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特開2024-179174膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性に関する情報を取得する方法、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性の判定を補助する方法及び試薬キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179174
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性に関する情報を取得する方法、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性の判定を補助する方法及び試薬キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241219BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 38/13 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N33/53 D
A61P13/12
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K31/706
A61K38/13
A61K38/12
A61K31/58
A61K31/575
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097806
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】猿田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 武宏
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ,フェン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA24
4C084DA11
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA81
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086DA10
4C086DA12
4C086EA04
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA81
(57)【要約】
【課題】膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性の判定を可能にする手段の提供を課題とする。
【解決手段】膜性腎症患者から採取した生体試料中のCXCL13を測定し、測定結果を、当該患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を示唆する指標として用いることにより、上記の課題を解決する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜性腎症患者から採取した生体試料中のCXCL13を測定する工程を含み、測定結果が、前記患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を示唆する、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性に関する情報を取得する方法。
【請求項2】
CXCL13の測定値が閾値より低いとき、前記化学療法が前記患者に奏効することを示唆し、前記CXCL13の測定値が閾値以上であるとき、前記化学療法が前記患者に奏効しないことを示唆する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗CD20抗体医薬が、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブ チウキセタン、トシツモマブ及びベルツズマブからなる群より選択される少なくとも1つである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生体試料が、血液試料又は尿である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化学療法が、前記抗CD20抗体医薬に加えて他の薬剤を用いる化学療法である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記他の薬剤が、免疫抑制薬及びステロイドからなる群より選択される少なくとも1つである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫抑制薬が、カルシニューリン阻害薬である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カルシニューリン阻害薬が、タクロリムス、ピメクロリムス、シクロスポリン及びボクロスポリンからなる群より選択される少なくとも1つである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステロイドが、コルチコステロイドである請求項6に記載の方法。
【請求項10】
膜性腎症患者から採取した生体試料中のCXCL13を測定する工程と、
測定結果に基づいて、前記患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を判定する工程と
を含む、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性の判定を補助する方法。
【請求項11】
CXCL13の測定値が閾値より低いとき、前記化学療法が前記患者に奏効すると判定し、前記CXCL13の測定値が閾値以上であるとき、前記化学療法が前記患者に奏効しないと判定する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
CXCL13と特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法に用いるための試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性に関する情報を取得する方法に関する。本発明は、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性の判定を補助する方法に関する。本発明は、これらの方法に用いるための試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
膜性腎症は、糸球体腎炎の一種であり、ネフローゼ症候群患者で最も多く診断される。ネフローゼ症候群は、浮腫、タンパク尿、血漿アルブミンの減少、血中コレステロールの増加などを特徴とする臨床的状態をいう。膜性腎症では、糸球体基底膜の上皮側において原因抗原とこれに対する自己抗体とが結合した免疫複合体が沈着することにより、基底膜が肥厚する。その結果、糸球体のろ過機能が低下して、慢性的なタンパク尿や浮腫が生じる。膜性腎症の約80%は、原因不明の一次性膜性腎症(特発性膜性腎症ともいう)であり、残りの約20%は、他の疾患等に合併する二次性膜性腎症(続発性膜性腎症ともいう)である。二次性膜性腎症の原因としては、自己免疫疾患、感染症、悪性腫瘍、薬剤などがある。近年、一次性膜性腎症の約70%では、糸球体上皮細胞に発現するM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)が原因抗原であることが報告された。現在、血清中の抗PLA2R抗体量の検査が膜性腎症のリスク分類や治療方針の決定に利用されている。
【0003】
従来、膜性腎症の治療では、まず、ステロイドの単独投与が行われ、治療効果が十分でなかった場合、ステロイドと免疫抑制薬との併用療法が行われていた。近年、膜性腎症による難治性ネフローゼ症候群の患者に対して、抗CD20抗体医薬のリツキシマブを用いる化学療法が良好な治療効果があったことが報告された。非特許文献1では、タクロリムスとリツキシマブの順次投与が、コルチコステロイドとシクロホスファミドの交互投与よりも優れているとの仮説を検証する試験(STARMEN試験)について報告された。この試験では、一次性膜性腎症でネフローゼ症候群が持続する患者を対象に検証が行われた。その結果、リツキシマブを用いる化学療法の効果があった患者は、コルチコステロイドとシクロホスファミドの交互投与よりも少なかった。しかし、リツキシマブを用いる化学療法を受けた患者の約半数に効果があった。そのため、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法は、膜性腎症の有望な治療法として期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fernadez-Juarez G.ら, The STARMEN trial indicates that alternating treatment with corticosteroids and cyclophosphamide is superior to sequential treatment with tacrolimus and rituximab in primary membranous nephropathy, Kidney International, vol.99, pp.986-998, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法は、全ての膜性腎症患者に有効ではない。抗CD20抗体医薬は高価であり、また、重篤な副作用を生じる場合もある。そのため、奏効性が期待できる患者に抗CD20抗体医薬を投与することが求められる。しかし、膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を事前に予測できる手段は知られていない。本発明は、膜性腎症患者に対して、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が奏効するか否かを予め判定することを可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、膜性腎症患者に対する、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性と関連するバイオマーカーとして、CXCL13(CXC chemokine ligand 13)を見出して、本発明を完成した。よって、下記の[1]~[12]の発明が提供される。
【0007】
[1]膜性腎症患者から採取した生体試料中のCXCL13を測定する工程を含み、測定結果が、当該患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を示唆する、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性に関する情報を取得する方法。
【0008】
[2]CXCL13の測定値が閾値より低いとき、化学療法が患者に奏効することを示唆し、CXCL13の測定値が閾値以上であるとき、化学療法が患者に奏効しないことを示唆する上記[1]に記載の方法。
【0009】
[3]抗CD20抗体医薬が、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブ チウキセタン、トシツモマブ及びベルツズマブからなる群より選択される少なくとも1つである上記[1]又は[2]に記載の方法。
【0010】
[4]生体試料が、血液試料又は尿である上記[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
【0011】
[5]化学療法が、抗CD20抗体医薬に加えて他の薬剤を用いる化学療法である上記[1]~[4]のいずれか1に記載の方法。
【0012】
[6]他の薬剤が、免疫抑制薬及びステロイドからなる群より選択される少なくとも1つである上記[5]に記載の方法。
【0013】
[7]免疫抑制薬が、カルシニューリン阻害薬である上記[6]に記載の方法。
【0014】
[8]カルシニューリン阻害薬が、タクロリムス、ピメクロリムス、シクロスポリン及びボクロスポリンからなる群より選択される少なくとも1つである上記[7]に記載の方法。
【0015】
[9]ステロイドが、コルチコステロイドである上記[6]に記載の方法。
【0016】
[10]膜性腎症患者から採取した生体試料中のCXCL13を測定する工程と、測定結果に基づいて、当該患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を判定する工程とを含む、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性の判定を補助する方法。
【0017】
[11]CXCL13の測定値が閾値より低いとき、化学療法が患者に奏効すると判定し、CXCL13の測定値が閾値以上であるとき、化学療法が患者に奏効しないと判定する上記[10]に記載の方法。
【0018】
[12]CXCL13と特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む、上記[1]~[11]のいずれか1に記載の方法に用いるための試薬キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、膜性腎症患者に抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が奏効するか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】試薬キットの外観の一例を示す図である。
図2】化学療法の奏効群及び非奏効群における尿検体中のCXCL13の濃度(uCXCL13)を示すボックスプロットである。
図3】化学療法の奏効群及び非奏効群における尿検体中のIL-17の濃度(uIL17)を示すボックスプロットである。
図4】化学療法の奏効群及び非奏効群における尿検体中のTWEAKの濃度(uTWEAK)を示すボックスプロットである。
図5】化学療法の奏効群及び非奏効群における尿検体中のGDF15の濃度(uGDF15)を示すボックスプロットである。
図6】化学療法の奏効群及び非奏効群における尿検体中のTNF-αの濃度(uTNF-α)を示すボックスプロットである。
図7】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中のCXCL13の濃度を示すボックスプロットである。
図8】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中のIL-17の濃度を示すボックスプロットである。
図9】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中のTWEAKの濃度を示すボックスプロットである。
図10】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中のGDF15の濃度を示すボックスプロットである。
図11】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中のTNF-αの濃度を示すボックスプロットである。
図12】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中のMIGの濃度を示すボックスプロットである。
図13】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中のCCL20の濃度を示すボックスプロットである。
図14】化学療法の奏効群及び非奏効群における血清中の抗PLA2R抗体の濃度を示すボックスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性に関する情報を取得する方法では、膜性腎症患者から採取した生体試料中のCXCL13が測定される。
【0022】
本明細書では、「膜性腎症患者」との用語は、膜性腎症と診断された患者及び膜性腎症の疑いがある者の両方を含む。膜性腎症は、一次性膜性腎症及び二次性膜性腎症のいずれでもよい。好ましくは「膜性腎症患者」は、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法をまだ受けていない膜性腎症患者である。より好ましくは「膜性腎症患者」は、免疫抑制治療の対象となり、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法をまだ受けていない膜性腎症患者である。免疫抑制治療は、免疫抑制薬を用いる治療をいう。
【0023】
膜性腎症の診断は、関連した病状の診断と、確定診断となる血清中の抗PLA2R抗体検査及び腎生検によって行われる。関連した病状の診断は、例えば、サルコイドーシスの有無を診断するためのX線又はCTスキャン、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、金製剤及びペニシルアミン等の薬剤服用歴、抗核抗体検査、悪性腫瘍スクリーニング、腎エコー、B型肝炎、C型肝炎、HIV及びトレポネーマ感染症の診断、甲状腺疾患及び全身性疾患等の疾患歴、皮膚及び結合部等を見る身体所見により行われる。
【0024】
抗CD20抗体医薬を用いる化学療法は、薬剤として、少なくとも抗CD20抗体医薬を用いて疾患を治療する方法をいう。抗CD20抗体医薬とは、CD20に特異的に結合する抗体を含み、CD20陽性細胞を障害及び除去する作用を示す医薬をいう。CD20は、分化中のB細胞やB細胞性リンパ腫細胞の表面に特異的に発現することが知られている。抗CD20抗体医薬に含まれる抗体は、キメラ(ヒト/マウス)モノクローナル抗体又は完全ヒトモノクローナル抗体であることが好ましい。抗CD20抗体医薬に含まれる抗体は、ヨウ素131などの薬学的に許容される放射性物質で標識されてもよい。抗CD20抗体医薬自体は公知であり、例えばリツキシマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、イブリツモマブ チウキセタン、トシツモマブ、ベルツズマブなどが挙げられる。
【0025】
抗CD20抗体医薬を用いる化学療法には、抗CD20抗体医薬に加えて、他の薬剤を用いてもよい。他の薬剤としては、免疫抑制薬、ステロイドなどが挙げられる。免疫抑制薬としては、例えばカルシニューリン阻害薬、アルキル化薬、プリン代謝拮抗薬、mTOR阻害薬などが挙げられる。カルシニューリン阻害薬としては、例えばタクロリムス、ピメクロリムス、シクロスポリン、ボクロスポリンなどが挙げられる。アルキル化薬としては、例えばシクロホスファミド、クロラムブシルなどが挙げられる。プリン代謝拮抗薬としては、例えばミゾリビン、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリンなどが挙げられる。mTOR阻害薬としては、例えばエベロリムス、シロリムス、テムシロリムスなどが挙げられる。それらの中でもカルシニューリン阻害薬が好ましい。ステロイドとしては、コルチコステロイドが好ましく、例えばプレドニゾロンが挙げられる。
【0026】
CXCL13は、ケモカインの一種であり、BCA-1(B cell attracting chemokine 1)又はBLC(B lymphocyte chemoattractant)とも呼ばれる。CXCL13は、B細胞及び濾胞性T細胞の表面に発現するCXCR5受容体のタンパク質リガンドとして知られる。CXCL13のアミノ酸配列自体は公知であり、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information)などの公知のデータベースに開示されている。
【0027】
生体試料は、CXCL13を含む試料であれば特に限定されない。そのような生体試料としては、例えば血液試料、尿、脳脊髄液、胸水、腹水、リンパ液などが挙げられる。血液試料としては、例えば、被検者から採取した血液(全血)、及びその血液から調製した血漿又は血清が挙げられる。生体試料に細胞などの不溶性の夾雑物が含まれる場合、例えば遠心分離、ろ過などの公知の手段により、生体試料から夾雑物を除去してもよい。生体試料は、必要に応じて適切な水性媒体で希釈してもよい。そのような水性媒体は、後述の測定を妨げないかぎり特に限定されず、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有するかぎり、特に限定されない。そのような緩衝液は、例えばHEPES、MES、PIPESなどのグッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)などが挙げられる。
【0028】
本明細書において「CXCL13を測定する」とは、CXCL13の量又は濃度の値を決定すること、及び、CXCL13の量又は濃度を反映する情報を取得することを含む。「CXCL13の量又は濃度を反映する情報」とは、生体試料又は該生体試料から調製した測定試料におけるCXCL13の量又は濃度に応じて変化する指標を意味する。そのような指標は、視認可能又は機械により測定可能な光学的変化の指標であることが好ましい。光学的変化の指標としては、例えば、発光強度、蛍光強度、吸光度、濁度、発色の濃さなどが挙げられる。
【0029】
CXCL13の量又は濃度を反映する情報は、定性的に示されてもよいし、定量的に示されてもよいし、半定量的に示されてもよい。定性的に示される情報は、CXCL13の有無を示す情報である。定量的に示される情報は、測定機器によって得られた数値(以下、「生データ」ともいう)、該数値から算出される値などの数値情報である。生データから算出される値としては、例えば、生データから陰性対照試料の値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。定量的情報に基づいて、CXCL13の量又は濃度の値を決定できる。半定量的に示される情報は、CXCL13の量又は濃度を、語句、数字(階級を示す)、色などにより段階的に示す情報である。例えば、「検出限界以下」、「少ない」、「中程度」、「多い」などの語句を用いてもよい。
【0030】
本明細書において、「CXCL13の測定結果」は、CXCL13を測定することにより得られた値、情報及びそれらの組み合わせを含む。好ましくは、CXCL13の測定結果は、CXCL13の量又は濃度を反映する定量的情報、及び/又はその定量的情報に基づいて決定されたCXCL13の量又は濃度の値である。以下、CXCL13の量又は濃度を反映する定量的情報、及び/又はCXCL13の量又は濃度の値を「CXCL13の測定値」ともいう。
【0031】
CXCL13を測定する方法は、生体試料又は生体試料から調製した測定試料中のCXCL13の量又は濃度を反映する情報を取得できるかぎり、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、CXCL13と特異的に結合可能な物質を用いてCXCL13を捕捉する方法が挙げられる。このような物質により捕捉されたCXCL13を公知の方法で検出することにより、生体試料中のCXCL13を測定できる。
【0032】
CXCL13と特異的に結合可能な物質としては、例えば、抗体、アプタマー、レセプタータンパク質などが挙げられる。それらの中でも抗体が特に好ましい。CXCL13に対する抗体自体は公知であり、一般に入手可能である。CXCL13に対する抗体は、CXCL13と特異的に結合できる抗体であれば、特に限定されない。そのような抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びそれらのフラグメント(例えばFab、F(ab')2、Fab'など)のいずれであってもよい。また、市販の抗体を用いてもよい。
【0033】
抗体を用いてCXCL13を測定する方法は特に限定されず、公知の免疫学的測定法から適宜選択できる。そのような測定法としては、例えば酵素結合免疫吸着法(ELISA法)、ウェスタンブロット法などが挙げられる。それらの中でもELISA法が好ましい。ELISA法の種類は、サンドイッチ法、競合法、直接法、間接法などのいずれであってもよいが、サンドイッチ法が特に好ましい。一例として、サンドイッチELISA法により、生体試料中のCXCL13を測定する場合について、以下に説明する。
【0034】
まず、CXCL13と、CXCL13を捕捉するための抗体(以下、「捕捉用抗体」ともいう)と、CXCL13を検出するための抗体(以下、「検出用抗体」ともいう)とを含む複合体を固相上に形成させる。この複合体は、CXCL13を含み得る生体試料と、捕捉用抗体と、検出用抗体とを混合することにより形成できる。そして、複合体を含む溶液を、捕捉用抗体を捕捉できる固相と接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。あるいは、捕捉用抗体をあらかじめ固定させた固相を用いてもよい。すなわち、捕捉用抗体を固定させた固相と、生体試料と、検出用抗体とを接触することにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。なお、捕捉用抗体及び検出用抗体がいずれもモノクローナル抗体の場合は、互いのエピトープが異なっていることが好ましい。
【0035】
固相は、捕捉用抗体を固定可能な不溶性の担体であればよい。捕捉用抗体の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、捕捉用抗体と固相とを直接結合させてもよいし、捕捉用抗体と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチン類とアビジン類との組み合わせを介した結合が挙げられる。捕捉用抗体をあらかじめビオチン類で修飾し、固相にアビジン類をあらかじめ結合しておくことにより、ビオチン類とアビジン類との結合を介して、捕捉用抗体と固相とを間接的に結合できる。
【0036】
本明細書において、「ビオチン類」とは、ビオチンとその類縁体を包含する。ビオチンの類縁体としては、例えばデスチオビオチン、ビオシチンなどが挙げられる。本明細書において「アビジン類」とは、アビジンとその類縁体を包含する。アビジンの類縁体としては、例えばストレプトアビジン、タモギタケ由来アビジン様タンパク質(タマビジン(登録商標))、ブラダビジン、リザビジンなどが挙げられる。
【0037】
固相の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましく、磁性粒子が特に好ましい。
【0038】
複合体の形成工程と複合体の検出工程との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、CXCL13と結合しなかった捕捉用抗体及び検出用抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0039】
固相上に形成された複合体を公知の方法で検出することにより、生体試料中のCXCL13を測定できる。例えば、検出用抗体として、標識物質で標識した抗体を用いた場合、固相上の複合体に含まれる検出用抗体から、標識物質によるシグナルが生じる。そのシグナルを検出することにより、固相上の複合体が検出される。この複合体には、捕捉用抗体により生体試料から捕捉されたCXCL13が含まれるので、複合体の検出により、生体試料中のCXCL13が測定される。検出用抗体に対する標識二次抗体を用いた場合も、同様にして生体試料中のCXCL13を測定できる。
【0040】
抗体を用いてCXCL13を測定する方法のさらなる例として、特開平1-254868号公報に記載の免疫複合体転移法を用いることもできる。
【0041】
標識物質は、検出可能なシグナルが生じるかぎり、特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0042】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法が適宜選択され得る。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0043】
酵素の基質は、当該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0044】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0045】
シグナルの検出結果は、CXCL13の測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量する場合は、シグナル強度の測定値自体又はその測定値から取得される値を、CXCL13の測定結果として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、シグナル強度の測定値から陰性対照試料の測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。また、シグナル強度の測定値を検量線に当てはめて、CXCL13の量又は濃度の値を決定してもよい。陰性対照試料は適宜選択できるが、例えば、健常人から得た生体試料などが挙げられる。
【0046】
生体試料に含まれるCXCL13は、磁性粒子に固定された捕捉用抗体と、標識物質で標識された検出用抗体とを用いるサンドイッチELISA法により測定され得る。この場合、測定は、市販の全自動免疫測定装置を用いて行ってもよい。そのような全自動免疫測定装置としては、例えばシスメックス株式会社のHISCL(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0047】
CXCL13の測定結果は、膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性の指標となる。例えば実施例に示されるように、リツキシマブが奏効した患者群は、リツキシマブが奏効しなかった患者群に比べて、生体試料中のCXCL13の濃度が有意に低かった。よって、CXCL13の測定結果を、膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性に関する情報として取得できる。例えば、CXCL13の測定値が閾値より低いとき、CXCL13の測定値は、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が膜性腎症患者に奏効することを示唆し得る。CXCL13の測定値が閾値以上であるとき、CXCL13の測定値は、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が膜性腎症患者に奏効しないことを示唆し得る。
【0048】
あるいは、CXCL13の測定値が閾値以下であるとき、CXCL13の測定値は、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が膜性腎症患者に奏効することを示唆し得る。CXCL13の測定値が閾値より高いとき、CXCL13の測定値は、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が膜性腎症患者に奏効しないことを示唆し得る。
【0049】
CXCL13の測定値に対する閾値は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、次のようにして閾値を設定してもよい。まず、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が奏効した複数の膜性腎症患者(奏効群)及び当該化学療法が奏効しなかった複数の膜性腎症患者(非奏効群)から生体試料を採取し、CXCL13を測定して、CXCL13の測定値を得る。そして、奏効群と非奏効群とを最も精度よく区別可能な値を求め、その値を閾値として設定する。閾値の設定においては、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮することが好ましい。
【0050】
本発明は、測定結果に基づいて、膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を判定する工程を含んでいてもよい。好ましくは、CXCL13の測定値と閾値とを比較し、比較結果に基づいて判定を行う。例えば、CXCL13の測定値が閾値より低いとき、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が、膜性腎症患者に奏効すると判定し得る。CXCL13の測定値が閾値以上であるとき、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が、膜性腎症患者に奏効しないと判定し得る。あるいは、CXCL13の測定値が閾値以下であるとき、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が、膜性腎症患者に奏効すると判定し得る。CXCL13の測定値が閾値より高いとき、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が、膜性腎症患者に奏効しないと判定し得る。膜性腎症患者、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法、生体試料、CXCL13の測定及び閾値の詳細は、上述のとおりである。
【0051】
本発明には、上記の判定結果に基づいて、膜性腎症患者を治療する方法も含まれる。当該治療方法は、膜性腎症患者から採取した生体試料中のCXCL13を測定する工程と、CXCL13の測定結果に基づいて、前記患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を判定する工程と、前記化学療法が前記患者に奏効すると判定されたとき、前記患者に抗CD20抗体医薬を用いる化学療法を行う工程とを含む。判定工程において、CXCL13の測定値が閾値より低いとき、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が膜性腎症患者に奏効すると判定する。あるいは、CXCL13の測定値が閾値以下であるとき、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が膜性腎症患者に奏効すると判定する。膜性腎症患者、抗CD20抗体医薬を用いる化学療法、生体試料、CXCL13の測定及び閾値の詳細は、上述のとおりである。
【0052】
化学療法を行う工程では、有効量の抗CD20抗体医薬を患者に投与することが好ましい。抗CD20抗体医薬に加えて他の免疫抑制剤をさらに投与してもよい。有効量は、膜性腎症の治療ガイドラインなどに応じて適宜決定され得る。
【0053】
本発明には、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性に関する情報を取得する方法、あるいは膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性の判定を補助する方法に用いられる試薬キット(以下、「試薬キット」ともいう)も含まれる。試薬キットは、CXCL13と特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む。CXCL13と特異的に結合可能な物質の詳細は、上述のとおりである。
【0054】
CXCL13と特異的に結合可能な物質を含む試薬は、CXCL13に対する捕捉用抗体を含む試薬及びCXCL13に対する検出用抗体を含む試薬の組み合わせであることが好ましい。試薬キットは、CXCL13に対する捕捉用抗体を含む試薬と、CXCL13に対する検出用抗体を含む試薬とを含む。検出用抗体は、標識物質で標識されてもよい。標識物質が酵素である場合、試薬キットは、該酵素の基質を含んでもよい。捕捉用抗体、検出用抗体、標識物質及び基質の詳細は、上述の通りである。捕捉用抗体、検出用抗体、標識物質及び基質の形態は特に限定されず、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。
【0055】
試薬キットは、試薬を収容した容器を箱に梱包された状態でユーザに提供され得る。箱には、添付文書を同梱していてもよい。添付文書には、試薬キットの構成、使用方法、当該試薬キットにより得られた測定結果と膜性腎症患者の病態との関係等について記載されていてもよい。そのような試薬キットの例を図1に示す。図1に示される試薬キットは、CXCL13に対する捕捉用抗体を含む試薬と、CXCL13に対する検出用抗体を含む試薬とを含むが、本発明はこの例に限定されない。図1を参照して、11は、試薬キットを示し、12は、CXCL13に対する捕捉用抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、13は、CXCL13に対する検出用抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、14は、梱包箱を示し、15は、添付文書を示す。この例において、試薬キットは、CXCL13に対する捕捉用抗体を固定化するための固相をさらに含んでもよい。固相の詳細は上述のとおりである。
【0056】
試薬キットは、CXCL13定量用キャリブレータをさらに含んでもよい。CXCL13定量用キャリブレータは、例えば、CXCL13の組換え型タンパク質を所定の濃度で含む緩衝液である。CXCL13を所定の濃度で含む緩衝液は、一つでもよいし、複数でもよい。CXCL13を所定の濃度で含む緩衝液が複数である場合、段階希釈などにより、CXCL13濃度が互いに異なるように各緩衝液を調製することが好ましい。CXCL13定量用キャリブレータは、CXCL13を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)をさらに含んでもよい。
【0057】
本発明は、膜性腎症患者に対する化学療法の奏効性の判定を補助する方法に用いられる試薬キットを製造するための試薬の使用を含む。当該試薬の詳細は上述のとおりである。
【0058】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0059】
実施例1
(1) 生体試料
生体試料として、STARMEN試験(非特許文献1参照)において、リツキシマブ及びタクロリムスによる治療の対象となった一次性膜性腎症患者(14名)の尿検体及び血液検体を用いた。これらの患者は、尿及び血液の採取時点ではリツキシマブ及びタクロリムスを用いる化学療法を受けていなかった。尿検体は、各患者から朝2番目に採取した尿をPBS(1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.05%アジ化ナトリウム及び50 mM EDTA含有)で4倍希釈して調製した。血液検体は、各患者から採取した血液から常法により調製した血清であった。これらの検体は、REDinREN Biobank (住所: Universidad de Alcala, Facultad de Medicina, Carretera Madrid-Barcelona, Km. 33.600, Alcala de Henares, Madrid Spain, 代表者: Laura Calleros Basilio)より入手した。
【0060】
(2) 患者情報
上記の患者は、生検により一次膜性腎症と診断された成人であり、6ヶ月以上の観察期間を経た。1.73 m2あたりeGFRは45 mL/分以上(≧45 mL/min/1.73m2)であった。タンパク尿値は4g/24時間より高く(>4g/24h)、ネフローゼ症候群に該当する値であった。観察期間中、タンパク尿値に50%を超える減少は見られなかった。観察期間中、血清アルブミン値は3.5 g/dL以下(≦3.5 g/dL)であり、低アルブミン血症に該当する値であった。上記の患者は、標準治療(アンギオテンシン変換酵素阻害薬/アンギオテンシン受容体遮断薬による治療)を少なくとも2ヶ月間受け、血圧の管理(≦150/90 mmHg)を少なくとも3ヶ月間受けた。
【0061】
(3) リツキシマブ及びタクロリムスを用いる化学療法
上記の患者に6ヶ月間、タクロリムス(0.05 mg/kg/日)を経口投与した。目標血中濃度は5~7ng/mLであった。投与開始から180日目にリツキシマブ(1g)を静脈投与し、タクロリムスを1ヶ月あたり25%減量した。治療は9ヶ月目に終了した。腎機能障害の場合、タクロリムスの投与量を減らした。リツキシマブ投与による副作用を減らす目的で、メチルプレドニゾロン(100 mg)、アセトアミノフェン(1g)、ジフェンヒドラミン(50 mg)を投与した。また、治療期間中、週3回、トリメトプリム/スルファメトキサゾール(160/800 mg)を経口投与した。
【0062】
(4) 化学療法の奏効群及び非奏効群の分類
リツキシマブ及びタクロリムスを用いる化学療法により、膜性腎症が完全寛解又は部分寛解した患者を奏効群に分類した。奏効群の患者は5名であった。完全寛解は、タンパク尿値が、ベースライン値から0.3 g/24時間以下(≦0.3 g/24h)まで減少し、且つ腎機能が維持された場合(1.73 m2あたりeGFRが45 mL/分以上)と定義された。部分寛解は、タンパク尿値が、ベースライン値から50%を超えて減少するか、又はタンパク尿値が3.5 g/24時間未満(<3.5 g/24h)であり、且つ腎機能が維持された場合(1.73 m2あたりeGFRが45 mL/分以上)と定義された。次の患者を非奏効群に分類した。タンパク尿値の減少が、ベースライン値から50%未満であった患者、及びネフローゼ症候群が再発した患者。非奏効群の患者は9名であった。ネフローゼ症候群が再発した患者は、以前に部分寛解又は完全寛解したが、3.5 g/24時間以上のタンパク尿が再発し、且つ3回以上の連続の来院でタンパク尿値が最低値から少なくとも50%以上増加した患者と定義された。
【0063】
(5) バイオマーカーの測定
各患者の尿検体中のCXCL13、IL-17、TWEAK、GDF15及びTNF-αを測定した。また、各患者の血液検体中のCXCL13、IL-17、TWEAK、GDF15、TNF-α、MIG(CXCL9とも呼ばれる)、CCL20(MIP-3αとも呼ばれる)及び抗PLA2R抗体を測定した。IL-17、TWEAK、GDF15、TNF-α、MIG及びCCL20は、糸球体腎炎及び/又は自己免疫疾患との関連性が報告されたバイオマーカーであった。抗PLA2R抗体は、一次性膜性腎症の原因抗原として公知であった。測定は、全自動免疫測定装置HISCL-5000(シスメックス株式会社)により行った。GDF15は、R&D Systems社より購入したELISA試薬を用いて測定した。抗PLA2R抗体は、Euroimmun社より購入したELISA試薬を用いて測定した。GDF15及び抗PLA2R抗体以外のバイオマーカーは、下記のR1~R5試薬を用いて測定した。TNF-α以外のバイオマーカーの測定に用いたR1試薬は、TNF-αを除く各バイオマーカーに特異的に結合する抗体を含む捕捉用試薬であった。TNF-αの測定に用いたR1試薬は、後述のMESバッファーであった。TNF-α以外のバイオマーカーの測定に用いたR2試薬は、固相として磁性粒子を含む試薬であった。TNF-αの測定に用いたR2試薬は、TNF-αに特異的に結合する抗体を固相化した磁性粒子を含む試薬であった。R3試薬は、各バイオマーカーに特異的に結合するALP標識抗体を含む検出用試薬であった。R4試薬は測定用バッファーであり、R5試薬は、ALPの化学発光基質を含む試薬であった。R4及びR5試薬は、各バイオマーカーの測定に共通して用いた。
【0064】
(5.1) CXCL13測定用試薬
・R1試薬
ビオチン標識抗CXCL13モノクローナル抗体(Invitrogen社)をバッファーに溶解して、R1試薬を調製した。尿検体中のCXCL13を測定するためのR1試薬には、バッファーとして、100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、1%BSA及び0.5%カゼイン含有)を用いた。血液検体中のCXCL13を測定するためのR1試薬には、バッファーとして、100 mM HEPES(pH7.4)(550 mM NaBr、0.15 mM EDTA 2Na及び 25 mM EGTA含有)を用いた。
【0065】
・R2試薬
表面にストレプトアビジンが固定された磁性粒子(以下、「STA結合磁性粒子」ともいう。平均粒子径2μm。磁性粒子1gあたりのストレプトアビジン量は2.9~3.5 mg)を、10 mM HEPES(pH7.5)で3回洗浄した。洗浄後のSTA結合磁性粒子を、ストレプトアビジン濃度が18~22μg/ml(STA結合磁性粒子の濃度が0.48~0.52 mg/ml)となるように10 mM HEPES(pH7.5)に添加して、R2試薬を調製した。
【0066】
・R3試薬
R1試薬に用いた抗体とは異なるクローン由来の抗CXCL13モノクローナル抗体(BioLegend社)を慣用の手法によりALPで標識した。得られたALP標識抗CXCL13抗体を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl及び1%BSA含有)に溶解して、R3試薬を調製した。
【0067】
・R4試薬及びR5試薬
R4試薬として、測定用バッファーであるHISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R5試薬として、ALPの化学発光基質であるCDP-Star(登録商標)(アプライドバイオシステムズ社)を含むHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。
【0068】
(5.2) IL-17測定用試薬
・R1試薬
ビオチン標識抗IL-17モノクローナル抗体(Invitrogen社)を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、1%BSA及び0.5%カゼイン含有)に溶解して、R1試薬を調製した。
【0069】
・R3試薬
R1試薬に用いた抗体とは異なるクローン由来のALP標識抗IL-17モノクローナル抗体(Invitrogen社)を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl及び1%BSA含有)に溶解して、R3試薬を調製した。
【0070】
(5.3) TWEAK測定用試薬
・R1試薬
抗ヒトTWEAKモノクローナル抗体(R&D Systems社)を慣用の手法によりビオチンで標識した。得られたビオチン標識抗TWEAK抗体を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、1%カゼイン、10 mM EDTA及び10 mM EGTA含有)に溶解して、R1試薬を調製した。
【0071】
・R3試薬
R1試薬に用いた抗体とは異なるクローン由来の抗TWEAKモノクローナル抗体(Abcam社)を慣用の手法によりALPで標識した。得られたALP標識抗TWEAK抗体を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl及び1%BSA含有)に溶解して、R3試薬を調製した。
【0072】
(5.4) TNF-α測定用試薬
・R1試薬
R1試薬として、100 mM MES(pH6.5)(150 mM NaCl及び2%BSA含有)を調製した。
【0073】
・R2試薬
抗TNF-αモノクローナル抗体(バイオテクネ社)を慣用の手法によりビオチンで標識した。得られたビオチン標識抗TNF-α抗体を感作磁性粒子に吸着させ、100 mM MES(pH6.5)(150 mM NaCl及び2%BSA含有)に溶解して、R2試薬を調製した。
【0074】
・R3試薬
R2試薬に用いた抗体とは異なるクローン由来の抗TNF-αモノクローナル抗体(バイオテクネ社)を慣用の手法によりALPで標識した。得られたALP標識抗TNF-α抗体を100 mM MES(pH6.5)(150 mM NaCl及び2%BSA含有)に溶解して、R3試薬を調製した。
【0075】
(5.5) MIG測定用試薬
・R1試薬
抗MIGモノクローナル抗体(RANDOX社)を慣用の手法によりペプシン又はIdeSプロテアーゼで消化して、Fabフラグメントを得た。Fabフラグメント慣用の手法によりビオチンで標識した。得られたビオチン標識Fabフラグメントを100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、1%BSA及び0.5%カゼイン含有)に溶解して、R1試薬を調製した。
【0076】
・R3試薬
R1試薬に用いた抗体とは異なるクローン由来の抗MIGモノクローナル抗体(RANDOX社)を慣用の手法によりペプシン又はIdeSプロテアーゼで消化して、Fabフラグメントを得た。Fabフラグメント慣用の手法によりALPで標識した。得られたALP標識Fabフラグメントを100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、1%CHAPS、1%BSA及び0.5%カゼイン含有)に溶解して、R3試薬を調製した。
【0077】
(5.6) CCL20測定用試薬
・R1試薬
尿検体中のCCL20を測定するためのR1試薬には、抗MIP-3αモノクローナル抗体(Abcam社)を用いた。この抗体を慣用の手法によりビオチンで標識し、得られたビオチン標識抗体を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、25 mM EDTA及び25 mM EGTA及び0.1% Tween(商標)20含有)に溶解して、R1試薬を調製した。血液検体中のCCL20を測定するためのR1試薬には、抗ヒトCCL20(MIP-3α)モノクローナル抗体(BioLegend社)を用いた。この抗体を慣用の手法によりビオチンで標識し、得られたビオチン標識抗体を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、25 mM EDTA及び25 mM EGTA及び0.1% Tween(商標)20含有)に溶解して、R1試薬を調製した。
【0078】
・R3試薬
R1試薬に用いた抗体とは異なるクローン由来の抗ヒトCCL20(MIP-3α)モノクローナル抗体(BioLegend社)を慣用の手法によりALPで標識した。得られたALP標識抗体を100 mMトリエタノールアミン(pH7.4)(150 mM NaCl、1%BSA及び0.5%カゼイン含有)に溶解して、R3試薬を調製した。
【0079】
HISCL-5000による測定手順は、次のとおりであった。TNF-α以外のバイオマーカーについては、尿検体を検体緩衝液(1%BSA及び50 mM EDTA含有PBS(pH7.4)[CXCL13]、1%カゼイン含有PBS(pH7.4)[TWEAK]、1%BSA含有PBS(pH7.4)[IL-17])で2倍から4倍に希釈して、検体とした。検体とR1試薬とを混合した後、R2試薬を添加した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR3試薬を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR4試薬及びR5試薬を添加して、化学発光強度を測定した。得られた化学発光強度を検量線に当てはめて、バイオマーカーの濃度を決定した。検量線は、各バイオマーカーのキャリブレータを用いて作成した。キャリブレータは、各バイオマーカーの組換え型タンパク質から調製した。
【0080】
(6) 測定結果
奏効群及び非奏効群における尿検体中のCXCL13、IL-17、TWEAK、GDF15及びTNF-αの濃度を、それぞれ図2~6に示す。また、奏効群及び非奏効群における血液検体中のCXCL13、IL-17、TWEAK、GDF15、TNF-α、MIG、CCL20及び抗PLA2R抗体の濃度を、それぞれ図7~14に示す。各図において、検体量の不足等の理由により、バイオマーカーを測定できなかった患者は除外した。図2を参照して、奏効群の尿検体中のCXCL13の濃度は、非奏効群に比べて有意に低いことが分かった(p=0.017)。図7を参照して、血液検体でも同様に、奏効群のCXCL13の濃度は、非奏効群に比べて有意に低いことが分かった(p=0.020)。よって、尿及び血液中のCXCL13は、膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性の判定を可能にするバイオマーカーになり得ることが示された。すなわち、尿検体又は血液検体におけるCXCL13の濃度が、膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性を示唆することが示された。また、図2及び図7から分かるように、CXCL13の濃度について、奏効群と非奏効群とを区別可能な閾値を設定できることが示された。そのような閾値と、尿検体又は血液検体におけるCXCL13の濃度との比較結果に基づいて、膜性腎症患者に対して抗CD20抗体医薬を用いる化学療法が奏効するか否かを判定できることが示された。
【0081】
図3~6を参照して、尿検体中のIL-17、TWEAK、GDF15及びTNF-αはいずれも、奏効群と非奏効群との間で有意な差は認められなかった。図8~14を参照して、血液検体中のIL-17、TWEAK、GDF15、TNF-α、MIG、CCL20及び抗PLA2R抗体についても、奏効群と非奏効群との間で有意な差は認められなかった。上記のとおり、これらのバイオマーカーは、糸球体腎炎及び/又は自己免疫疾患との関連性が報告されていた。しかし、これらのバイオマーカーは、膜性腎症患者に対する抗CD20抗体医薬を用いる化学療法の奏効性とは関連しないことが示された。
【符号の説明】
【0082】
11 試薬キット
12 第1容器
13 第2容器
14 梱包箱
15 添付文書
図1
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