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特開2024-179255ゴム用配合剤、ゴム組成物及びタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179255
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ゴム用配合剤、ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/16 20060101AFI20241219BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20241219BHJP
   C08L 81/00 20060101ALI20241219BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C08G75/16
C08L21/00
C08L81/00
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097963
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 浩徳
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J030
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131AA06
3D131BA07
3D131BA08
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC31
4J002AC001
4J002CN062
4J002FD010
4J002FD140
4J002FD142
4J002FD150
4J002GM00
4J002GN01
4J030BA05
4J030BA47
4J030BB18
4J030BB21
4J030BB24
4J030BC02
4J030BG27
(57)【要約】
【課題】破断強度に優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係るゴム用配合剤は、炭素元素の含有量と硫黄元素の含有量の和が89質量%以上である逆加硫体を含む。実施形態に係るゴム組成物は、該ゴム用配合剤を含む。実施形態に係るタイヤは、該ゴム組成物を用いて作製される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素元素の含有量と硫黄元素の含有量の和が89質量%以上である逆加硫体を含む、ゴム用配合剤。
【請求項2】
前記逆加硫体は、トポロジカル極性表面積が50Å以下でありかつ炭素-炭素二重結合を2つ以上有する有機化合物を原料として含む、請求項1に記載のゴム用配合剤。
【請求項3】
前記逆加硫体は、炭素-炭素二重結合を2つ以上有しかつ1分子中に含まれるヘテロ原子が0個又は1個である有機化合物を原料として含む、請求項1に記載のゴム用配合剤。
【請求項4】
前記逆加硫体は、炭素-炭素二重結合を2つ以上有しかつ芳香環を有する有機化合物を原料として含み、炭素元素の含有量が20質量%以上である、請求項1に記載のゴム用配合剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム用配合剤を含む、ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のゴム組成物を用いて作製されたタイヤ。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム用配合剤、並びに、該ゴム用配合剤を含むゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤなどのゴム製品に用いられるゴム組成物においては、耐久性向上のために破壊特性の更なる向上が求められている。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1には、耐摩耗性に優れたゴム組成物として、例えばH(SCHCHOCHCHS)Hで表される長鎖架橋剤を含有するゴム組成物が記載されている。特許文献2には、耐チッピング性能(破断時伸び)に優れたゴム組成物として、例えば-(CHO(CH-S-で表される繰り返し単位を有する硫黄含有オリゴマーを含有するゴム組成物が記載されている。しかしながら、破断強度については改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005-507966号公報
【特許文献2】特開2019-19310号公報
【特許文献3】特開2017-517603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、破断強度を向上することができるゴム用配合剤を提供することを目的とする。
【0006】
なお、特許文献1,2に記載のゴム組成物は、逆加硫体を含有するものではない。また、特許文献3には逆加硫体について記載されているが、ゴム組成物に加硫剤として配合することは記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 炭素元素の含有量と硫黄元素の含有量の和が89質量%以上である逆加硫体を含む、ゴム用配合剤。
[2] 前記逆加硫体は、トポロジカル極性表面積が50Å以下でありかつ炭素-炭素二重結合を2つ以上有する有機化合物を原料として含む、[1]に記載のゴム用配合剤。
[3] 前記逆加硫体は、炭素-炭素二重結合を2つ以上有しかつ1分子中に含まれるヘテロ原子が0個又は1個である有機化合物を原料として含む、[1]又は[2]に記載のゴム用配合剤。
[4] 前記逆加硫体は、炭素-炭素二重結合を2つ以上有しかつ芳香環を有する有機化合物を原料として含み、炭素元素の含有量が20質量%以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のゴム用配合剤。
[5] [1]~[4]のいずれか1項に記載のゴム用配合剤を含む、ゴム組成物。
[6] [5]に記載のゴム組成物を用いて作製されたタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、ゴム組成物の破断強度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0010】
本実施形態に係るゴム用配合剤は、炭素元素の含有量と硫黄元素の含有量の和が89質量%以上である逆加硫体を含む。本明細書において、逆加硫体とは、鎖状硫黄を少量の有機物で架橋した構造を有するもののことをいい、通常の加硫によって得られるような、有機物のポリマー鎖間を少量の硫黄で架橋したものとは異なる。
【0011】
逆加硫体は、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有する有機化合物と、硫黄とを反応させることにより得られる。例えば下記反応式に示すように、環状硫黄を加熱することにより直鎖状硫黄に変化させる。そして、直鎖状硫黄と2つ以上の炭素-炭素二重結合を有する有機化合物とを混合し反応させることで逆加硫体が得られる。この反応は二重結合への硫黄ラジカルの求核的な付加反応を含む。直鎖状硫黄と有機化合物を混合する際の温度条件は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましい。なお、必要に応じて塩基や金属塩などの触媒を使用してもよい。
【化1】
【0012】
逆加硫体は、ゴム組成物の加硫時に硫黄鎖が分裂し、炭素鎖を含む架橋構造としてゴム成分のポリマー鎖に結合し架橋構造を形成する。架橋構造に炭素鎖を含む架橋構造が形成されることで通常の加硫によって得られる硫黄のみからなる架橋構造と比較し架橋鎖が長くなる。その結果、ゴムの柔軟性が向上し破断強度が向上すると考えられる。また、未加硫のゴム組成物として保存している際に、逆加硫体は高分子であるため、硫黄と比較して移行性が低く、ブリードアウトしにくいと考えられる。
【0013】
本実施形態では、逆加硫体のなかでも、炭素元素の含有量と硫黄元素の含有量の和が89質量%以上であるものが用いられる。炭素の電気陰性度は2.55であり、硫黄の電気陰性度は2.58であり、両者の電気陰性度は非常に近い。このような電気陰性度が非常に近い炭素元素と硫黄元素が多くを占めることにより、逆加硫体は極性的な隔たりが少なくなり、低極性となる。このような低極性の逆加硫体であると、疎水性(即ち、低極性)のゴムとの相性が良く、ゴム成分に分散しやすくなってゴム組成物中での分散性に優れると考えられる。そのため、架橋が均一化されてひずみ変形時の応力集中を防ぐことができ、破断強度をより一層向上させることができると考えられる。
【0014】
逆加硫体に含まれる炭素元素の量と硫黄元素の量の和(炭素元素と硫黄元素の含有割合の合計)は、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは91質量%以上である。当該和の上限は特に限定されないが、例えば99質量%以下でもよく、98質量%以下でもよい。
【0015】
本明細書において、炭素元素と硫黄元素の含有量は、有機元素分析装置を用いた燃焼法により測定した値であり、詳細な測定方法は実施例の欄に記載したとおりである。
【0016】
逆加硫体における炭素元素の含有割合は、10~60質量%であることが好ましく、より好ましくは15~50質量%であり、更に好ましくは20~45質量%である。逆加硫体における硫黄元素の含有割合は、30~89質量%であることが好ましく、より好ましくは40~84質量%であり、更に45~79質量%である。
【0017】
逆加硫体における炭素元素に対する硫黄元素の含有割合の質量比(硫黄元素/炭素元素)は、特に限定されないが、1.0~10であることが好ましく、より好ましくは1.0~5.0であり、更に好ましくは1.1~4.0である。
【0018】
一実施形態において、逆加硫体は、トポロジカル極性表面積が50Å以下でありかつ分子内に炭素-炭素二重結合を2つ以上有する有機化合物を原料として含むことが好ましい。すなわち、逆加硫体は、当該有機化合物を原料として合成されたものであることが好ましく、より詳細には、当該有機化合物と硫黄とを反応させてなるものが好ましい。原料として用いる有機化合物のトポロジカル極性表面積が50Å以下と低く、低極性であると、疎水性のゴムとの相性が更に高まり、ゴム組成物中での分散性を向上することができる。トポロジカル極性表面積は、より好ましくは30Å以下であり、更に好ましくは25Å以下であり、0Åでもよい。
【0019】
トポロジカル極性表面積(tPSA)とは、分子の表面のうち極性を帯びている部分の面積をいい、全ての極性原子(主に酸素、窒素、それと結合する水素)の表面総和として定義される。トポロジカル極性表面積は、分子の3次元構造は考慮せずに、分子内の原子の結合パターン(トポロジー)のみから近似計算される極性表面積であり、Ertl P.et al., J.Med.Chem, 43 (2000), 3714-3717に記載の方法で計算される。具体的には、市販の分子構造式エディタソフトウェアにより計算することができ、本明細書では、Revvity Signals Software社により提供されるChemBioDraw Ultra(登録商標)(バージョン13.0)により計算された値を用いた。
【0020】
一実施形態において、逆加硫体は、炭素-炭素二重結合を2つ以上有しかつ1分子中に含まれるヘテロ原子が0個又は1個である有機化合物を原料として含むことが好ましい。このように逆加硫体の原料として用いる有機化合物は、ヘテロ原子を1つ有するものでもよく、ヘテロ原子を有しないもの、即ち炭化水素でもよい。ヘテロ原子の数が少ないことにより有機化合物が低極性となり、逆加硫体のゴム組成物中での分散性を向上することができる。該有機化合物は、より好ましくは更に、上記のトポロジカル極性表面積が50Å以下であるとの条件を満たすことである。ここで、ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子などが挙げられ、好ましくは酸素原子である。酸素原子は、例えばヒドロキシ基又はカルボニル基として、有機化合物の分子内に含まれてもよい。
【0021】
逆加硫体の原料として用いる有機化合物の沸点は特に限定されないが、80℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは120℃以上である。また、該有機化合物の分子量は特に限定されないが、100~3000であることが好ましく、より好ましくは100~500であり、更に好ましくは100~300である。
【0022】
逆加硫体の原料として用いる上記有機化合物の具体例としては、ミルセン、シトラール、ネロール、ゲラニオール、ゲラニルニリトル、シトラールジメチルアセタール、ゲラニルアセトン、リナロールなどの非環式モノテルペン、リモネン、テルピネン、テルピノレン、ペリルアルデヒド、フェランドレン、デヒドロキシリナロールオキシド、カルボンなどの環式モノテルペン、ファルネセン、ファルネソール、ネロリドール、ビザボロール、ノートカトン、ゲルマクロン、カリオフィレン、カジネンなどのセスキテルペン、イソフィトール、ゲラニル-リナロールなどのジテルペン、スクアレン、ラノステロールなどのトリテルペン、ソラネソール、イオノン、メチルイオノンなどのその他のテルペン類、ジシクロペンタジエン(DCPD)、ジイソプロペニルベンゼン(DIB)、ジビニルベンゼン(DVB)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、1,5,9-シクロドデカトリエン(CDDT)、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)、1,2,4-トリビニルヘキサン(TVCH)、テトラアリルオキシエタン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
一実施形態において、テルペン系化合物(X)を上記有機化合物として用いてもよい。テルペン系の化学構造を含む逆加硫体はゴム成分との相性が良いため、ゴム組成物中での分散性に優れると考えられる。テルペン系化合物(X)は、イソプレンを構成単位とする天然化合物であり、イソプレンを構成単位とする炭化水素であるテルペンだけでなく、カルボニル基やヒドロキシ基などの官能基を持つ誘導体であるテルペノイドも包含する概念で用いられる。炭素-炭素二重結合を2つ以上有し、トポロジカル極性表面積が50Å以下かつヘテロ原子の数が1個以下のテルペン系化合物(X)の具体例としては、上記列挙の非環式モノテルペン、環式モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、及び、その他のテルペン類が挙げられる。これらの中でも、リモネン、ファルネセン、ファルネソール、ミルセン、及びスクアレンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0024】
逆加硫体の原料としての有機化合物として上記テルペン系化合物(X)を用いる場合、該テルペン系化合物(X)の割合は、有機化合物100質量%に対して、40~100質量%であることが好ましく、より好ましくは50~100質量%であり、更に好ましくは70~100質量%であり、更に好ましくは90~100質量%である。逆加硫体における有機化合物由来成分100質量%に対する、上記テルペン系化合物(X)由来成分の割合についても、40~100質量%が好ましく、より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、更に好ましくは90~100質量%である
【0025】
一実施形態において、逆加硫体は、分子内に炭素-炭素二重結合を2つ以上有しかつ芳香環を有する有機化合物(以下、芳香族化合物(Y)という。)を原料として含んでもよい。該芳香族化合物(Y)は、上記のトポロジカル極性表面積が50Å以下であること、及び、1分子中に含まれるヘテロ原子が0個又は1個であることのいずれか少なくとも一方の条件を更に満たすことが好ましい。ここで、芳香環としてはベンゼン環が好ましい。そのような芳香族化合物(Y)としては、例えば、ジイソプロペニルベンゼン(DIB)、トリイソプロペニルベンゼン(TIB)、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1,6-ジフェニル-1,3,5-ヘキサトリエン、1,1,4,4-テトラフェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン、ジベンジリデンアセトンなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
逆加硫体が上記芳香族化合物(Y)を原料として含む場合、逆加硫体に含まれる炭素元素の量は20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは25~60質量部であり、より好ましくは30~50質量部であり、更に好ましくは35~45質量部である。これにより、破断強度の向上効果を高めることができる。
【0027】
逆加硫体の原料としての有機化合物として上記芳香族化合物(Y)を用いる場合、該芳香族化合物(Y)の割合は、有機化合物100質量%に対して、40~100質量%であることが好ましく、より好ましくは50~100質量%であり、更に好ましくは70~100質量%であり、更に好ましくは90~100質量%である。逆加硫体における有機化合物由来成分100質量%に対する、上記芳香族化合物(Y)由来成分の割合についても、40~100質量%が好ましく、より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、更に好ましくは90~100質量%である
【0028】
逆加硫体の原料として用いる有機化合物は、炭素-炭素二重結合を2つ以上有するもののみでもよいが、その効果が損なわれない範囲で炭素-炭素二重結合を1つ有する有機化合物を併用してもよい。
【0029】
逆加硫体は、常温23℃において、固形状であることが好ましい。固形状である場合、ゴム組成物を調製する際に取り扱いやすい。ここで、固形状とは、常温23℃において流動性を有しないことをいう。
【0030】
逆加硫体のガラス転移点は、特に限定されないが、-50~60℃であることが好ましく、より好ましくは-20~50℃であり、更に好ましくは-10~45℃であり、更に好ましくは0~45℃である。逆加硫体としてガラス転移点が60℃以下のものを使用する場合、ゴム組成物に混合する際に逆加硫体が溶融し、ゴム組成物中に均一に分散しやすい。この点、通常の加硫に用いられる硫黄の融点は112.8℃であり、ゴム組成物に混合する際の温度よりも高い。ここで、ガラス転移点とは、JIS K7121:2012に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分(測定温度範囲:-100℃~150℃)にて測定される値である。
【0031】
実施形態に係るゴム用配合剤は、上記逆加硫体のみで構成されてもよく、ゴム組成物に一般に配合される添加剤を上記逆加硫体とともに含んでもよい。一実施形態において、ゴム用配合剤は、上記逆加硫体を30質量%以上含むものでもよく、50質量%以上含むものでもよく、70質量%以上含むものでもよく、100質量%でもよい。該ゴム用配合剤は、上記のように逆加硫体が架橋構造を形成するため、架橋剤(加硫剤)として用いられる。そのため、一実施形態において、該ゴム用配合剤はゴム用架橋剤(加硫剤)である。
【0032】
実施形態に係るゴム組成物は、上記ゴム用配合剤を含有する。該ゴム組成物は、上記ゴム用配合剤とともに、ゴム成分としてジエン系ゴムを含むことが好ましい。
【0033】
ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいい、ポリマー主鎖に二重結合を有する。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でもジエン系ゴムとしては、NR、IR、BR、及びSBRからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、ジエン系ゴムには、必要に応じて末端や主鎖を変性したもの(例えば、末端変性SBR)や、所望の特性を付与するべく改質したもの(例えば、改質NR)も、その概念に包含される。
【0034】
ゴム組成物におけるゴム用配合剤の含有量は、上記逆加硫体の含有量として、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~15質量部であり、更に好ましくは1~10質量部であり、更に好ましくは2~8質量部である。また、逆加硫体の含有量は、硫黄換算での量として、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.05~16質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3~12質量部であり、更に好ましくは0.5~8質量部であり、更に好ましくは1~5質量部である。
【0035】
ゴム組成物には、補強性充填剤が配合されてもよい。補強性充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカが好ましく用いられる。すなわち、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラック単独、又はカーボンブラックとシリカの併用である。補強性充填剤の含有量は、特に限定されず、例えばジエン系ゴム100質量部に対して10~140質量部でもよく、20~100質量部でもよく、20~80質量部でもよい。
【0036】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックを配合する場合、その含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して5~100質量部でもよく、20~80質量部でもよい。
【0037】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカを配合する場合、その含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して5~40質量部でもよく、5~30質量部でもよい。
【0038】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分以外に、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、オイル、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0039】
ゴム組成物には、加硫剤(架橋剤)として、上記逆加硫体に加えて硫黄を配合してもよく、配合しなくてもよい。逆加硫体と硫黄を併用する場合、加硫剤の含有量(逆加硫体と硫黄の合計量)は、特に限定するものではないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0040】
上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の含有量は、特に限定するものではないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、加硫剤(逆加硫体を含む)及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤(逆加硫体を含む)及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0042】
このようにして得られるゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム製品に用いることができる。該ゴム組成物をタイヤに用いる場合、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤ(重荷重用タイヤ)など、各種用途・各種サイズの空気入りタイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴムとして用いることができる。
【0043】
ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、加熱して加硫することにより加硫ゴムとなる。該ゴム組成物をタイヤに用いる場合、押出加工等によって所定の形状に成形し、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば130~190℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
下記合成例A~Hにおいて原料として用いた有機化合物のトポロジカル極性表面積(tPSA)は以下のとおりである。
・ファルネソール:20.23Å
・エチレングリコールジメタクリレート:52.6Å
・その他の有機化合物:0Å(ヘテロ原子を含まないため)
【0046】
合成例A~Hで合成した逆加硫体A~Hについて、有機元素分析装置を用いた燃焼法により炭素元素と硫黄元素の含有量を測定した。測定には有機元素分析装置「vario MACRO cube」(エレメンター・ジャパン(株)製)を用いて、測定条件は、ガス:ヘリウム,酸素、標準物質:スルファニルアミド、燃焼管温度:1150℃、還元管温度:850℃とした。
【0047】
[合成例A]
ガラス容器に硫黄を2.5g加え、165℃で15分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してからジシクロペンタジエン0.5gと(+)-リモネン2.0gを加え、さらに165℃で30分間攪拌した。溶液の色が変わったのを確認したあと、シリコンモールドに溶液を注いだ。その後、140℃のオーブンで16時間加熱することで逆加硫体Aを得た。得られた逆加硫体Aについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が31質量%、硫黄含有量が66質量%であり、両者の和が96質量%であった。逆加硫体Aのガラス転移点は29℃であった。
【0048】
[合成例B]
ガラス容器に硫黄を4.0g加え、165℃で15分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してからジシクロペンタジエン0.5gと(+)-リモネン0.5gを加え、さらに165℃で30分間攪拌した。溶液の色が変わったのを確認したあと、シリコンモールドに溶液を注いだ。その後、140℃のオーブンで16時間加熱することで逆加硫体Bを得た。得られた逆加硫体Bについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が22質量%、硫黄含有量が76質量%であり、両者の和が97質量%であった。逆加硫体Bのガラス転移点は17℃であった。
【0049】
[合成例C]
ガラス容器に硫黄を4.0g加え、175℃で15分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してからtrans-β-ファルネセン2.5gを加え、さらに175℃で60分間攪拌した。溶液の色が変わったのを確認したあと、シリコンモールドに溶液を注いだ。その後、140℃のオーブンで16時間加熱することで逆加硫体Cを得た。得られた逆加硫体Cについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が42質量%、硫黄含有量が50質量%であり、両者の和が92質量%であった。逆加硫体Cのガラス転移点は16℃であった。
【0050】
[合成例D]
ガラス容器に硫黄を4.0g加え、175℃で15分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してからファルネソール2.5gを加え、さらに175℃で60分間攪拌した。溶液の色が変わったのを確認したあと、シリコンモールドに溶液を注いだ。その後、140℃のオーブンで16時間加熱することで逆加硫体Dを得た。得られた逆加硫体Dについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が38質量%、硫黄含有量が53質量%であり、両者の和が91質量%であった。逆加硫体Dのガラス転移点は21℃であった。
【0051】
[合成例E]
ガラス容器に硫黄を2.5g加え、175℃で15分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してからミルセン2.5gを加え、さらに175℃で60分間攪拌した。溶液の色が変わったのを確認したあと、シリコンモールドに溶液を注いだ。その後、140℃のオーブンで16時間加熱することで逆加硫体Eを得た。得られた逆加硫体Eについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が39質量%、硫黄含有量が54質量%であり、両者の和が92質量%であった。逆加硫体Eのガラス転移点は0℃であった。
【0052】
[合成例F]
ガラス容器に硫黄を3.0g加え、165℃で15分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してからスクアレン2.0gを加え、さらに165℃で45分間攪拌した。溶液の色が変わったのを確認したあと、シリコンモールドに溶液を注いだ。その後、140℃のオーブンで16時間加熱することで逆加硫体Fを得た。得られた逆加硫体Fについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が31質量%、硫黄含有量が64質量%であり、両者の和が95質量%であった。逆加硫体Fのガラス転移点は35℃であった。
【0053】
[合成例G]
ガラス容器に硫黄を4.0g加え、185℃で10分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してから1,3-ジイソプロペニルベンゼン2.5gを加え、さらに185℃で30分間攪拌することで逆加硫体Gを得た。得られた逆加硫体Gについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が43質量%、硫黄含有量が49質量%であり、両者の和が92質量%であった。逆加硫体Gのガラス転移点は25℃であった。
[合成例H(比較例)]
ガラス容器に硫黄を4.0g加え、165℃で15分間攪拌した。硫黄が溶解したのを確認してからエチレングリコールジメタクリレート1.5gとジシクロペンタジエン1.0gを加え、さらに165℃で30分間攪拌した。溶液の色が変わったのを確認したあと、シリコンモールドに溶液を注いだ。その後、140℃のオーブンで16時間加熱することで逆加硫体Hを得た。得られた逆加硫体Hについて元素分析を行ったところ、炭素含有量が32質量%、硫黄含有量が56質量%であり、両者の和が88質量%であった。
【0054】
[ゴム組成物の調製]
密閉式混練機を使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し加硫剤(逆加硫体を含む)及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、加硫剤と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0055】
・SBR:JSR(株)製「SBR1502」
・NR:RSS#3
・カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製「ショウブラックN330T」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛3種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」、硫黄含有量=95質量%
・逆加硫体A~H:上記合成例A~Hで得られた逆加硫体
・加硫促進剤:大内新興化学(株)製「ノクセラー CZ-G(CZ)」
【0056】
[ゴム組成物の評価]
得られた各ゴム組成物について、金属板をモールドとして用いて、加圧しながら160℃で加硫し、加硫ゴムサンプルを作製した。その際、加硫時間は、各ゴム組成物について、予めJISK6300-2:2001に準拠して測定した90%加硫時間(t90)を適用した。
【0057】
得られた加硫ゴムサンプルについて、下記方法に従って引張試験を行い、破壊特性を評価した。
【0058】
・切断時引張強さ:JIS K6251:2017に準拠した引張試験を行い、切断時引張強さを測定した。試験片は7号ダンベルを用いた。結果は、比較例2及び実施例1~8については比較例1の値を100とした指数で表示し、実施例9については比較例3の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど切断時引張強さが大きく、破断強度に優れることを示す。
【0059】
・切断時伸び:JIS K6251:2017に準拠した引張試験を行い、切断時伸びを測定した。試験片は7号ダンベルを用いた。結果は、比較例2及び実施例1~8については比較例1の値を100とした指数で表示し、実施例9については比較例3の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど切断時伸びが大きく、破断特性に優れることを示す。
【0060】
【表1】
【0061】
結果は、表1に示す通りであり、炭素元素と硫黄元素の含有割合の合計が89質量%以上である逆加硫体A~Gを加硫剤として配合した実施例1~8であると、硫黄を加硫剤とした比較例1と比較して、切断時引張強さ及び切断時伸びがともに大きく、破断強度に優れていた。実施例9は比較例3に比べて破断強度に優れていた。
【0062】
これに対し、炭素元素と硫黄元素の含有割合の合計が88質量%である逆加硫体Hを配合した比較例2では、比較例1に対して切断時伸びには優れていたものの、切断時引張強さが大きく低下し、破断強度が劣っていた。
【0063】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。