(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179383
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電磁波発生装置
(51)【国際特許分類】
H01J 23/20 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
H01J23/20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098192
(22)【出願日】2023-06-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 絵理
(72)【発明者】
【氏名】服部 泰佑
(72)【発明者】
【氏名】殿岡 俊
(57)【要約】
【課題】導波管内の真空状態を維持したまま導波管内部の陽極の位置を調整できるようにする。
【解決手段】陰極と、陰極に対向して配置され電子が通過可能な第一陽極と、この第一陽極の陰極とは反対側に接続された電磁波を導波する中空の導波管とを備え、陰極と第一陽極との間に高電圧パルスを印加して陰極から電子を引き出し、当該電子を第一陽極の方向に輸送し、第一陽極を通過した電子が導波管の内側で集群することにより仮想陰極を形成して電磁パルスが発生する電磁波発生装置において、導波管の内部に少なくとも1個の第二陽極が設置され、第二陽極は、導波管の外部に設置された駆動機構により、真空中に設置された状態で導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、前記陰極に対向して配置され電子が通過可能な第一陽極と、この第一陽極の前記陰極とは反対側に接続された電磁波を導波する中空の導波管とを備え、前記陰極と前記第一陽極との間に高電圧パルスを印加して前記陰極から電子を引き出し、当該電子を前記第一陽極の方向に輸送し、前記第一陽極を通過した電子が前記導波管の内側で集群することにより仮想陰極を形成して電磁パルスが発生する電磁波発生装置において、
前記導波管の内部に少なくとも1個の第二陽極が設置され、前記第二陽極は、前記導波管の外部に設置された駆動機構により、真空中に設置された状態で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成された電磁波発生装置。
【請求項2】
前記導波管は、真空容器の内部に設置され、前記駆動機構の少なくとも一部は前記真空容器と前記導波管との間の空間に設置された請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項3】
前記駆動機構は前記真空容器の外部に設置された駆動装置により駆動される請求項2に記載の電磁波発生装置。
【請求項4】
前記第二陽極は、前記導波管に設けられ、管軸と平行な方向に延びるスリットを貫通する支持部材を介して前記導波管の外部に配置された陽極ホルダーにより支持され、前記陽極ホルダーが前記駆動機構により移動される請求項2に記載の電磁波発生装置。
【請求項5】
前記第二陽極は、前記導波管に設けられ、管軸と平行な方向に延びるスリットを貫通する支持部材を介して前記導波管の外部に配置された陽極ホルダーにより支持され、前記陽極ホルダーが前記駆動機構により移動される請求項3に記載の電磁波発生装置。
【請求項6】
前記導波管は、内部を真空に保持することが可能で前記導波管の管軸と平行な方向に伸縮可能な金属製のベロウズにより構成され、前記第二陽極は前記ベロウズに固定されるとともに、前記ベロウズの外部に前記駆動機構が設けられた請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項7】
前記第二陽極が、前記導波管の管軸方向に複数配置された請求項1から6のいずれか1項に記載の電磁波発生装置。
【請求項8】
複数の前記第二陽極は、前記駆動機構により、それぞれ単独で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成された請求項7に記載の電磁波発生装置。
【請求項9】
前記第一陽極が、前記導波管の外部に設置された駆動機構により、真空中に設置された状態で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成され、前記第一陽極および前記第二陽極はそれぞれ単独で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成された請求項1から6のいずれか1項に記載の電磁波発生装置。
【請求項10】
前記第一陽極が、前記導波管の外部に設置された駆動機構により、真空中に設置された状態で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成され、前記第一陽極および複数の前記第二陽極はそれぞれ単独で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成された請求項7に記載の電磁波発生装置。
【請求項11】
前記陰極と前記第一陽極との間にパルス電圧を印加する高電圧パルス電源と、
前記導波管から出力される前記電磁パルスの強度を検出する電磁パルスモニタと、
設定される電磁パルスの周波数と前記電磁パルスモニタからの検出信号に基づいて、前記高電圧パルス電源と、前記駆動機構とを制御する制御器と
を備えた請求項1から6のいずれか1項に記載の電磁波発生装置。
【請求項12】
前記陰極と前記第一陽極との間にパルス電圧を印加する高電圧パルス電源と、
前記導波管から出力される前記電磁パルスの強度を検出する電磁パルスモニタと、
設定される電磁パルスの周波数と前記電磁パルスモニタからの検出信号に基づいて、前記高電圧パルス電源と、前記駆動機構とを制御する制御器と
を備えた請求項7に記載の電磁波発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高出力の電磁波を発生させる電磁波発生装置として、仮想陰極発振器(バーカトール、Vircator)と呼ばれる電子管が知られている。仮想陰極発振器では、真空に保たれた導波管内に空間電荷制限電流を越える電子ビームを入射する。このように入射した電子は、導波管内部に集群して仮想陰極を形成する。形成された仮想陰極は、導波管内で時間的、空間的に電子を振動させる。仮想陰極発振器は、この電子の振動により、高出力なパルス状の電磁波(電磁パルス)を発生させる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
仮想陰極発振器を高出力にする技術として、仮想陰極発振器の導波管内部に、1つ以上の、電子は透過し電磁波を反射する陽極を設ける技術がある(例えば、特許文献2参照)。導波管内部に陽極を設けた仮想陰極発振器では、仮想陰極から放射されて導波管内部の陽極を透過した電子ビームがさらに新たな仮想陰極を形成する。仮想陰極発振器は、仮想陰極を複数形成させることにより、より高出力の電磁パルスを発生させる。
【0004】
このような仮想陰極発振器から発生する電磁波の周波数、出力強度は目的に応じて変更する場合がある。仮想陰極発振器で生成された仮想陰極において、プラズマの振動周期が電磁波の周波数となる。陽極の間隔は、発生する電磁波の状態に応じて調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-266810号公報
【特許文献2】国際公開第2006/037918号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁波の周波数、出力強度を変更するためには、電子への印加電圧、陰極-陽極間距離の調整を行う。上記のように、発生した電磁波が導波管内部の陽極を通過して効率良く高出力の電磁波にするためには、導波管内部の陽極の位置を調整する必要がある。陽極が設置されている導波管内は真空が保持されている。このため、陽極の位置を変えるためには、導波管内の真空を破って一旦大気の状態にする作業が必要であり、作業が煩雑である。また、電磁波の出力を確認しながら導波管内部の陽極の位置を調整することができない。
【0007】
本開示は、上記の課題を解決するものであり、導波管内の真空状態を維持したまま導波管内部の陽極の位置を調整できる電磁波発生装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の電磁波発生装置は、陰極と、前記陰極に対向して配置され電子が通過可能な第一陽極と、この第一陽極の前記陰極とは反対側に接続された電磁波を導波する中空の導波管とを備え、前記陰極と前記第一陽極との間に高電圧パルスを印加して前記陰極から電子を引き出し、当該電子を前記第一陽極の方向に輸送し、前記第一陽極を通過した電子が前記導波管の内側で集群することにより仮想陰極を形成して電磁パルスが発生する電磁波発生装置において、
前記導波管の内部に少なくとも1個の第二陽極が設置され、前記第二陽極は、前記導波管の外部に設置された駆動機構により、真空中に設置された状態で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成されたものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の電磁波発生装置によれば、導波管内の真空状態を維持したまま導波管内部の陽極の位置の調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1による電磁波発生装置の構成を、内部を透視して示す斜視図である
【
図2】実施の形態1による電磁波発生装置の構成を示す断面図である。
【
図3】実施の形態1による電磁波発生装置の第二陽極および陽極ホルダーの構成を示す導波管の管軸に垂直な断面の拡大図である。
【
図4】実施の形態1による電磁波発生装置の別の構成の第二陽極および陽極ホルダーの構成を示す導波管の管軸に垂直な断面の拡大図である。
【
図5】実施の形態1による電磁波発生装置のさらに別の構成の第二陽極および陽極ホルダーの構成を示す導波管の管軸に垂直な断面の拡大図である。
【
図6】実施の形態1による電磁波発生装置の第二陽極を導波管に挿入する方法を説明する断面図である。
【
図7】実施の形態1による電磁波発生装置の別の構成を示す断面図である。
【
図8】実施の形態2による電磁波発生装置の構成を示す断面図である。
【
図9】実施の形態3による電磁波発生装置の構成を示す断面図である。
【
図10】実施の形態4による電磁波発生装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による電磁波発生装置100の構成を、内部を透視して示す斜視図、
図2は導波管の管軸を含む断面により示す断面図である。電磁波発生装置100は、陰極1と、この陰極1に対向して設置された第一陽極2とを備え、第一陽極2の陰極1の反対側(下流)(陰極1に近い側を上流、陰極1から遠い側を下流と呼ぶことにする)には導波管3が設けられている。陰極1と第一陽極2とは電気的に絶縁されるよう、間に碍子15が設けられている。導波管3の、第一陽極2が設けられている端部とは反対側の端部には電磁パルス70を透過させる出力窓31が設けられている。陰極1と第一陽極2の間の空間、および導波管3の内部は真空状態が保持されるように、陰極1、第一陽極2、導波管3の少なくとも一部、は真空容器4内に配置されており、導波管3の端に設けられている出力窓31は導波管3と、気密に固定されている。
【0012】
導波管3は、円形導波管であり、その軸(導波管3の管軸)Z-zは、透過窓31と交叉する。陰極1は、導波管3の軸Z-zの延長上にある。第一陽極2、真空容器4、導波管3は電気的に接続され、同電位に保たれている。通常、真空容器4は接地電位とするため、第一陽極2の電位も接地電位となる。導波管3の内部には、管軸方向に第一陽極2の側から順に、第二陽極21および第二陽極22の2つの陽極が配置されている。第二陽極21および第二陽極22は導波管3と同電位、すなわち第一陽極2と同電位になるよう構成されている。導波管3内部に設置されている第二陽極21および第二陽極22は、導波管3の外部に設けられた駆動機構51および駆動機構52により導波管の管軸と平行な方向に移動可能となっている。
【0013】
駆動機構51は、駆動軸511、ギア512、ハンドル513、およびハンドル513の回転軸を、気密を保って真空容器4を貫通して回転可能にする磁性流体シール514、から構成されている。駆動機構51のうち、少なくとも駆動軸511およびギア512は真空容器4の内部に配置されている。駆動機構51を駆動する駆動装置であるハンドル513は、真空容器4の外部に設置され、ハンドル513を回転することにより、ギア512を介して駆動軸511が回転するよう構成されている。駆動軸511は第二陽極21を支える陽極ホルダー211、および第二陽極22を支える陽極ホルダー221を貫通している。陽極ホルダー211および駆動軸511には、貫通する部分にねじが設けられ、駆動軸511が回転することにより陽極ホルダー211が駆動軸511の延びる方向、すなわち導波管3の管軸と平行な方向に移動するよう構成されている。陽極ホルダー221の駆動軸511が貫通する部分は単なる貫通穴(バカ穴)となっている。駆動機構52は、駆動機構51と同様の構成であり、駆動軸521、ギア522、ハンドル523、および磁性流体シール524から構成されている。駆動軸521は第二陽極21を支える陽極ホルダー211、および第二陽極22を支える陽極ホルダー221を貫通している。陽極ホルダー221および駆動軸521には、貫通する部分にねじが設けられ、駆動軸521が回転することにより陽極ホルダー221が導波管3の管軸と平行な方向に移動するよう構成されている。陽極ホルダー211の駆動軸521が貫通する部分は単なる貫通穴(バカ穴)となっている。駆動軸511および駆動軸521は、真空容器4の下流側の端部の壁に、駆動軸が回転可能なように、例えば軸受けを介して固定されている。以上のように、駆動機構51および52は、駆動装置であるハンドル513および523が真空容器4の外部に設置され、磁性流体シール514により気密を保って、外部に設置された駆動装置により駆動されるように構成されている。
【0014】
図3は、第二陽極21の部分の、導波管3の管軸に垂直な断面を示す拡大図である。第二陽極21は、電子が透過しやすい金属メッシュあるいはμm程度の厚みを持つ金属薄膜にて構成される。第二陽極21は4方向から、陽極ホルダー211に固定されている支持部材212により陽極ホルダー211の中央に支持されている。支持部材212は、導波管3の管壁に設けられたスリット32を貫通して陽極ホルダーに固定されている。スリット32は、導波管3の管軸と平行な方向に、第二陽極21の移動可能な距離以上の長さに延びるスリットである。第二陽極22の部分の断面も
図3と同様である。なお、
図3では、第二陽極21を支持するため、4方向から支持部材212により支持する構成を例として示しているが、第二陽極21を固定できれば、4方向から支持する構成でなくても例えば3方向から、あるいは2方向から支持する構成でもよい。
【0015】
図4は、実施の形態1による別の構成による第二陽極21の部分の、導波管3の管軸に垂直な断面を示す拡大図である。
図4に示すように、駆動軸511、および駆動軸521の周方向の位置は、支持部材212と同じ周方向の位置に設定する必要は無く、任意に設定できる。したがって、例えば第二陽極が3個ある場合は、
図5に示すように、3つ目の第二陽極を駆動するための駆動軸551を含めて、駆動軸511、521、および551を周方向の適当な位置に設定することができる。
【0016】
電磁波発生装置100は、真空状態において第一陽極2と陰極1との間に、高電圧パルス電源10から高電圧パルスが印加されることにより電子ビームを発生させる。第一陽極2は、電子が透過しやすい金属メッシュあるいはμm程度の厚みを持つ金属薄膜にて構成される。電磁波発生装置100は、真空状態において導波管3の内部で電磁パルスを発生させる。したがって、陰極1と第一陽極2の間、および導波管3の内部は、予め決められた真空度以下の真空度に保たれている必要がある。真空度を保つため、陰極1と第一陽極2、および導波管3は真空容器4の内部に収納されている。また、駆動機構51および52のうち、少なくとも駆動軸511および521は真空容器4の内部に収納されている。駆動機構51および52の、真空容器4の壁を貫通する部分にはそれぞれ磁性流体シール514および524を有し、気密を保って駆動軸511および521を外部から回転駆動できるようにしている。
【0017】
図6は、第二陽極21を導波管3内に設置するときの方法を説明する断面図である。導波管を覆う真空容器4が陰極側の真空容器4と結合されていない状態で、支持部材212により陽極ホルダー211に支持されている第二陽極21を、導波管3の陰極側の端部から挿入する。導波管3には、支持部材212が挿入される位置に陰極側の端部までスリットが形成されている。支持部材212が導波管3に形成されたスリットを貫通した状態で、例えば駆動軸511を回転させながら、所定の位置まで挿入される。
図6では、第二陽極22がすでに挿入された状態を図示しているが、第二陽極22も同様の方法で挿入することができる。第二陽極21および第二陽極22を設置した後、
図6に示す真空容器4を陰極側の真空容器4と気密結合する。
【0018】
図7は、実施の形態1による電磁波発生装置100の別の構成を示す、導波管の管軸を含む断面図である。
図7に示す電磁波発生装置100は、
図2に示す電磁波発生装置100と、駆動機構51、52が異なり、その他の構成は
図2に示す電磁波発生装置100と同様である。
図7における駆動機構51および駆動機構52は、真空容器4の出力窓31側の、導波管3の管軸に垂直な壁に磁性流体シール514および524が挿入され、外部のハンドル513および523を回すことにより、ハンドル513および523のそれぞれの回転軸と同じ軸を有する駆動軸511および521が回転されるように構成されている。
図2に示す構成と同じように、駆動軸511を回転させることにより、陽極ホルダー211が移動し、駆動軸521を回転させることにより陽極ホルダー221が移動する。
図4の駆動機構51および52も、
図2と同様、真空容器4の壁を貫通する部分にそれぞれ磁性流体シール514および524を有し、気密を保って駆動軸511および521を外部から回転駆動できるようにしている。
【0019】
図2および
図7の電磁波発生装置100において、駆動機構51および52の少なくとも駆動軸511および521が真空容器4の内部に配置され、それぞれ真空容器4の壁を貫通する磁性流体シール514および524を介して真空容器4の外部からハンドル513およびハンドル523のような駆動装置により駆動軸511および521を回転駆動して、真空容器4の内部の真空度を保ったまま、第二陽極21および22の位置をそれぞれ単独で移動させることができる。駆動装置であるハンドル513および523は、モーターなど電動制御できる駆動装置であってもよい。
【0020】
次に、電磁波発生装置100の動作を説明する。真空容器4の内部は、気圧が、例えば、0.1mPa程度の高真空に保たれている。この状態で、高電圧パルス電源10により第一陽極2と陰極1との間に、パルス幅が数10ns~100ns程度のパルス状の高電圧(数100kV以上)が印加される。高電圧パルスが印加されると、陰極1から第一陽極2に向けて電子が引き出され、電子ビーム20が生成される。電子ビーム20は、第一陽極2を抜けて導波管3の内部に入射する。このとき、電子ビームの電流が以下の式(1)で表す導波管3内の空間電荷制限電流Icを越えると、導波管3の内部に、仮想陰極6が形成される。
Ic = 8.5×(γ2/3 - 1)2/3 / ln(r/b) [kA] (1)
【0021】
ただし、式(1)において、γ、r、bは、それぞれ、電子のローレンツ因子、導波管半径、電子ビーム半径である。電子のローレンツ因子γは印可電圧V、電気素量e、電子質量me、光速度cを用いて以下の式(2)の通り表される。
γ = 1+eV/(mec2) (2)
【0022】
仮想陰極6は空間的に電子が集群した領域である。そのため、第一陽極2を抜けて仮想陰極6に向かう電子は、仮想陰極6の電位により減速し、反射する。その結果、陰極1と仮想陰極6との間で、電子が振動運動を行い、電磁パルスが発生する。
【0023】
仮想陰極6は、第一陽極2と第二陽極21の間に形成されるよう第一陽極2と第二陽極21の距離を設定する。電子は、さらに第二陽極21を抜けて、第二陽極21と第二陽極22の間に仮想陰極61を形成する。第二陽極22を抜けた電子は、第二陽極22の下流にさらに仮想陰極62を形成することもある。このようにして電子と電磁波の相互作用により、下流において高出力の電磁パルス70となり、出力窓31から電磁パルスが出射される。
【0024】
第一陽極2と陰極1との間の距離dと、電磁パルスの周波数fとの間には、式(3)の関係がある。
f = c/(2πd) ln[γ+(γ2-1)1/2] (3)
【0025】
また、第一陽極2と陰極1との間の距離dと、陰極1の表面の面積Aに対し、高電圧パルス電源10から見た電磁波発生装置100のインピーダンスは、以下の式(4)のように表される。
Z = 0.429・106d2/(AV1/2) (4)
【0026】
このため、電磁波発生装置100で発生しようとする電磁パルスの周波数および高電圧パルス電源10のインピーダンスにあわせて距離dおよび面積Aが調整される。
【0027】
電磁波発生装置100で発生させる電磁パルスの周波数は、式(3)となるため、電磁パルスの周波数を変更する場合は、第一陽極2と陰極1との間の距離d、もしくは導波管を通過する電子のエネルギー、すなわち第一陽極2と陰極1間の印加電圧Vを調整する必要がある。例えば距離d=10[mm]を固定したとき、周波数3[GHz]の電磁パルスを発生させる場合は、電圧V=80[kV]に調整し、周波数4[GHz]の電磁パルスを発生させる場合は、電圧V=200[kV]に調整する。また、電圧V=200[kV]で固定したときは、周波数3[GHz]を発生させる場合は、距離d=13[mm]に調整し、周波数4[GHz]の電磁パルスを発生させる場合は、距離d=10[mm]に調整する。電磁パルスが導波管3を通過するためには、電磁波の周波数が導波管3の遮断周波数以上である必要がある。発振する電磁波はTMモードである。単一モードで電磁波を発振させるために、導波管の遮断現象を利用し、通常は基底モードであるTM01モードを発振させる。そのためには、発振する電磁波の周波数fを下記の通り選択する必要がある。
【0028】
f01 < f < f02 (5)
ただし、f01、f02はそれぞれTM01モード、TM02モードの遮断周波数である。各モードの遮断周波数のうち、TM02モードの遮断周波数f02が、基底モードであるTM01モードの遮断周波数f01に最も近い遮断周波数となる。遮断周波数は一般的にベッセル関数の根として与えられ、次のように導波管の半径rを用いて表される。
f01 = 1.20c/(rπ) (6)
f02 = 2.76c/(rπ) (7)
導波管3の半径rは一定であるので、電磁パルスの周波数を、f01とf02との間で変化させることができる。
【0029】
導波管3のモードがTM
01モードの場合、導波管3の壁面電流は導波管の管軸方向の成分のみである。第二陽極21および第二陽極22を支持する支持部材212および支持部材222が導波管3を貫通する部分に設けられているスリット32は、管軸方向に長く幅が細いため、壁面電流を乱すことがほとんど無く、電磁パルスの損失への影響および外部への放射の問題がほとんどない。また、
図6の説明で記載したように、スリット32を導波管3の例えば陰極側の端部まで切っておくと、第二陽極21および22を容易に挿入でき、第二陽極の設置が簡単にできる。このような長いスリットであっても、電磁パルスの損失への影響および外部への放射の問題はほとんどない。
【0030】
電磁パルスの周波数が目的とした周波数になるよう、陰極1と第一陽極間の距離d、または第一陽極2と陰極1間の印加電圧Vを調整する。陰極1と第一陽極間の距離は、例えば、陰極1を導波管3の管軸と平行な方向に移動可能として、陰極1の位置を移動させることにより調整可能である。または後述するように第一陽極2を移動可能とすることによっても調整可能である。
【0031】
第一陽極2と第二陽極21の間の距離D1として、電磁パルスの出力が大きくなるよう第二陽極21の位置を設定する。第一陽極2と第二陽極21の間には、仮想陰極6が形成されるため、形成される仮想陰極6の状態により第二陽極21の位置を最適化する必要がある。また、第二陽極21と第二陽極22の間の距離D2も電磁パルスの出力に影響する。したがって、第二陽極22の位置も最適化する必要がある。第二陽極21と第二陽極22の間には、仮想陰極61が形成される。仮想陰極6と仮想陰極61とは、形成される領域および電子密度が異なるため、第一陽極2と第二陽極21の間の距離D1と、第二陽極21と第二陽極22の間の距離D2の最適値は通常異なる。
【0032】
真空容器4内部の真空度を保ったまま、第二陽極21は駆動機構51により移動させ、第二陽極22は駆動機構52により移動させるように構成されている。したがって、真空容器4の内部の真空度を保ったままそれぞれの第二陽極を移動させることができるため、電磁パルスを発生させ、例えば、電磁パルスの出力を検知しながら、それぞれの第二陽極の最適位置を探査して、第二陽極21と第二陽極22の位置を決定することができる。
【0033】
以上のように、実施の形態1の電磁波発生装置によれば、導波管3内に設置されている第二陽極21および第二陽極22の位置を、真空容器4内部の真空度を保ったまま移動可能としたことにより、真空を破って導波管内に設置された第二陽極の位置を移動させることなく、第二陽極の位置を発生させる電磁パルスの周波数に適した位置に設定できるので、導波管の真空を保ったままで、目的の周波数を変更することができる。
【0034】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る電磁波発生装置200の構成を示す、導波管の管軸を含む断面図である。電磁波発生装置200は、導波管を、伸縮可能な金属製のベロウズ30で構成している。第二陽極21および22はそれぞれ支持部材212および222を介してベロウズ30の内側に支持されている。第二陽極21が固定されている位置のベロウズ30の外側に陽極ホルダー211がベロウズ30に固定され、第二陽極22が固定されている位置のベロウズ30の外側に陽極ホルダー221がベロウズ30に固定されている。それぞれの部材のベロウズ30への固定は、例えばロウ付けなどにより行われている。
【0035】
図8の構成では、ベロウズ30を気密とすることにより、ベロウズ30の外側は大気に解放されている。真空容器40とベロウズ30を気密に接合することにより、真空容器40は、陰極1と第一陽極2の間の空間を覆うように構成すればよい。
【0036】
図8の構成では、第二陽極21および第二陽極22を移動可能で、かつ調整した位置に固定するため、端板45に固定され、導波管の管軸と平行な方向に延びた位置調整ねじ512を2本、駆動機構として備えている。位置調整ねじ512は、陽極ホルダー211および221を貫通している。陽極ホルダー211および221は、この貫通部分で、両側からナットで抑えることにより位置調整ねじ512に固定されている。固定される位置は、ナットを回すことにより、自由に移動させることができる。また、
図7と同様の駆動機構を大気中に設置することにより、導波管の管軸、すなわちベロウズ30の中心軸と平行な方向に移動させるようにしてもよい。この場合、駆動機構は、大気中において、例えば真空容器40が固定されている基台に固定されている端板45に、それぞれ、通常の軸受けを用いて取り付けることができる。
【0037】
実施の形態2に係る電磁波発生装置200によれば、導波管を、ベロウズ30で構成することにより、第二陽極21および22の位置を移動させるための駆動機構を真空中に設置することなく、真空中に設置されている第二陽極21および第二陽極22を移動させることができる。
【0038】
実施の形態3.
図9は、実施の形態3に係る電磁波発生装置300の構成を示す、導波管の管軸を含む断面図である。電磁波発生装置300は、第一陽極2の位置を移動可能としている。また、第二陽極は第一陽極2に近い側の第二陽極21のみを備えている。ただし、第二陽極は2つ以上備えられても良いのは言うまでもない。
【0039】
第一陽極2は
図3と同様の構成により、陽極ホルダー201に支持されている。すなわち、第一陽極2は4方向から、陽極ホルダー201に固定されている支持部材202により支えられている。支持部材202は、導波管3の管壁に設けられたスリットを貫通して陽極ホルダー201に固定されている。このスリットは、導波管3の管軸と平行な方向に、第一陽極2の移動可能な距離以上の長さに延びるスリットである。
【0040】
第一陽極2は、駆動機構54により位置を移動させられる。駆動機構54は、
図2に示した駆動機構51と同様であり、駆動軸541、ギア542、ハンドル543、磁性流体シール544から構成されている。
図9に示すように駆動機構54は上下2個備えられている。それぞれの駆動軸541は、第二陽極21の陽極ホルダー211を貫通し、第一陽極2の陽極ホルダー201の貫通部にはねじが設けられ、駆動軸541が回転することにより、陽極ホルダー201が、導波管3の管軸と平行な方向に移動する構成となっている。
【0041】
同様に、第二陽極21は、陽極ホルダー211により支持されており、上下に設けられた2つの駆動機構53により、導波管3の管軸と平行な方向に移動する構成となっている。駆動機構53は、
図2に示した駆動機構51と同様であり、駆動軸531、ギア532、ハンドル533、磁性流体シール534から構成されている。それぞれの駆動軸531は、第二陽極21の陽極ホルダー211の貫通部にはねじが設けられ、駆動軸531が回転することにより、陽極ホルダー211が移動する。
【0042】
図9に示す駆動機構の構成、すなわち複数の陽極を移動させる構成は、実施の形態1あるいは実施の形態2の複数の第二陽極を移動させる電磁波発生装置に適用することができるのは言うまでもない。また、実施の形態1あるいは実施の形態2の複数の第二陽極を移動させる構成を、第一陽極と第二陽極を移動させる構成に適用することもできる。
【0043】
式(3)に示すように、陰極1と第一陽極2との間の距離dを変化させると、電磁パルスの周波数を変化させることができる。したがって、第一陽極2の位置を変化させて、電磁パルスの周波数を所望の周波数とするとともに、電磁パルスの周波数に合わせて第二陽極21の位置を変化させることにより、所望の周波数の高出力の電磁パルスを効率高く発生させることができる。
【0044】
実施の形態4.
図10は実施の形態4による電磁波発生装置の構成を、断面図および制御系統をブロック図で示す図である。
図10において、電磁波発生装置の要部は
図2の構成を例として示し、制御系統をブロック図として付加している。ただし、
図2に示した駆動機構51の駆動装置としてのハンドル513、および駆動機構52の駆動装置としてのハンドル523は、それぞれモーター515およびモーター525に置き換えている。駆動装置としてのモーター515および525は、制御器80により制御される。
【0045】
制御器80は、高電圧パルス電源10の電圧を、発生する電磁パルスが所望の周波数となる電圧に設定する。実際に高電圧パルス電源10により陰極1と第一陽極2の間に、設定された電圧を印加して電磁パルスを発生させ、出力窓31から出射される電磁パルスを電磁パルスモニタ90で検出する。制御器80は、駆動装置であるモーター515、およびモーター525を制御し、第二陽極21および第二陽極22の位置を移動させながら、電磁パルスモニタ90からの信号が最大となる位置を探索して、第二陽極21および第二陽極22の位置を決定する。
【0046】
以上のように、実施の形態4による電磁波発生装置100は、出力される電磁パルスを検知する電磁パルスモニタ90の出力を入力信号とする制御器80を備え、制御器80が、陰極1と第一陽極2の間に印加するパルス電圧を発生する高電圧パルス電源10の電圧を設定し、電磁パルスモニタ90の出力信号をモニタしながら第二陽極21および第二陽極22のそれぞれの駆動機構51および52を制御するように構成したので、真空容器4の真空を破ることなく、それぞれの第二陽極の適切な位置を探索することができる。
【0047】
本開示には、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0048】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
陰極と、前記陰極に対向して配置され電子が通過可能な第一陽極と、この第一陽極の前記陰極とは反対側に接続された電磁波を導波する中空の導波管とを備え、前記陰極と前記第一陽極との間に高電圧パルスを印加して前記陰極から電子を引き出し、当該電子を前記第一陽極の方向に輸送し、前記第一陽極を通過した電子が前記導波管の内側で集群することにより仮想陰極を形成して電磁パルスが発生する電磁波発生装置において、
前記導波管の内部に少なくとも1個の第二陽極が設置され、前記第二陽極は、前記導波管の外部に設置された駆動機構により、真空中に設置された状態で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成された電磁波発生装置。
(付記2)
前記導波管は、真空容器の内部に設置され、前記駆動機構の少なくとも一部は前記真空容器と前記導波管との間の空間に設置された付記1に記載の電磁波発生装置。
(付記3)
前記駆動機構は前記真空容器の外部に設置された駆動装置により駆動される付記2に記載の電磁波発生装置。
(付記4)
前記第二陽極は、前記導波管に設けられたスリットを貫通する支持部材を介して前記導波管の外部に配置された陽極ホルダーにより支持され、前記陽極ホルダーが前記駆動機構により移動される付記2または3に記載の電磁波発生装置。
(付記5)
前記導波管は、内部を真空に保持することが可能な金属製のベロウズにより構成され、前記第二陽極は前記ベロウズに固定されるとともに、前記ベロウズの外部に前記駆動機構が設けられた付記1に記載の電磁波発生装置。
(付記6)
前記第二陽極が、前記導波管の管軸方向に複数配置された付記1から5のいずれかに記載の電磁波発生装置。
(付記7)
複数の前記第二陽極は、前記駆動機構により、それぞれ単独で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成された付記6に記載の電磁波発生装置。
(付記8)
前記第一陽極が、前記導波管の外部に設置された駆動機構により、真空中に設置された状態で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成され、前記第一陽極および前記第二陽極はそれぞれ単独で前記導波管の管軸と平行な方向に移動されるよう構成された付記1から6のいずれかに記載の電磁波発生装置。
(付記9)
前記陰極と前記第一陽極との間にパルス電圧を印加する高電圧パルス電源と、
前記導波管から出力される前記電磁パルスの強度を検出する電磁パルスモニタと、
設定される電磁パルスの周波数と前記電磁パルスモニタからの検出信号に基づいて、前記高電圧パルス電源と、前記駆動機構とを制御する制御器と
を備えた付記1から8のいずれかに記載の電磁波発生装置。
【符号の説明】
【0049】
100、200、300 電磁波発生装置、1 陰極、2 第一陽極、3 導波管、4 真空容器、6、61、62 仮想陰極、10 高電圧パルス電源、21、22 第二陽極、30 ベロウズ、51、52、53、54 駆動機構、512 位置調整ねじ(駆動機構)、513、523、533、543 ハンドル(駆動装置)、515、525 モーター(駆動装置)、70 電磁パルス、80 制御器、90 電磁パルスモニタ