(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179213
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】液体供給機構およびそれを備えるインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20241219BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241219BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B41J2/175 501
B41J2/175 503
B41J2/18
B41J2/165 303
B41J2/165 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097876
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】乾 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】川又 脩平
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EC54
2C056FA13
2C056JA01
2C056JB02
2C056JB04
2C056JB15
2C056JC23
2C056KB09
2C056KB16
2C056KB24
(57)【要約】
【課題】吐出部材から吐出される液体の水圧を均一化できる液体供給機構及びそれを備えるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】液体供給機構は、液体を収容するタンクと、一端がタンクに接続されて液体が流通する供給路と、供給路上に配置されて液体を吐出する吐出部材と、を備える。吐出部材は、フィルタと、逆止弁と、吐出路と、を有する。フィルタは、通過する液体に対して所定の流路抵抗を有する。逆止弁は、通過する液体に対して所定の開放圧で開放される。吐出路は、逆止弁が開放されたときに液体が流通するとともに、先端部に形成された吐出口から液体を吐出する。フィルタの流路抵抗による減圧値が、前記逆止弁の開放圧よりも大きい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容するタンクと、
一端が前記タンクに接続されて液体が流通する供給路と、
前記供給路上に配置されて液体を吐出する吐出部材と、を備え、
前記吐出部材は、
通過する液体に対して所定の流路抵抗を有するフィルタと、
通過する液体に対して所定の開放圧で開放される逆止弁と、
前記逆止弁が開放されたときに液体が流通するとともに、先端部に形成された吐出口から液体を吐出する吐出路と、を有し、
前記フィルタの流路抵抗による減圧値が、前記逆止弁の開放圧よりも大きい、液体供給機構。
【請求項2】
前記フィルタの流路抵抗による減圧値が、前記逆止弁の開放圧よりも3倍以上大きい、請求項1に記載の液体供給機構。
【請求項3】
前記逆止弁の開放圧は、前記吐出部材の下流から前記タンクに到るまでの前記供給路における流路抵抗による減圧値よりも大きく、
前記フィルタの流路抵抗による減圧値と前記逆止弁の開放圧とを含む前記吐出路における前記吐出口に到るまでの流路抵抗の和は、前記吐出部材の下流から前記タンクに到るまでの前記供給路における流路抵抗よりも2倍以上大きい、請求項1又は請求項2に記載の液体供給機構。
【請求項4】
前記供給路は、複数分岐し、
前記吐出部材は、分岐された前記供給路上にそれぞれ配置される、請求項1又は請求項2に記載の液体供給機構。
【請求項5】
前記吐出部材の下流側に前記液体の流路を開閉可能な開閉弁をさらに備える、請求項4に記載の液体供給機構。
【請求項6】
複数分岐した前記供給路は、前記吐出部材の下流側の合流部で合流するとともに、
前記開閉弁は、前記供給路の前記合流部の下流側に配置される、請求項5に記載の液体供給機構。
【請求項7】
前記供給路の両端は、前記液体を循環させるポンプに接続されている、請求項6に記載の液体供給機構。
【請求項8】
請求項1に記載の液体供給機構を備えるインクジェット記録装置であって、
インクが吐出されるインク吐出口を有するインク吐出面を備える記録ヘッドと、
前記インク吐出面に接触して予め定められたワイピング方向に移動することにより前記インク吐出面をワイピングするワイパー部材と、
前記ワイパー部材による前記インク吐出面に前記液体としてワイピングに用いる洗浄液を供給する前記吐出口を有する洗浄液供給面を備え、前記インク吐出面よりも前記ワイピング方向の上流側に設けられた洗浄液供給部と、
前記洗浄液を収容する前記タンクと、
前記タンクからの洗浄液を前記洗浄液供給部に案内するための前記供給路と、
前記供給路において洗浄液を移動させて前記吐出口から洗浄液を押し出す動力を付与する駆動部と、
前記洗浄液を用いて前記ワイパー部材によって前記インク吐出面をワイピングするクリーニング動作の制御を行う制御部と、を備え、
前記供給路は、分岐して複数の分岐供給路が形成され、
前記吐出部材は、前記分岐供給路上にそれぞれ配置される、インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体供給機構及びそれを備えるインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の液体供給機構は、液体を収容するタンクと、一端がタンクに接続されて液体が流通する供給路(チューブ)と、供給路から供給された液体を吐出する吐出部材(ヘッド)と、逆止弁と、を備える。逆止弁は、供給路内に蓄積された気泡に対して所定の開放圧で開放される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された液体供給機構は、供給路を複数分岐させた場合に、分岐した各供給路を流通する液体の水圧が変化する。このため、分岐した供給路ごとに吐出部材が配置された場合に、吐出部材から吐出される液体の水圧にばらつきが生じる問題があった。
【0005】
本発明は、吐出部材から吐出される液体の水圧を均一化できる液体供給機構及びそれを備えるインクジェット記録装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、液体を収容するタンクと、一端がタンクに接続されて液体が流通する供給路と、供給路上に配置されて液体を吐出する吐出部材と、を備える液体供給機構である。吐出部材は、フィルタと、逆止弁と、吐出路と、を有する。フィルタは、通過する液体に対して所定の流路抵抗を有する。逆止弁は、通過する液体に対して所定の開放圧で開放される。吐出路は、逆止弁が開放されたときに液体が流通するとともに、先端部に形成された吐出口から液体を吐出する。フィルタの流路抵抗による減圧値が、前記逆止弁の開放圧よりも大きい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1の構成によれば、吐出部材から吐出される液体の水圧を均一化できる液体供給機構及びそれを備えるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置としてのプリンターの概略の構成を示す説明図
【
図2】本実施形態のプリンターが備える記録部の平面図
【
図3】記録部のラインヘッドを構成する記録ヘッドの側面図
【
図6】液体供給機構の吐出部材の周辺を示す縦断面図
【
図7】クリーニング液供給部材を斜め下方から見た斜視図
【
図8】ワイパーを記録ヘッドの下方に配置した状態を示す側面図
【
図9】
図8の状態からワイパーを上昇させてクリーニング液供給部材に圧接させた状態を示す側面図
【
図10】
図9の状態からワイパーをクリーニング液供給部材に圧接させた状態で矢印A方向に移動させた状態を示す側面図
【
図11】
図10の状態からワイパーをさらに矢印A方向に移動させた状態を示す側面図
【
図12】
図11の状態からワイパーをさらに矢印A方向に移動させた後、ワイパーを下降させてインク吐出面から離間させた状態を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔1.インクジェット記録装置の構成〕
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置としてのプリンター100の概略の構成を示す説明図である。プリンター100は、用紙収容部である給紙カセット2を備えている。給紙カセット2は、プリンター本体1の内部下方に配置されている。給紙カセット2の内部には、記録媒体の一例である用紙Pが収容されている。
【0010】
給紙カセット2の用紙搬送方向下流側、すなわち
図1における給紙カセット2の右側の上方には給紙装置3が配置されている。この給紙装置3により、用紙Pは
図1において給紙カセット2の右上方に向け、1枚ずつ分離されて送り出される。
【0011】
プリンター100は、その内部に第1用紙搬送路4aを備えている。第1用紙搬送路4aは、給紙カセット2に対してその給紙方向である右上方に位置する。給紙カセット2から送り出された用紙Pは、第1用紙搬送路4aにより、プリンター本体1の側面に沿って垂直上方に搬送される。
【0012】
用紙搬送方向において第1用紙搬送路4aの下流端には、レジストローラー対13が設けられている。さらに、レジストローラー対13の用紙搬送方向下流側直近には、第1搬送ユニット5および記録部9が配置されている。給紙カセット2から送り出された用紙Pは、第1用紙搬送路4aを通ってレジストローラー対13に到達する。レジストローラー対13は、用紙Pの斜め送りを矯正しつつ、記録部9が実行するインク吐出動作とのタイミングを計り、第1搬送ユニット5(特に後述する搬送ベルト8)に向かって用紙Pを送り出す。
【0013】
レジストローラー対13によって第1搬送ユニット5に送り出された用紙Pは、搬送ベルト8によって記録部9(特に後述する記録ヘッド17a~17c)との対向位置に搬送される。記録部9から用紙Pにインクが吐出されることにより、用紙P上に画像が記録される。このとき、記録部9におけるインクの吐出は、プリンター100の内部の制御装置110によって制御される。
【0014】
用紙搬送方向において、第1搬送ユニット5の下流側(
図1の左側)には、第2搬送ユニット12が配置されている。記録部9によって画像が記録された用紙Pは、第2搬送ユニット12へ送られる。用紙Pの表面に吐出されたインクは、第2搬送ユニット12を通過する間に乾燥される。
【0015】
用紙搬送方向において、第2搬送ユニット12の下流側であってプリンター本体1の左側面近傍には、デカーラー部14が設けられている。第2搬送ユニット12によってインクが乾燥された用紙Pは、デカーラー部14へ送られて、用紙Pに生じたカールが矯正される。
【0016】
用紙搬送方向において、デカーラー部14の下流側(
図1の上方)には、第2用紙搬送路4bが設けられている。デカーラー部14を通過した用紙Pは、両面記録を行わない場合、第2用紙搬送路4bを通り、プリンター100の左側面外部に設けられた用紙排出トレイ15に排出される。
【0017】
プリンター本体1の上部であって記録部9および第2搬送ユニット12の上方には、両面記録を行うための反転搬送路16が設けられている。両面記録を行う場合、用紙Pの一方の面(第1面)への記録が終了して第2搬送ユニット12およびデカーラー部14を通過した用紙Pは、第2用紙搬送路4bを通って反転搬送路16へ送られる。
【0018】
反転搬送路16へ送られた用紙Pは、用紙Pの他方の面(第2面)への記録のために搬送方向が切り替えられる。そして、用紙Pは、プリンター本体1の上部を通過して右側に向かって送られ、レジストローラー対13を経て第2面を上向きにした状態で再び第1搬送ユニット5へ送られる。第1搬送ユニット5では、記録部9との対向位置に用紙Pが搬送され、記録部9からのインク吐出によって第2面に画像が記録される。両面記録後の用紙Pは、第2搬送ユニット12、デカーラー部14、第2用紙搬送路4bを順に通過して用紙排出トレイ15に排出される。
【0019】
また、第2搬送ユニット12の下方には、メンテナンスユニット19およびキャップユニット20が配置されている。メンテナンスユニット19は、パージを実行する際に記録部9の下方に水平移動し、記録ヘッド17a~17cのノズル18a(
図2参照)から押出されたインクを拭き取り、拭き取られたインクを回収する。なお、パージとは、ノズル18a内の増粘インク、異物、気泡等を排出するために、記録ヘッド17a~17cのノズル18aからインクを強制的に押し出す動作を言う。
【0020】
キャップユニット20は、記録ヘッド17a~17cのインク吐出面をキャッピングする際に記録部9の下方に水平移動し、さらに上方に移動して記録ヘッド17a~17cの下面に装着される。
【0021】
図2は、プリンター100の記録部9を上方から見た図である。記録部9は、ヘッドハウジング10と、ヘッドハウジング10に保持されたラインヘッド11C、11M、11Y、および11Kを備えている。これらのラインヘッド11C~11Kは、搬送ベルト8の搬送面に対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、
図1に示すように、用紙搬送方向(矢印X方向)と直交する用紙幅方向(
図1の上下方向)に沿って複数(ここでは3個)の記録ヘッド17a~17cが千鳥状に配列されている。なお、各色の3つの記録ヘッド17a~17cは同一形状、同一構成であるので、以下の説明において、識別記号(a、b、c)の記載を省略する。
【0022】
図3は、記録部9のラインヘッド11C~11Kを構成する記録ヘッド17の側面図、
図4は、記録ヘッド17をインク吐出面F1側から見た平面図である。
【0023】
図3および
図4に示すように、記録ヘッド17のヘッド部18のインク吐出面(ノズル面)F1には、ノズル18a(
図2参照)が多数配列された複数(ここでは4ブロック)のノズル領域Ra~Rdが設けられている。ヘッド部18の少なくともインク吐出面F1は、例えばSUS(ステンレス鋼)によって形成されている。インク吐出面F1は、フッ素系、シリコン系の撥水剤を塗布することにより撥水加工が施されている。
【0024】
各ラインヘッド11C~11Kを構成する記録ヘッド17には、それぞれインクタンク(図示せず)に貯留されている4色(シアン、マゼンタ、イエローおよびブラック)のインクがラインヘッド11C~11Kの色毎に供給される。
【0025】
各記録ヘッド17は、制御部110(
図1参照)からの制御信号により外部コンピューターから受信した画像データに応じて、搬送ベルト8の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Pに向かってノズル18aからインクを吐出する。これにより、搬送ベルト8上の用紙Pにはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが重ね合わされたカラー画像が形成される。また、記録ヘッド17には、インクジェット記録ヘッド用クリーニング液(以下、単にクリーニング液という)を供給するクリーニング液供給部材60が設けられている。
【0026】
図5は、液体供給機構200を示す説明図である。液体供給機構200は、クリーニング液(液体)を収容するタンク98と、一端がタンク98に接続されてクリーニング液が流通するチューブから成る供給路90と、供給路90上に配置されてクリーニング液を吐出する吐出部材71a~71cと、ポンプ(不図示)と、を備える。吐出部材71a~71cは、クリーニング液供給部材60に接続されている。
【0027】
本実施形態では、供給路90は、一端に供給接続部97を有し、他端に排出接続部96を有する。供給接続部97は、ポンプ(不図示)の出力側と接続される。ポンプの入力側はタンク98に接続される。ポンプは、供給路90において洗浄液を移動させてクリーニング液供給口60aから洗浄液を押し出す動力を付与する。すなわち、供給路90の両端は、クリーニング液(液体)を循環させるポンプにタンク98を介して接続されている。本実施形態では、ポンプは、液流路毎に1つ、すなわち、色毎に1つ設けられている。なお、ポンプは、特許請求の範囲における駆動部の一例となる。
【0028】
また、本実施形態では、供給接続部97から、同色の3個の記録ヘッド17a、17b、17cにおける各吐出部材71a~71cまでの各流路長は異なる。具体的には、供給接続部97から延びる供給路90は、分岐部92aにおいて分岐する。分岐部92aで分岐した一方の供給路90は、吐出部材71aに接続される。また、分岐部92aで分岐した他方の供給路90は、分岐部92bにおいて再び分岐する。分岐部92bで分岐した一方の供給路90は、吐出部材71bに接続される。また、分岐部92bで分岐した他方の供給路90は、吐出部材71cに接続される。
【0029】
また、吐出部材71a~71cを通過した供給路90は、分岐部92cで合流して排出接続部96に接続される。本実施形態では、排出接続部96は、開閉弁(不図示)に接続され、供給路90を流通するクリーニング液を止水又は流通させることができる。すなわち、吐出部材71a~71cの下流側に液体の流路90を開閉可能な開閉弁をさらに備える。また、本実施形態では、複数分岐した供給路90は、吐出部材の下流側の分岐部(合流部)92cで合流するとともに、開閉弁(不図示)は、供給路90の分岐部(合流部)92cの下流側に配置される。給路90の分岐部(合流部)92cの下流側に開閉弁を配置することにより、一つの開閉弁の制御により、吐出部材71a~71cから吐出されるクリーニング液の水圧を均一化できるため、プリンター100の製造コストを削減できる。なお、開閉弁は、吐出部材71a~71cの下流側であって分岐部(合流部)92cの上流側にそれぞれ設けられてもよい。
【0030】
本実施形態では、供給路90が複数回分岐しているとともに、ポンプ(不図示)から各吐出部材71a~71cまでの各流路長が異なるため、各吐出部材71a~71cにおけるクリーニング液の水圧が異なる。このため、吐出部材71a~71cから吐出されるクリーニング液の水圧にばらつきが生じる可能性があった。これに対して、吐出部材71a~71cを以下の構成にして各吐出部材71a~71cにおけるクリーニング液の押し出し量を均一にした。
【0031】
図6は、吐出部材71aの周辺を示す側面断面図である。なお、以下の説明では吐出部材71aを例示するが、吐出部材71b、71cの構成についても基本的に同様であるため説明を省略する。
【0032】
吐出部材71aは、キャップ80と、フィルタ99と、円筒部72と、付勢バネ74と、逆止弁73と、を備える。円筒部72上部の内径は、円筒部72下部の内径よりも大きい。付勢バネ74及び逆止弁73は、円筒部72の上部に配置される。逆止弁73は、円筒部72上部の内径よりも小さい径を有する球状の部材である。
【0033】
付勢バネ74は、円筒部72上部の内径よりも小さく、円筒部72下部の内径よりも大きい。また、付勢バネ74は、円筒部72の内周面に形成される段差部72aと逆止弁73との間に配置される。
【0034】
キャップ80は、円筒部72の外側に装着される。キャップ80は、円筒部72と同軸上に配置される大径円筒部81と、小径円筒部82と、連設部83と、を有する。大径円筒部81の内周面には、Oリング76を介して円筒部72が配置される。小径円筒部82の上端面は閉蓋されており、小径円筒部82の上部は、供給路90に連通する。連設部83は、大径円筒部81の上端と小径円筒部82の下端とを連設して環状に形成される。連設部83は、上側に向かうに従って内径が小さくなる。連設部83の内周面にはOリング75が配置されている。
【0035】
キャップ80は、板状の保持部材78で覆われ、保持部材78の両側はネジ79を介してクリーニング液供給部材60に固定されている。
【0036】
キャップ80の小径円筒部82及び円筒部72の内部が、供給路90と連通して吐出路95を形成する。供給路90を流通するクリーニング液は、吐出路95を通って、円筒部72の下端部に形成される吐出口72bへ供給される。
【0037】
フィルタ99は、吐出路95内において、供給路90と逆止弁73との間に配置され、クリーニング液に対して所定の流路抵抗を有する。これにより、供給路90と通って吐出路95内に流入したクリーニング液の水圧はフィルタ99を通過する際に減圧され、再び吐出部材71の下流側を流通する。
【0038】
逆止弁73は、付勢バネ74で供給路90に近づく方向に付勢されて、Oリング75を介して連設部83に当接している。これにより、供給路90側の吐出路95が逆止弁73で閉止される。このとき、フィルタ99により減圧されたクリーニング液の水圧が所定の開放圧を超えた時に、付勢バネ74の押圧力に抗して逆止弁73がOリング75から離れる。これにより、逆止弁73が開放されて吐出路95を通って、クリーニング液が吐出口72bから吐出される。
【0039】
このとき、フィルタ99の流路抵抗による減圧値が、逆止弁73の開放圧よりも大きい。各吐出部材71a~71cを通過するクリーニング液(液体)は、フィルタ99によって水圧が所定値以下に減圧される。これにより、分岐した各供給路90を流通するクリーニング液の水圧が、各吐出部材71a~71cにおいて異なる場合でもフィルタ99により水圧が減圧されて逆止弁73が開放されない。一方、開閉弁(不図示)を閉じた時に、分岐した各供給路90を流通するクリーニング液の水圧が上昇する。クリーニング液の水圧が所定値に達したときに、逆止弁73が開放され、各吐出口72bからクリーニング液が吐出される。
【0040】
これにより、水圧まで各吐出部材71a~71cの水圧が所定値以上まで上昇するまでは、各吐出部材71a~71cを通過するクリーニング液の水圧が均一化される。従って、逆止弁73が開放されて各吐出部材71a~71cから吐出されるクリーニング液の水圧を均一化できる。これにより、各吐出部材71a~71cにおけるクリーニング液の押し出し量を均一にできる。また、各吐出部材71a~71cに逆止弁73を設けることにより、水頭差により各吐出部材71a~71cからクリーニング液が流出することを防止できる。また、吐出口72bから供給路90に気泡が咬み込むことを防止できる。
【0041】
なお、フィルタ99の流路抵抗による減圧値が、逆止弁73の開放圧よりも3倍以上大きいことがより好ましい。これにより、各吐出部材71a~71cを通過するクリーニング液(液体)は、フィルタ99によって水圧が所定値以下により減圧される。従って、各吐出部材71a~71cにおけるクリーニング液の押し出し量をより均一にできる。
【0042】
また、吐出部材71aの逆止弁73の開放圧を、吐出部材71aの下流からタンク98に到るまでの供給路90における流路抵抗による減圧値よりも大きく設定することが好ましい。また、フィルタ99の流路抵抗による減圧値と逆止弁73の開放圧とを含む吐出路95における吐出口72bに到るまでの流路抵抗の和は、吐出部材71aの下流からタンク98に到るまでの各供給路90における流路抵抗よりも2倍以上大きく設定することが好ましい。これにより、逆止弁73が開放されて吐出部材71aから吐出される水圧をより均一化できる。
【0043】
同様にして、吐出部材71bの逆止弁73の開放圧を、吐出部材71bの下流からタンク98に到るまでの供給路90における流路抵抗による減圧値よりも大きく設定し、フィルタ99の流路抵抗による減圧値と逆止弁73の開放圧とを含む吐出路95における吐出口72bに到るまでの流路抵抗の和は、吐出部材71bの下流からタンク98に到るまでの各供給路90における流路抵抗よりも2倍以上大きい。
【0044】
また、吐出部材71cの逆止弁73の開放圧を、吐出部材71cの下流からタンク98に到るまでの供給路90における流路抵抗による減圧値よりも大きく設定しフィルタ99の流路抵抗による減圧値と逆止弁73の開放圧とを含む吐出路95における吐出口72bに到るまでの流路抵抗の和は、吐出部材71cの下流からタンク98に到るまでの各供給路90における流路抵抗よりも2倍以上大きい。
【0045】
図7に示すように、クリーニング液供給部材60のクリーニング液供給面F2に対してワイピング方向(矢印A方向)上流側(
図7の右側)の部分には、傾斜面62が形成されている。クリーニング液供給面F2のワイピング方向下流側(
図7の左側)の部分は、薄板状に形成されており、ヘッド部18のインク吐出面F1の端部に重なるように配置されている。
【0046】
クリーニング液供給部材60のクリーニング液供給面F2には、クリーニング液供給口60aが配置されている。クリーニング液供給口60aは、吐出口72bと連通している。クリーニング液供給口60aは、ワイピング方向(矢印A方向)およびワイピング方向と直交するヘッド幅方向(矢印BB′方向)に所定のピッチで千鳥状に複数配置してもよい。そのように配置することで、ヘッド幅方向に亘ってクリーニング液を供給することができる。
【0047】
〔2.記録ヘッドの回復動作〕
次に、プリンター100における記録ヘッド17の回復動作について説明する。プリンター100では、記録ヘッド17のインク吐出面F1を清浄にするために、長期間停止後の印刷開始時および印刷動作の合間には、全ての記録ヘッド17の回復動作を実行し、次の印刷動作に備える。
【0048】
記録ヘッド17の回復動作を行う場合、記録部9の下面に対向配置されている第1ベルト搬送部5を下降させる。そして、ユニット移動機構(図示せず)によりメンテナンスユニット19を待避位置(
図1参照)から記録部9の下方に移動させる。
【0049】
(インク押出動作)
ワイピング動作(後述の拭き取り動作)に先立って、制御部110(
図1参照)からの制御信号によってインクが記録ヘッド17に供給される。
図8に示すように、供給されたインクはノズル18aからパージインク22として強制的に押出(パージ)される。このパージ動作により、ノズル18a内の増粘インク、異物や気泡が排出され、記録ヘッド17を回復することができる。
【0050】
(クリーニング液供給動作)
また、ワイピング動作に先立って、制御部110からの制御信号によってクリーニング液が記録ヘッド17に供給される。
図8に示すように、供給されたクリーニング液23はクリーニング液供給口60aからクリーニング液供給面F2に所定量だけ供給される。
【0051】
(拭き取り動作)
図9に示すように、ユニット昇降機構(図示せず)によりメンテナンスユニット19を上昇させることによって、ワイパー35を、記録ヘッド17のクリーニング液供給部材60の傾斜面62に所定の圧力で接触させる。
【0052】
ワイパー35は、各記録ヘッド17のノズル18aから押出されたパージインク22およびクリーニング液供給口60aから供給されたクリーニング液23を拭き取るための弾性部材(例えばEPDMからなるゴム製の部材)である。ワイパー35は、クリーニング液供給部材60のワイピング方向上流側の部分(ここでは傾斜面62)に圧接され、キャリッジ(図示せず)の移動によりクリーニング液供給面F2およびインク吐出面F1を所定方向(矢印A方向)にワイピングする。
【0053】
ワイパー35の先端がクリーニング液供給部材60の傾斜面62に圧接した状態から、ワイパー35をクリーニング液供給面F2に沿ってノズル領域R1の方向(矢印A方向)に移動させる。これにより、ワイパー35は、
図10に示すようにクリーニング液23を拭き取った後、クリーニング液23を保持した状態でノズル領域Ra~Rdの方向に移動する。
【0054】
そして、
図11に示すように、ワイパー35は、クリーニング液23およびパージインク22を保持した状態を維持しながらインク吐出面F1を左方向(矢印A方向)に移動する。このとき、クリーニング液23およびパージインク22によって、インク吐出面F1に付着して固化したインク滴が膨潤、溶解し、ワイパー35によって拭き取られる。そして、ワイパー35は、さらに左方向(矢印A方向)に移動し、ノズル領域R1に対してクリーニング液供給部材60とは反対側の端部に到達すると、左方向への移動が停止される。ワイパー35によって拭き取られたクリーニング液23およびパージインク22は、メンテナンスユニット19に設けられた廃インク回収トレイ(不図示)に回収される。
【0055】
(離間動作)
拭き取り動作の実行後、
図12に示すように、ワイパー35を下降させてインク吐出面F1から離間させる。その後、記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて第2搬送ユニット12の下方の待避位置に移動させ、第1搬送ユニット5を所定の位置まで上昇させる。このようにして、記録ヘッド17の回復動作を終了する。
【0056】
上記のように、クリーニング液供給口60aからクリーニング液23を供給した後、ワイパー35をクリーニング液供給口60aよりもワイピング方向上流側からインク吐出面F1に沿って移動させることによって、ワイパー35でクリーニング液23を保持しながらインク吐出面F1を拭くことができる。
【0057】
これにより、インク吐出面F1に付着して固化したインク滴をクリーニング液23により膨潤させて拭き取ることができ、インク吐出面F1を容易に且つ確実にクリーニングすることができる。また、クリーニング液23によってインク吐出面F1とワイパー35との間の潤滑性が向上するため、ワイパー35との摩擦によるインク吐出面F1の撥水膜の剥がれも効果的に抑制することができる。
【0058】
さらに、クリーニング液23をパージインク22と共にワイパー35で拭き取ることで、拭き取り後のインク吐出面F1にクリーニング液を残存させることができる。これにより、長期間に亘ってインクの直進性の悪化(飛翔曲がり)や不吐出等の発生を抑制して画像品質を維持するとともに、インク吐出面F1に付着したインク滴やミストの乾燥を抑制することができる。
【0059】
(クリーニング液塗布動作)
上述した記録ヘッドの回復動作に、インク吐出面F1へのクリーニング液23の塗布動作を加えてもよい。具体的には、拭き取り動作の後、再びクリーニング液23をクリーニング液供給口60aからクリーニング液供給面F2に所定量だけ供給する。そして、ワイパー35をワイピング方向上流側に移動させて傾斜面62に圧接し、クリーニング液供給面F2に沿って矢印A方向に移動させて、ワイパー35にクリーニング液23を保持させる。この状態で、ワイパー35をインク吐出面F1に沿って矢印A方向に移動させる。これにより、インク吐出面F1にクリーニング液23が均一に塗布される。クリーニング液23の塗布動作の終了後、ワイパー35を下降させてインク吐出面F1から離間させる。
【0060】
パージインク22をクリーニング液23と共に拭き取っただけでは、インク成分を含むクリーニング液23がインク吐出面F1に残存することとなる。そこで、クリーニング液23の塗布動作を行うことで、インク吐出面F1にクリーニング液23のみを塗布することができる。これにより、インク吐出面F1の乾燥を抑制し、さらにクリーニング液23の塗布後にインク吐出面F1に付着したインク滴やミストの乾燥および固化を効果的に抑制することができる。
【0061】
その他本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。以下、実施例により本発明の効果について更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、記録媒体に水性インクを吐出するノズルを有するインクジェット記録装置に利用可能である。本発明の利用により、記録ヘッドのノズル面に付着して固化したインクを剥離、溶解してインクの吐出不良を改善するインクジェット記録装置および記録ヘッドの清掃方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 プリンター本体
2 給紙カセット
3 給紙装置
4a 第1用紙搬送路
4b 第2用紙搬送路
8 搬送ベルト
9 記録部
10 ヘッドハウジング
11C~11K ラインヘッド
12 第2搬送ユニット
13 レジストローラー対
14 デカーラー部
15 用紙排出トレイ
16 反転搬送路
17 記録ヘッド
17a~17c 記録ヘッド
18 ヘッド部
18a ノズル
19 メンテナンスユニット
20 キャップユニット
22 パージインク
23 クリーニング液
35 ワイパー
60 クリーニング液供給部材
60a クリーニング液供給口
62 傾斜面
71a~71c 吐出部材
72 円筒部
72a 段差部
72b 吐出口
73 逆止弁
74 付勢バネ
75 Oリング
76 Oリング
78 保持部材
79 ネジ
80 キャップ
81 大径円筒部
82 小径円筒部
83 連設部
90 供給路
92a~92c 分岐部
95 吐出路
96 排出接続部
97 供給接続部
98 タンク
99 フィルタ
100 プリンター
110 制御装置
110 制御部
200 液体供給機構
A 矢印
BB 矢印
F1 インク吐出面
F2 クリーニング液供給面
P 用紙
R1 ノズル領域
Ra~Rd ノズル領域
X 矢印