(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179159
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】PC柱体の改質構造および改質方法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20241219BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20241219BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241219BHJP
H02G 7/00 20060101ALI20241219BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H02G1/02
E01D22/00 B
E04G23/02 F
H02G7/00
E04H9/02 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097769
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597087789
【氏名又は名称】株式会社ナスコ
(71)【出願人】
【識別番号】523226985
【氏名又は名称】株式会社FABSPACE JAPAN
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】菅原 正美
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 智
(72)【発明者】
【氏名】菊池 弘二
(72)【発明者】
【氏名】徳本 毅
(72)【発明者】
【氏名】岩井 隆典
(72)【発明者】
【氏名】西村 知晃
(72)【発明者】
【氏名】長尾 達児
(72)【発明者】
【氏名】成見 茂
(72)【発明者】
【氏名】小平 昭久
(72)【発明者】
【氏名】田川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】細居 清剛
(72)【発明者】
【氏名】荒木 茂
(72)【発明者】
【氏名】前畑 俊男
【テーマコード(参考)】
2D059
2E139
2E176
5G352
5G367
【Fターム(参考)】
2D059AA19
2D059BB37
2D059GG40
2E139AA01
2E139AC14
2E139AC28
2E139AD01
2E176AA04
2E176BB27
5G352AD04
5G367AA02
5G367AD13
(57)【要約】
【課題】プレテンション方式によりPC鋼材に緊張力が付与されたプレストレストコンクリート製のPC柱体において耐震補強を目的とした改質構造を実現する。
【解決手段】PC柱体の内部に配設されたPC鋼材の一部の長さを加熱して、PC鋼材を伸ばして緊張力を緩和してPC柱体の強度を低下させたり、一部の長さにおける塑性変形領域をそれ以外の部分における塑性変形領域よりも拡大したりして、PC柱体に付与される変位エネルギーを一部の長さ(塑性ヒンジ部分)においてPC柱体が塑性変形することにより吸収してそれ以外の部分においてPC柱体が損傷しないようにしたり、塑性変形することにより吸収可能なエネルギーを超過した変位エネルギーがPC柱体に付与されると一部の長さの部分においてPC柱体が損傷してそれ以外の部分においてPC柱体が損傷しないように損傷位置を制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材が内部に配設されたPC柱体の改質構造であって、
前記PC鋼材にはプレテンション方式により緊張力が付与されて、前記PC柱体にプレストレスが付与され、
前記PC柱体の下端が基礎に埋設された施工状態において、長さ方向における任意の位置で一部の長さの前記複数本の前記PC鋼材を加熱して、前記加熱により前記緊張力をその喪失を含む範囲において緩和させて、前記一部の長さにおける前記PC柱体の強度を前記一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させたことを特徴とする、PC柱体の改質構造。
【請求項2】
加熱により前記PC鋼材が伸長することにより、前記緊張力を緩和させたことを特徴とする、請求項1に記載のPC柱体の改質構造。
【請求項3】
加熱により前記PC鋼材が破断または分断することにより、前記緊張力を低下または喪失させたことを特徴とする、請求項1に記載のPC柱体の改質構造。
【請求項4】
加熱された後において、PC柱体の前記一部の長さにおける塑性変形領域が、前記一部の長さ以外の部分における塑性変形領域よりも拡大されたことを特徴とする、請求項1に記載のPC柱体の改質構造。
【請求項5】
前記PC柱体に付与される変位エネルギーを、前記一部の長さにおいて前記PC柱体が塑性変形することにより吸収して、前記一部の長さ以外の部分における前記PC柱体の損傷を防止することを特徴とする、請求項4に記載のPC柱体の改質構造。
【請求項6】
前記一部の長さにおいて前記PC柱体が塑性変形することにより吸収可能なエネルギーを超過した変位エネルギーが前記PC柱体に付与されると、前記一部の長さ以外の部分において前記PC柱体は損傷されず、前記一部の長さの部分において前記PC柱体が損傷されることにより、前記PC柱体に付与された変位エネルギーにより前記PC柱体が損傷される位置を制御することを特徴とする、請求項5に記載のPC柱体の改質構造。
【請求項7】
前記PC鋼材の加熱は、所望の改質状態が実現されるまでの時間が経過するまで、前記PC鋼材に対する電磁誘導により実行される、または、前記PC鋼材に直接通電することにより実行される、請求項1~請求項6のいずれかに記載のPC柱体の改質構造。
【請求項8】
前記PC鋼材の温度を、300℃以上に上昇させて、前記PC鋼材を破断させることなく前記緊張力を低下させる、または、前記PC鋼材を破断させて前記緊張力を喪失させることを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれかに記載のPC柱体の改質構造。
【請求項9】
前記PC鋼材の温度を、400℃以上950℃以下に上昇させて、前記PC鋼材を破断させることなく前記PC鋼材の強度を低下させるとともに前記PC鋼材を伸びやすくして塑性変形領域を拡大させることを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれかに記載のPC柱体の改質構造。
【請求項10】
前記PC鋼材の温度を、950℃を超過して上昇させて前記PC鋼材を破断させて前記緊張力を喪失させることを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれかに記載のPC柱体の改質構造。
【請求項11】
長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材が内部に配設されたPC柱体の改質方法であって
、
前記PC鋼材にはプレテンション方式により緊張力が付与されて、前記PC柱体にプレストレスが付与され、
前記PC柱体の下端が基礎に埋設された施工状態において前記改質方法が実行され、
前記改質方法は、
長さ方向における任意の位置で一部の長さの前記複数本の前記PC鋼材を加熱するステップと、
前記加熱により前記緊張力をその喪失を含む範囲において緩和させて、前記一部の長さにおける前記PC柱体の強度を前記一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させるステップと、を含むことを特徴とする、PC柱体の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレテンション方式によりPC鋼材に緊張力が付与されたプレストレストコンクリートを用いた電化柱(以下においてPC柱体と記載する場合がある)に関し、特に、高架橋等の上に設置されたPC柱体に、主として耐震を目的として、改質方法を実行して得られた改質構造に関する。なお、本発明において、PC鋼材は、PC鋼線、PC鋼棒およびPC鋼より線(PC鋼撚線)のいずれであっても構わない。
【背景技術】
【0002】
従来から、電柱(電化柱と同じ)に用いられる、プレテンション方式を用いたプレストレスコンクリート製の中空円筒形状のPC柱体がある。このPC柱体を製造する工場内においては、アバット(PC鋼材を緊張して止める台)とアバットとの間に複数のPC鋼材を円周上に配置してこれら複数のPC鋼材を所定の緊張力で緊張して、複数のPC鋼材の周囲に鉄筋をスパイラル状に巻いて(鉄筋を組んで)、型枠を組み立てて、コンクリート打設して、PC柱体が製造される。このようなPC柱体は、たとえば、電化柱として新幹線を含む鉄道路線の高架橋の上に基礎に下部が埋設されて施工される。
【0003】
ところで、大きな地震が発生すると、プレストレストコンクリート電化柱(PC柱体)は、経験上、根元から折損・傾斜して復旧に多くの時間を要することになることが多い。PC柱体は、その耐力の範囲内の応答に対しては、残留変位も少なく、優れた性能を発揮するが、耐力以上の応答を生じた場合(大きな地震で震度が大きい場合)には脆く損傷してしまう。
【0004】
このような大きな地震による高架橋上のPC柱体についての大規模な被害状況として特に深刻である事象は折損であり、この折損は、伸びを伴わない脆性的な損傷となっている。このような損傷となった要因の一つとして、PC鋼材の強度が高く、伸びが小さいことが挙げられる。また、損傷箇所における傾斜が大きいために、高架橋上を塞ぐ形になり復旧を妨げる要因となっている。このような問題に対して耐震補強等が検討されているが、高架橋上の電化柱の設置条件から狭隘な作業空間であって、列車が運行されていない夜間の限られた時間で、工事しなければならないという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、特開2013-055764号公報(特許文献1)は、大規模地震が発生した場合には、柱体を転倒させる地震のエネルギーが、該柱体を支える基礎に伝達されることを防止し、基礎を守ることができるとともに、柱体が完全に倒れる被害をも防止することができる柱体の構造および柱体の補強方法を開示する。この特許文献1に開示された柱体の構造は、下端から所定の長さにわたって基礎に埋設され、長さ方向へ連続する複数本の補強線材が内部に配設された中空状の柱体の構造であって、前記基礎の上方の位置に前記柱体の外周を囲む補強体を設け、この補強体に囲まれた部分の前記柱体に他の部分より強度の小さい部分を設けたことを特徴とし(特許文献1の請求項1)、前記強度の小さい部分は、前記補強線材の一部又は全部を上下に分断することにより形成されることを特徴とする(特許文献1の請求項4)。
【0006】
この特許文献1に開示された柱体の構造によると、基礎の上部において、柱体の外周を囲む補強体を設け、この補強体に囲まれた部分の該柱体に他の部分より強度の小さい部分を設けたことから、大規模地震が発生した場合に、まず、柱体の強度の小さい部分を損傷させて該柱体を傾き易くさせる。このときの前記柱体は、該柱体の外周を囲む補強体によって支え、さらには、これら柱体と補強体との間の空間に第1の充填材を設けた場合には、該柱体と補強体との間の空間に注入された第1の充填材で支えるようにするが、その際、該柱体に作用する地震エネルギーを、前記補強体を塑性変形させることで吸収し、これにより、該柱体が基礎から倒れることを防止する。すなわち、本発明は、根元近くの柱体の曲げ耐力を積極的に落として、該柱体に加わる地震の力を、補強体の塑性変形により吸収することで、該柱体の基礎を守ることが可能となる。また、たとえば、前記柱体の強度の小さい部分を、該柱体内の補強線材を上下に分断することにより形成することで、上述したように、根元近くの柱体の曲げ耐力を積極的に落として、該柱体に加わる地震の力を
、補強体の塑性変形により吸収することで、該柱体の基礎を守ることが可能となる(特許文献1の第0010段落、第0011段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された柱体の構造および柱体の補強方法は、根元近くの柱体の曲げ耐力を積極的に落として、該柱体に加わる地震の力を、補強体の塑性変形により吸収することで、該柱体の基礎を守ることが可能となる点で非常に好ましい。
【0009】
ところで、この特許文献1に開示されたように、最初の強度調整工程では、基礎近傍の柱体に部分的に孔を開けて、補強線材(PC鋼材)の一部または全部をカッター等の工具で上下に分断することにより、柱体に対して、他の部分より強度が低い低強度帯を形成する必要がある。補強線材を上下に分断(切断、破断)させるPC鋼材切断作業は、PC柱体側面のコンクリートを斫った上で硬いPC鋼材を切断するために、高架橋上の電化柱の設置条件から狭隘な作業空間であって、列車が運行されていない夜間の限られた時間で、工事しなければならない。
【0010】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、高架橋上の電化柱の設置条件から狭隘な作業空間であって、列車が運行されていない夜間の限られた時間において、迅速に、かつ、的確に、長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材が内部に配設されたPC柱体において、一部の長さにおけるPC柱体の強度をこの一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させてPC柱体の伸びを許容して、一部の長さにおけるPC柱体の塑性変形機能を一部の長さ以外の部分の塑性変形機能よりも増大させることのできるPC柱体の改質構造および改質方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るPC柱体の改質構造、および、本発明の別の局面に係るPC柱体の改質方法は、以下の技術的手段を備える。
【0012】
すなわち、本発明のある局面に係るPC柱体の改質構造は、長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材が内部に配設されたPC柱体の改質構造であって、前記PC鋼材にはプレテンション方式により緊張力が付与されて、前記PC柱体にプレストレスが付与され、前記PC柱体の下端が基礎に埋設された施工状態において、長さ方向における任意の位置で一部の長さの前記複数本の前記PC鋼材を加熱して、前記加熱により前記緊張力をその喪失を含む範囲において緩和させて、前記一部の長さにおける前記PC柱体の強度を前記一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させたことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、加熱により前記PC鋼材が伸長することにより、前記緊張力を緩和させたように構成することができる。
【0014】
さらに好ましくは、加熱により前記PC鋼材が破断または分断することにより、前記緊張力を低下または喪失させたように構成することができる。
【0015】
さらに好ましくは、加熱された後において、PC柱体の前記一部の長さにおける塑性変形領域が、前記一部の長さ以外の部分における塑性変形領域よりも拡大されたように構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、前記PC柱体に付与される変位エネルギーを、前記一部の長さにおいて前記PC柱体が塑性変形することにより吸収して、前記一部の長さ以外の部分における前記PC柱体の損傷を防止するように構成することができる。
【0017】
さらに好ましくは、前記一部の長さにおいて前記PC柱体が塑性変形することにより吸収可能なエネルギーを超過した変位エネルギーが前記PC柱体に付与されると、前記一部の長さ以外の部分において前記PC柱体は損傷されず、前記一部の長さの部分において前記PC柱体が損傷されることにより、前記PC柱体に付与された変位エネルギーにより前記PC柱体が損傷される位置を制御するように構成することができる。
【0018】
さらに好ましくは、前記PC鋼材の加熱は、所望の改質状態が実現されるまでの時間が
経過するまで、前記PC鋼材に対する電磁誘導により実行される、または、前記PC鋼材に直接通電することにより実行されるように構成することができる。
【0019】
さらに好ましくは、前記PC鋼材の温度を、300℃以上に上昇させて、前記PC鋼材を破断させることなく前記緊張力を低下させる、または、前記PC鋼材を破断させて前記緊張力を喪失させるように構成することができる。
【0020】
さらに好ましくは、前記PC鋼材の温度を、400℃以上950℃以下に上昇させて、前記PC鋼材を破断させることなく前記PC鋼材の強度を低下させるとともに前記PC鋼材を伸びやすくして塑性変形領域を拡大させるように構成することができる。
【0021】
さらに好ましくは、前記PC鋼材の温度を、950℃を超過して上昇させて前記PC鋼材を破断させて前記緊張力を喪失させるように構成することができる。
【0022】
また、本発明の別の局面に係るPC柱体の改質方法は、長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材が内部に配設されたPC柱体の改質方法であって、前記PC鋼材にはプレテンション方式により緊張力が付与されて、前記PC柱体にプレストレスが付与され、前記PC柱体の下端が基礎に埋設された施工状態において前記改質方法が実行され、前記改質方法は、長さ方向における任意の位置で一部の長さの前記複数本の前記PC鋼材を加熱するステップと、前記加熱により前記緊張力をその喪失を含む範囲において緩和させて、前記一部の長さにおける前記PC柱体の強度を前記一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させるステップと、を含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るPC柱体の改質構造および改質方法によると、高架橋上の電化柱の設置条件から狭隘な作業空間であって、列車が運行されていない夜間の限られた時間において、迅速に、かつ、的確に、長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材が内部に配設されたPC柱体において、一部の長さにおけるPC柱体の強度をこの一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させてPC柱体の伸びを許容して、一部の長さにおけるPC柱体の塑性変形機能を一部の長さ以外の部分の塑性変形機能よりも増大させることのできるPC柱体の改質構造および改質方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る改質構造を備えたPC柱体または本発明に係る改質方法が施工されるPC柱体が設置される高架橋を示す断面図である。
【
図2】(A)
図1におけるPC柱体の斜視図(一部断面)、(B)PC柱体をその長さ方向に垂直な面で切断した断面図である。
【
図3】本発明に係る改質構造および改質方法を実現するための装置概要図である。
【
図4】改質方法が無処理のPC柱体と改質方法が処理済のPC柱体とについての損傷イメージおよび荷重-変位関係(モーメント変位曲線)を示す図である。
【
図5】PC鋼材の機械的性質に及ぼす加熱の影響を説明するための(A)加熱温度と引っ張り強さとの関係、(B)加熱温度と降伏点強さとの関係、(C)加熱空冷後の状態変化、を示す図である。
【
図6】PC鋼材の機械的性質に及ぼす加熱の影響を説明するための図(その1)である。
【
図7】PC鋼材の機械的性質に及ぼす加熱の影響を説明するための図(その2)である。
【
図8】PC鋼材の機械的性質に及ぼす加熱の影響を説明するための図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下において、本発明の実施の形態に係るPC柱体100の改質構造およびPC柱体100の改質方法について図面を参照して詳しく説明する。ここで、本発明におけるPC鋼材には、PC鋼線およびPC鋼棒を含み、PC鋼線にはPC鋼より線およびより(撚り)のないPC鋼線を含む。このようにPC鋼材には、PC鋼線、PC鋼棒およびPC鋼より線等の形状の違い、ならびに、線径および構成本数の違いに基づくPC鋼材の種類の違いがあり機械的な各特性の絶対値にはそれぞれ異なるが、本発明においてPC鋼材を加熱し
た場合の機械的特性の変化については同じ傾向が認められるために、以下においては特に記載しない限りPC鋼材の種類に言及しない。すなわち、本発明はこれらのPC鋼材の種類を問わず適用することができる。なお、後述するPC鋼材110を加熱する場合の温度については、公知の技術を用いてPC鋼材110の温度が測定される。
【0026】
まず、
図1および
図2を参照して、本実施の形態に係るPC柱体100の改質方法の対象であるPC柱体100およびそのPC柱体100の施工状態について説明する。
【0027】
図1および
図2に示すPC柱体100が、本実施の形態に係るPC柱体100の改質方法の(耐震補強)対象となる柱体である。このPC柱体100は、たとえば、
図1に示すように鉄道の高架橋200に設けられた基礎BにそのPC柱体100の下端部が支持されている(下端側の所定の長さが基礎Bに埋設されて支持されている)。
【0028】
これらのPC柱体100およびその基礎Bは、高架橋200の側壁に沿うように設けられるものであって、基礎Bは鉄筋コンクリートにより形成され、PC柱体100はPC鋼材110にプレテンション方式により緊張力を付与したプレストレストコンクリート+スパイラル状の鉄筋により形成されている。また、基礎Bの近傍には、側壁の一部となる高らんが設けられることもある。
【0029】
図2に示すように、このPC柱体100は、円筒状に配筋した長尺の多数のPC鋼材110と、このPC鋼材の周囲にスパイラル状に巻き付けられた鉄筋(図示せず)と、PC鋼材110および鉄筋の間に充填されたコンクリート120とで構成され、コンクリート120を充填することにより一体化した中空円筒形状の柱体(電柱)である。ここでは、その頂部がキャップで閉塞されて、
図1に示すように、PC柱体100は、その下端部が基礎Bに埋設されて高架橋の上面に立設されている。なお、PC柱体100は、中空円筒形状ではなくても(たとえば中実円筒形状でも躯形形状でも)構わない。
【0030】
このPC柱体100は、本実施の形態に係る改質方法が施されて本実施の形態に係る改質構造を備えることになるプレストレストコンクリート製の部材である。このPC柱体100は、長さ方向(長手方向、軸方向)へ連続する複数本のPC鋼材110が(PC鋼材の周囲にスパイラル状に設けられた鉄筋とが)内部に配設された中空円筒形状を備える。ここで、本実施の形態に係る改質方法が施される前のPC柱体100は、その内部のPC鋼材110には(長さ方向の全てにおいて)プレテンション方式により所望の緊張力が付与されて、PC柱体100にプレストレスが付与されて(長さ方向の全てにおいて)所望の強度を備える(その代わりに伸度が小さく靭性(粘り強さ)も低い)。一例ではあるが、このPC柱体100は、外径ΦD=400mm、内径Φd=260mm、肉厚(コンクリート120の厚み)t=70mmであって、PC鋼材110は、φ(直径)9mmのPC鋼線が32本配置されている。そして、このPC柱体100の下端部が基礎Bに埋設された施工状態において、PC柱体100の長さ方向(施工後における高さ方向)における一部の長さの複数本のPC鋼材110を加熱することにより改質方法が実行される。
【0031】
ここで、本実施の形態においてPC柱体100の内部のPC鋼材の加熱方法(加熱手段、加熱装置)は、たとえば、所望の改質状態が実現されるまでの時間が経過するまで、PC鋼材110に対する電磁誘導(高周波加熱)により実行されても構わないし、PC鋼材110に直接通電することにより実行されても構わない。さらに、たとえば、
図3(A)および
図3(B)に示すように、PC柱体100の外径に対応させた内径を備えた高周波電流を流すコイルを設けて、高周波電源400からコイルに高周波電流を流して誘導加熱するようにすればよい。この場合において、
図3(A)に示すようにコイル300を半円形状(馬蹄形、U字形状)に形成して半円分ずつPC鋼材110を加熱するようにしても構わないし、
図3(B)に示すようにコイル310を全円形状に形成して一度にPC鋼材110を加熱するようにしても構わない。もちろん、このPC鋼材110を加熱するコイルの形状は、全円形状にも半円形状(半円弧)にも限定されるものではなく、任意の円弧状(たとえば1/3円弧状等)であっても構わない。この場合において、コイル300およびコイル310のPC柱体100の長さ方向のコイル長さLは、改質させたい長さに対応させて決定される、または、コイル300およびコイル310の位置をPC柱体100の長さ方向にずらして2回以上加熱することにより改質させたい長さに対応させる。さら
に、
図3(C)に示すように、PC柱体100における一部の長さのコンクリート120を斫ってPC鋼材110をむき出しにして、改質させたい長さLに対応させた(離隔した)2点に直流電流を流すようにしてジュール熱により加熱させても構わない。この場合には、高周波電源400に代えて直流電源420が用いられる。
【0032】
このようにPC鋼材110をPC柱体100の外部から電力を供給して、長さ方向における任意の位置で一部の長さの複数本のPC鋼材を加熱する。この加熱により緊張力をその喪失を含む範囲において緩和させて、一部の長さにおけるPC柱体100の強度を一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させて、PC柱体100が改質される。ここで、緊張力が喪失される場合とは、PC鋼材110が破断または分断されることを想定しているが、緊張力が喪失(緊張力=0)であれば、PC鋼材110が現実に破断されなくても、または、現実に分断されなくても構わない。
【0033】
PC鋼材が加熱されることによりPC鋼材110が伸長する。プレテンション方式で緊張力が付与されていたPC鋼材110は緊張力が緩和されることになる。また、PC鋼材がさらに高温まで加熱されることによりPC鋼材110が破断または分断する。プレテンション方式で緊張力が付与されていたPC鋼材110の緊張力は(完全に)喪失されたことになる。
【0034】
加熱された後においては、加熱されたPC鋼材110に高さ位置が対応するPC柱体100の一部の長さにおける塑性変形領域が、一部の長さ以外の部分における塑性変形領域よりも拡大されることになる。この結果、PC柱体100において、PC鋼材110を加熱した一部の長さの部分により塑性ヒンジ部を形成することができる、
加熱された後においては、PC柱体100に付与される変位エネルギーを、一部の長さにおいて(塑性ヒンジ部分において)PC柱体100が塑性変形することにより吸収して、一部の長さ以外の部分におけるPC柱体100の損傷を防止することができる。さらに、一部の長さにおいて(塑性ヒンジ部分において)、PC柱体100が塑性変形することにより吸収可能なエネルギーを超過した変位エネルギーがPC柱体100に付与されると(大きな地震で震度が大きいと)、一部の長さ以外の部分においてPC柱体100は損傷せず、一部の長さの部分においてPC柱体100が損傷することにより、PC柱体100に付与された変位エネルギーによりPC柱体100が損傷する位置を制御することができる。このようにすると、PC柱体100の塑性変形可能な領域において(PC鋼材110を加熱して強度を低下させて伸びやすくした塑性ヒンジ部分において)変位エネルギー(たとえば地震エネルギー)をPC柱体100が塑性変形することにより吸収してそもそもPC柱体100を折損させることなく、さらに、(塑性ヒンジ部で塑性変形により吸収できないほどの)大きな変位エネルギーを受けると、PC柱体100の塑性変形可能な領域において(PC鋼材110を加熱して強度を低下させて伸びやすくした塑性ヒンジ部分において)塑性変形した後に損傷する。このようにして、小さな変位エネルギーは塑性ヒンジで(PC柱体100が塑性変形して)吸収して、塑性ヒンジで(PC柱体100が塑性変形しても)吸収できないほどの大きな変位エネルギーを受けた場合には、PC柱体100が損傷する箇所を予め改質構造を施した塑性ヒンジ部とすることができる。このため、復旧工事に好適な損傷位置に設定することができ、復旧作業の効率化を図ることができる。
【0035】
図4(A)に、本発明に係る改質処理(改質方法)を施していない「無処理」(「未処理」と同義)の場合を、
図4(B)に一部の長さにおいて本発明に係る改質処理(改質方法)を施して塑性ヒンジ部を形成した「処理」の場合を、
図4(C)に
図4(B)に示すよりも長い長さにおいて本発明に係る改質処理(改質方法)を施して長い塑性ヒンジ部を形成した「広範囲処理」の場合をそれぞれ示す。いずれの場合においても、損傷イメージと荷重-変位関係(荷重-変位特性、荷重-変位曲線、モーメント変位曲線)とを示す。
【0036】
図4(A)に示す「無処理」の場合には、背景技術に記載したように、柱基部(PC柱体100が基礎Bに埋設されていない根本付近)でほとんど変形せずに折損する。
【0037】
図4(B)に示す「処理」の場合、すなわち、PC鋼材110を加熱処理して伸びを増大させることによりその部分を塑性ヒンジ部として形成した場合には、塑性ヒンジ部に変
位が出て変位(地震)エネルギーを吸収することができる。さらに、塑性変形領域を超える変位(地震)エネルギーを受けると、PC柱体100はこの塑性ヒンジ部で損傷する。
【0038】
図4(C)に示すように、
図4(B)よりもPC鋼材110の加熱処理する範囲(高さ方向の長さ)を広げることにより、広範囲の塑性ヒンジ部を形成することができる。このため、塑性ヒンジ部が長くなり(塑性変形領域がより拡大され)、塑性ヒンジ部がより大きく変位することが可能になり、より大きな変位(地震)エネルギーを吸収することができる。さらに、拡大された塑性変形領域を超える変位(地震)エネルギーを受けると、PC柱体100はこの塑性ヒンジ部で(
図4(B)に示す場合よりも緩やかに傾斜して)損傷する。
図4(C)に示す場合には、
図4(B)に示す場合に比べて、塑性ヒンジ部の塑性変形性能が高まり、PC柱体100の塑性変形による(地震時の)変位エネルギー吸収量を増大させることができる。
【0039】
さて、このような、PC柱体100の内部に配設されたPC鋼材110を加熱して、PC柱体100の強度を低下させたり、塑性ヒンジ部を形成したりするためには、以下に説明する温度に関する条件が非常に重要である。この温度に関する条件について詳しく説明する。PC鋼材110は、調質鋼であるために普通鉄筋よりも低温域から機械的特性の変化が生じる。本発明は、この低温域から機械的特性の変化に着目して、加熱により機械的特性の1つである強度を低下させて(焼きなましのように)柔らかくして伸びやすくさせて、施工後の電柱等に用いられているプレストレスコンクリート製のPC柱体100に対して、そもそものプレストレスを緩和した上で、さらに、塑性変形領域を設けるという、全く新規の思想に基づく画期的な技術である。
【0040】
図5(A)に加熱温度と引っ張り強さとの関係を、
図5(B)に加熱温度と降伏点強さとの関係を、
図5(C)に加熱空冷後の状態変化を、
図6~
図8に(
図5とは異なるPC鋼材の)加熱温度と機械的特性との関係を、それぞれを示す。上述したように、PC鋼材には、PC鋼線、PC鋼棒およびPC鋼より線等の形状の違い、ならびに、線径および構成本数の違いがあり機械的な各特性の絶対値にはそれぞれ異なるが、加熱した場合の機械的特性の変化については同じ傾向が認められるために、ここでは特に記載しない限りPC鋼材の種類に言及しない(
図5は7本よりΦ15.2mmのPC鋼より線、
図6~
図8はΦ9mmのPC鋼線)。
【0041】
まず、
図5を参照してPC鋼材(限定されるものではないがこの
図5に示すPC鋼材はPC鋼より線)の機械的特性(機械的性質)に及ぼす加熱の影響について詳しく説明する。PC鋼材の機械的特性(機械的性質)に及ぼす加熱の影響は、
図5(特に
図5(A)、
図5(B))に示すように、一般的に、PC鋼より線は、100℃を超えると引張強さおよび降伏点強さの低下が始まり300℃を超えるとその低下が著しくなる。PC鋼棒は、引張強さおよび降伏点強さが低下し始める温度がやや高くなるものの300℃を超えると引張強さおよび降伏点強さの低下が著しくなる。PC鋼線は、PCより鋼線と材料および製造方法が同一であるため、100℃を超えると引張強さおよび降伏点強さの低下が始まり300℃を超えるとその低下が著しくなると考えられる。
【0042】
また、
図5(C)に示すように、一旦加熱後に空冷された場合でもPC鋼より線を例にすると300℃を超えると引張強さは低下する。なお、その温度での保持時間が長くなるほど引張強さ等の機械的特性はさらに顕著に低下するために、本発明においては温度とともにその保持時間が重要になっており、保持時間はその保持時間により所望の改質状態が実現されるまでの時間としている。
【0043】
本実施の形態に係る改質構造においては、PC鋼材110の温度を、300℃以上(950℃以下)に上昇させてPC鋼材110を破断させることなく緊張力を緩和させている、または、300℃以上(950℃以上)に上昇させてPC鋼材110を破断させて緊張力を喪失させている。たとえば、プレストレスが導入されている(緊張力が緩和される前の)緊張力が高い場合における
図5(B)に示す7本よりΦ15.2mm(公称断面積138.7mm
2)のPC鋼より線の応力度は、0.6Pu(Puは最大引張荷重でPu=261kN)である1130N/mm
2となる(1.13kN/mm
2=(261×0.6)/138.7)。これは工学単位系に換算すると115kgf/mm
2であるために、
図5(B)に示すように、緊張力が付与されているPC鋼材110を300℃以上(950℃以下)に加熱することにより、降伏点が115kgf/mm
2まで低下するために、緊張力が緩和され始める(プレストレスが抜け始める)。これらのことから、PC鋼材110に付与された緊張力は300℃で緩和され始めるとの知見を得て、本発明においては、PC鋼材110の温度を300℃以上に上昇させて、PC鋼材110を破断させることなく緊張力を緩和させている。その結果、PC柱体100の強度を低下させることができる。なお、この300℃以上には、次段落において説明する400℃以上を含むとともに、
図6~
図8を参照して後述する700℃以上を含むものである。また、300℃以上に含まれる950℃以上に上昇させた場合には、後述するように、PC鋼材110を破断させて緊張力を喪失させることになる。
【0044】
本実施の形態に係る改質構造においては、PC鋼材110の温度を、400℃以上950℃以下に上昇させて、PC鋼材110を破断させることなくPC鋼材110の強度を低下させるとともにPC鋼材110を伸びやすくして塑性変形領域を(加熱していない部分よりも)拡大させている。たとえば、
図5(C)を参照してPC鋼材110の強度を低下させ、伸びを増大させる(塑性変形領域を拡大させる)温度範囲を検討する。
図5(C)は、加熱して冷却した後のPC鋼材110の機械的特性の変化を示す。この
図5(C)からPC鋼材110の強度低下が始まる温度として400℃(下限値)を設定して、上限値は高温域に達するとマルテンサイトなど高強度で伸びが小さい組織になることから、このような組織になることを避けるために950℃(上限値)を設定している。これらのことから、本発明においては、PC鋼材110の温度を400℃以上950℃以下に上昇させて、PC鋼材110を破断させることなくPC鋼材110の強度を低下させるとともにPC鋼材110を伸びやすくして塑性変形領域を拡大させている。なお、この950℃以下には、
図6~
図8を参照して後述する850℃を含むものである。
【0045】
さらに、PC鋼材110の温度を、950℃を超過して上昇させてPC鋼材110を破断させて緊張力を喪失させることも好ましい。加熱温度を一般的な鉄の融点付近により近付けてPC鋼材110の温度を上昇させることにより、PC鋼材110を破断させて(または完全に破断しないまでも破断に類似する性状として)確実に緊張力を喪失させることができる。
【0046】
次に、
図6~
図8を参照してPC鋼材(限定されるものではないがこれらの
図6~
図8に示すPC鋼材はPC鋼線)の機械的特性(機械的性質)に及ぼす加熱の影響について詳しく説明する。なお、
図5を参照して説明した本発明の特徴と以下で説明する本発明の特徴とは矛盾するものではない。まず、
図6~
図8で共通するPC鋼材110の(熱)処理条件について説明する。加熱温度(PC鋼材110の温度)および冷却速度(冷却速度を制御しない空冷以外は100℃低下させるのに要した時間)は、それぞれ、
・試験体番号1(図中においてNo.1で図示):600℃および空冷、
・試験体番号2(図中においてNo.2で図示):700℃および空冷、
・試験体番号3(図中においてNo.3で図示):850℃および空冷、
・試験体番号4(図中においてNo.4で図示):850℃および10分、
・試験体番号5(図中においてNo.5で図示):850℃および30分、
・試験体番号6(図中においてNo.6で図示):850℃および60分、
・試験体番号7(図中においてNo.7で図示):850℃および120分、
である。なお、試験場室温は10℃~20℃程度である。また、試験体番号1~試験体番号7に共通する(未処理も同じ)試験体であるPC鋼材は、Φ9mmのPC鋼線であって、
図7に示す(
図5(B)と共通の)0.6Pu(Puは最大引張荷重でPu=90.2kN)は、(90.2×0.6=)54.1Nである。また、
図8に示すSD345とは、JIS G3112 鉄筋コンクリート用棒鋼に規定された7種類の棒鋼のうちの鉄筋コンクリートにおける鉄筋部分に広く使われる鉄材の破断強度であって、規格破断荷重490N/mm
2の1.1倍と想定した539N/mm
2である。
【0047】
図6に示す「試験体を昇温・冷却した際の時間と鋼材温度の関係」を参照すると、全ての試験体が計画していた温度条件で加熱および冷却することができたことを示す。
【0048】
図7に示す「引張試験結果:試験機ストロークと荷重の関係(定着間長600mmに対して)」を参照すると、全ての試験体は(熱)処理条件(加熱温度および冷却速度)に関わらず、いずれも大きく強度が低下して、破断時伸びは大きく増大していることがわかる。特に、PC鋼線の応力度である0.6Pu(緊張後定着荷重0.6Pu)において、試験体番号2および試験体番号3は降伏して塑性変形している。すなわち、プレストレス(緊張力)の解放後に緊張力が回復することがないと考えられる。また、この
図7から以下のことが明らかである。
・PC鋼線を加熱することにより、引張強度を低減させて、破断時伸びを増大させることが可能である。
・PC鋼線を700℃以上で加熱したPC鋼材は、0.6Pu(緊張後定着荷重0.6Pu)において降伏し塑性変形するために、緊張力を開放することができる。
・加熱したPC鋼線であっても伸びが大きく延性的な破壊性状を示すため、鉄筋代替部材としての強度を見込むことができる可能性がある。
【0049】
図8に示す「引張試験結果:応力-ひずみ関係」を参照すると、未処理試験体と(熱)処理した試験体とを比較して弾性係数(=応力/ひずみ)に大きな変化は見られないことが明らかになり、試験体番号3~試験体番号7を比較して応力-ひずみ関係は同じ傾向を示すことが明らかになるともに850℃で加熱した場合には鉄筋SD345破断強度(規格破断荷重490N/mm
2×1.1で想定)に近づくことが明らかになった。特に、この
図8を参照して、850℃で加熱した場合(冷却速度条件に関わらず空冷であっても)、鉄筋SD345相当まで破断強度を低減することができる点に留意すべきである。なお、空冷は、冷却速度を制御する場合に比較して、現場施工の時間を短くできる点で好ましい。
【0050】
また、図示しないが、加熱後であって、引張試験前の試験体を5000倍に拡大して組織写真を撮像して組織を確認したところ、未処理試験体は通常組織であるパーライト組織、試験体番号1は球状化組織、試験体番号2は球状化組織(やや粗いパーライト組織へ移行開始)、試験体番号3~試験体番号7は粗いパーライト組織であった。これらのことから、以下のことが明らかである。
・600℃~700℃で加熱処理を行うとパーライト組織から球状化組織に変態した。
・850℃まで加熱すると粗いパーライト組織となった。また、空冷に比べて冷却速度を遅く(徐冷)したものは、より粗い組織となったが、試験体番号4~試験体番号7では大きな差は見られなかった。
・加熱により変態した組織は、引張強度特性とも高い相関性が見られた。
【0051】
このようにPC柱体100の内部に配設されたPC鋼材110を加熱して破断させないものの緊張力を緩和させて塑性変形領域を拡大させるという技術単体により、特許文献1に開示された強度調整工程における基礎近傍の柱体に部分的に孔を開けて補強線材(PC鋼材)の一部または全部をカッター等の工具で上下に分断する作業に代えて、PC鋼材を上下に分断することなく、柱体に対して、他の部分より塑性変形しやすい低強度帯を形成することができる。その結果、
図4(B)または
図4(C)に示すように、PC柱体100は塑性ヒンジ部で緩やかに傾斜して損傷する。このため、PC柱体100が損傷する箇所を予め改質構造を施した塑性ヒンジ部とすることができて、復旧工事に好適な損傷位置に設定することができ、復旧作業の効率化を図ることができる。
【0052】
また、このようにPC柱体100の内部に配設されたPC鋼材110を加熱して破断するという技術単体により、特許文献1に開示された強度調整工程における基礎近傍の柱体に部分的に孔を開けて補強線材(PC鋼材)の一部または全部をカッター等の工具で上下に分断する作業に代えて、PC鋼材を上下に分断することができて、柱体に対して、他の部分より強度が低い低強度帯を形成することができる。このようにPC鋼線切断作業を、コンクリート斫りおよびカッター切断に代えて、高周波誘電による加熱へ変更すると、高架橋上の電化柱の設置条件から狭隘な作業空間であって、列車が運行されていない夜間の限られた時間で、工事しなければならないという問題点を確実に解決できるほどに作業性が大幅に向上する。
【0053】
以上のような本実施に形態に係るPC柱体100の改質構造を実現するためのPC柱体100の改質方法について以下に説明する。なお、以下においては、
図3(A)のコイル300を用いるものとする。
【0054】
本実施の形態に係る改質方法は、
図2に示すように長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材110が内部に配設された中空円筒形状のPC柱体100を改質する。なお、本実施の形態に係る改質方法により改質されるPC柱体の形状は、上述したように中空円筒形状にも中実円筒形状にも円筒形状にも限定されるものではなく、中空円筒形状は一例に過ぎない。PC鋼材110は、プレテンション方式により緊張力が付与されて、PC柱体100にプレストレスが付与されて、
図1に示すように、PC柱体100の下端が基礎Bに埋設されて支持されている(下端側の所定の長さが基礎Bに埋設されて支持されている)施工状態において改質方法が実行される。
【0055】
・加熱ステップ
長さ方向における任意の位置で一部の長さの複数本のPC鋼材を加熱する。ここでは、
図3(A)に示すようにPC柱体100の外径に対応させた内径を備えた高周波電流を流すコイルを設けて、高周波電源400からコイルに高周波電流を流して誘導加熱する。この場合において、
図3(A)に示すようにコイル300を半円形状(馬蹄形、U字形状)に形成して半円分ずつPC鋼材110を誘導加熱する。この誘導加熱によりPC鋼材110を破断または分断すると、PC鋼材110を1本ずつカッター等で切断することに比較して作業効率を大幅に向上させることができる。
【0056】
・改質ステップその1(緊張力緩和、プレストレス抜け)
PC鋼材110の温度を、300℃以上950℃以下(好ましくは400℃以上950℃以下、さらに好ましくは700℃以上950℃以下)に上昇させて、PC鋼材110を破断させることなく緊張力を緩和させる。その結果、加熱した部分のPC柱体100の強度を低下させることができる。
【0057】
・改質ステップその2(塑性変形領域拡大)
PC鋼材110の温度を、400℃以上950℃以下に上昇させて、PC鋼材110を破断させることなくPC鋼材110の強度を低下させるとともにPC鋼材110を伸びやすくして塑性変形領域を拡大させている。その結果、加熱した部分のPC柱体100に塑性ヒンジ部を形成することができる。
【0058】
・改質ステップその3(PC鋼材切断)
PC鋼材110の温度を、950℃を超過して上昇させてPC鋼材110を破断させて緊張力を喪失させる。一般的な鉄の融点付近までPC鋼材110の温度を上昇させると確実にPC鋼材110を破断させることができる。その結果、カッター等の切断よりも極めて迅速にPC鋼材110を破断させることができる。
【0059】
以上のようにして、本実施の形態に係るPC柱体の改質構造およびPC柱体の改質方法によると、長さ方向へ連続する複数本のPC鋼材が内部に配設されたPC柱体において、一部の長さにおけるPC柱体の強度をこの一部の長さ以外の部分の強度よりも低下させてPC柱体の伸びを許容して、一部の長さにおけるPC柱体の塑性変形機能を一部の長さ以外の部分の塑性変形機能よりも増大させることができる。その結果、高架橋上の電化柱の設置条件から狭隘な作業空間であって、列車が運行されていない夜間の限られた時間において、迅速に、かつ、的確に、改質方法を実現して耐震施工された改質構造を実現することができる。
【0060】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、プレテンション方式によりPC鋼材に緊張力が付与されたプレストレストコンクリートを用いたPC柱体の改質構造および改質方法に好ましく、高架橋等の上に設置されたPC柱体に耐震を目的として改質方法を実行して得られる改質構造に特に好ましい
。
【符号の説明】
【0062】
100 PC柱体
110 PC鋼材
120 コンクリート
200 高架橋
300、310 コイル
400 高周波電源
420 直流電源