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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179188
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】光フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20241219BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G02B6/12 341
G02B6/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097835
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】平谷 拓生
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 務
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】八木 英樹
(72)【発明者】
【氏名】西山 伸彦
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB16
2H147AC01
2H147AC05
2H147BD03
2H147BE15
2H147DA11
2H147DA15
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147GA01
2H147GA29
(57)【要約】
【課題】結合係数の温度依存性を抑制することが可能な光フィルタを提供する。
【解決手段】リング共振器と、前記リング共振器と光学的に結合する光導波路と、前記リング共振器に設けられたヒータと、を具備し、前記リング共振器は第1曲線部を有し、前記光導波路は第2曲線部を有し、前記第1曲線部と前記第2曲線部とは方向性結合器を形成し、前記ヒータは前記方向性結合器の上に設けられる光フィルタ。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング共振器と、
前記リング共振器と光学的に結合する光導波路と、
前記リング共振器に設けられたヒータと、を具備し、
前記リング共振器は第1曲線部を有し、
前記光導波路は第2曲線部を有し、
前記第1曲線部と前記第2曲線部とは方向性結合器を形成し、
前記ヒータは前記方向性結合器の上に設けられる光フィルタ。
【請求項2】
前記ヒータは、前記リング共振器のうち前記方向性結合器を形成する部分、および前記方向性結合器以外の部分に設けられる請求項1に記載の光フィルタ。
【請求項3】
前記ヒータは、前記リング共振器のうち70%以上の部分の上に設けられる請求項1または請求項2に記載の光フィルタ。
【請求項4】
前記第1曲線部および前記第2曲線部は、前記リング共振器の外に向けて湾曲する請求項1または請求項2に記載の光フィルタ。
【請求項5】
前記第1曲線部の曲率半径および前記第2曲線部の曲率半径は350μm以下、5μm以上である請求項1または請求項2に記載の光フィルタ。
【請求項6】
前記方向性結合器において前記リング共振器と前記光導波路との間の距離が最小になる請求項1または請求項2に記載の光フィルタ。
【請求項7】
シリコン層を具備し、
前記シリコン層は導波路コアを有し、
1つの前記導波路コアは前記リング共振器であり、
もう1つの前記導波路コアは前記光導波路であり、
前記方向性結合器において、前記1つの導波路コアと前記もう1つの導波路コアとは隣接する請求項1または請求項2に記載の光フィルタ。
【請求項8】
2つの前記光導波路を具備し、
前記2つの光導波路のそれぞれは前記第2曲線部を有し、
2つの前記第2曲線部のそれぞれは、前記第1曲線部と前記方向性結合器を形成する請求項1または請求項2に記載の光フィルタ。
【請求項9】
前記リング共振器を回る方向において、2つの前記方向性結合器のうち1つの前記方向性結合器からもう1つの前記方向性結合器までの前記リング共振器の長さは、前記2つの方向性結合器のうち前記もう1つの方向性結合器から前記1つの方向性結合器までの前記リング共振器の長さに等しい請求項8に記載の光フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は光フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの光導波路を近づけることで、方向性結合器が形成される(非特許文献1など)。1つの光導波路からもう1つの光導波路へと、光が乗り移る。リング状の光導波路はリング共振器を形成する。リング共振器と光導波路とで方向性結合器を形成することで、光が乗り移る。ヒータによってリング共振器の温度を変化させることで、光の波長を変化させることができる(非特許文献2など)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Reduction of Wavelength Dependence of Coupling Characteristics Using Si Optical Waveguide Curved Directional Coupler” Hisayasu Morino, et al. Journal of Lightwave Technology,Vol.32,No.12,June 15,2014 p2188-2192
【非特許文献2】“A 2.5 kHz Linewidth Widely Tunable Laser with Booster SOA Integrated on Silicon” Minh A.et al. 2018 IEEE International Semiconductor Laser Conference(ISLC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
方向性結合器の結合係数は温度に依存して変化する。結合係数の変化により、意図する特性が得られない恐れがある。そこで、結合係数の温度依存性を抑制することが可能な光フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る光フィルタは、リング共振器と、前記リング共振器と光学的に結合する光導波路と、前記リング共振器に設けられたヒータと、を具備し、前記リング共振器は第1曲線部を有し、前記光導波路は第2曲線部を有し、前記第1曲線部と前記第2曲線部とは方向性結合器を形成し、前記ヒータは前記方向性結合器の上に設けられる。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、結合係数の温度依存性を抑制することが可能な光フィルタを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は実施形態に係る光フィルタを例示する平面図である。
図2A図2Aは方向性結合器の拡大図である。
図2B図2Bは角度と曲率半径との関係を例示する図である。
図3A図3A図1の線A-Aに沿った断面図である。
図3B図3B図1の線B-Bに沿った断面図である。
図4図4は光のスペクトルを例示する図である。
図5図5は比較例に係る光フィルタを例示する平面図である。
図6図6は方向性結合器の結合係数を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0009】
本開示の一形態は、(1)リング共振器と、前記リング共振器と光学的に結合する光導波路と、前記リング共振器に設けられたヒータと、を具備し、前記リング共振器は第1曲線部を有し、前記光導波路は第2曲線部を有し、前記第1曲線部と前記第2曲線部とは方向性結合器を形成し、前記ヒータは前記方向性結合器の上に設けられる光フィルタである。ヒータを用いてリング共振器の温度を変化させることで、光の波長を変化させる。第1曲線部および第2曲線部が方向性結合器を形成する。このため結合係数の温度依存性が抑制される。光の波長を変化させ、かつ結合係数の変化は抑制することができる。
(2)上記(1)において、前記ヒータは、前記リング共振器のうち前記方向性結合器を形成する部分、および前記方向性結合器以外の部分に設けられてもよい。リング共振器のうちヒータに覆われる部分が長くなる。ヒータから熱の伝わる部分が大きくなる。リング共振器の温度が変化しやすくなる。消費電力の増加を抑制することができる。
(3)上記(1)または(2)において、前記ヒータは、前記リング共振器のうち70%以上の部分の上に設けられてもよい。リング共振器のうちヒータに覆われる部分が長くなる。ヒータから熱の伝わる部分が大きくなる。リング共振器の温度が変化しやすくなる。消費電力の増加を抑制することができる。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記第1曲線部および前記第2曲線部は、前記リング共振器の外に向けて湾曲してもよい。第1曲線部と第2曲線部とが方向性結合器を形成する。リング共振器と光導波路との間で、光が乗り移ることができる。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記第1曲線部の曲率半径および前記第2曲線部の曲率半径は350μm以下、5μm以上でもよい。結合係数の温度依存性が小さくなる。
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記方向性結合器において前記リング共振器と前記光導波路との間の距離が最小でもよい。光は方向性結合器において乗り移りやすく、方向性結合器以外の部分では乗り移りにくい。光の波長および強度を所望の大きさとすることができる。
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、シリコン層を具備し、前記シリコン層は導波路コアを有し、1つの前記導波路コアは前記リング共振器であり、もう1つの前記導波路コアは前記光導波路であり、前記方向性結合器において、前記1つの導波路コアと前記もう1つの導波路コアとは隣接してもよい。導波路コアの間で光が乗り移る。リング共振器および光導波路はシリコンで形成される。リング共振器および光導波路に光を強く閉じ込め、損失を抑制することができる。
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、2つの前記光導波路を具備し、前記2つの光導波路のそれぞれは前記第2曲線部を有し、2つの前記第2曲線部のそれぞれは、前記第1曲線部と前記方向性結合器を形成してもよい。1つの光導波路からリング共振器に光が乗り移る。リング共振器からもう1つの光導波路に光が乗り移る。リング共振器の共振波長を有する光を取り出すことができる。
(9)上記(8)において、前記リング共振器を回る方向において、2つの前記方向性結合器のうち1つの前記方向性結合器からもう1つの前記方向性結合器までの前記リング共振器の長さは、前記2つの方向性結合器のうち前記もう1つの方向性結合器から前記1つの方向性結合器までの前記リング共振器の長さに等しくてもよい。2つの方向性結合器の間において、光路長が同一に近づく。光の位相にずれが生じにくい。
【0010】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光フィルタの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
図1は実施形態に係る光フィルタ100を例示する平面図である。光フィルタ100は、基板10、リング共振器12、光導波路14、およびヒータ16を備える。光フィルタ100は導波路型の光フィルタである。
【0012】
基板10の平面形状は例えば矩形である。基板10の2つの辺は、X軸方向に平行である。別の2つの辺は、Y軸方向に平行である。基板10の上面は、XY平面に平行である。Z軸方向は、基板10の法線方向である。X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向は互いに直交する。
【0013】
基板10はSOI(Silicon on Insulator)基板であり、ボックス層を有する。リング共振器12および光導波路14は、ボックス層に埋め込まれている。図1ではボックス層を透視している。ヒータ16は基板10の上面に設けられており、リング共振器12の上に位置する。ヒータ16には電源17が電気的に接続されている。
【0014】
リング共振器12は、2つの光導波路14の間に位置する。リング共振器12は、リング状の光導波路で形成される。リングとは円形、楕円形、多角形、円弧と直線とを組み合わせた形状などである。リング共振器12の直径は例えば150μmである。リング共振器12は2つの曲線部18を有する。2つの曲線部18は互いに対向する。曲線部18はリング共振器12の外に向けて湾曲する。リング共振器12は、Y軸に関して線対称であり、X軸に関しても線対称である。
【0015】
光導波路14の平面形状は例えばL字型である。2つの光導波路14のうち1つを光導波路14a(第1光導波路)とし、もう1つを光導波路14b(第2光導波路)とする。光導波路14aおよび光導波路14bは互いに離間する。光導波路14aの端部15aは、X軸方向における基板10の1つの端部(基板10の第1端部)に位置する。光導波路14bの端部15cは、X軸方向における基板10のもう1つの端部(基板10の第2端部)に位置する。光導波路14aの端部15bおよび光導波路14bの端部15dは、Y軸方向における基板10の1つの端部に位置する。光導波路14aおよび光導波路14bはそれぞれ曲線部19を有する。曲線部19はリング共振器12の外に向けて湾曲する。光導波路14aの曲線部18と光導波路14bの曲線部18とは、Y軸に関して線対称である。
【0016】
リング共振器12の1つの曲線部18(第1曲線部)と、光導波路14aの曲線部19(第2曲線部)とは対向し、方向性結合器20(第1方向性結合器)を形成する。方向性結合器20において、リング共振器12と光導波路14aとは光学的に結合する。リング共振器12と光導波路14aとは互いに離間する。方向性結合器20において、リング共振器12と光導波路14aとの間の距離は最小になり、例えば200nmである。
【0017】
リング共振器12のもう1つの曲線部18(第1曲線部)と、光導波路14bの曲線部19(第2曲線部)とは対向し、方向性結合器22(第2方向性結合器)を形成する。方向性結合器22において、リング共振器12と光導波路14bとは光学的に結合する。リング共振器12と光導波路14bとは互いに離間する。方向性結合器22において、リング共振器12と光導波路14bとの間の距離は最小になり、例えば200nmである。
【0018】
図2Aは方向性結合器20の拡大図である。方向性結合器20において、リング共振器12の曲線部18と、光導波路14aの曲線部19とは同じ方向に延伸する。リング共振器12と光導波路14aとの間の距離gは例えば200nmである。図2A中の点線Dは円弧であり、曲線部18と曲線部19との中間の位置を表す。Pは点線Dの中心である。点線Dの曲率半径をRとする。Rは、曲線部18の曲率半径より大きく、曲線部19の曲率半径より小さい。方向性結合器20の中心角をθとする。方向性結合器20は方向性結合器22と同様の構成を有する。
【0019】
図2Bは角度θと曲率半径Rとの関係を例示する図である。横軸は角度を表す。縦軸は曲率半径Rを表す。角度θが小さいほど、曲率半径Rは大きくなる。角度θが大きいほど、曲率半径Rは小さくなる。曲率半径Rは例えば5μm以上、350μm以下である。角度θは例えば10°以上、60°以下である。
【0020】
図3A図1の線A-Aに沿った断面図である。図3B図1の線B-Bに沿った断面図である。図3Aおよび図3Bに示すように、基板10は、基板30、ボックス層32、およびシリコン(Si)層34を備える。基板30の1つの面にボックス層32が積層されている。ボックス層32の内部にSi層34が埋め込まれている。
【0021】
Si層34は、テラス40および導波路コア44を有する。テラス40は平面である。テラス40と導波路コア44との間には凹部42が設けられている。図3Aおよび図3Bに示すように、凹部42はSi層34を貫通してもよい。凹部42はSi層34を貫通しなくてもよい。導波路コア44は光導波路として機能する。テラス40の下面および上面、導波路コア44の下面および上面、テラス40と導波路コア44との間には、ボックス層32が充填される。
【0022】
基板30は例えばSiで形成されている。ボックス層32は例えば酸化シリコン(SiO)で形成されている。Si層34の厚さは例えば0.22μmである。導波路コア44の幅W1は例えば0.42μmである。ボックス層32の屈折率は約1.4である。Si層34の屈折率は約3.5であり、ボックス層32よりも高い。
【0023】
図3Aの導波路コア44はリング共振器12として機能する。テラス40、導波路コア44、テラス40が順番に並ぶ。ヒータ16はボックス層32の上面に設けられ、導波路コア44の上に位置する。ヒータ16は白金(Pt)などの金属で形成されている。ヒータ16の幅W2は例えば3μmである。ヒータ16の厚さは例えば200nmである。
【0024】
図3Bでは2つの導波路コア44が並ぶ。1つの導波路コア44(第1導波路コア)はリング共振器12である。もう1つの導波路コア44(第2導波路コア)は光導波路14である。2つの導波路コア44の間にはボックス層32が設けられ、テラス40は設けられていない。テラス40、1つの導波路コア44、もう1つの導波路コア44、テラス40が順番に並ぶ。ヒータ16は、2つの導波路コア44の上に位置する。
【0025】
例えば、光導波路14aの端部15aは入射ポートとして機能する。光導波路14bの端部15cは出射ポートとして機能する。光源から端部15aに光を入射する。光は光導波路14aを伝搬する。方向性結合器20において光導波路14aからリング共振器12へと光が乗り移る。光はリング共振器12を伝搬する。リング共振器12の共振波長の光が、方向性結合器22においてリング共振器12から光導波路14bに乗り移る。共振波長を有する光は、光導波路14bを伝搬し、端部15cから出射される。光フィルタ100から、共振波長を有する光を取り出すことができる。共振波長とは異なる波長を有する光は、光導波路14aを伝搬し、端部15bから出射される。
【0026】
電源17を用いてヒータ16に電圧を印加し、ヒータ16に電流を流すことができる。電流が流れると、ヒータ16は発熱する。ヒータ16からリング共振器12に熱が伝わることで、リング共振器12の温度が変化する。温度変化により、リング共振器12の屈折率が変化する。屈折率が変化することで、リング共振器12の共振波長が変化する。
【0027】
図4は光のスペクトルを例示する図である。横軸は光の波長を表す。縦軸は光の強度を表す。図4の実線はリング共振器12の温度がT1の例である。点線は温度がT2の例である。T2は例えばT1よりも25℃高い。共振波長において光の強度はピークを示す。隣り合う2つのピークの間隔(FSR)は数nmである。温度を変化させることで、ピークの波長がシフトする。FSR分の波長シフトを行う場合、ヒータ16の消費電力は例えば50mWである。
【0028】
図5は比較例に係る光フィルタ110を例示する平面図である。リング共振器12は矩形の形状を有する。光導波路14aはおよび光導波路14bは曲線部19を有さない。リング共振器12のうち直線状の部分と、光導波路14aとが方向性結合器20を形成する。方向性結合器20において、リング共振器12と光導波路14aとは平行である。リング共振器12のうち直線状の部分と、光導波路14bとが方向性結合器22を形成する。方向性結合器22において、リング共振器12と光導波路14bとは平行である。
【0029】
図6は方向性結合器の結合係数を例示する模式図である。横軸はリング共振器12の温度を表す。横軸のうち左は低温であり、右は高温である。縦軸は結合係数を表す。図6中の破線は比較例を表す。実線は実施形態を表す。比較例の結合係数は、温度が上昇するほど低下する。Q値が設計時の値から外れる。温度変化に応じて、スペクトルの形状が変化する。
【0030】
一方、実施形態の結合係数の変化は抑制される。例えば結合係数の設計値が50%とする。比較例では、数十℃から200℃程度の温度変化によって、結合係数が40%に低下する。実施形態の結合係数は50%±1%の範囲を維持する。
【0031】
本実施形態によれば、リング共振器12の曲線部18と、光導波路14aの曲線部19とは方向性結合器20を形成する。曲線部18と光導波路14bの曲線部19とは方向性結合器22を形成する。光導波路14とリング共振器12との間で光が乗り移る。リング共振器12の共振波長を有する光を取り出すことができる。図4に示すように、ヒータ16によりリング共振器12の温度を変化させることで、共振波長を変化させる。図6に示すように、曲線状の光導波路で形成される方向性結合器の結合係数は、直線状の光導波路で形成される方向性結合器の結合係数に比べて、温度変化しにくい。すなわち、結合係数の温度依存性が小さい。温度を変化させることで、共振波長を変化させ、かつ結合係数の変化は抑制することができる。
【0032】
結合係数の温度依存性が小さいため、温度を変化させてもQ値は設計通りの値に近い。スペクトルの形状の変化が抑制される。スペクトルの高さ、線幅などを所望の大きさを維持したまま、ピークの波長が変化する。
【0033】
図5に示す比較例において、ヒータ16を方向性結合器20および方向性結合器22の上に設けないことで、結合係数の変化が抑制される。しかし、リング共振器12のうちヒータ16に覆われる部分が短くなる。ヒータ16から熱の伝わる部分が小さくなるため、温度変化しにくくなる。温度を変化させるには、ヒータ16に入力する電力を大きくする。消費電力が増加する。発生する熱が増加し、ヒータ16などが破損する恐れがある。
【0034】
本実施形態によれば、ヒータ16は、リング共振器12の上に設けられており、リング共振器12のうち方向性結合器を形成する部分、および方向性結合器以外の部分を覆う。例えば、ヒータ16は、リング共振器12の2つの曲線部18を覆い、リング共振器12のうち図1の上半分を覆い、下半分のうち一部を覆う。リング共振器12のうち、ヒータ16に覆われる部分が長くなる。ヒータ16から熱の伝わる部分が大きくなる。このため、リング共振器12の温度が変化しやすくなり、消費電力の増加を抑制することができる。熱によるヒータ16などの破損が抑制される。
【0035】
リング共振器12のうち、ヒータ16に覆われる部分が長いほど、ヒータ16から熱の伝わる部分が大きくなる。リング共振器12の長さ(周長)のうちヒータ16に覆われる部分の長さが占める割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、および90%以上でもよい。
【0036】
図2Aに示すように、リング共振器12の曲線部18および光導波路14の曲線部19は、同じ方向に湾曲する。曲線部18および曲線部19は、リング共振器12の外に向けて湾曲する。曲線部18と曲線部19とが方向性結合器20および22を形成する。リング共振器12と光導波路14との間で、光が乗り移ることができる。方向性結合器の結合係数の目標値は50%でもよいし、50%以下でもよいし、50%以上でもよい。結合係数の目標値に応じて、距離g、幅W1、方向性結合器の長さなどを調整する。
【0037】
曲線部18および曲線部19は、円弧、楕円弧などでもよい。曲線部18および曲線部19は、リング共振器12の外に向けて凸の形状でもよいし、内に向けて凸の形状でもよい。
【0038】
曲線部18および曲線部19の曲率半径は、例えば350μm以下、5μm以上である。曲率半径が小さい場合、曲線部18および曲線部19の形状が直線に近づく。結合係数の温度依存性が大きくなる。曲率半径が大きい場合、曲線部18および曲線部19の形状は直線から離れ、曲線になる。結合係数の温度依存性が小さくなる。曲率半径は、導波路の材料などに応じて適切な大きさとする。
【0039】
方向性結合器において、リング共振器12と光導波路14との距離は最小になる。距離の最小値gは例えば200nmである。方向性結合器以外の部分では、リング共振器12と光導波路14との距離は大きくなる。光導波路14aは、方向性結合器20においてリング共振器12の曲線部18に沿って湾曲する。光導波路14aは、方向性結合器20から離れると、リング共振器12から遠ざかるように湾曲する。光導波路14bも同様の形状を有する。光は方向性結合器において乗り移りやすく、方向性結合器以外の部分では乗り移りにくい。光の波長および強度を所望の大きさとすることができる。
【0040】
基板10はSOI基板であり、Si層34を有する。Si層34は導波路コア44を有する。リング状の導波路コア44がリング共振器12となる。別の導波路コア44は光導波路14となる。図3Bに示すように、2つの導波路コア44が隣接することで、方向性結合器が形成される。導波路コア44の間で光が乗り移る。リング共振器12および光導波路14はSiで形成される。Si層34の屈折率はボックス層32の屈折率よりも高い。リング共振器12および光導波路14に光を強く閉じ込め、損失を抑制することができる。
【0041】
光フィルタ100は2つの光導波路14を有する。2つの光導波路14の曲線部19が、リング共振器12の曲線部18と方向性結合器を形成する。1つの光導波路14aからリング共振器12に光が乗り移る。リング共振器12からもう1つの光導波路14bに光が乗り移る。リング共振器12の共振波長を有する光を取り出すことができる。光導波路14の個数は1つでもよいし、3つ以上でもよい。光導波路14のそれぞれが曲線部19を有し、リング共振器12の曲線部18と方向性結合器を形成する。
【0042】
方向性結合器20と方向性結合器22とはX軸方向において対向する。X軸に関して、リング共振器12は線対称である。リング共振器12を回る方向(例えば右回り方向)において、方向性結合器20から方向性結合器22までのリング共振器12の長さは、方向性結合器22から方向性結合器20までの長さに等しい。つまり、2つの方向性結合器がリング共振器12を2等分する。方向性結合器20と方向性結合器22との間において、光路長が同一に近づく。光の位相にずれが生じにくい。光の強度が低下しにくい。方向性結合器20と方向性結合器22とは、Y軸に関して線対称でもよい。光の位相にずれが生じにくい。方向性結合器20から方向性結合器22までのリング共振器12の長さは、方向性結合器22から方向性結合器20までの長さと厳密に等しくてもよい。長さの差は、例えば5%以下、1%以下でもよい。
【0043】
以上、本開示の実施形態について詳述したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
10、30 基板
12 リング共振器
14、14a、14b 光導波路
15a、15b、15c、15d 端部
16 ヒータ
17 電源
20、22 方向性結合器
32 ボックス層
34 シリコン層
40 テラス
42 凹部
44 導波路コア
100、110 光フィルタ

図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6