(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179313
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】アンモニア応力腐食割れ促進試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20241219BHJP
G01N 33/2045 20190101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N33/2045 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098058
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進一
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭野
(72)【発明者】
【氏名】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】多田 英司
【テーマコード(参考)】
2G050
2G055
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA01
2G050BA12
2G050BA20
2G050CA01
2G050DA01
2G050EA01
2G050EA10
2G050EB07
2G055AA03
2G055BA12
2G055CA30
2G055FA02
(57)【要約】
【課題】金属材料のアンモニア応力腐食割れ感受性を短期間で評価できる、アンモニア応力腐食割れ促進試験方法の提供。
【解決手段】外部応力を付与した又は残留応力をもった金属試験片を、0.01mass%以上のカルバミン酸アンモニウムおよびガス分圧で0.25bar以下のO2を含有する液体アンモニア中に浸漬し、腐食電位に対して-3.0Vまでの電位領域にカソード分極させることを特徴とする、アンモニア応力腐食割れ促進試験方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部応力を付与した又は残留応力をもった金属試験片を、0.01mass%以上のカルバミン酸アンモニウムおよびガス分圧で0.25bar以下のO2を含有する液体アンモニア中に浸漬し、腐食電位に対して-3.0Vまでの電位領域にカソード分極させることを特徴とする、アンモニア応力腐食割れ促進試験方法。
【請求項2】
試験中に前記液体アンモニアを撹拌する、請求項1に記載のアンモニア応力腐食割れ促進試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体アンモニア環境下で使用するタンクなどの金属材料のアンモニア応力腐食割れ促進試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液体アンモニアは、燃焼してもCO2が発生しないことからクリーンエネルギーとして注目されており、大規模な需要が見込まれている。これに伴い、液体アンモニアを輸送、貯蔵する設備の大型化が求められている。一般に、タンクを大型化する場合、軽量化および施工コスト削減の観点から、使用する鋼材の薄肉化が指向されるため、高強度鋼の使用が望まれる。
【0003】
一方、液体アンモニア環境下において、炭素鋼は、液体アンモニアによる応力腐食割れ(以下、アンモニアSCC(Stress Corrosion Cracking)という)の発生が懸念される。そのため、液体アンモニアを取り扱う炭素鋼製の配管や貯槽、タンク車、ラインパイプなどの構造物については、アンモニアSCC感受性の低い鋼材の適用や、アンモニアSCCを抑制する操業上の措置が講じられてきた。
【0004】
SCCは、腐食反応と応力が重畳して破壊に至る現象であり、材料因子、環境因子、応力因子が特定の条件を満たすときに発生する。例えば、アンモニアSCCは、材料の強度・硬度と相関があることが知られている。すなわち、強度・硬度が高いほどアンモニアSCCが多く発生することが知られており、炭素鋼を使用するにあたっては、引張強さが600MPa未満の材料を使用することが望ましいとされている。
【0005】
そのため、高い強度と優れた耐アンモニアSCC性を両立する新規鋼材を適用するにあたり、アンモニアSCC感受性を正確に評価する必要がある。一方、実際の液体アンモニアタンクでの曝露試験によりアンモニアSCC感受性を評価する場においては長期間の試験が必要となることから、鋼材のアンモニアSCC感受性を短期間で評価できる促進試験が望まれる。
【0006】
かのような液体アンモニアを用いた促進試験として、特許文献1および非特許文献1が開示されている。特許文献1および非特許文献1では、O2と飽和CO2を含んだ液体アンモニア中で試験片をアノード分極させることにより、鉄の溶解を加速し、短期間でアンモニアSCC感受性を評価する試験方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中井揚一著「液体アンモニア中における応力腐食割れ促進試験法の開発」鉄と鋼、1981年、67巻、14号、2226~2233頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1および非特許文献1に記載された試験方法では、試験片を+2V vs Ptでアノード分極させているが、その際、アノード反応の対反応であるカソード反応が著しく抑制されるため、水素脆性による割れを促進する重要因子である水素の発生量が著しく抑制される。その結果、アンモニアSCCが促進されず、アンモニアSCC感受性を短期間で評価できているとは言い難い。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、液体アンモニア輸送、貯蔵用タンク等に供する金属材料のアンモニアSCC感受性を短期間で評価できる、アンモニアSCC促進試験方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために液体アンモニア中での鋼板のアンモニアSCCメカニズムについて詳細に検討し、以下の知見を得た。
【0012】
液体アンモニア環境では、鋼板に対して、以下の腐食反応が生じる。
アノード反応:Fe→Fe2++2e- (式1)
カソード反応:2NH4
++2e-→H2+2NH3 (式2)
【0013】
上記の腐食反応に伴い、カソード反応により発生した水素が鋼板表面から鋼中に吸収され、割れ進展先端部に拡散および集積することで割れが促進される。したがって、アンモニアSCCを促進するため、カソード反応を促進し水素発生量を増大させることを想起した。
【0014】
また、液体アンモニアは不純物として微量のCO2を含む。液体アンモニア中でCO2は下記反応式のように解離して平衡状態をとる。
2NH3+CO2⇔NH4CO2NH2⇔NH4
++NH2CO2
- (式3)
【0015】
液体アンモニア中にカルバミン酸アンモニウム(NH4CO2NH2)を含有させた場合、前記解離反応により液体アンモニア中のNH4
+が増加し、前記した式2のカソード反応の促進により、水素発生が促進されるため、アンモニアSCCが促進されることを想起した。
【0016】
さらに、液体アンモニア中にO2を含有させた場合、以下の反応が生じる。
O2+2NH4
++4e-→2OH-+2NH3 (式4)
【0017】
液体アンモニア中にO2を含有させた場合、前記した式4の反応によりNH4
+が消費され、式2の水素発生反応が抑制されるため、アンモニアSCCが抑制されることを想起した。
【0018】
以上より、液体アンモニア中でカソード分極を行い、かつ液体アンモニア中にカルバミン酸アンモニウムを含有させ、かつ液体アンモニア中のO2含有量を制限することで、水素発生反応が抑制されることなく促進される。そのため、アンモニアSCCが促進されて、アンモニアSCC感受性を短期間に評価できることを見出した。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0020】
[1]外部応力を付与した又は残留応力をもった金属試験片を、0.01mass%以上のカルバミン酸アンモニウムおよびガス分圧で0.25bar以下のO2を含有する液体アンモニア中に浸漬し、腐食電位に対して-3.0Vまでの電位領域にカソード分極させることを特徴とする、アンモニア応力腐食割れ促進試験方法。
【0021】
[2]試験中に前記液体アンモニアを撹拌する、前記[1]に記載のアンモニア応力腐食割れ促進試験方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアンモニア応力腐食割れ促進試験方法によれば、液体アンモニア環境下で使用されるタンクなどに適用される金属材料のアンモニアSCC感受性を短期間で評価することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0024】
[腐食電位に対して-3.0Vまでの電位領域にカソード分極]
本発明の試験方法では、外部応力を付与した又は残留応力をもった金属試験片を、0.01mass%以上のカルバミン酸アンモニウムおよびガス分圧で0.25bar以下のO2を含有する液体アンモニア中に浸漬し、腐食電位に対して-3.0Vまでの電位領域にカソード分極させる。なお、「-3.0Vまで」とは-3.0V以上0V未満を指す。
【0025】
腐食電位に対して-3.0Vまでの電位領域にカソード分極させることで、液体アンモニア中の金属試験片の表面でカソード反応により水素が発生する。発生した水素が試験片表面から金属中に吸収され、割れ進展先端部に拡散および集積することで割れが促進され、アンモニアSCC感受性を短期間で評価することができる。一方、金属試験片を腐食電位に保持するか又は腐食電位に対してアノード分極させた場合、該試験片表面でのカソード分極は促進されないため、該試験片のアンモニアSCC感受性を短期間に評価することは困難となるおそれがある。また、金属試験片を腐食電位に対して-3.0Vを超えた電位領域にカソード分極させると、水素発生が過剰に促進されることで該試験片表面が発生した水素の気泡で覆われ、その部分では前記式2のカソード反応が妨げられて、その結果アンモニアSCC感受性が評価できない可能性がある。そのため、腐食電位に対して-3.0Vまでの電位領域にカソード分極させることを規定する。腐食電位に対してカソード分極させる電位領域は、好ましくは-2.5V以上であり、より好ましくは-2.0V以上であり、また好ましくは-0.2V以下であり、より好ましくは-0.5V以下であり、更に好ましくは-1.0V以下である。
【0026】
腐食電位は、アンモニアSCC感受性を評価する金属試験片又は評価対象の金属材料から採取した金属試験片を、外部応力を付与した又は残留応力をもった状態で、液体アンモニア中に5分以上浸漬して測定した電位とする。電位の測定方法は、特に限定されるものではないが、2電極法又は3電極法により測定することができる。
【0027】
金属試験片への分極(電位の付与)や腐食電位の測定は、例えば、ポテンショスタット(定電位電解装置)を用い、金属試験片を作用極(試料極)として行うことができる。このとき、対極、参照極は、液体アンモニア中で安定な白金(Pt)電極を用いることが好ましい。
【0028】
<試験溶液>
本発明の試験方法では、0.01mass%以上のカルバミン酸アンモニウムおよびガス分圧で0.25bar以下のO2を含有する液体アンモニアを試験溶液として用いる。
【0029】
[カルバミン酸アンモニウム含有量:0.01mass以上]
液体アンモニア中には、通常、不純物として微量のCO2が存在しており、液体アンモニア中でCO2は、前記式3のように解離して平衡状態をとる。
【0030】
平衡状態の液体アンモニア中にカルバミン酸アンモニウム(NH4CO2NH2)を含有させると、前記解離反応により液体アンモニア中のNH4
+が増加し、前記した式2のカソード反応の促進により、水素発生が促進されるため、アンモニアSCCが促進される。液体アンモニア中のカルバミン酸アンモニウム含有量が0.01mass%未満では、かかる効果は得られない。そのため、液体アンモニア中のカルバミン酸アンモニウム含有量は、0.01mass%以上に規定する。好ましくは、0.03mass%以上であり、より好ましくは0.05mass%以上であり、更に好ましくは0.10mass%以上であり、例えば、0.50mass%、1.00mass%又は5.00mass%でもよい。
【0031】
液体アンモニア中のカルバミン酸アンモニウム含有量の上限は、特に限定されず、飽和量まで含有させてもよい。例えば、5.00mass%以下、1.00mass%以下、又は0.50mass%以下でもよい。
【0032】
液体アンモニアへのカルバミン酸アンモニウムの添加方法は、特に限定されるものではないが、液体アンモニア導入前の試験容器に、所定量のカルバミン酸アンモニウムを設置することが好ましい。また、前記カルバミン酸アンモニウムの設置は、前記所定量のカルバミン酸アンモニウム含有量が得られる量のCO2ガスの吹込み又は固体CO2(ドライアイス)の設置に代えることができる。
【0033】
[O2含有量:ガス分圧で0.25bar以下]
液体アンモニア中でO2は、前記式4のように反応する。液体アンモニアがO2を含有した場合、前記反応によりNH4
+が消費され、前記式2の水素発生反応が抑制されるため、アンモニアSCCが抑制される。液体アンモニア中のO2含有量をガス分圧で0.25bar以下とすると、かかる作用は発現しない。そのため、液体アンモニア中のO2含有量をガス分圧で0.25bar以下に規定する。好ましくは0.20bar以下であり、より好ましくは0.15bar以下であり、更に好ましくは0.10bar以下である。
【0034】
液体アンモニア中のO2含有量の下限は、0barでもよいが、0.002barが好ましい。アンモニア応力腐食割れは、応力負荷による表面皮膜破壊部などを割れ起点とする。一方、O2は液体アンモニア中で金属試験片の表面に酸化皮膜を形成する作用を持つため、適量を含有させることで応力腐食割れを促進する効果を有する。O2含有量がガス分圧で0.002bar未満ではかかる作用は得られないため、O2含有量の下限は0.002barが好ましく、0.01bar以上がより好ましい。
液体アンモニアへのO2の添加方法は、特に限定されるものではないが、O2を安定して供給する観点からは、液体アンモニア導入前の試験容器に、所定量のO2ガスを吹き込むことが好ましい。前記O2ガスの吹込みは、前記所定量のO2ガス分圧が得られる量のAirガスの吹込みに代えることができる。
【0035】
[液体アンモニア]
試験溶液に使用する液体アンモニアの純度は特に限定されるものではないが、H2O、油を含有する場合は金属試験片の応力腐食割れが抑制されやすくなる。そのため、液体アンモニアに不純物として含有されるH2O、油は、各々0.05mass%未満とすることが好ましい。
【0036】
[試験中に液体アンモニアを撹拌]
腐食反応は金属試験片表面における液体アンモニアの溶液組成の影響を受ける。腐食反応が連続的に生じると、金属試験片表面の反応物は減少していく。すなわち、腐食反応が連続的に生じると、式2で示すカソード反応の2NH4
+が減少していくため、生成する水素量も減少する。液体アンモニアを撹拌することで、金属試験片表面へのNH4
+の供給が促進され、水素発生促進を維持することができ、アンモニアSCC感受性評価に要する期間を更に短縮することができる。そのため、試験中に液体アンモニアを撹拌することが好ましい。アンモニアSCC感受性は、窒素、二酸化炭素、酸素などの影響を受けることから、撹拌は、撹拌子を用いて実施することが好ましい。試験片表面へのイオン供給を安定化するため、撹拌は、10rpm以上で連続して実施することが望ましい。
【0037】
<金属試験片>
本発明の試験方法は、電位付与によりアンモニアSCCを促進させる方法であることから、導電性がある金属材料へ適用することができる。前記金属材料は、その成分組成や金属組織については特に限定されない。前記金属材料の具体例としては、金属元素(例えば、Fe、Cu、Al、Ni、Tiなど)を主成分として(すなわち、50mass%以上)含有するもの、例えば、鋼材(鉄合金)、銅合金、アルミニウム合金、ニッケル合金、チタン合金などが挙げられる。特に、液体アンモニア環境下に曝露される構造物に一般に使用されアンモニアSCCに対する耐性が重視されることから、鉄鋼材料へ適用することが好ましい。
【0038】
本アンモニア応力腐食割れ促進試験方法を適用する鉄鋼材料は特に限定されるものではないが、表層のビッカース硬度280HV10以上の高強度鋼は、特に水素脆性による割れが生じやすい傾向にあるため、本発明の試験方法によるアンモニアSCC感受性評価に好適である。
本発明の試験方法で使用する金属試験片は、アンモニアSCC感受性を評価しようとする金属材料から採取したものか又は該金属材料と同一若しくは類似する成分組成および金属組織を有する金属材料から採取したものであればよい。
【0039】
前記試験片の形状やサイズは、使用する試験セルや外部応力付与方法に応じて適宜定めるか公知の標準規格から選択すればよく、特に限定されない。ただし、腐食反応による溶液組成への影響が小さくなるように、試験片の露出面積(cm2)に対する液体アンモニア溶液量(mL)である比液量を5mL/cm2以上とすることが好ましい。比液量の上限は、特に限定されないが、比液量を過剰に大きくした場合、試験設備等のコストが高騰するため、500mL/cm2以下とすることが好ましい。
【0040】
[外部応力・残留応力]
本発明の試験方法は、アンモニア応力腐食割れ促進試験であるため、外部応力を付与した又は残留応力をもった状態の金属試験片を試験溶液中に浸漬する。外部応力または残留応力の付与方法は、特に限定されるものではないが、例えば、4点曲げ、U曲げ、定荷重法などの公知の方法により外部応力を付与することができ、また熱処理、溶接、加工などを施すことにより残留応力を付与することができる。
【0041】
付与する外部応力または残留応力の大きさは、試験目的(例えば、評価対象材料について意図する用途)などに応じて適宜設定すればよいが、各試験片の降伏強度YS(MPa)の20%以上を負荷することが好ましい。付与する外部応力または残留応力を増加させるにつれてアンモニアSCCを促進し得るため、金属試験片自体に亀裂などの損傷を与えない限り、上限は特に限定されない。
【0042】
<その他の試験条件>
本発明の試験方法を行う試験温度(試験溶液の温度)は、試験目的に応じて適宜選択できるが、低温では腐食反応が抑制され試験期間が長期間化する傾向であることから、0~60℃とすることが好ましい。
【0043】
本発明の試験方法を行う試験期間は、特に限定されず、評価対象の金属材料について意図する用途などに応じて適宜設定できるが、新規材料を適用するためには、試験期間は短いほど良く、720時間以内であることが好ましい。実タンク環境下(実液体アンモニア)でのアンモニアSCC試験は一般に1年程度の試験期間を要するため、本発明の試験方法を用いることで試験期間を約1/10以下に短縮することができる。
【0044】
上記以外の試験条件は特に限定されるものではなく、腐食試験で用いられる公知のものを適宜選択して使用できる。試験装置、試験セルなども、本技術分野で公知のもの、例えば、特許文献1や非特許文献1に記載のものを使用できる。
【実施例0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実タンク環境下アンモニアSCC発生状況]
本発明の試験方法の有効性を確認するための予備調査として、成分組成の異なる4種類の鋼材(鋼種A~D)を供試鋼材として用い、実液体アンモニアによる実タンク環境下でアンモニアSCC試験を行って、アンモニアSCC感受性を評価した。
【0047】
表1に、アンモニアSCC試験に供した鋼材の降伏強度(YS)およびビッカース硬さ(HV0.5)を示す。降伏強度とビッカース硬さは、JIS Z 2241およびJIS Z 2244に準拠し、板厚1/4位置において測定を実施した。ビッカース硬さは、荷重500gのビッカース試験により20点測定し、その平均値とした。
【0048】
供試鋼材A~Dの板厚1/4位置から、5mm厚×15mm幅×115mm長さの試験片を採取した。採取した試験片に、アセトン中で超音波脱脂を5分間行った後、4点曲げにより各試験片の降伏強度に等しい外部応力(100%YS)を負荷した。かかる4点曲げの試験片を実液体アンモニアタンクに浸漬し、1年後に取り出した。取り出した試験片表面の腐食生成物を除去してから、試験片の表面および断面において、目視により割れの観察をおこない、割れの有無を評価した。
【0049】
割れが発生したものをSCC発生「〇」、割れが発生しなかったものをSCCなし「×」と判定した。判定結果を、表1に実液体アンモニアタンクでのSCC発生状況として示す。
【0050】
【0051】
表1から分かるように、実液体アンモニアタンクにおいて、A鋼およびB鋼は、SCCが発生しなかった。C鋼およびD鋼は、SCCが発生した。
【0052】
[アンモニアSCC促進試験]
上述のように実タンク環境下アンモニアSCC発生状況を調べた供試鋼材A~Dに対して、本発明のアンモニアSCC促進試験を行って、アンモニアSCC感受性を評価した。
【0053】
表2に、アンモニアSCC促進試験の試験条件を示す。供試鋼材A~Dの板厚1/4位置から採取した5mm厚×15mm×115mmの試験片に、アセトン中で超音波脱脂を5分間行い、4点曲げにより各試験片の降伏強度に等しい外部応力(100%YS)を負荷した。かかる4点曲げの試験片を設置した試験セルに、カルバミン酸アンモニウムおよびO2を表2記載の所定量となるように導入してから、2Lの液体アンモニアを充填した。比液量は42.1mL/cm2であった。その後、ポテンショスタットにより、試験片の腐食電位の測定を行い、1時間経過後の腐食電位に対して所定の電位が付与されるように制御して、試験を開始した。かかる浸漬の168~1440時間後、試験セルから試験片を取り出し、試験片表面の腐食生成物を除去し、表面および断面において目視により割れの観察を行って、割れの有無を評価した。
【0054】
かかる浸漬試験は、純度が99.999%以上の液体アンモニアを使用した。ポテンショスタットによる電位の測定および電位の付与は、3電極法により実施し、参照極および対極としては、いずれも白金電極を使用した。試験温度は25℃に設定した。試験中の撹拌は、試験セル内に設置した撹拌子を用いて10rpmで連続して行なった。
【0055】
SCCの発生状況は、かかる漬試験を各試験番号につきそれぞれ10回実施し、その全体を通して1個以上割れが発生したものをSCC発生「〇」とし、割れが発生しなかったものをSCCなし「×」と判定した。
【0056】
SCC発生状況が、同一鋼種について表1に示す実液体アンモニアタンクでのSCC発生状況と一致する場合は、評価精度を「良好」と判定した。評価精度が良好と判断された試験については、その試験期間が720時間以下であるものを、評価期間が「良好」と判定した。評価精度および評価期間について「良好」と判定したもの以外は「不良」と判定した。
【0057】
表2に、SCC発生状況、評価精度および評価期間を促進試験結果として併せて示す。
【0058】
【0059】
表2から分かるように、本発明例においては、実液体アンモニアタンクを模擬した環境と同じSCC感受性を720時間以内で評価することができている。一方、比較例の10、12においては、実液体アンモニアタンクを模擬した環境でSCCが発生した鋼材において、SCCが発生しておらず、SCC感受性を評価することができていない。また、比較例の11においては、実液体アンモニアタンクを模擬した環境でSCCが発生した鋼材においてSCCが発生しているものの試験期間が長く、短期間でアンモニアSCC感受性を評価できていない。
本発明により、金属材料のアンモニア応力腐食割れ感受性を短期間で評価できる、アンモニア応力腐食割れ促進試験方法を提供することができる。本発明の試験方法を用いることにより、金属材料のアンモニア応力腐食割れ感受性を短期間で評価することが可能となる。本発明の試験方法は、鋼材のアンモニア応力腐食割れ感受性の評価に非常に役立ち、液体アンモニアの輸送用又は貯蔵用の構造物用途に好適に使用可能な、優れた耐アンモニア応力腐食割れ性を有する金属材料の選択、開発などに有利に利用できる。