(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179275
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】熱交換器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F28F 1/32 20060101AFI20241219BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20241219BHJP
B23K 35/363 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F28F1/32 Y
F28F13/18 A
B23K35/363 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097991
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】小林 正子
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 将弘
(72)【発明者】
【氏名】平川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】太田 諭
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】畠田 崇史
(57)【要約】
【課題】隣り合うフィンの間の水の排出を容易にした熱交換器およびその製造方法を提供する。
【解決手段】熱交換機は、フィンと、前記フィンに挿通する伝熱管と、を備える。前記フィンの表面には、アルミニウムとフッ素とを含むフラックスもしくはその残渣が付着し、前記フラックスもしくはその残渣は、少なくともアルミニウムおよび酸素を含む表面層を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィンと、
前記フィンに挿通する伝熱管と、
を備え、
前記フィンの表面には、アルミニウムとフッ素とを含むフラックスもしくはその残渣が付着し、
前記フラックスもしくはその残渣は、少なくともアルミニウムおよび酸素を含む表面層を有した、熱交換器。
【請求項2】
前記フラックスの前記表面層におけるアルミニウムの対する酸素の原子数比は、1.6以上である請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
前記フラックスは、カリウム、セシウムおよびリチウムのうちの少なくとも1つをさらに含む請求項1記載の熱交換器。
【請求項4】
前記フラックスの前記表面層は、アルミニウムと酸素との結合、および、アルミニウムと水酸基との結合の少なくともいずれか一方を含む請求項1記載の熱交換器。
【請求項5】
フィンの表面にアルミニウムとフッ素とを含むフラックスを塗布する工程と、
前記フィンを伝熱管とをろう付けする工程と、
前記フィンと、前記フィンにろう付けされた前記伝熱管と、を水に浸漬する工程と、
を含む熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、熱交換器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィン型熱交換器の効率を向上させるためには、隣り合うフィンの間に結露する水を排出し易くすることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、隣り合うフィンの間の水の排出を容易にした熱交換器およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る熱交換機は、フィンと、前記フィンに挿通する伝熱管と、を備える。前記フィンの表面には、アルミニウムとフッ素とを含むフラックスもしくはその残渣が付着し、前記フラックスもしくはその残渣は、少なくともアルミニウムおよび酸素を含む表面層を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る熱交換器を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る熱交換器の特性を示す模式図およびグラフである。
【
図3】実施形態に係る熱交換器の別の特性を示すグラフである。
【
図4】実施形態に係る熱交換器の構造を示すグラフおよび模式図である。
【
図5】実施形態に係る熱交換器のさらなる別の特性を示すグラフである。
【
図6】実施形態に係る熱交換器の構造を示すFT-IRスペクトルである。
【
図7】実施形態に係る熱交換器の構造を示す模式図および別のグラフである。
【
図8】本実施形態に係る熱交換器の製造方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0008】
図1(a)~(c)は、実施形態に係る熱交換器1を示す模式図である。
図1(a)は、熱交換器1の外観を示す斜視図である。
図1(b)および(c)は、熱交換器1におけるフィンの構造を示す部分断面図である。熱交換器1は、例えば、空調装置の室外機内に設置される。
【0009】
図1(a)に示すように、熱交換器1は、伝熱管10と、複数のフィン20と、を備える。伝熱管10は、例えば、冷媒が流通する。伝熱管10は、複数のフィン20に挿通する。換言すれば、伝熱管10は、複数のフィン20と熱的に接続される。伝熱管10は、例えばフィン20に形成される貫通孔に挿通し、隣り合うフィン20の貫通孔を連続して挿通することで、フィン20と一体化されている。
【0010】
図1(b)に示すように、フィン20は、基材23と、フラックス25と、を含む。フラックス25は、基材23の表面に塗布される。フラックス25は、例えば、基材23の全表面に塗布される。基材23は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む。フラックス25は、フィン20と伝熱管10とをロウ付けするために塗布される。
【0011】
図1(c)に示すように、フラックス25は、例えば、カリウム(K)、アルミニウム(Al)およびフッ素(F)を含む。フッ素は、アルミニウムに結合され、カリウムは、イオンとして含まれる。フラックス25の表面において、アルミニウムの未結合手は、フッ素により終端される。
【0012】
なお、実施形態は、この例に限定される訳ではない。フラックス25は、カリウムに代えて、セシウム(Cs)もしくはリチウム(Li)を含んでも良い。また、フラックス25は、カリウム、セシウムおよびリチウムのうちの少なくとも1つを含む。
【0013】
図2(a)および(b)は、実施形態に係る熱交換器1の特性を示す模式図およびグラフである。
図2(a)は、熱交換器1の側面を部分的に示す模式図である。
図2(b)は、フィン20における表面の特性を示すグラフである。
【0014】
図2(a)に示すように、熱交換器1の運転時において、フィン20の表面に結露した水が、隣り合う2つのフィン20の間に溜まり、熱交換の効率を低下させることがある。これを避けるために、隣り合う2つのフィン20の間から水を排出することが容易であることが好ましい。
【0015】
図2(b)は、フィン20の表面における水に対する親和性の経時変化を示すグラフである。横軸は、経過日数、縦軸は、水の静的接触角(以下、接触角)である。接触角が小さいほど、フィン20の表面における親水性が高くなり、水の排出が容易になる。接触角は、例えば、20°以下であることが好ましい。
【0016】
図2(b)に示すように、フラックス25では、最初の接触角が20°以下であっても、時間が経過するにつれて接触角が大きくなり、20°を超える。すなわち、フィン20の表面は、時間の経過と共に撥水性に変化し、隣り合う2つのフィン20の間における水の排出がその表面張力のために難しくなる。
【0017】
図3(a)および(b)は、実施形態に係る熱交換器1の別の特性を示すグラフである。横軸は、経過日数を表し、縦軸は、水の静的接触角を表す。
図3(a)は、熱交換器1を水に浸漬した場合の接触角の経時変化を表している。
図3(b)は、熱交換器1を水に浸漬しない場合の接触角の経時変化を表している。
図3(a)及び(b)のいずれも、加速エージングのために、熱交換器1を恒温高湿の環境に40時間放置した後に測定した結果を表す。
【0018】
図3(a)に示す例では、伝熱管10にフィン20をロウ付けした後、熱交換器1を、所定の時間、例えば、3時間、水に浸漬させる。これにより、接触角は、20°以下になる。その後、時間の経過と共に、接触角は小さくなり、例えば、5°以下となる。
【0019】
一方、
図3(b)に示すように、熱交換器1を水に浸漬させない場合には、当初の接触角は、例えば、40°である。接触角は、時間が経過するにつれて50°を超えるようになる。
【0020】
このように、熱交換器1を水に浸漬させることにより、フィン20の表面の水の接触角を20°以下とし、その後、フィン20の表面を親水性に維持することができる。これにより、隣り合う2つのフィン20の間における水の排出が容易になる。
【0021】
図4(a)および(b)は、実施形態に係る熱交換器1の構造を示すグラフおよび模式図である。
図4(a)は、フラックス25の表面近傍におけるアルミニウムに対する酸素の原子数比(以下、O/Al比)を示している。横軸は浸漬日数である。
図4(b)は、フラックス25の表面近傍の構造を表している。
【0022】
図4(a)に示すように、熱交換器1を所定の時間、例えば、3時間、浸漬した後、O/Al比は、1.6となり、その後、日数が経過するにしたがってO/Al比は大きくなり、例えば、2.1前後の値に飽和する。
【0023】
図4(b)に示すように、フラックス25の表面におけるアルミニウムとフッ素との結合(
図1(c)参照)は、水に浸漬されることにより、アルミニウムと水酸基(以下、OH基)との結合に置き換えられる。これにより、フラックス25の表面における水の接触角が小さくなり、フィン20の表面は親水性に変換される。
【0024】
図5(a)および(b)は、実施形態に係る熱交換器1のさらなる別の特性を示すグラフおよび模式図である。この例では、熱交換器1を浸漬させる水の温度を変化させている。
【0025】
図5(a)は、浸漬時の水温25℃、50℃および80℃に対して、接触角の経時変化を示している。同図中の白丸は、3時間の浸漬の後の接触角を表している。いずれの温度においても、処理後の接触角は、測定限界である5°以下になっている。一方、黒丸は、経時変化後の接触角を示している。ここで、経時変化後の特性は、加速エージングのために、熱交換器1を恒温高湿(20℃、80%)の環境下に40時間、放置した後に測定されたものである。
【0026】
図5(a)に示すように、浸漬時の水温が高くなるにつれて、接触角の変化率が小さくなる。80℃の水温では、接触角は20°以下に保持される。すなわち、フィン20の表面を親水性に保持することができる。
【0027】
図5(b)は、経時変化後におけるフラックス25のO/Al比を、浸漬時の水温25℃、50℃および80℃に対して示している。水温が高くなるにつれて、O/Al比は大きくなる。水温25℃におけるO/Al比は、1.6程度であり、
図4(a)に示す浸漬直後の値との差は小さいが、水温80℃では、O/Al比は2.1まで大きくなる。これは、浸漬後11日経過した飽和値(
図4(a)参照)と同じである。
【0028】
図6(a)~(c)は、実施形態に係る熱交換器1の構造を示すFT-IRスペクトルである。
図6(a)~(c)は、フラックス25の表面層におけるFT-IRの吸収スペクトルを表している。
【0029】
図6(a)は、浸漬時の水温を80℃とした場合におけるフラックス25の吸収スペクトルを表している。同図中に示すように、OH基に対応する吸収ピークが3500cm
-1付近に見られる。また、Al-Oの結合に対応する吸収ピークが1145cm
-1付近に見られる。
【0030】
図6(b)は、3500cm
-1付近の吸収ピークを拡大して示す吸収スペクトルである。同図中には、水に浸漬しない場合(未浸漬)、および、水温を25℃、50℃、80℃とした場合の4つのピークが示されている。
【0031】
図6(b)に示すように、未浸漬に比べて、水に浸漬した方がOHのピークが大きく、水温が高くなるにつれて、ピークはより大きくなる。すなわち、フラックス25の表面において、フッ素とアルミニウムとの結合がOH基とアルミニウムとの結合に置き換えられることを表している。
【0032】
図6(c)は、1145cm
-1付近の吸収ピークを拡大して示す吸収スペクトルである。同図中には、未浸漬、および、水温を25℃、50℃、80℃とした場合の4つの特性を示している。
【0033】
図6(c)に示すように、水温を80℃とした場合にAl-Oの吸収ピークが現れる。すなわち、未浸漬、および、水温を25℃、50℃とした場合には、Al-Oの吸収ピークは見られない。このように、浸漬時の水温を80℃にした場合には、水温を50℃以下とした場合とは別の構造を有することが分かる。
【0034】
図7(a)および(b)は、実施形態に係る熱交換器1の構造を示す模式図および別のグラフである。
図7(a)および(b)は、浸漬時の水温を80℃とした場合のフラックス25の構造を表している。
【0035】
図7(a)は、フラックス25の表面近傍の構造を表している。フラックス25の表層は、
図6(c)に示す吸収スペクトルにより、所謂、ベーマイト構造を有するものと考えられる。すなわち、アルミニウム原子は、酸素原子を介して相互に結合され、アルミニウム原子の未結合手は、OH基により終端される。
【0036】
図7(b)は、FT-IRの信号スペクトルを表している。同図中には、FT-IRの検査光の入射角を25°および90°とした2つのスペクトルが示されている。入射角を25°とした場合、FT-IRの信号光は、フラックス25の表層の構造を反映する。一方、入射角を90°とした場合、FT-IRの信号光は、フラックス25のより深い位置における構造も反映する。
【0037】
図7(b)に示すように、検査光の入射角を25°とした場合、Al-O結合に対応したピークが見られる。これに対し、入射角を90°とした場合、Al-O結合に対応したピークに加えて、Al-F結合に対応したピークも見られる。すなわち、フラックス25の表層において、アルミニウム原子は、酸素およびOH基に結合し、より深い位置では、フッ素に結合していることがわかる。
【0038】
以上、実施形態に係る熱交換器1では、所定時間、水に浸漬させることにより、フィン20の表面を親水性に変えることが好ましい。これにより、隣り合う2つのフィン20間における水の排出を容易にし、熱の変換効率を向上させることができる。
【0039】
フィン20の表面を覆うフラックス25は、その表層におけるO/Al比が、例えば、1.5以上であることが好ましく、2.0~2.1であることがより好ましい。
【0040】
図8は、本実施形態に係る熱交換器の製造方法を表すフローチャートである。
本実施形態に係る熱交換器の製造方法は、フィン20の表面にアルミニウムとフッ素とを含むフラックス25を塗布する工程S01と、フィン20と伝熱管10とをろう付けする工程S02と、フィン20と、フィン20にろう付けされた伝熱管10と、を水に浸漬する工程S03と、を含む。工程S03は、換言すれば、熱交換器1を水に浸漬する工程とも言える。
これら3つの工程を経て熱交換器が製造されることで、フィン20の表面を親水性に変えることができる。これにより、隣り合う2つのフィン20間における水の排出を容易にし、熱の変換効率を向上させることができる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1…熱交換器
10…伝熱管
20…フィン
23…基材
25…フラックス