(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179377
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】熱間圧延用ロール外層材およびその製造方法、ならびに熱間圧延用複合ロール
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241219BHJP
C22C 37/00 20060101ALI20241219BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20241219BHJP
B21B 27/00 20060101ALI20241219BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20241219BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20241219BHJP
C21D 5/00 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C37/00 B
C22C38/58
B21B27/00 A
B21B27/00 C
C22C38/00 301L
C21D9/00 M
C21D6/00 101L
C21D5/00 A
C21D6/00 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098184
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】布施 太雅
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直道
【テーマコード(参考)】
4E016
4K042
【Fターム(参考)】
4E016AA02
4E016CA08
4E016DA03
4E016DA04
4E016EA02
4E016EA03
4E016EA04
4E016FA02
4K042AA21
4K042BA03
4K042CA06
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA11
4K042CA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE03
(57)【要約】
【課題】熱間圧延用ロール外層材およびその製造方法、ならびに熱間圧延用複合ロールを提供する。
【解決手段】本発明の熱間圧延用ロール外層材は、質量%で、C:1.3~2.8%、Si:0.1~2.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:0.5~6.5%、Cr:2.5~12.5%、Mo:2.5~12.5%、V:2.5~12.5%、W:0.5~7.5%、P:0.01~0.05%、S:0.001~0.030%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、外層材外表面における組織は、共晶セルの直径が250μm以下であり、かつ粒径1.0μm以上の共晶炭化物面積率が6.0~25.0%であり、ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの領域における組織は、共晶炭化物面積率の最大値と最小値の差Sが18.0%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:1.3~2.8%、Si:0.1~2.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:0.5~6.5%、Cr:2.5~12.5%、Mo:2.5~12.5%、V:2.5~12.5%、W:0.5~7.5%、P:0.01~0.05%、S:0.001~0.030%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
外層材外表面における組織は、共晶セルの直径が250μm以下であり、かつ、粒径1.0μm以上の共晶炭化物面積率が6.0~25.0%であり、
ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの領域における組織は、式(1)で表される共晶炭化物面積率の差Sが18.0%以下であることを特徴とする、熱間圧延用ロール外層材。
S=Smax-Smin ・・・(1)
ここで、Smax:ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの各観察面における共晶炭化物面積率のうち、最大となる共晶炭化物面積率(%)の値であり、
Smin:ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの各観察面における共晶炭化物面積率のうち、最小となる共晶炭化物面積率(%)の値である。
【請求項2】
請求項1に記載の熱間圧延用ロール外層材の製造方法であって、
注湯された外層材の前記成分組成を有する溶湯を遠心鋳造する際に、
外層材外表面の遠心力が重力倍数で150~220Gとし、
かつ、前記溶湯の鋳込み温度と前記溶湯の液相線温度との差を表すΔTの値が式(2)を満たし、
かつ、遠心鋳造中の鋳型の振動加速度を表すAが式(3)を満たすことを特徴とする、熱間圧延用ロール外層材の製造方法。
30℃≦ΔT≦100℃ ・・・(2)
5mm/s2≦A≦40mm/s2 ・・・(3)
【請求項3】
外層と内層の2層、または、外層と中間層と内層の3層を有する熱間圧延用複合ロールであって、
前記外層が請求項1に記載の熱間圧延用ロール外層材からなることを特徴とする、熱間圧延用複合ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールに係り、特に鋼板の粗圧延に好適に用いられる熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールに関する。また本発明は、熱間圧延用ロール外層材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高品質な鋼板の需要が増加しており、それに伴い鋼板の熱間圧延技術を向上させることが求められている。そのため、熱間圧延設備で使用される熱間圧延用ロールの特性の向上、特に耐摩耗性の向上が強く要求されている。そこで、耐摩耗性を向上させるため、Cr系のM7C3型炭化物を導入したHiCr鋳鋼ロールや、工具鋼の一種である高速度鋼をベースにV、Cr、Mo、Wなどの炭化物形成元素を含有し、V系MC型炭化物、Mo、W系M2C型炭化物、Cr系M7C3型炭化物(ここで、Mは炭化物を形成する金属元素を示す。)などの硬質炭化物を多量に導入したハイスロールが、用いられている。
【0003】
一方で、遠心鋳造された熱間圧延用ロールは、デンドライトの濃化部と共晶炭化物の濃化部が交互に積層された形態を示し、ロール半径方向に帯状の層を成すラミネーション偏析が形成される。ラミネーション偏析が存在すると、共晶炭化物起因の深いヒートクラックが形成されて欠け落ちが発生しやすくなる。その他、偏析部と非偏析部で摩耗差が生じてロール表面に細かな凹凸が形成され、凹凸が被圧延材に転写されて被圧延材の表面品質の低下を引き起こす等のトラブルを生じる可能性がある。
【0004】
このような問題を解決するための様々な技術があり、例えば特許文献1~3の技術が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、重量%で、C:1.5~3.5%、Si:0.1~2.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:5~25%、Mo:2~12%、V:3~10%、Nb:0.5~5%を含有し、かつ[%Mo]/[%Cr]:0.25~0.7で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、さらに半径方向に表面から30mmまでの領域で隣り合う極大値と極小値の差が平均値の20%以下となる炭化物量分布を有する、遠心鋳造製圧延ロール用外層材および圧延ロールが提案されている。さらに、特許文献1では、上記化学組成からなる溶湯の鋳込み中に鋳型の回転数を変動させる、遠心鋳造製圧延ロール用外層材および圧延ロールの製造方法を提案している。これらにより、ロール特性に優れ、しかも鋼板に偏析模様を生じさせず、また圧延トラブルを惹起することもない技術を提供している。
【0006】
特許文献2には、遠心鋳造鋳型に外層材溶湯を鋳込んで圧延ロール用外層材を形成する熱間圧延ロール用外層材の製造方法において、遠心鋳造鋳型を、鋳型内表面に厚み1~5mmの耐火物層を形成した鋳型とし、外層材溶湯の鋳造温度を、(固相温度+160℃)~(固相温度+400℃)の範囲とし、かつ遠心鋳造鋳型の回転数を、該遠心鋳造鋳型内面に作用する遠心力が重力倍数で160~200Gとなるように調整して遠心力鋳造する、熱間圧延ロール用外層材の製造方法を提案している。また、上記外層材溶湯の組成が、質量%で、C:1.5~4%、Si:0.2~3%、Mn:0.2~2%、Cr:1~30%、Mo:0.5~10%を含み、あるいはさらにNi:6%以下、V:8%以下、Nb:3%以下、Co:4%以下、REM:0.5%以下、B:0.3%以下のうちの1種または2種以上を含有する組成としている。これらにより、ラミネーション偏析を抑制し、極めて優れたロール肌を実現できる技術を提供している。
【0007】
特許文献3には、質量%で、C:1.5~3.0%、Si:0.1~2.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:5.0~15.0%、Mo:2.0~12.0%、V:3.0~10.0%、Nb:0.5~5.0%を含有し、またCo:5.0%以下、Ni:3.0%以下、W:5.0%以下のいずれか1種または2種以上を含有し、かつMoおよびCrの含有量が下記式(A)を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、下記式(B)で表される炭化物量の変化率Sが20%以下となる炭化物量分布を有し、さらに下記(C)式で表される硬度差が3.0以下を満たす、熱間圧延用ロール外層材を提案している。
0.35≦[%Mo]/[%Cr]≦0.70 (A)
ここで、[%Mo]、[%Cr]は、各元素の含有量(質量%)である。
S=(Xmax―Xmin)×100/Xave (B)
ここで、Xmax:ロール半径方向に外表面から30mmまでの領域の炭化物量分布における最大値(面積%)、Xmin:ロール半径方向に外表面から30mmまでの領域の炭化物量分布における最小値(面積%)、Xave:ロール半径方向に外表面から30mmまでの領域の炭化物量分布における平均値(面積%)、である。
ΔHS=HSXmax-HSXmin (C)
ここで、HSXmax:ロール半径方向に外表面から30mmまでの領域の炭化物量分布における最大値の位置におけるショア硬さ、HSXmin:ロール半径方向に外表面から30mmまでの領域の炭化物量分布における最小値の位置におけるショア硬さ、である。
【0008】
また、特許文献3では、上記組成を有する溶湯を、注湯し遠心鋳造する際に、ロール外層材の外表面における遠心力が1.0G/s以上で変化するように、遠心鋳造鋳型の回転数を2回以上変動させるとともに、該溶湯の供給速度を80~200kg/sとする、熱間圧延用ロール外層材の製造方法を提案している。これらにより、組織偏析が無く、優れた表面品質を有するロール特性を備えた技術を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-239779号公報
【特許文献2】特開2002-331344号公報
【特許文献3】特開2020-139190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、高品質鋼板の需要が高まる中で鋼板の熱間圧延技術の向上にともなって、ますます熱間圧延用ロールに要求される特性が厳しくなる。これにより、ラミネーション偏析等といったロールの偏析を抑制しつつ、耐摩耗性をより強く向上させることが熱間圧延用ロールに要求されている。しかしながら、特許文献1~3に記載された従来の熱間圧延用ロールおよびその製造方法では、偏析抑制と耐摩耗性の両方もしくはそのどちらか一方が十分ではなく、両立できていない。
【0011】
そこで、本発明では、上記課題を解決した、ラミネーション偏析を抑制し、かつ、耐摩耗性に優れる熱間圧延用ロール外層材およびその製造方法、ならびに熱間圧延用複合ロールを提供することを目的とする。
【0012】
ここで、本発明における「耐摩耗性に優れる」とは、後述の熱間転動摩耗試験により測定される摩耗量の平均値が0.12g以下であることを指す。なお、上記の熱間転動摩耗試験については、後述の実施例で詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述の課題を解決するために、熱間圧延用ロールの基地、炭化物、摩耗量、化学成分(成分組成)および遠心鋳造による熱間圧延用ロールの製造条件を詳細に調査した。
【0014】
その結果、共晶セルと呼ばれるコロニー組織(基地組織)の間隙に存在している炭化物である共晶炭化物量が特定の範囲になるように化学成分を最適化させ、また偏析を抑制できるように製造条件を最適化させることで、ラミネーション偏析の抑制および耐摩耗性の向上を両立できることを見出した。
【0015】
本発明は、これらの知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
[1] 質量%で、C:1.3~2.8%、Si:0.1~2.5%、Mn:0.1~2.5%、Ni:0.5~6.5%、Cr:2.5~12.5%、Mo:2.5~12.5%、V:2.5~12.5%、W:0.5~7.5%、P:0.01~0.05%、S:0.001~0.030%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
外層材外表面における組織は、共晶セルの直径が250μm以下であり、かつ、粒径1.0μm以上の共晶炭化物面積率が6.0~25.0%であり、
ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの領域における組織は、式(1)で表される共晶炭化物面積率の差Sが18.0%以下であることを特徴とする、熱間圧延用ロール外層材。
S=Smax-Smin ・・・(1)
ここで、Smax:ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの各観察面における共晶炭化物面積率のうち、最大となる共晶炭化物面積率(%)の値であり、
Smin:ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの各観察面における共晶炭化物面積率のうち、最小となる共晶炭化物面積率(%)の値である。
[2] 上記[1]に記載の熱間圧延用ロール外層材の製造方法であって、
注湯された外層材の前記成分組成を有する溶湯を遠心鋳造する際に、
外層材外表面の遠心力が重力倍数で150~220Gとし、
かつ、前記溶湯の鋳込み温度と前記溶湯の液相線温度との差を表すΔTの値が式(2)を満たし、
かつ、遠心鋳造中の鋳型の振動加速度を表すAが式(3)を満たすことを特徴とする、熱間圧延用ロール外層材の製造方法。
30℃≦ΔT≦100℃ ・・・(2)
5mm/s2≦A≦40mm/s2 ・・・(3)
[3] 外層と内層の2層、または、外層と中間層と内層の3層を有する熱間圧延用複合ロールであって、
前記外層が上記[1]に記載の熱間圧延用ロール外層材からなることを特徴とする、熱間圧延用複合ロール。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ラミネーション偏析を抑制した耐摩耗性に優れる熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールを提供することができる。また、これらの特性を兼ね備えた熱間圧延用ロール外層材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、熱間転動摩耗試験で使用した試験機の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本発明における共晶炭化物面積率の最大値(S
max)と最小値(S
min)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態を示すものであって、本発明はこの実施形態に限定されない。
【0019】
まず、本発明の熱間圧延用ロール外層材(以下、単に「外層材」と記す場合もある)の成分組成の限定理由について説明する。以下、特に断らない限り、「質量%」は単に「%」と記す。
【0020】
C:1.3~2.8%
Cは、V、Cr、Mo、W等と結合し、硬質炭化物を形成することで耐摩耗性の向上に寄与する。ここで、硬質炭化物とはMC型炭化物、M2C型炭化物、M7C3型炭化物である。溶湯の凝固中に晶出したMC型炭化物、M2C型炭化物、M7C3型炭化物が共晶炭化物である。また、Cは、基地への固溶強化により基地硬さを向上させる効果を有する。C含有量が1.3%未満では共晶炭化物量が不足し、優れた耐摩耗性を得ることができない。一方で、C含有量が2.8%を超えると炭化物が過剰に生成し、共晶炭化物の偏析が促進される。また、粗大な共晶炭化物が生成し、圧延中に共晶炭化物が脱落しやすくなり、耐摩耗性が低下する。よって、C含有量は1.3%以上2.8%以下に限定する。C含有量は、好ましくは1.4%以上であり、より好ましくは1.5%以上である。また、C含有量は、好ましくは2.5%以下であり、より好ましくは2.2%以下である。
【0021】
Si:0.1~2.5%
Siは、溶湯中で脱酸剤として作用し、溶湯の流動性を良くし、鋳造欠陥を防ぐ効果を有する。Si含有量が0.1%未満では、脱酸に対する効果が不足する。一方で、Si含有量が2.5%を超えると脱酸に対する効果が飽和する。よって、Si含有量は0.1%以上2.5%以下に限定する。Si含有量は、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは0.4%以上である。また、Si含有量は、好ましくは2.2%以下であり、より好ましくは2.0%以下である。
【0022】
Mn:0.1~2.5%
Mnは、製品への悪影響を及ぼすSをMnSとして固定し、除去する効果を有する。Mn含有量が0.1%未満では、SをMnSとして固定する効果が認められない。一方で、Mn含有量が2.5%を超えると、この効果が飽和する。よって、Mn含有量は0.1%以上2.5%以下に限定する。Mn含有量は、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは0.4%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは2.2%以下であり、より好ましくは2.0%以下である。
【0023】
Ni:0.5~6.5%
Niは、基地の焼入れ性を向上させる元素であり、基地硬さを向上させ、耐摩耗性を向上させる効果を有する。Ni含有量が0.5%未満では、基地硬さを向上させる効果が不十分である。一方で、Ni含有量が6.5%を超えると、オーステナイトの残留を助長するため、硬さが低下する。よって、Ni含有量は0.5%以上6.5%以下に限定する。Ni含有量は、好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは1.5%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは5.0%以下であり、より好ましくは4.0%以下である。
【0024】
Cr:2.5~12.5%
Crは、炭化物形成元素であり、Cと結合してM7C3型炭化物を形成する。M7C3型炭化物は、硬質な炭化物であるため、耐摩耗性を向上させる効果を有する。Cr含有量が2.5%未満では、M7C3型共晶炭化物量が不足し、耐摩耗性が低下する。一方で、Cr含有量が12.5%を超えると、粗大なM7C3型共晶炭化物が生成し、かえって耐摩耗性が悪化する。よって、Cr含有量は2.5%以上12.5%以下に限定する。Cr含有量は、好ましくは3.5%以上であり、より好ましくは4.5%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは10.0%以下であり、より好ましくは8.0%以下である。
【0025】
Mo:2.5~12.5%
Moは、炭化物形成元素であり、Cと結合してM2C型炭化物を形成する。M2C型炭化物は、M7C3型炭化物よりも硬質な炭化物であるため、さらに耐摩耗性を向上させる効果を有する。Mo含有量が2.5%未満では、M2C型共晶炭化物量が不足し、耐摩耗性を向上させる効果が不十分である。一方で、Mo含有量が12.5%を超えると、粗大なM2C型共晶炭化物が生成し、これに起因して、耐摩耗性が悪化し、靭性の低下が起こる。よって、Mo含有量は2.5%以上12.5%以下に限定する。Mo含有量は、好ましくは3.5%以上であり、より好ましくは4.5%以上である。また、Mo含有量は、好ましくは10.0%以下であり、より好ましくは8.0%以下である。
【0026】
V:2.5~12.5%
Vは、炭化物形成元素であり、Cと結合してMC型炭化物を形成する。MC型炭化物はビッカース硬さHvで2800程度の値を有し、最も硬い炭化物のうちの一つであり、耐摩耗性を向上させる効果を有する。V含有量が2.5%未満では、MC型共晶炭化物量が不足し、耐摩耗性を向上させる効果が不十分である。一方で、V含有量が12.5%を超えると、鉄溶湯より比重の軽いVCが遠心鋳造中の遠心力により外層材(なお、後述する複合ロールの場合には「外層」となる。以降も同様である。)の内側に濃化し、偏析が起こる。よって、V含有量は2.5%以上12.5%以下に限定する。V含有量は、好ましくは3.5%以上であり、より好ましくは4.5%以上である。また、V含有量は、好ましくは10.0%以下であり、より好ましくは8.0%以下である。
【0027】
W:0.5~7.5%
Wは、炭化物形成元素であり、Moと同様にCと結合して硬質なM2C型炭化物等の硬質な炭化物を生成し、外層材の硬さが増加するとともに、耐摩耗性を向上させる効果を有する。W含有量が0.5%未満では、その効果が不十分であり、耐摩耗性が悪化する。一方で、W含有量が7.5%を超えると、粗大なM2C型共晶炭化物が生成し、耐摩耗性がかえって悪化する。よって、W含有量は0.5%以上7.5%以下に限定する。W含有量は、好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは1.5%以上である。また、W含有量は、好ましくは6.5%以下であり、より好ましくは5.5%以下である。
【0028】
P:0.01~0.05%
Pは、ロール製造過程で混入し、機械的特性を低下させると考えられてきたが、本発明者らの鋭意検討の結果、少量のPの含有は硬さや耐摩耗性を向上させる効果があることを明らかにした。P含有量が0.01%未満では、硬さや耐摩耗性の向上効果が十分ではなく、一方で、P含有量が0.05%超えでは機械的性質が劣化する。よって、P含有量は0.01%以上0.05%以下に限定する。P含有量は、好ましくは0.02%以上である。また、P含有量は、好ましくは0.04%以下である。
【0029】
S:0.001~0.030%
Sは、通常、鉄系合金では有害元素として取り扱われ、一定量以下の含有量に制限されるが、その範囲内においてMnSは潤滑材の効果を有する。一方で、S含有量が多いと材質が脆くなる。よって、S含有量は0.001%以上0.030%以下に限定する。S含有量は、好ましくは0.002%以上である。また、S含有量は、好ましくは0.020%以下である。
【0030】
残部:Fe及び不可避的不純物
上記した成分以外の残部は、Fe及び不可避的不純物からなる。例えば、不可避的不純物としてはN、O等が挙げられる。Oはザク巣防止の観点から250質量ppm以下とし、Nはザク巣防止の観点から1200質量ppm以下とするのが好ましい。
【0031】
次に、本発明の熱間圧延用ロール外層材の組織の限定理由について説明する。
【0032】
過去の研究結果から、共晶炭化物面積率が大きくなるほど耐摩耗性は向上する傾向にあることが知られている。しかしながら、優れた耐摩耗性を保持しつつ、遠心鋳造によるラミネーション偏析が生じにくい共晶炭化物面積率の範囲は未だ明らかになっていない。そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、次のことを発見した。
【0033】
具体的には、本発明の熱間圧延用ロール外層材は、上記した範囲の成分組成を有し、外層材外表面における組織は、共晶セルの直径が250μm以下であり、かつ、粒径1.0μm以上の共晶炭化物面積率が6.0~25.0%であり、ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの領域における組織は、式(1)で表される共晶炭化物面積率の差Sが18.0%以下であることが重要である。この成分組成と組織を有する場合に、ラミネーション偏析を抑制しつつ耐摩耗性が向上することができるからである。
S=Smax-Smin ・・・(1)
ここで、Smax:ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの各観察面における共晶炭化物面積率のうち、最大となる共晶炭化物面積率(%)の値であり、Smin:ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの各観察面における共晶炭化物面積率のうち、最小となる共晶炭化物面積率(%)の値である。
【0034】
本発明において「共晶炭化物」とは、上述のように、溶湯の凝固中に晶出したMC型炭化物、M2C型炭化物、M7C3型炭化物であり、また、基地中に存在する析出炭化物の粒径は1.0μm未満であることから、本発明では粒径が1.0μm以上の共晶炭化物に限定する。
【0035】
また、「共晶セル」とは、基地部と共晶炭化物とで構成される共晶において、基地部が共晶炭化物に囲まれ、または共晶炭化物のネットワークが開口して、セル状凝固してコロニー組織となっているものを示す。ここで、外層材における「基地」は、マルテンサイトおよび/またはベイナイトであることが好ましい。
【0036】
また、「外層材表層」とは、ロール半径方向に外層材外表面から50mmまでの領域を指すものとする。
【0037】
共晶セル:直径で250μm以下
共晶セルが直径で250μmより大きい場合は、共晶炭化物間の距離が長くなるため、耐摩耗性が劣化する。「共晶炭化物間の距離が長くなる」とは、共晶炭化物が囲んでいる基地面積が大きい(すなわち、セル状のコロニー組織が粗大である)ことを示し、この距離が長くなると、耐摩耗性を担う高硬度な共晶炭化物が基地部を保護することが出来ず、基地部の摩耗が早く進むため、その結果、耐摩耗性が劣化する。よって、共晶セルの直径は、250μm以下とする。耐摩耗性の観点からは、共晶セルの直径は、好ましくは230μm以下であり、より好ましくは210μm以下である。
【0038】
共晶セルの直径の下限は特に規定しない。共晶セルの直径が小さくなると、共晶セルの間隙が増加するが、共晶炭化物量は主にC含有量によって決まるため、共晶炭化物量が不足し、共晶セルの間隙にミクロキャビティが発生しやすくなる。ロール品質維持の観点からは、共晶セルの直径は、好ましくは40μm以上であり、より好ましくは60μm以上である。
【0039】
この共晶セルの直径は、後述の製造方法における遠心鋳造中の振動加速度によって制御できる。
【0040】
共晶炭化物面積率:6.0~25.0%
本発明における「共晶炭化物面積率」とは、粒径が1.0μm以上の共晶炭化物の合計面積率を意味する。共晶炭化物面積率が6.0%未満では、基地に占める耐摩耗性を担う硬質な共晶炭化物が少ないため、基地部が摩耗しやすくなった結果、耐摩耗性が劣化する。一方で、共晶炭化物面積率が25.0%より大きいと共晶炭化物の脱落が発生しやすくなる。炭化物が脱落し空間が生じた部分に基地がロール円周方向に働く圧延トルクの作用で塑性流動が起こり、円周方向にクラックが進展して基地部が脱落し、かえって耐摩耗性が劣化する。共晶炭化物面積率は、好ましくは8.0%以上であり、より好ましくは10.0%以上である。また、共晶炭化物面積率は、好ましくは24.0%以下であり、より好ましくは22.0%以下である。
【0041】
なお、粗大な共晶炭化物はヒートクラックが入りやすく、脱落しやすいため、共晶炭化物の粒径は50μm以下とすることが好ましい。
【0042】
この共晶炭化物面積率は、成分組成と後述の製造方法における重力倍数および振動加速度(A)によって制御できる。
【0043】
共晶炭化物面積率の差(S):18.0%以下
ラミネーション偏析は共晶炭化物が集積して形成された層であり、ロールの半径方向の共晶炭化物面積率の差が大きい場合に生じる。そのため、本発明では式(1)で表される「共晶炭化物面積率の差」を規定することで、遠心鋳造によるラミネーション偏析が生じにくい共晶炭化物面積率の範囲を制御する。具体的には、この共晶炭化物面積率の差は、成分組成と後述の製造方法における適切なΔTおよび重力倍数によって制御する。
【0044】
この共晶炭化物面積率の差(S)が18.0%より大きい場合は、目視によって共晶炭化物集積層と正常部層の境目が明確となることから、ラミネーション偏析が確認される。よって、本発明ではこの共晶炭化物面積率の差(S)を18.0%以下とする。共晶炭化物面積率の差は、好ましくは16.5%以下であり、より好ましくは15.0%以下である。
【0045】
なお、共晶炭化物面積率の差(S)は、差が無いほうがより高品質である。ゆえに、この差(S)は0%であってもよい。すなわち、好ましくは0%以上である。
【0046】
上述のように、本発明の組織(基地組織)は、上記した共晶炭化物の他に、マルテンサイトおよび/またはベイナイトを、面積率で、基地組織全体に対して75.0~94.0%の範囲で有していてもよい。マルテンサイトおよびベイナイトの面積率の合計が75.0%未満であると、炭化物面積率が過剰となり、その結果、共晶炭化物の脱落が発生しやすくなり、かえって耐摩耗性が劣化する恐れがある。一方、マルテンサイトおよびベイナイトの面積率の合計が94.0%を超えると、耐摩耗性を担う硬質な共晶炭化物が不足し、耐摩耗性が劣化する恐れがある。
【0047】
続いて、組織の観察方法について以下に説明する。
【0048】
〔共晶炭化物の面積率〕
まず、得られた外層材に鏡面研磨を施してナイタール液で腐食した後、デジタルマイクロスコープでロール表面(Z面)の組織観察を行う。本発明では、撮影する視野内に共晶セルが200個以上確認できる視野を1視野とし、撮影を行うものとする。次いで、画像解析ツールとしてImageJを用いて、測定倍率200倍の写真の二値化処理を行う。写真中の基地組織と共晶炭化物の輝度に違いがあるため、二値化処理をすることで、基地組織と共晶炭化物を分類してそれぞれの面積を求めることができる。ここでは、試料より9視野撮影し、共晶炭化物の面積率の平均値を算出する。この平均値を、ロール表面(外層材外表面)における、「粒径1.0μm以上の共晶炭化物の面積率(%)」とする。
【0049】
上述のように、本発明では粒径が1.0μm以上の共晶炭化物を対象としている。ここでは、次のように「粒径」を測定する。200倍で撮影したデジタルマイクロスコープ画像から、共晶炭化物の直径を測定し、共晶炭化物の直径を共晶炭化物の粒径とする。なお、共晶炭化物の形状が楕円形等の場合は、共晶炭化物内で最も距離の長い線分に対して垂直二等分線を引き、その垂直二等分線が前記共晶炭化物の粒界と交わる2点間の長さを共晶炭化物の粒径とする。
【0050】
また、ロール半径方向における共晶炭化物面積率の最大値(S
max)と最小値(S
min)差(S)は次のように求める。上記と同様の方法により、デジタルマイクロスコープでロール表面(Z面)からロール半径方向に50mmまでの領域(すなわち外層材表層)の組織観察を行う。ロール外表面からロール半径方向に1mmずつ研削し、その都度上記の方法で共晶炭化物面積率を測定して9視野での平均値を算出する。これを外表面からロール半径方向に50mmの位置まで実施する。
図2に示すように、得られた各観察面での共晶炭化物の面積率の平均値のうち、最大となるものを共晶炭化物面積率の最大値(S
max)とし、最小となるものを共晶炭化物面積率の最小値(S
min)とする。この最大値と最小値の差が、外層材外層における、「共晶炭化物面積率の差(S)」とする。
【0051】
〔基地組織〕
基地については、上述のとおり、画像解析ツールとしてImageJを用いて、測定倍率200倍の写真の二値化処理を行うことで、基地組織を分類して面積を求めることができる。二値化処理した際、基地と析出炭化物は黒色となり、共晶炭化物は白色となる。そのため、100%から白色の共晶炭化物面積率(%)を除した値を、基地組織の面積率(%)(すなわち、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率)とする。
【0052】
〔共晶セルの直径〕
共晶セルの直径は、得られた外層材に鏡面研磨を施してナイタール液で腐食した後、デジタルマイクロスコープでロール表面(Z面)の組織観察を行う。ここでは、測定倍率100倍で撮影したデジタルマイクロスコープ画像から、共晶セルの直径を測定する。ここでは、試料より3視野撮影し、得られた1つの画像に対して縦および/または横にランダムに計6本の直線を引く。下記の式(4)に示すように、「i本目の直線の長さ(Li)」と「該i本目の直線と共晶セルとの交点の数(Ni)」と「直線の数」とを用いて、該1つの画像における共晶セルサイズを求める。
【0053】
具体的には、まず、1本目の直線長さ(L1)を、該1本目の直線と粒径5.0μm超えの共晶炭化物との交点の数(N1)で除した値を求め、次に、2本目の直線長さを(L2)、該2本目の直線と粒径5.0μm超えの共晶炭化物との交点の数(N2)で除した値を求める。これを直線の数(6本)だけ繰り返す。得られた各値の合計値を、全直線数で除した値が「共晶セルサイズ」となる。このように求めた3視野の共晶セルサイズの平均値を、ロール表面(外層材外表面)における「共晶セルの直径(μm)」とする。
【0054】
なお、粒径が5.0μmを超える共晶炭化物が共晶セルの境界に存在することを利用し、上記の方法により共晶セルサイズを求めている。
【0055】
共晶セルサイズ=((L1/N1)+(L2/N2)+(L3/N3)+(L4/N4)+(L5/N5)+(L6/N6))/6 ・・・(4)
ここで、式(4)において、Liはi本目の直線長さ、Niはi本目の直線と粒径が5.0μmを超える共晶炭化物の交点の個数である。i=1~6の自然数とする。
【0056】
次に、本発明の熱間圧延用ロール外層材の製造方法の一実施形態について説明する。
【0057】
本発明の熱間圧延用ロール外層材の製造方法としては、鋳型内面にジルコン等を主材とした耐火物が1~5mm厚で被覆された回転する鋳型に、上記の熱間圧延用ロール外層材の成分組成を有する溶湯(以下、単に「外層材溶湯」と称する)を、所定の肉厚となるように注湯し、遠心鋳造する。
【0058】
具体的には、注湯された上記外層材溶湯を遠心鋳造する際に、外層材外表面の遠心力が重力倍数で150~220Gとし、かつ、外層材溶湯の鋳込み温度と該外層材溶湯の液相線温度との差(以下、この差を「ΔT(単位:℃)」と記す)の値が式(2)を満たし、かつ、遠心鋳造中の鋳型の振動加速度(以下、この振動加速度を「A(単位:mm/s2)」と記す場合もある)が式(3)を満たす条件で、遠心鋳造を行う。
【0059】
30℃≦ΔT≦100℃ ・・・(2)
5mm/s2≦A≦40mm/s2 ・・・(3)
遠心力:重力倍数で150~220G
熱間圧延用ロール外層材を遠心鋳造する際の遠心力が、重力倍数で150G未満では、凝固速度が低下する他、固液共存域における初晶と残存液相の鋳物内面の溶湯表面の揺らぎが大きくなり、ラミネーション偏析が発生しやすくなる。よって、当該重力倍数を150G以上とする。ラミネーション偏析抑制の観点から、当該重力倍数は、好ましくは155G以上であり、より好ましくは160G以上である。
【0060】
一方、上記遠心力が、重力倍数で220Gを超えると、遠心鋳造中の鋳型が大きく振動し、振動加速度が増加し、その結果、振動起因の鋳造欠陥が生じる。よって、当該重力倍数を220G以下とする。ロール品質の観点から、当該重力倍数は、好ましくは210G以下であり、より好ましくは200G以下である。
【0061】
なお、重力倍数(G)とは、鋳型回転による遠心力が重力の何倍であるかを表すパラメータであり、下記の式(5)により求められる。
G=((D/2)×ω2/g) ・・・(5)
ここで、式(5)において、Dは鋳型の直径、ωは鋳型回転の角速度、gは重力加速度である。
【0062】
鋳込み温度と外層材溶湯の液相線温度との差:30℃≦ΔT≦100℃
ラミネーション偏析の発生メカニズムは、主に固液共存域における初晶と残存液相の回転方向のせん断流れ挙動に起因すると考えられており、まだ完全に解明されていないが、ΔTの低減がラミネーション偏析の抑制に効果があるということを本発明者らは経験的に知り得ている。すなわち、製造可能範囲でΔTを制御することでラミネーション偏析を抑制できる。
【0063】
ΔTの値が30℃未満の場合は、鋳込み初期で溶湯が凝固するなど溶湯の鋳造性が課題となる。また、ΔTの値が100℃より大きい場合は、溶湯の凝固に時間がかかり、ラミネーション偏析が形成しやすくなる。このような理由から、本発明では上記の式(2)を満足するように、鋳込み温度と外層材溶湯の液相線温度の差を制御する。鋳造性の観点から、ΔTは、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは40℃以上である。また、ΔTは、好ましくは95℃以下であり、より好ましくは90℃以下である。
【0064】
遠心鋳造中の鋳型の振動加速度:5mm/s2≦A≦40mm/s2
振動の測定方法は、以下の方法で求めることができる。
【0065】
まず、加速度センサーを鋳型の長手方向および幅方向の中央部に設置し、遠心鋳造中の振動を測定する。振動を発生させ、さらに振動加速度を適切な範囲に制御するための方法は特に限定されないが、今回は鋳型の素材を一部変更し、重心を軸から3~6%ずらすことで振動を制御する。適切な振動を与えることで、溶湯の凝固が速くなり、これにより、共晶セルが小さくなるため、耐摩耗性に優れた上記の組織が得られる。
【0066】
熱間圧延用ロール外層材を遠心鋳造中の鋳型の振動加速度が、5mm/s2未満の場合、振動が小さいために、凝固速度の増加が不十分となるため、共晶セルサイズ微細化の効果が得られない。よって、当該振動加速度を5mm/s2以上とする。共晶セルサイズの微細化の観点から、当該振動加速度は、好ましくは6mm/s2以上であり、より好ましくは8mm/s2以上である。
【0067】
一方で、当該振動加速度が、40mm/s2より大きい場合、振動起因の鋳造欠陥が生じ、かえってロール品質が悪化する。また、振動加速度が大きすぎると、固液共存域に外力がかかり、ラミネーション偏析は発生しやすくなる。よって、当該振動加速度を40mm/s2以下とする。ロール品質の観点から、当該振動加速度は、好ましくは38mm/s2以下であり、より好ましくは36mm/s2以下である。
【0068】
本発明では、上記鋳造条件で遠心鋳造を行うことによって、上述の作用効果を得ることができ、その結果、耐摩耗性に優れ、かつ、ラミネーション偏析を抑制した上記組織を得ることができる。
【0069】
なお、遠心鋳造後に熱処理を施すことが望ましい。例えば、熱処理として、遠心鋳造後の熱間圧延用ロール外層材を900~1100℃の温度に加熱し、その後、空冷あるいは衝風空冷する焼入れ処理と、続いて、式(6)で表される焼戻しパラメータ(P)の値が10000~20000の範囲内となるように加熱保持し、その後、冷却する焼戻し処理とを、2回以上行うことが好ましい。
【0070】
P=T(log(t)+A) ・・・(6)
ここで、式(6)において、Tは焼戻し温度(K)、tは焼戻し時間(h)、Aは定数である。なお、本発明ではA=20を使用している。
【0071】
熱処理における温度は、ロール材中心部におけるロール材表面から5mm下の位置での内部温度とする。この温度は、熱電対を埋め込んで測温する。
【0072】
次に、本発明の熱間圧延用複合ロールおよびその製造方法について説明する。
【0073】
本発明の熱間圧延用複合ロール(以下、単に「複合ロール」と称する場合もある)は、外層と内層の2層、または、外層と中間層と内層の3層を有するものである。該複合ロールの外層が、上述の成分組成および組織を有する本発明の熱間圧延用ロール外層材からなる。これにより、上述と同様に、ラミネーション偏析を抑制し、かつ、耐摩耗性を向上した複合ロールを得られる。
【0074】
なお、熱間圧延用ロール外層材の成分組成および組織については既に説明しているため、省略する。
【0075】
続いて、本発明の熱間圧延用複合ロールの製造方法の好適な一例について説明する。
【0076】
本発明の熱間圧延用複合ロールの製造方法では、まず、上記の鋳造条件での遠心鋳造法により熱間圧延用ロール外層材を鋳造する。なお、外層となる熱間圧延用ロール外層材の製造方法については既に説明しているため、省略する。
【0077】
次に、遠心鋳造で形成された外層の内側に、内層を、あるいは中間層および内層を、形成する。
【0078】
上述のように、一実施形態として、外層および内層からなる2層構造とする場合、本発明の熱間圧延用複合ロールは、遠心鋳造された外層と、該外層と溶着一体化した内層とを有することとなる。この場合、内層は、静置鋳造法で製造することが好ましい。例えば、外層材が完全に凝固した後、鋳型の回転を停止し、該鋳型を立ててから、内層材組成の溶湯を該鋳型内に注湯して静置鋳造する。これにより外層材の内面側が再溶解され、外層および内層が溶着一体化した複合ロールとなる。
【0079】
静置鋳造する内層には、内層材として、鋳造性や機械的性質に優れた球状黒鉛鋳鉄やいも虫状黒鉛鋳鉄(CV鋳鉄)などを用いることが好ましい。その理由は、次の通りである。遠心鋳造製ロールは、外層と内層が溶着一体化しており、外層材の成分が内層に混入する。外層材に含まれるCr、V等の炭化物形成元素が内層へ混入すると、内層を脆弱化する。このため、外層成分への混入率はできるだけ抑えることが好ましいからである。
【0080】
他の実施形態として、外層と内層との間に中間層を配してなる3層構造とする場合、本発明の熱間圧延用複合ロールは、遠心鋳造された外層と、該外層と溶着一体化した中間層および該中間層と溶着一体化した内層を有することとなる。この場合、中間層は、遠心鋳造法で製造することが好ましい。例えば、外層材の凝固途中あるいは完全に凝固した後、鋳型を回転させながら、中間層材組成の溶湯を注湯し、遠心鋳造する。その後、上述と同様の静置鋳造法で内層材組成の溶湯を静置鋳造する。これにより、外層材の内面側が再溶解され、外層および中間層と、該中間層および内層とが溶着一体化した複合ロールとなる。
【0081】
中間層を形成する場合には、中間層材として、黒鉛鋼、高炭素鋼、亜共晶鋳鉄等を用いることが好ましい。その理由は、次の通りである。中間層と外層は溶着一体化しており、外層材の成分が中間層に混入する。また、中間層と内層が溶着一体化していることから、中間層を介した内層への外層材成分の混入率を抑制するためには、外層材の中間層への混入率はできるだけ抑えることが好ましいからである。
【0082】
以上の製造工程を経て、外層、中間層、内層の3層、あるいは、外層、内層の2層を有する本発明の熱間圧延用複合ロールを得ることができる。
【0083】
なお、本発明の熱間圧延用複合ロールの製造方法では、得られた熱間圧延用複合ロールに対して上述と同様の熱処理を施すことが望ましい。
【実施例0084】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されない。
【0085】
まず、表1に示す熱間圧延用ロール外層材の成分組成の溶湯を高周波溶解炉で溶解し、遠心鋳造法によりリング状試験片(外径:φ250mm、幅:65mm、肉厚:55mm)を作製した。なお、表1に示す成分組成以外の残部は、Fe及び不可避的不純物とした。
【0086】
次いで、表2に示す上記溶湯の鋳込み温度と該溶湯の液相線温度との差(ΔT)とし、かつ遠心力はリング状試験片の外周部が表2に示す重力倍数とし、かつ表2に示す遠心鋳造中の鋳型の振動加速度(A)となるように、遠心鋳造を行った。
【0087】
次いで、冷却した後、リング状試験片を取り出し、900~1100℃で焼入れ処理したのち、上記の式(6)で表される焼戻しパラメータPが10000~20000の範囲内となるように、加熱保持したのち冷却する焼戻し処理を3回行った。
【0088】
その後、得られたリング状試験片を用いて、以下に説明する方法で、組織観察、熱間転動摩耗試験を行った。熱間転動摩耗試験片は、肉厚中心部から採取した。
【0089】
なお、上述のように、本発明の熱間圧延用複合ロールは、上記熱間圧延用ロール外層材を複合ロールの外層に用いるものであるため、本実施例における外層材と同様の評価となる。
【0090】
【0091】
(1)組織観察
熱処理後の各試料を用いて、上述の測定方法により、ロール表面における共晶炭化物の粒径および粒径1.0μm以上の共晶炭化物の面積率を、それぞれ測定した。
【0092】
また、熱処理後の各試料を用いて、上述の方法により、ロール表層における共晶炭化物面積率の最大値(Smax)および最小値(Smin)を求め、上記の式(1)で表される共晶炭化物面積率の差(S)をそれぞれ求めた。
【0093】
さらに、熱処理後の各試料を用いて、上述の測定方法により、ロール表面における共晶セルの直径を求めた。なお、本実施例では、共晶セルサイズを求める式(4)において、直線長さ(Li)は2574μmとした。すなわち、共晶セルサイズを求める式(4)として、以下のものを用いた。
共晶セルサイズ=((2574/N1)+(2574/N2)+(2574/N3)+(2574/N4)+(2574/N5)+(2574/N6))/6 ・・・(4)
(2)熱間転動摩耗試験
熱間転動摩耗試験方法は次の通りとした。得られた各リング状試験片から、熱間転動摩耗試験片(外径:60mmφ、幅:10mm、C1面取りあり)を採取した。熱間転動摩耗試験は、
図1に示すように、試験片1と相手片4との2円盤すべり転動方式で行った。試験片1を冷却水2で水冷しながら700rpmで回転させ、回転する該試験片1に、高周波誘導加熱コイル3で800℃に加熱した相手片4(材質:S45C、外径:190mmφ、幅:15mm、C1面取り)を
図1中の太矢印で示す荷重の方向7に686Nの荷重を加え、接触させながら転動させた。試験片1の回転方向5と相手片4の回転方向6は、試験片1と相手片4の接点における接線が同一方向となる回転方向とした。摩耗試験は450分間実施し、45分(試験片の回転数:31500回転)ごとに相手片を新品に交換して計10回(試験片の回転数:計315000回転)試験を繰り返し行い、1回当たり(試験片31500回転当たり)の摩耗量(g)の平均値を算出した。
【0094】
得られた結果をそれぞれ表2に示した。
【0095】
【0096】
ここでは、次のように評価した。表2の摩耗量は、0.12g以下である場合を「合格」(すなわち、耐摩耗性に優れる)とし、0.12gを超える場合を「不合格」とした。表2から明らかなように、本発明例では、比較例と比べて、ラミネーション偏析を抑制させ、かつ、優れた耐摩耗性を兼ね備えていることが確認できた。なお、ラミネーション偏析が抑制されたか否かについては、表2に示したロール径方向の共晶炭化物面積率の差(S)により行い、上述のように当該差(S)が18.0%以下である場合を「ラミネーション偏析が抑制された」と判断した。
【0097】
したがって、本発明によれば、ラミネーション偏析を抑制させた耐摩耗性に優れる熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロールを製造することが可能となる。その結果、熱間圧延用ロールの寿命の向上や、ロールトラブル発生による圧延中断時の時間損失が低減することで、熱間圧延用ロールの圧延効率の向上にともない熱間圧延鋼板の生産性が向上するという効果も得られる。