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特開2024-179132半導体装置および半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179132
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/56 20060101AFI20241219BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20241219BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20241219BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01L21/56 T
H01L25/04 C
H01L23/28 C
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097720
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】河村 一磨
【テーマコード(参考)】
4M109
5F061
【Fターム(参考)】
4M109AA01
4M109BA03
4M109CA21
4M109DB16
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB04
4M109EB12
5F061AA01
5F061BA03
5F061CA21
5F061DA02
5F061DA06
(57)【要約】
【課題】トランスファー成型におけるボイド発生を低減することができる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体装置50は、半導体チップ1が据え付けられた積層基板5と、半導体チップ1間および半導体チップ1と外部出力端子12と間の配線が設けられた回路基板9と、積層基板5と回路基板9を封止した封止樹脂10と、を備える。回路基板9には、積層基板5側と反対側に流速制御ピン14が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップが据え付けられた積層基板と、
前記半導体チップ間および前記半導体チップと外部出力端子と間の配線が設けられた回路基板と、
前記積層基板と前記回路基板を封止した封止樹脂と、
を備え、
前記回路基板には、前記積層基板側と反対側に流速制御ピンが設けられていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記流速制御ピンは、前記回路基板の端部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記流速制御ピンは、前記回路基板の端部および前記端部の中間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記流速制御ピンの材質は、前記封止樹脂より低弾性率の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
モールド金型を用いてトランスファー成形を行う半導体装置の製造方法において、
半導体チップが据え付けられた積層基板と、前記半導体チップ間および前記半導体チップと外部出力端子との配線が設けられた回路基板を有するモジュールを形成する第1工程と、
前記モジュールを前記モールド金型に取り付ける第2工程と、
前記モールド金型の注入ゲートから封止樹脂を注入する第3工程と、
を含み、
前記回路基板には、前記積層基板側と反対側に、前記封止樹脂の流動方向と垂直に並べた流速制御ピンが配置されていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記流速制御ピンは、前記回路基板の前記注入ゲート側の端部に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記流速制御ピンは、前記回路基板の前記注入ゲート側の端部および前記ゲート側と反対側の端部に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記流速制御ピンは、前記回路基板の前記注入ゲート側の端部、前記ゲート側と反対側の端部および前記端部の中間に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記回路基板の表面から前記モールド金型の表面までの距離をL、
前記封止樹脂の流動方向に対して垂直方向の前記モールド金型の幅をW、
前記流速制御ピンの本数をn、
前記封止樹脂の流動方向に射影したときの前記流速制御ピンの幅をd、
前記流速制御ピンの高さをh、
としたとき、前記封止樹脂の流路の断面積LWに対して前記流速制御ピンにより流動が遮られる射影密度ndh/LWは、10%以上48%未満であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記流速制御ピンの材質は、前記封止樹脂より低弾性率の樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記流速制御ピンの断面形状は、長軸が前記封止樹脂の流動方向側にある楕円であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの流路の内、流路断面積の大きい第1流路に上下動可能な流圧調整部材を設けた半導体装置が公知である(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-74193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の半導体装置では、半導体素子をトランスファー成型により封止する際、樹脂の流動面同士が合流する地点で、空気の巻き込みによる気泡(ボイド)が発生し、半導体装置が不良になるという課題があった。この発明は、トランスファー成型におけるボイド発生を低減できる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。半導体装置は、半導体チップが据え付けられた積層基板と、前記半導体チップ間および前記半導体チップと外部出力端子と間の配線が設けられた回路基板と、前記積層基板と前記回路基板を封止した封止樹脂と、を備える。前記回路基板には、前記積層基板側と反対側に流速制御ピンが設けられている。
【0006】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記流速制御ピンは、前記回路基板の端部に設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記流速制御ピンは、前記回路基板の端部および前記端部の中間に設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記流速制御ピンの材質は、前記封止樹脂より低弾性率の樹脂であることを特徴とする。
【0009】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。モールド金型を用いてトランスファー成形を行う半導体装置の製造方法であり、まず、半導体チップが据え付けられた積層基板と、前記半導体チップ間および前記半導体チップと外部出力端子との配線が設けられた回路基板を有するモジュールを形成する第1工程を行う。次に、前記モジュールを前記モールド金型に取り付ける第2工程を行う。次に、前記モールド金型の注入ゲートから封止樹脂を注入する第3工程を行う。前記回路基板には、前記積層基板側と反対側に、前記封止樹脂の流動方向と垂直に並べた流速制御ピンが配置されている。
【0010】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記流速制御ピンは、前記回路基板の前記注入ゲート側の端部に配置されていることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記流速制御ピンは、前記回路基板の前記注入ゲート側の端部および前記ゲート側と反対側の端部に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記流速制御ピンは、前記回路基板の前記注入ゲート側の端部、前記ゲート側の端部と反対側および前記端部の中間に配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記回路基板の表面から前記モールド金型の表面までの距離をL、前記封止樹脂の流動方向に対して垂直方向の前記モールド金型の幅をW、前記流速制御ピンの本数をn、前記封止樹脂の流動方向に射影したときの前記流速制御ピンの幅をd、前記流速制御ピンの高さをh、としたとき、前記封止樹脂の流路の断面積LWに対して前記流速制御ピンにより流動が遮られる射影密度ndh/LWは、10%以上48%未満であることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記流速制御ピンの材質は、前記封止樹脂より低弾性率の樹脂であることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記流速制御ピンの断面形状は、長軸が前記封止樹脂の流動方向側にある楕円であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、トランスファー成型におけるボイド発生を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す平面図で、回路基板側から見た図である。
図3】実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す側面図である。
図4】実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その1)。
図5】実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その2)。
図6】実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その3)。
図7】実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その4)。
図8】実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その5)。
図9】実施の形態2にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図10】実施の形態2にかかる半導体装置の構造を示す平面図である。
図11】実施の形態2にかかる半導体装置の製造における応力緩和を示す断面図である(その1)。
図12】実施の形態2にかかる半導体装置の製造における応力緩和を示す断面図である(その2)。
図13】実施例でのボイド評価方法を示す断面図である(その1)。
図14】実施例でのボイド評価方法を示す断面図である(その2)。
図15】実施例でのボイド評価方法を示す断面図である(その3)。
図16】実施例での流速制御ピン裏ボイドの評価を示す断面図である。
図17】実施例での締め付け試験の反り付き定盤を示す断面図である。
図18】実施例での半導体装置の反りを示す断面図である。
図19】実施例での半導体装置の締め付け試験を示す断面図である。
図20】実施例での半導体装置の流速制御ピンの形状を示す断面図である。
図21】従来の半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その1)。
図22】従来の半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その2)。
図23】従来の半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その3)。
図24】従来の半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その4)。
図25】従来の半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である(その5)。
図26】従来の半導体装置における反りの発生を示す断面図である。
図27】従来の半導体装置の製造における応力の発生を示す断面図である。
図28】従来の半導体装置の製造における樹脂割れの発生を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
最初に、従来の半導体装置の課題について説明する。従来の半導体装置は、積層基板105上に据え付けられた半導体チップ101やアルミワイヤ配線、リードフレーム配線等をトランスファー成型により封止樹脂110で封止する構造をとっている。特に近年、半導体装置の高実装密度化に伴い積層基板105の上部にもう一層回路基板109を設け一部の配線をそこへ移した積層構造モジュールが増えてきている。
【0020】
トランスファー成型は金型キャビティ118内に溶融させた液状の封止樹脂110を注入する工法である。図21図25は、従来の半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である。まず、半導体チップ101を搭載した積層基板105上に回路基板109を設けたモジュールを作成する。図21のように、金型キャビティ118内にモジュールを裏向きに設置する。封止樹脂110は、ゲート120からエアベント121の方向に流れる。エアベント121は金型キャビティ内の空気を逃すために設けられ、エアベント121の機能を生かすため、領域S1で封止樹脂110を合流させることが好ましい。
【0021】
次に、図22および図23のように、金型キャビティ118内に封止樹脂110が矢印方向に注入される。封止樹脂110は、高粘度流体であるため、絶縁基板105と回路基板109との間の峡部には、回路基板109と金型キャビティ118との間より少量しか流れないため、回路基板109の上下では流動の速度差が生じてしまう。このため、図24のように、封止樹脂110の合流地点は、領域S1でなくなる場合が発生する。この場合、エアベント121から離れた領域S2で封止樹脂110が合流してしまい、エアベント121から空気を逃すことができず、ボイド115が発生してしまう。図25のように、ボイド115が半導体チップ101の近傍で発生してしまうと、ボイド115により半導体装置が不良となるという課題がある。具体的には、強度や絶縁性などである。
【0022】
従来技術では、樹脂流速制御を行うことが困難で、特に、近年増加している積層構造モジュールの場合は、2枚の基板の間という峡部へ樹脂を流す必要があり、流速調整難易度が高いという課題があった。
【0023】
以下に上述の課題を解決する実施の形態1にかかる半導体装置を説明する。図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。図1に示す半導体装置50は、パワー半導体モジュールを示す。半導体装置50は、第1絶縁基板2に第1導電性板3と第2導電性板4とを積層した積層構造を持ち、パワー半導体チップ1を搭載した積層基板5と、第2絶縁基板6に第3導電性板7と第4導電性板8を積層した積層構造を持つ回路基板9と、を有し、パワー半導体チップ1は第1導電性板3上にはんだ13で接合されている。なお、本明細書では、回路基板9は、パワー半導体チップ1の上方(図1では下方)に配置されているが、パワー半導体チップ1の下方の、積層基板5と反対側に配置されてもよい。また、図1はトランスファー成型後の金型から取り出した形態で、使用される場合は上下反転して、冷却器(不図示)、配線(不図示)等と接続される場合がある。また、本明細書においては、半導体装置50やパワー半導体チップ1の上方とは図1では紙面上の下方を示し、半導体装置50やパワー半導体チップ1の下方とは図1では紙面上の上方を示すこととする。
【0024】
第1導電性板3と第2導電性板4は、例えば銅(Cu)板であり、第1絶縁基板2はセラミック絶縁基板である。また、第3導電性板7と第4導電性板8は、例えば金属パターンであり、第2絶縁基板6はエポキシ基板である。回路基板9は、パワー半導体チップ1間およびパワー半導体チップ1と外部出力端子12と間の配線が設けられている。回路基板9には、貫通孔が開いており、そこへ配線用のニッケル(Ni)/Cuの配線ピン11がピン端子挿入治具を用いて挿入され、配線ピン11とパワー半導体チップ1とをはんだ13で接合して配線される。これらは、封止樹脂10、例えば、Tg(ガラス転移点)200℃のエポキシ樹脂にて金型温度175℃でトランスファー封止されている。
【0025】
実施の形態1にかかる半導体装置50は、積層基板5と回路基板9とを配線ピン11で配線したピン構造に限らず、積層基板5と回路基板9との2層を有する構造であれば、以下に示す本発明の樹脂流路制御効果を得ることは可能である。例えば、積層基板5と回路基板9との電気的接続を配線ピン11ではなくCuの板やブロックなどで配線するリードフレーム構造やワイヤ配線部材であってもよい。
【0026】
パワー半導体チップ1は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)あるいはダイオードチップ等のパワーチップであり、シリコン(Si)デバイスであってもよく、炭化珪素(SiC)デバイス、窒化ガリウム(GaN)デバイス、ダイヤモンドデバイス、酸化亜鉛(ZnO)デバイスなどのワイドギャップ半導体デバイスであってもよい。また、これらのデバイスを組み合わせて用いてもよい。例えば、Si-IGBTとSiC-SBDを用いたハイブリッドモジュールなどを用いることができる。パワー半導体チップ1の搭載数は、1つであってもよく、複数搭載することもできる。
【0027】
積層基板5は、第1絶縁基板2とその一方の主面に形成される第1導電性板3と、他方の主面に形成される第2導電性板4とから構成することができる。第1絶縁基板2としては、電気絶縁性、熱伝導性に優れた材料を用いることができる。第1絶縁基板2の材料としては、例えば、Al23、AlN、SiNなどが挙げられ、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂でもよい。特に高耐圧用途では、電気絶縁性と熱伝導率を両立した材料が好ましく、AlN、SiNを用いることができるが、これらには限定されない。第1導電性板3、第2導電性板4としては、加工性に優れるCu、Alなどの金属材料を用いることができる。また、第1導電性板3、第2導電性板4は、防錆などの目的で、Niめっきなどの処理を行ったCu、Alであってもよい。第1絶縁基板2上に第1導電性板3、第2導電性板4を配設する方法としては、直接接合法(Direct Copper Bonding法)もしくは、ろう材接合法(Active Metal Brazing法)が挙げられる。また、パワー半導体チップ1は、第1導電性板3に、はんだ13等の接合材により接合され、搭載される。
【0028】
トランスファー成型による封止樹脂10は、熱硬化性樹脂と当該熱硬化性樹脂に含有されている無機物フィラーとを含んでいる。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂を含む群から選択される少なくとも1種を主成分とする。好ましくは、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を主成分とする。また、無機物フィラーには、高絶縁で高熱伝導の無機物が用いられる。無機物は、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化硼素を含む群から選択される少なくとも1種を主成分とする。好ましくは、無機物フィラーは、酸化珪素を主成分とする。酸化珪素を用いることで、離型剤としても機能する。また、ハロゲン系、アンチモン系、水酸化金属系等の難燃剤を配合することなく、高い難燃性を保つことができる。無機物フィラーは、封止原料全体の70vol%以上、90vol%以下である。
【0029】
トランスファー成型による封止樹脂10の溶融時せん断粘度は、例えば、10~4000Pa・s(せん断速度0.06(1/s))のものが利用され、100~2000Pa・s程度のものが好ましい。
【0030】
さらに、封止樹脂10は、熱硬化性樹脂と無機物フィラー以外に任意選択的に硬化剤、硬化促進剤、添加剤を含んでもよい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂主剤、好ましくはエポキシ樹脂主剤と反応し、硬化しうるものであれば特に限定されないが、酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば芳香族酸無水物、具体的には無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。あるいは、環状脂肪族酸無水物、具体的にはテトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等、もしくは脂肪族酸無水物、具体的には無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等を挙げることができる。
【0031】
硬化促進剤としては、イミダゾールもしくはその誘導体、三級アミン、ホウ酸エステル、ルイス酸、有機金属化合物、有機酸金属塩等を適宜配合することができる。添加剤としては、例えば、難燃剤、樹脂を着色するための顔料、耐クラック性を向上するための可塑剤やシリコンエラストマーが挙げられるが、これらには限定されない。これらの任意成分、およびその添加量は、半導体装置50および封止樹脂10に要求される仕様に応じて、当業者が適宜決定することができる。
【0032】
図2は、実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す平面図で、回路基板側から見た図である。実施の形態1では、図2に示すように、回路基板9の端部A、端部Bに追加で開けた貫通孔に樹脂合流位置を調整するために流速制御ピン14を設けている。流速制御ピン14は、金型キャビティ18のゲート20が位置する面に対して最も近い位置にある回路基板9の辺E1付近で、積層基板5側と反対側の面上(端部A)に複数設けられ、封止樹脂10の流動方向(以下、樹脂流動方向と称する。)と垂直に並べて配置されている。また、辺E1と対向する位置にある辺(辺E2)の端部Bにも流速制御ピン14を同様に配置してもよい。なお、本発明における流速制御ピン14は半導体装置50に直接搭載されているため、トランスファー成型後も半導体装置50内に残り続ける。なお、図2等は流速制御ピン14を示す概念図で、外部出力端子12等の記載は省略する。
【0033】
また、流速制御ピン14の素材には樹脂や金属が利用できる。特に、封止樹脂10より低弾性率の流速制御ピン14を用いた場合は、応力緩和効果による樹脂割れ破壊耐量の向上効果が得られる。高温の金型内に投入する必要があるため、樹脂の流速制御ピン14を用いる場合はガラス転移により弾性率が低下して流速制御機能を失わないために、トランスファーモールド時の金型温度よりもガラス転移温度Tgが15℃以上高い樹脂を使用する必要がある。金属の流速制御ピン14を用いる場合は、配線ピン11と同じくNi/Cuピンを使用することができる。なお、流速制御ピン14は、積層基板5と反対側の向きに、回路基板9にほぼ垂直に設けられる。言い換えれば回路基板9と金型キャビティ18の底部(図4の下側の面)との間に設けられる。
【0034】
図3は、実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す側面図である。回路基板9の端部には端部A、端部Bがあり、端部Aとは、回路基板9のゲート20側の端部であり、より具体的には、回路基板9のゲート20側の辺E1を起点に回路基板9の長さの30%の範囲内の領域であり、端部Bは、回路基板9のゲート20側と反対側の端部であり、より具体的には、回路基板9のゲート20と反対側の辺E2を起点に回路基板9の長さの30%の範囲内の領域である(図2参照)。樹脂流動方向とは、ゲート20側の辺E1からゲート20と反対側の辺E2に向かう方向である(図5図6の矢印)。なお、ゲート20とエアベント21が平面視の金型の対角線方向にズレて位置している場合も同様である。
【0035】
実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法では、まず、積層基板5上にパワー半導体チップ1等を搭載し、回路基板9に流速制御ピン14を取り付ける。回路基板9への流速制御ピン14の付与は、流速制御ピン14が樹脂の場合は例えば回路基板9の金属パターンやガラスエポキシ基板へのレーザー溶接や接着剤などで行う。また、回路基板9に貫通孔や凹部に挿入しても良い。金属の場合は例えばはんだ付けや回路基板9に開けた貫通孔や凹部への挿入などで行い、接着剤などを用いても良い。その際、前記接着剤は封止樹脂10と同種のものであることが、密着性の点から好ましい。次に、積層基板5上に回路基板9を配線ピン11で接合したモジュールを作製する(封止前のモジュール)。これまでを第1工程と称する。図4図8は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法における封止樹脂充填を示す断面図である。図4図8では配線ピン11等の記載を省略する。
【0036】
次に、図4に示すように、金型キャビティ(モールド金型)18内にモジュールを裏向きに設置する(第2工程)。次に、図5および図6に示すように、金型キャビティ18内に封止樹脂10が矢印方向に注入される(第3工程)。封止樹脂10は、ゲート(注入ゲート)20からエアベント21の方向に流れる。封止樹脂10は、高粘度流体であるため、絶縁基板5と回路基板9との間の峡部には、回路基板9と金型キャビティ18との間より少量しか流れないため、回路基板9の上下では流動の速度差が生じてしまう。しかし、実施の形態1では、回路基板9と金型キャビティ18(底部)との間には、流速制御ピン14が設けられている。このため、流速制御ピン14を封止樹脂10が流れる際に流速制御ピン14による抵抗が生じるため、封止樹脂10の流速が低下する。これにより、回路基板9と金型キャビティ18との間に入りづらかった封止樹脂10は代わりに絶縁基板105と回路基板109との間に流れるようになるため、回路基板上下の封止樹脂10の流速を合わせることができる。
【0037】
このため、図7のように、エアベント21付近Sで封止樹脂10を合流させることで巻き込み空気を逃すことができ、図8のように、封止樹脂10を充填する際にボイドの発生を低減させることが可能になる。また、製品形状に応じて流速制御ピン14の配置を適切に行うことで樹脂流速を制御し、例えば封止樹脂10の合流地点をボイドによるリスクの低い箇所へと移すことが可能となる。
【0038】
以上、説明したように、実施の形態1では、端部に流速制御ピンを樹脂の流動方向とは垂直となるように並べて配置することで、樹脂が流速制御ピン間を通過する際に流速制御ピンからの抵抗を受けながらゆっくり流動するようになるため、樹脂の合流位置を調整することができ、ボイドの発生を低減させる、または、ボイドの発生箇所をボイドによるリスクの低い箇所へと移すことができる。
【0039】
(実施の形態2)
最初に、従来の半導体装置の課題について説明する。図26は、従来の半導体装置における反りの発生を示す断面図である。従来の半導体装置では、トランスファー成型後封止樹脂110の硬化収縮による反りが発生する場合がある。図26のように、積層基板105の上部と封止樹脂110とでは高さIの反りが発生する。図27は、従来の半導体装置の製造における応力の発生を示す断面図である。半導体装置を冷却器等の金属板116に取り付け、固定ネジ117で固定すると、ネジ締め固定による引張応力がD1の箇所に発生する。図28は、従来の半導体装置の製造における樹脂割れの発生を示す断面図である。引張応力が一定以上になると、図28のようにC1の箇所に樹脂割れが発生して、半導体装置が故障するという課題があった。
【0040】
以下に上述の課題を解決する実施の形態2にかかる半導体装置を説明する。図9は、実施の形態2にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。図9に示すように、実施の形態2にかかる半導体装置50が、実施の形態1にかかる半導体装置50と異なる点は、回路基板9の端部A、Bの中間地点(中間C)にも、複数の流速制御ピン14を樹脂流動方向と垂直に並べて配置していることである。
【0041】
図10は、実施の形態2にかかる半導体装置の構造を示す平面図である。端部A、Bは、実施の形態1と同じである。中間Cとは回路基板9を樹脂流動方向に対して垂直に等分する辺C1を起点に回路基板9の長さの15%ずつ(合計30%)の領域である。
【0042】
図11および図12は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造における応力緩和を示す断面図である。トランスファー成型後、封止樹脂10の硬化収縮による反りが発生し、図11のように、積層基板5の上部と封止樹脂10とでは高さIの反りが発生する。図12のように、半導体装置50を金属板16に取り付け、固定ネジ17で固定すると、ネジ締め固定による引張応力がD1の箇所に発生する。実施の形態2では、流速制御ピン14が引張応力が発生するD1の箇所に配置されているため、流速制御ピン14がネジ締め固定による応力を緩和することができ、C1の箇所で樹脂割れを回避し、故障耐性を向上させることができる。また、パワー半導体モジュールの剛性の向上による効果も有すると推定される。
【0043】
ここで、特に流速制御ピン14の材質を弾性率が封止樹脂10よりも低い値であるよく伸びる樹脂に選択することで封止樹脂10に生じる内部応力を緩和し、樹脂割れ破壊をより回避し、故障耐性をより向上させることができる。流速制御ピン14の材質を樹脂ではなく金属を用いた場合も、金属の剛性の高さによる変形抑制効果が働き、樹脂割れ回避し破壊耐量を向上できる。流速制御ピン14の材質が金属と樹脂では、樹脂の方が樹脂割れ破壊耐量向上効果の方が高い。なお、中間Cに流速制御ピン14を配置すると、パワー半導体チップ1の近傍に発生するボイドを低減する効果も有する。
【0044】
以上、説明したように、実施の形態2では、回路基板の端部の中間地点にも、複数の流速制御ピンを設けることで、剛性の向上またはネジ締め固定による応力を緩和することができ、モジュールの変形に対する強度が向上し、樹脂割れを回避し、故障耐性を向上させることができる。
【0045】
(実施例)
以下に、実施の形態1および実施の形態2での流速制御ピン14の高さや形状・配置の実施例について説明する。まず、流速制御ピン14の効果に対する評価方法を説明する。評価方法として、ボイド評価に対して、絶縁破壊試験を行い、モジュールの変形に対する強度に対して信頼性試験、締め付け試験を行う。
【0046】
(ボイド評価)
図13図15は、実施例でのボイド評価方法を示す断面図である。ボイド15は、封止樹脂10を充填したサンプルに対して、超音波探傷検査(SAT:Scanning Acoustic Tomography)および透過型X線像検査を行い、積層基板5およびパワー半導体チップ1を撮影できる高さ(観察面24)でのSAT像またはX線像を観察し、ボイド発生位置を評価する。
【0047】
ボイド15は高電圧のかかるパワー半導体チップ1からできるだけ離れた場所にあることが好ましい。このため、ボイド評価はボイド位置で行う。ボイド位置の判定は、ゲート20の位置から最も離れた位置にあり封止樹脂10が最も遅く通過するパワー半導体チップ1(終端チップ)においてゲート20から最も遠い位置にある辺(終端部)を基準としたときに、最も終端部に近い位置にあるボイド15の最接近点までの距離L1(以降、チップ-ボイド間距離L1と表記)にて評価する(図14参照)。
【0048】
良否基準はチップ-ボイド間距離L1が0.0mmよりも大きければ(終端チップの外側にボイド出現すれば)、絶縁耐圧を満たすため良品とし、0.0mm以下(終端チップ上にボイド出現)であれば、絶縁耐圧を満たさないため、不良とする。また、絶縁耐圧をさらに向上させるため、チップ-ボイド間距離L1が、終端チップのゲート20から最も遠い位置にある辺と積層基板5のゲート20から最も遠い位置にある辺との距離L2よりも大きいことが好ましい。距離L2は、例えば7.5mmである。なお、SAT像とX線像の使い分けについて、測定原理的に積層基板5上のボイド15はX線像では観察できず、積層基板5外のボイド15はSAT像では観察できないことから、SAT像にボイド15がなかった場合のみ別途X線透過像によるボイド有無およびボイド位置評価を行う。
【0049】
(絶縁破壊試験)
ボイド15による品質への影響は、半導体装置50のおもて面の外部出力端子12-積層基板5間における絶縁破壊試験にて評価し、60秒間印加しても絶縁破壊が生じない電圧の上限を0.2kV間隔で昇圧して求めた。良否基準は5台測定における平均耐電圧が8.0kV以上であれば合格とした。
【0050】
(流速制御ピン裏ボイド評価)
図16は、実施例での流速制御ピン裏ボイドの評価を示す断面図である。流速制御ピン14の裏に発生するボイド15は、封止樹脂10を充填したサンプルに対して、SATを行い、回路基板9を撮影できる高さ(観察面24)でのSAT像を観察し、ボイド発生位置を評価する。
【0051】
(モジュールの変形に対する強度)
モジュールの変形に対する強度は反り付き定盤への締め付け試験にて実施する。図17は、実施例での締め付け試験の反り付き定盤を示す断面図である。反り付き定盤23は、ネジ穴22間に初期反りI1の値が様々に振ってある定盤である。初期反りI1とは、ネジ穴22を基準にしたときの最頂点までの高さである。図18は、実施例でのモジュールの反りを示す断面図である。モジュールの反りI2はネジ穴22を基準にしたときの最頂点までの高さである。
【0052】
図19は、実施例での半導体装置の締め付け試験を示す断面図である。締め付け試験は、反り付き定盤23へモジュールを締め付けることでフラット定盤と比べて大きな変形をモジュールに与え、ネジ締め固定による引張応力をD1の箇所に発生させる。初期反りI1の大きな反り付き定盤23へ順番に交換していき最初にモジュールに割れが発生するまでを観察する強度試験である。
【0053】
評価指標は、モジュールの反りI2+反り付き定盤23におけるネジ穴22間初期反りI1の和から求めた総変形量で、反り付き定盤23の初期反りI1は0μm~300μmまで20μm刻みに用意し、トルク3.5N・mでネジ締め後10秒保持した後のモジュール中央部の割れ発生有無を外観検査で評価した。割れが発生したときの総変形量が締め付け破壊変形量である。
【0054】
(信頼性試験)
半導体装置50の変形による品質への影響はパワーサイクル(P/C)試験にて行った。75~150℃(ΔTvj75℃)で、通電運転1秒(150℃になるように電流値を設定)、休止9~15秒(75℃になるように電流値を設定)の条件を1サイクルとした。電流または電圧が所定の値より25%以上変動するまでのサイクル数をP/C寿命とした。良否基準は5台分の破壊サイクル数の平均値が1000kcyc以上であれば合格とした。
【0055】
(実験例1)
実験例1では、流速制御ピン14の位置の効果を確認した。ここでは、比較例1として流速制御ピン14無し(従来構造)、および実施例1-1~1-6として、Ni/Cuピンの流速制御ピン14を端部A、端部B、中間Cのそれぞれ、またはそれらを組み合わせた箇所に付与したサンプルを作製し、流速制御ピン14の位置による効果を評価した。実施例1-1~1-6では流速制御ピン14の位置は端部A、Bでは回路基板9端から1mm離れた場所に、中間Cでは回路基板9の長手方向中間に配置し、回路基板9表面から製品表面までの距離をL=2.5mmに対して、流速制御ピン14の高さはh=1.65mmとした(L、hについては図1図3参照)。またモジュール幅W=26.0mmに対して直径d=0.4mmの円柱状の流速制御ピン14n=22本を0.5mm間隔で並べて回路基板9上に配置した(W、dについては図3参照)。これにより、回路基板9上の樹脂流動断面積LW=2.5mm×26.0mm=65.0mm2に対して流速制御ピン14によって射影される面積はndh=22×0.4mm×1.65mm=14.5mm2となり、射影密度(ピンの占める面積の割合)はndh/LW=14.5mm2/65.0mm2=22.3%であった。
【0056】
実験例1の結果を表1に示す。

【表1】
【0057】
上記表1より、比較例1では、チップ-ボイド間距離が負方向になり、絶縁破壊電圧が低く、絶縁破壊しやすいことがわかった。このように、流速制御ピン14の無い比較例1ではボイドがパワー半導体チップ1直上に出現してしまい、絶縁破壊耐量も合格基準に届いていなかった。
【0058】
一方、実施例1-1~1-6は全ての場合においてチップ-ボイド間距離は0.0mm以上であり、絶縁耐圧も8kV以上であり合格であった。1カ所のみ流速制御ピン14を設置した場合(実施例1-1~1-3)のボイド位置制御効果は端部A>中間C>端部Bの順に高く、流速制御ピン14の設置位置が樹脂流入のゲート20に近いほど流速制御ピン14間通過後の樹脂流速低減効果が高いことを示している。
【0059】
流速制御ピン14の設置位置を2か所以上組み合わせた場合(実施例1-4~1-6)のボイド位置制御効果はA+B+C>A+C>A+Bであり、流速制御ピン14の設置個所は多いほど効果は高く、設置個所が同数であればやはりゲート20付近に設置した方が効果が高いことがわかった。つまり、端部Aを含む位置に流速制御ピン14を配置することが好ましい。特にA+B+Cでのボイド位置制御効果は著しく、積層基板5外にもボイドは検出されなかった。これは樹脂流速が適切に制御されたため樹脂合流位置を金型エアベント21付近に移動させることに成功し、ボイドとなっていた巻き込み空気を適切にモジュール外へ排除できたためである。なお、実施例1-6を除き、ボイドサイズは全ての例において300μm程度であり、流速制御ピン14によって制御できるのはボイドの出現位置でありサイズを小さくできるわけではないことを確認した。絶縁破壊試験結果もチップ-ボイド間距離と同じ傾向を示し、比較例1では不合格だったものが実施例全てで合格となり、絶縁耐圧の向上が確認できた。また、すべての実施例において、締め付け試験やP/C試験でも効果を有することが分かった。これは、流速制御ピン14(金属)によって、モジュールの剛性が向上したため、変形抑制効果(樹脂割れ低減)が働き信頼性(P/C寿命)が向上したものと推定される。
【0060】
(実験例2)
実験例2では、流速制御ピン14の間隔による効果を確認した。実験例2では流速制御ピン14の長さhおよび本数nを可変し、樹脂流動断面積LWのうち流速制御ピン14によって射影される密度ndh/LWによる流路調整効果を評価した。流速制御ピン14には実験例1と同じく直径d=0.4mmの円柱状Ni/Cuピンを利用し、流速制御ピン14は端部Aにのみ設置し、流速制御ピン14の長さや本数および間隔は表2に示した条件にて作製した。評価はチップ-ボイド間距離にて行った。
【0061】
実験例2の結果を表2に示す。表2におけるL、Wは実験例1と同じく回路基板9表面から製品表面までの距離、モジュール幅である。なお、ピンの長さhはLを基準として表した。

【表2】
【0062】
上記表2より、流速制御ピン14による射影密度ndh/LWが増加するにつれチップ-ボイド間距離は増加し、射影密度が10%以上でチップ-ボイド間の距離が+1mm以上となり、絶縁耐圧も良好であった。射影密度を22%以上とすると、チップ-ボイド間の距離が+4.5mm以上となり、特に良好であった。また、射影密度が39.6%以上ではボイドも見られなかった。このことから流速制御ピン14による射影密度が大きいほど樹脂流速の制御効果は高いことがわかる。しかし、射影密度が48%以上になると、パワー半導体チップ1付近におけるボイドは無かったものの流速制御ピン14により樹脂流動が過剰にせき止められたことから、実用支障はない程度の軽微な樹脂未充填箇所(外観上の欠陥)が生じる場合があった。以上より、射影密度は10%以上48%未満が好ましく、22%以上がより好ましく、39.6%以上48%未満がさらに好ましい。
【0063】
(実験例3)
実験例3では、流速制御ピン14の材質による効果を確認した。実験例3では、流速制御ピン14の材質として封止樹脂10よりも弾性率の低い樹脂を用いた場合(樹脂ピン)について行った。実験例1、2で使用した硬化後の封止樹脂10は200℃の高いTgをもつエポキシ樹脂(住友ベークライト製G720E)で、トランスファー封止時の金型温度は175℃、硬化後の弾性率は25℃で16GPa程度である。実験例3では封止樹脂10と同じくTg200℃のエポキシ系で、組成からフィラー成分を除き弾性率を6GPaまで低下させた樹脂を流速制御ピン14の材質として利用した例を評価した。なお、流速制御ピン14の形状は実験例1、2と同じく直径0.4mmの円形で、流速制御ピン14の密度は実験例1と同じく22本、ピン間隔0.5mmの射影密度22.3%に固定した。
【0064】
実験例3の結果を表3に示す。

【表3】
【0065】
上記表3より、チップ-ボイド間距離および絶縁破壊試験結果については実験例1とほぼ同等の結果となった。このことから、流速制御ピン14によるボイド位置調整効果は流速制御ピン14の材質により変わらないことがわかった。一方、締め付け試験やP/C試験結果では比較例1と比べ改善がみられた。これはネジ締めによって引張応力が集中するモジュール上部に伸びやすい低弾性樹脂ピンが配置されたことによる応力緩和効果が作用したためと考えられる。特に、応力が集中しやすいモジュール中央(中間C)に低弾性樹脂ピンが配置された場合(実施例3-1~3-6)は、破壊耐量の向上が顕著であった。流速制御ピン14を端部Aのみに配置した実施例1-1と実施例3-1を比較すると、樹脂ピンを使用した実施例3-1の方が締め付け破壊変形量およびP/C寿命の向上が顕著であった。このことから、金属ピンと樹脂ピンにはどちらも樹脂割れ低減の効果があるが、樹脂ピンの方がその効果は高いと言える。
【0066】
(実験例4)
実験例4では、実施例4-1~4-4において、各流速制御ピン14の形状の効果による効果を確認した。実験例1-1と同じくNi/Cuピンを端部Aに配置し、流速制御ピン14の形状(上面から見た断面形状)には実験例1~3と同じく円柱状の他にも楕円柱と正四角柱を用意した。図20は、実施例での半導体装置の流速制御ピンの形状を示す断面図である。なお、正四角柱は、正方形の対角線の一つが樹脂流動方向に垂直な場合と、正方形の辺の一つが樹脂流動方向に垂直な場合を設けた。流速制御ピン14の高さhは1.65mmで、射影密度を22.3%に揃えるため樹脂流動方向と垂直にあたる部分の射影が0.4mmとなるように表4に示した流速制御ピン14のサイズを用いた。なお、楕円柱は2種類とも扁平率を50%で統一した。楕円柱は、短軸が樹脂流動方向に垂直な場合と、長軸が樹脂流動方向に垂直な場合を設けた。
【0067】
実験例4の結果を表4に示す。表4において、垂直を⊥で表している。例えば、対角線の一つ⊥樹脂流動方向は、正方形の対角線の一つが樹脂流動方向に垂直な場合である。

【表4】
【0068】
上記表4より、すべての実施例においてほぼ同等のチップ-ボイド間距離を確認した。これにより樹脂流速の制御効果は流速制御ピン14の形状に依らず一定であることがわかった。しかしながら、回路基板9上を撮影したSAT像を見てみると流速制御ピン14の裏側にボイド15が出現していることがわかった(図16参照)。これは流速制御ピン14を通過した樹脂流動面が合流して空気を巻き込んでしまい、流速制御ピン14の裏側に空気だまりが出現してしまったものと思われる。流速制御ピン14の裏側のボイドは、信頼性を損ねる可能性があるため、小さいことが望ましい。流速制御ピン14裏ボイドのサイズは流速制御ピン14の形状や設置方向によって異なり、円柱・楕円柱<正四角柱で、最も良いものは楕円柱(短軸⊥樹脂流動方向)、最も悪いものは正四角柱(辺⊥樹脂流動方向)であった(図17参照)。絶縁破壊電圧も概ね流速制御ピン14裏ボイドサイズとの相関を示したものの、新たに流速制御ピン14裏にボイドが出現したとしても絶縁破壊電圧は比較例と比べてどれも向上しており、流速制御ピン14の形状に依らずモジュール性能向上に効果があることを確認できた。
【0069】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体モジュールに有用である。
【符号の説明】
【0071】
1、101 パワー半導体チップ
2 第1絶縁基板
3 第1導電性板
4 第2導電性板
5、105 積層基板
6 第2絶縁基板
7 第3導電性板
8 第4導電性板
9、109 回路基板
10、110 封止樹脂
11 配線ピン
12 外部出力端子
13 はんだ
14 流速制御ピン
15、115 ボイド
16、116 金属板
17、117 固定ネジ
18、118 金型キャビティ
20、120 ゲート
21、121 エアベント
22 ネジ穴
23 反り付き定盤
24 観察面
50 半導体装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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