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特開2024-179398オーステナイト系ステンレス鋼板、水素ガス輸送管、およびバルブ、継手、計器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179398
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼板、水素ガス輸送管、およびバルブ、継手、計器
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241219BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241219BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20241219BHJP
   B21B 3/02 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D8/02 D
B21B3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098219
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】秦野 正治
(72)【発明者】
【氏名】松本 三月
(72)【発明者】
【氏名】濱田 辰巳
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA25
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CB02
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】板厚が4.5mm以上で、耐水素脆化性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】所定の化学組成を有し、板厚1/4部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/4)aveと、板厚1/2部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/2)aveと、の差が、0<GSNo(1/4)ave-GSNo(1/2)aveを満足し、板厚1/4部の結晶粒度番号および板厚1/2部の結晶粒度番号のうち、最小の結晶粒度番号であるGSNominが、4.5以上であり、板厚が4.5mm以上である、オーステナイト系ステンレス鋼板。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.15%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:2.5%以下、
P:0.060%以下、
S:0.0080%以下、
Cr:16.0~20.0%、
Mo:3.0%以下、
Ni:8.0~14.0%、
Cu:1.0%以下、
Co:0.01~1.0%、
N:0.25%以下、
Al:0~0.10%、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Ca:0~0.010%、
Mg:0~0.010%、
Zr:0~0.50%、
Ga:0~0.05%、
Hf:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で算出されるM値が-180~-75であり、
板厚1/4部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/4)aveと、板厚1/2部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/2)aveと、の差が、下記(ii)式を満足し、
前記板厚1/4部の結晶粒度番号および前記板厚1/2部の結晶粒度番号のうち、最小の結晶粒度番号であるGSNominが、4.5以上であり、
板厚が4.5mm以上である、オーステナイト系ステンレス鋼板。
M値=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.2Mo ・・・(i)
0<GSNo(1/4)ave-GSNo(1/2)ave ・・・(ii)
但し、上記(i)式中の各元素記号はオーステナイト系ステンレス鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Al:0.01~0.10%、
Nb:0.01~0.10%、
Ti:0.01~0.10%、
B:0.0002~0.0050%、
V:0.05~0.50%、
W:0.05~0.50%、
Ca:0.0002~0.010%、
Mg:0.0002~0.010%、
Zr:0.01~0.50%、
Ga:0.001~0.05%、
Hf:0.01~0.10%、および
REM:0.01~0.10%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
板厚1/4部において、下記(iii)式を満足する領域の面積率が90%以上である、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
Nis>0.8 ・・・ (iii)
但し、上記(iii)式中で、NisはNiの偏析度を表す。
【請求項4】
板厚1/4部において、下記(iii)式を満足する領域の面積率が90%以上である、請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
Nis>0.8 ・・・ (iii)
但し、上記(iii)式中で、NisはNiの偏析度を表す。
【請求項5】
水素ガス環境下で用いられる請求項1~4のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた水素ガス輸送配管。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた水素ガス用途のバルブ、継手または計器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板、水素ガス輸送管、およびバルブ、継手、計器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電段階でCOの排出を低減しうる、水素発電が注目されている。水素発電は、水素を燃料に使用した発電である。水素発電設備の一例として、例えば、特許文献1に記載された設備がある。このような水素発電設備では、多量の水素を輸送する必要があり、パイプライン等、様々な部品および部材が設置される。このような水素発電設備に用いられる部品および部材には、耐水素脆化性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-141058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素発電設備に用いられる部品および部材には、板厚の厚い、所謂、厚鋼板から製造されるものがある。ここで、所望する部品および部材の形状に加工するためには、一定量のひずみを厚鋼板に導入する必要がある。しかしながら、厚鋼板のように、厚い素材に一定量のひずみを導入して、水素環境で使用すると、水素脆化が生じやすくなるという課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、板厚が4.5mm以上で、耐水素脆化性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のオーステナイト系ステンレス鋼板等を要旨とする。
【0007】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.15%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:2.5%以下、
P:0.060%以下、
S:0.0080%以下、
Cr:16.0~20.0%、
Mo:3.0%以下、
Ni:8.0~14.0%、
Cu:1.0%以下、
Co:0.01~1.0%、
N:0.25%以下、
Al:0~0.10%、
Nb:0~0.10%、
Ti:0~0.10%、
B:0~0.0050%、
V:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Ca:0~0.010%、
Mg:0~0.010%、
Zr:0~0.50%、
Ga:0~0.05%、
Hf:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で算出されるM値が-180~-75であり、
板厚1/4部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/4)aveと、板厚1/2部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/2)aveと、の差が、下記(ii)式を満足し、
前記板厚1/4部の結晶粒度番号および前記板厚1/2部の結晶粒度番号のうち、最小の結晶粒度番号であるGSNominが、4.5以上であり、
板厚が4.5mm以上である、オーステナイト系ステンレス鋼板。
M値=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.2Mo ・・・(i)
0<GSNo(1/4)ave-GSNo(1/2)ave ・・・(ii)
但し、上記(i)式中の各元素記号はオーステナイト系ステンレス鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0008】
(2)前記化学組成が、質量%で、
Al:0.01~0.10%、
Nb:0.01~0.10%、
Ti:0.01~0.10%、
B:0.0002~0.0050%、
V:0.05~0.50%、
W:0.05~0.50%、
Ca:0.0002~0.010%、
Mg:0.0002~0.010%、
Zr:0.01~0.50%、
Ga:0.001~0.05%、
Hf:0.01~0.10%、および
REM:0.01~0.10%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
【0009】
(3)板厚1/4部において、下記(iii)式を満足する領域の面積率が90%以上である、上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
Nis>0.8 ・・・ (iii)
但し、上記(iii)式中で、NisはNiの偏析度を表す。
【0010】
(4)水素ガス環境下で用いられる上記(1)~(3)のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
【0011】
(5)上記(1)~(3)のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた水素ガス輸送配管。
【0012】
(6)上記(1)~(3)のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた水素ガス用途のバルブ、継手または計器。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、板厚が4.5mm以上で、耐水素脆化性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、厚鋼板の耐水素脆化性について検討を行い、以下の知見を得た。
【0015】
(a)厚鋼板を所望する部品および部材に成形する際に、引張加工、曲げ加工といった塑性変形による加工が行われる。このような塑性変形が行われることで、厚鋼板に、予ひずみが付与される。通常、板厚の増加に伴い、塑性変形に必要な応力は、大きくなる。その一方、鋼板の全ての位置において、均一にひずみが付与されることはない。例えば、鋼板の表面付近に付与されるひずみ量と、板厚の中心部付近に付与されるひずみ量とは、大きく異なる。
【0016】
(b)この理由の一つとして、表面付近と板厚中心付近との結晶粒径の差が挙げられる。通常、板厚10mmを超える厚鋼板の場合、最表面は、最も細粒になるものの、表面付近である板厚1/4部の結晶粒は、凝固時の柱状晶組織が成長・粗大化してやや粗粒になる傾向がある。さらに、板厚の中心部付近である板厚1/2部の結晶粒は、凝固時の等軸晶組織の形成により板厚1/4部と比較して、細粒になりやすい。つまり、板厚1/4部と板厚1/2部とでは、結晶粒径の差が生じやすく、板厚1/4部の結晶粒の方が板厚1/2部の結晶粒より粗粒になりやすい。この結果、結晶粒径の大きい領域に多量にひずみが蓄積されやすくなり、結晶粒径が大きい領域で、水素脆化が生じやすくなる。
【0017】
(c)以上を踏まえ、厚鋼板の耐水素脆化性を高めるためには、鋼板内の結晶粒径の差を小さくするのが好ましい。しかしながら、単に、結晶粒径の差を小さくするのではなく、板厚1/2部より1/4部の結晶粒の方が細粒であるのが耐水素脆化性の観点から好ましい。このような金属組織とするためには、製造時に圧延形状比を所定の範囲に制御するのが望ましい。また、耐水素脆化性の観点から、鋼板全体において、粗粒な粒を低減するのが好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板の各要件について詳しく説明する。
【0019】
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0020】
C:0.15%以下
C(炭素)は、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、Cが過剰に含有されると、Cr系炭化物が粒界析出するのを助長し、却って、耐水素脆化性が低下しやすくなる。このため、C含有量は、0.15%以下である。C含有量は、0.10%以下であるのが好ましく、0.05%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0021】
Si:1.0%以下
Si(ケイ素)は、脱酸に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、Siが過剰に含有されると、σ相などの金属間化合物の生成を助長し、熱間加工性および靭性を低下させる。このため、Si含有量は、1.0%以下である。Si含有量は、0.7%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Si含有量は、0.3%以上であるのが好ましい。
【0022】
Mn:2.5%以下
Mn(マンガン)は、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上に寄与する。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、耐水素脆化性に有害なMnSが過剰に形成し、却って、耐水素脆化性を低下させる。このため、Mn含有量は、2.5%以下である。Mn含有量は、2.0%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.3%以上であるのが好ましい。
【0023】
P:0.060%以下
P(リン)は、不純物として鋼に含有される元素であり、偏析を生じさせ、耐水素脆化性を低下させる。このため、P含有量は、0.060%以下である。P含有量は、0.050%以下であるのが好ましく、0.040%以下であるのがより好ましい。一方、Pが過剰に低減されると、製造コストの増加に繋がることから、P含有量は、0.010%以上であるのが好ましい。
【0024】
S:0.0080%以下
S(硫黄)は、不純物として鋼に含有される元素であり、MnSを形成し、耐水素脆化性を低下させる。このため、S含有量は、0.0080%以下である。S含有量は、0.0050%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましい。しかしながら、Sが過剰に低減されると、製造コストが増加する。このため、S含有量は、0.0003%以上であるのが好ましい。
【0025】
Cr:16.0~20.0%
Cr(クロム)は、ステンレス鋼において一定量含有される元素であり、耐食性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、16.0%以上である。しかしながら、Crはフェライト形成元素である。従って、Crが過剰に含有されると、オーステナイト相が不安定化するとともに、炭化物が多量に析出し、耐水素脆化性を低下させる。このため、Cr含有量は、20.0%以下である。Cr含有量は、19.5%以下であるのが好ましく、19.0%以下であるのがより好ましい。
【0026】
Mo:3.0%以下
Mo(モリブデン)は、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Moが過剰に含有されると、δフェライト相の生成が促進し、耐水素脆化性が低下する。このため、Mo含有量は、3.0%以下である。Mo含有量は、2.5%以下であるのが好ましく、2.2%以下であるのがより好ましい。一方、Moが過剰に低減されると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Mo含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0027】
Ni:8.0~14.0%
Ni(ニッケル)は、Mnとともに、耐水素脆化性および強度を確保するために必要な元素である。このため、Ni含有量は、8.0%以上である。しかしながら、Niが過剰に含有されると、製造コストが増加する。また、偏析が生じやすくなる。このため、Ni含有量は、14.0%以下である。Ni含有量は、13.0%以下であるのが好ましく、12.5%以下であるのがより好ましい。
【0028】
Cu:1.0%以下
Cu(銅)は、スクラップ等の原料から混入する元素であり、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。その一方、Cuは、低融点元素であり、粒界に偏析し、破壊の起点を生じやすくする。このため、Cu含有量は、1.0%以下である。Cu含有量は、0.7%以下であるのが好ましい。しかしながら、Cuが過剰に低減されると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Cu含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0029】
Co:0.01~1.0%
Co(コバルト)は、重要な元素であり、耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させるとともに、特に、板厚が厚い場合、耐水素脆化性を向上させる効果を有する。このため、Co含有量は、0.01%以上である。Co含有量は、0.05%以上であるのが好ましく、0.10%以上であるのがより好ましい。しかしながら、Coが過剰に含有されると、靭性および加工性が低下する。このため、Co含有量は、1.0%以下である。Co含有量は、0.7%以下であるのが好ましい。
【0030】
N:0.25%以下
N(窒素)は、MnおよびNiと同様に、耐水素脆化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Nが過剰に含有されると、溶製時のブローホール等、内部欠陥が発生する場合があり、却って、耐水素脆化性が低下しやすくなる。このため、N含有量は、0.25%以下である。N含有量は、0.20%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、N含有量は、0.02%以上であるのが好ましい。
【0031】
上記の元素に加えて、さらに、Al、Nb、Ti、B、V、W、Ca、Mg、Zr、Ga、Hf、およびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0032】
Al:0~0.10%
Al(アルミニウム)は、有効な脱酸元素であることに加え、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Alは、フェライト形成元素である。このため、Alが過剰に含有されると、オーステナイト相が不安定化する。このため、Al含有量は、0.10%以下である。Al含有量は、0.05%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0033】
Nb:0~0.10%
Nb(ニオブ)は、炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、熱間圧延時の製造性および加工性が低下する。このため、Nb含有量は、0.10%以下である。Nb含有量は、0.07%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0034】
Ti:0~0.10%
Ti(チタン)は、炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiが過剰に含有されると、熱間圧延時の製造性が低下する。このため、Ti含有量は、0.10%以下である。Ti含有量は、0.07%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0035】
B:0~0.0050%
B(ボロン)は、粒界を強化し、強度を向上させるとともに、耐衝撃特性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されても、その効果が飽和するばかりか、却って耐衝撃特性が低下する場合がある。このため、B含有量は、0.0050%以下である。B含有量は、0.0030%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0036】
V:0~0.50%
V(バナジウム)は、鋼中に固溶または炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、炭窒化物が過剰に形成し、熱間圧延時の製造性を低下させる。このため、V含有量は、0.50%以下である。V含有量は、0.30%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0037】
W:0~0.50%
W(タングステン)は、強度および耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、W含有量は、0.50%以下である。W含有量は、0.30%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0038】
Ca:0~0.010%
Ca(カルシウム)は、脱酸および熱間加工性の向上に有効な元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、偏析が生じやすくなり、偏析が破壊の起点になりやすくなる。この結果、耐衝撃特性が低下する場合がある。このため、Ca含有量は、0.010%以下である。Ca含有量は、0.005%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0039】
Mg:0~0.010%
Mg(マグネシウム)は、脱酸および熱間加工性の向上に有効な元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、介在物が多量に形成し、破壊の起点になりやすくなる結果、耐衝撃特性が低下する場合がある。このため、Mg含有量は、0.010%以下である。Mg含有量は、0.005%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0040】
Zr:0~0.50%
Zr(ジルコニウム)は、脱酸効果を有する。また、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、靭性および加工性が低下する。このため、Zr含有量は、0.50%以下である。Zr含有量は、0.30%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0041】
Ga:0~0.05%
Ga(ガリウム)は、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Gaが過剰に含有されると、製造性が低下する。このため、Ga含有量は、0.05%以下である。Ga含有量は、0.02%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0042】
Hf:0~0.10%
Hf(ハフニウム)は、強度を向上させ、耐水素脆化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Hfが過剰に含有されると、加工性が低下する。このため、Hf含有量は、0.10%以下である。Hf含有量は、0.07%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Hf含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0043】
REM:0~0.10%
REM(希土類元素)は、熱間加工性を向上させる効果を有する。また、耐食性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、その効果が飽和するばかりか熱間加工性が低下する。このため、REM含有量は、0.10%以下である。REM含有量は、0.07%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0044】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0045】
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、オーステナイト系ステンレス鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0046】
M値
下記(i)式で算出されるM値は、オーステナイト系ステンレス鋼板において、オーステナイト相の安定性を示す指標である。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板では、耐水素脆化性を向上させるため、M値は、-180~-75である。
【0047】
M値=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-13.7Cr-29(Ni+Cu)-18.2Mo ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号はオーステナイト系ステンレス鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0048】
M値が-180未満であると、多量の添加元素が必要になり、合金コストが増加する。このため、M値は-180以上である。M値は、-170以上であるのが好ましく、-150以上であるのがより好ましい。
【0049】
一方、M値が-75を超えると、オーステナイト相の安定性が低く、α′相への変態が生じやすく、耐水素脆化性が低下する。このため、M値は-75以下である。M値は、-80以下であるのが好ましい。特に、板厚1/4部において、(iii)式を満足する領域を90%以上にするためには、M値は、-100以下であるのがより好ましい。
【0050】
2.結晶粒度番号
2-1.表面付近の結晶粒度と中心部の結晶粒度との差
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、耐水素脆化性を高めるため、表面付近の結晶粒度と中心部の結晶粒度との差を小さくし、板厚1/2部より1/4部の結晶粒の方が細粒である必要がある。
【0051】
具体的には、板厚1/4部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/4)aveと、板厚1/2部の結晶粒度番号の平均値であるGSNo(1/2)aveと、の差(以下、単に、「結晶粒度差」または「(ii)式右辺値」ともいう。)が、下記(ii)式を満足する。
0<GSNo(1/4)ave-GSNo(1/2)ave ・・・(ii)
【0052】
耐水素脆化性の観点から、上記結晶粒度差は、0.1以上であるのが好ましく、0.3以上であるのがより好ましい。一方、上記結晶粒度差が1.5を超えると、鋼板内で、結晶粒度の差が大きくなりすぎて、却って、耐水素脆化性が低下しやすくなる。このため、上記結晶粒度差は、1.5以下であるのが好ましく、1.0以下であるのがより好ましい。
【0053】
ここで、板厚1/4部とは、板厚をtとした場合に、表面から板厚方向に1/4tの位置のことをいう。同様に、後述する板厚1/2部とは、板厚をtとした場合に、表面から板厚方向に1/2tの位置のことをいう。
【0054】
そして、板厚1/4部の結晶粒度番号の平均値GSNo(1/4)aveおよび板厚1/2部の結晶粒度番号の平均値GSNo(1/2)aveも、以下のような手順で測定されればよい。具体的には、鋼板の板厚方向と長手方向とを含み、圧延面に垂直な面(以下、「L断面」という。)を観察面とする。観察面の大きさは、板厚×30mm(長手方向の長さ)とし、観察の際の倍率は、100倍とする。そして、上記観察面の板厚1/4部について、5視野測定し、結晶粒度を直線的に切断法で算出し、その平均値を上記GSNo(1/4)aveとする。同様に、板厚1/2部についても、5視野測定し、結晶粒度を直線的に切断法で算出し、その平均値を上記GSNo(1/2)aveとする。その他、観察、測定条件は、JIS G 0551:2020に従えばよい。
【0055】
2-2.最小結晶粒度
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、水素の浸入を抑制し、耐水素脆化性を向上させるために、粗大な粒の形成を抑制する。具体的には、観察された視野において板厚1/4部の結晶粒度番号および板厚1/2部の結晶粒度番号のうち、最小、すなわち最も粗粒である視野の結晶粒度番号、GSNominが、4.5以上である。上記GSNominは、5.0以上であるのが好ましく、5.5以上であるのがより好ましい。なお、上記GSNominの上限は、特に、限定されないが、製造コストおよび製造時の制約等を考慮し、通常、8.0であるのが好ましい。
【0056】
なお、GSNominは、上述したGSNo(1/4)aveとGSNo(1/2)aveを測定するために行った観察において、板厚1/4部の5視野および板厚1/2部の5視野の中で、最も小さい結晶粒度番号を求めることで、得られる。
【0057】
3.板厚
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板では、水素発電設備での使用が想定された板厚の厚い厚鋼板を対象としている。このため、鋼板の板厚は、4.5mm以上である。板厚は、10mm以上であるのが好ましく、20mm以上であるのがより好ましく、30mm以上であるのがさらに好ましい。なお、板厚の上限は、特に、限定されないが、通常、100mmとなる。
【0058】
4.偏析状態
良好な耐水素脆化性を得るため、偏析の状態を制御するのが好ましい。偏析は、凝固の際、溶質元素の濃度が不均一になる現象のことであり、厚鋼板の場合、顕著に生じやすい。そして、この偏析の状態が、後々、鋼板として製造された後も、金属組織において、一部、残存することで、耐水素脆化性に悪影響を及ぼす。特に、表面近傍の板厚1/4部では、偏析の影響が顕著であり、偏析が生じた領域で、予ひずみが局部的に蓄積される結果、耐水素脆化性が低下しやすくなる。また、偏析が生じていると、オーステナイト相からα’相への変態が生じやすくなることも耐水素脆化性が低下しやすい一因となる。
【0059】
なお、偏析には、平均濃度よりも高く元素が分布する正偏析と、平均濃度よりも低く元素が分布する負偏析とがあるが、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板では、耐水素脆化性の観点から、主に、負偏析に着目する。
【0060】
以上を踏まえ、板厚1/4部において、下記(iii)式を満足する領域の面積率が90%以上であるのが好ましい。
Nis>0.8 ・・・ (iii)
但し、上記(iii)式中で、NisはNi(ニッケル)の偏析度を表す。
【0061】
本実施形態の化学組成において、偏析して、耐水素脆化性に影響を与える元素として、Niがある。このため、Niの偏析度を制御する。なお、偏析度とは、所定の元素の平均濃度に対する偏析部分の濃度であり、Niの偏析度は、(局所的なNi濃度)/(鋼板の全厚の平均Ni含有量)で算出することができる。Niの偏析度が1に近い程、偏析が少なくなる。
【0062】
Nisが0.8超、すなわちNiの偏析度が0.8超で(iii)式を満足する場合に、局部的な濃度勾配は生じておらず、負偏析は低減されている。従って、負偏析に起因する耐水素脆化性低下の観点から、板厚1/4部において、(iii)式を満足する領域の面積率が、90%以上であるのが好ましい。(iii)式を満足する領域の面積率が、95%以上であるのがより好ましい。
【0063】
なお、板厚1/4部における上記Nisおよび、(iii)式を満足する領域の面積率は、以下の手順で測定すればよい。鋼板の板厚方向と板幅方向とを含み、圧延面に垂直な面(C断面)において、板厚1/4部を視野の中心とし、その中心から上下2mm四方を観察視野とする。続いて、当該観察視野に対して、ビーム径6μm、加速電圧15kV、照射電流1.17×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行う。EPMAを用いた面分析により、Ni濃度をマッピングするとともに、(iii)式を満足する領域を面積率で算出する。なお、観察は、偏析が生じやすい鋼板の板幅中央付近で行うのがよいが、板幅方向のどの位置かに拘わらず、上記範囲を満足すれば、本実施形態の発明の範囲内とする。
【0064】
5.用途
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、水素ガス環境下での使用、特に、水素発電設備の部品および部材に適している。すなわち、上記設備に使用される水素ガス輸送配管、水素ガス用途のバルブ、継手、計器に使用されるのが好ましい。なお、水素ガスは、圧縮ガスまたは液化ガスであるのが好ましく、水素ガスの圧力は、例えば、0.1~20MPaの範囲であるのが好ましい。
【0065】
6.製造方法
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
【0066】
6-1.熱間圧延工程
6-1-1.予備圧延
上記化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、スラブなどの鋼片を製造する。次に、鋼片を所定の温度に加熱して熱間圧延を行う(熱間圧延工程)。この熱間圧延工程において、最初に1200℃以下の温度で鋼片を加熱して、圧延形状比mが0.5以上となるパスを3パス以上行う予備圧延を行う。
【0067】
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法では、予備圧延の加熱温度は、1200℃以下である。予備圧延の加熱温度を、1100℃以下であるのが好ましい。再結晶および結晶粒成長を抑制して板厚1/4部へひずみを蓄積させるためである。このようなひずみの蓄積により次工程の熱処理または仕上圧延の加熱において再結晶を促進し、板厚1/4部を細粒化する効果が得られる。
【0068】
上記加熱温度で、予備圧延を、圧延形状比mが0.5以上となるパスを3パス以上となるよう行うことで、(ii)式を満足し、かつGSNominが、4.5以上の結晶粒を形成させることができる。なお、圧延形状比mは、以下の(a)式より算出される。
=2√R(t-tj+1)/(t-tj+1) ・・・ (a)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
R:ロール半径(mm)
:入側板厚(mm)
j+1:出側板厚(mm)
【0069】
熱間圧延工程では、一対の圧延ロールを有する圧延機が、連続的に複数設置されている。この複数の圧延機の間を、鋼板が通過することで、圧延がされる。ここで、一つの圧延機のロール対の間を鋼板が通過し圧延されることをパスと呼ぶ。従って、上記Rは、圧延ロールのロール半径であり、tは、1パスの間で、圧延前に圧延機に入る際の板厚であり、tj+1は、圧延機を通過した後の板厚である。なお、圧延形状比mは、圧延機のロール径、圧下率等の影響を受けるため、これらを適正な範囲に制御して、圧延形状比mを0.5以上にすればよい。なお、予備圧延のその他の条件は、適宜、常法に従えばよい。
【0070】
6-1-2.熱処理
予備圧延後に、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。熱処理を行うと、板厚1/4部において、(iii)式を満足する領域が90%以上になりやすくなるからである。熱処理温度は、1200~1300℃であるのが好ましく、熱処理時間は、60分以上であるのが好ましい。
【0071】
6-1-3.仕上圧延
熱間圧延工程において、予備圧延後、または、必要に応じて、熱処理を行った場合は、熱処理後、仕上圧延を行う。仕上圧延では、圧延形状比mが0.8以上となるパス数を5パス以上とするのが好ましい。結晶粒度差が1.0以下となり、より良好な耐水素脆化性を得ることができるからである。なお、圧延形状比mは、予備圧延の際と同様に算出すればよい。また、所望する結晶粒度の組織を得るために、仕上圧延における鋼板の加熱温度は、1150~1250℃の範囲であるのが好ましい。なお、仕上圧延のその他の条件は、適宜、常法に従えばよい。仕上圧延後、常法に従い、冷却し、オーステナイト系ステンレス鋼板とする。
【0072】
6-2.その他
熱間圧延工程後において、必要に応じて、焼鈍、酸洗を行ってもよい。焼鈍条件は、常法に従えばよく、例えば、焼鈍温度は、1050~1150℃であるのが好ましく、焼鈍時間は、5~15分であるのが好ましい。その後、最終的にオーステナイト系ステンレス鋼板となるよう、冷却すればよく、必要に応じて、酸洗を行ってもよい。酸洗の条件も適宜、常法に従えばよい。
【0073】
以下、実施例によって本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0074】
表1に示す化学組成のステンレス鋼を溶製し、200mm厚のスラブを製造した。得られたスラブを予備圧延した。予備圧延では、表2に記載の温度で加熱した。なお、予備圧延における圧延形状比mが0.5以上であるパス数を数えた。その後、一部の例では、表2に記載の条件で、熱処理を行った。予備圧延後、必要に応じて、熱処理を行った例については、熱処理後、1150~1200℃に加熱し、仕上圧延を行った。なお、同様に、仕上圧延における圧延形状比mが0.8以上であるパス数を数えた。その後、1050~1100℃の温度域で、5分焼鈍をした後、冷却、酸洗等を行い、オーステナイト系ステンレス鋼板とした。
【0075】
【表1】
【0076】
得られたオーステナイト系ステンレス鋼板について、以下の手順で、GSNo(1/4)ave、GSNo(1/2)ave、GSNomin、板厚1/4部における(iii)式を満足する領域の面積率を測定した。また、特性評価を行うため、以下の手順で低ひずみ速度引張試験を行った。
【0077】
(GSNo(1/4)ave、GSNo(1/2)ave、GSNomin
鋼板のL断面を観察面とする。観察面の大きさは、板厚×30mm(長手方向の長さ)とし、観察の際の倍率は、100倍とした。そして、上記観察面の板厚1/4部について、5視野測定し、結晶粒度を直線的に切断法で算出し、その平均値を上記GSNo(1/4)aveとした。同様に、板厚1/2部についても、5視野測定し、結晶粒度を直線的に切断法で算出し、その平均値を上記GSNo(1/2)aveとした。その他、観察条件は、JIS G 0551:2020に従った。
【0078】
また、上述したGSNo(1/4)aveとGSNo(1/2)aveを測定するために行った観察で、最も結晶粒度番号が小さくなった視野の粒度番号をGSNominとした。すなわち、板厚1/4部の5視野および板厚1/2部の5視野の中で、最も小さい結晶粒度番をGSNominとした。
【0079】
(板厚1/4部における(iii)式を満足する領域の面積率)
鋼板のC断面において、板厚1/4部を視野の中心とし、その中心から上下2mm四方を観察視野とした。続いて、当該観察視野に対して、ビーム径6μm、加速電圧15kV、照射電流1.17×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った。EPMAを用いた面分析により、Ni濃度をマッピングするとともに、(iii)式を満足する領域を面積率で算出した。なお、板厚1/4部における(iii)式を満足する領域の面積率について、表中では、Nis>0.8である領域の面積率と記載した。
【0080】
(低ひずみ速度引張試験)
耐水素脆化性を評価するため、低ひずみ速度引張試験を行った。板厚1/4位置でかつ圧延面に平行な面から、長手方向が鋼板の長手方向と一致するように、平行部:Φ3mm×長さ20mmの丸棒で、掴み部Φ8mm、全長80mmの試験片を採取した。この試験片の平行部の変位が6mmになるまで大気中で引っ張り、伸びが30%の予ひずみを加えた。その後、20MPaHガス中で破断まで、引張応力を加えて、試験を行った。なお、引張速度は0.036mm/minとし、ひずみ速度3×10-5/sとした。なお、各試験片について、後述するRTS(相対引張強さ)とREL(相対破断伸び)を算出するため、大気中での引張強さおよび破断伸びも、別途、測定した。
【0081】
得られた試験結果に対し、RTS(相対引張強さ)とREL(相対破断伸び)とで評価した。なお、RTSおよびRELは、以下の式から算出される。
RTS=大気中で予ひずみを付与した後、20MPaH中で引張応力を付与して試験した際の引張強さ÷大気中の引張強さ ・・・(b)
REL=大気中で予ひずみを付与した後、20MPaH中で引張応力を付与して試験した際の破断伸び÷大気中の破断伸び ・・・(c)
【0082】
上記RTSが1.0以上の場合、耐水素脆化性が良好であると判断し、〇と記載した。また、上記RTSが1.0以上でかつ、RELが1.0以上である場合、耐水素脆化性がさらに良好であると判断し、◎と記載した。以下、結果を纏めて、表2に記載する。
【0083】
【表2】
【0084】
本実施形態の要件を満足するNo.1~3、5~7、9~11、および12~16は、良好な耐水素脆化性を示した。一方、本実施形態の要件を満足しないNo.4、8、および17~25は、耐水素脆化性が不良であった。