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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179125
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】インダクタ部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20241219BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20241219BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F27/29 G
H01F27/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097705
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】辻林 太朗
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌史
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AB01
5E043BA01
5E070AB01
5E070DA11
(57)【要約】
【課題】複数の多層巻き部分を形成するようにワイヤがドラム状コアの巻芯部に巻回され、樹脂コーティング部材がコアの両鍔部の天面間に渡って延びかつワイヤの一部を埋めるように設けられた、インダクタ部品において、樹脂コーティング部材にクラックが生じにくくする。
【解決手段】樹脂コーティング部材35内に埋まる多層巻き部分M1、M2およびM3の戻し巻き部が、巻芯部12の巻芯天面30以外の面と対向する位置にあり、多層巻き部分M1、M2およびM3における、巻芯部12の周面に最も近い層である第1層を形成するワイヤ16のターンに関して、多層巻き部分M1、M2およびM3の隣り合うものの間に位置するワイヤ16の隣り合うターンは、互いに接するか、ワイヤ16の半径以下の隙間しか形成しないようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部ならびに前記巻芯部の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有する、ドラム状コアと、
前記巻芯部のまわりに巻回された、断面円形のワイヤと、
前記第1鍔部および前記第2鍔部にそれぞれ設けられ、前記ワイヤの各端部がそれぞれ接続された、第1端子電極および第2端子電極と、
を備え、
前記巻芯部は、実装基板側に向けられる巻芯底面と、前記巻芯底面とは逆方向に向く巻芯天面と、を少なくとも有する、外周面を備え、
前記第1鍔部および前記第2鍔部は、実装基板側に向けられる鍔底面と、前記鍔底面とは逆方向に向く鍔天面と、を少なくとも有する、外周面を備え、
前記第1端子電極および前記第2端子電極は、それぞれ、前記第1鍔部および前記第2鍔部の少なくとも前記鍔底面に設けられ、
前記第1鍔部の前記鍔天面と前記第2鍔部の前記鍔天面との間に渡って延び、かつ前記ワイヤにおける前記巻芯部の前記巻芯天面側に位置する部分を埋めるように設けられた、樹脂コーティング部材をさらに備え、
前記ワイヤは、下層側と上層側との間に戻し巻き部を介在させながら複数層をなすように巻回されている多層巻き部分を形成しており、
前記戻し巻き部は、前記巻芯部の前記外周面における前記巻芯天面以外の面を覆う位置にあり、
前記多層巻き部分は、前記巻芯部の前記軸線方向における複数箇所に分布しており、
前記多層巻き部分における、前記巻芯部の周面に最も近い層である第1層を形成する前記ワイヤのターンに関して、隣り合う前記多層巻き部分の間に位置する前記ワイヤの隣り合うターンは、互いに接するか、前記ワイヤの半径以下の隙間しか形成していない、
インダクタ部品。
【請求項2】
前記第1層を形成する前記ワイヤの隣り合うターンは、前記巻芯部の前記軸線方向における両端部に位置するターンを除いて、互いに接するか、前記ワイヤの半径以下の隙間しか形成していない、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項3】
前記戻し巻き部は、前記巻芯部の前記外周面における前記巻芯底面を覆う位置にある、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項4】
前記多層巻き部分は、前記第1層と、前記第1層の外周側に巻回される第2層と、を含む、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項5】
前記多層巻き部分の各々において、前記第2層を形成する前記ワイヤのターン数は2以上である、請求項4に記載のインダクタ部品。
【請求項6】
前記第2層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向は、前記第1層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向と同じである、請求項5に記載のインダクタ部品。
【請求項7】
前記第2層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向は、前記第1層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向と逆である、請求項5に記載のインダクタ部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インダクタ部品に関するもので、特に、巻芯部を有するドラム状コアを備え、ドラム状コアの巻芯部のまわりでワイヤが複数層をなして巻回された構造を有するインダクタ部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば特開2016-86034号公報(特許文献1)には、ドラム状コアの巻芯部のまわりでワイヤが巻回され、ワイヤは、下層側から上層側へと移行する戻し巻き部を介して巻回されることによって、複数層をなす多層巻き部分を形成している構造を有する、インダクタ部品が記載されている。
【0003】
図15は、特許文献1の図5から引用したもので、この発明にとって興味ある従来のインダクタ部品1を平面図で示している。
【0004】
図15を参照して、インダクタ部品1は、巻芯部2ならびに巻芯部2の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部3および第2鍔部4を有する、ドラム状コア5と、巻芯部2のまわりに巻回された、ワイヤ6と、を備える。
【0005】
第1鍔部3および第2鍔部4には、ワイヤ6の各端部がそれぞれ接続された、第1端子電極および第2端子電極がそれぞれ設けられるが、図15では図示されない。第1鍔部3および第2鍔部4は、実装基板(図示されない。)側に向けられかつ第1端子電極および第2端子電極がそれぞれ設けられる鍔底面を有しているが、図15では、鍔底面が図示されず、鍔底面とは逆方向に向く鍔天面7および8が図示されている。また、図15に示された巻芯部2は、実装基板側に向けられる巻芯底面とは逆方向に向く巻芯天面9を手前に向けている。
【0006】
ワイヤ6は、下層側と上層側との間に戻し巻き部R1およびR2を介在させながら複数層をなすように巻回されている多層巻き部分M1およびM2を形成している。また、多層巻き部分M1およびM2は、巻芯部2の軸線方向における複数箇所に分布している。
【0007】
多層巻き部分M1およびM2は、巻芯部2が与え得るワイヤ6の巻回のための限られたスペースにおいて、ワイヤ6のターン数をできるだけ増やすことに寄与し、そのため、インダクタ部品1のインダクタンスを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-86034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では記載されていないが、インダクタ部品1は、第1鍔部3の鍔天面7と第2鍔部4の鍔天面8との間に渡って延びる樹脂コーティング部材をさらに備えることがある。樹脂コーティング部材が、たとえばフェライト粉または金属磁性粉を含有する樹脂などから構成され、かつドラム状コア5が、たとえばフェライトまたはフェライト粉もしくは金属磁性粉を含有する樹脂などから構成されると、ドラム状コア5と樹脂コーティング部材とによって閉磁路を形成することができる。
【0010】
樹脂コーティング部材が第1鍔部3の鍔天面7と第2鍔部4の鍔天面8との間に渡って延びるように設けられると、樹脂コーティング部材は、ワイヤ6における巻芯部2の巻芯天面9側に位置する部分を埋める状態となる。
【0011】
前述したように、図15において、巻芯部2は、巻芯天面9を手前に向けて図示されている。図15に示されているように、巻芯天面9を覆う部分であって、戻し巻き部R1およびR2が存在する箇所では、ワイヤ6のターン間に比較的大きな隙間Gが形成されている。
【0012】
この場合、樹脂コーティング部材は、隙間Gを埋める部分において厚みが大きく増すため、隙間Gを埋める樹脂の体積が大きく増す。一般に、樹脂の膨張収縮による応力負荷は、樹脂の体積が大きいほど、大きくなることが知られている。したがって、上述のように、隙間Gを埋める樹脂の体積が大きく増すと、膨張収縮による応力負荷が大きくなり、樹脂コーティング部材において局所的な応力集中箇所を生むことになる。
【0013】
また、巻芯天面9を覆う部分における戻し巻き部R1およびR2の存在は、樹脂コーティング部材の厚みの不均一度合いをより大きくすることになる。
【0014】
これらのことは、樹脂コーティング部材においてクラックが生じさせる原因となり得る。
【0015】
そこで、この発明の目的は、樹脂コーティング部材においてクラックが生じにくくされたインダクタ部品を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係るインダクタ部品は、
巻芯部ならびに巻芯部の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有する、ドラム状コアと、
巻芯部のまわりに巻回された、断面円形のワイヤと、
第1鍔部および第2鍔部にそれぞれ設けられ、ワイヤの各端部がそれぞれ接続された、第1端子電極および第2端子電極と、
を備える。
【0017】
巻芯部は、実装基板側に向けられる巻芯底面と、巻芯底面とは逆方向に向く巻芯天面と、を少なくとも有する、外周面を備え、第1鍔部および第2鍔部は、実装基板側に向けられる鍔底面と、鍔底面とは逆方向に向く鍔天面と、を少なくとも有する、外周面を備える。
【0018】
第1端子電極および第2端子電極は、それぞれ、第1鍔部および第2鍔部の少なくとも鍔底面に設けられる。
【0019】
この発明に係るインダクタ部品は、さらに、第1鍔部の鍔天面と第2鍔部の鍔天面との間に渡って延び、かつワイヤにおける巻芯部の巻芯天面側に位置する部分を埋めるように設けられた、樹脂コーティング部材を備える。
【0020】
ワイヤは、下層側と上層側との間に戻し巻き部を介在させながら複数層をなすように巻回されている多層巻き部分を形成している。
【0021】
この発明では、上述した技術的課題を解決するため、以下のような構成を備えることを特徴としている。
【0022】
戻し巻き部は、巻芯部の外周面における巻芯天面以外の面を覆う位置にある。
【0023】
また、多層巻き部分は、巻芯部の軸線方向における複数箇所に分布しており、多層巻き部分における、巻芯部の周面に最も近い層である第1層を構成するワイヤのターンに関して、隣り合う多層巻き部分の間に位置するワイヤの隣り合うターンは、互いに接するか、ワイヤの半径以下の隙間しか形成しないようにされる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、隣り合う多層巻き部分の間に位置する第1層を構成するワイヤの隣り合うターンは、互いに接するか、ワイヤの半径以下の隙間しか形成していないようにされるので、樹脂コーティング部材の体積が部分的に大きく増すことを抑制することができる。
【0025】
また、多層巻き部分における戻し巻き部が巻芯天面を覆う位置に存在しないようにすることができるので、巻芯天面に沿って設けられる樹脂コーティング部材の厚みの不均一度合いを低減することができる。
【0026】
したがって、樹脂コーティング部材においてクラックを生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】この発明の一実施形態によるインダクタ部品11を示す正面図であり、樹脂コーティング部材35を点線で示している。
図2図1に示したインダクタ部品11の平面図である。
図3図1に示したインダクタ部品11の底面図である。
図4図1に示したインダクタ部品11におけるワイヤ16の巻回工程における比較的初期の段階にある状態を示す底面図である。
図5】ワイヤ16の巻回工程における図4に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図6】ワイヤ16の巻回工程における図5に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図7】ワイヤ16の巻回工程における図6に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図8】ワイヤ16の巻回工程における図7に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図9】ワイヤ16の巻回工程における図8に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図10】ワイヤ16の巻回工程における図9に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図11】ワイヤ16の巻回工程における図10に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図12】ワイヤ16の巻回工程における図11に示した段階に後続する段階にある状態を示す底面図である。
図13図1に示したインダクタ部品11におけるワイヤ16の巻回順序を模式的に示す断面図である。
図14】この発明の他の実施形態を説明するための図13(6)に対応する図である。
図15】特許文献1の図5から引用したもので、この発明にとって興味ある従来のインダクタ部品1を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1ないし図3を参照して、この発明の一実施形態によるインダクタ部品11は、巻芯部12ならびに巻芯部12の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部13および第2鍔部14を有する、ドラム状コア15と、巻芯部12のまわりに巻回された、ワイヤ16と、を備える。
【0029】
ドラム状コア15は、非導電性材料、より具体的には、アルミナのような非磁性体、フェライトのような磁性体、または樹脂などから構成される。樹脂は、たとえばフェライト粉または金属磁性粉をフィラーとして含有するものが好ましい。ドラム状コア15に備える巻芯部12ならびに第1鍔部13および第2鍔部14は、四角形の断面形状を有する四角柱形状をなしている。四角柱形状の巻芯部12ならびに鍔部13および14を備えるドラム状コア15の「かど」や「すみ」部分には、面取りが施されてもよい。
【0030】
より詳細には、第1鍔部13は、外周面において、実装基板(図示されない。)側に向けられる鍔底面17と、鍔底面17とは逆方向に向く鍔天面19と、鍔底面17および鍔天面19間を連結しかつ互いに対向する第1鍔側面21および第2鍔側面23と、を有する。また、第1鍔部13は、巻芯部12側に向く内側端面25と、内側端面25とは逆方向に向く外側端面27と、を有する。
【0031】
同様に、第2鍔部14は、外周面において、実装基板側に向けられる鍔底面18と、鍔底面18とは逆方向に向く鍔天面20と、鍔底面18および鍔天面20間を連結しかつ互いに対向する第1鍔側面22および第2鍔側面24と、を有する。また、第2鍔部14は、巻芯部12側に向く内側端面26と、内側端面26とは逆方向に向く外側端面28と、を有する。
【0032】
巻芯部12は、実装基板側に向けられる巻芯底面29と、巻芯底面29とは逆方向に向く巻芯天面30と、巻芯底面29および巻芯天面30間を連結しかつ互いに対向する第1巻芯側面31および第2巻芯側面32と、を有する、外周面を備える。
【0033】
ワイヤ16は、円形の断面を有する。ワイヤ16は、たとえば、ポリエステルイミドのような樹脂で絶縁被覆された銅線からなる。
【0034】
インダクタ部品11は、第1鍔部13および第2鍔部14にそれぞれ設けられ、ワイヤ16の各端部がそれぞれ接続された、第1端子電極33および第2端子電極34を備える。第1端子電極33および第2端子電極34は、図面において暗色を施すことによって、その形成領域が示されている。
【0035】
第1端子電極33は、第1鍔部13の鍔底面17に設けられるとともに、好ましくは、鍔底面17から隣接する第1鍔側面21、第2鍔側面23、内側端面25および外側端面27の各々の一部にまで延びるように設けられる。同様に、第2端子電極34は、第2鍔部14の鍔底面18に設けられるとともに、好ましくは、鍔底面18から隣接する第1鍔側面22、第2鍔側面24、内側端面26および外側端面28の各々の一部にまで延びるように設けられる。
【0036】
第1端子電極33および第2端子電極34は、たとえば銀を導電成分とする導電性ペーストの焼付けによって形成され、その上に、必要に応じて、Niめっき、CuめっきおよびSnめっきが順次施されてもよい。これに代えて、端子電極33および34は、導電性金属板からなる端子金具を鍔部13および14に固着することによって設けられてもよい。
【0037】
インダクタ部品11は、図1において点線で示されているように、第1鍔部13の鍔天面19と第2鍔部14の鍔天面20との間に渡って延び、かつワイヤ16における巻芯部12の巻芯天面30側に位置する部分を埋めるように設けられた、樹脂コーティング部材35を備える。樹脂コーティング部材35は、樹脂からなり、好ましくは、フェライト粉または金属磁性粉が含有される。樹脂としては、紫外線硬化型樹脂が有利に用いられる。なお、図1以外の図面では、樹脂コーティング部材の図示が省略されている。
【0038】
巻芯部12のまわりに巻回されているワイヤ16は、下層側と上層側との間に戻し巻き部R1、R2およびR3(図3参照)をそれぞれ介在させながら複数層をなすように巻回されている3個の多層巻き部分M1、M2およびM3を形成している。3個の多層巻き部分M1、M2およびM3は、巻芯部12の軸線方向に沿って配置されている。
【0039】
この実施形態では、多層巻き部分M1、M2およびM3の各々は、巻芯部12の周面に最も近い層である第1層と、第1層の外周側に巻回される第2層と、を含んでいる。第2層は、第1層を形成するワイヤ16の隣り合うターン間に形成される凹部に嵌り込んでいる。
【0040】
戻し巻き部R1、R2およびR3は、巻芯部12の外周面における巻芯天面30以外の面を覆う位置にある。この実施形態では、インダクタ部品11の底面図である図3に戻し巻き部R1、R2およびR3が図示されていることからわかるように、戻し巻き部R1、R2およびR3は、巻芯部12の外周面における巻芯底面29を覆う位置にある。
【0041】
次に、ワイヤ16の巻回状態の詳細について、図4ないし図12ならびに図13を主として参照しながら説明する。図4ないし図12は、図3に対応する図であって、ドラム状コア15を底面側から示している。巻芯部12のまわりでワイヤ16が螺旋状に巻回される途中で、ワイヤ16は巻芯底面29を覆う位置から第1巻芯側面31を覆う位置まで導かれる過程がある。図13は、このような巻回途中の第1巻芯側面31上でのワイヤ16の状態を断面で示している。図13において、ワイヤ16の断面内に記入した数字は、第1鍔部13側から数えて何番目のターンであるかを便宜的に示している。
【0042】
図4から図12までを順次参照すれば、ワイヤ16の巻回状態が理解され得る。
【0043】
まず、図4に示すように、ワイヤ16が、第1層を形成するように、第1鍔部13側から第2鍔部14に向かって、巻芯部12のまわりに螺旋状にたとえば5ターン巻回される。ここで巻回された第1層の一部は、第1多層巻き部分M1における第1層となる。ここまでの状態が図13(1)に示した状態に相当する。
【0044】
次に、同じく図4に示すように、巻回されたワイヤ16によって戻し巻き部R1を形成するため、ワイヤ16の先端F1が戻し方向に向けられる。この状態が図13(2)に示した状態に相当する。図13(2)では、ワイヤ16の第6ターンが宙に浮いた状態で示されている。
【0045】
次に、図5に示すように、ワイヤ16が戻し巻き部R1を形成した後、次いで、ワイヤ16は第1多層巻き部分M1における第2層を形成するように巻回される。このとき、ワイヤ16の先端F2は、戻し巻き部R1の上に乗り上げようとしている。
【0046】
ワイヤ16の巻回を、図5に示す状態からさらに進めると、図13(3)に示すように、ワイヤ16の第6ターンが、第1層を形成するワイヤ16の第3ターンと第4ターンとの間に形成される凹部に嵌り込むように位置され、第1層の外周側の第2層を形成し始める。
【0047】
次に、図6に示すように、ワイヤ16が第2層を形成するように巻回される。図6において、ワイヤ16の先端が「F3」で示されている。
【0048】
ワイヤ16の巻回を、図6に示す状態からさらに進めると、図13(4)に示すように、ワイヤ16の第7ターンが、第1層を形成するワイヤ16の第4ターンと第5ターンとの間に対向する位置にもたらされる。
【0049】
次いで、図13(5)に示すように、ワイヤ16の第7ターンが、第1層を形成するワイヤ16の第4ターンと第5ターンとの間に形成される凹部に嵌り込みながら第2層を形成するように位置される。
【0050】
次に、図7に示すように、ワイヤ16は、第2層において2ターン以上(この実施形態では、2ターン)巻回された後、第2層から第1層へと移行し、図示されたワイヤ16の先端F4の位置からわかるように、再び第1層を形成する状態で巻回される。この状態が、図13(6)に示す状態に相当する。図13(6)に示すように、ワイヤ16の第8ターンは第1層を形成するように位置している。
【0051】
上述した図6および図7に示されるように、この実施形態では、第2層において螺旋状に巻回されるワイヤ16の、巻芯部12の軸線方向での進行方向は、第1層において螺旋状に巻回されるワイヤ16の軸線方向での進行方向と同じとされる。
【0052】
以後、図4ないし図7を参照して説明した工程と実質的に同様の工程が所定回数繰り返される。
【0053】
簡単に説明すれば、図8に示すように、ワイヤ16が第1層において所定ターン巻回された後、ワイヤ16によって戻し巻き部R2を形成するため、ワイヤ16の先端F5が戻し方向に向けられる。
【0054】
次に、図9に示すように、ワイヤ16が戻し巻き部R2を形成した後、次いで、ワイヤ16は第2多層巻き部分M2における第2層を形成するように巻回される。このとき、ワイヤ16の先端F6は、戻し巻き部R2の上に乗り上げようとしている。
【0055】
次に、図10に示すように、ワイヤ16が第2多層巻き部分M2における第2層をさらに形成するように巻回される。図10において、ワイヤ16の先端が「F7」で示されている。
【0056】
次に、図11に示すように、ワイヤ16は、第2層において2ターン以上(この実施形態では、2ターン)巻回された後、第2層から第1層へと移行し、図示されたワイヤ16の先端F8の位置からわかるように、再び第1層を形成する状態で巻回される。
【0057】
その後、図4ないし図7または図8ないし図11を参照して説明した上述の工程と実質的に同様の工程が実施され、最終的に、図12に示す状態が得られる。図12に示す状態において、ワイヤ16の端部が、それぞれ、第1端子電極33および第2端子電極34にたとえば熱圧着により接続される。この接続の後、ワイヤ16の端部の余分は切断除去され、図3に示す状態とされ、図1に示した樹脂コーティング部材35が設けられる。
【0058】
図3において、ワイヤ16は、第1層側と第2層側との間に戻し巻き部R1、R2およびR3を介在させながら2層をなすように巻回されている3個の多層巻き部分M1、M2およびM3を形成している。
【0059】
戻し巻き部R1、R2およびR3は、巻芯部12の外周面における巻芯天面30以外の面を覆う位置、好ましくは、巻芯底面29を覆う位置にあるため、巻芯天面30でのワイヤ16の巻回構造が簡素化される。したがって、巻芯天面30を覆うように設けられる樹脂コーティング部材35での応力集中を抑制することができる。また、巻芯天面30でのワイヤ16の巻回状態での高さを抑えることができる。
【0060】
また、3個の多層巻き部分M1、M2およびM3は、巻芯部12の軸線方向における複数箇所に分布しており、多層巻き部分M1、M2およびM3における、巻芯部12の周面に最も近い層である第1層を構成するワイヤ16のターンに関して、多層巻き部分M1、M2およびM3の隣り合うものの間に位置するワイヤ16の隣り合うターンは、互いに接するか、ワイヤ16の半径以下の隙間しか形成していないようにされている。なお、ワイヤ16の半径は、たとえば銅線からなる中心導体および樹脂からなる絶縁被覆を含むワイヤ16の半径である。
【0061】
したがって、樹脂コーティング部材35の体積が部分的に大きく増すことを抑制することができる。また、多層巻き部分M1、M2およびM3における戻し巻き部R1、R2およびR3が巻芯底面29を覆う位置にあるので、樹脂コーティング部材35の厚みの不均一度合いを低減することができる。これらのことから、樹脂コーティング部材35においてクラックを生じにくくすることができる。
【0062】
特に、この実施形態では、複数の多層巻き部分M1、M2およびM3の隣り合うものの間に位置するワイヤ16の隣り合うターンだけでなく、第1層を形成するワイヤ16の隣り合うターンは、巻芯部12の軸線方向における両端部に位置するターンを除いて、互いに接するか、ワイヤ16の半径以下の隙間しか形成していない。巻芯部12の軸線方向における両端部に位置するターンは、ワイヤ16が端子電極33および34に接続されるように導かれるため、ワイヤ16の半径を超える隙間が形成される可能性が高い。なお、巻芯部12の軸線方向における両端部に位置するターンも含めて、第1層を形成するワイヤ16の隣り合うターンのすべてが、互いに接するか、ワイヤ16の半径以下の隙間しか形成していないとすることを妨げるものではない。
【0063】
また、この実施形態では、多層巻き部分M1、M2およびM3の各々において、第2層を形成するワイヤ16のターン数は2以上の2とされている。このように、第2層を形成するワイヤ16のターン数を2以上とすることにより、ワイヤ16が第2層から第1層へ移行したとき、前に第1層に位置していたワイヤ16のターンと新たに第1層に移行してきたワイヤ16のターンとの間に隙間を生じにくくすることができる。また、第2層を形成するワイヤ16によって、巻回されたワイヤ16の輪郭の外周面から比較的鋭く突出する形態がもたらされることを避けることができる。したがって、これらのことによっても、樹脂コーティング部材35における局所的な応力の集中を抑制することができ、結果として、樹脂コーティング部材35でのクラックを生じにくくすることができる。
【0064】
また、図1図2および図3に図示された状態からわかるように、この実施形態では、巻芯部12のまわりに巻回されるワイヤ16は、比較的整った形状を有し、特に各図面における上下方向に関してほぼ対称の形態を与えている。このことも、樹脂コーティング部材35におけるクラックの抑制に寄与し得る。
【0065】
図14は、この発明の他の実施形態を説明するための図13(6)に対応する図である。図14では、ワイヤ16の断面内に示した数字からわかるように、第2層において螺旋状に巻回されるワイヤ16の、巻芯部12の軸線方向での進行方向は、第1層において螺旋状に巻回されるワイヤ16の、巻芯部12の軸線方向での進行方向と逆である。このことから、第2層でのワイヤ16の、巻芯部12の軸線方向での進行方向はいずれであってもよいことがわかる。
【0066】
以上、図示した実施形態に関連して説明したが、この発明の範囲内において、その他種々の変形例が可能である。
【0067】
たとえば、巻芯部の軸線方向に分布する多層巻き部分の数は、2個以上であれば、特に限定されるものではない。
【0068】
また、多層巻き部分におけるワイヤのターン数や層数は、必要な設計に応じて任意に変更することができる。しかも、多層巻き部分の各々におけるワイヤのターン数や層数は、多層巻き部分ごとに異ならされてもよい。
【0069】
また、この発明による異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【0070】
この発明には、以下のような実施態様がある。
【0071】
<1>
巻芯部ならびに前記巻芯部の軸線方向における互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有する、ドラム状コアと、
前記巻芯部のまわりに巻回された、断面円形のワイヤと、
前記第1鍔部および前記第2鍔部にそれぞれ設けられ、前記ワイヤの各端部がそれぞれ接続された、第1端子電極および第2端子電極と、
を備え、
前記巻芯部は、実装基板側に向けられる巻芯底面と、前記巻芯底面とは逆方向に向く巻芯天面と、を少なくとも有する、外周面を備え、
前記第1鍔部および前記第2鍔部は、実装基板側に向けられる鍔底面と、前記鍔底面とは逆方向に向く鍔天面と、を少なくとも有する、外周面を備え、
前記第1端子電極および前記第2端子電極は、それぞれ、前記第1鍔部および前記第2鍔部の少なくとも前記鍔底面に設けられ、
前記第1鍔部の前記鍔天面と前記第2鍔部の前記鍔天面との間に渡って延び、かつ前記ワイヤにおける前記巻芯部の前記巻芯天面側に位置する部分を埋めるように設けられた、樹脂コーティング部材をさらに備え、
前記ワイヤは、下層側と上層側との間に戻し巻き部を介在させながら複数層をなすように巻回されている多層巻き部分を形成しており、
前記戻し巻き部は、前記巻芯部の前記外周面における前記巻芯天面以外の面を覆う位置にあり、
前記多層巻き部分は、前記巻芯部の前記軸線方向における複数箇所に分布しており、
前記多層巻き部分における、前記巻芯部の周面に最も近い層である第1層を形成する前記ワイヤのターンに関して、隣り合う前記多層巻き部分の間に位置する前記ワイヤの隣り合うターンは、互いに接するか、前記ワイヤの半径以下の隙間しか形成していない、
インダクタ部品。
【0072】
<2>
前記第1層を形成する前記ワイヤの隣り合うターンは、前記巻芯部の前記軸線方向における両端部に位置するターンを除いて、互いに接するか、前記ワイヤの半径以下の隙間しか形成していない、<1>に記載のインダクタ部品。
【0073】
<3>
前記戻し巻き部は、前記巻芯部の前記外周面における前記巻芯底面を覆う位置にある、<1>または<2>に記載のインダクタ部品。
【0074】
<4>
前記多層巻き部分は、前記第1層と、前記第1層の外周側に巻回される第2層と、を含む、<1>ないし<3>のいずれかに記載のインダクタ部品。
【0075】
<5>
前記多層巻き部分の各々において、前記第2層を形成する前記ワイヤのターン数は2以上である、<4>に記載のインダクタ部品。
【0076】
<6>
前記第2層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向は、前記第1層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向と同じである、<5>に記載のインダクタ部品。
【0077】
<7>
前記第2層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向は、前記第1層において螺旋状に巻回される前記ワイヤの前記軸線方向での進行方向と逆である、<5>に記載のインダクタ部品。
【符号の説明】
【0078】
11 インダクタ部品
12 巻芯部
13 第1鍔部
14 第2鍔部
15 ドラム状コア
16 ワイヤ
17,18 鍔底面
19,20 鍔天面
29 巻芯底面
30 巻芯天面
33 第1端子電極
34 第2端子電極
35 樹脂コーティング部材
M1,M2,M3 多層巻き部分
R1,R2,R3 戻し巻き部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15