(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179117
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電池温調装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/633 20140101AFI20241219BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20241219BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20241219BHJP
B60L 58/26 20190101ALN20241219BHJP
【FI】
H01M10/633
H01M10/613
H01M10/6556
B60L58/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097682
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正高
【テーマコード(参考)】
5H031
5H125
【Fターム(参考)】
5H031KK08
5H125AA01
5H125AC12
5H125CD06
5H125EE25
5H125FF24
(57)【要約】
【課題】熱交換を利用した電池の温度調整を行う際に、電解液の濃度ムラに起因する内部抵抗の上昇を抑制する。
【解決手段】実施形態に係る電池温調装置10は、充放電時に、電池パック内でセルの温度情報を取得する温度取得部と、前記電池パックの温度を、冷媒を流すことによって調整する温度調整部と、電池温度と冷媒流量との関係を規定したマップを用いて、前記温度情報に応じた冷媒流量を求め、前記冷媒を脈動的に流すように前記温度調整部の動作を制御する制御部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電時に、電池パック内でセルの温度情報を取得する温度取得部と、
前記電池パックの温度を、冷媒を流すことによって調整する温度調整部と、
電池温度と冷媒流量との関係を規定したマップを用いて、前記温度情報に応じた冷媒流量を求め、前記冷媒を脈動的に流すように前記温度調整部の動作を制御する制御部と、
を備える、
電池温調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池温調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ラジエータ等の外気との熱交換を利用して電池の温度調整を行う電池温調装置が開示されている。この電池温調装置には、外気熱交換器を経由して熱媒体が流通する第1径路における熱媒体の流量と、外気熱交換器を迂回して熱媒体が流通する第2径路における熱媒体の流量とを調整する、流量調整弁が設けられている。外気温度が予め定められた基準外気温度よりも低い低温環境である場合には、流量調整弁の作動を制御して、電池温度が予め定められた基準温度になるように、第1径路における熱媒体の流量と第2径路における媒体の流量との流量比を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、電池温度が目標温度よりも高く、温調装置に対する要求冷却能力が高いときに、電池の各セル内の温度差が大きくなる。しかし、電池の出力低下に至らない許容温度範囲内であっても、連続通電時間が場合には電池の性能低下が発生する恐れがある。
【0005】
これは、二次電池の高容量化に伴う電流密度の上昇や、連続通電時間の長時間化に起因して、電解液の濃度ムラに起因する内部抵抗の上昇が発生するためである。特に、電池のセル温度が低い程、内部抵抗の上昇が起きやすい。さらに、冷却によって熱媒体の入口から出口に向かう電池のセル間の温度差が拡大すると、連続通電時間が長い条件では、内部抵抗上昇に伴う損失増加やセル電圧の低下により、電池の性能が低下する。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、熱交換を利用した電池の温度調整を行う際に、電解液の濃度ムラに起因する内部抵抗の上昇を抑制することができる電池温調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る電池温調装置は、充放電時に、電池パック内でセルの温度情報を取得する温度取得部と、前記電池パックの温度を、冷媒を流すことによって調整する温度調整部と、電池温度と冷媒流量との関係を規定したマップを用いて、前記温度情報に応じた冷媒流量を求め、前記冷媒を脈動的に流すように前記温度調整部の動作を制御する制御部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱交換を利用した電池の温度調整を行う際に、電解液の濃度ムラに起因する内部抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る電池温調装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1の電池温調装置による処理の流れを説明するフロー図である。
【
図3】実施形態2に係る電池温調装置の構成を示す概略図である。
【
図4】
図3の電池温調装置による処理の流れを説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0011】
本開示は、例えば、BEV(Battery Electric Vehicle)やPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)といった電気自動車に搭載される電池パックの温度調整に適用可能な、電池温調装置に関する。このような電池パックに要求される性能は高まっており、負荷の増加に伴い、発熱量が増加している。このため、電池温調装置に求められる冷却能力の要求値が高くなっている。その一方で、電池温調装置の冷却能力が向上すると、セル間の温度差が大きくなり、一部のセルが低温になることで電池の性能が低下することが予測される。
【0012】
また、電気自動車での電池の使われ方の特徴として、長時間連続通電がある。長時間連続通電、すなわち、充電のみ又は放電のみが続くと、電解液のイオン濃度のムラなどによって起きるセルの内部抵抗の増大により、電池の性能が大きく低下する。そこで、本発明者は、以下の構成を考案した。
【0013】
実施形態1.
図1は、実施形態1に係る電池温調装置10の構成を示す図である。
図1に示すように、電池温調装置10は、例えば、電気自動車のモータ等に電力を供給する電池パック20の温度調整に適用される。電池パック20は、空気(酸化剤ガス)と水素(燃料ガス)との電気化学反応により電力を発生する。電池パック20は、空気および水素の供給を受けて発電する複数のセルを積層したスタック構造を有している。
【0014】
電池温調装置10は、温度調整部1、温度センサ2、ヒータ3、コントローラ4を備える。温度調整部1は、冷却水流路11、冷却水ポンプ12、三方弁13、ラジエータ14、ファン15、サブラジエータ16を含む。冷却水流路11は、電池パック20に冷却水(冷媒)を循環供給する。冷却水流路11には、冷却水を循環させるための冷却水ポンプ12が設けられている。冷却水ポンプ12は、図示しないカウンタを備えており、冷却水を脈動的に流す際の、冷却水を循環させるON時間、冷却水の循環を停止するOFF時間を測定することができる。
【0015】
冷却水流路11には、ラジエータ14が設けられている。ラジエータ14は、電池パック20により高温となった冷却水と、ファン15により送風された外気とを熱交換させ、電池パック20で発生した熱を系外に放出する熱交換器である。冷却水流路11には、ラジエータ14と並列してサブラジエータ16が設けられていてもよい。サブラジエータ16は、冷却水と大気とを熱交換する熱交換器であり、電池パック20の高負荷時などラジエータ14のみでは冷却能力が不足する場合に補助的に用いられる。
【0016】
冷却水流路11には、冷却水を、ラジエータ14をバイパスして循環させるためのバイパス流路17が設けられている。バイパス流路17はラジエータ14と並列して設けられている。冷却水流路11バイパス流路17の分岐部には、三方弁13が設けられている。三方弁13は、冷却水を循環させる流路を、冷却水流路11とバイパス流路17とに切り替える。
【0017】
電池パック20には、充放電時に、電池パック20内のセルの温度情報を取得する温度センサ2(温度取得部)が設けられている。一般的に、セルの最高温度は電池パック20の寿命に影響し、セルの最低温度は出力性能に影響する。このため、温度センサ2は、電池パック20の複数のセルの内、最高温度となるセルの最高温度情報と、最低温度となるセルの最低温度情報とを取得する。取得された温度情報は、コントローラ4に入力される。ヒータ3は、温度が上昇した冷却水を、所定の温度範囲内に維持する。ヒータ3は、例えば、電池パック20の冷却水入口側に設けられ得る。
【0018】
コントローラ4は、電池温度と冷却水(冷媒)流量との関係を規定したマップを用いて、温度センサ2により取得した温度情報に応じた冷却水の流量を求め、冷却水を脈動的に流すように温度調整部1の動作を制御する制御部である。具体的には、コントローラ4は、冷却水ポンプ12の動作(回転数)を制御して、電池パック20に循環する冷却水の流量を下げずに、冷却水を脈動的に流す。すなわち、冷却水は、間欠的に電池パック20に流れる。
【0019】
ここで、
図2を参照して、
図1の電池温調装置による処理の流れについて説明する。
図2において、閾値Aは、例えば、電池パック20の過熱を防止するために、優先して電池パック20の冷却を開始する、電池パック20の温度閾値である。また、閾値Bは、閾値Aよりも低く、例えば、電池パック20の寿命を延ばすために設定される、電池パック20の温度閾値である。閾値Cは、閾値Bよりも低く、電池に要求される性能を満たし得る下限の電池パック20の温度閾値である。
【0020】
図2に示すように、まず、コントローラ4は、電池パック20内のセルの最高温度が閾値Aよりも高いか否かを判断する(S11)。セルの最高温度が閾値A以下である場合(S11NO)、コントローラ4は、最高温度が閾値Bよりも高いか否かを判断する(S12)。最高温度が閾値Bよりも高い場合(S12YES)、通常の電池パック20の冷却動作が実行される。すなわち、コントローラ4は、電池温度と冷却水流量(冷媒流量)との関係を規定したマップを用いて、最高温度情報に応じた冷却水の流量を求めて、当該冷却水流量を満たすように、冷却水ポンプ12を制御して冷却水を循環させる(S13、冷却水循環制御)。一方、セルの最高温度が閾値B以下である場合(S12NO)、コントローラ4は、冷却水ポンプ12を停止させ、冷却水の流量を0とする(S14、循環停止制御)。
【0021】
S11において、セルの最高温度が閾値Aよりも高い場合(S11YES)、コントローラ4は、電池温度と冷却水流量との関係を規定したマップを用いて、最高温度に応じた冷却水の流量を求め、当該冷却水流量を下げずに、冷却水ポンプ12を間欠的に動作させる。具体的には、コントローラ4は、まず、ポンプ動作時間を算出する(S15)。ポンプ動作時間とは、冷却水ポンプ12を間欠的に動作させ、コントローラ4が算出した冷却水流量で冷却水を循環させるON時間を指すものとする。コントローラ4は、例えば、算出した冷却水流量と電池の内部抵抗指数に応じて、冷却水ポンプ12のON時間、OFF時間を設定することができる。ここで、電池の内部抵抗指数は、電流積算値×温度係数の式で表される。温度係数は、例えば、冷却水の温度が25℃のときの電池の温度を1として、低温ほど大きくなるように設定された値である。
【0022】
なお、冷却水ポンプ12の間欠制御のON時間は、電池の電流値と、電池の温度と、電池の拡散反応が始まらない時間との関係があらかじめ定められたマップを用いて設定することができる。また、冷却水ポンプ12の間欠制御のOFF時間は、電池セルの最高温度と最低温度の温度差と、電池の電流値との関係が予め定められたマップにより設定することができる。
【0023】
そして、ポンプ動作時間が、冷却水ポンプ12のカウンタにより測定されたON時間(カウンタ値とする)よりも大きく、かつ、最低温度が閾値Cよりも大きいか否かが判断される(S16)。S16YESの場合、コントローラ4は、脈動又は間欠的に冷却水を循環させるように、冷却水ポンプ12を動作させる(S17)。S16NOの場合、コントローラ4は、冷却水ポンプ12を停止させ、冷却水の流量を0とする(S18、循環停止制御)。
【0024】
このように、実施形態1によれば、電池パック20の冷却要求時に、冷却水の流量を下げずに、冷却水ポンプ12を間欠的に動作させることで、電解液のイオン濃度の偏りによる内部抵抗の増加を低減することが可能となる。また、ラジエータ14によって電池パック20の冷却を行う際、外気温度が予め定められた基準外気温度よりも低い低温環境である場合であっても、間欠制御を行うことで冷却水の流量を下げずにセルの内部抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【0025】
実施形態2.
図3は、実施形態2に係る電池温調装置の構成を示す概略図である。
図3において、
図1と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明は適宜省略する。
図3に示す電池温調装置10は、温度調整部1、温度センサ2、ヒータ3、コントローラ4、冷媒回路30を備える。例えば、温度調整部1は、車載の電池パック20の温度を調整し、冷媒回路30は、車室の温度を調整し得る。
【0026】
また、冷媒回路30は、冷却水流路11を循環する冷却水の温度を調整することができる。冷媒回路30は、例えば、冷媒流路31、エバポレータ32、コンプレッサ33、コンデンサ34、第1膨張弁35、第2膨張弁36を含む。コンプレッサ33は、冷媒流路31を循環する気相冷媒を圧縮する。コンプレッサ33により圧縮されて高温高圧となった気相冷媒はコンデンサ34へと送られる。
【0027】
コンデンサ34は、コンプレッサ33により圧縮されて高温高圧となった気相冷媒から熱を放出することによって気相冷媒を液相冷媒に凝縮する。第1膨張弁35は、コンデンサ34により圧縮された高圧の液相冷媒を膨張させることによって液相冷媒を減圧する。第1膨張弁35により減圧された液相冷媒はエバポレータ32へと送られる。エバポレータ32は、周囲の空気と液状冷媒との間で熱交換することで、車室を冷却する。液状冷媒は、周囲の空気の熱を吸収して気化することで気相冷媒へと変化する。この気相冷媒はコンプレッサ33に戻る。
【0028】
第2膨張弁36は、第1膨張弁35と同様に、コンデンサ34により圧縮された高圧の液相冷媒を膨張させることによって液相冷媒を減圧する。第2膨張弁36により減圧された液相冷媒はチラー40へと送られる。チラー40は、冷媒流路31を循環する冷媒と、冷却水流路11を循環する冷却液との間で熱交換を行う。
【0029】
ここで、
図4を参照して、
図3の電池温調装置による処理の流れについて説明する。
図4に示すように、まず、コントローラ4は、電池パック20内のセルの最高温度が閾値Aよりも高いか否かを判断する(S21)。セルの最高温度が閾値A以下である場合(S21NO)、コントローラ4は、最高温度が閾値Bよりも高いか否かを判断する(S22)。最高温度が閾値Bよりも高い場合(S22YES)、コントローラ4は、コンプレッサ33を調整して、電池パック20の冷却動作を優先して実行する(S23)。なお、このとき、コントローラ4は、電池温度と冷却水流量との関係を規定したマップを用いて、最高温度情報に応じた冷却水の流量を求めて、当該冷却水流量を満たすように、冷却水ポンプ12を制御して冷却水を循環させる。一方、セルの最高温度が閾値B以下である場合(S22NO)、コントローラ4は、電池冷却をOFFする(S24)。
【0030】
S21において、セルの最高温度が閾値Aよりも高い場合(S21YES)、コントローラ4は、空調要求があるか否かを判断する(S25)。空調要求がある場合(S25YES)、コントローラ4は、冷媒回路30及び冷却水ポンプ12の間欠運転と、エバポレータ32による空調とを両立させる(S26)。なお、冷却水ポンプ12の間欠運転については、実施形態1のように、ON時間とOFF時間とを設定することができる。空調要求がない場合(S25NO)、コントローラ4は、コンプレッサ33の出口の圧力が、所定の閾値よりも高いか否かを判断する(S27)。
【0031】
S27においてYESの場合、冷媒回路30による電池パック20の冷却能力が高くなるため、電池の各セル内の温度差が大きくなる恐れがある。この場合、コントローラ4は、冷媒回路30及び冷却水ポンプ12を間欠運転して、冷却量を調整する(S28)。一方、S27においてNOの場合、コントローラ4は、コンプレッサ33を調整して、通常の電池パック20の冷却動作を実行する(S29)。この場合、S23の電池優先冷却と比較すると、冷媒回路30に対する要求冷却能力は低くなる。なお、このとき、コントローラ4は、電池温度と冷却水流量との関係を規定したマップを用いて、最高温度情報に応じた冷却水の流量を求めて、当該冷却水流量を満たすように、冷却水ポンプ12を制御して冷却水を循環させる。
【0032】
このように、実施形態2によれば、電池パック20の冷却要求時において、空調要求がある場合でも、冷却水の流量を下げずに、冷媒回路30及び冷却水ポンプ12を間欠的に動作させることで、電解液のイオン濃度の偏りによる内部抵抗の増加を低減することが可能となる。また、コンプレッサ33の出口圧が高い場合においても、間欠制御を行うことで冷却水の流量を下げずにセルの内部抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 温度調整部
2 温度センサ
3 ヒータ
4 コントローラ
10 電池温調装置
11 冷却水流路
12 冷却水ポンプ
13 三方弁
14 ラジエータ
15 ファン
16 サブラジエータ
17 バイパス流路
20 電池パック
30 冷媒回路
31 冷媒流路
32 エバポレータ
33 コンプレッサ
34 コンデンサ
35 第1膨張弁
36 第2膨張弁
40 チラー