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特開2024-17925センサーズボン、下肢モニタリングシステム、下肢モーションキャプチャーシステム
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  • 特開-センサーズボン、下肢モニタリングシステム、下肢モーションキャプチャーシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017925
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】センサーズボン、下肢モニタリングシステム、下肢モーションキャプチャーシステム
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/12 20060101AFI20240201BHJP
   A41D 1/06 20060101ALI20240201BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A41D13/12 154
A41D1/06 501Z
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120893
(22)【出願日】2022-07-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.マジックテープ
3.ベルクロ
(71)【出願人】
【識別番号】516294001
【氏名又は名称】株式会社Xenoma
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 壮
(72)【発明者】
【氏名】槇藤 香
(72)【発明者】
【氏名】小川 智子
(72)【発明者】
【氏名】天野 信一
(72)【発明者】
【氏名】坂井 浩秋
(72)【発明者】
【氏名】網盛 一郎
【テーマコード(参考)】
3B011
3B211
4C038
【Fターム(参考)】
3B011AA05
3B011AB08
3B211AA05
3B211AB08
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】障害を持つユーザーでも1名の介助者で容易に装着できるセンサーズボンとそれを用いた下肢モニタリングシステム、下肢モーションキャプチャーシステムを提供する。
【解決手段】本発明は、ズボンとズボン上に配置された少なくとも1つ以上のズボンセンサーと少なくとも1つ以上の足首よりつま先側に配置された足部センサーとデータを送信するための通信機を備えたセンサーズボンにおいて、該ズボンは両脇の足先の裾から腰部までの両サイド部を固定具で止めることによってズボンの形状になるように設計されており、該ズボンセンサーおよび該足部センサーは慣性センサーであり、該ズボンセンサーおよび該足部センサーと該通信機は有線で接続されており、該有線は少なくとも4本の独立した線からなり、該ズボンは脚の周方向に対してサイズを調整して該ズボンセンサーを体に固定する機構を有していることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ズボンとズボン上に配置された少なくとも1つ以上のズボンセンサーと少なくとも1つ以上の足首よりつま先側に配置された足部センサーとデータを送信するための通信機を備えたセンサーズボンにおいて、
該ズボンは両脇の足先の裾から腰部までの両サイド部を固定具で止めることによってズボンの形状になるように設計されており、
該ズボンセンサーおよび該足部センサーは慣性センサーであり、
該ズボンセンサーおよび該足部センサーと該通信機は有線で接続されており、
該有線は少なくとも4本の独立した線からなり、
該ズボンは脚の周方向に対してサイズを調整して該ズボンセンサーを体に固定する機構を有していることを特徴とするセンサーズボン。
【請求項2】
全ての前記ズボンセンサーと通信機は、前記ズボンの前記両サイド部で隔てられた前もしくは後ろの同じ側に配置されており、
前記足部センサーは前記ズボンセンサーと前記同じ側から伸びた有線で接続されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサーズボン。
【請求項3】
請求項2に記載のズボンセンサーと通信機が、前記ズボンの後ろ側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のセンサーズボン。
【請求項4】
請求項1のズボンセンサーを固定する機構において、締め付け時に応力を調整する弾性素材を有していることを特徴とする請求項1に記載のセンサーズボン。
【請求項5】
前記通信機が、該ズボンから取り外し可能である請求項1に記載のセンサーズボン。
【請求項6】
前記足部センサーは足部の周方向に対してサイズを調整して体に固定する機構を有していることを特徴とする請求項1に記載のセンサーズボン。
【請求項7】
前記足部センサーは足部を覆う人工物に対して固定する機構を有していることを特徴とする請求項1に記載のセンサーズボン。
【請求項8】
前記通信機から無線を介して情報処理装置にデータを送信することを特徴とする請求項1に記載のセンサーズボンを用いた着用者の下肢モニタリングシステム。
【請求項9】
前記通信機から直接または情報端末を介してインターネットを経由して情報処理装置にデータを送信することを特徴とする請求項1に記載のセンサーズボンを用いた着用者の下肢モニタリングシステム。
【請求項10】
請求項8または9に記載のモニタリングシステムが、前記情報処理装置上でセンサーデータを入力情報として人の下半身の骨格セグメントの位置と姿勢を計測する下肢モーションキャプチャーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサーズボン、下肢モニタリングシステム、下肢モーションキャプチャーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
リハビリテーション分野において、運動機能回復を定量化するために体上の特徴点に多くの光学マーカーを配置し、複数のカメラを用いた光学式モーションキャプチャーシステムが使われている(非特許文献1)。しかしながら、被験者への光学マーカーの取付が大変で、カメラのセッティング準備にも時間を要することから、定量化のための計測作業は研究に限定されている。一方、加速度や角速度が計測できる慣性センサーの小型化、高精度化により、慣性センサー方式のモーションキャプチャーシステムが普及してきた。慣性センサー方式は光学式に比べて準備が簡便で場所も取らない点で有利である。
【0003】
普及当初は、センサーを一つずつ体上の基本骨格にバンドで固定し、全てをケーブルに繋いで腰回りなどにベルトで固定したやや大きい通信ユニットからデータを送信するようなものであったため簡便性に欠けていたが、近年では衣服上に慣性センサーが配置され、骨格の位置を気にすることなく着用するだけで計測できるものが登場している(非特許文献2)。これらはバイオメカニクスや医療の専門知識がなくとも適切な場所に慣性センサーを配置することができる。また、伸縮性のある配線を生地上に形成して着心地がよく、複数のセンサーを衣服上に搭載しても洗濯可能な衣服型ウェアラブルデバイスも登場している。国際公開第2018/123034号公報には多数のセンサーを衣服上に形成するために、縫製位置を考慮した特殊な上半身のシャツのパターンも提案されており(特許文献1)、洗濯可能な慣性センサー方式のモーションキャプチャーシステムも技術的には可能となってきた。
【0004】
しかし、衣服による慣性センサー式モーションキャプチャーでは、慣性センサーが衣服のしわや浮きなどで動いてはいけないことから、衣服が体に密着するいわゆるコンプレッションウェアと呼ばれるものを用いている。そのため、リハビリテーション用途では障害を持つユーザーは自分で着用できないだけでなく、ユーザーの体を支える介助者とズボンを履かせる介助者で少なくとも2名の介助がなければ着用が困難であった。
【0005】
そこで、介護分野で下肢等に障害を持つユーザーは独力でズボンを履くことができないため、介助者1名で障害者ユーザーが脚を持ち上げることなく履かせることのできるズボンとして、特開平8-158121号公報に左右両脇側又は片脇に上下全長にわたりスライドファスナを配置したズボンが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/123034号公報
【特許文献2】特開平8-158121号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lee, E. H. et al. Archives of physical medicine and rehabilitation 73.7 (1992): 642-646.
【非特許文献2】Damgrave, R. G. J and Diederick L. Proceedings of the 19th CIRP Design Conference-Competitive Design. Cranfield University Press, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、障害者が最小限の介助者のサポートで装着することができて、簡便に歩行など下肢の運動機能を計測評価することのできるセンサーズボン、下肢モニタリングシステムおよび下肢モーションキャプチャーシステムについて検討したところ、種々の問題点に気付いた。
【0009】
発明者らが気付いた1つ目の問題点は、着用の簡便性とセンサーの体上への固定の両立である。非特許文献2のシステムならばセンサーを体上に固定することはできるが、障害者は着用が難しい。そこで、非特許文献2のセンサー搭載衣服を、特許文献2のような左右両脇をスライドファスナの態様にしたものが考えられる。しかし、センサーを固定するためにコンプレッションで締め付けの強いズボンにして左右両脇をスライドファスナにしたところ、コンプレッションであるためにスライドファスナが上げづらく、時には着用してからサイズが合わないことに気付くような問題が生じた。
【0010】
発明者らが気付いた2つ目の問題点は配線設計である。非特許文献2のような慣性センサー方式でモーションキャプチャーを実施するにあたり、特許文献2のような左右両脇が開くズボンではセンサーを繋ぐ配線が左右両脇を経由することができない。特許文献1のシャツの考え方を応用して前面と後面を配線で繋ごうとすると配線距離が非常に長くなる。しかしながら、慣性センサー方式のモーションキャプチャーはデジタル通信する必要があるため、最低でも4本の配線でセンサー間を繋ぐ必要があることから、長距離で複雑な形状の配線を形成することは生産技術的にも生産コスト的にも困難であった。
【0011】
発明者らが気付いた3つ目の問題点は足部である。特許文献2のような障害者用のズボンは足部がない。下肢モーションキャプチャーをリハビリテーション分野で用いる場合は、足首の関節の動きも重要であることから、足部にセンサーが必要である。そこで、これまでには必要なかった足部との接続についても新たに考慮する必要が生じた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、上述の課題を一度に解決できるセンサーズボン、下肢モニタリングシステム、下肢モーションキャプチャーシステムを実現することを目的とする。より具体的には、障害を持つユーザーでも1名の介助者で容易に装着できるセンサーズボンとそれを用いた下肢モニタリングシステム、下肢モーションキャプチャーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、非特許文献2のセンサー搭載衣服を、特許文献2のような左右両脇が開いた形状でなおかつコンプレッションではなくゆったりした態様にし、センサーは脚の周方向に対してサイズを調整して固定する機構を備えることにより、下肢の必要な箇所にセンサーが固定できることを見出した。さらに足首より先の足部センサーは、ズボンから有線で接続させて本発明を完成させた。
【0014】
本発明はさらに次の効果があることも見出した。これまでの非特許文献2のようなコンプレッションのモーションキャプチャーシステムでは、着用者が動いた際に衣服の伸びを必要とする部位が十分に伸びず、生地がセンサーを引っ張ってしまうことで、センサーの位置がずれてしまうという問題が生じていた。しかし、本発明によってセンサー間はゆったりとしていることから動作に伴うセンサーの位置ずれが改良できるという予測できない顕著な効果を生み出した。
【0015】
上記目的を達成するために本発明の一の態様は、ズボンとズボン上に配置された少なくとも1つ以上のズボンセンサーと少なくとも1つ以上の足首よりつま先側に配置された足部センサーとデータを送信するための通信機を備えたセンサーズボンにおいて、該ズボンは両脇の足先の裾から腰部までの両サイド部を固定具で止めることによってズボンの形状になるように設計されており、該ズボンセンサーおよび該足部センサーは慣性センサーであり、該ズボンセンサーおよび該足部センサーと該通信機は有線で接続されており、該有線は少なくとも4本の独立したチャンネルを有し、該ズボンは脚の周方向に対してサイズを調整して該ズボンセンサーを体に固定する機構を有していることを特徴とするセンサーズボンである。
【0016】
本発明の一の態様によれば、着用者は起立もしくは椅子に座っているだけでよく、介助者1名がまず股を通して前後に開いた状態のズボンを通し、腰回りを固定して左右のボタンやファスナのような固定具を止めることにより、障害のあるユーザーでも1名の介助でズボンを装着できるようになる。全てのセンサーは有線で繋がっているため時刻同期の必要がなく、電源供給も1箇所から可能なので充電も楽である。しかも、これまでのコンプレッションの慣性センサー方式のモーションキャプチャーシステムでは、コンプレッションで生地に余裕がないために、例えばユーザーが膝を曲げると膝の部分の生地の伸びに引っ張られて膝の上下のセンサーの位置がずれてしまうという問題があったが、本発明ではズボンはゆったりしていてもよいため、ユーザーが動いてもセンサーの位置ずれが生じにくくなった。
【0017】
本発明の他の態様として、全ての前記ズボンセンサーと通信機は、前記ズボンの前記両サイド部で隔てられた前もしくは後ろの同じ側に配置されており、前記足部センサーは前記ズボンセンサーと同じ側から伸びた有線で接続されているセンサーズボンであることが好ましい。有線の配線は、開閉する両サイド部を経由することができないため、ズボン上ではセンサーは前後どちらか一方に形成する必要がある。足部はズボンの裾から有線で接続できるため、ズボンセンサーの配置されているのと同じ側から接続すればよい。
【0018】
本発明のさらに他の態様として、ズボンセンサーと通信機が、前記ズボンの後ろ側に配置されているセンサーズボンであることが好ましい。慣性センサー方式のモーションキャプチャーは、骨格の動きを体表面から推定することになるが、骨盤の動きを計測する際にセンサーが前すなわち腹部にあると、ユーザーによっては太ってお腹が出ている場合があり、ユーザーの骨格の動きと関係のない腹部の贅肉の揺れがノイズとなってしまう。骨盤の後ろすなわち腰部ならば腹部に比べて贅肉がつきにくいため、結果としてズボンセンサーはズボンの後ろ側に配置することで精度のよい計測が可能となる。
【0019】
本発明のさらに他の態様として、ズボンセンサーを固定する機構において、締め付け時に応力を調整する弾性素材を有しているセンサーズボンが好ましい。固定機構に弾性がないと、センサーが動かないように強く締め付けた際にユーザーは痛くなる。また、弾性がないと動作によって周方向の固定機構がセンサーを引っ張って位置ずれが生じる。弾性素材としてはウレタンなどの伸縮性素材を用いた生地の他、ゴムもしくはゴム紐などが挙げられる。
【0020】
本発明のさらに他の態様として、前記通信機が、該ズボンから取り外し可能であるセンサーズボンが好ましい。通信機はBluetoothのような通信モジュールの他、全てのセンサーに有線で電源供給するためのバッテリーと、全てのセンサーから受信したデータの前処理を行うためのマイコンが搭載されていることが好ましい。通信機も近年では小さな電子部品になっているため技術的にはズボンに一体化できるが、センサーズボンから通信機が取り外せると、センサーズボンの洗濯中に通信機の充電ができるようになる。
【0021】
本発明のさらに他の態様として、前記足部センサーは足部の周方向に対してサイズを調整して体に固定する機構を有しているセンサーズボンが好ましい。足部のセンサーが輪のバンド形状になっていて足部にはめることができれば、ズボンセンサーは全て後部に配置されていても足部センサーは容易に足の甲に持ってくることができて好ましい。
【0022】
本発明のさらに他の態様として、前記足部センサーは足部を覆う人工物に対して固定する機構を有しているセンサーズボンもまた好ましい。足部をバンドで固定すると足の裏にもバンドが来るが、足部は一般に靴、靴下、スリッパなどの人工物を履いていることが多いので、それら人工物にクリップなどで固定することができれば、容易に足の甲に足部センサーが固定できるので好ましい。
【0023】
本発明のさらに他の態様として、前記通信機から無線を介して情報処理装置にデータを送信することを特徴とするセンサーズボンを用いた着用者の下肢モニタリングシステムが挙げられる。センサーズボン上にモーションキャプチャーの演算を行うほどのCPUを置くことは難しいため、演算能力の高いパソコンなどの情報処理装置にBluetoothなどの無線でデータを送信することができると好ましい。また、センサーズボンはモーションキャプチャーだけでなく、着用者の転倒検出や行動分析などにも用いることができるため、転倒や異常行動などの情報を提示できるようにするために情報処理装置を活用できて好ましい。
【0024】
本発明のさらに他の態様として、前記通信機から直接または情報端末を介してインターネットを経由して情報処理装置にデータを送信することを特徴とする上記のセンサーズボンを用いた着用者の下肢モニタリングシステムが挙げられる。ユーザーはパソコンなどを近くに持っておく必要がなく、SIMを搭載した通信機から直接、もしくはスマートフォンなどの小型の情報端末を介してインターネットを経由して遠隔のサーバを情報処理装置として用いることが可能となる。これにより、着用者と離れた場所にいる人にも情報を容易に送ることができるようになるので好ましい。
【0025】
本発明のさらに他の態様として、前記モニタリングシステムが、前記情報処理装置上でセンサーデータを入力情報として人の下半身の骨格セグメントの位置と姿勢を計算する下肢モーションキャプチャーシステムが挙げられる。モーションキャプチャーによる歩行解析はリハビリテーションにおいて回復の定量化に用いることができる他、歩行評価によって転倒のリスクアセスメントや膝痛のような症状の予防にも役立てられるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は本発明に係るセンサーズボンの両サイド部を開いた形状を示す図
図2図2は本発明に係るセンサーズボンとユーザーの体の関係を示す図
図3図3は本発明に係る足部センサーを足部に固定する機構を示す図
図4図4は本発明に係る足部センサーを足部に固定する機構を示す別の態様の図
図5図5は本発明に係るセンサーズボンを用いた下肢モニタリングシステムのブロック図
図6図6は本発明に係るセンサーズボンを用いた下肢モニタリングシステムの別の態様のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に従って本発明の好適な実施形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明に係るセンサーズボンの両サイド部を開いた形状を示す図である。11と12はそれぞれズボンセンサーと足部センサーで、ともに慣性センサーである。慣性センサーとは加速度を計測する加速度センサーと角速度を計測するジャイロセンサーを有しており、加速度センサーもジャイロセンサーも3軸であることが好ましい。さらに慣性センサーは地球上の地磁気を計測する地磁気センサーもまた有していることが好ましく、地磁気センサーは3軸であることがさらに好ましい。
【0029】
13はズボンセンサーもしくは取り外し可能な通信機14を固定するコネクト部である。通信機14はズボンセンサーとしても用いることができるため、慣性センサーを搭載していることが好ましい。さらに通信機14はBluetoothのような無線モジュールの他、全てのセンサーに有線で電源供給するためのバッテリーと、全てのセンサーから受信したデータの前処理を行うためのマイコンが搭載されていることが好ましい。センサーズボンから通信機が取り外せると、センサーズボンの洗濯中に通信機の充電ができるようになるので好ましい。
【0030】
センサーズボンは両脇の足先の裾から腰部までの両サイド部15を固定機構16で止めることによってズボンの形状になる。図1で固定具16の2箇所のみを示しているが、両サイド部15にある丸印全てが固定機構であり、両サイド部15の全長を固定することが好ましい。固定機構16としてはズボンとして固定できるならば特に限定はないが、スナップボタンやマジックテープ、ファスナ、ホックなどアパレルで用いられる固定機構が生産性の観点から好ましい。
【0031】
ズボンセンサー11、13、足部センサー12、通信機14は有線17で接続されている。有線で接続することにより、通信機14の一か所で電源供給とデータ通信ができるので好ましい。有線17は通信機14より電源を供給し、データ通信するために、複数の独立した線が必要である。デジタル回路において電源供給のために電源回路のプラス側と繋がっているVCC線とマイナス側に繋がっているGND線、データ通信時の時間情報に相当するクロック信号を送るSCL線とデータを通信するSDA線の最低4本必要である。それ以外にも回路上のセンサーを選択するチップセレクトをするためのCS線やデータを双方向に送るためにSDA線の代わりに入力のSDI線と出力のSDO線を有してもよい。本例の有線17は、少なくとも部分的にズボンの布地に固定されているが、全体が固定されていてもよいし、ズボンから分離していてもよい。また、複数の独立した線は、全ての線または一部の線がまとめて被覆されていてもよいし、それぞれ個別に被覆されていてもよいし、被覆されていなくてもよい。
【0032】
ズボンセンサー11は脚の周方向に対してサイズを調整して体に固定できる機構18で体に固定されている。ユーザーが動いても動きによる変形がズボンセンサーに影響しないように応力を調整するために、固定機構18は周方向の一部または全部が弾性素材であることが好ましい。固定機構18は、少なくとも一部がズボンの布地に固定されている。ズボンセンサー11は、固定機構18及びズボンの布地の少なくとも何れかに固定されている。ズボンセンサー11は、固定機構18及びズボンの布地に対して着脱可能であってもよい。センサーズボンは腰部固定具19で腰に巻き付けて装着することができる。
【0033】
足部センサー12は足部に固定できる機構31で体に固定されている。固定機構31は、少なくとも一部が有線17もしくはズボンの布地に固定されている。足部センサー12は、固定機構31に固定されている。足部センサー12は、固定機構31に対して着脱可能であってもよい。
【0034】
センサーズボンのパターンは両サイド部15を境界として前後に隔てられるが、図1の両サイド部15で開いた形状においては(ズボンの布地の中央側を通る仮想の点線を境界として)21と22で前後に隔てられている。有線17が21と22にまたがると生産性が悪いだけでなく、ユーザーが動いた際に有線17が引っ張られて固定機構18で固定しづらい脚の周方向のねじれ力が発生してセンサーがずれやすくなるため、ズボンセンサー11、13、足部センサー12、通信機14は21または22の同じ側に配置されていることが好ましい。また、骨盤の動きを計測する際にズボンセンサー13が前側すなわち腹部にあると、ユーザーによっては太ってお腹が出ている場合があり、ユーザーの骨格の動きと関係のない腹部の贅肉の揺れがノイズとなってしまうため、ズボンセンサー13は後ろ側の腰部にあることが好ましく、21が後ろ側、22が前側であることが好ましい。
【0035】
図2は、本発明に係るセンサーズボンとユーザーの体の関係を示す図である。ユーザーがセンサーズボンを着用すると、ズボンセンサー13もしくは通信機14は骨盤上に配置される。ズボンセンサー11のうち骨盤に近い111は膝より上の大腿部、膝より下の112は下腿部に配置される。足部センサー12は足部であればどこでもよいが、足の甲に配置されることが好ましい。足部センサー12は足部の周方向に対してサイズを調整して体に固定する機構31で足部に固定できるようになっている。
【0036】
図3は本発明に係る足部センサー12を足部の周方向に対してサイズを調整して固定する機構31を示す図である。固定機構31はバンド上で足部の周囲を一周し、スナップボタンやベルクロなどの固定具で固定するか、元から輪状になっている。足部が動いて形状が変化した際に固定機構自体が引っ張られて足部センサー12の位置がずれないよう、固定機構31の一部または全部が弾性素材であることが好ましい。また、図3において有線17はセンサーズボンの前部22から伸びているように見えるが、センサーズボンの前後部は両サイド部で隔てられたセンサーズボンのパターンを指しており、脚に巻き付けたときの体の前後の位置ではない。従って、図3において17は後部21もしくは前部22のいずれのケースもありうる。
【0037】
図4は本発明に係る足部センサー12を足部に固定する別の態様の図である。図4では靴や靴下、スリッパのような足部を覆う人工物に対して、クリップ32のようなもので固定している。靴ならば紐やベロにクリップ等で固定、靴下ならば生地をピンで貫通して固定、スリッパならば甲表もしくは甲裏にクリップ等で固定することができる。
【0038】
図5は本発明に係るセンサーズボン10を用いた下肢モニタリングシステムのブロック図である。センサーズボン10はズボンセンサーおよび足部センサーとして複数の慣性センサーを有している。通信機14は主制御部であるマイコンと無線モジュールおよび電源を有しており、有線17を通じて慣性センサーに電源を供給し、データを取得している。取得したデータは必要に応じて主制御部でローパスフィルタなどの演算やカウンターのような情報の追加を行い、無線モジュールから無線40で情報処理装置41にデータを送信する。情報処理装置では受け取ったデータをソフトウェア411で処理し、必要な情報を提供する。
【0039】
図6は本発明に係るセンサーズボン10を用いた下肢モニタリングシステムの別の態様のブロック図である。図5と異なり、通信機14の無線モジュールは情報端末52を介して、もしくは無線モジュールから直接インターネット50を経由してインターネット上のサーバである情報処理端末51にデータを送信する。情報端末としてはパソコンやスマートフォンなどが挙げられる。情報処理装置では受け取ったデータをソフトウェア411で処理し、必要な情報を再びインターネット50を介してユーザーに提供する。ユーザーへの情報提供は無線モジュールと繋がっている情報端末52でもよいし、別の情報端末でもよい。
【0040】
ソフトウェア411はセンサーデータを使って下肢の状態、例えば歩いている、座っているといった状態や、歩幅、歩行速度などの歩行データの他、慣性センサーデータを使ってゲームをコントロールするなどに用いることもできる。さらに、本発明のセンサーズボンは図2に示したように下肢の骨格セグメントに慣性センサーを配置することにより、ソフトウェア411を用いて下半身の骨格セグメントの位置と姿勢を計測する3次元モーションキャプチャーを行うこともできる。
【0041】
また、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【0042】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(項目1)
ズボンとズボン上に配置された少なくとも1つ以上のズボンセンサーと少なくとも1つ以上の足首よりつま先側に配置された足部センサーとデータを送信するための通信機を備えたセンサーズボンにおいて、
該ズボンは両脇の足先の裾から腰部までの両サイド部を固定具で止めることによってズボンの形状になるように設計されており、
該ズボンセンサーおよび該足部センサーは慣性センサーであり、
該ズボンセンサーおよび該足部センサーと該通信機は有線で接続されており、
該有線は少なくとも4本の独立した線からなり、
該ズボンは脚の周方向に対してサイズを調整して該ズボンセンサーを体に固定する機構を有していることを特徴とするセンサーズボン。
(項目2)
全ての前記ズボンセンサーと通信機は、前記ズボンの前記両サイド部で隔てられた前もしくは後ろの同じ側に配置されており、
前記足部センサーは前記ズボンセンサーと前記同じ側から伸びた有線で接続されていることを特徴とする項目1に記載のセンサーズボン。
(項目3)
項目2に記載のズボンセンサーと通信機が、前記ズボンの後ろ側に配置されていることを特徴とする項目1または2に記載のセンサーズボン。
(項目4)
項目1のズボンセンサーを固定する機構において、締め付け時に応力を調整する弾性素材を有していることを特徴とする項目1乃至3の何れかに記載のセンサーズボン。
(項目5)
前記通信機が、該ズボンから取り外し可能である項目1乃至4の何れかに記載のセンサーズボン。
(項目6)
前記足部センサーは足部の周方向に対してサイズを調整して体に固定する機構を有していることを特徴とする項目1乃至5の何れかに記載のセンサーズボン。
(項目7)
前記足部センサーは足部を覆う人工物に対して固定する機構を有していることを特徴とする項目1乃至5の何れかに記載のセンサーズボン。
(項目8)
前記通信機から無線を介して情報処理装置にデータを送信することを特徴とする項目1乃至7の何れかに記載のセンサーズボンを用いた着用者の下肢モニタリングシステム。
(項目9)
前記通信機から直接または情報端末を介してインターネットを経由して情報処理装置にデータを送信することを特徴とする項目1乃至7の何れかに記載のセンサーズボンを用いた着用者の下肢モニタリングシステム。
(項目10)
項目8または9に記載のモニタリングシステムが、前記情報処理装置上でセンサーデータを入力情報として人の下半身の骨格セグメントの位置と姿勢を計測する下肢モーションキャプチャーシステム。
【符号の説明】
【0043】
10 センサーズボン
11 ズボンセンサー
12 足部センサー
13 ズボンセンサーもしくは通信機のコネクト部
14 通信機
15 両サイド部
16 両サイドの固定機構
17 有線
18 脚の周囲へのセンサー固定機構
19 腰部固定具
21 センサーズボンの後部
22 センサーズボンの前部
31 足部へのセンサー固定機構
32 足部人工物へのセンサー固定機構
40 無線
41 情報処理端末
50 インターネット
51 インターネット上の情報処理端末
52 情報端末
111 大腿部のズボンセンサー
112 下腿部のズボンセンサー
411 ソフトウェア
図1
図2
図3
図4
図5
図6