(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179306
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】複合活物質粒子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241219BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098048
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 和誠
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA16
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050FA13
5H050FA17
5H050HA00
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】低抵抗の電池を得ることができる複合活物質粒子の提供。
【解決手段】多孔質構造を有するSi粒子と、ヤング率が5GPa以下であり、イオン伝導度が1×10-5S/cm以上であるLiイオン伝導体と、が複合化された複合活物質粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有するSi粒子と、
ヤング率が5GPa以下であり、イオン伝導度が1×10-5S/cm以上であるLiイオン伝導体と、
が複合化された複合活物質粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合活物質粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン電池として全固体電池が知られている。特許文献1には、
Siを含む負極活物質に硫化物固体電解質を被覆してなる負極複合活物質と、ピロリジニウム、テトラアルキルアンモニウム及びテトラアルキルホスホニウムムからなる群から選択される少なくとも1種のカチオン、及びカルボラン系アニオンを含む柔粘性結晶と、を含有し、負極活物質の表面に対する硫化物固体電解質の被覆率は80%以上であり、硫化物固体電解質及び柔粘性結晶の合計に対する柔粘性結晶の体積割合が30vol%~75vol%である、リチウムイオン電池用負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、固体電池の電極体に用いる活物質を造粒して空隙を形成することで、電極の膨張を抑制することが検討されている。しかし、造粒体の形成に結着材が用いられており、造粒体の内部のイオン伝導性が低くなって、電池とした際の入出力の低下が生じていた。そのため、低抵抗の電池を得ることができる複合活物質粒子が望まれていた。
【0005】
本開示の一実施形態は、低抵抗の電池を得ることができる複合活物質粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 多孔質構造を有するSi粒子と、
ヤング率が5GPa以下であり、イオン伝導度が1×10-5S/cm以上であるLiイオン伝導体と、
が複合化された複合活物質粒子。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、低抵抗の電池を得ることができる複合活物質粒子を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0009】
[複合活物質粒子]
本開示の実施形態に係る複合活物質粒子は、多孔質構造を有するSi粒子と、ヤング率が5GPa以下であり、イオン伝導度が1×10-5以上であるLiイオン伝導体と、が複合化された複合活物質粒子である。
【0010】
本開示の実施形態に係る複合活物質粒子によれば、低抵抗の電池を得ることができる。
【0011】
従来から、固体電池の電極体に用いる活物質を造粒して空隙を形成することで、電極の膨張を抑制することが検討されている。しかし、一般的に造粒体を作製する際に結着材としてイオン伝導性の低い高分子材料が用いられており、造粒体の内部のイオン伝導性が低くなって、電池とした際の入出力の低下が生じていた。そのため、低抵抗の電池を得ることができる複合活物質粒子が望まれていた。
【0012】
これに対し、本開示の実施形態に係る複合活物質粒子は、結着剤としてLiイオン伝導体を用い、このLiイオン伝導体のヤング率が5GPa以下であり且つイオン伝導度が1×10-5以上である。ヤング率(弾性率)が5GPa以下である高イオン伝導度のLiイオン伝導体を用いることで、複合活物質粒子のイオン伝導性を向上させることができる。また、弾性率の高いLiイオン伝導体をSi粒子と複合することで、Si粒子の膨張収縮に対してLiイオン伝導体が追従し、電池とした際に低抵抗を維持できる。また、活物質として多孔質構造を有するSi粒子を用いることで、Liイオン伝導体がSi粒子間に入り込み、物理的なアンカー効果により造粒体を形成することができる。
これにより、本開示の実施形態では低抵抗の電池を得ることができる。
【0013】
(多孔質構造を有するSi)
複合活物質粒子は、活物質として多孔質構造を有するSi粒子を含む。なお、多孔質構造を有するとは、Si粒子の表面に多数の細かい孔を有する構造となっていることを指す。
多孔質構造を有するSi粒子としては、多孔質化された単結晶のシリコン粒子が挙げられる。
【0014】
(Liイオン伝導体)
複合活物質粒子は、ヤング率が5GPa以下であり、イオン伝導度が1×10-5以上であるLiイオン伝導体を含む。
【0015】
・ヤング率
Liイオン伝導体のヤング率は、Si粒子の膨張収縮に対して追従させることで電池とした際の低抵抗を実現する観点から、5GPa以下とする。ヤング率は、電池における低抵抗の観点から、さらに4GPa以下が好ましく、3GPa以下がより好ましい。
一方、特に限定されるものではないが、Liイオン伝導体のヤング率の下限は、0.1GPa以上が好ましく、0.5GPa以上がより好ましい。
Liイオン伝導体のヤング率は、ナノインデンテーションにより測定する。
【0016】
・イオン伝導度
Liイオン伝導体のイオン伝導度は、複合活物質粒子のイオン伝導性を向上させることで電池とした際の低抵抗を実現する観点から、1×10-5S/cm以上とする。Liイオン伝導体のイオン伝導度は、電池における低抵抗の観点から、さらに2×10-5S/cm以上が好ましく、3×10-5S/cm以上がより好ましい。
一方、特に限定されるものではなく、高いほど良いが、Liイオン伝導体のイオン伝導度の上限は、1S/cm以下としてもよい。
【0017】
Liイオン伝導体のイオン伝導度は、以下の方法により測定する。約100mgのLiイオン伝導体を6トン/cm2の圧力でプレスし、500μm程度の厚さを有するペレット(直径:11.28μm)を得る。厚さは、マイクロメーターを用いて測定する。イオン伝導度は、交流インピーダンスの測定結果から算出する。測定は、ソーラトロン1260を用いて、10MHz~1kHzの周波数域、±10mVの印加電圧、25℃の温度条件で行う。
【0018】
・Liイオン伝導体の材質
Liイオン伝導体としては、イオン伝導性の観点から、ホウ素クラスターアニオンのリチウム塩を用いることが好ましい。
【0019】
ホウ素クラスターアニオンとしては、合計電荷-2である、6~12のホウ素原子を有するボラン、合計電荷-1である、クラスター構造において1つの炭素及び5~11のホウ素を有するカルボラン、合計電荷-1又は-2である、クラスター構造において2つの炭素原子及び4~10のホウ素原子を有するカルボラン等が挙げられる。
ホウ素クラスターアニオンは、置換基を有していてもよく、ハロゲン原子、有機基等が挙げられる。有機基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
ホウ素クラスターアニオンは、下記式(1)~式(5)のいずれかで表されるアニオンであってもよい。
(1)[ByH(y-z-i)RzXi]-2、
(2)[CB(y-1)H(y-z-i)RzXi]-
(3)[C2B(y-2)H(y-t-j-1)RtXj]-
(4)[C2B(y-3)H(y-t-j)RtXj]-
(5)[C2B(y-3)H(y-t-j-1)RtXj]-2
式(1)~式(5)中、yは、6~12の範囲の整数であり、(z+i)は、0~yの範囲の整数であり、(t+j)は、0~(y-1)の範囲の整数であり、Xは、F、Cl、Br、I、又はこれらの組み合わせであり、Rは、有機基又は水素である。有機基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0020】
ホウ素クラスターアニオンのリチウム塩の具体例としては、LiCB9H10及びLiCB11H12が挙げられる。この両者の混合物であってもよく、つまりLi(CB9H10)x(CB11H12)1-x(x=0超1未満)で表される化合物であってもよい。xの値は、0.6以上0.8以下が好ましく、0.7であることがより好ましい。
【0021】
・複合化
複合活物質粒子は、上記の多孔質構造を有するSi粒子と、上記のLiイオン伝導体と、を混合することで、作製することができる。複合活物質粒子における、Si粒子に対するLiイオン伝導体の添加量としては、10体積%以上30体積%以下であることが好ましく、15体積%以上25体積%以下であることがより好ましい。
【0022】
[電極]
本開示の実施形態に係る複合活物質粒子は、電池(特にリチウムイオン電池)における電極(特に負極)に用いることができる。この電極は、本開示の実施形態に係る複合活物質粒子に加えて、例えば導電材、及び固体電解質(SE)等を含んでいてもよい。
なお、電池(例えばリチウムイオン電池)は、正極層と、固体電解質層と、負極層と、を備える。この電池は、全固体電池であってもよい。
【0023】
・空隙率
本開示の実施形態に係る複合活物質粒子を用いた電極は、空隙率を高めることができる。この理由は以下のように推察される。一般的な電極を形成する過程においてロールプレスなどにより圧を加える際、Siなどの活物質は塑性変形し難く、固体電解質が塑性変形して活物質との界面を形成しながら、電極の隙間が埋められ充填性が上がる。一方、本開示の実施形態では、Si粒子(活物質)とLiイオン伝導体とを複合化することによって二次粒子体が形成され、塑性変形し難い活物質同士の隙間に空隙が形成される。この際、活物質とヤング率が高い(つまり硬い)イオン伝導体とを複合化しても、硬いイオン伝導体が変形し難いため、アンカー効果による接着が期待できず、二次粒子体の状態を維持できない。本開示の実施形態のようにヤング率が低い(つまり柔らかい)イオン伝導体を用いることで、アンカー効果による二次粒子体状態の維持、及び空隙の維持が両立され、その結果電極における空隙が増加するものと考えられる。
電極における空隙率は、電極の膨張を抑制する観点から、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。一方、特に限定されるものではないが、電極における空隙率の上限は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。
【0024】
電極の空隙率は、以下の方法により測定する。まず、60℃において電池(例えばリチウムイオン電池)に対し、0.5mA/cm2、4.05Vcutの条件での充電、10分間の休止、0.5mA/cm2、2.5Vcutの条件での放電、及び10分間の休止を1サイクルとする充放電処理を20回行う。充放電処理後、電池から電極をカットし、その断面画像を走査電子顕微鏡(SEM)により取得する。断面画像から、画像処理ソフトにより、断面画像の断面積における空隙の面積の割合を、空隙率として測定する。
【0025】
電極は、本開示の実施形態に係る複合活物質粒子、及び必要により他の成分を溶媒に添加して負極合材を調製し、これを成型することにより製造することができる。
【実施例0026】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
<比較例1>
1.正極層の作製
有機溶媒中に、バインダー、導電助剤、固体電解質(SE)、及びLiNi0.8Co0.15Mn0.05O2を添加した。添加後、超音波ホモジナイザーを用いて混練し正極合材スラリーを得た。得られた正極合材スラリーをAl箔に塗工し正極層を作製した。
【0028】
2.負極層の作製
有機溶媒中に、バインダー(結着剤、ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン:PVdF-HFP)、導電助剤、固体電解質(SE)、及び活物質として多孔質構造を有するSi(以下、「ポーラスSi」と称す)を添加した。添加後、超音波ホモジナイザーを用いて混練し負極合材スラリーを得た。得られた負極合材スラリーをCu箔に塗工し負極層を作製した。
なお、バインダーのヤング率(GPa)及びイオン伝導度(S/cm)は、表1に示す値であった。また、活物質(ポーラスSi)に対するバインダー(結着剤)の添加量を、表1に示す通り20体積%とした。
【0029】
3.固体電解質層の作製
有機溶媒中に、バインダー、及び固体電解質(SE)を添加した。添加後、超音波ホモジナイザーを用いて混練し固体電解質スラリーを得た。得られた固体電解質スラリーAl箔に塗工しSE層を作製した。
【0030】
4.電池の作製
前記1.~3.にて作製した各層を短冊状に成型した。正極層とSE層の合材面を合わせ、165℃、50kN/cmの圧力でロールプレスし、Al箔を剥がすことで正極層にSE層を転写した。また負極層とSE層の合材面を合わせ、25℃、50kN/cmの圧力でロールプレスし、Al箔を剥がすことで負極層をSE層に転写した。SE層を転写した負極電極をφ13.00mm、正極層をφ11.28mmの打ち抜き機で打ち抜いた。SE層を転写した負極電極に、さらにSE層を一軸プレス機を用いて転写した。次いで、打ち抜いた負極層と正極層を対向させることで電池化した。最後に、正極及び負極に電流取出しタブを取り付け、真空ラミシーラーを用いてアルミラミネートに封入することで全固体電池を作製した。
【0031】
<実施例1>
「2.負極層の作製」を以下の通り変更したこと以外は、比較例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0032】
2.負極層の作製
まず、活物質としてのポーラスSiと、バインダー(結着剤、Li(CB9H10)0.7(CB11H12)0.3を乳鉢にて混合し、Si複合体を作製した。
次いで、有機溶媒中に、他のバインダー、導電助剤、固体電解質(SE)、及び前記Si複合体を添加した。添加後、超音波ホモジナイザーを用いて混練し負極合材スラリーを得た。得られた負極合材スラリーをCu箔に塗工し負極層を作製した。
なお、バインダーのヤング率(GPa)及びイオン伝導度(S/cm)は、表1に示す値であった。また、活物質(ポーラスSi)に対するバインダー(結着剤)の添加量を、表1に示す通り20体積%とした。
【0033】
<電池性能評>
・空隙率
得られた全固体電池において、負極の断面における空隙率(%)を前述の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0034】
・初期抵抗
得られた全固体電池について、電圧を3.7Vに調整し、5Cレートで放電したい際の5秒後の電圧降下から、初期抵抗(Ω)を算出した。結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
表1に示す通り、実施例の電池は比較例の電池に比べ、低抵抗であった。