(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179368
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】吸音材およびこの吸音材を用いた吸音パネル
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20241219BHJP
E04B 1/86 20060101ALI20241219BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G10K11/16 120
E04B1/86 D
E04B1/82 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098159
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 将克
(72)【発明者】
【氏名】上野山 卓也
【テーマコード(参考)】
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF04
2E001FA08
2E001FA30
2E001GA12
2E001GA42
2E001HD11
2E001HF15
2E001JD04
5D061AA07
5D061AA22
5D061AA23
5D061BB21
(57)【要約】
【課題】反射音の発生を抑制した吸音材およびこの吸音材を用いた吸音パネルを得る。
【解決手段】クッション層11における少なくとも一方の表面に、表層13としての振動層が積層される。振動層は、この振動層に入射する音波によって振動する。クッション層11は、音波を受けた振動層の振動を減衰させる。振動層は、帆布やターポリンなどの、樹脂を含浸した織物にて構成される。クッション層11は固綿、特にニードルパンチ固綿にて構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション層における少なくとも一方の表面に振動層が積層され、振動層はこの振動層に入射する音波によって振動するものであり、クッション層は前記音波を受けた振動層の振動を減衰させるものであり、振動層は樹脂を含浸した織物にて構成され、クッション層は固綿にて構成されていることを特徴とする吸音材。
【請求項2】
固綿の目付が200~1000g/m2であることを特徴とする請求項1記載の吸音材。
【請求項3】
振動層はターポリンまたは樹脂を含浸した帆布にて構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の吸音材。
【請求項4】
1000Hzの正弦波の音についての吸音率が0.5以上かつ2000Hzの正弦波の音についての吸音率が0.7以上であることを特徴とする請求項1または2記載の吸音材。
【請求項5】
クッション層における一方の表面に振動層が積層され、クッション層における他方の面にカバー層が積層されていることを特徴とする請求項1または2記載の吸音材。
【請求項6】
カバー層が織布にて構成されていることを特徴とする請求項5記載の吸音材。
【請求項7】
カバー層が樹脂を含浸した織物にて構成されていることを特徴とする請求項6記載の吸音材。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の吸音材が枠体に保持されていることを特徴とする吸音パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸音材およびこの吸音材を用いた吸音パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建築物の解体工事現場などの工事現場においては、工事に伴い発生する騒音を外部に放出させないための防音パネルが一般的に用いられている。このような防音パネルとして、ガラスウールやロックウールにて構成された立方体状の吸音材の表裏面に合成樹脂製のシートが積層された積層体構造のものが知られている(特許文献1)。合成樹脂製のシートは、吸音材をパネル構造すなわち壁構造に保持するために用いられていると理解することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のように吸音材の表裏面に合成樹脂製のシートが積層された積層体構造の防音パネルであると、複数の防音パネルにて囲まれた工事現場において、防音パネルの合成樹脂製のシートからの反射音が発生する。このため、上記した公知の防音パネルでは、工事現場で発生した騒音が工事現場の外部へ漏れることは防止できるが、その騒音が工事現場内へ反射することを効果的に防止することはできないという問題点があり、工事現場内で作業する者は、この反射による騒音を不快に感じるため、作業環境における課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点を解決して、反射音の発生を抑制した吸音材およびこの吸音材を用いた吸音パネルを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため本発明の吸音材は、クッション層における少なくとも一方の表面に振動層が積層され、振動層はこの振動層に入射する音波によって振動するものであり、クッション層は前記音波を受けた振動層の振動を減衰させるものであり、振動層は樹脂を含浸した織物にて構成され、クッション層は固綿にて構成されていることを特徴とする。
【0007】
このような構成の吸音材であると、振動層に入射した音波は振動層を振動させようとするが、振動層自体の吸音効果とクッション層による緩衝効果とによって振動層の振動が減衰されるため、吸音材を通過する音波の音圧レベルが減衰されるとともに、吸音材から反射する音波の音圧レベルも減衰される。このため、通過音波と反射音波との両方がいずれも効果的に減衰される。
【0008】
本発明の吸音材によれば、クッション層は固綿にて構成される。固綿は、繊維の堆積物を圧縮一体化したものであり、適度な厚みを有するものである。また、繊維同士間における空隙が多く存在し、クッション層における緩衝作用により寄与し、吸音性が向上するという利点がある。本発明に用いる固綿としては、加熱と加圧により圧縮一体化した固綿、繊維の堆積物中に樹脂バインダーを混合して加熱や加圧により圧縮一体化した固綿、圧縮されるとともにニードルパンチ加工が施されたニードルパンチ固綿等が挙げられる
【0009】
本発明の吸音材によれば、クッション層の固綿の目付が200~1000g/m2であることが好適である。不織布の目付がこの範囲であると、200g/m2以上であることにより、良好に緩衝作用を発揮し、一方、1000g/m2以下であることにより、重量が大きくなり過ぎず、取り扱い性や運搬性が良好である。より好ましい目付は、200~900g/m2である。また、クッション層が保有する繊維間空隙を考慮して、嵩密度は、0.1g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは、0.05g/cm3以下であり、さらに好ましくは0.03g/cm3以下である。嵩密度の下限は、0.005g/cm3程度でよい。
【0010】
本発明の吸音材によれば、振動層はターポリンまたは樹脂を含浸した帆布にて構成されていることが好適である。振動層がターポリンまたは樹脂を含浸した帆布にて構成されていることで、固綿にて構成されたクッション層との相互作用によって、良好な吸音性を発揮することができる。
【0011】
本発明の吸音材によれば、1000Hzの正弦波の音についての吸音率が0.5以上かつ2000Hzの正弦波の音についての吸音率が0.7以上であることが好適である。このような吸音特性を有することで、特に建築物の解体現場などの建築作業現場を吸音材で囲んだ場合に、その囲んだ領域内において作業者が耳にする騒音を格段に低減することができる。
【0012】
本発明の吸音材によれば、クッション層における一方の表面に振動層が積層され、クッション層における他方の面にカバー層が積層されている構成とすることができる。カバー層は一般的な織布によって構成することができる。カバー層は、振動層と同様の材料すなわち樹脂を含浸した織物にて構成することもできる。
【0013】
本発明の吸音パネルは、上記した吸音材が枠体に保持されている構成である。このような吸音パネルであると、同様に良好な吸音特性を得ることができ、また工事現場への運搬や取付等の取扱い性も良好である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、通過する音波の音圧レベルを効果的に減衰できるとともに、反射する音波の音圧レベルも効果的に減衰できる吸音材と、この吸音材を用いた吸音パネルとを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態の吸音材の断面構造を示す図である。
【
図2】実施例、比較例の吸音材についての吸音率の測定装置を示す図である。
【
図3】実施例1の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図4】実施例2の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図5】比較例1の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図6】実施例3の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図7】実施例4の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図8】実施例5の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図9】実施例6の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図10】実施例7の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図11】比較例2の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図12】実施例8の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【
図13】比較例3の吸音材の吸音率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態の吸音材の断面構造示す。この吸音材は積層体にて構成されており、クッション層11の一方の面12に第1の表層13が積層されるとともに、クッション層11の他方の面14に第2の表層15が積層された3層構造を呈している。第1の表層13と第2の表層15との少なくともいずれかは、振動層にて構成されている。振動層は、この振動層に入射する音波によって振動するという特性を備えている。クッション層11は、音波を受けた振動層の振動を減衰させる緩衝作用を発揮するものである。
【0017】
クッション層11は、固綿にて構成されている。クッション層11は、振動層の振動を減衰させる緩衝作用を発揮するためには、繊維同士が三次元的に交絡したニードルパンチ固綿であることが好ましい。ニードルパンチ固綿は、繊維同士が三次元的に交絡することなく圧縮により得られる固綿に比べて、振動層の振動を減衰させる緩衝作用が良好だからである。
【0018】
固綿にて構成されたクッション層11は、所要の緩衝作用を発揮させるための仕様を有していることが好ましい。そのために、たとえば固綿が熱可塑性重合体からなる繊維にて形成されており、目付が200~1000g/m2であり、構成繊維の単糸繊度が0.3~10デシテックスであり、厚みが10~100mmであることが好ましい。嵩密度は、0.1g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは、0.05g/cm3以下であり、さらに好ましくは0.03g/cm3以下である。固綿を構成する熱可塑性重合体からなる繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等が挙げられるが、機械的強度に優れるポリエステル繊維であることが好ましい。また、繊維の形態は、多数の繊維間空隙を維持することができることから、連続繊維ではなく、機械捲縮を有する短繊維であることが好ましい。
【0019】
上述のように、第1の表層13と第2の表層15との少なくともいずれかは、振動層にて構成されている。振動層は、樹脂を含浸した織物にて構成されている。詳細には、振動層は、音波が入射されると、その入射した音波を振動層の振動に変換する性質を有する素材にて構成され。そのような素材としては、ターポリンや、樹脂を含浸した織物が好適である。
【0020】
ターポリンは、織布などの布の両面に軟質の樹脂層を積層したものである。換言すると、織布などの布を一対の軟質樹脂層にて挟み込んだものである。このうち、織布などの布としては、ポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織組織の織物を好ましく用いることができる。上述の振動層を構成するためには、ターポリンとして、上記したポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織組織の織物の両面にポリ塩化ビニル樹脂を積層して圧着加工により一体化した仕様のものを好ましく用いることができ、より具体的には、ユニチカ株式会社製の「ユニチカスーパーターポリン」シリーズを用いるとよい。
【0021】
樹脂を含浸した織物は、織物を構成する糸と糸との隙間に樹脂が入り込んだものである。そのための織物としては、前記したポリエステルマルチフィラメント糸からなる平織組織の織物やポリエステル紡績糸からなる平織組織の織物などを挙げることができる。なかでも、高強力のポリエステルマルチフィラメント糸を使った土木用キャンバスシートを好適に用いることができる。また、含浸させる樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などを挙げることができる。また、樹脂が含浸した織物の具体例としては、ポリエステル紡績糸からなる平織組織の織物に樹脂が含浸してなる帆布を用いることも好ましい。より具体的には、ユニチカ株式会社製「ユニチカエステル帆布 ライティ(登録商標)」を用いるとよい。
【0022】
第1の表層13と第2の表層15とのいずれか一方は、上述の振動層は構成しない一般的な表層材にて構成することができる。この表層材は、たとえばクッション層11と一体化されることでクッション層11の形態を保持できるものであり、またクッション層11にゴミなどが侵入することを防止できるものであれば、足りる。そのための素材としては、一般的な長繊維織物や不織布、樹脂シートなどを挙げることができる。あるいは、上述した振動層を構成するための仕様と同様のものであって、ターポリンや帆布などの樹脂を含浸した織物なども、上述した一般的な表層材として用いることができる。
【0023】
積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とを一体化するための手法としては、3層を積層した積層物の周囲を縫製等により一体化することが挙げられる。また、いずれも熱可塑性重合体により構成される形態においては、積層物の周囲に超音波ウェルダー処理や高周波ウェルダー処理を施して、融着により一体化させることが好ましい。
【0024】
本発明の吸音材を使用する際には、第1の表層13と第2の表層15とのうちの振動層を構成する方の表層を音源側に向けて配置する。そうすると、音源からの音波が振動層に入射して、振動層が振動しようとする。しかし、振動層にクッション層11が積層されているため、クッション層11により振動層の振動が減衰され、これによって吸音効果が発揮される。また振動層が振動しようとするときには、振動層の内部摩擦によって音のエネルギが消費され、これによる吸音効果も発揮される。
【0025】
したがって、本発明の吸音材によると、所要の吸音効果を得ることができ、通過音を吸音することができる。また吸音されることで、吸音材からの反射音の発生が抑制される。したがって、吸音材から音源側へ向かう反射音の発生を効果的に抑制することができる。
【0026】
本発明の吸音材の吸音率について説明する。本発明の吸音材は、1000Hzの正弦波の音についての吸音率が0.5以上かつ2000Hzの正弦波の音についての吸音率が0.7以上であることで、良好な吸音性能を発揮することができる。
【0027】
本発明の吸音材を適宜の枠体に保持させることで、本発明の吸音パネルが構成される。保持の形態としては、たとえば、枠体に本発明の吸音材を貼り付けたり、鉛直方向の枠体に沿って本発明の吸音材を吊り下げ支持したりするなどの形態を採用することができる。本発明の吸音パネルは、一般的な防音パネルと同様に、縦3.6m程度×横1.8m程度の大きさであることが、取扱い性やその他の要求性能を発揮するために好適である。
【実施例0028】
実施例、比較例の吸音材について、その吸音率を測定することによって、その吸音性能を評価した。
【0029】
吸音率の測定は、
図2に示される装置を用いて行った。
図2に示すように、クッション層11の一方の面に第1の表層13が積層されるとともに、クッション層11の他方の面に第2の表層15が積層された3層構造のサンプルを準備し、このサンプルを防音壁21に取り付けた。そして、防音壁21に取り付けられた状態のサンプルを音響管22にて覆った。図示の装置は垂直入射吸音測定装置であって、音響管22にスピーカ23が連通されている。スピーカ23には、試験用信号発生器24が電気的に接続されている。試験用信号発生器24には、発生した信号をモニタするための周波数カウンタ25が接続されている。
【0030】
スピーカ23からの入射音26をサンプルに入射し、サンプルにて吸音された後の反射音27を、音響管22の内部に設置したマイクロホンにて28にて検出した。検出信号は、分析装置29に入力して分析した。それにより、各種周波数の音の吸音率を測定した。
【0031】
(実施例1)
吸音材のサンプルとして、クッション層11がニードルパンチ固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としての帆布にて構成され、第2の表層15が第1の表層13と同じ帆布にて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、ポリエチレンテレフタレート短繊維(構成繊維の単繊維繊度7デシテックス、繊維長51mm)からなり、厚み20mm、嵩密度0.019g/cm3、目付380g/m2の固綿にて構成した。第1の表層13および第2の表層15を構成する帆布としては、ポリエステル紡績糸(10番手)からなる平織物にポリ塩化ビニル樹脂を含浸させた、厚み0.55mm、目付540g/m2のものを用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、周囲を超音波ウェルダーによるミシン加工を行い融着によって一体化させた。
【0032】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、一方の帆布が表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0033】
その測定結果を
図3のグラフに示す。
図3において、横軸は測定に用いた各音の周波数を示し、縦軸は吸音率を示す。
図3から理解できるように、実施例1の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.48、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.82であった。
【0034】
(実施例2)
吸音材のサンプルとして、クッション層11が固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としての帆布にて構成され、第2の表層15が長繊維織物にて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、実施例1と同様の固綿を用いた。第1の表層13を構成する帆布としては、実施例1における第1の表層13を構成する帆布と同じものを用いた。第2の表層15を構成する長繊維織物としては、ポリエステルマルチフィラメント糸(1670デシテックス/192フィラメント)を経糸と緯糸とに用いた平織物(ユニチカ社製 ドレインキャンバス・レビーF(登録商標)「U-300」)を用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、実施例1と同様に周囲を融着することにより一体化させた。
【0035】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、第1の表層13の帆布が表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0036】
その測定結果を
図4のグラフに示す。
図4から理解できるように、実施例2の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.52、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.80であった。
【0037】
(比較例1)
実施例2と同じサンプルを
図2に示す音響管22に収め、第2の表層15の長繊維織物が表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0038】
その測定結果を
図5のグラフに示す。
図5から理解できるように、比較例1の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.27、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.64であった。
【0039】
(実施例3)
吸音材のサンプルとして、クッション層11が固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としてのターポリンにて構成され、第2の表層15が第1の表層13と同じターポリンにて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、実施例1と同様の固綿を用いた。第1の表層13および第2の表層15を構成するターポリンとしては、ポリステルマルチフィラメント糸(610デシテックス/48フィラメント)を用いた平織物を両面からポリ塩化ビニル樹脂で挟み圧着加工することにより得られた、厚み0.52mm、目付630g/m2のものを用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、実施例1と同様に周囲を融着することにより一体化させた。
【0040】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、一方のターポリンが表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0041】
その測定結果を
図6のグラフに示す。
図6から理解できるように、実施例3の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.67、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.72であった。
【0042】
(実施例4)
吸音材のサンプルとして、クッション層11が固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としてのターポリンにて構成され、第2の表層15が長繊維織物にて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、実施例1と同様の固綿を用いた。第1の表層13を構成するターポリンとしては、実施例3における第1の表層13を構成するターポリンと同じものを用いた。第2の表層15を構成する長繊維織物としては、実施例2における第2の表層15を構成する平織物と同じものを用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、実施例1と同様に周囲を融着することにより一体化させた。
【0043】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、第1の表層13のターポリンが表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0044】
その測定結果を
図7のグラフに示す。
図7から理解できるように、実施例4の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.52、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.86であった。
【0045】
(実施例5)
吸音材のサンプルとして、クッション層11が固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としての帆布にて構成され、第2の表層15が第1の表層13と同じ帆布にて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、実施例1で用いた固綿と同様の構成繊維から構成され、厚み20mm、目付200g/m2、嵩密度0.010g/cm3の固綿にて構成した。第1の表層13および第2の表層15を構成する帆布としては、実施例1における第1の表層13および第2の表層15を構成する帆布と同じものを用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、実施例1と同様に周囲を融着することにより一体化させた。
【0046】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、一方の帆布が表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0047】
その測定結果を
図8のグラフに示す。
図8から理解できるように、実施例5の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.39、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.88であった。
【0048】
(実施例6)
吸音材のサンプルとして、クッション層11が固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としてのターポリンにて構成され、第2の表層15が第1の表層13と同じターポリンにて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、実施例5と同様の厚み20mm、目付200g/m2、嵩密度0.010g/cm3のニードルパンチ固綿にて構成した。第1の表層13および第2の表層15を構成するターポリンとしては、実施例3における第1の表層13および第2の表層15を構成するターポリンと同じものを用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、実施例1と同様に周囲を融着することにより一体化させた。
【0049】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、一方のターポリンが表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0050】
その測定結果を
図9のグラフに示す。
図9から理解できるように、実施例6の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.38、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.93であった。
【0051】
(実施例7)
吸音材のサンプルとして、クッション層11が固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としての帆布にて構成され、第2の表層15が長繊維織物にて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、実施例5と同様の厚み20mm、目付200g/m2、嵩密度0.010g/cm3の固綿にて構成した。第1の表層13を構成する帆布としては、実施例1の第1の表層13にて用いた帆布を用いた。第2の表層15を構成する長繊維織物としては、実施例2における第2の表層15を構成する平織物と同じものを用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、実施例1と同様に周囲を融着することにより一体化させた。
【0052】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、第1の表層13の帆布が表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0053】
その測定結果を
図10のグラフに示す。
図10から理解できるように、実施例7の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.70、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.74であった。
【0054】
(比較例2)
吸音材のサンプルとして、実施例7で用いたのと同じクッション層11だけで構成され、第1の表層13と第2の表層15とは有しない単層構造体を準備した。
【0055】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収めて防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0056】
その測定結果を
図11のグラフに示す。
図11から理解できるように、比較例2の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.12、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.18であった。
【0057】
(実施例8)
吸音材のサンプルとして、クッション層11が固綿にて構成され、第1の表層13が振動層としての帆布にて構成され、第2の表層15が長繊維織物にて構成された3層構造体を準備した。詳細には、クッション層11は、ポリエチレンテレフタレート短繊維(構成繊維の単繊維繊度0.55デシテックス、繊維長51mm)からなり厚み10mm、目付900g/m2、嵩密度0.090g/cm3の固綿にて構成した。第1の表層13を構成する帆布としては、実施例1において第1の表層13に用いた帆布と同じものを用いた。第2の表層15を構成する長繊維織物としては、実施例2における第2の表層15を構成する平織物と同じものを用いた。積層された第1の表層13とクッション層11と第2の表層15とは、実施例1と同様に周囲を融着することにより一体化させた。
【0058】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収め、第1の表層13の帆布が表面側となるようにして防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0059】
その測定結果を
図12のグラフに示す。
図12から理解できるように、実施例8の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.44、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.89であった。
【0060】
(比較例3)
吸音材のサンプルとして、実施例8で用いたのと同じクッション層11だけで構成され、第1の表層13と第2の表層15とは有しない単層構造体を準備した。
【0061】
このような構成のサンプルを
図2に示す音響管22に収めて防音壁21に取り付けた。そして、その状態で各周波数の正弦波の音ごとの吸音率を測定した。
【0062】
その測定結果を
図13のグラフに示す。
図13から理解できるように、比較例3の吸音材では、1000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.16、2000Hzの正弦波の音についての吸音率は0.46であった。
【0063】
比較例2(
図11)と実施例7(
図7)との対比から、固綿にて構成されたクッション層11の単体だけでは十分な吸音効果は得られないが、クッション層11の表面に、振動層としての帆布にて構成された第1の表層13を設けることで、良好な吸音効果が得られることが判明した。
【0064】
比較例3(
図13)と実施例8(
図12)との対比からも、同様の傾向が得られることが判明した。
【0065】
比較例3(
図13)は、比較例2(
図11)と比べてクッション層11を構成する固綿が高目付であったため、クッション層11自体による吸音効果が発現して、特に2000Hz以上の高周波領域における吸音効果が良好であった。しかし、比較例3と同じクッション層11を用いた実施例8(
図12)と、比較例2と同じクッション層11を用いた実施例7(
図10)とでは、実施例7の方が、特に1000Hzでの吸音効果が優れていた。これは、実施例7および比較例2で用いた目付200g/m
2、嵩密度0.010g/cm
3の固綿の方が、実施例8および比較例3で用いた目付900g/m
2、嵩密度0.090g/cm
3の固綿よりも、第1の表層13の振動層としての帆布に対する緩衝効果が大きかったためであると判断される。
【0066】
実施例1(
図3)と実施例2(
図4)との対比から、音波が入射しない方の第2の表層15が振動層としての帆布である場合と、振動層ではない一般的な長繊維不織布である場合とでは、吸音特性に大差はないことが判明した。実施例3(
図6)と実施例4(
図7)との対比からも、同様の傾向が得られた。
【0067】
実施例2(
図4)と比較例1(
図5)との対比から、実施例2のように音が入射する方の表層が振動層としての帆布である場合には、この振動層とクッション層11との相互作用による顕著な吸音効果が得られたのに対し、比較例1のように音が入射する方の表層が振動層ではない一般的な長繊維織物である場合には、長繊維織物とクッション層11との相互作用による顕著な吸音効果は得られないことが判明した。
【0068】
実施例1(
図3)と実施例3(
図6)との対比から、振動層が実施例1の帆布である場合と、実施例3のターポリンである場合とでは、吸音性能に大差はなかった。同様の実施例2(
図4)と実施例4(
図7)との対比についても、同様に吸音性能に大差はなかった。
【0069】
実施例1(
図3)と実施例5(
図8)との対比から、クッション層11の固綿の目付についての実施例1(380g/m
2)と実施例5(200g/m
2)とでは、吸音性能に大差はなかった。同様の実施例2(
図4)と実施例6(
図9)との対比についても、同様に吸音性能に大差はなかった。
【0070】
上記の各実施例においては、クッション層11として一般的な緩衝材を用いずに固綿を用いたことで、繊維間空隙が大きく、音波を受けた振動層の振動を減衰させる緩衝作用を発揮するという技術的効果を得ることができ、また、軽量であり、取り扱い性が良好で運搬も容易であった。