(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179252
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ドローンの係留飛行用電動リール及びドローンの係留飛行装置
(51)【国際特許分類】
B64U 10/60 20230101AFI20241219BHJP
B64F 1/08 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B64U10/60
B64F1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097959
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000137878
【氏名又は名称】株式会社ミヤマエ
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】宮前 昭宏
(57)【要約】
【課題】、ドローンの係留飛行中に故障等によって飛行不能となった場合には、その落下速度を機械的に落とす自動ブレーキを備えた吊り下げ式の電動リールを提供する。
【解決手段】吊索によるドローンの係留飛行に用いる電動リールであって、吊索の巻取り方向と繰出し方向とで正逆に回転自在なスプールと、常に一方向に回転駆動するモータと、モータの回転をスプールに対して巻取り方向の正回転として伝達可能なギア群と、ギア群の伝達経路中に位置してスプールの繰出し方向の逆回転を許容可能とするドラグと、スプールの片側に位置してスプールの逆回転を制動可能なブレーキとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊索によるドローンの係留飛行に用いる電動リールであって、前記吊索の巻取り方向と繰出し方向とで正逆に回転自在なスプールと、常に一方向に回転駆動するモータと、該モータの回転を前記スプールに対して前記巻取り方向の正回転として伝達可能なギア群と、該ギア群の伝達経路中に位置して前記スプールの前記繰出し方向の逆回転を許容するドラグと、前記スプールの片側に位置して前記スプールの前記逆回転を制動可能なブレーキとを備え、
前記ドラグは、
前記ギア群において前記モータ側と前記スプール側とで同軸上に配列したギアの対向面同士を摩擦接合力が調整自在な一対のドラグ板で接続するもので、
前記吊索を通じて前記スプールに作用する逆回転トルクが前記摩擦接合力以下のときは両者の差に見合った正回転トルクによって前記吊索にテンションを付与する一方、前記逆回転トルクが前記摩擦接合力を超えたときには前記スプール側の前記ドラグ板がスリップすることによる前記スプールの前記逆回転によって、前記吊索を前記ドローンの動きに追従して繰出し、
前記ブレーキは、
軸周面に逆ネジの雄ネジ部が形成され、常に前記モータと同期して前記スプールの前記繰出し方向に逆回転するネジ軸と、該ネジ軸上にライニングを介して接離可能に配列した摩擦板及び制動板からなる多板クラッチ部と、前記雄ネジ部に螺合して前記ネジ軸を上回る速度で逆回転したときに前記多板クラッチ部を押圧する側に締め込まれて当該逆回転を制動可能とした送りネジナットとで構成され、
さらに前記スプールと前記送りネジナットとで逆回転時のみ両者が結合するラチェットを有し、
前記ドローンの落下に起因する前記スプールの逆回転時には、これに伴う前記送りネジナットの逆回転速度が前記ネジ軸の逆回転速度を超過した段階で、当該超過速度に応じた量だけ当該送りネジナットが締め込まれると共に、当該締め込み量に見合った制動力によって当該送りネジナットと共に前記スプールの逆回転が制動されて前記ドローンの落下速度を減速することを特徴としたドローンの係留飛行用電動リール。
【請求項2】
ブレーキは、モータを回転駆動する以前の静的な停止状態において、ドローンを定位置に宙吊りする制動力を有する請求項1記載のドローンの係留飛行用電動リール。
【請求項3】
モータの回転速度を調整することによりネジ軸の逆回転速度を調整自在とした請求項1記載のドローンの係留飛行用電動リール。
【請求項4】
スプールの回転中心にモータを収容した構造を有する請求項1記載のドローンの係留飛行用電動リール。
【請求項5】
ネジ軸をモータと同軸上に設けると共に、該ネジ軸にギア群のギアを共転可能に固定した請求項1記載のドローンの係留飛行用電動リール。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載した電動リールに巻回した吊索をドローンに直結したことを特徴とするドローンの係留飛行装置。
【請求項7】
請求項1~5の何れか一項に記載した電動リールに巻回した吊索を、垂直方向に設けられる主索に対して上下動自在に挿通したスライド環に接続すると共に、該スライド環に連結索を介してドローンを接続したことを特徴とするドローンの係留飛行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドローン(drone)の係留飛行中、故障等によって飛行不能となったドローンの落下速度を自動的に減速することができる電動リールと、該電動リールを用いたドローンの係留飛行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドローンを用いて建物の外観を点検する装置として、特許文献1の
図1及び
図5には、建物の屋上側と地上側に平行して設けた2本の水平ライン(第2のガイドライン)間に、鉛直ライン(第1のガイドライン)を水平ラインに沿って左右に移動可能に設け、鉛直ラインを上下直線的に飛行するドローンの撮像範囲を水平ラインによって「面」に拡大したドローンの安全飛行装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置は、ドローンの中心に上下に貫通する透孔(ラインガイド部)を設け、この透孔に鉛直ラインを挿通しているだけであるので、もしドローンが飛行中に故障やバッテリー切れ等によって制御不能となれば墜落は免れず、地上にいる者に危険を及ぼす。
【0005】
ところで、ドローンを始めとする無人航空機を飛行させる場合は航空法の規制を受ける。この点、国土交通省(航空局)による「無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン(令和5年1月26日)」には、「(3)飛行禁止空域の除外並びに不要になる許可・承認」として、「十分な強度を有する紐等(30m以内)で係留した飛行で、飛行可能な範囲内への第三者の立入管理等の措置を行えば一部の許可・承認が不要になります。」とある。
【0006】
そして、同ガイドラインには「物件等に沿って配置する主索と、無人航空機を繋ぐ連結策により係留される場合(主索と連結索とはスライド環などを用いる)については、30mの上限規定は無人航空機を繋ぐ連結索が該当します。」との説明と共に、
図8に示す写真(元はカラー)が掲載されている。
【0007】
しかし、
図8の係留方式においても、ドローンと連結索で繋いでいるスライド環は主索に挿通しているだけであるから、何らかの理由でドローンが飛行不能となれば、そのままドローンが墜落する。
【0008】
また、上記ガイドラインには、地上に固定点を設けた係留飛行も例示されているが、この場合は地上からドローンを操縦するケースであるから、故障等によるドローンの墜落は当然防止できない。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ドローンの係留飛行中に当該ドローンが故障等によって飛行不能となった場合には、ドローンの落下速度を自動的に落とすことで地上側の安全を確保することができるドローンの係留飛行用電動リールと該電動リールを用いたドローンの係留飛行装置を開示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために本発明の電動リールは、ドローンを吊索(吊り下げ式の繋索)によって係留飛行することを前提として、前記吊索の巻取り方向と繰出し方向とで正逆に回転自在なスプールと、常に一方向に回転駆動するモータと、該モータの回転を前記スプールに対して前記巻取り方向の正回転として伝達可能なギア群と、該ギア群の伝達経路中に位置して前記スプールの前記繰出し方向の逆回転を許容するドラグと、前記スプールの片側に位置して前記スプールの前記逆回転を制動可能なブレーキとを備える。
【0011】
当該手段において前記ドラグは、前記ギア群において前記モータ側と前記スプール側とで同軸上に配列したギアの対向面同士を摩擦接合力が調整自在な一対のドラグ板で接続するもので、前記吊索を通じて前記スプールに作用する逆回転トルクが前記摩擦接合力以下のときは両者の差に見合った正回転トルクによって前記吊索にテンションを付与する一方、前記逆回転トルクが前記摩擦接合力を超えたときには前記スプール側の前記ドラグ板がスリップすることによる前記スプールの前記逆回転によって、前記吊索を前記ドローンの動きに追従して繰出し可能とする。
【0012】
ここまでの手段では、本電動リールを外観点検対象となる構造物等の上層に設置することで、吊索を介してドローンを吊り下げた状態で係留飛行させることができる。正常飛行時は、ドローンがリールから遠ざかるように飛行すれば、ドラグのスリップ機能によりスプールの逆回転が許容され、ドローンの引きに任せて吊索が繰り出される。逆に、ドローンがリールに近づくように飛行すれば、その接近距離だけ吊索が弛むことになるが、このときドラグはスリップせずにスプールが正回転するため、実際には弛みが生ずることはない。したがって、前者飛行時はもちろん、後者飛行時においても、常に吊索にテンションが付与され、回転翼への絡みつきなど、吊索の弛みによる飛行の妨げが防止される。また、本発明ではモータの回転を正逆に切り換えることはせず、常に一方向に回転させたままでドローンの係留飛行から回収までを可能としている。つまり、ドラグは、モータの性能やドローンの飛行能力に応じて摩擦接合力を任意に調整することができるが、摩擦接合力を高めすぎるとスリップ機能が働かず、常にドローンがリールに引き寄せられ、自由な係留飛行を行うことができない。このため、ドローンをリール側に回収といった事情がない限り、係留飛行中は、吊索の弛みのみを回収できる回転トルクが確保できれば十分であるから、摩擦接合力をできるだけ弱めに設定することでドローンの飛行の自由度を優先する。
【0013】
一方、前記ブレーキは、上述のように前記スプールの前記逆回転を制動可能なものとして、軸周面に逆ネジの雄ネジ部が形成され、常に前記モータと同期して前記スプールの前記繰出し方向に逆回転するネジ軸と、該ネジ軸上にライニングを介して接離可能に配列した摩擦板及び制動板からなる多板クラッチ部と、前記雄ネジ部に螺合して前記ネジ軸を上回る速度で逆回転したときに前記多板クラッチ部を押圧する側に締め込まれて当該逆回転を制動可能とした送りネジナットとで構成される。
【0014】
さらに前記ブレーキは、前記スプールと前記送りネジナットとで逆回転時のみ両者が結合するラチェットを有し、前記ドローンの落下に起因する前記スプールの逆回転時には、これに伴う前記送りネジナットの逆回転速度が前記ネジ軸の逆回転速度を超過した段階で、当該超過速度に応じた量だけ当該送りネジナットが締め込まれると共に、当該締め込み量に見合った制動力によって当該送りネジナットと共に前記スプールの逆回転が制動されて前記ドローンの落下速度を減速可能とした。
【0015】
この点、モータを回転駆動している限りネジ軸が常に逆回転するから、正常な係留飛行中は送りネジナットが逆ネジの作用によって多板クラッチ部を押圧するのとは反対側に変位しようとして制動力が発揮されない。一方、ドローンが故障するなどして落下態勢に入ったときのように、正常飛行では想定されない速さでスプールが逆回転すれば、上述したように、その速度がネジ軸の逆回転速度を超過した段階で送りネジナットがネジ軸を逆回転しながら多板クラッチ部を押圧する側に変位する。そして、その推力によって制動力を強めることによって、送りネジナットと共にスプールの逆回転速度(吊索の繰出し速度に相当)を低下させ、ドローンの落下速度を自動的に落とす。この速度低下によってネジ軸との速度差が縮まれば、送りネジナットは元の位置に復帰しようとし、多板クラッチ部を押圧する推力が弱まって制動力も抑えられるが、その後もネジ軸の逆回転速度を超過する速さでスプールが逆回転しようとすれば、再度、制動力を高め、以降、これを繰り返すことによって、ドローンを徐々に降下させて地上側で安全に回収することができる。このほか、操縦の誤りによってドローンが異常な速度で移動しようとした際も、同じ原理によって移動速度が抑えられて、ドローンが点検対象物等に激突することを回避できる。さらに、点検終了後にドローンを回収するにあたっては、操縦者が積極的にドローンの飛行を停止することで、故障等による落下と同様に、ゆっくりとした速度でドローンを降下させて安全に回収することができる。
【0016】
なお、ブレーキは、モータを回転駆動する前の静的な停止状態において、ドローンを定位置に宙吊りする制動力を有することが好ましい。係留飛行前の宙吊り状態によって、ブレーキの制動力がそのドローンに見合っているかの確認ができ、もし、ドローンが自身の重さで降下するようならば、多板クラッチ部における摩擦板と制動板の組数を増やすなどして制動力を高める調整が可能となるからである。
【0017】
また、モータの回転速度を調整することによりネジ軸の逆回転速度を調整自在とすることが好ましい。ネジ軸の逆回転速度は送りネジナットとの速度差を生成する基準速度であり、引いてはブレーキの応答性に影響する。つまり、ネジ軸の逆回転速度を高めすぎると、ドローンが落下してもスプールがネジ軸よりも速く逆回転するまでに時間がかかり、ブレーキの効きが遅くなる。一方、ネジ軸の逆回転速度が低すぎると、今度は、ドローンの落下に満たない低速でスプールが逆回転してもブレーキが効いてしまい、正常な係留飛行に支障を及ぼす。こうしたことから、ネジ軸の逆回転速度をモータ側で調整可能とすれば、係留飛行中に、ドローンの性能や重さ、現場の風速などに応じて、ブレーキの応答性を最適なものとすることができる。
【0018】
さらに、部品の組み付け構造としては、モータをスプールの回転中心に収容した構造(スプールインモータ)とすることが好ましい。内部スペースの効率化によってリールを小型化することができるからである。また、ネジ軸をモータと同軸上に設けると共に、該ネジ軸にギア群の最初のギアを共転可能に固定すれば、ネジ軸をブレーキとギア群とで共用できて部品点数の低下により製造コストを抑えることができる。
【0019】
さらにまた、ドローンの係留飛行装置としては、ドローンを電動リールに巻回した吊索の先端に直結する一点方式のほか、垂直方向に設けられる主索にスライド環を上下動自在に挿通し、このスライド環に連結索を介してドローンを接続した二点方式にあっては、スライド環に電動リールに巻回した吊索の先端を接続することが好ましい。また、後者の二点方式における連結索の長さを30m以内とすることによって、当該係留飛行に際しては、国土交通省の上記ガイドラインに沿って許可・承認が不要となる。
【発明の効果】
【0020】
ドローンの係留飛行中に当該ドローンが故障等によって飛行不能となった場合には、ドローンの落下速度を自動的に落とすことで地上側の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一実施形態を示した係留装置の全体斜視図
【
図7】本発明の第二実施形態を示した係留装置の全体図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。
図1は、第一の実施形態として、ドローンDを外観点検等の対象建物Bの屋上に設置した吊り下げ式の係留飛行装置を示したものである。当該装置において本発明の電動リールRは釣り竿式のアームAと共に屋上に固定され、電動リールRから繰り出される吊索Lの先端をドローンDの上部中心に固定している。吊索Lは非伸縮性であって、容易に切断されないものを用いる。なお、電動リールRの固定方法は任意であり、アームAを旋回可能とする他、アームA以外の固定装置を採用することも可能である。また、電動リールRの固定位置を変更可能とすることもあるが、ドローンRを曳航するものは避けることが好ましい。航空法を遵守した係留飛行を行うためである。
【0023】
図2は、電動リールRの外観を示し、1はスプール、2はモータ速度調整用ツマミ、3はドラグ力調整用ノブである。スプール1には吊索L(同図では図示省略)を右側面から見て反時計回り(CCW)に巻き付けており、スプール1が時計回り(CW)の方向に回転したときにレベルワインダWを通じて吊索Lを、図面上、紙面奥に向かって繰り出すようにしている。モータ速度調整用ツマミ2は、これを回すことによって後述するモータの回転速度を任意に増減するもので、スプール1の巻取り方向の正回転速度を調整する他、後述するブレーキの応答性を調整するものである。ドラグ力調整用ノブ3は、これを図面上、手前に引いたり、押し込んだりすることで、後述するドラグ力(ドラグの摩擦接合力)を調整するもので、ドローンの係留飛行の自由度と吊索Lのテンションのバランスをとるものである。なお、レベルワインダWはスプール1の回転と同期して左右に移動するもので、吊索Lをスプール1に対して均一に巻き付けるものである。
【0024】
図3・4は、電動リールRの内部構造を右側と左側それぞれから見たときの斜視図であって、スプール1の回転中心にはモータ4が左側から収容され、モータ4の回転軸4aは二つの遊星ギア5・6を介してネジ軸7に接続される。つまり、ネジ軸7は常にモータ4と同期して同方向に回転する。そして、ネジ軸7の先端には第一ギア8が固定され、モータ4の回転は、第一ギア8、アイドルギア9、第二ギア10、第三ギア11、第四ギア12からなるギア群によってスプール1に伝達される。なお、最終の第四ギア12はスプール1の片側に固定され、同期回転する。この実施形態によれば、アイドルギア9と第三ギア11によって回転方向が切り換えられると同時に、ネジ軸7から伝達経路をUターンさせてスプール1にモータ4の回転を伝達している。
【0025】
そして、この実施形態では、モータ4を右側から見て時計回り(CW)の一方向に回転駆動する。したがって、二つの遊星ギア5・6を介してネジ軸7をCW方向に回転させ、これに固定した第一ギア8もCW方向に回転する。その後、アイドルギア9でCCW方向に反転し、第二ギア10ではCW方向に戻るが、この第二ギア10と同軸上に配列した第三ギア11を経て、第四ギア12では再度CCW方向に反転することで、モータ4のCW方向の回転は、最終的にはスプール1をCCW方向、即ち吊索Lの巻取り方向の正回転として伝達される。なお、この実施形態における「CW」方向の回転は特許請求の範囲の「逆回転」、「CCW」方向の回転は「正回転」と対応している。
【0026】
このような伝達経路にあって、第二ギア10と第三ギア11の対向面にはライニング13を介してドラグ板14・15を設けている。これらドラグ板14・15はドラグ力調整用ノブ3を回すことによって相対的に接離する。これによってドラグ板14・15を摩擦接合する力(摩擦接合力=ドラグ力)を調整することができる。したがって、第一ギア8から第二ギア10までは常に同じ方向に回り続けるが、第三ギア11からスプール1までは負荷の大きさに応じてCCW方向からCW方向に回転向きを反転可能としている。
【0027】
つまり、スプール1に吊索Lを通じて作用する逆回転トルクがドラグ板14・15の摩擦接合力の範囲内であればドラグ板14・15は共転し続け、逆回転トルクと摩擦接合力の差に見合った正回転トルクによってスプール1は吊索を巻き取るCCW方向に正回転する。このため、
図1において、ドローンDがX地点からリールに近いY地点に飛行した場合は、余剰の吊索Lを巻取り回収して弛みを防止し、吊索Lを一定のテンションに保持する。
【0028】
これに対して、ドローンDがY地点やX地点からZ地点に飛行移動するなど、リールから遠ざかろうとすれば、吊索Lを引っ張る力、即ち逆回転トルクがドラグの摩擦系合力を超えることでドラグ板14・15がスリップし、スプール1のCW方向の回転、即ち吊索Lの繰出し方向の逆回転が許容される。これによってドローンDの自由な飛行を担保している。
【0029】
このように本発明では、基本的には、ドローンDに任せてスプール1の繰出し方向の逆回転(CW)を許容するのであるが、同じスプール1の逆回転動作であっても、それがドローンDの落下による場合は、これを機械的に判別して、ドローンDの落下速度を自動的に落とすようにしている。
【0030】
こうしたドローンDの落下速度を抑制する自動ブレーキについて、
図5を併用しながら本実施形態の構成を説明すると、まずネジ軸7は上述のとおり遊星ギア6と第一ギア8との間で常にモータ4と同期してCW方向に逆回転するもので、その中途周面には逆ネジの雄ネジ部7aが一定範囲にわたって刻設されている。そして、この雄ネジ部7aに送りネジナット16を螺合している。したがって、逆ネジの作用によって、送りネジナット16は、ネジ軸7のCW方向の逆回転を受けて、常時、スプール側(
図5において左側)に変位しようとする。しかし、送りネジナット16自体が逆回転すれば、その変位量は小さくなり、送りネジナット16の逆回転速度がネジ軸7の逆回転速度を超過すれば、今度は、超過速度に見合った量だけ送りネジナット16がスプール1から離間する方向、即ち第一ギア8側に逆回転しながら変位する。
【0031】
さらに、スプール1と送りネジナット16とはラチェットによってCW方向の逆回転時のみ共転するように構成している。具体的には、送りネジナット16のスプール側には爪車16aを形成すると共に、スプール1の片側には前記爪車16aに対応した爪1aを設けている。したがって、スプール1がCW方向に逆回転すれば送りネジナット16も同方向に逆回転しようとする。
【0032】
こうした動作を利用して送りネジナット16に自動ブレーキ機能を持たせているところ、
図6に示すように、送りネジナット16の第一ギア8側には、ブレーキ受け17を設けて、このブレーキ受け17と送りネジナット16の間に、ライニング18を介して摩擦板19と制動板20を複数組、交互に配列してなる多板クラッチ部21を設けている。摩擦板19と制動板20のうちの一方は送りネジナット16に係合させ、他方はブレーキ受け17に係合している。このブレーキ受け17は本実施形態では回転可能なものとして構成しているが、ラチェット22によってCW方向の逆回転を規制しており、送りネジナット16がCW方向に逆回転しても共転しない。したがって、送りネジナット16がネジ軸7に先行する速度でCW方向に逆回転することで多板クラッチ部21側に締め込まれたときは、その推力によって摩擦板19と制動板20を圧接して制動力が働き、送りネジナット16自身の逆回転速度が低下する。なお、送りネジナット16とブレーキ受け17の間には、多板クラッチ部21の他、ウェーブワッシャー23を設けている。このため送りネジナット16の逆回転速度が低下すれば即座にスプール1側に変位させて、多板クラッチ部21の圧接を解除することにより制動力を解消可能としている。
【0033】
そして、送りネジナット16の逆回転動作は、上述した爪車16aと爪1aとの噛合によってスプール1から伝達されるところ、スプール1がドローンDの落下によってネジ軸7を超える速度で逆回転すれば、送りネジナット16が多板クラッチ部21の圧接力を高めて当該逆回転を制動する結果、ドローンDの落下速度が自動的に低下する。その後、再びスプール1の逆回転速度が高まれば、同様の動作によって減速することを繰り返す。こうした一連の動作によって、ドローンDをゆっくりとした速度で降下させることができるのである。
【0034】
なお、スプール1の逆回転速度がネジ軸7を超過しない範囲では制動力は発生せず、ドローンDの飛行は制限されない。ただし、ネジ軸7は、モータ4の回転速度を調整することで任意の逆回転速度に調整でき、これとの比較によってブレーキの応答性が変更されるため、落下は防止しつつも、ドローンDの飛行を制限しない範囲でモータ速度を調整する。
【0035】
図7は、第二の実施形態として、橋脚などを対象として垂直方向に主索30を設け、この主索30にスライド環31を上下動自在に挿通し、このスライド環31に連結索32を介してドローンDを接続したもので、上記第一実施形態と同じ構成の電動リールRを主索30に沿った上層側に適宜な固定手段を用いて設置し、当該リールに巻回した吊索Lをスライド環31に取り付けている。この実施形態では、ドローンDは、主索30を高さ、連結索32を半径とする円柱形の範囲で係留飛行するが、全体として見れば、吊索Lにスライド環31を介して連結索32の長さ分、延長した部分にドローンDを固定している。したがって、ドローンDが落下し始めたとき、スライド環31の落下速度を制御することで、ドローンDの落下速度も制御することができる。なお、連結索32の長さを30m以内とすれば、その他の必要な条件を満たすことで、承認等を得ずに係留飛行が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の電動リールは、重量物を上階から下ろすときのホイストとしても利用できる。この場合、重量物を吊り下げた後にモータを駆動すれば、自動ブレーキ機能によって、ゆっくりと重量物を下ろすことができる。
【符号の説明】
【0037】
D ドローン
R 電動リール
L 吊索
1 スプール
1a ラチェットの爪
4 モータ
7 ネジ軸
8~12 ギア群
14・15 ドラグ板
16 送りネジナット
16a ラチェットの爪車
17 ブレーキ受け
19 摩擦板
20 制動板
21 多板クラッチ部
30 主索
31 スライド環
32 連結索