(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179264
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】高純度溶融球状シリカ、及びこれを含む電子機器用樹脂組成物、並びにこれを含む化粧品
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20241219BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241219BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241219BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C01B33/18 E
C08L101/00
C08K3/36
A61K8/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097977
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友祐
【テーマコード(参考)】
4C083
4G072
4J002
【Fターム(参考)】
4C083AB171
4C083AB172
4C083BB23
4C083BB26
4C083CC01
4C083DD17
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD31
4C083FF01
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB07
4G072CC13
4G072DD06
4G072DD07
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH01
4G072HH15
4G072JJ42
4G072LL06
4G072MM01
4G072MM38
4G072RR03
4G072RR12
4G072TT20
4G072TT21
4G072TT30
4G072UU09
4G072UU30
4J002AC021
4J002AC061
4J002AC081
4J002BB021
4J002BB111
4J002BC021
4J002BD031
4J002BD121
4J002BP011
4J002CC031
4J002CD031
4J002CD041
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002CF001
4J002CF061
4J002CH071
4J002CK011
4J002CM001
4J002CM041
4J002CP031
4J002DJ016
4J002FA086
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】封止材に添加するフィラーとなるシリカ粒子に含有される不純物量を低減するとともに、封止材となる樹脂への混錬性を高め、さらに、シリカ粒子自体の導電性の制御の点から粒子内の中空部を抑制した高純度溶融球状シリカ、及びこれを含む電子機器用樹脂組成物と化粧品を提供する。
【解決手段】球状シリカ粒子中のウラン元素の含有量が5ppb以下であり、かつ、球状シリカ粒子中のトリウム元素の含有量が5ppb以下であり、球状シリカ粒子の円形度は0.98以上であり、球状シリカ粒子中の酸化ケイ素の結晶残留率が0.01%以下であり、球状シリカ粒子の個々の粒子中に存在する直径5μm以上の中空部の個数は電子顕微鏡による9mm
2の観察範囲中に2個以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状シリカ粒子中のウラン元素の含有量が5ppb以下であり、かつ、前記球状シリカ粒子中のトリウム元素の含有量が5ppb以下であり、
前記球状シリカ粒子の円形度は0.98以上であり、
前記球状シリカ粒子中の酸化ケイ素の結晶残留率が0.01%以下であり、
前記球状シリカ粒子の個々の粒子中に存在する直径5μm以上の中空部の個数は、電子顕微鏡による9mm2の観察範囲中に2個以下である
ことを特徴とする高純度溶融球状シリカ。
【請求項2】
前記球状シリカ粒子におけるナトリウム元素の含有量が10ppm以下である請求項1に記載の高純度溶融球状シリカ。
【請求項3】
前記球状シリカ粒子は、金属ケイ素を原料とする請求項1に記載の高純度溶融球状シリカ。
【請求項4】
前記球状シリカ粒子は、金属ケイ素の塩基性溶液への溶解を経ている請求項3に記載の高純度溶融球状シリカ。
【請求項5】
前記球状シリカ粒子は火炎に曝露されている請求項1に記載の高純度溶融球状シリカ。
【請求項6】
請求項1に記載の高純度溶融球状シリカと、樹脂組成物とを有する
ことを特徴とする電子機器用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の高純度溶融球状シリカを含有する化粧品である、ことを特徴とする化粧品。
【請求項8】
前記化粧品は、パウダー、軟膏、または乳液である請求項7に記載の化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高純度溶融球状シリカ、及びこれを含む電子機器用樹脂組成物、並びにこれを含む化粧品に関し、特に不純物の含有量を低減し、樹脂材料との混錬性を高めた高純度溶融球状シリカと、その樹脂組成物、化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の精密電子部品を封止する封止材等には、樹脂組成物に無機性材料のフィラーが添加される。フィラーには絶縁性、熱膨張係数の低さの性質が求められる。一般に、シリカ(酸化ケイ素)等が多用されている。
【0003】
シリカは天然の高純度の鉱石を所定の粒子径に粉砕してフィラーに加工される。つまり、たとえ高純度であるとしても、天然の鉱石に由来するため、酸化ケイ素以外の不純物の存在が不可避である。特に、天然物由来のシリカの場合、ウラン元素、トリウム元素が存在する。このような不純物の低減目的から、粉砕と火炎への曝露を組み合わせた球状シリカ粉体の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の製造方法によると、粉砕と火炎への曝露を通じてウラン元素の低減に寄与している。ここで、半導体の処理速度の向上を目指して、加工精度、集積化がさらに促進している。そのため、半導体が外部から受ける電磁気的なノイズの影響が今まで以上に問題視されている。天然物由来のシリカの場合、ウラン元素及びトリウム元素の放射性壊変によりアルファ線等が生じることが知られており、誤作動を引き起こす原因と考えられている。加えて、自然放射線の低減も可能であることから、人体に対する被曝の影響も少ないといえる。
【0005】
また、フィラーとして使用されるシリカ粒子には樹脂への良好な混錬性が求められる。さらに、シリカ粒子自体の導電性を下げるため空隙(粒子内の中空部)の抑制も要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その後、発明者は鋭意検討を重ねた結果、原料に由来して発生するアルファ線等を低減するため、より効果的に天然の高純度の鉱石からのウラン元素及びトリウム元素の除去を可能にするに至った。
【0008】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、封止材に添加するフィラーとなるシリカ粒子に含有される不純物量を低減するとともに、封止材となる樹脂への混錬性を高め、さらに、シリカ粒子自体の導電性の制御の点から粒子内の中空部を抑制した高純度溶融球状シリカ及び電子機器用樹脂組成物を提供する。併せて、自然放射線の低減から被曝線量をより少なくする化粧品用途の材料も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、実施形態の高純度溶融球状シリカは、球状シリカ粒子中のウラン元素の含有量が5ppb以下であり、かつ、前記球状シリカ粒子中のトリウム元素の含有量が5ppb以下であり、球状シリカ粒子の円形度は0.98以上であり、球状シリカ粒子中の酸化ケイ素の結晶残留率が0.01%以下であり、球状シリカ粒子の個々の粒子中に存在する直径5μm以上の中空部の個数は、電子顕微鏡による9mm2の観察範囲中に2個以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに、高純度溶融球状シリカにおいて、球状シリカ粒子におけるナトリウム元素の含有量が10ppm以下であることとしてもよい。
【0011】
さらに、高純度溶融球状シリカにおいて、球状シリカ粒子は金属ケイ素を原料とすることとしてもよい。
【0012】
さらに、高純度溶融球状シリカにおいて、球状シリカ粒子は金属ケイ素の塩基性溶液への溶解を経ていることとしてもよい。
【0013】
さらに、高純度溶融球状シリカにおいて、球状シリカ粒子は火炎に曝露されていることとしてもよい。
【0014】
また、実施形態の電子機器用樹脂組成物は、高純度溶融球状シリカと、樹脂組成物とを有することを特徴とする。
【0015】
加えて、実施形態の化粧品は、高純度溶融球状シリカを含有する化粧品であることを特徴とする。
【0016】
さらに、化粧品はパウダー、軟膏、または乳液であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高純度溶融球状シリカによると、球状シリカ粒子中のウラン元素の含有量が5ppb以下であり、かつ、前記球状シリカ粒子中のトリウム元素の含有量が5ppb以下であり、球状シリカ粒子の円形度は0.98以上であり、球状シリカ粒子中の酸化ケイ素の結晶残留率が0.01%以下であり、球状シリカ粒子の個々の粒子中に存在する直径5μm以上の中空部の個数は、電子顕微鏡による9mm2の観察範囲中に2個以下であるため、封止材に添加するフィラーとなるシリカ粒子に含有される不純物量を低減するとともに、封止材となる樹脂への混錬性を高め、さらに、シリカ粒子自体の導電性の制御の点から粒子内の中空部を抑制することができる。
【0018】
また、電子機器用樹脂組成物によると、樹脂組成物に含有される球状粒子から放射される粒子線、電磁波の線量の低減が可能となり、ノイズ等の外乱要因を抑制して機器の誤作動等の不具合の軽減が見込まれる。加えて、本発明の高純度溶融球状シリカを化粧品用の添加材としても、自然放射線の低減も可能であるため人体に対する被曝の影響、さらには結晶質シリカの影響をより少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】試験例4の(A)粉砕工程を経た粉砕物の電子顕微鏡写真、(B)溶融球状化工程を経た球状粒子の電子顕微鏡写真である。
【
図2】試験例6の高純度溶融球状シリカの電子顕微鏡写真である。
【
図3】試験例13のシリカ粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態の高純度溶融球状シリカを得るに際し、次の処理方法が採用される。そこで、高純度溶融球状シリカは製造方法から説明される。
【0021】
始めに、原料となる金属ケイ素の原料が用意され、原料は塩基性溶液に溶解される。後出の実施例においては、金属ケイ素が塩基性溶液に溶解され、金属ケイ素の原料が溶解した原料溶液が調製される(「溶解工程」)。
【0022】
金属ケイ素の原料を塩基性溶液に溶解するに際し、塩基性溶液はアルカリ金属、アルカリ土類金属を含有しない溶液である。一般に、アルカリ金属の水酸化物である水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液は強塩基性となる。しかしながら、塩基性溶液のアルカリ金属が残留すると最終的に出来上がるシリカ粒子の純度を押し下げることとなり好ましくない。
【0023】
そこで、アルカリ金属、アルカリ土類金属を含有しない溶液としてアミン系化合物の水溶液が使用される。アミン系化合物としては、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、水酸化第四級アンモニウム(アンモニウム塩)、アリールアミン、シラザン、ヒドラジン等が該当する。
【0024】
さらに具体的に、アミン系化合物は、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピロリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化メチルトリアミルアンモニウム、水酸化メチルトリアミルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、ピロリジン、ピペリジン、ピリジン、キノリン、イミダゾール、インドール、ピリミジン、ヘキサメチルジシラザン、ヒドラジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等の中から選択される1以上の化合物である。水溶液の調製に際し、アミン系化合物は単独種類としても、2種類以上の混合としてもよい。
【0025】
有機化合物であるアミン系化合物を用いる場合、以降の工程の処理に伴い、化合物分子が揮発、分解する。このため、アミン系化合物は最終的に出来上がるシリカ粒子へほとんど残留せず望ましい。むろん、水溶液におけるアミン系化合物の濃度は、原料の種類により、最適な濃度、pHが設定され、溶液は撹拌される。さらに、溶解時の液温の調整も行われる。また、溶解時の溶け残りが生じるため、必要に応じて濾過も付加される。
【0026】
塩基性溶液に溶解して調製される原料溶液の溶解成分は、固形化して固形化物に調製される(「固形化工程」)。固形化工程において、酸性溶液が添加されて固形化物が調製される。原料溶液は塩基性を呈し、ここに酸性溶液を添加することにより酸と塩基の中和が促進し析出物が生じる。この析出物が目的の固形化物となる。生じた固形化物は水洗、乾燥される。酸性溶液には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、その他、クエン酸等の有機酸が用いられる。これらの中で、後の工程において揮発、分解されやすい性質から酸性溶液として酢酸が好ましい。
【0027】
乾燥の後、固形化物は焼成されて焼成物の形態となり、結合水等の余分な水分は除去される(「焼成工程」)。焼成時の温度は300ないし1200℃であり、焼成時間は1ないし3時間である。具体的には、析出により生じたケイ素の水酸化物は焼成を経てケイ素の酸化物(シリカ)に酸化される。
【0028】
焼成工程により生じた焼成物は粉砕されて粉砕物として調製される(「粉砕工程」)。粉砕に際しては、湿式粉砕、乾式粉砕といずれとしてもよい。また、粉砕装置としては、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、アトマイザ等の公知の固形物の粉砕用の器機が用いられる。実施形態では、粉砕用のポッドに固形化物とアルミナ球を入れてポッドを回転させて湿式により粉砕した。なお、ポッドの回転時間(粉砕時間)は目標とする粒子径に応じて加減される。湿式粉砕の後、ポッドから回収された粉砕物はスプレードライ等により乾燥される。
【0029】
粉砕工程の目的は、次出の溶融球状化工程に供する前段階として粒子径を制御するためである。焼成工程まで経た段階では、焼成物は不定形であり、粒子同士の融着により大きさは揃っていない。そのまま、溶融球状化工程に進めると、粒子径範囲にばらつきのある粒子が生じる。また、形状の不均一さから球形状を得ることが難しくなる。そのため、工程途中の歩留まりが高くなる(収率の低下)。
【0030】
ここで、粉砕物の平均粒子径はレーザ回折散乱法、動的散乱法等の公知の粒子径測定の方法により測定されるメディアン径(D50)を意味する。そこで、粉砕物の平均粒子径(D50)は30μm以下、さらには20μm以下とすることが好ましい。粒子径を細かくすることにより、溶融球状化工程の溶融が容易となる。
【0031】
粉砕工程により調製された粉砕物は火炎中に投入され、粉砕物は火炎中を飛翔して通過する。粉砕物、すなわち球状シリカ粒子は火炎の曝露により溶融するとともに、溶融時の表面張力により球状化が促進して球状粒子が得られる(「溶融球状化工程」)。こうして出来上がる球状粒子が目的に酸化物粒子である。球状粒子も好適な粒子径が規定される。具体的には、球状粒子の平均粒子径(D50)は30μm以下、より好ましくは、20μm以下である。球状粒子の平均粒子径(D50)もレーザ回折散乱法、動的散乱法等の公知の粒子径測定の方法により測定されるメディアン径(D50)を意味する。
【0032】
溶融球状化工程の火炎は、可燃性ガスに対して酸素を含む助燃ガスを混合して燃焼させて形成される。炉内温度の指標として炉の耐火構造体の温度は最も高くなる位置(炉体温度)で、900℃ないし1500℃の範囲である。炉体温度は、下限値として900℃ないし1100℃が好ましく、上限値として1300℃ないし1500℃が好ましい。助燃ガスには、空気、酸素が用いられる。可燃性ガスと助燃ガスは、炉内に供給するときに、別々の供給としても、予め混合した状態での供給としても良い。
【0033】
可燃性ガスの流速は、10m/s以上であることが好ましく、15m/s以上であることがより好ましく、20m/s以上であることがさらに好ましい。助燃ガスの流速は、10m/s以上であることが好ましく、15m/s以上であることがより好ましく、20m/s以上であることがさらに好ましい。流速比で可燃性ガス/助燃ガスは、2.0以下になることが好ましく、1.5以下になることがより好ましく、1.0以下になることがさらに好ましい。可燃性ガスと助燃ガスとの供給量は、供給する原料粒子材料を十分に加熱できる大きさの火炎が形成できるような可燃性ガスの量と、その可燃性ガスを十分に燃焼可能な助燃ガスの量により規定される。例えば、処理する粉砕物の単位重量に対し可燃性ガスは0.5Nm3/kgないし5Nm3/kg、助燃ガスとしての酸素は1Nm3/kg~5Nm3/kg程度とされる。
【0034】
原料粒子材料を火炎中に供給する方法は特に限定されず、キャリアガス中に分散させた状態で火炎中に供給される。キャリアガスとしては空気、酸素、窒素などが挙げられる。
【0035】
粉砕工程後及び溶融球状化工程後、所望の粒子径を選別するため、適宜の篩別が加えられる。篩別には篩の他に、サイクロン等による遠心分離の手法が採用される。
【0036】
一連の説明のとおり、金属ケイ素の原料から、溶解工程、固形化工程、焼成工程、粉砕工程、溶融球状化工程を経て製造される球状シリカ粒子は、原料の段階と比較してウラン元素及びトリウム元素の総量が大きく減少している。
【0037】
実施形態の高純度溶融球状シリカの実体である球状シリカ粒子について、当該球状シリカ粒子中のウラン元素(U)の含有量は5ppb以下であり、かつ当該球状シリカ粒子中のトリウム元素(Th)の含有量は5ppb以下である。この含有量は、原料に含有されるウラン元素及びトリウム元素の総量の1/10以下、さらには、5/100以下に減少している。このため、球状シリカ粒子中の核種から放射されるアルファ線、ベータ線等の粒子線、ガンマ線等の電磁波の線量をより低減可能となり、電子部品等への影響を軽減することができる。
【0038】
金属ケイ素の原料が塩基性溶液に溶解されることにより、もとの原料は金属から水酸化物に変化する。この時点で、原料に含有される不純物成分は、金属ケイ素の塩基性溶液への溶解量よりも少ないと考えられる。U(ウラン)、Th(トリウム)等の重元素は両性元素ではないため、塩基性溶液には溶解しにくく、不溶成分として残留する。このような塩基性溶液への溶解のしやすさによりウラン元素及びトリウム元素等の不純物成分の分離が可能となる。従って、従前のフィラー用の酸化物の調製よりも、一層の不純物成分の減少が可能となる。
【0039】
加えて、球状シリカ粒子中のナトリウム元素(Na)の含有量は10ppm以下である。ナトリウム元素の含有量を取り上げた理由は不純物成分の代表としての意味合いであり、ナトリウム元素の含有量が少なければ、他の不純物成分の量も少ないと判断することが可能である。金属ケイ素の原料の塩基性溶液による溶解に際し、アミン系化合物が用いられることから、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の残留はほぼ生じない。また、金属ケイ素の原料は塩基性溶液による溶解を経ていることから、前述のとおり、不純物成分の溶解が抑制されて純度が高められる。
【0040】
さらに、球状シリカ粒子について、個々の粒子の円形度は0.98以上であり、極めて球に近似した形状である。なお、完全な球(真球)の円形度は1.0である。円形度の評価に際しては、短軸と長軸との長さの比率(アスペクト比)、円相当径と最大径との比率等により算出される。後述の実施形態においては、フロー式粒子像分析装置を使用して計測した。球状シリカ粒子の円形度が真球に近づくほど、樹脂に混錬して封止材等に調製した後、回路基板等への塗剤の充填が容易となる。
【0041】
また、球状シリカ粒子中の酸化ケイ素(二酸化ケイ素:SiO2)の結晶残留率は0.01%以下、好ましくは検出限界以下である。球状シリカ粒子は主に非結晶質の酸化ケイ素により形成される。その中に、微量ながら結晶質の酸化ケイ素が存在することがある。つまり、結晶残留率とは、球状シリカ粒子の全体重量に占める結晶質の酸化ケイ素の重量割合を指し示す。結晶質の酸化ケイ素が存在すると、フィラーとしての導電性に影響を与える。また、近年、結晶質の酸化ケイ素(シリカ)による発がん性を示唆する知見も報告されていることから、影響軽減を鑑みて極力結晶質の酸化ケイ素の抑制が望まれている。
【0042】
結晶質の酸化ケイ素(結晶性シリカ)の存在は、X線結晶構造解析(XRD)の2θ=26.6°のピークの強度により確認した。当該ピークの強度値を石英(二酸化ケイ素の結晶)の強度値により除して商を求めた。この商の数値が結晶残留率である。
【0043】
加えて、球状シリカ粒子の個々の粒子中に存在する直径5μm以上の中空部の個数は、電子顕微鏡による9mm2の観察範囲中に2個以下、好ましくは1個以下、さらに好ましくは0個である。球状シリカ粒子中に極端に大きな中空部(空隙、気泡)が存在すると、中空部付近の球状シリカ粒子の導電性等が変化する。つまり、中空部により絶縁性が低下して封止材に用いるフィラーとしての性能が低下するおそれがある。そのため、球状シリカ粒子中の中空部を極力減らして粒子自体を緻密化することが望ましい。
【0044】
球状シリカ粒子内の中空部に個数、大きさ(直径)は電子顕微鏡により拡大して観察した。なお、直径5μm以上の中空部の個数の観察では、電子顕微鏡の拡大倍率は2000倍としている。
【0045】
これまで説明してきた実施形態の高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)は、主に、電子材料用フィラーとして使用される。高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)は、樹脂に添加されることによって電子機器用樹脂組成物(電子材料用フィラー含有樹脂組成物)に調製される。添加対象の樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、その他のオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂等、ポリフェニレンエーテル、ビスマレイミド等の熱硬化性樹脂が挙げられる。さらには、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム等の弾性樹脂、シリコーン樹脂等への添加も可能である。例えば、電子部品のパッケージ用基板、層間絶縁フィルム等の樹脂基板を製造する場合には、樹脂としてエポキシ樹脂が用いられる。
【0046】
樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。樹脂組成物に配合される高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)の重量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましい。樹脂組成物の全体質量に対して、高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)は80質量%以上添加されることが望ましい。
【0047】
さらに、実施形態の高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)、つまり電子材料用フィラーについては、当該電子材料用フィラーを分散し、水分を実質的に含有しない液体状の分散媒を有する電子材料用スラリーとして調製することができる。この分散媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、トルエン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の溶媒が用いられる。分散媒についても、単体もしくは複数混合して使用することができる。また、適宜の分散剤を使用することも可能である。
【0048】
電子機器用樹脂組成物(電子材料用フィラー含有樹脂組成物)の特徴となる性質は、高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)の説明のとおり、樹脂組成物に含有されるシリカ粒子から放射される粒子線、電磁波の線量の低減が可能となる。そのため、樹脂組成物の加工部位から電子部品等へ与える粒子線、電磁波の影響を軽減することができる。結果、ノイズ等の外乱要因を抑制して機器の誤作動等の不具合の軽減が見込まれる。また、高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)自体の性状により、樹脂との混錬性、さらに、導電性の抑制の効果も充足可能となっている。
【0049】
加えて、実施形態の高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)は化粧品へ添加する添加剤の用途としても好適である。前述の説明のとおり、U(ウラン)、Th(トリウム)等の重元素の含有が極めて少ないことから高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)に起因する自然放射線の線量は抑制され、人体への被曝の影響は抑制される。特に化粧品のように皮膚に直接塗布されるため、影響軽減の効果は大きい。また、近年、結晶質の酸化ケイ素(シリカ)の性質が問題視され始めているため、実施形態の高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)は結晶質の低減からも影響軽減の効果は高く、マイクロプラスチック等の既存の化粧品添加物の代替材料として有望である。
【0050】
実施形態の高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)を化粧品に添加、配合するに際し、化粧品は、パウダー、軟膏、乳液、クリーム等の皮膚への塗布を可能とする形態である限り特段限定されない。化粧品が軟膏の場合、高純度溶融球状シリカはワセリン等の油脂成分の基材に添加、混練される。化粧品が乳液、クリームの場合、高純度溶融球状シリカは、水、アルコール、グリセリン、各種油脂等の基材に添加され、均質化される。化粧品がパウダーの場合、例えばファンデーションへの添加が想定され、油脂分、ワックス、保湿剤、水等に添加、混練される。むろん、化粧品として調製する場合、界面活性剤、パラペン等の防腐剤、香料等が必要により配合される。
【実施例0051】
高純度溶融球状シリカ(球状シリカ粒子)の実証のため、試験例1ないし15を用意し、各試験例の物性を評価した。以降、使用原料、作製方法、測定及び評価方法の順に説明する。各試作例の詳細は後出の表1ないし表4が参照される。
【0052】
[使用原材料]
原料として金属ケイ素及び酸化ケイ素の粉末(シリカ粉末、結晶性シリカ)を使用した。各試験例の使用原料は表中に記した。
試験例1ないし10の金属ケイ素粉末は、平均粒子径:20μmを使用した。
試験例11ないし15の結晶性シリカは、平均粒子径:30μmを使用した。
【0053】
塩基性溶液の調製に際し、以下のアミン系化合物を使用した。
ジメチルアミン:富士フィルム和光純薬株式会社製
水酸化テトラメチルアンモニウム(以降、TMAHと称する。):富士フィルム和光純薬株式会社製
ジアザビシクロウンデセン(以降、DBUと称する。):富士フィルム和光純薬株式会社製
【0054】
[球状シリカ粒子の作製]
・試験例1ないし8
金属ケイ素の粉末(後出の表におけるSi粉末)9.0g、イオン交換水315g、50重量%のジメチルアミン水溶液32gを混合し、40℃に加熱しながら48時間撹拌し続けた。結果、酸化物換算として6.0重量%の塩基性ケイ酸水溶液を得た。
【0055】
塩基性ケイ酸水溶液に90%の酢酸水溶液を撹拌しながら滴下してpHを調整し、さらに撹拌を続けた。析出物を回収後に120℃で乾燥し、2時間、800℃で焼成した。なお、試験例3については焼成を省略した。生じた焼成物、適量のシリカ粉末と水、及び粒子径5mmのアルミナボールを、高純度アルミナ製の粉砕ポッドに投入して目標の粒子径に到達するまで粉砕を続けた。その後、4mmの篩により粉砕物を回収し、適度に乾燥した。各試験例の相違は粉砕時の粒子径の相違であり、粉砕時間を加減して作り分けた。
【0056】
耐火材張りした炉内(高さ5m×内径0.5mの円筒型)で5Nm3/時間で供給するLPGガスと、25Nm3/時間で供給する酸素ガスとの燃焼により生成した火炎中に各試験例の粉砕物のそれぞれを10kg/時間の速度で気流分散投入し、加熱溶融させた後に回収した。こうして、各試験例の球状シリカ粒子を調製した。
【0057】
・試験例9、10
試験例9はジメチルアミンをTMAHに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
試験例10はジメチルアミンをDBUに置き換え、試薬の量及び処理は試験例6と同様とした。
【0058】
・試験例11ないし15
試験例11ないし15は、前出の試験例1ないし10と異なり、塩基性溶液への溶解、中和の工程を省略し、原料を粉砕して火炎に曝露した対照群である。粉砕の仕方は前述の高純度アルミナ製ポットを用いた際と同様とし、粉砕時間を加減して作り分けた。また、火炎への曝露も同様とした。なお、表4に記載の試験例16は、ケイ素の金属粉末をVMC法(Vaporized Metal Combustion Method)と称される金属粉末の爆燃現象を利用して真球状酸化物微粒子を製造する方法により調製した試料である。
【0059】
[測定及び評価方法]
・粒度分布
各試験例の球状シリカ粒子について、粉砕後及び溶融後の粒子径を株式会社島津製作所製,レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-7500nanoを使用し、水溶媒中において測定した。併せて、D10、D50(メディアン径)、D90の粒度分布を算出した。
【0060】
・BET比表面積測定
各試験例の球状シリカ粒子を1.0g秤量し、測定用のセルに投入、前処理後、窒素吸着法によるBET比表面積値を測定した。測定には、株式会社島津製作所製,自動比表面積・細孔分布測定装置TriStar(登録商標)-II3020を使用した。前処理は次の条件とした。
脱気温度 :200℃
脱気時間 :30分
冷却時間 :4分
【0061】
・成分分析
各試験例の球状シリカ粒子に含有される原子組成の分析に際し、株式会社島津製作所製,IPC(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)装置ICP-MS(U、Thについて)、ICP-OES(シリカ、その他の不純物について)、ICP-AES(アルミナ、その他の不純物について)、を使用した。
測定に際し、各試験例の球状シリカ粒子を硝酸とフッ酸の混合液により完全溶解して溶液化し、装置に供した。
【0062】
・円形度測定
シスメックス株式会社製,フロー式粒子像分析装置(FPIA-3000)を使用した。
シース液(パーティクルシース「PSE-900A」)にヘキサメタリン酸ナトリウムを溶解して溶液とし、同溶液に各試験例の球状シリカ粒子を混ぜて超音波分散後に測定に供した。なお、測定は同装置のHモードによる解析とした。
【0063】
・結晶性シリカの含有率
X線結晶構造解析装置(XRD)として株式会社リガク製、SmartLab(登録商標)を使用した。各試験例の球状シリカ粒子の試料について、2θ=26.6°のピーク強度の数値を求めた。並行して100%の結晶質シリカの2θ=26.6°のピーク強度の数値を求めた。そして、各試験例の試料のピーク強度の数値を結晶質シリカのピーク強度の数値により除して商を求めパーセントの表示とした。
【0064】
・5μm以上の中空部の割合
エポキシ系樹脂に各試験例の球状シリカ粒子を投入し、硬化剤を添加して混合し樹脂混合物に調製した。このとき、球状シリカ粒子(つまりフィラーの成分)は樹脂混合物の75重量%相当とした。各試験例の樹脂混合物を170℃に加熱して硬化した。硬化後に切断して切断面を研磨した。
【0065】
切断面の研磨に際し、イオンミリング装置(株式会社日立ハイテク製,IM4000Plus)を使用した。研磨後、酸化オスミウムガスを導入して各試験例の研磨面に対しオスミウムコートを施した。その後、電子顕微鏡(SEM)により各試験例の研磨面を観察した。電子顕微鏡の観察範囲は9mm2とし、同範囲内において直径(長径)5μm以上の球状シリカ粒子内の中空部(空隙)を含む粒子数を計測した。そして、直径(長径)5μm以上の球状シリカ粒子内の中空部(空隙)を含む粒子数を計測した。
【0066】
[結果]
試験例1ないし15は表1ないし3の結果であった。各表中、上段から原料種類、原料のウラン・トリウムの量(ppb)、塩基の種類、塩基とケイ素の比率(mol)、収率(%)、焼成温度(℃)、粉砕後及び溶融後の粒子径(D10、D50、D90のμm)、比表面積(m2/g)、溶融後のナトリウムの量(ppm)、溶融後のウラン・トリウムの量(ppb)、円形度、結晶残留率(%)、電子顕微鏡により2000倍に拡大したときの5μm以上の中空部の個数(個/9mm2)が示される。また、表4は含有元素の組成分析(ppbとppm表記)である。
【0067】
併せて、電子顕微鏡(SEM)による観察写真を提示する。
図1は試験例4の粉砕後(5000倍)と溶融後(10000倍)である。
図2は試験例6の切断面であり、異なる観察範囲の電子顕微鏡写真(2000倍)である。
図3は試験例13の切断面であり、異なる観察範囲の電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
[考察]
図1の写真から理解されるように、粉砕後には不定形の粉砕物であっても、火炎の曝露により球状に粒子化することが確認された。
図2は全体に黒くわかりにくいものの、切断面を露出する球状シリカ粒子内にはほとんど中空部(空隙)は存在していない。
図3では個々の粒子内に粒子径と比して大きな中空部が存在していた。実際に計測したところ、5ないし10μmの直径であった。
図2の試験例6と
図3の試験例13において、試験例6は塩基性溶液に原料を溶解している。これに対し試験例13は塩基性溶液への溶解を省略している。このことから、原料の塩基性溶液に溶解することは中空部を減少させる利点が大きい。
【0073】
試験例1ないし10(試験例3を除く)のウラン元素とトリウム元素の量(ppb)に着目し、原料段階と溶融後を比較すると、いずれも溶融後は1/10以下、6/100以下と大きく減少した。具体的には、ウラン元素については1ppbであり、トリウム元素は2ppbであった。ナトリウム元素の量(ppm)も溶融後には1ppmと低水準であった。併せて、表4の全成分の比較から、ウラン元素とトリウム元素に限らずその他の不純物成分の減少を確認した。このことから、塩基性溶液への溶解と火炎への曝露を組み合わせる方法は、不純物成分の減少に有効である。また、球状シリカ粒子を製造するための原料として調達が安価ではあるものの純度の低い原料であるとしても、不純物成分の低減が可能であるため、総じて製造原価の抑制が可能となる。
【0074】
試験例9、10より、塩基性溶液の調製時に用いるアミン系化合物の種類は拡張可能である。溶解対象の原料の種類、溶解しやすさ(反応性)、原料経費等を考慮して選択が可能である。
【0075】
試験例1ないし10(試験例3を除く)と試験例11ないし15の円形度はいずれも0.98と極めて真球に近似した形態である。特に試験例1ないし10では、塩基性溶液への溶解を経て不定形の状態から高い円形度にすることができることを確認した。フィラーとして球状であるほど塗剤の流動性が良くなるため好ましい。
【0076】
酸化ケイ素の結晶残留率について、試験例1ないし10(試験例3を除く)では、測定限界以下となり、実質上存在していない程度と考えることができる。また、5μm以上の中空部の割合について、試験例1ないし10(試験例3を除く)では、計測の限界以下であり、事実上、中空部は見当たらないと考えることができる。これらについて、塩基性溶液への溶解を経る調製方法の優位性が裏付けられた。
【0077】
従って、電子機器用樹脂組成物に使用するフィラー用の高純度溶融球状シリカとして、ウラン元素とトリウム元素をはじめとする不純物成分が少ないことから、放射性壊変に伴う放射線源の減少が可能である。また、極めて真球に近く塗剤の流動性が確保されやすくなる。さらに粒子中の比較的大きな中空部(空隙)も存在しないため、絶縁性等の性能も担保される。加えて、化粧品用の高純度溶融球状シリカとしても、ウラン元素とトリウム元素をはじめとする不純物成分が少なく、さらに結晶質のシリカも少ないことから、直接皮膚に塗布される化粧品用の添加材としての価値は高い。