(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179261
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ベシクルクラスター
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20241219BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20241219BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241219BHJP
A61K 31/403 20060101ALI20241219BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K9/127
A61K45/00
A61K31/403
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097971
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 康太
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 匡
(72)【発明者】
【氏名】平田 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】豊田 太郎
【テーマコード(参考)】
2G043
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043AA04
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA02
4C076AA19
4C076FF31
4C076FF70
4C084AA11
4C084AA17
4C084MA24
4C084NA10
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC10
4C086MA24
4C086NA10
4C086ZC80
(57)【要約】
【課題】ベシクルクラスターからの薬剤の放出を正確かつ効率的に制御する新たな技術的手段を提供すること
【解決手段】物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子、及び薬剤を含んでなる、ベシクルクラスター。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子、及び薬剤を含んでなる、ベシクルクラスター。
【請求項2】
前記物理波応答性化合物が、大気圧下において30℃よりも高い沸点を有する化合物である、請求項1に記載のベシクルクラスター。
【請求項3】
前記物理波応答性化合物が、有機ハロゲン化合物である、請求項1に記載のベシクルクラスター。
【請求項4】
前記物理波応答性化合物が、少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10アルカン、又は少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10シクロアルカンを含んでなる、請求項3に記載のベシクルクラスター。
【請求項5】
前記物理波応答性化合物が、C4~10パーフロオロアルカン又はC4~10パーフロオロシクロアルカンを含んでなる、請求項3に記載のベシクルクラスター。
【請求項6】
前記ベシクルクラスターの粒子径が、10~1000μmである、請求項1に記載のベシクルクラスター。
【請求項7】
前記薬剤が、前記物理波が照射されることにより相変化しない物理波非応答性化合物である、請求項1に記載のベシクルクラスター。
【請求項8】
前記薬剤が治療薬若しくは予防薬又は診断薬である、請求項1に記載のベシクルクラスター。
【請求項9】
前記診断薬が、蛍光性物質を含む、請求項8に記載のベシクルクラスター。
【請求項10】
前記物理波が、超音波、X線又は光波である、請求項1に記載のベシクルクラスター。
【請求項11】
前記ベシクルクラスターにおける一部又は全部のベシクルが、前記液滴粒子及び前記薬剤を内包している、請求項1に記載のベシクルクラスター。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のベシクルクラスターを含んでなる、組成物。
【請求項13】
疾患又は障害の治療又は診断用の、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
標的組織に前記薬剤を送達するための、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記物理波の照射に応答して前記薬剤を前記ベシクルクラスターから放出するための、請求項12に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベシクルクラスターに関する。より詳細には、物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子及び薬剤を含んでなるベシクルクラスターに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤(例えば、治療薬や診断薬等)を目的とする部位や組織に効率的に送達させることや、これらの部位や組織に該物質を滞留等させることは、疾患や障害等に対する治療効果及び/又は診断精度の向上、副作用の低減等の観点から重要であることが知られている。そのため、近年、かかる観点から様々な方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、2以上のベシクルがクラスター化したベシクルクラスターを組織マーカーとして使用する方法が提案されている。特許文献1に記載のベシクルクラスターは、近赤外蛍光色素を含むベシクルをクラスター化させたものであり、外部から物理的刺激等を与えることなく、近赤外蛍光色素の検出を意図したものである。
【0004】
一方で、薬剤の性質や、意図する用途等によっては、ベシクルクラスターに含まれる該物質をベシクルクラスターの外部に積極的に放出させたい場合がある。この点、ベシクルクラスターは、物理的刺激等を加えても、内部に含まれる該物質を外部に放出させることが容易でない場合があると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示者らは、今般、鋭意検討した結果、ベシクルクラスターに含まれる薬剤を外部に放出させるために、ベシクルクラスターとマイクロバブル(即ち、気体)を別個に投与し、超音波照射する方法を見出した。この方法では、マイクロバブルに超音波が照射されることでキャビテーション等が生じ、その影響を直接的及び/又は間接的にベシクルクラスターが受けることで、ベシクルクラスターに含まれる該物質を外部に放出させることができる。この方法により、ベシクルクラスターに含まれる薬剤を一定程度放出することが可能となり、一定の成果が得られている。
【0007】
しかしながら、上記方法では、マイクロバブルは生体の液体ないし粘性体中(例えば、血液、消化液、組織間液)に容易に溶解しうることから、所望の量のマイクロバブルが残存せず、薬剤が必ずしも効率的に放出されない場合があることが本開示者らのさらなる検討により明らかとなった。また、上記方法では、ベシクルクラスターとマイクロバブルとでは体内動態が異なりうることから、生体内に投与されたベシクルクラスターとマイクロバブルが離散してしまい、超音波を照射しても薬剤が必ずしも効率的に放出されない可能性があることが、本開示者らのさらなる検討により明らかとなった。このような技術状況の下では、疾患の治療、予防、診断等の選択肢を広げる等の観点からは、ベシクルクラスターからの薬剤の放出を正確かつ効率的に制御する新たな技術的手段が依然として望まれているといえる。
【0008】
そこで、本開示者らは、さらに鋭意検討した結果、物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子と、薬剤とを組み合わせてベシクルクラスターに封入すると、ベシクルクラスターからの薬剤の放出を正確かつ効率的に制御しうることを見出した。本開示はかかる知見に基づくものである。
【0009】
したがって、本開示は、ベシクルクラスターからの薬剤の放出を正確かつ効率的に制御する新たな技術的手段を提供することを一つの目的とする。
【0010】
本開示の一実施態様によれば、物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子、及び薬剤を含んでなる、ベシクルクラスターが提供される。
【0011】
本開示によれば、ベシクルクラスターにおける薬剤の放出を正確かつ効率的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本開示の一実施態様のベシクルクラスター(膜非内包型ベシクルクラスター)の模式図を示す。
【
図1B】本開示の一実施態様のベシクルクラスター(膜内包型ベシクルクラスター)の模式図を示す。
【
図2A】本開示の一実施態様のベシクルクラスターの製造方法の一部(内相液及び油相液の混合する工程、並びにタッピングする工程)を示す。
【
図2B】本開示の一実施態様のベシクルクラスターの製造方法の一部(混合溶液及び外相液を混合する工程)を示す。
【
図2C】本開示の一実施態様のベシクルクラスターの製造方法の一部(混合溶液及び外相液の混合物を遠心沈降する工程、並びに上澄を除去する工程)を示す。
【
図3】本開示の一実施態様のベシクルクラスターの用途の一例を示す。左側の模式図は、腫瘍マーカーとして使用する場合の例を示し、右側の模式図は、センチネルリンパ節同定用のトレーサーとして使用する場合の例を示す。
【
図4】例1で使用した蛍光性物質(ICG-C18)の構造式、及びICG-18を含んでなるリポソームの模式図を示す。
【
図5】例1のベシクルクラスターを製造する方法の模式図を示す。
【
図6】試験例1において、例1のベシクルクラスターを顕微鏡下で観察した結果を示す。
【
図7A】試験例2において使用した装置の模式図を示す。
【
図7B】試験例2において使用した装置の写真(外観)を示す。
【
図9】試験例3において使用した実験システムの模式図を示す。
【
図10A】Shear Wave Elastography(SWE)モードにおける超音波探触子からの送信信号を、ハイドロフォンを用いて測定した結果を示す。
【
図10B】Shear Wave Elastography(SWE)モードにおける超音波探触子からの送信信号を、ハイドロフォンを用いて測定した結果を示す。
【
図11A】ICG-C18の吸光スペクトルを測定した結果を示す。
【
図11B】吸光度のピークとICG-18濃度の検量線を示す。
【
図12】試験例3において、照射した超音波の負圧ピーク値に対して蛍光性物質の放出率(平均値)をプロットした結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の一実施態様によれば、ベシクルクラスターは、物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子、及び薬剤を含んでなる。
【0014】
[ベシクルクラスター]
本明細書中で用いられる「ベシクルクラスター」は、2以上のベシクルを含んでなるクラスターを意味する。本開示のベシクルクラスターは、2以上のベシクルを含んでなればよく、2以上のベシクルが総て同一のベシクルであってもよいし、2以上のベシクルが総て異なるベシクルであってもよい。ベシクルクラスターは、2以上のベシクルがクラスター化したものであればよく、2以上のベシクルが膜構造に内包されることなく集合、凝集、結合、架橋等したもの(本明細書中、「膜非内包型ベシクルクラスター」ともいう。)であってもよいし(
図1A)、2以上のベシクルが膜構造に内包されたもの(本明細書中、「膜内包型ベシクルクラスター」ともいう。)であってもよい(
図1B)。本開示の一実施態様では、本開示のベシクルクラスターは、2以上のベシクルが膜構造に内包されたもの(膜内包型ベシクルクラスター)である。
【0015】
上記膜内包型ベシクルクラスターは、典型的には、最外部として乳化剤を含んでなる膜構造(本明細書中、「最外膜」ともいう)を形成しており、該最外膜の内側に2以上のベシクルを内包している(
図1B)。上記最外膜は、単膜であってもよいし、多重膜(二重膜、又はそれ以上の膜)であってよいが、好ましくは、多重膜(より好ましくは、二重膜)である。上記膜内包型ベシクルクラスターは、その一部又は全体において、内包されるベシクルを構成する膜と上記最外膜とが、同じであっても(即ち、上記最外膜が、内包されるベシクルを構成する膜を兼ねている)よいし、別であっても(即ち、上記最外膜と、内包されるベシクルを構成する膜とが、各々存在する)よい。
【0016】
上記最外膜を構成する乳化剤としては、ベシクルを内包可能な膜構造を構成し得る両親媒性のものである限り、特段限定されるものではない。そのような乳化剤としては、天然由来又は合成由来の脂質(例えば、リン脂質、糖脂質、これらの誘導体(例えば、ポリエチレングリコール結合リン脂質)、又はこれらの組み合わせ)等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
乳化剤として使用可能な脂質としては、これらに限定されるものではないが、例えば、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン;肝形質膜、赤血球膜、大腸菌膜等の細胞外膜及び/又は細胞内膜の抽出物;1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、1,2-ジ(オクタデカ-trans-2-trans-4-ジエノイル)ホスファチジルコリン、1,2-ビスエレオステアロイルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジルイノシトール等のグリセロリン脂質;セラミド、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;ポリグリセリンポリリシノレート、テトラグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート、デカグリセリン ステアレート、デカグリセリンオレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレンオキシドとポリブタジエンのコポリマー、ポリエチレンオキシドと疎水性ポリマーとのコポリマー等のコポリマー類;ジガラクトシルジグリセリド等のグリセロ脂質;ガラクトシルセラミド、ガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質等、これらの誘導体(例えば、ポリエチレングリコール等により誘導体化されたもの)等が挙げられる。ポリエチレングリコールにより誘導体化された脂質としては、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-5000]、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000](、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[マレイミド(ポリエチレングリコール)-5000]、これらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤として使用可能な脂質としては、グリセロリン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、又はこれらの誘導体が好ましく、グリセリン脂肪酸エステルがより好ましく、ポリグリセリンポリリシノレートがさらに好ましい。
【0018】
本開示の一実施態様では、上記乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、又はこれらの誘導体を含んでなる。本開示の一実施態様では、上記乳化剤は、ポリグリセリンポリリシノレートを含んでなる。
【0019】
上記最外膜は、上記乳化剤以外にも、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、トリグリセリド、スクアレン、スクアラン、コレステロール類、エチレングリコール等のグリコール類、デキストラン等の糖類、リン酸ジアルキルエステル類、ステアリルアミン等の脂肪族アミン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記乳化剤が、所望の条件下で固体の場合には、該条件下で液体のもの(例えば、スクアレン)を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記最外膜に含まれる上記乳化剤の量は、本開示の目的を達成することができるものである限り、特段限定されるものではない。上記最外膜に含まれる上記乳化剤の量は、例えば、上記最外膜の全量に対して、100%w/w以下、好ましくは、約5~約95%w/w、より好ましくは、約10~約90%w/w、さらに好ましくは、約20~約70%w/wであってもよい。
【0021】
本開示のベシクルクラスターの粒子径は、特段限定されるものではないが、例えば、約10~約1000μmであり、好ましくは、約20~約800μmであり、より好ましくは、約50~約500μm、より更に好ましくは、約100~約250μmである。粒子径が約50μm以上(好ましくは、100μm以上)の場合、本開示のベシクルクラスターが生体内で分解されにくく、薬剤が蛍光性物質の場合には、蛍光強度の向上が期待され得る。また、粒子径が約500μm以下(好ましくは、約250μm以下)の場合、注射針等が詰まることを防止できることが期待され得る。本開示のベシクルクラスターの粒子径は、公知の方法(例えば、動的光散乱法、濁度計により濁度を評価する方法、顕微鏡下で得られた画像を解析する方法)等で測定してもよい。本開示のベシクルクラスターの粒子径は、例えば、光学顕微鏡下で得られた像におけるフェレ径であってもよい。
【0022】
[ベシクル]
本明細書中で用いられる「ベシクル」は、本開示のベシクルクラスターの少なくとも一部を構成し、脂質二重膜を有する個々の粒子を意味する。ベシクルは、単層ベシクルであってもよいし、多層ラメラベシクルであってもよい。また、ベシクルは、層の内部(内側)が中空又は水相のものであってもよいし、層の内部の一部若しくは全部が油相のものであってもよい。そのため、多層ラメラベシクルの場合には、層の内側の一部若しくは全部が油相となる構造を持つものであってもよい。
【0023】
ベシクルの脂質二重膜に使用される脂質としては、脂質二重膜を形成可能な脂質である限り、特段限定されるものではない。そのような脂質としては、天然由来又は合成由来の脂質(例えば、リン脂質、糖脂質、これらの誘導体(例えば、ポリエチレングリコール結合リン脂質)、又はこれらの組み合わせ)等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ベシクルに使用可能な脂質としては、これらに限定されるものではないが、例えば、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン;肝形質膜、赤血球膜、大腸菌膜等の細胞外膜及び/又は細胞内膜の抽出物;1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、1,2-ジ(オクタデカ-trans-2-trans-4-ジエノイル)ホスファチジルコリン、1,2-ビスエレオステアロイルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジルイノシトール等のグリセロリン脂質;セラミド、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;ポリグリセリンポリリシノレート、テトラグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート、デカグリセリン ステアレート、デカグリセリンオレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレンオキシドとポリブタジエンのコポリマー、ポリエチレンオキシドと疎水性ポリマーとのコポリマー等のコポリマー類;ジガラクトシルジグリセリド等のグリセロ脂質;ガラクトシルセラミド、ガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質;これらの誘導体(例えば、ポリエチレングリコール等により誘導体化されたもの)等が挙げられる。ポリエチレングリコールにより誘導体化されたリン脂質としては、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-5000]、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000]、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[マレイミド(ポリエチレングリコール)-5000]、これらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ベシクルに使用可能な脂質としては、グリセロリン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、又はこれらの誘導体が好ましく、ポリグリセリンポリリシノレートがより好ましい。
【0025】
ベシクルの脂質二重膜には、上記した脂質等以外にも、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、トリグリセリド、スクアレン、スクアラン、コレステロール類、エチレングリコール等のグリコール類、デキストラン等の糖類、リン酸ジアルキルエステル類、ステアリルアミン等の脂肪族アミン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記リン脂質が、所望の条件下で固体の場合には、該条件下で液体のもの(例えば、スクアレン)を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記最外膜に含まれる上記乳化剤の量は、本開示の目的を達成することができるものである限り、特段限定されるものではない。上記最外膜に含まれる上記乳化剤の量は、例えば、上記最外膜の全量に対して、100%w/w以下、好ましくは、約5~約95%w/w、より好ましくは、約10~約90%w/w、さらに好ましくは、約20~約70%w/wであってもよい。
【0027】
ベシクルは、脂質二重膜の内側に任意の内相液及び/又は気体が含まれていてもよい。上記内相液は、上記ベシクルクラスターや後述する薬剤の物性等に応じて、親水性溶媒であってもよいし、疎水性物質含有懸濁液であってもよい。上記内相液として使用可能な親水性溶媒としては、これらに限定されるものではないが、例えば、水(純水、脱気水等);親水性有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン、アセトニトリル等ニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド、アルデヒド、エーテル等);等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記内相液として使用可能な疎水性物質含有懸濁液における疎水性物質としては、例えば、酢酸エチル;クロロホルム;トルエン;ベンゼン;ヒマシ油、ヤシ油等の油脂、これら油脂を誘導体したもの(例えば、ヨード化したヤシ油);等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記内相液は、親水性溶媒であることが好ましく、水を含むことがさらに好ましい。
【0028】
上記内相液は、上記溶媒に加えて、必要に応じて、任意の他の成分を含んでいてもよい。任意の他の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、増粘剤、着色剤、可溶化剤、溶解補助剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、酸化防止剤等が挙げられる。これらは、後述するものであってもよい。
【0029】
上記内相液の浸透圧は、特段限定されるものではないが、例えば、約1~約10000mOsm/L、好ましくは、約10~約10000mOsm/L、より好ましくは、約100~約1000mOsm/Lである。
【0030】
上記内相液のpHは、例えば、後述する液滴粒子及び/又は薬剤の物性等を考慮の上、適宜調整してもよい。上記内相液のpHは、例えば、約1~約13、好ましくは、約2~約12、より好ましくは、約3~約10であってもよい。
【0031】
上記内相液のより具体的な例としては、スクロース水溶液(例えば、0.1~10mol/Lのスクロース溶液)、グルコース水溶液(例えば、0.1~10mol/Lのグルコース溶液)、生理食塩水溶液等が挙げられる。
【0032】
個々のベシクルは、通常は、本開示のベシクルクラスターよりも小さい粒子径を有している。ベシクルの粒子径としては、特段限定されるものではないが、例えば、約0.1~約100μmであり、好ましくは、約0.5~約80μmであり、より好ましくは、約1~約60μmであり、さらに好ましくは、約5~約50μmであり、よりさらに好ましくは、約10~約40μmである。ベシクルの粒子径は、例えば、公知の方法(例えば、動的光散乱法、濁度計により濁度を評価する方法)等で測定してもよい。
【0033】
本開示の一実施態様では、ベシクルクラスターを構成するベシクルは、少なくともその一部(好ましくはその全部)が、約5~約50μm(好ましくは、約10~約40μm)の粒子径を有する。
【0034】
本開示のベシクルクラスターに含まれるベシクルの数は、2以上である限り特段限定されるものではないが、例えば、2~約5000個であり、好ましくは、約10~約1000個であり、より好ましくは、約10~約500個である。
【0035】
[液滴粒子]
本開示のベシクルクラスターに含まれる物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物は、物理波により気化することが可能な化合物である限り、特段限定されるものではない。
【0036】
本開示の一実施態様によれば、上記液滴粒子は、物理的刺激により気化する物理波応答性化合物を含んでなるコアと、該コアを封入するシェルとから構成される。
【0037】
上記コアを形成する物理波応答性化合物としては、典型的には、有機ハロゲン化合物が挙げられる。本明細書中で用いられる「有機ハロゲン化合物」は、少なくとも1つの炭素原子と、少なくとも1つのハロゲン原子を分子内に含む化合物を意味する。有機ハロゲン化合物は、例えば、1~約30個の炭素原子、好ましくは1~約24個の炭素原子、より好ましくは、1~約12個の炭素原子、さらに好ましくは、約5~約12個の炭素原子、より更に好ましくは、約6~約10個の炭素原子を含む。有機ハロゲン化合物は、例えば、1つ以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子)で中断された炭素原子(エーテル化合物の場合であれば、-O-)を有していてもよいし、ハロゲン以外の他の置換基(例えば、アミノ基、カルボキシル基、アミド基等)を有していてもよい。なお、有機ハロゲン化合物の沸点については、公知情報を参照してもよい(例えば、特表2001-507207号公報、Weiqi Zhang,et al.,Nanoscale,2022,14,2943-2965等を参照されたい)。
【0038】
本明細書中で用いられる「ハロゲン」は、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を意味する。
【0039】
有機ハロゲン化合物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、以下のもの:
1-クロロ-1-フルオロ-1-ブロモメタン、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジブロモフルオロメタン、ブロモクロロジフルオロメタン、パーフルオロメタン、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン、1,2-ジクロロ-2,2-ジフルオロエタン、1,1-ジクロロ-1,2-ジフルオロエタン、2-ヨード-1,1,1-トリフルオロエタン、1,1,2-トリフルオロ-2-クロロエタン、1,2-ジフルオロクロロエタン、1,1-ジフルオロ-2-クロロエタン、1,1-ジクロロフルオロエタン、ブロモトリフルオロエタン、クロロペンタフルオロエタン、ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、パーフルオロエタン、1,2-ジクロロ-1,1,3-トリフルオロプロパン、1-ブロモ-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロ-2-ヨードプロパン、パーフルオロプロパン、1-ブロモ-ノナフルオロブタン、1-ブロモパーフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロブタン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1-フルオロブタン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、パーフルオロブタン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロペンタン、2H,3H-デカフルオロペンタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクチルヨージド、パーフルオロオクチルブロミド、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロデカン等の、少なくとも1つのハロゲンで置換されているC1~10アルカン;
パーフルオロシクロブタン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロシクロヘプタン、パーフルオロシクロオクタン、パーフルオロシクロノナン、パーフルオロシクロデカン、パーフルオロデカリン、パーフルオロドデカン等の、少なくとも1つのハロゲンで置換されているC3~10シクロアルカン;
パーフルオロジメチルエーテル、パーフルオロエチルエーテル、パーフルオロジエチルエーテル、パーフルオロ-n-プロピルメチルエーテル、パーフルオロイソプロピルメチルエーテル、パーフルオロイソプロピルエチルエーテル、パーフルオロ-n-ブチルメチルエーテル、パーフルオロイソブチルメチルエーテル、パーフルオロ-t-ブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル、ビス(パーフルオロプロピル)エーテル、ビス(パーフルオロイソプロピル)エーテル、パーフルオロシクロプロピルエチルエーテル、パーフルオロシクロプロピルメチルエーテル、パーフルオロシクロブチルメチルエーテル、パーフルオロテトラヒドロピラン、パーフルオロメチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-15-クラウン―5-エーテル等の、エーテル結合を有するもの;
ヨードトリフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、2-クロロ-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、パーフルオロ-2-ブテン、2-クロロペンタフルオロ-1,3-ブタジエン、パーフルオロ-1,3-ブタジエン、パーフルオロ-2-ブチン、パーフルオロ-2-メチル-2-ペンテン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、5-ブロモバレリルクロライド、1,3-ジクロロテトラフルオロアセトン、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、3-フルオロベンズアルデヒド、パーフルオロ-N-シクロヘキシル-ピロリドン、1-ブロモ-2,4-ジフルオロベンゼン、2-フルオロ―5-ニトロトルエン、3-フルオロスチレン、3,5-ジフルオロアニリン、3-(トリフルオロメトキシ)-アセトフェノン、パーフルオロ-4-メチルキノリジジン、パーフルオロ-N-メチル-デカヒドロキノン、パーフルオロ-N-メチル-デカヒドロイソキノン等;
が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本明細書中で用いられる「少なくとも1つのハロゲンで置換されているC1~10アルカン」は、1~10個の炭素原子を含む飽和の直鎖状又は分岐鎖状である炭化水素であって、水素原子のうちの少なくとも一つがハロゲンにより置換されている、炭化水素を意味する。少なくとも1つのハロゲンで置換されているC1~10アルカンにおいて、ハロゲンで置換されていない水素原子が1つ以上ある場合、この1つ以上の水素原子は、ハロゲン以外の任意の置換基(これらに限定されるものではないが、例えば、水酸基、アミノ基、チオール基、イミノ基)で置換されていてもよい。少なくとも1つのハロゲンで置換されているC1~10アルカンとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、少なくとも1つのハロゲンで置換されている、メタン、エタン、プロパン、n-ブタン、イソブタン、tert-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、tert-ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、2,2,4-トリメチルペンタン)、n-ノナン、デカン等が挙げられる。また、本明細書中で用いられる「少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10アルカン」は、4~10個の炭素原子を含む飽和の直鎖状又は分岐鎖状である炭化水素であって、水素原子のうちの少なくとも一つがハロゲンにより置換されている、炭化水素を意味する。少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10アルカンにおいて、ハロゲンで置換されていない水素原子が1つ以上ある場合、この1つ以上の水素原子は、ハロゲン以外の任意の置換基(これらに限定されるものではないが、例えば、水酸基、アミノ基、チオール基、イミノ基)で置換されていてもよい。
【0041】
本明細書中において、上記少なくとも1つのハロゲンで置換されているC1~10アルカンのうち、総ての水素原子がハロゲンによって置換されているものを「C1~10パーハロゲンアルカン」ともいう。同様に、上記少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10アルカンのうち、総ての水素原子がハロゲンによって置換されているものを「C4~10パーハロゲンアルカン」ともいう。そのため、総ての水素原子がフッ素によって置換されているものは、「C1~10パーフルオロアルカン」、「C4~10パーフルオロアルカン」ともいう。
【0042】
本明細書中で用いられる「少なくとも1つのハロゲンで置換されているC3~10シクロアルカン」は、3~10個の炭素原子を含む飽和の環状(単環式であってもよいし、二環式又はそれ以上であってもよい)である炭化水素であって、水素原子のうちの少なくとも一つがハロゲンにより置換されている、炭化水素を意味する。少なくとも1つのハロゲンで置換されているC3~10シクロアルカンにおいて、ハロゲンで置換されていない水素原子が1つ以上ある場合、この1つ以上の水素原子は、ハロゲン以外の任意の置換基(これらに限定されるものではないが、例えば、水酸基;アミノ基;チオール基;イミノ基;メチル基、エチル基等のアルキル基)で置換されていてもよい。少なくとも1つのハロゲンで置換されているC3~10シクロアルカンとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、少なくとも1つのハロゲンで置換されている、シクロペンタン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン等が挙げられる。また、本明細書中で用いられる「少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10シクロアルカン」は、4~10個の炭素原子を含む飽和の環状(単環式であってもよいし、二環式又はそれ以上であってもよい)である炭化水素であって、水素原子のうちの少なくとも一つがハロゲンにより置換されている、炭化水素を意味する。少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10シクロアルカンにおいて、ハロゲンで置換されていない水素原子が1つ以上ある場合、この1つ以上の水素原子は、ハロゲン以外の任意の置換基(これらに限定されるものではないが、例えば、水酸基;アミノ基;チオール基;イミノ基;メチル基、エチル基等のアルキル基)で置換されていてもよい。
【0043】
本明細書中において、上記少なくとも1つのハロゲンで置換されているC3~10シクロアルカンのうち、総ての水素原子がハロゲンによって置換されているものを「C3~10パーハロゲンシクロアルカン」ともいう。同様に、上記少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10シクロアルカンのうち、総ての水素原子がハロゲンによって置換されているものを「C4~10パーハロゲンシクロアルカン」ともいう。そのため、総ての水素原子がフッ素によって置換されているものは、「C3~10パーフルオロシクロアルカン」、「C4~10パーフルオロシクロアルカン」ともいう。
【0044】
上記シェルは、上記コアを封入することができるものである限り、特段限定されるものではない。上記シェルとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、アルブミン等のタンパク質;ポリ乳酸(PLA)、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、キトサン、ポリドーパミン等のポリマー;1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、1,2-ジ(オクタデカ-trans-2-trans-4-ジエノイル)ホスファチジルコリン、1,2-ビスエレオステアロイルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジン酸、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチジルイノシトール、テトラグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート、デカグリセリンステアレート、デカグリセリンオレート、ポリグリセリンポリリシノレート、ポリグリセリンポリリシノレート、グリセリン脂肪酸エステル、セラミド、スフィンゴミエリン等の脂質;これら脂質の誘導体(例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-5000]、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000]、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[マレイミド(ポリエチレングリコール)-5000]);等が挙げられ、これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記シェルは、脂質又はその誘導体を含んでなることが好ましく、ジステアロイルホスファチジルコリン及び/又は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000]を含んでなることがより好ましい。
【0045】
上記コアと上記シェルの比率は、上記液滴粒子を形成することが可能である限り、特段限定されるものではない。かかる比率は、上記コア及び上記シェルの物性(分子量等)等を考量の上、当業者が適宜調整しうる。
【0046】
上記コアと上記シェルの組み合わせは、例えば、上記コアの物性(例えば、沸点)、使用され得る物理的刺激の種類及びその強度等を考慮の上、当業者が適宜調整しうる。上記コアと上記シェルの組み合わせは、例えば、公知の文献を参照してもよい(例えば、Weiqi Zhang,et al,Nanoscale,2022,14,2943-2965を参照されたい)。
【0047】
上記液滴粒子は、例えば、公知の方法等により調製してもよい(例えば、Arvin Honari et al.,Pharmaceutics,2021,13,609等を参照されたい)。例えば、上記シェルを分散させた親水性溶媒(例えば、水等)と上記コアを混合し、必要に応じて、攪拌等することで、上記液滴粒子を分散液の状態で調製することができる。
【0048】
上記液滴粒子は、本開示のベシクルクラスターに含まれていればよく、本開示のベシクルクラスターの上記最外膜に存在していてもよいし、ベシクルの内相液に存在していてもよいし、ベシクルの脂質二重膜内に存在していてもよい。上記液滴粒子は、本開示のベシクルクラスターの物性、所望の用途、存在させたい所望の箇所(例えば、ベシクルの内相液)等に応じて、任意の物性(沸点、水への溶解度、LogP、粘度等)を有するものを選択してもよい。例えば、ベシクルの内相液が水等の親水性溶媒であり、上記液滴粒子を内相液に存在させること所望する場合には、上記液滴粒子は、水への溶解度が低いものを選択してもよい。また、ベシクルクラスターを所望の期間に亘って生体内に維持させる(例えば、滞留させる)ことを所望する場合には、上記物理波応答性化合物は、生体の体温よりも沸点の高いものを採用してもよい。例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)への使用を考慮した場合には、上記物理波応答性化合物は、例えば大気圧下において、約30℃よりも高い沸点を有するものが好ましい場合がある。
【0049】
本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、約30℃よりも高い沸点を有する。本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、大気圧下において、約30℃よりも高い沸点を有する。
【0050】
本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10アルカン、又は少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10シクロアルカンを含んでなる。本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、約30℃よりも高い沸点を有する(好ましくは、大気圧下で約30℃よりも高い沸点を有する)、少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10アルカン、又は少なくとも1つのハロゲンで置換されているC4~10シクロアルカンを含んでなる。
【0051】
本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10アルカン、又は少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10シクロアルカンを含んでなる。本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、約30℃よりも高い沸点を有する(好ましくは、大気圧下で約30℃よりも高い沸点を有する)、少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10アルカン、又は少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10シクロアルカンを含んでなる。
【0052】
本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、2つ以上のフッ素で置換されているC4~10アルカン(例えば、パーフルオロブタン、2H,3H-デカフルオロペンタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロジクロロオクタン)、又は2つ以上のフッ素で置換されているC4~10シクロアルカン(例えば、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン)を含んでなる。本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、約30℃よりも高い沸点を有する(好ましくは、大気圧下で約30℃よりも高い沸点を有する)、2つ以上のフッ素で置換されているC4~10アルカン(例えば、2H,3H-デカフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロジクロロオクタン)、又は2つ以上のフッ素で置換されているC4~10シクロアルカン(例えば、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン)を含んでなる。
【0053】
本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、C4~10パーフロオロアルカン(例えば、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン)、又はC4~10パーフルオロシクロアルカン(例えば、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン)を含んでなる。本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、約30℃よりも高い沸点を有する(好ましくは、大気圧下で約30℃よりも高い沸点を有する)、C4~10パーフロオロアルカン(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン)、又はC4~10パーフルオロシクロアルカン(例えば、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン)を含んでなる。
【0054】
本開示の一実施態様では、上記物理波応答性化合物は、パーフルオロヘキサンを含んでなる。
【0055】
本開示の一実施態様では、上記液滴粒子は、C4~10パーフロオロアルカン(好ましくは、パーフルオロヘキサン)をコアとして含んでなり、脂質又はその誘導体(好ましくは、ジステアロイルホスファチジルコリン及び/又は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000)をシェルとして含んでなる。
【0056】
上記液滴粒子の粒子径は、通常は、ベシクルの粒子径よりも小さい。上記液滴粒子の粒子径は、これらに限定されるものではないが、例えば、約0.05~約50μm、好ましくは、約0.1~約40μm、より好ましくは、約0.2~約20μmである。或いは、上記液滴粒子の粒子径は、例えば、ベシクルの粒子径の約1/1000~約1/2、好ましくは、約1/500~約1/5、より好ましくは、約1/100~約1/10である。
【0057】
物理波としては、これらに限定されるものではないが、例えば、音波(超音波、弾性波等を含む)、電磁波(例えば、X線等)、光波が挙げられ、これらは、単独であってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。物理波としては、好ましくは、超音波、X線又は光波を含んでなり、より好ましくは、超音波照射を含んでなる。
【0058】
ベシクルクラスターに含まれる薬剤の放出に関して、物理波に応じた閾値強度が存在してもよい。例えば、物理波が超音波である場合、音圧閾値(キャビテーションの発生閾値)が存在してもよい。音圧閾値は、液滴粒子の種類や数密度等に応じて異なってよいが、例えば、2.2~3.32MPaの間に音圧閾値が存在していてもよい。理論に拘束されるものではないが、照射する超音波の負圧ピーク値を音圧閾値以上とすることで、ベシクルクラスターに含まれる薬剤を、ベシクルクラスター外部に放出させることの制御が可能であると考えられる。
【0059】
物理波の程度(例えば、強度、時間等)は、例えば、上記液滴粒子の種類、外部環境(温度、圧力等)、後述する被験体への影響等を考慮の上、適宜調整してもよい。物理波が超音波である場合、超音波の周波数は、例えば、約0.1~約50MHzであり、好ましくは約0.5~約20MHzであり、より好ましくは約1~約5MHzである。
【0060】
[薬剤]
本明細書中で用いられる「薬剤」は、医学的に有用でありうるものである限り、用途、分子量、由来等が特段限定されるものではない。薬剤は、例えば、疾患や障害等の治療、予防等に有用でありうる物質(例えば、治療薬又は予防薬)であってもよいし、疾患や障害等の評価、診断等に有用でありうる物質(例えば、診断薬)であってもよい。また、薬剤は、有機化合物であってもよいし、核酸(DNA、RNA等)であってもよいし、タンパク質(酵素、抗体、抗体断片(Fab等)、ワクチン等)等のアミノ酸由来のものであってもよいし、これらの誘導体、変異体等であってもよいし、細胞(例えば、NK細胞、キメラ抗原受容体を発現する細胞等)であってもよい。さらに、薬剤は、天然由来の物質であってもよいし、合成により得られたものであってもよい。薬剤は、それ自体が活性(例えば、治療活性)を有するものであってもよいし、プロドラッグ等に誘導体化されたものであってもよい。
【0061】
薬剤は、それ自体が本開示のベシクルクラスターに含まれていてもよいし、例えば、リポソーム等に内包、結合等された状態で本開示のベシクルクラスターに含まれてもよい。本開示のベシクルクラスターが膜内包型ベシクルクラスターの場合、医学的有用な物質は、本開示のベシクルクラスターの上記最外膜に結合していてもよいし、上記最外膜中に存在していてもよいし、上記最外膜の内側に存在していてもよい。薬剤が上記最外膜の内側に存在しているとは、例えば、本開示のベシクルクラスターを構成する個々のベシクルの少なくとも1つに結合している場合、個々のベシクルの少なくとも1つの脂質二重膜中に存在している場合、個々のベシクルの少なくとも1つの脂質二重膜の内側(即ち、ベシクルの内相液)に存在している場合、本開示のベシクルクラスターの上記最外膜と個々のベシクルの脂質二重膜との間の間隙に存在する場合を含む。
【0062】
本開示のベシクルクラスターに2種以上の薬剤が含まれる場合、各々が同じ部位に存在していてもよいし、別個の部位に存在していてもよい。各々が同じ部位に存在しているとは、例えば、2種以上の薬剤が、同じベシクルの内相液に共存する場合、同じベシクルの膜中に共存している場合を含む。
【0063】
薬剤は、疾患や障害等の治療、予防等に有用でありうる物質の場合、これらに限定されるものではないが、例えば、抗感染症薬、抗関節炎薬、抗喘息薬、鎮痛薬、抗偏頭痛薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、解熱薬、抗そう痒薬、抗けいれん薬、鎮痙薬、抗精神病薬、中枢神経刺激薬、抗うつ薬、鎮静薬、精神安定薬、副交感神経抑制薬、利尿薬、抗利尿薬、降圧薬、血管拡張薬、心血管薬、止瀉薬、筋弛緩薬、抗嘔吐薬、抗腫瘍薬、ホルモン、免疫抑制薬、催眠薬、止血薬、血栓溶解薬、避妊薬、食欲抑制薬等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
薬剤は、疾患や障害等の評価、診断等に有用でありうる物質の場合、これらに限定されるものではないが、例えば、色素、造影剤、放射性物質、蛍光性物質、疾患及び/又は障害と関連するマーカーに特異的に結合する物質等の標的特異的物質(典型的には、検出可能な放射性物質、蛍光性物質等が結合等しているもの)等が挙げられる。放射性物質としては、これらに限定されるものではないが、例えば、3H、11C、13N、18F、19F、60Co、64Cu、67Cu、68Ga、82Rb、90Sr、90Y、99Tc、99mTc、111In、123I、124I、125I、129I、131I、137Cs、177Lu、186Re、188Re、211At、Rn、Ra、Th、U、Pu、241Am等を放射性核種として含んでなるもの等が挙げられる。標的特異的物質としては、例えば、所望の抗原に特異的に結合する抗体、その抗原結合断片、RNA(例えば、アプタマー、miRNA等)であってもよい。
【0065】
薬剤が疾患や障害等の評価、診断等に有用な物質である場合のより具体的な例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドジカルボシアニン、1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドトリカルボシアニンヨージド、インドシアニングリーン、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、フタロシアニン、インドシアニン、スクアリリウム、クロコニウム、ローダミン、N-アセトキシ-N-2-アセチルアミノフルオレン、それらの誘導体、それらの塩等の蛍光性物質が挙げられる。
【0066】
インドシアニングリーンの誘導体としては、これらに限定されるものではないが、例えば、以下の式:
【化1】
(式中、基Rは、C
1~C
30炭化水素基である)
を有するものであってもよい。なお、上記式において、基Rが「-C
4H
8-SO
3
-Na
+」のものは、誘導体化されていないインドシアニングリーン(ICG)である。
【0067】
本明細書中で用いられる「C1~C30炭化水素基」とは、1~30個の炭素原子、及び水素原子を含む基を意味する。C1~C30炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状又は環状のいずれであってもよく、飽和又は不飽和のいずれであってもよい。また、C1~C30炭化水素基は、1つ又は複数の環構造を含んでいてもよい。C1~C30炭化水素基は、その末端又は分子鎖中に、1つ又は複数の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を有していてもよい。C1~C30炭化水素基としては、好ましくは、C1~C30アルキル基である。
【0068】
本明細書中で用いられる「C1~C30アルキル基」は、1~30個の炭素原子を含む飽和の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を意味し、これらに限定されるものではないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル(例えば、n-ヘキシル)、ヘプチル(例えば、n-ヘプチル)、オクチル(n-オクチル、イソオクチル、2,2,4-トリメチルペンチル)、ノニル(例えば、n-ノニル)、デシル(例えば、n-デシル)、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、ミリシル等を含む。本明細書中で用いられる「C5~C25アルキル基」は、5~25個の炭素原子を含む飽和の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を意味する。本明細書中で用いられる「C10~C20アルキル基」は、10~20個の炭素原子を含む飽和の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を意味する。
【0069】
基Rは、好ましくは、C1~C30アルキル基であり、より好ましくは、C5~C25アルキル基であり、さらに好ましくは、C10~C20アルキル基であり、より好ましくは、C18アルキル基である。なお、基RがC18アルキル基のものは、「ICG-18」とも称される。
【0070】
本開示の一実施態様では、薬剤は、インドシアニングリーン又はその誘導体を含んでなる。
【0071】
本開示の一実施態様では、薬剤は、ICG-18を含んでなる。
【0072】
本開示のベシクルクラスターに含まれる薬剤の量は、該薬剤の用途等を考慮の上、適宜調整してもよい。
【0073】
本開示の一実施態様では、薬剤は、リポソームに結合しているか又はリポソームに内包されている。
【0074】
本明細書中で用いられる「リポソーム」は、単層リポソーム、多重層リポソームを包含する。リポソームは、天然由来又は合成由来の脂質等(例えば、リン脂質、糖脂質、これらの誘導体(例えば、ポリエチレングリコール結合リン脂質)、又はこれらの組み合わせ)を含んでいてもよい。リポソームは、1種類の脂質等から構成されていてもよいし、2種以上の脂質等から構成されていてもよいし、脂質等に加えて他の任意の成分を含んで構成されていてもよい。脂質等の種類や量などは、リポソームの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、脂質量や比率、脂質の荷電を考慮することで、リポソームの粒径や表面電位を制御することができる。リポソームは、従来公知の方法で調製することができる。
【0075】
リポソームに使用可能なリン脂質としては、これらに限定されるものではないが、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、リゾレシチン、又はこれらの水素添加物若しくは水酸化物の誘導体;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール等のグリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;ジステアロイルホスファチジルコリン、ジミリストリルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジン酸等のホスファチジン酸誘導体;等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
リポソームに使用可能な糖脂質としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ジガラクトシルジグリセリド等のグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
上記したもの以外に、リポソームに使用可能な脂質としては、ポリグリセリンポリリシノレート、テトラグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート、デカグリセリン ステアレート、デカグリセリンオレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレンオキシドとポリブタジエンのコポリマー、ポリエチレンオキシドと疎水性ポリマーとのコポリマー等のコポリマー類;等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
リポソームは、上記した脂質等以外にも、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、スクアレン、スクアラン、コレステロール類、エチレングリコール等のグリコール類、デキストラン等の糖類、リン酸ジアルキルエステル類、ステアリルアミン等の脂肪族アミン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
リポソームの粒子径は、これらに限定されるものではないが、例えば、約10~約1000nm、好ましくは、約50~約500nm、より好ましくは、約100~約400nmである。
【0080】
リポソームは、例えば、公知の方法により製造してもよい。また、薬剤をリポソームに結合ないし内包等する方法は、公知の方法を採用してもよい(例えば、Taro Toyota et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry,22,2014,721-727を参照されたい)。
【0081】
[本開示のベシクルクラスターの製造方法]
本開示のベシクルクラスターの製造方法は、特段限定されるものではない。本開示のベシクルクラスターは、例えば、以下の方法により製造してもよいし、以下の方法及び/又は公知情報(例えば、特許文献1)等を参照した方法により製造してもよい。なお、以下では、本開示のベシクルクラスターが、親水性溶媒に分散しうる膜内包型ベシクルクラスターの場合における製造方法を例示する。そのため、本開示のベシクルクラスターが、疎水性溶媒に分散しうる膜内包型ベシクルクラスターの場合、後述する油相液に替えて親水性溶媒を使用し、後述する内相液及び外相液として疎水性溶媒を使用して、製造してもよい。
【0082】
本開示の一実施態様によれば、物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子及び薬剤を含んでなるベシクルクラスターを製造する方法であって、
薬剤及び液滴粒子を含んでなる水系内相液と、乳化剤を含んでなる油相液との混合液を準備する工程、
上記混合溶液と水系外相液とを混合する工程、並びに
上記混合溶液と上記水系外相液との混合物を所望により遠心処理する工程
を含んでなる方法が提供される。
【0083】
以下、本開示の製造法の一実施態様を説明する。
【0084】
油相液の調製
必要に応じて他の成分(例えば、スクアレン)と混合した所望の乳化剤(例えば、ポリグリセリンポリリシノレート)を、所望の温度下(例えば、約0~約100℃、好ましくは、約0~約80℃、より好ましくは、約10~約60℃、さらに好ましくは、約20~約50℃)で、所望の時間(例えば、約0.5~約72時間、好ましくは、約1~約48時間、より好ましくは、約4~約24時間)静置することで、油相液を得ることができる。油相液中の乳化剤の量は、乳化剤の物性(例えば、所望の温度下で液体であるか、固体であるか等)等を考慮の上、適宜調整してもよい。油相液中の乳化剤の量は、例えば、100%w/w以下、好ましくは、約10~約90%w/w、より好ましくは、約20~約80%w/w、さらに好ましくは、約30~約70%w/wであってもよい。
【0085】
内相液の調製
(2-1)液滴粒子分散液の調製
所望の親水性溶媒に上記シェルとしての脂質を分散させた脂質分散液と、上記コアを混合し、必要に応じて、加熱、攪拌、超音波照射等をすることで、液滴粒子分散液を調製してもよい。上記コアは、上記液滴粒子分散液の調製工程の条件下で、及び/又は後述する工程の条件下で、液体であることが好ましい。この工程で使用される親水性溶媒としては、特段限定されるものではないが、例えば、水(純水、脱気水等);親水性有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン、アセトニトリル等ニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド、アルデヒド、エーテル等);等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この工程で使用される親水性溶媒は、水を含むことが好ましい。また、この工程で使用される親水性溶媒は、必要に応じて、任意の他の成分を含んでいてもよい。任意の他の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、着色剤、可溶化剤、溶解補助剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、酸化防止剤等が挙げられる。これらは、例えば、後述するものであってもよい。
【0086】
(2-2)分散液の混合
上記液滴粒子分散液と、薬剤と、必要に応じて所望の親水性溶媒とを混合することで、水系内相液を得ることができる。薬剤は、それ自体が内相液中に溶解していてもよいし、分散等していてもよい。或いは、薬剤は、リポソーム等に結合ないし内包等された状態で、上記内相液中に分散していてもよい。薬剤がリポソーム等に結合ないし内包等されている場合には、上記内相液に分散させる前に、公知の方法等で粒子径を所望の範囲となるように調整してもよい。この工程で必要に応じて使用される親水性溶媒としては、特段限定されるものではないが、例えば、水(純水、脱気水等);親水性有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン、アセトニトリル等ニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド、アルデヒド、エーテル等);等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この工程で使用される親水性溶媒は、水を含むことが好ましい。また、この工程で使用される親水性溶媒は、必要に応じて、任意の他の成分を含んでいてもよい。任意の他の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、着色剤、可溶化剤、溶解補助剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、酸化防止剤等が挙げられる。これらは、例えば、後述するものであってもよい。
【0087】
水系外相液の調製
所望の親水性溶媒を外相液としてもよい。この工程で使用される親水性溶媒としては、特段限定されるものではないが、例えば、水(純水、脱気水等);親水性有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン、アセトニトリル等ニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド、アルデヒド、エーテル等);等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この工程で使用される親水性溶媒は、水を含むことが好ましい。また、この工程で使用される親水性溶媒は、必要に応じて、任意の他の成分を含んでいてもよい。任意の他の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、着色剤、可溶化剤、溶解補助剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、酸化防止剤等が挙げられる。これらは、後述するものであってもよい。
【0088】
ベシクルクラスターの製造
上記油相液と上記水系内相液を混合し(例えば、滴下し)、必要に応じてタッピング等をしてもよい。このとき、
図2Aでも模式的に例示されるように、脂質分子の親水基が内相液を取り囲むことで、一重膜構造のエマルションが形成され得る。
次に、上記水系内相液及び上記油相液の混合溶液と上記外相液とを混合し(例えば、滴下し)、二つの溶液を層状としてもよい。このとき、
図2Bでも模式的に例示されるように、混合溶液と外相液の境界には、親水基を外相液側に向けた脂質分子の列が形成され得る。
混合溶液を外相液に重ねた状態で、所望の時間静置するか又は遠心等してもよい。このとき、
図2Cでも模式的に例示されるように、混合溶液中の一重膜のエマルションは、付近のエマルションとクラスターを形成しながら外相液に移動し得る。そして、混合溶液と外相液の境界を移動する際にクラスター化したエマルションは、疎水基を内側に向け、脂質分子に包み込まれて二重膜構造となり、ベシクルクラスターが形成し得る。
必要に応じて、上澄等の除去、更なる精製、所望の溶媒への再分散等をし、本開示のベシクルクラスター(懸濁液の状態)を得てもよい。
【0089】
本開示によれば、上記方法によりベシクルクラスターを提供することができる。したがって、本発明の一実施態様によれば、上記製造方法により得られた、ベシクルクラスターが提供される。
【0090】
[組成物/用途]
本開示の一実施態様では、本開示のベシクルクラスターを含んでなる、組成物を提供する。本開示の一実施態様では、本開示のベシクルクラスターと、薬学的に許容可能な任意の成分とを含んでなる、組成物を提供する。
【0091】
薬学的に許容可能な任意の成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、増粘剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、着色剤、界面活性剤、可溶化剤、溶解補助剤、保存剤、pH調整剤、懸濁化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、無痛化剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0092】
増粘剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、コラーゲンI型、コラーゲンII型、コラーゲンIII型、コラーゲンV型等のゼラチン;分子量が数千~数万のアガロース、アガロペクチン等の寒天;フィブリノーゲン(例えば、5~50mg/mLのもの);グルコース、スクロース、マントース、ガラクトース、アラビノース、リブロース、フルクトース、ルトース、マンノース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース等の糖類等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
賦形剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、乳糖水和物、白糖、ブドウ糖、デンプン、ショ糖、結晶セルロース、マンニトールなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
結合剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
崩壊剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
滑沢剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルクなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
甘味剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ショ糖、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、アスパルテーム、アセスルファカリウム、スクラロースなどが挙げられる。
【0098】
着色剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、黄色三二酸化鉄、黒色酸化鉄、食用黄色4号、食用赤色3号、タール色素、カラメル、カカオ色素、酸化チタン、リボフラビン類などが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
界面活性剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ポリソルベート類、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
可溶化剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン、オレイン酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、グリセリンなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
溶解補助剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール;プロピレングリコール;シクロデキストリン;マンニトール等の糖アルコール;安息香酸ベンジル;トリスアミノメタン;コレステロール;トリエタノールアミン;炭酸ナトリウム;クエン酸ナトリウム;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の単一の脂肪酸又はそのエステル;ゴマ油、ピーナッツ油、ヤシ油、パーム油、大豆油、オリーブ油、ココナッツ油、コーン油、綿実油、ヒマシ油、ナタネ油、ヒマワリ油等の植物性油;などが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
保存剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ナタマイシン、ピマリシン、ポリリシン、ナイシン、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラハイドロキシ安息香酸イソプロピル、イソプロピルパラベンなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
pH調整剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、酢酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、及びこれらの塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
懸濁化剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
浸透圧調整剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、グルコース、スクロース、マンニトールなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
緩衝剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びこれらを含有する緩衝液などが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0107】
無痛化剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0108】
酸化防止剤としては、これらに限定されるものではないが、例えば、アスコルビン酸、トコフェロール、エリソルビン酸、亜硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、カテキンなどが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
また、本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、本開示のベシクルクラスターだけではなく、その目的に応じて、有益な他の成分(例えば、健康上又は治療上有益な他の成分)を含有するものであってもよい。
【0110】
本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、自体公知の方法により、例えば、錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、ハードカプセル剤、ソフトカプセル剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、チュアブル剤、ソフト錠剤などに製剤化してもよい。
【0111】
本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物、又はこれを製剤化したもの中の本開示のベシクルクラスターの含有量は、特段限定されるものではないが、例えば、本開示のベシクルクラスターを含有する組成物、又はこれを製剤化したものの全量に対して、例えば、約0.05~約99.9重量%、好ましくは、約0.1~約80重量%、より好ましくは、約1~約70重量%としてもよい。
【0112】
本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、例えば、被験体に投与した後、所望の時間経過後に物理波(例えば、超音波照射)を加えることで、被検体における所望の標的部位でベシクルクラスターの外部に薬剤を放出させることができる。したがって、本開示の一実施態様によれば、ベシクルクラスター又はベシクルクラスターを含んでなる組成物は、標的組織に薬剤を送達するために用いられる。また、本開示の好ましい実施態様によれば、ベシクルクラスター又はベシクルクラスターを含んでなる組成物は、物理波の照射に応答して上記薬剤をベシクルクラスターから放出するために用いられる。
【0113】
本開示のベシクルクラスター、又はベシクルクラスターを含んでなる組成物は、疾患又は障害の治療、予防又は診断等に使用してもよい。或いは、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、化粧用に使用してもよい。
【0114】
本開示のベシクルクラスター、又はベシクルクラスターを含んでなる組成物の投与経路は、特段限定されるものではなく、製剤化の種類(例えば、液剤等、その用途(例えば、対象となる疾患又は障害の種類等)に応じて、適宜調整することができる。例えば、被験体の消化器官(例えば、胃、大腸等)に本開示のベシクルクラスター、又はベシクルクラスターを含んでなる組成物を投与する場合には、液剤(懸濁剤、分散剤、水溶液等)の注射投与(例えば、内視鏡下での注射投与)であってもよい。
【0115】
被験体としては、これらに限定されるものではないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄類;イヌ、ネコ等のネコ目;ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類;等の哺乳動物が挙げられるが、好ましくは霊長類であり、より好ましくはヒトである。
【0116】
治療、予防、診断等の対象となり得る疾患又は障害は、上記薬剤に応じて適宜調整することができる。上記疾患又は障害としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ガン、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症等が挙げられる。
【0117】
「ガン」としては、これらに限定されるものではないが、例えば、固形ガン、血液ガン等が挙げられる。固形ガンとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、乳ガン(例えば、浸潤性乳管ガン、非浸潤性乳管ガン、炎症性乳ガン等)、前立腺ガン(例えば、ホルモン依存性前立腺ガン、ホルモン非依存性前立腺ガン等)、膵ガン(例えば、膵管ガン等)、胃ガン(例えば、乳頭腺ガン、粘液性腺ガン、腺扁平上皮ガン等)、肺ガン(例えば、非小細胞肺ガン、小細胞肺ガン、悪性中皮腫等)、結腸ガン(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸ガン(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸ガン(例えば、家族性大腸ガン、遺伝性非ポリポーシス大腸ガン、消化管間質腫瘍等)、小腸ガン(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道ガン、十二指腸ガン、舌ガン、咽頭ガン(例えば、上咽頭ガン、中咽頭ガン、下咽頭ガン等)、頭頚部ガン、唾液腺ガン、肝臓ガン(例えば、原発性肝ガン、肝外胆管ガン等)、腎臓ガン(例えば、腎細胞ガン、腎盂と尿管の移行上皮ガン等)、胆嚢ガン、胆管ガン、膵臓ガン、子宮内膜ガン、子宮頸ガン、卵巣ガン(例、上皮性卵巣ガン、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱ガン、尿道ガン、皮膚ガン(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞ガン等)、甲状腺ガン(例えば、甲状腺髄様ガン等)、副甲状腺ガン、鼻腔ガン、副鼻腔ガン、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、等の上皮細胞ガン;脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、転移性髄芽腫、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫等の非上皮細胞ガン;例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍、胚細胞性腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症等の小児固形ガンが挙げられる。血液ガンとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、多発性骨髄腫、B細胞慢性リンパ性白血病(B-CLL)、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、有毛細胞白血病(HCL)、骨髄異形成症候群(MDS)、又は急性期慢性骨髄性白血病(CML-BP)等が挙げられる。
【0118】
本開示のベシクルクラスター、又はベシクルクラスターを含んでなる組成物に、薬剤として疾患や障害等の評価、診断等に有用でありうる物質(例えば、ガンを検出可能な物質)を含んでいる場合、物理波の照射により外部に放出された該薬剤は、該薬剤を検出可能な所望の装置(例えば、近赤外蛍光カメラ)を用いて検出等してもよい。使用する装置、方法等は、該薬剤の物性等を考慮の上、適宜変更することができる。
【0119】
本開示のベシクルクラスター、又はベシクルクラスターを含んでなる組成物は、例えば、薬剤としてガンを検出可能な物質を含んでいる場合、腫瘍マーカー(例えば、固形ガンの腫瘍マーカー)として使用することができる。
【0120】
固形ガン(例えば、胃ガン)においては、治療計画や手術計画を立案するうえで、ガンの転移の有無を評価ないし検査することが重要でありうる。ガンの転移の有無を評価ないし検査する方法としては、例えば、センチネルリンパ節におけるガン細胞の有無を検査する方法が知られている。センチネルリンパ節にガン細胞が転移していなければ、その下流に存在するリンパ節の郭清が不要となり、被験体の肉体的負荷、精神的負荷、経済的負荷の低減にも寄与する場合がある。本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、薬剤としてセンチネルリンパ節を検出可能な物質(例えば、インドシアニングリーン又はその誘導体)を含んでいる場合、センチネルリンパ節を同定可能なマーカーとしても使用することができる。
【0121】
本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、同一のベシクル内に2以上の異なる薬剤を含むことも可能であるし、別個のベシクル内にそれぞれ異なる薬剤を含むことも可能である。そのため、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、薬剤として、ガンを検出可能な物質とセンチネルリンパ節を検出可能な物質を両方含んでいる場合には、腫瘍マーキングからセンチネルリンパ節の同定までを一連の技術で実施することができうる。本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、内視鏡手術が必要な被験体の深部を対象とした手術において、好適に使用される。
【0122】
本開示の一実施態様では、疾患又は障害の治療又は予防のための、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物を提供する。
本開示の一実施態様では、ガンの治療又は予防のための、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物を提供する。本開示の一実施態様では、胃ガンの治療又は予防のための、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物を提供する。
【0123】
本開示の一実施態様では、疾患又は障害の診断のための、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物を提供する。本開示の一実施態様では、ガンの診断のための、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物を提供する。本開示の一実施態様では、胃ガンの診断のための、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物を提供する。
【0124】
また、別の実施態様では、本開示のベシクルクラスターの有効量をそれを必要とする被験体に投与する工程および被験体に物理波を照射する工程を含んでなる、被験体内で薬剤を放出する方法が提供される。また、好ましい実施態様によれば、上記方法は、被検体の内の標的部位に到達するための方法である。
【0125】
ベシクルクラスターの有効量は、被験体の種、年齢、性別、疾患の進行状況等に応じて当業者は適宜決定することができる。被験体は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。上記標的部位は、疾患の対象となる臓器等であってもよい。
【0126】
本開示のベシクルクラスターには、液滴粒子が含まれているため、ベシクルクラスターと、ベシクルクラスターを破壊等するその他の物質(マイクロバブル)を別個に投与することを必ずしも要さない。そのため、本開示のベシクルクラスターは、被験体等の観点からは、公知のベシクルクラスターと比較して、肉体的及び/又は精神的な負担、経済的な負担を軽減しうる。また、本開示のベシクルクラスターは、医療従事者等の観点からは、公知のベシクルクラスターと比較して、投与等の作業が煩雑になることを防止し得る。
【0127】
本開示のベシクルクラスター、又はベシクルクラスターを含んでなる組成物は、2種以上の液滴粒子を含んでなることもできる。そのため、本開示のベシクルクラスター、又は本開示のベシクルクラスターを含んでなる組成物は、物理波に対して異なる感度を有する液滴粒子を2種以上含んでなる場合(例えば、ある出力強度の超音波を照射した場合、かかる強度で気化する第1の液滴粒子と、かかる強度では気化しない第2の液滴粒子を含んでなる場合)、物理波(例えば、超音波照射)の強度を調節することで、薬剤の放出を制御することができうる。例えば、本開示のベシクルクラスターが、上記第1の液滴粒子と第1の薬剤を含む第1のベシクルと、上記第2の液滴粒子と第2の薬剤(例えば、該第1の薬剤とは異なるもの)を含む第2のベシクルと、を含んでなる場合、第1の液滴粒子は気化するが第2の液滴粒子が気化しない物理的刺激を与えた場合に、第1の薬剤を優先的に放出させ、その後、第2の液滴粒子が気化する物理的刺激を与えることで、第2の薬剤を放出させることもできうる。
【0128】
或いは、第1の液滴粒子と第1の薬剤を含んでなる本開示の第1のベシクルクラスターと、第2の液滴粒子と第2の薬剤(該第1の薬剤と同じであってもよいし、異なるものであってもよい)を含んでなる本開示の第2のベシクルクラスターを組み合わせて使用した場合、第1の液滴粒子は気化するが第2の液滴粒子が気化しない物理波を与えることで、第1のベシクルクラスターから第1の薬剤を優先的に放出させ、その後、第2の液滴粒子が気化する物理的刺激を与えることで、第2のベシクルクラスターから第2の薬剤を放出させることもできうる。
【0129】
本開示の一実施態様によれば、以下の〔1〕~〔15〕が提供される。
〔1〕物理波の照射により液体から気体に相変化する物理波応答性化合物を含む液滴粒子、及び薬剤を含んでなる、ベシクルクラスター。
〔2〕上記物理波応答性化合物が、大気圧下において30℃よりも高い沸点を有する化合物である、〔1〕に記載のベシクルクラスター。
〔3〕 上記物理波応答性化合物が、有機ハロゲン化合物である、〔1〕又は〔2〕に記載のベシクルクラスター。
〔4〕上記物理波応答性化合物が、少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10アルカン、又は少なくとも1つのフッ素で置換されているC4~10シクロアルカンを含んでなる、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のベシクルクラスター。
〔5〕上記物理波応答性化合物が、C4~10パーフロオロアルカン又はC4~10パーフロオロシクロアルカンを含んでなる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のベシクルクラスター。
〔6〕上記ベシクルクラスターの粒子径が、10~1000μmである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のベシクルクラスター。
〔7〕上記薬剤が、上記物理波が照射されることにより相変化しない物理波非応答性化合物である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のベシクルクラスター。
〔8〕上記薬剤が治療薬若しくは予防薬又は診断薬である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のベシクルクラスター。
〔9〕上記診断薬が、蛍光性物質を含む、〔8〕に記載のベシクルクラスター。
〔10〕上記物理波が、超音波、X線又は光波である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のベシクルクラスター。
〔11〕上記ベシクルクラスターにおける一部又は全部のベシクルが、上記液滴粒子及び上記薬剤を内包している、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のベシクルクラスター。
〔12〕〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載のベシクルクラスターを含んでなる、組成物。
〔13〕疾患又は障害の治療又は診断用の、〔12〕に記載の組成物。
〔14〕標的組織に上記薬剤を送達するための、〔12〕又は〔13〕に記載の組成物。
〔15〕上記物理波の照射に応答して上記薬剤を上記ベシクルクラスターから放出するための、〔12〕~〔14〕のいずれかに記載の組成物。
【実施例0130】
以下、実施例を用いて本開示のベシクルクラスターをより詳細に説明する。但し、以下の実施例は、本開示のベシクルクラスターを何ら限定することを意図するものではない。なお、特段の記載がない限り、本明細書中に記載のパーセンテージや比率は、質量による。また、特段の記載がない限り、本明細書中に記載の単位や測定方法は、日本工業規格(JIS)の規定による。
【0131】
[例1:ベシクルクラスターの調製]
1.油相液の調製
ポリグリセリンポリリシノレート(PGPR;ポエム PR-100、理研ビタミン株式会社より入手)をスクアレン(富士フイルム和光純薬株式会社より入手)に43%w/wとして混合した。混合した溶液を、40℃に設定した定温乾燥機(ON-300S、アズワン株式会社より入手)内で18時間以上静置し、油相液を得た。
【0132】
2.内相液の調製
(2-1)蛍光性物質含有リポソーム分散液の調製
スクリュー管に入れたジオレオイルホスファチジルコリン(NOF CORPORATION社より入手) 22.78mg(5.80mM)、ポリエチレングリコール修飾リン脂質(DSPE-PEG5000、NOF CORPORATION社より入手) 8.7mg(0.296mM)、コレステロール(NOF CORPORATION社より入手) 1.0mg(0.518mM)及び蛍光性物質ICG-C18(山田化学工業社より入手) 0.78mg(0.179mM)に、クロロホルム(関東化学株式会社より入手)とメタノール(関東化学株式会社より入手)の混合有機溶媒(体積比9:1) 5mLを加え、完全に溶解させた。溶解後、真空ポンプ(N810FT.18、ケー・エヌ・エフ・ジャパン社より入手)と真空ポリカデシケーター(240GA型、アズワン株式会社)を用いて真空揮発(120分間)を行った。溶媒を揮発することで、スクリュー管内壁に混合脂質の薄膜を形成させた。ここに1.0mol/Lのスクロース溶液 5mLを加え、リポソームを分散させた(
図4)。得られた分散液を400nmのフィルタ(ニュークリポアメンブレン19mm、0.4μm、Whatman社より入手)に11回通して、リポソームの粒子径(平均粒子径:約235nm)を調整し、蛍光性物質含有リポソーム分散液を得た。
【0133】
(2-2)液滴粒子分散液の調製
スクロース、純水及びトリス塩酸緩衝液(トリス塩酸の終濃度は5%v/v)を混合し、1.0mol/Lのスクロース溶液を調製した。このスクロース溶液 5mL、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC;NOF CORPORATION社より入手) 7.5mg(1.90mM)及びポリエチレングリコール修飾リン脂質(DSPE-PEG2000、NOF CORPORATION社より入手) 5.0mg(0.35mM)を混合し、マグネチックスターラー(HS15-26P、ケニス株式会社より入手)を用いて、粉末が目視できなくなるまで72時間以上撹拌し、リン脂質分散液を得た。このリン脂質分散液 2mL及び液体のパーフルオロヘキサン(C6F14)(東京化成工業株式会社より入手)0.02mLを混合した。リン脂質分散液内で沈殿しているC6F14に超音波ホモジナイザー(NR-50N、マイクロテック・ニチオン社より入手)の先端を近づけ、パーフルオロヘキサンの沈殿物を目視できなくなるまで、出力値(PWN)20%で超音波を照射し(約90秒間)、液滴粒子分散液を得た。
【0134】
(2-3)分散液の混合
スクロース(関東化学株式会社より入手)と純水を混合し、1.0mol/Lのスクロース溶液を調製した。さらに、このスクロース溶液に0.05mol/Lとなるようトリス塩酸緩衝液(富士フイルム和光純薬株式会社より入手)を混合した。この溶液に、上記で得られた蛍光性物質含有リポソーム分散液 2.5mL及び液滴粒子分散液 2.5mL(いずれの分散液も、溶媒は1.0mol/Lのスクロース溶液)を加え、内相液を得た。
【0135】
3.外相液の調製
グルコース(関東化学株式会社)及び純水を混合し、1.0mol/Lのグルコース溶液を調製した。このグルコース溶液に、0.05mol/Lとなるようにトリス塩酸緩衝液(富士フイルム和光純薬株式会社より入手)を混合し、外相液を得た。
【0136】
4.ベシクルクラスターの調製
上記で得られた油相液 3.5mLに上記で得られた内相液 0.5mLを滴下し、軽くタッピングして混合した。このとき、
図2A及び
図5でも模式的に例示されるように、PGPR分子の親水基が内相液を取り囲むことで、一重膜構造のエマルションが形成されると考えられる。
次に、内相液と油相液の混合溶液を外相液 7mLに滴下し、二つの溶液を層状とした。このとき、
図2B及び
図5でも模式的に例示されるように、混合溶液と外相液の境界には、親水基を外相液側に向けたPGPR分子の列が形成されると考えられる。
混合溶液を外相液に重ねた状態で卓上遠心機(H-36、株式会社コクサンより入手)を用いて、3500rpmで30分間の遠心沈降を実施した。このとき、
図2Cでも模式的に例示されるように、混合溶液中の一重膜のエマルションは、付近のエマルションとクラスターを形成しながら外相液に移動すると考えられる。そして、混合溶液と外相液の境界を移動する際にクラスター化したエマルションは、疎水基を内側に向け、PGPR分子に包み込まれて二重膜構造となり、ベシクルクラスターが形成されると考えられる。
遠心沈降後、1.5mLになるように上澄を除去し、例1のベシクルクラスター(懸濁液の状態)を得た。
【0137】
[参考例1:液滴粒子を含まないベシクルクラスターの調製]
実施例1において内相液に液滴粒子分散液を混合しなかったこと以外、同様の方法を実施し、参考例1の液滴粒子を含まないベシクルクラスターを調製した。
【0138】
[試験例1:ベシクルクラスターの顕微鏡評価]
蛍光顕微鏡(IXplore Standard、オリンパス株式会社製)及び対物レンズ(UPLFLN10X2PH、オリンパス株式会社製)(測定条件:倍率:10倍、開口数:0.3)を用いて、例1のベシクルクラスターを顕微鏡観察した。蛍光観察の場合には、中心波長が769nmの励起フィルタ(FF01-769/41-25、Semrock社製)及び中心波長が832nmの検出フィルタ(FF01-832/37-25、Semrok社製)を使用した。
結果を
図6(左側:明視野による観察、右側:蛍光観察)に示す。
【0139】
図6に示されるとおり、蛍光性物質を含んでいない略円形状の部位が観察された。よって、この部位が液滴粒子であると考えられた。以上のことから、例1のベシクルクラスターに液滴粒子が含まれていると考えられた。
【0140】
[試験例2:超音波照射によるベシクルクラスターの動態評価]
図7A及び
図7Bに例示される実験装置を用いて、超音波照射時における例1のベシクルクラスターの動態を以下の方法により評価した。
セル内を脱気水で満たし、側面にベシクルクラスターの動態を観察するための2つのガラス窓を設置した観察セル(D2.0cm×W8.0cm×H4.2cm)を用いて、超音波照射した際のベシクルクラスター動態を評価した。
セル内に内径2mm、外径4mmのシリコーンチューブを設置し、流路を形成した。光源、シリコーンチューブ及び光学顕微鏡(VHX-7000、KEYENCE社より入手)のレンズユニットを一列に並べた。対物レンズ(VH-Z100UT、KEYENCEより入手)の焦点距離を20mm、顕微鏡システムの倍率を100倍とした。超音波探触子(リニアアレイプローブ)をチューブの上方に配置し、探触子のLateral方向とチューブ長軸方向が平行となるように調整した。マイクロピペットを使用して試料液をチューブ内に充填し、チューブ内でベシクルクラスターが静止するまで待った。そして、超音波をShearWave Elastography(SWE)モード(詳細な条件は、適宜に調整した)で照射し、超音波照射時におけるベシクルクラスターの動態を、50fpsのフレームレートで光学的に観察した。SWEモードでは、生体の弾性的性質を評価するための横波を発生させる加振パルス(バースト波)と発生した横波の伝搬を計測する探索パルスが交互に送信される(ハイドロフォン(Type 80-0.5-4.0、Imotec Messtechnik社製)を用いて両者を計測した一例を
図10A及び
図10Bに示す)。探索パルスは振幅が小さく、波数が短いため、総エネルギーが加振パルスに比べて小さいと考えられた。そのため、試験例3においては、探索パルスがベシクルクラスターに及ぼす影響が小さい(又は、ほとんどない)と仮定した。
図10Aに例示されるバースト波が5回繰り返されるセットを1シーケンスとして定義し、試験例2においては、このシーケンスを1回実施することで、超音波を照射した。
結果を
図8に示す。なお、t=0.00sは、超音波照射によりベシクルクラスターが最初に移動したフレームである。
【0141】
図8に示されるとおり、例1のベシクルクラスターは、超音波照射前(t=-1.00s)においてチューブ内に沈殿した黒色の粒子として観察され、超音波照射直後(t=0.00s)においてチューブ中央の沈殿位置から舞い上がり、その後(t=0.02~0.10s)において徐々にチューブ長軸方向に拡散する動態が観察された(
図8)。拡散したベシクルクラスターが黒い靄状として観察されたことから、例1のベシクルクラスターは、超音波照射によって微細化したと考えられた。また、舞い上げられたベシクルクラスターは、超音波照射後(t=30.00s)において再度チューブ下部に沈殿したが、超音波照射前(t=-1.00s)と比較してチューブ下部中央に沈殿したベシクルクラスターの体積が明らかに減少していた。
以上のことから、超音波照射をはじめとする物理的刺激をトリガーとして、例1のベシクルクラスターの少なくとも一部が破壊され、微細化されたと考えられた。
【0142】
[試験例3:蛍光性物質の放出性評価]
図9に模式的に例示される実験システムを用いて、例1のベシクルクラスター及び参考例1の液滴粒子を含まないベシクルクラスターの超音波照射時における蛍光性物質の放出性を評価した。
【0143】
1.超音波照射システム
実験セル(D3.0cm×W7.5cm×H4.0cm)に脱気水を入れ、内径2mm、外径4mmのシリコーンチューブを設置した。チューブの中心から上方15mmの位置に超音波探触子(リニアアレイプローブ)を配置し、ShearWave Elastography(SWE)モードを使用した(詳細な条件は、適宜に調整した)。SWEモードでは、生体の弾性的性質を評価するための横波を発生させる加振パルス(バースト波)と発生した横波の伝搬を計測する探索パルスが交互に送信される(ハイドロフォン(Type 80-0.5-4.0、Imotec Messtechnik社製)を用いて両者を計測した一例を
図10A及び
図10Bに示す)。探索パルスは振幅が小さく、波数が短いため、総エネルギーが加振パルスに比べて小さいと考えられた。そのため、試験例3においては、探索パルスがベシクルクラスターに及ぼす影響が小さい(又は、ほとんどない)と仮定した。
図10Aに例示されるバースト波が5回繰り返されるセットを1シーケンスとして定義し、超音波照射中はこのシーケンスを一定間隔で繰り返した。リニアアレイプローブのLateral方向は、チューブの長軸方向と直交させ、バースト波の集束位置がチューブの中心に位置するようにリニアアレイプローブの位置を調整した。バースト波の中心周波数は4.17MHz、バースト波のビーム幅(半値全幅)はLateral方向(x)に0.4mm、Elevation方向(y)に2.8mm、Depth方向(z)に2.8mmであった。複数の音響出力条件で実施した。
【0144】
2.試料液の送液、超音波照射及び試料回収
シリンジポンプ(FusionTouch200、ISISCorporation社より入手)を用いて試料液 1.0mLをチューブ内に送液した。バースト波を間欠的に照射し続け、超音波照射後の試料液 0.80mLをチューブの逆側から回収した。なお、バースト波が照射される領域は、空間的にチューブ内の一部である。また、バースト波が照射される時間は、一回の照射あたり、装置の仕様で定められた一定期間である。そのため、送液した試料液全体に超音波が照射されているとは限らない。送液した試料液全量に対する超音波が照射された体積(照射された体積の割合)は、バースト波の照射時間(バースト長)、バースト波の照射間隔、送液時の流量及びチューブ径等の条件から、約14%であると推定された。
【0145】
3.蛍光性物質含有リポソームの定量
回収した試料液の吸光度を測定し、ICG-C18の濃度を下記方法により推定することで、ベシクルクラスターから放出された蛍光性物質含有リポソームの放出量を定量化した。
超音波照射後に回収した0.80mLの試料液を対象に、遠心分離機(プチまる8-2320、株式会社ワケンビーテック)を用いて6000rpmで30分間の遠心分離し、残存するベシクルクラスターを沈降させることで、上澄に残る蛍光性物質含有リポソームを分離した。上澄 0.2mLを回収し、紫外可視分光光度計(UV-1800、SHIMADZU社より入手)で吸光度を計測し、以下の数式:
【数1】
(式中、c
orgは、試料液中の全ての蛍光性物質含有リポソームが放出された場合の蛍光リポソームの濃度を表し、n
r及びc
rは、それぞれ計測時の試料液の希釈倍率及び上澄中の蛍光性物質含有リポソームの濃度を表し、n
0及びc
0は、それぞれ超音波照射非照射下における希釈倍率及び上澄中の蛍光性物質含有リポソームの濃度を表す)
により、蛍光性物質含有リポソームの放出率(R
r)を算出した。
なお、c
orgは、超音波を照射せずに回収した試料液に界面活性剤(Triton X-100、Sigma Aldrich社より入手)を加え、ベシクルクラスター中に含まれる蛍光性物質の総てが溶媒中に放出されたと考えられる状態における吸光度を測定し、得られた吸光度から検量線を用いて算出した。照射した超音波の負圧ピーク値(P
np)に対して、産出された放出率の平均値(R
r)をプロットした。
【0146】
上記試験において、蛍光性物質含有リポソーム分散液に含まれるICG-C18の濃度を変化させた際の吸光度スペクトルを評価したところ、蛍光性物質含有リポソームに含まれるICG-C18の吸光スペクトルのピークは800nm付近であり、濃度が大きくなるに伴い、吸光度も大きくなった(
図11A)。また、800nm近傍の吸光度において検量線を作成したところ、吸光度のピーク値とICG-C18の濃度の間には強い相関(r=0.999)を認めた(
図11B)。したがって、試験例3において、吸光度のピーク値から蛍光性物質含有リポソーム中に含まれるICG-C18の濃度を定量することが可能であると考えられた。
【0147】
また、
図12に示されるとおり、P
npが2.25MPaから蛍光性物質含有リポソームの放出が認められ、P
npが3.97MPa以上の場合においては、蛍光性物質含有リポソームの放出率が有意に高かった(p<0.05、Welchのt検定)。
【0148】
なお、上記試験における音圧条件を変更した予備実験において、約2.25MPa≦Pnp≦約3.32MPaの間に音圧閾値(キャビテーションの発生閾値)が存在していることを示唆する結果が得られた。この結果から、液滴粒子の種類や数密度等に応じて設定される音圧閾値として指標として、物理波を調整することにより、薬剤放出を制御し得ると考えられる。