IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-分析デバイス 図1
  • 特開-分析デバイス 図2
  • 特開-分析デバイス 図3
  • 特開-分析デバイス 図4
  • 特開-分析デバイス 図5
  • 特開-分析デバイス 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179067
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】分析デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20241219BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N27/30 Z
G01N27/28 321F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097579
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】三浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】深津 慎
(72)【発明者】
【氏名】山本 毅
(72)【発明者】
【氏名】田中 正典
(72)【発明者】
【氏名】前田 晴信
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 風花
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 啓司
(57)【要約】
【課題】多孔質基材に対する流路壁と電極の関係により、電極と基材との密着性、及び高湿度環境下等における基材変形による電極クラックの抑制、とを両立することは困難であり、両立しないとイオン濃度測定が正しく行えない場合があった。
【解決手段】外部測定機の接点を取る電極部において、電極の少なくとも一部が多孔質基材の内部に形成されていると共に、電極が存在する直線上には必ず流路壁が存在する構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材、
該多孔質基材の孔に疎水性材料が充填されてなる流路壁、及び
電極
を有する分析デバイスであって、
該分析デバイスは、上面視した際に、
該流路壁によって隔てられた、第一領域及び第二領域を有し、
該電極は該第一領域、該流路壁及び該第二領域に跨って形成され、
該電極を通過する直線は必ず該流路壁と交わることを特徴とし、
さらに、
該第二領域において、該電極は、少なくともその一部が該多孔質基材内部に形成される、
分析デバイス。
【請求項2】
前記第一領域は、検体が浸透する領域である、
請求項1に記載の分析デバイス。
【請求項3】
前記第二領域は接続領域であって、前記電極のうち前記第二領域に存在する部分を介して外部測定機と接続される、
請求項1又は2に記載の分析デバイス。
【請求項4】
前記電極として、第一電極及び第二電極を有し、
該第一電極は参照電極であり、
該第二電極は作用電極である、
請求項1又は2に記載の分析デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質基材の流路を用いて電極を形成した分析デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロサイズの微細流路を利用して、生化学における分析を1つのチップ内で効率的(微量、迅速、簡便)に行うことができるマイクロ分析チップの開発が、幅広い分野で注目されている。幅広い分野には、生化学の研究はもとより医療、創薬、ヘルスケア、環境、食品などが含まれる。その中でも紙をベースとしたペーパーマイクロ分析チップは、従来のデバイスと比べて軽量、低コスト、電源不要、高い廃棄性、といった多くの利点がある。そのため、医療設備の整っていない途上国や僻地並びに災害現場での医療活動や、感染症の広がりを水際で食い止めなければならない空港等での検査デバイスとして期待されている。また、安価でかつ取り扱いが容易なことから、個人が自身の健康状態を管理・モニタリングできるヘルスケアデバイスとしても注目を集めている。
【0003】
ペーパーマイクロ分析チップの一例として、特許文献1では、ワックスによる疎水性流路壁を跨ぐよう多孔質基材上に電極を形成した構成が記載されている。この構成は、電極の一端が流路内で検体と反応して所定電位を形成し、もう一方の電極端に測定器を接続して測定を行う物である。参照液による固定電位を示す参照電極と、検体のイオン濃度に応じた電位を示すイオン選択電極との2つの電極で構成され、該2電極間の電位差を測定することで検体のイオン濃度を測定することができる。
【0004】
また、非特許文献1にも、2電極間の電位差を測定することで検体のイオン濃度を測定することが可能な分析チップが記載されているが、本文献の構成では測定機の接点部となる電極が、ワックスによる疎水性流路壁上に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/033438号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nipapan Ruecha, Orawon Chailapakul, Koji Suzuki and Daniel Citterio『Fully Inkjet-Printed Paper-Based Potentiometric Ion-Sensing Devices』Analytical chemistry August 29, 2017 Published, 89, pp.10608-10616
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に記載の方法では、例えば分析チップが高湿度環境に置かれた場合、紙が吸湿することにより変形し、電極にクラックが発生する恐れがある。電極にクラックが発生すると当然電位の測定値に影響を与え、イオン濃度を正しく測定することが困難となってしまう。
【0008】
また、非特許文献1に記載の方法では、測定器の接点部となる電極が流路壁上に形成されているため、多孔質上に形成する場合と比べて密着性が悪くなる場合がある。電極の密着性が悪いと、測定接点を取るための押圧や摩擦等によって電極が剥離する恐れがあり、電極が剥離した場合には当然電位の測定値に影響を与え、イオン濃度を正しく測定することが困難となってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
多孔質基材、
該多孔質基材の孔に疎水性材料が充填されてなる流路壁、及び
電極
を有する分析デバイスであって、
該分析デバイスは、上面視した際に、
該流路壁によって隔てられた、第一領域及び第二領域を有し、
該電極は該第一領域、該流路壁及び該第二領域に跨って形成され、
該電極を通過する直線は必ず該流路壁と交わることを特徴とし、
さらに、
該第二領域において、該電極は、少なくとも一部が該多孔質基材内部に形成される、
分析デバイス。
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本開示の一態様によれば、基材の変形による電極のクラックを抑制しつつ、電極と多孔質基材との密着性が高く、安定した電位測定が行えるマイクロ分析チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における流路壁11形成後(電極は形成前)の分析デバイスM1の上面図である。
図2】(a)は実施例1における分析デバイスM1の作用電極側の上面図である。(b)は実施例1における分析デバイスM1の破線部D1における断面図である。
図3】(a)は実施例1における各種電極形成後の分析デバイスM1の上面図である。(b)は実施例1における分析デバイスM1の破線部D2における断面図である。
図4】(a)は比較例1における各種電極形成後の分析デバイスM2の上面図である。(b)は比較例1における各種電極形成後の分析デバイスM2の斜視図である。
図5】クラックが発生したチップ、発生しないチップの電位測定結果を示す図である。
図6】(a)は比較例2の分析デバイスM3の上面図である。(b)は比較例2の分析デバイスM3の破線部D6における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明を実施形態の内容に限定するものではない。また、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
【0013】
本発明に係る実施形態は、多孔質基材、該多孔質基材の孔に疎水性材料が充填されてなる流路壁、及び電極を有する分析デバイスであって、該分析デバイスは、上面視した際に、該流路壁によって隔てられた、第一領域及び第二領域を有し、該電極は該第一領域、該流路壁及び該第二領域に跨って形成され、該電極を通過する直線は必ず該流路壁と交わることを特徴とし、さらに、該第二領域において、該電極は、少なくとも一部が該多孔質基材内部に形成される、分析デバイスを提供する。
【0014】
第一領域は、検体が浸透する領域とすることができる。第二領域は外部測定機との接続領域であって、電極のうち第二領域に存在する部分を介して外部測定機と接続されることができる。分析デバイスは、電極として、第一電極及び第二電極を有し、第一電極を参照電極とし、第二電極は作用電極とすることができる。
【0015】
[実施例1]
<基材/流路>
図1を用いて、分析デバイスM1の基材について説明する。図1は各種電極を形成する前の分析デバイスM1の上面図を簡略的に示したものである。
【0016】
本実施例においては、多孔質基材S1として濾紙を用いた。用いた濾紙の材質はセルロースであり、厚み100μm、空隙率50%であった。このような濾紙は、セルロース繊維間の微細な空隙によって毛細管現象が働き、良好な親水性を持ち合わせており、液体がスムーズに浸透する流路として機能する。当然ながら多孔質基材S1は流路として機能すれば濾紙に限定されるものでなく、普通紙、上質紙、水彩紙、ケント紙、合成紙等の紙の他、合成樹脂多孔質フィルムや布地、繊維製品等でもよい。空隙率は、目的に応じて適宜選択することができるが、20%以上90%以下が好ましい。空隙率が、90%を超えると、基材としての強度が保てなくなることがあり、20%未満であると、試料液の浸透性が悪くなることがある。
なお、空隙率(%)は、「空隙率(%)=(真密度-見掛け密度)/真密度×100」で算出される。
【0017】
この多孔質基材S1の一部の領域に疎水性材料として、疎水性の樹脂を浸透させ、縦幅H1=14mm、横幅L1=22mmとなる流路壁11を形成した。流路壁11は、特開2021-37612に記載の方法により、疎水性の樹脂をトナーとして電子写真で印刷し、加熱することで樹脂を溶融・浸透させることにより形成した。流路壁を形成する疎水性材料としては、疎水性樹脂が好ましく、疎水性樹脂としては、特に限定なく、ポリエステル樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-アクリル酸共重合樹脂等が用いられる。疎水性樹脂を配置する方法として、電子写真装置を用いる他にも、インクジェットプリンターを用いる方法、ワックスプリンターでワックスを浸透させる方法や、スクリーン印刷で樹脂を浸透させる方法等でも良く、さらに複数の方法を組み合わせて形成してもよい。
【0018】
流路壁11の内側の領域には、流路壁となる疎水性樹脂を浸透させていない領域、すなわち、流路壁を有さない領域がある。本実施形態の分析デバイスは、流路壁を有さない領域として、少なくとも、第一領域101と第二領域102を有する。第一領域101は、多孔質基材S1の多孔質による毛細管現象によって検体が浸透する領域である。本実施例においては、第一領域101は、作用電極が配置される作用電極配置部S1b、参照電極を配置するための参照電極配置部S1c、作用電極配置部S1bと参照電極配置部S1cの間に位置する分注部S1d、分注部S1dから作用電極配置部S1b及び参照電極配置部S1cへ繋がる幅2mmの流路S1fからなる。ただし、第一領域101は、必ずしもこれらすべてを有する必要はなく、また、これ以外の部や流路を含んでもよい。本実施例において、作用電極配置部S1b及び参照電極配置部S1cは6mm四方の正方形、分注部S1dは直径3mmの円である。なお、それぞれの配置部及び流路のサイズ、形状等はこれに限定する物ではない。続いて、第二領域102は、流路壁を有さない領域のうち、測定時に外部測定機との接点を取る箇所になる領域であり、第二領域102については、必ずしも、検体は浸透しない。本実施例においては、第二領域は、作用電極接点部S1aと参照電極接点部S1eを有し、それぞれの接点部は4mm四方の正方形である。本実施例においては、作用電極接点部S1aと参照電極接点部S1eは流路壁で隔てられ、繋がっていない例を示すが、これらは繋がっていてもよい。一方、第一領域101と第二領域102は繋がっておらず、流路壁11によって隔てて形成されている。接点についての詳細は電極の説明と併せて後述する。
【0019】
以下、図2を用いて分析デバイスM1の作用電極形成について説明する。
図2(a)は作用電極31を形成した後の分析デバイスM1の上面図であり、破線部D1の断面を図2(b)に示す。
【0020】
<作用電極>
作用電極31は、作用電極配置部S1bに収まる4mm四方の正方形と、作用電極配置部S1bから作用電極接点部S1aにかけて延びた幅1mm・長さ6mmの長方形と、が連なった形状の電極である。作用電極31の材料としてはClのイオン濃度を検知する電極としてAgを用いたが、材料はこれに限る物でなく、作用電極として機能する材料・構成であれば良い。また、作用電極31は、電極に加えてイオン選択膜を形成してもよい。
【0021】
作用電極31の形成は、ニューロング株式会社製のスクリーン印刷機DP-320を用いて行った。印刷は#200の版を用い、乾燥は80℃で10分行った。ただし、作用電極31の形成方法はこれに限定されない。電極は、Ag/AgCl、PEDOT/PSSの他、カーボンを使った電極等が、特に限定されることなく用いられる。Ag/AgCl、あるいはカーボンを用いた電極の作製については、例えば米国特許出願公開第2016033438号を参照することができる。PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシフエン))/PSS(ポリ(4-スチレンサルフオネート))を用いた電極の作製については例えば非特許文献1を参照することができる。
【0022】
また、作用電極31がイオン選択膜を有する場合、イオン選択膜としては、一般的に用いられるものであればよく、目的のイオンに対して感度を持ち、且つ妨害イオンに対し十分な選択性を持つ選択膜であればよい。イオン選択膜はイオン選択性を有する化合物を含む。イオン選択性を有する化合物は特に限定はないが、好ましくはイオン選択性を示すイオノフォア及びアニオン除剤を挙げられる。イオノフォアとしては、クラウンエーテル構造をもつ12-クラウン4-エーテルを例示でき、アニオン除剤としては、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaTPB)を例示できる。イオン選択膜に使われる材料については公知のあらゆるものを用いることができ、そのような材料としては、例えば株式会社同仁化学研究所の「イオン濃度を電極で測りたい」の138ページから140ページを参照することができる。
【0023】
また、イオン選択膜は、その構造維持のために、高分子化合物を含むことができる。高分子化合物としてポリ塩化ビニル(略称:PVC)や、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体等が例示される。また、イオン選択膜は、イオノフォアを動作可能にするために可塑剤を含むことができる。可塑剤は公知のものが適用可能であるが、イオン選択膜において親油性イオン交換として作用する材料である親油性イオン交換材料がより好ましく、公知の材料として、2-ニトロフェニルオクチルエーテル(略称:NPOE)やセバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)(略称:DOS)、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(略称:DOA)、ジ-n-オクチルフェニルホスホネート(略称:DOPP)等が例示される。
【0024】
以上の様にして形成される作用電極31は、図2(b)に示す様に、その一部が第一領域101および第二領域102の多孔質基材内部に形成されている。すなわち、第一領域101である作用電極配置部S1bと第二領域102である作用電極接点部S1aにおいて電極の一部が多孔質基材S1の孔に染み込み、多孔質基材S1の内部にも電極が形成されている。これにより、第一領域101である作用電極配置部S1bにおいては検体との接触が適切に行われるだけでなく、第二領域102である作用電極接点部S1aにおいてはアンカー効果により電極と多孔質基材S1との密着性を高くすることができる。そのため、外部測定機との接点部を第二領域102である作用電極接点部S1aとすることで、測定接点による押圧や摩擦を受けても、剥離しにくい電極を形成することができる。この効果を得るために第二領域102は、その表面の少なくとも一部に、多孔質基材が露出している必要がある。
【0025】
なお、本実施例においては、第二領域102である、作用電極接点部S1a、参照電極接点部S1e共に、多孔質基材S1内部には何も含まない構成としたが、多孔質基材の少なくとも一部が表面に露出していれば、基材の物性調整等のために所望の材料をこれらの接点部の多孔質基材内に配置してもよい。例えば、作用電極接点部S1aの剛性を高めるために、多孔質内に所定の樹脂を含浸させておいても良く、外部測定機との接点の取り易さを向上させることも可能である。その際の多孔質基材S1内に形成する材料の種類や形状、量は、多孔質基材S1の孔が表面に露出している範囲で自由に選択可能である。
【0026】
以下、図3を用いて分析デバイスM1の参照電極形成について説明する。
図3(a)は作用電極31を形成した後の分析デバイスM1の上面図であり、破線部D2の断面を図3(b)に示す。
【0027】
<参照電極>
参照電極32は、第一領域101である参照電極配置部S1cから第二領域102である参照電極接点部S1eへと跨って形成されており、1mm×10mmの長方形の形状である。参照電極32は、作用電極31と同様に第一領域101である参照電極配置部S1cにおいて流路を浸透してきた検体と反応し、第二領域102である参照電極接点部S1eにおいて外部測定機との接点を取ることができる。幅を1mmと小さくすることで、後述する電解質層41を塗布した際に、参照電極32の裏側を含む参照電極配置部S1cの多孔質基材に電解質層41を配置しやすくなる。
【0028】
参照電極32の材料としては、Ag/AgClを用いた。Ag/AgClを用いることで、水溶液中で下記の式(1)による平衡反応が起こるため、参照電極32周囲のCl濃度が安定した状態において安定した電位を得ることができる。
【数1】
【0029】
参照電極32は、ニューロング株式会社製のスクリーン印刷機DP-320を用いて参照電極配置部S1cへ塗布した。印刷は#200の版を用い、乾燥は80℃で10分間行った。ただし、電極の作製方法はこれに限定されず、作用電極の項目に記載されるように、あらゆる方法が用いられる。
【0030】
なお参照電極32は、第二領域である参照電極接点部S1eにおいて、作用電極接点部S1aと同様に、参照電極32の一部が多孔質基材S1の内部に形成されている。このため、参照電極32の剥離が生じにくい。
【0031】
<電解質層>
電解質層41は、分注部S1dに導入された検体が参照電極配置部S1cに浸透してきた際に検体の水分で溶解し、Clを飽和濃度とする。Clが飽和濃度となることで、参照電極32の電位が安定する。そのため本実施例では、電解質層41の材料としてKClを用いた。KClは水に容易に溶解し、KイオンとClイオンの拡散速度がほぼ等しく液間電位が生じにくいことから選定した。当然ながら電解質層41の材料はこれに限る物でなく、参照電極32の電位を安定させることができれば良く、例えばNaCl等を用いてもよい。
【0032】
電解質層41の塗布は、株式会社マイクロジェット社製Biospotを用いて行った。溶液は、KClを16質量%となる様に純水に溶解して作成した。液滴サイズは6nL/滴、周波数は10Hz、縦横共に300μmピッチで参照電極配置部S1c全域に印刷し、3回重ね塗りを行うことでKCl量を調整した。KCl量は、参照電極配置部S1cに浸透する検体量に対し、飽和KClとなる量にすることで参照電極32の電位を安定させることができる。そのため、飽和KClとなるだけの量のKClがあれば、塗布量はこれに限るものではない。なお、KCl水溶液はイオン選択膜21の溶液と比べて粘度が低く、液滴サイズを大きく周波数を早くすることで、多孔質基材S1に付着したKCl水溶液が揮発する前に多孔質基材S1内で拡散し、図3(b)に示す通り参照電極32の裏側へもKClを配置できる。それにより、検体が浸透してきた際に参照電極32周りのCl濃度が安定し、参照電極32の電位が安定する。つまり、参照電極としてより安定して機能する。
【0033】
また、分析デバイスM1は、電極を通過する直線は必ず流路壁も通過する。例えば図3(a)の破線部D3部においては、作用電極接点部S1aと参照電極接点部S1e以外の場所には流路壁11が形成されている。また、角度を変えて取った破線部D4部においても同様に、電極と共に流路壁も通過する構成となっている。この構成により、高湿度環境に置かれた際にも多孔質基材S1の変形は抑制され、電極のクラックを抑制することができる。
【0034】
[比較例1]
分析デバイスM1に対する比較例1の分析デバイスM2について、図4を用いて説明する。
図4(a)は分析デバイスM2の上面図を簡略的に示したものであり、図4(b)は分析デバイスM2の斜視図を簡略的に示したものである。分析デバイスM2は流路壁の形状以外の構成は分析デバイスM1と同様であるため、同一部材には同一符号を付し、同様の部分は説明を省略する。
【0035】
図4(a)に示す様に、分析デバイスM2の流路壁51は、分析デバイスM2のうち、縦幅H2=7mmの範囲で、紙面上方のみに疎水性の流路壁を有する。そして、分析デバイスM1の第二領域等に対応するH3で示される範囲、すなわち紙面下方に相当する範囲においては、流路壁を有さない。そのため、破線部D5の位置では、電極が存在するが流路壁が存在しない。つまり、分析デバイスM2は、分析デバイスを上面視した際、電極を通過するが流路壁は通過しない直線を有し、電極を通過する直線は必ず流路壁と交わる、という条件を満たさない。
【0036】
ここで、分析デバイスM2が高湿度環境に置かれた場合について説明する。
高湿度環境においては親水性の高いセルロースでできた多孔質基材S1に水が吸着するため、紙の繊維は膨潤し、多孔質基材S1にうねりが発生し、変形する。図4(b)には、多孔質基材S1の変形による影響で、その上に形成された作用電極31及び参照電極32も併せて変形した様子を示している。この様な変形が起こると、電極はその応力に耐えられずクラックが生じ、外部測定機による電位測定を行う際に、クラックによる導通不良や負荷抵抗の増加により、イオン濃度測定を正しく行えない場合がある。
【0037】
なお、この時流路壁51がある場所では、流路壁51の疎水性によって水の吸着は起こらず、多孔質基材S1の膨潤等による変形は発生しない。さらに流路壁51があると多孔質基材S1のみの場合と比べて剛性も高くなるため、流路壁51に囲まれた流路の変形は抑制される。つまり、破線部D5部の様に、流路壁が無い直線上では水分吸着による膨潤等によって多孔質S1の変形が引き起こされる場合があり、そこに電極があった場合には電極のクラックにより測定を正しく行えない場合がある。
【0038】
実際に、図5に、分析デバイスM2の分注部S1dに、NaClを100mM溶解した検体を分注した際の作用電極と参照電極との電位差分を示す。電位測定は、Bio-Logic製VSP-300を用いて、作用電極接点部S1aと参照電極接点部S1eとの電位差を測定した。測定に用いた分析デバイスは、電極にクラックが発生していないチップ(分析デバイス)2枚(クラック無チップ1及び2)と、クラックが発生したチップ1枚(クラック有チップ1)の合計3枚である。図5に示す通り、クラックが発生しなかったチップは例えば10秒以降は殆ど同じ電位を示しているが、クラックが発生したチップは電位が大きく異なり、検体のイオン濃度を測定しようとしても正しく測定できないことが分かる。
【0039】
[比較例2]
続いて、分析デバイスM1に対する比較例2の分析デバイスM3について、図6を用いて説明する。
【0040】
図6(a)は分析デバイスM3の上面図を簡略的に示したものであり、破線部D6の断面を図6(b)に示す。分析デバイスM3は流路壁の形状以外の構成は分析デバイスM1と同様であるため、同一部材には同一符号を付し、同様の部分は説明を省略する。
【0041】
図6(a)に示す様に、分析デバイスM3は、分析デバイスM1同様、縦幅H1=14mmで流路壁61を有しているが、さらに作用電極接点部S1a及び参照電極接点部S1eにも流路壁61を有する。すなわち、第二領域を有さない。この構成とすると、分析デバイスM3は、前述した分析デバイスM2の様に高湿度環境に置かれたとしても多孔質基材S1に変形は起こりにくく、電極のクラックも発生しない。
【0042】
一方で、分析デバイスM3は図6(b)に示す様に、第二領域を有さず、当然ながら、作用電極は第二領域において多孔質基材内部に形成された部分を有さない。作用電極接点部S1a及び参照電極接点部S1eにおいて、流路壁61の上層に作用電極31及び参照電極32が形成されている。つまり、多孔質基材S1の細孔は流路壁61によって埋められた上に電極が形成されている。このため、作用電極31及び参照電極32は基材に対して前述したアンカー効果が得られず、密着性が低くなってしまう。すると、電位測定時に、外部測定機との測定接点による押圧や摩擦を受けた際に作用電極31及び参照電極32が多孔質基材S1から剥離してしまい、電位測定が安定して行えない場合がある。
【0043】
以上の実施例及び比較例の結果を表にすると下記の様になる。
【表1】
【0044】
本実施例においては、基材が変形する一例として、分析デバイスが高湿度環境に置かれた場合について説明した。ただし、状況はこれに限る物でなく、例えば分析デバイスを作製する工程の中で、電極形成後に洗浄や前処理工程において多孔質基材S1に溶媒等が浸透する場合には同様の現象が発生するため、その場合においても本件の構成によって安定した電位測定を行うことができる。
【0045】
以上説明した様に、多孔質が表面に露出した第二領域と、流路壁で隔てられた第一領域と、に跨る電極を有し、電極が存在する直線上には必ず流路壁が存在する構成とすることで、基材変形による電極クラックを抑制しつつ、電極と基材との密着性を高めることができる。
【0046】
つまり、本構成により、電位測定を安定して行うことのできる分析デバイスを提供可能である。
【0047】
本発明の実施形態は以下の構成を含む。
(構成1)
多孔質基材、
該多孔質基材の孔に疎水性材料が充填されてなる流路壁、及び
電極
を有する分析デバイスであって、
該分析デバイスは、上面視した際に、
該流路壁によって隔てられた、第一領域及び第二領域を有し、
該電極は該第一領域、該流路壁及び該第二領域に跨って形成され、
該電極を通過する直線は必ず該流路壁と交わることを特徴とし、
さらに、
該第二領域において、該電極は、少なくともその一部が該多孔質基材内部に形成される、
分析デバイス。
(構成2)
前記第一領域は、検体が浸透する領域である、
構成1に記載の分析デバイス。
(構成3)
前記第二領域は接続領域であって、前記電極のうち前記第二領域に存在する部分を介して外部測定機と接続される、
構成1又は2に記載の分析デバイス。
(構成4)
前記電極として、第一電極及び第二電極を有し、
該第一電極は参照電極であり、
該第二電極は作用電極である、
構成1から3のいずれか1項に記載の分析デバイス。
【符号の説明】
【0048】
M1 分析デバイス
M2 分析デバイス
M3 分析デバイス
S1 多孔質基材
S1a 作用電極接点部
S1b 作用電極配置部
S1c 参照電極配置部
S1d 分注部
S1e 参照電極接点部
11 流路壁
51 流路壁
61 流路壁
31 作用電極
32 参照電極
41 電解質層
101 第一領域
102 第二領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6