IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

特開2024-179380遺伝子分析方法および遺伝子分析キット
<>
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図1
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図2
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図3
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図4
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図5
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図6
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図7
  • 特開-遺伝子分析方法および遺伝子分析キット 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179380
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】遺伝子分析方法および遺伝子分析キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20241219BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20241219BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20241219BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098187
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳子
(72)【発明者】
【氏名】中川 樹生
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】近接した複数の遺伝子変異がシス型とトランス型のどちらの位置関係で存在しているのか精度よく判定し、定量できる遺伝子分析方法およびキットを提供すること。
【解決手段】複数の遺伝子変異それぞれに対応したプローブを準備する工程、前記複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するためのプライマー、前記プローブ、被検生体試料、および酵素を含む溶液を用いて増幅反応を行う工程、前記増幅反応を行う工程の後、増幅産物と前記プローブとの結合を、前記溶液の温度を変化させた融解曲線分析により測定する工程、前記融解曲線分析の結果に基づいて、前記被検生体試料に含まれるDNAにおいて、前記複数の遺伝子変異が同じアレル上にあるシス型であるのかまたは異なるアレル上にあるトランス型であるのかを判定する工程を含む、遺伝子分析方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の遺伝子変異それぞれに対応したプローブを準備する工程、
前記複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するためのプライマー、前記プローブ、被検生体試料、および酵素を含む溶液を用いて増幅反応を行う工程、
前記増幅反応を行う工程の後、増幅産物と前記プローブとの結合を、前記溶液の温度を変化させた融解曲線分析により測定する工程、
前記融解曲線分析の結果に基づいて、前記被検生体試料に含まれるDNAにおいて、前記複数の遺伝子変異が同じアレル上にあるシス型であるのかまたは異なるアレル上にあるトランス型であるのかを判定する工程
を含む、遺伝子分析方法。
【請求項2】
前記プローブが、蛍光色素を含む、または蛍光色素および消光色素を含み、
前記蛍光色素を用いて前記増幅産物と前記プローブとの結合が測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プローブの3’末端配列と5’末端配列とが相補的な配列部分を有し、前記プローブは遊離状態においてステムループ構造を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記増幅反応を行う工程が、非対称核酸増幅反応により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の遺伝子変異のシス型およびトランス型のそれぞれに対応する融解温度情報を格納した第1のデータベースを用いて、前記被検生体試料に含まれるDNAについての融解温度と比較し、前記複数の遺伝子変異がシス型であるのかまたはトランス型であるのかを判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1のデータベースを用いて、前記被検生体試料に含まれるDNAについて、前記遺伝子変異のコピー数、シス型の遺伝子変異のコピー数、およびトランス型の遺伝子変異のコピー数をカウントする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の遺伝子変異のシス型およびトランス型のそれぞれに対応する融解曲線の特徴を格納した第2のデータベースを用いて、前記被検生体試料に含まれるDNAについての融解曲線と比較し、前記複数の遺伝子変異がシス型であるのかまたはトランス型であるのかを判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第2のデータベースに格納する融解曲線の特徴が、融解温度、融解曲線の微分曲線におけるピーク形状の幅の左右バランス、融解曲線の微分曲線における極大値の低温側の極小値の大きさ、融解曲線の微分曲線におけるピークの左右の傾きおよびそのバランス、融解曲線の微分曲線における極大値の高さと極小値の高さ、およびその比率からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第2のデータベースを用いて、前記被検生体試料に含まれるDNAについて、前記遺伝子変異のコピー数、シス型の遺伝子変異のコピー数、およびトランス型の遺伝子変異のコピー数をカウントする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記増幅反応を行う工程において、前記溶液に野生型遺伝子に対応するプローブをさらに添加して増幅反応を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
複数の遺伝子変異に関連する形質を評価するために対象の被検生体試料について遺伝子分析を行う方法であって、
対象の被検生体試料を用いて請求項1に記載の方法を行い、前記対象の被検生体試料において、複数の遺伝子変異が同じアレル上にあるシス型であるのかまたは異なるアレル上にあるトランス型であるのかを判定する工程、
前記対象が、前記複数の遺伝子変異に関連する形質を有するか否かを評価する工程
を含む方法。
【請求項12】
前記形質が、疾患もしくは障害の罹患可能性または薬剤応答性を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するための、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含むプライマー対と、
前記フォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いて増幅される産物に結合する、前記複数の遺伝子変異にそれぞれ対応した複数の融解曲線分析用プローブと
を含み、
前記プローブは、前記複数の遺伝子変異が同じアレル上に存在するときと異なるアレル上に存在するときに、異なる融解曲線の特徴または融解温度を有するものである、遺伝子分析キット。
【請求項14】
請求項1に記載の方法を実施するための、請求項13に記載の遺伝子分析キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の遺伝子変異を分析するための遺伝子分析方法および遺伝子分析キット、より具体的には、融解曲線分析用プローブを用いて複数の遺伝子変異を分析するための遺伝子分析方法および遺伝子分析キットに関する。また本発明は、複数の遺伝子変異に関連する形質(例えば薬剤応答性)を評価するための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
非小細胞肺がんは肺がん全体の8~9割を占めるがんで、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)を始めとするドライバー遺伝子変異が多く観察され、それに対する分子標的薬が開発されている。EGFR遺伝子変異に対する分子標的薬であるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)は、第一世代としてゲフィチニブおよびエルロチニブが、第二世代としてアファチニブおよびダコミチニブが開発された。しかし、EGFR遺伝子変異を有し、これらのEGFR-TKIが奏功しても治療開始から1年程度でT790Mという耐性変異が生じてしまう。そこで、T790M変異を有する患者にも奏功する第三世代のEGFR-TKIとしてオシメルチニブが開発された。しかしながら、オシメルチニブの耐性変異としてC797Sが生じて、オシメルチニブが奏功しないことが新たな問題となっていた。
【0003】
近年、T790MとC797Sの遺伝子変異の位置関係により、治療効果が変わることが明らかになった(非特許文献1)。T790MとC797Sがトランス型で存在する(異なるアレル上に存在する)場合、T790Mにはオシメルチニブが、C797Sには第一、第二世代EGFR-TKIが有効であるため、既存のEGFR-TKIの組み合わせにより治療が奏功する。一方、T790MとC797Sがシス型で存在する(同じアレル上に存在する)場合、既存のEGFR-TKIの組み合わせを含むすべてのEGFR-TKIの効果が見られないことが分かった。このような治療への感受性・耐性に関わる変異がどのような位置関係にあるかを判別することで、有効な治療薬を開発したり、その治療薬の投与可否を決めることができるため、遺伝子変異のシス・トランス判別方法は重要である。
【0004】
これまでに報告されているT790MとC797Sのシス・トランス判別方法としては、次のようなものがある。まず、T790MとC797Sのそれぞれに対応し、別の蛍光色素で標識した加水分解プローブを用意する。検体にPCRに必要となるDNAポリメラーゼ、プライマー、プローブと酵素を添加し、デジタルPCRを行う。デジタルPCRでは反応液をウェルまたはドロップレットなどの微小区画に分割し、微小区画内で増幅する。トランス型の検体では、T790MとC797Sが別の遺伝子に存在するため、1つの微小区画内にはどちらかの遺伝子変異しか含まず、片方の蛍光しか検出されない。シス型の検体では、T790MとC797Sが同じ遺伝子に存在するため、1つの微小区画内に両方の遺伝子を含み、2種類の蛍光が検出される。そこで、1種類の蛍光しか検出されない微小区画と2種類の蛍光が検出される微小区画の数をそれぞれカウントすることで検体中に存在する遺伝子の変異がシス・トランスのどちらなのかを判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-108063号公報(US2019/0352699A1)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Uchibori,et al.,Nat.Commun.,8,14768,2017
【非特許文献2】Nakagawa,et al.,Anal.Chem.,92,11705-11713,2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、2種類の蛍光色素で標識した加水分解プローブを用いたデジタルPCRでは、コピー数が多いと、分画するときに1つの微小区画にT790MとC797Sのトランス型DNAが同時に入る確率が高くなり、シス型DNAとして誤って検出されてしまう。また、確率的に1つの微小区画にT790MとC797Sのトランス型DNAが同時に入るため、シス型とトランス型が混在しているとその比率を正確に定量することが難しい。
【0008】
そこで本発明の目的は、近接した複数種類の遺伝子変異がシス型とトランス型のどちらの位置関係で存在しているのか精度よく判定し、定量できるDNA検出方法およびDNA検出キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、加水分解プローブの代わりにモレキュラービーコンのような分解されないプローブを用いることでデジタルPCRに融解曲線分析を組み合わせ、増幅後、融解曲線分析により高感度かつ高マルチプレックスに対象遺伝子の遺伝子型を同定する技術を開発している(特許文献1、非特許文献2)。近接した複数種類の遺伝子変異に対応して設計したモレキュラービーコンを用意し、融解曲線分析を行うと、モレキュラービーコン同士の立体障害からシス型とトランス型では融解曲線の形状が変化し、融解曲線から算出される融解温度(Tm)も異なることを見出した。この融解曲線および融解温度の相違に基づき、複数の遺伝子変異のシス型とトランス型を判定し定量することができるという知見を得、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明は、一態様において、
複数の遺伝子変異それぞれに対応したプローブを準備する工程、
前記複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するためのプライマー、前記プローブ、被検生体試料、および酵素を含む溶液を用いて増幅反応を行う工程、
前記増幅反応を行う工程の後、増幅産物と前記プローブとの結合を、前記溶液の温度を変化させた融解曲線分析により測定する工程、
前記融解曲線分析の結果に基づいて、前記被検生体試料に含まれるDNAにおいて、前記複数の遺伝子変異が同じアレル上にあるシス型であるのかまたは異なるアレル上にあるトランス型であるのかを判定する工程
を含む、遺伝子分析方法を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、
複数の遺伝子変異に関連する形質を評価するために対象の被検生体試料について遺伝子分析を行う方法であって、
対象の被検生体試料を用いて上記の方法を行い、前記対象の被検生体試料において、複数の遺伝子変異が同じアレル上にあるシス型であるのかまたは異なるアレル上にあるトランス型であるのかを判定する工程、
前記対象が、前記複数の遺伝子変異に関連する形質を有するか否かを評価する工程
を含む方法を提供する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、
複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するための、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含むプライマー対と、
前記フォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いて増幅される産物に結合する、前記複数の遺伝子変異にそれぞれ対応した複数の融解曲線分析用プローブと
を含み、
前記プローブは、前記複数の遺伝子変異が同じアレル上に存在するときと異なるアレル上に存在するときに、異なる融解曲線の特徴または融解温度を有するものである、遺伝子分析キットを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、近接した複数種類の遺伝子変異の位置関係において、シス型・トランス型のどちらであるか、より精度よく高感度に判定または定量できる、遺伝子分析方法および遺伝子分析キットが提供される。したがって、本発明は、遺伝子検出、遺伝子型判別などを行う基礎研究、検査、創薬などの分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】蛍光標識プローブを用いてDNAの融解温度を測定する方法の一例を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る、蛍光標識プローブを用いてトランス型(A)・シス型(B)の遺伝子変異の融解温度を測定する方法の一例を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態における、蛍光標識プローブを用いてトランス型(AおよびB)・シス型(C~F)の変異を計測した場合の融解曲線の例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態における、シス型の場合およびトランス型の場合のそれぞれの遺伝子変異に対する温度を格納した第1のデータベースの例を示す図である。
図5】融解曲線分析を用いて生体試料中の遺伝子変異がシス型か、トランス型か判別する遺伝子分析方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図6】融解曲線分析とデジタルPCRを組み合わせて遺伝子の変異コピー数および遺伝子変異のシス型・トランス型の比率を定量する遺伝子分析方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施例において、リアルタイムPCRにおいてT790M変異のみ、C797S変異のみ、シス型、トランス型の遺伝子を増幅し融解曲線分析を行った場合の測定結果を示す図である。
図8】本発明の実施例において、デジタルPCRにおいてT790M変異のみ、C797S変異のみ、シス型、トランス型の遺伝子を増幅し融解曲線分析を行った場合の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の目的、特徴、利点、およびそれらに係るアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかである。本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施形態および具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施形態を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図および範囲から逸脱することなく、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0016】
(1)遺伝子分析方法
一態様において、本発明は、遺伝子分析方法を提供し、かかる方法は、
複数の遺伝子変異それぞれに対応したプローブを準備する工程、
前記複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するためのプライマー、前記プローブ、被検生体試料、および酵素を含む溶液を用いて増幅反応(例えばPCR)を行う工程、
前記増幅反応を行う工程の後、増幅産物と前記プローブとの結合を、前記溶液の温度を変化させた融解曲線分析により測定する工程、
前記融解曲線分析の結果に基づいて、前記被検生体試料に含まれるDNAにおいて、前記複数の遺伝子変異が同じアレル上にある(シス型)のか、または異なるアレル上にある(トランス型)のかを判定する工程
を含む。
【0017】
本明細書において、遺伝子分析とは、分析対象の複数の遺伝子変異が被検生体試料に存在するか否かを判定すること、複数の遺伝子変異が同じアレル上にある(シス型)のかまたは異なるアレル上にある(トランス型)のかを判定すること、分析対象の複数の遺伝子変異のシス型およびトランス型の存在比もしくは存在量を測定すること、複数の遺伝子変異のシス型およびトランス型の存在をモニターすることなどを意味する。
【0018】
本発明において、被検生体試料は、分析対象となる遺伝子変異を含むまたは含む可能性のあるDNAを含有する生体試料であれば特に限定されるものではなく、例えば、血液や尿などの体液試料、組織、培養細胞であってもよいし、またそれらの試料から抽出・精製されたDNA(ゲノムDNA、循環DNAなど)でもよいし、試料から抽出・精製されたmRNAなどに由来するDNA(cDNAなど)であってもよい。あるいは、好適なプローブ・プライマーの設計などのために、合成されたDNAを被検生体試料として使用してもよい。被検生体試料が体液試料、組織、培養細胞などである場合には、本発明の方法で行う増幅反応のために、予め処理してDNAなどを利用可能としておくことが好ましい。そのような試料からDNAを調製するための方法は当技術分野で公知であり、簡便にDNAを精製するためのキット、mRNAを抽出してcDNAを合成するためのキットも市販されている。
【0019】
本発明において分析対象となる遺伝子変異は、同じアレル上にある(シス型)のか、異なるアレル上にある(トランス型)のかを判定することが望まれる複数の遺伝子変異である。「同じアレル上(シス型)」とは、染色体における2つのアレルのうち同じアレルに複数の遺伝子変異が存在することを意味し、「異なるアレル上(トランス型)」とは、染色体における2つのアレルにおいて、複数の遺伝子変異それぞれが異なるアレルに存在することを意味する。複数の遺伝子変異は、同じ1つのプローブではなく、それぞれのプローブで融解曲線分析を行うことが望ましいため、変異の距離は5塩基以上離れていることが望ましい。また、プローブ同士の立体障害による融解曲線の変化が起こるように、変異の距離は50塩基より近いことが望ましい。したがって、複数の遺伝子変異は、例えば5~60塩基、好ましくは5~40塩基離れている。ただし、遺伝子変異は、プローブ同士の立体障害による融解曲線の変化が起こるものであれば、より離れて存在していてもよい。
【0020】
分析対象となる遺伝子変異の具体例には、限定されるものではないが、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子のT790MとC797S、EGFR遺伝子のT790MとL858R,exon19欠失変異(活性型変異)、PIK3CA遺伝子のR88、R108、E453、E542、E545、E726およびH1047Rの変異のいずれかの組み合わせ、ALK遺伝子の耐性変異C1156Y、I1171N、I1171S、I1171T、F1174C、V1180L、L1196M、G1202R、G1202欠失、D1203N、E1210K、G1269A等が挙げられる。
【0021】
本発明の方法では、複数の遺伝子変異それぞれに対応したプローブを準備する。プローブは、少なくとも一部が分析対象の遺伝子変異の塩基配列に特異的な配列を有する、すなわち遺伝子変異の塩基配列に対して相補的な配列を有するように設計される。プローブは、複数の遺伝子変異ごとに必要であるため、分析対象の遺伝子変異の種類に応じた数のプローブが準備される。プローブの設計手法は当技術分野で周知であり、本発明において使用可能なプローブは、特異的な結合(ハイブリダイゼーション)が可能な長さおよび塩基組成(融解温度)を有するように設計される。例えば、プローブとしての機能を有する長さとしては、遺伝子変異と特異的な配列部分の塩基長が10塩基以上であることが好ましく、さらに好ましくは15~50塩基であり、さらに好ましくは15~30塩基、例えば約20塩基である。また設計の際には、プローブのGC含量とプローブの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmの確認には、公知のプローブ設計用ソフトウエアを利用することができる。
【0022】
本発明では、複数の遺伝子変異それぞれのプローブ同士の立体障害による融解曲線の変化が起こるように、それぞれのプローブの末端同士は20塩基より近いことが望ましい。プローブの末端同士は重なる領域があると結合量が低下する原因となるが、プローブの親和性が高い場合やプローブの蛍光色素の蛍光強度が高い場合、検出器の蛍光検出感度が高い場合は検出可能となるため、プローブの末端同士が重なる領域があってもよい。望ましくはプローブの末端同士が2塩基以上、さらには4塩基以上離れているとよい。プローブの末端同士が10塩基以上離れている場合は、プローブの塩基配列と蛍光色素の間にリンカーを挿入したり、蛍光色素の大きさを変更したりして、立体障害による融解曲線の変化量を調節するとよい。
【0023】
プローブは、蛍光色素を含む、または蛍光色素および消光色素を含む。プローブが蛍光色素を含む場合には、この蛍光色素を利用して、増幅産物とプローブとの結合が測定される。一実施形態では、プローブの3’末端配列と5’末端配列とが相補的な配列部分を有し、遊離状態において(増幅産物と結合しない場合に)プローブの3’末端配列と5’末端配列とが結合してステムループ構造を形成する。すなわち、プローブは、モレキュラービーコンであることが好ましい。
【0024】
設計されたプローブは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0025】
続いて、増幅反応を行う。増幅反応は、複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するためのプライマー、上述したプローブ、被検生体試料、および酵素を含む溶液について行う。
【0026】
プライマーの設計手法も当技術分野で周知であり、本発明において使用可能なプライマーは、特異的なアニーリングが可能な条件を満たす、例えば特異的なアニーリングが可能な長さおよび塩基組成(融解温度)を有するように設計される。例えば、プライマーとしての機能を有する長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは15~50塩基であり、さらに好ましくは15~30塩基、例えば約20塩基である。また設計の際には、プライマーのGC含量とプライマーの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmの確認には、公知のプライマー設計用ソフトウエアを利用することができる。設計されたプライマーは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0027】
増幅反応に使用する酵素は、DNAを鋳型とした伸長反応を行うことができるポリメラーゼであり、公知の任意のポリメラーゼを使用することができる。
【0028】
増幅工程は、当技術分野で公知の増幅反応であれば任意の増幅反応により行うことができる。好ましくは、増幅工程は非対称核酸増幅反応により行われる。この場合、フォワードプライマーおよびリバースプライマーのいずれかの添加量を増加させて増幅反応を行う。非対称核酸増幅反応については、例えばAnal.Chem.,92,11705-11713,2020(非特許文献2)の記載を参照されたい。
【0029】
一実施形態において、増幅産物とプローブとの結合は、溶液の温度を変化させた融解曲線分析により測定する。結合は、融解温度によって変化することから、溶液の温度変化に伴う結合の変化から、増幅産物とプローブとの二重鎖の融解温度を算出することができる。あるいは、増幅産物とプローブとの結合は、溶液の温度変化のサイクルごとに測定され、そのサイクルの数と結合の変化の関係から、標的とする遺伝子変異を判定することができる。
【0030】
以上のようにして増幅反応と融解曲線分析を行うことにより、複数の遺伝子変異がシス型で存在する場合の融解温度または融解曲線の特徴と、複数の遺伝子変異がトランス型で存在する場合の融解温度または融解曲線の特徴との差異に基づいて、被検生体試料中のDNAについて、複数の遺伝子変異がシス型で存在するかまたはトランス型で存在することを判定することが可能となる。
【0031】
本発明の遺伝子分析方法を図1~6の模式図を参考にして、具体的に説明する。
【0032】
図1は、蛍光標識プローブを用いてDNAの融解温度を測定する方法の一例を示す模式図である。蛍光標識プローブは、モレキュラービーコンやPleiadesプローブが例示できるが、ここではモレキュラービーコンを例として、図1を説明する。
【0033】
モレキュラービーコンである蛍光標識プローブ102はオリゴヌクレオチドとして構成され、対象遺伝子を増幅させる増幅反応に用いられるプライマーペアの間にある配列(増幅産物)に相補的な配列を有する。また、モレキュラービーコンは、その両端に互いに相補的な配列部分を有し、一端には蛍光色素103が、他端には消光色素(クエンチャー)104が、それぞれ設けられている。増幅反応では、初期状態(遊離状態)において、図1のBのように、モレキュラービーコン102が単独で遊離して存在する。その時は、モレキュラービーコン102は、相補的な配列部分でステムループを形成し、蛍光色素103とクエンチャー104が近接しているため、蛍光は発しない。最初の変性工程で、検体溶液を加熱すると、図1のCのように自由度の高い構造をとるが、蛍光色素と消光色素が常時離れることはないので、蛍光が消光したままである。アニーリング工程で、温度を下げ、室温程度の温度になると、図1のAのように検体溶液内で増幅したDNA101にモレキュラービーコン102のループ部分がアニールする。これによって、蛍光色素103とクエンチャー104が常に離れるため、蛍光標識プローブ102は強い蛍光を発する。次の伸長工程において、モレキュラービーコン102が遊離し、再度図1のBのようになり、蛍光が消光する。次の変性工程では、再度図1のCのようになり、蛍光が消光したままである。増幅反応では、この工程が繰り返されるので、どこかの段階で、加温時または冷却時に蛍光強度を測定すればよい。増幅反応完了後に蛍光強度を測定する場合も、同様にして測定できる。増幅反応完了後に、蛍光強度を測定するためだけに、加温または冷却して、蛍光強度を測定してもよい。このときの温度変化に伴う蛍光強度変化をプロットすることで融解曲線を作成し、融解曲線から融解温度が算出できる。
【0034】
ここで用いるモレキュラービーコン102において、蛍光色素103およびクエンチャー104の組み合わせは、一般的にリアルタイムPCRに用いられている組み合わせであれば特に限定されない。たとえば、蛍光色素103の例としてFAM、VIC、ROX、Cy3、Cy5など、クエンチャー104の例としてTAMRA、BHQ1、BHQ2、BHQ3などが挙げられる。いずれも慣用的に使用されており、市販品として入手可能である。
【0035】
分析対象の遺伝子変異として、異なる配列を有する2種類を対象とする場合、モレキュラービーコン102の配列は、対象遺伝子変異のそれぞれに特異的に結合するものを用意し、異なる蛍光色素を結合させることで、一つの反応系で、2種類の対象遺伝子変異を区別して検出することができる。あるいは、2種類のモレキュラービーコンの融解温度が異なるようにモレキュラービーコンの配列を設計することで、同じ蛍光色素を結合しても、一つの反応系で2種類の対象遺伝子変異を区別して検出することができる。
【0036】
図2は、本発明の実施形態に係る、蛍光標識プローブを用いてトランス型・シス型の遺伝子変異の融解温度を測定する方法の一例を示す模式図である。図2では、遺伝子変異の例としてEGFR遺伝子のT790M変異とC797S変異を示している。T790MとC797Sは19塩基離れたところに生じる遺伝子変異であり、それぞれの変異に対して蛍光標識プローブ(例えばモレキュラービーコン)を用意する。蛍光標識プローブとしてモレキュラービーコンを使用する場合、モレキュラービーコンはT790MまたはC797Sの変異が中心近くになるような特異的な配列をループにもち、ループの配列が10~30塩基となるように設計する。図2のAのように、トランス型の遺伝子ではT790MとC797Sが別々のアレル上に存在するため、T790M変異を含むトランス型のDNA201にはT790Mに対応した蛍光標識プローブ(モレキュラービーコン)204だけが、C797S変異を含むトランス型のDNA202にはC797Sに対応した蛍光標識プローブ(モレキュラービーコン)205だけが結合する。図2のBのように、シス型のDNA203ではT790MとC797Sが同じアレル上に存在するため、T790M対応モレキュラービーコン204とC797S対応モレキュラービーコン205が同時に結合する。その結果、シス型のDNA203ではT790M対応モレキュラービーコン204とC797S対応モレキュラービーコン205の立体障害が生じ、トランス型のDNA201および202に比べてモレキュラービーコンの結合のしやすさが低下する。
【0037】
T790MとC797Sに対応した蛍光標識プローブ(モレキュラービーコン)の特異性が低く、それぞれの野生型(T790およびC797)にも弱く結合する場合は、トランス型のDNAにおいてもT790M対応蛍光標識プローブとC797S対応蛍光標識プローブが結合し、シス型と似た結合様式になる。その場合は、蛍光色素やクエンチャーの修飾がない野生型遺伝子に対応するプローブ(ブロッカー)を使用して、蛍光標識プローブの非特異的結合を阻害し、トランス型のDNAに立体障害が生じないようにする。具体的には、T790Mを有するDNAにはT790Mに対応した蛍光標識プローブとブロッカーが、C797Sを有するDNAにはC797Sに対応した蛍光標識プローブとブロッカーが、それぞれ立体障害なく結合することができる。野生型遺伝子に対応するプローブ(ブロッカー)は、野生型遺伝子の塩基配列に基づいて、当業者であれば適宜設計することができる。したがって、一実施形態において、増幅反応を行う工程において、溶液に野生型遺伝子に対応するプローブをさらに添加して増幅反応を行うことができる。
【0038】
図3は、蛍光標識プローブを用いてトランス型・シス型の変異を計測した場合の融解曲線の例を示す図である。トランス型の変異を計測した場合の融解曲線を図3のAに、融解曲線の微分曲線を図3のBに示す。図3Aに示すように、低温では蛍光標識プローブが対応するDNAに結合し高い蛍光強度を示し、温度上昇に伴い蛍光標識プローブが対応するDNAから解離するため蛍光強度が低下する。図3のAからその微分曲線を求めると図3のBのように60℃に高いピークを示し、そのピークの温度が融解温度(Tm)301となる。一方、シス型の変異を計測した場合の融解曲線の一例を図3のCに、その微分曲線を図3のDに示す。シス型の場合、それぞれの変異に対応した蛍光標識プローブ同士の立体障害が生じるため、蛍光標識プローブの結合量が低下して低温時の蛍光強度が低下し、片方の変異に対応する蛍光標識プローブが解離した後は立体障害が解消されトランス型と同じ蛍光強度変化となるため、図3のCのようになる。その微分曲線を求めると、図3のDのようにピークの高さが低くなり、ピークの温度(融解温度)301が高温側にシフトする。シス型の変異を計測した場合の融解曲線のもう一つの例を図3のEに、その微分曲線を図3のFに示す。図3のEの例では、55℃付近で片方の変異に対応する蛍光標識プローブが解離したことにより、立体障害が解消されて、もう片方の変異に対応する蛍光標識プローブの結合量が増加し、蛍光強度が55℃から60℃にかけて増加している。そのため図3のEの微分曲線である図3のFでは、55℃から60℃の間に負の大きなピーク302が生じている。また、ピークの融解温度301が高温側にシフトしている。
【0039】
トランス型・シス型の変異を判別するのに使用可能な融解曲線の特徴としては、次のようなものが挙げられる。融解温度、融解曲線の微分曲線におけるピーク形状の幅左右バランス、融解曲線の微分曲線における極大値の低温側の極小値の大きさ、融解曲線の微分曲線におけるピークの左右の傾きおよびそのバランス(二次微分により算出可能)、融解曲線の微分曲線における極大値の高さと極小値の高さ、およびその比率などがある。これらの特徴のいずれかまたは任意の組み合わせを使用して、複数の遺伝子変異について、それらが存在するか否か、存在する場合にはトランス型であるかシス型であるかを判定することができる。
【0040】
図4は、シス型の場合、トランス型の場合のそれぞれの遺伝子変異に対する温度を格納した第1のデータベースの例を示す図である。図3で説明したように、シス型とトランス型では融解温度が変化する。そのため、T790MとC797Sのそれぞれに対する融解温度がシス型とトランス型で何℃になるのかコントロールのDNAを用いてあらかじめ測定しておき、図4のようにデータベース400に格納しておく。遺伝子変異の情報が不明な生体試料を計測し、その融解温度を計測することで、データベース400の融解温度と照らし合わせ、生体試料中の遺伝子変異がシス型なのか、トランス型なのか判定することができる。もし、トランス型のT790Mの融解温度が観察され、トランス型・シス型のC797Sのどちらもが観察されなかった場合は、T790Mのみが存在し、C797Sは存在しないと判定することもできる。したがって、一実施形態では、複数の遺伝子変異のシス型およびトランス型のそれぞれに対応する融解温度情報を格納した第1のデータベースを用いて、被検生体試料に含まれるDNAについての融解温度と比較し、複数の遺伝子変異がシス型であるのかまたはトランス型であるのかを判定することができる。この場合、例えば、第1のデータベースを用いて、被検生体試料に含まれるDNAについて、遺伝子変異のコピー数、シス型の遺伝子変異のコピー数、およびトランス型の遺伝子変異のコピー数をカウントする。
【0041】
図4にはデータベース400に格納する遺伝子変異の例としてT790MとC797Sを用いたが、遺伝子変異はこれらに限定されず、また2種類にも限定されず3種類以上あってもよい。
【0042】
また、データベースに格納する情報の例として、図3に示したように融解曲線とその微分曲線の形状の特徴量でもよく、例えば図3のEの融解曲線のようなシグモイド曲線に加わったくぼみや、図3のFの融解曲線の微分曲線のような負のピークの大きさが挙げられる。したがって、一実施形態では、複数の遺伝子変異のシス型およびトランス型のそれぞれに対応する融解曲線の特徴を格納した第2のデータベースを用いて、被検生体試料に含まれるDNAについての融解曲線と比較し、複数の遺伝子変異がシス型であるのかまたはトランス型であるのかを判定することができる。そのような第2のデータベースに格納する融解曲線の特徴としては、限定されるものではないが、融解温度、融解曲線の微分曲線におけるピーク形状の幅の左右バランス、融解曲線の微分曲線における極大値の低温側の極小値の大きさ、融解曲線の微分曲線におけるピークの左右の傾きおよびそのバランス、融解曲線の微分曲線における極大値の高さと極小値の高さ、およびその比率からなる群より選択される少なくとも1つが挙げられる。この場合、例えば、第2のデータベースを用いて、被検生体試料に含まれるDNAについて、遺伝子変異のコピー数、シス型の遺伝子変異のコピー数、およびトランス型の遺伝子変異のコピー数をカウントする。
【0043】
図5は、融解曲線分析を用いて、生体試料中の遺伝子変異がシス型か、トランス型か判別する遺伝子分析方法の一実施形態を示すフローチャートである。まず、近接した複数種の変異それぞれに対応したプローブを設計する(S501)。プローブ、生体試料、酵素、プライマーを混合し、増幅反応(PCR)を行う(S502)。融解曲線分析によりそれぞれの変異に対応したプローブと増幅したDNAとの融解曲線を得る(S503)。融解温度や融解曲線の特徴をデータベースの値と照らし合わせ、近接した変異が同じアレルか、異なるアレルに存在するか判定する(S504)。
【0044】
PCRによる増幅工程は、当技術分野で公知の増幅反応であれば任意の増幅反応により行うことができる。例えば、増幅反応として、定量可能な増幅反応を利用することが好ましく、例えばリアルタイムPCR、デジタルPCRなどを使用することができる。好ましくは、増幅工程は非対称核酸増幅反応により行われる。この場合、フォワードプライマーおよびリバースプライマーのいずれかの添加量を増加させて増幅反応を行う。非対称核酸増幅反応については、例えばAnal.Chem.,92,11705-11713,2020(非特許文献2)の記載を参照されたい。
【0045】
増幅産物とプローブとの結合は、温度変化を伴って測定される。結合は、融解温度によって変化することから、この温度変化に伴う結合の変化から、増幅産物とプローブとの二重鎖の融解温度を算出することができる。
【0046】
増幅産物とプローブとの結合は、温度変化のサイクルごとに測定され、そのサイクルの数と結合の変化の関係から、標的遺伝子変異を検出することができる。変異ごとにプローブの蛍光色素が異なる場合は、蛍光フィルターを変えながら増幅された産物とプローブとの結合が、温度変化のサイクルごとに測定され、そのサイクルの数と結合の変化の関係から、被検生体試料のDNAにおける複数の標的遺伝子変異の初期濃度の比を算出することができる。
【0047】
増幅産物とプローブとの結合は、温度変化のサイクルごとに測定され、そのサイクルの数と結合の変化の関係を、既知濃度の標的遺伝子変異を含む試料の結合の変化と比較し、被検生体試料のDNAにおける濃度未知の標的遺伝子変異の初期濃度を算出することができる。
【0048】
例えば、T790M対応プローブを蛍光色素FAMで修飾し、C797S対応プローブを蛍光色素Cy5で修飾する。それぞれのプローブと対象遺伝子変異のDNAを含む生体試料、酵素、プライマーを混合し、リアルタイムPCRを行う。リアルタイムPCRにおいては、温度変化のサイクルごとに蛍光フィルターを変えながらプローブと増幅産物の結合による蛍光強度を計測する。そのサイクルの数と蛍光強度の関係を、既知濃度の標的遺伝子変異を含む試料の蛍光強度変化と比較し、生体試料中のT790Mの初期濃度とC797Sの初期濃度を算出できる。リアルタイムPCR後、融解曲線分析を行い、FAMとCy5それぞれの融解曲線とその微分曲線、微分曲線から算出された融解温度を得る。あらかじめコントロールのDNAを用いて得られた融解温度を格納したデータベースの値と照らし合わせ、T790MとC797Sがシス型・トランス型のどちらの位置関係なのか判定する。融解温度がシス型・トランス型の中間の値だった場合や、融解曲線の形状がシス型・トランス型の中間の形状だった場合は、シス型とトランス型が混在していると判定する。
【0049】
図6は、融解曲線分析とデジタルPCRを組み合わせて遺伝子変異のコピー数および遺伝子変異のシス型・トランス型の比率を定量する遺伝子分析方法の一実施形態を示すフローチャートである。まず、近接した複数の変異それぞれに対応したプローブを設計する(S601)。プローブ、生体試料、酵素、プライマーを混合し、ウェルに分割後PCRする(S602)。融解曲線分析によりそれぞれの変異に対応したプローブと増幅した産物との融解曲線を得る(S603)。ウェルごとに、融解温度や融解曲線の特徴をデータベースの値と照らし合わせ、近接した変異が同じアレルか、異なるアレルに存在するか、片方の変異のみか、両方の変異とも入っていないか判定する(S604)。最後に、同じアレルに存在する変異のDNAを含むウェル、異なるアレルに存在する変異のDNAを含むウェル、片方の変異のみのDNAを含むウェル、両方の変異とも入っていないウェルをそれぞれカウントし、ポアソン補正によりそれぞれの初期濃度を算出する(S605)。
【0050】
例えば、T790M対応プローブを蛍光色素FAMで修飾し、C797S対応プローブを蛍光色素Cy5で修飾する。それぞれのプローブと対象遺伝子の核酸を含む生体試料、酵素、プライマーを混合し、ウェルに分割する。PCR後、融解曲線分析を行い、FAMとCy5それぞれの融解曲線とその微分曲線、微分曲線から算出された融解温度を得る。ウェルごとに、あらかじめコントロールの核酸を用いて得られた融解温度を格納したデータベースの値と照らし合わせ、T790MとC797Sがシス型・トランス型のどちらの位置関係なのか判定する。同じウェルにトランス型のT790MとC797Sの核酸が一つずつ入っても、それに対応した融解温度が得られるため、シス型として誤判定することはない。シス型の核酸を含むウェル、トランス型のT790MとC797Sの核酸を一つずつ含むウェル、T790Mの核酸を含むウェル、C797Sの核酸を含むウェル、両方の変異とも入っていないウェルをそれぞれカウントし、ポアソン補正によりそれぞれの初期濃度を算出する。
【0051】
(2)複数の遺伝子変異に関連する形質の評価方法
上述のように、本発明の方法は、複数の遺伝子変異が存在するか否か、存在する場合にはシス型およびトランス型のいずれであるかを判定することができるため、その遺伝子変異に関連する形質、例えば薬剤応答性などの評価に利用することができる。
【0052】
したがって、一態様において、本発明は、複数の遺伝子変異に関連する形質を評価するために対象の被検生体試料について遺伝子分析を行う方法を提供し、この方法は、
対象の被検生体試料を用いて前記遺伝子分析方法を行い、対象の被検生体試料において、複数の遺伝子変異が同じアレル上にあるシス型であるのかまたは異なるアレル上にあるトランス型であるのかを判定する工程、
対象が、複数の遺伝子変異に関連する形質を有するか否かを評価する工程
を含む。
【0053】
複数の遺伝子変異に関連する形質としては、例えば疾患もしくは障害の罹患可能性、または薬剤応答性が挙げられる。例えば、EGFR遺伝子の変異T790MとC797Sのシス型とトランス型とで肺がん患者の薬剤応答性が異なり、遺伝子変異を有しない患者にはすべてのEGFR-TKIが有効であり、変異T790Mと変異C797Sがトランス型で存在する場合には、変異C797Sを有するタンパク質にはEGFR-TKIのゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブおよびダコミチニブが有効であり、変異T790Mを有するタンパク質にはEGFR-TKIのオシメルチニブが有効である一方、変異T790MとC797Sがシス型で存在する場合には、上記薬剤は有効ではない。
【0054】
さらに、例えば上記形質が薬剤応答性の場合には、対象において複数の遺伝子変異を判定した後、適当な薬剤を選択し、対象に投与することができる。したがって、本発明は、別の態様において、対象における疾患を処置または予防する方法であって、対象由来の生体試料を用いて、薬剤応答性に関連する複数の遺伝子変異を判定する工程、前記対象の薬剤応答性を評価する工程、および前記対象に適当な薬剤を投与する工程を含む方法を提供する。EGFR遺伝子の変異T790MとC797Sを例として具体的に説明する。肺がん患者由来の生体試料、例えば血液を準備する。上述のように生体試料中のDNAについて、EGFR遺伝子の変異T790MとC797Sの有無、もし遺伝子変異が存在する場合にはシス型またはトランス型であるかを判定する。対象の肺がん患者が遺伝子変異を有しない場合は、すべてのEGFR-TKIから選択される少なくとも1種の薬剤を投与する。変異T790Mおよび変異C797Sがトランス型で存在する場合には、対象に、EGFR-TKIのゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブおよびダコミチニブから選択される少なくとも1種の薬剤とオシメルチニブを投与する。一方、対象の肺癌患者が変異T790MとC797Sをシス型で有する場合には、EGFR-TKI薬剤の薬効が低く、上記EGFR-TKI薬剤以外の治療方法または治療薬(例えば、ALKチロシンキナーゼ阻害薬であるブリガチニブなど)を選択する必要がある。このようにして、対象に最適な効果を有する薬剤を投与し、処置することができ、不要な薬剤投与を回避することが可能となる。
【0055】
(3)遺伝子分析キット
上述した本発明の方法は、少なくとも複数の遺伝子変異に対応した複数の融解曲線分析用の蛍光標識プローブを含むキットを使用することによって、より容易かつ簡便に行うことができる。
【0056】
すなわち、一態様において、本発明は、遺伝子分析キットを提供し、このキットは、
複数の遺伝子変異を含む領域を増幅するための、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを含むプライマー対と、
フォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いて増幅される産物に結合する、複数の遺伝子変異にそれぞれ対応した複数の融解曲線分析用プローブと
を含み、
前記プローブは、複数の遺伝子変異が同じアレル上に存在するときと異なるアレル上に存在するときに、異なる融解曲線の特徴または融解温度を有するものである。
【0057】
フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、前項に記載の通りである。一実施形態において、本発明のキットに含まれるフォワードプライマーの濃度とリバースプライマーの濃度は異なり、いずれか一方の濃度が高くなるようにする(非対称核酸増幅反応のため)。望ましくは、融解曲線分析用プローブの相補鎖を合成するプライマーの濃度が高い方がよい。
【0058】
本発明に係るキットは、増幅反応を実施するにあたって必要な他の構成要素、例えばDNAポリメラーゼ、基質などをさらに含んでもよい。また、複数の遺伝子変異の判定を行うための手順およびプロトコールを記載した説明書を含んでもよい。
【0059】
分析対象の複数の遺伝子変異がそれぞれ複数セットある場合は、検出対象の遺伝子変異に合わせて複数のプライマーや複数のプローブを準備し、同時に加えて、複数の分析対象遺伝子変異のDNAを含有する生体試料に対して増幅反応(例えば非対称核酸増幅反応)を行ってもよい。複数のプローブは、それぞれの分析対象遺伝子変異のDNAとの融解温度を変えたり、蛍光色素の種類を変えて設計することで、増幅反応後、溶液の蛍光の色と融解温度から溶液に含まれていた分析対象の遺伝子変異の種類を判別することができる。
【0060】
本発明の遺伝子分析キットは、複数の遺伝子変異の有無を判定したり、それらの遺伝子変異のアレル上の位置関係(シス型またはトランス型)を判定するために有用である。
【0061】
また、本発明の遺伝子分析キットは、複数の遺伝子変異に関連する形質(例えば、疾患もしくは障害の罹患可能性、薬剤応答性など)を評価するために使用することができる。
【実施例0062】
[実施例1]
本実施例では、リアルタイムPCRにおいて、EGFR遺伝子のT790M変異のみ、C797S変異のみ、両変異のシス型およびトランス型の遺伝子を増幅し融解曲線分析により判別する例を示す。
【0063】
EGFR遺伝子のT790M変異のみ、C797S変異のみ、両変異のシス型、トランス型のゲノムDNA(最終濃度133分子/μL)を用意し、PCRに必要となるフォワードプライマー(最終濃度0.25μM)、リバースプライマー(最終濃度2.0μM)、T790M変異に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、C797S変異に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、T790Mに対応する野生型に対するブロッカー(最終濃度0.5μM)、C797Sに対応する野生型に対するブロッカー(最終濃度0.5μM)、および1xマスターミックス(DNAポリメラーゼ,dNTPを含む)を加え、PCR反応液を調製した。このとき、蛍光標識プローブの相補DNA鎖が過剰に増幅するようにプライマーペアの濃度は非対称になるように添加した(リバースプライマーの添加濃度を高く設定した)。プライマー、プローブおよびブロッカーの配列は以下のとおりである。
【0064】
フォワードプライマー:5'‐CCTCACCTCCACCGTGCA‐3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'‐TCTTTGTGTTCCCGGACATAGTC‐3'(配列番号2)
T790M変異に対応した蛍光標識プローブ:5'‐TCATCATGCAGCTCAT‐3'(配列番号3)
C797S変異に対応した蛍光標識プローブ:5'‐CTTCGGCAGCCTCCTG‐3'(配列番号4)
T790Mに対応する野生型に対するブロッカー:5'‐GCTCATCACGCAGCT‐3'(配列番号5)(下線部は特殊塩基LNAを表す)
C797Sに対応する野生型に対するブロッカー:5'‐CTTCGGCTGCCTCCT‐3'(配列番号6)(下線部は特殊塩基LNAを表す)
【0065】
フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、ヒトEGFR遺伝子のDNA配列の2348~2360番および2398~2420番の配列に対応している。なお、蛍光標識プローブはいずれも、EasyBeacon(PentaBase社)を使用し、これは両端近くに疎水性特殊塩基を有し、遊離の蛍光標識プローブではそれらが分子内で疎水性結合を形成するように設計されている。また、T790M変異に対応した蛍光標識プローブは5’末端に蛍光色素としてFAM、3’末端にクエンチャーとしてBHQ-1が結合しており、C797S変異に対応した蛍光標識プローブは5’末端に蛍光色素としてCy5、3’末端にクエンチャーとしてBHQ-2が結合している。さらに、野生型に対するブロッカーは配列中にTm値を上昇させる効果が知られている特殊塩基LNA(Locked Nucleic Acid)を含み、3’末端に伸長反応を阻害する特殊塩基(ターミネーター)が結合している。
【0066】
PCRの反応は、95℃、20秒処理後、(95℃,1秒→60℃,20秒)を60サイクル行った。反応後、50℃から95℃に加熱しながらリアルタイムPCR装置により蛍光強度変化を観察し、融解曲線の測定および解析を行った。
【0067】
図7のAは、T790M変異に対応した蛍光標識プローブに結合している蛍光色素FAMを観察するためのFAM用フィルターで測定した融解曲線を示す。また、図7のBは、図7のAの融解曲線の微分曲線を示す。図7のBにおいて、各ゲノムDNAの融解曲線の微分曲線のピークトップである融解温度を比較すると、T790M変異のみのゲノムDNAとトランス型(Trans)のゲノムDNAに比べてシス型(Cis)のゲノムDNAは融解温度が2~3℃高くなっていることが分かる(矢印701で示す融解温度のシフト)。
【0068】
図7のCは、C797S変異に対応した蛍光標識プローブに結合している蛍光色素Cy5を観察するためのCy5用フィルターで測定した融解曲線を示す。各ゲノムDNAの融解曲線の形状を比較すると、C797S変異のみのゲノムDNAとトランス型(Trans)のゲノムDNAはシグモイド曲線の形状であるのに対し、シス型(Cis)のゲノムDNAは50℃から65℃にかけて蛍光強度が減少して、また蛍光強度が増加するくぼみが観察された。この702で示す融解曲線のくぼみ形状は次の説明のような反応によるものと考えられる。図7のBを見ると、T790M変異に対応した蛍光標識プローブがシス型のゲノムDNAに結合する融解温度が61℃であり、図7のAを見ると、55℃以上の高温領域で蛍光強度が低下することからプローブの結合量が減少していることが分かる。したがって、55℃以上になるとT790M変異に対応した蛍光標識プローブのシス型のゲノムDNAへの結合が減少する分、C797S変異に対応した蛍光標識プローブのシス型のゲノムDNAへの結合が容易になり、55℃以上において蛍光強度が増加したと考えられる。
【0069】
図7のDは、図7Cに示したC797S変異に対応した蛍光標識プローブに結合している蛍光色素Cy5を観察するためのCy5用フィルターで測定した融解曲線の、微分曲線である。図7のBのT790Mの結果と同様に、C797S変異の場合においても、C797S変異のみのゲノムDNAとトランス型(Trans)のゲノムDNAに比べてシス型(Cis)のゲノムDNAは融解温度が2℃高くなっていることが分かる。さらに、シス型のゲノムDNAは、図7のCの50℃から65℃の間のくぼみに対応して、図7のDでは60℃付近に大きな負のピークをもつ(矢印703で示す、融解曲線の微分曲線の融解温度より低温側の負のピーク)。シス型のゲノムDNAと、トランス型またはC797S変異のみのゲノムDNAが混在した試料を測定した場合は、融解温度のシフトする割合や融解曲線の微分曲線の60℃付近に大きな負のピークの深さが、シス型のゲノムDNA単独の試料を測定した場合より小さくなる。シス型のゲノムDNA単独の試料を測定した場合と比べてどのくらいシフトしているかを評価することで、シス型のゲノムDNAと、トランス型またはC797S変異のみのゲノムDNAの混合比率を見積もることができる。
【0070】
このように、近接した遺伝子変異においてそれぞれの変異に対応した蛍光標識プローブで融解曲線分析を行うことで、その融解曲線の形状や融解温度の値から、それらの遺伝子変異が同じアレル上にある(シス型)のか、異なるアレル上にある(トランス型)のか、一方の変異のみが存在するのか、変異が何も存在しないのかを判定することができる。
【0071】
[実施例2]
本実施例では、デジタルPCRにおいて、EGFR遺伝子のT790M変異のみ、C797S変異のみ、両変異のシス型およびトランス型の遺伝子を増幅し融解曲線分析により判別する例を示す。
【0072】
EGFR遺伝子のT790M変異のみ、C797S変異のみ、両変異のシス型、トランス型のゲノムDNA(最終濃度133分子/μL)を用意し、PCRに必要となるフォワードプライマー(最終濃度0.25μM)、リバースプライマー(最終濃度2.0μM)、T790M変異に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、C797S変異に対応した蛍光標識プローブ(最終濃度0.5μM)、T790Mに対応する野生型に対するブロッカー(最終濃度0.5μM)、C797Sに対応する野生型に対するブロッカー(最終濃度0.5μM)、および1xマスターミックス(DNAポリメラーゼ,dNTPを含む)を加え、PCR反応液を調製した。このとき、蛍光標識プローブの相補DNA鎖が過剰に増幅するようにプライマーペアの濃度は非対称になるように添加した(リバースプライマーの添加濃度を高く設定した)。プライマー、プローブおよびブロッカーは実施例1で使用したものと同じである。
【0073】
その後、15μLのPCR反応液を2万ウェルに分割し、PCRによりDNAを増幅した。PCRの反応は、96℃、10分処理後、(60℃,2分→98℃,30秒)を59サイクル行い、最後に60℃、2分処理をした。反応後、ウェルが設けられたチップを温調ステージ上で50℃から85℃に加熱しながら、融解曲線分析対応デジタルPCR装置により各ウェルの蛍光強度変化を観察し、融解曲線の測定および解析を行った。
【0074】
図8のAは、トランス型のゲノムDNAをデジタルPCRし、T790M変異に対応した蛍光標識プローブに結合している蛍光色素FAMを観察するためのFAM用フィルターで測定した融解曲線を示す。図8のBは、シス型のゲノムDNAをデジタルPCRし、FAM用フィルターで測定した融解曲線を示す。図8のCは、図8のAの融解曲線から算出された融解温度と蛍光強度の関係を示すグラフである。図8のDは、図8のBの融解曲線から算出された融解温度と蛍光強度の関係を示すグラフである。図8のCおよびDの比較により、トランス型のゲノムDNA中のT790M変異が入ったウェルの融解温度に比べて、シス型のゲノムDNAが入ったウェルの融解温度が高くなっていることが分かる。
【0075】
図8のEは、トランス型のゲノムDNAをデジタルPCRし、C797S変異に対応した蛍光標識プローブに結合している蛍光色素Cy5を観察するためのCy5用フィルターで測定した融解曲線を示す。図8のFは、シス型のゲノムDNAをデジタルPCRし、FAM用フィルターで測定した融解曲線を示す。図8のFに示されるように、シス型のゲノムDNAが入ったウェルでは融解曲線のくぼみ801が観察される。図8のGは、図8のEの融解曲線から算出された融解温度と蛍光強度の関係を示すグラフである。図8のHは、図8のFの融解曲線から算出された融解温度と蛍光強度の関係を示すグラフである。図8のGおよびHの比較により、トランス型のゲノムDNA中のC797S変異が入ったウェルの融解温度に比べて、シス型のゲノムDNAが入ったウェルの融解温度が高くなっていることが分かる。
【0076】
このように、近接した遺伝子変異においてそれぞれの変異に対応した蛍光標識プローブを用いてデジタルPCRし、融解曲線分析を行うことで、その融解曲線の形状や融解温度の値から、それらの遺伝子変異が同じアレル上にある(シス型)のか、異なるアレル上にある(トランス型)のか、一方の変異のみが存在するのか、変異が何も存在しないのかをウェルごとに判定することができる。その結果、ウェルごとの判定結果をもって、同じアレル上にある(シス型)遺伝子、異なるアレル上にある(トランス型)遺伝子、一方の変異のみが存在する遺伝子をそれぞれカウントし、定量することができる。
【符号の説明】
【0077】
101…DNA
102…蛍光標識プローブ
103…蛍光色素
104…クエンチャー
201…T790M変異を含むトランス型のDNA
202…C797S変異を含むトランス型のDNA
203…T790M変異とC797S変異を含むシス型のDNA
204…T790M変異に対応した蛍光標識プローブ
205…C797S変異に対応した蛍光標識プローブ
301…融解温度
302…融解温度より低温側の負のピーク
400…データベース
701…融解温度のシフト
702…融解曲線のくぼみ
703…融解曲線の微分曲線の融解温度より低温側の負のピーク
801…融解曲線のくぼみ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024179380000001.xml