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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179342
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】断続装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20241219BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F16D41/08 Z
F16D41/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098104
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 圭
(57)【要約】
【課題】適切に遮断状態から接続状態へ切り替え可能な断続装置を提供する。
【解決手段】第1断続機構210は、第1従動ギヤ184と第2シャフト182との間に配置されるローラ281と、ローラ281を第1従動ギヤ184と第2シャフト182とが一体回転可能な係合状態と、第1従動ギヤ184と第2シャフト182とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作機構240、リテーナ282、ピン283、ガイド284と、を備える。第1従動ギヤ184は内部に中空穴を有するとともに、中空穴内に第2シャフト182を配置可能に設けられる。第1断続機構210は、第1従動ギヤ184の中空穴の内周面とリテーナ282の外周面との間に介装される潤滑剤Gと、第2シャフト182の外周面とリテーナ282の内周面との間に介装される潤滑剤Gと、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体と第2回転体との間に配置される係合子と、
前記係合子を、前記第1回転体と前記第2回転体とが一体回転可能な係合状態と、前記第1回転体と前記第2回転体とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作部と、を備える、断続装置であって、
前記第1回転体及び前記第2回転体は、
互いの回転軸線が一致するように、且つ、前記回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置され、
前記第1回転体は内部に中空穴を有するとともに、前記中空穴内に前記第2回転体を配置可能に設けられ、
前記操作部は、
前記係合子を動かす作動子と、
該作動子を介して前記係合子を操作可能に、又は該作動子を介さず前記係合子を操作可能に設けられる操作子と、を有し、
前記操作子は、
前記回転軸線と直交する直交方向に沿って進退移動可能に設けられる進退子と、
前記回転軸線に沿って延在し、かつ該回転軸線に沿って進退移動可能に設けられる延在部と、を有し、
前記断続装置は、
前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との間に介装される第1潤滑剤と、
前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との間に介装される第2潤滑剤と、を備える、断続装置。
【請求項2】
請求項1に記載の断続装置であって、
前記作動子は、前記直交方向視で、前記第1回転体及び前記第2回転体と少なくとも一部が重なり合うよう配置される、断続装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の断続装置であって、
前記第1潤滑剤及び前記第2潤滑剤は、同じ材質である、断続装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の断続装置であって、
前記第1潤滑剤及び前記第2潤滑剤の材質に基づいて、少なくとも以下のいずれか一つが決定される、断続装置。
(i) 前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との接触面積である第1面積、若しくは、
前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との接触面積である第2面積、
又は、
(ii) 前記直交方向における、前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との離間距離である第1離間距離、若しくは、
前記直交方向における、前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との離間距離である第2離間距離。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の断続装置であって、
(i) 前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との接触面積である第1面積、若しくは、
前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との接触面積である第2面積、
又は、
(ii) 前記直交方向における、前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との離間距離である第1離間距離、若しくは、
前記直交方向における、前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との離間距離である第2離間距離、
の少なくともいずれか一つに基づいて、
前記第1潤滑剤の材質、又は、前記第2潤滑剤の材質の少なくともいずれか一方を決定する、断続装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の断続装置であって、
前記作動子は、前記外周面に溝部を有する、断続装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の断続装置であって、
前記作動子は、前記内周面に他の溝部を有する、断続装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の断続装置では、リテーナとギヤの間にフリクションボールやOリングなどの弾性部材を介在させて回転抵抗力を付与し、断続装置の遮断状態から接続状態への移行の際に、ギヤの回転力をリテーナに伝達することで、ピンを押し下げてローラを係合状態に切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/251500号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の断続装置では、弾性部材の耐久性(耐摩耗性)が課題だった。即ち、弾性部材が摩耗すると、断続装置の円滑な切り替えが困難になる可能性がある。
【0005】
本発明は、適切に遮断状態から接続状態へ切り替え可能な断続装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
第1回転体と第2回転体との間に配置される係合子と、
前記係合子を、前記第1回転体と前記第2回転体とが一体回転可能な係合状態と、前記第1回転体と前記第2回転体とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作部と、を備える、断続装置であって、
前記第1回転体及び前記第2回転体は、
互いの回転軸線が一致するように、且つ、前記回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置され、
前記第1回転体は内部に中空穴を有するとともに、前記中空穴内に前記第2回転体を配置可能に設けられ、
前記操作部は、
前記係合子を動かす作動子と、
該作動子を介して前記係合子を操作可能に、又は該作動子を介さず前記係合子を操作可能に設けられる操作子と、を有し、
前記操作子は、
前記回転軸線と直交する直交方向に沿って進退移動可能に設けられる進退子と、
前記回転軸線に沿って延在し、かつ該回転軸線に沿って進退移動可能に設けられる延在部と、を有し、
前記断続装置は、
前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との間に介装される第1潤滑剤と、
前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との間に介装される第2潤滑剤と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、確実に断続装置を遮断状態から接続状態へ切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の電動義足1を斜め前方から見た斜視図である。
図2】電動義足1の分解斜視図である。
図3】電動義足1の断面図である。
図4】伸縮装置140の断面図である。
図5】電動義足1の屈曲状態を示す要部断面図である。
図6】電動義足1の最大屈曲状態を示す要部断面図である。
図7】二方向クラッチの断面図である。
図8】リテーナ282の斜視図である。
図9】操作機構240の動作を示す図であり、(A)は断続部212及び断続部222がオフの状態を示す図、(B)は断続部212がオフ、断続部222がオンの状態を示す図、(C)は断続部212がオン、断続部222がオフの状態を示す図である。
図10】(A)は、断続部222がオフの状態を示す断面図であり、(B)はそのときの操作ロッド241の位置を示す図である。
図11】(A)は、断続部222がオフからオンに操作された状態を示す断面図であり、(B)はそのときの操作ロッド241の位置を示す図である。
図12】(A)は、断続部222の正転オン状態を示す断面図であり、(B)はそのときの操作ロッド241の位置を示す図である。
図13】(A)は、断続部222の逆転オン状態を示す断面図であり、(B)はそのときの操作ロッド241の位置を示す図である。
図14】(A)は、断続部222がオンからオフに操作された状態を示す断面図であり、(B)はそのときの操作ロッド241の位置を示す図である。
図15】昇段時の人間及び電動義足1の動作(昇段動作)を示す図である。
図16】平地歩行時の人間及び電動義足1の動作(平地歩行動作)を示す図である。
図17】第2実施形態の電動義足1の断面図である。
図18】第3実施形態の電動義足1の側面図である。
図19】第3実施形態の電動義足1に搭載される拡縮装置200の斜視図である。
図20図19の拡縮装置200の断面図である。
図21】ずり速度の説明図である。
図22】ずり応力の説明図である。
図23】使用記号(変数)を説明するための図であり、従動ギヤ184、186とリテーナ282との間を平面状に展開した模式図である。
図24】使用記号(変数)を説明するための図であり、リテーナ282と第2シャフト182との間を平面状に展開した模式図である。
図25】使用記号(変数)を説明するための図であり、断続部222の断面図である。
図26】従動ギヤ184、186とリテーナ282との間の抵抗力Fo、及びリテーナ282と第2シャフト182との間の抵抗力Fiを示す断続部222の断面図である。
図27】従動ギヤ184、186とリテーナ282との間の回転抵抗トルクTo、及びリテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗トルクTiを示す断続部222の断面図である。
図28】第1変形例を示す図であり、(a)は断続部222の断面図、(b)はリテーナ282の斜視図である。
図29】第2変形例を示す図であり、(a)は断続部222の断面図、(b)はリテーナ282の斜視図、(c)はワッシャWの斜視図である。
図30】第3変形例を示す断続部222の断面図である。
図31】第4変形例を示すリテーナ282の斜視図である。
図32】第5変形例を示すリテーナ282の斜視図である。
図33】第6変形例を示す断続部222の斜視図である。
図34】第7変形例を示す断続部222の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の断続装置を内蔵した電動義足の一実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、電動義足の使用者を基準に前後方向、左右方向、上下方向を定義する。図面には、電動義足の前方をFr、後方をRr、左側をL、右側をR、上方をU、下方をDとして示す。
【0010】
本実施形態の電動義足1は、図1図4に示すように、ひざのない人の脚部に装着される義足であり、ひざの下側に位置する膝下側部材110と、大腿部に装着され、ひざの上側に位置する膝上側部材120と、膝下側部材110と膝上側部材120との成す角を変更可能に連接する膝関節機構130と、膝下側部材110と膝上側部材120との成す角を拡大及び縮小可能な拡縮装置200と、膝下側部材110と膝上側部材120との成す角の変更範囲を機械的に制限するメカストップ機構150と、メカストップ機構150による衝撃を緩衝する緩衝機構160と、拡縮装置200などに電力を供給するバッテリBと、を備える。
【0011】
膝上側部材120は、不図示のソケットに連結されるアダプター121と、上壁部125にアダプター121が取り付けられた膝上側基部126と、を備える。ソケットは、大腿部に設けられるジョイント部材であり、ソケットにアダプター121を連結することで、大腿部に膝上側部材120が一体化される。
【0012】
膝下側部材110は、上部及び後部が開口する箱形状のメインフレーム111と、メインフレーム111の左右両側面を覆うサイドカバー112と、メインフレーム111の後部開口を開閉可能に覆う着脱自在なリヤカバー113と、メインフレーム111の下面に取り付けられたアダプター122と、を備える。
【0013】
膝下側部材110のメインフレーム111の上部には、膝関節機構130を構成する連接軸135を介して膝上側部材120が設けられ、メインフレーム111のアダプター122には、下方に延在する脚部114が連結される。
【0014】
膝上側部材120及び膝下側部材110により形成された空間には、膝下側部材110と膝上側部材120との成す角を拡大及び縮小可能な拡縮装置200が設けられる。拡縮装置200は、伸縮することにより膝下側部材110と膝上側部材120との成す角を拡大及び縮小可能な伸縮装置140である。伸縮装置140は、上下方向に延在し、詳しくは後述するが、延在方向の一方側が膝上側部材120に機械的に接続され、延在方向の他方側が膝下側部材110に機械的に接続される。なお、「機械的に接続」とは、直接接続される構成、及び他部材を介して接続される構成を含む概念である。
【0015】
図3及び図4に示すように、伸縮装置140は、回転動力を出力するモータMと、モータMの動力を伝達する変速機Tと、変速機Tに動力伝達可能に接続され、変速機Tから出力される回転動力を並進運動(伸縮運動)に変換するスピンドルユニットSPと、変速機Tに設けられる第1断続機構210及び第2断続機構220と、を備える。
【0016】
モータMは、例えば、永久磁石型電動機であり、変速機Tの後方且つ上方に配置され、スピンドルユニットSPは、変速機Tの前方且つ上方に配置される。スピンドルユニットSPは、動力の伝達経路上で変速機Tに対してモータMと反対側に配置される。モータMは、モータ本体部171と、モータ本体部171の出力回転を減速するギヤ機構部172と、を備えるギヤ機構内蔵モータである。スピンドルユニットSPは、雄ねじが形成されたスピンドル173と、雌ねじが形成されたスリーブ174と、を有し、スピンドル173の回転によりスリーブ174がスピンドル173の軸心に沿って並進運動する。
【0017】
具体的に説明すると、スピンドル173は、変速機Tによって伝達されたモータMの回転動力を受けて回転運動を行う。一方、スリーブ174は、ユニットケース250に回転不能且つ上下移動可能に支持されている。したがって、変速機Tによって伝達されたモータMの回転動力を受けてスピンドル173が一方側に回転すると、スリーブ174が変速機Tから離れるように並進移動し、スピンドル173が他方側に回転すると、スリーブ174が変速機Tに近づくように並進移動する。なお、スリーブ174が変速機Tから離れるように並進移動することをスピンドルユニットSPの伸長動作と呼ぶことがあり、反対にスリーブ174が変速機Tに近づくように並進移動することをスピンドルユニットSPの縮小動作と呼ぶことがある。
【0018】
即ち、スピンドル173の回転方向に応じてスリーブ174と変速機Tとの距離が伸縮する。スリーブ174の上端部は、リンク部材175を介して膝上側部材120に連結されている。スピンドル173の回転方向に応じてスリーブ174と変速機Tとの距離が伸縮することで、膝下側部材110と膝上側部材120とが連接軸135を中心に回転する。これにより、膝上側部材120と膝下側部材110との成す角が変わる。
【0019】
ここで、膝上側部材120と膝下側部材110との成す角は、膝関節機構130の連接軸135の中心と膝上側部材120のアダプター121とを結ぶ第1仮想線L1と、膝関節機構130の連接軸135の中心と膝下側部材110を通って鉛直方向下方に延びる第2仮想線L2とにより区画形成される角である。膝関節機構130の連接軸135を中心とした膝下側部材110と膝上側部材120との成す角のうち、1周の一方側を第1成す角θ1、他方側を第2成す角θ2とし、第1成す角θ1及び第2成す角θ2のうち、膝下側部材110と膝上側部材120とが相対移動する範囲における最小成す角度が小さい方を第2成す角θ2とすると、電動義足1の使用者の膝裏側の成す角(膝裏角)が、第2成す角θ2となる。第1成す角θ1は約175[deg]~300[deg]の値をとり、第2成す角θ2は約60[deg]~185[deg]の値をとる。
【0020】
図3は、膝関節機構130が伸展した状態を示すものであり、第1成す角θ1が約175[deg]、第2成す角θ2が約185[deg]である。図5は、電動義足1の屈曲状態を示す要部断面図であり、第1成す角θ1が約240[deg]、第2成す角θ2が約120[deg]である。図6は、電動義足1の最大屈曲状態を示す要部断面図であり、第1成す角θ1が約300[deg]、第2成す角θ2が約60[deg]である。
【0021】
図3及び図4に戻って、変速機Tは、モータMの動力を第1変速比でスピンドルユニットSPに伝達する第1変速機構T1と、モータMの動力を第1変速比とは異なる第2変速比でスピンドルユニットSPに伝達する第2変速機構T2と、を備える。第1変速機構T1及び第2変速機構T2は、断続機構210、220によって動力の遮断状態と接続状態とが切り替えられる。
【0022】
このような変速機Tによれば、変速比の異なる2つの動力伝達路を備えることで、膝関節機構130における伸展と屈曲の動作スピード及び発生動力を切り替えることができる。第1変速比及び第2変速比は異なっていればよく、第1変速機構T1と第2変速機構T2とは、いずれか一方が減速機構で他方が増速機構であってもよく、いずれか一方が等速機構で他方が減速機構又は増速機構であってもよく、両方が減速機構であってもよく、両方が増速機構であってもよい。
【0023】
第1変速比は、第1変速機構T1におけるモータM側の回転数である変速前回転数に対する、第1変速機構T1における反モータM側(スピンドルユニットSP側)の回転数である変速後回転数の比率である。第2変速比は、第2変速機構T2におけるモータM側の回転数である変速前回転数に対する、第2変速機構T2における反モータM側(スピンドルユニットSP側)の回転数である変速後回転数の比率である。
【0024】
例えば、第1変速機構T1の第1変速比が1より小さい場合、反モータM側(スピンドルユニットSP側)の回転数はモータM側の回転数よりも減少し、トルクが増加する。第2変速機構T2の第2変速比が1より大きい場合、反モータM側(スピンドルユニットSP側)の回転数はモータM側の回転数よりも増加し、トルクが減少する。本実施形態では、第1変速比は、第2変速比よりも小さくなるよう第1変速比が1より小さく、第2変速比が1よりも大きく設定されており、第1変速機構T1が第2変速機構T2よりも下方に配置されている。
【0025】
第1変速機構T1及び第2変速機構T2には、ギヤ機構部172の出力軸172aの下方延長線上に回転可能に配置される第1シャフト181と、スピンドルユニットSPのスピンドル173の下方延長線上に回転可能に配置される第2シャフト182と、が含まれる。第1シャフト181は、軸心誤差を許容するカップリング187を介して、モータMのギヤ機構部172の出力軸172aに一体回転可能に連結される。第2シャフト182は、スピンドルユニットSPのスピンドル173に一体回転可能に接続されている。なお、本実施形態の第2シャフト182は、スピンドルユニットSPのスピンドル173と一体化されているが、第2シャフト182は、スピンドルユニットSPのスピンドル173とし、スプライン嵌合やカップリングを用いて連結してもよい。
【0026】
第1変速機構T1は、互いに噛み合う第1駆動ギヤ183及び第1従動ギヤ184を備える。第1駆動ギヤ183は、第1シャフト181に一体回転可能に支持され、第1従動ギヤ184は、第2シャフト182に相対回転可能に支持されている。第1従動ギヤ184及び第2シャフト182は、互いの回転軸線が一致するように、且つ、回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置される。本実施形態の第1変速機構T1は、第1駆動ギヤ183を第1従動ギヤ184よりも小径とした減速伝達機構であり、スピンドルユニットSPを低速且つ高トルクで伸縮動作させることができる。
【0027】
第2変速機構T2は、互いに噛み合う第2駆動ギヤ185及び第2従動ギヤ186を備える。第2駆動ギヤ185は、第1シャフト181に一体回転可能に支持され、第2従動ギヤ186は、第2シャフト182に相対回転可能に支持されている。第2従動ギヤ186及び第2シャフト182は、互いの回転軸線が一致するように、且つ、回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置される。本実施形態の第2変速機構T2は、第2駆動ギヤ185を第2従動ギヤ186よりも大径とした増速伝達機構であり、スピンドルユニットSPを高速且つ低トルクで伸縮動作させることができる。
【0028】
なお、本実施形態では、第1変速機構T1の上側に第2変速機構T2を配置しているが、第1変速機構T1の下側に第2変速機構T2を配置してもよい。また、本実施形態の第1シャフト181及び第2シャフト182は、それぞれ、最初から一体形成されるが、上下のギヤ支持部を別体として形成した後、一体的に連結(結合)してもよい。本実施形態の第1従動ギヤ184又は第2従動ギヤ186が、第1回転体に相当し、第2シャフト182が第2回転体に相当する。
【0029】
第1断続機構210は、第1従動ギヤ184と第2シャフト182との間に設けられる断続部212と、第1断続機構210を切り替え操作する操作機構240と、を備える。第2断続機構220は、第2従動ギヤ186と第2シャフト182との間に設けられる断続部222と、第2断続機構220を切り替え操作する操作機構240と、を備える。これらの断続部212、222は、共通の構成を有しており、動力伝達を遮断する遮断状態と、一方向及び他方向の両方向の回転動力を伝達可能な動力伝達可能状態と、に切り替え可能に構成される。なお、断続部212、222の詳細は後述する。
【0030】
操作機構240は、断続部212、222を断続操作可能に設けられる操作ロッド241と、操作ロッド241を直線移動させるサーボモータ242と、を備える。
【0031】
第2シャフト182は、回転軸線方向(上下方向とも称する)に延びる内部空間S2を有する中空軸であり、この内部空間S2に操作ロッド241が配置される。操作ロッド241は、内部空間S2から露出する下端部にラック241aが設けられる。操作ロッド241は、内部空間S2に配置された軸受B4、B5によりラック241aと相対回転不能且つ回転軸線方向に一体で進退移動可能に支持される。第2シャフト182の下端部は、操作ロッド241が挿通する挿通孔を有する蓋部材188が螺合する。蓋部材188は、内部空間S2への異物の侵入を防止するとともに、操作ロッド241の取り換えを容易にする。ラック241aには、サーボモータ242の出力軸242aに設けられるピニオン243が噛み合っており、サーボモータ242の駆動に応じて、操作ロッド241の上下方向のポジションが切り替えられる。操作ロッド241の外周部には、後述する小径部241b1、241b2及び大径部241c1~241c3が形成されており、後述する断続部212、222のピン283の内径端部(内端)に当接可能に構成される。操作ロッド241のポジションに応じて、小径部241b1、241b2及び大径部241c1~241c3が断続部212、222を断続操作する。なお、操作機構240の詳細は後述する。
【0032】
図3図5に示すように、ユニットケース250は、アッパーケース251、ミドルケース252及びロワケース253を備える。これらアッパーケース251、ミドルケース252及びロワケース253は、互いに別体に形成されている。
【0033】
アッパーケース251は、スピンドルユニットSPを収容する。
【0034】
ミドルケース252とロワケース253とにより形成される空間S1には、第2駆動ギヤ185及び第2従動ギヤ186、第1駆動ギヤ183及び第1従動ギヤ184、断続部212、222、及び操作機構240の一部が収容される。
【0035】
ユニットケース250は、アッパーケース251、ミドルケース252及びロワケース253の3段構造によって、変速機T及びスピンドルユニットSPをケーシングできるだけでなく、モータMも含めた伸縮装置140をユニット化する。
【0036】
また、ユニットケース250は、不図示のブラケットを介してメインフレーム111に取付けられる。
【0037】
メカストップ機構150及び緩衝機構160については説明を省略する。
【0038】
つぎに、断続部212、222及び操作機構240の詳細について、図7以降を参照して説明する。
【0039】
各断続部212、222は、共通の構成を有しており、動力伝達を遮断する遮断状態と、一方向及び他方向の両方向の回転動力を伝達可能な動力伝達可能状態と、に切り替え可能に構成される。本実施形態の各断続部212、222は、図7に示すように、強制フリー機能を備える二方向クラッチ280を用いて構成されている。二方向クラッチ280は、第2シャフト182の外周面部とギヤ184、186の内周面部との間に配置される複数(本実施形態では3つ)のローラ281と、複数のローラ281を所定の間隔に保持するリテーナ282と、第2シャフト182を径方向に貫通し、操作機構240によって強制フリー位置と強制フリー解除位置とに操作される複数(本実施形態では3つ)のピン283と、リテーナ282に設けられ、ピン283が強制フリー位置のとき第2シャフト182に対するリテーナ282の相対回転位置を規定する複数(本実施形態では3つ)のガイド284と、を備える。ローラ281は、ボールでもよく、スプラグでもよい。
【0040】
本実施形態の断続機構210、220では、ローラ281が係合子であり、操作機構240、ピン283、ガイド284、及びリテーナ282が、係合子(ローラ281)を係合状態と非係合状態とに操作する操作部に相当する。また、リテーナ282が係合子(ローラ281)を動かす作動子であり、操作機構240、ピン283、及びガイド284が、作動子(リテーナ282)を介して係合子(ローラ281)を操作可能に、又は作動子(リテーナ282)を介さず係合子(ローラ281)を操作可能に設けられる操作子に相当する。また、ピン283が回転軸線と直交する直交方向に沿って進退移動可能に設けられる進退子であり、後述する操作機構240の操作ロッド241が、回転軸線に沿って進退移動可能に設けられる延在部に相当する。
【0041】
第2シャフト182の外周面部とギヤ184、186の内周面部との径方向の間隔Aは、ローラ281の直径Bよりも小さい。また、第2シャフト182の外周部には、周方向に所定の間隔で平坦部182aが形成されており、平坦部182aの周方向中央側では、間隔Aが直径Bよりも大きい。
【0042】
つまり、ローラ281が平坦部182aの周方向中央部に保持される状態では、ローラ281が第2シャフト182の外周面部及びギヤ184、186の内周面部に噛み合わず(非係合状態)、第2シャフト182とギヤ184、186との相対回転が許容される(強制フリー状態)。
【0043】
一方、ローラ281が第2シャフト182に対する周方向の移動が許容される状態では、ローラ281が第2シャフト182の外周面部及びギヤ184、186の内周面部に噛み合い(係合状態)、第2シャフト182とギヤ184、186とが二方向において一体回転可能に接続される(強制フリー解除状態)。
【0044】
図8に示すように、リテーナ282は、第2シャフト182及びギヤ184、186に対して相対回転可能なリング形状であり、第2シャフト182及びギヤ184、186の回転軸線と直交する直交方向視で、第2シャフト182及びギヤ184、186と少なくとも一部が重なり合うよう配置される。リテーナ282は、ローラ281を保持する複数のローラ保持部282aと、ガイド284を保持する複数のガイド保持部282bと、を有する。
【0045】
図7に戻って、ピン283は、径方向外側の端部に円錐状の凸部283aを有し、ガイド284は、径方向内側の端面に凸部283aと嵌合(係合)する円錐状の凹部284aを有する。ピン283の凸部283aがガイド284の凹部284aに嵌合すると、ピン283及びガイド284によるガイド作用によって、第2シャフト182に対するリテーナ282の相対回転位置が強制フリー状態となる所定の位置に位置決めされる。ピン283の径方向内側の端部は、操作ロッド241と当接するように設けられる。
【0046】
図9に示すように、操作ロッド241には、上方から順に、第1大径部241c1、第1小径部241b1、第2大径部241c2、第2小径部241b2、第3大径部241c3が所定の長さ及び間隔で形成されている。操作ロッド241は、2つの断続部212、222を同時に制御可能に設けられているが、断続部212、222ごとに別々に設けられていてもよい。
【0047】
以下の説明では、断続部212、222を同時に制御する操作機構240の動作について図9を参照しながら説明する。
【0048】
図9に示すように、断続部212、222は、操作機構240によって強制フリー状態(以下、適宜オフ状態と称する)と強制フリー解除状態(以下、適宜オン状態と称する)とに切り替えられる。
【0049】
操作機構240の操作ロッド241は、図9の(A)に示す上ポジションにあるとき、第2大径部241c2が断続部222のピン283を外径方向に押し出しつつ、第3大径部241c3が断続部212のピン283を外径方向に押し出すことで、断続部212及び断続部222がオフ状態となる。
【0050】
また、操作機構240の操作ロッド241は、図9の(B)に示す中ポジションにあるとき、第1小径部241b1が断続部222のピン283が内径方向に戻ることを許容しつつ、第3大径部241c3が断続部212のピン283を外径方向に押し出すことで、断続部222がオン状態、断続部212をオフ状態となる。
【0051】
また、操作機構240の操作ロッド241は、図9の(C)に示す下ポジションにあるとき、第1大径部241c1が断続部222のピン283を外径方向に押し出しつつ、第2小径部241b2が断続部212のピン283が内径方向に戻ることを許容することで、断続部222がオフ状態、断続部212がオン状態となる。
【0052】
つぎに、二方向クラッチ280の動作について、断続部222を例に、図10図14を参照しつつ説明する。以下の例では、断続部222における図9の(A)から(B)を経て(C)へ移行する場合を例に説明する。
【0053】
図10の(A)及び(B)に示すように、操作ロッド241が上ポジションにあり、第2大径部241c2が断続部222のピン283を外径方向に押し出す状態では、ピン283の凸部283aがガイド284の凹部284aに嵌合し、第2シャフト182に対するリテーナ282の相対回転位置が所定の位置で固定される。この状態では、ローラ281が平坦部182aの周方向中央部に保持されるため、ローラ281が第2シャフト182の外周面部及び第2従動ギヤ186の内周面部に噛み合わず、第2シャフト182と第2従動ギヤ186との相対回転が許容されるオフ状態となる。
【0054】
図11の(A)及び(B)に示すように、操作ロッド241が上ポジションから少し下がった中ポジションに移動すると、第1小径部241b1がピン283の内径方向への戻りを許容する状態に移行する。この状態は、断続部222がオン状態となり得る状態である。「オン状態となり得る状態」とは、この状態ではオフ状態であるものの、第2シャフト182と第2従動ギヤ186との間に相対回転が発生するとオン状態になる状態を意味する。
【0055】
即ち、図11の(A)及び(B)に示すピン283の内径方向への戻りが許容される状態で、第2従動ギヤ186に図12の(A)の矢印で示す正転方向の回転が生じると、第2従動ギヤ186と連れ回りするリテーナ282がローラ281を第2シャフト182に対して正転方向に移動させる。ローラ281は、第2シャフト182の外周面部及び第2従動ギヤ186の内周面部に噛み合うとともに、第2従動ギヤ186と連れ回りするリテーナ282のガイド284が凹部284aの傾斜面でピン283を内径方向に押し戻す。これにより、図12の(A)及び(B)に示すように、正転方向において第2シャフト182と第2従動ギヤ186とを一体的に回転させる正転オン状態となる。
【0056】
また、図11の(A)及び(B)に示すピン283の内径方向への戻りが許容される状態で、第2従動ギヤ186に図13の(A)の矢印で示す逆転方向の回転が生じると、第2従動ギヤ186と連れ回りするリテーナ282がローラ281を第2シャフト182に対して逆転方向に移動させる。ローラ281は、第2シャフト182の外周面部及び第1従動ギヤ184の内周面部に噛み合うとともに、第2従動ギヤ186と連れ回りするリテーナ282のガイド284が凹部284aの傾斜面でピン283を内径方向に押し戻す。これにより、図13の(A)及び(B)に示すように、逆転方向において第2シャフト182と第2従動ギヤ186とを一体的に回転させる逆転オン状態となる。
【0057】
図14の(A)及び(B)に示すように、操作ロッド241が、中ポジションから少し下がった下ポジションに移動すると、第1大径部241c1がピン283を外径方向に押し出す状態に移行する。このとき、ピン283の凸部283aがガイド284の凹部284aに嵌合し、第2シャフト182に対するリテーナ282の相対回転位置が所定の位置に位置決め状態で固定される。この状態では、ローラ281が平坦部182aの周方向中央部に保持されるため、ローラ281が第2シャフト182の外周面部及び第2従動ギヤ186の内周面部に噛み合わず、第2シャフト182と第2従動ギヤ186との相対回転が許容されるオフ状態となる。
【0058】
<昇段モード>
このように構成された電動義足1では、これまでの受動ダンパーを備える受動義足では、非義足側の足で一段ずつ上がらざるをえなかった階段の昇段動作をスムーズに行うことが可能となる。図15は、昇段時の使用者及び電動義足1の動作(昇段動作)を示す図である。大きく分けて、図15の(A)~(D)、(H)は立脚フェーズ、(E)~(G)は遊脚フェーズである。
【0059】
具体的に説明すると、図15の(A)→(D)、(H)に示すように、電動義足1を前に出して階段を昇る(昇段)際に電動義足1に荷重がかかった状態で、膝関節機構130を屈曲した状態から伸展するとき大きな動力が必要となる。
【0060】
このとき、変速機Tを、操作ロッド241が下ポジション(図9の(C))に位置する第1変速状態とする。この変速状態では、断続部212がオン状態且つ断続部222がオフ状態となり、モータMとスピンドルユニットSPとが第1変速機構T1を介して動力伝達可能となる。
【0061】
この状態で、モータMを正転方向に回転させると、モータMの動力が、第1シャフト181、第1駆動ギヤ183、第1従動ギヤ184、第1断続機構210の断続部212、第2シャフト182、スピンドルユニットSPへと伝達される。スリーブ174が変速機Tに近づくように並進移動(収縮動作)することで、変速機Tが取り付けられた膝下側部材110に対し、スリーブ174が連結された膝上側部材120が連接軸135を中心に回転して、膝関節機構130が伸展する。そして、この伸展させる動力は、第1変速機構T1で減速される際に高トルク化された動力なので、電動義足1を前に出して階段を昇る際に電動義足1に大きな荷重がかかった状態であっても、膝関節機構130を屈曲した状態から確実に伸展させることが可能になる。
【0062】
一方、階段の昇段動作をスムーズに行うためには、図15の(E)~(G)に示すように、健常足に荷重がかかった状態で、膝関節機構130が伸展した状態から屈曲させる(持ち上げる)必要がある。膝関節機構130が伸展した状態から屈曲させる際には、大きな動力は必要ないが素早い動作が必要となる。
【0063】
このとき、変速機Tを、操作ロッド241が中ポジション(図9の(B))に位置する第2変速状態とする。第2変速状態では、断続部212がオフ状態且つ断続部222がオン状態となり、モータMとスピンドルユニットSPが第2変速機構T2を介して動力伝達状態となる。
【0064】
この状態で、モータMを逆転方向に回転させると、モータMの動力が、第1シャフト181、第2駆動ギヤ185、第2従動ギヤ186、第2断続機構220の断続部222、第2シャフト182、スピンドルユニットSPへと伝達される。スリーブ174が変速機Tから離れるように並進移動(伸長動作)することで、スリーブ174が連結された膝上側部材120に対し、変速機Tが取り付けられた膝下側部材110が連接軸135を中心に回転して、膝関節機構130が屈曲する。そして、この屈曲させる動力は、第2変速機構T2で増速される際に低トルク化された動力なので、膝関節機構130を素早く屈曲させることが可能になる。
【0065】
<平地歩行モード>
図16は、平地歩行時の使用者及び電動義足の動作(平地歩行動作)を示す図である。大きく分けて、図16の(A)~(D)、(H)は立脚フェーズ、(E)~(G)は遊脚フェーズである。
【0066】
図16に示す平地歩行の際、及び階段を降りる(降段)の際、図16の(A)~(D)、(H)に示すように、電動義足1に荷重がかかった状態で、変速機Tを、操作ロッド241が中ポジション(図9の(B))に位置する第2変速状態とする。第2変速状態では、断続部212がオフ状態且つ断続部222がオン状態となり、モータMとスピンドルユニットSPが第2変速機構T2を介して動力伝達状態となる。この状態で、モータMを非駆動状態にすると、電動義足1に作用する屈曲方向の外力がスピンドルユニットSPから第2変速機構T2を介してモータMに伝達されるので、モータM及び変速機Tのフリクションを利用して屈曲方向の外力を減衰させることにより、いわゆる膝折れが防止される。
【0067】
また、図16の(E)~(G)に示すように、健常足に荷重がかかった状態では、変速機Tを、操作ロッド241が上ポジション(図9の(A))に位置する状態とする。この状態では、断続部212、222がオフ状態となり、モータMとスピンドルユニットSPとの間の動力伝達が遮断される(ニュートラル状態)。これにより、電動義足1の使用者は、滑らかに足を振り出すことができる。なお、平地歩行時に限らず、階段の降段動作も同様に制御され得る。
【0068】
なお、上記実施形態では、断続部212、222及び操作機構240が第2シャフト182側に設けられていたが、図17に示す第2実施形態のように、第1シャフト181側に設けられていてもよい。即ち、第2実施形態の電動義足1では、第1断続機構210の断続部212が、第1駆動ギヤ183と第1シャフト181との間に設けられ、第2断続機構220の断続部222が、第2駆動ギヤ185と第1シャフト181との間に設けられる。その他の構成は概ね第1実施形態と同一又は同様であるため、以降の説明も第1実施形態の電動義足1を例に説明する。
【0069】
また、上記実施形態の拡縮装置200は、伸縮装置140のスピンドルユニットSPによる回動運動から伸縮運動への変換によって伸縮装置140を伸縮させ、それに伴って膝下側部材110と膝上側部材120との成す角を拡大及び縮小させるものであったが、図18図20に示す第3実施形態のように、伸縮装置140(スピンドルユニットSP)のような伸縮(運動)する部分を有さず、膝下側部材110と膝上側部材120との間にギヤ噛み合い機構(など)を設けて、膝下側部材110と膝上側部材120との成す角を拡大及び縮小させるものであってもよい。
【0070】
具体的に説明すると、図18図20に示す第3実施形態の拡縮装置200は、膝下側部材110と膝上側部材120との成す角を拡大及び縮小可能な傘歯車機構340を備える。傘歯車機構340は、モータMの動力伝達経路上で変速機Tに対しモータMと反対側に配置されるとともに膝下側部材110に支持される第1傘歯車341と、第1傘歯車341と回転伝達可能に噛合し膝上側部材120に支持される第2傘歯車342と、を有する。
【0071】
つぎに、断続部212、222の詳細な構造について、断続部222を例に図21図27を参照しつつ説明する。
【0072】
上記のように構成された断続部222では、図10図13で説明したように、遮断状態(強制フリー状態)から接続状態(強制フリー解除状態)への移行の際に、第2従動ギヤ186からリテーナ282に回転力を伝達し、ガイド284の傾斜面でピン283を内径方向に押し戻す必要がある。
【0073】
そのため、図27に示すように、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転抵抗トルク(連れまわりトルク)をTo、リテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗トルクをTiとすると、下記の式(1)を満たす必要がある。
【0074】
To>Ti+(ピン283とガイド284の摩擦力)+(ピン283と第2シャフト182の摩擦力) (1)
【0075】
即ち、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転抵抗トルク(連れまわりトルク)Toは、リテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗トルクTiと、ピン283とガイド284の摩擦力と、ピン283と第2シャフト182の摩擦力と、の合計トルクよりも大きい必要がある。
【0076】
続いて、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転抵抗トルク(連れまわりトルク)Toと、リテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗トルクTiとの関係について説明する。
【0077】
図23及び図24を参照しながら具体的に説明すると、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間、及び、リテーナ282と第2シャフト182との間には、同じ粘度ηを有するグリス等の潤滑剤Gが介在している。
【0078】
図21及び図22に示すように、2物体間に流体(潤滑剤G)が満たされ、一方が滑るとき下記の3つの式(2)~(4)が成り立つ。ただし、ηは流体の粘度、Dはずり速度、Sはずり応力、Vは2物体の滑り速度、Δyは流体の厚み、Fは2物体をずらす力(流体の抵抗力)、Aは流体の表面積とする。
【0079】
D=V/Δy[1/sec] (2)
S=F/A[Pa] (3)
η=S/D[Pa・sec] (4)
【0080】
図23及び図24に示すように、リテーナ282と第2シャフト182との隙間Δyiは、第2従動ギヤ186とリテーナ282との隙間Δyoより大きくしてある。また、図25に示すように、リテーナ282と第2シャフト182との間は、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間よりも内側にあり、さらに平坦部182aによるエアギャップを含むので、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の接触面積Aoは、リテーナ282と第2シャフト182との間の接触面積Aiよりも大きくなる。
【0081】
リテーナ282と第2シャフト182との間は、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間よりも内側にあるため、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の滑り速度Voは、リテーナ282と第2シャフト182との間の滑り速度Viよりも大きくなる。ちなみに、θ回転時の滑り速度Vo、Viは下記の式(5)、(6)で表せられる。ただし、Roは回転中心から第2従動ギヤ186とリテーナ282との間までの距離、Riは回転中心からリテーナ282と第2シャフト182との間までの距離とする。
【0082】
Vo=2πRoθ/360t (5)
Vi=2πRiθ/360t (6)
【0083】
図23図24及び図26に示すように、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転抵抗力をFo、リテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗力をFiとすると、潤滑剤Gの粘度ηが等しいことと、前述した式(2)~(4)とから下記の式(7)が成り立つ。
【0084】
η=(Fo/Ao)/(Vo/Δyo)=(Fi/Ai)/(Vi/Δyi)
(7)
【0085】
式(7)を変形すると、式(8)が導出される。
【0086】
Fo=(Vo/Vi)×(Ao/Ai)×(Δyi/Δyo)×Fi
(8)
【0087】
図27に示すように、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転抵抗トルク(連れまわりトルク)To、リテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗トルクTiと、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転抵抗力(連れまわり力)Fo、リテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗力Fiとの間には、下記の式(9)、(10)が成り立つ。
【0088】
To=Ro×Fo (9)
Ti=Ri×Fi (10)
【0089】
式(8)~(10)から下記の(11)式が導出される。
【0090】
To=(Vo/Vi)×(Ao/Ai)×(Δyi/Δyo)×(Ro/Ri)×Ti (11)
【0091】
また、上記の式(5)、(6)から式(12)が導出される。
【0092】
To=(Ao/Ai)×(Δyi/Δyo)×(Ro/Ri)×Ti
(12)
【0093】
上記したように、式(1)を満たせば、第2従動ギヤ186から潤滑剤Gを介してリテーナ282に必要な動力を伝達し、ピン283の押し戻しや、それに伴う遮断状態から接続状態への切り替えを確実に行うことが可能になる。即ち、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間において、フリクションボールやOリング等の弾性部材を設けなくても、第2従動ギヤ186からリテーナ282へ必要な動力を伝達することが可能となる。このことは、第1従動ギヤ184とリテーナ282との間においても同様である。
【0094】
また、第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転抵抗トルク(連れまわりトルク)Toと、リテーナ282と第2シャフト182との間の回転抵抗トルクTiとの間には、式(12)の関係性がある。
【0095】
第2従動ギヤ186とリテーナ282との間、及び、リテーナ282と第2シャフト182との間の潤滑剤は、同じ材質の潤滑剤であればよい。同じ材質の潤滑剤とは、同一又は同等の粘度を有する潤滑剤である。第2従動ギヤ186とリテーナ282との間の潤滑剤を第1潤滑剤、及び、リテーナ282と第2シャフト182との間の潤滑剤を第2潤滑剤とすると、第1潤滑剤及び第2潤滑剤の材質に基づいて、少なくとも以下のいずれか一つが決定される。
【0096】
(i) 第2従動ギヤ186の中空穴の内周面とリテーナ282の外周面との接触面積である接触面積Ao、若しくは、第2シャフト182の外周面とリテーナ282の内周面との接触面積である接触面積Ai、又は、(ii)第2従動ギヤ186の中空穴の内周面とリテーナ282の外周面との離間距離である隙間Δyo、若しくは、第2シャフト182の外周面とリテーナ282の内周面との離間距離である隙間Δyi。
【0097】
反対に、(i)第2従動ギヤ186の中空穴の内周面とリテーナ282の外周面との接触面積である接触面積Ao、若しくは、第2シャフト182の外周面とリテーナ282の内周面との接触面積である接触面積Ai、又は、(ii)第2従動ギヤ186の中空穴の内周面とリテーナ282の外周面との離間距離である隙間Δyo、若しくは、第2シャフト182の外周面とリテーナ282の内周面との離間距離である隙間Δyi、の少なくともいずれか一つに基づいて、第1潤滑剤の材質、又は、第2潤滑剤の材質の少なくともいずれか一方を決定してもよい。
【0098】
つぎに、前述した実施形態の第1変形例~第7変形例について、図28図34を参照しつつ説明する。ただし、前述した実施形態と共通の構成については、前述した実施形態と同じ符号を用いることで、前述した実施形態の説明を援用する場合がある。
【0099】
図28に示す第1変形例は、リテーナ282の内周面に、周方向に沿って延設され、かつ回転軸線方向に並列する複数の溝282cを備える点が前述した実施形態と相違している。このような第1変形例によれば、リテーナ282と第2シャフト182との間に、複数の溝282cによるエアギャップが形成されるので、リテーナ282と第2シャフト182との間の摺動抵抗、接触面積Ai、回転抵抗トルクTiなどを減らすことができる。
【0100】
図29に示す第2変形例は、リテーナ282の外周面に、周方向に沿って延設され、かつ回転軸線方向に並列する複数の溝282dを備える点と、リテーナ282と回転軸方向に隣接するワッシャWの側面(リテーナ282との摺接面)に、周方向に沿って延設され、かつ径方向に並列する複数の溝Waを備える点が前述した実施形態と相違している。このような第2変形例によれば、リテーナ282と従動ギヤ186との間、及びリテーナ282とワッシャWとの間に、複数の溝282d、Waによるエアギャップを形成し、摺動抵抗、接触面積Ao、回転抵抗トルクToなどを減らすことができる。
【0101】
図30に示す第3変形例は、従動ギヤ186とリテーナ282との間に、ベアリングBEを備える点が前述した実施形態と相違している。このような第3変形例によれば、従動ギヤ186とリテーナ282との間の回転が滑らかになり、芯ずれも抑制できる。
【0102】
図31及び図32に示す第4、第5変形例は、リテーナ282の外周面に、潤滑剤Gが充填される複数の長円状のグリス溝282e、又はI字状の282fを備える点が前述した実施形態と相違している。このような第4、第5変形例によれば、従動ギヤ186とリテーナ282との間の潤滑状態を長期に亘って維持し、耐久性を向上させることができる。
【0103】
図33及び図34に示す第6、第7変形例は、ローラ281及びピン283の個数が前述した実施形態と相違している。具体的に説明すると、図33の第6変形例では、ピン283を1個とし、前述した実施形態の個数(3個)よりも少なくし、ローラ281を5個とし、前述した実施形態の個数(3個)よりも多くしている。図34の第7変形例では、ピン283を2個とし、前述した実施形態の個数(3個)よりも少なくし、ローラ281を4個とし、前述した実施形態の個数(3個)よりも多くしている。このような第6、第7変形例によれば、伝達可能なトルクを増やすことができるだけでなく、摺動抵抗を減らすことができる。
【0104】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0105】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0106】
(1) 第1回転体(第1従動ギヤ184、第2従動ギヤ186)と第2回転体(第2シャフト182)との間に配置される係合子(ローラ281)と、
前記係合子を、前記第1回転体と前記第2回転体とが一体回転可能な係合状態と、前記第1回転体と前記第2回転体とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作部(操作機構240、リテーナ282、ピン283、ガイド284)と、を備える、断続装置(第1断続機構210、第2断続機構220)であって、
前記第1回転体及び前記第2回転体は、
互いの回転軸線が一致するように、且つ、前記回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置され、
前記第1回転体は内部に中空穴を有するとともに、前記中空穴内に前記第2回転体を配置可能に設けられ、
前記操作部は、
前記係合子を動かす作動子(リテーナ282)と、
該作動子を介して前記係合子を操作可能に、又は該作動子を介さず前記係合子を操作可能に設けられる操作子(操作機構240、ピン283、ガイド284)と、を有し、
前記操作子は、
前記回転軸線と直交する直交方向に沿って進退移動可能に設けられる進退子(ピン283)と、
前記回転軸線に沿って延在し、かつ該回転軸線に沿って進退移動可能に設けられる延在部(操作ロッド241)と、を有し、
前記断続装置は、
前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との間に介装される第1潤滑剤(潤滑剤G)と、
前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との間に介装される第2潤滑剤(潤滑剤G)と、を備える、断続装置。
【0107】
(1)によれば、第1回転体と作動子との間では、フリクションボールやOリング等の弾性部材を設けなくても潤滑剤によって動力が伝達されるので、適切に断続装置を遮断状態から接続状態へ切り替えることができる。また、フリクションボールやOリング等の弾性部材が不要になり、部品点数を削減でき、さらに組立性を向上できる。
【0108】
(2) (1)に記載の断続装置であって、
前記作動子は、前記直交方向視で、前記第1回転体及び前記第2回転体と少なくとも一部が重なり合うよう配置される、断続装置。
【0109】
(3) (1)又は(2)に記載の断続装置であって、
前記第1潤滑剤及び前記第2潤滑剤は、同じ材質である、断続装置。
【0110】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の断続装置であって、
前記第1潤滑剤及び前記第2潤滑剤の材質に基づいて、少なくとも以下のいずれか一つが決定される、断続装置。
(i) 前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との接触面積である第1面積(接触面積Ao)、若しくは、
前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との接触面積である第2面積(接触面積Ai)、
又は、
(ii) 前記直交方向における、前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との離間距離である第1離間距離(隙間Δyo)、若しくは、
前記直交方向における、前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との離間距離である第2離間距離(隙間Δyi)。
【0111】
(5) (1)から(3)のいずれかに記載の断続装置であって、
(i) 前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との接触面積である第1面積(接触面積Ao)、若しくは、
前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との接触面積である第2面積(接触面積Ai)、
又は、
(ii) 前記直交方向における、前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記作動子の外周面との離間距離である第1離間距離(隙間Δyo)、若しくは、
前記直交方向における、前記第2回転体の外周面と前記作動子の内周面との離間距離である第2離間距離(隙間Δyi)、
の少なくともいずれか一つに基づいて、
前記第1潤滑剤の材質、又は、前記第2潤滑剤の材質の少なくともいずれか一方を決定する、断続装置。
【0112】
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の断続装置であって、
前記作動子は、前記外周面に溝部(溝282d)を有する、断続装置。
【0113】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の断続装置であって、
前記作動子は、前記内周面に他の溝部(溝282c)を有する、断続装置。
【符号の説明】
【0114】
182 第2シャフト(第2回転体)
184 第1従動ギヤ(第1回転体)
186 第2従動ギヤ(第1回転体)
210 断続機構(断続装置)
220 断続機構(断続装置)
240 操作機構(操作部、操作子)
241 操作ロッド(延在部)
281 ローラ(係合子)
282 リテーナ(操作部、作動子)
282c 溝(他の溝部)
282d 溝(溝部)
283 ピン(操作部、操作子、進退子)
284 ガイド(操作部、操作子)
G 潤滑剤(第1潤滑剤、第2潤滑剤)
Δyo 隙間(第1離間距離)
Δyi 隙間(第2離間距離)
Ao 接触面積(第1面積)
Ai 接触面積(第2面積)
図1
図2
図3
図4
図5
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図33
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