(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179238
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】スパー型洋上風力発電設備の建造方法
(51)【国際特許分類】
B63B 75/00 20200101AFI20241219BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20241219BHJP
B63B 77/10 20200101ALI20241219BHJP
B63B 35/38 20060101ALI20241219BHJP
B63B 73/30 20200101ALI20241219BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20241219BHJP
B63B 73/40 20200101ALI20241219BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20241219BHJP
【FI】
B63B75/00
B63B35/00 T
B63B77/10
B63B35/38 A
B63B73/30
B63B35/44 Z
B63B73/40
F03D13/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097931
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
(72)【発明者】
【氏名】西山 桂司
(72)【発明者】
【氏名】鷺島 英之
(72)【発明者】
【氏名】熊井 崇
(72)【発明者】
【氏名】木村 守貴
(72)【発明者】
【氏名】薗部 直人
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB77
3H178CC22
3H178DD61X
3H178DD67X
(57)【要約】
【課題】安定的にスパー型洋上風力発電設備の建造を行えるようにする。
【解決手段】ジャケット基礎30とタワークレーン35と浮体グリッパー機構36とによって構成される建造用クレーン設備40を洋上に設置する第1及び第2ステップと、最下段側から複数段のコンクリートリング15を組み立てたコンクリートリングユニット11を海上に浮かべ、前記浮体グリッパー機構36によって保持させる第3ステップと、前記コンクリートリングユニット11の上側に順にコンクリートリング15を積み上げるとともに、PC鋼材19で緊結して一体化を図る手順によりコンクリート製浮体部4Aを完成させる第4ステップと、鋼製浮体部4Bを前記コンクリート製浮体部4Aの上部側に連結して浮体4を完成させる第5ステップと、前記浮体4の上部にタワー6を搭載し、更にナセル8とブレード9の取付けを行いスパー型洋上風力発電設備1を完成させる第6ステップとからなる。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、このコンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
最下段側から複数段のコンクリートリングを組み立てたコンクリートリングユニットを海上に浮かべ、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記コンクリートリングユニットの上側に、前記タワークレーンを用いて、順にコンクリートリングを積み上げるとともに、PC鋼材で緊結して一体化を図る手順によりコンクリート製浮体部を完成させる第4ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記鋼製浮体部を前記コンクリート製浮体部の上部側に連結して浮体を完成させる第5ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第6ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項2】
コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、このコンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体を半潜水型スパッド台船によってスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体を洋上にフロートオフさせたならば、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第4ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項3】
コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
最下段側から複数段のコンクリートリングを組み立てたコンクリートリングユニットを海上に浮かべ、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記コンクリートリングユニットの上側に、前記タワークレーンを用いて、順にコンクリートリングを積み上げるとともに、PC鋼材で緊結して一体化を図る手順によりコンクリート製浮体を完成させる第4ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記コンクリート製浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第5ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項4】
コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体を半潜水型スパッド台船によってスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体を洋上にフロートオフさせたならば、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第4ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項5】
各ステップの任意の時期に、浮体内にバラストを投入又は排出して吃水調整を行う請求項1~4いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートリングを高さ方法に複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、前記コンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体又はコンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主として水力、火力及び原子力発電等の発電方式が採用されてきたが、近年は環境や自然エネルギーの有効活用の点から自然風を利用して発電を行う風力発電が注目されている。この風力発電設備には、陸上設置式と、水上(主として海上)設置式とがあるが、沿岸域から後背に山岳地形をかかえる我が国の場合は、沿岸域に安定した風が見込める平野が少ない状況にある。一方、日本は四方を海で囲まれており、海上には発電に適した風が容易に得られるとともに、設置の制約が少ないなどの利点を有する。そのため近年は、各種形式の洋上風力発電設備及び浮体構造が多く提案されている。
【0003】
前記浮体構造としては、浮体を水面に浮かばせるバージ型浮体、浮体の下部を水面下に沈めて半潜水状態で浮かばせるセミサブ型、釣り浮きのように起立状態で浮かばせるスパー型などに大別される。
【0004】
本出願人は、前記スパー型浮体に関して、下記特許文献1において、浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数の風車ブレードとからなる洋上風力発電設備であって、前記浮体は、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部(以下、コンクリート製浮体部という。)と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部(以下、鋼製浮体部という。)とからなるスパー型浮体構造とした洋上風力発電設備(以下、スパー型洋上風力発電設備という。)を提案した。
【0005】
そして、2016年に長崎県五島市崎山沖で、全長172m、総重量3400トン、発電規模が2メガワットのハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電設備の実用化を開始した。
【0006】
前記スパー型洋上風力発電設備の浮体建造方法としては、
図26に示されるように、造船所において、前記鋼製浮体部を所定重量毎に分割した各鋼製リングの製作を行った後、これら各鋼製リングを溶接によって連結し鋼製浮体部を完成させる。そして、この鋼製浮体部を台船に積み込み、現地製作ヤードまで台船輸送したならば、1300tクラスの大型起重機船を使って岸壁に水切り(陸揚げ)を行うようにし、一方コンクリート製浮体部は、コンクリートメーカーの工場において、1リングをトラック輸送の便宜から周方向に複数に分割した状態で製作し、これら分割リングを現地製作ヤードにトラックで現地製作ヤードまで運び、ここで周方向に結合したならば、さらに各リングをPC鋼材を用いて長手方向に連結してコンクリート製浮体部を完成させるようにし、最後に、前記鋼製浮体部とコンクリート浮体部とを1300tクラスの大型起重機船を使って結合し、浮体を完成させるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5274329号公報
【特許文献2】特許第6108445号公報
【特許文献3】特開2022-33554号公報
【特許文献4】特開2012-201219号公報
【特許文献5】特開2022-55468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したスパー型浮体の建造方法の場合は、コンクリート製浮体部を横置きの状態で、コンクリートリングを順に連結して浮体を建造するものであるが、コンクリートの自重によりコンクリートリングにクラックが入り易いという問題があるとともに、組立作業や運搬作業、浮体の建て起こしの際にコンクリートリングに過大な荷重が作用してクラック(亀裂)が入ることがあるなどの問題があった。このような問題に対処するために、本出願人は上記特許文献2において、それぞれのプレキャスト筒状体(コンクリートリング)の外周面に、緊張力が導入されたアウターケーブルを周方向に沿って巻回することでコンクリートリングを補強することを提案し、更に前記特許文献3において、
図27に示されるように、円筒形プレキャストコンクリート部材60(コンクリートリング)の内側において、内接する正多角形状線に沿って緊張ケーブル61、61…を張設することにより補強することを提案した。
【0009】
また、洋上での建造に際して、前記スパー型浮体を洋上に浮かべた状態でタワー、ナセル及びブレード等の風車設備を設置する際には、波の穏やかな湾内で行うことが望ましいが、スパー型浮体の吃水(水面下の部分)が概ね70m以上と深いのに対して、湾内の水深は一般的にこれよりも浅いため、湾内での施工は困難であり、風車設備の設置に当たっては、
図28に示されるように、水深の深い湾外で大型起重機船70を用いて行うようにしていた(特許文献4参照)。
【0010】
しかしながら、洋上風力発電設備の建造を行い得る大型の起重機船は、現時点では日本には数隻しかなく、1日の使用料(傭船料)が1,000万円以上必要になるため傭船コストが膨大となるという問題があった。そこで、本出願人は上記特許文献5において、海上に設置する洋上風力発電設備の浮体と同じ浮体に、タワーを取り付けるとともに、タワーの上部にクレーン設備を設けたクレーン搭載浮体によって、これから海上に設置する洋上風力発電設備のタワーに対して風車を搭載する風車搭載方法を提案した。
【0011】
この方法によれば、大型起重機船を傭船することなく、ナセル等の風車設備を搭載することが可能になるが、このクレーン搭載浮体の場合は、洋上で動揺し易いため安定性が低く、架設に際して設置対象との位置合わせにかなりの精度が要求されるなどの問題があった。また、洋上風力発電設備の大型化が進み、湾外の波浪の影響もある外洋域で、安全かつ安定的にスパー型洋上風力発電設備の建造を行うことのできる方法が強く望まれている。
【0012】
そこで本発明の主たる課題は、コンクリートリング浮体の補強を行うことなく浮体の建造ができるようにするとともに、大型起重機船を使用することなく、湾外の洋上であっても安全かつ安定的にスパー型洋上風力発電設備の建造を行うことができるようにしたスパー型洋上風力発電設備の建造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、このコンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
最下段側から複数段のコンクリートリングを組み立てたコンクリートリングユニットを海上に浮かべ、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記コンクリートリングユニットの上側に、前記タワークレーンを用いて、順にコンクリートリングを積み上げるとともに、PC鋼材で緊結して一体化を図る手順によりコンクリート製浮体部を完成させる第4ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記鋼製浮体部を前記コンクリート製浮体部の上部側に連結して浮体を完成させる第5ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第6ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明では、従来は浮体の組立て作業を地上で横向き状態で行っていたが、本発明では着想を変えて、海上に浮かべた状態で組立てを行うようにしている。その結果、海上に浮かべた状態で組み立てを行うため、コンクリートリングの補強を行う必要はなく、コンクリートリングに対して余計な荷重が作用しないためクラック発生や破損を防止することが可能になる。また、すべての浮体部材を組立て終えた状態では浮体は縦向きで浮かんだ状態となるため、浮体の建て起こし工程が無くなるため、組立て作業の効率化を図ることが可能になる。
【0015】
具体的な建造方法は、先ずジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬又は曳航し、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定したならば、次いで起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる(第1ステップ及び第2ステップ)。
【0016】
次いで、最下段側から複数段のコンクリートリングを組み立てたコンクリートリングユニットを海上に浮かべ、前記浮体グリッパー機構によって保持させるようにする(第3ステップ)。コンクリートリングユニットは、海上に浮かばせるために複数段分だけ組み立てたコンクリートリング部分であり、これを最初に海に浮かべたならば、これを建造用クレーン設備の浮体グリッパ機構によって保持することにより移動しないよう保持する。なお、コンクリートリングユニットの段数は浮力によって海に浮かぶのに必要な段数とする。
【0017】
次に、前記コンクリートリングユニットの上側に、前記タワークレーンを用いて、順にコンクリートリングを積み上げるとともに、PC鋼材で緊結して一体化を図る手順を繰り返すことによりコンクリート製浮体部を完成させる(第4ステップ)。すなわち、前記コンクリートリングユニットを海上に浮かばせた状態のままで、残りのコンクリートを組み立ててコンクリート製浮体部を完成させる。
【0018】
次の工程では、前記タワークレーンを用いて、前記鋼製浮体部を前記コンクリート製浮体部の上部側に連結して浮体を完成させる(第5ステップ)。前記鋼製浮体部は予め地上で製作しておき、これを運搬台船で建造場所まで運搬し、前記タワークレーンを用いて一括で施工する。
【0019】
最後に、前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる(第6ステップ)。
【0020】
本発明で使用するクレーンは、ジャケット基礎の頂部に搭載した建造用クレーン設備であり安定性が高いため、架設に際して設置対象との位置合わせが容易に行える。また、浮体グリッパー機構によって保持している建造中の浮体は安定性が増すため、洋上であっても安全かつ安定的にスパー型洋上風力発電設備の建造を行うことができるようになる。
【0021】
請求項2に係る本発明として、コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部と、このコンクリート製浮体部の上側に連設された鋼製浮体部とからなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体を半潜水型スパッド台船によってスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体を洋上にフロートオフさせたならば、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第4ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0022】
上記請求項2記載の発明は、浮体を一括施工する場合の建造方法を示したものである。具体的には、浮体を岸壁で完成させて半潜水型スパッド台船によって建造場所まで運搬したならば、浮体を洋上にフロートオフさせ、前記浮体グリッパー機構によって保持させる(第3ステップ)。次に、前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる(第4ステップ)。本発明の場合は、半潜水型スパッド台船の使用を前提とするものであるが、コンクリートリングの補強を行う必要はなく、コンクリートリングに対して余計な荷重が作用しないためクラック発生や破損を防止することが可能になる。また、半潜水型スパッド台船からのフロートオフとバラスト水の注水作業で、浮体を建て起こした状態で海に浮かべることが可能になり、組立て作業の効率化を図ることが可能になる。
【0023】
請求項3に係る本発明として、コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
最下段側から複数段のコンクリートリングを組み立てたコンクリートリングユニットを海上に浮かべ、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記コンクリートリングユニットの上側に、前記タワークレーンを用いて、順にコンクリートリングを積み上げるとともに、PC鋼材で緊結して一体化を図る手順によりコンクリート製浮体を完成させる第4ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記コンクリート製浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第5ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0024】
上記請求項3記載の発明は、浮体の全部がコンクリートによって構成されたコンクリート製浮体の場合の建造方法を示したものである。基本的には、請求項1記載の発明の第1ステップから第4ステップまでの手順で浮体を完成させた後に、第5ステップでタワー、ナセル、ブレードを取り付けることにより洋上風力発電設備を完成させることができる。上記請求項1記載の発明と同様に、海上に浮かべた状態で浮体の組み立てを行うため、コンクリートリングの補強を行う必要はなく、コンクリートリングに対して余計な荷重が作用しないためクラック発生や破損を防止することが可能になる。また、すべての浮体部材を組立て終えた状態では浮体は縦向きで浮かんだ状態となるため、浮体の建て起こし工程が無くなるため、組立て作業の効率化を図ることが可能になる。
【0025】
請求項4に係る発明として、コンクリートリングを複数段積み上げ、各コンクリートリングをPC鋼材により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体からなるスパー型浮体を備えたスパー型洋上風力発電設備の建造方法であって、
ジャケット基礎をスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば、起重機船を用いてジャケット基礎を立起こし、ピンパイルを打設することによりジャケット基礎を海底に固定する第1ステップと、
起重機船を用いて前記ジャケット基礎の頂部にタワークレーンを搭載するとともに、ジャケット基礎の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構を1又は複数設け、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備を洋上に完成させる第2ステップと、
岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体を半潜水型スパッド台船によってスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体を洋上にフロートオフさせたならば、前記浮体グリッパー機構によって保持させる第3ステップと、
前記タワークレーンを用いて、前記浮体の上部にタワーを搭載し、更にナセルとブレードの取付けを行いスパー型洋上風力発電設備を完成させる第4ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0026】
上記請求項4記載の発明は、浮体の全部がコンクリートによって構成されたコンクリート製浮体を一括施工する場合の建造方法を示したものである。具体的施工手順は、上記請求項2記載の発明と全く同様である。
【0027】
請求項5に係る本発明として、各ステップの任意の時期に、浮体内にバラストを投入又は排出して吃水調整を行う請求項1~4いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0028】
上記請求項5記載の発明は、各ステップの任意の時期に、浮体内にバラストを投入又は排出することにより吃水を調整して、未完成の浮体の安定を図るようにしたものである。
【発明の効果】
【0029】
以上詳説のとおり本発明によれば、コンクリートリング浮体の補強を行うことなく浮体の建造ができるようになるとともに、大型起重機船を使用することなく、湾外の洋上であっても安全かつ安定的にスパー型洋上風力発電設備の建造を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】スパー型浮体式洋上風力発電設備1の全体図である。
【
図3】プレキャスト筒状体15を示す、(A)は縦断面図、(B)は平面図(B-B線矢視図)、(C)は底面図(C-C線矢視図)である。
【
図4】プレキャスト筒状体15同士の緊結要領図(A)(B)である。
【
図5】コンクリート製浮体部4Aと鋼製浮体部4Bとの境界部を示す拡大縦断面図である。
【
図8】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その1)である。
【
図9】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その2)である。
【
図10】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その3)である。
【
図11】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その4)である。
【
図12】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その5)である。
【
図13】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その6)である。
【
図14】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その7)である。
【
図15】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その8)である。
【
図16】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その9)である。
【
図17】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その10)である。
【
図18】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その11)である。
【
図19】第1形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その12)である。
【
図20】第2形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その1)である。
【
図21】第2形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その2)である。
【
図22】第2形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その3)である。
【
図23】第2形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その4)である。
【
図24】第2形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その5)である。
【
図25】第2形態例に係る洋上風力発電設備1の建造手順(その6)である。
【
図26】従来の浮体建造方法を示すフロー図である。
【
図27】コンクリートリング60の補強方法(特許文献3)を示す横断面図である。
【
図28】特許文献4における大型起重機船70による一括施工要領図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0032】
〔ハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電設備1〕
先ず最初に、本発明が適用されるスパー型洋上風力発電設備1について、
図1~
図5に基づいて詳述する。
【0033】
前記スパー型洋上風力発電設備1は、詳細には
図1に示されるように、スパー型の筒状形状の浮体4と、係留索5と、タワー6と、タワー6の頂部に設備されるナセル8及び複数のブレード9,9…からなる風車7とから構成されるものである。
【0034】
前記浮体4は、
図2に示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部4Aと、このコンクリート浮体部4Aの上側に連設された鋼製浮体部4Bとからなる。
【0035】
前記浮体4の中空部内には、水、砂利、細骨材又は粗骨材、金属粒などのバラスト材が投入又は排出可能とされ、浮力(吃水)が調整可能とされる。バラスト材の投入/排出は、本出願人が先に、特開2012-201217号公報において提案した流体輸送方法を採用することによって可能である。
【0036】
前記コンクリート浮体部4Aは、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…で構成されている。前記プレキャスト筒状体15は、
図3に示されるように、軸方向に同一断面とされる円形筒状のプレキャスト部材であり、それぞれが同一の型枠を用いて製作されるか、遠心成形により製造された中空プレキャスト部材が用いられる。
【0037】
壁面内には鉄筋20の他、周方向に適宜の間隔でPC鋼材19を挿通するためのシース21、21…が埋設されている。このシース21、21…の下端部にはPC鋼材19同士を連結するためのカップラーを挿入可能とするためにシース拡径部21aが形成されているとともに、上部には定着用アンカープレートを嵌設するための箱抜き部22が形成されている。また、上面には吊り金具23が複数設けられている。
【0038】
プレキャスト筒状体15同士の緊結は、
図4(A)に示されるように、下段側のプレキャスト筒状体15から上方に延長されたPC鋼材19、19…をシース21、21…に挿通させながらプレキャスト筒状体12,12を積み重ねたならば、アンカープレート24を箱抜き部22に嵌設し、ナット部材25によりPC鋼材19に張力を導入し一体化を図る。また、グラウト注入孔27からグラウト材をシース21内に注入する。なお、前記アンカープレート24に形成された孔24aはグラウト注入確認孔であり、該確認孔からグラウト材が吐出されたことをもってグラウト材の充填を終了する。
【0039】
次に、
図4(B)に示されるように、PC鋼材19の突出部に対してカップラー26を螺合し、上段側のPC鋼材19、19…を連結したならば、上段となるプレキャスト筒状体15のシース21、21…に前記PC鋼材19、19…を挿通させながら積み重ね、前記要領によりPC鋼材19の定着を図る手順を順次繰り返すことにより高さ方向に積み上げられる。この際、下段側のプレキャスト筒状体15と上段側のプレキャスト筒状体15との接合面には止水性確保及び合わせ面の接合のためにエポキシ樹脂系などの接着剤28やシール材が塗布される。
【0040】
前記鋼製浮体部4Bは、相対的には下段側に位置する鋼製筒状体17と、相対的に上段側に位置する鋼製筒状体18とで構成されている。下段側の鋼製筒状体17は、下側部分はプレキャスト筒状体15と同一の外径寸法とされ、
図5に示されるように、プレキャスト筒状体15に対して、ボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。鋼製筒状体17の上部は漸次直径を窄めた截頭円錐台形状を成している。
【0041】
上段側の鋼製筒状体18は、前記下段側の鋼製筒状体17の上部外径に連続する外径寸法とされる筒状体とされ、下段側の鋼製筒状体17に対してボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。これら鋼製筒状体17,18は、所定重量毎に分割した各鋼製リング10、10…によって構成され、各鋼製リング10、10…は周方向に溶接されることにより一体化されている。
【0042】
一方、前記タワー6は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。タワー6の外径と前記上段側鋼製筒状体18の外径とはほぼ一致しており、外形状は段差等が無く上下方向に連続している。図示例では、上段側鋼製筒状体18の上部に梯子13が設けられ、タワー6と上段側鋼製筒状体18とのほぼ境界部に周方向に歩廊足場14が設けられている。
【0043】
前記係留索5の浮体4への係留点Pは、
図1に示されるように、海面下であってかつ浮体4の重心Gよりも高い位置に設定してある。従って、船舶が係留索5に接触するのを防止できるようになる。また、浮体4の倒れ過ぎを抑えるように係留点Pに浮体4の重心Gを中心とする抵抗モーメントを発生させるため、タワー6の傾動姿勢状態を適性に保持し得るようになる。
【0044】
一方、前記ナセル8は、風車7の回転を電気に変換する発電機やブレード9の角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。
【0045】
〔スパー型洋上風力発電設備1の建造方法〕
次に、前記スパー型洋上風力発電設備1の建造方法について、
図6~
図19に基づいて詳述する。
【0046】
本発明の対象となるスパー型洋上風力発電設備1の浮体4は、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…(以下、コンクリートリングという。)を高さ方向に複数段積み上げ、各コンクリートリング15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部4Aと、このコンクリート製浮体部4Aの上側に連設された鋼製浮体部4Bとからなるスパー型の浮体である。
【0047】
前記コンクリート製浮体部4Aと前記鋼製浮体部4Bとからなる浮体構造とすることにより、重心を低くすることができるため、浮体の安定性が増すとともに、浮体の長さ寸法を低減することが可能となる。海上に突出している部分が鋼製のため、船舶の衝突に対して有利になるなどの効果がもたらされるようになる。
【0048】
前記浮体4の建造方法は、従来の場合は陸上に設けた製作ヤードで浮体を横向き状態として組立てを行うものであったが、本発明の第1形態例に係る建造方法では、最初にコンクリートリング15、15…を浮かばせるために最小限の段数分だけ組み立てておき、最初にこれを海上に縦向きで浮かばせた状態とし、この状態から残りのコンクリートリング15、15…を順に組立てて、コンクリート製浮体部4Aを完成させたならば、その上に鋼製浮体部4Bを連結して浮体4を完成させるものである。
【0049】
以下に、図面を参照しながら、その建造方法について詳述する。
【0050】
〔第1形態例〕
<第1ステップ>
先ず、
図6に示されるように、岸壁ヤードにおいてジャケット基礎30を積台船31に積載したならば、
図7に示されるように、曳航船32によりある程度の水深を有する洋上場所まで運搬する。次いで、
図8に示されるように、ロンチング(台船を傾けることによって海中に滑り落とす施工法)によってジャケット基礎30を洋上に浮かばせようにする。
【0051】
浮かばせたジャケット基礎30は、
図9に示されるように、曳航船32によりスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで曳航(運搬)する。前記ジャケット基礎30にはバラストタンク(図示せず)が付設しており吃水調整が可能となっている。なお、岸壁ヤードの水深が深い場合は、岸壁で直接、ジャケット基礎30を海上に浮かばせ曳航船32よって曳航(運搬)するようにしてもよい。
【0052】
建造場所に到達したならば、
図10に示されるように、起重機船33を用いてジャケット基礎30を立て起こして海底に仮置きする。ジャケット基礎の沈設は、頂部を起重機船33により保持した状態とし、バラストタンクに海水を注入することにより行う。
【0053】
次に、
図11に示されるように、ジャケット基礎30のレグ30aを通して、起重機船33によって吊持した油圧ハンマー37によりピンパイル34を打設した後、グラウトを注入しジャケット基礎30を海底に固定する。
【0054】
<第2ステップ>
次に、
図12に示されるように、起重機船33を用いて前記ジャケット基礎30の頂部(デッキ)にタワークレーン35を搭載するとともに、ジャケット基礎30の頂部に建造中のスパー型浮体を保持するための浮体グリッパー機構36を1又は複数設け(図示例では1つ)、スパー型洋上風力発電設備の建造用クレーン設備40を洋上に完成させる。
【0055】
前記タワークレーン35は、コンクリート製浮体部4A及び鋼製浮体部4Bの組立ての他、その後に組み立てられるタワー6、ナセル8、風車7(ブレード9、9…)の組立てのために用いられる。このタワークレーン36は、マストクライミング式のクレーンであり、クレーンの台座は最初に設置した位置のまま動かず、クレーンを支えるマスト(支柱)を自ら上部に継ぎ足し、その伸びた部分をクレーン部分が登っていく機構となっている。
【0056】
前記浮体グリッパー機構36は、
図13(B)に示されるように、浮体4を浮体グリッパー機構36内に挿入できるように平面視でU字状を成している。また、開口先端側のグリッパアーム部分36a(以下、可動アーム)が開閉方向に可動できるようになっており、浮体4が挿入された状態で可動アーム36aを閉じることによって浮体4が移動しないように保持できるようになっている。保持された浮体4は、横方向には移動不能に保持されるが、上下方向の移動は許容されるようになっている。前記浮体グリッパー機構36の設置数に関しては、図示例では1つとしたがジャケット基礎30の頂部(デッキ)の各辺に一つずつ最大で4基設けることが可能である。
【0057】
<第3ステップ>
第3ステップでは、最下段側から複数段のコンクリートリング15、15…を組み立てたコンクリートリングユニット11、11…を運搬台船38によってスパー型洋上風力発電設備1の建造を行う洋上場所まで運搬したならば、、このコンクリートリングユニット11を海上に浮かべ、前記浮体グリッパー機構36によって保持させるようにする。
【0058】
具体的には、
図14に示されるように、岸壁ヤードにて、最下段のコンクリートリング15から上側に複数段分だけ積み上げて連結したコンクリートリングユニット11を組立て、これを運搬台船38に載せ、曳航船32によって建造洋上場所まで運搬する。前記コンクリートリング15の組立て段数は、海上に浮かぶ浮力を有するように計算によって決定される。前記運搬台船38としては、図示例では、半潜水型スパッド台船を用いている。この半潜水型スパッド台船38は、バラスト水の調整によって半潜水状態まで吃水を調整可能とした台船であり、バラスト調整しながら台船上に積み荷をロールオン(積込み)した後、沖合でバラスト水の調整により半潜水状態とすることによって積み荷をフロートオフ(浮上・進水)できるようにしたものである。従って、前記コンクリートリングユニット11を建設場所まで運搬したならば、半潜水状態としてコンクリートリングユニット11を海上に浮上・進水させることがクレーン無しで可能になる。
【0059】
フロートオフさせたコンクリートリングユニット11については、
図15に示されるように、ジャケット基礎30に設けられた浮体グリッパー機構36に保持させるようにする。例えば、コンクリートリングユニット11に連結したワイヤーをウインチで引き寄せるとともに、曳航船32によってコンクリートリングユニット11に制動力を掛けながら位置をガイドし、慎重にコンクリートリングユニット11を浮体グリッパー機構36内に挿入させた後、可動アーム36aを閉じてコンクリートリングユニット11を保持させるようにする。
図15は、コンクリートリングユニット11を浮体グリッパー機構36によって保持した状態を示しているものである。
【0060】
<第4ステップ>
次に、第4ステップでは、前記コンクリートリングユニット11の上側に、前記タワークレーン35を用いて、順にコンクリートリング15、15…を積み上げるとともに、PC鋼材19で緊結して一体化を図る手順を繰り返すことによりコンクリート製浮体部4Aを完成させる。
【0061】
具体的には、
図15に示されるように、積込台船39に残りのコンクリートリング15、15…を積み込んで建造場所まで曳航する。そして、
図16に示されるように、タワークレーン35を用いて、コンクリートリングユニット11の上側にコンクリートリング15、15…を積み上げてPC鋼材19により締結する手順を繰り返すことにより、コンクリート製浮体部4Aを完成させる。
【0062】
コンクリートリング15、15…の組立てについては、図示例のように、コンクリートリング15を1段ずつ行ってもよいし、予め複数段、例えば2段毎に組立てを行っておき、組立てた複数段のコンクリートリング15、15毎に積み上げを行うことによって現場での作業を省力化することが可能になる。
【0063】
<第5ステップ>
第4ステップでは、
図17に示されるように、鋼製浮体部4Bを積込台船39によって建造場所まで運搬したならば、
図18に示されるように、タワークレーン35により前記鋼製浮体部4Bを吊持し、前記コンクリート製浮体部4Aの上部側に連結して浮体4を完成させる。
【0064】
<第6ステップ>
第6ステップでは、
図19に示されるように、前記タワークレーン35を用いて、前記浮体4の上部にタワー6を搭載し、更にナセル8とブレード9、9…(風車7)の取付けを行いスパー型洋上風力発電設備1を完成させる。
【0065】
<その他>
(1)前記第1ステップから第6ステップの任意の時期に、浮体4にバラストを投入・排出することにより吃水調整を行うことが望ましい。適時、未完成状態又は完成状態の浮体4の吃水を調整することにより浮体4の安定を図ることができるようになる。
【0066】
〔第2形態例〕
次に、第2形態例として、浮体4を一括施工する場合の建造方法を示す。この第2形態例は、半潜水型スパッド台船38の使用を前提とするものであるが、コンクリートリングの補強を行う必要はなく、コンクリートリングに対して余計な荷重が作用しないためクラック発生や破損を防止することが可能になるとともに、フロートオフだけの作業で浮体を建て起こした状態で海に浮かべることが可能になり、組立て作業の効率化を図ることが可能になる。
<第1ステップ及び第2ステップ>
ジャケット基礎30を海底に固定する第1ステップと、ジャケット基礎30にタワークレーン35を搭載するとともに、浮体グリッパー機構36を設ける第2ステップは、前述した第1形態例と全く同様である。
【0067】
<第3ステップ>
第3ステップでは、先ず岸壁で浮体全部の組み立てを行った後、完成した浮体4を半潜水型スパッド台船38によってスパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬し、浮体4を洋上にフロートオフさせたならば、前記浮体グリッパー機構36によって保持させる。
【0068】
具体的に詳述すると、先ず岸壁ヤードで浮体4を完成させる。その浮体建造方法としては、本出願人が提案した特開2018-173011号公報に係る方法を好適に採用することができる。
【0069】
その浮体建造方法は、
図20に示されるように、岸壁ヤードに、鋼製リング連結ヤードAと、コンクリートリング製作ヤードBと、コンクリートリング連結ヤードCとを画成して設ける。
【0070】
前記鋼製リング連結ヤードAには、第1橋形クレーン50を一定方向に走行自在に設けるとともに、第1橋形クレーン走行方向に適宜の間隔で回転機能付架台52、52…を設置し、かつ第1橋形クレーン走行方向に移動可能な移動式テント56を設ける。前記コンクリートリング製作ヤードBには、移動式テント57を設けるとともに、コンクリートリングの製造設備一式を設備する。前記コンクリートリング連結ヤードCには、第2橋形クレーン55を一定方向に走行自在に設けるとともに、第2橋形クレーン走行方向に移動可能な移動式テント58を設ける。
【0071】
そして、鋼製リング51、51…を前記第1橋形クレーン50を用いて、順に前記回転機能付架台52、52…上に設置するとともに、必要に応じて移動式テント56で周囲を覆った状態とし、鋼製リング51、51…を軸芯回りに回転させながら周方向に溶接を行って連結し、鋼製浮体部53Bを完成させる第1工程と、前記鋼製浮体部53Bを前記コンクリートリング連結ヤードCに移動し所定位置に設置したならば、前記コンクリートリング製作ヤードBで製作されたコンクリートリング54を順にコンクリートリング連結ヤードCに運び、必要に応じて移動式テント58で周囲を覆った状態とし、前記第2橋形クレーン55を用いコンクリートリング54を前記鋼製浮体部53Bに連設するとともに、PC鋼材により緊結し一体化を図ることにより前記浮体53を完成させる第2工程とからなる浮体式洋上風力発電設備の浮体建造方法である。このような方法で浮体4を完成させたならば、
図21に示されるように、岸壁において、半潜水型スパッド台船38に対して、横向き状態のまま移動させて積み込みを行う(ロールオン)。
【0072】
次に、曳航船32によって半潜水型スパッド台船38を曳航して、スパー型洋上風力発電設備の建造場所まで運搬したならば(
図22参照)、
図23に示されるように、半潜水型スパッド台船38を半潜水状態とすることにより浮体4を海上に進水・浮上させる(ロールオフ)。そして、バラスト水を注水することにより立て起こしを行い、縦向き状態とする。
【0073】
海上に浮かばせた浮体4は、
図24に示されるように、ジャケット基礎30に設置したウインチ41から繰出したワイヤー42によって引き寄せるとともに、曳航船32によって制動力を掛けながら位置をガイドし、慎重に浮体グリッパー機構36内に挿入させた後、可動アーム36aを閉じて浮体4を保持させるようにする。
【0074】
<第4ステップ>
第4ステップでは、
図25に示されるように、前記タワークレーン35を用いて、前記浮体4の上部にタワー6を搭載し、更にナセル8とブレード9、9…(風車7)の取付けを行いスパー型洋上風力発電設備1を完成させる。
【0075】
〔他の形態例〕
(1))上記第1及び第2形態例は、浮体4がコンクリート製浮体部4Aと、このコンクリート製浮体部4Aの上側に連設された鋼製浮体部4Bとからなるスパー型浮体を対象としたものであるが、浮体4がコンクリートリング15、15…を複数段積み上げ、各コンクリートリング15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部4Aのみからなるスパー型浮体の場合も同様の手順で建造することが可能である。
【0076】
具体的には、第1形態例のように、コンクリート製の浮体4を洋上で段積み施工により組み立てる場合は、前述した第1形態例のスパー型浮体のステップ1からステップ4までの手順により、コンクリート製の浮体4を完成させ、後は第5ステップにて前記タワークレーン35を用いて、前記コンクリート製浮体4Bの上部にタワー6を搭載し、更にナセル8とブレード9、9…の取付けを行いスパー型洋上風力発電設備1を完成させるようにする。
【0077】
また、第2形態例のように、コンクリート製の浮体4を一括施工する場合は、岸壁ヤードでコンクリート製の浮体4を完成させたならば、前述した第2形態例と同様の手順により、スパー型洋上風力発電設備1を完成させるようにする。
【符号の説明】
【0078】
1…スパー型洋上風力発電設備、4…浮体、4A…コンクリート製浮体部、4B…鋼製浮体部、5…係留索、6…タワー、7…風車、8…ナセル、9…ブレード、11…コンクリートリングユニット、15・16…プレキャスト筒状体(コンクリートリング)、19…PC鋼材、30…ジャケット基礎、31…積台船、32…曳航船、33…起重機船、34…ピンパイル、35…油圧ハンマー、36…浮体グリッパー機構、37…油圧ハンマー、38…半潜水型スパッド台船、39…積込台船、40…建造用クレーン設備