。
このような構成によれば、ブレース材が、筒状の外側鋼材と、セメント系充填部とを備える座屈補剛部を更に備えることで、芯材の座屈を抑えることができる、いわゆる座屈拘束ブレースが構成される。このような座屈拘束ブレースにおいても、ブレース材の芯材となるH形鋼の端部の、フランジの外側表面に、補強プレートを接合することで、補強プレートを端部に接合して補剛しつつ、架構へのボルト接合のためのボルト挿通孔を設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制することが可能となる。
【0010】
本発明の一態様においては、前記補強プレートの、前記軸線方向において前記芯材の中央部側に位置する、前記軸線方向に直交する幅方向に延在する端縁は、前記フランジの前記外側表面との間において、隅肉溶接で接合されている。
このような構成によれば、補強プレートは、軸線方向に延在する端辺が、フランジに対して部分溶込み溶接されるとともに、軸線方向において芯材の中央部側に位置する、幅方向に延在する端縁が、フランジに対して隅肉溶接されることで、フランジに接合されている。このため、補強プレートを、より強固に、フランジに接合することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブレース材としてH形鋼を用いた場合において、補強プレートを端部に接合して補剛しつつ、架構へのボルト接合のためのボルト挿通孔を設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るブレース材が接合された柱梁架構の構成を示す図である。
【
図2】ブレース材の端部とブラケットとの接合部を示す図である。
【
図3】ブレース材とブラケットとの接合部の拡大図である。
【
図6】補強プレートを、隅肉溶接により芯材のフランジに溶接した場合の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態の第1変形例に係るブレース材の端部とブラケットとの接合部を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態の第2変形例に係るブレース材が接合された柱梁架構の構成を示す図である。
【
図9】上記第2変形例に係る座屈拘束ブレースの、軸線方向を含む平面による軸方向断面図である。
【
図11】ブレース材の解析に用いた有限要素解析モデルを示す図である。
【
図12】継手位置に補強プレートを設けたH形断面筋かい材に単調引張荷重を作用させる有限要素解析結果についての、フランジと補強プレート周辺の塑性化状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、鋼製の柱梁架構と接合される、芯材にH形鋼を用いたブレース材である。ブレース材では、H形鋼材のフランジの外側表面に、フランジ幅と同一幅を有する、板厚面を傾斜させた補強プレートを設置し、フランジの外側表面と補強プレートの傾斜表面とが部分溶込み溶接で接合されている。
以下、添付図面を参照して、本発明によるブレース材を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係るブレース材が接合された柱梁架構の構成を示す図を
図1に示す。
図2は、ブレース材の端部とブラケットとの接合部を示す図である。
図3は、ブレース材とブラケットとの接合部の拡大図である。
図4は、ブレース材の端部を示す平面図である。
図5は、
図3のI-I矢視断面図である。
図1に示されるように、建築構造物の躯体を構成する柱梁架構10は、鋼製で、柱20と、梁30と、を備えている。
【0014】
図1、
図2に示されるように、柱20は、鉛直方向に延びている。柱20は、水平方向に間隔をあけて複数本設けられている。各柱20は、例えば鉄骨造であり、水平方向に間隔をあけて配置された一対の柱フランジ21と、一対の柱フランジ21の間に、これら一対の柱フランジ21に垂直に接合されて、一対の柱フランジ21どうしを連結するように設けられたウェブ23と、を備えている。一対の柱フランジ21の一方が、柱梁架構10の内側の空間に面するように、柱20は姿勢づけられている。
梁30は、水平方向に延び、互いに隣り合う柱20どうしの間に架設されている。本実施形態において、梁30は、H形断面を有した鉄骨造であり、鉛直方向に間隔をあけて配置された上下の梁フランジ31、32と、上下の梁フランジ31、32の間に、これら上下の梁フランジ31、32に垂直に接合されて、上下の梁フランジ31、32を連結するように設けられたウェブ33と、を備えている。下方の梁30Aにおいては上側に位置する梁フランジ31が、上方の梁30Bにおいては下側に位置する梁フランジ32が、それぞれ、柱梁架構10の内側の空間に面するように、梁30は姿勢づけられている。
【0015】
このような柱梁架構10に対し、ブレース材40Aが接合されている。
図4に示されるように、ブレース材40Aは、芯材45と、補強プレート48A、48Bと、を備えている。
図2に示されるように、芯材45は、柱20の延伸方向、及び梁30の延伸方向を含む鉛直面内で、斜めに延びている。芯材45は、H形断面を有した鋼材、いわゆるH型鋼からなる。芯材45は、上側のフランジ41と、下側のフランジ42と、フランジ41、42の間に、これらフランジ41、42に垂直に接合されて、フランジ41、42を連結するように設けられたウェブ43と、を有している。
【0016】
芯材45の軸線方向Cにおける一方の端部45sは、ブラケット50を介して、一方の柱20Aと、下方の梁30Aの、一方の柱20A側の端部30sとの接合部J1に接合されている。
図1に示されるように、芯材45の軸線方向Cにおける他方の端部45tは、ブラケット50を介して、他方の柱20Bと、上方の梁30Bの、他方の柱20B側の他端部30tとの接合部J2に接合されている。ここで、以下の説明においては、芯材45の一方の端部45sと、接合部J1に設けられたブラケット50との接続構造について説明する。芯材45の他方の端部45tと、接合部J2に設けられたブラケット50との接続構造は、芯材45の一方の端部45sと、接合部J1に設けられたブラケット50との接続構造と同様であるので、その説明を省略する。
【0017】
図3に示されるように、補強プレート48A、48Bは、芯材45の端部45sにおいて、フランジ41、42の、ウェブ43とは反対側に位置する表面である外側表面41f、42fに接合されている。補強プレート48A、48Bは、鋼板からなり、
図4に示すように、その板厚方向から見た際に長方形をなしている。補強プレート48A、48Bは、芯材45の軸線方向Cに所定の長さを有している。
図3~
図5に示すように、一方の補強プレート48Aは、幅方向Wの両側に、芯材45の軸線方向Cに延在する一対の端辺48aを有している。一対の端辺48aの各々は、フランジ41の側端面41sに沿って設けられている。特に、本実施形態においては、一対の端辺48aは、フランジ41の幅方向Wの両側の側端面41sと、幅方向Wで同一位置に配置されている。つまり、本実施形態においては、補強プレート48Aは、芯材45の軸線方向Cに直交する幅方向Wにおける幅寸法W1が、フランジ41の幅寸法W2と同一とされており、補強プレート48Aは、フランジ41と同幅となるように、形成されている。
このように、補強プレート48Aは、芯材45の軸線方向Cに沿って設けられている。
【0018】
図5に示されるように、補強プレート48Aの一対の端辺48aには、それぞれ、軸線方向Cに直交する幅方向Wで、外側に、すなわち補強プレート48Aの端に向かうにつれて、フランジ41の外側表面41fからの距離が漸次大きくなるように、傾斜表面48sが形成されている。傾斜表面48sは、
図5のように断面視したときに、補強プレート48Aの、フランジ41の外側表面41fに当接している表面48cと、端辺48aとが直交することにより形成される角部が、斜めに切り落とされるように、形成されている。傾斜表面48sは、フランジ41の外側表面41fに当接している表面48cと傾斜表面48sとにより形成される角部48dが、後に説明する、補強プレート48Aに設けられるボルト挿通孔48hよりも、幅方向Wにおいて外側に、すなわち端辺48a側に位置するように、形成されている。
上記のような傾斜表面48sが形成されることにより、補強プレート48Aの各端辺48aとフランジ41の外側表面41fとの間には、いわゆるレ型開先が形成されている。そして、補強プレート48Aは、傾斜表面48sと、フランジ41の外側表面41fとの間において、部分溶込み溶接からなる溶接部Wr1により、接合されている。
このように、補強プレート48Aの軸線方向Cに延在する端辺48aの、フランジ41側、すなわち
図5における下側には、傾斜表面48sが、斜めに開先加工した側面小口48sとして、設けられており、補強プレート48Aは、この側面小口(傾斜表面)48sと、フランジ41の外側表面41fとの間において、部分溶込み溶接で接合されている。
【0019】
他方のフランジ42の側においても、他方の補強プレート48Bが、補強プレート48Aと同様に接合されている。
他方の補強プレート48Bは、幅方向Wの両側に、芯材45の軸線方向Cに延在する一対の端辺48aを有している。一対の端辺48aの各々は、フランジ42の側端面42sに沿って設けられている。特に、本実施形態においては、一対の端辺48aは、フランジ42の幅方向Wの両側の側端面42sと、幅方向Wで同一位置に配置されている。つまり、本実施形態においては、補強プレート48Bは、芯材45の軸線方向Cに直交する幅方向Wにおける幅寸法が、フランジ41の幅寸法と同一とされており、補強プレート48Bは、フランジ42と同幅となるように、形成されている。
このように、補強プレート48Bは、芯材45の軸線方向Cに沿って設けられている。
【0020】
図5に示されるように、補強プレート48Bの一対の端辺48aには、それぞれ、軸線方向Cに直交する幅方向Wで、外側に、すなわち補強プレート48Bの端に向かうにつれて、フランジ42の外側表面42fからの距離が漸次大きくなるように、傾斜表面48sが形成されている。傾斜表面48sは、
図5のように断面視したときに、補強プレート48Bの、フランジ42の外側表面42fに当接している表面48cと、端辺48aとが直交することにより形成される角部が、斜めに切り落とされるように、形成されている。傾斜表面48sは、フランジ42の外側表面42fに当接している表面48cと傾斜表面48sとにより形成される角部48dが、後に説明する、補強プレート48Bに設けられるボルト挿通孔48hよりも、幅方向Wにおいて外側に、すなわち端辺48a側に位置するように、形成されている。
上記のような傾斜表面48sが形成されることにより、補強プレート48Bの各端辺48aとフランジ42の外側表面42fとの間には、いわゆるレ型開先が形成されている。そして、補強プレート48Bは、傾斜表面48sと、フランジ42の外側表面42fとの間において、部分溶込み溶接からなる溶接部Wr1により、接合されている。
このように、補強プレート48Bの軸線方向Cに延在する端辺48aの、フランジ42側、すなわち
図5における上側には、傾斜表面48sが、斜めに開先加工した側面小口48sとして、設けられており、補強プレート48Bは、この側面小口(傾斜表面)48sと、フランジ42の外側表面42fとの間において、部分溶込み溶接で接合されている。
【0021】
また、
図3、
図4に示すように、補強プレート48A、48Bの各々において、芯材45の軸線方向Cにおいて、ブラケット50とは反対側の、芯材45の中央部側に位置する、幅方向Wに延在する端縁48bには、傾斜表面は形成されていない。端縁48bは、フランジ41、42の外側表面41f、42fに対し、垂直となるように設けられて、外側表面41f、42fとの間で、隅肉溶接からなる溶接部Wr2により溶接されている。
このような補強プレート48A、48Bの各々には、複数のボルト挿通孔48hが形成されている。ボルト挿通孔48hは、フランジ41、42の各々に設けられたボルト挿通孔41h、42hと、連通するように設けられている。
また、
図3に示すように、本実施形態において、補強プレート48A、48Bの板厚は、補強プレート48A、48Bの板厚とフランジ41、42の板厚との合計板厚が、後述するブラケット50の第1フランジ51、第2フランジ52の板厚と同じとなるように設定されている。
【0022】
図2、
図3に示すように、ブラケット50は、第1フランジ51と、第2フランジ52と、ウェブ53と、を有している。第1フランジ51は、下方の梁30Aの梁フランジ31から上方に離間して設けられている。第2フランジ52は、第1フランジ51よりも梁30A側の位置に設けられている。ブラケット50のウェブ53は、第1フランジ51と、第2フランジ52との間に、これら第1フランジ51と、第2フランジ52に垂直に接合されて、第1フランジ51と、第2フランジ52を連結するように設けられている。ブラケット50の芯材45側の端部50aは、芯材45と同一軸芯上に配置されている。
端部50aにおいて、ブラケット50は、梁30Aと同じH形断面形状を有している。ブラケット50の端部50aにおいて、第1フランジ51は、芯材45の上側のフランジ41と接合されている。端部50aにおいて、第2フランジ52は、芯材45の、梁30A側に位置する、下側のフランジ42と接合されている。端部50aにおいて、ブラケット50のウェブ53は、芯材45のウェブ43に接合されている。ウェブ53は、芯材45のウェブ43、柱20のウェブ23、及び梁30Aのウェブ33と同一面内に設けられている。
【0023】
第1フランジ51は、一方端51a側において、ブレース材40Aのフランジ41に向かって斜めに延びている。第1フランジ51の他方端51b側は、水平方向に延びている。第1フランジ51の他方端51bは、柱20Aの柱フランジ21に溶接されている。第1フランジ51は、一方端51aと他方端51bとの間に湾曲部51cを有している。第1フランジ51の湾曲部51cには、第2フランジ52側に向けて延びる第1補強リブ54が設けられている。第1補強リブ54は、ウェブ53に溶接されている。
第2フランジ52は、一方端52a側において、ブレース材40Aのフランジ42に向かって斜めに延びている。第2フランジ52の他方端52b側は、鉛直方向に延びている。第2フランジ52の他方端52bは、梁30Aの梁フランジ31に溶接されている。第2フランジ52は、一方端52aと他方端52bとの間に湾曲部52cを有している。第2フランジ52の湾曲部52cには、第1フランジ51側に向けて延びる第2補強リブ55が設けられている。第2補強リブ55は、ウェブ53に溶接されている。
ブラケット50のウェブ53の上側の端辺は、第1フランジ51に溶接されている。ブラケット50のウェブ53の、水平方向における、柱20Aとは反対側の端辺は、第2フランジ52に溶接されている。ブラケット50のウェブ53は、第2フランジ52の他方端52bよりも柱20A側の部分においては、その下側の端辺が梁30Aの梁フランジ31に溶接されている。ブラケット50のウェブ53は、第1フランジ51の他方端51bよりも梁30A側の部分においては、水平方向における、柱20A側の端辺が、柱20Aの柱フランジ21に溶接されている。
【0024】
柱20Aには、一対の柱フランジ21の間に、第1補強プレート61が設けられている。第1補強プレート61は、柱20Aの柱フランジ21に対してブラケット50の第1フランジ51が溶接された位置において、一対の柱フランジ21の間で水平方向に延在している。この第1補強プレート61は、柱20Aの一対の柱フランジ21を水平方向に連結している。
梁30Aには、上下の梁フランジ31、32の間に、第2補強プレート62が設けられている。第2補強プレート62は、梁30Aの梁フランジ31に対してブラケット50の第2フランジ52が溶接された位置において、上下の梁フランジ31、32の間で鉛直方向に延在している。この第2補強プレート62は、梁30Aの上下の梁フランジ31、32を鉛直方向に連結している。
【0025】
図2、
図3、
図5に示すように、ブレース材40Aの軸線方向Cの両端部は、ブラケット50に対し、スプライスプレート70A~70Eを介してボルト接合されている。
スプライスプレート70Aは、芯材45の端部45sにおいて、フランジ41の外側表面41fに接合された補強プレート48Aの外表面48fと、第1フランジ51の外側表面51fとに、跨がって沿うように設けられている。
スプライスプレート70Bは、芯材45の端部45sにおいて、フランジ41の、外側表面41fとは反対側の内側表面41gと、第1フランジ51の、外側表面51fとは反対側の内側表面51gとに、跨がって沿うように設けられている。
スプライスプレート70A、70Bの各々には、フランジ41と補強プレート48Aのボルト挿通孔41h、48hに対応する位置に、ボルト挿通孔70hが設けられている。これらのボルト挿通孔41h、48h、70hを挿通するように、高力ボルト100が設けられ、トルク管理して緊締されることにより、スプライスプレート70A、70Bと、ブレース材40Aが、摩擦接合されている。
ブラケット50側においても同様に、スプライスプレート70A、70Bと、ブラケット50が、高力ボルト100によって摩擦接合されている。
【0026】
スプライスプレート70Cは、芯材45の端部45sにおいて、フランジ42の外側表面42fに接合された補強プレート48Bの外表面48fと、第2フランジ52の外側表面52fとに、跨がって沿うように設けられている。
スプライスプレート70Dは、芯材45の端部45sにおいて、フランジ42の、外側表面42fとは反対側の内側表面42gと、第2フランジ52の、外側表面52fとは反対側の内側表面52gとに、跨がって沿うように設けられている。
スプライスプレート70C、70Dの各々には、フランジ42と補強プレート48Bのボルト挿通孔42h、48hに対応する位置に、ボルト挿通孔70hが設けられている。これらのボルト挿通孔42h、48h、70hを挿通するように、高力ボルト100が設けられ、トルク管理して緊締されることにより、スプライスプレート70C、70Dと、ブレース材40Aが、摩擦接合されている。
ブラケット50側においても同様に、スプライスプレート70C、70Dと、ブラケット50が、高力ボルト100によって摩擦接合されている。
【0027】
スプライスプレート70Eは、芯材45のウェブ43、及びブラケット50のウェブ53の両側に設けられている。各スプライスプレート70Eは、芯材45の端部45sにおいて、ウェブ43の幅方向Wの両側の側面43fと、ウェブ53の幅方向Wの両側の側面53fとに跨がって沿うように設けられている。
両側のスプライスプレート70Eは、高力ボルト100により、芯材45のウェブ43と、ブラケット50のウェブ53とに、それぞれ接合されている。
【0028】
図6は、補強プレートを、隅肉溶接により芯材のフランジに溶接した場合の断面図である。
図6に示すように、通常、補強プレート48をフランジ41、42の外側表面41f、42fに接合する場合、補強プレート48の幅方向Wの両側の側辺48pは、フランジ41、42の外側表面41f、42fに、隅肉溶接によって溶接する。このため、補強プレート48の幅寸法W3は、少なくとも隅肉溶接による溶接部Wxのビード幅(の2倍)の分だけ、フランジ41、42の幅寸法W2よりも小さくする必要がある。したがって、ボルト挿通孔から部材端までの最小距離であるへりあきが、軸線方向Cではなく幅方向Wである場合において、補強プレート48のへりあきの寸法E2は、フランジ41、42のへりあきの寸法E1よりも、少なくとも溶接部Wxのビード幅の分だけ、小さくなってしまう。このため、例えばフランジ41、42の幅が小さく、フランジ41、42のへりあきの寸法E1が、高力ボルト100が十分な耐力を発揮する前に、へりあき部分で早期に破断が生じないための最小寸法ぎりぎりであるような場合においては、補強プレート48のへりあきの寸法E2は、この最小寸法より小さくなることがある。このような場合においては、補強プレート48の高力ボルト100周辺に応力が集中すると、補強プレート48のへりあき部分がこの応力に抗することができず、破断する可能性がある。
【0029】
これに対し、本実施形態のブレース材40Aにおいては、補強プレート48A、48Bに傾斜表面(側面小口)48sを設けてフランジ41、42との間にレ型開先を形成し、この部分で部分溶込み溶接を行うことで、補強プレート48A、48Bをフランジ41、42に接合している。このように、本実施形態においては、芯材45の軸線方向Cに延在する一対の端辺48aは、隅肉溶接によって溶接されないため、補強プレート48A、48Bを平面視したときの、補強プレート48A、48Bの端辺48aと、フランジ41、42の側端面41s、42sとの間の距離を、補強プレート48A、48Bをフランジ41、42に隅肉溶接する際に必要となるビード幅より小さくして、一対の端辺48aの各々を、フランジ41、42の側端面41s、42sに沿うように、設けることが可能となる。特に、本実施形態においては、補強プレート48A、48Bは、フランジ41、42と同幅となるように、形成されている。このため、
図5に示される、補強プレート48A、48Bのへりあきの寸法E3は、フランジ41、42のへりあきの寸法E1と同等となる。これにより、仮に、フランジ41、42の幅が小さく、フランジ41、42のへりあきの寸法E1が、高力ボルト100が十分な耐力を発揮する前に、へりあき部分で早期に破断が生じないための最小寸法ぎりぎりであるような場合においても、補強プレート48のへりあきの寸法E3が、この最小寸法より小さくなることが抑制される。したがって、補強プレート48の高力ボルト100周辺に応力が集中しても、補強プレート48のへりあき部分がこの応力に抗することが可能となり、破断が抑制される。
【0030】
上述したようなブレース材40Aは、鋼製の柱梁架構10と接合されるブレース材40Aであって、フランジ41、42とウェブ43とを備えるH形鋼により形成された芯材45と、芯材45の軸線方向Cにおける端部45sにおいて、フランジ41、42の外側表面41f、42fに接合された補強プレート48A、48Bと、を備え、補強プレート48A、48Bは、芯材45の軸線方向Cに沿って設けられ、補強プレート48A、48Bの軸線方向Cに延在する端辺48aのうち芯材45のフランジ41、42側には斜めに開先加工した側面小口(傾斜表面)48sが設けられており、補強プレート48A、48Bは、側面小口(傾斜表面)48sと、フランジ41、42の外側表面41f、42fとの間において、部分溶込み溶接で接合されている。
このような構成によれば、ブレース材40Aの芯材45となるH形鋼の端部45sの、フランジ41、42の外側表面41f、42fに、芯材45の軸線方向Cに沿って、補強プレート48A、48Bが接合されている。この補強プレート48A、48Bの、軸線方向Cに延在する端辺48aの、芯材45のフランジ41、42側には、斜めに開先加工した側面小口(傾斜表面)48sが設けられている。この側面小口48sと、フランジ41、42の外側表面41f、42fとの間において、部分溶込み溶接を行うことで、補強プレート48A、48Bがフランジ41、42に溶接される。
このように、上記のような構成においては、補強プレート48A、48Bを隅肉溶接ではなく部分溶け込み溶接でフランジ41、42に溶接するため、補強プレート48A、48Bの幅を、隅肉溶接する場合に比べると、大きくすることができる。これにより、補強プレート48A、48Bに設けられるボルト挿通孔48hのへりあきを、例えばフランジ41、42と同等の、十分な大きさに確保することが可能となる。
このようにして、ブレース材40AとしてH形鋼を用いた場合において、補強プレート48A、48Bを端部に接合して補剛しつつ、柱梁架構10へのボルト接合のためのボルト挿通孔48hを設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制することが可能となる。
【0031】
また、補強プレート48A、48Bを平面視したときの、補強プレート48A、48Bの、軸線方向Cに延在する端辺48aと、フランジ41、42の側端面41s、42sとの間の距離は、補強プレート48A、48Bに側面小口(傾斜表面)48sが設けられない場合に、補強プレート48A、48Bをフランジ41、42に隅肉溶接する際に必要となるビード幅より小さい。更に、フランジ41、42と補強プレート48A、48Bには、互いに挿通するようにボルト挿通孔41h、42h、48hが設けられている。
特に、本実施形態においては、補強プレート48A、48Bは、フランジ41、42と同幅である。すなわち、本実施形態においては、補強プレート48A、48Bを平面視したときの、補強プレート48A、48Bの、軸線方向Cに延在する端辺48aと、フランジ41、42の側端面41s、42sとの間の距離は、ゼロとなっている。
このような構成によれば、補強プレート48A、48Bが、フランジ41、42と同幅である。このため、通常なされるように、補強プレート48A、48Bの軸線方向Cに延在する端辺48aを、フランジ41、42の外側表面41f、42fに、隅肉溶接によって溶接することはできない。しかし、側面小口(傾斜表面)48sと、フランジ41、42の外側表面41f、42fとの間において、部分溶込み溶接を行うことで、補強プレート48A、48Bがフランジ41、42に溶接される。
このように、上記のような構成においては、補強プレート48A、48Bを隅肉溶接ではなく部分溶け込み溶接でフランジ41、42に溶接するため、補強プレート48A、48Bの幅を、隅肉溶接する場合に比べると、大きく、フランジ41、42と同幅とすることができる。これにより、補強プレート48A、48Bに設けられるボルト挿通孔48hのへりあきを、フランジ41、42と同等の、十分な大きさに確保することが可能となる。
【0032】
特に、本実施形態においては、補強プレート48A、48Bの、軸線方向Cに延在する端辺48aは、フランジ41、42の側端面41s、42sに沿って設けられ、側面小口48sは、当該端辺48aに、軸線方向Cに直交する幅方向Wで端に向かうにつれて、フランジ41、42の外側表面41f、42fからの距離が漸次大きくなるように形成された、傾斜表面48sである。
このような構成によれば、ブレース材40Aを適切に実現可能である。
【0033】
また、補強プレート48A、48Bの、軸線方向Cにおいて芯材45の中央部側に位置する、軸線方向Cに直交する幅方向Wに延在する端縁48bは、フランジ41、42の外側表面41f、42fとの間において、隅肉溶接で接合されている。
このような構成によれば、補強プレート48A、48Bは、軸線方向Cに延在する端辺48aが、フランジ41、42に対して部分溶込み溶接されるとともに、軸線方向Cにおいて芯材45の中央部側に位置する、幅方向Wに延在する端縁48bが、フランジ41、42に対して隅肉溶接されることで、フランジ41、42に接合されている。このため、補強プレート48A、48Bを、より強固に、フランジ41、42に接合することができる。
【0034】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明のブレース材は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、芯材45の端部45sに補強プレート48A、48Bを設け、補強プレート48A、48Bの板厚とフランジ41、42の板厚との合計板厚が、ブラケット50の第1フランジ51、第2フランジ52の板厚と同じとなるようにしたが、これに限らない。
例えば、
図7に示すように、芯材45の端部45sのフランジ41、42の板厚と、ブラケット50の第1フランジ51、第2フランジ52の板厚とを同一寸法とし、芯材45の端部45sのフランジ41、42の外側表面41f、42fと、ブラケット50の第1フランジ51、第2フランジ52の外側表面51f、52fとの双方に、それぞれ、同じ板厚の補強プレート48A、48Bを設けるようにしてもよい。
【0035】
この場合、ブラケット50の第1フランジ51に接合される補強プレート48Aには、芯材45のフランジ41に接合される補強プレート48Aと同様に、側面小口(傾斜表面)48sを形成し、補強プレート48Aを、側面小口48sと、第1フランジ51の外側表面51fとの間において、部分溶込み溶接からなる溶接部Wr1により、接合するようにしてもよい。
同様に、ブラケット50の第2フランジ52に接合される補強プレート48Bには、芯材45のフランジ42に接合される補強プレート48Bと同様に、側面小口(傾斜表面)48sを形成し、補強プレート48Bを、側面小口48sと、第2フランジ52の外側表面52fとの間において、部分溶込み溶接からなる溶接部Wr1により、接合するようにしてもよい。
【0036】
スプライスプレート70Aは、芯材45の端部45sにおいて、フランジ41の外側表面41fに接合された補強プレート48Aの外表面48fと、第1フランジ51の外側表面51fに接合された補強プレート48Aの外表面48fとに跨がって沿うように設けられる。スプライスプレート70Cは、芯材45の端部45sにおいて、フランジ42の外側表面42fに接合された補強プレート48Bの外表面48fと、第2フランジ52の外側表面52fに接合された補強プレート48Bの外表面48fと、に跨がって沿うように設けられる。
【0037】
(実施形態の第2変形例)
また、ブレース材は、座屈拘束ブレースであってもよい。
図8は、ブレース材が接合された柱梁架構の構成を示す図である。
図9は、座屈拘束ブレースの、軸線方向を含む平面による軸方向断面図である。
図10は、
図9のII-II矢視断面図である。
図8に示すように、本変形例における、ブレース材40Bは、芯材45と、座屈補剛部81と、を備える座屈拘束ブレース80である。ブレース材40Bは、柱梁架構10に接合されている。
図9、
図10に示されるように、座屈補剛部81は、座屈拘束ブレース80の軸線方向Cに直交する方向において外側から、芯材45を覆うように設けられている。座屈補剛部81は、外側鋼材82と、セメント系充填部85と、を備えている。
【0038】
外側鋼材82は、芯材45の中間部45cを外方から覆うように設けられている。外側鋼材82は、筒状を成すように形成されている。本実施形態においては、外側鋼材82は、
図10に示されるように、軸線方向Cに直交する平面で断面視したときに、矩形形状となるように形成されている。外側鋼材82は、角部が僅かに湾曲するように形成されている。しかしながら、外側鋼材82は、溶接で組み立てられる矩形形状の断面に限定することなく、角部を湾曲させない筒形状であってもよい。
また、本実施形態においては、外側鋼材82は、鋼管である。あるいは、外側鋼材82は、軸線方向Cに直交する平面で断面視したときに、長辺と、当該長辺の両端から同一方向に突出するように形成された短辺を備えることでC形状となるように形成された、溝形の鋼材を2つ、短辺の先端が互いに対向して接するように設けて接合することで、筒状となるように形成されていても構わない。または、外側鋼材82は、4枚の鋼板を角形状に組立てて溶接してもよい。
図9に示されるように、外側鋼材82は、軸線方向Cにおいて、芯材45より短い長さとなるように形成されている。芯材45の軸線方向Cの端部45s、45tは、外側鋼材82の端部から軸線方向Cの両側に突出している。芯材45は、この突出した端部45s、45tにおいて、上記実施形態と同様な態様で、柱梁架構10に設けられたブラケット50に接合されている。
【0039】
セメント系充填部85は、外側鋼材82の内側に、コンクリートやモルタルなどのセメント系の材料が充填されることによって形成されている。後に説明するように、芯材45の表面には、変形吸収層87が設けられる。セメント系充填部85は、外側鋼材82の内側の表面と、変形吸収層87の表面との間を充填するように設けられている。
地震が生じて芯材45に圧縮力が作用した場合には、芯材45(の変形吸収層87)に接してこれを外側から囲うように設けられているセメント系充填部85、及びこのセメント系充填部85を更に外側から囲って設けられている外側鋼材82によって、芯材45の座屈が抑制される。これにより、引張力が作用した場合と同様に、芯材45に圧縮力が作用した場合においても、芯材45の靭性が安定して発揮され、芯材45が収縮することで、地震エネルギーを吸収する。
【0040】
座屈補剛部81は、芯材45に対して、例えば軸線方向Cの1か所に設けられた接合部85cにより接合されている。本実施形態においては、座屈補剛部81は、軸線方向Cにおける中央において、芯材45に固定されている。これに替えて、座屈補剛部81は、軸線方向Cにおける端部の位置で、芯材45に固定されるように設けられてもよい。
本実施形態においては、セメント系充填部85の一部が芯材45に向けて部分的に突出して芯材45に接触し、セメント系材料が芯材45に付着することにより、接合部85cが形成されている。
地震が生じて芯材45に引張力や圧縮力が作用し、芯材45が伸長、収縮する際に、芯材45は、座屈補剛部81(のセメント系充填部85)に対し、表面が相対移動しようとするが、座屈補剛部81は芯材45に対して1か所の接合部85cのみにおいて接合されているため、座屈補剛部81によっては、この相対移動は阻害されない。
【0041】
座屈拘束ブレース80は、変形吸収層87を備えている。変形吸収層87は、芯材45とセメント系充填部85の間に設けられている。
変形吸収層87は、芯材45の表面に接合して設けられている。変形吸収層87は、粘弾性材料で形成され、芯材45の表面に貼り付けられている。本実施形態においては、変形吸収層87は、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム等の、ゴム系粘着剤により形成されている。
地震が生じて芯材45に圧縮力が作用し、芯材45が収縮すると、芯材45はポアソン効果により、軸線方向Cに直交する幅方向W(弱軸方向)だけでなく、せい方向(強軸方向)を含む芯材全周面に対して面外方向に膨張して、断面積が増加する。これにより、変形吸収層87は、芯材45の表面とセメント系充填部85の間に挟まれて圧縮されるが、変形吸収層87は、上記のように粘弾性材料で形成されているために容易に変形して、芯材45の変形を吸収する。
【0042】
このような座屈拘束ブレース80において、芯材45の端部45s、45tの、フランジ41、42の外側表面に、補強プレート48A、48Bが接合されている。
図5に示すように、補強プレート48A、48Bは、芯材45の軸線方向Cに沿って設けられ、補強プレート48A、48Bの軸線方向Cに延在する端辺48aのうち芯材45のフランジ41、42側には斜めに開先加工した側面小口(傾斜表面)48sが設けられている。この側面小口(傾斜表面)48sと、フランジ41、42の外側表面41f、42fとの間において、部分溶込み溶接を行うことで、補強プレート48A、48Bがフランジ41、42に溶接されている。
上記のような構成においても、補強プレート48A、48Bを隅肉溶接ではなく部分溶け込み溶接でフランジ41、42に溶接するため、補強プレート48A、48Bの幅を、隅肉溶接する場合に比べると、大きくすることができる。これにより、補強プレート48A、48Bに設けられるボルト挿通孔のへりあきを、例えばフランジ41、42と同等の、十分な大きさに確保することが可能となる。
【0043】
本変形例においては、ブレース材40Bは、芯材45の中間部45cを外方から覆うように設けられる、筒状の外側鋼材82と、外側鋼材82と芯材45との間に設けられたセメント系充填部85と、を備える座屈補剛部81を、更に備える。
このような構成によれば、ブレース材40Bが、筒状の外側鋼材82と、セメント系充填部85とを備える座屈補剛部81を更に備えることで、芯材45の座屈を抑えることができる、いわゆる座屈拘束ブレースが構成される。このような座屈拘束ブレースにおいても、ブレース材40Bの芯材45となるH形鋼の端部45s、45tの、フランジ41、42の外側表面41f、42fに、補強プレート48A、48Bを接合することで、補強プレート48A、48Bを端部に接合して補剛しつつ、架構へのボルト接合のためのボルト挿通孔を設けた場合における、へりあき部分での破断を効率的に抑制することが可能となる。
【0044】
(実施形態の他の変形例)
補強プレート48A、48Bの、軸線方向Cに延在する端辺48aは、フランジ41、42の側端面41s、42sに沿って設けられていれば、補強プレート48A、48Bが、フランジ41、42と同幅となるように形成されていなくても構わない。例えば、補強プレート48A、48Bを平面視したときの、補強プレート48A、48Bの、軸線方向Cに延在する端辺48aと、フランジ41、42の側端面41s、42sとの間の距離が、補強プレート48A、48Bに側面小口48sが設けられない場合に、補強プレート48A、48Bをフランジ41、42に隅肉溶接する際に必要となるビード幅より小さくなる程度に、フランジ41、42の端辺48aが、側端面42sの近傍、例えば幅方向Wで側端面42sよりもわずかに内側に位置するように、補強プレート48A、48Bが形成されていても構わない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0045】
(解析例)
上記したようなブレース材について、効果を確認するための解析を行ったので、その結果を以下に示す。
図11は、解析に用いた有限要素解析モデルを示す図である。
図11に示すように、有限要素解析モデルM1では、芯材45のフランジ41、42と同幅の補強プレート48A、48Bを設け、継手部は材軸方向に1/2モデルとした。各溶接面は節点共有により結合し、その他の接触面では摩擦力(摩擦係数0.45)を考慮した。また、高力ボルト100には設計ボルト軸力を導入した。各要素の材料特性は、弾性体の高力ボルト100を除いていずれも325(N/mm
2)を降伏応力とする完全弾塑性型の応力-ひずみ関係により定めた。
図12は、継手位置に補強プレートを設けたH形断面筋かい材に単調引張荷重を作用させる有限要素解析結果についての、フランジと補強プレート周辺の塑性化状態を示す図である。この
図12においては、軸線方向Cにおいて補強プレート48A、48Bよりも内側に位置して、補強プレート48A、48Bが設けられていない、芯材45の部分が降伏要素P1となっている。このように、筋かい材の降伏に先行してボルト孔の断面欠損に起因する継手部の早期降伏は生じておらず、H形断面の保有軸性能が十分に発揮されていることが確認できる。
【符号の説明】
【0046】
10 柱梁架構 48a 端辺
40A、40B ブレース材 48b 端縁
41、42 フランジ 48s 傾斜表面(側面小口)
41f、42f 外側表面 81 座屈補剛部
41s、42s 側端面 82 外側鋼材
43 ウェブ 85 セメント系充填部
45 芯材 C 軸線方向
45c 中間部 W 幅方向
45s、45t 端部 Wr1 部分溶込み溶接からなる溶接部
48A、48B 補強プレート Wr2 隅肉溶接からなる溶接部