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  • 特開-質量分析による目的物質の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017931
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】質量分析による目的物質の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240201BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120905
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】504059429
【氏名又は名称】ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 真菜
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一謹
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041HA01
2G041LA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脂肪酸、ステロイド等の測定において、新規かつ高感度な質量分析方法を提供する。
【解決手段】質量分析によるサンプル中の目的物質の検出において、サンプル中の目的物質にオキソ酸を縮合させたオキソ酸縮合イオンを測定することにより、高感度で目的物質の検出ができる。目的物質としては、脂肪酸、コレステロール、胆汁酸等の脂質;フラボノイド類;ポリフェノール類等が挙げられ、脂質等が好ましい。脂質の中でも脂肪酸、コレステロール等が好ましい。オキソ酸としては、クロム酸(H2CrO4)が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析によりサンプル中の目的物質を検出するための方法であって、サンプル中のオキソ酸縮合イオンを測定する工程を含む、方法。
【請求項2】
質量分析によりサンプル中の目的物質を検出するための方法であって、サンプル中のクロム酸縮合イオンを測定する工程を含む、方法。
【請求項3】
目的物質が脂肪酸及びステロイドからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
質量分析がLC-MSである、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析による目的物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、目的とする化学物質をイオンの状態にし、その質量を測定することにより原子量、分子量、分子構造、存在量(濃度)、存在形態等を明らかにすることができる測定方法であり、定性分析、定量分析のいずれにおいても非常に重要な技術である。しかし、従来の質量分析法は、特に脂肪酸、ステロイド等の測定において感度が十分ではなく新たなより高感度な方法が熱望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6895553
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規かつ高感度な質量分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況の下、本発明者らは、質量分析によるサンプル中の目的物質の検出において、サンプル中の目的物質にオキソ酸を縮合させたオキソ酸縮合イオンを測定することにより、高感度で目的物質の検出ができることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.質量分析によりサンプル中の目的物質を検出するための方法であって、サンプル中のオキソ酸縮合イオンを測定する工程を含む、方法。
【0006】
項2.質量分析によりサンプル中の目的物質を検出するための方法であって、サンプル中のクロム酸縮合イオンを測定する工程を含む、方法。
【0007】
項3.目的物質が脂肪酸及びステロイドからなる群より選択される少なくとも一種である、項1又は2に記載の方法。
【0008】
項4.質量分析がLC―MSである、項1又は2に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規かつ高感度な質量分析方法を提供することができる。特に脂肪酸、ステロイド等については、従来の質量分析よりも高感度で検出することができるため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】Pentadecanoic acidの検量線(左)[M-H] (右)[M+HCrO-HO-H]
図2】Linoleic acidの検量線(左)[M-H] (右)[M+HCrO-HO-H]
図3】Arachidic acidの検量線(左)[M-H] (右)[M+HCrO-HO-H]
図4】Androstanediolの検量線(左)「M+NH (右)[M+HCrO-HO-H]
図5】Pregnenoloneの検量線(左)[M-OH] (右)[M+HCrO-HO-H]
図6】Cholenic acidの検量線(左)[M-H] (右)[M+HCrO-HO-H]
【発明を実施するための形態】
【0011】
目的物質の検出方法
本発明は、質量分析によりサンプル中の目的物質を検出するための方法であって、サンプル中のオキソ酸縮合イオンを測定する工程を含む、方法を提供する。
【0012】
本発明の方法が対象とする目的物質としては、脂肪酸、コレステロール、胆汁酸等の脂質;フラボノイド類;ポリフェノール類等が挙げられ、脂質等が好ましい。脂質の中でも脂肪酸、コレステロール等が好ましい。また、目的物質としては、疎水性が比較的高いものが好ましい。例えば、目的物質としては、XlogP3が0.5~10であるものが好ましく、2.5~5.5であるものがより好ましい。また、目的物質としては、塩基性官能基(アミノ基、グアニジル基等)を有さないものが好ましい。目的物質としては、弱い酸性官能基(カルボキシル基、フェノール等)を有するものが好ましい。
【0013】
目的物質を含むサンプルは、常温常圧で固体、液体、気体等のいずれであってもよい。また、目的物質を含むサンプルとしては、特に限定されないが、培養細胞、培養上清、被験体から採取した試料等が挙げられる。被験体から採取した試料としては、例えば、血液、血漿、血清、血小板、尿、唾液体液、脳髄液、糞便等が挙げられる。被験体としては、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ等の哺乳動物;ニワトリ等の鳥類;カエル等の両生類;トカゲ等の爬虫類;ゼブラフィッシュ等の魚類;酵母、大腸菌等の微生物;シロイヌナズナ、タバコ等の植物等が挙げられる。
【0014】
サンプルとして、目的物質が溶解、懸濁等されている液体サンプルを用いる場合、溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
【0015】
本発明においては、サンプル中に含まれる成分を分離した後、質量分析を行うことが好ましい。分離方法としては、液体クロマトグラフィー(LC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、キャピラリー電気泳動(CE)等が挙げられ、液体クロマトグラフィーが好ましい。
【0016】
液体クロマトグラフィーを用いる場合、移動相の溶媒は、測定サンプル、検出目的化合物等に応じて適宜設定されるが、例えば、イソプロパノール、アセトニトリル、水、メタノール等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる(グラジエント溶離も含む)。また、pH調整及び揮発性の観点から、移動相はぎ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸を含んでいることが好ましい。移動相にぎ酸が含まれる場合、その濃度としては、例えば、0.05~0.5%v/v、好ましくは0.05~0.2%v/v、より好ましくは0.05~0.1%v/v等が挙げられる。流速は特に限定されないが、例えば、0.1~2mL/min、好ましくは0.2~1mL/min、より好ましくは0.3~0.5mL/min等が挙げられる。液体クロマトグラフィーに用いるカラムとしては例えば、ODSカラム、C8カラム等が挙げられる。
【0017】
本発明において、オキソ酸縮合イオンとは、目的物質イオンにオキソ酸が縮合したイオンである。オキソ酸としては、例えば、クロム酸、バナジン酸、モリブデン酸等が挙げられ、クロム酸(HCrO)が好ましい。目的物質に由来する分子式をMとし、オキソ酸としてクロム酸を用いた場合のオキソ酸縮合イオンは、例えば、[M+HCrO-HO-H](本明細書において、クロム酸縮合イオン(-)と示すこともある)、[M+HCrO-HO+H](本明細書において、クロム酸縮合イオン(+)と示すこともある)と表示することができる。より具体的には、例えば、目的物質がCis-11,14-エイコサジエン酸(CH(CH(CH=CHCH(CHCOH)のクロム酸縮合イオン(-)は、[CH(CH(CH=CHCH(CHCOCrOとなる。
【0018】
典型的には、オキソ酸縮合イオンは、目的物質にオキソ酸が縮合し、得られたオキソ酸縮合体がイオン化することにより生じ得る。質量分析は、通常、イオン化工程、質量分離工程及び検出工程を経て行われるが、本発明において縮合イオンの形成はイオン化までのところで行われていればよい。従って、本発明の好ましい実施形態において、目的物質のイオン化が、オキソ酸の存在下で行われ得る。オキソ酸の量は限定されないが、例えば、目的物質1質量部に対し、オキソ酸が質量部に存在することが好ましい。オキソ酸は、目的物質のイオン化までであれば、サンプルにあらかじめ添加しておいても、本発明の各工程のいずれかの箇所で添加してもよい。
【0019】
典型的な実施形態において、本発明の方法は、イオン化工程が行われる。イオン化の種類は特に限定されないが、例えば、電子イオン化(EI)、化学イオン化(CI)、電界イオン化(FI)、光イオン化(PI)、大気圧化学イオン化(APCI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、電界電離(FD)、高速原子衝撃(FAB)、二次イオン質量分析(SIMS)、レーザー脱離イオン化(LDI)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、脱離エレクトロスプーイオン化(DESI)、リアルタイム直接分析(DART)等が挙げられ、エレクトロスプレーイオン化(ESI)等が好ましい。
【0020】
典型的な実施形態において、本発明の方法では、次に、質量分離工程を行う。質量分離工程の種類も特に限定されないが、例えば、四重極型(QMS)、飛行時間型(TOF)、磁場-電場二重収束型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FT-ICR)、オービトラップ(Orbitrap)等が挙げられ、オービトラップが好ましい。質量分離工程において、目的物質に由来するオキソ酸縮合イオンがm/z値に応じて分離される。
【0021】
典型的な実施形態において、本発明の方法では、質量分離工程を経たサンプルが検出工程により検出される。検出工程としては、例えば、オービトラップ、二次電子増倍管、光電子増倍管、ファラデーカップ等が挙げられる。当該検出工程において、目的物質に由来するオキソ酸縮合イオンが検出される。本発明において質量分析は、ポジティブモード、ネガティブモードのいずれで行ってもよい。
【0022】
以下に、実施例を用いて本発明の特定の実施形態を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
【実施例0023】
以下の実施例では特別の記載がない限り、LC-MSの測定はVanquish Flex UHPLC System(Thermo Fisher Scientific社)及びOrbitrap Exploris 240(Thermo Fisher Scientific社)を用いて行った。陽イオン性及び陰イオン性代謝物に共通する測定条件については次の通りである:
Column: ODS column, 2×50 mm, 2 μm
Column temp.: 40 ℃
Mobile phase A: H2O / 0.1% HCOOH
Mobile phase B: Isopropanol: Acetonitrile: H2O (65:30:5) / 0.1% HCOOH, 2 mM HCOONH4
Flow rate: 0.3 mL / min
Equilibration: 7.5 min, B 1%
Run time: 20 min
Gradient condition: 0-0.5 min: B 1%, 0.5-13.5 min: B 1-100%, 13.5-20 min: B 100%
Ion source: H-ESI
Resolution: 120,000
Sheath gas flow: 62 Arb
Vaporizer temperature: 350 ℃
MS scan range: m/z 100-1,500
Sample injection: 3 μL
陽イオン性代謝物の検出はESI Positiveモード、spray voltage 2,500 V、Aux gas flow 20 Arbで行った。また、陰イオン性代謝物の検出はESI Negativeモード、spray voltage 2,300 V、Aux gas flow 25 Arbで行った。
【0024】
また、いずれの測定も、イオン化工程はクロム酸HCrO の強度をギ酸HCOOの強度に対し1/170で行われた。
【実施例0025】
≪検出強度及び感度の比較≫
50%イソプロパノール水溶液に溶解させた脂肪酸及びステロイド類の各種標品をLC-MSで測定し、従来の検出m/zと、クロム酸縮合イオン(-)のm/zについて強度及び感度の比較を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
程度は化合物ごとに異なるものの、[M-H]で測定する場合と比較して、クロム酸縮合イオン[M+HCrO-HO-H]を測定することで各種脂肪酸の強度及びS/Nが改善した(表1)。通常Positive modeで検出するステロイド類については表2に示した。カルボン酸を有さないステロイド類自体はNegative modeではほとんど検出できず、通常Positive modeで検出工程を行う。しかし本実施例においては上記ステロイド類等の化合物にクロム酸が縮合したことでNegative modeでの検出が可能となった。従って、本実施例では、クロム酸縮合イオンの測定はNegative modeで行った。表2に示されるようにPos(Pos検出イオン)で測定する場合と比較して、Negative modeにおける[M+HCrO-HO-H]の方が高い強度及びS/Nを示した。
【実施例0029】
≪検量線の比較≫
実施例1の代表的な化合物について、標品を用いて検量線を作成した。脂肪酸の検量線を図1-3に、ステロイド類の検量線を図4-6に示す。各化合物の検量線範囲とR2を表3にまとめた。クロム酸縮合イオンを用いることにより、より低濃度での検出が可能になった。
【0030】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6