IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日建設計の特許一覧

<>
  • 特開-耐力壁 図1
  • 特開-耐力壁 図2
  • 特開-耐力壁 図3
  • 特開-耐力壁 図4
  • 特開-耐力壁 図5
  • 特開-耐力壁 図6
  • 特開-耐力壁 図7
  • 特開-耐力壁 図8
  • 特開-耐力壁 図9
  • 特開-耐力壁 図10
  • 特開-耐力壁 図11
  • 特開-耐力壁 図12
  • 特開-耐力壁 図13
  • 特開-耐力壁 図14
  • 特開-耐力壁 図15
  • 特開-耐力壁 図16
  • 特開-耐力壁 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179061
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】耐力壁
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
E04B2/56 632H
E04B2/56 604F
E04B2/56 643A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097568
(22)【出願日】2023-06-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1)発行日 令和4年(2022)年10月17日 刊行物名 建築技術11月号(通巻第874号)、第138~143頁 発行元 株式会社建築技術 2)発行日 令和4年(2022)年12月31日 刊行物名 Journal of Timber Engineering 156,Vol.35 No,4、第159~164頁 発行元 木質構造研究会
(71)【出願人】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 勝英
(72)【発明者】
【氏名】角野 大介
(72)【発明者】
【氏名】上杉 周平
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002EA01
2E002FA02
2E002FA06
2E002FA07
2E002FB07
2E002JA01
2E002JA02
2E002JA03
2E002JB01
2E002JB02
2E002LC01
2E002LC04
2E002MA12
(57)【要約】
【課題】引張り及び圧縮に対し高い抵抗を示し、かつ靱性が高い耐力壁を提供する。
【解決手段】基礎部材1と、その上部の支承面1aに対して設けられたCLT2と、これらの間に介在された上下に延在する連結部材10とを含み、前記支承面支承面1aより上方における前記連結部材10の一方側はCLT2の外周面から内部側に挿入されて前記CLT2と連結されており、前記支承面1aより下方における前記連結部材10の他方側は、前記基礎部材1の下方における固定部1Bに対して、上方及び下方への移動不能に固定されており、前記支承面1aと前記固定部1Bとの間は、アンボンド区間とされている。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎部材と、その上部の支承面に対して設けられたCLTと、これらの間に介在された上下に延在する連結部材とを含み、
前記支承面より上方における前記連結部材の一方側はCLTの外周面から内部側に挿入されて前記CLTと連結されており、
前記支承面より下方における前記連結部材の他方側は、前記基礎部材の下方における固定部に対して、上方及び下方への移動不能に固定されており、
前記支承面と前記固定部との間は、アンボンド区間とされている、
ことを特徴とする耐力壁。
【請求項2】
前記アンボンド区間において、前記連結部材の外周囲面を拘束する水平プレート部が、前記基礎部材に設けられている請求項1記載の耐力壁。
【請求項3】
前記支承面と前記固定部との間における、前記連結部材の他方側を構成する両端部間の軸部が、引張力が作用したとき前記両端部より先行降伏するネジロッドとなっている請求項1記載の耐力壁。
【請求項4】
前記連結部材の一方側における、CLTの外周面から内部側への挿入端部の周囲に、金属製の補強リングが、前記CLTの外周面から挿入されている請求項1記載の耐力壁。
【請求項5】
前記連結部材は、上側の異形棒鋼と、継手部と、下側に位置し両端部にねじ部を有するネジロッドとを含んでおり、
前記異形棒鋼と前記継手部は一体化され、
前記ネジロッドの上部のねじ部は前記継手部内に螺入され、
前記ネジロッドの下部のねじ部は、前記基礎部材の下方における前記固定部を貫通し、その固定部の上下面を挟んでナットで固定されている、
請求項1記載の耐力壁。
【請求項6】
前記連結部材は、上側の異形棒鋼と、下側に位置し両端部にねじ部を有するネジロッドとを含んでおり、
前記異形棒鋼の下端部には下方に開口する雌ネジ孔を有する継手部を有し、
前記ネジロッドの上部のねじ部が前記継手部内に螺入され、
前記ネジロッドの下部のねじ部は、前記基礎部材の下方における前記固定部を貫通し、その固定部の上下面を挟んでナットで固定されている、
請求項1記載の耐力壁。
【請求項7】
前記連結部材の一方側には、上側に異形棒鋼部を有し、CLTの外周面から内部側に延在する挿入孔に遊び空間をもって挿入されており、前記遊び空間に樹脂が充填されて、前記CLTと連結されている、請求項1記載の耐力壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CLTを有する耐力壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりに伴って、木質材の利用の指向の高まりがある。
直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)や集成材などからなる構造木の利用が指向され、梁材又は基礎に対しても構造耐力を高めたうえでの適用も指向されている。
【0003】
CLTは、ひき板または小角材(これらをその繊維方向を互いにほぼ平行にして長さ方向に接合接着して調整したものを含む。)をその繊維方向を互いにほぼ平行にして幅方向に並べ、または接着したものを、主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして積層接着し3層以上の構造を持たせた木質板材であり、耐震・耐火性能が高いという特長がある。
【0004】
具体的に、所定の大きさのCLTを耐力壁とする提案もなされている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許7236283号公報
【特許文献2】特許6869096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの先行文献では、CLTを基礎部材に対し連結するにあたり、連結部材の端部を梁や基礎などに引張に対抗すべく片側でボルト固定するだけのものである。
したがって、CLT耐力壁が水平抵抗する際に、CLTの幅方向端部に生じる引張力に抵抗するだけの構造であるために、繰り返し水平力を受けると、引張時に生じた端部の連結部分周辺の伸びが基で、圧縮時には抵抗できない又は抵抗力が小さい。その結果、地震時のエネルギー吸収量が少ない。
このように、先行例においては、引張り及び圧縮を好適にコントロールして、例えば地震時のエネルギーを吸収するなどの発想に至らないものであった。
【0007】
したがって、本発明の主たる課題は、CLT耐力壁が水平抵抗する際に生じる引張り及び圧縮に対し高い抵抗を示し、かつ靱性が高く、エネルギー吸収能力が高い耐力壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために次の態様が提供される。
基礎部材と、その上部の支承面に対して設けられたCLTと、これらの間に介在された上下に延在する連結部材とを含み、
前記支承面より上方における前記連結部材の一方側はCLTの外周面から内部側に挿入されて前記CLTと連結されており、
前記支承面より下方における前記連結部材の他方側は、前記基礎部材の下方における固定部に対して、上方及び下方への移動不能に固定されており、
(少なくとも)前記支承面と前記固定部との間は、アンボンド区間とされている、
ことを特徴とする耐力壁。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、CLT耐力壁が水平抵抗する際に生じる引張り及び圧縮に対し高い抵抗を示し、かつ靱性が高く、エネルギー吸収能力が高い耐力壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図である。
図2】第2の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図である。
図3】第3の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図である。
図4】第4の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図である。
図5】第5の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図である。
図6】第5の実施の形態の横断平面図である。
図7】第6の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図、(c)横断平面図である。
図8】第7の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図、(c)横断平面図である。
図9】第8の実施の形態を示すもので、(a)正面図、(b)側面図、(c)横断平面図である。
図10】連結部材の分解正面図である。
図11】耐力壁を構成する第1段階の縦断面図である。
図12】第2段階の縦断面図である。
図13】第3段階の部分縦断面図である。
図14】第3段階の連結状態縦断面図である。
図15】試験状態を示す写真である。
図16】試験体のCLT下部の構成を立面として示した説明図である。
図17】加力試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例であり、本発明の範囲は本実施の形態の範囲に限定されない。
【0012】
(第1の実施の形態)
図14に模式的に部分断面で示すように、(鉄骨)基礎部材1と、その上部の支承面1aに対して設けられたCLT2と、これらの間(すなわち、基礎部材1とCLT2との間)に介在された上下に延在する連結部材10とを含み、
前記連結部材10の一方側はCLT2の外周面から内部側に挿入されて前記CLT2と連結されており、
前記支承面1aより下方における前記連結部材10の他方側は、前記基礎部材1の下方における固定部1Bに対して、上方及び下方への移動不能に固定されており、
(少なくとも)前記支承面1aと前記固定部1Bとの間は、アンボンド区間とされている、構成の耐力壁である。
【0013】
連結部材10の他方側は、基礎部材1の下方における固定部1Bに対して、上方及び下方への移動不能に固定するために、固定部1Bの下方には引張時に抵抗するためのナット11を、固定部1Bの上方には圧縮時に抵抗するナット11を、それぞれ配置することにより、上方及び下方への移動不能に固定する構造となっている。
【0014】
また、上述のアンボンド区間において、好ましくは連結部材10の外周囲面を拘束する水平プレート部1Cが、基礎部材1に設けられている。
【0015】
基礎部材1は、種々の態様をもって基体20に固定することができる。例えば、図1に示されるように、基体20としてのRCスラブ梁21に基礎部材1をアンカーボルト21aによって固定できる。
【0016】
図2に示すように、基体20としてのH形鋼22のフランジ上に基礎部材1をボルト22a固定することもできる。図3に示すように、基体20としてのH形鋼23に基礎部材1をボルト23a固定することもできる。
【0017】
連結部材10の代表例を図10図14を参照しながら説明する。
図示の連結部材10は、異形鉄筋、特に(ネジ)ふし鉄筋10A、継手部10B、ネジロッド10Cを有する。
ネジロッド10Cは、例えば両端部にねじ部10C1、10C2が形成され、その間はやや径が細くなったロッド部10C3を有する。
【0018】
ネジロッド10Cとしては、建築用アンカーボルトメーカー協議会傘下の企業から入手できる、伸び能力のある「ABRアンカー」を使用するのが望ましい。
「ABRアンカー」は、引張力に対してロッド部材が先行降伏して伸びた後に、破断する安定した鋼棒である。
【0019】
継手部10Bとしては、一般的には鉄筋同士を機械的に接合する「機械式継手」とされる接合材料一般を使用できる。
図示例の継手部10Bは、カップ状をなし、その底面とふし鉄筋10Aとが接合、例えば摩擦圧接による接合によって一体化されている。かかる摩擦圧接による接合材料自体は、例えば合同製鐵社により提供される「EGジョイント」として知られている。摩擦圧接に代えて他の一体化手段によってもよい。
【0020】
図示例の継手部10Bのカップ状内面には、雌ネジが形成された雌ネジ部10B1を有し、ねじ部10C1と螺合連結されており、これにより一体の連結部材10とされている。
図14における符号12は、後に説明する金属製、例えば鋼製の補強リングである。
【0021】
耐力壁の構築に際しては、まず図11に示すように、予めCLT2に連結部材10の挿入孔2a、及び、補強リング12の挿入孔2bを、CLT2の外周面から形成しておく。
【0022】
次に、図12に示すように、補強リング12を挿入孔2b内に挿入する。補強リング12の長さとしては、ふし鉄筋10Aの少なくとも2つ以上の節をカバーするものが望ましい。また、補強リング12の長さは100mm以内であることが、例えば施工性の観点から望ましい。
さらに、補強リング12の挿入孔2bの半径は、連結部材10の挿入孔2aの半径より10mm以上大きくし、それらの間に木質材が十分に残るようにすることが望ましい。
【0023】
その後、図13に示すように、連結部材10の一方側(上方側)を挿入孔12a内に挿入する。
【0024】
図14を参照しながら既に説明したように、連結部材10の反対側における、第1の部分10aは、基礎部材1の上側における支承面1aを構成する支承部1Aを、予め形成された貫通孔(図示せず)をごく小さな遊びをもって貫通している。
前記連結部材10の反対側の第2の部分10bは、ねじ部11C2となり、基礎部材1の下側における固定部1Bを貫通し、その固定部1Bの上下面においてナット11、11で固定され、引張及び座屈の抵抗体とされる接合である。
支承部1Aと固定部1Bとの間において、連結部材10の外周囲に近接して設けられ、連結部材10の外周面を拘束する水平プレート部1Cが、基礎部材1の要素として一体的に設けられている。
【0025】
(他の実施の形態)
木質繊維の繊維方向が層ごとに交差するように積層されて一体となった、直交集成板、CLTとしては、3層3プライ、3層4プライ、5層5プライ、5層7プライ、7層7プライ、9層9プライなどを使用できる。好ましくは5層5プライ、5層7プライのものである。
これらには、木質繊維の方向性があり、例えば図6に示す、5層7プライのものでは、両外面側の2プライ及び中央の1プライが、長手方向が強軸方向となり、長手方向端面においては弱軸方向の平行層を形成し、それらの間の両外面から3プライ目が幅方向が強軸方向となり、直交層を形成している。
【0026】
連結部材10は、引張抵抗筋としての機能を持たせるものである。そして、ネジロッド10Cのねじ部10C1と、固定部1Bとの間は、アンボンド区間とされており、主にこのアンボンド区間において、引張力が作用したとき、伸びを許容しながら、その引張抵抗筋としての靱性を発揮する。
この発想は、従来例において、例えばラグスクリューボルト(LSB)の一端部をCLT内に埋設し、他端部をCLTの下面を支持する基礎部材の背面で、直接ナット固定する従来例などにおける、靱性が発揮されない態様の考え方とは明らかに相違する。
【0027】
耐震性の観点から、せん断抵抗筋と、軸方向力抵抗要素とを併用するのが望ましい。例えばせん断抵抗要素として、基礎部材1にせん断ダボ30を固着するとともに、せん断ダボ30をCLT2内に挿入することで、せん断ダボ30にせん断抵抗力を作用させることができる。
なお、せん断ダボ30の基礎部材1への固着には、せん断ダボ30の端面を基礎部材1に溶接により固着する例を挙げることができる。
せん断抵抗要素として、従来例においてみられるように、鋼板を挿入しドリフトピンで固定する方法や、CLTの木口に孔を明けて。その孔と同形状の鋼材(ダボピン)を入れて、これを基礎部材と連結する方法などでもよい。
【0028】
引張抵抗筋とせん断抵抗要素との組み合わせとして種々のものを採用できる。
引張抵抗筋(連結部材10)は、CLT2の幅方向両端部に、せん断抵抗要素(せん断ダボ30)は引張抵抗筋の幅方向中間に設けることができる。
【0029】
また、連結部材10はCLT2の厚み方向に1個所ではなく、図1図6に示すように2個所設けることが望ましい。
さらに、連結部材10は、図1図4に示すように1個所に設けるほか、図5図9に示すように、CLT2の同一層に対して2個所以上設けることができる。
【0030】
軸方向抵抗要素としての連結部材10のCLT2への挿入対象プライとして、図6に示すように、強軸方向に挿入することが望ましい。
せん断ダボ30は、図6図9に示すように、適宜のプライに挿入することができる。
【0031】
連結部材10としては、前述の図10に示すもののほか、一般的に耐力壁に使用されるラグスクリューボルトなども使用できる。とりわけ、下端部に雌ネジ孔部を形成した継手部を有するラグスクリューボルトを使用して、前記雌ネジ孔部にネジロッド10Cを螺合連結することにより、連結部材(図示せず)を構成して、これを基礎部材に固定することで、図14に示す実施の形態と同様な軸方向抵抗要素を構成できる。
ラグスクリューボルトは、接合金物を介してアンカーロッドと連結して図14に示す実施の形態と同様なせん断抵抗筋を構成できる(ラグスクリューボルト研究会平成27年10月発行のラグスクリューボルト接合設計マニュアル参照)。
【0032】
他方、CLT2と基礎部材1との連結にあたり、継手部10Bとして、EGジョイントに代えて、例えば公知の「CSカプラー」により連結して、基礎部材1に固定することもできる。
【0033】
CLT2内に連結部材10が挿入され、引張力が作用すると、CLT2と連結部材10との境界面において、CLT2の木質繊維を破壊させ、これを起点としてCLT2に部分的な割裂を招来させる危険性がある。
特に、連結部材10の埋め込み位置として、CLT2の外面との離間距離(かぶり)が十分でないとCLT2の割裂破壊が生じる可能性がある。
【0034】
この現象に対し、補強リング12を設けると、CLT2の部分的な割裂を防止又は抑制できる。
この理由は、引張力又は圧縮力を補強リング12が分散させるためではないかと考えられる。特に、割裂は力の変化が大きい木口から発生するが、補強リング12を設けることで、補強リング12内に割裂を閉じ込めることができるようになる。
【0035】
CLT2の割裂破壊を防止するために用いる補強リング12を用いる場合には、補強リング12内に連結部材10を挿通したとき、補強リング12の長さより短く、かつ鉄筋のふし部が2山以上確保できる「EGカプラー」により一体化したものが望ましい。
【0036】
補強リング12は、連結部材10を囲むようにして、CLT2内に挿入されるものである。補強リング12の下端面は、CLT2の底面と同一か10mm程度以内で進入状態にあるものであってもよい。
【0037】
さらにCLTの割裂を確実に解消又は抑制するには、補強リング12に近い部分において、例えば図7図9に示すように、連結部材10の外側を囲むように3次元的に斜めになるように、複数のビス50をCLT2内に打ち込むことができる。ビス50としては、例えばシネジック株式会社から提供される「パネリード」を使用できる。
【0038】
なお、図13及び図14に示すように、ふし鉄筋10Aと挿入孔2aとの間に、樹脂を、例えばエポキシ樹脂からなる充填樹脂40を充填し、GIR接合(Glued in Rod接合)により、CLT2 と連結部材10との接合を強化又は接合の作業性を向上させることができる。
【0039】
他方、図6に示すように、CLT2の外面と連結部材10の位置関係について説明すると、連結部材10の鉄筋とCLT2の外面との間の離間距離「かぶりC」が鉄筋の直径dの約2倍(2d)以下の場合には、連結部材10のネジロッド10Cが破断する前に、連結部材10とCLT2との連結部において割裂破壊する可能性が高い。
逆に、「かぶりC」が大きければ割裂破壊する可能性が低いので、例えば図3に模式的に示すように、CLT2の総厚を厚くし、例えば9層9プライのCLT2を使用し、さらに補強リング12の適用を省略することもできる。
【0040】
(実験例)
鉄骨造ラーメン架構の拘束効果を想定し、図16に示す形態で、D22のふし鉄筋10AをCSカプラー10DによりM24のABSアンカー10Cと連結した連結部材を使用して、CLT2を試験台の基礎に連結し、図15に示すように、水平のCLTに対して正負交番載荷試験を行った。
鉛直軸力はふし鉄筋10Aの引張降伏耐力相当の288kNを与えた。この過程で正負交番載荷も行った。
層間変形角に対する層せん断力の関係は図17に示すとおりであった。
【0041】
試験結果によれば、層間変形角方向に幅が広い紡錘型の履歴挙動となり、高い靱性を示し、大きな層せん断力を示しながら最終的にABSアンカー10で破断した。また、汎用プログラムOpenSeesを使用して解析した結果も併示してあるように、解析法は大変形領域まで実験結果とほぼ一致し、優れた耐力壁の提供を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、CLT耐力壁が水平抵抗する際に生じる引張り及び靱性に対する靱性が高く、エネルギー吸収能力が高い耐力壁として汎用できる。
【符号の説明】
【0043】
1…基礎部材、1A…支承部、1B…固定部、1C…水平プレート部、1a…支承面、2…CLT、2a…挿入孔、2b…挿入孔、10…連結部材、10a…第1の部分、10b…第2の部分、10…20…基体、10A…ふし鉄筋、10B…継手部、10C…ネジロッド、12…補強リング、21…スラブ梁、22、23…H形鋼、30…せん断ダボ、50…ビス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17