(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179300
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】細胞剥離システムおよび細胞培養システム
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241219BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098040
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽治
(72)【発明者】
【氏名】原田 伊知郎
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG08
(57)【要約】
【課題】細胞培養中にスクレーパーが細胞に接触しないか、接触したとしても摩擦が抑制され、培養時において細胞が受けるダメージを低減しつつ、閉鎖系を保った状態でスクレーパーにより細胞を剥離できる細胞剥離システムを提供する。
【解決手段】培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、を有し、前記スクレーパーは、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、前記磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、前記付着した細胞を剥離するように前記スクレーパー位置制御手段により移動する、細胞剥離システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、
前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、
前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、を有し、
前記スクレーパーは、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、前記磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、前記付着した細胞を剥離するように前記スクレーパー位置制御手段により移動する、細胞剥離システム。
【請求項2】
前記スクレーパーの形状が、球形状、楕円体状、円柱状または円筒状である、請求項1に記載の細胞剥離システム。
【請求項3】
前記培養面と接触しない位置に前記スクレーパーを保持するスクレーパー保持部を有する、請求項1に記載の細胞剥離システム。
【請求項4】
前記スクレーパー保持部に保持された前記スクレーパーを前記培養面に移動させるスクレーパー移動手段を有する、請求項3に記載の細胞剥離システム。
【請求項5】
前記培養面に付着した細胞の状態に関する情報を取得する撮像部を有する、請求項4に記載の細胞剥離システム。
【請求項6】
前記撮像部が取得した情報に基づいて、前記スクレーパー移動手段により前記スクレーパーを前記スクレーパー保持部から前記培養面に移動させるように構成された情報処理部を有する、請求項5に記載の細胞剥離システム。
【請求項7】
前記培養面が凹曲面を有し、前記スクレーパーの形状が球形状または楕円体状である、請求項1に記載の細胞剥離システム。
【請求項8】
前記細胞が接着細胞である、請求項1に記載の細胞剥離システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞剥離システムと、前記培養面を有する培養容器とを有する、細胞培養システム。
【請求項10】
細胞培養手段を有する、請求項9に記載の細胞培養システム。
【請求項11】
培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、
前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、
前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、
前記培養面と接触しない位置に前記スクレーパーを保持するスクレーパー保持部と、を有する、細胞剥離システム。
【請求項12】
前記スクレーパー保持部に保持された前記スクレーパーを前記培養面に移動させるスクレーパー移動手段を有する、請求項11に記載の細胞剥離システム。
【請求項13】
前記培養面に付着した細胞の状態に関する情報を取得する撮像部を有する、請求項12に記載の細胞剥離システム。
【請求項14】
前記撮像部が取得した情報に基づいて、前記スクレーパー移動手段により前記スクレーパーを前記スクレーパー保持部から前記培養面に移動させるように構成された情報処理部を有する、請求項13に記載の細胞剥離システム。
【請求項15】
前記細胞が接着細胞である、請求項11に記載の細胞剥離システム。
【請求項16】
請求項11から15のいずれか一項に記載の細胞剥離システムと、前記培養面を有する培養容器とを有する、細胞培養システム。
【請求項17】
細胞培養手段を有する、請求項16に記載の細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞剥離システムおよび細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
接着細胞の培養において、細胞剥離という工程がある。一般的に剥離の際には酵素で細胞間接着を弱らせたのち、スクレーパー等で物理的に剥がす手法が行われている。また、細胞培養は雑菌、他サンプル細胞等の混入を防ぐ為にクリーンなエリアで実施する必要がある。実際にクリーンなエリアで培養容器内に細胞を播種し、培地を給排水するシステムがいくつも開発されている。このようなシステムにて細胞を剥離する際、スクレーパーを容器内に挿入し、培養面をこする必要が生じるが、細胞とスクレーパーとスクレーパーを保持し操作する駆動系が同空間に存在することになり、駆動系も含めクリーンなエリアを準備する必要が生じている。このことは低コスト化を妨げる要因となっている。
【0003】
この課題を解決する為に、閉鎖容器内に磁性体の三角柱のスクレーパーを設置し、閉鎖容器外部から磁力でスクレーパーを駆動することで、容器内をクリーンに保ちつつ、細胞をスクレーパーで剥離するシステムが開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、培養容器内に三角柱の形状をしたスクレーパーを1つ設置しただけのシンプルな培養システムを実現している。しかし、単純に培養容器内にスクレーパーを設置しただけでは、培養中の細胞にスクレーパーが接触し剥がしてしまうおそれがあるという課題がある。例えば、特許文献1では、通常スクレーパーは容器内で固定されておらず、培地交換時の容器の傾けや水流によって容器内を動き、その際に、スクレーパーの培養面接触部によって培養中の細胞を剥がしてしまうことが考えられる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、細胞培養中にスクレーパーが細胞に接触しないか、接触したとしても摩擦が抑制され、培養時において細胞が受けるダメージを低減しつつ、閉鎖系を保った状態でスクレーパーにより細胞を剥離できる細胞剥離システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、を有し、前記スクレーパーは、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、前記磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、前記付着した細胞を剥離するように前記スクレーパー位置制御手段により移動する、細胞剥離システムである。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、上記細胞剥離システムと、前記培養面を有する培養容器とを有する、細胞培養システムが提供される。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、前記培養面と接触しない位置に前記スクレーパーを保持するスクレーパー保持部と、を有する、細胞剥離システムが提供される。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、上記細胞剥離システムと、前記培養面を有する培養容器とを有する、細胞培養システムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
細胞培養中の細胞への物理的ダメージを低減しつつ、閉鎖系を保ったままスクレーパーにより細胞を剥離できる細胞剥離システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの例における(a)全体構成の概略を示す斜視図、(b)スクレーパーで培養面に付着した細胞を剥離する時の状態を示す斜視図である。
【
図2】本発明における球形状のスクレーパーが凹曲面を有する培養面に設置された様子を示す斜視図である。
【
図3】本発明における円柱状または円筒状のスクレーパーの例を示す図であって、(a)磁性体からなる円柱状のスクレーパーを示す斜視図、(b)中心部に磁性体を用い、周辺部に非磁性体を用いた円柱状のスクレーパーを示す斜視図、(c)磁性体からなる円筒状のスクレーパーを示す斜視図である。
【
図4】(a)従来技術におけるスクレーパーが外力により細胞に接触しながら移動する様子を示す模式図、(b)本発明におけるスクレーパーが外力により細胞に接触しながら移動する様子を示す模式図、(c)本発明におけるスクレーパーが細胞を剥離する様子を示す模式図である。
【
図5】培養容器内にスクレーパー保持部が設置された、本発明に係る細胞剥離システムの例を示す模式図であって、(a)スクレーパー保持部が傾斜を有する細胞剥離システムにおける細胞培養中の状態を示す図、(b)上記細胞剥離システムにおいて、細胞培養後、スクレーパーを培養面に移動させる様子を示す図、(c)スクレーパーを磁石で引き付けて保持する細胞剥離システムにおける細胞培養中の状態を示す図、(d)上記細胞剥離システムにおいて、細胞培養後、スクレーパーを培養面に移動させる様子を示す図である。
【
図6】培養容器外にスクレーパー保持部が設置された、本発明に係る細胞剥離システムの例を示す図であって、(a)細胞培養中の状態を示す模式図、(b)細胞培養後、スクレーパーを培養面に移動させる様子を示す模式図である。
【
図7】第1の実施形態に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図である。
【
図8】第2の実施形態に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図であって、(a)スクレーパーを培養面に移動させる前の様子を示す図、(b)スクレーパーを培養面に移動させる様子を示す図、(c)スクレーパーの培養面への移動が完了した様子を示す図である。
【
図9】第2の実施形態に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図であって、(a)スクレーパーを培養面に移動させる前の様子を示す図、(b)スクレーパーを培養面に移動させる様子を示す図、(c)スクレーパーの培養面への移動が完了した様子を示す図である。
【
図10】第3の実施形態に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図であって、(a)スクレーパーを培養面に移動させる前の様子を示す図、(b)スクレーパーを培養面に移動させる様子を示す図、(c)スクレーパーの培養面への移動が完了した様子を示す図である。
【
図11】第4の実施形態に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図であって、(a)スクレーパーを培養面に移動させる前の様子を示す図、(b)スクレーパーを培養面に移動させる様子を示す図、(c)スクレーパーの培養面への移動が完了した様子を示す図である。
【
図12】本発明に係る細胞剥離システムの構成例を示すブロック図である。
【
図13】本発明における情報処理部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る細胞剥離システムは、培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、を有し、前記スクレーパーは、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、前記磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、前記付着した細胞を剥離するように前記スクレーパー位置制御手段により移動する。
【0014】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。本明細書において、「外力」は磁力以外の力を指し、例えば培養容器の移動時にかかる重力や慣性力、水流を含む。「試液等」は、培地や酵素液、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、および細胞懸濁液等を指す。以下の説明においては接着細胞を例として説明するが、本発明に係る細胞剥離システムおよび細胞培養システムは接着細胞以外にも適用することができる。
【0015】
(システムの構成)
まず、本発明に係る細胞剥離システムおよび細胞剥離システムを有する細胞培養システムについて
図1を用いて説明する。
図1(a)は、本発明に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの例における全体構成の概略を示す斜視図である。101は表面に細胞を付着させ増殖させることができる培養面である。102は培養面101を有し液体を保持することができる培養容器である。103は培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーである。スクレーパー103は矢印方向に摺動する。104はスクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段である。105は磁場付与手段を制御することで、スクレーパー103の培養容器102内での位置を制御するスクレーパー位置制御手段である。スクレーパー103は、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、磁場付与手段104により磁場が付与された状態では回転せずに、培養面101に付着した細胞を剥離するようにスクレーパー位置制御手段105により移動する。培養容器102の壁面には、培養容器102に差し込まれた、培地等の出し入れができる給排水口106が存在する。培養容器102の上面は閉じられており、給排水口106を介して外部と接続されている。給排水口106は複数設けることができ、それぞれチューブ(不図示)と接続され、当該チューブを介して培地やPBS等の試液等の保存容器(不図示)と無菌状態で接続されている。なお、培養容器の上面を広い開口とし、試液等の注入を当該間口から行い、蓋を締めることで閉鎖系にすることも可能であるが、当該注入の際に外部からの異物混入を防ぐ観点から、
図1(a)に示すように給排水口を設け、狭まれた開口部とすることが好ましい。培養容器102は、細胞培養手段としてインキュベータ(不図示)を用意し、その中に設置することができる。
【0016】
図1(b)は、本発明に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムにおいて、スクレーパー103で培養面101に付着した細胞を剥離する時の状態を示す斜視図である。
図1(b)において、培養面101におけるハッチングで示す部分は、細胞が付着していることを示す。磁場付与手段104により磁場の付与されたスクレーパー103がスクレーパー位置制御手段105により制御され、培養面101上を摺動しながら移動することで、培養面101に付着した細胞を剥離することができる。
【0017】
(培養容器)
本発明に係る細胞培養システムは、本発明に係る細胞剥離システムと、培養面を有する培養容器とを有することができる。
【0018】
培養面は細胞が付着し、かつ増殖することができる培養基板であり、観察が容易な透明な素材が好ましい。素材としては加工、および観察が容易な透明な樹脂やガラス等が好適である。樹脂であればポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル等が利用できる。観察の際の光路を遮らないのであれば透明に限定されるものではないが、一部の金属のように磁性を有する材料は適さない。培養面は、培養容器の一部または全部を構成していてもよいし、培養容器とは別に設けることもできる。作成のコストや容易性の面から、培養容器と同じ素材で、培養容器の一部を構成するのが好ましい。
【0019】
培養面にのみ細胞が付着しやすくなるように、培養面に対しプラズマ処理等の表面処理を施しておくことが好ましい。
【0020】
培養容器は細胞を培養するための培地を保持する容器である。素材としては加工、および観察が容易な透明な樹脂やガラス等が好適である。樹脂であればポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル等が利用できる。観察の際の光路を遮らないのであれば透明に限定されるものではないが、一部の金属のように磁性を有する材料は適さない。培養容器は外部からの異物混入を防ぎ、所定の温度や湿度を確保できる観点から、閉鎖系であることが好ましい。
【0021】
(スクレーパー)
本発明に係る細胞剥離システムは、培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーを有する。
【0022】
スクレーパーは磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、付着した細胞を剥離するようにスクレーパー位置制御手段により移動するものとすることができる。ここでの「回転」は、外力により回転することを指し、連続的に回転し続けることだけでなく、間欠的に回転することを含む。具体的には、一定距離を回転しながら移動し、その後回転せず摺動しながら移動し、再度回転しながら移動することを含む。磁場が付与されていない状態ではスクレーパーが回転しながら移動できることにより、細胞培養中に培養容器に外力が加わった際、スクレーパーが培養面の上を回転することができる。これにより、スクレーパーから受ける培養中の細胞に対する摩擦力を抑制することができる。この場合、培養中の細胞へのダメージを低減することができ、簡易で低コストの細胞剥離システムとすることができる。そして、スクレーパーが磁場付与手段により磁場が付与された状態においてスクレーパー位置制御手段により回転せずに移動することができることにより、細胞剥離時には磁場を付与して細胞を剥離することができる。
【0023】
スクレーパーの形状は、培養面上で回転可能であれば制限されず、正多面体や切頂多面体等の多面体状、球形状、楕円体状、円柱状および円筒状等が挙げられる。多面体状の例としては、二十面以上を有する正多面体やその切頂多面体等が挙げられる。中でも、スクレーパーの形状は、例えば球形状、楕円体状、円柱状または円筒状のような、スクレーパーの培養面に接する面が曲面を有する形状や、スクレーパーの培養面に接する面が曲面のみからなる形状であることが好ましい。このような形状のスクレーパーを用いた場合、スクレーパーの曲面である面が培養面に接するように配置されることが想定される。本発明においてスクレーパーが円柱状である場合には、直円柱および楕円柱である場合が含まれる。また、本発明においてスクレーパーが楕円体状である場合には、楕円体のx軸、y軸、z軸の長さをそれぞれa、b、cとしたとき、a/b、b/c、c/aがいずれも1/3以上3以下である楕円体とすることができる。本発明においてスクレーパーが楕円柱状である場合には、楕円形である面の短径と長径の比率を短径:長径=a:bとおき、aを1としたときbが1より大きく3以下となるような形状とすることができる。
【0024】
培養面が平面である場合、例えばスクレーパーの形状が円柱状または円筒状であるとき、培養面とスクレーパーの接触領域は直線となる。細胞剥離時にはこの接触領域を維持しながらスクレーパーを移動させることで、接触領域の通過した培養面の細胞を剥離することができる。スクレーパーの培養面との接触領域は、線や面であることが好ましい。
【0025】
また、本発明における培養面が凹曲面を有する場合、スクレーパーの形状は球形状または楕円体状とすることが好ましい。培養面が凹曲面基板であることは、平面基板である場合に比べ培養容器の単位体積当たりの培養面積が増やせるメリットがある。
図2は本発明における球形状のスクレーパー103が凹曲面を有する培養面101に設置された様子を示す斜視図である。培養面が凹曲面やチューブ面の場合、凹曲面やチューブ面に沿うような球形状、楕円体状のスクレーパーを用いることができる。例えば直径1mmの曲率の凹曲面基板を培養面とし、当該培養面上に細胞を培養する場合、直径1mmの球体や、長軸、短軸または奥行き(x軸、y軸、z軸)のいずれかが1mmの楕円体のスクレーパーを用いることが好ましい。
【0026】
スクレーパーは磁性を有する材料を含み、特に強度のある磁性を有する金属を含むことが好ましい。また、磁性粒子を練りこんだ樹脂材等も利用できる。スクレーパーの中心部と周辺部を異なる部材で形成することも有効である。例えば中心部は磁性を有する金属を用い、周辺部として磁性を有しない、クッション性のあるゴム部材で覆うことも有効である。ゴム部材で覆うことで腐食しやすい磁性体金属を利用することもできるし、クッション性により剥離時のスクレーパーの密着性が上がり剥離性能を向上させることが可能となる。また、中空のスクレーパーも利用できる。本発明におけるスクレーパーが円筒状である場合には、直円柱または楕円柱が中空である場合を含む。スクレーパーの形状が球形状または楕円体状である場合には、中空の球形状または楕円体状である場合を含む。中空のスクレーパーを使用することで、細胞剥離時に押し出された液体や剥離細胞が中空の空間内に入り込み、スクレーパーの進路が妨害されることなくスムーズにスクレーパーを移動させることができる。また、スクレーパーを軽量化することができ、培養中の細胞にスクレーパーが接触した場合に細胞へのダメージをさらに低減できる。
【0027】
図3に円柱状または円筒状のスクレーパーの例を示す。
図3(a)は磁性体からなる円柱状のスクレーパーを示す斜視図、(b)は中心部に磁性体を用い、周辺部に非磁性体を用いた円柱状のスクレーパーを示す斜視図、(c)は磁性体からなる円筒状のスクレーパーを示す斜視図である。
図3中、mで示す部分は磁性体であることを示し、nで示す部分は非磁性体であることを示し、hで示す部分は中空であることを示す。
【0028】
(磁場付与手段)
磁場付与手段はスクレーパーに対して磁場を付与するものである。これには磁石が利用でき、永久磁石や電磁石が利用できる。永久磁石にはフェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石等が使用できる。磁場付与手段として永久磁石を用いた場合、細胞剥離を行わない培養時にも、磁場付与手段によってスクレーパーに磁場が付与されることがある。この場合、細胞培養時にはスクレーパーが固定されるため、細胞に与えるダメージを低減することが容易となる。
【0029】
(スクレーパー位置制御手段)
スクレーパー位置制御手段は磁場付与手段を制御することでスクレーパーの位置を制御するものである。スクレーパー位置制御手段により、スクレーパーを培養面上で摺動させることができる。培養面が平面の場合は、培養面に沿って磁場付与手段を2次元方向に移動させることが好ましい。スクレーパーが培養面の幅を覆うのに十分な長さを有する場合、スクレーパー位置制御手段として1軸のステージを利用することができる。また、スクレーパーの長さが培養面の幅に対して短い場合、スクレーパー位置制御手段として2軸のステージを利用することが好ましい。
【0030】
(スクレーパーの動き)
図4に示すのはスクレーパーの細胞への接触の様子である。100は細胞を示す。スクレーパーのような部材が培養面上に固定されずに設置された場合、培養中において培地交換等の際に外力(例えば重力や水流)によりスクレーパーは培養面上を移動する。
図4(a)は従来技術における、角ばった形状を有し培養面上を回転しないスクレーパー403が磁性のかからない状態で外力により培養面101上を移動する際の細胞100の様子を示す図である。スクレーパー403が培養面101上を引きずるような形態となり、意図しないタイミング、培養時期に細胞100を剥がしてしまいやすくなる。
図4(b)は本発明におけるスクレーパー103が磁性のかからない状態で培養面101上を移動する際の細胞100の様子を示す図である。スクレーパー103が培養面101上を回転しながら移動する為、摩擦力が小さく低減され、
図4(a)のように意図せず剥がしてしまう細胞100の量を抑えることができる。
図4(c)は本発明におけるスクレーパー103が磁性をかけられた状態で培養面101上を移動する際の細胞100の様子を示す図である。スクレーパー103が磁場付与手段104により磁極の方向で固定されることで培養面101上を引きずるような形態となり、細胞100を剥がすことができる。
【0031】
このように、本発明におけるスクレーパーは、磁場が付与されていない状態では培養面上を回転しながら移動し、培養面に設置された際にも培養中は細胞へのダメージを低減しつつ、剥離時は磁性をかけることで細胞を剥がすことが可能となっている。
【0032】
スクレーパーの位置を制御する方法としては、磁場付与手段をスクレーパー位置制御手段に固定し、スクレーパー位置制御手段を動かすことで磁場付与手段を動かし、それによって磁場が付与されたスクレーパーを動かすことができる。
【0033】
(スクレーパー保持部とスクレーパー移動手段)
本発明に係る細胞剥離システムは、培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、磁場付与手段を制御することでスクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、を有し、スクレーパーは、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、付着した細胞を剥離するようにスクレーパー位置制御手段により移動する、細胞剥離システムであって、培養面と接触しない位置にスクレーパーを保持するスクレーパー保持部を有する細胞剥離システムとすることができる。
【0034】
また、本発明に係る細胞剥離システムは、培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、磁場付与手段を制御することでスクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、培養面と接触しない位置にスクレーパーを保持するスクレーパー保持部と、を有する、細胞剥離システムとすることができる。
【0035】
また、本発明に係る細胞剥離システムは、スクレーパー保持部に保持されたスクレーパーを培養面に移動させるスクレーパー移動手段を有する、細胞剥離システムとすることができる。
【0036】
スクレーパーが培養中の細胞へのダメージとならない工夫は重要である。その対応として、細胞培養中は培養面とは異なる位置にスクレーパーを保持しておくためのスクレーパー保持部を設けることは有効である。スクレーパー保持部の形態としては、例えば、培養容器内にスクレーパー保持部を有する形態や培養容器外にスクレーパー保持部を有する形態が挙げられる。培養容器内にスクレーパー保持部を有する形態としては、例えば培養容器内に空間と傾斜を設けてスクレーパーを保持してもよいし、磁石によりスクレーパーを保持してもよい。培養容器外にスクレーパー保持部を有する形態としては、例えば培養容器外に箱状のスクレーパー保持部を設ける形態が挙げられる。細胞剥離システムがスクレーパー保持部を有する場合、スクレーパー保持部に保持されたスクレーパーを培養面に移動させるスクレーパー移動手段を有することが好ましい。例えば、磁石を用いてスクレーパー移動手段としてもよいし、開閉可能な蓋や弁等を用いてスクレーパー移動手段としてもよい。以下、スクレーパー保持部およびスクレーパー移動手段について
図5、
図6を用いて説明する。なお、スクレーパー保持部とスクレーパー移動手段の形態は以下に示す形態に限らない。培養面と接しない位置にスクレーパーを保持できるようなスクレーパー保持部が設けられ、スクレーパー移動手段により培養面にスクレーパーを移動できる形態であれば利用できる。
【0037】
図5は培養容器102内にスクレーパー保持部107が設置された細胞剥離システムの例を示す模式図である。
図5(a)はスクレーパー保持部107が傾斜を有する細胞剥離システムにおける細胞培養中の状態を示す図である。細胞100の培養中はスクレーパー保持部107が傾斜を有することによってスクレーパー103が培養面101に移動することを防ぐ。これにより培養中の細胞100を剥がしてしまうこともない。剥離の際にはスクレーパー移動手段108を用いて、スクレーパー103を培養面101へ移動させる。スクレーパー移動手段108としては可動ステージ等を用いることができるが、細胞剥離システムが撮像部を有するときは、スクレーパー移動手段108が撮像部による撮像を妨害しないよう配置することが好ましい。
図5(b)は上記細胞剥離システムにおいて、細胞培養後、スクレーパー103を培養面101に移動させる様子を示す図である。この形態の場合、スクレーパー103が磁場が付与されていない状態では回転しながら移動することができる形状であると、スクレーパー移動手段108を動かすことにより培養容器102を傾けるだけでスクレーパー103を培養面101に移動することができる。
【0038】
また、スクレーパー移動手段108として磁石を用いることができる。
図5(c)はスクレーパー103を磁石で引き付けて保持する細胞剥離システムにおける細胞培養中の状態を示す図である。培養中はスクレーパー103を磁石であるスクレーパー移動手段108で引き付けることでスクレーパー保持部107に確保する。
図5(d)は上記細胞剥離システムにおいて、細胞培養後、スクレーパー103を培養面101に移動させる様子を示す模式図である。細胞剥離の際に、スクレーパー移動手段108の磁力を解除することでスクレーパー103を培養面101へ移動させることができる。
【0039】
図6は培養容器102の外部にスクレーパー保持部107が設置された細胞剥離システムの例を示す図である。
図6(a)は上記細胞剥離システムの細胞培養中の状態を示す模式図である。培養容器102とスクレーパー103を保持するスクレーパー保持部107はチューブ111を介して接続されている。上記構成により、閉鎖系を保ったままスクレーパー103により細胞を剥離することができる。チューブ111にはスクレーパー移動手段108として弁が設けられ、培養中はスクレーパー移動手段108を閉じることでスクレーパー103をスクレーパー保持部107に留めておくことができる。
【0040】
図6(b)は、細胞培養後、スクレーパー103を培養面101に移動させる様子を示す模式図である。培養中は
図6(a)に示すようにスクレーパー103はスクレーパー保持部107に確保されることで培養中に細胞100を剥がすことはない。剥離の際にはスクレーパー移動手段108を開いてスクレーパー103をチューブ111内に通過させることで培養面101へ移動させることができる。なお、スクレーパー保持部107に給水口を接続し、それらを介して一部試液等の注入を行うこともできる。チューブ111中のスクレーパー103の移動方法としては培地やPBS等の液体を一緒に流すことで実現できるし、単純に重力で移動させることができる。なお、スクレーパー103が面上を回転可能な形状であると、チューブ111内を通過する際にスクレーパー103が引っかかりにくくなる。
【0041】
(撮像部)
本発明に係る細胞剥離システムは、培養面に付着した細胞の状態に関する情報を取得する撮像部を有することができる。撮像部としては、例えばCMOSカメラやCCDカメラが挙げられる。撮像部を用いて、例えば培養面に占めるコロニーの面積といった培養面に付着した細胞の状態に関する情報を取得し、所望の量の細胞が培養されたかの判断を行うことができる。また、撮像部で取得した画像から細胞の付着領域を確認し、付着領域にスクレーパーを移動させ、所望の領域の細胞を剥離する処理を組み込むことも効果的である。
【0042】
(情報処理部)
本発明に係る細胞剥離システムは、情報処理部を有することができる。特に、本発明に係る細胞剥離システムは、撮像部が取得した情報に基づいて、スクレーパー移動手段によりスクレーパーをスクレーパー保持部から培養面に移動させるように構成された情報処理部を有することができる。
図12は、撮像部110および情報処理部113を有する、本発明に係る細胞剥離システムの構成例を示すブロック図である。情報処理部113は、培養面に付着した細胞の状態に関する情報、特に、例えば撮像部110で取得した培養面に付着した細胞の状態に関する情報を処理することができる。また、例えば細胞剥離時にスクレーパー103を移動させるためのスクレーパー位置制御手段105の制御を行うことができる。また、例えば磁場付与手段104が電磁石等である場合には、スイッチのオンオフを切り替えることができる。また、例えば細胞剥離時にスクレーパー保持部からスクレーパー移動手段108を用いてスクレーパー103を培養面に移動させる指示を行うことができる。上記指示は、例えば撮像部110で取得した培養面に占めるコロニーの面積等の情報に基づいて、所望の量の細胞が培養されたかの判断を行った上ですることができる。また、例えば撮像部110で取得した培養面に占めるコロニーの面積の情報に基づいて、所望の量の細胞が培養されたかの判断を行い、培養を継続させる指示または培養を終了し細胞剥離へと移行させる指示を行うことができる。なお、増殖速度が安定している細胞の場合、情報処理部113を用いてあらかじめ規定の培養時間経過後に細胞剥離を開始するよう設定し、当該培養時間の経過後に細胞剥離を行う指示をすることもできる。また、例えば撮像部110で取得した画像から細胞の付着領域を確認し、スクレーパー位置制御手段105を用いて付着領域にスクレーパー103を移動させ、所望の領域の細胞を剥離する処理を行う指示をすることができる。
【0043】
図13は、本発明における情報処理部113のハードウェア構成例を示すブロック図である。情報処理部113は、コンピュータの機能を有する。例えば、情報処理部113は、デスクトップPC(Personal Computer)、ラップトップPC、タブレットPC、スマートフォン等と一体に構成されていてもよい。情報処理部113は、演算および記憶を行うコンピュータとしての機能を実現するため、CPU(Central Processing Unit)200、RAM(Random Access Memory)201、ROM(Read Only Memory)202およびHDD(Hard Disk Drive)203を備える。また、情報処理部113は、通信I/F(インターフェース)204、表示装置205、および入力装置206を備える。CPU200、RAM201、ROM202、HDD203、通信I/F204、表示装置205、および入力装置206は、バス207を介して相互に接続される。なお、表示装置205および入力装置206は、これらの装置を駆動するための不図示の駆動装置を介してバス207に接続されてもよい。
【0044】
図13では、情報処理部113を構成する各部が一体の装置として図示されているが、これらの機能の一部は外付け装置により構成されていてもよい。例えば、表示装置205および入力装置206は、CPU200等を含むコンピュータの機能を構成する部分とは別の外付け装置であってもよい。
【0045】
CPU200は、RAM201、HDD203等に記憶されたプログラムに従って所定の動作を行うとともに、情報処理部113の各部を制御する機能をも有する。RAM201は、揮発性記憶媒体から構成され、CPU200の動作に必要な一時的なメモリ領域を提供する。ROM202は、不揮発性記憶媒体から構成され、情報処理部113の動作に用いられるプログラム等の必要な情報を記憶する。HDD203は、不揮発性記憶媒体から構成され、細胞の状態に関する情報等の記憶を行う記憶装置である。
【0046】
通信I/F204は、Wi-Fi(登録商標)、4G等の規格に基づく通信インターフェースであり、他の装置との通信を行うためのモジュールである。表示装置205は、液晶ディスプレイ、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等であって、動画、静止画、文字等の表示に用いられる。入力装置206は、ボタン、タッチパネル、キーボード、ポインティングデバイス等であって、利用者が情報処理部113を操作するために用いられる。表示装置205および入力装置206は、タッチパネルとして一体に形成されていてもよい。
【0047】
なお、
図13に示されているハードウェア構成は例示であり、これら以外の装置が追加されていてもよく、一部の装置が設けられていなくてもよい。また、一部の装置が同様の機能を有する別の装置に置換されていてもよい。さらに、一部の機能がネットワークを介して他の装置により提供されてもよく、構成する機能が複数の装置に分散されて実現されるものであってもよい。例えば、HDD203は、フラッシュメモリ等の半導体素子を用いたSSD(Solid State Drive)に置換されていてもよく、クラウドストレージに置換されていてもよい。
【0048】
CPU200は、ROM202等に記憶されたプログラムをRAM201にロードして実行することにより、種々の機能を実現する。また、CPU200は、表示装置205を制御する。また、CPU200は、HDD203を制御する。
【0049】
(細胞培養システム)
本発明に係る細胞培養システムは、本発明に係る細胞剥離システムと、培養面を有する培養容器とを有する細胞培養システムである。また、本発明に係る細胞培養システムは、細胞培養手段を有することができる。細胞培養手段としては、例えば、細胞培養システム全体を37℃に保つ保温部や、CO2雰囲気下に保つ手段、湿度を95%に保つ手段が挙げられる。具体的には、培養容器全体を温度37度、CO2濃度5%、湿度95%に維持するインキュベータが挙げられる。また、以下の実施形態においては、チューブを用いた給排水口により細胞を播種し、培養するが、ピペットを用いて細胞を播種することもできる。
【0050】
以上のシステムを用いることで、細胞培養中に細胞への物理的ダメージを極力低減しつつ、閉鎖系を保ったままスクレーパーにより細胞を剥離できる細胞剥離システムを提供することができる。
【0051】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態の細胞剥離システムおよび上記細胞剥離システムを有する細胞培養システムについて説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
【0052】
図7は本実施形態の細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図である。本システムはポリスチレン製の直方体の閉鎖容器である培養容器102に、ポリスチレン製の筒状の給排水口106が隅に複数設置されている。また上面にはCO
2等の気体が通過できるメンブレンフィルタ109が設置されている。メンブレンフィルタ109が設置された部分および給排水口106が設置されている部分を除いて、培養容器102の上面は閉じられており、給排水口106を介して外部と接続されている。また、培養容器102内側の下面は培養面101となっており、細胞が付着できるような表面処理がなされている。培養容器102内には直径1mm、長さ5mmの円柱状のSUS440製の金属棒がスクレーパー103として設置される。培養容器102の下側には磁場付与手段104として電磁石が配置され、磁場付与手段104は2軸の自動ステージであるスクレーパー位置制御手段105に設置される。また、培養容器102の下側中央部には培養面101を観察できる撮像部110としてCMOSカメラが設置される。
【0053】
本システムを用いた実際の細胞の培養と剥離の手順を説明する。
(初期設定)
給排水口106を3つ準備し、それぞれにシリコンチューブ(不図示)を取り付ける。1つ目は培地用容器、剥離時の酵素液用容器、PBS用容器、および培養前の細胞が混入された細胞懸濁液用容器に、2つ目は廃液をためる廃棄容器に、3つ目は剥離された細胞を含む細胞懸濁液をためる回収容器(すべて不図示)に、それぞれ接続できる。シリコンチューブにはそれぞれの容器と接続するための継ぎ手(不図示)が設けられる。1つ目の給排水口106に接続するシリコンチューブは試液等の種類に対応して分岐されており、弁によって開閉を切り換えることができる。これらシリコンチューブが接続された培養容器102全体に対しガンマ線で滅菌処理を行う。
【0054】
細胞培養を開始する際には各シリコンチューブと試液等の入った各容器、廃棄容器、回収容器とを接続する。なお、この際無菌接続する必要がある。接続後、各チューブをチューブポンプ(不図示)に接続する。
【0055】
各試液等の容器から培養容器102への送液、および培養容器102から廃棄容器および回収容器への液体の送液は各チューブポンプで実施する。なお、送液するためのアクチュエータとして、本実施形態ではチューブポンプを用いたが、閉鎖系を実現できるアクチュエータであればチューブポンプ以外でも使用できる。最後に、各試液等の容器等を除く細胞培養システム全体を温度37度、CO2濃度5%、湿度95%に維持するインキュベータ(不図示)内に設置する。
【0056】
(細胞培養)
まず、給排水口106を介して、培地、細胞外マトリックス、および培養する細胞の混合液である細胞懸濁液を培養容器102へ送液する。細胞懸濁液の量は培養面101全域に浸る程度である。その後インキュベータ内にて一定期間保管する。時々培地交換を実施するが、その際は培養容器102内の培地を廃棄容器へ移動させたのち、新しい培地を培養容器内へ移動させる。この培地交換の頻度は培養する細胞に合わせて設定するのが好ましい。所望の量だけ細胞が増殖されるまで培地交換とインキュベータ内での保管を維持する。なお、所望の量の細胞が培養されたかの判断は、撮像部110を用いて培養面に占めるコロニーの面積から判断することができる。また、情報処理部(不図示)を設け、自動で当該判断を行うことができる。なお撮像部110としてCMOSカメラを使用しているが、CCDカメラを使用することも可能である。
【0057】
(細胞剥離)
所望の量の細胞が培養されたのち、細胞を剥離する。細胞剥離のタイミングは撮像部110で取得された培養面101に付着した細胞の画像から判断する。コロニーの専有面積が所定以上になったタイミングを剥離タイミングに決めるのが効果的である。情報処理部(不図示)を設け、自動で当該判断を行い、細胞剥離へ移行する指示を行うこともできる。なお、増殖速度が安定している細胞の場合、規定の培養時間を剥離のタイミングに設定するのも可能である。情報処理部を設けた場合は、規定の培養時間の経過後自動で細胞剥離に移行するよう設定することもできる。
【0058】
まず、給排水口106を介して培養容器102内の培地を廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介してPBSを培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液する。そして、給排水口106を介して培養容器102内のPBSを廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介してトリプシン等の酵素液を培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液し、一定時間37度のインキュベータ内にて維持する。その後、給排水口106を介して培養容器102内の酵素液を廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介して培地を培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液する。
【0059】
その後、電磁石である磁場付与手段104をONにし、2次元ステージであるスクレーパー位置制御手段105にて磁場付与手段104が培養面101下側の全域を2回通過するように駆動させる。培養開始前にはスクレーパー103は自由に培養面101上を移動できるため、培養開始時にスクレーパー103が磁場付与手段104の付近にあるとは限らないが、1回目の通過の際に、スクレーパー103が確実に磁場付与手段104の磁力に確保される。その為、2回通過させることでスクレーパー103は確実に一回は培養面101の全域を通過し、培養面101に付着した細胞のほぼ全部を剥がすことができる。なお、撮像部110で取得した画像から細胞の付着領域を確認し、付着領域にスクレーパー103を移動させ、所望の領域の細胞を剥離する処理を組み込むことも効果的である。この処理は手動で行ってもよいし、情報処理部を用いて自動で行ってもよい。
【0060】
(細胞回収)
培養容器102内には培地と剥離された細胞の懸濁液が存在する。チューブポンプを稼働し、給排水口106を介して細胞懸濁液を回収容器へ移動させる。なお、この際給排水口106の設置されている側が低くなるように培養容器102を傾けることでより効率よく細胞懸濁液を回収することができるので効果的である。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、磁場付与手段を制御することでスクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、を有し、スクレーパーは、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、付着した細胞を剥離するようにスクレーパー位置制御手段により移動する、細胞剥離システムおよびこれを有する細胞培養システムを提供することができる。
【0062】
なお、本実施形態ではiPS細胞を用いて検証したが、接着細胞であればほとんどの細胞が利用できる。その際、培地、試薬の種類や剥離のタイミングは各細胞の特徴と、実施するプロトコールに合わせ適宜変更すればよい。
【0063】
[第2の実施形態]
以下、第2の実施形態の細胞剥離システムおよび上記細胞剥離システムを有する細胞培養システムについて説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
【0064】
図8は本実施形態の細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図である。
図8(a)はスクレーパー103を培養面101に移動させる前の様子を示す図である。
【0065】
本システムはポリスチレン製の閉鎖容器である培養容器102に、ポリスチレン製の筒状の給排水口106が隅に複数設置されている。また上面にはCO2等の気体が通過できるメンブレンフィルタ109が設置されている。また、培養容器102内側の下面は培養面101となっており、細胞が付着できるような表面処理がなされている。培養容器102には、培養面101とは接触しない位置に、スクレーパー103が培養面101へ容易に移動できないような傾斜壁が設けられたスクレーパー保持部107が設けられている。
【0066】
培養容器102内のスクレーパー保持部107には直径1mm、長さ5mmの円柱状のSUS440製の金属棒がスクレーパー103として設置される。培養容器102の外側には電磁石である磁場付与手段104が配置され、磁場付与手段104は2軸の自動ステージであるスクレーパー位置制御手段105に設置される。また、培養容器102の培養面101の下側中央部には培養面101を観察できる撮像部110としてCMOSカメラが設置される。培養容器102の下部には可動ステージであるスクレーパー移動手段108が設置される。
【0067】
本システムにおける(初期設定)、(細胞培養)、(細胞回収)の工程は第1の実施形態と同じであるため省略し、(細胞剥離)の工程のみ説明する。
【0068】
(細胞剥離)
所望の量の細胞が培養されたのち、細胞を剥離する。細胞剥離のタイミングは撮像部110で取得された培養面101に付着した細胞の画像から判断する。コロニーの専有面積が所定以上になったタイミングを剥離タイミングに決めるのが効果的である。情報処理部(不図示)を設け、自動で当該判断を行い、細胞剥離へ移行する指示を行うこともできる。なお、増殖速度が安定している細胞の場合、規定の培養時間を剥離のタイミングに設定するのも可能である。情報処理部を設けた場合は、規定の培養時間の経過後自動で細胞剥離に移行するよう設定することもできる。
【0069】
まず、給排水口106を介して培養容器102内の培地を廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介してPBSを培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液する。そして、給排水口106を介して培養容器102内のPBSを廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介してトリプシン等の酵素液を培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液し、一定時間37度のインキュベータ内にて維持する。その後、給排水口106を介して培養容器102内の酵素液を廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介して培地を培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液する。
【0070】
そして、スクレーパー移動手段108を駆動させ、
図8(b)に示すように培養容器102を傾け、スクレーパー103を培養面101側へ移動させた後、
図8(c)に示すように培養容器102を水平に戻す。スクレーパー移動手段108の駆動は、手動で行ってもよいし、情報処理部を用いて自動で行うこともできる。
【0071】
その後、第1の実施形態と同様、電磁石である磁場付与手段104をONにし、2次元ステージであるスクレーパー位置制御手段105を駆動させて磁場付与手段104が培養面101下側の全域を2回通過するように駆動させる。第1の実施形態同様、1回目の通過の際に、スクレーパー103が確実に電磁石の磁力に確保される。その為、磁場付与手段104を2回通過させることでスクレーパー103が確実に一回は培養面101の全域を通過し、培養面101に付着した細胞のほぼ全部を剥がすことができる。
【0072】
また、例えば、
図9に示すように、スクレーパー移動手段108として電磁石を利用した細胞剥離システムを有する細胞培養システムとすることもできる。
図9は第2の実施形態に係る細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図であって、(a)はスクレーパー103を培養面101に移動させる前の様子を示す図である。
【0073】
本システムはポリスチレン製の閉鎖容器である培養容器102に、ポリスチレン製の筒状の給排水口106が隅に複数設置されている。また上面にはCO2等の気体が通過できるメンブレンフィルタ109が設置されている。また、培養容器102内側の下面は培養面101となっており、細胞が付着できるような表面処理がなされている。培養容器102には、培養面101とは接触しない位置に、傾斜壁を有し、スクレーパー103を保持するスクレーパー保持部107が設けられ、スクレーパー保持部107の近傍には電磁石であるスクレーパー移動手段108が設けられている。
【0074】
培養容器102内には直径1mm、長さ5mmの円柱状のSUS440製の金属棒がスクレーパー103としてスクレーパー保持部107に設置される。培養容器102の外側には電磁石である磁場付与手段104が配置され、磁場付与手段104は2軸の自動ステージであるスクレーパー位置制御手段105に設置される。また、培養容器102の培養面101の下側中央部には培養面101を観察できる撮像部110としてCMOSカメラが設置される。
【0075】
培養面101に向けた傾斜が設けられたスクレーパー保持部107付近にスクレーパー移動手段108として電磁石を設置し、磁力によってスクレーパー103をスクレーパー保持部107の壁面に引き寄せることで保持する以外は、
図8に示す構成と同様である。
図9(b)はスクレーパー103を培養面101に移動させる様子を示す図、
図9(c)はスクレーパー103の培養面101への移動が完了した様子を示す図である。スクレーパー移動手段108をオフにすることで、スクレーパー103はスクレーパー保持部107の傾斜面から培養面101へ移動する。そして、
図8に示す構成と同様の手順でスクレーパー位置制御手段105により磁場付与手段104を動かすことでスクレーパー103を動かし、細胞を剥離することができる。スクレーパー移動手段108のスイッチの切替は、手動で行ってもよいし、情報処理部を用いて自動で行うこともできる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態では、培養容器内の培養面と接触しない位置にスクレーパー保持部を設け、スクレーパー保持部に保持されたスクレーパーを培養面に移動させるスクレーパー移動手段を設けている。これにより、細胞培養中の細胞への物理的ダメージを低減しつつ、閉鎖系を保ったまま細胞を剥離できる細胞剥離システムおよびこれを有する細胞培養システムを提供することができる。また、この時、スクレーパーが磁場が付与されていない状態では回転しながら移動することができると、スクレーパーは容易に培養面に移動することができる。
【0077】
なお、本実施形態ではiPS細胞を用いて検証したが、接着細胞であればほとんどの細胞が利用できる。その際、培地、試薬の種類や剥離のタイミングは各細胞の特徴と、実施するプロトコールに合わせ適宜変更すればよい。
【0078】
[第3の実施形態]
以下、第3の実施形態の細胞剥離システムおよび細胞剥離システムを有する細胞培養システムについて説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
【0079】
図10は本実施形態の細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図である。
図10(a)はスクレーパー103を培養面101に移動させる前の様子を示す図である。
【0080】
本システムはポリスチレン製の閉鎖容器である培養容器102に、ポリスチレン製の筒状の給排水口106が隅に複数設置されている。また上面にはCO2等の気体が通過できるメンブレンフィルタ109が設置されている。また、培養容器102内側の下面は培養面101となっており、細胞が付着できるような表面処理がなされている。培養容器102の外側には、チューブ111を介して接続されたポリスチレン製のスクレーパー保持部107が用意される。スクレーパー保持部107にはさらに、給水口112を設け、各試液等の容器とシリコンチューブで接続することができる。チューブ111にはスクレーパー移動手段108として弁が設けられている。スクレーパー保持部107内には直径1mm、長さ5mmの円柱状のSUS440製の金属棒がスクレーパー103として設置される。培養容器102の外側には電磁石である磁場付与手段104が配置され、磁場付与手段104は2軸の自動ステージであるスクレーパー位置制御手段105に設置される。また、培養容器102の培養面101の下側中央部には培養面101を観察できる撮像部110としてCMOSカメラが設置される。
【0081】
本システムでの(初期設定)、(細胞培養)、(細胞回収)の工程は第1の実施形態と同じであるため省略し、(細胞剥離)の工程のみ説明する。
【0082】
(細胞剥離)
所望の量の細胞が培養されたことを確認したのち、細胞を剥離する。細胞剥離のタイミングは撮像部110で取得された培養面101に付着した細胞の画像から判断する。コロニーの専有面積が所定以上になったタイミングを剥離タイミングに決めるのが効果的である。情報処理部(不図示)を設け、自動で当該判断を行い、細胞剥離へ移行する指示を行うこともできる。なお、増殖速度が安定している細胞の場合、規定の培養時間を剥離のタイミングに設定するのも可能である。情報処理部を設けた場合は、規定の培養時間の経過後自動で細胞剥離に移行するよう設定することもできる。
【0083】
まず、給排水口106を介して培養容器102内の培地を廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介してPBSを培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液する。そして、給排水口106を介して培養容器102内のPBSを廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介してトリプシン等の酵素液を培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液し、一定時間37度のインキュベータ内にて維持する。その後、給排水口106を介して培養容器102内の酵素液を廃棄容器へ移動させたのち、給排水口106を介して培地を培養容器102内へ培養面101が浸るまで送液する。
【0084】
そして、スクレーパー移動手段108である弁を解放し、スクレーパー103をチューブ111内に通過させて培養面101に移動させる。
図10(b)はスクレーパーを培養面に移動させる様子を示す図である。スクレーパー移動手段108の駆動は、手動で行ってもよいし、情報処理部を用いて自動で行うこともできる。
図10(c)はスクレーパーの培養面への移動が完了した様子を示す図である。なお、スクレーパー103を移動させる際、給水口112を介してスクレーパー保持部107に培地を注入し、スクレーパー移動手段108を解放した後、培地を流す勢いでスクレーパー103を移動させることも有効である。
【0085】
その後、第1の実施形態と同様、電磁石である磁場付与手段104をONにし、2次元ステージであるスクレーパー位置制御手段105を駆動させて磁場付与手段104が培養面101下側の全域を2回通過するように駆動させる。第1の実施形態同様、1回目の通過の際に、スクレーパー103が確実に電磁石の磁力に確保される。その為、磁場付与手段104を2回通過させることでスクレーパー103が確実に一回は培養面101の全域を通過し、培養面101に付着した細胞のほぼ全部を剥がすことができる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態では、培養容器外にスクレーパー保持部と、スクレーパー保持部に保持されたスクレーパーを培養面に移動させるスクレーパー移動手段を設けている。これにより、細胞培養中の細胞への物理的ダメージを低減しつつ、閉鎖系を保ったまま細胞を剥離できる細胞剥離システムおよびこれを有する細胞培養システムを提供することができる。また、この時、スクレーパーが磁場が付与されていない状態では回転しながら移動することができると、スクレーパーはチューブ内を引っ掛かりにくく、円滑に通過できる。
【0087】
なお、本実施形態ではiPS細胞を用いて検証したが、接着細胞であればほとんどの細胞が利用できる。その際、培地、試薬の種類や剥離のタイミングは各細胞の特徴と、実施するプロトコールに合わせ適宜変更すればよい。
【0088】
[第4の実施形態]
以下、第4の実施形態の細胞剥離システムおよび上記細胞剥離システムを有する細胞培養システムについて説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
【0089】
図11は本実施形態の細胞剥離システムを有する細胞培養システムの全体構成の例を示す模式図である。
図11(a)はスクレーパー103を培養面101に移動させる前の様子を示す図、(b)はスクレーパー103を培養面101に移動させる様子を示す図、(c)はスクレーパー103の培養面101への移動が完了した様子を示す図である。
図11(a)、(c)の吹き出し内に示す図は培養面101および培養面101に設置されたスクレーパー103の様子を詳細に示す図である。
【0090】
本システムは第3の実施形態のシステムとほぼ同じであり、異なる点は、培養面101として複数列の凹曲面基板が並んでいる点と、スクレーパー103が球形状である点である。
【0091】
培養面101はφ1mmの凹曲面基板が並列に配列された形態であり、ポリスチレン製の培養容器102の一部として作成されている。
【0092】
スクレーパー103としてSUS440製のΦ1mmの球体を使用している。剥離の際にスクレーパー103に磁場を付与すると、培養面101にスクレーパー103がぴったり密着し、その状態でスクレーパー103を動かすことで培養面101に付着した細胞をこすり落とすことができる。
【0093】
本システムでの(初期設定)、(細胞培養)、(細胞回収)、(細胞剥離)の工程は第3の実施形態と同じであるため省略する。
【0094】
以上説明したように、本実施形態では、培養容器外にスクレーパー保持部と、スクレーパー保持部に保持されたスクレーパーを培養面に移動させるスクレーパー移動手段を設けている。そして培養面として凹曲面形状をした基板が設置され、スクレーパーは球形状のものを設けている。これにより、細胞培養中の細胞への物理的ダメージを低減しつつ、閉鎖系を保ったまま細胞を剥離できる細胞剥離システムおよびこれを有する細胞培養システムを提供することができる。また、スクレーパーが球形状であるため、スクレーパー保持部から培養面へのチューブ内の移動が容易になっている。
【0095】
なお、本実施形態ではiPS細胞を用いて検証したが、接着細胞であればほとんどの細胞が利用できる。その際、培地、試薬の種類や剥離のタイミングは各細胞の特徴と、実施するプロトコールに合わせ適宜変更すればよい。
【0096】
本実施形態の開示は、以下の構成および方法を含む。
(構成1)
培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、
前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、
前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、を有し、
前記スクレーパーは、磁場が付与されていない状態では回転しながら移動し、前記磁場付与手段により磁場が付与された状態では回転せずに、前記付着した細胞を剥離するように前記スクレーパー位置制御手段により移動する、細胞剥離システム。
(構成2)
前記スクレーパーの形状が、球形状、楕円体状、円柱状または円筒状である、構成1に記載の細胞剥離システム。
(構成3)
前記培養面と接触しない位置に前記スクレーパーを保持するスクレーパー保持部を有する、構成1または2に記載の細胞剥離システム。
(構成4)
前記スクレーパー保持部に保持された前記スクレーパーを前記培養面に移動させるスクレーパー移動手段を有する、構成3に記載の細胞剥離システム。
(構成5)
前記培養面に付着した細胞の状態に関する情報を取得する撮像部を有する、構成4に記載の細胞剥離システム。
(構成6)
前記撮像部が取得した情報に基づいて、前記スクレーパー移動手段により前記スクレーパーを前記スクレーパー保持部から前記培養面に移動させるように構成された情報処理部を有する、構成5に記載の細胞剥離システム。
(構成7)
前記培養面が凹曲面を有し、前記スクレーパーの形状が球形状または楕円体状である、構成1から6のいずれかに記載の細胞剥離システム。
(構成8)
前記細胞が接着細胞である、構成1から7のいずれかに記載の細胞剥離システム。
(構成9)
構成1から8のいずれかに記載の細胞剥離システムと、前記培養面を有する培養容器とを有する、細胞培養システム。
(構成10)
細胞培養手段を有する、構成9に記載の細胞培養システム。
(構成11)
培養面に付着した細胞を剥離するための、磁性を有するスクレーパーと、
前記スクレーパーに対して磁場を付与する磁場付与手段と、
前記磁場付与手段を制御することで前記スクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段と、
前記培養面と接触しない位置に前記スクレーパーを保持するスクレーパー保持部と、を有する、細胞剥離システム。
(構成12)
前記スクレーパー保持部に保持された前記スクレーパーを前記培養面に移動させるスクレーパー移動手段を有する、構成11に記載の細胞剥離システム。
(構成13)
前記培養面に付着した細胞の状態に関する情報を取得する撮像部を有する、構成12に記載の細胞剥離システム。
(構成14)
前記撮像部が取得した情報に基づいて、前記スクレーパー移動手段により前記スクレーパーを前記スクレーパー保持部から前記培養面に移動させるように構成された情報処理部を有する、構成13に記載の細胞剥離システム。
(構成15)
前記細胞が接着細胞である、構成11から14のいずれかに記載の細胞剥離システム。
(構成16)
構成11から15のいずれかに記載の細胞剥離システムと、前記培養面を有する培養容器とを有する、細胞培養システム。
(構成17)
細胞培養手段を有する、構成16に記載の細胞培養システム。
【符号の説明】
【0097】
101 培養面
102 培養容器
103 スクレーパー
104 磁場付与手段
105 スクレーパー位置制御手段
106 給排水口
107 スクレーパー保持部
108 スクレーパー移動手段
109 メンブレンフィルタ
110 撮像部
113 情報処理部