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特開2024-179237監視装置、監視方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179237
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】監視装置、監視方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241219BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241219BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20241219BHJP
   B64U 50/19 20230101ALI20241219BHJP
   B64U 80/20 20230101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
B64D27/24
B64U50/19
B64U80/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097930
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 周平
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA05
5G503AA07
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503DA07
5G503EA08
5H030AA10
5H030FF32
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】飛行の安全性を高めること。
【解決手段】監視装置50は、eVTOLに搭載された電池14を監視する。監視装置50は、取得部51と、出力部53を備えている。取得部51は、飛行時における電池14の電圧情報と、eVTOLの移動モードに関する情報を取得する。出力部53は、電圧情報と、移動モードごとに設定される閾値と、を用いて電池14の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力する。移動モードごとに設定される閾値を用いるため、電池14の異常を早期に検知し、飛行の安全性を高めることができる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動飛行体(10)に搭載された電池(14)を監視する監視装置であって、
飛行時における前記電池の電圧情報と、前記電動飛行体の移動モードに関する情報と、を取得する取得部(51)と、
前記電圧情報と、前記移動モードごとに設定される閾値と、を用いて前記電池の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力する出力部(53)と、
を備える監視装置。
【請求項2】
前記電動飛行体の鉛直方向移動時における前記電池の最大放電レートは、水平方向移動時における最大放電レートの1.5倍以上である、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記鉛直方向移動時の放電レートが3C以上である、請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記移動モードに関する情報として、前記電池の放電特性情報および/または飛行情報を取得する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記移動モードに関する情報として、前記放電特性情報と電池状態情報を取得し、
前記放電特性情報および前記電池状態情報に基づいて、前記移動モードごとに前記閾値を設定する設定部(54)を備える、請求項4に記載の監視装置。
【請求項6】
前記電池状態情報は、電池反応に寄与するイオンの濃度偏りに起因して生じる抵抗増加の情報を含む、請求項5に記載の監視装置。
【請求項7】
前記設定部は、機駐時に実施の電池状態診断により飛行前に更新される前記電池状態情報を用いる、請求項5に記載の監視装置。
【請求項8】
前記設定部は、設定する前記閾値を飛行中の電池状態の変化に基づいて逐次変化させる、請求項5~7いずれか1項に記載の監視装置。
【請求項9】
前記電池は、複数の電池セル(142)を備えて構成される組電池(141)を含み、
前記取得部は、前記電圧情報として、組電池電圧の絶対値、セル電圧の絶対値、前記組電池電圧の変化率、前記セル電圧の変化率、および前記セル電圧のばらつきの少なくともひとつを取得する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項10】
前記取得部は、前記電圧情報として、前記組電池電圧に関する情報と前記セル電圧に関する情報とを、互いに異なる取得対象から取得する、請求項9に記載の監視装置。
【請求項11】
前記組電池電圧と前記組電池内のすべての前記セル電圧を加算した総電圧とを用いて、異常の検知が正常に行われていることを診断する診断部(52)を備える、請求項10に記載の監視装置。
【請求項12】
鉛直方向移動と水平方向移動との移行時の所定期間において、異常の検知を制限、移行前の前記閾値を適用、および前記閾値として前記電池に許容される上限電圧または下限電圧を適用、のいずれかを実行する制限部(52)を備える、請求項1に記載の監視装置。
【請求項13】
電動飛行体(10)に搭載された電池(14)を監視するために、プロセッサ(201)により実行される監視方法であって、
飛行時における前記電池の電圧情報と、前記電動飛行体の移動モードに関する情報と、を取得し、
前記電圧情報と、前記移動モードごとに設定される閾値と、を用いて前記電池の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力する、
ことを含む、監視方法。
【請求項14】
電動飛行体(10)に搭載された電池(14)を監視するために記憶媒体(203)に記憶され、プロセッサ(201)に実行させる命令を含むプログラムであって、
飛行時における前記電池の電圧情報と、前記電動飛行体の移動モードに関する情報と、を取得すること、
前記電圧情報と、前記移動モードごとに設定される閾値と、を用いて前記電池の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力すること、
を実行させる前記命令を含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、監視装置、監視方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電動飛行体の制御方法を開示している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021―172101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電池状態を監視し、短絡などの異常を検知してから回避する処置を実行する。上記した観点において、または言及されていない他の観点において、監視装置、監視方法、およびプログラムにはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示されるひとつの目的は、飛行の安全性を高めることができる監視装置、監視方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示のひとつの態様は、
電動飛行体(10)に搭載された電池(14)を監視する監視装置であって、
飛行時における電池の電圧情報と、電動飛行体の移動モードに関する情報と、を取得する取得部(51)と、
電圧情報と、移動モードごと設定される閾値と、を用いて電池の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力する出力部(53)と、
を備える。
【0007】
電動飛行体が鉛直方向に移動する際、電池には所定の時間、大電流での放電が要求される。つまり、飛行中は電池の放電負荷変動が大きく、電池電圧の変動も激しい。開示の監視装置によれば、移動モードごとに設定される閾値を用いるため、電池の異常を早期に検知することができる。よって、飛行の安全性を高めることができる。
【0008】
開示の他のひとつの態様は、
電動飛行体(10)に搭載された電池(14)を監視するために、プロセッサ(201)により実行される監視方法であって、
飛行時における電池の電圧情報と、電動飛行体の移動モードに関する情報と、を取得し、
電圧情報と、移動モードごとに設定される閾値と、を用いて電池の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力する、
ことを含む。
【0009】
電動飛行体が鉛直方向に移動する際、電池には所定の時間、大電流での放電が要求される。つまり、飛行中は電池の放電負荷変動が大きく、電池電圧の変動も激しい。開示の監視方法によれば、移動モードごとに設定される閾値を用いるため、電池の異常を早期に検知することができる。よって、飛行の安全性を高めることができる。
【0010】
開示の他のひとつの態様は、
電動飛行体(10)に搭載された電池(14)を監視するために記憶媒体(203)に記憶され、プロセッサ(201)に実行させる命令を含むプログラムであって、
飛行時における電池の電圧情報と、電動飛行体の移動モードに関する情報と、を取得すること、
電圧情報と、移動モードごとに設定される閾値と、を用いて電池の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力すること、
を実行させる命令を含む。
【0011】
電動飛行体が鉛直方向に移動する際、電池には所定の時間、大電流での放電が要求される。つまり、飛行中は電池の放電負荷変動が大きく、電池電圧の変動も激しい。開示のプログラムによれば、移動モードごとに設定される閾値を用いるため、電池の異常を早期に検知することができる。よって、飛行の安全性を高めることができる。
【0012】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】eVTOLおよび地上局の構成を示す図である。
図2】運航管理システムの機能配置を示す図である。
図3】電池を示す平面図である。
図4図3のIV-IV線に沿う断面図である。
図5】電池セルを示す図である。
図6】電力プロファイルを示す図である。
図7】固定値を用いた場合の異常の検知を示す図である。
図8】監視装置の一例を示す図である。
図9】監視装置の別例を示す図である。
図10】メモリに格納された閾値の一例を示す図である。
図11】設定部により設定される閾値の一例を示す図である。
図12】設定部により設定される閾値の別例を示す図である。
図13】組電池電圧Vbおよびセル電圧Vcを示す図である。
図14】電圧変化率を用いた場合の閾値設定の一例を示す図である。
図15】セル電圧のばらつきを用いた場合の閾値設定の一例を示す図である。
図16】制御方法の一例を示すフローチャートである。
図17】制御方法の別例を示すフローチャートである。
図18】電池電圧の正常な過渡応答による電池電圧の変動の遅れを示す図である。
図19】電池電圧な正常な急変動にともなう電圧変化率の発散を示す図である。
図20】制御方法の別例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて複数の実施形態を説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0015】
以下に示す監視装置、監視方法、およびプログラムは、電動飛行体に適用される。なお、Aおよび/またはBとの記載は、AおよびBの少なくともひとつを意味する。つまり、Aのみ、Bのみ、AとBの両方、を含み得る。
【0016】
(第1実施形態)
電動飛行体は、移動するための駆動源としてモータ(回転電機)を備える。電動飛行体は、電動飛行機、電動航空機などと称されることがある。電動飛行体は、鉛直方向への移動、水平方向への移動が可能である。電動飛行体は、鉛直方向成分および水平方向成分を有する方向、つまり斜め方向への移動が可能である。電動飛行体は、たとえば電動垂直離着陸機(eVTOL)、電動短距離離着陸機(eSTOL)、ドローンなどである。eVTOLは、electronic Vertical Take-Off and Landing aircraftの略称である。eSTOLは、electronic Short distance Take-Off and Landing aircraftの略称である。
【0017】
電動飛行体は、有人機、無人機のいずれでもよい。有人機の場合、電動飛行体は、操縦者としてのパイロットにより操縦される。無人機の場合、電動飛行体は、操縦者による遠隔操作により操縦され、あるいは、コントロールシステムにより自動的に制御され得る。一例として本実施形態の電動飛行体は、eVTOLである。
【0018】
<eVTOL>
図1は、eVTOLおよび地上局を示している。図1に示すように、eVTOL10は、機体本体11、固定翼12、回転翼13、電池14、EPU15、およびBMS16などを備えている。
【0019】
機体本体11は、機体の胴体部である。機体本体11は、前後に延びた形状をなしている。機体本体11は、乗員が乗るための乗員室、および/または、荷物を搭載するための荷室を有している。
【0020】
固定翼12は、機体の翼部であり、機体本体11に連なっている。固定翼12は、滑空揚力を提供する。滑空揚力は、固定翼12の生じる揚力である。固定翼12は、主翼121と、尾翼122を有してもよい。主翼121は、機体本体11の前後方向における中央付近から左右に延びている。尾翼122は、機体本体11の後部から左右に延びている。固定翼12の形状は特に限定されない。たとえば後退翼、三角翼、直線翼などを採用してもよい。
【0021】
回転翼13は、機体に複数設けられている。複数の回転翼13の少なくとも一部は、固定翼12に設けられてもよい。複数の回転翼13の少なくとも一部は、機体本体11に設けられてもよい。eVTOL10が備える回転翼13の数は、特に限定されない。回転翼13は、機体本体11および主翼121のそれぞれに複数設けられてもよい。
【0022】
回転翼13は、ロータ、プロペラ、ファンなどと称されることがある。回転翼13は、ブレード131と、シャフト132を有してもよい。ブレード131は、シャフト132に取り付けられている。ブレード131は、シャフト132とともに回転する羽根である。複数のブレード131が、シャフト132の軸線周りに放射状に延びている。シャフト132は、回転翼13の回転軸であり、EPU15のモータによって回転駆動される。
【0023】
回転翼13は、回転により推進力を生じる。推進力は、eVTOL10の離着陸動作時に、主に回転揚力としてeVTOL10に作用する。回転翼13は、離着陸動作時に主として回転揚力を提供する。回転揚力は、回転翼13の回転により生じる揚力である。離着陸動作時において、回転翼13は回転揚力のみを提供してもよいし、回転揚力とともに、前方に進む推力を提供してもよい。回転翼13は、eVTOL10のホバリング時に、回転揚力を提供する。
【0024】
推進力は、eVTOL10の巡航動作時に、主に推力としてeVTOL10に作用する。回転翼13は、巡航動作時に主として推力を提供する。巡航動作時において、回転翼13は推力のみを提供してもよいし、推力とともに揚力を提供してもよい。
【0025】
電池(BAT)14は、回転翼13を回転駆動するための機器である。電池14は、電池パックと称されることがある。電池14は、直流電力を蓄えることが可能であり、充電可能な電池セルを有している。電池14は、複数の電池セルを備えた組電池を少なくともひとつ有している。電池セルは、化学反応によって起電圧を生成する二次電池である。電池セルは、たとえばリチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池などである。電池セルは、電解質が液体の二次電池でもよいし、電解質が固体のいわゆる全固体電池でもよい。電池セルは、電池反応に寄与するイオン(電解質)が電解液および/または固体電解質を介して正負極間を移動することで、電池反応が生じる構成であればよい。eVTOL10は、機器に電力を供給する電源として、電池14に加えて、燃料電池や発電機などを備えてもよい。電池14は、EPU15に電力を供給する。電池14は、空調装置などの図示しない補機、後述するECU20、図示しない揚力調整機構などに電力を供給してもよい。
【0026】
eVTOL10の電池14には、高容量とともに高出力な性能が求められている。このため、高容量かつ高い出力が得られる電池セルが望ましい。出力観点では、幅広いSOC領域で抵抗が低い電池セルが望ましい。特に低SOCの領域においても抵抗が低く、高い出力が得られる電池セルが望ましい。SOCは、State Of Chargeの略称である。
【0027】
電池セルの正極材料としては、たとえばLCO、NMC、NCA、LFP、LMFPを採用することができる。LCOは、コバルト酸リチウム(LiCoO)である。NMCは、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(Li(NiMnCo)O)である。NCAは、リチウムニッケルコバルトアルミネート(Li(NiCoAl)O)である。LFPは、リン酸鉄リチウム(LiFePO)である。LMFPは、リン酸マンガン鉄リチウム(LiFeMnPO)である。LCO、NMC、NCAは、層状化合物である。特に、低SOCの領域で抵抗が低い、LMFPの正極、あるいは、LMFPとNMCとをブレンドした正極が好ましい。
【0028】
電池セルの負極材料としては、たとえばハードカーボンやソフトカーボンなどのカーボン系、シリコン、リチウム系、LTOやNTOなどのチタン系を採用することができる。LTOは、チタン酸リチウム(LiTi12)である。NTOは、ニオブチタン酸化物(TiNb)である。特に、低SOCの領域で抵抗の低い、カーボン系の負極やチタン系の負極が好ましい。
【0029】
EPU15は、eVTOL10に推進力を付与する回転翼13を回転駆動する。EPU15は、回転翼13を回転駆動するための機器である。EPUは、Electric Propulsion Unitの略称である。EPU15が、電動推進装置に相当する。EPU15は、モータを備える。EPU15は、モータに加えてインバータやESCを備えてもよい。ESCは、Electronic Speed Controllerの略称である。EPU15は、回転翼13と同数設けられてもよい。たとえばeVTOL10は、6つのEPU15を備えてもよい。EPU15と回転翼13とは、一対一で接続される。これに代えて、ひとつのEPU15に対して、ギヤボックスを介して2つ以上の回転翼13を接続する構成としてもよい。
【0030】
BMS16は、電池14を構成する単位電池の状態を監視する。BMSは、Battery Management Systemの略称である。BMS16は、電池14の電圧、電流、温度、内部抵抗、SOC、SOH、その他、内圧やガス漏れなど安全性に関わる状態などを監視し得る。SOHは、State Of Healthの略称である。BMS16を、電池14と一体的に設けてもよい。BMS16を、電池14とは別に設けてもよい。BMS16の一部を電池14内に設け、他の一部を電池14外に設けてもよい。
【0031】
BMS16を、組電池に対して個別に設けてもよい。BMS16を、複数の組電池に対してひとつ設けてもよい。BMS16を、すべての組電池にたいしてひとつ設けてもよい。BMS16が複数の場合、すべてのBMS16を統括する機能をBMS16とは別に設けてもよいし、BMS16と一体的に設けてもよい。
【0032】
eVTOL10は、さらにECU20や図示しない補機などを備えている。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。eVTOL10は、図示しない揚力調整機構を備えてもよい。揚力調整機構は、固定翼12の滑空揚力を調整する。揚力調整機構は、固定翼12が生じる滑空揚力を増大させたり、減少させたりする。eVTOL10は、揚力調整機構として、たとえばチルト機構やフラップを備えてもよい。チルト機構は、回転翼13のチルト角を調整するために駆動する。フラップは、可動翼片であり、固定翼12に設けられる。
【0033】
<運航管理システム>
運航管理システムは、運航計画の立案、運航状況の監視、運航に関する情報の収集と管理、運航のサポートなどを行うためのシステムである。運航管理システムの機能の少なくとも一部は、eVTOL10の機内コンピュータに配置されてもよい。運航管理システムの機能の少なくとも一部は、eVTOL10と無線通信可能な外部のコンピュータに配置されてもよい。外部コンピュータは、図1に示すように地上局30のサーバ31でもよい。地上局30は、eVTOL10と無線通信が可能である。地上局30は、地上局同士で無線通信が可能である。
【0034】
一例として本実施形態では、運航管理システムの機能の一部がeVTOL10のECU20に配置され、運航管理システムの機能の一部が地上局30のサーバ31に配置されている。運航管理システムの機能は、ECU20とサーバ31との間で分担されている。
【0035】
図1に示すようにECU20は、プロセッサ(PC)201、メモリ(MM)202、ストレージ(ST)203、および無線通信のための通信回路(CC)204などを備えて構成されている。プロセッサ201は、メモリ202へのアクセスにより、種々の処理を実行する。メモリ202は、書き換え可能な揮発性の記憶媒体である。メモリ202は、たとえばRAMである。RAMは、Random Access Memoryの略称である。ストレージ203は、書き換え可能な不揮発性の記憶媒体である。ストレージ203には、プロセッサ201によって実行されるプログラム(PG)203Pが格納されている。プログラム203Pは、複数の命令をプロセッサ201に実行させることで、複数の機能部を構築する。ECU20は、複数のプロセッサ201を備えてもよい。
【0036】
サーバ31は、ECU20と同様に、プロセッサ(PC)311、メモリ(MM)312、ストレージ(ST)313、通信回路(CC)314などを備えて構成されている。プロセッサ311は、メモリ312へのアクセスにより、種々の処理を実行する。メモリ312は、書き換え可能な揮発性の記憶媒体であり、たとえばRAMである。ストレージ313は、書き換え可能な不揮発性の記憶媒体である。ストレージ313には、プロセッサ311によって実行されるプログラム(PG)313Pが格納されている。プログラム313Pは、複数の命令をプロセッサ311に実行させることで、複数の機能部を構築する。サーバ31は、複数のプロセッサ311を備えてもよい。
【0037】
図2は、運航管理システムの機能配置の一例を示している。図2に示す運航管理システム40は、機外管理部41と、機内管理部42を有している。機外管理部41は、地上局30のサーバ31内に機能配置されている。機内管理部42は、eVTOL10のECU20内に機能配置されている。このように、運航管理システム40の機能の一部はサーバ31に配置され、機能の他の一部はECU20に配置されてもよい。機外管理部41と機内管理部42とは、相互に無線通信可能である。機内管理部42は、eVTOL10に配置された各種装置と有線または無線にて通信可能である。
【0038】
<電池>
図3は、電池14の一例を示している。図4は、図3のIV-IV線に沿う断面図である。図4では、電池セルの構成を簡素化して図示している。図5は、電極端子の配置を示す図である。以下において、各電池セルの高さ方向をZ方向、Z方向に直交する一方向をY方向、Z方向およびY方向の両方向に直交する方向をX方向と示す。図4においては、便宜上、電池セルの全体に金属ハッチングを施している。
【0039】
図3および図4に示すように、電池14は、組電池141を少なくともひとつ備えている。組電池141は、複数の電池セル142を含んで構成される。複数の電池セル142は、たとえば互いに共通の構造を有しもよいし、一部の構造が他の構造と異なってもよい。複数の電池セル142の個数や配置は特に限定されない。複数の電池セル142は、直列接続されてもよいし、並列接続かつ直列接続されてもよい。
【0040】
電池セル142は、発電要素と、この発電要素を収容する電池ケースを有している。電池ケースは、電池セル142の外郭を提供する。電池ケースは、たとえば金属材料を用いて形成されてもよいし、ラミネートフィルムを用いて形成されてもよい。電池セル142、つまり電池ケースの形状は、特に限定されない。角型形状でもよいし、ラミネート型でもよいし、円筒形状でもよい。
【0041】
各電池セル142は、電極端子142P,142Nを有している。図5に示すように、電極端子142P,142Nは、互いに共通の面に設けられてもよいし、互いに異なる面に設けられてもよい。たとえば、一面と、一面とは反対の面とのそれぞれに設けられてもよい。電極端子142P,142Nは、対応する面から突出していてもよい。電極端子142Pは、電池セル142の正極に電気的に接続されている。電極端子142Pは、正極端子、P端子などと称されることがある。電極端子142Nは、電池セル142の負極に電気的に接続されている。電極端子142Nは、負極端子、N端子などと称されることがある。電極端子は、電池セル端子、集電タブなどと称されることがある。
【0042】
図3および図4に示す電池セル142は、角型形状、具体的にはY方向に薄い扁平形状をなしている。複数の電池セル142は、Y方向に並んで配置されている。電極端子142P,142Nは、Z方向における端面のひとつ、つまり共通の面に設けられている。複数の電池セル142は、Y方向において、電極端子142Pと電極端子142Nとが交互に位置するように配置されている。隣り合う電池セル142において、電極端子142Pと電極端子142Nとが、図示しないバスバーにより電気的に接続されている。
【0043】
組電池141は、Y方向に並ぶ電池セル142を複数備えてもよい。電池セル142の配置は、上記した配置に限定されない。たとえば円筒形の電池セル142の場合、Z方向からの平面視において千鳥状に配置されてもよい。
【0044】
<電力プロファイル>
図6は、eVTOL10の離陸から着陸までの電力プロファイルを示している。なお、eVTOL10以外の電動飛行体の電力プロファイルも、eVTOL10と同様である。期間P1は、離陸時、離陸飛行時、離陸動作時などと称される。期間P2は、巡航時、巡航飛行時、巡航動作時などと称される。期間P3は、着陸時、着陸飛行時、着陸動作時などと称される。期間P1,P3は、離着陸時、離着陸飛行時、離着陸動作時などと称される。便宜上、図6では期間P1,P3それぞれのほぼ全域において、必要電力、つまり出力を一定としている。
【0045】
eVTOL10は、期間P1において離陸地点から巡航開始地点まで上昇する。eVTOL10は、期間P2において所定高度で巡航する。eVTOL10は、期間P3において期間P2の終点から着陸地点まで降下する。eVTOL10の移動は、期間P2において主として水平方向成分を含み、期間P1,P3において主として鉛直方向成分を含む。鉛直方向に移動する期間P1,P3において、回転翼13の駆動には、所定時間連続で高出力が要求される。
【0046】
このように、鉛直方向への移動時、電池14に高出力負荷が加わる。離着陸時には、もっとも大きな出力が必要となる。鉛直方向への移動時と水平方向への移動時とでは、電池14の出力が大きく変動する。離着陸時と巡航時とでは、電池14の出力が大きく変動する。
【0047】
<電池電圧>
図7は、固定閾値を用いた場合の異常の検知を示す図である。図7では、飛行(フライト)中における電池電圧の変化を実線で示している。
【0048】
EPU15を駆動する電池14には、上記したように鉛直方向の移動時、特に離着陸時において、所定の時間、大電流での放電が要求される。たとえば離着陸時において、電池14は、最大放電レート約3C~約15Cで約30秒~約90秒の間、継続(連続)して放電する。
【0049】
なお、放電レートとは、電池容量に対する放電時の電流の相対的な比率を示し、単位はCである。放電レートが1Cとは、公称容量値の容量を持つセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。電動飛行体の巡航時や電気自動車(BEV)の最大放電レートは、1C~2C程度である。BEVの場合、最大放電レートを約5秒~約10秒程度、継続するレベルである。BEVは、Battery Electric Vehicleの略称である。このように、離着陸時と巡航時とで放電特性の変動は大きい。
【0050】
電池14の熱暴走の要因となる内部短絡や急激な劣化に対して敏感に反応する電池電圧の監視は、異常の早期検出の手段として用いられる。しかしながら、飛行中は電池14の放電負荷変動が大きく、図7に実線で示すように電池電圧の変動も激しい。このため、閾値として固定値(一定値)を用いた管理では、異常を早期に検知することが困難である。
【0051】
たとえば巡航中の時刻t1で異常が生じ、破線矢印で示すように電圧が降下する場合、比較的高い固定値1を用いることで、時刻t2で異常を検知することができる。このように異常を早期に検知できるものの、固定値1の値が高いため、離陸時や着陸時に誤判定してしまう。一方、固定値1よりも低く、電池14の許容下限よりも高い固定値2を用いることで、離陸時や着陸時の誤判定を避けることが可能である。しかしながら、時刻t2よりも遅れた時刻t3で異常を検知することとなる。つまり、異常を早期に検知することができない。
【0052】
<監視装置>
図8は、監視装置の一例を示している。図9は、監視装置の別例を示している。図8に示すように、監視装置50は、取得部51、判定部52、および出力部53を備えてもよい。図9に示すように、監視装置50は、さらに設定部54を備えてもよい。
【0053】
監視装置50は、電池14を監視する。監視装置50の機能配置は特に限定されるものではない。監視装置50の機能の少なくとも一部を、機内に配置してもよいし、機外に配置してもよい。監視装置50の機能を、機内において複数の装置に分散配置してもよい。監視装置50の機能を、機外において複数の装置に分散配置してもよい。監視装置50の機能の一部を機内に配置し、機能の他の一部を機外に配置してもよい。
【0054】
たとえば監視装置50の機能の少なくとも一部を、BMS16に配置してもよい。監視装置50の機能の少なくとも一部を、ECU20に配置してもよい。監視装置50の機能の少なくとも一部を、地上局30のサーバ31に配置してもよい。監視装置50の機能の少なくとも一部を、運航管理システム40に配置してもよい。監視装置50の機能の少なくとも一部を、機内管理部42に配置してもよい。監視装置50の機能の少なくとも一部を、機外管理部41に配置してもよい。
【0055】
取得部51は、飛行時における電池14の電圧に関する情報と、eVTOL10の移動モードに関する情報を取得する。飛行時における電池14の電圧に関する情報を、電池電圧情報、電圧情報と示すことがある。移動モードに関する情報を、移動モード情報と示すことがある。
【0056】
取得部51は、電圧情報や移動モード情報などの情報を、BMS16、運航管理システム40、EPU15などから取得してもよい。取得部51は、情報として、実測値を取得してもよいし、中間演算値を取得してもよいし、特徴量などの演算値を取得してもよい。BMS16などから取得した実測値、中間演算値に基づいて監視装置50内で演算することで、情報を取得してもよい。取得部51は、無線通信および/または有線通信により、情報を取得する。
【0057】
たとえば電池14の抵抗は、環境温度によって変化する。電池電圧は、電池抵抗の変動の影響を受ける。つまり電池電圧は、環境温度などの影響を受ける。よって取得部51は、電圧情報、移動モード情報に加えて、環境情報を取得してもよい。環境情報として、たとえば気温、風速、風向などを取得してもよい。環境パラメータの変動も考慮すると、異常の判定精度をより高くすることができる。
【0058】
eVTOL10は、飛行中に複数の移動モードを取り得る。移動モードは、主として鉛直方向に移動するモードと、主として水平方向に移動するモードを含んでもよい。鉛直方向に移動するモードと水平方向に移動するモードに加えて、斜め方向に移動するモードを含んでもよい。eVTOL10は、離着陸時に主として鉛直方向に移動し、巡航時に主として水平方向に移動する。よって移動モードは、離着陸モードと、巡航モードを含んでもよい。移動モードは、離陸モードと、巡航モードと、着陸モードを含んでもよい。巡航時に一時的に鉛直方向へ移動する場合を考慮して、巡航モードを細分化してもよい。
【0059】
取得部51は、移動モード情報として、移動モードそのものを示す情報を取得してもよいし、移動モードを判断するための情報を取得してもよい。取得部51は、移動モード情報として、放電特性情報および/または飛行情報を取得してもよい。取得部51は、取得した放電特性情報および/または飛行情報に基づいて移動モードを判断する機能を有してもよい。監視装置50は、取得部51が取得した情報に基づいて、移動モードを判断する機能部を取得部51とは別に備えてもよい。放電特性情報は、放電電流に関する情報である。たとえば、放電電流が所定の閾値以上の場合に鉛直方向の移動モード、閾値未満の場合に水平方向の移動モードと判断してもよい。
【0060】
飛行情報は、運航管理システム40などから得られる移動モードを示す信号でもよい。飛行情報は、eVTOL10の上昇速度や下降速度などの高度変化情報でもよい。たとえば、上昇速度が所定の閾値以上の場合に鉛直方向の移動モード、閾値未満の場合に水平方向の移動モードと判断してもよい。飛行情報は、回転翼13の向きを示す情報でもよい。チルト機構などにより、移動モードに応じて回転翼13の向きを可変可能な構成の場合、回転翼13の向きの情報により、移動モードを判断できる。飛行情報は、フライトにおける時間情報でもよい。運航が正確に時間管理されている場合は、時間で移動モードを判断してもよい。繰り返しのスポット間移動の場合、運航が正確に時間管理される。特に自動運航の場合には、運航がより正確に時間管理される。
【0061】
取得部51は、移動モード情報として、放電特性情報とともに電池状態に関する情報を取得してもよい。電池状態情報は、開回路電圧(OCV)および/または抵抗である。OCVは、Open Circuit Voltageの略称である。OCVに代えて、SOCを取得してもよい。SOCは、State Of Chargeの略称である。
【0062】
判定部52は、取得部51の取得した電圧情報と、移動モードごとに設定される閾値とを対比し、電池異常の有無を判定する機能を有している。閾値は、移動モードごとに互いに異なる値に設定されてもよい。判定部52は、電池異常を検知する検知部として機能する。判定部52は、電圧情報に基づいて、異常の検知が正常に行われているか否かを判定する機能を有してもよい。判定部52は、異常検知の機能が正常か否かを診断(判断)する診断部として機能してもよい。監視装置50は、判定部52とは別に診断部を備えてもよい。監視装置50は、検知部とは別に診断部を備えてもよい。判定部52は、所定期間において異常検知や閾値を制限する機能を有してもよい。判定部52は、異常検知や閾値を制限する制限部として機能してもよい。監視装置50は、判定部52(検知部)とは別に制限部を備えてもよい。
【0063】
出力部53は、異常の判定結果を、監視装置50の外に出力する。出力部53は、電池14の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力する。出力部53は、判定結果を、たとえば乗員や地上局30に向けた警報の発信のために出力してもよい。出力部53は、判定結果を、回避動作へ移行するトリガのために出力してもよい。出力部53は、判定結果を、機体の運航状況を表示したり運航を制御したりする運航管理システム40へ出力してもよい。監視装置50自体が、表示してもよい。出力部53は、飛行を制御する制御装置に対して、回避動作のための制御要求を出力してもよい。制御装置は、運航管理システム40の一機能として一体的に設けられてもよいし、別に設けられてもよい。
【0064】
出力部53は、第1段階で警報、第2段階以降で回避動作などのように、多段に出力してもよい。回避動作として、たとえば電池14の冗長動作を採用してもよいし、緊急着陸動作を採用してもよい。電池14の冗長動作は、たとえば異常ありの系統の出力を停止し、残りの系統で飛行を継続するものでもよい。回避動作として、複数の動作を同時に実行してもよい。回避動作は、段階的に動作できるものでもよい。出力部53は、対象情報の時系列推移に基づいて、異常に至る時間を推定し、緊急度情報として出力してもよい。
【0065】
設定部54は、取得部51の取得した移動モード情報に基づいて、電圧情報と対比するための閾値を設定する。設定部54は、移動モードごとに閾値を設定する。設定部54は、閾値を、移動モードごとに互いに異なる値に設定してもよい。設定部54は、閾値を、移動モード情報である放電特性情報および電池状態情報に基づいて設定してもよい。
【0066】
<閾値>
閾値は、移動モードごとに個別に設定される。閾値は、移動モードに応じて設定される。閾値は、移動モードとの関係が紐づけられて予めメモリに格納されたものでもよい。判定部52は、移動モードに応じた閾値をメモリから読み出して判定に用いる。図10は、メモリに格納された閾値の一例を示している。移動モードが、離着陸モードと巡航モードの2種類を含んでいる。メモリには、離着陸モードに対応する閾値Th1と、巡航モードに対応する閾値Th2が格納されている。判定部52は、離着陸モードにおいて閾値Th1を用いて判定を行い、巡航モードにおいて閾値Th2を用いて判定を行う。閾値Th1は、閾値Th2よりも低い値であって許容下限よりも高い値とされている。
【0067】
閾値は、たとえば事前の実験や電池シミュレーションを用いて飛行時の正常な電圧挙動を導出し、電圧挙動に対して所定の余裕度をもたせて設定してもよい。余裕度は、たとえば電池放電特性のばらつき、OCVまたは電池抵抗の変動、検出系の誤差などに対する余裕度である。飛行ルートの違いなど、運航計画毎に閾値を用意しておいてもよい。
【0068】
閾値は、移動モードに応じて設定部54により設定されるものでもよい。設定部54は、取得部51が取得した放電特性情報および電池状態情報に基づいて、閾値を設定してもよい。図11は、設定部54により設定される閾値の一例を示している。図12は、設定部54により設定される閾値の別例を示している。図11および図12では、移動モードが、離陸モード、巡航モード、着陸モードの3種類を含んでいる。設定部54により、離陸モードに対応する閾値Th11、巡航モードに対応する閾値Th12、着陸モードに対応する閾値Th13が設定される。
【0069】
放電時の電池電圧、放電特性(放電電流)、および電池状態(OCV、電池抵抗)には、式1に示す関係が成立する。このため、放電特性情報と電池状態を閾値の設定に反映すると、より早期に高精度な異常検知が可能となる。
放電時の電池電圧=OCV-放電電流・電池抵抗・・・(式1)
OCVは、SOCの低下にともなって低下する。SOC-OCVマップを予め作成しておき、SOC値からOCVを算出するとよい。着陸時は、離陸時に較べてSOCが低下する。このため、図11に示すように、着陸時に設定する閾値Th13を、離陸時に設定する閾値Th11に対して低く設定するとよい。
【0070】
電池14の抵抗もSOCとともに変化する。抵抗は、予め実験等でその挙動を求めておき、マップモデルや回帰モデルで算出するとよい。電池セル142の多くは、低SOC領域で抵抗増加の傾向がある。設定部54は、特に低SOC領域を使用するフライトにおいて、抵抗を閾値設定に反映するとよい。
【0071】
設定部54は、フライトから次のフライトまでの機駐時に行う電池状態診断により飛行前に更新される情報を用いて閾値を設定するとよい。電池状態診断としては、交流インピーダンス診断を含むとよい。直流抵抗、電池反応抵抗、拡散抵抗といった、電池等価回路モデルや電池反応モデルのパラメータを求めることができる。このため、フライト直前に放電時(飛行時)の電圧変動をシミュレートでき、より高精度化できる。
【0072】
設定部54は、設定する閾値を飛行中の電池状態の変化に基づいて逐次変化させてもよい。設定部54は、図12に示すように、電池電圧の変動にともなって逐次、閾値を変動させてもよい。これにより、より早期に高精度な異常検知が可能となる。設定部54は、運航計画時に、運航計画に基づいて閾値を設定してもよい。設定部54は、飛行中の実績に応じて閾値を設定してもよい。実績に応じて計画に基づく閾値を更新してもよい。
【0073】
設定部54は、電池状態情報として、電池反応に寄与するイオンの濃度偏りに起因して生じる抵抗増加の情報を用いてもよい。電池14を放電すると、電池反応に寄与するイオンの濃度分布に一時的な偏りを生じる。濃度偏りは、電解液や電極において生じる。濃度偏りを生じると、電池14の内部抵抗が一時的(可逆的)に上昇する。このため、電池14のSOCが十分であっても、電池14の出力性能が低下する。このように、電池14に一時的(可逆的)な劣化が生じる。一時劣化は、ハイレート劣化と称されることがある。
【0074】
濃度偏りが大きいほど、一時劣化の度合いが増加する。電動飛行体、特にeVTOL10では、離陸時と着陸時に高出力が必要となる。また、飛行中において連続的な出力が必要となる。よって、一時劣化の度合いが増加しやすい。設定部54が、一時劣化の度合いを予測し、閾値に反映することによって、より早期に高精度な異常検知が可能となる。設定部54は、一次劣化を事前に予測して、閾値に反映してもよい。
【0075】
設定部54は、電池14の一時劣化の度合いに関する情報を取得してもよいし、取得した情報に基づいて一時劣化の度合いを演算してもよい。一時劣化の度合いは、内部抵抗の基準値に対する差分である。基準値は、たとえば今回のフライトにおける離陸前の初期的な内部抵抗の値でもよい。基準値は、一時劣化の解消処理後の内部抵抗の値でもよいし、地上での充電後の内部抵抗の値でもよい。基準値としては、十分に一時劣化を解消した後の内部抵抗の値が好ましい。一時劣化の度合いの演算は、実測値に基づく実測演算でもよいし、予測値に基づく予測演算でもよい。演算値は、監視時点における一時劣化の度合いでもよいし、離陸時点や着陸時点での一時劣化の度合いでもよい。
【0076】
設定部54は、一次劣化の度合いを事前に予測して、閾値に反映してもよい。設定部54は、フライトで計画されている放電プロファイルに基づいて一時劣化の変動プロファイルを算出することにより、一時劣化の度合いを事前に予測してもよい。設定部54は、一時劣化の度合いを、たとえば予測マップに基づいて予測してもよいし、重回帰などの予測モデルに基づいて予測してもよい。機械学習を用いて生成された予測モデルに基づいて、一時劣化の度合いを予測してもよい。
【0077】
設定部54は、過去の履歴データを活用して一時劣化の変動プロファイルを算出することにより、一時劣化の度合いを事前に予測してもよい。履歴データは、離陸地点および/または着陸地点と機種とが対象となるフライトと合致する過去の一時劣化の度合いに関する情報を用いるとよい。eVTOL10の運航計画は有限であり、繰り返しの頻度が高いため、履歴情報を活用できる。さらに、予測誤差を生じやすい離陸地点や着陸地点での履歴情報を活用するため、一時劣化の度合いの予測精度を高めることができる。操作のし易さ、出力特性などは、eVTOL10の機種(型式)によって異なる。これにより、一時劣化の度合いの予測精度をさらに高めることができる。
【0078】
設定部54は、フライト中の一時劣化の増加具合(実績)に応じて、閾値を設定してもよい。設定部54は、実績に応じて予測に基づく閾値を更新してもよい。設定部54は、電池の出力履歴に基づいて、一時劣化の度合いを演算してもよい。設定部54は、一時劣化の度合いとして、フライト中における放電電流の積算値を演算してもよい。充電を実施する場合には、充放電電流の積算値を一時劣化の度合いとしてもよい。地上での待機時の出力停止やフライト中の一時的な出力停止も、放電により生じた濃度偏りを少なからず解消する方向に作用する。よって、濃度偏りが解消する方向に、電流積算値を補正してもよい。
【0079】
なお、大電流(高出力)であるほど、または、出力の継続時間が長いほど、濃度偏りが生じやすい。このため、電流の積算値を用いる場合には、電流値および/または継続時間ごとに重み付けをしながら積算してもよい。重み付けの係数は、実験などのデータから予め作成したマップや回帰モデルを用いて演算すればよい。
【0080】
設定部54は、電池物理モデルを用いて一時劣化の度合いを演算してもよい。電池物理モデルは、電気化学反応と物質輸送をモデル化し、濃度分布を解析可能なモデルである。この電池物理モデルに電流の履歴を入力して演算すれば、電池反応に寄与する電解液中や電極中のイオンの濃度偏りを推定することが可能である。
【0081】
設定部54は、電池抵抗に基づいて、一時劣化の度合いを演算してもよい。設定部54は、内部抵抗の増加量(変化量)、つまり一時劣化の度合いそのものを演算してもよい。変化量は、一時劣化の解消時には減少量となる。電池14の電圧、電流などから演算された内部抵抗の時系列値を用いて、電池14の抵抗増加量を演算することができる。
【0082】
設定部54は、電池モデルによる推定抵抗を用いて、一時劣化の度合いを演算してもよい。電池モデルは、たとえば電池等価回路モデルである。推定抵抗は、濃度分布を均一と仮定した電池モデルから推定される推定電流と、実測電圧から求められる。推定抵抗と、実測電流と実測電圧から求められる測定抵抗との差から、一時劣化の度合いを演算することができる。
【0083】
設定部54は、交流インピーダンスの抵抗成分に基づいて、一時劣化の度合いを演算してもよい。電池14の交流インピーダンスの抵抗成分の増加量(変化量)を一時劣化の度合いとして用いることができる。特に、交流インピーダンスの高周波領域における抵抗成分の増加量を一時劣化の度合いとして用いるとよい。偏りの主な要因である電解液中の濃度偏りの度合いをより正確に演算することができる。
【0084】
設定部54は、過去フライトの履歴情報に基づき、一時劣化の度合いを演算してもよい。履歴情報として、離陸地点および/または着陸地点と機種とが対象となるフライトと合致する過去の一時劣化の度合いに関する情報を用いてもよい。eVTOL10の運航計画は有限であり、繰り返しの頻度が高いため、履歴情報を活用できる。さらに、予測誤差を生じやすい離陸地点や着陸地点での履歴情報を活用するため、一時劣化の度合いの予測精度を高めることができる。操作のし易さ、出力特性などは、eVTOL10の機種(型式)によって異なる。これにより、一時劣化の度合いの予測精度をさらに高めることができる。
【0085】
<電圧情報>
図13は、組電池電圧Vb、セル電圧Vcを示している。図14は、電圧変化率を用いた場合の閾値設定の一例を示している。図15は、セル電圧のばらつきを用いた場合の閾値設定の一例を示している。図14では、離着陸モードの閾値をTh21、巡航モードの閾値をTh22としている。図15では、離着陸モードの閾値をTh31、巡航モードの閾値をTh32としている。
【0086】
図7に示したように電池14の異常により電圧が降下すると、絶対値の低下、電圧変化率の増加、セル間ばらつきの増加が生じる。電圧変化率は、電圧変化速度などと称されることがある。
【0087】
取得部51は、電池情報として、図13に示す組電池電圧Vbの絶対値を取得してもよい。取得部51は、各セル電圧Vcの絶対値を取得してもよい。取得部51は、電池情報として、図14に示すように電圧変化率を取得してもよい。電圧変化率は組電池電圧Vbの変化率でもよいし、セル電圧Vcの変化率でもよい。取得部51は、電池情報として、図15に示すようにセル電圧Vcのばらつきを取得してもよい。
【0088】
取得部51は、電池情報として、組電池電圧Vbの絶対値、各セル電圧Vcの絶対値、組電池電圧Vbの変化率、セル電圧Vcの変化率、およびセル電圧Vcのばらつきの少なくともひとつを取得するとよい。絶対値、変化率、ばらつきなど複数のパラメータで監視することにより、電池14の異常をより高精度に検知することが可能となる。
【0089】
<監視方法>
上記したように監視装置50は、eVTOL10のECU20に配置されてもよい。この場合、プロセッサ201によって監視装置50の各機能ブロックの処理が実行されることが、監視方法が実行されることに相当する。監視装置は、地上局30のサーバ31に配置されてもよい。この場合、プロセッサ311によって監視装置50の各機能ブロックの処理が実行されることが、監視方法が実行されることに相当する。
【0090】
監視方法として、たとえば図16に示す方法を用いてもよい。監視装置50(たとえばプロセッサ201)は、図16に示す処理を所定周期で繰り返し実行する。まず監視装置50は、情報を取得する(ステップS10)。監視装置50は、移動モード情報と電池14の電圧情報を取得する。監視装置50は、移動モード情報として、上記した飛行情報を取得してもよい。監視装置50は、移動モード情報として、電池14の放電特性情報を取得してもよい。監視装置50は、移動モード情報として、飛行情報および放電特性情報を取得してもよい。監視装置50は、移動モード情報として、放電特性情報および電池状態情報を取得してもよい。監視装置50は、移動モード情報として、飛行情報、放電特性情報、および電池状態情報を取得してもよい。
【0091】
次いで監視装置50は、移動モードごとに個別に閾値を設定する(ステップS20)。監視装置50は、移動モードに応じた閾値をメモリから読み出して設定してもよい。監視装置50は、移動モード情報に基づいて、演算等により閾値を設定してもよい。監視装置50は、放電特性情報および電池状態情報に基づいて、閾値を設定してもよい。
【0092】
次いで監視装置50は、取得した電圧情報と閾値とを比較し、電圧情報が許容閾値の範囲外か否かを判定する(ステップS30)。たとえば監視装置50は、組電池電圧Vbの絶対値が閾値未満の場合に許容閾値の範囲外であると判定し、組電池電圧Vbの絶対値が閾値以上の場合に許容閾値の範囲内であると判定してもよい。監視装置50は、セル電圧Vcの絶対値が閾値未満の場合に許容閾値の範囲外と判定し、閾値以上の場合に許容閾値の範囲内と判定してもよい。監視装置50は、組電池電圧Vbの変化率が閾値よりも大きい場合に許容閾値の範囲外と判定し、閾値以下の場合に許容閾値の範囲内と判定してもよい。監視装置50は、セル電圧Vcの変化率が閾値よりも大きい場合に許容閾値の範囲外と判定し、閾値以下の場合に許容閾値の範囲内と判定してもよい。監視装置50は、セル電圧Vcのばらつきが閾値よりも大きい場合に許容閾値の範囲外と判定し、閾値以下の場合に許容閾値の範囲内と判定してもよい。
【0093】
電圧情報が許容閾値の範囲外の場合、監視装置50は電池14の異常有として、異常有の出力を実行し(ステップS40)、一連の処理を終了する。電圧情報が許容閾値の範囲内の場合、監視装置50はステップS40の処理を実行せずに、一連の処理を終了する。
【0094】
監視方法として、図17に示す方法を用いてもよい。まず監視装置50は、図16に示した方法と同様に、ステップS10の処理を実行する。次いで監視装置50は、移行時の所定期間外か否かを判定する(ステップS15)。監視装置50は、鉛直方向への移動と水平方向への移動との移行時における所定期間外か否かを判定する。
【0095】
電池14の等価回路は、抵抗に並列接続されたキャパシタ成分を含む。このため、図18に示すように、電池電圧の変動はキャパシタ成分に応じた過渡応答を生じる。たとえば、離陸から巡航への切り替わりにおいて過渡応答を生じる。また、電池電圧は、鉛直方向の移動と水平方向の移動との移行時(切り替わり)において急変動する。このため、図19に示すように、移行時において電圧変化率の発散が生じる。また、回路における信号伝搬の遅延により、閾値の切り替えの遅延が生じ得る。
【0096】
このように、鉛直方向移動と水平方向移動との移行時には、電圧情報の正常な急変動、正常な過渡応答による電池電圧の変動の遅れ、および閾値の切り替えの遅延が生じ得る。このため、誤判定を招く虞がある。
【0097】
図17示す例では、上記した誤判定を防止するために、上記した電圧の急変動、電圧変動の遅れ、閾値切り替えの遅延が生じ得るタイミング、つまり移行時における所定期間に該当するか否かを判定する。所定期間は、移行時の少なくとも一部の期間である。所定期間は、たとえば事前の実験や電池シミュレーションを用いて移行時における電圧情報の正常な急変動の期間、正常な過渡応答による電池電圧の変動の遅れ期間、および閾値の切り替えの遅延期間を導出し、導出した期間に基づいて設定してもよい。導出した期間に対して所定の余裕度をもたせて設定してもよい。
【0098】
ステップS15において所定期間外と判定すると、監視装置50は、図16に示した方法と同様に、ステップS20以降の処理を実行する。一方、所定期間外ではない、つまり所定期間内であると判定すると、監視装置50は、たとえば監視の制限を実行する(ステップS21)。監視装置50は、異常の検知から所定期間を除外する。監視装置50は、所定期間の電圧情報に基づいて異常の検知を行わない。監視の制限は、上記した電圧の急変動、電圧変動の遅れ、および閾値切り替えの遅延のいずれにも適用できる。
【0099】
監視装置50は、ステップS21において、監視の制限に代えて移行前の閾値を適用する処理を実行してもよい。たとえば鉛直方向の移動から水平方向の移動への移行時の所定期間において鉛直方向の移動時に設定した閾値を維持する。移行前の閾値の適用は、上記した電圧変動の遅れ、閾値切り替えの遅延に適用できる。監視装置50は、監視の制限に代えて電池14に許容される上限電圧または下限電圧を閾値として適用する処理を実行してもよい。許容される上限電圧または下限電圧の適用は、上記した電圧変動の遅れ、閾値切り替えの遅延に適用できる。このように、閾値を所定値に制限してもよい。
【0100】
ステップS21の処理の実行後、監視装置50は、図16に示した方法と同様に、ステップS30以降の処理を実行する。
【0101】
監視方法として、図20に示す方法を用いてもよい。まず監視装置50は、図16に示した方法と同様に、ステップS10,S20の処理を実行する。次いで監視装置50は、組電池電圧Vbとすべてのセル電圧Vcの総和との差分が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS25)。監視装置50は、異常の検知が正常に行われていることを診断する。すべてのセル電圧Vcの総和は、組電池電圧Vbを生じる組電池141内のすべての電池セル142の電圧(セル電圧Vc)を加算した値である。所定値は、たとえば事前の実験や電池シミュレーションを用いて飛行時の正常な組電池電圧Vbとすべてのセル電圧Vcの総和との差分を導出し、導出した差分に基づいて設定してもよい。導出した差分に対して所定の余裕度をもたせて設定してもよい。
【0102】
ステップS25において所定値以内と判定すると、監視装置50は、図16に示した方法と同様に、ステップS30以降の処理を実行する。一方、所定値以下ではない、つまり差分が所定値よりも大きいと判定すると、監視装置50は、監視異常の疑い有の出力を実行し(ステップS41)、一連の処理を終了する。所定値以下ではない場合、監視装置50は、ステップS30,S40の処理を実行せずに、つまり異常の検知を実行せずに、一連の処理を終了する。
【0103】
なお、図16に示した方法において、電池情報が許容閾値の範囲内の場合、監視装置50は異常なしの出力を実行し、次いで一連の処理を終了してもよい。図17に示した方法、図20に示した方法においても同様である。
【0104】
監視装置50の判定部52(検知部)が、図17に示したステップS15の処理とステップS21の処理を実行してもよい。判定部52とは別の機能部が、ステップS15の処理およびステップS21の処理の少なくともひとつを実行してもよい。
【0105】
<第1実施形態のまとめ>
上記したように、eVTOL10(電動飛行体)が鉛直方向に移動する際、電池14には所定時間、大電流での放電が要求される。電池14の熱暴走の要因となる内部短絡や急激な劣化に対して敏感に反応する電池電圧の監視は、異常の早期検出の手段として用いられる。しかしながら、飛行中は電池14の放電負荷変動が大きく、電池電圧の変動も激しい。このため、閾値として固定値(一定値)を用いた管理では、異常を早期に検知することが困難である。
【0106】
本実施形態の監視装置50によれば、電池14の電圧情報とともに移動モードに関する情報を取得し、移動モードごとに設定される閾値を用いて電圧情報を監視する。このため、電池14の異常を早期に検知することができる。よって、飛行の安全性を高めることができる。
【0107】
監視装置50は、eVTOL10の鉛直方向移動時における電池14の最大放電レートが、水平方向移動時における最大放電レートの1.5倍以上の構成に適用するとよい。監視装置50は、鉛直方向移動時の放電レートが3C以上の構成に適用するとよい。
【0108】
eVTOL10などの電動飛行体では、上記したように放電特性の変動が大きい。放電特性の変動が大きくなるほど、監視装置50による早期検知の効果が高まる。たとえば水平方向移動時の最大放電レートに対する鉛直方向移動時の最大放電レートの比率が1.5倍以上の場合に、早期検知の効果が高まる。比率がさらに高い場合、たとえば2倍以上、3倍以上、5倍以上の場合、より高い効果を奏することができる。鉛直方向移動時の放電レートが高くなるほど、監視装置50による早期検知の効果が高まる。放電レートが3C以上の場合に、早期検知の効果が高まる。放電レートがさらに高い場合、たとえば5C以上、7C以上、10C以上の場合、より高い効果を奏することができる。
【0109】
監視装置50は、移動モードに関する情報として、電池の放電特性情報および/または飛行情報を取得してもよい。これら情報を用いることで、閾値を移動モードに応じた適切なタイミングで切り替えることができる。
【0110】
監視装置50は、移動モードに関する情報である放電特性情報および電池状態情報に基づいて、移動モードごとに閾値を設定する。式1に示したように、放電時の電池電圧、OCV、放電電流、および電池抵抗には所定の関係が成立する。電池電圧に影響を与える放電特性情報(放電電流)および電池状態情報(OCV、電池抵抗)を閾値の設定に反映することで、より早期に高精度な異常の検知が可能となる。
【0111】
監視装置50は、閾値の設定に、電池反応に寄与するイオンの濃度偏りに起因して生じる抵抗増加の情報を用いてもよい。これにより、一時劣化にともなう抵抗増加による誤検出を抑制し、異常検知の信頼性を高めることができる。
【0112】
監視装置50は、機駐時に実施の電池状態診断により飛行前に更新される電池状態情報を用いてもよい。電池状態情報は、フライトごとに情報が更新される。フライトごとに更新される電池状態情報を用いるため、異常の検知精度をさらに高めることができる。
【0113】
監視装置50は、設定する閾値を飛行中の電池状態の変化に基づいて逐次変化させてもよい。電池電圧の変動に応じて逐次閾値を変化させることで、より早期に高精度な異常の検知が可能となる。
【0114】
監視装置50は、電圧情報として、組電池電圧Vbの絶対値、セル電圧Vcの絶対値、組電池電圧Vbの変化率、セル電圧Vcの変化率、およびセル電圧Vcのばらつきの少なくともひとつを取得するとよい。内部短絡や急劣化に敏感に応答する上記パラメータを用いることで異常を高精度に検知することができる。特に複数のパラメータで監視することにより、異常の精度をさらに高めることが可能となる。
【0115】
監視装置50は、電圧情報として、組電池電圧Vbに関する情報とセル電圧Vcに関する情報とを、互いに異なる取得対象から取得してもよい。たとえば組電池電圧情報をEPU15から取得し、セル電圧情報をBMS16から取得してもよい。異なる独立した計測によるデータを用いた監視、つまり診断の多重化により、信頼性を高めることができる。
【0116】
監視装置50は、組電池電圧Vbと組電池141内のすべてのセル電圧Vcを加算した総電圧とを用いて、異常の検知が正常に行われていることを診断してもよい。これにより、異常検知の誤判定を抑制することができる。
【0117】
監視装置50は、鉛直方向移動と水平方向移動との移行時の所定期間において、異常の検知を制限、移行前の閾値を適用、および閾値として電池14に許容される上限電圧または下限電圧を適用、のいずれかを実行してもよい。これにより、電池電圧情報の正常な急変動、正常な過渡応答による電池電圧の変動の遅れ、閾値切り替えの遅延、にともなう誤判定を抑制することができる。よって、異常検知の信頼性を高めえることができる。
【0118】
本実施形態の監視方法は、電池14を監視するためにプロセッサにより実行される。監視方法は、飛行時における電池14の電圧情報と移動モード情報を取得し、電圧情報と、移動モードごとに設定される閾値と、を用いて電池14の異常に関する所定の条件を満たすばあ、監視結果を出力する、ことを含む。このように、移動モードごとに設定される閾値を用いるため、電池14の異常を早期に検知することができる。よって、飛行の安全性を高めることができる。
【0119】
本実施形態のプログラムは、電池14を監視するために記憶媒体に記憶され、プロセッサに実行させる命令を含む。プログラムは、飛行時における電池14の電圧情報と移動モード情報を取得することと、電圧情報と、移動モードごとに設定される閾値と、を用いて電池14の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力すること、を実行させる命令を含む。このように、移動モードごとに設定される閾値を用いるため、電池14の異常を早期に検知することができる。よって、飛行の安全性を高めることができる。
【0120】
(他の実施形態)
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
【0121】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0122】
ある要素または層が「上にある」、「連結されている」、「接続されている」または「結合されている」と言及されている場合、それは、他の要素、または他の層に対して、直接的に上に、連結され、接続され、または結合されていることがあり、さらに、介在要素または介在層が存在していることがある。対照的に、ある要素が別の要素または層に「直接的に上に」、「直接的に連結されている」、「直接的に接続されている」または「直接的に結合されている」と言及されている場合、介在要素または介在層は存在しない。要素間の関係を説明するために使用される他の言葉は、同様のやり方で(例えば、「間に」対「直接的に間に」、「隣接する」対「直接的に隣接する」など)解釈されるべきである。この明細書で使用される場合、用語「および/または」は、関連する列挙されたひとつまたは複数の項目に関する任意の組み合わせ、およびすべての組み合わせを含む。
【0123】
本開示に示す種々のフローチャートは何れも一例であって、フローチャートを構成するステップの数や、処理の実行順は適宜変更可能である。また、本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化されたひとつ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサとひとつ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成されたひとつ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0124】
たとえばプロセッサ311が備える機能の一部または全部はハードウェアとして実現されてもよい。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、ひとつまたは複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。プロセッサ(演算コア)としては、CPUや、MPU、GPU、DFPなどを採用可能である。CPUは、Central Processing Unitの略称である。MPUは、Micro-Processing Unitの略称である。GPUは、Graphics Processing Unitの略称である。DFPは、Data Flow Processorの略称である。
【0125】
プロセッサ201が備える機能の一部または全部は、複数種類の演算処理装置を組み合わせて実現されていてもよい。プロセッサ201が備える機能の一部または全部は、SoC、ASIC、FPGAなどを用いて実現されていてもよい。SoCは、System on Chipの略称である。ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略称である。FPGAは、Field-Programmable Gate Arrayの略称である。プロセッサ311についても同様である。
【0126】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に記憶されていてもよい。プログラムの保存媒体としては、HDD、SSD、フラッシュメモリ等を採用可能である。HDDは、Hard-disk Driveの略称である。SSDは、Solid State Driveの略称である。コンピュータを制御装置、制御システムとして機能させるためのプログラム、当該プログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体等の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【0127】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0128】
<技術的思想1>
電動飛行体(10)に搭載された電池(14)を監視する監視装置であって、
飛行時における前記電池の電圧情報と、前記電動飛行体の移動モードに関する情報と、を取得する取得部(51)と、
前記電圧情報と、前記移動モードごとに設定される閾値と、を用いて前記電池の異常に関する所定の条件を満たす場合、監視結果を出力する出力部(53)と、
を備える監視装置。
【0129】
<技術的思想2>
前記電動飛行体の鉛直方向移動時における前記電池の最大放電レートは、水平方向移動時における最大放電レートの1.5倍以上である、技術的思想1に記載の監視装置。
【0130】
<技術的思想3>
前記鉛直方向移動時の放電レートが3C以上である、技術的思想2に記載の監視装置。
【0131】
<技術的思想4>
前記取得部は、前記移動モードに関する情報として、前記電池の放電特性情報および/または飛行情報を取得する、技術的思想1~3いずれかひとつに記載の監視装置。
【0132】
<技術的思想5>
前記取得部は、前記移動モードに関する情報として、前記放電特性情報と電池状態情報を取得し、
前記放電特性情報および前記電池状態情報に基づいて、前記移動モードごとに前記閾値を設定する設定部(54)を備える、技術的思想4に記載の監視装置。
【0133】
<技術的思想6>
前記電池状態情報は、電池反応に寄与するイオンの濃度偏りに起因して生じる抵抗増加の情報を含む、技術的思想5に記載の監視装置。
【0134】
<技術的思想7>
前記設定部は、機駐時に実施の電池状態診断により飛行前に更新される前記電池状態情報を用いる、技術的思想5または技術的思想6に記載の監視装置。
【0135】
<技術的思想8>
前記設定部は、設定する前記閾値を飛行中の電池状態の変化に基づいて逐次変化させる、技術的思想5~7いずれかひとつに記載の監視装置。
【0136】
<技術的思想9>
前記電池は、複数の電池セル(142)を備えて構成される組電池(141)を含み、
前記取得部は、前記電圧情報として、組電池電圧の絶対値、セル電圧の絶対値、前記組電池電圧の変化率、前記セル電圧の変化率、および前記セル電圧のばらつきの少なくともひとつを取得する、技術的思想1~8いずれかひとつに記載の監視装置。
【0137】
<技術的思想10>
前記取得部は、前記電圧情報として、前記組電池電圧に関する情報と前記セル電圧に関する情報とを、互いに異なる取得対象から取得する、技術的思想9に記載の監視装置。
【0138】
<技術的思想11>
前記組電池電圧と前記組電池内のすべての前記セル電圧を加算した総電圧とを用いて、異常の検知が正常に行われていることを診断する診断部(52)を備える、技術的思想10に記載の監視装置。
【0139】
<技術的思想12>
鉛直方向移動と水平方向移動との移行時の所定期間において、異常の検知を制限、移行前の前記閾値を適用、および前記閾値として前記電池に許容される上限電圧または下限電圧を適用、のいずれかを実行する制限部(52)を備える、技術的思想1~11いずれかひとつに記載の監視装置。
【符号の説明】
【0140】
10…eVTOL、11…機体本体、12…固定翼、121…主翼、122…尾翼、13…回転翼、131…ブレード、132…シャフト、14…電池、141…組電池、142…電池セル、142N,142P…電極端子、15…EPU、16…BMS、20…ECU、201…プロセッサ、202…メモリ、203…ストレージ、203P…プログラム、204…通信回路、30…地上局、31…サーバ、311…プロセッサ、312…メモリ、313…ストレージ、313P…プログラム、314…通信回路、40…運航管理システム、41…機外管理部、42…機内管理部、50…監視装置、51…取得部、52…判定部、53…出力部、54…設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20