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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179285
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】DC-DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098010
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高山 雄利
(72)【発明者】
【氏名】前地 洋明
(72)【発明者】
【氏名】清水 健介
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730BB27
5H730DD03
5H730EE04
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD31
(57)【要約】
【課題】簡易な制御によって、低損失での送電を可能にすることを目的とする。
【解決手段】第1端子対(13)に接続されたブリッジ回路(10)と、第2端子対(23)に接続されたブリッジ回路(20)と、の間にトランス(Tr)を備えたDC-DCコンバータ(1)は、トランスについての換算電圧として表した第1端子対および第2端子対における端子間電圧のより高くない方を第1電圧と称し、より低くない方を第2電圧と称し、送電する電力、第1電圧および第2電圧に基づき、ブリッジ間位相差、第1レグ間位相差、および第2レグ間位相差を決定し、各スイッチング素子を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、
複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、
トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、
前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、
前記制御部は、
前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より高くない方の端子間電圧を第1電圧Vlowと称し、より低くない方の端子間電圧を第2電圧Vhighと称したとき、
前記第1電圧および前記第2電圧に基づいて算出される閾値電力Pthresholdよりも、前記DC-DCコンバータの出力電力Pが小さい場合には、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差をゼロとし、前記出力電力に応じて前記第1電圧側のブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第1レグ間位相差φL_lowを決定し、
前記出力電力が前記閾値電力以上の場合には、前記出力電力に応じて前記ブリッジ間位相差を決定し、前記第1レグ間位相差を式(1)によって決定し、
さらに、前記第2電圧側のブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第2レグ間位相差φL_highを、前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧の前記第2電圧に対する電圧比を乗じた値として決定し、
前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する、DC-DCコンバータ。
【数1】
【請求項2】
前記制御部は、前記閾値電力を、
前記電圧比が1の場合にゼロとし、
前記第1電圧が一定の場合において、前記電圧比が1より小さくなるにしたがって、大きくなり、
前記電圧比が一定の場合において、前記第1電圧が高くなるにしたがって、大きくなるように定める、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項3】
前記制御部は、前記スイッチング素子におけるスイッチング周波数をf、前記変換部におけるインダクタンスをLとして、前記閾値電力を式(2)によって決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【数2】
【請求項4】
前記制御部は、前記閾値電力よりも前記出力電力が小さい場合において、
前記スイッチング素子におけるスイッチング周波数をf、前記変換部におけるインダクタンスをLとして、式(3)により算出したベース値φLbaseと、前記出力電力についてのフィードバック制御により算出した位相差成分と、の和として前記第1レグ間位相差φL_lowを決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【数3】
【請求項5】
前記制御部は、前記出力電力が前記閾値電力以上の場合には、前記ブリッジ間位相差を前記出力電力についてのフィードバック制御により決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項6】
前記第1端子対の側から前記第2端子対の側へ電力を輸送する場合に、前記第1端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧が、前記第2端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧より低い場合における前記ブリッジ間位相差が作用する対象のレグと、前記第1端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧が、前記第2端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧以上の場合における前記ブリッジ間位相差が作用する対象のレグと、は異なる、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDC-DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
直流電力の送電に、デュアルアクティブブリッジ方式(以下、DABと省略する)のDC-DCコンバータが広く用いられている。特許文献1には、所望の出力電流を作り出すためのスイッチングパターンを示すスイッチングモードマップが定義されている。スイッチングモードマップに従い制御することによって、1次側から2次側への送電(力行)および2次側から1次側への送電(回生)、ならびに、1次側から2次側への昇圧動作・降圧動作、2次側から1次側への昇圧動作・降圧動作、および1次側と2次側とをバランスさせた定格電圧動作が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-101089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術はスイッチングモードマップに従い、複数のスイッチング素子を管理するために、各動作パターンを網羅した制御則を実装する必要があり、制御部のメモリの圧迫および制御の複雑化を招く。さらに、スイッチングモードマップはDC-DCコンバータを構成する各回路素子の回路定数によって変化するために、回路の構成に応じて、各制御則の設計をやり直す必要がある。
【0005】
本発明の一態様は、簡易な制御によって、低損失での送電を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るDC-DCコンバータは、複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より高くない方の端子間電圧を第1電圧Vlowと称し、より低くない方の端子間電圧を第2電圧Vhighと称したとき、前記第1電圧および前記第2電圧に基づいて算出される閾値電力Pthresholdよりも、前記DC-DCコンバータの出力電力Pが小さい場合には、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差をゼロとし、前記出力電力に応じて前記第1電圧側のブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第1レグ間位相差φL_lowを決定し、前記出力電力が前記閾値電力以上の場合には、前記出力電力に応じて前記ブリッジ間位相差を決定し、前記第1レグ間位相差を式(1)によって決定し、さらに、前記第2電圧側のブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第2レグ間位相差φL_highを、前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧の前記第2電圧に対する電圧比を乗じた値として決定し、前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、簡易な制御によって、低損失に送電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るDC-DCコンバータの回路図である。
図2】制御部の動作を示すブロック図である。
図3】閾値電力よりも目標値の絶対値が小さい場合における、降圧動作でのグラフである。
図4】閾値電力よりも目標値の絶対値が小さい場合における、昇圧動作でのグラフである。
図5】閾値電力が目標値の絶対値以上の場合における、降圧動作でのグラフである。
図6】閾値電力が目標値の絶対値以上の場合における、昇圧動作でのグラフである。
図7】閾値電力が目標値の絶対値と等しい場合における、降圧動作でのグラフである。
図8】閾値電力が目標値の絶対値と等しい場合における、昇圧動作でのグラフである。
図9】式(3)によって求まる閾値電力の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の回路図である。DC-DCコンバータ1は、1次側ブリッジ回路10と、2次側ブリッジ回路20と、変換部30と、制御部40と、を備える。
【0010】
(DC-DCコンバータ1の構成)
1次側ブリッジ回路10は、第1端子対13に接続されている。第1端子対13の電圧、すなわち、端子13aから端子13bに向けた電圧は電圧V1である。なお、第1端子対13には、電源または負荷が接続されていてもよい。また、端子13bから流れ出す電流は電流I1である。
【0011】
2次側ブリッジ回路20は、第2端子対23に接続されている。第2端子対23の電圧、すなわち、端子23aから端子23bに向けた電圧は電圧V2である。なお、第2端子対23には、電源または負荷が接続されていてもよい。また、端子23bに流れ込む電流は電流I2である。
【0012】
なお、電圧V1、電圧V2、電流I1、および電流I2は、制御部40が取得する時間平均値であり、後述する制御に用いる。
【0013】
ここで、本明細書では、1次側ブリッジ回路10から2次側ブリッジ回路20へと電力が伝送されることを「力行」という表現を用い、2次側ブリッジ回路20から1次側ブリッジ回路10へと電力が伝送されることを「回生」という表現を用いる。また、1次側ブリッジ回路10側を「1次側」、2次側ブリッジ回路20側を「2次側」とも称する。「力行」は、出力電力P>0となる。「回生」は、出力電力P<0となる。
【0014】
また、第1端子対13のトランスTrに対する換算電圧V1と、第2端子対23のトランスTrに対する換算電圧nV2とがそれぞれ送電側・受電側の場合によって、昇圧動作および降圧動作という表現を用いる。昇圧動作とは、送電側の電圧の換算電圧よりも、受電側の電圧の換算電圧が高い場合であり、降圧動作とは、送電側の電圧の換算電圧よりも、受電側の電圧の換算電圧が低い場合である。
【0015】
1次側ブリッジ回路10は、4つのスイッチング素子S1~S4が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C1が並列に接続されている回路である。1次側ブリッジ回路10は、第1レグ11と、第2レグ12と、コンデンサ素子C1とにより構成されている。第1レグ11は、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2とが直列に接続されて構成される。第2レグ12は、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4とが直列に接続されて構成される。
【0016】
2次側ブリッジ回路20は、4つのスイッチング素子S5~S8が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C2が並列に接続されている回路である。2次側ブリッジ回路20は、第3レグ21と、第4レグ22と、コンデンサ素子C2とにより構成されている。第3レグ21は、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6とが直列に接続されて構成される。第4レグ22は、スイッチング素子S7とスイッチング素子S8とが直列に接続されて構成される。
【0017】
スイッチング素子S1~S8はそれぞれIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成できる。あるいは、スイッチング素子S1~S8は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、その他のFET(Field Effect Transistor)、またはその他のトランジスタで構成されてもよい。
【0018】
変換部30は、巻数比nのトランスTrと、リアクトルLとを備え、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との間に接続される。図1の回路図においては、変換部30のインダクタンス成分が、1次側に設けられたリアクトルLとして等価的に表されている。
【0019】
ここで、リアクトルLは、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2との接続点と、トランスTrの1次側の巻線の一端に接続されているように表されている。また、トランスTrの1次側の巻線の他端は、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4との接続点に接続されているように表されている。
【0020】
ここでは、リアクトルLをトランスTrの1次側の巻線に接続するように記載したが、これに限定されない。また、リアクトルLはトランスTrに含まれないインダクタンスを含めて表すために記載してあり、つまり、現実のリアクトル素子は回路上に存在しなくても構わない。変換部30に現実の素子としてのリアクトル素子が設けられる場合には、リアクトル素子は、トランスTrの1次側に配置されても、2次側に配置されても、あるいは両方に配置されてもよい。
【0021】
リアクトルLは、トランスTrの漏れインダクタンスを含んでもよい。図1の回路図においては、トランスTrの2次側の巻線は、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6との接続点およびスイッチング素子S7とスイッチング素子S8との接続点に接続されているように表されている。
【0022】
変換部30の1次側の電圧、すなわち、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4との接続点から、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2との接続点までの電圧を、1次側交流電圧Vac1とする。また、変換部30の1次側の電流、すなわち、変換部30と1次側ブリッジ回路10との間に流れる電流を、1次側交流電流Iac1とする。
【0023】
変換部30の2次側の電圧、すなわち、スイッチング素子S7とスイッチング素子S8との接続点から、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6との接続点までの電圧を、2次側交流電圧Vac2とする。
【0024】
(ブロック図)
図2は、制御部40の動作を示すブロック図である。制御部40は、ブロック図に従って各スイッチング素子S1~S8を制御する。ブロック図では、各スイッチング素子同士の位相差を決定している。
【0025】
(巻数比n、第1電圧Vlowおよび第2電圧Vhigh)
トランスTrの巻数比nは、1次巻線の巻き数n1と2次巻線の巻き数n2とでもって、次のように表せる。
【0026】
【数1】
そのため、トランスTrについての1次側の換算電圧として表した、第1端子対13の電圧はV1であり、第2端子対23の電圧はnV2である。符号41において、数2に示すように、これらの電圧の高低を比較して、電圧がより高くない方をVlowとし、電圧がより低くない方をVhighと呼称する。
【0027】
【数2】
(閾値電力Pthreshold)
符号42において、次式に従い、第1電圧Vlowと第2電圧Vhighと、スイッチング素子S1~S8のスイッチング周波数fと、リアクトルLのインダクタンスLと、に基づき閾値電力Pthresholdを決定する。
【0028】
【数3】
なお、閾値電力Pthresholdの決定方法はこの式に限定されない。第1電圧Vlowと第2電圧Vhighとの電圧比が1の場合に、閾値電力Pthresholdをゼロと定めればよい。また、第1電圧Vlowが一定の場合において、電圧比が小さくなるにしたがって、閾値電力Pthresholdが大きくなるように定めればよい。さらに、電圧比が一定の場合において、第1電圧Vlowが高くなるにしたがって、閾値電力Pthresholdが大きくなるように定めればよい。
【0029】
なお、閾値電力Pthresholdは、後述のブリッジ間位相差φBおよび第1レグ間位相差φL_lowの決定方法の切替条件として定めるものであり、ブリッジ間位相差φBがゼロの状態で出力可能な上限の電力である。
【0030】
(ブリッジ間位相差φB)
次に、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との位相差としてブリッジ間位相差φBを決定する。なお、ブリッジ間位相差φBは、1次側交流電圧Vac1および2次側交流電圧Vac2に着目して、1次側交流電圧Vac1が、2次側交流電圧Vac2に対して進み位相の場合が正である。なお、ブリッジ間位相差φBは負の値をとることもあり、正の値の場合は力行となり、負の値の場合は回生となる。また、ブリッジ間位相差φBは、-π/2~π/2の範囲の値となる。
【0031】
ブリッジ間位相差φBの決定は、出力電力の目標値P*の絶対値と閾値電力Pthresholdとの関係によって、符号43の切替部が動作し決定される。
【0032】
閾値電力Pthresholdよりも目標値P*の絶対値が小さい場合、ブリッジ間位相差φBを作る基準信号はゼロであり、これを所定の範囲に制限するリミッタに入力する(符号44)。リミッタの範囲は、-π/2~π/2である。結果的に、この場合は、ブリッジ間位相差φBはゼロとなる。
【0033】
目標値P*の絶対値が閾値電力Pthreshold以上の場合、符号45において目標値P*と出力電力Pとの偏差を求める。なお、出力電力Pは、受電側の電力値であり、力行の場合はP=V2*I2となり、回生の場合はP=V1*I1となる。
【0034】
偏差をPI制御によってフィードバックすることにより、ブリッジ間位相差φBの基準信号を作る(符号46)。該基準信号をリミッタに入力する(符号44)。結果的に、ブリッジ間位相差φBは-π/2~π/2となり、この範囲でフィードバックする。
【0035】
なお、ブリッジ間位相差φBによって作用するレグは、第1端子対13の電圧V1と第2端子対23の電圧nV2との高低、つまり昇圧動作か降圧動作かに応じて変化する。昇圧動作では、ブリッジ間位相差φBは、第1レグ11と第3レグ21との位相差となる。降圧動作では、ブリッジ間位相差φBは、第2レグ12と第4レグ22との位相差となる。
【0036】
符号43のように、閾値電力Pthresholdと目標値P*との大小関係によって処理が異なるが、この処理の差異に、目標値P*ではなく、出力電力Pによって処理を行ってもよい。これは、出力電力Pは目標値P*になるようにフィードバックを行っているからである。以降の処理でもこれは同様である。
【0037】
(レグ間基準位相差φLbase)
次に、各ブリッジにおけるレグ間の位相差を決定する。レグ間の位相差は、出力電力の目標値P*の絶対値と閾値電力Pthresholdとの関係によって、符号47の切替部が動作し決定される。
【0038】
閾値電力Pthresholdよりも目標値P*が小さい場合、レグ間の位相差を決定するために用いるレグ間基準位相差φLbaseを求める。レグ間基準位相差φLbaseは、符号48において、次式に従い、第1電圧Vlowと第2電圧Vhighと、スイッチング素子S1~S8のスイッチング周波数fと、リアクトルLのインダクタンスLと、出力電力の目標値P*と、に基づいて決定される。
【0039】
【数4】
レグ間基準位相差φLbaseは、上式に限定されず、目標値P*が大きくなるにしたがって大きくなり、第1電圧Vlowと第2電圧Vhighとの電圧比が小さくなるにしたがって大きくなり、第1電圧Vlowが低くなるにしたがって大きくなるように定めればよい。
【0040】
(第1レグ間位相差φL_low)
符号49において目標値P*と出力電力Pとの偏差を求める。偏差をPI制御によってフィードバックすることにより、補正値を求める(符号50)。該補正値とレグ間基準位相差φLbaseとを足し(符号51)、これを所定の範囲に制限するリミッタに入力し、第1レグ間位相差φL_lowを得る(符号52)。リミッタの範囲は、0~πである。
【0041】
なお、第1レグ間位相差φL_lowは、第1電圧Vlow側のブリッジ回路における2つのレグ間の位相差である。仮に、第1電圧Vlowが1次側のブリッジ回路の場合、第1レグ間位相差φL_lowは、第1レグ11に対して第2レグ12が進んでいる場合が正である。仮に、第1電圧Vlowが2次側のブリッジ回路の場合、第1レグ間位相差φL_lowは、第3レグ21に対して第4レグ22が進んでいる場合が正である。なお、第1レグ間位相差φL_lowは常に正の値を取る。また、第1レグ間位相差φL_lowは、0~πの範囲の値となる。
【0042】
また、目標値P*の絶対値が閾値電力Pthreshold以上の場合、ブリッジ間位相差φBの絶対値をπから引いた位相を計算する(式5)(符号53)。該位相をリミッタに入力し(符号52)、第1レグ間位相差φL_lowを得る。
【0043】
【数5】
(第2レグ間位相差φL_high)
符号53において、第1レグ間位相差φL_lowに、第1電圧Vlowの第2電圧Vhighに対する電圧比(Vlow/Vhigh)を乗算することで、第2レグ間位相差φL_highを求める(符号54)。
【0044】
第1レグ間位相差φL_lowは、第1電圧Vlow側のブリッジ回路の制御に用いられ、第2レグ間位相差φL_highは、第2電圧Vhigh側のブリッジ回路の制御に用いられる。このため、第2レグ間位相差φL_highは、第1レグ間位相差φL_lowに基づき定まることになり、第1電圧Vlow側のブリッジ回路と第2電圧Vhigh側のブリッジ回路との両側のブリッジ回路での1周期における出力電圧の時間積が等しくなるように制御される。これにより、両側の直流電圧が変動し、トランスTrの巻数比nから逸脱した場合であっても、回路を還流する電流をゼロにして損失を低減することができる。なお、第1電圧Vlowが1次側のブリッジ回路10の場合、第2レグ間位相差φL_highは、第3レグ21に対して第4レグ22が進んでいる場合が正である。第1電圧Vlowが2次側のブリッジ回路20の場合、第2レグ間位相差φL_highは、第1レグ11に対して第2レグ12が進んでいる場合が正である。
【0045】
【数6】
(動作パターン)
以降は、閾値電力Pthresholdに対する出力電力に応じた動作の具体例を示していく。具体例としては、力行のみを示すが、回生も可能である。また、第1端子対13の換算電圧V1から第2端子対23の換算電圧nV2を見た、降圧動作および昇圧動作の2パターンでそれぞれ示していく。
【0046】
(閾値電力Pthresholdよりも目標値P*の絶対値が小さい場合)
図3は、閾値電力Pthresholdよりも目標値P*の絶対値が小さい場合における、降圧動作でのグラフである。図4は、閾値電力Pthresholdよりも目標値P*の絶対値が小さい場合における、昇圧動作でのグラフである。
【0047】
図3および図4では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0048】
DC-DCコンバータ1の動作開始時がこの動作パターンである場合、出力電力Pが目標値P*を大きく超過しないように、第1レグ間位相差φL_lowを狭い状態から始め、徐々に広げて電力を大きくしていき、出力電力Pを目標値P*に追従させる必要がある。
【0049】
一方で、第1端子対13の換算電圧V1および第2端子対23の換算電圧nV2の変動によって、閾値電力Pthresholdが変化した場合などによって、この動作パターンになった場合、第1レグ間位相差φL_lowはπまで広がった状態から徐々に狭めなければいけない。
【0050】
これらの要件を満たせるように、式(4)によって、最適なφLbaseを求め、さらにPI制御のフィードバック値を加算することによって制御を行う。これにより、どちらの動作パターンでの動作開始時でも正常に動作を開始することができる。
【0051】
なお、降圧動作では、図3に示すように、スイッチング素子S3、S4、S5、S6、S7、S8においてZCSが可能であり、低損失である。また、昇圧動作では、図4に示すように、スイッチング素子S1、S2、S3、S4、S5、S6においてZCSが可能であり、低損失である。
【0052】
また、ブリッジ間位相差がゼロとなる条件範囲が広いため、6個のスイッチング素子においてZCSできる範囲が広い。そのため、低損失である。
【0053】
(閾値電力Pthresholdが目標値P*の絶対値以上の場合)
図5は、閾値電力Pthresholdが目標値P*の絶対値以上の場合における、降圧動作でのグラフである。図6は、閾値電力Pthresholdが目標値P*の絶対値以上の場合における、昇圧動作でのグラフである。
【0054】
図5および図6では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0055】
DC-DCコンバータ1において、閾値電力Pthreshold以上の電力を出力するためには、第1レグ間位相差φL_lowを最大まで広げることによって、ブリッジ間位相差φBを最小とする。これにより、1次側交流電流Iac1のピーク値は抑制されるため、ZCSできないスイッチング素子においても、少ないスイッチング損失においてスイッチングすることができる。
【0056】
なお、降圧動作では、図5に示すように、スイッチング素子S3、S4、S5、S6、においてZCSが可能であり、低損失である。また、昇圧動作では、図6に示すように、スイッチング素子S3、S4、S5、S6においてZCSが可能であり、低損失である。
【0057】
(閾値電力Pthresholdが目標値P*と等しい場合)
なお、上述した例では、閾値電力Pthresholdと目標値P*とが等しい場合に関しては、閾値電力Pthresholdが目標値P*の絶対値以上の場合に含めるように記載したが、この限りではない。実際には、2つの動作パターンはシームレスに接続されている。そのため、目標値P*が閾値電力Pthreshold以下の場合と閾値電力Pthresholdが目標値P*の絶対値よりも大きい場合との2パターンでの場合分けであってもよい。
【0058】
また、図7は、閾値電力Pthresholdが目標値P*の絶対値と等しい場合における、降圧動作でのグラフである。図8は、閾値電力Pthresholdが目標値P*の絶対値と等しい場合における、昇圧動作でのグラフである。
【0059】
(出力電力Pの一般式)
次式は、出力電力Pの一般式である。
【数7】
式(7)に式(6)とブリッジ間位相差φB=0とを代入して整理することで、式(4)は得られる。すなわち、出力電力Pが目標値P*に追従するために必要なφLbaseの値を求めることができる。
【0060】
(閾値電力Pthresholdの推移)
図9は、式(3)によって求まる閾値電力Pthresholdの推移を示す図である。
【0061】
〔変形例〕
(各レグ間位相差の調整方法)
式(3)を式(8)に、式(5)を式(9)に代えることによって、各レグ間位相差の取り得る範囲を狭めることができる。
【数8】
【数9】
なお、変数T[rad]によって、0≦φL_low≦π-Tとなる。これにより、変数Tを大きくすることによって、トランスTrに印加される電圧の時間幅を狭くすることができる。そのため、トランスTrの鉄損を低減することができる。
【0062】
スイッチング損失と鉄損とは、トレードオフの関係にあるため、DC-DCコンバータ1全体でのトータルロスが最小となるように、変数Tを調整することができる。
【0063】
(デッドタイムの考慮)
デッドタイムを考慮する場合では、上述した変数Tをデッドタイムとすることができる。これにより、スイッチング時にトランスTrに流れる電流がゼロとなるようになり、各スイッチング素子S1~S8のいずれかにおいてZCSとなることができる。また、デッドタイムの考慮と、鉄損の考慮とは同時に行ってもよい。
【0064】
(第1レグ間位相差φL_lowおよび第2レグ間位相差φL_high)
実施形態では、第1レグ間位相差φL_lowおよび第2レグ間位相差φL_highは、第1レグ11に対して第2レグ12が進んでいる場合および第3レグ21に対して第4レグ22が進んでいる場合が正としたが、これに限定されず、第2レグ12に対して第1レグ11が進んでいる場合および第4レグ22に対して第3レグ21が進んでいる場合が正としてもよい。また、この場合でも第1レグ間位相差φL_lowおよび第2レグ間位相差φL_highは、ともに正の値をとることは変わりない。
【0065】
この場合、上述した、各グラフにおいて、スイッチング素子S1はスイッチング素子S3と読み替え、スイッチング素子S3はスイッチング素子S1と読み替え、スイッチング素子S5はスイッチング素子S7と読み替え、スイッチング素子S7はスイッチング素子S5と読み替えたものとなる。
【0066】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係るDC-DCコンバータは、複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より高くない方の端子間電圧を第1電圧Vlowと称し、より低くない方の端子間電圧を第2電圧Vhighと称したとき、前記第1電圧および前記第2電圧に基づいて算出される閾値電力Pthresholdよりも、前記DC-DCコンバータの出力電力Pが小さい場合には、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差をゼロとし、前記出力電力に応じて前記第1電圧側のブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第1レグ間位相差φL_lowを決定し、前記出力電力が前記閾値電力以上の場合には、前記出力電力に応じて前記ブリッジ間位相差を決定し、前記第1レグ間位相差を式(5)によって決定し、さらに、前記第2電圧側のブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第2レグ間位相差φL_highを、前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧の前記第2電圧に対する電圧比を乗じた値として決定し、前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する。
【0067】
上記の構成によれば、広い範囲においてブリッジ間位相差を小さくすることができるために、ZCSできる範囲が広く、また、ZCSできないスイッチング素子に関しても低損失でスイッチングすることができる。
【0068】
本発明の態様2に係るDC-DCコンバータは、前記態様1において、前記制御部は、前記閾値電力を、前記電圧比が1の場合にゼロとし、前記第1電圧が一定の場合において、前記電圧比が1より小さくなるにしたがって、大きくなり、前記電圧比が一定の場合において、前記第1電圧が高くなるにしたがって、大きくなるように定めてもよい。
【0069】
本発明の態様3に係るDC-DCコンバータは、前記態様1または2において、前記制御部は、前記スイッチング素子におけるスイッチング周波数をf、前記変換部におけるインダクタンスをLとして、前記閾値電力を式(3)によって決定してもよい。
【0070】
本発明の態様4に係るDC-DCコンバータは、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記制御部は、前記閾値電力よりも前記出力電力が小さい場合において、前記スイッチング素子におけるスイッチング周波数をf、前記変換部におけるインダクタンスをLとして、式(4)により算出したベース値φLbaseと、前記出力電力についてのフィードバック制御により算出した位相差成分と、の和として前記第1レグ間位相差φL_lowを決定してもよい。
【0071】
本発明の態様5に係るDC-DCコンバータは、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記制御部は、前記出力電力が前記閾値電力以上の場合には、前記ブリッジ間位相差を前記出力電力についてのフィードバック制御により決定してもよい。
【0072】
本発明の態様6に係るDC-DCコンバータは、前記態様1から5のいずれかにおいて、前記第1端子対の側から前記第2端子対の側へ電力を輸送する場合に、前記第1端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧が、前記第2端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧より低い場合における前記ブリッジ間位相差が作用する対象のレグと、前記第1端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧が、前記第2端子対における端子間電圧の前記トランスについての換算電圧以上の場合における前記ブリッジ間位相差が作用する対象のレグと、は異なってもよい。
【0073】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 DC-DCコンバータ
10 1次側ブリッジ回路
11 第1レグ
12 第2レグ
13 第1端子対
20 2次側ブリッジ回路
21 第3レグ
22 第4レグ
23 第2端子対
30 変換部
40 制御部
Tr トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9