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特開2024-179382ガスの吸収特性測定装置、温度計測装置、濃度比計測装置及びガスの吸収特性測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179382
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ガスの吸収特性測定装置、温度計測装置、濃度比計測装置及びガスの吸収特性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20241219BHJP
   G01N 21/39 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N21/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098191
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 明生
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 洸治
(72)【発明者】
【氏名】竹田 英哲
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC09
2G059EE01
2G059EE11
2G059GG02
2G059GG03
2G059GG09
2G059HH01
2G059JJ22
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】波長が互いに異なる2つのレーザ光の吸光度の比を精度良く取得可能なガスの吸収特性測定装置を提供する。
【解決手段】ガスの吸収特性測定装置は、第1波長を有する第1レーザ光を発振する第1レーザダイオード2と、第1波長とは異なる第2波長を有する第2レーザ光を発振する第2レーザダイオード4と、既定の変調周波数を有する第1変調信号で第1レーザ光を変調する第1変調部6と、変調周波数を有するとともに第1変調信号と位相差を有する第2変調信号で第2レーザ光を変調する第2変調部8と、変調された第1レーザ光と変調された第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得る合波器10と、測定対象のガス12を透過した合波レーザ光を受け取って検出信号に変換する検出器14と、検出信号から、第1波長での吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び第2波長での吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得するための信号取得部16と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長を有する第1レーザ光を発振するための第1レーザダイオードと、
前記第1波長とは異なる第2波長を有する第2レーザ光を発振するための第2レーザダイオードと、
前記第1レーザダイオードに既定の変調周波数を有する第1変調信号を付与して前記第1レーザ光を変調するように構成された第1変調部と、
前記第2レーザダイオードに前記変調周波数を有するとともに前記第1変調信号と位相差を有する第2変調信号を付与して前記第2レーザ光を変調するように構成された第2変調部と、
前記第1変調信号を用いて変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号を用いて変調された前記第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得るように構成された合波器と、
前記合波器から測定対象のガスに照射されて前記ガスを透過した前記合波レーザ光を受け取って検出信号に変換するように構成された検出器と、
前記検出信号から、前記合波レーザ光の照射位置での前記測定対象のガスにおける前記第1波長での吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び前記第2波長での吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得するための信号取得部と、
を備え、
前記信号取得部は、
前記変調周波数の2n倍(ただしnは整数)の周波数である参照周波数を有する第1参照信号を用いて前記検出信号を復調するための第1復調部と、
前記参照周波数を有するとともに前記第1参照信号と位相差を有する第2参照信号を用いて前記検出信号を復調するための第2復調部と、
前記第1参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第1成分信号を取り出すための第1抽出部と、
前記第2参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第2成分信号を取り出すための第2抽出部と、
を含む
ガスの吸収特性測定装置。
【請求項2】
前記第1参照信号と前記第2参照信号との位相差Δθrefは90度である
請求項1に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項3】
前記検出信号に含まれる前記第1レーザ光由来の信号成分における前記参照周波数の成分と、前記検出信号に含まれる前記第2レーザ光由来の信号成分における前記参照周波数の成分との位相差をΔθdem、及び、前記第1変調信号で変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号で変調された前記第2レーザ光との位相差Δθmodは、Δθmod=Δθdem/2nを満たす
請求項1又は2に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項4】
前記第1復調部は、前記検出信号と前記第1参照信号との積を出力するように構成された第1乗算器を含み、
前記第2復調部は、前記検出信号と前記第2参照信号との積を出力するように構成された第2乗算器を含む
請求項1又は2に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項5】
前記第1抽出部又は前記第2抽出部の少なくとも一方は、カットオフ周波数が前記変調周波数の10-1倍以下のローパスフィルタを含む
請求項1又は2に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項6】
前記検出信号における前記参照周波数の成分の前記位相差Δθdemは、90度±10度である
請求項3に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項7】
前記検出信号における前記参照周波数の成分の前記位相差Δθdemは、0度より大きく90度より小さい、又は、90度より大きく180度より小さい
請求項3に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項8】
前記第1レーザダイオードは、前記測定対象のガスに含まれる物質の第1吸収ピークの波長である前記第1波長を有する前記第1レーザ光を発振するように構成され、
前記第2レーザダイオードは、前記物質の第2吸収ピークの波長である前記第2波長を有する前記第2レーザ光を発振するように構成された
請求項1又は2に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項9】
前記第1レーザダイオードは、前記測定対象のガスに含まれる第1物質の吸収ピークの波長である前記第1波長を有する前記第1レーザ光を発振するように構成され、
前記第2レーザダイオードは、前記測定対象のガスに含まれる第2物質の吸収ピークの波長である前記第2波長を有する前記第2レーザ光を発振するように構成された
請求項1又は2に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項10】
前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガスの状態を示す値を算出するための信号分析部を備える
請求項1又は2に記載のガスの吸収特性測定装置。
【請求項11】
請求項10に記載のガスの吸収特性測定装置を備え、
前記信号分析部は、前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガスの温度を決定するように構成された温度決定部を含む
温度計測装置。
【請求項12】
請求項10に記載のガスの吸収特性測定装置を備え、
前記信号分析部は、前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガス中の第1物質と第2物質の濃度比を決定するように構成された濃度比決定部を含む
濃度比計測装置。
【請求項13】
第1レーザダイオードを用いて第1波長を有する第1レーザ光を発振するステップと、
第2レーザダイオードを用いて前記第1波長とは異なる第2波長を有する第2レーザ光を発振するステップと、
前記第1レーザダイオードに既定の変調周波数を有する第1変調信号を付与して前記第1レーザ光を変調するステップと、
前記第2レーザダイオードに前記変調周波数を有するとともに前記第1変調信号と位相差を有する第2変調信号を付与して前記第2レーザ光を変調するステップと、
前記第1変調信号を用いて変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号を用いて変調された前記第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得るステップと、
測定対象のガスに照射されて前記ガスを透過した前記合波レーザ光を受け取って検出信号に変換するステップと、
前記検出信号から、前記合波レーザ光の照射位置での前記測定対象のガスにおける前記第1波長での吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び前記第2波長での吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得する信号取得ステップと、
を備え、
前記信号取得ステップは、
前記変調周波数の2n倍(ただしnは整数)の周波数である参照周波数を有する第1参照信号を用いて前記検出信号を復調するステップと、
前記参照周波数を有するとともに前記第1参照信号と位相差を有する第2参照信号を用いて前記検出信号を復調するステップと、
前記第1参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第1成分信号を取り出すステップと、
前記第2参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第2成分信号を取り出すステップと、
を含む
ガスの吸収特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスの吸収特性測定装置、温度計測装置、濃度比計測装置及びガスの吸収特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いて非接触でガスの状態を示す値(例えばガスの温度やガス中成分の濃度等)を計測することが知られている。
【0003】
特許文献1には、レーザビームを用いてガスタービン内の高温ガスの温度を測定するための装置が記載されている。この装置では、波長可変ダイオードレーザを用いて、互いに異なる波長を有する2つのレーザビームを燃焼ガスに照射し、燃焼ガスを通過した2つのレーザビームを検知する。そして、検知されたレーザビームの強度を示す信号から、各波長の各々における燃焼ガスによる吸光度を取得し、これらの吸光度の比に基づいて、燃焼ガスの温度を決定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-057623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の燃焼ガス温度測定装置では、波長可変ダイオードレーザを用いて波長が互いに異なる複数のレーザビームを切り替えて照射及び検出するようになっているため、複数のレーザビームの照射及び検出の時刻がずれている。したがって、各波長の各々における燃焼ガスによる吸光度を同時刻に検出することができないと考えられる。
【0006】
測定対象のガスの状態が時間に応じて変化する状況下では、上述のように各波長の各々における燃焼ガスによる吸光度を同時刻に検出できない場合、これらの吸光度の比、及び、該吸光度の比から決定される温度の正確性は高くないと考えられる。特に、ガスタービンの燃焼ガス等、高速で流れるガスにおいては、測定対象の位置におけるガスの状態(温度等)は高速で変化し得るため、上述の問題は顕著になると考えられる。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、波長が互いに異なる2つのレーザ光の吸光度の比を精度良く取得可能なガスの吸収特性測定装置、温度計測装置、濃度比計測装置及びガスの吸収特性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係るガスの吸収特性測定装置は、
第1波長を有する第1レーザ光を発振するための第1レーザダイオードと、
前記第1波長とは異なる第2波長を有する第2レーザ光を発振するための第2レーザダイオードと、
前記第1レーザダイオードに既定の変調周波数を有する第1変調信号を付与して前記第1レーザ光を変調するように構成された第1変調部と、
前記第2レーザダイオードに前記変調周波数を有するとともに前記第1変調信号と位相差を有する第2変調信号を付与して前記第2レーザ光を変調するように構成された第2変調部と、
前記第1変調信号を用いて変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号を用いて変調された前記第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得るように構成された合波器と、
前記合波器から測定対象のガスに照射されて前記ガスを透過した前記合波レーザ光を受け取って検出信号に変換するように構成された検出器と、
前記検出信号から、前記合波レーザ光の照射位置での前記測定対象のガスにおける前記第1波長での吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び前記第2波長での吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得するための信号取得部と、
を備え、
前記信号取得部は、
前記変調周波数の2n倍(ただしnは整数)の周波数である参照周波数を有する第1参照信号を用いて前記検出信号を復調するための第1復調部と、
前記参照周波数を有するとともに前記第1参照信号と位相差を有する第2参照信号を用いて前記検出信号を復調するための第2復調部と、
前記第1参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第1成分信号を取り出すための第1抽出部と、
前記第2参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第2成分信号を取り出すための第2抽出部と、
を含む。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る温度計測装置は、
上述のガスの吸収特性測定装置を備え、
前記信号分析部は、前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガスの温度を決定するように構成された温度決定部を含む。
【0010】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る濃度比計測装置は、
上述のガスの吸収特性測定装置を備え、
前記信号分析部は、前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガス中の前記第1物質と前記第2物質の濃度比を決定するように構成された濃度比決定部を含む。
【0011】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係るガスの吸収特性測定方法は、
第1レーザダイオードを用いて第1波長を有する第1レーザ光を発振するステップと、
第2レーザダイオードを用いて前記第1波長とは異なる第2波長を有する第2レーザ光を発振するステップと、
前記第1レーザダイオードに既定の変調周波数を有する第1変調信号を付与して前記第1レーザ光を変調するステップと、
前記第2レーザダイオードに前記変調周波数を有するとともに前記第1変調信号と位相差を有する第2変調信号を付与して前記第2レーザ光を変調するステップと、
前記第1変調信号を用いて変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号を用いて変調された前記第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得るステップと、
前記合波器から測定対象のガスに照射されて前記ガスを透過した前記合波レーザ光を受け取って検出信号に変換するステップと、
前記検出信号から、前記合波レーザ光の照射位置での前記測定対象のガスにおける前記第1波長での吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び前記第2波長での吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得する信号取得ステップと、
を備え、
前記信号取得ステップは、
前記変調周波数の2n倍(ただしnは整数)の周波数である参照周波数を有する第1参照信号を用いて前記検出信号を復調するステップと、
前記参照周波数を有するとともに前記第1参照信号と位相差を有する第2参照信号を用いて前記検出信号を復調するステップと、
前記第1参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第1成分信号を取り出すステップと、
前記第2参照信号を用いて復調された信号からDC成分として前記第2成分信号を取り出すステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、波長が互いに異なる2つのレーザ光の吸光度の比を精度良く取得可能なガスの吸収特性測定装置、温度計測装置、濃度比計測装置及びガスの吸収特性測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係るガスの吸収特性測定装置の概略構成図である。
図2】一実施形態に係るガスの吸収特性測定装置の概略構成図である。
図3】測定対象のガスの吸収線と規定の変調周波数で変調された第1レーザ光の波形を模式的に示すグラフである。
図4】第1/第2変調信号でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光の信号強度の波形を示すグラフである。
図5】第1参照信号及び第2参照信号の信号強度の波形を示すグラフである。
図6】第1成分信号及び第2成分信号をDC成分として取り出すことを説明するための図である。
図7】第1成分信号及び第2成分信号をDC成分として取り出すことを説明するための図である。
図8】第1成分信号及び第2成分信号をDC成分として取り出すことを説明するための図である。
図9】水の吸収ピークを示す2つの波長における吸光度の比と、温度との相関関係を示すグラフである。
図10】1334nm(第1波長λa)での吸光度、1388nm(第2波長λb)での吸光度、及び、ガス温度(火炎温度)の時間変化(計測結果)を示すグラフである。
図11図10の拡大図であり、バーナ点火時を示す拡大図である。
図12図10の拡大図であり、バーナ消火時を示す拡大図を示す。
図13】ガス中の物質の濃度の高低による吸光度の違いを示すグラフである。
図14】ガス中の物質の異なる濃度のそれぞれについて、吸光度と温度の関係を示すグラフである。
図15】2つの吸光度の出力の相互干渉を模式的に示す図である。
図16】2つの吸光度の出力の相互干渉を模式的に示す図である。
図17】2つの吸光度と温度との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
(ガスの吸収特性測定装置)
図1及び図2は、一実施形態に係るガスの吸収特性測定装置の概略構成図である。図1に示すように、ガスの吸収特性測定装置1は、第1レーザダイオード2と、第2レーザダイオード4と、第1変調部6と、第2変調部8と、合波器10と、検出器14と、信号取得部16と、復調信号生成部18と、を備えている。
【0016】
第1レーザダイオード2は、第1波長λaを有する第1レーザ光2を発振するように構成される。第1波長λaは、測定対象のガス12(図1参照)における特定の吸収ピークを示す波長である。
【0017】
第2レーザダイオード4は、第1波長λaとは異なる第2波長λbを有する第2レーザ光を発振するように構成される。第2波長λbは、測定対象のガス12(図1参照)における、上述の第1波長λaとは異なる特定の吸収ピークを示す波長である。
【0018】
第1レーザダイオード2及び第2レーザダイオード4の各々は、DFBレーザ(分布帰還型レーザ(DFB-LD:Distributed feedback laser diode)であってもよい。
【0019】
第1変調部6は、第1レーザダイオード2に既定の変調周波数(f)を有する第1変調信号を付与して第1レーザ光を変調するように構成される。第1変調部6は、第1レーザ光を、ピーク波長λaを中心として規定の変調周波数(f:例えば10kHz)で変調する(図3参照)ように構成された変調器を含んでいてもよい。ここで図3は、測定対象のガス12の第1波長λa近傍における吸収線と、第1変調部6によって規定の変調周波数(f:例えば10kHz)で変調された第1レーザ光の波形を模式的に示すグラフである。
【0020】
第2変調部8は、第2レーザダイオード4に上述の規定の変調周波数(f)を有するとともに第1変調信号と所定の位相差を有する第2変調信号を付与して第2レーザ光を変調するように構成される。第2変調部8は、第2レーザ光を、ピーク波長λbを中心として上述の規定の変調周波数(f:例えば10kHz)で変調する(図3参照)ように構成された変調器を含んでいてもよい。
【0021】
第1変調信号と第2変調信号の位相差は、第1変調信号で変調される第1レーザ光と第2変調信号で変調される第2レーザ光との位相差が後述する所定の位相差Δθmodとなるように調整される。
【0022】
図4は、第1/第2変調信号でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光の信号強度の波形を示すグラフである。DFBレーザの場合、上述のように特定の波長を中心として変調周波数(f)にて波長を振動させるために、DFBレーザの注入電流(ドライブ電流)を振動させる(即ち電流変調させる)。このとき、DFBレーザへの注入電流に比例して出力が変動するため、第1レーザダイオードから発振される第1レーザ光(第1変調信号で変調された第1レーザ光)の信号強度は、図4に示すように変調周波数(f)で振動することになる。第2レーザダイオードから発振される第2レーザ光(第2変調信号で変調された第2レーザ光)の信号強度も、同様に、図4に示すように変調周波数(f)で振動することになる。
【0023】
なお、DFBレーザの出力(強度)変動は、電流変調にある遅れをもって追随し、この遅れにはDFBレーザによって個体差(ばらつき)がある。このため、第1変調信号と第2変調信号との位相差は、第1変調信号で変調される第1レーザ光と第2変調信号で変調される第2レーザ光との位相差Δθmodとほぼ同じであるが、若干ずれることが多い。
【0024】
合波器10は、第1変調信号を用いて変調された第1レーザ光と第2変調信号を用いて変調された第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得るように構成される。合波器10は、第1変調信号を用いて変調された第1レーザ光と第2変調信号を用いて変調された第2レーザ光とを混合するように構成された光ファイバカプラであってもよい。
【0025】
合波器10で得られた合波レーザ光は、測定対象のガス12に照射されるようになっている。
【0026】
検出器14は、合波器10から測定対象のガス12に照射されて該ガス12を透過した合波レーザ光を受け取って検出信号に変換するように構成される。
【0027】
信号取得部16は、検出器14で検出された検出信号から、合波レーザ光の照射位置での測定対象のガスにおける第1波長λaでの吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び第2波長λbでの吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得するように構成される。復調信号生成部18は、合波レーザ光を復調するための所定の参照周波数を有する復調信号を生成するように構成される。
【0028】
図2に示すように、信号取得部16は、第1復調部28と、第2復調部32と、第1抽出部30と、第2抽出部34と、を備える。
【0029】
信号取得部16は、検出器14から検出信号を受け取るとともに、復調信号生成部18から、所定の参照周波数を有する復調信号を受け取るように構成される。
【0030】
ここで、復調信号の有する周波数(参照周波数)は、変調周波数(f;例えば10kHz)の2n倍(ただしnは整数)である。以下、一例として、n=1(即ち、参照周波数が2f;例えば20kHz)の場合について説明するが、復調信号の周波数は、変調周波数(f)の4倍(参照周波数は4f)、6倍(参照周波数は6f)、又は8倍(参照周波数は8f)等であってもよい。
【0031】
信号取得部16において、検出器14からの検出信号は、第1復調部28及び第2復調部32のそれぞれに送られる。
【0032】
信号取得部16において、復調信号生成部18からの復調信号は、位相シフト器26に送られる。位相シフト器26は、上述の所定の参照周波数を有する復調信号の位相をシフトさせて、互いに位相が異なる複数の信号として出力するようになっている。
【0033】
より具体的には、位相シフト器26は、復調信号生成部18からの復調信号を所定の位相で(例えば、元の復調信号との位相差ゼロ度で)第1参照信号として第1復調部28に送出するとともに、同じ復調信号を、第1参照信号との位相差がΔθrefである(すなわち、例えば元の復調信号との位相差がθrefである)第2参照信号として第2復調部32に送出するように構成される。
【0034】
第1復調部28は、上述の第1参照信号を用いて検出器14からの検出信号を復調するように構成される。第1復調部28は、検出信号と第1参照信号との積を出力するように構成された第1乗算器を含んでもよい。
【0035】
第2復調部32は、上述の第2参照信号を用いて検出器14からの検出信号を復調するように構成される。第2復調部32は、検出信号と第2参照信号との積を出力するように構成された第2乗算器(第1乗算器とは別の乗算器)を含んでもよい。
【0036】
図5は、第1参照信号及び第2参照信号の信号強度の波形を示すグラフである。図5に示すように、第1参照信号と第2参照信号は、共通の周波数を有するが、両者の間に所定の位相差Δθrefが存在する。一実施形態では、第1参照信号と第2参照信号との位相差Δθrefは90度である。
【0037】
第1抽出部30は、第1参照信号を用いて復調された信号からDC成分である第1成分信号を取り出すように構成される。第2抽出部34は、第2参照信号を用いて復調された信号からDC成分である第2成分信号を取り出すように構成される。
【0038】
第1抽出部30及び/又は第2抽出部34は、処理対象の信号(第1参照信号又は第2参照信号を用いて復調された信号)のうち所定値以下の周波数の成分のみを通過させるように構成されたローパスフィルタを含んでもよい。第1抽出部30及び/又は第2抽出部34は、カットオフ周波数が変調周波数(f)の10-1倍以下のローパスフィルタを含んでもよい。
【0039】
幾つかの実施形態では、検出信号に含まれる第1レーザ光由来の信号成分における参照周波数(2n×f)の成分(2n倍波成分)と、検出信号に含まれる第2レーザ光由来の信号成分における参照周波数(2n×f)の成分(2n倍波成分)との位相差(すなわち、検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdem)Δθdem、及び、第1変調信号で変調された第1レーザ光と第2変調信号で変調された第2レーザ光との位相差Δθmodは、Δθmod=Δθdem/2nを満たす。
【0040】
第1/第2参照信号の位相差Δθrefが90度である場合、検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdemを90度とすることで(即ち、該位相差Δθdemを90度にするため、変調後の第1/第2レーザ光の位相差Δθmodが90度/2n(n=1の場合は45度)となるように第1/第2変調信号の位相差を調節することで)、第1成分信号及び第2成分信号をDC成分として取り出すことができる。このことについて、図6図8を参照して説明する。
【0041】
先ず、計測対象のガスに含まれる特定の物質の吸収ピークの第1波長λaに関して、第1変調信号(f、ここでは10kHz)で変調された第1レーザ光を計測対象のガスに照射する場合を仮定して考える(即ち、第1レーザ光を第2レーザ光と合波せずにガスに照射する)。
【0042】
この場合において、計測対象のガス中に上述の特定の物質が含まれない場合、1変調信号(f、10kHz)で変調された第1レーザ光は、第1波長λaで吸収されず、ガスを透過する。このため、図6に示すように、検出器14で検出される検出信号(図6の実線)において、2n×fの成分(2f成分、4f成分、6f成分、…等)は含まれない。なお、図6において破線は2f成分の波形を示す。
【0043】
一方、同様の場合において、計測対象のガス中に上述の特定の物質が含まれる場合、1変調信号(f、10kHz)で変調された第1レーザ光は、第1波長λaで吸収される。この第1波長λaは、変調された第1レーザ光の振動(信号強度)の中心に対応するから、変調された第1レーザ光の振動の1周期の間に第1波長λaを2回通過する。このため、図7に示すように、検出器14で検出される検出信号(図7の実線)において、2n×fの成分(2f成分、4f成分、6f成分、…等)が含まれる。なお、図7において破線は2f成分の波形を示す。
【0044】
実施形態では、計測対象のガスにおける特定の2つの吸収ピークの第1波長λa及び第2波長λbに関して、第1/第2変調信号(f、ここでは10kHz)でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光を計測対象のガスに照射する。このため、図8に示すように、検出器14で検出される検出信号(図8の実線)において、第1波長λa及び第2波長λbのそれぞれに対応する2n×fの成分(2f成分、4f成分、6f成分、…等;以下、2n倍波成分ともいう。)が含まれる。検出信号において、各波長に対応する2n×fの成分(2f成分等)は、位相差のみによって識別可能な重畳された信号である。検出信号に含まれる第1レーザ光由来の信号成分における参照周波数の成分(2n×fの成分)と、検出信号に含まれる第2レーザ光由来の信号成分における参照周波数の成分(2n×fの成分)との位相差(すなわち、検出信号における参照周波数の成分(2n×fの成分)の位相差)Δθdem(図8参照)は、Δθdem=2n×Δθmodで表され、変調後の第1/第2レーザ光の位相差Δθmodに対応するものとなる。
【0045】
ここで、検出信号における参照周波数の成分(2n×fの成分)の位相差Δθdemを、90度にすることを考える。すなわち、n=1の例において、第1/第2変調信号(f:10kHz)でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光において、2f成分(2f:20kHz)の位相は90度ずれているものとする。便宜的に、検出信号に含まれる第1レーザ光についての2f成分を「位相0度側の測定信号」と呼び、第2レーザ光についての2f成分を「位相90度側の測定信号」と呼ぶことにする。なお、この場合、第1変調信号で変調された第1レーザ光(f:10kHz)及び第2変調信号で変調された第2レーザ光(f:10kHz)の位相差Δθmodは45度(90度/2n)である。
【0046】
ここで、検出信号に含まれる2f成分をsin(ωt+α)と表し、参照信号をsin(ωt+β)と表す。参照信号を用いて検出信号を復調することを考えると、検出信号の2f成分と参照信号の積は以下のように表せる。
cos(β-α)/2-cos(2ωt+α+β)/2 …(A)
上記式(A)の第1項は時間に応じて振動しないDC成分であり、第2項は時間に応じて振動する成分であるから、後者はローパスフィルタ等(第1/第2抽出部)で除外することができる。ここで検出信号に含まれる1つの2f成分と、参照信号(2f)との位相差が90度であると、上記式(A)の第1項がゼロとなる。
【0047】
すなわち、参照信号(2f)の位相を0度に合わせた時には位相0度側の測定信号を、参照信号の位相を90度に合わせた時には位相90度側の測定信号を、DC成分として、第1抽出部30及び第2抽出部34から得ることができる。
【0048】
このようにして第1抽出部30及び第2抽出部34で取得される第1成分信号及び第2成分信号(DC成分)は、それぞれ、第1波長λa及び第2波長λbでの吸光度を示すものである。
【0049】
信号取得部16は、検出信号から、参照信号と等しい周波数成分の検出を行うためのロックインアンプを含んでもよい。測定信号に含まれる各種の信号のうち、参照信号周波数と等しい成分のみが直流となり第1抽出部30及び第2抽出部34(ローパスフィルタ等)を通過することができる。また、他の成分は周波数≠0Hzの交流信号に変換されるので第1抽出部30及び第2抽出部34(ローパスフィルタ等)で除去される。このため、狙った成分のみをDC成分に変換して取り出すことができる。また、ロックインアンプは、位相を90度ずらした2つの参照信号をそれぞれ用いる2系統を有する2位相ロックインアンプであってもよい。
【0050】
上述の実施形態では、第1/第2波長をそれぞれ有する第1/第2レーザ光に、互いに位相のずれた第1/第2変調信号をそれぞれ付与したものを合波して得られる合波レーザ光を測定対象のガスに照射するので、単一の位置に同時に第1波長及び第2波長の成分を有するレーザ光(合波レーザ光)を照射することができる。また、測定対象のガスを透過した合波レーザ光を検出して取得される検出信号には、第1レーザ光由来の信号成分及び第2レーザ光由来の成分のそれぞれにおいて変調周波数の2n倍の周波数の成分(以下、2n倍波成分ともいう)が含まれ、これらの2n倍波成分の位相差(復調周波数上での位相差)Δdemは、第1/第2変調信号でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光の位相差Δθmodに対応したものとなる。したがって、上述の検出信号を、2n倍波成分の周波数に対応する参照周波数を有するとともに所定の位相差を有する第1/第2参照信号を用いてそれぞれ復調することで、第1/第2レーザ光の波長における吸光度を示す第1/第2成分信号をそれぞれ独立に取り出すことができる。このため、測定対象のガスの単一の位置(合波レーザ光の照射位置;測定位置)での同一時刻における第1/第2波長での吸光度(第1/第2成分信号)を取得することができる。すなわち、上述の実施形態によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(第1/第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができ、これにより、測定対象ガスの当該位置(測定位置)における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスの状態を示す値(温度又は濃度等)を精度良く取得することができる。
【0051】
また、上述の実施形態では、第1参照信号と第2参照信号との位相差Δθrefが90度であるとともに、検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdemが約90度であるので、第1参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号、及び、第2参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号には、検出信号における参照周波数(参照信号の周波数)の成分の強度に比例したDC成分がそれぞれ含まれ、これらのうち一方のDC成分(第1成分信号)の大きさは第1波長での吸光度を示し、他方のDC成分(第2成分信号)の大きさは第2波長での吸光度を示すものとなる。よって、測定対象のガスの単一の位置(合波レーザ光の照射位置)での同一時刻における第1/第2波長での吸光度(第1/第2成分信号)を適切に取得することができる。
【0052】
また、上述の実施形態では、第1/第2変調信号でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光の位相差ΔθmodがΔθdem/2nであるので、計測対象ガスを透過した合波レーザ光の検出信号に含まれる参照周波数と同一周波数の成分(第1波長及び第2波長にそれぞれ対応する成分)の位相差が90度になる。よって、このような検出信号に対して位相差が90度である第1参照信号及び第2参照信号をそれぞれ用いて復調することで、参照周波数と同一周波数の成分に対応するDC成分(第1成分信号及び第2成分信号)をそれぞれ含む信号を得ることができる。よって、これらの信号からDC成分(第1成分信号及び第2成分信号)をそれぞれ独立して取り出すことができる。
【0053】
図1に示すように、ガスの吸収特性測定装置1は、第1成分信号及び第2成分信号に基づいて、測定対象のガスの合波レーザ光の照射位置におけるガスの状態を示す値を算出するための信号分析部20を備えていてもよい。
【0054】
幾つかの実施形態では、信号分析部20は、第1成分信号及び第2成分信号に基づいて、測定対象のガスの合波レーザ光の照射位置におけるガスの温度を決定するように構成された温度決定部を含んでもよい。すなわち、ガスの吸収特性測定装置1は、温度計測装置として機能してもよい。
【0055】
この場合、第1レーザダイオード2は、測定対象のガスに含まれる物質の第1吸収ピークの波長である第1波長λaを有する第1レーザ光を発振するように構成されるとともに、第2レーザダイオード4は、同じ物質の第2吸収ピークの波長である第2波長λbを有する第2レーザ光を発振するように構成されてもよい。
【0056】
例えば、第1レーザダイオード2は、測定対象のガス(燃焼排ガス等)に含まれる水(水蒸気、H2O)の吸収ピークの波長である第1波長λa(1334nm)を有する第1レーザ光を発振するように構成されるとともに、第2レーザダイオード4は、水の第2吸収ピークの波長である第2波長λb(1388nm)を有する第2レーザ光を発振するように構成されてもよい。
【0057】
上述の実施形態によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(すなわち、第1吸収ピークの波長である第1波長及び第2吸収ピークの波長である第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができる。これにより、測定対象ガスの当該位置における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスの温度を精度良く取得することができる。
【0058】
図9図12を参照して、一実施形態に係るガスの吸収特性測定装置1の温度計測への適用例として、燃焼バーナの火炎の温度を計測する例について説明する。
【0059】
図9は、水(水蒸気、H2O)の吸収ピークを示す2つの波長である1334nm(第1波長λa)及び1388nm(第2波長λb)における吸光度の比と、温度との相関関係を示すグラフである。
【0060】
図9のグラフに示されるように、水の温度が高いほど、1334nm(第1波長λa)での吸光度(吸収強度)は大きいとともに1388nm(第2波長λb)での吸光度(吸収強度)は小さく、温度に応じて、1334nm(第1波長λa)での吸光度と1388nm(第2波長λb)での吸光度との比が変化する。したがって、水の温度は、1334nm(第1波長λa)での吸光度と1388nm(第2波長λb)での吸光度の比から求めることができる。なお、図9に示す吸光度の比と温度との相関関係は、予め、実験等によって取得される。
【0061】
試験方法は以下のとおりである。上述したガスの吸収特性測定装置1を用い、合波器10からの合波レーザ光の光路をバーナ火炎が横切るように、バーナを設置した。合波レーザ光の高さの位置におけるバーナ火炎の温度を、ガスの吸収特性測定装置1で取得される1334nm(第1波長λa)での吸光度と1388nm(第2波長λb)での吸光度との比と、予め取得された吸光度の比と温度との相関関係(図9参照)とから、合波レーザ光の照射位置(合波レーザ光の高さ位置)における火炎温度を求めた。
【0062】
図10図12に試験結果を示す。図10は、ガスの吸収特性測定装置1で取得された1334nm(第1波長λa)での吸光度(LD1-吸収強度)、1388nm(第2波長λb)での吸光度(LD2-吸収強度 )、及び、ガス温度(火炎温度)の時間変化(計測結果)を示すグラフである。図11及び図12図10のグラフの拡大図であり、図11は、バーナ点火(バーナON)時を示す拡大図、図12はバーナ消火(バーナOFF)時を示す拡大図である。
【0063】
図10に示されるように、レーザ光の高さにおけるバーナ火炎の温度について、実施形態に係るガスの吸収特性測定装置1で計測した結果、1500℃~1600℃程度であり、これは、別の方法での計測結果での温度帯と一致した。また、また、図11及び図12からわかるように、バーナ点火時やバーナ消火時等の温度変化が激しいときにおいても、時間毎の温度を精度良く取得することができた。
【0064】
幾つかの実施形態では、信号分析部20は、第1成分信号及び第2成分信号に基づいて、測定対象のガスの合波レーザ光の照射位置におけるガス中の第1物質と第2物質の濃度比を決定するように構成された濃度比決定部を含んでもよい。すなわち、ガスの吸収特性測定装置1は、濃度比計測装置として機能してもよい。
【0065】
この場合、第1レーザダイオード2は、測定対象のガスに含まれる第1物質の吸収ピークの波長である第1波長λaを有する第1レーザ光を発振するように構成されるとともに、第2レーザダイオード4は、測定対象のガスに含まれる第2物質の吸収ピークの波長である第2波長λbを有する第2レーザ光を発振するように構成される。
【0066】
例えば、第1レーザダイオード2は、測定対象のガスに含まれるメタン(第1物質)の吸収ピークの波長である第1波長λa(1.6537μm)を有する第1レーザ光を発振するように構成されるとともに、第2レーザダイオード4は、測定対象のガスに含まれる水(第2物質)の吸収ピークの波長である第2波長λb(1300nm)を有する第2レーザ光を発振するように構成されてもよい。
【0067】
上述の実施形態によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(すなわち、第1物質の吸収ピークの波長である第1波長及び第2物質の吸収ピークの波長である第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができる。これにより、測定対象ガスの当該位置における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスにおける第1物質と第2物質との濃度比を精度良く取得することができる。
【0068】
幾つかの実施形態では、上述のガスの吸収特性測定装置1において、検出信号に含まれる第1レーザ光及び第2レーザ光にそれぞれ由来する信号成分における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdemは、90度でなくてもよい。具体的には、該位相差Δθdemは、0度より大きく90度より小さくてもよく、又は、90度より大きく180度より小さくてもよい。一実施形態では、上述の位相差Δθdemは、135度であってもよい。
【0069】
上述の実施形態では、検出信号に含まれる上述の参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdemを、0度より大きく90度より小さい値、又は、90度より大きく180度より小さい値に設定するようにしたので、計測信号から得られる第1/第2波長での吸光度の比が示す測定対象のガスの状態を示す値(温度又は濃度等)の計測感度を大きく又は小さくすることができる。これにより、測定位置(合波レーザ光の照射位置)におけるガスの状態を示す値をより精度良く取得することができる。
【0070】
このことについて、ガスの温度計測をする場合を例として、図13図17を参照して説明する。
【0071】
図13は、計測対象のガスの温度と、吸光度(吸収強度、信号強度)の大きさの関係について、計測対象(吸収強度1(特定の第1波長における吸光度)及び吸収強度2(特定の第2波長における吸光度))のピーク周波数を有する物質の濃度の高低による違いを示すグラフである。図13のグラフからわかるように、ガス中の物質濃度によって吸光度(吸収強度)は変化し、一般には、濃度が高いほど、吸収強度は高い。
【0072】
図14は、ガス中の物質の異なる濃度(高濃度及び低濃度)のそれぞれについて、吸光度(吸収強度)と温度の関係を示すグラフである。図14からわかるように、ガス中の物質濃度によって吸収強度は異なるが、同一温度を結ぶ直線は、原点を通る直線となる。すなわち、ガス中の物質濃度によらず、吸光度比によって温度が決まる。よって、ガス温度は、座標軸を基準とする角度(例えば図中の角度φ)で表現することもできる。
【0073】
ところで、例えば既に説明した実施形態のように、検出信号に含まれる上述の参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差(復調位相差)Δθdem)が90度の場合、吸収強度1(第1波長における吸光度)と吸収強度2(第2波長における吸光度)は、信号取得部16(ロックインアンプ等)から相互干渉なく出力される(図15参照)。このときの出力をX0(吸収強度1),Y0(吸収強度2)とする。
【0074】
一方、検出信号に含まれる上述の参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差(復調位相差)Δθdemが例えば135度の場合、吸収強度1(第1波長における吸光度)と吸収強度2(第2波長における吸光度)は、相互干渉したものが信号取得部16から出力される(図15参照)。このときの出力X1(吸収強度1),Y1(吸収強度2)は、それぞれ、下記式で表される。
X1=X0-Y0×sin(45°)
Y1=Y0-Y0×cos(45°)
【0075】
なお、図15及び図16は、吸収強度1と吸収強度2を示す出力の相互干渉を模式的に示す図である。
【0076】
図17は、吸収強度1及び吸収強度2と温度との相関関係を示すグラフである。図17に示すように、復調位相差が135度の場合、復調位相差が90度の場合に比べて、同じ温度範囲を示す原点周りの角度が大きくなる。したがって、このように、復調位相差を90度より大きくすることで(例えば135度)、ガスの温度をより高感度に計測することができる。また、同様に、復調位相差が45度の場合、復調位相差が90度の場合に比べて、同じ温度範囲を示す原点周りの角度が小さくなる。したがって、このように、復調位相差を90度より小さくすることで(例えば45度)、ガスの温度をより低感度に計測することができる。このように、復調位相差を適切に調節することで、温度計測感度を調整することができる。
【0077】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0078】
[1]本発明の少なくとも一実施形態に係るガスの吸収特性測定装置(1)は、
第1波長(λa)を有する第1レーザ光を発振するための第1レーザダイオード(2)と、
前記第1波長とは異なる第2波長(λb)を有する第2レーザ光を発振するための第2レーザダイオード(4)と、
前記第1レーザダイオードに既定の変調周波数を有する第1変調信号を付与して前記第1レーザ光を変調するように構成された第1変調部(6)と、
前記第2レーザダイオードに前記変調周波数を有するとともに前記第1変調信号と位相差を有する第2変調信号を付与して前記第2レーザ光を変調するように構成された第2変調部(8)と、
前記第1変調信号を用いて変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号を用いて変調された前記第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得るように構成された合波器(10)と、
前記合波器から測定対象のガス(12)に照射されて前記ガスを透過した前記合波レーザ光を受け取って検出信号に変換するように構成された検出器(14)と、
前記検出信号から、前記合波レーザ光の照射位置での前記測定対象のガスにおける前記第1波長での吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び前記第2波長での吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得するための信号取得部(16)と、
を備え、
前記信号取得部は、
前記変調周波数の2n倍(ただしnは整数)の周波数である参照周波数を有する第1参照信号を用いて前記検出信号を復調するための第1復調部(28)と、
前記参照周波数を有するとともに前記第1参照信号と位相差を有する第2参照信号を用いて前記検出信号を復調するための第2復調部(32)と、
前記第1参照信号を用いて復調された信号からDC成分である前記第1成分信号を取り出すための第1抽出部(30)と、
前記第2参照信号を用いて復調された信号からDC成分である前記第2成分信号を取り出すための第2抽出部(34)と、
を含む。
【0079】
上記[1]の構成では、第1/第2波長をそれぞれ有する第1/第2レーザ光に、互いに位相のずれた第1/第2変調信号をそれぞれ付与したものを合波して得られる合波レーザ光を測定対象のガスに照射するので、単一の位置に同時に第1波長及び第2波長の成分を有するレーザ光(合波レーザ光)を照射することができる。また、測定対象のガスを透過した合波レーザ光を検出して取得される検出信号には、第1レーザ光由来の信号成分及び第2レーザ光由来の成分のそれぞれにおいて変調周波数の2n倍の周波数の成分(以下、2n倍波成分ともいう)が含まれ、これらの2n倍波成分の位相差(復調周波数上での位相差)Δdemは、第1/第2変調信号でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光の位相差Δθmodに対応したものとなる。したがって、上述の検出信号を、2n倍波成分の周波数に対応する参照周波数を有するとともに所定の位相差を有する第1/第2参照信号を用いてそれぞれ復調することで、第1/第2レーザ光の波長における吸光度を示す第1/第2成分信号をそれぞれ独立に取り出すことができる。このため、測定対象のガスの単一の位置(合波レーザ光の照射位置;測定位置)での同一時刻における第1/第2波長での吸光度(第1/第2成分信号)を取得することができる。すなわち、上記[1]の構成によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(第1/第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができ、これにより、測定対象ガスの当該位置(測定位置)における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスの状態を示す値(温度又は濃度等)を精度良く取得することができる。
【0080】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]の構成において、
前記第1参照信号と前記第2参照信号との位相差Δθrefは90度である。
【0081】
上記[2]の構成では、第1参照信号と第2参照信号との位相差が90度であるので、第1参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号、及び、第2参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号には、検出信号において所定の位相差を有する参照周波数の成分(即ち、2n倍波成分)の強度に比例したDC成分がそれぞれ含まれ、これらのうち一方のDC成分(第1成分信号)の大きさは第1波長での吸光度を示し、他方のDC成分(第2成分信号)の大きさは第2波長での吸光度を示すものとなる。よって、測定対象のガスの単一の位置(合波レーザ光の照射位置)での同一時刻における第1/第2波長での吸光度(第1/第2成分信号)を適切に取得することができる。
【0082】
[3]幾つかの実施形態では、上記[1]又は[2]の構成において、
前記検出信号に含まれる前記第1レーザ光由来の信号成分における前記参照周波数の成分と、前記検出信号に含まれる前記第2レーザ光由来の信号成分における前記参照周波数の成分との位相差(すなわち、検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差)Δθdem、及び、前記第1変調信号で変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号で変調された前記第2レーザ光との位相差Δθmodは、Δθmod=Δθdem/2nを満たす。
【0083】
上記[3]の構成では、第1/第2変調信号でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光の位相差ΔθmodがΔθdem/2nを満たすように設定されるので、検出信号における第1レーザ光及び第2レーザ光にそれぞれ由来する信号成分における検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdemを所望の値にすることができる。
例えば、第1/第2参照信号の位相差Δθrefが90度である場合、上述の位相差Δθdemが参照信号の位相差Δθrefと同じ90度となるようにするためには、変調後の第1/第2レーザ光の位相差Δθmodを90度/2nに設定すればよい。
このようにして得られる検出信号において、第1/第2レーザ光にそれぞれ由来する参照周波数の成分の位相差はΔθdemであるので、この検出信号に対して所定の位相差Δθrefを有する第1参照信号及び第2参照信号をそれぞれ用いて復調することで、参照周波数と同一周波数の成分に対応するDC成分(第1成分信号及び第2成分信号)をそれぞれ含む信号を得ることができる。よって、これらの信号からDC成分(第1成分信号及び第2成分信号)をそれぞれ適切に取り出すことができる。
【0084】
[4]幾つかの実施形態では、上記[1]又は[2]の構成において、
前記第1復調部は、前記検出信号と前記第1参照信号との積を出力するように構成された第1乗算器を含み、
前記第2復調部は、前記検出信号と前記第2参照信号との積を出力するように構成された第2乗算器を含む。
【0085】
上記[4]の構成によれば、第1乗算器で第1参照信号を用いて検出信号を復調するのと並行して、第2乗算器で第2参照信号を用いて検出信号を復調することができるので、第1/第2レーザ光の波長での吸光度を示す第1/第2成分信号を並行してそれぞれ独立に取り出すことができる。このため、測定対象のガスの単一の位置(合波レーザ光の照射位置)での同一時刻における第1/第2波長での吸光度(第1/第2成分信号)を取得することができる。すなわち、上記[2]の構成によれば、測定対象ガスの同一位置(合波レーザ光の照射位置)での同一時刻における2つの異なる波長(第1/第2波長)でのそれぞれの吸光度を適切に取得することができる。
【0086】
[5]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[4]の何れかの構成において、
前記第1抽出部又は前記第2抽出部の少なくとも一方は、カットオフ周波数が前記変調周波数の10-1倍以下のローパスフィルタを含む。
【0087】
上記[1]の構成において、第1変調信号及び第2変調信号でそれぞれ変調された第1レーザ光と第2レーザ光との位相差Δθmodを適切に設定することにより、検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差(復調周波数の位相差)Δθdemを任意に設定することが可能であり、第1参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号、及び、第2参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号には、検出信号における参照周波数(参照信号の周波数)の成分の強度に比例したDC成分がそれぞれ含まれ、これらのうち一方のDC成分(第1成分信号)の大きさは第1波長での吸光度を示し、他方のDC成分(第2成分信号)の大きさは第2波長での吸光度を示すものとなる。よって、上記[5]の構成のように、ローパスフィルタを復調された信号に適用することで、DC成分以外の成分の殆どを排除しながら、該DC成分を適切に抽出することができる。
【0088】
[6]幾つかの実施形態では、上記[3]の構成において、
前記検出信号における前記参照周波数の成分の前記位相差Δθdemは、90度±10度である。
【0089】
上記[6]の構成では、検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdemが約90度であるので、第1参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号、及び、第2参照信号を用いて検出信号を復調した結果得られる信号には、検出信号における参照周波数(参照信号の周波数)の成分の強度に比例したDC成分がそれぞれ含まれ、これらのうち一方のDC成分(第1成分信号)の大きさは第1波長での吸光度を示し、他方のDC成分(第2成分信号)の大きさは第2波長での吸光度を示すものとなる。よって、測定対象のガスの単一の位置(合波レーザ光の照射位置)での同一時刻における第1/第2波長での吸光度(第1/第2成分信号)を適切に取得することができる。
【0090】
[7]幾つかの実施形態では、上記[3]の構成において、
前記検出信号における前記参照周波数の成分の前記位相差Δθdemは、0度より大きく90度より小さい、又は、90度より大きく180度より小さい。
【0091】
上記[7]の構成によれば、検出信号における参照周波数の成分(2n倍波成分)の位相差Δθdemを、0度より大きく90度より小さい値、又は、90度より大きく180度より小さい値に設定するようにしたので、計測信号から得られる第1/第2波長での吸光度の比が示す測定対象のガスの状態を示す値(温度又は濃度等)の計測感度を大きく又は小さくすることができる。これにより、測定位置(合波レーザ光の照射位置)におけるガスの状態を示す値をより精度良く取得することができる。
【0092】
[8]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[7]の何れかの構成において、
前記第1レーザダイオードは、前記測定対象のガスに含まれる物質の第1吸収ピークの波長である前記第1波長を有する前記第1レーザ光を発振するように構成され、
前記第2レーザダイオードは、前記物質の第2吸収ピークの波長である前記第2波長を有する前記第2レーザ光を発振するように構成される。
【0093】
ガスに含まれる物質の2つの異なる吸収ピークの波長における吸光度の比は、当該物質の温度を示すものである。上記[8]の構成によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(すなわち、第1吸収ピークの波長である第1波長及び第2吸収ピークの波長である第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができる。これにより、測定対象ガスの当該位置における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスの温度を精度良く取得することができる。
【0094】
[9]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[7]の何れかの構成において、
前記第1レーザダイオードは、前記測定対象のガスに含まれる第1物質の吸収ピークの波長である前記第1波長を有する前記第1レーザ光を発振するように構成され、
前記第2レーザダイオードは、前記測定対象のガスに含まれる第2物質の吸収ピークの波長である前記第2波長を有する前記第2レーザ光を発振するように構成される。
【0095】
ガスに含まれる2つの異なる2種の物質のそれぞれの吸収ピークの波長における吸光度の比は、ガスにおける当該物質の濃度比を示すものである。上記[9]の構成によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(すなわち、第1物質の吸収ピークの波長である第1波長及び第2物質の吸収ピークの波長である第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができる。これにより、測定対象ガスの当該位置における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスにおける第1物質と第2物質との濃度比を精度良く取得することができる。
【0096】
[10]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[9]の何れかの構成において、
前記ガスの吸収特性測定装置は、
前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガスの状態を示す値を算出するための信号分析部(20)を備える。
【0097】
上記[10]の構成によれば、検出信号からそれぞれ独立に取り出された第1成分信号及び第2成分信号を用いて、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(第1/第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができる。これにより、測定対象ガスの当該位置における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスの状態を示す値(温度又は濃度等)を精度良く取得することができる。
【0098】
[11]本発明の少なくとも一実施形態に係る温度計測装置は、
上記[10]に記載のガスの吸収特性測定装置を備え、
前記信号分析部は、前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガスの温度を決定するように構成された温度決定部を含む。
【0099】
上記[11]の構成によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(すなわち、第1吸収ピークの波長である第1波長及び第2吸収ピークの波長である第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができる。これにより、測定対象ガスの当該位置における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスの温度を精度良く取得することができる。
【0100】
[12]本発明の少なくとも一実施形態に係る濃度比計測装置は、
上記[10]に記載のガスの吸収特性測定装置を備え、
前記信号分析部は、前記第1成分信号及び前記第2成分信号に基づいて、前記測定対象のガスの前記合波レーザ光の照射位置における前記ガス中の第1物質と第2物質の濃度比を決定するように構成された濃度比決定部を含む。
【0101】
上記[12]の構成によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(すなわち、第1物質の吸収ピークの波長である第1波長及び第2物質の吸収ピークの波長である第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができる。これにより、測定対象ガスの当該位置における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスにおける第1物質と第2物質との濃度比を精度良く取得することができる。
【0102】
[13]本発明の少なくとも一実施形態に係るガスの吸収特性測定方法は、
第1レーザダイオード(2)を用いて第1波長(λa)を有する第1レーザ光を発振するステップと、
第2レーザダイオード(4)を用いて前記第1波長とは異なる第2波長(λb)を有する第2レーザ光を発振するステップと、
前記第1レーザダイオードに既定の変調周波数を有する第1変調信号を付与して前記第1レーザ光を変調するステップと、
前記第2レーザダイオードに前記変調周波数を有するとともに前記第1変調信号と位相差を有する第2変調信号を付与して前記第2レーザ光を変調するステップと、
前記第1変調信号を用いて変調された前記第1レーザ光と前記第2変調信号を用いて変調された前記第2レーザ光とを合波して合波レーザ光を得るステップと、
測定対象のガスに照射されて前記ガスを透過した前記合波レーザ光を受け取って検出信号に変換するステップと、
前記検出信号から、前記合波レーザ光の照射位置での前記測定対象のガスにおける前記第1波長での吸光度を示す成分を含む第1成分信号及び前記第2波長での吸光度を示す成分を含む第2成分信号を取得する信号取得ステップと、
を備え、
前記信号取得ステップは、
前記変調周波数の2n倍(ただしnは整数)の周波数である参照周波数を有する第1参照信号を用いて前記検出信号を復調するステップと、
前記参照周波数を有するとともに前記第1参照信号と位相差を有する第2参照信号を用いて前記検出信号を復調するステップと、
前記第1参照信号を用いて復調された信号からDC成分である前記第1成分信号を取り出すステップと、
前記第2参照信号を用いて復調された信号からDC成分である前記第2成分信号を取り出すステップと、
を含む。
【0103】
上記[13]の方法では、第1/第2波長をそれぞれ有する第1/第2レーザ光に、互いに位相のずれた第1/第2変調信号をそれぞれ付与したものを合波して得られる合波レーザ光を測定対象のガスに照射するので、単一の位置に同時に第1波長及び第2波長の成分を有するレーザ光(合波レーザ光)を照射することができる。また、測定対象のガスを透過した合波レーザ光を検出して取得される検出信号には、第1レーザ光由来の信号成分及び第2レーザ光由来の成分のそれぞれにおいて変調周波数の2n倍の周波数の成分(以下、2n倍波成分ともいう)が含まれ、これらの2n倍波成分の位相差(復調周波数上での位相差)Δdemは、第1/第2変調信号でそれぞれ変調された第1/第2レーザ光の位相差Δθmodに対応したものとなる。したがって、上述の検出信号を、2n倍波成分の周波数に対応する参照周波数を有するとともに所定の位相差を有する第1/第2参照信号を用いてそれぞれ復調することで、第1/第2レーザ光の波長における吸光度を示す第1/第2成分信号をそれぞれ独立に取り出すことができる。このため、測定対象のガスの単一の位置(合波レーザ光の照射位置;測定位置)での同一時刻における第1/第2波長での吸光度(第1/第2成分信号)を取得することができる。すなわち、上記[13]の方法によれば、測定対象ガスの同一位置での同一時刻における2つの異なる波長(第1/第2波長)でのそれぞれの吸光度を取得することができ、これにより、測定対象ガスの当該位置(測定位置)における第1/第2波長での各々の吸光度の比を精度良く取得することができる。よって、この吸光度の比に基づいて、当該位置における測定対象のガスの状態を示す値(温度又は濃度等)を精度良く取得することができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0105】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0106】
1 吸収特性測定装置
2 第1レーザダイオード
2 第1レーザ光
4 第2レーザダイオード
6 第1変調部
8 第2変調部
10 合波器
12 ガス
14 検出器
16 信号取得部
18 復調信号生成部
20 信号分析部
26 位相シフト器
28 第1復調部
30 第1抽出部
32 第2復調部
34 第2抽出部
Δθmod 変調後の第1/第2レーザ光の位相差
Δθdem 検出信号に含まれる参照周波数の成分の位相差
Δθref 参照信号の位相差
φ 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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