(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179123
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20241219BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 375
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097698
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓司
(72)【発明者】
【氏名】滝ヶ浦 佑介
(72)【発明者】
【氏名】中井 優咲子
(72)【発明者】
【氏名】大西 隼也
(72)【発明者】
【氏名】石川 美知昭
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA09
2H500CA06
2H500CB12
2H500EA39B
2H500EA41B
2H500EA44B
2H500EA52B
2H500EA52D
2H500EA58B
2H500EA61B
(57)【要約】
【課題】低温定着性、折り定着性、および低飛散性を兼ね備えた静電荷像現像用トナーを提供すること。
【解決手段】静電荷像現像用トナーは、非晶性ポリエステル樹脂、および結晶性ポリエステル樹脂を含むトナー粒子を含有し、透過型電子顕微鏡で観察されるトナー粒子の断面には、非晶性ポリエステル樹脂を含むマトリクス、および結晶性ポリエステル樹脂を含む複数のドメインが存在し、複数のドメインの長軸方向の個数平均径が10nm以上200nm以下であり、複数のドメインの短軸方向の個数平均径が5nm以上100nm以下であり、複数のドメインの平均アスペクト比が1以上20以下であり、上記特定を満たすドメインの個数の割合が、70個数%以上100個数%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂を含むトナー粒子を含有する静電荷像現像用トナーであり、
透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー粒子の断面には、前記非晶性ポリエステル樹脂を含むマトリクス、および前記結晶性ポリエステル樹脂を含む複数のドメインが存在し、
前記複数のドメインの長軸方向の個数平均径が10nm以上200nm以下であり、
前記複数のドメインの短軸方向の個数平均径が5nm以上100nm以下であり、
前記複数のドメインの平均アスペクト比が1以上20以下であり、
前記複数のドメインの総数に対する、長軸方向の径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の径が5nm以上100nm以下であり、かつアスペクト比が1以上20以下であるドメインの個数の割合が、70個数%以上100個数%以下である、
静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記複数のドメインの前記長軸方向の個数平均径が10nm以上100nm以下であり、
前記複数のドメインの前記短軸方向の個数平均径が5nm以上30nm以下であり、
前記複数のドメインの前記平均アスペクト比が1以上10以下である、
請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記非晶性ポリエステル樹脂が、多価カルボン酸由来の構造単位および多価アルコール由来の構造単位を含み、
前記多価アルコール由来の構造単位の総モル数に対する、ビスフェノールAまたはその誘導体由来の構造単位のモル数の割合が、10モル%以下である、
請求項1または2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記非晶性ポリエステル樹脂が、炭素数5以上の脂肪族多価アルコール由来の構造単位を含む、
請求項3に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素数6~14の脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位と、炭素数6~14の脂肪族ジオール由来の構造単位と、を含む、
請求項1または2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
個数平均粒子径が90nm以上130nm以下のシリカ粒子を含む、
請求項1または2に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
静電荷像現像方式の印刷装置は広く普及しており、様々な分野で使用されている。当該印刷装置では、静電荷像現像用トナー(単に「トナー」とも称する)を記録媒体に付着させた後、トナーを加熱および加圧し、記録媒体に定着させることが一般的である。
【0003】
近年、上記印刷装置に対し、さらに速いスピードで印刷物を作製することや、消費エネルギー量を低減することが求められている。例えば、上記トナーを低温で定着させることができれば、これらを同時に解決できると考えられる。そこで、非晶性樹脂のマトリクス中に、結晶性樹脂からなる針状のドメインを含むトナー粒子を含むトナーが提案されている(特許文献1)。このようなトナーを用いると、トナーの熱圧定着時に結晶性樹脂が溶融し、非晶性樹脂を可塑化させるため、より低い温度でトナーを記録媒体に定着させることができると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、特許文献1のように、トナー粒子中に脆性の高い、結晶性樹脂からなる針状のドメインが存在すると、熱圧定着時にトナー粒子が当該ドメインに沿って劈開したり分断されたりしやすいことが明らかとなった。そして、このような劈開や分断が生じると、周囲のマトリクス(非晶性樹脂)を十分に可塑化できず、トナーの低温定着性が高まり難かった。また、結晶性樹脂からなるドメインによって、非晶性樹脂のマトリクスの連続性が低くなるため、定着画像が脆くなりやすく、例えば折り定着性が低くなりやすい、という課題もあった。さらに、結晶性樹脂からなるドメインは電気抵抗が低く、このようなドメインが針状で存在すると、トナー粒子内部で電荷移動が生じやすかった。その結果、トナー粒子の表面電荷の保持性能が低下しやすく、トナー飛散が生じやすかった。
【0006】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものである。すなわち、低温定着性、折り定着性、および低飛散性を兼ね備えた静電荷像現像用トナーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂を含むトナー粒子を含有する静電荷像現像用トナーであり、透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー粒子の断面には、前記非晶性ポリエステル樹脂を含むマトリクス、および前記結晶性ポリエステル樹脂を含む複数のドメインが存在し、前記複数のドメインの長軸方向の個数平均径が10nm以上200nm以下であり、前記複数のドメインの短軸方向の個数平均径が5nm以上100nm以下であり、前記複数のドメインの平均アスペクト比が1以上20以下であり、前記複数のドメインの総数に対する、長軸方向の径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の径が5nm以上100nm以下であり、かつアスペクト比が1以上20以下であるドメインの個数の割合が、70個数%以上100個数%以下である、静電荷像現像用トナーを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の静電荷像現像用トナーは、記録媒体に対して低温で定着させることが可能であり、印刷時に飛散し難い。さらに、当該静電荷像現像用トナーを用いて作製された印刷物は、折り曲げにも強い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明は当該実施の形態に限定されない。
【0010】
本実施形態の静電荷像現像用トナーは、特定のトナー粒子を含有していればよく、通常、当該トナー粒子とともに外添剤を含む。当該静電荷像現像用トナーは、一成分現像剤であってもよく、二成分現像剤であってもよい。静電荷像現像用トナーが二成分現像剤である場合には、トナー粒子および外添剤の他に、さらにキャリアを含む。
【0011】
ここで、本実施形態の静電荷像現像用トナーのトナー粒子は、非晶性ポリエステル樹脂、および結晶性ポリエステル樹脂を含む。また当該トナー粒子の断面を透過型電子顕微鏡で観察したとき、当該断面には、非晶性ポリエステル樹脂を含むマトリクス、および結晶性ポリエステル樹脂を含む複数のドメインが存在する。本明細書において、トナー粒子のマトリクスとはトナー粒子のベースとなる連続層をいい、ドメインとは、当該マトリクス(連続層)中に孤立分散している領域をいう。つまり、本実施形態のトナー粒子では、非晶性ポリエステル樹脂(マトリクス)中に、結晶性ポリエステル樹脂(ドメイン)が複数分散されている。なお、マトリクスは、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲で、非晶性ポリエステル樹脂以外の成分を含んでいてもよい。また、ドメインも本実施形態の目的および効果を損なわない範囲で、結晶性ポリエステル樹脂以外の成分を含んでいてもよい。
【0012】
ここで、上記複数のドメインは所定の大きさを有する。具体的には、複数のドメインの長軸方向の個数平均径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の個数平均径が5nm以上100nm以下であり、ドメインの平均アスペクト比(長径/短径)が1以上20以下である。複数のドメインの長軸方向の径や短軸方向の径、さらに平均アスペクト比が上記範囲であると、トナーを定着させる際に、1ドメイン当たりの溶融に要するエネルギーを抑えることができる。したがって、低温でも非晶性ポリエステル樹脂を可塑化でき、容易に定着させることが可能である。また、このようなドメイン中の結晶性ポリエステル樹脂は、加熱定着後に素早く結晶化可能であり、トナーが素早く定着(硬化)する。その結果、印刷物作製後に、画像どうしが接触しても、タッキングが生じ難い。
【0013】
また、複数のドメインの長軸方向の個数平均径が10nm以上であるため、ドメイン中に、十分な量の結晶性ポリエステル樹脂を含む。つまり、トナーの定着時に結晶性ポリエステル樹脂が溶融し、周囲の非晶性ポリエステル樹脂(マトリクス)を可塑化させやすい。このことからも、トナーの低温定着性が良好になる。なお、ドメインの長軸方向の径が長すぎる場合には、上述のように、当該ドメインが非晶性ポリエステル樹脂を含むマトリクスを分断してしまい、トナーの定着時にドメインに沿ってトナー粒子が劈開したり分断したりしやすくなる。これに対し、本実施形態では、複数のドメインの長軸方向の個数平均径が200nm以下であり、かつアスペクト比が20以下であるため、このような劈開や分断などが生じ難い。さらに、定着画像の強度も十分に維持でき、定着画像の折り耐性も良好になる。さらに、結晶性ポリステル樹脂の電気抵抗の低さによるトナー内部での電荷移動が生じ難い。したがって、印刷時にトナー飛散が生じ難い。
【0014】
ここで、ドメインの長軸方向の個数平均径は10nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上70nm以下がより好ましい。一方、ドメインの短軸方向の個数平均径は5nm以上30nm以下が好ましく、5nm以上20nm以下がより好ましい。さらに、アスペクト比は、1以上10が好ましく、1以上7以下がより好ましい。これらの範囲であると、さらに低温定着性や、現像耐久性、さらには得られる印刷物の折り耐性も良好になる。
【0015】
また、本実施形態のトナー粒子の断面では、観察される複数のドメインの総数に対して、長軸方向の径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の径が5nm以上100nm以下であり、かつアスペクト比が1以上20以下であるドメインの個数の割合(以下、「特定ドメイン個数率」とも称する)が、70個数%以上100個数%以下である。当該特定ドメイン個数率は、80個数%以上100個数%以下が好ましく、90個数%以上100個数%以下がより好ましい。当該特定ドメイン個数率が大きいことは、複数のドメインの形状にばらつきが少ないことを表す。本実施形態では、特定ドメイン個数率が70%以上、すなわちドメインの形状にばらつきが少ないため、上述の低温定着性や、現像耐久性、さらには得られる印刷物の折り耐性も良好になる。なお、当該ドメイン個数率は、後述のトナー粒子の調製方法や、調製の際の冷却速度や熱処理温度、熱処理時間などによって調整可能である。
【0016】
ここでトナー粒子の断面における、上記ドメインの形状や、特定ドメイン個数率は、以下のように特定できる。ただし、同等の観察ができれば、これに限定されるわけではない。また、より具体的な条件や手法については、後述の実施例で説明する。
【0017】
上記ドメインを観察する場合、トナー粒子の体積平均粒子径(D50%径)を特定しておく。本明細書における体積平均粒子径(D50%径)は、特に言及しない限り、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftwareV3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置によって測定された値である。より具体的には界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液に、トナー粒子を添加して馴染ませた後、超音波分散を行い、トナー粒子分散液を調製する。そして、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmとし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出したときの、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径を体積平均粒子径(D50%径)とする。
【0018】
続いて、上記で分離した複数の当該トナー粒子を、光硬化性樹脂(例えばD-800(日本電子社製))中に分散させる。トナー粒子を分散させた光硬化性樹脂を硬化させ、これを公知の方法で厚さ60~100nmの超薄片状に切り出す。そして、超薄片状のサンプルを当該四酸化ルテニウム(RuO4)蒸気染色にて染色する。これにより、透過型電子顕微鏡で観察した際、マトリクスがグレーから黒色、ドメイン内部が白く観察される。また、マトリクスとドメインとの界面は黒く観察される。
【0019】
上記超薄片状サンプル内の複数のトナー粒子から、断面の直径がトナー粒子の体積平均粒子径(D50%径)±10%内にあるものを20視野以上算出する。そして、これらのトナー粒子像20視野以上の中に存在する、複数のドメインの形状をそれぞれ特定し、これらの長径および短径を測定し、アスペクト比を算出する。また、視野毎に、ドメインの総数、および長軸方向の径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の径が5nm以上100nm以下であり、かつアスペクト比が1以上20以下であるドメインの個数を特定する。そして、視野毎に、長径の平均値、短径の平均値、アスペクト比の平均値、および特定ドメインの割合を算出する。その後、これらの値をもとに、上記20視野以上における平均値を算出し、これを長軸方向の個数平均径、短軸方向の個数平均径、平均アスペクト比、特定ドメイン個数率とする。
【0020】
さらに、当該トナー粒子断面の総面積に対する、ドメインの面積の合計の割合は、5%以上70%以下が好ましく、10%以上60%以下がより好ましい。ドメインが上記割合で含まれていると、結晶性ポリエステル樹脂が非晶性ポリエステル樹脂をさらに可塑化しやすく、得られる画像の低温定着性などがさらに高まりやすい。またその一方で、得られる画像の強度などが高まりやすい。当該面積は、透過型電子顕微鏡で観察されるトナー断面におけるドメインの形状およびトナー粒子断面の形状よって特定可能である。
【0021】
このようなトナー粒子を含む本実施形態の静電荷像現像用トナーの各構成やその成分について説明する。
【0022】
(1)トナー粒子
トナー粒子は、上述のように、非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂を含んでいればよい。非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂は、通常結着樹脂として機能する。トナー粒子は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、着色剤や離型剤、荷電制御剤などが含まれる。
【0023】
(非晶性ポリエステル樹脂)
非晶性ポリエステル樹脂は、非晶性を示すポリエステル樹脂であればよい。本明細書において、非晶性を示すとは、示差走査熱量測定(DSC)により得られる吸熱曲線において、ガラス転移点(Tg)を有するが、融点すなわち昇温時の明確な吸熱ピークがないことをいう。明確な吸熱ピークとは、10℃/分の昇温速度で昇温したときの吸熱曲線における半値幅が15℃以内の吸熱ピークをいう。
【0024】
上記非晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)単量体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)単量体との重合反応によって得られる樹脂であることが好ましい。すなわち多価カルボン酸由来の構造単位と、多価アルコール由来の構造単位とを含む樹脂であることが好ましい。多価カルボン酸単量体と多価アルコール単量体との重合は、公知のエステル化触媒を用いて行うことができる。
【0025】
上記非晶性ポリエステル樹脂の重合に使用可能な多価カルボン酸単量体は、1分子中にカルボキシ基を2個以上含む化合物であればよく、3個以上含んでいてもよい。また、当該多価カルボン酸単量体は、芳香族多価カルボン酸であってもよく、脂肪族多価カルボン酸であってもよく、脂環式構造を含む脂環式多価カルボン酸であってもよい。当該多価カルボン酸単量体の例には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、イソフタル酸ジメチルなどの芳香族多価カルボン酸;マロン酸、メサコン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、1,10-ドデカンジカルボン酸などの脂肪族多価カルボン酸、ドデセニルコハク酸などの脂環式多価カルボン酸が含まれる。非晶性ポリエステル樹脂は、これらの多価カルボン酸単量体由来の構造単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの中でも、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸、コハク酸、ドデセニルコハク酸、およびトリメリット酸が好ましい。
【0026】
上記非晶性ポリエステル樹脂の重合に使用可能な多価アルコール単量体は、1分子中にヒドロキシ基を2個以上含む化合物であればよく、3個以上含んでいてもよい。また、当該多価アルコール単量体は、芳香族多価アルコールであってもよく、脂肪族多価アルコールであってもよく、脂環式構造を含む脂環式多価アルコールであってもよい。当該多価アルコールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族多価アルコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ソルビタン、などの脂環式多価アルコール;ビスフェノールAや、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(BPA-EO)、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(BPA-PO)、ソルビトールなどの芳香族多価アルコールなどが含まれる。非晶性ポリエステル樹脂は、これらの多価アルコール単量体由来の構造単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0027】
ただし、非晶性ポリエステル樹脂が含むビスフェノールAまたはその誘導体由来の構造単位の割合は少ないことが好ましい。具体的には、非晶性ポリエステル樹脂が含む、多価アルコール由来の構造単位の総モル数に対する、ビスフェノールAまたはその誘導体由来の構造単位の合計モル数の割合は、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。これにより、非晶性ポリエステル樹脂と、後述の結晶性ポリエスエル樹脂との相溶性が適度になる。トナー粒子を作製する際には、後述のように、非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂を混合し、非晶性ポリエステル樹脂中に結晶性ポリエステル樹脂を分散させる。このとき、非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂が適度な相溶性を有すると、上述の形状のドメインを形成しやすくなり、マトリクス中に均一にドメインを分散させやすくなるという利点がある。
【0028】
そして、このような観点から、非晶性ポリエステル樹脂は、炭素数が5以上の脂肪族多価アルコール由来の構造単位を含むことが好ましい。であることが好ましい。炭素数が5以上の脂肪族多価アルコールの例には、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが含まれる。
【0029】
非晶性ポリエステル樹脂は、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲で、上記の多価カルボン酸単量体および多価アルコール単量体以外の単量体由来の構造単位を一部に含んでいてもよい。
【0030】
なお、上記多価カルボン酸および多価アルコールの重合に使用可能なエステル化触媒の例には、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;アミン化合物などが含まれる。
【0031】
上記多価カルボン酸および多価アルコールの重合時の温度は特に限定されず、150℃以上250℃以下が好ましい。また、重合時間は特に限定されず、例えば0.5時間以上10時間以下が好ましい。上記重合は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
【0032】
上記非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、十分な低温定着性とトナーの保存安定性などを両立する観点からは、25℃以上70℃以下であることが好ましく、35℃以上65℃以下が好ましい。本明細書におけるガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定装置により、以下の条件で測定される値である。まず、試料をアルミニウム製パンに封入し、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/分の昇温速度でそれぞれ200℃まで昇温させ、その後、200℃で5分間保持する。冷却時には、10℃/分の降温速度で200℃から0℃まで降温して、0℃で5分間保持する。そして、2回目の加熱時に得られた測定曲線におけるベースラインのシフトを観察し、シフトする前のベースラインの延長線と、ベースラインのシフト部分の最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点(Tg)とする。リファレンスとしては、空のアルミニウム製パンを用いる。
【0033】
上記非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000~100000が好ましい。当該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、溶媒テトラヒドロフラン(THF)で測定されるポリスチレン換算値である。
【0034】
なお、上記重量平均分子量の測定などにおいて、トナー粒子から、上記非晶性ポリエステル樹脂と、結晶性ポリエステル樹脂とを分離する必要がある場合には、トナー粒子をエタノールに分散させ、当該分散液を結晶性ポリエステル樹脂の融点より高い温度まで昇温させる。そして、結晶性ポリエステル樹脂をエタノールに溶解させ、固液分離することで、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを分離できる。
【0035】
ここで、トナー粒子の総質量に対する、非晶性ポリエステル樹脂の量は、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましい。非晶性ポリエステル樹脂の量が当該範囲であると、トナーの定着性が良好になりやすい。
【0036】
(結晶性ポリエステル樹脂)
一方、結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性を示すポリエステル樹脂であればよい。本明細書において、結晶性を示すとは、DSCにより得られる吸熱曲線において、融点すなわち昇温時に、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することをいう。明確な吸熱ピークとは、10℃/分の昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内であるピークをいう。
【0037】
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)単量体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)単量体との重合反応によって得られる樹脂であることが好ましい。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸由来の構造単位と、多価アルコール由来の構造単位とを含む樹脂であることが好ましい。多価カルボン酸単量体と多価アルコール単量体との重合は、公知のエステル化触媒を用いて行うことができる。
【0038】
結晶性ポリエステル樹脂の重合に使用可能な多価カルボン酸単量体は、1分子中にカルボキシ基を2個以上含む化合物であればよく、3個以上含んでいてもよい。また、当該多価カルボン酸は、芳香族多価カルボン酸であってもよく、脂肪族多価カルボン酸であってもよく、脂環式構造を含む脂環式多価カルボン酸であってもよい。当該多価カルボン酸単量体の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、テトラデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;およびこれらの無水物や、炭素数1~3のアルキルエステルなどが含まれる。結晶性ポリエステル樹脂は、これらの多価カルボン酸単量体由来の構造単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0039】
結晶性ポリエステル樹脂において、上記多価カルボン酸由来の構造単位が、脂肪族多価カルボン酸由来の構造単位であると、結晶性ポリエステル樹脂を低温で溶融させやすくなる。またこのとき、炭素数が少ないほど、低温で溶融させやすくなる。ただし、トナー粒子の耐熱性や保存安定性などを鑑みると、結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数が6~14の脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが特に好ましい。炭素数が6~14の脂肪族ジカルボン酸の例には、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、テトラデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)が含まれ、これらの中でも特にアジピン酸が好ましい。
【0040】
一方、結晶性ポリエステル樹脂の重合に使用可能な多価アルコール単量体は、1分子中にヒドロキシ基を2個以上含む化合物であればよく、3個以上含んでいてもよい。また、当該多価アルコール単量体は、芳香族多価アルコールであってもよく、脂肪族多価アルコールであってもよく、脂環式構造を含む脂環式多価アルコールであってもよい。当該多価アルコールの例には、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが含まれる。結晶性ポリエステル樹脂は、これらの多価アルコール単量体由来の構造単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0041】
結晶性ポリエステル樹脂において、多価アルコール由来の構造単位が、脂肪族多価アルコール由来の構造単位であると、結晶性ポリエステル樹脂を低温で溶融させやすくなる。またこのとき、炭素数が少ないほど、低温で溶融させやすくなる。ただし、トナー粒子の耐熱性や保存安定性などを鑑みると、結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数6~14の脂肪族ジオール由来の構造単位を含むことが特に好ましい。炭素数6~14の脂肪族ジオールの例には、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール、トリメチロールプロパンが含まれ、特に1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0042】
結晶性ポリエステル樹脂は、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲で、上記の多価カルボン酸単量体および多価アルコール単量体以外の単量体由来の構造単位を一部に含んでいてもよい。他の単量体の例には、ビニル系モノマーや、モノカルボン酸、モノアルコールなどが含まれる。
【0043】
上記結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒は、上述の非晶性ポリエステル樹脂の調製に使用する触媒と同様である。また、その重合時の温度や圧力、時間などは、所望の物性に合わせて適宜選択される。
【0044】
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、低温定着性を高める観点などから、55℃以上90℃以下が好ましく、70℃以上85℃以下である。結晶性ポリエステル樹脂の融点は、上記単量体の種類などによって調整可能である。融点(Tm)は、吸熱ピークのピークトップの温度であり、DSCにより測定することができる。具体的には、試料をアルミニウム製パンに封入し、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/分の昇温速度でそれぞれ150℃まで昇温させ、その後、150℃で5分間保持する。冷却時には、10℃/分の降温速度で150℃から0℃まで降温して、0℃で5分間保持する。そして、2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点として測定する。
【0045】
また、上記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1000以上29000以下が好ましく、1000以上20000以下がより好ましく、1000以上15000以下がより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が1000以上であると、溶融後、非晶性ポリエステル樹脂と過度に相溶し難く、得られる画像にタッキングが生じ難い。一方で、重量平均分子量が29000以下であると、トナーの定着時に溶融しやすくなり、低温定着性が良好になりやすい。当該結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、上述の非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量と同様の方法で測定できる。
【0046】
また、上記結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、9mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることが、低温定着性などをさらに高めるとの観点で好ましく、15mgKOH/g以上23mgKOH/g以下であることが、より好ましい。当該酸価は、結晶性ポリエステル樹脂1g中に存在するカルボキシ基を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)である。具体的には、JIS K0070-1992に準じて測定される。
【0047】
ここで、トナー粒子の総質量に対する結晶性ポリエステル樹脂の量は、10質量%以上70質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の量が当該範囲であると、トナーの低温定着性などがさらに良好になりやすい。また、結晶性ポリエステル樹脂の量は、上述の非晶性ポリエステル樹脂の量100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下が好ましい。非晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して、結晶性ポリエステル樹脂の量が当該範囲であると、上述の効果がさらに得られやすくなる。
【0048】
(着色剤)
上述のように、トナー粒子は着色剤を含んでいてもよい。当該着色剤は、公知の無機系着色剤であってもよく、有機系着色剤であってもよい。着色剤の具体例には、カーボンブラック、磁性粉、有機顔料、無機顔料、染料などが含まれる。トナー粒子は、一種のみ着色剤を含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0049】
トナー粒子の総質量に対する着色剤の量は、1~30質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましい。着色剤の量が1質量%以上であると、得られる画像が所望の色になりやすい。一方、着色剤の量が30質量%以下であると、相対的に上記非晶性ポリエステル樹脂や結晶性ポリエステル樹脂の量が十分になり、画像の定着性が良好になりやすい。
【0050】
(離型剤)
トナー粒子は、離型剤を含んでいてもよい。離型剤の例には、公知の種々のワックスが含まれる。離型剤の例には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート、ステアリン酸ステアリルなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックス;などが含まれる。トナー粒子は、一種のみ離型剤を含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。離型剤は、市販品であってもよく、その例には、日本精蝋社製のHNP-0190、HNP-51、FNP-0090、サゾール社製のC80などが含まれる。
【0051】
離型剤の結晶化温度(融点)は、65℃以上90℃以下がタッキング抑制および低温定着性の点で好ましく、75℃以上90℃以下が、より好ましい。
【0052】
離型剤の量は、上述の結着樹脂(非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂の合計)100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下がより好ましい。離型剤の量が当該範囲内であると、定着分離性が良好になりやすい。また、トナー粒子の総量に対する離型剤の量は、3質量%以上15質量%以下が好ましい。
【0053】
(荷電制御剤)
トナー粒子は、荷電制御剤をさらに含んでいてもよい。荷電制御剤は、トナー粒子の帯電性を高めるための成分である。荷電制御剤の例には、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩など、公知の化合物が含まれる。トナー粒子は、一種のみ荷電制御剤を含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0054】
荷電制御剤の量は、上述の結着樹脂(非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂の合計)100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。
【0055】
(その他)
トナー粒子はさらに、必要に応じて界面活性剤や、各種添加剤など、任意の成分をさらに含有していてもよい。
【0056】
(トナー粒子の構造)
トナー粒子は、粒子全体が均一な組成を有していてもよいが、例えばコア粒子とその表面を被覆するシェル層とを有するコア・シェル構造のような多層構造を有していてもよい。コア粒子を被覆するように配置されるシェル層は、コア粒子の一部のみを被覆するように配置されていてもよく、全面を被覆するように配置されていてもよい。コア・シェル構造は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型プローブ顕微鏡(SPM)などの公知の観察手段によって、トナー粒子の断面を観察することで確認できる。
【0057】
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェル層でガラス転移点、融点、硬度等の特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー粒子の設計が可能である。例えば、結着樹脂(上述の非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂)、着色剤、離型剤等を含有し、ガラス転移点(Tg)が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点(Tg)が比較的高い樹脂を凝集・融着させて、シェル層を形成させてもよい。この場合、シェル層は、上述の非晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
【0058】
また、トナー粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径(D50%径)が3μm以上10μm以下であることが好ましく、5μm以上8μm以下であることがより好ましい。当該体積平均粒子径は、上述の方法で測定した値である。トナー粒子の体積平均粒子径が当該範囲であると、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像であっても高い再現性が得られる。
【0059】
また、トナー粒子は、帯電特性の安定性及び低温定着性を高める観点から、平均円形度が0.930~1.000の範囲内にあることが好ましく、0.950~0.995の範囲内にあることがより好ましい。平均円形度が上記範囲内にあれば、個々のトナー粒子が破砕しにくくなる。これにより、摩擦帯電付与部材の汚染を抑制してトナーの帯電性を安定させることができるとともに、形成される画像の画質を高めることができる。
【0060】
トナー粒子の平均円形度は、FPIA-3000(Sysmex社製)を用いて測定することができる。具体的には、測定試料(トナー粒子)を界面活性剤入り水溶液にて馴染ませ、超音波分散処理を1分間行って分散させる。その後、FPIA-3000(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の適正濃度で撮影を行う。撮影した粒子像から、個々のトナー粒子の円形度を下記式に従って算出し、各トナー粒子の円形度を加算して全トナー粒子数で除することにより、平均円形度を得る。
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0061】
(トナー粒子の製造方法)
上述のトナー粒子は、以下の方法で調製可能であり、このようなで調製することで、上記結晶性ポリエステル樹脂を含むドメインの形状が、上述の特定を満たすように調整できる。
【0062】
まず、非晶性ポリエステル樹脂の分散液、結晶性ポリエステル樹脂分散液、および必要に応じて着色剤分散液や離型剤分散液をそれぞれ準備する。このとき、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、着色剤、および離型剤は、それぞれの分散液中で微粒子として存在することが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂分散液中の非晶性ポリエステル樹脂微粒子の体積平均粒子径(D50%径)は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、1nm以上250nm以下であることがより好ましい。一方、結晶性ポリエステル樹脂分散液中の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の体積平均粒子径(D50%径)は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、1nm以上250nm以下であることがより好ましい。これらの微粒子の体積平均粒子径(D50%径)が当該範囲であると、後述の加熱によって、非晶性ポリエステル樹脂および結晶性ポリエステル樹脂を十分に混合しやすくなる。
【0063】
また、着色剤分散液中の着色剤微粒子の体積平均粒子径(D50%径)は、1nm以上300nm以下であることが好ましく、1nm以上200nm以下であることがより好ましい。さらに、離型剤分散液中の離型剤微粒子の体積平均粒子径(D50%径)は、1nm以上500nm以下であることが好ましく、1nm以上300nm以下であることがより好ましい。なお、その他の添加剤を使用する場合も、上記と略同様の体積平均粒子径(D50%径)を有するように分散液を調製することが好ましい。これにより、トナー粒子中にこれらを分散させやすくなる。
【0064】
その後、上記分散液を混合し、乳化凝集法により、粒子を形成させる。具体的には、上記非晶性ポリエステル樹脂微粒子(分散液)、結晶性ポリエステル樹脂微粒子(分散液)、着色剤微粒子(分散液)、離型剤微粒子(分散液)、および界面活性剤などを混合し、水系媒体をさらに混合する。そして、当該水系媒体を撹拌することで、各成分の微粒子が凝集し、粒子状となる。このとき、各微粒子(分散液)の添加順序などを調整することでトナー粒子の構造を制御できる。例えば、先に非晶性ポリエステル樹脂微粒子、結晶性ポリエステル微粒子、着色剤微粒子、離型剤微粒子を凝集させてコア粒子を調製し、その後、非晶性ポリエステル樹脂分散液を添加し、コア粒子の周囲に非晶性ポリエステル樹脂微粒子をさらに凝集させることで、非晶性ポリエステル樹脂を含むシェル層を形成できる。
【0065】
そして、上記水系媒体中で生じた粒子が、所望の粒径や構成になったところで、当該分散液を加熱し、各粒子中の微粒子を融着させる。このときの加熱温度は、30℃以上90℃以下が好ましく、40℃以上90℃以下がより好ましい。またこのときの加熱時間は、10分以上600分以下がより好ましく、30分以上500分以下がより好ましい。これにより、非晶性ポリエステル樹脂微粒子が軟化したり、非晶性ポリエステル樹脂が溶融したりして、各成分が混ざり合う。
【0066】
その後、当該分散液を室温(例えば20℃)まで冷却する。このときの冷却速度は50℃/分以上100℃/分以下が好ましく、60℃/分以上100℃/分以下がより好ましい。このような冷却速度で冷却すると、粒子内に結晶性ポリエステル樹脂の結晶核が多数発生し、上述のドメインが形成されやすくなる。なお、このような比較的早い冷却速度で冷却する方法としては、ガスケットプレート熱交換器を用いた冷却や、ブレージングプレート熱交換器を用いた冷却などが含まれる。続いて、上記で冷却した粒子(分散液)を再度、50℃以上80℃以下の温度に加熱し、10分以上200分以下熱処理を行う。当該熱処理により、結晶成長が進みアスペクト比が変化する。なお、加熱の際には、加熱速度を5℃/分以上50℃/分以下とすることが好ましい。これにより、加熱による粒子の熱凝集を抑制することができる。その後、固液分離や乾燥などを行うことで、上述のトナー粒子が得られる。
【0067】
(2)外添剤
上述のように、静電荷像現像用トナーは、上述のトナー粒子とともに、外添剤を含むことが好ましい。静電荷像現像用トナーが外添剤を含むと、流動性、帯電性、クリーニング性などが良好になりやすい。
【0068】
外添剤の例には、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などの無機酸化物微粒子;ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子;チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子;などが含まれる。静電荷像現像用トナーは、これらを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0069】
これらの中でも特に、SEM写真の観察で測定される個数平均粒子径が90nm以上130nm以下であるシリカを外添剤として含むことが好ましい。シリカの個数平均粒子径は、90nm以上110nm以下がより好ましい。静電荷像現像用トナーが、当該シリカ粒子を外添剤として含むと、当該シリカがトナー粒子どうしの間にスペーサとして入り込むことができ、トナー粒子どうしの凝集を抑制できる。なお、個数平均粒子径が90nm以上であると、上記スペーサ効果が発揮されやすい。一方、個数平均粒子径が130nm以下であると、シリカが静電荷像現像用トナーから脱離し難い。
【0070】
外添剤の添加量(複数の外添剤を用いる場合はその合計の添加量)は、静電荷像現像用トナーの総量100質量部に対して0.05質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。
【0071】
(3)キャリア
上述のように、本実施形態の静電荷像現像用トナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、上述のトナー粒子や外添剤とキャリアとを混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合のキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属;これらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金;など、従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
【0072】
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散した分散型キャリアなどを用いてもよい。キャリアの体積平均粒子径(D50%径)は、20μm以上100μm以下が好ましく、25μm以上80μm以下がより好ましい。当該キャリアの体積平均粒子径(D50%径)は、湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置ヘロス(HELOS)(SYMPATEC社製)などにより測定できる。
【実施例0073】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中において「部」および「%」は、特に断りのない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
【0074】
<非晶性ポリエステル樹脂分散液A1の調製>
(1)非晶性ポリエステル樹脂(a1)の合成
(モノマー成分)
エチレングリコール:50モル部
ネオペンチルグリコール:50モル部
テレフタル酸:100モル部
ドデセニルコハク酸:130モル部
トリメリット酸:15モル部
【0075】
攪拌器、温度計、コンデンサー、および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、上記モノマー成分をそれぞれ投入し、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した。続いて、ジオクタン酸スズを上記モノマー成分の合計量に対して0.3質量%投入した。そして、窒素ガス気流下、235℃まで1時間かけて昇温させ、235℃で3時間反応させた。その後、反応容器内を10.0mmHgまで減圧してさらに攪拌反応させ、求められる分子量になった時点で反応を終了した。得られた非晶性ポリエステル樹脂(a1)のガラス転移温度は61℃であり、重量平均分子量は42,000であった。
【0076】
(2)分散液の調製
撹拌機を備えた反応容器中に、上記非晶性ポリエステル樹脂(a1)100質量部、メチルエチルケトン60質量部、およびイソプロピルアルコール15質量部を投入し、非晶性ポリエステル樹脂(a1)を60℃にて溶解させた。次いで、反応容器を35℃に冷却し、10%アンモニア水溶液3.5質量部を添加し、イオン交換水300質量部を3時間かけて反応容器中に滴下して、非晶性ポリエステル樹脂(a1)の分散液とした。次いで、エバポレーターにてメチルエチルケトン、イソプロピルアルコールを除去し、非晶性ポリエステル樹脂分散液A1を得た。当該分散液A1中の非晶性ポリエステル粒子の体積平均粒子径(D50%径)は150nmであった。
【0077】
<非晶性ポリエステル樹脂分散液A2の調製>
(モノマー成分)
エチレングリコール:25モル部
ネオペンチルグリコール:25モル部
ビスフェノールA:50モル部
テレフタル酸:100モル部
ドデセニルコハク酸:130モル部
トリメリット酸:15モル部
【0078】
非晶性ポリエステル樹脂として、上記モノマー成分を用いて非晶性ポリエステル樹脂(a2)を合成し、その分散液を調製した以外は、非晶性ポリエステル樹脂分散液A1の調製と同様に行った。
【0079】
<非晶性ポリエステル樹脂分散液A3の調製>
(モノマー成分)
ビスフェノールA:100モル部
テレフタル酸:100モル部
ドデセニルコハク酸:130モル部
トリメリット酸:15モル部
【0080】
非晶性ポリエステル樹脂として、上記モノマー成分を用いて非晶性ポリエステル樹脂(a3)を合成し、その分散液を調製した以外は、非晶性ポリエステル樹脂分散液A1の調製と同様に行った。
【0081】
<結晶性ポリエステル樹脂分散液(C1)の調製>
(1)結晶性ポリエステル樹脂(c1)の合成
(モノマー成分)
・セバシン酸(多価カルボン酸、炭素数=10):60モル部
・1,6-ヘキサンジオール(多価アルコール、炭素数=6):40モル部
【0082】
上記モノマー成分を、窒素導入管、脱水管、攪拌機、および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱して溶解させた。次いで、撹拌器、温度計、冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応容器に上記モノマーを入れ、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した。当該混合液にTi(OBu)4を多価カルボン酸成分全量に対して0.003質量%添加し、混合液を235℃まで昇温させた。そして、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。さらに、反応液を200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)、1時間反応させることにより結晶性ポリエステル樹脂(c1)を得た。
【0083】
(2)分散液の調製
得られた結晶性ポリエステル樹脂(c1)174質量部をメチルエチルケトン102質量部に入れ、75℃で30分攪拌し、溶解させた。一方、イオン交換水26質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを、濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液を準備し、上記溶解液に添加した。そして、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液4.6質量部をさらに添加した。当該混合液を、撹拌機を有する反応容器に入れ、撹拌しながら、70℃に温めた水375質量部を70分間に亘って滴下混合した。滴下の途中で容器内の液は白濁化し、全量滴下後に均一に乳化状となった。次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V-700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)に減圧し、この状態で1時間撹拌してメチルエチルケトンを蒸留除去した。その後、冷却速度6℃/分で冷却し、結晶性樹脂(c1)が分散された結晶性ポリエステル樹脂分散液(C1)を得た。当該分散液(C1)の固形分は25質量%であった。また、粒度分布測定器にて測定した結果、当該分散液(C1)中の結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積平均粒子径(D50%径)は202nmであった。
【0084】
<着色剤分散液(P1)の調製>
ドデシル硫酸ナトリウム226質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加した。撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製、「クレアミックス」は同社の登録商標)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液(P1)を調製した。分散液(P1)中の着色剤粒子は、体積平均粒子径(D50%径)が110nmであった。
【0085】
<離型剤分散液(W1)の調製>
(材料成分)
・離型剤w1:HNP―9(日本精蝋社製):50質量部
・アニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製):ネオゲンRK):5質量部
・イオン交換水:200質量部
【0086】
上記各材料成分を110℃に加熱して、ホモジナイザー(IKA社製:ウルトラタラックスT50)を用いて分散した。その後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザー(ゴーリン社)で分散処理し、離型剤分散液(W1)(離型剤濃度:26質量%)を調製した。当該分散液(W1)中の粒子の体積平均粒子径(D50%径)を、マイクロトラックUPA-150(日機装社製)にて測定したところ、215nmであった。
【0087】
<二成分現像剤2(実施例2)の製造>
(1)トナー粒子2の調製
(材料成分)
・イオン交換水:200質量部
・非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(A1):150質量部
・結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(C1):40質量部
・着色剤微粒子分散液(P1):15質量部
・離型剤粒子分散液(W1):10質量部
・アニオン性界面活性剤(TaycaPower、テイカ社製):2.8質量部
【0088】
上記材料成分を丸型ステンレス製フラスコに入れ、0.1Nの硝酸を添加してpHを3.5に調整した後、ポリ塩化アルミニウム(PAC、王子製紙社製:30%粉末品)2.0質量部をイオン交換水30部に溶解させたPAC水溶液を添加した。ホモジナイザー(IKA社製ウルトラタラックスT50)を用いて30℃において分散した後、加熱用オイルバス中で45℃まで加熱し、体積平均粒子径が4.1μmとなるまで保持した。その後、非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(A1)60質量部をさらに追加し、30分保持した。その後、体積平均粒子径が4.5μmとなったところで、さらに非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(A1)60質量部をさらに追加し30分保持した。続いて、10%のNTA(ニトリロ三酢酸)金属塩水溶液(キレスト70:キレスト社製)を20質量部加えた後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9.0にした。
【0089】
その後、アニオン活性剤(TaycaPower):1.0質量部を投入して撹拌を継続しながら85℃まで加熱し、5時間保持した。その後、ガスケットプレート熱交換器を使用して100℃/分の速度で20℃まで冷却した。続いて、撹拌しつつ30分かけて50℃まで昇温し、10分攪拌を継続し熱処理を行った。その後冷却し、30℃以下まで液温を下げた。次いで、固液分離を行い、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し、固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、35℃で24時間乾燥させることにより、トナー粒子2を得た。
【0090】
(2)二成分現像剤の調製
上記トナー粒子2 100質量部に、外添剤であるシリカ粒子(個数平均粒子径30nm)1.0質量部、およびシリカ粒子(個数平均粒子径110nm)0.5質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(日本コークス社製)により回転翼周速35mm/秒、32℃で20分間混合した。
混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、さらにアクリル樹脂を被覆した体積平均粒子径32μmのフェライトキャリアを、トナー粒子2の濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、トナー粒子2を含む二成分現像剤(静電荷像現像用トナー)2を製造した。
【0091】
<二成分現像剤(トナー粒子No.1、3~12)(実施例1、3~9、および比較例1~3)の製造>
使用する非晶性ポリエステル樹脂分散液の種類や、トナー粒子作製時の冷却速度や熱処理温度、処理時間を表2に示すように変更する以外は、上述の二成分現像剤2の製造方法と同様に行い、それぞれ二成分現像剤(静電荷像現像用トナー)を得た。
【0092】
<二成分現像剤(トナー粒子No.13)(比較例4)の製造>
特開2015-121577号公報(以下、単に「文献」とも称する)の実施例に基づいて、二成分現像剤12を調製した。
(材料成分)
・上記文献に記載の非晶性ポリエステル樹脂A1 75質量部
・上記文献に記載の非晶性ポリエステル樹脂B1 15質量部
・上記文献に記載の結晶性ポリエステル樹脂C1 10質量部
・炭化水素ワックス 6質量部
・C.I.ピグメントブルー15:3 6.8質量部
・3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸アルミニウム化合物0.25質量部
【0093】
上記材料成分ヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山社製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5分で混合した後、温度130℃に設定した二軸混錬機(PCM-30型、池貝社製)にて吐出温度150℃にて混錬した。得られた混錬物を15℃/分の冷却速度で冷却した後、ハンマーミルにて1mm以下に粗く粉砕した。さらに機械式粉砕機(ターボ社製)にて微粉砕し、分級してトナー粒子を得た。その後、実施例2と同様に二成分現像剤とした。
【0094】
<非晶性ポリエステル樹脂の種類について>
上記二成分現像剤(トナー粒子)の製造に使用した、3種類の非晶性ポリエステル樹脂の組成を、下記表1に示す。
【0095】
【0096】
<トナー粒子の断面観察>
以下の方法で、二成分現像剤(トナー粒子)の断面を透過型電子顕微鏡で観察した。
【0097】
(観察条件)
観察装置:電子顕微鏡JSM-7401F(日本電子社製)
加速電圧:30kV
倍率:50000倍、明視野像
【0098】
(トナー粒子の切片の作製方法)
上記で作製した二成分現像剤3質量部を、ポリオキシエチルフェニルエーテル0.2質量%水溶液35質量部に添加して分散させた。そして、超音波(日本精機製作所社製、US-1200T)により25℃で5分間分散処理を行い、外添剤やキャリアをトナー粒子表面から取り除いた。当該トナー粒子1~2mgを10mLサンプル瓶に広げるように入れ、光硬化性樹脂「D-800」(日本電子社製)中に分散させ、光硬化させてブロックを形成した。次いで、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて、当該ブロックから、厚さ60~100nmの超薄片状のサンプルを切り出した。四酸化ルテニウム(RuO4)蒸気染色条件にて染色した。
【0099】
(四酸化ルテニウム染色条件)
染色は、真空電子染色装置VSC1R1(フィルジェン社製)を用いて行った。装置手順に従い、染色装置本体に四酸化ルテニウム(RuO4)が入った昇華室を設置し、作製した上記超薄切片状のサンプルを染色チャンバー内に導入した。その後、昇華室の温度を24~25℃とし、昇華室内の四酸化ルテニウムの濃度を300Paとし、上記超薄切片状のサンプルを10分間染色した。
【0100】
(結晶構造の観察)
染色後の上記超薄切片状のサンプルを、24時間以内に電子顕微鏡:JSM-7401F(日本電子社製)を用いて透過電子検出器にて観察した。そして、断面観察像をスキャナー等により取り込み、画像処理解析装置LUZEX AP(ニレコ社製)を用いて、トナー粒子の断面に分散している結晶性ポリエステルドメインを同定した。なお、当該観察画像において、界面が黒く観察され、内部が白く針状に(又は左記構造が積み重なって)観察される領域を、結晶性ポリエステル樹脂を含むドメインと特定した。
【0101】
(ドメインの径およびアスペクト比、および特定ドメイン個数率)
上記トナー粒子の断面に存在する結晶性ポリエステルのドメインを同定した後、ドメインの長径、短径、平均アスペクト比を特定した。さらに特定ドメイン個数率も算出した。具体的には、まず、上記超薄片状サンプル内の複数のトナー粒子から、断面の直径がトナー粒子の体積平均粒子径(D50%径)±10%内にあるものを20視野以上算出した。これらのトナー粒子像20視野以上の中に存在する、上記ドメインを特定し、これらの長径および短径を測定した。また、観察した視野毎に、結晶性ポリエステルのドメインの個数の総数、および、長軸方向の径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の径が5nm以上100nm以下であり、かつアスペクト比が1以上20以下である特定ドメインの個数もそれぞれ特定した。そして、それぞれの視野について、長径の平均値、短径の平均値、アスペクト比の平均値、および特定ドメインの割合を算出し、上記20視野以上について、それぞれ算出した値から、平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0102】
<評価>
上述の二成分現像剤1~13について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0103】
(1)低温定着性
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ社製)の定着装置を、定着上ベルトおよび定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、上述の二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。
【0104】
上記複合機の常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下における印刷において、A4サイズの上質紙「NPI上質(127.9g/m2)」(日本製紙社製)上に、二成分現像剤が11.3g/m2付着するように、複合機の各条件を設定した。その後、100mm×100mmサイズの画像を定着させる定着実験を、定着温度を120℃から2℃刻みで上げるように変更しながら160℃まで繰り返し行った。定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない最低の定着温度を最低定着温度(U.O.回避温度)とした。下記評価基準にもとづき、◎及び〇であれば実用上問題無しとした。
【0105】
(評価基準)
◎:最低定着温度が135℃未満
○:最低定着温度が135℃以上140℃未満
×:最低定着温度が140℃以上
【0106】
(2)折り定着性
上記複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ社製)の常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下における印刷において、A4サイズの上質紙「NPI上質(127.9g/m2)」(日本製紙社製)上に二成分現像剤が11.3g/m2、ベタ画像として付着するように設定した。そして、当該ベタ画像を出力し、定着させる実験を、定着温度を120℃から180℃まで5℃ずつ上げながら繰り返し行った。
各定着温度としたときに得られたプリント物を折り機で折り曲げた。具体的には、上記ベタ画像どうしが、10g/cm2相当の重量荷重で接触するように折り曲げ、その後、0.35MPaの圧縮空気を吹き付けた。圧縮空気付記つげ後の折り目部分を、下記評価基準にしたがって評価した。
【0107】
(評価基準)
5:全く折れ目なし
4:一部折れ目に従った剥離あり
3:折れ目に従った細かい線状の剥離あり
2:折れ目に従った太い線状の剥離あり
1:折れ目に従った大きな剥離あり
【0108】
またこのとき、評価基準においてランク2以上となった画像のうち、最も定着温度の低い定着温度を定着下限温度とした。この定着下限温度を下記の分類で評価し、◎、および〇であれば、実用上問題無しとした。
【0109】
(評価基準)
◎:定着下限温度が150℃未満
○:定着下限温度が150℃以上155℃未満
×:定着下限温度が155℃以上160℃未満
【0110】
(3)トナーの低飛散性
トナーの低飛散性は、市販のカラー複合機「bizhub PRESS C1070(コニカミノルタ社製)」を用いて評価した。高温高湿(30℃、80%RH)環境下において、白紙を50000枚に上述の二成分現像剤によって印刷を行った。その後、現像部周辺における飛散状況を目視観察したうえで、5%カバレッジでの帯チャートを連続5枚出力した際の画像不良有無を観察し、下記評価基準により評価した。下記の評価基準により、◎および○あれば合格とした。
【0111】
(評価基準)
◎:現像器周辺部へのトナー飛散が殆ど見られず、出力画像に不良も無い状態
○:現像器周辺部への軽微なトナー飛散が見られるが、出力画像に不良は無い状態
×:現像器周辺部へのトナー飛散が非常に多く、出力画像に不良が検出される状態
【0112】
【0113】
上記表2に示すように、ドメインの長軸方向の個数平均径(ドメイン個数平均長径)が200nmを超え、そのアスペクト比が20を超える場合には、低温定着性、折り定着性、およびトナー飛散性のいずれも結果が悪かった(比較例1)。ドメインが長くなったことで、トナー粒子が、当該ドメインを起点に分断したり、脆くなったりしたと考えられる。さらに、当該ドメイン内で電荷移動が生じやすく、トナー粒子の表面電荷の保持性能が低かったと考えられる。
【0114】
また、ドメインの長軸方向の個数平均径(ドメイン個数平均長径)が200nm以下であり、かつそのアスペクト比が20以下であったとしても、ドメインの短軸方向の個数平均径(ドメイン個数平均短径)が100を超える場合には、低温接着性が低かった(比較例3)。この場合も、トナー粒子が、ドメインに沿って劈開や分断などが生じたと考えられる。さらに、ドメインの長軸方向の個数平均径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の個数平均径が5nm以上100nm以下であり、かつアスペクト比が1以上20以下であったとしても、その割合が少ない場合にも、全ての結果が悪かった(比較例2および4)。
【0115】
一方、ドメインの長軸方向の個数平均径が10nm以上200nm以下であり、短軸方向の個数平均径が5nm以上100nm以下であり、アスペクト比が1以上20以下であり、かつ特定ドメイン個数率が70個数%以上である場合には、低温定着性、折り定着性、およびトナーの低飛散性の全てにおいて、良好な結果が得られた(実施例1~9)。
本発明の静電荷像現像用トナーは、記録媒体に対して低温で定着させることが可能であり、印刷時に飛散し難い。さらに、当該静電荷像現像用トナーを用いて作製された印刷物は、折り曲げにも強い。したがって、各種静電荷像現像方式の印刷装置用のトナーなどとして有用である。