(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179119
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電力変換器の制御装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20241219BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097686
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 瞭弥
(72)【発明者】
【氏名】外山 佳祐
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE30
5H505EE41
5H505FF05
5H505GG04
5H505HA09
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ28
5H505KK05
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL44
(57)【要約】
【課題】回転電機のロータの回転停止状態を維持しつつ、電力変換器のスイッチング制御により熱を発生させる場合におけるNVを改善できる電力変換器の制御装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】制御装置60は、回転電機30のロータ31から駆動輪12までの動力伝達機構11を構成する一対のギアを備えるシステムに適用される。制御装置60は、ロータ31の発生トルクを、ロータ31の回転停止状態を維持可能なトルクにするとの第1条件、及び電機子巻線34U~34Wに流す交流電流の1周期又は複数周期における発生トルクの時間平均値を0からオフセットさせるとの第2条件を満たすように、d,q軸目標電流を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電部(10)と、
ロータ(31)及び電機子巻線(34U~34W)を有する回転電機(30)と、
前記蓄電部及び前記電機子巻線を電気的に接続し、上,下アームスイッチ(SUH~SWL)を有する電力変換器(20)と、
前記ロータから回転駆動対象(12)までの動力伝達機構(11)を構成し、前記ロータからの回転動力によって回転するとともに互いに噛み合う少なくとも一対のギア(13,14)と、
を備えるシステムに適用される電力変換器の制御装置(60)において、
前記電機子巻線に流すd,q軸目標電流(Id*,Iq*)を算出する目標値算出部(63,67,163)と、
算出された前記d軸目標電流に前記電機子巻線に流れるd軸電流(Idr)を制御するとともに、算出された前記q軸目標電流に前記電機子巻線に流れるq軸電流(Iqr)を制御すべく、前記上,下アームスイッチのスイッチング制御を行う電機子制御部(68)と、
を備え、
前記目標値算出部は、前記ロータの発生トルクを、前記ロータの回転停止状態を維持可能なトルクにするとの第1条件、及び前記電機子巻線に流す交流電流の1周期又は複数周期における前記発生トルクの時間平均値を0からオフセットさせるとの第2条件を満たすように、前記d,q軸目標電流を算出する、電力変換器の制御装置。
【請求項2】
前記回転電機は、永久磁石(35)を有する前記ロータを備える永久磁石界磁型の回転電機、又は定電流が流れる界磁巻線(32)を有する前記ロータを備える巻線界磁型の回転電機であり、
前記第2条件は、前記電機子制御部による前記スイッチング制御の実行中において、前記発生トルクを正負方向のうち一方向にオフセットさせるとの条件である、請求項1に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項3】
前記目標値算出部(163)は、前記第1条件及び前記第2条件を満たすように、直流の前記d,q軸目標電流を算出する、請求項2に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項4】
前記目標値算出部(163)は、前記第1条件及び前記第2条件を満たすように、正弦波状の前記d軸目標電流を算出するとともに、前記d軸目標電流との位相差が0度又は180度となる正弦波状の前記q軸目標電流を算出する、請求項2に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項5】
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の開始タイミングからの所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である初期d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)を算出する初期目標値算出部(69A)を備え、
前記初期目標値算出部は、前記所定期間において、0から、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流に向かって前記初期d,q軸目標電流を漸増させる、請求項2~4のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項6】
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の終了タイミング前の所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である終了時d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)を算出する終了時目標値算出部(69B)を備え、
前記終了時目標値算出部は、前記所定期間において、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流から0に向かって前記終了時d,q軸目標電流を漸減させる、請求項2~4のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項7】
前記回転電機は、界磁巻線(32)を有する前記ロータを備える巻線界磁型の回転電機であり、
前記電力変換器は、第1電力変換器であり、
前記システムには、前記蓄電部及び前記界磁巻線を電気的に接続する第2電力変換器(40)が備えられ、
正弦波状の界磁目標電流(If*)を算出する目標界磁算出部(65)と、
算出された前記界磁目標電流に前記界磁巻線に流れる界磁電流(Ifr)を制御すべく、前記第2電力変換器のスイッチング制御を行う界磁制御部(66)と、
を備え、
前記第2条件は、前記電機子制御部及び前記界磁制御部による前記スイッチング制御の実行中において、前記発生トルクを正負方向のうち一方向にオフセットさせるとの条件である、請求項1に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項8】
前記目標値算出部(63,67)は、前記第1条件及び前記第2条件を満たすように、前記界磁目標電流との位相差が180度又は0度となる正弦波状の前記d軸目標電流を算出する、請求項7に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項9】
前記目標値算出部は、正弦波状の前記q軸目標電流を算出するとともに、前記q軸目標電流の極性が切り替わる場合に前記d軸電流の大きさが増加方向にオフセットするような前記d軸目標電流を算出する、請求項8に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項10】
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の開始タイミングからの所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である初期d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)、及び前記所定期間において用いられる前記界磁目標電流である初期界磁目標電流(Kt×If*)を算出する初期目標値算出部(69A)を備え、
前記初期目標値算出部は、前記所定期間において、0から、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流に向かって前記初期d,q軸目標電流を漸増させるとともに、0から、前記目標界磁算出部により算出された前記界磁目標電流に向かって前記初期界磁目標電流を漸増させる、請求項7~9のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項11】
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の終了タイミング前の所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である終了時d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)、及び前記所定期間において用いられる前記界磁目標電流である終了時界磁目標電流(Kt×If*)を算出する終了時目標値算出部(69B)を備え、
前記終了時目標値算出部は、前記所定期間において、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流から0に向かって前記終了時d,q軸目標電流を漸減させるとともに、前記目標界磁算出部により算出された前記界磁目標電流から0に向かって前記終了時界磁目標電流を漸減させる、請求項7~9のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項12】
前記システムは、車両に搭載されるシステムであり、
前記電機子制御部は、前記車両の停車中において前記スイッチング制御を行う、請求項1~4,7~9のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項13】
前記システムには、前記電力変換器において発生した熱を昇温対象(10)に伝達する熱伝達部(400,401)が備えられ、
前記昇温対象の昇温要求があるか否かを判定する判定部を備え、
前記電機子制御部は、前記昇温要求があると判定された場合、前記スイッチング制御を行う、請求項1~4,7~9のいずれか1項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項14】
蓄電部(10)と、
ロータ(31)及び電機子巻線(34U~34W)を有する回転電機(30)と、
前記蓄電部及び前記電機子巻線を電気的に接続し、上,下アームスイッチ(SUH~SWL)を有する電力変換器(20)と、
前記ロータから回転駆動対象(12)までの動力伝達機構(11)を構成し、前記ロータからの回転動力によって回転するとともに互いに噛み合う少なくとも一対のギア(13,14)と、
コンピュータ(60a)と、
を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記コンピュータに、
前記電機子巻線に流すd,q軸目標電流(Id*,Iq*)を算出する目標値算出処理と、
算出された前記d軸目標電流に前記電機子巻線に流れるd軸電流(Idr)を制御するとともに、算出された前記q軸目標電流に前記電機子巻線に流れるq軸電流(Iqr)を制御すべく、前記上,下アームスイッチのスイッチング制御を行う処理と、
を実行させ、
前記目標値算出処理は、前記ロータの発生トルクを、前記ロータの回転停止状態を維持可能なトルクにするとの第1条件、及び前記電機子巻線に流す交流電流の1周期又は複数周期における前記発生トルクの時間平均値を0からオフセットさせるとの第2条件を満たすように、前記d,q軸目標電流を算出する処理である、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換器の制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電部と、蓄電部に電気的に接続された電力変換器と、電力変換器に電気的に接続された電機子巻線を有する回転電機とを備えるシステムが知られている。このシステムに適用される制御装置は、電力変換器のスイッチング制御を行うことにより、電機子巻線に流すq軸電流を0としつつ、電機子巻線にd軸電流を流す。これにより、回転電機のロータの回転停止状態を維持しつつ、蓄電部を昇温させる。なお、このような制御装置の例として、特許文献1に開示された制御装置が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータの回転停止状態を維持しつつ、電力変換器のスイッチング制御により熱を発生させる場合におけるNV(Noise,Vibration)が問題となり得る。
【0005】
本開示は、回転電機のロータの回転停止状態を維持しつつ、電力変換器のスイッチング制御により熱を発生させる場合におけるNVを改善できる電力変換器の制御装置及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、蓄電部と、
ロータ及び電機子巻線を有する回転電機と、
前記蓄電部及び前記電機子巻線を電気的に接続し、上,下アームスイッチを有する電力変換器と、
前記ロータから回転駆動対象までの動力伝達機構を構成し、前記ロータからの回転動力によって回転するとともに互いに噛み合う少なくとも一対のギアと、
を備えるシステムに適用される電力変換器の制御装置において、
前記電機子巻線に流すd,q軸目標電流を算出する目標値算出部と、
算出された前記d軸目標電流に前記電機子巻線に流れるd軸電流を制御するとともに、算出された前記q軸目標電流に前記電機子巻線に流れるq軸電流を制御すべく、前記上,下アームスイッチのスイッチング制御を行う電機子制御部と、
を備え、
前記目標値算出部は、前記ロータの発生トルクを、前記ロータの回転停止状態を維持可能なトルクにするとの第1条件、及び前記電機子巻線に流す交流電流の1周期又は複数周期における前記発生トルクの時間平均値を0からオフセットさせるとの第2条件を満たすように、前記d,q軸目標電流を算出する。
【0007】
本開示では、電機子巻線に流れるd軸電流をd軸目標電流に制御するとともに、電機子巻線に流れるq軸電流をq軸目標電流に制御すべく、電力変換器を構成する上,下アームスイッチのスイッチング制御が行われる。d,q軸目標電流は、ロータの発生トルクを、ロータの回転停止状態を維持可能なトルクにするとの条件を満たすように算出される。
【0008】
本開示において、システムは、ロータから回転駆動対象までの動力伝達経路を構成する少なくとも一対のギアを備えている。一対のギアは、互いに噛み合うとともに、ロータからの回転動力によって回転する。
【0009】
ここで、一対のギアにはバックラッシュが設けられている。上記スイッチング制御によってロータの発生トルクの極性が正負交互に変化すると、ギアの回転方向が交互に変化し、ギアの歯打ちが発生し得る。この場合、ロータの回転停止状態を維持しているにもかかわらず、ギアの歯打ち音が発生する。歯打ち音が大きくなると、システムのNVが悪化してしまう。
【0010】
そこで、本開示では、電機子巻線に流す交流電流の1周期又は複数周期における回転電機の発生トルクの時間平均値を0からオフセットさせるとの条件を満たすように、d,q軸目標電流が算出される。これにより、一対のギアが有する歯同士の押し付け状態を維持して歯打ち音が発生するのを抑制したり、歯打ちが発生したとしても歯打ち音を低減したりすることができる。その結果、NVを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る車載システムの全体構成図。
【
図2】熱伝達部としての冷却システムの概要を示す図。
【
図4】比較例に係るロータの発生トルクの推移を模式的に示すタイムチャート。
【
図5】第1実施形態に係るロータの発生トルクの推移を模式的に示すタイムチャート。
【
図7】第1実施形態及び比較例に係る昇温制御中におけるロータ回転角度の推移を示すタイムチャート。
【
図8】昇温制御における3相交流電流、d,q軸電流及び界磁電流の推移を示すタイムチャート。
【
図10】昇温制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図11】昇温制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図12】第2実施形態に係る徐変処理態様を示すタイムチャート。
【
図15】第3実施形態に係る車載システムの全体構成図。
【
図16】d,q軸目標電流の推移を示すタイムチャート。
【
図17】d,q軸目標電流の推移を示すタイムチャート。
【
図19】昇温制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図20】第4実施形態に係るd,q軸目標電流の推移を示すタイムチャート。
【
図21】その他の実施形態に係るロータの発生トルクの推移を模式的に示すタイムチャート。
【
図22】その他の実施形態に係るロータの発生トルクの推移を模式的に示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本開示に係る制御装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の制御装置を備えるシステムは、電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載されている。
【0013】
図1に示すように、システムは、蓄電池10(「蓄電部」に相当)と、2つの電力変換器と、回転電機30とを備えている。本実施形態において、回転電機30は、巻線界磁型の回転電機である。本実施形態の回転電機30は、d軸インダクタンスLdがq軸インダクタンスLqよりも大きい特性である順突極性を有する回転電機である。
【0014】
蓄電池10は、例えば、単位電池の直列接続体を備える組電池である。単位電池は、1つの電池セル、又は複数の電池セルの直列接続体である。電池セルは、例えば、リチウムイオン電池等の2次電池である。蓄電池10は、車両の外部に備えられた外部充電器により充電可能である。外部充電器は、例えば定置式の充電器である。
【0015】
回転電機30は、車両の駆動輪12(「回転駆動対象」に相当)に回転動力を付与して駆動輪12を回転させる機器である。回転電機30は、ロータ31を備えている。ロータ31は、ロータコアと、ロータコアから径方向に延びる複数の界磁突極部とを備えている。各界磁突極部には、界磁巻線32が巻回されている。ロータ31の回転軸は、システムに備えられた動力伝達機構11を介して、車両の駆動輪12と動力伝達が可能とされている。回転電機30が電動機として機能することにより発生するトルクが、動力伝達機構11を介して駆動輪12に伝達され、駆動輪12が回転する。これにより、車両が走行する。なお、回転電機30は、例えば、車両の駆動輪12に一体に設けられるインホイールモータであってもよいし、車両の車体に備えられるオンボードモータであってもよい。
【0016】
動力伝達機構11は、変速装置及びシャフトを含む。変速装置は、例えば減速装置であり、少なくとも一対のギアを含む(
図3,6参照)。詳しくは、変速装置は、第1ギア13及び第2ギア14を含む。第1ギア13及び第2ギア14は、互いに噛み合った状態で、所定方向に延びる回転中心軸線を中心に回転可能になっている。
【0017】
回転電機30は、ステータ33を備えている。ステータ33は、電機子コアと、電機子巻線とを備えている。電機子コアは、円環状のバックヨーク部と、バックヨーク部から径方向においてロータ31側に延びる複数のティース部とを備えている。電機子巻線は、電気角で互いに120°ずれた状態で星形結線されたU,V,W相巻線34U,34V,34Wである。
【0018】
システムは、インバータ20(「第1電力変換器」に相当)と、界磁通電回路40(「第2電力変換器」に相当)とを備えている。インバータ20は、蓄電池10からの直流電流を交流電流に変換して電機子巻線に供給する。インバータ20は、U,V,W相上アームスイッチSUH,SVH,SWHと、U,V,W相下アームスイッチSUL,SVL,SWLとの直列接続体を備えている。本実施形態において、各スイッチSUH,SVH,SWH,SUL,SVL,SWLは、NチャネルMOSFETである。各スイッチSUH,SVH,SWH,SUL,SVL,SWLは、ボディダイオードDUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWLを備えている。
【0019】
U,V,W相上アームスイッチSUH,SVH,SWHの高電位側端子であるドレインには、高電位側電気経路Lpを介して蓄電池10の正極端子が接続されている。U,V,W相下アームスイッチSUL,SVL,SWLの低電位側端子であるソースには、低電位側電気経路Lnを介して蓄電池10の負極端子が接続されている。各電気経路Lp,Lnは、バスバー等の導電部材である。インバータ20は、平滑コンデンサである第1コンデンサ21を備えている。なお、第1コンデンサ21は、インバータ20の外部に設けられていてもよい。
【0020】
界磁通電回路40は、蓄電池10から界磁巻線32に電流を供給する。本実施形態の界磁通電回路40は、フルブリッジ回路であり、第1上アームスイッチSH1及び第1下アームスイッチSL1の直列接続体と、第2上アームスイッチSH2及び第2下アームスイッチSL2の直列接続体とを備えている。本実施形態において、各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2は、NチャネルMOSFETである。各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2は、ボディダイオードDH1,DH2,DL1,DL2を備えている。各スイッチSH1,SH2,SL1,SL2は、オンされている場合、ドレインからソースへの電流の流通、及びソースからドレインへの電流の流通が許可される双方向導通型のスイッチング素子である。
【0021】
第1,第2上アームスイッチSH1,SH2の高電位側端子であるドレインには、高電位側電気経路Lpを介して蓄電池10の正極端子が接続されている。第1,第2下アームスイッチSL1,SL2の低電位側端子であるソースには、低電位側電気経路Lnを介して蓄電池10の負極端子が接続されている。第1上アームスイッチSH1と第1下アームスイッチSL1との接続点には、図示しないブラシを介して界磁巻線32の第1端が接続されている。第2上アームスイッチSH2と第2下アームスイッチSL2との接続点には、図示しないブラシを介して界磁巻線32の第2端が接続されている。界磁通電回路40は、平滑コンデンサである第2コンデンサ41を備えている。なお、第2コンデンサ41は、界磁通電回路40の外部に設けられていてもよい。また、界磁通電回路40に個別に第2コンデンサ41が設けられるとともにインバータ20に個別に第1コンデンサ21が設けられる構成に代えて、インバータ20及び界磁通電回路40に共通のコンデンサが設けられる構成であってもよい。この場合、例えば、第2コンデンサ41が設けられない構成とすればよい。
【0022】
システムは、
図2に示すように、車両を走行させるためにインバータ20のスイッチング制御が行われている場合においてインバータ20、界磁通電回路40、回転電機30及び蓄電池10を冷却する装置を備えている。詳しくは、車両は、冷却水が循環する循環経路400と、電動式のウォータポンプ401と、ラジエータ402と、電動式のファン403とを備えている。ウォータポンプ401は、給電されて駆動されることにより冷却水を循環させる。
図2に示す例では、循環経路400において、ウォータポンプ401の下流側には、順に、インバータ20、界磁通電回路40、回転電機30、蓄電池10が配置されている。なお、循環経路400における配置順は、
図2に示す順序に限らない。
【0023】
循環経路400においてウォータポンプ401と蓄電池10の間には、ラジエータ402が設けられている。ラジエータ402は、循環経路400を介して流入する冷却水を冷却してウォータポンプ401へと供給する。車両の走行に伴いラジエータ402に吹き付けられる走行風や、ファン403を回転駆動させることによりラジエータ402に吹き付けられる風により、ラジエータ402に流入する冷却水が冷却される。
【0024】
なお、ウォータポンプ401及びファン403は、制御装置60とは別の制御装置により駆動され得る。ただし、本実施形態では、便宜上、ウォータポンプ401及びファン403が、システムが備える制御装置60により駆動されるものとする。
【0025】
図1の説明に戻り、システムは、電圧センサ50、相電流センサ51、界磁電流センサ52、角度センサ53、電池温度センサ54及び冷却水温センサ55を備えている。電圧センサ50は、蓄電池10の電圧を検出する。相電流センサ51は、U,V,W相巻線34U,34V,34Wのうち少なくとも2相の巻線に流れる相電流を検出する。界磁電流センサ52は、界磁巻線32に流れる界磁電流を検出する。角度センサ53は、ロータ31の回転角(具体的には電気角)を検出する。電池温度センサ54は、蓄電池10の温度を検出する。冷却水温センサ55は、循環経路400に流れる冷却水の温度を検出する。
【0026】
システムは、制御装置60と、制御装置60よりも上位の上位制御装置80とを備えている。各センサ50~55の検出値は、制御装置60に入力される。
【0027】
制御装置60は、マイコン60aを主体として構成される電子制御装置(Electronic Control Unit)である。上位制御装置80は、マイコンを主体として構成される電子制御装置(Electronic Control Unit)である。制御装置60と上位制御装置80とは、情報のやり取りが可能になっている。
【0028】
マイコン60aは、CPU(Central Processing Unit)を備えている。マイコン60aが提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコン60aがハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコン60aは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、例えば、後述する
図9~11等に示す処理のプログラムが含まれる。プログラムを構成するインストラクションのセットが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されたプログラムは、例えばOTA(Over The Air)等、インターネット等の通信ネットワークを介して更新可能である。
【0029】
制御装置60は、界磁巻線32を励磁すべく、界磁通電回路40を構成する各スイッチのスイッチング制御を行う。詳しくは、制御装置60は、界磁電流センサ52により検出された界磁電流Ifrを界磁目標電流If*に制御すべく、第1状態と第2状態とが交互に出現するようにスイッチング制御を行う。第1状態は、第1上アームスイッチSH1と第2下アームスイッチSL2とがオンされて、かつ、第2上アームスイッチSH2と第1下アームスイッチSL1とがオフされている状態である。第2状態は、第1上アームスイッチSH1と第2下アームスイッチSL2とがオフされて、かつ、第2上アームスイッチSH2と第1下アームスイッチSL1とがオンされている状態である。
【0030】
制御装置60は、界磁巻線32が励磁されている状態において、各センサ50~55の検出値に基づいて、回転電機30の制御量を指令値にフィードバック制御すべく、インバータ20を構成する各スイッチのスイッチング制御を行う。本実施形態において、制御量はトルクである。各相において、上アームスイッチと下アームスイッチとは交互にオンされる。このフィードバック制御により、ロータ31の回転動力が駆動輪12に伝達され、車両が走行する。
【0031】
続いて、制御装置60により実行される蓄電池10の昇温制御について説明する。この制御は、車両の停車中において外部充電器により蓄電池10を充電する場合において、電池温度センサ54により検出された蓄電池10の温度Trが目標温度T*を下回るとき、インバータ20及び界磁通電回路40のスイッチング制御により熱を発生させる制御である。発生した熱は、ウォータポンプ401の駆動によって循環経路400を循環する冷却水を介して蓄電池10に伝えられる。昇温制御は、例えば、蓄電池10の温度Trが目標温度T*に到達するまで継続される。また、ウォータポンプ401の駆動は、少なくとも昇温制御の実行中は継続される。なお、本実施形態において、循環経路400、循環経路400を循環する冷却水及びウォータポンプ401が「熱伝達部」に相当する。昇温制御により、蓄電池10を迅速に昇温させ、外部充電器による蓄電池10の充電時間の短縮を図る。
【0032】
昇温制御による昇温能力を高めるために、制御装置60は、昇温制御において、電機子巻線に正弦波状のd,q軸電流を流すようにインバータ20のスイッチング制御を行う。この際、ロータ31の回転停止状態を維持して車両の停車状態を維持するために、制御装置60は、d,q軸電流の流通によって発生するリラクタンストルクをマグネットトルクで減少させるように界磁通電回路40のスイッチング制御を行う。
【0033】
ところで、
図3に示すように、動力伝達機構11を構成する第1ギア13及び第2ギア14には、バックラッシュが設けられている。
図3には、各ギア13,14として外歯歯車を例示している。バックラッシュが設けられる構成において、昇温制御におけるインバータ20のスイッチング制御により、
図4に示すようにロータ31の発生トルクTrqrの極性が正負交互に変化すると、第1ギア13及び第2ギア14の回転方向が交互に変化し、第1ギア13の歯13a及び第2ギア14の歯14a同士が衝突する歯打ちが発生し得る。
図4のTrqmaxは、トルク閾値である。トルク閾値Trqmaxは、駆動輪12が回転し始めるトルクであり、例えば、駆動輪12が回転し始めるトルクとして想定される範囲の上限値に設定されている。なお、
図4のTrH,TrLは、昇温制御に伴い発生するNV特性値(例えば、騒音,振動)を許容値以下にするトルク幅ΔTrを規定する上,下限値である。
【0034】
昇温制御において、ロータ31の発生トルクTrqrがトルク閾値Trqmax以下となってロータ31の回転停止状態を維持されているにもかかわらず、ギアの歯打ち音が大きくなると、システムのNVが悪化してしまう。
【0035】
ちなみに、発生トルクTrqrを0にするように昇温制御を行うことも考えられる。しかしながら、相電流センサ51の検出誤差等に起因して、実際の発生トルクの変動量が小さいながらも、発生トルクの極性が正負交互に変化し、歯打ちが発生する懸念がある。
【0036】
そこで、本実施形態では、
図5,8に示すように、電機子巻線に流す交流電流の1周期又は複数周期における発生トルクTrqrの時間平均値を0からオフセット値Toffsetだけオフセットさせるとの条件を満たすように、インバータ20及び界磁通電回路40のスイッチング制御が行われる。これにより、
図6及び
図7に示すように、第1ギア13の歯13a及び第2ギア14の歯14a同士の押し付け状態を維持して歯打ち音が発生するのを抑制し、NVの改善を図る。
【0037】
続いて、本実施形態の昇温制御の概要について説明する。
【0038】
巻線界磁型の回転電機30の発生トルクTrqは、下式(eq1)で表されるように、マグネットトルクTMと、リラクタンストルクTRとからなる。下式(eq1)において、Pは回転電機30の極対数を示し、φfは界磁巻線32に界磁電流が流れることにより発生する磁束を示す。
【0039】
Trq=TM+TR
=P・φf・Iq+P・(Ld-Lq)・Id・Iq…(eq1)
制御装置60は、昇温制御において、電気角で120度位相がずれた正弦波状の3相交流電流IU,IV,IWを各相巻線34U~34Wに流すように、インバータ20のスイッチング制御を行う。この場合、正弦波状のd,q軸電流Id,Iqが流れる。この場合におけるd,q軸電流Id,Iqの周波数は同じであり、d軸電流Idとq軸電流Iqとの位相差は電気角で90度である。
【0040】
ここで、電機子巻線に流す交流電流の1周期における発生トルクTrqrの時間平均値を、0からオフセット値Toffsetだけ常時オフセットさせるとの条件を満たすために、上式(eq1)の左辺をオフセット値Toffsetにすると、下式(eq2)が導かれる。オフセット値Toffsetは、ロータ31の発生トルクがトルク閾値Trqmax以下になるような値に設定されている。
【0041】
Tоffset=P・φf・Iq+P・(Ld-Lq)・Id・Iq…(eq2)
また、「φf=Lmf×If」の関係がある。Lmf(>0)は、結合インダクタンスであり、ステータ33のバックヨーク部及びティース部と、ロータ31のロータコア及び界磁突極部とを含むd軸磁路のインダクタンスである。
【0042】
「φf=Lmf×If」を上式(eq2)に代入するとともに、上式(eq2)をd軸電流Idについて解くと、下式(eq3)が導かれる。
【0043】
【数1】
図8に示すように、制御装置60は、正弦波状の界磁目標電流If*を算出する。また、制御装置60は、界磁目標電流If*との位相差が90度となる正弦波状のq軸目標電流Iq*を算出する。制御装置60は、算出した界磁目標電流If*及びq軸目標電流Iq*と、上式(eq3)とに基づいて、d軸目標電流Id*を算出する。各目標電流If*,Iq*,Id*の周波数は同じであり、d軸目標電流Id*と界磁目標電流If*との位相差は180度となる。
【0044】
オフセット値Toffsetを含む上式(eq3)の右辺第2項の極性は、q軸目標電流Iq*の極性が切り替わるたびに切り替わる。
図8において、t1はq軸目標電流Iq*の極性が正から負に切り替わるタイミングであり、t2はq軸目標電流Iq*の極性が負から正に切り替わるタイミングである。d軸目標電流Id*は、q軸目標電流Iq*の極性が切り替わる場合にd軸目標電流Id*の大きさが増加方向にオフセットするような波形となる。
【0045】
図9に、制御装置60により実行される昇温制御のブロック図を示す。
【0046】
3相目標振幅算出部61は、制御周期毎に、上位制御装置80から目標熱量Q*を取得し、取得した目標熱量Q*に基づいて、U相目標電流の振幅Iuamp*、V相目標電流の振幅Ivamp*、及びW相目標電流の振幅Iwamp*を算出する。各振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*は同じ値である。3相目標振幅算出部61は、例えば、目標熱量Q*が大きいほど、各振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*を大きく算出する。3相目標振幅算出部61は、例えば、目標熱量Q*及び各振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*が関係付けられたマップ情報と、取得した目標熱量Q*とに基づいて、各振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*を算出すればよい。なお、目標熱量Q*は、例えば、インバータ20の各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLのスイッチング制御に伴い単位時間当たりに各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLで発生する熱量[W]の目標値である。
【0047】
2相目標振幅算出部62は、制御周期毎に、各相電流の振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*と、角度センサ53により検出された電気角θeとに基づいて、3相固定座標系における各相電流の振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*を、2相回転座標系(dq座標系)におけるd軸目標電流Id*の振幅Idamp*及びq軸目標電流Iq*の振幅Iqamp*に変換する。
【0048】
目標q軸電流算出部63は、2相目標振幅算出部62により算出されたq軸目標電流Iq*の振幅Iqamp*を振幅とする正弦波状のq軸目標電流Iq*を算出する。目標q軸電流算出部63は、例えば、下式(eq4)のq軸目標電流Iq*を算出する。なお、下式(eq4)において、ωは各周波数であり、tは基準タイミングからの経過時間である。
【0049】
Iq*=Iqamp*×sin(ω×t)…(eq4)
2相変換部64は、制御周期毎に、相電流センサ51の検出値と、検出された電気角θeとに基づいて、3相固定座標系におけるU,V,W相電流を、dq座標系におけるd軸電流Idr及びq軸電流Iqrに変換する。
【0050】
目標界磁算出部65は、制御周期毎に、2相目標振幅算出部62により算出されたd軸目標電流Id*の振幅Idamp*に基づいて、q軸目標電流Iq*と90度位相がずれて、かつ、q軸目標電流Iq*と同じ周波数を有する正弦波状の界磁目標電流If*を算出する。目標界磁算出部65は、例えば、d軸目標電流Id*の振幅Idamp*と、下式(eq5)とに基づいて、界磁目標電流If*を算出する。
【0051】
【数2】
なお、界磁目標電流If*の周波数は、界磁電流Ifrの制御応答性を満足できる周波数に設定されており、例えば、5Hz以上の周波数又は10Hz以上であって、かつ、30又は40Hz以下の周波数に設定されている。
【0052】
界磁制御部66は、目標界磁算出部65により算出された界磁目標電流If*に、検出された界磁電流Ifrをフィードバック制御すべく、界磁通電回路40の各スイッチSH1,SL1,SH2,SL2のゲート駆動信号を生成する。界磁制御部66は、生成したゲート駆動信号を各スイッチSH1,SL1,SH2,SL2を駆動するドライブ回路に出力する。これにより、界磁電流Ifrが正弦波状の界磁目標電流If*に制御される。
【0053】
目標d軸電流算出部67は、制御周期毎に、目標界磁算出部65により算出された界磁目標電流If*、目標q軸電流算出部63により算出されたq軸目標電流Iq*、及び上式(eq3)に基づいて、d軸目標電流Id*を算出する。本実施形態では、「Ld>Lq」であるため、d軸目標電流Id*と界磁目標電流If*との位相差が180度となる。なお、本実施形態において、目標d軸電流算出部67及び目標q軸電流算出部63が「目標値算出部」に相当する。
【0054】
ちなみに、上式(eq3)の右辺第2項の分母が0に近い値になると、d軸目標電流Id*が非常に大きな値になり得る。本実施形態では、非常に大きな値にならないように、d軸目標電流Id*が算出される。例えば、目標d軸電流算出部67は、リミッタを備え、リミッタは、右辺第2項の絶対値が規制値を超える場合、右辺第2項の絶対値を規制値とする。d軸目標電流Id*のピーク値が取り得る範囲の最大値をIpとする場合、規制値は、例えば、「0.05×Ip≦規制値≦0.25×Ip」、「0.1×Ip≦規制値≦0.2×Ip」、「0.05×Ip≦規制値≦0.15×Ip」又は「0.08×Ip≦規制値≦0.12×Ip」に設定されていればよい。なお、目標d軸電流算出部67にリミッタが備えられていない場合であっても、制御上の不都合は発生しない。例えば、右辺第2項の分母が0に近い値になってd軸目標電流Id*が非常に大きな値になったとしても、実際のd軸電流の応答性の影響により、実際のd軸電流が非常に大きな値になることはない。
【0055】
3相制御部68は、算出されたq軸目標電流Iq*に、2相変換部64により算出されたq軸電流Iqrをフィードバック制御するとともに、目標d軸電流算出部67により算出されたd軸目標電流Id*に、2相変換部64により算出されたd軸電流Idrをフィードバック制御すべく、インバータ20の各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLのゲート駆動信号を生成する「電機子制御部」として機能する。この生成処理において、電気角θeと、電圧センサ50により検出された電源Vdcとが用いられる。3相制御部68は、生成したゲート駆動信号を各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLを駆動するドライブ回路に出力する。これにより、d軸電流Idrが正弦波状のd軸目標電流Id*に制御されるとともに、q軸電流Iqrが正弦波状のq軸目標電流Iq*に制御される。
【0056】
図10は、制御装置60により実行される昇温制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、例えば、外部充電器による蓄電池10の充電が開始されたと制御装置60により判定された場合に実行される。
【0057】
ステップS10では、蓄電池10の昇温要求があるか否かを判定する。本実施形態では、検出された蓄電池10の温度Trが目標温度T*を下回っている場合に昇温要求があると判定する。なお、本実施形態において、ステップS10の処理が「判定部」に相当する。
【0058】
ステップS10において昇温要求があると判定した場合には、ステップS11に進み、昇温制御処理を行う。
【0059】
ステップS12では、昇温対象の温度Tobjが目標温度T*に到達したか否かを判定する。本実施形態では、上述したように、昇温対象が蓄電池10のため、昇温対象の温度Tobjは蓄電池10の温度Trである。
【0060】
ステップS12において蓄電池10の温度Trが目標温度T*未満であると判定した場合には、ステップS11の処理を継続する。一方、蓄電池10の温度Trが目標温度T*に到達したと判定した場合には、昇温制御を停止させる。ちなみに、昇温制御の実行中において、循環経路400の冷却水の温度低下を抑制するために、ファン403の回転駆動を停止させておいてもよい。
【0061】
図11を用いて、ステップS11の処理について説明する。
【0062】
ステップS20では、上位制御装置80から目標熱量Q*を取得する。なお、上位制御装置80は、例えば、目標温度T*から蓄電池10の温度Trを差し引いた値が大きいほど、目標熱量Q*を大きく算出すればよい。
【0063】
ステップS21では、3相目標振幅算出部61において、ステップS20で取得した目標熱量Q*に基づいて、U相目標電流の振幅Iuamp*、V相目標電流の振幅Ivamp*、及びW相目標電流の振幅Iwamp*を算出する。
【0064】
ステップS22では、2相目標振幅算出部62において、ステップS21で算出した各相電流の振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*と、電気角θeとに基づいて、d軸目標電流Id*の振幅Idamp*及びq軸目標電流Iq*の振幅Iqamp*を算出する。
【0065】
ステップS23では、目標q軸電流算出部63において、ステップS22で算出したq軸目標電流Iq*の振幅Iqamp*に基づいて、q軸目標電流Iq*を算出する。
【0066】
ステップS24では、目標界磁算出部65において、ステップS22で算出したd軸目標電流Id*の振幅Idamp*に基づいて、界磁目標電流If*を算出する。
【0067】
ステップS25では、目標d軸電流算出部67において、ステップS24で算出した界磁目標電流If*と、ステップS23で算出したq軸目標電流Iq*とに基づいて、d軸目標電流Id*を算出する。
【0068】
ステップS26では、2相変換部64において、相電流センサ51の検出値と、電気角θeとに基づいて、d軸電流Idr及びq軸電流Iqrを算出する。
【0069】
ステップS27では、界磁制御部66において、ステップS24で算出した界磁目標電流If*に界磁電流Ifrをフィードバック制御すべく、界磁通電回路40の各SH1,SL1,SH2,SL2のスイッチング制御を行う。
【0070】
ステップS28では、3相制御部68において、ステップS25で算出したd軸目標電流Id*にステップS26で算出したd軸電流Idrをフィードバック制御するとともに、ステップS23で算出したq軸目標電流Iq*にステップS26で算出したq軸電流Iqrをフィードバック制御すべく、インバータ20の各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLのスイッチング制御を行う。
【0071】
以上説明した本実施形態によれば、一対のギア13,14が有する歯13a,14a同士の押し付け状態を維持して歯打ち音が発生するのを抑制することができる。
【0072】
<第1実施形態の変形例>
・回転電機30は、q軸インダクタンスLqがd軸インダクタンスLdよりも大きい特性である逆突極性を有する回転電機であってもよい。この場合、d軸目標電流Id*と界磁目標電流If*との位相差が0度となる。
【0073】
・制御装置60は、トルク閾値Trqmaxを可変とすることができる。例えば、制御装置60は、車両のパーキングブレーキが作動状態であると判定した場合、作動状態でない場合よりもトルク閾値Trqmaxを大きく設定する。
【0074】
また、制御装置60は、車両の走行路面温度を取得する取得部を有し、取得した路面温度に基づいてトルク閾値Trqmaxを変更してもよい。ここでは、路面温度及びトルク閾値Trqmaxが関係付けられたマップ情報が用いられればよい。
【0075】
・制御装置60は、昇温制御の実行中において、車両に備えられる機械式ブレーキ装置により車両の車輪に制動トルクを付与するようにしてもよい。
【0076】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図12及び
図13に示すように、制御装置60は、初期目標値算出部69Aを備えている。初期目標値算出部69Aは、初期d,q軸目標電流Kt×Id*,Kt×Iq*と、初期界磁目標電流Kt×If*とを算出する。初期d,q軸目標電流Kt×Id*,Kt×Iq*は、3相制御部68によるインバータ20のスイッチング制御及び界磁制御部66による界磁通電回路40のスイッチング制御の開始タイミングt1からタイミングt2までの第1所定期間において用いられるd,q軸目標電流Id*,Iq*である。初期界磁目標電流Kt×If*は、第1所定期間において用いられる界磁目標電流If*である。算出された初期d,q軸目標電流Kt×Id*,Kt×Iq*は、3相制御部68で用いられ、算出された初期界磁目標電流Kt×If*は、界磁制御部66で用いられる。
【0077】
初期目標値算出部69Aは、第1所定期間の開始タイミングt1における係数Ktを0に設定し、開始タイミングt1から第1所定期間の終了タイミングt2に向かうにつれて係数Ktを1に向かって漸増させ、終了タイミングt2以降において係数Ktを1に設定する。係数Ktが乗算されるq軸目標電流Iq*は、目標q軸電流算出部63により算出され、係数Ktが乗算されるd軸目標電流Id*は、目標d軸電流算出部67により算出される。また、係数Ktが乗算される界磁目標電流If*は、目標界磁算出部65により算出される。
【0078】
これにより、昇温制御開始時におけるロータ31の発生トルクの脈動を抑制できる。
【0079】
また、
図12及び
図14に示すように、制御装置60は、終了時目標値算出部69Bを備えている。終了時目標値算出部69Bは、終了時d,q軸目標電流Kt×Id*,Kt×Iq*と、終了時界磁目標電流Kt×If*とを算出する。終了時d,q軸目標電流Kt×Id*,Kt×Iq*は、3相制御部68によるインバータ20のスイッチング制御及び界磁制御部66による界磁通電回路40のスイッチング制御の終了タイミングt4よりも前のタイミングt3から、終了タイミングt4までの第2所定期間において用いられるd,q軸目標電流Id*,Iq*である。終了時界磁目標電流Kt×If*は、第2所定期間において用いられる界磁目標電流If*である。算出された終了時d,q軸目標電流Kt×Id*,Kt×Iq*は、3相制御部68で用いられ、算出された終了時界磁目標電流Kt×If*は、界磁制御部66で用いられる。
【0080】
終了時目標値算出部69Bは、第2所定期間の開始タイミングt3における係数Ktを1に設定し、開始タイミングt3から第2所定期間の終了タイミングt4に向かうにつれて係数Ktを0に向かって漸減させ、終了タイミングt4以降において係数Ktを0に設定する。係数Ktが乗算されるq軸目標電流Iq*は、目標q軸電流算出部63により算出され、係数Ktが乗算されるd軸目標電流Id*は、目標d軸電流算出部67により算出される。また、係数Ktが乗算される界磁目標電流If*は、目標界磁算出部65により算出される。
【0081】
これにより、昇温制御の終了時におけるロータ31の発生トルクの脈動を抑制できる。
【0082】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図15に示すように、回転電機30は、永久磁石界磁型の回転電機である。
【0083】
回転電機30のロータ31は、界磁極として、第1実施形態の界磁巻線32に代えて、永久磁石35(例えば、ネオジム磁石)を備えている。このため、本実施形態のシステムは、界磁通電回路40及び界磁電流センサ52を備えていない。
【0084】
続いて、本実施形態の昇温制御の概要について説明する。
【0085】
永久磁石界磁型の回転電機30の発生トルクTrqは、下式(eq6)で表されるように、マグネットトルクTMと、リラクタンストルクTRとからなる。下式(eq6)において、φmは永久磁石35により発生する磁束を示す。
【0086】
Trq=TM+TR
=P・φm・Iq+P・(Ld-Lq)・Id・Iq …(eq6)
ここで、電機子巻線に流す交流電流の1周期又は複数周期における発生トルクTrqrの時間平均値を0からオフセット値Toffsetだけオフセットさせるとの条件を満たすために、上式(eq6)の左辺をオフセット値Toffsetにすると、下式(eq7)が導かれる。
【0087】
Tоffset=P・φm・Iq+P・(Ld-Lq)・Id・Iq …(eq7)
上式(eq7)をq軸電流Iqについて解くと、下式(eq8)が導かれる。
【0088】
【数3】
本実施形態の制御装置60は、直流のd軸目標電流Id*を算出する。制御装置60は、算出したd軸目標電流Id*及び上式(eq8)に基づいてq軸目標電流Iq*を算出するため、q軸目標電流Iq*も直流電流となる。ここで、回転電機30として、以下(A)又は(B)の特性を有するものがあるため、制御装置60は、各特性に応じたd,q軸目標電流Id*,Iq*を算出する。
【0089】
(A)φm+(Lq-Ld)×Id>0となる特性
この場合、制御装置60は、
図16に示すように、互いの極性が同じになるd,q軸目標電流Id*,Iq*を算出する。
図16において、正のd軸電流は強め界磁電流を示し、負のd軸電流は弱め界磁電流を示すため、制御装置60は、強め界磁のd軸目標電流Id*を算出する。この場合、電機子巻線に弱め界磁電流を流すことに伴う永久磁石35の減磁の発生を抑制できる。なお、制御装置60は、強め界磁のd軸目標電流Id*を算出することに代えて、弱め界磁のd軸目標電流Id*を算出してもよい。
【0090】
(B)φm+(Lq-Ld)×Id<0となる特性
この場合、制御装置60は、
図17に示すように、互いの極性が異なるd,q軸目標電流Id*,Iq*を算出する。
図17に示す例では、制御装置60は、強め界磁のd軸目標電流Id*を算出する。なお、制御装置60は、強め界磁のd軸目標電流Id*を算出することに代えて、弱め界磁のd軸目標電流Id*を算出してもよい。
【0091】
図18に、制御装置60により実行される昇温制御のブロック図を示す。
【0092】
3相目標振幅算出部161は、制御周期毎に、
図9の3相目標振幅算出部61と同様に、上位制御装置80から目標熱量Q*を取得し、取得した目標熱量Q*に基づいて、U相目標電流の振幅Iuamp*、V相目標電流の振幅Ivamp*、及びW相目標電流の振幅Iwamp*を算出する。
【0093】
2相目標振幅算出部162は、制御周期毎に、
図9の2相目標振幅算出部62と同様に、各相電流の振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*と、検出された電気角θeとに基づいて、各相電流の振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*を、d軸目標電流Id*の振幅Idamp*に変換する。
【0094】
目標電流算出部163は、2相目標振幅算出部162により算出されたd軸目標電流Id*の振幅Idamp*に基づいて、d軸目標電流Id*を算出する。目標電流算出部163は、例えば、d軸目標電流Id*の振幅Idamp*をd軸目標電流Id*(=Idamp*)として算出すればよい。
【0095】
2相変換部164は、制御周期毎に、相電流センサ51の検出値と、検出された電気角θeとに基づいて、3相固定座標系におけるU,V,W相電流を、dq座標系におけるd軸電流Idr及びq軸電流Iqrに変換する。
【0096】
目標電流算出部163は、制御周期毎に、算出したd軸目標電流Id*と、上式(eq8)とに基づいて、q軸目標電流Iq*を算出する。なお、本実施形態において、目標電流算出部163が「目標値算出部」に相当する。
【0097】
3相制御部165は、算出されたd軸目標電流Id*に、2相変換部164により算出されたd軸電流Idrをフィードバック制御するとともに、算出されたq軸目標電流Iq*に、2相変換部164により算出されたq軸電流Iqrをフィードバック制御すべく、インバータ20の各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLのゲート駆動信号を生成する「電機子制御部」として機能する。この生成処理において、電気角θeと、電圧センサ50により検出された電源Vdcとが用いられる。3相制御部165は、生成したゲート駆動信号を各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLを駆動するドライブ回路に出力する。これにより、d軸電流Idrが直流のd軸目標電流Id*に制御されるとともに、q軸電流Iqrが直流のq軸目標電流Iq*に制御される。
【0098】
図19は、本実施形態に係る昇温制御の処理手順を示すフローチャートであり、先の
図10のステップS11に示す処理に対応している。
【0099】
ステップS30では、ステップS20と同様に、上位制御装置80から目標熱量Q*を取得する。
【0100】
ステップS31では、3相目標振幅算出部161において、ステップS30で取得した目標熱量Q*に基づいて、U相目標電流の振幅Iuamp*、V相目標電流の振幅Ivamp*、及びW相目標電流の振幅Iwamp*を算出する。
【0101】
ステップS32では、2相目標振幅算出部162において、ステップS31で算出した各相電流の振幅Iuamp*,Ivamp*,Iwamp*と、電気角θeとに基づいて、d軸目標電流Id*の振幅Idamp*を算出する。
【0102】
ステップS33では、目標電流算出部163において、ステップS33で算出したd軸目標電流Id*の振幅Idamp*に基づいて、直流のd軸目標電流Id*を算出する。
【0103】
ステップS34では、目標電流算出部163において、算出したd軸目標電流Id*に基づいて、直流のq軸目標電流Iq*を算出する。
【0104】
ステップS35では、2相変換部164において、相電流センサ51の検出値と、電気角θeとに基づいて、d軸電流Idr及びq軸電流Iqrを算出する。
【0105】
ステップS36では、3相制御部165において、ステップS33で算出したd軸目標電流Id*にステップS36で算出したd軸電流Idrをフィードバック制御するとともに、ステップS34で算出したq軸目標電流Iq*にステップS36で算出したq軸電流Iqrをフィードバック制御すべく、インバータ20の各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLのスイッチング制御を行う。
【0106】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、一対のギア13,14が有する歯13a,14a同士の押し付け状態を維持して歯打ち音が発生するのを抑制することができる。
【0107】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第3実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態の制御装置60の目標電流算出部163は、直流に代えて、正弦波状の交流のd軸目標電流Id*を算出する。詳しくは、目標電流算出部163は、2相目標振幅算出部162により算出されたd軸目標電流Id*の振幅Idamp*を振幅とする正弦波状のd軸目標電流Id*を算出する。目標電流算出部163は、例えば、下式(eq9)のd軸目標電流Id*を算出する。
【0108】
Id*=Idamp*×sin(ω×t)…(eq9)
目標電流算出部163は、算出したd軸目標電流Id*及び上式(eq8)に基づいてq軸目標電流Iq*を算出する。ここで、回転電機30として、以下(C)~(E)の特性を有するものがあるため、目標電流算出部163は、各特性に応じたd,q軸目標電流Id*,Iq*を算出する。
【0109】
(C)Lq>Ldとなる特性
この場合、目標電流算出部163は、
図20の上段に示すように、d軸目標電流Id*と180度位相が異なる正弦波状のq軸目標電流Iq*を算出する。
【0110】
(D)Lq<Ldとなる特性
この場合、目標電流算出部163は、
図20の中段に示すように、d軸目標電流Id*と同位相の正弦波状のq軸目標電流Iq*を算出する。
【0111】
(E)Lq=Ldとなる特性
この場合、目標電流算出部163は、
図20の下段に示すように、直流のq軸目標電流Iq*を算出する。この場合のq軸目標電流Iq*は、下式(eq10)で表される。
【0112】
【数4】
なお、本実施形態の昇温制御は、先の
図19に示した処理と同様の処理となる。
【0113】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0114】
・上式(eq7)をd軸電流Idについて解くと、下式(eq11)が導かれる。
【0115】
【数5】
この場合において、第4実施形態の制御装置60は、正弦波状のq軸目標電流Iq*及び上式(eq11)に基づいて、正弦波状のd軸目標電流Id*を算出してもよい。
【0116】
・第3,第4実施形態において、
図12~
図14に示した徐変処理が実行されてもよい。
【0117】
・第3,第4実施形態の昇温制御が、界磁電流Ifrが一定値となる巻線界磁型の回転電機を備えるシステムに適用されてもよい。
【0118】
・電機子巻線に流す交流電流の複数周期における発生トルクの時間平均値を0からオフセット値Toffsetだけオフセットさせるとの条件を満たすように、第1,第2実施形態のd,q軸目標電流Id*,Iq*及び界磁目標電流If*、又は第3,第4実施形態のd,q軸目標電流Id*,Iq*が算出されてもよい。
【0119】
図21に示すように、発生トルクの1周期のうち一部期間における発生トルクの極性が負となったり、
図22に示すように、複数周期のうち、一部周期の一部期間における発生トルクの極性が負となったりする場合であっても、電機子巻線に流す交流電流の複数周期における発生トルクの時間平均値を0からオフセット値Toffsetだけオフセットさせるとの条件を満たすことができる。この場合、歯打ちが発生したとしても歯打ち音を低減したり、歯打ち回数を低減したりすることができる。
【0120】
・回転電機としては、同期機に限らず、誘導機等の非同期機であってもよい。
【0121】
・回転電機としては、ロータ及びステータが径方向に対向するラジアル型のものに限らず、ロータ及びステータが回転軸の軸方向に対向するアキシャル型のものであってもよい。
【0122】
・回転電機としては、星形結線されるものに限らず、Δ結線されるものであってもよい。また、回転電機及びインバータとしては、3相のものに限らず、2相のもの、又は4相以上のものであってもよい。
【0123】
・昇温制御による昇温対象を、例えば、循環経路400の冷却水としてもよい。冷却水を車室内暖房の熱源として利用する空調装置が車両に備えられる場合、昇温制御により、暖房の熱源の温度を迅速に上昇させることができる。
【0124】
・熱伝達部としては、冷却流体として冷却水を用いるものに限らず、例えば、冷却流体として気体(空気)を用いる空冷式のものであってもよいし、金属製のヒートシンクであってもよい。熱伝達部としてヒートシンクが用いられる場合、例えば、ヒートシンクにインバータ等の電力変換器及び蓄電池が設けられていればよい。
【0125】
・電力変換器のスイッチは、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。この場合、IGBTにフリーホイールダイオードが逆並列接続されていればよい。
【0126】
・インバータ等の電力変換器に接続される蓄電部としては、蓄電池に限らず、例えば、大容量の電気二重層キャパシタ、又は蓄電池及び電気二重層キャパシタの双方を備えるものであってもよい。
【0127】
・制御装置が搭載される移動体としては、車両に限らず、例えば、航空機又は船舶であってもよい。航空機の場合、回転駆動対象は例えばプロペラであり、船舶の場合、かいてnは例えばスクリューである。また、制御装置の搭載先は、移動体に限らず、定置式の装置であってもよい。
【0128】
・本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0129】
以下、上述した各実施形態から抽出される特徴的な構成を記載する。
[構成1]
蓄電部(10)と、
ロータ(31)及び電機子巻線(34U~34W)を有する回転電機(30)と、
前記蓄電部及び前記電機子巻線を電気的に接続し、上,下アームスイッチ(SUH~SWL)を有する電力変換器(20)と、
前記ロータから回転駆動対象(12)までの動力伝達機構(11)を構成し、前記ロータからの回転動力によって回転するとともに互いに噛み合う少なくとも一対のギア(13,14)と、
を備えるシステムに適用される電力変換器の制御装置(60)において、
前記電機子巻線に流すd,q軸目標電流(Id*,Iq*)を算出する目標値算出部(63,67,163)と、
算出された前記d軸目標電流に前記電機子巻線に流れるd軸電流(Idr)を制御するとともに、算出された前記q軸目標電流に前記電機子巻線に流れるq軸電流(Iqr)を制御すべく、前記上,下アームスイッチのスイッチング制御を行う電機子制御部(68)と、
を備え、
前記目標値算出部は、前記ロータの発生トルクを、前記ロータの回転停止状態を維持可能なトルクにするとの第1条件、及び前記電機子巻線に流す交流電流の1周期又は複数周期における前記発生トルクの時間平均値を0からオフセットさせるとの第2条件を満たすように、前記d,q軸目標電流を算出する、電力変換器の制御装置。
[構成2]
前記回転電機は、永久磁石(35)を有する前記ロータを備える永久磁石界磁型の回転電機、又は定電流が流れる界磁巻線(32)を有する前記ロータを備える巻線界磁型の回転電機であり、
前記第2条件は、前記電機子制御部による前記スイッチング制御の実行中において、前記発生トルクを正負方向のうち一方向にオフセットさせるとの条件である、構成1に記載の電力変換器の制御装置。
[構成3]
前記目標値算出部(163)は、前記第1条件及び前記第2条件を満たすように、直流の前記d,q軸目標電流を算出する、構成2に記載の電力変換器の制御装置。
[構成4]
前記目標値算出部(163)は、前記第1条件及び前記第2条件を満たすように、正弦波状の前記d軸目標電流を算出するとともに、前記d軸目標電流との位相差が0度又は180度となる正弦波状の前記q軸目標電流を算出する、構成2に記載の電力変換器の制御装置。
[構成5]
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の開始タイミングからの所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である初期d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)を算出する初期目標値算出部(69A)を備え、
前記初期目標値算出部は、前記所定期間において、0から、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流に向かって前記初期d,q軸目標電流を漸増させる、構成2~4のいずれか1つに記載の電力変換器の制御装置。
[構成6]
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の終了タイミング前の所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である終了時d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)を算出する終了時目標値算出部(69B)を備え、
前記終了時目標値算出部は、前記所定期間において、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流から0に向かって前記終了時d,q軸目標電流を漸減させる、構成2~5のいずれか1つに記載の電力変換器の制御装置。
[構成7]
前記回転電機は、界磁巻線(32)を有する前記ロータを備える巻線界磁型の回転電機であり、
前記電力変換器は、第1電力変換器であり、
前記システムには、前記蓄電部及び前記界磁巻線を電気的に接続する第2電力変換器(40)が備えられ、
正弦波状の界磁目標電流(If*)を算出する目標界磁算出部(65)と、
算出された前記界磁目標電流に前記界磁巻線に流れる界磁電流(Ifr)を制御すべく、前記第2電力変換器のスイッチング制御を行う界磁制御部(66)と、
を備え、
前記第2条件は、前記電機子制御部及び前記界磁制御部による前記スイッチング制御の実行中において、前記発生トルクを正負方向のうち一方向にオフセットさせるとの条件である、構成1に記載の電力変換器の制御装置。
[構成8]
前記目標値算出部(63,67)は、前記第1条件及び前記第2条件を満たすように、前記界磁目標電流との位相差が180度又は0度となる正弦波状の前記d軸目標電流を算出する、構成7に記載の電力変換器の制御装置。
[構成9]
前記目標値算出部は、正弦波状の前記q軸目標電流を算出するとともに、前記q軸目標電流の極性が切り替わる場合に前記d軸電流の大きさが増加方向にオフセットするような前記d軸目標電流を算出する、構成8に記載の電力変換器の制御装置。
[構成10]
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の開始タイミングからの所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である初期d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)、及び前記所定期間において用いられる前記界磁目標電流である初期界磁目標電流(Kt×If*)を算出する初期目標値算出部(69A)を備え、
前記初期目標値算出部は、前記所定期間において、0から、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流に向かって前記初期d,q軸目標電流を漸増させるとともに、0から、前記目標界磁算出部により算出された前記界磁目標電流に向かって前記初期界磁目標電流を漸増させる、構成7~9のいずれか1つに記載の電力変換器の制御装置。
[構成11]
前記電機子制御部による前記スイッチング制御の終了タイミング前の所定期間において用いられる前記d,q軸目標電流である終了時d,q軸目標電流(Kt×Id*,Kt×Iq*)、及び前記所定期間において用いられる前記界磁目標電流である終了時界磁目標電流(Kt×If*)を算出する終了時目標値算出部(69B)を備え、
前記終了時目標値算出部は、前記所定期間において、前記目標値算出部により算出された前記d,q軸目標電流から0に向かって前記終了時d,q軸目標電流を漸減させるとともに、前記目標界磁算出部により算出された前記界磁目標電流から0に向かって前記終了時界磁目標電流を漸減させる、構成7~10のいずれか1つに記載の電力変換器の制御装置。
[構成12]
前記システムは、車両に搭載されるシステムであり、
前記電機子制御部は、前記車両の停車中において前記スイッチング制御を行う、構成1~11のいずれか1つに記載の電力変換器の制御装置。
[構成13]
前記システムには、前記電力変換器において発生した熱を昇温対象(10)に伝達する熱伝達部(400,401)が備えられ、
前記昇温対象の昇温要求があるか否かを判定する判定部を備え、
前記電機子制御部は、前記昇温要求があると判定された場合、前記スイッチング制御を行う、構成1~12のいずれか1つに記載の電力変換器の制御装置。
【符号の説明】
【0130】
10…蓄電池、20…インバータ、30…回転電機、31…ロータ、34U~34W…U~W相巻線、40…界磁通電回路、60…制御装置。