(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179316
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】摩擦制震装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 7/08 20060101AFI20241219BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241219BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F16F7/08
F16F15/02 E
E04H9/02 321B
E04H9/02 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098063
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000153605
【氏名又は名称】株式会社巴技研
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】上田 英明
(72)【発明者】
【氏名】波田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】土田 尭章
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 富士雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆将
(72)【発明者】
【氏名】五十畑 登
(72)【発明者】
【氏名】内木 学
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC20
2E139BA19
3J048AA06
3J048AC01
3J048BE12
3J048CB21
3J048EA38
3J066AA26
3J066CA05
(57)【要約】
【課題】 細かいエネルギー吸収率等のダンパー性能を設定することができ、稼働時に変形のロスがなく、所定の性能を確実に発現することが可能な摩擦制震装置を提供すること、また、上記摩擦制震装置を簡単な手順で、高精度かつ効率的に製造することができ、ガタつき等の初期不整の発生がない摩擦制震装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ダイス21とロッド22からなる摩擦ダンパーユニット2が、複数、並列に設けられた摩擦制震装置1であって、ロッドの一端部が挿入可能な複数のロッド挿入孔31と、各々のロッド挿入孔に延設された、ダイスが挿入可能なダイス固定部32とを有する基材3と、ロッドの他端部を固定可能な複数のロッド固定部41を有するロッド固定部材4とを備え、ロッド挿入孔にロッドの一端部が挿入され、ダイス固定部にダイスが固定されるとともに、ロッド固定部にロッドの他端部が固定されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイスと、該ダイスに設けられた貫通孔に挿通、嵌合されたロッドからなる摩擦ダンパーユニットが、複数、並列に設けられた摩擦制震装置であって、
前記ロッドの一端部が挿入可能な複数のロッド挿入孔と、各々の該ロッド挿入孔に延設された、前記ダイスが挿入可能なダイス固定部とを有する基材と、
前記ロッドの他端部を固定可能な複数のロッド固定部を有するロッド固定部材とを備え、
前記ロッド挿入孔に前記ロッドの一端部が挿入され、前記ダイス固定部に前記ダイスが固定されるとともに、前記ロッド固定部に前記ロッドの他端部が固定されていることを特徴とする摩擦制震装置。
【請求項2】
前記基材の前記ダイス固定部に延設されてダイス止め固定部が設けられるとともに、前記ロッドを軸通したダイス止め部材が設けられ、
前記ダイス止め固定部の内壁に形成された雌ネジ部と、前記ダイス止め部材の外周に設けられた雄ネジ部の螺合により、前記ダイス止め固定部に前記ダイス止め部材が固定され、前記ダイスが固定されていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦制震装置。
【請求項3】
前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部と、前記ロッド固定部の内壁に形成された雌ネジ部との螺合により、前記ロッド固定部材に前記ロッドが固定されるとともに、
前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部にロックナットが螺合され、該ロックナットにより前記ロッド固定部材に前記ロッドが固定されていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦制震装置。
【請求項4】
前記ロッド固定部材に、前記基材の外周の少なくとも一部を覆うように外装部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦制震装置。
【請求項5】
請求項1に記載の摩擦制振装置の製造方法であって、
前記ロッド固定部材に、複数の前記摩擦ダンパーユニットのダイス位置を揃えるためのダンパーセット治具をセットする治具セット工程と、
前記ダンパーセット治具に前記複数の摩擦ダンパーユニットをセットして、複数の前記ダイスの位置が揃った状態となるように前記ロッド固定部に前記ロッドの一端部を固定するロッド固定工程と、
前記ダンパーセット治具を取り外す治具取り外し工程と、
前記摩擦ダンパーユニットのロッドの他端部を前記基材のロッド挿入孔に挿入するとともに、前記ダイス固定部に前記ダイスを固定するダイス固定工程とを有することを特徴とする摩擦制震装置の製造方法。
【請求項6】
前記ロッド固定工程において、前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部と、前記ロッド固定部の内壁に形成された雌ネジ部とを螺合させて、前記ロッドを前記ロッド固定部材に固定するとともに、
前記ロッド固定工程において、前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部に螺合したロックナットの締め付けにより、前記ロッド固定部材に前記ロッドを固定するロックナット固定工程を有することを特徴とする請求項5に記載の摩擦制震装置の製造方法。
【請求項7】
前記ダイス固定工程において、前記基材の前記ダイス固定部に延設されたダイス止め固定部に、前記ロッドを軸通したダイス止め部材を固定して前記ダイスを固定するダイス止め工程を有し、
該ダイス止め工程において、前記ダイス止め固定部の内壁に形成された雌ネジ部と、前記ダイス止め部材の外周に設けた雄ネジ部とを螺合して、前記ダイス止め固定部に前記ダイス止め部材を固定して前記ダイスを固定することを特徴とする請求項5に記載の摩擦制震装置の製造方法。
【請求項8】
前記ロッド固定部材に、前記基材の外周の少なくとも一部を覆うように外装部材を設ける外装部材設置工程を有することを特徴とする請求項5に記載の摩擦制震装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦制振装置及びその製造方法に関し、詳しくは、複数の摩擦ダンパーユニットが並列に設けられた摩擦制振装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築用に用いられる制震装置として摩擦ダンパーが用いられている。これらの摩擦ダンパーとしては、例えば、既存RC造建物の制震補強工法として摩擦ダンパーを用いた外付け制震ブレースが提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。この制震ブレースに用いられる摩擦ダンパーは、滑り鋼板を2枚の摩擦鋼板で挟み込み、これらが重なった部分に付勢手段を設けたプレート式の摩擦ダンパーであり、この構成の摩擦ダンパーをブレースの取付け部とブラケットとの間に介装して用いている。
【0003】
上記の提案では、上記構成のプレート式の摩擦ダンパーを用いることにより、簡単な構造で耐震性能の向上を図ることができ、かつ、既存の建築物のブレースに対して簡単に追加改修できるとしている。しかしながら、上記構造のプレート式の摩擦ダンパーは、鋼板とボルトで挟み固定した簡易な構造であるため、大きな震動や、繰り返し震動(連動加振)に対して性能を発揮しづらく、初期不整やボルト伸びによる変形のロスが発生する場合があるという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、これまでに、ダイス・ロッド式の摩擦ダンパーが提案されている(例えば、特許文献3、4を参照)。上記の提案のダイス・ロッド式の摩擦ダンパーは、筒状のダイスに設けられた貫通孔に柱状のロッドを挿通、嵌合させた構造を有しており、震動時にロッドの外周面とダイスの貫通孔の内面との接触面が、一定の摩擦荷重を保持したまま軸方向に摺動して変位することで、摩擦力を移動方向に逆向きの抵抗力として作用させ、震動エネルギーを熱エネルギーに変換して震動を吸収することを利用している。上記の構造のダイス・ロッド式の摩擦ダンパーによれば、従来のプレート式の摩擦ダンパーに比べて、より単純な構成で、高い制震性能を有する点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願平9-361223号公報
【特許文献2】特開平10-325260号公報
【特許文献3】特開平10-238579号公報
【特許文献4】特開2015-212489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記提案のダイス・ロッド式の摩擦ダンパーは、いずれも単基の構成であるため、細かいエネルギー吸収率等の設計が困難であったり、稼働時に確実に所定の性能を発揮することが困難な場合がある等の点において、未だ改良の余地を残すものであった。
【0007】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、細かいエネルギー吸収率等のダンパー性能を設定することができ、稼働時に変形のロスがなく、所定の性能を確実に発現することが可能な摩擦制震装置を提供すること、また、上記摩擦制震装置を簡単な手順で、高精度かつ効率的に製造することができ、ガタつき等の初期不整の発生がない摩擦制震装置の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の摩擦制震装置及びその製造方法は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0009】
第1に、本発明の摩擦制震装置は、ダイスと、該ダイスに設けられた貫通孔に挿通、嵌合されたロッドからなる摩擦ダンパーユニットが、複数、並列に設けられた摩擦制震装置であって、
前記ロッドの一端部が挿入可能な複数のロッド挿入孔と、各々の該ロッド挿入孔に延設された、前記ダイスが挿入可能なダイス固定部とを有する基材と、
前記ロッドの他端部を固定可能な複数のロッド固定部を有するロッド固定部材とを備え、
前記ロッド挿入孔に前記ロッドの一端部が挿入され、前記ダイス固定部に前記ダイスが固定されるとともに、前記ロッド固定部に前記ロッドの他端部が固定されていることを特徴とする。
第2に、上記第1の発明の摩擦制震装置において、前記基材の前記ダイス固定部に延設されてダイス止め固定部が設けられるとともに、前記ロッドを軸通したダイス止め部材が設けられ、
前記ダイス止め固定部の内壁に形成された雌ネジ部と、前記ダイス止め部材の外周に設けられた雄ネジ部の螺合により、前記ダイス止め固定部に前記ダイス止め部材が固定され、前記ダイスが固定されていることが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明の摩擦制震装置において、前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部と、前記ロッド固定部の内壁に形成された雌ネジ部との螺合により、前記ロッド固定部材に前記ロッドが固定されるとともに、
前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部にロックナットが螺合され、該ロックナットにより前記ロッド固定部材に前記ロッドが固定されていることが好ましい。
第4に、上記第1から第3の発明の摩擦制震装置において、前記ロッド固定部材に、前記基材の外周の少なくとも一部を覆うように外装部材が設けられていることが好ましい。
【0010】
第5に、本発明の摩擦制震装置の製造方法は、上記第1に記載の発明の摩擦制振装置の製造方法であって、
前記ロッド固定部材に、複数の前記摩擦ダンパーユニットのダイス位置を揃えるためのダンパーセット治具をセットする治具セット工程と、
前記ダンパーセット治具に前記複数の摩擦ダンパーユニットをセットして、複数の前記ダイスの位置が揃った状態となるように前記ロッド固定部に前記ロッドの一端部を固定するロッド固定工程と、
前記ダンパーセット治具を取り外す治具取り外し工程と、
前記摩擦ダンパーユニットのロッドの他端部を前記基材のロッド挿入孔に挿入するとともに、前記ダイス固定部に前記ダイスを固定するダイス固定工程とを有することを特徴とする。
第6に、上記第5の発明の摩擦制震装置の製造方法において、前記ロッド固定工程において、前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部と、前記ロッド固定部の内壁に形成された雌ネジ部とを螺合させて、前記ロッドを前記ロッド固定部材に固定するとともに、
前記ロッド固定工程において、前記ロッドの一端部に形成された雄ネジ部に螺合したロックナットの締め付けにより、前記ロッド固定部材に前記ロッドを固定するロックナット固定工程を有することが好ましい。
第7に、上記第5又は第6の発明の摩擦制震装置の製造方法において、前記ダイス固定工程において、前記基材の前記ダイス固定部に延設されたダイス止め固定部に、前記ロッドを軸通したダイス止め部材を固定して前記ダイスを固定するダイス止め工程を有し、
該ダイス止め工程において、前記ダイス止め固定部の内壁に形成された雌ネジ部と、前記ダイス止め部材の外周に設けた雄ネジ部とを螺合して、前記ダイス止め固定部に前記ダイス止め部材を固定して前記ダイスを固定することが好ましい。
第8に、上記第5から第7の発明の摩擦制震装置の製造方法において、前記ロッド固定部材に、前記基材の外周の少なくとも一部を覆うように外装部材を設ける外装部材設置工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の摩擦制震装置によれば、従来に比べて大加重に対応可能であり、稼働時に変形のロスが少なく、いかなる震動に対しても所定の性能を発現することができる。
【0012】
また、本発明の摩擦制震装置の製造方法によれば、上記本発明の摩擦制震装置を簡単な手順で、高精度かつ効率的に製造することができ、ガタつき等の初期不整の発生がない摩擦制震装置を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る摩擦制震装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【
図2】
図1に示す実施形態の摩擦制震装置におけるA-A断面図である。
【
図3】本発明に係る摩擦ダンパーユニットの一実施形態を示す概略図であり、(A)は側面図であり、(B)は(A)におけるB-B断面図であり、(C)はロッド抜け止め部材を設けた摩擦ダンパーユニットの一実施形態を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る摩擦制震装置の製造方法の一実施形態を示す概略説明図であり、(A)は治具セット工程を示す概略説明図であり、(B)はロッド固定工程及びロックナット固定工程を示す概略説明図である。
【
図5】本発明に係る摩擦制震装置の製造方法の一実施形態を示す概略説明図であり、(C)は治具取り外し工程を示す概略説明図であり、(D)はダイス固定工程において、摩擦ダンパーユニットのロッドを基材のロッド挿入孔に挿入する状態を示す概略説明図である。
【
図6】本発明に係る摩擦制震装置の製造方法の一実施形態を示す概略説明図であり、(E)はダイス固定工程おいて、ダイス固定部にダイスを固定した状態を示す概略説明図であり、(F)はダイス固定工程おけるダイス止め工程を示す概略説明図である。
【
図7】本発明に係る摩擦制震装置の製造方法の一実施形態を示す概略説明図であり、(G)は外装部材設置工程を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る摩擦制震装置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る摩擦制震装置の一実施形態を示す概略断面図であり、
図2は、
図1に示す実施形態の摩擦制震装置におけるA-A断面図である。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
図1、
図2に示す実施形態の摩擦制震装置1は、4基の摩擦ダンパーユニット2が並列に設けられた摩擦制震装置であり、4個のロッド挿入孔31と、該ロッド挿入孔31に延設されたダイス固定部32とを有する基材3と、4個のロッド固定部41を有するロッド固定部材4とを備えている。
【0016】
(摩擦ダンパーユニット)
本実施形態の摩擦ダンパーユニット2は、
図3に示すように、貫通孔を有する筒状のダイス21と、該ダイス21の貫通孔に挿通、嵌合された柱状のロッド22からなり、震動時にロッド22の外周面とダイス21の貫通孔内面の嵌合部の摩擦により、震動エネルギーを熱エネルギーに変換して震動を吸収するものである。
【0017】
ロッド22、ダイス21の断面形状は特に限定されるものではなく、設計等に応じて適宜決定することができるが、強度等の観点から
図3に示す断面円形のものが好ましい。摩擦ダンパーユニット2の構成材料は、所定の強度及び耐久性を有するものであれば限定されないが、例えば、ロッド22及びダイス21が炭素鋼のものや、ロッド22が銅合金でダイス21が合金工具鋼のもの等を例示することができる。また、より安定した適切な摩擦荷重を得るために、ロッド22とダイス21の摩擦面に被膜潤滑剤等の塗布処理を施したり、ダイス21の貫通孔内面にポリテトラフルオロエチレン系の摩擦材を被覆することもできる。また、摩擦ダンパーユニット2の大きさは、摩擦制震装置1の使用用途や必要性能等に応じて適宜設定することができる。
【0018】
上記ロッド22とダイス21から構成される摩擦ダンパーユニット2は、比較的単純な構造であるため、経済的で、繰り返しの震動に対して高い耐久性を有し、疲労寿命を考慮する必要がなく、エネルギー吸収装置として高い信頼性が得られるとともに、優れたメンテナンス性を有するものである。
【0019】
なお、上記摩擦ダンパーユニット2においては、例えば、摩擦制震装置1が想定を超えて伸びる方向に動いた場合に、ロッド22からダイス21が引き抜かれて脱落するのを防止するために、必要に応じて
図3(C)に示すようなロッド抜け止め部材24を設けることができる。
【0020】
ロッド抜け止め部材24は筒状の部材であり、ロッド22におけるロッド挿通孔31側の端部に固定してダイス21の抜けを防止するものである。即ち、ロッド抜け止め部材24の外径はロッド挿通孔31の内径未満であるとともに、ダイス21の内径以上に設定される。ロッド22に対するロッド抜け止め部材24の固定は、例えば、ロッド22の端部に設けた雄ネジ部と、ロッド抜け止め部材24の内壁面に設けられた雌ネジ部の螺合により固定することができる。
【0021】
上記の構成により、ダイス21がロッド22の端部近傍まで移動しても、ダイス21の端部がロッド抜け止め部材24に当接してロッド22からの脱落を防止することができる。
【0022】
(基材)
本実施形態の摩擦制震装置1における基材3は、4基の摩擦ダンパーユニット2を固定するためのロッド挿入孔31と、各々のロッド挿入孔31に延設されたダイス固定部32とを有している。
【0023】
ロッド挿入孔31の直径はロッド22の断面径よりも大きく設定されている。即ち、ロッド挿入孔31の内壁と挿入した部分のロッド22の表面は、稼働時にロッド22が移動可能に接していてもよいし、間隙を有していてもよい。ロッド挿入孔31の深さは、ダイス21がダイス固定部32に固定された状態で、稼働時に想定されるロッド22の稼働範囲より大きく設定されていればよい。
【0024】
ロッド挿入孔31に延設されるダイス固定部32は、ロッド22の移動を阻害せず、ダイス21を安定して固定することが必要であり、直径はロッド挿入孔31より大きく、ダイス21の外径と同等である。また、ダイス固定部32の軸方向の寸法(深さ)は、ダイス21の軸方向の長さ寸法よりも短いのが好ましい。
【0025】
ダイス固定部32に対するダイス21の固定構造は、ダイス21が基材3から移動、脱落せず強固に固定されていれば限定されるものではないが、通常、
図1に示すように、ダイス21をダイス止め部材34により固定することが好ましい。
【0026】
具体的な固定構造としては、ダイス固定部32に延設してダイス止め固定部33を設け、そのダイス止め固定部33にダイス止め部材34を固定する。なお、ダイス止め部材34はリング状で、ロッド22に挿通されており、その内径はロッド22の径より大きく設定され、固定された状態でロッド22に干渉しないようになっている。
【0027】
また、ダイス止め固定部33に対するダイス止め部材34の固定は、ダイス止め固定部33の内壁に雌ネジ部を形成するとともに、ダイス止め部材34の外周に雄ネジ部を設け、ダイス止め固定部33とダイス止め部材34との螺合により固定することができる。この構成により、ロッド挿入孔31とダイス固定部32の境界の段差とダイス止め部材34によりダイス21が軸方向に挟み込まれ、ダイス21が確実に基材3内に固定、設置される。
【0028】
上記本実施形態によれば、4基の摩擦ダンパーユニット2のロッド22の一端側が基材3に設けられた4個のロッド挿入孔31に各々挿入されるとともに、ダイス21が各々のダイス固定部32に強固に固定されているため、4基の摩擦ダンパーユニット2はダイス21を介して基材3に稼働可能に接続されている。
【0029】
(ロッド固定部材)
上記摩擦ダンパーユニット2のロッド22における、基材3に接続された側の反対側端部、即ち、基材3から露出したロッド22の他端部は、ロッド固定部材4に固定されている。
【0030】
本実施形態のロッド固定部材4には、対向する基材3のロッド挿入孔31の対称位置に、4個のロッド固定部41が設けられており、ロッド固定部41にロッド22の端部が強固に固定されている。ロッド固定部41に対するロッド端部の固定方法は特に限定されるものではないが、ロッド端部を強固かつ正確に固定する観点から、通常、
図1に示すように、ロッド固定部41の内壁に形成された雌ネジ部と、ロッド22の一端部に形成された雄ネジ部23との螺合により強固に固定される。
【0031】
また、ロッド22端部の緩みを防止し、より確実にロッド固定部材4に対してロッド22を固定するために、ロッド22の一端部に形成された雄ネジ部23に螺合したロックナット42によりロッド固定部材4にロッド22の端部を固定することができる。
【0032】
また、本発明の摩擦制震装置1においては、ロッド固定部材4に対して、基材3の外周の少なくとも一部を覆うように外装部材5を設けることができる。外装部材5は、基材3とロッド固定部材4の間の摩擦ダンパーの露出部を雨水や埃等から保護するために設けるものであり、その目的を達成できれば材質や形状は特に限定されるものではなく、例えば、円管状の鋼製や樹脂製、蛇腹状のゴム製、布製等の外装部材5を例示することができる。
【0033】
また、外装部材5の基材3外周を覆う部分の内面に、Oリングやシリコンゴムスポンジ等を設け、基材3表面と外装部材5の間を密閉するようにすることができる。これにより、外部からの雨水や埃の侵入を確実に防止することができる。また、外装部材5は、摩擦ダンパーユニット2のメンテナンス性等の観点から、ロッド固定部材4から着脱可能に設けられていることが好ましい。
【0034】
上記構成の本実施形態の摩擦制震装置1は、従来摩擦ダンパーが設置されていた場所に適用が可能である。具体的には、制振用ダンパーとしてブレースの端部又は中間部への設置や橋梁の橋脚と橋桁への設置、建築物の基礎部分への設置等、種々の適用を例示することができる。即ち、本発明の摩擦制震装置1の両端には、ブレースや橋梁の支承、基礎構造体等必要に応じて種々の部材を接続することができる。具体的には、例えば、
図1、
図2に示すようなL字鋼を組み合わせた断面十字型の鋼材7を両端に接続することができる。
【0035】
本発明の摩擦制震装置1は、摩擦ダンパーユニット2を複数、並列に設置した構成としているため、地震等の発生時に正確に所定の稼働をさせるために、複数各々の摩擦ダンパーユニット2が基材3及びロッド固定部材4に正確に固定されている必要がある。そして、そのためには、製造過程において、複数各々の摩擦ダンパーユニット2のロッド22及びダイス21の位置を正確に一致させておくことが望まれるが、これらを容易かつ正確に設置することは困難を要する。そのため、本発明の摩擦制振装置を高精度かつ効率的に製造するために、本発明の摩擦制震装置1の製造方法により製造することが望ましい。
【0036】
以下に、本発明に係る摩擦制震装置1の製造方法の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図4~
図7に示す(A)~(G)は、本発明に係る摩擦制震装置1の製造方法の、各工程の一実施形態を示す概略説明図である。本発明の摩擦制震装置1の製造方法は、少なくとも治具セット工程、ロッド固定工程、治具取り外し工程及びダイス固定工程とを有している。
【0037】
(治具セット工程)
まず、治具セット工程として、
図4(A)に示すように、ロッド固定部材4のロッド固定部41が設けられた面を上にした状態で、上面にダンパーセット治具6を載置する。ダンパーセット治具6は、複数の摩擦ダンパーユニット2のダイス21の位置を揃えるために用いる治具であり、ロッド固定部材4に載置した状態において、下部にロッド22の端部が挿通可能な開口部を有しており、上部にダイス位置合わせ部が設けられている。また、高さは、ロッド固定部材4に摩擦ダンパーユニット2を固定した状態における、ロッド固定部材4とダイス21間の寸法に設定されている。また、ダンパーセット治具6は、ロッド22を軸方向に挟み込むように分割式に構成されており、摩擦ダンパーユニット2の設置時にはボルトとナットにより一体化して用いられる。
【0038】
ダンパーセット治具6のセットに際しては、予め、ロックナット42及びダイス止め部材34を導入した摩擦ダンパーユニット2をダンパーセット治具6にセットした状態でロッド固定部材4の上面に載置する。
【0039】
(ロッド固定工程)
次に、ダンパーセット治具6にセットした状態の各々の摩擦ダンパーユニット2のロッド22端部をロッド固定部材4のロッド固定部41に固定する。このとき、
図4(B)に示すように、摩擦ダンパーユニット2のダイス21が、ダンパーセット治具6上部のダイス位置合わせ部に接触する状態にする。ロッド22とロッド固定部41の固定は、ロッド22の一端部に形成された雄ネジ部23と、ロッド固定部41の内壁に形成された雌ネジ部とを螺合させて締め込むことにより容易に行うことができる。これにより、複数の摩擦ダンパーユニット2のダイス位置を容易に一致させることができるとともに、ロッド22のロッド固定部41への固定を行うことができる。
【0040】
(ロックナット固定工程)
また、ロッド22の固定に際しては、ロックナット固定工程として、予めロッド22の一端部の雄ネジ部23にロックナット42を螺合させておき、ロッド22の固定位置が決まった段階でロックナット42をロッド固定部材4に締め付けることができる(
図4(B))。これにより、ロッド22をロッド固定部材4に強固かつ確実に固定することができる。
【0041】
(治具取り外し工程)
上記ロッド固定工程により、全ての摩擦ダンパーユニット2のロッド22端部の固定を完了させた後、ダンパーセット治具6を分割して取り外す(
図5(C))。このとき、ダイス21の位置がずれないように留意してダンパーセット治具6を取り外す。
【0042】
(ダイス固定工程)
次に、ダイス固定工程として、
図5(D)、
図6(E)に示すように、固定された複数の摩擦ダンパーユニット2の上部から基材3を被せるように配設する。具体的には、摩擦ダンパーユニット2のロッド22の他端部を基材3のロッド挿入孔31に挿入し、さらに、ダイス固定部32にダイス21を挿入して固定する。
【0043】
(ダイス止め工程)
ダイス21の固定に際しては、ダイス止め工程として、
図6(F)に示すように、基材3のダイス固定部32に延設されたダイス止め固定部33に、予めロッド22に軸通させたダイス止め部材34によりダイス21を固定することができる。具体的には、ダイス止め固定部33の内壁に形成された雌ネジ部と、ダイス止め部材34の外周に設けた雄ネジ部とを螺合して、ダイス止め固定部33にダイス止め部材34を固定することができる。
【0044】
(外装部材設置工程)
本実施形態の摩擦制震装置1の製造方法においては、必要に応じて外装部材設置工程として、ロッド固定部材4に、基材3の外周の少なくとも一部を覆うように外装部材5を装着することができる。外装部材5の装着方法としては、例えば、鋼製の筒状体を外装部材5として用いる場合は、
図5(D)~
図6(F)に示すように、予め基材3の外周部に筒状体の外装部材5を挿通させておき、ダイス固定工程後に、
図7(G)に示すように、外装部材5を下方向にスライドさせてロッド固定部材4にボルト等を用いて固定することができる。
【0045】
以上、実施形態に基づき本発明の摩擦制震装置及びその製造方法を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態の摩擦制震装置1では、摩擦ダンパーユニット2を4基並列に配設しているが、摩擦制震装置1の使用用途や設置状況に応じて適宜設計することが可能であり、摩擦ダンパーユニット2を2基又は3基としたり5基以上とすることもできる。
【0047】
また、上記実施形態の摩擦制震装置1の製造方法では、治具セット工程において、予め摩擦ダンパーユニット2をダンパーセット治具6にセットした状態でロッド固定部材4の上面に載置しているが、初めに摩擦ダンパーユニット2をロッド固定部41にある程度接合しておき、摩擦ダンパーユニット2を自立させた状態でダンパーセット治具6をセットしてもよい。
【0048】
以上の説明のとおり、上記構成の摩擦制震装置及びその製造方法によれば、本発明の摩擦制震装置を簡単な手順で高精度かつ効率的に製造することができ、ガタつき等の初期不整がない摩擦制震装置を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 摩擦制震装置
2 摩擦ダンパーユニット
21 ダイス
22 ロッド
23 雄ネジ部(ロッド端部)
24 ロッド抜け止め部材
3 基材
31 ロッド挿入孔
32 ダイス固定部
33 ダイス止め固定部
34 ダイス止め部材
4 ロッド固定部材
41 ロッド固定部
42 ロックナット
5 外装部材
6 ダンパーセット治具
7 鋼材