IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドマテックスの特許一覧

特開2024-179263酸化物粒子の製造方法及び電子機器用樹脂組成物の製造方法
<>
  • 特開-酸化物粒子の製造方法及び電子機器用樹脂組成物の製造方法 図1
  • 特開-酸化物粒子の製造方法及び電子機器用樹脂組成物の製造方法 図2
  • 特開-酸化物粒子の製造方法及び電子機器用樹脂組成物の製造方法 図3
  • 特開-酸化物粒子の製造方法及び電子機器用樹脂組成物の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179263
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】酸化物粒子の製造方法及び電子機器用樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20241219BHJP
   C01F 7/428 20220101ALI20241219BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C01F7/428
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097976
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友祐
【テーマコード(参考)】
4G072
4G076
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072DD03
4G072DD04
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ42
4G072MM26
4G072MM31
4G072MM36
4G072MM38
4G072RR12
4G072TT21
4G072UU01
4G076AA02
4G076AB18
4G076BA26
4G076BC02
4G076BC07
4G076BD02
4G076CA02
4G076DA02
(57)【要約】
【課題】封止材に添加するフィラーとなる酸化物粒子に含有される不純物量を低減する酸化物粒子の製造方法と、当該酸化物粒子を用いた電子機器用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】両性元素の金属原料を塩基性溶液に溶解して原料溶液を得る溶解工程と、原料溶液の溶解成分を固形化して固形化物を得る固形化工程と、固形化物を焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、粉砕物を火炎中に投入して溶融により球状化した球状粒子を得る溶融球状化工程とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両性元素の金属原料を塩基性溶液に溶解して原料溶液を得る溶解工程と、
前記原料溶液の溶解成分を固形化して固形化物を得る固形化工程と、
前記固形化物を焼成して焼成物を得る焼成工程と、
前記焼成物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物を火炎中に投入して溶融により球状化した球状粒子を得る溶融球状化工程と、を備える
ことを特徴とする酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性溶液が、アミン系化合物の水溶液である請求項1に記載の酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記固形化工程において前記原料溶液の溶解成分を固形化するに際し、酸性溶液を添加して前記固形化物を得る請求項1に記載の酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記固形化工程において前記原料溶液の溶解成分を固形化するに際し、前記原料溶液を加熱して前記固形化物を得る請求項1に記載の酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記固形化工程において前記原料溶液の溶解成分を固形化するに際し、前記原料溶液の加熱は40ないし60℃の液温である請求項4に記載の酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記両性元素の金属原料は金属ケイ素である請求項3に記載の酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記両性元素の金属原料は金属アルミニウムである請求項4に記載の酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記球状粒子に含有されるウラン元素及びトリウム元素の総量は、前記両性元素の金属原料に含有されるウラン元素及びトリウム元素の総量の1/10以下に減少する請求項1に記載の酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
両性元素の金属原料を塩基性溶液に溶解して原料溶液を得る溶解工程と、
前記原料溶液の溶解成分を固形化して固形化物を得る固形化工程と、
前記固形化物を焼成して焼成物を得る焼成工程と、
前記焼成物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物を火炎中に投入して溶融により球状化した球状粒子を得る溶融球状化工程と、
前記球状粒子を樹脂組成物に分散して樹脂分散物を得る樹脂分散工程と、を備える
ことを特徴とする電子機器用樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化物粒子の製造方法及び電子機器用樹脂組成物の製造方法に関し、特に不純物の含有量を低減する酸化物粒子の製造方法と、当該酸化物粒子を用いた電子機器用樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の精密電子部品を封止する封止材には、樹脂組成物に無機性材料のフィラーが添加される。フィラーには絶縁性、熱膨張係数の低さの性質が求められる。一般に、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)等が多用されている。
【0003】
シリカ、アルミナは天然の高純度の鉱石を所定の粒子径に粉砕してフィラーに加工される。つまり、たとえ高純度であるとしても、天然の鉱石に由来するため、酸化ケイ素、酸化アルミニウム以外の不純物の存在が不可避である。特に、天然物由来のシリカ、アルミナの場合、ウラン元素、トリウム元素が存在する。このような不純物の低減目的から、粉砕と火炎への曝露を組み合わせた球状シリカ粉体の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の製造方法によると、粉砕と火炎への曝露を通じてウラン元素の低減に寄与している。ここで、半導体の処理速度の向上を目指して、加工精度、集積化がさらに促進している。そのため、半導体が外部から受ける電磁気的なノイズの影響が今まで以上に問題視されている。天然物由来のシリカ、アルミナの場合、ウラン元素及びトリウム元素の放射性壊変によりアルファ線等が生じることが知られており、誤作動を引き起こす原因と考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-206870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その後、発明者は鋭意検討を重ねた結果、封止材から発生するアルファ線等を低減するため、より効果的に天然の高純度の鉱石または低品位の金属材料からのウラン元素及びトリウム元素の除去を可能にするに至った。
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、封止材に添加するフィラーとなる酸化物粒子に含有される不純物量を低減する酸化物粒子の製造方法と、当該酸化物粒子を用いた電子機器用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、実施形態の酸化物粒子の製造方法は、両性元素の金属原料を塩基性溶液に溶解して原料溶液を得る溶解工程と、原料溶液の溶解成分を固形化して固形化物を得る固形化工程と、固形化物を焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、粉砕物を火炎中に投入して溶融により球状化した球状粒子を得る溶融球状化工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
さらに、酸化物粒子の製造方法において、塩基性溶液が、アミン系化合物の水溶液であることとしてもよい。
【0010】
さらに、酸化物粒子の製造方法の固形化工程は、原料溶液の溶解成分を固形化するに際し、酸性溶液を添加して固形化物を得ることとしてもよい。
【0011】
さらに、酸化物粒子の製造方法の固形化工程は、原料溶液の溶解成分を固形化するに際し、原料溶液を加熱して固形化物を得ることとしてもよい。
【0012】
さらに、酸化物粒子の製造方法の固形化工程において原料溶液の溶解成分を固形化するに際し、原料溶液の加熱は40ないし60℃の液温としてもよい。
【0013】
さらに、酸化物粒子の製造方法において、両性元素の金属原料は金属ケイ素、または金属アルミニウムであることとしてもよい。
【0014】
さらに、酸化物粒子の製造方法において、球状粒子に含有されるウラン元素及びトリウム元素の総量は、両性元素の金属原料に含有されるウラン元素及びトリウム元素の総量の1/10以下に減少することとしてもよい。
【0015】
実施形態の電子機器用樹脂組成物の製造方法は、両性元素の金属原料を塩基性溶液に溶解して原料溶液を得る溶解工程と、原料溶液の溶解成分を固形化して固形化物を得る固形化工程と、固形化物を焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、粉砕物を火炎中に投入して溶融により球状化した球状粒子を得る溶融球状化工程と、球状粒子を樹脂組成物に分散して樹脂分散物を得る樹脂分散工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の酸化物粒子の製造方法によると、両性元素の金属原料を塩基性溶液に溶解して原料溶液を得る溶解工程と、原料溶液の溶解成分を固形化して固形化物を得る固形化工程と、固形化物を焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、粉砕物を火炎中に投入して溶融により球状化した球状粒子を得る溶融球状化工程とを備えるため、封止材に添加するフィラーとなる酸化物粒子に含有される不純物量を低減する酸化物粒子を得ることができる。
【0017】
また、電子機器用樹脂組成物の製造方法によると、樹脂組成物に含有される球状粒子から放射される粒子線、電磁波の線量の低減が可能となり、ノイズ等の外乱要因を抑制して機器の誤作動等の不具合の軽減が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試験例4の(A)粉砕工程を経た粉砕物の電子顕微鏡写真、(B)溶融球状化工程を経た球状粒子の電子顕微鏡写真である。
図2】試験例16の(A)粉砕工程を経た粉砕物の電子顕微鏡写真、(B)溶融球状化工程を経た球状粒子の電子顕微鏡写真である。
図3】試験例17の(A)粉砕工程を経た粉砕物の電子顕微鏡写真、(B)溶融球状化工程を経た球状粒子の電子顕微鏡写真である。
図4】試験例18の(A)粉砕工程を経た粉砕物の電子顕微鏡写真、(B)溶融球状化工程を経た球状粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施形態の酸化物粒子の製造方法は、金属原料に対し、次の工程を順に処理する方法となる。また、電子機器用樹脂組成物の製造方法にあっては、最終段階にて樹脂組成物に分散させる工程が含まれる。
【0020】
始めに、原料となる両性元素の金属原料が用意され、両性元素の金属原料は塩基性溶液に溶解される。そして両性元素の金属原料が溶解した原料溶液が調製される(「溶解工程」)。
【0021】
実施形態において好適な両性元素は主に金属のSi及びAlであり、さらに、Zn、Pb、Sn、Be、Ti、V、Fe、Co、Ge、Zr、Ag、Sn等の金属元素が含まれる。両性元素の特徴として、酸と塩基の両方に反応する性質の元素である。両性元素が金属Siであるときの当該製造方法を通じて出来上がる酸化物粒子は高純度シリカ(酸化ケイ素)である。また、両性元素がAlであるときの当該製造方法を通じて出来上がる酸化物粒子は高純度アルミナ(酸化アルミニウム)である。前出のその他の両性元素も金属元素の原料となる。
【0022】
両性元素の金属原料を塩基性溶液に溶解するに際し、塩基性溶液はアルカリ金属を含有しない溶液である。一般に、アルカリ金属の水酸化物である水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液は強塩基性となる。しかしながら、塩基性溶液のアルカリ金属が残留すると最終的に出来上がる酸化物粒子の純度を押し下げることとなり好ましくない。
【0023】
そこで、アルカリ金属を含有しない溶液としてアミン系化合物の水溶液が使用される。アミン系化合物としては、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、水酸化第四級アンモニウム(アンモニウム塩)、アリールアミン、シラザン、ヒドラジン等が該当する。
【0024】
さらに具体的に、アミン系化合物は、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピロリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化メチルトリアミルアンモニウム、水酸化メチルトリアミルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、ピロリジン、ピペリジン、ピリジン、キノリン、イミダゾール、インドール、ピリミジン、ヘキサメチルジシラザン、ヒドラジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等の中から選択される1以上の化合物である。水溶液の調製に際し、アミン系化合物は単独種類としても、2種類以上の混合としてもよい。
【0025】
有機化合物であるアミン系化合物を用いる場合、以降の工程の処理に伴い、化合物分子が揮発、分解する。このため、アミン系化合物は最終的に出来上がる酸化物粒子へほとんど残留せず望ましい。むろん、水溶液におけるアミン系化合物の濃度は、溶解対象の両性元素の金属原料の種類により、最適な濃度、pHが設定され、溶液は撹拌される。さらに、溶解時の液温の調整も行われる。また、溶解時の溶け残りも生じるため、必要に応じて濾過も付加される。
【0026】
ここで、塩基量と溶解対象の両性元素の金属原料との配合量については、次のmol量同士の比率として示すことができる。「塩基量(mol)/金属ケイ素(Si)量(mol)の比率」は、0.3ないし1.5の範囲、さらには0.5ないし1.1の範囲であることが好ましい。また、「塩基量(mol)/金属アルミニウム(Al)量(mol)の比率」は、1.0ないし5.0の範囲、さらには1.3ないし4.5の範囲であることが好ましい。
【0027】
塩基性溶液に溶解して調製される原料溶液の溶解成分は、固形化して固形化物に調製される(「固形化工程」)。ここで、固形化物への調製の方法は次の2種類に大別される。
【0028】
1つ目として、固形化工程において、酸性溶液が添加されて固形化物が調製される。原料溶液は塩基性を呈し、ここに酸性溶液を添加することにより酸と塩基の中和が促進し析出物が生じる。この析出物が目的の固形化物となる。生じた固形化物は水洗、乾燥される。酸性溶液には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、その他、クエン酸等の有機酸が用いられる。これらの中で、後の工程において揮発、分解されやすい性質から酸性溶液として酢酸が好ましい。
【0029】
乾燥の後、固形化物は焼成されて焼成物の形態となり、結合水等の余分な水分は除去される(「焼成工程」)。焼成時の温度は300ないし1200℃であり、焼成時間は1ないし3時間である。具体的には、析出により生じたケイ素の水酸化物は焼成を経てケイ素の酸化物(シリカ)に酸化される。
【0030】
2つ目として、固形化工程において、原料溶液が加熱されて固形化物が調製される。当該調製では、原料溶液の加熱により溶液中に析出、沈殿が生じる。加熱はおおむね40ないし60℃の液温の条件下で行われる。この析出による沈殿物が目的の固形化物となる。40℃未満の場合、析出までの時間が長くなる。また60℃を超過する場合、液温の影響から析出が生じにくくなる。ここで、原料溶液を加熱する調製方法は、主に両性元素の金属原料がアルミニウムである場合に採用される。
【0031】
生じた固形化物は水洗、乾燥される。乾燥の後、固形化物は焼成されて焼成物の形態となり、結合水等の余分な水分は除去される(「焼成工程」)。焼成時の温度は300ないし1200℃であり、焼成時間は1ないし3時間である。原料溶液の加熱温度の範囲は、途中で生じる水酸化アルミニウムの結晶粒を相対的に細かくするためである。固形化工程では具体的には、析出により生じたアルミニウムの水酸化物は焼成を経てアルミニウムの酸化物(アルミナ)に酸化される。
【0032】
焼成工程により生じた焼成物は粉砕されて粉砕物として調製される(「粉砕工程」)。粉砕に際しては、湿式粉砕、乾式粉砕といずれとしてもよい。また、粉砕装置としては、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、アトマイザ等の公知の固形物の粉砕用の器機が用いられる。実施形態では、粉砕用のポッドに固形化物とアルミナ球を入れてポッドを回転させて湿式により粉砕した。なお、ポッドの回転時間(粉砕時間)は目標とする粒子径に応じて加減される。湿式粉砕の後、ポッドから回収された粉砕物はスプレードライ等により乾燥される。
【0033】
粉砕工程の目的は、次出の溶融球状化工程に供する前段階として粒子径を制御するためである。焼成工程まで経た段階では、焼成物は不定形であり、粒子同士の融着により大きさは揃っていない。そのまま、溶融球状化工程に進めると、粒子径範囲にばらつきのある粒子が生じる。また、形状の不均一さから球形状を得ることが難しくなる。そのため、工程途中の歩留まりが高くなる(収率の低下)。
【0034】
ここで、粉砕物の平均粒子径はレーザ回折散乱法、動的散乱法等の公知の粒子径測定の方法により測定されるメディアン径(D50)を意味する。そこで、粉砕物の平均粒子径(D50)は30μm以下、さらには20μm以下とすることが好ましい。粒子径を細かくすることにより、溶融球状化工程の溶融が容易となる。
【0035】
粉砕工程により調製された粉砕物は火炎中に投入され、粉砕物は火炎中を飛翔して通過する。粉砕物は火炎の曝露により溶融するとともに、溶融時の表面張力により球状化が促進して球状粒子が得られる(「溶融球状化工程」)。こうして出来上がる球状粒子が目的の酸化物粒子である。球状粒子も好適な粒子径が規定される。具体的には、球状粒子の平均粒子径(D50)は30μm以下、より好ましくは、20μm以下である。球状粒子の平均粒子径(D50)もレーザ回折散乱法、動的散乱法等の公知の粒子径測定の方法により測定されるメディアン径(D50)を意味する。
【0036】
溶融球状化工程の火炎は、可燃性ガスに対して酸素を含む助燃ガスを混合して燃焼させて形成される。炉内温度の指標として炉の耐火構造体の温度は最も高くなる位置(炉体温度)で、900℃ないし1500℃の範囲である。炉体温度は、下限値として900℃ないし1100℃が好ましく、上限値として1300℃ないし1500℃が好ましい。助燃ガスには、空気、酸素が用いられる。可燃性ガスと助燃ガスは、炉内に供給するときに、別々の供給としても、予め混合した状態での供給としても良い。
【0037】
可燃性ガスの流速は、10m/s以上であることが好ましく、15m/s以上であることがより好ましく、20m/s以上であることがさらに好ましい。助燃ガスの流速は、10m/s以上であることが好ましく、15m/s以上であることがより好ましく、20m/s以上であることがさらに好ましい。流速比で可燃性ガス/助燃ガスは、2.0以下になることが好ましく、1.5以下になることがより好ましく、1.0以下になることがさらに好ましい。可燃性ガスと助燃ガスとの供給量は、供給する原料粒子材料を十分に加熱できる大きさの火炎が形成できるような可燃性ガスの量と、その可燃性ガスを十分に燃焼可能な助燃ガスの量により規定される。例えば、処理する粉砕物の単位重量に対し可燃性ガスは0.5Nm/kgないし5Nm/kg、助燃ガスとしての酸素は1Nm/kg~5Nm/kg程度とされる。
【0038】
原料粒子材料を火炎中に供給する方法は特に限定しないが、キャリアガス中に分散させた状態で火炎中に供給することができる。キャリアガスとしては空気、酸素、窒素などが挙げられる。
【0039】
粉砕工程後及び溶融球状化工程後、所望の粒子径を選別するため、適宜の篩別が加えられる。篩別には篩の他に、サイクロン等による遠心分離の手法が採用される。
【0040】
一連の説明のとおり、両性元素の金属原料から、溶解工程、固形化工程、焼成工程、粉砕工程、溶融球状化工程を経て製造される球状粒子は、両性元素の金属原料の段階と比較してウラン元素及びトリウム元素の総量が大きく減少している。後述の実施例から明らかであるように、球状粒子に含有されるウラン元素及びトリウム元素の総量は、両性元素の金属原料に含有されるウラン元素及びトリウム元素の総量の1/10以下、さらには、6/100以下に減少している。このため、球状粒子から放射されるアルファ線、ベータ線等の粒子線、ガンマ線等の電磁波の線量をより低減可能となり、電子部品等への影響を軽減することができる。
【0041】
両性元素の金属原料が塩基性溶液に溶解されることにより、もとの両性元素の金属原料は金属状態から水酸化物に変化する。この時点で、両性元素の金属原料に含有される不純物成分は、金属状態の両性元素の塩基性溶液への溶解量よりも少ないと考えられる。U(ウラン)、Th(トリウム)等の重元素は両性元素ではないため、塩基性溶液には溶解しにくく、不溶成分として残留する。このような塩基性溶液への溶解のしやすさによりウラン元素及びトリウム元素等の不純物成分の分離が可能となる。従って、従前のフィラー用の酸化物の調製よりも、一層の不純物成分の減少が可能となる。
【0042】
これまで説明してきた実施形態の酸化物粒子の製造方法により調製される酸化物粒子は、主に、電子材料用フィラーとして使用される。酸化物粒子は、樹脂に添加されることによって電子機器用樹脂組成物(電子材料用フィラー含有樹脂組成物)に調製される(電子機器用樹脂組成物の製造方法)。添加対象の樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、その他のオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂等、ポリフェニレンエーテル、ビスマレイミド等の熱硬化性樹脂が挙げられる。さらには、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム等の弾性樹脂、シリコーン樹脂等への添加も可能である。例えば、電子部品のパッケージ用基板、層間絶縁フィルム等の樹脂基板を製造する場合には、樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる。
【0043】
樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。樹脂組成物に配合される酸化物粒子の重量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましい。樹脂組成物の全体質量に対して、酸化物粒子(電子材料用フィラー)は80質量%以上添加されることが望ましい。
【0044】
さらに、実施形態の酸化物粒子(電子材料用フィラー)については、当該電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒を有する電子材料用スラリーとして調製することができる。この分散媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、トルエン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の溶媒が用いられる。分散媒についても、単体もしくは複数混合して使用することができる。また、適宜の分散剤を使用することも可能である。
【0045】
電子機器用樹脂組成物(電子材料用フィラー含有樹脂組成物)の特徴となる性質は、酸化物粒子の説明のとおり、樹脂組成物に含有される球状粒子から放射される粒子線、電磁波の線量の低減が可能となる。そのため、樹脂組成物の加工部位から電子部品等へ与える粒子線、電磁波の影響を軽減することができる。結果、ノイズ等の外乱要因を抑制して機器の誤作動等の不具合の軽減が見込まれる。
【実施例0046】
酸化物粒子の製造方法の実証のため、試験例1ないし31を用意し、各試験例の物性を評価した。以降、使用原料、作製方法、測定及び評価方法の順に説明する。各試作例の詳細は後出の表1ないし表6が参照される。
【0047】
[使用原材料]
試験例1ないし10、30ないし33の金属ケイ素粉末は、平均粒子径:20μmを使用した。
試験例11ないし15の結晶性シリカは、平均粒子径:30μmを使用した。
試験例16ないし27のアルミナ粉末は、平均粒子径:20μmを使用した。
【0048】
塩基性溶液の調製に際し、以下のアミン系化合物を使用した。
ジメチルアミン:富士フイルム和光純薬株式会社製
水酸化テトラメチルアンモニウム(以降、TMAHと称する。):富士フイルム和光純薬株式会社製
ジアザビシクロウンデセン(以降、DBUと称する。):富士フイルム和光純薬株式会社製
ジアザビシクロノネン(以降、DBNと称する。):富士フイルム和光純薬株式会社製
アンモニア:富士フイルム和光純薬株式会社製
ブチルアミン:富士フイルム和光純薬株式会社製
ジエチルアミン:富士フイルム和光純薬株式会社製
トリエチルアミン:富士フイルム和光純薬株式会社製
エチレンジアミン:富士フイルム和光純薬株式会社製
【0049】
[酸化物粒子の作製]
・試験例1ないし8
金属ケイ素の粉末(後出の表におけるSi粉末)9.0g、イオン交換水315g、50重量%のジメチルアミン水溶液32gを混合し、40℃に加熱しながら48時間撹拌し続けた。結果、酸化物換算として6.0重量%の塩基性ケイ酸水溶液を得た。
【0050】
塩基性ケイ酸水溶液に90%の酢酸水溶液を撹拌しながら滴下してpHを調整し、さらに撹拌を続けた。析出物を回収後に120℃で乾燥し、2時間、800℃で焼成した。なお、試験例3については焼成を省略した。生じた焼成物、適量のシリカ粉末と水、及び粒子径5mmの高純度アルミナボールを、高純度アルミナ製の粉砕ポッドに投入して目標の粒子径に到達するまで粉砕を続けた。その後、4mmの篩により粉砕物を回収し、適度に乾燥した。各試験例の相違は粉砕時の粒子径の相違であり、粉砕時間を加減して作り分けた。
【0051】
耐火材張りした炉内(高さ5m×内径0.5mの円筒型)で5Nm/時間で供給するLPGガスと、25Nm/時間で供給する酸素ガスとの燃焼により生成した火炎中に各試験例の粉砕物のそれぞれを10kg/時間の速度で気流分散投入し、加熱溶融させた後に回収した。こうして、各試験例の酸化物粉末(シリカ粉末)を調製した。
【0052】
・試験例9、10、30ないし33
試験例9はジメチルアミンをTMAHに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
試験例10はジメチルアミンをDBUに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
試験例30はジメチルアミンをブチルアミンに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
試験例31はジメチルアミンをジエチルアミンに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
試験例32はジメチルアミンをトリエチルアミンに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
試験例33はジメチルアミンをエチレンジアミンに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
【0053】
・試験例11ないし15
試験例11ないし15は、前出の試験例1ないし10と異なり、原料として結晶シリカを粉砕して火炎に曝露した対照群である。粉砕の仕方は前述の高純度アルミナ製ポットを用いた際と同様とし、粉砕時間を加減して作り分けた。また、火炎への曝露も同様とした。
【0054】
・試験例16ないし22、27
金属アルミニウムの粉末(後出の表におけるAl粉末)20.0g、イオン交換水3366g、50重量%のジメチルアミン水溶液300gを混合し、液温20℃を維持しながら0.5ないし2時間撹拌し、5μmのメッシュにより濾した。結果、アルミナ酸化物換算として1.0重量%の塩基性アルミニウム水溶液を得た。
【0055】
塩基性アルミニウム水溶液を50℃に加熱(加温)して約8時間撹拌して析出物を得た。析出物を濾過してイオン交換水により洗浄した。析出物を回収後に120℃で乾燥し、2時間、1100℃(試験例16,17,18)、800℃(試験例19,20,21,22)、300℃(試験例27)で焼成した。
【0056】
粉砕の仕方は前述の高純度アルミナ製ポットを用いた際と同様とし、粉砕時間を加減して作り分けた。また、火炎への曝露も同様とした。こうして、各試験例の酸化物粉末(アルミナ粉末)を調製した。
【0057】
・試験例23ないし26
試験例23はジメチルアミンをDBUに置き換え、試薬の量及び処理は試験例19と同様とした。
試験例24はジメチルアミンをTMAHに置き換え、試薬の量及び処理は試験例19と同様とした。
試験例25はジメチルアミンをDBNに置き換え、試薬の量及び処理は試験例19と同様とした。
試験例26はジメチルアミンをアンモニアに置き換え、試薬の量及び処理は試験例19と同様とした。
【0058】
[測定及び評価方法]
・粒度分布
各試験例について、粉砕後及び溶融後の粒子径を株式会社島津製作所製,レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-7500nanoを使用し、水溶媒中において測定した。併せて、D10、D50(メディアン径)、D90の粒度分布を算出した。
【0059】
・BET比表面積測定
各試験例を1.0g秤量し、測定用のセルに投入、前処理後、窒素吸着法によるBET比表面積値を測定した。測定には、株式会社島津製作所製,自動比表面積・細孔分布測定装置TriStar(登録商標)-II3020を使用した。前処理は次の条件とした。
脱気温度 :200℃
脱気時間 :30分
冷却時間 :4分
【0060】
・成分分析
酸化物粉末に含有される原子組成の分析に際し、株式会社島津製作所製,ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)装置ICP-MS(U、Thの測定)、ICP-OES(シリカ、その他の不純物の測定)、ICP-AES(アルミナ、その他の不純物の測定)を使用した。
測定に際し、各試験例のシリカ粉末の酸化物粉末については硝酸とフッ酸の混合液により完全溶解して溶液化し、各試験例のアルミナ粉末の酸化物粉末については硫酸により完全溶解して溶液化し、装置に供した。
【0061】
[結果]
試験例1ないし31は表1ないし6の結果であった。各表中、上段から原料種類、原料のウラン・トリウムの量(ppb)、塩基の種類、塩基・元素の比率(mol)、収率(%)、焼成温度(℃)、粉砕後及び溶融後の粒子径(D10、D50、D90のμm)、比表面積(m/g)、溶融後のウラン・トリウムの量(ppb)が示される。また、表7及び表8は含有元素の組成分析である。試験例1、11、16は実施形態の製造方法に準拠した例であり、試験例28、29は対称例として実施した金属粉末をVMC法(Vaporized Metal Combustion Method)により作製した酸化物粒子の結果である。VMC法とは、金属粉末の爆燃現象を利用して真球状酸化物微粒子を製造する方法である。
【0062】
併せて、電子顕微鏡(SEM)による観察写真を提示する。図1は試験例4の粉砕後(5000倍)と溶融後(10000倍)、図2は試験例16の粉砕後(5000倍)と溶融後(2500倍)、図3は試験例17の粉砕後(5000倍)と溶融後(1000倍)、図4は試験例18の粉砕後(5000倍)と溶融後(2500倍)の拡大写真である。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
[考察]
図1ないし図4の写真から理解されるように、粉砕後には不定形の粉砕物であっても、火炎の曝露により球状に粒子化することが確認できた。試験例1はシリカであり、試験例16ないし18はアルミナであり、いずれにおいても塩基性溶液への溶解を経て酸化物の球状粒子に再構成されている。
【0072】
試験例1ないし10、16ないし27のウラン元素とトリウム元素の量(ppb)に着目し、原料段階と溶融後を比較すると、いずれも1/10以下、6/100以下と大きく減少した。これと併せて、表7及び表8の全成分の比較から、ウラン元素とトリウム元素に限らずその他の不純物成分の減少を確認した。このことから、塩基性溶液への溶解と火炎への曝露を組み合わせる方法は、不純物成分の減少に有効である。
【0073】
試験例1ないし10、23ないし27、30ないし33より、塩基性溶液の調製時に用いるアミン系化合物の種類は拡張可能である。溶解対象の両性元素の金属原料の種類、溶解しやすさ(反応性)等を考慮して選択が可能である。
【0074】
試験例1ないし8、16ないし20は粉砕時の粒子径を増減させた例である。粒子径の大小にかかわらず、ウラン元素とトリウム元素をはじめとする不純物成分の減少が可能であることから、用途、目的に応じた粒径のフィラーの調製に対応可能である。加えて、金属原料の状態から不純物成分を減少させて酸化物粒子に調製できるため、金属原料として、高純度の天然物を利用することに加え、市販の低品位の金属原料も原材料とすることができ、酸化物粒子の製造時の原料選択の幅が広がる。
図1
図2
図3
図4