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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179236
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】横すべり角算出装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/103 20120101AFI20241219BHJP
【FI】
B60W40/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097929
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】陳 超
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB08Z
3D241DB12Z
3D241DB13Z
3D241DB14Z
3D241DB40Z
3D241DB48Z
3D241DC39Z
3D241DC43Z
3D241DC45Z
(57)【要約】
【課題】より適正に横すべり角を算出可能な横すべり角算出装置を提供する。
【解決手段】横すべり角算出装置は、変数調整部22と、算出部23とを含む。ヨーレートをω、車速をV、重力加速度をg、車体のロール角をφとした場合に、算出部23は、α=ωV-gφ-kに、変換係数Gを乗算することにより、横すべり角βを算出する。変換係数Gは、車速Vの2乗に反比例する変数である。変数調整部22は、αを構成する勾配パラメータkの値をロール角φに応じて変更する。変数調整部22はφ=0である場合には、k=0に設定し、φ>0且つωV<gφである場合にはk=gφ-ωVに設定し、φ>0且つωV≧gφである場合には、kを非ゼロの所定値に設定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載センサの出力信号に基づいて、車両の車速(V)、回転角速度(ω)、及びロール角(φ)を取得する通信部(14)と、
前記車両のホイールベースの想定値(L)と、前記ホイールベースの想定値に対する後輪軸から重心までの距離の比率を表す重心パラメータ(d)と、正規化されたコーナリングパワー(C)と、重力加速度(g)と、を記憶している記憶部(25)と、
走行路の横断勾配による横すべり角(β)への影響を補正するための変数である勾配パラメータ(k)の値を、前記ロール角(φ)に応じて調整する調整部(22)と、
前記車速(V)、前記回転角速度(ω)、前記ロール角(φ)、前記ホイールベースの想定値(L)、前記重心パラメータ(d)、前記コーナリングパワー(C)、前記勾配パラメータ(k)、及び、前記重力加速度(g)を用いて、前記横すべり角(β)を算出する算出部(23)と、を備え、
前記算出部は、
前記車速(V)と前記回転角速度(ω)の乗算値である第1乗算値と、前記ロール角(φ)と前記重力加速度(g)の乗算値である第2乗算値と、前記勾配パラメータ(k)とに基づいて、前記車両の横方向に作用する力に関連する第1パラメータを算出し、
前記車速(V)と前記ホイールベースの想定値(L)と、前記重心パラメータ(d)と、前記重力加速度(g)と、前記コーナリングパワー(C)とをもとに、前記第1パラメータを前記横すべり角に近似させる係数である第2パラメータを算出し、
前記第1パラメータに前記第2パラメータを乗じることで前記横すべり角を算出するように構成されている横すべり角算出装置。
【請求項2】
前記算出部は、以下の式を用いて前記横すべり角(β)を算出するように構成されている、請求項1に記載の横すべり角算出装置。
【数7】
【請求項3】
前記調整部は、
前記ロール角が所定値未満である場合には、前記勾配パラメータの値を所定の基本値に設定し、
前記ロール角が所定値以上である場合には、前記勾配パラメータの値を、前記ロール角と前記重力加速度の乗算値である第2乗算値から、前記車速と前記回転角速度の乗算値である第1乗算値を引いた値に設定するように構成されている、請求項1に記載の横すべり角算出装置。
【請求項4】
前記調整部は、
前記ロール角が所定値未満である場合には、前記勾配パラメータの値を所定の基本値に設定し、
前記ロール角が所定値以上であり且つ前記車速が所定値未満である場合には、前記勾配パラメータを前記ロール角と前記重力加速度の乗算値である第2乗算値から、前記車速と前記回転角速度の乗算値である第1乗算値を引いた値に設定し、
前記ロール角が所定値以上であり且つ前記車速が所定値以上である場合には、前記勾配パラメータを前記基本値とは異なる所定値に設定するように構成されている、請求項1に記載の横すべり角算出装置。
【請求項5】
前記基本値は0である、請求項3又は4に記載の横すべり角算出装置。
【請求項6】
前記調整部は、前記車速が0である場合には前記勾配パラメータを、前記ロール角と前記重力加速度の乗算値である第2乗算値から前記車速と前記回転角速度の乗算値である第1乗算値を引いた値に設定するように構成されている、請求項3又は4に記載の横すべり角算出装置。
【請求項7】
前記算出部は、前記車速(V)に応じて、前記第2パラメータを算出するための式を変更するように構成されている請求項1から4の何れか1項に記載の横すべり角算出装置。
【請求項8】
前記算出部である第1算出部に加えて、
前記車速(V)と前記回転角速度(ω)の乗算値に、近似係数(Kv)を乗算することで、前記横すべり角を算出する第2算出部(30)を備え、
前記第1算出部は、前記第1算出部が算出する前記横すべり角である第1推定値(β1)と、前記第2算出部が算出する前記横すべり角である第2推定値(β2)との差が一定である状態が所定時間継続したことに基づいて、前記第1推定値(β1)と前記第2推定値(β2)の差が小さくなるように、前記コーナリングパワー(C)の設定値を変更するように構成されている、請求項1から4の何れか1項に記載の横すべり角算出装置。
【請求項9】
前記車両に作用している横加速度(a)を前記車速(V)で除算した進行角速度(a/V)から前記回転角速度(ω)を減算してなる横すべり角微分値を、積分することにより前記横すべり角を算出する第3算出部(40)をさらに備え、
前記第2算出部は、前記第3算出部が算出した前記横すべり角である第3推定値(β3)を、前記車速(V)と前記回転角速度(ω)の乗算値で除算した値を、前記近似係数として採用するように構成されており、
前記第1算出部は、前記第1推定値と前記第2推定値の差が一定である状態が所定時間継続したことに基づいて、前記コーナリングパワーの設定値を変更するように構成されている、請求項8に記載の横すべり角算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の横すべり角を算出するための横すべり角算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が旋回するときには、横すべり角が発生する。ヨーレートでは車両の向いている方向しか検出できず、車両の進行方向を推定するためには、車両の横すべり角を推定する必要がある。特許文献1には、ヨーレートと、走行速度と、多数の車両パラメータとを組み合わせることにより、横すべり角を推定する手法が示されている。車両パラメータは、車両の質量、車両の重心から前車軸までの距離、及び重心から後車軸までの距離、コーナリングパワーなどである。
【0003】
特許文献2には、車速とヨーレートの乗算値に対して、車両パラメータに相当する係数をさらに乗算することによって、横すべり角を推定する装置が記載されている。非特許文献1の13項~19項には、車両パラメータを正規化して取り扱うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3368713号公報
【特許文献2】特開2023-23180号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「自動車の操縦性安定性の基本設計とこれに基づくシャシー制御に関する研究」山本真規、東京大学、博士論文 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の構成では、車両パラメータの正しい値が必要である。横すべり角の算出に使用する車両パラメータの値が、実際の値とずれていると、横すべり角の誤差が増大する。また、横すべり角は、走行路の横断勾配(いわゆるカント)の影響を受けうる。特許文献1、2等に開示の算出方法では、横断勾配の影響が考慮されていない。
【0007】
本開示は、上記の検討又は着眼点に基づいて成されたものであり、その目的の1つは、より適正に横すべり角を算出可能な横すべり角算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される横すべり角算出装置は、車載センサの出力信号に基づいて、車両の車速(V)、回転角速度(ω)、及びロール角(φ)を取得する通信部(14)と、車両のホイールベースの想定値(L)と、ホイールベースの想定値に対する後輪軸から重心までの距離の比率を表す重心パラメータ(d)と、正規化されたコーナリングパワー(C)と、重力加速度(g)と、を記憶している記憶部(25)と、走行路の横断勾配による横すべり角(β)への影響を補正するための変数である勾配パラメータ(k)の値を、ロール角(φ)に応じて調整する調整部(22)と、車速(V)、回転角速度(ω)、ロール角(φ)、ホイールベースの想定値(L)、重心パラメータ(d)、コーナリングパワー(C)、勾配パラメータ(k)、及び、重力加速度(g)を用いて、横すべり角(β)を算出する算出部(23)と、を備え、算出部は、車速(V)と回転角速度(ω)の乗算値である第1乗算値と、ロール角(φ)と重力加速度(g)の乗算値である第2乗算値と、勾配パラメータ(k)とに基づいて、車両の横方向に作用する力に関連する第1パラメータを算出し、車速(V)とホイールベースの想定値(L)と、重心パラメータ(d)と、重力加速度(g)と、コーナリングパワー(C)とをもとに、第1パラメータを横すべり角に近似させる係数である第2パラメータを算出し、第1パラメータに第2パラメータを乗じることで横すべり角を算出するように構成されている。
【0009】
上記の構成によれば、第1パラメータを構成する勾配パラメータ(k)の値が、ロール角に応じて変更される。車両のロール角は、横断勾配に由来するパラメータである。よって、上記構成によれば、横断勾配の影響を考慮した、より適正な横すべり角が算出可能となる。
【0010】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】横すべり角算出装置の構成を示すブロック図である。
図2】横すべり角算出装置の機能ブロック図である。
図3】旋回時に車両に作用する横向きの力を示す図である。
図4】他の実施形態における横すべり角算出装置の機能ブロック図である。
図5】第3算出モジュールの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。以下に開示される構成は、要旨を逸脱しない範囲内で部分的に変更されてよい。本開示に含まれる複数の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施されてよい。本開示には、複数の変形例を組み合わせてなる明示されていない構成も含まれる。以下の説明においては、同一の機能を有する部材に対し、同一の符号を付し、その具体的説明を省略することがある。構成の一部のみに言及している場合、他の部分については他の箇所に記載の説明が適用されてよい。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る横すべり角算出装置10の構成を示すブロック図である。横すべり角算出装置10は、車載装置からの入力信号をもとに横すべり角βを算出するコンピュータである。横すべり角算出装置10は、プロセッサ11、メモリ12、ストレージ13、通信インターフェース14を含む。また、横すべり角算出装置10は、IC(Integrated Circuit)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)を含んでいて良い。以降における車両とは、横すべり角算出装置10が搭載されている車両と解されて良い。
【0014】
プロセッサ11は、他の車載装置から受信したデータに基づく演算処理を行う構成である。プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)などであってよい。メモリ12は書き換え可能な揮発性の記憶媒体である。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)であってよい。メモリ12は、他の車載装置からの受信データ、及び、プロセッサ11の算出結果、プログラム等を一時的に保持するための構成要素であってよい。
【0015】
ストレージ13は、書き換え可能な不揮発性メモリである。ストレージ13は、例えば、半導体メモリ、磁気媒体及び光学媒体等のうち少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)を用いて実現されている。ストレージ13は、ROM(Read Only Memory)とフラッシュメモリ等、複数種類の記憶媒体を含んでいてよい。ストレージ13には、プロセッサ11によって実行される横すべり角算出プログラムが格納されている。横すべり角算出プログラムは、図2にブロックとして示す横すべり角算出装置10が有する機能の内、少なくとも一部を実現するためのプログラムであってよい。プロセッサ11が横すべり角算出プログラムを実行することは、横すべり角算出方法が実行されることに相当する。
【0016】
通信インターフェース14は、プロセッサ11が他の車載装置と通信するための回路モジュールである。通信インターフェース14は、車両内ネットワークの通信規格に準拠したPHYチップ等を含んでいてよい。通信インターフェース14が通信部に相当する。
【0017】
横すべり角算出装置10は、ヨーレートセンサ1、車速センサ2、姿勢推定器3、及び横すべり防止装置4のそれぞれと通信接続されている。横すべり角算出装置10とヨーレートセンサ1等との間には、他のECU(Electronic Control Unit)が介在していても良い。横すべり角算出装置10は、ヨーレートセンサ1、車速センサ2、及び姿勢推定器3の出力信号を受信する。横すべり角算出装置10は、必要に応じて、上記のセンサ等に加えて、もしくは代わりに他のセンサ等からの信号を取り込むように構成されていても良い。ヨーレートセンサ1、車速センサ2、姿勢推定器3などが車載センサに相当する。
【0018】
ヨーレートセンサ1は、車両の旋回方向における回転角速度(ヨーレート)ωを検出するセンサである。ヨーレートセンサ1は、3つの検出軸を有するジャイロセンサであっても良い。ヨーレートセンサ1の出力信号は、バンドパスフィルタを介して、横すべり角算出装置10に入力されて良い。バンドパスフィルタブロックは、ヨーレートωに重畳している高周波ノイズ及び低周波ノイズを除去するための回路である。
【0019】
車速センサ2は、車両の走行速度(以降、車速)Vを示す信号を出力するセンサである。車速センサ2は、車両の車輪が回転する速度を検出する、いわゆる車輪速センサであってよい。車速センサ2は、例えば、外周に複数の歯が形成されたロータと電磁ピックアップとを用いて実現されていて良い。なお、車速センサ2は、上述した形式のものに限らず、他の形式のセンサであっても良い。
【0020】
姿勢推定器3は、車両の姿勢を推定する装置である。姿勢推定器3は、例えば車両のロール角φを推定する。また、姿勢推定器3は、車両のピッチ角も推定可能に構成されていて良い。姿勢推定器3は、ロール角φなど、車両姿勢の推定結果を示すデータを、横すべり角算出装置10に出力する。ロール角φを示す姿勢推定器3の出力信号は、バンドパスフィルタを介して、横すべり角算出装置10に入力されて良い。バンドパスフィルタブロックは、ロール角φに重畳している高周波ノイズ及び低周波ノイズを除去するための回路である。
【0021】
車両姿勢は、多様な方法で推定(演算)されてよい。また、姿勢推定器3は、ロケータや、ナビゲーション装置、慣性計測ユニット(IMU:Inertial Measurement Unit)などであってよい。本実施形態では一例として姿勢推定器3は、ロケータとする。
【0022】
ロケータは、自車両の挙動に関する複数種類のセンサデータを組み合わせる複合測位により、自車両の高精度な位置情報を生成する装置である。ロケータは、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機と、地図記憶装置と、慣性センサと、を含んでいて良い。GNSS受信機は、GNSSを構成する測位衛星から送信される航法信号を受信することで、当該GNSS受信機の現在位置を算出するデバイスである。地図記憶装置は、道路形状及び道路網を示す地図データを記憶している装置である。地図データは道路区間ごとの道路の曲率および横断勾配(いわゆるカント)に関するデータを含んでいて良い。横断勾配は、角度、ラジアン、又は百分率で表現されていてよい。なお、地図記憶装置は任意の要素であって省略されても良い。慣性センサは、3次元の慣性運動を検出するセンサである。慣性センサは、3軸加速度センサと、3軸ジャイロセンサとを含んでいてよい。前述のヨーレートセンサ1は、ロケータの慣性センサと統合されていても良い。
【0023】
姿勢推定器3としてのロケータは、慣性センサの出力をもとに車両の移動方向及び移動量を逐次算出し、過去の推定位置に当該算出結果を組み合わせることでの現在位置を特定する、いわゆるデッドレコニング処理を実行する。慣性センサの出力をもとに生成される単位時間当りの移動量情報は、車速Vに相当する。ロケータは、GNSS受信機で観測されるドップラ速度をもとに車速Vを推定して良い。横すべり角算出装置10は、ロケータから車速Vを取得しても良い。横すべり角算出装置10は、車速センサ2によって検出される車速Vを、GNSS受信機/ロケータで取得される速度情報に基づいて補正して用いても良い。また、姿勢推定器3としてのロケータは、慣性センサの検出値をもとに、車両のロール角φを算出する。
【0024】
なお、姿勢推定器3は、地図上における自車位置に基づいて自車両が走行している道路の横断勾配を特定し、当該横断勾配をロール角φとして横すべり角算出装置10に出力しても良い。加えて、姿勢推定器3は、前方カメラで撮像される1つまたは複数のランドマークの画像フレーム内における位置の経時的な変化量に基づいて、車速V、ヨーレートω、及びロール角φの何れかを特定するように構成されていても良い。前方カメラは車両前方を撮像する車載カメラである。ランドマークとは、例えば、交通標識などの看板や、白線などの路面標示であってよい。
【0025】
横すべり防止装置4は、横すべり防止制御を実行する装置である。横すべり防止制御は、車両を減速させることを含んでいてよい。また、横すべり防止制御は、操舵角を自動制御することを含んでいても良い。横すべり防止装置4は、横すべり角算出装置10から入力される横すべり角βが所定値以上となったことを受けて、減速制御又は所定の操舵制御を実行する。なお、横すべり防止装置4は、横すべり角βを使用する装置の一例である。横すべり防止装置4は任意の要素であって省略されて良い。
【0026】
横すべり角算出装置10は、図2に示すように、機能ブロックとしてシーン判定部21、変数調整部22、算出部23、及び、出力値決定部24を備える。横すべり角算出装置10は、ホイールベースの想定値L、重心パラメータd、正規化されたコーナリングパワーC、及び、重力加速度gといった、横すべり角βの算出に必要な設計パラメータを記憶している記憶部25を備える。記憶部25は、メモリ12又はストレージ13の一部を用いて実現されていて良い。
【0027】
ホイールベースの想定値Lは、前車軸と後車軸の距離の想定値である。車両が乗用車である場合、ホイールベースの想定値Lは、2.5m、3.0m、又は3.5mなどに設定されていて良い。重心パラメータdは、ホイールベースの想定値Lに対する、後輪軸から車両重心までの距離の比率を表すパラメータである。重心パラメータdは、前輪についての前後軸重配分比と解されて良い。静止時における前輪の荷重をW、後輪の荷重をWとすると、d=W/(W+W)の関係を有する。W及びWは適宜設計されて良い。車両が乗用車である場合、重心パラメータdは、0.5、0.55、0.6などに設定されていて良い。重心パラメータdは、非特許文献1におけるパラメータdに対応している。
【0028】
正規化されたコーナリングパワーCは、コーナリングパワーを車輪にかかる荷重で除算したパラメータである。本開示におけるコーナリングパワーCは、後輪のコーナリングパワーと解されて良い。コーナリングパワーCは、非特許文献1におけるコーナリングパワーCに相当する。重力加速度gは9.8(m/sec^2)に設定されていて良い。記憶部25に保存されているデータは、シーン判定部21及び算出部23によって参照される。
【0029】
シーン判定部21は、車速Vに基づいて、走行シーンを、停車中と走行中に分けて判別する。走行シーンは走行状態と言い換えられて良い。走行中は、直進状態と旋回状態とその他に区分される。直進状態は、車両が直進している状態である。旋回状態は、車両が旋回している状態である。シーン判定部21は、ヨーレートω、又は、ステアリングセンサによって検出される操舵角に基づいて、現在が直進状態か旋回状態かを判定してよい。
【0030】
シーン判定部21は、ヨーレートωが所定値未満、又は、操舵角が所定値未満である場合、現況は直進状態と判定して良い。また、シーン判定部21はヨーレートωが所定値以上、又は操舵角が所定値以上である場合、現況は旋回状態と判定して良い。シーン判定部21は、現況は直進状態と判定している場合、出力値決定部24に対し、横すべり角βを0に設定するように指示する信号を出力して良い。
【0031】
さらに、シーン判定部21は、ロール角φ及び車速Vの何れか一方又は両方に基づいて、旋回状態を、第1旋回状態と、第2旋回状態と、第3旋回状態と、第4旋回状態とに区別する。第1旋回状態は、横断勾配がない(つまり平坦な)路面を旋回している状態である。交差点などにおける右左折、及び、平坦な路面での車線変更を実施している状態が第1旋回状態に相当する。
【0032】
本実施形態のシーン判定部21は、ロール角φを横断勾配とみなして取り扱う。横すべり角算出装置10が使用するロール角φは、前述の通り、デッドレコニング処理、地図データの参照、又はカメラ映像の解析に基づいて特性されたものであって良い。シーン判定部21は、ヨーレートωが所定値以上、又は操舵角が所定値以上であり、且つ、ロール角φが0である場合、第1旋回状態と判定してよい。ロール角φが0である場合とは、ロール角φが0とみなせるほど十分に小さい場合、つまり約0である場合を含む。ロール角φが0である場合は、ロール角φが勾配閾値ThC未満である場合と解されてもよい。勾配閾値ThCは、1.0°、1.5°、2.0°、又は2.5°などに対応する値に設定されていて良い。なお、ロール角φは適宜、ラジアン(rad)の単位に変換して取り扱われて良い。
【0033】
第2旋回状態は、横断勾配が勾配閾値ThC以上である道路を、第1速度閾値Vth1以上、第2速度閾値Vth2未満の速度で旋回している状態である。第1速度閾値Vth1は、5km/h、10km/hなどに設定されていて良い。第2速度閾値Vth2は、20km/h、30km/h、又は40km/hなどに設定されていて良い。第2旋回状態は、横断勾配がある道路を、所定範囲の速度で旋回中である状態に相当する。第2旋回状態を規定する速度の範囲は、旋回方向の内側にも外側にも、横すべり角が生じない範囲に設定されていて良い。高速道路と一般道路とをつなぐ道路、あるいは、2つの高速道路をつなぐ道路(いわゆるランプウェイ)を、低速~法定速度で走行している状態が第2旋回状態に相当する。シーン判定部21は、ヨーレートω(又は操舵角)が所定値以上、且つ、φ≧ThC、且つ、Vth1<V<Vth2である場合に、第2旋回状態と判定して良い。
【0034】
このような第2旋回状態は、旋回に伴う向心力が重力の斜面平行成分F1によって提供され、旋回の内側方向へも外側方向へも横すべり角βが生じない状態であってよい。向心力が重力の斜面平行成分F1によって提供されている場合とは、換言すれば、斜面平行成分F1が遠心力F2よりも大きい場合と解されて良い。なお、車両の質量をm、旋回半径をrとするとき、重力の斜面平行成分F1=mg・sinφ=mgφであり、遠心力F2はmV^2/r=mωVである。図3は横断勾配がある路面を旋回する時に車両に作用する横方向の力(つまり横力)を概念的に示している。第2旋回状態は、gφ≧ωV>0の関係を有する状態と解されて良い。なお、図3においては、垂直抗力、及び、路面摩擦力等の図示を省略している。
【0035】
第3旋回状態は、横断勾配が勾配閾値ThC以上である道路を、第2速度閾値Vth2以上の速度で旋回している状態である。シーン判定部21は、ヨーレートω(又は操舵角)が所定値以上、且つ、φ≧ThC、且つ、V≧Vth2である場合に、第3旋回状態と判定して良い。第3旋回状態は、横すべり角βが生じる状態、つまり遠心力F2が斜面平行成分F1よりも大きくなりうるシーンと解されて良い。
【0036】
第4旋回状態は、横断勾配が勾配閾値ThC以上である道路を、第1速度閾値Vth1未満の速度で旋回している状態である。第4旋回状態は、内側への横すべり角が生じうる状態、換言すれば、ドライバは旋回方向とは反対方向にハンドルを切る必要がある状態に相当する。なお、第1速度閾値Vth1及び第2速度閾値Vth2の両方又は何れか一方は、ロール角φに応じて調整されても良い。ロール角φが大きいほど、第1速度閾値Vth1及び第2速度閾値Vth2は大きい値に設定されても良い。また、ロール角φが所定値未満である場合、第1速度閾値Vth1は0に設定されても良い。Vth1=0とするロール角φに対する閾値は、勾配閾値ThCの2倍や3倍など、勾配閾値ThCよりも大きい値に設定されていてよい。換言すれば、通常の道路においてはVth1=0にするように横すべり角算出装置10は構成されていても良い。
【0037】
シーン判定部21の判定結果は、旋回状態にかかる判定結果を変数調整部22に出力する。具体的にはシーン判定部21は、現況が直進状態、第1旋回状態、第2旋回状態、及び第3旋回状態の何れに該当するかを示す信号を変数調整部22に出力する。
【0038】
変数調整部22は、シーン判定部21の判定結果に基づいて、勾配パラメータkの値を調整するブロックである。勾配パラメータkは、算出部23が横すべり角βを算出する際に使用するパラメータの1つである。勾配パラメータkは、走行路の横断勾配による横すべり角βへの影響を補正するための変数と解されて良い。変数調整部22の作動については、算出部23の作動と合わせて説明する。変数調整部22は、シーン判定部21の判定結果に応じた勾配パラメータkの値を、算出部23に入力する。変数調整部22はシーン判定部21と統合されていても良い。
【0039】
算出部23は、車速V、ヨーレートω、ロール角φ、ホイールベースの想定値L、重心パラメータd、コーナリングパワーC、勾配パラメータk、及び、重力加速度gを用いて、横すべり角βを算出するブロックである。算出部23は、次の式1、2を用いて横すべり角βを算出する。式1aは、式2で定義される変換係数Gを式1に代入したものである。ロール角φはラジアンで表現されている。式3に示すαは、式1においてGに乗算する要素である。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
便宜上、本開示では次の式3で表現されるαを横力関連値と記載する。横力関連値αが第1パラメータに相当する。横力関連値αを構成するωV-gφは、遠心力F2から斜面平行成分F1を減算した値を質量mで除算したものである。車速Vとヨーレートωの乗算値である第1乗算値(ωV)は遠心力F2に由来する成分である。重力加速度gとロール角φの乗算値である第2乗算値(gφ)は、斜面平行成分F1に由来する成分である。第1乗算値と第2乗算値の差であるωV-gφは、タイヤと路面との摩擦を無視した場合において、車両が外側に滑ろうとする力(実際には加速度)に対応する要素と解されて良い。便宜上、ωV-gφを差分横加速度とも称する。
【0045】
変換係数Gは、車両に作用する横加速度を横すべり角βに変換するためのパラメータである。変換係数Gが第2パラメータに相当する。変換係数Gは、単位横加速度当りの定常スリップ角ゲインに相当する。本開示の開発者らは、1つの検討構成として、差分横加速度(ωV-gφ)に変換係数Gを乗じることで、横すべり角を算出することを検討した。その結果、開発者らは、(ωV-gφ)・Gによる横すべり角の推定値は、横断勾配や、車速V、路面摩擦係数、又はその他の要因の影響を受けて、真値と乖離するケースがあるといった知見を得た。
【0046】
勾配パラメータkは、上記の知見に基づいて導入されたパラメータである。変数調整部22は、推定値と真値との誤差を低減するように、車両の走行状態に応じて勾配パラメータkの値を変更する。具体的には変数調整部22は、直進状態、第2旋回状態、又は停車中である場合には、k=gφ-ωVに設定する。直進状態、停車中、第2旋回状態である場合、横すべり角βは0となるべきである。k=gφ-ωVに設定することにより、α=0となるため、算出部23の算出結果(つまり横すべり角β)が不適正な値となることを低減できる。
【0047】
なお、直進状態では、理想的にはφ=0、ω=0となる。そのため、kは一定値(0)であっても、α=0となりうる。しかしながら、実際には、センサの出力値にはノイズが重畳したり、誤差が含まれていたりする。そのため、直進状態であってもφ≠0、ω≠0となることがある。その結果、直進状態においてk=0に設定すると、実環境においてはα≠0となる。そのような課題に対し、k=gφ-ωVとすることにより、直進状態において算出部23が横すべり角βとして非ゼロの値を出力する恐れを低減できる。
【0048】
また、停車中もまたβ=0、実態的にはα=0となる必要がある。停車中はV=0であるため、αの第2項である‐gφ成分をkにて打ち消す必要がある。k=gφ-ωVに設定することにより、停車中においてもα=0となり、算出部23が非ゼロの値を出力する恐れを低減できる。なお、他の態様として、停車中及び直進状態においては、出力値決定部24の出力値、つまり最終的な横すべり角βの推定値を強制的に0に設定する構成においては、停車中及び直進状態におけるkは任意の値であって良い。
【0049】
また、変数調整部22は、第1旋回状態である場合には、k=0に設定する。第1旋回状態である場合、すなわちカントがない状況においては、横すべり角βは横断勾配の影響を受けない。よって、k=0であってよい。なお、カントがない状況においてはφ=0となるため、gφ成分も0となり、β=ωV・Gによって算出される事となる。0が勾配パラメータkにとっての基本値に相当する。
【0050】
さらに、変数調整部22は、現況が第3旋回状態である場合、kを0ではない所定値に設定する。例えば変数調整部22は、現況が第3旋回状態である場合、kを-0.05、-0.10、又は-0.15など、0よりも小さい値に設定する。他の態様において、変数調整部22は、現況が第3旋回状態である場合、kを0.05、0.08、又は0.10等といった、0よりも大きい値に設定してもよい。現況が第3旋回状態である場合におけるkの値は、推定値と真値との誤差を小さくするように試験/シミュレーションに基づいて決定されて良い。
【0051】
また、変数調整部22は、現況が第4旋回状態である場合、kを0ではない所定値に設定して良い。なお、第3旋回状態である場合に適用されるkの値である第1設定値は、第4旋回状態である場合に適用されるkの値である第2設定値と異なっていて良い。第2設定値もまた、推定値と真値との誤差を小さくするように試験/シミュレーションに基づいて決定されて良い。
【0052】
なお、シーン判定部21による走行シーンの判定結果は、ロール角φに応じて定まる。よって、走行状態の判定結果に応じて勾配パラメータkの設定を変更することは、ロール角φに応じて勾配パラメータkの設定を変更することに対応する。他の実施形態において変数調整部22は、走行シーンの判定結果を用いずに、ロール角φ、又は、ロール角φと車速Vの組み合わせに応じて勾配パラメータkを変更するように構成されていてもよい。
【0053】
変数調整部22は、φ=0である場合にはk=0に設定し、φ>0である場合には、第1乗算値(ωV)と第2乗算値(gφ)の大小関係に応じて、勾配パラメータkを変更して良い。具体的には、φ>0且つωV<gφである場合にはk=gφ-ωVに設定し、φ>0且つωV≧gφである場合には、kを非ゼロの所定値に設定して良い。なお、φ>0且つωV<gφである場合は、ωV/g<φの場合と解されてよい。また、φ>0且つωV≧gφである場合とはωV/g≧φ>0の場合と解されて良い。
【0054】
出力値決定部24は、横すべり防止装置4などといった、他の装置に出力する横すべり角βの値を決定する構成である。出力値決定部24は、算出部23が算出した横すべり角βが所定の上限値以上である場合、所定のエラー値を出力するように構成されていて良い。上限値は、例えば0.3や0.4などであってよい。エラー値は、上限値、上限値よりも所定量小さい値、又は不定を表す所定値であって良い。出力値決定部24は、算出部23が算出した横すべり角βが上限値未満である場合、つまり正常な範囲に収まっている場合には、算出部23が算出した横すべり角βを出力してよい。便宜上、出力値決定部24が出力する横すべり角βの値を、横すべり角出力値βoと記載する。
【0055】
以上の構成によれば、勾配パラメータkの値が走行シーンに応じて動的に変更されることにより、横すべり角βの推定値が真値からずれる恐れを低減できる。換言すれば、横すべり角βの推定精度を高めることができる。
【0056】
また、コーナリングパワーCなどの車両パラメータは、車両が工場を出荷された後に変動しうる。よって、厳密な車両パラメータを用いて横すべり角を推定する構成では、経時的に横すべり角の推定精度が劣化しうる。推定精度に対する、工場出荷後における車両パラメータの変動の影響が大きいためである。そのような課題に対し、上記の推定式では、正規化された車両パラメータ、換言すれば大まかな車両パラメータが用いられる。上記の推定式では、厳密な車両パラメータの値を必要としない。上記構成によれば、車両パラメータの変動による横すべり角の推定精度の劣化を低減できる。その結果、横すべり角βの推定能力の安定性を高められる。
【0057】
<他の実施形態>
横すべり角算出装置10は、他の方法で算出された横すべり角βをもとに、式1、2で使用するコーナリングパワーCの値を更新するように構成されていても良い。例えば横すべり角算出装置10は、図4に示すように、第1算出モジュール20及び出力値決定部24に加えて、第2算出モジュール30、第3算出モジュール40、VP調整部50、及びガード値設定部60を含んでいてよい。部材名称中の「VP」は車両パラメータ(Vehicle Parameters)の略である。VP調整部50は車両パラメータ調整部と言い換えられて良い。
【0058】
第1算出モジュール20は、前述のシーン判定部21、変数調整部22、及び算出部23を含むモジュールである。第1算出モジュール20は、上記式1、2を用いて横すべり角βを推定するモジュールと解されて良い。以下では、第1算出モジュール20が算出する横すべり角βを第1推定値とも記載する。第1算出モジュール20に含まれる算出部23が第1算出部に相当する。シーン判定部21の判定結果は、第2算出モジュール30、第3算出モジュール40、VP調整部50、及びガード値設定部60にも提供されて良い。
【0059】
第2算出モジュール30は、ヨーレートωと車速Vの乗算値ωVに、近似係数Kvを乗算することにより、横すべり角βを推定するモジュールである。近似係数Kvは、前述の変換係数Gとは異なるパラメータである。第2算出モジュール30が使用する近似係数Kvは、第3算出モジュール40の算出結果を用いて動的に決定される。第2算出モジュール30が第2算出部に相当する。
【0060】
第3算出モジュール40は、一般的に知られている横すべり角微分の数式5に従って横すべり角の微分値dβを算出し、当該微分値dβを積分することにより、横すべり角βを算出するモジュールである。第3算出モジュール40が第3算出部に相当する。
【0061】
【数5】
第3算出モジュール40は、具体的には図5に示すように、除算器41、減算器42、及び積分器43を含む。除算器41は、加速度センサによって検出される横加速度aを車速Vで除算する構成要素である。除算器41の出力値であるa/Vは進行角速度と言い換えられて良い。なお、加速度センサの検出軸は、地面に対して水平となるように車両に設置される。このため、車両が旋回中にロールして加速度センサの検知軸が水平方向から傾くと、加速度センサの検出値は、車両の運動によって車両の横方向に作用する加速度に加えて、重力成分を含んだ値となりうる。そのような事情を鑑みて、横すべり角算出装置10は、ロール角φ又はヨーレートωに基づいて、加速度センサによって検出された横加速度aから重力成分を除去して用いるように構成されていて良い。
【0062】
減算器42は、除算器41の出力(a/V)からヨーレートωを減算する構成である。減算器42の出力(a/V-ω)は、式4で表されるように横すべり角βの微分値dβに相当する。積分器43は、減算器42の出力を積分することにより横すべり角βを算出する構成である。便宜上、積分器43ひいては第3算出モジュール40が算出する横すべり角βを第3推定値β3とも記載する。
【0063】
第3算出モジュール40は、シーン判定部21にて旋回状態であると判定されているときのみ、微分値dβ及び第3推定値β3を繰り返し算出し、第2算出モジュール30に出力する。微分値dβ及び横すべり角βの算出間隔は、数10ミリ秒などであってよい。
【0064】
第2算出モジュール30は、車両が旋回している間に第3算出モジュール40にて繰り返し算出される複数の第3推定値のうちの最大値である最大第3推定値を特定する。また、第2算出モジュール30は、車両が旋回している間、車速Vとヨーレートωの乗算値(つまり第1乗算値)を繰り返し算出し、旋回中における第1乗算値の最大値である最大第1乗算値を取得する。そして、第2算出モジュール30は、最大第3推定値を最大第1乗算値で除算した値を、近似係数Kvとして採用する。近似係数Kvは、第1乗算値(ωV)を横すべり角βに近似させる係数である。近似係数Kvは、多様な車両パラメータを丸めこんだ(包括的な)パラメータと解されて良い。近似係数Kvは、特許文献2における車両パラメータ(K)に対応する。近似係数Kvのより詳細な算出方法は、特許文献2に開示されている方法が援用されて良い。特許文献2及び非特許文献1に開示の内容は、参照により本開示に組み込まれてよい。
【0065】
第2算出モジュール30はいったん近似係数Kvを決定すると、横すべり角算出装置10は、シーン判定部21にて旋回状態であると判定されている間、近似係数Kv、車速V、及びヨーレートωをそれぞれ乗じることによって第2推定値β2を繰り返し算出する。第2算出モジュール30は、第2推定値β2を出力値決定部24及びVP調整部50に逐次出力する。本開示では第2算出モジュール30と第3算出モジュール40とを含む構成を、係数自動適応システムとも称する。係数自動適応システムは、近似係数Kvを動的に算出及び更新するシステムである。
【0066】
VP調整部50は、第1推定値β1と第2推定値β2との差が一定である状態が所定時間継続したことに基づいて、式2で使用するコーナリングパワーCの設定値を変更するモジュールである。ここでの一定とは、略一定と解されて良い。VP調整部50は、第1推定値β1と第2推定値β2との差が一定である状態が所定時間継続した場合、第1推定値β1が第2推定値β2と一致するように、コーナリングパワーCを調整する。VP調整部50は、算出部23のための構成である。そのため、VP調整部50に相当する機能は、算出部23が備えていても良い。換言すればVP調整部50は、第1算出部としての算出部23に内在していても良い。
【0067】
なお、第2推定値β2は、センサの検出精度の影響を受けうる。ヨーレートセンサ1及び車速センサ2の精度が劣化するようなシーンにおける第2推定値β2は、相対的に大きな誤差を含みうる。よってそのようなシーンにおいては、第2推定値β2に基づくコーナリングパワーCの調整は中止されて良い。例えば、車速Vが不安定な状態(加速中、減速中)においては、第2推定値β2に基づくコーナリングパワーCの調整は中止されて良い。
【0068】
VP調整部50は、車両挙動が特定の更新条件を充足しているときにのみ、第2推定値β2に基づくコーナリングパワーCの調整を行うように構成されていてよい。更新条件は、ヨーレートセンサ1及び車速センサ2の値が高精度となるシーンを規定するものであってよい。例えば車速V及びヨーレートωがともに、所定の範囲で安定している場合などであってよい。GNSS受信機が複数のGNSS衛星からの信号を受信している場合、ロケータはそれらの信号をもとに車速V及びヨーレートωを高精度に推定可能となりうる。よって、VP調整部50は、GNSS受信機が複数のGNSS衛星からの信号を受信している場合、更新条件が成立していると判定しても良い。
【0069】
ガード値設定部60は、操舵角θと車速Vとに基づいて、出力値決定部24が出力可能な横すべり角βの上限値を変更する構成である。横すべり角βの上限値はガード値と言い換えられて良い。ガード値設定部60は、車速Vが大きいほど、上限値を大きくする。換言すれば、ガード値設定部60は車速Vが小さいほど上限値を小さくする。また、ガード値設定部60は、操舵角θが小さいほど上限値を小さくして良い。他の態様として、ガード値設定部60は、車速Vと操舵角θの乗算値(θV)に応じて上限値を調整して良い。例えばガード値設定部60は、車速Vと操舵角θの乗算値が小さいほど上限値を小さくしてよい。ガード値設定部60は、操舵角θと車速Vとに基づいて、上限値だけでなく、下限値も変更可能に構成されていても良い。
【0070】
出力値決定部24は、旋回状態である場合、基本的には第1推定値β1を横すべり角出力値βoとして採用する。ただし、出力値決定部24は、ガード値設定部60が設定する上限値に第1推定値β1が達している場合、当該上限値を横すべり角出力値βoとして採用する。
【0071】
以上の横すべり角算出装置10は、第1推定値β1の算出に使用するコーナリングパワーCの値と第2推定値β2に基づいて補正する。これにより、横すべり角βの推定精度をより一層高めることができる。また、上記の横すべり角算出装置10は、操舵角θと車速Vとに基づいて横すべり角βの上限値を調整する。これにより横すべり角出力値βoとして不適正な値が出力される恐れを低減できる。
【0072】
なお、横すべり角算出装置10が生成する横すべり角出力値βoは、デッドレコニング処理や、自動運転など、多様な処理/制御に使用されて良い。また、第2算出モジュール30における横すべり角βの算出方法は、上記の方法に限定されない。第2算出モジュール30は、GNSS衛星とGNSS受信機との相対速度であるGNSSドップラを用いて、横すべり角の推定に必要なパラメータを推定し、横すべり角を決定するモジュールであってもよい。また、第2算出モジュール30は、カメラ映像を解析することで定まる自車両の移動方向と、ヨーレートセンサ1の出力から定まる移動方向との差から、横すべり角βを推定するよう構成されていても良い。
【0073】
その他、シーン判定部21は必ずしも、旋回状態を第1~第4旋回状態に区分して判定しなくとも良い。第4旋回状態は、カントが大きい特殊な道路を走行しているときにしか生じない。よって、第4旋回状態の判定は省略されても良い。換言すれば、第4旋回状態は第1旋回状態に統合されていてもよい。
【0074】
算出部23は、車速Vに応じて、変換係数Gを規定する式を変更しても良い。車速Vが小さいと、式2の第1項(LD/V)が第2項(1/gC)に比べて十分に大きくなる。よって、車速Vが十分小さい場合には、第2項は省略可能となる。例えば、算出部23は、車速Vが閾値Va未満である場合には、第2項を省略してなる以下の式2aによって定まる変換係数Gを用いて横すべり角βを算出してもよい。車速Vに応じて変換係数Gの定義式を変更する構成によれば、算出部23の処理負荷を低減できる。なお、算出部23は、車速Vが閾値Va以上である場合には上述した式2によって定まる変換係数Gを用いて横すべり角βを算出する。閾値Vaは、18km/h(5m/s)や、20km/h(5.5m/s)、22km/h(約6m/s)などに設定されていて良い。
【数6】
【0075】
<付言>
横すべり角算出装置10が或るデータを取得することには、横すべり角算出装置10が他の装置/センサから入力された信号を元に当該データを生成することも含まれてよい。機能配置は適宜変更されて良い。横すべり角算出装置10は、複数の装置に細分化されていて良い。横すべり角算出装置10の一部の機能は、別の装置が備えていても良い。本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。プロセッサは、CPUや、MPU、GPU、DFP(Data Flow Processor)など、任意の演算コアであってよい。横すべり角算出装置10が備える機能の一部又は全部は、ハードウェアとして実現されても良い。横すべり角算出装置10が備える機能の一部又は全部は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)、IC、及びFPGAの何れかを用いて実現されていてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションを含む。コンピュータプログラムは、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に記憶されていてよい。コンピュータプログラムの記録媒体は、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等、多様な媒体であってよい。
【符号の説明】
【0076】
10 横すべり角算出装置、11 プロセッサ、12 メモリ、13 ストレージ、14 通信インターフェース(通信部)、21 シーン判定部、22 変数調整部(調整部)、23 算出部、24 出力値決定部、25 記憶部、20 第1算出モジュール、30 第2算出モジュール(第2算出部)、40 第3算出モジュール(第3算出部)、50 VP調整部
図1
図2
図3
図4
図5