(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179343
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】断続装置
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20241219BHJP
F16D 41/067 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F16D41/08 Z
F16D41/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098106
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】島田 圭
(57)【要約】
【課題】一方向のみの動力伝達を実現可能な断続装置を提供する。
【解決手段】第2断続部220は、第2駆動ギヤG12と第1シャフト181との間に配置されるローラ281と、ローラ281を、第2駆動ギヤG12と第1シャフト181とが一体回転可能な係合状態と、第2駆動ギヤG12と第1シャフト181とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作ロッド241、ピン283、ガイド284、及びリテーナ282と、を備える。第1シャフト181の中空穴の内周面と第2駆動ギヤG12の外周面との間で、ローラ281が収容される空間を収容空間としたとき、収容空間のローラ281の円周方向の移動可能範囲において回転軸線Oに対する径方向の長さが異なるように形成されるとともに、径方向の長さが移動可能範囲の円周方向中央位置に対する一方側と他方側とで異なるよう形成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体と第2回転体との間に配置される係合子と、
前記係合子を、前記第1回転体と前記第2回転体とが一体回転可能な係合状態と、前記第1回転体と前記第2回転体とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作部と、を備える、断続装置であって、
前記第1回転体及び前記第2回転体は、
互いの回転軸線が一致するように、且つ、前記回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置され、
前記第1回転体は内部に中空穴を有するとともに、前記中空穴内に前記第2回転体を配置可能に設けられ、
前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記第2回転体の外周面との間で、前記係合子が収容される空間を収容空間としたとき、
前記回転軸線と直交する方向に延びる平面における前記第2回転体の前記外周面の形状は、前記収容空間の前記係合子の円周方向の移動可能範囲において前記回転軸線に対する径方向の長さが異なるように形成されるとともに、前記径方向の長さが前記移動可能範囲の円周方向中央位置に対する一方側と他方側とで異なるよう形成される、断続装置。
【請求項2】
請求項1に記載の断続装置であって、
前記第2回転体の前記外周面は、前記一方側と前記他方側のうちの何れか一方に、前記径方向の外側に向かって突出する突出部を有する、断続装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の断続装置であって、
前記第2回転体の前記外周面は、平坦部と、前記一方側と前記他方側のうちの何れか一方に設けられた前記平坦部から前記径方向の外側に向かって延びる傾斜面と、を有する、断続装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転体同士が一体回転可能な状態と相対回転可能な状態とを切り替える断続装置が知られている。このような断続装置は、車両の駆動装置、作業機の作業部、義足等の継手装置などに利用される。
【0003】
例えば、特許文献1の電動義足では、断続装置に二方向クラッチが用いられ、ギヤの中空穴を挿通するシャフトの外周面に平坦部を設け、ローラが平坦部を周方向に移動可能に構成される。ローラが平坦部の一方側に位置するとき及び他方側に位置するとき、ローラがギヤとシャフトの間に噛み込んで係合状態となり、ギヤとシャフトとの間で動力が伝達される。一方、操作部によりローラが平坦部の周方向中央位置に維持されるとき、ギヤとシャフトとが相対回転し、ギヤとシャフト間で動力の伝達が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
断続装置が組み込まれる装置によっては、円周方向において一方側の相対回転に対してのみ動力伝達させ、他方側の相対回転に対しては動力伝達させない場合もあり得る。
【0006】
本発明は、一方向のみの動力伝達を実現可能な断続装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
第1回転体と第2回転体との間に配置される係合子と、
前記係合子を、前記第1回転体と前記第2回転体とが一体回転可能な係合状態と、前記第1回転体と前記第2回転体とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作部と、を備える、断続装置であって、
前記第1回転体及び前記第2回転体は、
互いの回転軸線が一致するように、且つ、前記回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置され、
前記第1回転体は内部に中空穴を有するとともに、前記中空穴内に前記第2回転体を配置可能に設けられ、
前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記第2回転体の外周面との間で、前記係合子が収容される空間を収容空間としたとき、
前記回転軸線と直交する方向に延びる平面における前記第2回転体の前記外周面の形状は、前記収容空間の前記係合子の円周方向の移動可能範囲において前記回転軸線に対する径方向の長さが異なるように形成されるとともに、前記径方向の長さが前記移動可能範囲の円周方向中央位置に対する一方側と他方側とで異なるよう形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1回転体と第2回転体の一方向の相対回転に対し動力伝達を可能とし、他方向の相対回転に対し動力伝達を遮断する機構を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】動力伝達装置TMを含む電動アシストユニット20の模式図である。
【
図5】断続部220、230の動作を示す図であり、(a)はロック状態を示す図、(b)は空転状態を示す図である。
【
図7】動力伝達装置TMの変速操作状態を示す断面図であり、(a)は1速状態、(b)は2速状態、(c)は3速状態を示している。
【
図8】動力伝達装置TMの各変速操作状態における断続部210、220、230の状態(空転、ロック、強制フリー)を示す表と、2速状態における断続部210、220、230の断面とを示す図である。
【
図9】ローラ281が収容空間S1において第1シャフト181の外周面と駆動ギヤG12、G13の中空穴の内周面に噛み込む条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態の断続装置について、断続装置を内蔵する電動自転車を例に
図1~
図9を参照して説明する。
【0011】
[電動自転車]
図1は、電動アシスト機能を備えた電動自転車10を示している。電動自転車10は、前輪73と、後輪78と、自転車フレーム67と、バッテリ2と、バッテリ2により供給される電力によってアシスト力を発生する電動アシストユニット20と、を備え、電動アシストユニット20が発生する動力で走行をアシストする電動アシスト自転車である。
【0012】
自転車フレーム67は、前端のヘッドパイプ68と、ヘッドパイプ68から後下りに車体前方から後方へ延びるダウンパイプ69と、ダウンパイプ69の後端に固着されて左右に延びる支持パイプ66(
図2参照)と、支持パイプ66から上方に立ち上がるシートポスト71と、支持パイプ66から後方側に延出される左右一対のリヤフォーク70と、を備える。
【0013】
ヘッドパイプ68にはフロントフォーク72が操向可能に支承され、フロントフォーク72の下端に前輪73が軸支されている。フロントフォーク72の上端には操向ハンドル74が設けられている。シートポスト71から後方側に延出される左右一対のリヤフォーク70の後端間には、駆動輪としての後輪78が軸支されている。シートポスト71には、上端にシート76を備える支持軸75が、シート76の上下位置を調整可能として装着されている。
【0014】
シート76の下方でシートポスト71の前部には、電動アシストユニット20へ電力を供給するバッテリ2が着脱可能に固定されている。
【0015】
自転車フレーム67の支持パイプ66を同軸に貫通するクランク軸83の左端及び右端には一対のクランクペダル79が連結される。クランクペダル79に加えられた踏力はクランク軸83へ伝達され、駆動スプロケット80を介して無端状のチェーン82へ入力される。チェーン82は、駆動スプロケット80と、後輪78の車軸に設けられた従動スプロケット81とに巻掛けられている。
【0016】
図2も参照して、電動アシストユニット20は、モータMと動力伝達装置TMとを備え、自転車フレーム67の支持パイプ66周りに配置される。
【0017】
電動アシストユニット20では、モータMの出力軸21と、クランク軸83とがケース24の内部に平行に配置される。クランク軸83は、筒状のスリーブ26の内側に第1ワンウェイクラッチ28を介して回転自在に支持されている。モータMの出力軸21とスリーブ26との間には、動力伝達装置TMが設けられている。
図3も参照して、動力伝達装置TMは、入力ギヤG1から入力されるモータMの動力を変速し、変速した動力を出力ギヤG2から出力する。モータMの出力軸21には、入力ギヤG1と噛み合うモータ出力ギヤ21aが固定されている。スリーブ26の外周側には、出力ギヤG2と噛み合う従動ギヤ26a及び駆動スプロケット80が固定されている。したがって、モータMの動力が、動力伝達装置TM、従動ギヤ26a、及びスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達される。
【0018】
また、従動スプロケット81と後輪78との間には第2ワンウェイクラッチ32が設けられている。
【0019】
このように構成された電動自転車10では、クランクペダル79を前進方向(正回転方向とも称す)に漕いだ場合には、第1ワンウェイクラッチ28が係合してクランク軸83の正回転動力がスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達され、さらにチェーン82を介して従動スプロケット81に伝達される。このとき第2ワンウェイクラッチ32も係合することで、従動スプロケット81に伝達された正回転動力が、後輪78に伝達される。
【0020】
一方、クランクペダル79を後進方向(逆回転方向とも称す)に漕いだ場合には、第1ワンウェイクラッチ28が係合せず、クランク軸83の逆回転動力がスリーブ26に伝達されずクランク軸83が空転する。
【0021】
また、例えば電動自転車10を前進方向に押し進める場合のように、後輪78から前進方向(正回転方向)の正回転動力が入力される場合、第2ワンウェイクラッチ32が係合せず、後輪78の正回転動力が従動スプロケット81に伝達されない。そのため、後輪78は、従動スプロケット81に対し相対回転する。一方、電動自転車10を後進方向に押し進める場合のように、後輪78から後進方向(逆回転方向)の逆回転動力が入力される場合には、第2ワンウェイクラッチ32が係合して後輪78の逆回転動力が従動スプロケット81に伝達され、さらにチェーン82を介して駆動スプロケット80に伝達される。また、このとき第1ワンウェイクラッチ28も係合することから、駆動スプロケット80に伝達された逆回転動力が、クランク軸83及びクランクペダル79に伝達されてクランク軸83及びクランクペダル79が逆回転する。
【0022】
スリーブ26には、運転者がクランクペダル79を踏む力(以下、ペダル踏力)によって発生するトルク値Tqを検知するトルクセンサSEが設けられている。トルクセンサSEは、例えば、スリーブ26の外周部に配設された磁歪式のトルクセンサから構成される。
【0023】
電動アシストユニット20を制御する制御回路40は、トルクセンサSEの出力値であるトルク値Tqから運転者がクランクペダル79を踏む力(以下、ペダル踏力)を算出し、このペダル踏力などに基づいて、動力伝達装置TMの変速制御やモータMの駆動制御を行う。
【0024】
[動力伝達装置の構成]
つぎに、電動アシストユニット20に含まれる動力伝達装置TMの構成について、
図3~
図6を参照しつつ説明する。
【0025】
図3に示すように、動力伝達装置TMは、平行に配置される回転可能な第1シャフト181及び第2シャフト182と、第1シャフト181に一体回転可能に設けられる入力ギヤG1と、第1シャフト181に第1断続部210を介して接続される第1駆動ギヤG11と、第1シャフト181に第2断続部220を介して接続される第2駆動ギヤG12と、第1シャフト181に第3断続部230を介して接続される第3駆動ギヤG13と、断続部220、230の状態を切り替える操作機構240と、第2シャフト182に一体回転可能に設けられる第1従動ギヤG21、第2従動ギヤG22、第3従動ギヤG23及び出力ギヤG2と、を備える。
【0026】
入力ギヤG1は、前述したように、モータMの出力軸21に設けられるモータ出力ギヤ21aと噛み合い、モータMの動力を第1シャフト181に入力する。
【0027】
第1駆動ギヤG11及び第1シャフト181は、互いの回転軸線(以下、この回転軸線を回転軸線Oと称する)が一致するように、且つ、回転軸線Oと直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置される。第1駆動ギヤG11は内部に中空穴を有するとともに、中空穴内に第1シャフト181を配置可能に設けられる。第1駆動ギヤG11は、第1従動ギヤG21と噛み合って1速用動力伝達経路を構成する。
【0028】
第2駆動ギヤG12及び第1シャフト181は、互いの回転軸線が一致するように、且つ、回転軸線Oと直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置される。第2駆動ギヤG12は内部に中空穴を有するとともに、中空穴内に第1シャフト181を配置可能に設けられる。第2駆動ギヤG12は、第2従動ギヤG22と噛み合って2速用動力伝達経路を構成する。
【0029】
第3駆動ギヤG13及び第1シャフト181は、互いの回転軸線が一致するように、且つ、回転軸線Oと直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置される。第3駆動ギヤG13は内部に中空穴を有するとともに、中空穴内に第1シャフト181を配置可能に設けられる。第3駆動ギヤG13は、第3従動ギヤG23と噛み合って3速用動力伝達経路を構成する。
【0030】
出力ギヤG2は、前述したように、従動ギヤ26aと噛み合い、スリーブ26を介して駆動スプロケット80に動力を伝達する。つまり、本実施形態の動力伝達装置TMは、操作機構240の操作に応じて、モータMの動力を3段階に変速し、変速した回転をスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達する。
【0031】
断続部210、220、230は、いずれも一方向の回転を伝達し、他方向の回転を伝達しないワンウェイクラッチである。ただし、第2断続部220及び第3断続部230は、一方向及び他方向の回転を伝達しない強制フリー状態に切り替え可能な強制フリー機能を備えたワンウェイクラッチであり、第1断続部210は、強制フリー機能を備えないワンウェイクラッチである。なお、第1断続部210は、強制フリー機能を備えない点を除き断続部220、第3断続部230と同様の構成を有するので、詳細な説明は省略する。
【0032】
図4及び
図5に示すように、断続部220、230は、第1シャフト181の外周面と駆動ギヤG12、G13の中空穴の内周面との間に形成される収容空間S1に配置される複数(本実施形態では3つ)のローラ281と、複数のローラ281を所定の間隔に保持するリテーナ282と、操作機構240(
図3参照)と、第1シャフト181を径方向に貫通し、操作機構240によって強制フリー位置と強制フリー解除位置とに操作される複数(本実施形態では3つ)のピン283と、リテーナ282に設けられ、ピン283が強制フリー位置のとき第1シャフト181に対するリテーナ282の相対回転位置を規定する複数(本実施形態では3つ)のガイド284と、を備える。ローラ281は、ボールでもよく、スプラグでもよい。
【0033】
断続部220、230では、ローラ281が係合子であり、操作機構240、ピン283、ガイド284、及びリテーナ282が、係合子(ローラ281)を係合状態と非係合状態とに操作する操作部に相当する。
【0034】
第1シャフト181の外周面と駆動ギヤG12、G13の内周面との径方向の間隔Aは、ローラ281の直径Bよりも小さい。また、第1シャフト181の外周面には、周方向に所定の間隔で平坦部181aが形成されており、平坦部181aの周方向一方側では、間隔Aが直径Bよりも小さく、平坦部181aの周方向他方側では、間隔Aが直径Bよりも大きい。また、平坦部181aよりもさらに周方向他方側には、突出部181bが形成されている。
【0035】
突出部181bは、平坦部181aから連続する仮想平坦面(
図5の(a)の点線)に対し径方向の外側に向かって突出する。突出部181bは、周方向一方側からの周方向他方側に向かうにしたがって径方向の外側に向かう傾斜面181cを有する。ローラ281は、収容空間S1において、円周方向に沿って平坦部181a及び傾斜面181cを移動する。即ち、平坦部181a及び傾斜面181cがローラ281の移動可能範囲に相当する。
【0036】
したがって、回転軸線Oと直交する方向に延びる平面における第1シャフト181の外周面の形状は、収容空間のローラ281の円周方向の移動可能範囲において回転軸線Oに対する径方向の長さが異なるように形成されるとともに、径方向の長さが移動可能範囲の円周方向中央位置に対する一方側と他方側とで異なるよう形成される。
【0037】
ここで、ローラ281が噛み込む(係合する)条件について説明する。
図9は、ローラ281が収容空間S1において第1シャフト181の外周面と駆動ギヤG12、G13の中空穴の内周面に噛み込んだ状態を示す図である。
【0038】
ローラ281と駆動ギヤG12、G13との接点(Po、Pi)における接線(L1、L2)の交差部における成す角をクサビ角度θと称すると、
図9に示すように、クサビ角度θ(2α)の半分の大きさであるαは、接触角である。接触角αは、第1接点Po又は第2接点Piにローラ281の中心Pcから引いた直線に対して、第1接点Po又は第2接点Piにおける接点荷重(後述する
図9の垂直抗力Nと摩擦力μNの合力)のなす角度である。
【0039】
図9に示すように、ローラ281の係合状態では、垂直抗力をN、第1シャフト181の摩擦係数をμとすると、接点Po、Piには、噛み込み方向にμNcosαの摩擦力の分力が作用し、抜け出し方向にNsinαの荷重が作用する。ローラ281が係合状態から滑って抜けないためには、下記(1)式を満たす必要がある。
【0040】
μNcosα>Nsinα (1)
【0041】
上記(1)式を変形すると、下記(2)式となる。
μ>tanα (2)
【0042】
したがって、平坦部181aの周方向一方側では、上記(2)式を満たすように摩擦係数μ及び接触角α(
図5の(a)も参照)が設定される。一方、突出部181bでは、上記(2)式を満たさないように摩擦係数及び接触角が設定される。即ち、突出部181bでは、傾斜面181cの摩擦係数が平坦部181aの摩擦係数μと等しいとすると、接触角β(
図5の(b)参照)が下記(3)式を満たすように設定される。
【0043】
μ<tanβ (3)
【0044】
したがって、ローラ281が第1シャフト181に対する周方向の移動が許容され、かつローラ281が第1シャフト181の外周面を周方向一方側に移動しようとする状態では、ローラ281が平坦部181aの周方向一方側で第1シャフト181の外周面及び駆動ギヤG12、G13の内周面に噛み合い(係合状態)、第1シャフト181と駆動ギヤG12、G13とが一方向において一体回転可能に接続される(ロック状態:
図5の(a)参照)。
【0045】
また、ローラ281が第1シャフト181に対する周方向の移動が許容され、かつローラ281が第1シャフト181の外周面を周方向他方側に移動しようとする状態では、ローラ281が突出部181b(傾斜面181c)で第1シャフト181の外周面及び駆動ギヤG12、G13の内周面に噛み合わず(非係合状態)、第1シャフト181と駆動ギヤG12、G13との相対回転が許容される(空転状態:
図5の(b)参照)。
【0046】
図5の(b)は、
図5の(a)に示すローラ281が平坦部181aの周方向一方側で第1シャフト181の外周面及び駆動ギヤG12、G13の内周面に噛み合った係合状態から、駆動ギヤG12、G13が第1シャフト181に対し相対的に反時計回りに回転した状態、即ち、ローラ281が突出部181b(傾斜面181c)で第1シャフト181の外周面及び駆動ギヤG12、G13の内周面に噛み合わない非係合状態へ移行した状態を示している。
【0047】
また、ローラ281が平坦部181aの周方向他方側又は突出部181b(傾斜面181c)に強制的に保持される状態では、ローラ281が第1シャフト181の外周面及び駆動ギヤG12、G13の内周面に噛み合わず(非係合状態)、第1シャフト181と駆動ギヤG12、G13との相対回転が許容される(強制フリー状態:
図4参照)。
【0048】
図6に示すように、リテーナ282は、第1シャフト181及び駆動ギヤG12、G13に対して相対回転可能なリング形状であり、ローラ281を保持する複数のローラ保持部282aと、ガイド284を保持する複数のガイド保持部282bと、を有する。
【0049】
また、リテーナ282の外周面には、複数のゴム球282cが周方向に所定の間隔で埋設されている。これらのゴム球282cは、駆動ギヤG12、G13とリテーナ282との間に適度な摩擦を生じさせることで、強制フリー解除時における意図しない空転を防止する。なお、駆動ギヤG12、G13とリテーナ282との間に摩擦を生じさせる部材は、ゴム球282cに限らず、Oリングなどであってもよい。
【0050】
ピン283は、径方向外側の端部に円錐状の凸部283aを有し、ガイド284は、径方向内側の端面に凸部283aと嵌合(係合)する円錐状の凹部284aを有する。ピン283の凸部283aがガイド284の凹部284aに嵌合すると、ピン283及びガイド284によるガイド作用によって、第1シャフト181に対するリテーナ282の相対回転位置が強制フリー状態となる所定の位置に位置決めされる。ピン283の径方向内側の端部は、操作ロッド241と当接するように設けられる。
【0051】
図3に示すように、操作機構240は、断続部220、230を断続操作可能に設けられる操作ロッド241と、操作ロッド241を直線移動させるサーボモータ242と、を備える。第1シャフト181は、回転軸線方向に延びる内部空間を有する中空軸であり、この内部空間に操作ロッド241が配置される。
【0052】
操作ロッド241の外周部には、後述する小径部241b1、241b2及び大径部241c1、241c2が形成されており、ピン283の内径端部(内端)に当接可能に構成される。操作ロッド241のポジションに応じて、小径部241b1、241b2及び大径部241c1、241c2がピン283を第1シャフト181の径方向に進退移動させたり、進退移動を許容したりすることで、断続部220、230の状態が切り替わる。
【0053】
より具体的に説明すると、操作ロッド241の外周部には、基端側(サーボモータ242側)から順に、第1大径部241c1、第1小径部241b1、第2大径部241c2、第2小径部241b2が所定の長さ及び間隔で形成されている。なお、操作ロッド241は、2つの断続部220、230を同時に制御可能に設けられているが、断続部220、230ごとに別々に設けられていてもよい。
【0054】
[動力伝達装置の動作]
つぎに、動力伝達装置TMの動作について、
図7及び
図8を参照しつつ説明する。
【0055】
操作機構240の操作ロッド241は、
図7の(a)に示す前位置にあるとき、第2大径部241c2が第2断続部220のピン283を外径方向に押し出しつつ、第1大径部241c1が第3断続部230のピン283を外径方向に押し出すことで、第2断続部220及び第3断続部230を強制フリー状態とする。即ち、2速用動力伝達経路及び3速用動力伝達経路が遮断状態となる。これにより、動力伝達装置TMは、第1断続部210のみがロック可能な1速状態となり、モータMの動力は、1速用動力伝達経路及びスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達される。
【0056】
また、操作機構240の操作ロッド241は、
図7の(b)に示す中位置にあるとき、第2小径部241b2が第2断続部220のピン283が内径方向に戻ることを許容しつつ、第1大径部241c1が第3断続部230のピン283を外径方向に押し出すことで、第2断続部220をロック状態、第3断続部230を強制フリー状態とする。即ち、2速用動力伝達経路が接続状態となり、3速用動力伝達経路が遮断状態となる。また、第1駆動ギヤG11には、第2駆動ギヤG12、第2従動ギヤG22、、第2シャフト182及び第1従動ギヤG21を介して、第1シャフト181よりも増速された回転動力が伝達されるので、第1断続部210は空転状態となる。
【0057】
より具体的に説明すると、モータMの動力が入力ギヤG1から第1シャフト181に伝達されると、第1シャフト181と第1駆動ギヤG11との相対回転により第1断続部210が接続状態となり第1駆動ギヤG11が回転する。第1駆動ギヤG11の回転は、第1駆動ギヤG11と噛み合う第1従動ギヤG21に伝達されて第2シャフト182を回転させる。また、モータMの動力が入力ギヤG1から第1シャフト181に伝達されると、第1シャフト181と第2駆動ギヤG12との相対回転により第2断続部220が接続状態となり第2駆動ギヤG12が回転する。第2駆動ギヤG12の回転は、第2駆動ギヤG12と噛み合う第2従動ギヤG22に伝達されて第2シャフト182を回転させる。第1駆動ギヤG11及び第1従動ギヤG21を介した伝達される第2シャフト182の回転と、第2駆動ギヤG12及び第2従動ギヤG22を介した伝達される第2シャフト182の回転とを比較すると、高速段側である第2駆動ギヤG12及び第2従動ギヤG22を介した伝達される第2シャフト182の回転の方が早い。そのため、第2駆動ギヤG12及び第2従動ギヤG22を介した伝達される第2シャフト182の回転によって第1駆動ギヤG11が第1シャフト181よりも早く回され、第1断続部210において外径側の第1駆動ギヤG11の方が内径側の第1シャフト181より早く回転する。そのため、
図8に示すように、第1断続部210のローラ281は突出部181b(傾斜面181c)で噛み合わず、第1断続部210は空転状態となる。
【0058】
これにより、動力伝達装置TMは、2速状態となり、モータMの動力は、2速用動力伝達経路及びスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達される。
【0059】
また、操作機構240の操作ロッド241は、
図7の(c)に示す後位置にあるとき、第2小径部241b2が第2断続部220のピン283が内径方向に戻ることを許容しつつ、第1小径部241b1が第3断続部230のピン283が内径方向に戻ることを許容することで、第3断続部230をロック状態とする。即ち、3速用動力伝達経路が接続状態になると、第1駆動ギヤG11には、第3駆動ギヤG13、第3従動ギヤG23、第2シャフト182及び第1従動ギヤG21を介して、第1シャフト181よりも増速された回転動力が伝達されるので、第1断続部210は空転状態となる。また、第2駆動ギヤG12には、第3駆動ギヤG13、第3従動ギヤG23、第2シャフト182及び第2従動ギヤG22を介して、第1シャフト181よりも増速された回転動力が伝達されるので、第2断続部220も空転状態となる。
【0060】
より具体的に説明すると、モータMの動力が入力ギヤG1から第1シャフト181に伝達されると、第1シャフト181と第1駆動ギヤG11との相対回転により第1断続部210が接続状態となり第1駆動ギヤG11が回転する。第1駆動ギヤG11の回転は、第1駆動ギヤG11と噛み合う第1従動ギヤG21に伝達されて第2シャフト182を回転させる。また、モータMの動力が入力ギヤG1から第1シャフト181に伝達されると、第1シャフト181と第2駆動ギヤG12との相対回転により第2断続部220が接続状態となり第2駆動ギヤG12が回転する。第2駆動ギヤG12の回転は、第2駆動ギヤG12と噛み合う第2従動ギヤG22に伝達されて第2シャフト182を回転させる。さらに、モータMの動力が入力ギヤG1から第1シャフト181に伝達されると、第1シャフト181と第3駆動ギヤG13との相対回転により第3断続部230が接続状態となり第3駆動ギヤG13が回転する。第3駆動ギヤG13の回転は、第3駆動ギヤG13と噛み合う第3従動ギヤG23に伝達されて第2シャフト182を回転させる。
【0061】
第1駆動ギヤG11及び第1従動ギヤG21を介した伝達される第2シャフト182の回転と、第2駆動ギヤG12及び第2従動ギヤG22を介した伝達される第2シャフト182の回転と、第3駆動ギヤG13及び第3従動ギヤG23を介した伝達される第2シャフト182の回転と、を比較すると、最も高速段側である第3駆動ギヤG13及び第3従動ギヤG23を介した伝達される第2シャフト182の回転の方が早い。そのため、第3駆動ギヤG13及び第3従動ギヤG23を介した伝達される第2シャフト182の回転によって第1駆動ギヤG11及び第2駆動ギヤG12が第1シャフト181よりも早く回され、断続部210、220において外径側の駆動ギヤG11、G12の方が内径側の第1シャフト181より早く回転する。そのため、断続部210、220のローラ281は突出部181b(傾斜面181c)で噛み合わず、断続部210、220は空転状態となる。
【0062】
これにより、動力伝達装置TMは、3速状態となり、モータMの動力は、3速用動力伝達経路及びスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達される。
【0063】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0064】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0065】
(1) 第1回転体(第2駆動ギヤG12、第3駆動ギヤG13)と第2回転体(第1シャフト181)との間に配置される係合子(ローラ281)と、
前記係合子を、前記第1回転体と前記第2回転体とが一体回転可能な係合状態と、前記第1回転体と前記第2回転体とが相対回転可能な非係合状態と、に操作する操作部(操作機構240、ピン283、ガイド284、リテーナ282)と、を備える、断続装置(第2断続部220、第3断続部230)であって、
前記第1回転体及び前記第2回転体は、
互いの回転軸線が一致するように、且つ、前記回転軸線と直交する直交方向視で、互いの少なくとも一部が重なり合うよう配置され、
前記第1回転体は内部に中空穴を有するとともに、前記中空穴内に前記第2回転体を配置可能に設けられ、
前記第1回転体の前記中空穴の内周面と前記第2回転体の外周面との間で、前記係合子が収容される空間を収容空間(収容空間S1)としたとき、
前記回転軸線と直交する方向に延びる平面における前記第2回転体の前記外周面の形状は、前記収容空間の前記係合子の円周方向の移動可能範囲において前記回転軸線に対する径方向の長さが異なるように形成されるとともに、前記径方向の長さが前記移動可能範囲の円周方向中央位置に対する一方側と他方側とで異なるよう形成される、断続装置。
【0066】
(1)によれば、第2回転体の外周面の形状を工夫することで、第1回転体と第2回転体の一方向の相対回転に対し動力伝達を可能とし、他方向の相対回転に対し動力伝達を遮断する機構を実現することができる。
【0067】
(2) (1)に記載の断続装置であって、
前記第2回転体の前記外周面は、前記一方側と前記他方側のうちの何れか一方に、前記径方向の外側に向かって突出する突出部(突出部181b)を有する、断続装置。
【0068】
(2)によれば、第2回転体の外周面の一方側と他方側のうちの何れか一方に突出部を設けることで、第1回転体と第2回転体の一方向の相対回転に対し動力伝達を可能とし、他方向の相対回転に対し動力伝達を遮断する機構を実現することができる。
【0069】
(3) (1)又は(2)に記載の断続装置であって、
前記第2回転体の前記外周面は、平坦部と、前記一方側と前記他方側のうちの何れか一方に設けられた前記平坦部から前記径方向の外側に向かって延びる傾斜面と、を有する、断続装置。
【0070】
(3)によれば、第2回転体の外周面の一方側と他方側のうちの何れか一方に傾斜面を設けることで、第1回転体と第2回転体の一方向の相対回転に対し動力伝達を可能とし、他方向の相対回転に対し動力伝達を遮断する機構を実現することができる。
【符号の説明】
【0071】
181 第1シャフト(第2回転体)
181b 突出部
220 第2断続部(断続装置)
230 第3断続部(断続装置)
240 操作機構(操作部)
281 ローラ(係合子)
282 リテーナ(操作部)
283 ピン(操作部)
284 ガイド(操作部)
G12 第2駆動ギヤ(第1回転体)
G13 第3駆動ギヤ(第1回転体)
S1 収容空間