(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179144
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜方法およびその成膜装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20241219BHJP
C25D 21/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C25D21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097739
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 圭児
(72)【発明者】
【氏名】近藤 春樹
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 功二
(57)【要約】
【課題】マスキング材の貫通部分の壁面に付着した結晶に起因した金属皮膜の成膜不良を低減することができる。
【解決手段】成膜装置1は、めっき液Lを収容した状態で、めっき液Lを電解質膜13で封止した収容体15と、基材Bに対して収容体15を移動させる直動アクチュエータ70と、収容体15内のめっき液Lの液圧を電解質膜13に作用させて、電解質膜13を介して、基材Bを押圧する押圧機構と、収容体15に収容され、電解質膜13に離間して配置された陽極11と、陽極11と基材Bとの間に電圧を印加する電源14と、基材Bと収容体15とが引き離された状態で、基材Bと収容体15との間の空間Sを囲う囲い部材80Aと、囲い部材80Aにより囲われた空間Sに、電解質膜13に向かって、加湿した気体Aを流す加湿機構80Bと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解めっきにより電解質膜を移動した金属イオンに由来した金属皮膜を基材に成膜する成膜装置であって、
前記成膜装置は、
成膜用の金属イオンを含むめっき液を収容した状態で、前記めっき液を前記電解質膜で封止した収容体と、
前記基材に対して前記収容体を移動させる移動装置と、
前記収容体内の前記めっき液の液圧を前記電解質膜に作用させて、前記電解質膜を介して、前記基材を押圧する押圧機構と、
前記収容体に収容され、前記電解質膜に離間して配置された陽極と、
前記押圧機構により前記基材を押圧した状態で、前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源と、
前記基材と前記収容体とが引き離された状態で、前記基材と収容体との間の空間を囲う囲い部材と、
前記囲い部材により囲われた空間に、前記電解質膜に向かって、加湿した気体を流す加湿機構と、を備えること特徴とする金属皮膜の成膜装置。
【請求項2】
前記囲い部材の基材側の側壁部分には、前記気体を前記空間に供給する供給口が形成されており、
前記囲い部材の電解質膜側の側壁部分には、前記空間から前記気体を排出する排出口が形成されており、
前記排出口には、前記気体を吸引する吸引装置が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項3】
前記囲い部材には、前記供給口が複数形成されており、
前記各供給口から前記空間に供給された前記気体が衝突することにより、前記電解質膜側に向かう気流が発生するように、複数の前記供給口が、前記空間を挟んで、前記囲い部材の基材側の側壁部分に対向していることを特徴とする請求項2に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項4】
前記加湿機構は、前記気体として不活性ガスを供給する供給源を有することを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜装置。
【請求項5】
前記成膜装置は、前記電解質膜と対向する位置において前記収容体に取り付けられ、所定のパターンの貫通部分が形成され、前記基材を覆うマスキング材をさらに備え、
前記成膜装置は、前記電解質膜と前記基材との間に前記マスキング材を挟み込んだ状態で、前記電解めっきにより、前記所定のパターンを有した金属皮膜を前記基材に成膜する装置であることを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に所定のパターンの金属皮膜を成膜する成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させて、金属皮膜を成膜している(例えば、特許文献1参照)。成膜装置は、めっき液を収容する収容体を備えている。収容体には、開口部が形成されており、開口部は、電解質膜で封止されている。成膜装置は、めっき液の液圧により電解質膜で基材を押圧する押圧機構をさらに備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の成膜装置で成膜する際に、めっき液の液圧により、電解質膜で基材を押圧するため、電解質膜から染み出しためっき液(染み出し液)が乾燥し、結晶化することがある。内部に空気を取り込んだ状態で、めっき液は結晶化されるため、このような状態で、金属皮膜を成膜しようとすると、結晶が溶解し、基材と電解質膜との間に空気が溜まることがある。この空気が起因して、金属皮膜の成膜不良が発生することがある。この他にも残留した結晶が成膜時に一部溶解することにより、金属皮膜の境界がぼやけたような滲みが発生することがある。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、めっき液が結晶化した結晶に起因した金属皮膜の成膜不良を低減することができる金属皮膜の成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑みて、本発明に係る金属皮膜の成膜装置は、電解めっきにより電解質膜を移動した金属イオンに由来した金属皮膜を基材に成膜する成膜装置であって、前記成膜装置は、成膜用の金属イオンを含むめっき液を収容した状態で、前記めっき液を前記電解質膜で封止した収容体と、前記基材に対して前記収容体を移動させる移動装置と、前記収容体内の前記めっき液の液圧を前記電解質膜に作用させて、前記電解質膜を介して、前記基材を押圧する押圧機構と、前記収容体に収容され、前記電解質膜に離間して配置された陽極と、前記押圧機構により前記基材を押圧した状態で、前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源と、前記基材と前記収容体とが引き離された状態で、前記基材と収容体との間の空間を囲う囲い部材と、前記囲い部材により囲われた空間に、前記電解質膜に向かって、加湿した気体を流す加湿機構と、を備えること特徴とする。
【0007】
好ましい態様としては、前記囲い部材の基材側の側壁部分には、前記気体を前記空間に供給する供給口が形成されており、前記囲い部材の電解質膜側の側壁部分には、前記空間から前記気体を排出する排出口が形成されており、前記排出口には、前記気体を吸引する吸引装置が接続されている。さらに好ましい態様としては、前記囲い部材には、前記供給口が複数形成されており、前記各供給口から前記空間に供給された前記気体が衝突することにより、前記電解質膜側に向かう気流が発生するように、複数の前記供給口が、前記空間を挟んで、前記囲い部材の基材側の側壁部分に対向している。
【0008】
また、前記加湿機構が、前記気体として不活性ガスを供給する供給源を有することが好ましい。さらに、前記成膜装置は、前記電解質膜と対向する位置において前記収容体に取り付けられ、所定のパターンの貫通部分が形成され、前記基材を覆うマスキング材をさらに備え、前記成膜装置は、前記電解質膜と前記基材との間に前記マスキング材を挟み込んだ状態で、前記電解めっきにより、前記所定のパターンを有した金属皮膜を前記基材に成膜する装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、めっき液が結晶化した結晶に起因した金属皮膜の成膜不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜装置の一例を示す模式的断面図であり、(b)は、スクリーンマスクの模式的斜視図であり、(c)は、(b)のA-A線に沿った部分的な拡大断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜方法の一例を説明するフロー図である。
【
図3】(a)は、
図2に示す成膜工程を説明するための模式的断面図であり、(b)は、析出した結晶を説明するための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜方法に用いられる成膜装置1について説明する。
図1に示すように、成膜装置1は、電解質膜13と基材Bとの間にマスキング材60を挟み込んだ状態で、電解めっきにより、所定のパターンPの金属皮膜Fを基材Bに成膜する成膜装置である。具体的には、成膜装置1は、陽極11と、電解質膜13と、陽極11と基材Bとの間に電圧を印加する電源14と、を備える。
【0012】
成膜装置1は、陽極11およびめっき液Lを収容した収容体15と、基材Bを載置する載置台40と、収容体15に一体的に取り付けられたマスキング材60と、を備える。マスキング材60のうち、後述するスクリーンマスク62は、電解質膜13と対向する位置において、収容体15に取り付けられている。
【0013】
成膜装置1は、収容体15を昇降させる直動アクチュエータ70を備えている。直動アクチュエータ70は、スクリーンマスク62が基材Bに離接するように、収容体15を移動させる移動装置である。直動アクチュエータ70は、本発明でいう、収容体15に対して基材Bを移動させる「移動装置」に相当する。直動アクチュエータ70は、本体71に対して直動するロッド72を有しており、ロッド72の先端には、収容体15が固着されている。本実施形態では、説明の便宜上、陽極11の下方に電解質膜13を配置し、さらにその下方にマスキング材60および基材Bを配置している。直動アクチュエータ70は、電動式のアクチュエータであり、ボールねじ等(図示せず)によって、モータの回転運動を直動運動に変換する。
【0014】
基材Bは陰極として機能するものである。基材Bは、板状の基材である。本実施形態では、基材Bは、矩形状の基材である。基材Bの表面のうち、電解質膜13(スクリーンマスク62)に対向する対向面が、陰極として機能する成膜面Baである。基材Bは、例えば、アルミニウムや銅等の金属材料からなってもよい。金属皮膜Fから配線パターンを形成する際には、基材Bは、樹脂等の絶縁性基材の表面に、銅などの下地層が形成された基材を用いる。この場合には、金属皮膜Fの成膜後、金属皮膜Fが成膜された部分以外の下地層をエッチング等で除去する。これにより、絶縁性基材の表面に、金属皮膜Fによる配線パターンを形成することができる。
【0015】
陽極11は、一例として、金属皮膜の金属と同じ金属からなる非多孔質の陽極である。陽極11は、ブロック状または平板状の形状を有する。陽極11は、収容体15に収容され、電解質膜13に離間するように配置されている。陽極11は、多孔質、メッシュ、または、複数のボールを収容した籠体であってもよい。陽極11は、電源14の電圧の印加で溶解する。ただし、めっき液Lの金属イオンのみで成膜する場合、陽極11は、めっき液Lに対して不溶性の陽極である。
【0016】
陽極11は、電源14の正極に電気的に接続されている。電源14の負極は、載置台40を介して基材Bに電気的に接続され、さらには、後述するスクリーンマスク62のメッシュ部分64に接続されている。
【0017】
めっき液Lは、成膜すべき金属皮膜の金属をイオンの状態で含有している液である。その金属の一例として、銅、ニッケル、金、または、銀などを挙げることができる。めっき液Lは、これらの金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸、スルファミン酸、またはピロリン酸などの酸で溶解(イオン化)した溶液である。該溶液の溶媒としては、一例として、水やアルコールなどが挙げられる。
【0018】
電解質膜13は、めっき液Lに接触させることにより、めっき液Lとともに金属イオンを内部に含浸(含有)することが可能となる膜である。電解質膜13は、可撓性を有した膜である。電源14により電圧を印加したときに、めっき液Lの金属イオンが、基材B側に移動することができるものであれば、電解質膜13の材料は特に限定されない。電解質膜13の材料としては、たとえばデュポン社製のナフィオン(登録商標)などのフッ素系樹脂などのイオン交換機能を有した樹脂等を挙げることができる。電解質膜13の膜厚は、5μmから200μmの範囲にあることが好ましい。
【0019】
収容体15は、めっき液Lに対して不溶性の材料からなる。収容体15には、めっき液Lを収容する収容空間15aが形成されている。収容体15の収容空間15aには、陽極11が配置されている。収容空間15aの基材Bの側には、開口部15dが形成されている。収容体15の開口部15dは、電解質膜13で覆うことにより、めっき液Lを収容した状態で、収容空間15a内のめっき液Lは電解質膜13で封止される。
【0020】
図1(a)および
図3(a)に示すように、直動アクチュエータ70は、電解質膜13とマスキング材60が接離自在となるように、ロッド72を直動させることで収容体15を昇降させる(移動させる)。本実施形態では、載置台40が固定されており、収容体15が直動アクチュエータ70により昇降する。
【0021】
収容体15は、めっき液Lを収容空間15aに供給する供給ポート15bと、めっき液Lを収容空間15aから排出する排出ポート15cを有する。供給ポート15bと排出ポート15cとは、収容空間15aを挟んで形成されている。供給ポート15bは、供給管51に流体的に接続されている。排出ポート15cは、排出管52に流体的に接続されている。
【0022】
成膜装置1は、タンク58と、供給管51と、排出管52と、循環ポンプ59と、をさらに備える。
図1に示すように、タンク58には、めっき液Lが収容されている。供給管51は、タンク58と収容体15とを接続している。供給管51には、循環ポンプ59が設けられている。循環ポンプ59は、タンク58から収容体15へめっき液Lを供給する。排出管52は、タンク58と収容体15とを接続している。排出管52には、圧力調整弁54が設けられている。圧力調整弁54は、収容空間15aのめっき液Lの圧力(液圧)を所定の圧力に調整する。
【0023】
本実施形態では、循環ポンプ59を駆動させることにより、タンク58から供給管51内に、めっき液Lが吸引される。吸引されためっき液Lは、供給ポート15bから収容空間15aに圧送される。収容空間15aのめっき液Lは、排出ポート15cを介してタンク58へ戻される。タンク58と収容体15との間で、めっき液Lを循環させる循環経路50を形成することができる。
【0024】
さらに、循環ポンプ59の駆動を持続することにより、収容空間15aのめっき液Lの液圧を、圧力調整弁54で、所定の圧力に維持することができる。循環ポンプ59は、めっき液Lの液圧を電解質膜13に作用させて、電解質膜13を介して、マスキング材60のスクリーンマスク62で基材Bを押圧するものである。本実施形態では、循環ポンプ59および圧力調整弁54が、本発明でいうところの「押圧機構」に相当する。
【0025】
マスキング材60は、載置台40と対面する側において、電解質膜13と対向する位置で、収容体15に取り付けられている。具体的には、マスキング材60は、枠体61と、枠体61に固着されたスクリーンマスク62と、を備えている。スクリーンマスク62には、金属皮膜Fの所定のパターンPに応じた貫通部分68が形成されている。スクリーンマスク62は、網目状のメッシュ部分64と、貫通部分68が形成されたマスク部分65と、を備えている。スクリーンマスク62は、可撓性を有したマスクである。
【0026】
ところで、金属皮膜Fを成膜する際には、めっき液Lの液圧により、電解質膜13で基材Bを押圧するため、電解質膜13から染み出しためっき液(染み出し液)Lが乾燥し、結晶化することがある。内部に空気を取り込んだ状態で、めっき液Lは結晶化される。このため、たとえば、上述したマスキング材60を用いずに、金属皮膜Fを成膜する場合には、電解質膜13の表面で結晶化が進み、このような状態で、新しい基材Bに金属皮膜Fを成膜しようとすると、結晶が溶解し、基材と電解質膜との間に空気が溜まることがある。この空気が起因して、金属皮膜の成膜不良が発生することがある。また、マスキング材60を用いた場合には、
図3(b)に示すように、貫通部分68の側壁面68aに結晶Cが付着する。このため、成膜時に、結晶Cが溶解すると、貫通部分68に空気が滞留するため、所望のパターンの金属皮膜が成膜できないことがある。
【0027】
このような観点から、成膜装置1は、
図1(a)に示すように、基材Bと収容体15とが引き離された状態で、基材Bと収容体15との間の空間Sを囲う囲い部材80Aと、囲い部材80Aにより囲われた空間Sに、電解質膜13(具体的にはマスキング材60)に向かって、加湿した気体Aを流す加湿機構80Bと、を備える。
【0028】
囲い部材80Aは、空間Sを囲う筒状の側壁部分80aを有している。側壁部分80aのうち、収容体15側の端部には、収容体15を囲繞するように、収容体15に向かって突出し、収容体15に取り付けられた枠状の第1突出部80bが形成されている。第1突出部80bを、収容体15に取り付けることにより、空間Sの上部において、空間Sを封止することができる。これにより、加湿された気体Aを、後述する排出口83Bから吸引し、気体Aの漏れを回避することができる。たとえば、第1突出部80bを、シール材を介して収容体15に取り付けて、空間Sの気密性を高めてもよい。
【0029】
さらに、囲い部材80Aの側壁部分80aのうち、載置台40(基材B)側の端部には、成膜時に、載置台40を収容する開口80dが形成されるように、内側に向かって突出した枠状の第2突出部80cが形成されている。第2突出部80cを設けることにより、
図1に示すように、囲い部材80Aの下方から、気体Aが漏れ出すことを低減することができる。
図1(a)に示す状態で、第2突出部80cと載置台40との間には、基材Bを交換するための隙間が形成されていることが好ましい。
【0030】
本実施形態では、基材B側の側壁部分80aには、気体Aを空間Sに供給する供給口83Aが形成されている。本実施形態では、供給口83Aは、側壁部分80aに複数(たとえば2つ)設けられており、各供給口83Aは、気体Aを供給する加湿装置82を介して、供給源81に接続されている。
【0031】
本実施形態では、供給源81は、不活性ガスを供給するタンクまたはボンベであり、不活性ガスとしては、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを挙げることができる。これにより、成膜した金属皮膜F、めっき液L、またはめっき液Lの結晶Cとの酸化反応を抑えることができる。なお、このような反応が低減できるのでれば、供給源81は、空気(大気)を圧縮したエアコンプレッサであってもよい。供給源81には、HEPAフィルタなど、気体を清浄するための清浄フィルタが設けられていてもよい。
【0032】
加湿装置82は、水を粒子または水蒸気にして、供給源81から供給された気体Aを加湿する装置である。これにより、供給源81からの気体Aの圧力を調整することにより、加湿された気体Aを、供給口83Aに供給することができる。加湿装置82としては、加熱式、超音波式、またはスプレー式の加湿装置を挙げることができる。なお、加湿機構80Bは、供給源81、加湿装置82、および、気体Aを空間Sに送る配管等で構成されており、たとえば、加湿機構80Bの一部として、供給口83Aを介さずに、囲い部材80Aの下方から空間Sに直接送るノズルを設けてもよい。たとえば、超音波式の加湿装置を採用した場合には、他の方式に比べて、水の粒子を微細にすることができるため、めっき液Lを介して成膜装置1に伝達した熱を、水粒子の気化熱により吸熱することができる。
【0033】
一方、囲い部材80Aの電解質膜13側の側壁部分80aには、空間Sから気体Aを排出する排出口83Bが形成されている。本実施形態では、排出口83Bは、側壁部分80aに複数(たとえば2つ)設けられており、排出口83Bには、空間Sの気体Aを吸引する吸引装置84が接続されている。吸引装置84は、気体Aを吸引することができるのであれば、特に限定されるものではなく、たとえば、エアポンプ、ブロワなどを挙げることができる。
【0034】
本実施形態では、
図1(a)に示すように、各供給口83Aから空間Sに供給された気体Aが衝突することにより、電解質膜13(マスキング材60)側に向かう気流が発生するように、複数の供給口83Aが、空間Sを挟んで、囲い部材80Aの基材B側の側壁部分80aに対向している。各排出口83Bは、収容体15が移動する方向から視たときに、供給口83Aと一致する位置に設けられているが、空間S内において、電解質膜13側に向かう気流を発生でき、かつ、気体Aを吸引することができるのであれば、排出口83Bの個数および位置は、特に限定されるものではない。
【0035】
成膜装置1は、制御装置90をさらに備えている。制御装置90は、以下の成膜方法において、直動アクチュエータ70の駆動、電源14の通電、循環ポンプ59の駆動、供給源81による気体Aの供給、加湿装置82による加湿、および、吸引装置84による吸引を制御している。ただし、以下に示す、成膜方法を、手動で行ってもよく、制御装置90の制御で行ってもよい。
【0036】
以下に、
図2を参照して、金属皮膜の成膜方法を説明する。この成膜方法では、所定のパターンPの貫通部分68が形成されたスクリーンマスク62を、電解質膜13と基材Bとに間に挟み込んだ状態で、電解めっきにより、基材Bの表面に所定のパターンPの金属皮膜Fを成膜する。
【0037】
まず、載置工程S1で、基材Bを載置台40に載置する。具体的には、載置台40の凹部41に基材Bを収容する。次に、押圧工程S2では、直動アクチュエータ70を駆動させて、収容体15を載置台40側に移動させ、マスキング材60を基材Bの表面に接触させる。これにより、所定のパターンPの貫通部分68が形成されたスクリーンマスク62を、基材Bに配置することができる。
図3(a)に示すように、スクリーンマスク62で、基材Bを覆った状態で、電解質膜13で収容体15内に封止しためっき液Lの液圧によって、電解質膜13を介して、スクリーンマスク62で基材Bを押圧する。これにより、めっき液Lを収容空間15aに供給し、収容空間15a内のめっき液Lの圧力を、圧力調整弁54で設定された圧力とすることができる。この結果、めっき液Lの液圧で、電解質膜13を介して、スクリーンマスク62で、基材Bを押圧する。
【0038】
次に、成膜工程S3を行う。ここでは、
図3(a)に示すように、スクリーンマスク62で基材Bを押圧した状態で、めっき液Lに接触した陽極11と、基材Bとの間に、電源14の電圧を印加する。このような結果、めっき液Lに含まれる金属イオンを電解質膜13に通過させ、金属イオンに由来した金属皮膜Fを、所定のパターンPで基材Bに成膜する。なおこの際に、収容空間15a内に収容されためっき液Lの一部が、電解質膜13を介してマスキング材60側にも染み出す。
【0039】
このようにして、めっき液Lが貯蔵されたタンク58と、収容体15との循環経路50において、循環ポンプ59を駆動させることにより、めっき液Lを循環させながら、金属皮膜Fの成膜を行うことができる。収容空間15a内のめっき液Lの液圧が、貫通部分68に充填されためっき液にも作用するため、一定の液圧下で、均質な金属皮膜Fを成膜することができる。成膜時には、電圧の印加により、電解質膜13を通過する金属イオンとともに、めっき液Lの一部も、電解質膜13を通過するので、スクリーンマスク62の貫通部分68には、安定して水分が確保される。これにより、基材Bの表面で、金属イオンを安定して析出させることができる。なお、本実施形態では、循環経路50、タンク58、および収容体15のいずれかに、めっき液Lを加熱するヒータを設けてもよい。これにより、めっき液Lを加熱して、金属皮膜Fの成膜速度を高めることができる。
【0040】
成膜工程S3において、所定の時間の通電により、所定の厚みの金属皮膜Fを成膜した後、離間工程S4を行う。この工程では、循環ポンプ59の駆動を停止し、収容体15内のめっき液Lの液圧を除圧する(液圧を大気圧まで降下させる)。直動アクチュエータ70を駆動させて、収容体15を載置台40から離れる方向に移動させ、電解質膜13をマスキング材60から引き離す。マスキング材60は、収容体15に取り付けられているため、めっき液Lの自重が電解質膜13に作用したとしても、電解質膜13の過度な変形を、スクリーンマスク62で保持することができる。なお、
図1(a)に示すように、離間工程S4を行う前に、収容体15の収容空間15aからめっき液Lを排出してもよい。
【0041】
次に、気体供給工程S5を行う。この工程では、供給源81により気体Aを加湿装置82に供給し、加湿装置82により供給された気体Aを加湿する。加湿された気体Aは、供給口83Aを介して、囲い部材80Aにより囲われた空間Sに供給される。一方、空間Sに供給された気体Aを、排出口83Bを介して、吸引装置84で吸引する。
【0042】
このようにして、囲い部材80Aは、基材Bと収容体15との間の空間Sを囲うことにより、これらの空間Sに隣接する基材Bおよびマスキング材60の清浄度が、外気のコンタミ等により、低下することを抑えることができる。このような結果、金属皮膜Fの成膜不良を抑えることができる。
【0043】
さらに、加湿機構80Bにより、囲い部材80Aにより囲われた空間Sに、マスキング材60(電解質膜13)に向かって、加湿した気体Aを流すので、マスキング材60(電解質膜13)の表面におけるめっき液Lの結晶化を抑えることができる。特に、マスキング材60は、めっき液Lにより湿潤状態になり難いため、めっき液Lが結晶化し易いところ、加湿した気体Aにより、このような結晶化を抑えることができる。これにより、結晶が溶解し、濃縮されためっき液により、成膜装置1が腐食することを抑えることができる。
【0044】
特に、本実施形態では、囲い部材80Aの基材B側の側壁部分80aには、供給口83Aが形成され、囲い部材80Aの電解質膜13側の側壁部分80aには、排出口83Bが形成されるため、マスキング材60に向かう気体Aの気流が形成される。これにより、成膜後の基材Bの表面および交換後の成膜前の新たな基材Bの表面の結露を抑えることができる。さらに、各供給口83Aから空間Sに供給された気体Aが衝突することにより、電解質膜13側に向かう気流が発生するので、このような効果をより一層期待することができる。
【0045】
発明者らは、硫酸銅水溶液のめっき液を準備し、2枚のガラス板のそれぞれに、これを噴霧した後、40℃の雰囲気下で、一方のガラス板は、加湿無し(20~23℃×16~18%RH)、他方のガラス板は、加湿有り(20~23℃×50~80%RH)の環境下に放置した。結果、加湿していないものは、吹き付け直後から、めっき液の水分が蒸発し、結晶化したが、加湿したものは、結晶化の進行が遅く、10分後であっても、結晶化の進行を抑えることができた。この結果、加湿により硫酸銅の結晶化を抑えることができることがわかった。
【符号の説明】
【0046】
1:成膜装置、13:電解質膜、14:電源、15:収容体、60:マスキング材、70:直動アクチュエータ(移動装置)、80A:囲い部材、80B:加湿機構、80a:側壁部分、81:供給源、83A:供給口、83B:排出口、84:吸引装置、L:めっき液、F:金属皮膜、P:所定のパターン