(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179185
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】異材溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20241219BHJP
B23K 9/007 20060101ALI20241219BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20241219BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20241219BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/007
B23K9/167 A
B23K9/073 530
B23K9/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097832
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 要
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001CA01
4E001CB01
4E001DC01
4E001DE03
4E081BA02
4E081BA08
4E081BA16
4E081BB04
4E081BB15
4E081CA08
4E081DA13
4E082AA08
4E082AA11
4E082BA02
4E082EA11
4E082EA12
4E082EF11
4E082EF12
4E082JA03
(57)【要約】
【課題】軽量化を図りつつ、スパッタやスマットを低減して外観品質を向上させ、かつ、電極の消耗を抑制して効率的に溶接することが可能な異材溶接方法を提供する。
【解決手段】鉄または鋼からなる第一部材11とアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第二部材13とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、第一部材11に予め形成した貫通孔21から第二部材13へ向かってアルミニウムまたはアルミニウム合金のフィラー材33を溶融させて充填させることにより、第一部材11と第二部材13とをアークスポット溶接する溶接工程と、を含み、溶接工程において、アークAcを発生させる電極31としてタングステンを用いて交流の溶接電流を付与するとともに、溶接開始期後に、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合が高くなるように制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または鋼からなる第一部材と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第二部材と、を接合する異材溶接方法であって、
前記第一部材と前記第二部材とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記第一部材に予め形成した貫通孔から前記第二部材へ向かってアルミニウムまたはアルミニウム合金のフィラー材を溶融させて充填させることにより、前記第一部材と前記第二部材とをアークスポット溶接する溶接工程と、
を含み、
前記溶接工程において、アークを発生させる電極としてタングステンを用いて交流の溶接電流を付与するとともに、溶接開始期後に、前記溶接電流の1周期における前記電極の陰極時間の割合が高くなるように制御する、
異材溶接方法。
【請求項2】
前記溶接工程において、溶接終了期において、前記溶接電流として、前記電極を陰極とする直流を付与するように制御する、
請求項1に記載の異材溶接方法。
【請求項3】
前記溶接終了期における直流からなる前記溶接電流をパルス電流とする、
請求項2に記載の異材溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両における乗員の安全性向上が求められており、係る目的のために車体の強度を向上させてきた。他方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。
【0003】
例えば、アルミニウム材を用いて軽量化を図るために、鋼板とアルミニウム板とを接合する技術が開発されている。この鋼材とアルミニウム材とを接合させる技術として、鋼板に予め貫通孔を形成してアルミニウム板上に重ね、アルミニウムの溶接ワイヤを用いてMIG(Metal Inert Gas)溶接によって貫通孔へ溶融アルミニウム材を充填して接合する異種金属アークスポット溶接法(DASW:Dissimilar metals Arc Spot Welding)が知られている。
【0004】
しかし、MIG溶接によるアークスポット溶接法では、消耗式電極となるアルミニウムの溶接ワイヤの先端にできた溶滴が溶融池外に飛び散って部品に付着するスパッタや溶接ワイヤ中のマグネシウムが蒸気となって酸化及び凝固して黒い煤のように母材に付着するスマットが生じやすい。
【0005】
これに対し、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接は、一般にスパッタ及びスマットの発生量が少ないとされている。これは非消耗式のタングステン電極を用い、不活性のアルゴンガス、ヘリウムガスもしくはその混合ガスをシールドガスとしてアークを発生させ、そこにアルミニウムの溶接ワイヤを少しずつ挿入して溶融させることにより、ワイヤの蒸発が抑制されることなどが理由としてあげられる。このため、TIG溶接は、例えば、ジェットエンジンや原子力構造物などにおいて、コストよりも外観や品質が重視される部分の溶接に使われることが多い。
【0006】
このTIG溶接において、タングステン電極を陰極(EN:Electrode Negative、棒マイナス)とすると、電極直下にアークが集中して幅が狭く深い溶け込みを得ることができる。このため、TIG溶接は、通常、タングステン電極を陰極として行われる。
【0007】
これに対して、TIG溶接において、タングステン電極を陽極(EP:Electrode Positive、棒プラス)とした場合、母材表面の酸化被膜を除去するクリーニング効果が得られる。アルミニウムの母材表面を覆っている酸化被膜は、融点や比重がアルミニウム自体より高く、除去しないで溶接すると、酸化物が溶融池に残って溶接欠陥の原因となりやすい。このため、タングステン電極を陽極としたTIG溶接によりクリーニング効果を得ることは、アルミニウムの溶接には有効となる。しかし、母材に形成される電気の通り道である陰極点が母材の表面を激しく動き回るため、熱が集中せずに幅が広く浅い溶け込みとなること、タングステン電極への入熱が大きくなり、電極が消耗しやすいことから、実用的ではない。
【0008】
したがって、TIG溶接でアルミニウムに溶接する場合、溶接電流として、タングステン電極を陽極とした場合及びタングステン電極を陰極とした場合のそれぞれの利点を併せ持つ交流の溶接電流を適用するのが好ましい。
【0009】
特許文献1には、非消耗性電極と被溶接物との間に供給する溶接電流の極性を周期的に切り換えてアルミニウム合金を溶接するTIGアーク溶接方法が開示されている。この溶接方法では、溶接終了時に正極性直流電流を0.5秒以上1.0秒以下通電することによって、熱の集中による溶落ち、交番する電流のアーク力によるクレータ割れを抑えている。
【0010】
また、特許文献2には、非消耗性電極と被溶接物との間に供給する溶接電流の極性を周期的に切り換えてアルミニウム合金を溶接する溶接方法において、非平衡矩形波交流電流と非消耗性電極がマイナスのみとなるパルス電流とを切り換えることにより、板厚の厚いアルミニウム合金における溶け込み深さを増加させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3158545号公報
【特許文献2】特許第3421014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1、2のように、交流の溶接電流によってTIG溶接を行う場合であっても、タングステン電極の消耗は大きく、タングステン電極の先端の溶融部の一部が離脱して飛散し、電極の主成分であるタングステンが溶接部に混入して溶接品質を低下させることがある。また、タングステン電極が消耗すると、アークが不安定になりやすくなる。このため、タングステン電極を頻繁に研磨する必要があり、効率低下やコストアップを招いてしまう。
【0013】
しかも、特許文献1、2の溶接方法は、いずれもアルミニウム合金を線溶接する技術であり、鋼板に予め貫通孔を形成してアルミニウム板上に重ね、貫通孔へ溶融アルミニウム材を充填して接合する異種金属アークスポット溶接法へ適用することは困難である。
【0014】
そこで本発明は、軽量化を図りつつ、スパッタやスマットを低減して外観品質を向上させ、かつ、電極の消耗を抑制して効率的に溶接することが可能な異材溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は下記の構成からなる。
鉄または鋼からなる第一部材と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第二部材と、を接合する異材溶接方法であって、
前記第一部材と前記第二部材とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記第一部材に予め形成した貫通孔から前記第二部材へ向かってアルミニウムまたはアルミニウム合金のフィラー材を溶融させて充填させることにより、前記第一部材と前記第二部材とをアークスポット溶接する溶接工程と、
を含み、
前記溶接工程において、アークを発生させる電極としてタングステンを用いて交流の溶接電流を付与するとともに、溶接開始期後に、前記溶接電流の1周期における前記電極の陰極時間の割合が高くなるように制御する、
異材溶接方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽量化を図りつつ、スパッタやスマットを低減して外観品質を向上させ、かつ、電極の消耗を抑制して効率的に溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、互いに接合された第一部材と第二部材との溶接継手の断面図である。
【
図2A】
図2Aは、第一部材と第二部材とを接合する様子を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、第一部材と第二部材とを接合する様子を示す断面図である。
【
図2C】
図2Cは、第一部材と第二部材とを接合する様子を示す断面図である。
【
図2D】
図2Dは、第一部材と第二部材とを接合する様子を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態における溶接電流の波形を示す図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態における溶接電流の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る異材溶接方法について説明する。
図1は、互いに接合された第一部材11と第二部材13との溶接継手15の断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る異材溶接方法は、第一部材11と、第二部材13とを溶接する方法である。これらの第一部材11及び第二部材13は、互いに重ね合わされた状態で接合されて溶接継手15を構成する。本実施形態では、これらの第一部材11と第二部材13とをTIG溶接によって接合する。
【0019】
第一部材11は、鉄または鋼からなる金属板であり、平板状に形成されている。第二部材13は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板であり、平板状に形成されている。
【0020】
第一部材11には、予め貫通孔21が形成されている。貫通孔21には、溶接金属23が充填されており、この溶接金属23によって第一部材11と第二部材13が接合されている。
【0021】
溶接金属23は、フィラー材がアークによって溶融して硬化したもので、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属である。この溶接金属23は、第二部材13に溶け込んでいる。この溶接金属23は、第一部材11における貫通孔21から第一部材11の表面よりも上方へ盛り上がった余盛部25を有しており、この余盛部25は、その周部25aが、貫通孔21の周縁よりも外周側へ延在されている。
【0022】
このように、溶接継手15では、第一部材11に形成した貫通孔21に、アルミニウムまたはアルミニウム合金のフィラー材を溶融して充填する異種金属アークスポット溶接法によって第一部材11と第二部材13とが接合されている。
【0023】
次に、TIG溶接によって第一部材11と第二部材13とを接合させる場合について説明する。
図2A~
図2Dは、第一部材11と第二部材13とを接合する様子を示す断面図である。
【0024】
(重ね合わせ工程)
図2Aに示すように、予め貫通孔21を第一部材11に形成し、この第一部材11と第二部材13とを互いに重ね合わせ、溶接装置に配置させる。溶接装置は、電極31を備えており、この電極31を貫通孔21の直上に配置させる。この電極31は、タングステンまたはタングステン合金(酸化トリウム、酸化ランタン、酸化セリウムなどを1%~2%含有)からなる非消耗式電極である。また、溶接装置は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィラー材33を供給するフィラー材供給部35を備えており、フィラー材33の先端を貫通孔21の上方に配置させる。また、溶接装置は、電源装置を備えており、この電源装置によって、第二部材13を母材とし、母材と電極31との間に溶接電流を付与可能とされている。
【0025】
溶接装置の電源装置は、交流または交流直流両用の溶接電流を母材と電極31との間に付与可能である。付与する溶接電流の交流周波数としては、500Hzといった高周波数も可能である。交流周波数が高くなると、アークの集中性が向上して、溶け込みを深くすることができる。なお、溶接電流の交流周波数としては、500Hzを超えた高周波数でもよい。
【0026】
(溶接工程)
図2Bに示すように、第二部材13を母材とし、溶接装置の電源装置によって、母材と電極31との間に溶接電流を付与し、電極31と母材となる第二部材13との間にアークAcを発生させる。なお、アークAcを発生させる際のシールドガスとしては、アルゴンやヘリウムもしくはこれらの混合ガスなどの不活性ガスを用いる。
【0027】
そして、
図2Cに示すように、発生させたアークAcによってフィラー材33を溶融させて溶接する。このようにすると、第二部材13がアークAcによって溶融されるとともに、第一部材11の貫通孔21の内部において、第二部材13の上部にフィラー材33の溶融した溶接金属23が充填される。
【0028】
その後、
図2Dに示すように、第一部材11の貫通孔21から溢れ出した溶接金属23が貫通孔21の周縁よりも外周側へ延在する。そして、溶接を終了させることにより、溶融した溶接金属23が硬化する。これにより、第一部材11の表面よりも上方へ盛り上がった余盛部25を有する溶接金属23によって第一部材11と第二部材13とが接合された溶接継手15とされる。なお、溶接継手15には、裏面側に裏余盛が形成されてもよい。
【0029】
なお、溶接工程において、溶接の進行に応じて電極31を引き上げて適正なアーク長を保ちながら溶接する。また、フィラー材33は、溶接の進行に応じてフィラー材供給部35によって送り込む。
【0030】
本実施形態では、上記の溶接工程において、電源装置によって付与する溶接電流を各期間に応じて制御する。
図3は、第1実施形態における溶接電流の波形を示す図である。
【0031】
(1)溶接開始期(
図3におけるT1)
溶接開始期(
図2B参照)は、溶接電流として交流を付与する。そして、この溶接開始期において、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合(Tn1/(Tp1+Tn1))を陽極(EP)時における良好なクリーニング効果を得つつ、陰極(EN)時におけるアークAcの集中による良好な溶け込みが得られるように制御する。
【0032】
(2)溶接中間期(
図3におけるT2)
溶接中間期(
図2C参照)においても、溶接電流として交流を付与する。このとき、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合(Tn2/(Tp2+Tn2))が高くなるように制御する。
【0033】
ここで、母材のクリーニングが進んだ溶接開始期後においては、電極31を陽極(EP)とすると、得られるクリーニング効果に対して、電極31の消耗が大きくなる。したがって、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合(Tn2/(Tp2+Tn2))が高くなるように制御する。これにより、電極31の消耗を抑えつつ、アークAcの集中による良好な溶け込みを得ることができる。
【0034】
(3)溶接終了期(
図3におけるT3の間)
溶接終了期(
図2D参照)においても、溶接電流として交流を付与する。このとき、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合(Tn3/(Tp3+Tn3))がさらに高くなるように制御する。
【0035】
このように、溶接終了期に、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合(Tn3/(Tp3+Tn3))がさらに高くなるように制御すれば、電極31の消耗をより抑えつつ、アークAcの集中による溶け込みをより高めて溶接効率を高めることができる。
【0036】
以上、説明したように、第1実施形態に係る異材溶接方法によれば、溶接工程において、交流の溶接電流を付与してアークAcを発生させて溶接するので、電極31の陽極(EP)時における良好なクリーニング効果を得つつ、電極31の陰極(EN)時におけるアークAcの集中による良好な溶け込みが得られる。
【0037】
また、第二部材13からなる母材のクリーニングが進んだ溶接開始期後において、交流からなる溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合が高くなるように制御することにより、タングステンからなる電極31の消耗を抑えつつ、アークAcの集中による良好な溶け込みを得ることができる。
【0038】
これにより、第一部材11に予め形成した貫通孔21から第二部材13へ向かってアルミニウムまたはアルミニウム合金のフィラー材33を溶融させて充填させて第一部材11と第二部材13とを異種金属アークスポット溶接法によって円滑に溶接することができる。したがって、車両の構造材を、アルミニウム材を用いて軽量化でき、燃費改善が図れる。
【0039】
ここで、電極31を陽極(EP)にすることによるクリーニング作用は、母材に付着したスマットを取り除く効果や、フィラー材33に対するクリーニング効果もある。このため、母材の酸化被膜の除去後すぐに電極31における陰極(EN)の比率を100%とせずに、溶接開始期後に陰極(EN)の比率を段階的に高めることにより、母材に付着したスマットの除去効果やフィラー材33に対するクリーニング効果も得ることができる。
【0040】
なお、上記の溶接工程において、溶接開始期(T1)、溶接中間期(T2)及び溶接終了期(T3)の時間としては、例えば、0.5秒以下とすることができる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る異材溶接方法について説明する。
なお、第1実施形態と同一構成部分は、同一符号を付して説明を省略する。
図4は、第2実施形態における溶接電流の波形を示す図である。
【0042】
(1)溶接開始期(
図4におけるT1の間)
溶接開始期(
図2B参照)は、第1実施形態と同様に、溶接電流として交流を付与する。この溶接開始期において、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合(Tn1/(Tp1+Tn1))を良好なクリーニング効果と良好な溶け込みが得られるように制御する。
【0043】
(2)溶接中間期(
図4におけるT2の間)
溶接中間期(
図2C参照)においても、第1実施形態と同様に、溶接電流として交流を付与する。このとき、溶接電流の1周期における電極31の陰極時間の割合(Tn2/(Tp2+Tn2))が高くなるように制御する。
【0044】
これにより、母材のクリーニングが進んだ溶接開始期後において、電極31の消耗を抑えつつ、アークAcの集中による良好な溶け込みを得ることができる。
【0045】
(3)溶接終了期(
図4におけるT3の間)
溶接終了期(
図2D参照)では、溶接電流として、電極31を陰極(EN)とした直流を付与するように制御する。また、この付与する直流の溶接電流を、その電流値が周期的に変動するパルス電流とする。
【0046】
このように、溶接終了期に、電極31を陰極(EN)とした直流からなる溶接電流を付与するように制御する。つまり、溶接終了期に、電極31における陰極(EN)の比率を100%に制御すれば、電極31の消耗をさらにより抑えつつ、アークAcの集中による溶け込みをより高めて溶接効率を高めることができる。
【0047】
なお、上記実施形態において、第一部材11に形成する貫通孔21としては、円形状に限らず、楕円形状や長方形状であってもよい。楕円形状や長方形状の貫通孔21を形成した場合、貫通孔21の長手方向に沿って短尺の線溶接となるが、電極31を揺動させることにより溶接することができる。なお、電極31の揺動は繰り返しても良い。また、貫通孔21が円形状の場合においても、電極31を揺動させて溶接して良い。
【0048】
なお、本発明は、TIG溶接と同様に、タングステンの電極31を用いたプラズマアーク溶接にも適用可能である。また、例えば、ノズル内にインナーガスを流して高速気流を発生させるプラズマジェットTIG溶接や狭窄ノズルを用いた狭窄TIG溶接などのより集中したアークAcを発生させてより深い溶け込みが得られる溶接方法にも適用可能である。
【0049】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0050】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 鉄または鋼からなる第一部材と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第二部材と、を接合する異材溶接方法であって、
前記第一部材と前記第二部材とを重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記第一部材に予め形成した貫通孔から前記第二部材へ向かってアルミニウムまたはアルミニウム合金のフィラー材を溶融させて充填させることにより、前記第一部材と前記第二部材とをアークスポット溶接する溶接工程と、
を含み、
前記溶接工程において、アークを発生させる電極としてタングステンを用いて交流の溶接電流を付与するとともに、溶接開始期後に、前記溶接電流の1周期における前記電極の陰極時間の割合が高くなるように制御する、異材溶接方法。
この異材溶接方法によれば、溶接工程において、交流の溶接電流を付与してアークを発生させて溶接するので、電極の陽極時における良好なクリーニング効果を得つつ、電極の陰極時におけるアークの集中による良好な溶け込みが得られる。
また、母材のクリーニングが進んだ溶接開始期後において、溶接電流の1周期における電極の陰極時間の割合が高くなるように制御することにより、タングステンからなる電極の消耗を抑えつつ、アークの集中による良好な溶け込みを得ることができる。
これにより、第一部材に予め形成した貫通孔から第二部材へ向かってアルミニウムまたはアルミニウム合金のフィラー材を溶融させて充填させて第一部材と第二部材とを異種金属アークスポット溶接法によって円滑に溶接することができる。したがって、車両の構造材を、アルミニウム材を用いて軽量化でき、燃費改善が図れる。
【0051】
(2) 前記溶接工程において、溶接終了期において、前記溶接電流として、前記電極を陰極とする直流を付与するように制御する、(1)に記載の異材溶接方法。
この異材溶接方法によれば、溶接終了期において、電極の消耗をより抑えつつ、アークの集中による溶け込みをより高めて溶接効率を高めることができる。
【0052】
(3) 前記溶接終了期における直流からなる前記溶接電流をパルス電流とする、(2)に記載の異材溶接方法。
この異材溶接方法によれば、パルス電流からなる直流の溶接電流を付与して電極の消耗をより抑えることができる。
【符号の説明】
【0053】
11 第一部材
13 第二部材
21 貫通孔
31 電極
33 フィラー材
Ac アーク
EN 陰極
EP 陽極