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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179218
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】品質管理システム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/00 20060101AFI20241219BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20241219BHJP
   B21B 38/04 20060101ALI20241219BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20241219BHJP
   B21B 38/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B21B37/00 300
B21B37/00 241
B21C51/00 K
B21C51/00 J
B21C51/00 L
B21C51/00 P
B21B38/04 A
B21B38/04 B
B21B38/04 Z
B21B38/00 F
B21B38/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097887
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】朴 ミンソク
(72)【発明者】
【氏名】鹿山 昌宏
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA03
4E124AA07
4E124AA08
4E124BB02
4E124EE01
4E124EE15
4E124FF01
(57)【要約】
【課題】圧延材の長手方向に対して複数の品質項目を統合して管理できる圧延材の品質管理システムを提供する。
【解決手段】熱間圧延された圧延材の品質を管理する品質管理システムであって、圧延材の計測品質データと制御データと圧延材の基本情報とを取得する圧延材データ取得部と、記計測品質データを圧延材の長手方向の位置毎の計測品質データに変換する計測品質変換部と、制御データから長手方向の位置毎の計算品質データを求める計算品質算出部と、計測品質データと計算品質データを統合して長手方向の位置をキーとして圧延材毎に品質情報を、品質情報保存部に保存する品質情報統合部と、品質情報保存部に保存された品質情報と品質基準保存部に保存している品質に関する基準である品質基準に基づいて圧延材の長手方向の位置毎に品質等級を評価する品質等級評価部と、品質等級の評価結果を表示する品質管理入出力部と、を備える。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延された圧延材の品質を管理する品質管理システムであって、
熱間圧延ラインに備えられたセンサから検出した圧延材の計測品質データと、前記熱間圧延ラインの動作情報からなる制御データと、前記圧延材の基本情報とを取得する圧延材データ取得部と、
前記計測品質データを前記圧延材の長手方向の位置毎の計測品質データに変換する計測品質変換部と、
前記制御データから長手方向の位置毎の計算品質データを求める計算品質算出部と、
前記計測品質データと前記計算品質データを統合して長手方向の位置をキーとして前記圧延材毎に品質情報を、品質情報保存部に保存する品質情報統合部と、
前記品質情報保存部に保存された品質情報と品質基準保存部に保存している品質に関する基準である品質基準に基づいて圧延材の長手方向の位置毎に品質等級を評価する品質等級評価部と、
前記品質等級の評価結果を表示部に表示する品質保証入出力部と、を備える
ことを特徴とする品質管理システム。
【請求項2】
前記計測品質データは、圧延材の幅、厚み、クラウン、ウェッジ、巻きズレの少なくても1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の品質管理システム。
【請求項3】
前記計算品質データは、圧延材の降伏強度、引張強度、伸びの少なくても1つを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の品質管理システム。
【請求項4】
前記品質保証入出力部は、圧延材全長に亘り、前記品質等級評価部で評価されたひとつ又は複数の品質項目に対する等級を前記表示部に表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の品質管理システム。
【請求項5】
前記品質管理システムは、さらに、
複数の切り出し案毎に得られる圧延材の長さと品質等級を評価する切り出し案評価部を備えることを特徴とする請求項1に記載の品質管理システム。
【請求項6】
前記品質保証入出力部は、複数の切り出し案毎に得られる圧延材の長さと品質等級を前記表示部に表示することを特徴とする請求項5に記載の品質管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延材の品質管理に用いる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延分野では、初期温度1200℃前後のスラブを10回以上圧延して、長さ400~2000mの圧延材を製造する。圧延材の製品はその全長に亘って所定品質を満たすことが求められる。
【0003】
特許文献1は、組織・材質モデルの算出値と注文情報に基づいて、組織・材質仕様を満するか否かを判定し、判定結果が当該組織・材質仕様を満たしていない場合、注文データベースを検索し当該圧延材に引き当て可能な注文情報を引き当てる技術を開示している。特許文献1によれば、この技術を用いることで、顧客の要求する組織・材質仕様を満たす製品を効率よく製造することが可能になる。
【0004】
特許文献2は、組織情報センサと機械的性質予測手段を備え、機械的性質予測手段によって予測された機械的性質を、圧延材に対して予め設定された機械的性質の許容範囲と比較して、圧延材の材質の良否を判定し、その判定結果を圧延材の長手方向における位置情報と関連付けて記録し、記録内容にも同いて圧延材の切除部の長さを決定する技術を開示している。特許文献2によれば、この技術を用いることで、圧延材を切り落とす部分の最適化を図ることができ、圧延材の長手方向に材質にばらつきが発生した場合でも、出荷の歩留りを大幅に向上させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008―168320号公報
【特許文献2】特開2009-166087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、圧延材の全体を一体として組織・材質の注文仕様に対する合否を判定するため、圧延材の組織・材質のばらつきによって製品の一部でも仕様を満たしていない場合でも、圧延材の全体を当初注文より低級の製品として出荷するか廃棄することになる恐れがある。
【0007】
特許文献2の技術は、材質の良否判定結果を圧延材の長手方向における位置情報と関連付けて記録し、該記録に基づいて切除部の長さを決定することで、特許文献1の上記課題を解決している。ただし、仕様に対する良否判定を基に画一的に切除部の長さを決定するため、過度な切除処理による資源とエネルギーの無駄が増える可能性がある。
【0008】
更に、特許文献1の技術は組織・材質以外の品質項目が考慮されていないため、圧延材が組織・材質仕様を満たすと判定された場合でも、他の品質項目を満たしてない可能性がある。
【0009】
特許文献2の技術は、材質の他に、温度、圧延材の厚み、圧延材の幅、圧延材の形状などの品質と組み合わせて判定することもできると述べている。しかし、複数の品質の組合せが可能とするだけに止まり、複数の品質を組み合わせた時に切除部の長さを決定する方法は全く開示されていない。
【0010】
以上を鑑みて、本発明は圧延材の長手方向に対して複数の品質項目を統合して管理できる圧延材の品質管理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明の品質管理システムは、熱間圧延された圧延材の品質を管理する品質管理システムであって、熱間圧延ラインに備えられたセンサから検出した圧延材の計測品質データと、前記熱間圧延ラインの動作情報からなる制御データと、前記圧延材の基本情報とを取得する圧延材データ取得部と、前記計測品質データを前記圧延材の長手方向の位置毎の計測品質データに変換する計測品質変換部と、前記制御データから長手方向の位置毎の計算品質データを求める計算品質算出部と、前記計測品質データと前記計算品質データを統合して長手方向の位置をキーとして前記圧延材毎に品質情報を、品質情報保存部に保存する品質情報統合部と、前記品質情報保存部に保存された品質情報と品質基準保存部に保存している品質に関する基準である品質基準に基づいて圧延材の長手方向の位置毎に品質等級を評価する品質等級評価部と、前記品質等級の評価結果を表示する品質管理入出力部と、を備えることを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧延材の長手方向に対して複数の品質項目を統合して管理できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る品質管理システムの構成例を示すブロック図である。
図2】圧延材の長手方向に垂直の断面形状を示す模式図である。
図3】圧延材の断面形状データの例を示す図である。
図4】圧延材の幅データの例を示す図である。
図5】圧延材の巻きズレの例を示す模式図である。
図6】圧延材の巻きズレデータの例を示す図である。
図7】セクションの例を示す説明図である。
図8】圧延材の巻きズレデータの変換に関わる説明図である。
図9】圧延材品質情報の例を示す図である。
図10】品質基準保存部に保存される品質基準の例を示す図である。
図11】品質等級評価部の処理を示すフローチャートである。
図12】品質データ行列の例を示す図である。
図13】品質目標行列の例を示す図である。
図14】品質基準行列の例を示す図である。
図15】品質等級行列の例を示す図である。
図16】品質保証入出力部の画面に表示される品質表示の一例を示す図である。
図17】第2実施形態に係る品質管理システムの構成例を示すブロック図である。
図18】切り出し案評価部の処理を示すフローチャートである。
図19】品質保証入出力部での切り出し案評価データを表示した例を示す図である。
図20】品質保証入出力部での切り出し案評価データを表示した別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面において、共通する構成要素には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る品質管理システム3の構成例を示すブロック図である。図1には、熱間圧延ライン1と、熱間圧延制御システム2とを含めて、品質管理システム3の構成の一例を示す。熱間圧延ライン1には、加熱炉110と、搬送ライン111と、粗圧延機112と、切断機113と、仕上圧延機114と、冷却装置115と、巻取り機116が配置される。粗圧延機112は一つの圧延スタンドで構成される一方、仕上圧延機114は搬送ライン111に沿って並んだ複数の圧延スタンドで構成される。
【0016】
圧延材100は、加熱炉110で加熱された後、搬送ライン111の上を移動しながら、粗圧延機112と仕上圧延機114で複数回の圧延を受ける。
【0017】
圧延材100の先端または後端は、粗圧延機112で圧延された後、形状が歪になることがある。その場合には、切断機113で形状が歪になった部分を切り落としてから、圧延材100を次の仕上圧延機114に投入する。
【0018】
冷却装置115の中には、複数の冷却ノズルが配置され、制御目標である圧延材100の温度または温度履歴に合わせて、熱間圧延制御システム2が各ノズルの開度を制御する。
【0019】
熱間圧延ライン1には、圧延材100の温度を測定する温度計が複数個所に設置される。図1は、一例として粗圧延入口温度計120、粗圧延出口温度計121、仕上圧延入口温度計122、仕上圧延出口温度計123、巻取り機入口温度計124が設置された構成を示す。別の構成としては、更に、仕上圧延機114のスタンド間に温度計を追加で設置する場合もある。また、冷却装置115の中に追加で設置する場合もある。これらの各温度計では、該温度計の観測点を通過する圧延材100の温度を計測して、制御データとして熱間圧延制御システム2に出力する。
【0020】
なお、独立した計測器としては図示しなかったが、粗圧延と仕上圧延の各圧延スタンドでは圧延制御のために、圧延ロールに加わる荷重とロールの回転速度を含むロールの状態を測る計測器が設けられ、そのデータも制御データとして熱間圧延制御システム2に出力される。
【0021】
熱間圧延ライン1には、圧延材100の品質を測るため、厚み計130と幅計131を含む計測器が仕上圧延機114の出側に配置される。これらの計測器は各々の観測点を通過する圧延材100の厚みまたは幅を計測して、計測品質データとして熱間圧延制御システム2に出力する。
【0022】
図1には省略したが、圧延材100を巻取り機116で巻き取る際に発生する巻きズレ(Telescope)を測定する計測器が巻取り機116の後段に配置される場合がある。
【0023】
熱間圧延制御システム2は、圧延材100の厚みや幅、移動速度、温度を含む制御目標値を設定する制御設定部200と、熱間圧延ライン1から入力される制御データに基づき制御目標値を達成するための設定値を計算する制御演算部201と、計算された設定値を熱間圧延ライン1に出力する制御出力部202を有する。また、熱間圧延制御システム2は、制御出力部202から出力される設定値と、熱間圧延ライン1から出力される制御データおよび計測品質データを収集するデータ収集部203と、データ収集部203が収集したデータと圧延材の基本情報を保存するデータ保存部210をも有する。
【0024】
ここで、圧延材100の基本情報は、スラブ番号や圧延材番号のような圧延材の識別記号、鋼種のような圧延材の品種記号、圧延材の化学組成、圧延材の目標品質を含む。目標品質には、例えば、圧延材の目標厚み、目標幅、目標降伏強度などであり、具体的な目標品質の内容は注文、または圧延材の品種によって決まる。
【0025】
本実施形態の圧延材の品質管理システム3は、品質保証入出力部300と、圧延材データ取得部301と、計測品質変換部310と、計算品質算出部320と、品質情報統合部330と、品質情報保存部331と、品質等級評価部332と、品質基準保存部333を含む。これらの機能については、後で詳細に述べる。
【0026】
図2は、圧延材100の長手方向に垂直の断面形状を示す模式図である。データ保存部210に保存される計測品質データの一例に厚み計130で測定された圧延材の断面形状がある。厚みは幅方向の位置によって変わることがあり、図2では幅方向の中央点CenterとCenterから幅方向に等距離にあるSide1とSide2の3点の位置での厚み、h、hS1、hS2を測定して、断面形状を評価する例を示している。評価する断面形状は、例えば、3点での平均厚み、幅方向の厚み変化のCenterに対する対称成分であるクラウン(crown)、幅方向の厚み変化のCenterに対する非対称成分であるウェッジ(wedge)である。次式に示す。
平均厚み=(h+hS1+hS2)/3
クラウン=h-(hS1+hS2)/2
ウェッジ=hS1-hS2
【0027】
図3は、圧延材100の断面形状データの例を示す図である。図3にデータ保存部210に保存される断面形状データの例を示す。断面形状データは、圧延材の識別記号と、0.1秒間隔の複数の計測時刻と、計測時刻毎の平均厚みとクラウンとウェッジからなる。
【0028】
図4は、圧延材100の幅データの例を示す図である。図4にデータ保存部210に保存される計測品質データの別の一例として、圧延材の幅データを示す。幅データは、圧延材の識別記号と、0.12秒間隔の複数の計測時刻と、各計測時刻に測定された圧延材の幅を有する。
【0029】
厚み計130と幅計131に圧延材100が到達する時間が異なるため、図3に示した断面形状データと、図4に示した幅データでは、同じ圧延材に対する計測時刻が異なる。また、異なる計測器であるため、記録されたデータの時間間隔が異なる可能性もある。
【0030】
図3図4に示した例は、計測品質データが計測時刻毎に記録される時系列データである。データ保存部210に保存される計測品質データの中で、時系列ではないデータに巻きズレデータがある。
【0031】
図5は、圧延材100の巻きズレの例を示す模式図である。図5の外形5Aは長尺の圧延材100を巻取り機116でボビンに巻き取った後に、端部にずれが生じている様子を示す。この巻取り後の端部の不揃いが巻きズレ(telescope)である。図5の断面5Bは巻きズレの測定例を示す。レーザ変位計などを用いて巻き取りの径方向を走査しながら圧延材端部の高さを測定して、巻き位置毎の高さを記録する。
【0032】
図6は、圧延材100の巻きズレデータの例を示す図である。図6に、データ保存部210に保存される巻きズレデータの例を示す。巻きズレデータは、圧延材の識別記号と、複数の巻き位置と、各巻き位置で測定された高さを有する。データ保存部210には、前記の計測品質データの他に、制御データも保存される。保存される制御データは、圧延機のロールの荷重と回転速度、圧延材の温度、冷却装置内の冷却ノズルの開度設定を含む。これらは何れも時系列データであり、図3または図4に示したように、各圧延材に対して時刻毎に保存される。
【0033】
データ保存部210には、前記のように時系列の計測品質データ、非時系列の計測品質データ、時系列の制御データが保存される。各時系列データは固有の開始時間と時間間隔を持っている。
【0034】
図1に戻り、品質保証入出力部300では、本実施形態の品質管理システム3の動作に関わる各種設定の入力と、品質評価結果の出力を表示部(不図示)に行う。品質保証入出力部300が入力する設定は次を含む。
(ア)品質保証の対象となる圧延材の識別記号
(イ)セクションの長さ
圧延材の識別記号は、熱間圧延されて巻き取られた圧延材毎に割り当てられる記号であり、例えば、図3、4、6に記したAX01000011のように文字と数字の組合せの場合が多い。品質保証入出力部300は、品質保証の対象とする一つまたは複数の圧延材の識別記号を入力する。
【0035】
(セクション)
本実施形態では、圧延材を長手方向に沿った複数のセクションに分割して、セクション毎に品質を管理する。セクションは品質管理上の仮想的な単位であり、実際に圧延材を切断することではない。
【0036】
図7は、セクションの例を示す説明図である。各セクションの長さは一定でも良いし、長手方向の位置によって変わっても良い。例えば、品質変化の可能性が比較的高い先端と尾端の付近は、セクションの長さを短くして、他の部分はセクションの長さを大きくすることもできる。このようなセクションの設定は品質保証入出力部300で行われる。なお、圧延材の長さは圧延と共に変化するため、品質管理を目的とするセクションの長さは、圧延終了後の長さ、即ち、仕上圧延機114の出側での圧延材の長さを基準に設定される。
【0037】
(圧延材データ取得部301)
圧延材データ取得部301は、品質保証入出力部300で入力された圧延材の識別記号に対応する圧延材の基本情報と制御データと計測品質データをデータ保存部210から取得して、計測品質変換部310と計算品質算出部320へ出力する。
【0038】
前記したように、圧延材データ取得部301がデータ保存部210から取得する計測品質データは、一般的に、圧延材の長手方向の位置ではない量をキーに保存されている。例えば、圧延材の厚みデータは取得時間をキーに保存され、巻きズレデータは巻き位置をキーに保存される。計測品質変換部310は、圧延材データ取得部301から入力された計測品質データを、各セクションでの計測品質データへ変換する。以下、計測品質変換部310の動作を、厚みデータと巻きズレデータを例に説明する。
【0039】
(計測品質変換部310)
先ず、時系列の計測品質データの例として、厚みデータの変換を説明する。
計測品質変換部310は厚みデータのような時系列の計測品質データから対応する位置Xを求めるため、時系列に品質を計測する厚み計130のような装置が仕上圧延機114の最終スタンドの出側に配置される点を利用する。
【0040】
初め、仕上圧延機114の最終スタンドのロールの荷重が急増する時刻を、圧延材の先端が該ロールに到達した時刻と推定する。この時刻をtとする。
次に、以下の式(1)を用いて、時刻tでのロールの周速度Vrを求める。
Vr[t]=2×π×R×ω[t] …(1)
ここで、Rはロールの半径(m)、ωはロールの単位時間当たりの回転数(turn/s)で一般に時間によって変化する。Rとω[t]は制御データとしてデータ保存部210に保存され、圧延材データ取得部301によって計測品質変換部310に入力される。
【0041】
なお、上記式のカギ括弧[ ]は、熱延ラインにおける各種データの計測は離散時間で行われることから、Vrが取り得るtが離散値であることを表す。以下でもカギ括弧は同じ意味を表す。
【0042】
次に、以下の式(2)を用いて、圧延材100の移動速度Vsを求める。
Vs[t]=fs[t]×Vr[t] …(2)
ここで、fsは先進率(forward slip)と呼ばれる量であり、圧延材100が圧延によって長手方向に延ばされるため生じるVsと圧延ロールの周速度Vrとの比を表す。
【0043】
fsは例えば以下の式(3)で計算できる。
fs[t]=0.25×(hin[t]-hout[t])/hout[t
…(3)
ここで、hinとhoutは、各々、ロール入側と出側での圧延材の厚みである。
fsの他の計算方法を適用しても良い。
【0044】
次に、以下の式(4)、式(5)を用いて、仕上圧延機114の最終スタンドで記録された時刻tに対応する長手方向の位置Xを計算する。
X[t]=0 …(4)
X[t]=Vs[t]Δt+Vs[t]Δt+…+Vs[t]Δt
…(5)
【0045】
以上の方法により、仕上圧延機114の最終スタンドでの制御データの計測時刻tを圧延材の長手方向の位置X[t]に変換する。
【0046】
仕上圧延機114の最終スタンドから厚み計130までの距離をLとすると、圧延材のX[t]の点が厚み計130に到達する時刻t'は、以下の式(6)で計算できる。
t'=t+L/Vs[t] …(6)
【0047】
従って、位置X[t]に対応する断面形状の品質は、データ保存部210に保存された断面形状データの中で、計測時刻がt'のデータである。
【0048】
保存された計測時刻がt'と一致しない場合には、t'に近い計測時刻の複数のデータを用いてt'でのデータを算出する。この算出には線形補間法、スプライン補間法、ラプラス補間法などを用いることができる。例えば、線形補間法を用いる場合には、先ず、計測時刻t'に対してt≦t'≦ti+1=t+Δtとなるtをωの制御データの時刻列から検索した後に、次の式(7)でX[t']を求めることができる。
X[t'
={X[t](ti+1-t')+X[ti+1](t'-t)}/(ti+1-t
…(7)
【0049】
計測品質変換部310は、以上のような処理を用いて厚みデータh[t']が記録された時刻t'に対応するX'=X[t']を計算した後、h[X']=h[t']とすることで、時系列の計測品質データh[t']を圧延材の長手方向位置における計測品質データh[X']へ変換する。
【0050】
次に、計測品質変換部310は、品質保証入出力部300が入力したセクション長さ設定を用いてX'が属するセクションを決定し、該セクションの厚みデータの配列にh[X']を加える。
【0051】
以上の処理を厚みデータhが記録された全ての時刻t'に対して実行することで、全ての厚みデータは、対応するセクションの厚みデータ配列に加えられる。
【0052】
次に、セクションの厚みデータ配列を用いて、セクションの代表厚みを決定する。厚みデータ配列の厚みデータが1個の場合には、その厚みをセクション代表厚みとする。もし厚みデータ配列の厚みデータが複数ある場合には、厚みデータの中で目標厚みから最も離れた値をセクションの代表厚みとする。もし厚みデータ配列の厚みデータの数がゼロの場合には、近傍のセクションの代表厚みを内挿した値を代表厚みとする。
計測品質変換部310は、以上の処理により時系列の厚み計測品質データをセクションの厚み計測品質データに変換できる。
【0053】
以上は、厚み計130で測定される断面形状データの例であったが、仕上圧延機114の最終スタンドの出側に配置される計測器で計測される他の時系列の計測品質データにも適用できる。
【0054】
次に、計測品質変換部310の時系列でない計測品質データに対する変換例として、巻きズレデータの変換を、図8を用いて説明する。
図8は、圧延材の巻きズレデータの変換に関わる説明図である。初めに、ボビンの半径を巻き取られた圧延材(以下、コイル)の内半径Rinとし、巻き位置の最大値と最小値の差の1/2をコイルの外径Routとする。
【0055】
次に、巻きズレ計測時の走査線を基準線に、圧延材の先端までの角度θを求める。基準線から巻取り方向の角度を+、巻取りと逆方向の角度を-とし、θの単位をradianとすると、その範囲は-π<θ≦πである。
【0056】
次に、巻き位置zから、コイル中心からの径方向座標r=|Rout-z|を求める。
巻きズレ計測点の位置zを、コイル中心を中心とする極座標系に変換すると、前記の角度の定義から、0≦z<Routの計測点の座標は(r,π)となり、Rout<z≦2*Routの計測点の座標は(r,0)となる。
【0057】
以上の座標変換を経ると、極座標(r,φ)の点の圧延材の先端からの距離Xは、次の式(8)で求めることができる。
X[r,φ]
=π×((r-hm)-Rin )/hm+r×(φ-θ) …(8)
ここでhmは圧延材の平均厚みである。
【0058】
従って、巻き位置zに対応するXは次の式(9)、式(10)で求まる。
0≦z<Routのz範囲:
X[z]
=π×((|Rout-z|-hm)-Rin )/hm+|Rout-z|×(π-θ
…(9)
out<z≦2*Routのz範囲:
X[z]
=π×((|Rout-z|-hm)-Rin )/hm-|Rout-z|×θ
…(10)
【0059】
前記の方法では圧延材の先端までの角度θを用いてzからXを求めたが、圧延材の尾端までの角度θを用いてzからXを求めることもできる。この方法では、圧延材尾端のX値、X[Rout,θ]が圧延材の全長Xtotと等しいことを利用して、以下の式(11)を用いてθからθを求める。
θ=[π×((Rout-hm)-Rin )/hm-Xtot]/Rout+θ
…(11)
前記式によりθからθを求めることで、コイルにおける圧延材の尾端までの角度θを用いてzからXを計算できる。
【0060】
計測品質変換部310は、以上のような処理を用いて巻きズレデータe[z]が記録された計測位置zに対応するX=X[z]を計算した後、e[X]=e[z]とすることで、非時系列の計測品質データe[z]を圧延材の長手方向位置における計測品質データe[X]へ変換する。次に、計測品質変換部310は、品質保証入出力部300が入力したセクション長さ設定を用いてXが属するセクションを決定し、該セクションの巻きズレデータの配列にe[X]を加える。
【0061】
以上の処理を巻きズレデータeが記録された全ての計測位置zに対して実行することで、全ての巻きズレデータは、対応するセクションの巻きズレデータ配列に加えられる。
【0062】
次に、セクションの巻きズレデータ配列を用いて、セクションの代表巻きズレを決定する。巻きズレデータ配列の巻きズレデータが1個の場合には、その巻きズレをセクション代表巻きズレとする。もし巻きズレデータ配列の巻きズレデータが複数ある場合には、巻きズレデータの中で目標巻きズレから最も離れた値をセクションの代表巻きズレとする。もし巻きズレデータ配列の巻きズレデータの数がゼロの場合には、近傍のセクションの代表巻きズレを内挿した値を代表巻きズレとする。
【0063】
計測品質変換部310は、以上の処理により非時系列の巻きズレ計測品質データをセクションの巻きズレ計測品質データに変換できる。
【0064】
以上の例で示した如く、計測品質変換部310は、時系列の計測品質データおよび時系列の計測品質データを各セクションでの計測品質データへ変換する。計測品質変換部310は、セクションの計算品質データを品質情報統合部330へ出力する。
【0065】
(計算品質算出部320)
計算品質算出部320は、品質保証入出力部300が設定したセクションに従い各セクションに対して1つ以上の計算点を設定した後、圧延材データ取得部301から入力される圧延材の基本情報と制御データを用いて、各計算点における計算品質を求める。計算品質は引張強度、降伏強度、伸びを含む。以下、計算品質算出部320の作用を説明する。
【0066】
熱間圧延で製造される圧延材の引張強度、降伏強度、伸びなどの計算品質を求める計算品質算出モデルでは、圧延材100上の計算点が加熱炉110の出口から巻取り機116の入口の間で経験する温度とひずみ、ひずみ速度の履歴に基づいて圧延後の該計算点の降伏強度、引張強度、伸びなどを計算する。このような計算品質算出モデルには、例えば、「材質の制御と予測」(1988、日本鉄鋼協会)に開示された計算品質算出モデルがある。
【0067】
計算品質算出部320は、計算品質を求めるために必要となる計算点の温度とひずみ、ひずみ速度の履歴を制御データから算出する。制御データは時系列で計測されてデータ保存部210に保存されるため、計算点の位置に対応する制御データを算出する処理は、後述の相当位置X'を用いる点を除き、計測品質変換部310が時系列の計測品質データをセクションの計測品質データに変換する処理と共通する。
【0068】
計算品質算出部320における計算点の位置に対応する制御データを算出する処理で相当位置X'を用いることは、仕上圧延機114の最終スタンドより上流、即ち、加熱炉110側での制御データに対する演算が必要であることに起因する。圧延材100は仕上圧延機114の最終スタンドより上流側で複数回の圧延を受けて、その都度、圧延材100は長くなる。このため、仕上圧延機114の出側での圧延材100の長さを基準に設定されたセクションの長さ及びセクション毎に設けた計算点の位置Xも圧延の都度に変化する。
【0069】
以上で述べた計算点の位置Xの変化に対応して、計算品質算出部320における制御データ処理は、固定された座標Xの代わりに、厚みhの変化に対応した相当位置X'を用いる。
X'(h')=X×h/h' …(12)
ここでXとhは、各々、仕上圧延機114の最終スタンドの出側における、計算点の位置と厚みである。X'熱延ライン上に任意の場所におけるXの相当位置であり、h'は該場所での厚みである。
【0070】
ただし、発明者らは、(12)式の相当位置X'の式を加熱炉110から切断機113の入口の間にも適用すると、後述の材質計算結果において、圧延材100の先端と尾端で大きい誤差が生じることを発見した。
【0071】
熱間圧延の特徴として圧延材100の先端または尾端に変形が発生しやすいことがあり、その対策として、熱間圧延ライン1の中に、圧延材の先端または尾端を切除する切断機113が置かれている。切断機113が圧延材100の一部を切除するため、切断機113の下流側と上流側とでは圧延材100の質量が異なる。このため、上記の相当位置X'の式は、圧延材100の質量が仕上圧延機114の最終スタンドの出側における質量と一致する、切断機113より下流側でのみ適用できる。
【0072】
切断機113より上流側においては、次の式(13)で定義される相当位置X'を用いる。
X'=X×h/h'+x_headcut×h_113/h' …(13)
ここでx_headcutは切断機113で切除される先端部の長さであり、h_113は切断機113における圧延材100の厚みである。
【0073】
なお、ここではXを圧延材100の先端からの距離として定義したため、先端部の切除長x_headcutを用いた。Xを圧延材の尾端からの距離として定義する場合には、尾端部の切除長x_tailcutを用いて相当位置X'を計算すれば良い。
【0074】
計算品質算出部320は、以上の処理によって計算点位置Xに対応する熱間圧延ライン1中の相当位置X'を決定する。
【0075】
計算品質算出部320は、決定したX'に対応する制御データを抽出して、計算品質算出モデルの計算に必要な、温度履歴、ひずみ履歴、ひずみ速度履歴等のデータを生成する。X'に対応する制御データを抽出する処理は、上で説明した、計測品質変換部310が時系列の計測品質データをセクションの計測品質データに変換する処理と共通する。計算品質算出部320は、以上の処理で求めた各セクションの計算品質データを品質情報統合部330へ出力する。なお、計測品質データは、圧延材の幅、厚み、クラウン、ウェッジ、巻きズレの少なくても1つを含むことが好ましい。また、計算品質データは、圧延材の降伏強度、引張強度、伸びの少なくても1つを含むことが好ましい。
【0076】
(品質情報統合部330)
品質情報統合部330は、品質情報保存部331に、圧延材の基本情報と、各セクションの計測品質と計算品質を統合した圧延材品質統合データを保存する。圧延材品質統合データは、圧延材の識別記号とセクションの番号をキーに、セクションの長さと共に保存する。図9は、圧延材品質情報の例を示す図である。図9の例では前記項目の他に、セクションの代表点の位置も保存してある。
【0077】
(品質等級評価部332)
品質等級評価部332は、品質情報保存部331に保存された圧延材基本情報と圧延材品質統合データを用いて、圧延材の品質をセクション毎に評価する。この評価のために、品質等級評価部332は、品質基準保存部333に保存された各品質項目に対する基準を用いる。
【0078】
図10は、品質基準保存部333に保存される品質基準の例を示す図である。図10には、品質基準の一例として、厚み品質基準のデータを示す。図示した厚み品質基準のデータは、圧延材のクラス、圧延材の目標厚みの範囲と目標幅の範囲毎に、3つの厚み品質等級の厚み許容差を持つ。例えば、図10の厚み品質基準番号1の基準は、クラスSS-01に分類される圧延材で、目標厚みの範囲が0~1.60mmかつ目標幅の範囲が0~1200mmの圧延材に対して適用される基準であり、圧延材の厚みと目標厚みの差の絶対値が0.11mm以下であれば1級、0.11~0.14mmであれば2級、0.14~0.17mmであれば3級、0.17mm超であれば等級外とする。ここで圧延材のクラスは、各種規格や圧延材の化学組成などに基づき品質管理システムの運用者が定める。例えば、圧延材が鉄鋼材である場合には、ISやJISなどで定められた鋼種を圧延材クラスとすることができる。なお、品質基準保存部333は、品質基準が保存されていて、それを情報処理に活用できれば、品質管理システム1の外部に存在していてもよい。他の保存部についても同様である。
【0079】
図11は、品質等級評価部332の処理を示すフローチャートである。品質等級評価部332の処理を図11のフローチャートを用いて説明する。初めに、品質等級評価部332は、評価する圧延材の識別番号を入力されて処理を開始する(ステップS100)。
【0080】
次に、品質等級評価部332は、圧延材該識別番号に対応する圧延材基本情報と圧延材品質統合データを品質情報保存部331から読み込み、品質統合データの厚み、クラウンなどの品質データを品質データ行列Qに保存する(ステップS101)。評価する品質の種類数をN、圧延材のセクションの数をNとすると、品質データ行列Qは図12に例示したN行×N列の実数行列でも良い。例えば、ある圧延材に対して評価する品質項目が、幅、厚み、クラウン、巻きズレ、降伏強度、伸びの6項目である場合、N=6であり、Q行列の1行目には幅のデータ、2行目には厚みのデータが保存される。
【0081】
続いて、品質等級評価部332は、各品質項目に対する目標値を保存する品質目標行列Qと各セクションに対する品質毎の等級判定結果を保存する品質等級行列Gを生成する(ステップS102)。品質目標行列Qは、図13に例示したN行×2列の実数行列であれば良く、また、品質等級行列Gは、例えばN行×N列の正の整数行列であれば良い。なお、品質等級行列Gの例は後記する図15に示す。
【0082】
品質目標行列Qの各行の第1と第2列には、該品質項目に対する目標値の下限と上限が各々保存される。例えば厚みのように、目標が1つの値である場合には、第1列と第2列に同じ値を保存する。また、例えば巻きズレのように、目標として上限値のみが与えられる場合には、第1列には0を、第2列には上限値を保存する。更に、例えば伸びのように、目標として下限値のみが与えられる場合には、第1列には下限値を、第2列には十分大きい数値、例えば10を保存する。
【0083】
品質等級評価部332は、ステップS101で読み込んだ圧延材基本情報を基に、適用する品質基準を決定して、品質基準保存部333から品質基準を読み込み、品質基準行列Sに保存する(ステップS103)。図14に品質基準行列Sの一例を示す。例えば、図10で示した厚みの品質基準の場合には、圧延材基本情報の中の化学組成、目標厚み、目標幅の情報に基づいて、適用する厚み品質基準を検索して決定し、読み込む。他の品質項目に対しても同様の処理を行い、品質基準行列Sに保存する。品質基準行列Sは、例えば、N行×N列の実数行列でも良い。ここでNは品質等級の数である。一般に品質項目毎に等級の数が異なるため、Nは評価する各品質項目の等級数の中で最大の値であれば良い。または、単純に十分に大きい正の整数、例えば100でも良い。Sの各列は等級毎の許容値を保存する。
【0084】
例えば、評価する品質項目が、幅、厚み、クラウン、巻きズレ、降伏強度、伸びの6項目である場合で、適用する厚み品質基準が図10の番号2であれば、厚みに対応するS行列の第2行には、1列目に0.12、2列目に0.15、3列目に0.18が各々保存される。
【0085】
次に、品質等級評価部332は、品質項目インデックスmを1に設定して各品質項目に対するループ処理を始める(ステップS104)。品質項目インデックスは、前記の品質データ行列Q、品質等級行列G、品質基準行列Sの行番号に対応する。ループ処理の中では、インデックスmで指定される品質項目に対して、各セクションの品質等級を評価する(ステップS105)。例えば、m=2が厚み品質であるとすると、n番目のセクションの厚み品質等級は次の手順で評価できる。
【0086】
初めに、目標に対する最大誤差値Dを以下の式で求める。
[2,1]≦Q[2,n]≦Q[2,2]の場合、D=0
Q[2,n]<Q[2,1]の場合、D=Q[m,1]-Q[m,n]
Q[2,n]>Q[2,2]の場合、D=Q[m,n]-Q[m,2]
ここで、Qは品質目標行列、Qは品質データ行列。
【0087】
次に、最大誤差値Dと品質基準行列Sの当該行の基準を順に比較して、品質等級行列Gの該当行、該当列に等級評価結果を保存する。この処理は、例えば以下のような手順で実施できる。
D≦S[2,1]の場合、G[2,n]=1
S[2,1]<D≦S[2,2]の場合、G[2,n]=2

S[2,g-1]<D≦S[2,g]の場合、G[2,n]=g

S[2,N-1]<D≦S[2,N]の場合、G[2,n]=N
S[2,N]<Dの場合、G[2,n]=等級外を表すNより大きい数(例えば1000)
ここで、Nは品質等級の数であり、図10に示したm=2の厚み品質基準の場合にはN=3である。
【0088】
以上の処理を1≦n≦Nの範囲で実施することで、全てのセクションに対する厚み品質等級の評価が終わる。
【0089】
次に、品質等級評価部332は、全ての品質項目に対する評価が終わったかを判定する(ステップS106)。評価が終わってない場合には(ステップS106,No)、次の品質項目を評価するため、m=m+1として(ステップS107)、ステップS105に戻る。評価が終わった場合には(ステップS106,Yes)、品質等級評価部332は、品質等級行列Gを品質情報保存部331に保存して(ステップS108)、品質等級評価処理を終了する(ステップS109)。
【0090】
以上で説明した処理によって、品質等級評価部332は、品質情報保存部331に保存された圧延材基本情報と圧延材品質統合データを用いて、圧延材の品質をセクション毎に評価できる。図15にN=100の圧延材に対する品質等級行列Gの一例を示す。
【0091】
(品質保証入出力部300)
品質保証入出力部300は、品質等級を確認したい圧延材の識別記号を用いて、品質情報保存部331から該当する品質等級行列Gを読み込み、圧延材全長に亘り、複数の品質項目に対する等級を画面上に表示できる。
【0092】
図16は、品質保証入出力部300の画面に表示される品質表示の一例を示す図である。図16の例では、品質項目と圧延材のセクションに対応する四角枠が枡状に並び、各四角枠の中に当該セクションの当該品質における等級が数字で表示されている。図16が一例であり、他に種々の表示方法があることは言うまでもない。例えば、等級を数字の代わりに色で表示しても良いし、色と数字を併用しても良い。また、品質やセクションの一部のみを選択して表示しても良いし、一つまたは複数の等級を持つセクションを選択して表示しても良い。或いは、図16のような枡状の表示ではなく、適切なグラフなどを用いて表示しても良い。グラフを用いる時には、例えばセクションの番号を横軸に、品質等級を縦軸にし、各品質項目を色の異なるグラフで示せば良い。この他にも表示の仕方は種々に変更できるが、圧延材全長に亘り、複数の品質項目に対する等級を表示する点は共通する。
【0093】
以上で述べた構成で、第1実施形態は圧延材の長手方向に対して複数の品質項目を統合して管理することで圧延材を最適に活用することができる。
【0094】
<第2の実施形態>
本発明の第2実施形態は、第1実施形態の上で、圧延材の最適活用を更に容易にするために、切り出し案評価機能を設ける。以下、第1実施形態と共通する部分の説明や省略して、切り出し案評価機能を中心に第2実施形態を説明する。
【0095】
(切り出し案評価部334)
図17は、第2実施形態に係る品質管理システム3Aの構成例を示すブロック図である。切り出し案評価部334を新たに設けた。切り出し案評価部334は、品質保証入出力部300から品質等級行列Gを入力されて、品質等級行列Gに基づいて複数の切り出し案を生成した後、各切り出し案で得られる圧延製品の品質等級と長さを評価して、品質保証入出力部300に返す。
【0096】
図18は、切り出し案評価部334の処理を示すフローチャートである。切り出し案評価部334の処理を、図18を用いて説明する。切り出し案評価部334は処理を開始すると(ステップS200)、品質保証入出力部300から品質等級行列Gを受け取る(ステップS201)。
【0097】
次に、切り出し案評価部334は、各品質項目で等級が変化する位置の和集合である集合Pを作成する(ステップS202)。この処理は例えば、以下の手順によって実施できる。
第1列では、Pに0を追加、
第2列では、一つのmでもG[m,2]≠G[m,1]なら、Pに1を追加、
第3列では、一つのmでもG[m,3]≠G[m,2]なら、Pに2を追加、

第n列では、一つのmでもG[m,n]≠G[m,n-1]なら、Pにn-1を追加、

第N列では、一つのmでもG[m,N]≠G[m,N-1]なら、PにN-1を追加、
最後に、PにNを追加
【0098】
集合Pに属する値の数をNとする。例えば、図15に示した品質等級行列Gの場合には、P={0,1,2,3,4,5,12,13,14,15,92,94,96,97,98,99,100}となり、N=17である。集合Pに属する値をpとすると、p-1セクションとpセクションの間では、少なくても1つの品質項目で等級が変化する。
【0099】
次に、切り出し案評価部334は、Pを用いて切り出し案Cを生成する(ステップS203)。切り出し案Cの生成は例えば、切り出し案Cは一つまたは複数の単位切り出し案の集合であり、Cに含まれる単位切り出し案の数をNとする。
【0100】
切り出し案Cの生成は以下の手順で実施できる。この例では単位切り出し案を二つの整数の組合せ{C,C}で表現する。CとCは共にセクションの番号を表し、例えばC=3ならセクション3の終了位置、即ちセクション3とセクション4の境界線を表す。そしてCは圧延製品切り出しの始点を、Cは切り出しの終点を各々表す。例えば、単位切り出し案{5,95}は、セクション5と6の境界線を始点として、セクション95と96の境界線を終点とする領域を圧延製品として切り出すことを表す。この案の場合、圧延製品はセクション6から95までとなる。
【0101】
以上のCとCの定義によって必ずC,<Cであることを利用すると、一つの品質項目でも品質等級が変化し得る単位切り出し案は、
{P[1],P[2]},{P[1],P[3]},…,{P[1],P[N]}、
{P[2],P[3]},{P[2],P[4]},…,{P[2],P[N]}、
…、{P[n],P[n+1]},{P[n],P[n+2]},…,{P[n],P[N]}、…、{P[N-1],P[N]}
となり、その数はN×(N-1)/2となる。
【0102】
切り出し案評価部334の一つの処理方法は、以上の単位切り出し案の全体集合を切り出し案Cとして出力する方法である。以下ではこの方法を中心に説明する。上記のN=17の例では、Cに含まれる単位切り出し案の数は136となる。
【0103】
切り出し案Cを生成する別の方法として、例えば、Cに含める単位切り出し案のC-Cに下限値を設ける方法などを使うこともできる。この方法では、評価する単位切り出し案の数を抑制する利点がある一方、圧延材の短い切り出しを活用できない点で不利である。
【0104】
切り出し案評価部334は、切り出し案Cに含まれる単位切り出し案毎に、切り出される圧延材の長さと得られる品質等級を評価して、切り出し案評価データUを作成する(ステップS204)。
【0105】
切り出し案評価データUは、例えば、(1+N)行×N列の実数行列であっても良い。なお、U行列の行番号は0~Nの範囲とし、U行列の0行目には切り出される圧延材の長さを保存して、1~N行には各品質項目に対する品質等級を保存する。
切り出し案評価部334の処理は、例えば以下の手順で実行できる。
【0106】
Cに含まれるn番目の単位切り出し案を{C[n],C[n]}として、U行列を以下で求める。
U[0,n]=C[n]+1セクションからC[n]セクションまでの長さ
U[1,n]=G[1,C[n]+1]~G[1,C[n]]の最大値
U[2,n]=G[2,C[n]+1]~G[2,C[n]]の最大値

U[m,n]=G[m,C[n]+1]~G[m,C[n]]の最大値

U[N,n]=G[N,C[n]+1]~G[N,C[n]]の最大値
【0107】
前記で説明したように、G行列には行毎に1つの品質項目に対する各セクションの品質等級が保存されており、品質が高いほど等級の数値は低くなっている。このため、上記の例では、単位切り出し案{C[n],C[n]}で切り出される圧延材のm番目の品質等級S[m,n]には、圧延材に含まれるセクションC[n]+1~C[n]の中でm番目の品質項目の品質が最も低いセクションの等級が割り当てられたことになる。
切り出し案評価部334は、以上の処理を1≦n≦Nで実行することにより、切り出し案評価データSを作成できる。
【0108】
次に、切り出し案評価部334は切り出し案評価の行列Uを品質保証入出力部300に出力して(ステップS205)、処理を終了する(ステップS206)。
【0109】
品質保証入出力部300は、品質項目毎に重みを設定することで、総合等級を設定することができる。品質保証入出力部300はN個の品質項目毎に設定された重みW[1],W[2],…,W[N]から、次の式で規格化重みWnを計算できる。
Wn[m]=W[m]/(W[1]+W[2]+…+W[N])
【0110】
次に規格化重みWnを用いて、切り出し方案nで得られる圧延材の総合等級Utot[n]を計算できる。
Utot[n]=Wn[1]×U[1,n]+Wn[2]×U[2,n]+…+Wn[N]×U[N,n]
なお、以上の重み設定および総合等級の計算方法は説明のための一例であり、種々他の方法も適用できることは言うまでもない。
【0111】
図19は、品質保証入出力部300での切り出し案評価データUを表示した例を示す図である。品質保証入出力部300は、切り出し案評価データUを画面に表示する。図示した例では、幅から伸びまでの品質項目に対して、各々、7、10、8、6、9、8の重みWを設定した。このような表示を使うことで、品質保証入出力部300は、各切り出し案の結果を詳細に示すことができる。
【0112】
図20は、品質保証入出力部300での切り出し案評価データUを表示する別の例を示す図である。この例は、切り出し長さを短くするほど品質の高い圧延材を切り出して製品にすることが容易になる一方、その製品の長さが短くなる傾向を利用して、切り出し長さと品質等級を2つの軸にして、各単位切り出し案の評価結果を表示する。また、グラフ上の点をマウスなどで選択すると、該当する単位切り出し案を表示しても良い。図20では切り出し案の番号(例えば、109)だけを表示した例を示しているが、その詳細な評価結果を示しても良い。また、図17は、縦軸を総合品質等級とした例である。しかし、表示する品質等級を切り替えたり、複数の品質の等級を重ねて表示することもできる。このような表示は、単位切り出し案の数が多い時に最も好適な単位切り出し案を簡便に選択する上で有利である。
【0113】
第2実施形態は、以上で述べた構成により圧延材の切り出し案を評価することで、圧延材の長手方向に対して複数の品質項目を統合して管理することで圧延材を最適に活用することを第1実施形態と比べて更に容易にすることができる。
【0114】
以上、本実施形態の品質管理システムは、次の特徴を有する。
(1)熱間圧延された圧延材の品質を管理する品質管理システム3であって、熱間圧延ライン1に備えられたセンサから検出した圧延材の計測品質データと、熱間圧延ライン1の動作情報からなる制御データと、圧延材の基本情報とを取得する圧延材データ取得部301と、計測品質データを圧延材の長手方向の位置毎の計測品質データに変換する計測品質変換部310と、制御データから長手方向の位置毎の計算品質データを求める計算品質算出部320と、計測品質データと計算品質データを統合して長手方向の位置をキーとして前記圧延材毎に品質情報を、品質情報保存部331に保存する品質情報統合部330と、品質情報保存部331に保存された品質情報と品質基準保存部333に保存している品質に関する基準である品質基準に基づいて圧延材の長手方向の位置毎に品質等級を評価する品質等級評価部332と、品質等級の評価結果を表示部(不図示)に表示する品質保証入出力部300と、を備える(図1参照)。これによれば、圧延材の長手方向に対して複数の品質項目を統合して管理できる。
【0115】
(2)前記(1)の品質管理システム3において、計測品質データは、圧延材の幅、厚み、クラウン、ウェッジ、巻きズレの少なくても1つを含む(図9参照)。
【0116】
(3)前記(1)の品質管理システム3であって、計算品質データは、圧延材の降伏強度、引張強度、伸びの少なくても1つを含む(図9参照)。
【0117】
(4)前記(1)の品質管理システム3であって、品質保証入出力部300は、圧延材全長に亘り、品質等級評価部332で評価されたひとつ又は複数の品質項目に対する等級を表示部に表示する(図13参照)。
【0118】
(5)前記(1)の品質管理システム3であって、品質管理システム3は、さらに、複数の切り出し案毎に得られる圧延材の長さと品質等級を評価する切り出し案評価部334を備える(図14参照)。
【0119】
(6)前記(5)の品質管理システム3であって、品質保証入出力部300は、複数の切り出し案毎に得られる圧延材の長さと品質等級を表示部に表示する(図16参照)。
【符号の説明】
【0120】
1 熱間圧延ライン
2 熱間圧延制御システム
3,3A 品質管理システム
100 圧延材
110 加熱炉
111 搬送ライン
112 粗圧延機
113 切断機
114 仕上圧延機
115 冷却装置
116 巻取り機
200 制御設定部
201 制御演算部
202 制御出力部
203 データ収集部
210 データ保存部
300 品質保証入出力部
301 圧延材データ取得部
310 計測品質変換部
320 計算品質算出部
330 品質情報統合部
331 品質情報保存部
332 品質等級評価部
333 品質基準保存部
334 切り出し案評価部
G 品質等級行列
評価する品質の種類数
圧延材のセクションの数
Q 品質データ行列
品質目標行列
S 品質基準行列
U 切り出し案評価行列(切り出し案評価データ)
Utot 圧延材の総合等級
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20