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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179392
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/36 20060101AFI20241219BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H05B6/36 B
H05B6/10 361
H05B6/10 381
H05B6/36 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098205
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB24
3K059AB26
3K059CD44
3K059CD53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】直進走行する長尺金属の誘導加熱装置の加熱効率の向上を図る。
【解決手段】直進する被加熱材を包囲して約1000℃に誘導加熱する装置であって、ソレノイド型誘導コイルの構造を従来の銅管からCCコンポジット管又は黒鉛管に螺旋溝を入れてコイルを形成したものに変更し、水冷を排除する。被加熱材への誘導加熱に抵抗発熱コイルの輻射加熱が付加され、加熱能力及び加熱効率の向上が得られる。コイルの導体断面積とコイルピッチを入側から出側に向けて傾斜的に増加させ、加熱能力を上流側優位に分配させ、コイルの実効長を拡大する。コイルの昇温(2000℃)と加熱時間増(2倍以上)により輻射加熱が有効になる。コイル出側の異常昇温(2600℃)が回避され、耐火物が耐久する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直進する棒・線・条・平・板状の鋼材をソレノイド型コイルに貫通させて誘導加熱する装置であって、ソレノイド型コイルの導体材質を水冷銅管から黒鉛又はCCコンポジットに変更して抵抗発熱体の機能を併発させるとともにコイル長を拡張し、該ソレノイド型コイルの形状を入口側から出口側に向けて導体断面積とコイルピッチとをそれぞれ傾斜的に増加させて、抵抗加熱能力の分布を入口部で最大、出口部で最小としたことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
ソレノイド型コイルを内装する炉体の構造が、炉内を非酸化性にする雰囲気制御装置と、耐火物である黒鉛・アルミナ・アルミナ繊維・マグネシアのどれか2種以上を使用した多層の耐火断熱壁とを具備したことを特徴とする請求項1に記載した誘導加熱装置。
【請求項3】
被加熱材の目標加熱温度が1000±200℃の場合、ソレノイド型コイルの温度を1600℃以上2600℃以下としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直進する長尺金属の連続誘導加熱において、省エネルギーに適した誘導加熱装置に関している。
【背景技術】
【0002】
金属、特に鉄鋼の加熱に当たって、その優れた冶金的特徴と便宜性からしばしば誘導加熱が適用される。誘導加熱の最大の特徴は、高エネルギー密度とそれに起因する急速加熱である。急速加熱により、鋼の表皮焼入、結晶粒微細化による強靱化、無脱炭処理等の冶金的効果が得られる。また非加熱材と誘導コイルの形状の整合により部分加熱、局所熱処理等も容易で特殊な応用であろう。
他方、問題として、高価な電力を使用するも加熱効率(=必要加熱量J/消費電力量J)があまり良くないことが挙げられる。高級品や小物であったり少量多品種生産であれば加熱効率は特に問題とされてこなかったが、省エネルギーは製品・設備の大小に関わらず喫緊の課題である。
【0003】
加熱効率に関わる理論的要因は概ね解明されている。従って装置の設計に際しては、被加熱物に対してコイル形状・周波数・起磁力(アンペアターン)・コイルと被加熱材間距離・コイル保護等の要因の適正化が図られる。
太い鋼材をキューリー点以下に加熱する場合、加熱効率は約80%に近い水準が得られるが、細径鋼線を約1000℃に加熱する場合、諸要因、特にコイル径比(=材料径/コイル径)の縮小により誘導効率が低く、加熱効率は50%に満たないことが多い。
【0004】
誘導加熱は交流の表皮効果を応用したものである。表皮効果は被加熱材だけでなく1次側導体にも発現する。誘導効率を強化すべく表皮効果を強化すると1次側の表皮効果作用の増加をもたらし、コイル発熱の増大となる。エネルギーロスは被加熱材側にもあるが、誘導コイル及び電源を含めた回路全体の方が大きい。
【0005】
特許文献1に事例があるように、誘導コイルは通常銅管を材料としてコイル状に形成し、冷却水路が組み込まれる。コイルの水冷が不都合であるわけではなく発熱が不都合である。発熱の一部でも利用できれば省エネルギーに寄与することになる。
【0006】
以上、誘導加熱の一般的な問題を提示したが、長物鋼材(棒鋼・線材・条鋼・平鋼・板材等)を直進させて連続的に誘導加熱する際の問題を検討する。
火炎炉又は輻射式電気加熱炉であれば、熱源から被加熱物への伝熱性は大きくないので炉長が長くなり、入口部は冷材の侵入により炉壁温度が低下する。出口部で炉壁・鋼材とも最高温度になる。入口部の加熱能力が強化されるがこの傾向は解消されない。また炉長・炉体の拡大は当然放熱損失の増大をもたし、加熱効率の低下となる。
対して誘導加熱では加熱能力・エネルギー密度が極めて大きく、且つ直接加熱であるので炉長(コイル長)は著しく短縮され、加熱能力はコイル各部ほぼ均等であり、放熱損失は僅かである。ただコイルの発熱損(投入電力の数10%で水冷により廃棄される)だけはどうすることもできない。
【0007】
特許文献2にはコイルの発熱損を回収する誘導加熱コイルが開示されている。それによると、コイルの材料を黒鉛で造形して従来の水冷銅管を排し、誘導加熱に併行してジュール熱によって赤熱したコイルから非加熱材に輻射加熱を上乗せし、加熱効率の向上を図る。黒鉛の空気酸化による消耗に対してはアルミナ粉末を溶射被覆する。
【0008】
当該方法の問題点を検討する。
第1に、被加熱物を1個ずつ出入して加熱する回分式にしろ、長尺物を貫通走行加熱する連続式にしろ、誘導加熱の加熱速度は通常火炎又は輻射加熱のそれの10倍から数10倍大きい。そうでないと誘導加熱の意味がない。加熱速度が大きいと言うことは加熱時間が極めて短いことになる。輻射加熱を上乗せしても短時間であるから加熱強化への寄与は小さいと帰結される。上記ハイブリ加熱を成功させるには当加熱時間不足問題を解決しなければらない。
解決案には超高温輻射による輻射の抜本強化の可能性が想定されるが、充分な定量的検討が不可欠であり、残念ながら記載や暗示はなされていない。
【0009】
第2に、誘導コイルには加熱能力に対応して通常大電流が付加されコイルの発熱が大きい。その上コイル内面に対面する被加熱物への伝熱面積は小さいので輻射量は大きくない。両作用からコイルは容易に昇温する。昇温は輻射伝熱を促進するが、外部への輻射放熱も増大し、効率低下を誘発する。発熱体コイルに耐火断熱体を周設して外部への熱損を軽減しようとすると異常高温による耐火物問題が発現する。
特に連続加熱の場合、コイル入口部は冷材の侵入によりコイルは冷却されるが出口部では異常昇温になりやすい。2600℃の超高温コイルを想定すると、誘導加熱に準ずる能力の増強も期待されそうだが、耐火物耐久の問題が解決不能になる。
電力損の軽減策としての誘導と輻射のハイブリ加熱は着想としては優れるが、実用化するためには、輻射を有効とするための超高温輻射と耐火物の耐久と言うトレードオフの関係を解決しなければならない。
両伝熱の10倍以上の出力比(被加熱側から見ると入力比)に起因する既述の加熱時間の本質的不足問題も、ある程度は超高温輻射に期待が持てそうだが、当該問題も解決しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】公開特許公報2022-082731
【特許文献2】特許公報昭和41-7142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
直進走行する金属材料の連続誘導加熱において、投入された電力の少なくない部分が誘導加熱コイルの発熱に消費され、水冷によって無駄に放出されている。本発明は、高々60%である加熱効率(=被加熱材への蓄熱量/消費熱量)を向上させることを目的とし、改良手段として誘導コイルを黒鉛によって形成して該誘導コイルに抵抗発熱体の機能を具備させ、誘導と輻射のハイブリ加熱を併発させることを適用する。
【0012】
ハイブリ加熱は容易に実施できそうだが、通常の約1000℃輻射加熱の加熱能力は誘導加熱のそれの1/10にも満たず、実質的に補助加熱の能力が得られない。
超高温輻射加熱と加熱時間の延長との両策を想定すると、それなりの効果が期待さそうだが外部への放熱損を抑制する手段として、耐火断熱材の附設が不可欠となる。その際超高温故に耐火物耐久が問題となる。特に連続加熱では冷材の侵入に起因して必然的に誘導コイル出口部は入口部と比較して昇温が大きく、付加電流に対応して容易に異常高温に達する。
コイル昇温による輻射加熱能力の強化と耐火物耐久とのレードオフの関係を解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、直進する棒・線・条・平・板状の鋼材をソレノイド型コイルに貫通させて誘導加熱する装置であって、ソレノイド型コイルの導体材質を水冷銅管から黒鉛又はCCコンポジットに変更して抵抗発熱体の機能を併発させるとともにコイル長を銅管製よりも拡張し、該ソレノイド型コイルの形状を入口側から出口側に向けて導体断面積とコイルピッチとをそれぞれ傾斜的に増加させて、抵抗加熱能力の分布を入口部で最大、出口部で最小としたことを特徴とする誘導加熱装置である。
【0014】
第2の発明は、ソレノイド型コイルを内装する炉体の構造が、炉内を非酸化性にする雰囲気制御装置と、耐火物である黒鉛・アルミナ・アルミナ繊維・マグネシアのどれか2種以上を使用した多層の耐火断熱壁とを具備したことを特徴とする第1発明に記載した誘導加熱装置である。
【0015】
第3の発明は、被加熱材の目標加熱温度が1000±200℃の場合、ソレノイド型コイルの温度を1600℃以上2500℃以下としたことを特徴とする第1発明又は第2発明に記載した誘導加熱装置である。
【発明の効果】
【0016】
従来の水冷銅管製の誘導コイルでは投入電力の30~60%がコイルの誘導発熱に消費され、コイル冷却水によって廃棄されている。本発明では排熱が無くなること、その上耐火断熱体の周設によりコイルが昇温し、誘導加熱だけではなく輻射加熱の能力が発現する。
コイル温度が目標加熱温度の約1000℃に近いと、輻射は誘導に比較して過小ゆえに見るべき効果は得られないが2000℃に近づくと、輻射は絶対温度の4剰に比例して増大するので、補助加熱能力が発現する。総合加熱能力は本来の誘導加熱の能力を充分上回る。同時に省エネルギーが図られる。
【0017】
直進する被加熱材を誘導加熱し、且つ輻射加熱を重ねる場合、均等発熱コイルでは発熱体の温度は発熱体自体の発熱能力と被加熱材による吸熱の差に対応して昇温し、ある温度で均衡する。後者の吸熱は入口部では冷材であるから大きく、出口部では昇温しているので小さく、全体は傾斜昇温となる。設定温度を輻射加熱の能力が発揮される約2000℃としようとすると出口部では過剰昇温となって耐火物の耐久が困難となる。
【0018】
本発明の発熱体(黒鉛製コイル)による輻射加熱では、導体断面積が出口に向かって傾斜的に増加、従って抵抗は傾斜的に減少するので、発熱は入口側で強化、出口側で抑制され、コイルの異常昇温は解消され均熱性が得られる。耐火物問題の解決が容易になる。直進鋼材の輻射式連続加熱に好都合な加熱装置となる。
【0019】
黒鉛の電気抵抗率は銅のそれの約400倍である。コイルの寸法は必然的に半径方向・軸方向に大きくなる。コイル長が拡大する。これはコイルから被加熱材への伝熱面積・伝熱時間の増加をもたらし輻射加熱の時間不足問題を軽減する。
黒鉛製の導体は450℃以上では空気により酸化消耗してコスト上の問題となるが、当該問題は非酸化性の雰囲気制御により容易に解決される。
【0020】
本発明の誘導加熱は起磁力(磁束密度)即ち加熱能力はコイルピッチに起因して入口部で大きく出口部で小さい。誘導によるコイル自体の発熱も入口部で大きく、出口部で小さい。これは上記の抵抗発熱と同様コイルの均熱化に作用し、効率的加熱に寄与する。
コイルピッチの傾斜的増加はもう一つの効果を生む。コイルの実効長が増加し、既述のように輻射加熱の加熱時間不足問題を軽減し、輻射加熱の効果を発揮させ、実用的省エネルギー型ハイブリ加熱がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の直進走行する棒・線・条・平・板状金属の連続誘導加熱装置の概略図である。
図2】連続誘導加熱装置のコイル部分の概略図である
図3】従来の水冷均等コイルと発熱均等コイルと本発明の発熱傾斜コイルの3種の加熱装置におけるコイル温度と被加熱材温度の時間変化の定性的な比較を示す。
図4】円筒状黒鉛発熱体から円柱状鋼材への輻射における温度と熱流束の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に従って本発明の直進走行する棒・線・条・平・板状金属を連続誘導加熱する装置について説明する。
被加熱材の鋼線1がソレノイド型の誘導コイル2を貫通して走行する。該誘導コイル2の材質は黒鉛又はCCコンポジットであり、形状は管材に螺旋状の一定幅の溝を切ってコイルとしたものである。該誘導コイル2の両端には板状の電極3,4が嵌め込まれる。電極3,4には高周波電源5からブスバー6,7を介して通電される。電極3,4の材料も黒鉛又はCCコンポジットである。
【0023】
黒鉛の電気抵抗率は銅のそれの400~600倍である。導体断面積の拡大が不可欠になる。コイルの寸法は必然的に半径方向・軸方向に大きくなる。コイル長の拡大はコイルから被加熱材への伝熱面積・伝熱時間の増加をもたらし輻射加熱の時間不足問題を軽減する。
【0024】
該誘導コイル2の外周に該誘導コイル2と離反包囲して耐火断熱管8が設けられる。該耐火断熱管8の材質はCCコンポジット又は黒鉛繊維被覆黒鉛が望ましい。前者の熱伝導率は黒鉛の約1/15で断熱性があり、後者では黒鉛の伝熱性は大きいが黒鉛繊維の軸直交方向のそれは黒鉛の約1/100であって、耐火断熱には最高の性能を示す。
それぞれ誘導コイル2の温度が2600℃に達しても耐火上問題が生じない。該耐火断熱管8の配置により背面を構成するセラミック系の耐火物の熱負荷は一段軽減する。即ち発熱体の温度が不都合に変動しても耐火断熱管は背面の耐火物に対して緩衝材の機能を果たす。
【0025】
該耐火断熱管8を包囲して鉄皮9の中に耐火物10と断熱材11が多層に積層された耐火断熱体12(通常炉体とされる)が設けられる。該耐火断熱体12の高温側では良質の純アルミナ耐火物であれば2500℃に対して充分耐久する。他にアルミナ繊維、マグネシア耐火物が適切である、少し低温部ではシリカや種々の断熱材が使用可能である。
該耐火断熱体12の内部を非酸化性雰囲気とするようガス導入管13が設けられる。該ガス導入管13は発熱体を測温する放射式温度計14の測温窓として共用される。誘導コイル2の下流側には鋼線1の測温センサー15が設けられる。鉄皮9は装置全体の気密性を支えるよう設計する。
【0026】
通電により従来の銅管製コイルと同様に起磁力アンペアターンに対応して被加熱材の誘導加熱が発現する。同時に誘導コイル2は水冷がなされていないので発熱・昇温し、ある限度を越えると輻射により誘導加熱を補助する。水冷による損失が活用される。
【0027】
誘導コイル2の発熱は場合により2000℃以上にもなり鋼線1を輻射加熱する。発熱の一部は主に電極を通じて外部へ漏出する。漏出を最小化するため電極の構造が問題となる。黒鉛は酸化物系耐火物と比較して伝熱性が極めて大きい。構造上の工夫を要する。
【0028】
図2は本発明の誘導コイルの形状を示す。
誘導コイル21の内径Diと外径Doは一定とする。コイルピッチ(P)22を入側から出側に向け傾斜的の増加させる。そうすると誘導コイル21の導体断面積(S)23も入側から出側に向けて比例して増加する。コイルの抵抗分布は入側から出側に向けて傾斜低下となる。
起磁力(アンペアターン)はコイルピッチに比例する。ピッチを下流に向けて拡大していくと、起磁力も下流側に傾斜的に分散する。
【0029】
コイルを傾斜断面積、傾斜ピッチとする理由を以下に説明する。
第1の理由は発熱体を均熱化し、より高温に誘導することを可能にする。直進する被加熱材を輻射加熱する場合、均等発熱体では発熱体の温度は発熱体自体の発熱と被加熱材による吸熱の差に対応して昇温し、ある温度で均衡する。後者の吸熱は入口部では冷材であるから大きく、出口部では昇温しているので小さい。その結果、発熱体の温度は入口では低く、出口側に向かって高温になる。
これは入口部では加熱能力不足、出口部では過剰分が発熱体の異常高温(約2600℃以上)を誘発し、耐火物の耐久が解決不能になる。その結果自ずと誘導加熱の設計出力を抑制せざるを得なくなる。
【0030】
本発明の発熱体(黒鉛製コイル)による輻射加熱では、導体断面積が傾斜的に増加するので発熱能力は入口側で強化、出口側で低下し、異常昇温が回避され、コイルの均熱性が向上する。これにより所定電流値の通電に問題が無くなる。
本発明の誘導加熱も起磁力(磁束密度)即ち加熱能力はコイルピッチに起因して入側で大きく出側で小さい。誘導によるコイルの発熱も入側で大きく、出側で小さくなる。これは上記の抵抗発熱と同様コイルの均熱化に作用し、効率的加熱に寄与する。
【0031】
第2の理由はコイル長を無理なく拡張して輻射伝熱の時間不足を補償し、輻射加熱の効果を発揮させることである。コイルピッチを傾斜増加させるとコイル長が拡大する。
誘導におけるコイルの発熱損を効果的に輻射加熱に転用するには、誘導加熱速度を多少低下させ、その分コイル長(加熱長)を拡大し、輻射加熱時間を延長することが必要となる。
【0032】
図3は従来の均等水冷コイルと2倍長の均等発熱コイルと本発明の2倍長の傾斜発熱コイルの3種の加熱装置におけるコイル温度と被加熱材温度の時間変化を定性的に比較した図である。
均等水冷コイルAは従来の水冷銅管製であり、加熱能力分布は長さ方向均等である。コイル温度は水冷により常温一定であり、被加熱材温度は直線的に設定温度に接近する。
黒鉛製均等コイルBでは、輻射伝熱を付加するため伝熱面積の増加が必要であり、コイル長はある程度拡大(2倍)するのが望ましい。抵抗発熱は均等であるから、コイル温度は出側に向け昇温し、場合により異常範囲に入る。被加熱材の昇温速度は半減するがいずれ設定温度に接近する。異常を避けると昇温が低下する。
【0033】
本発明の黒鉛製傾斜コイルCでは、コイルBと同様コイル長を拡張する。コイルの発熱は入口部で強化、出口部で抑制され、適切に設計するとコイル温度は冷材侵入にも関わらず全長に渡り約2000℃を維持することができる。均熱性が改善され異常昇温にはならない。
被加熱材の昇温速度(℃/s)は多少抑制された誘導分と誘導分に近い輻射分により水冷銅管に匹敵又は凌駕する加熱能力が得られる。消費電力も低減する。
【0034】
輻射加熱能力について説明する。
被加熱材が発熱体から受ける熱流束Qは以下である。
Q(kcal/m2h)=e・k{(T1/100)4-(T2/100)4} ---(1)
e;放射率 k;ボルツマン係数 T1;発熱体温度(K) T2;被加熱体温度(K)
図4は上記式を図によって示したものである。輻射熱流束Qは1500℃を超えると急速に増大することが解る。実用範囲として1600℃以上と特定した。
【0035】
コイル温度T1=2300K(=2000℃)、被加熱体平均温度T2=800K(=500℃)、被加熱体放射率e=0.7とすると、
Q≒1,000,000kcal/m2h ---(2)
直径Dの被加熱材の加熱速度Rは以下の式で求められる。
R(℃/s)=4Q/cρD/3600 ---(3)
c;比熱 ρ;密度
試算すると、D=10mmの鋼線を加熱する場合の加熱速度は約100℃/sとなる。これは誘導加熱速度(数100℃/s)と同一桁の大きさであり、誘導と輻射のハイブリ加熱の実用性を支える。
T1=2000K(1700℃)とすると、加熱速度Rは約60℃/sとなり、実用範囲になる。
要約すると、ハイブリ加熱を有効にするには、1000℃の加熱に対して、少なくとも1600℃以上の発熱体と銅管製コイルよりも充分長いコイル長を要することである。
【0036】
発熱体の適正温度について説明する。
鋼に熱間加工や熱処理を施す場合、通常1000±200℃に加熱される。図4と上記試算から発熱体は1600℃あればハイブリ加熱は有効になる。他方2600℃を超えると高品質アルミナでも耐久困難となる。適正温度として1600℃以上2600℃以下を特定した。
【実施例0037】
特殊鋼の鋼線の熱処理に本発明の誘導加熱装置を適用する条件を以下に示す。図体は従来の銅製コイルと比較して著しく太くなるが断熱性に優れる。
能率; 1000kg/h
線径; 10mm
線速; 0.5m/s
加熱温度; 950℃
電源出力; 300kVA
電流; 1000A
電圧; 200~300V
コイル抵抗; 0.1Ω
コイル内径; 40mm
コイル外径; 100mm
コイルピッチ; 15~45mm
コイル巻数; 50
炉体寸法; 600mmφ×2500mm
【符号の説明】
【0038】
1;鋼線 2;誘導コイル 3,4;電極 5;高周波電源 6,7;ブスバー 8;耐火断熱管 9;鉄皮 10;耐火材 11;断熱材 12;耐火断熱体 13;ガス導入管 14;放射温度計 15;測温センサー 21;誘導コイル 22;コイルピッチ 23;コイル導体断面積 24;外径 25;内径
図1
図2
図3
図4