(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179400
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】橋梁リニューアル方法および支援システム
(51)【国際特許分類】
E01D 24/00 20060101AFI20241219BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098224
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】515028827
【氏名又は名称】オフィスケイワン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】日暮 一正
(72)【発明者】
【氏名】三田村 健二
(72)【発明者】
【氏名】保田 敬一
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG39
2D059GG41
(57)【要約】
【課題】橋梁のリニューアル工事の工期を短縮することができるリニューアル方法および支援システムを提供する。
【解決手段】支援システム10は、橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁のリニューアルを支援するシステムである。支援システム10は、既設橋梁を上空から撮像した既設橋梁の路上点群データと既設橋梁の路下を撮像した既設橋梁の路下点群データとを取得し、路上点群データと路下点群データとを合成して既設橋梁の3Dモデルを作成する。支援システム10は、その3Dモデルとカット割りルールとに基づくカット割りシミュレーションにより既設床版のカット割りを行い、カット割り床版を示すカット割りデータを作成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁をリニューアルする橋梁リニューアル方法であって、
前記橋梁のリニューアルを支援する支援システムが、
既設橋梁の3Dモデルとカット割りルールとに基づくカット割りシミュレーションにより前記既設橋梁における付属物の配置に対応した既設床版のカット割りを行い、前記カット割りしたカット割り床版を示すカット割りデータを作成する
橋梁リニューアル方法。
【請求項2】
前記支援システムが、
前記既設橋梁の路上点群データと前記既設橋梁の路下点群データとを取得し、
前記路上点群データと前記路下点群データとを合成して前記既設橋梁の3Dモデルを作成する
請求項1に記載の橋梁リニューアル方法。
【請求項3】
前記支援システムが、前記カット割りデータとジャッキアップ孔の位置条件とに基づいて、各カット割り床版における前記ジャッキアップ孔の形成位置を設計する
請求項1または2に記載の橋梁リニューアル方法。
【請求項4】
前記支援システムが、前記カット割りデータと吊り下げ孔の位置条件とに基づいて、各カット割り床版における前記吊り下げ孔の形成位置を設計する
請求項1または2に記載の橋梁リニューアル方法。
【請求項5】
橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁のリニューアルを支援する支援システムであって、
既設橋梁の3Dモデルとカット割りルールとに基づくカット割りシミュレーションにより前記既設橋梁における付属物の配置に対応した既設床版のカット割りを行い、前記カット割りしたカット割り床版を示すカット割りデータを作成する
支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁リニューアル方法および支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
既設の橋梁をリニューアルするリニューアル工事が行われている。リニューアル工事においては、例えば、特許文献1のように、橋軸方向に並設されている床版が交換される。具体的には、まず、橋梁の周辺に足場を組み立てたのち、その足場を利用して橋梁の測量を行う。そして、測量結果と建設時に作成した竣工図とに基づいて、現在の橋梁と竣工図との違いを把握する。次に、竣工図、現在の橋梁と竣工図との違いや割付ルールに基づいて、設計者が実際に設置する新設床版の割付を行うことで新設床版の設計を行う。設計者の設計に基づいて新設床版が製作されたのち、施工現場へと搬入される。施工現場においては、既設床版を除去して既設桁を露出させたのち、搬入された新設床版が設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したリニューアル工事は、例えば高速道路であれば通行止めなどの交通規制をした状態で行われることから、現場周辺の道路において交通が混雑したり、渋滞したりする。そのため、交通規制の期間を含め、橋梁のリニューアル工事の工期短縮が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する橋梁リニューアル方法は、橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁をリニューアルする橋梁リニューアル方法であって、前記橋梁のリニューアルを支援する支援システムが、既設橋梁の3Dモデルとカット割りルールとに基づくカット割りシミュレーションにより既設床版のカット割りを行い、前記カット割りしたカット割り床版を示すカット割りデータを作成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、橋梁のリニューアル工事の工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】橋梁リニューアル方法の一実施形態の流れを示すフローチャートである。
【
図2】支援システムの一実施形態の概略構成を示す図である。
【
図3】情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】設計準備工程の流れを示すフローチャートである。
【
図5】路上点群データの取得方法の一例を模式的に示す図である。
【
図6】路下点群データの取得方法の一例を模式的に示す図である。
【
図7】設計工程の流れを示すフローチャートである。
【
図8】既設床版設計工程の流れを示すフローチャートである。
【
図9】カット割りデータに基づく3Dモデルを模式的に示す図である。
【
図10】カット割り床版に設定されたジャッキアップ孔の形成位置の一例を模式的に示す図である。
【
図11】カット割り床版における吊り下げ孔の形成位置の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1~
図11を参照して、橋梁リニューアル方法およびその支援システムの一実施形態について説明する。なお、本実施形態においては、リニューアル工事において既設床版を交換する場合について説明する。
【0009】
図1に示すように、既設橋梁の既設床版を交換するリニューアル工事においては、設計準備工程(ステップS101)、設計工程(ステップS102)、床版製作工程(ステップS103)、施工準備工程(ステップS104)、施工工程(ステップS105)が行われる。
【0010】
設計準備工程(ステップS101)は、各種設計に必要な準備として、既設橋梁50を再現する3Dモデルデータが作成される工程である。設計工程(ステップS102)は、新設床版に関するデータである新設床版設計データ、および、既設床版の撤去に関するデータである既設床版設計データが作成される工程である。床版製作工程(ステップS103)は、新設床版設計データに基づいて、新設床版が製作される工程である。施工準備工程(ステップS104)は、新設床版設計データや既設床版設計データに基づいて、既設床版の撤去や新設床版の設置に関する準備が行われる工程である。施工工程(ステップS105)は、既設床版の撤去、および、新設床版の設置が行われる工程である。
【0011】
図2に示すように、リニューアル工事を支援する支援システム10は、設計支援システム20、製作支援システム30、および、施工支援システム40を備えている。設計支援システム20は、リニューアル工事を設計する設計者が利用するシステムである。設計支援システム20は、設計支援装置21を備える。製作支援システム30は、床版といった交換対象を製作する製作者が利用するシステムである。製作支援システム30は、製作支援装置31を備える。施工支援システム40は、リニューアル工事を施工する施工者が利用するシステムである。施工支援システム40は、施工支援装置41を備える。これらの支援装置(21,31,41)は、サーバ100を介して相互通信可能に構成されている。すなわち、各支援装置(21,31,41)は、サーバ100にアップロードされた情報を共有可能に構成されている。
【0012】
図3に示すように、各支援装置(21,31,41)の各々は、情報処理装置H10を中心に構成されている。
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0013】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースである。入力装置H12は、操作者からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。記憶装置H14は、各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶部である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0014】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、各支援装置における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。例えば、プロセッサH15は、所定のアプリケーションプログラムが起動された場合、そのプログラムに応じた各処理を実行するプロセスを動作させる。
【0015】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行うものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、以下で構成し得る。
【0016】
(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ
(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは
(3)それらの組合せ、を含む回路(circuitry)
プロセッサH15は、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0017】
(設計準備工程)
設計準備工程(ステップS101)は、設計支援システム20を利用して行われる。設計準備工程は、既設橋梁を撮像して点群データを取得し、その点群データに基づいて既設橋梁のCIMデータが作成される工程である。既設橋梁の点群データは、既設橋梁を上空から撮像した路上点群データと既設橋梁を下側から撮像した路下点群データとで構成される。既設橋梁の各所には、路上点群データと路下点群データとを合成する際の基準となる標定点が設けられている。
【0018】
図4に示すように、設計準備工程は、路上点群データ取得工程(ステップS201)、路下点群データ取得工程(ステップS202)、および、モデル作成工程(ステップS203)を有している。
【0019】
図5に示すように、路上点群データ取得工程(ステップS201)においては、既設橋梁50の周辺を飛行領域とする無人航空機22に搭載された路上撮像機23を用いて路上点群データが取得される。
【0020】
既設橋梁50の右側部分については、既設橋梁50の右側を飛行する無人航空機22を用いて撮像される。既設橋梁50の左側部分については、既設橋梁50の左側を飛行する無人航空機22を用いて撮像される。路上撮像機23は、無人航空機22が落下しても交通の妨げとならないように、予め定めた既設橋梁50の基準点に対して、斜め45度および斜め60度から撮像されることが好ましい。路上撮像機23は、無人航空機22で既設橋梁50の上空を飛行しながら既設橋梁50を上空から撮像することで路上点群データを取得する。路上点群データは、路上撮像機23が設計支援装置21に接続されることにより、設計支援装置21に入力される。
【0021】
図6に示すように、路下点群データ取得工程(ステップS202)においては、既設桁51に沿って移動する移動ロボット25に搭載された路下撮像機26によって路下点群データが取得される。移動ロボット25は、橋軸直角方向で隣接する一対の既設桁51の下フランジ52に支持されて橋軸方向に移動可能な構成されている。移動ロボット25は、移動機27と架設部材28とを有している。移動機27は、各既設桁51の下フランジ52上を、ウェブ53を挟むように配置されたローラー29が転動することにより、下フランジ52上を橋軸方向に移動する。架設部材28は、既設桁51の下方において移動機27の下端部を連結している。路下撮像機26は、一対の移動機27の中央に配置されるように架設部材28に搭載される。路下撮像機26は、移動ロボット25によって橋軸方向に移動しながら既設橋梁50の路下を撮像することで、その撮像範囲の路下点群データを取得する。路下点群データは、路下撮像機26が設計支援装置21に接続されることにより、設計支援装置21に入力される。こうした路下の撮像を既設橋梁50全体で行うことにより、既設橋梁50全体の路下点群データが取得される。
【0022】
モデル作成工程(ステップS203)においては、設計支援装置21においては、モデル生成処理が実行される。モデル生成処理において、設計支援装置21は、各データに含まれている標定点に基づいて路上点群データと路下点群データとを合成し、既設橋梁50を再現する3DモデルデータであるCIM(Construction Information Modeling)データを作成する。
【0023】
このように、既設橋梁50のCIMデータを作成可能な路上点群データと路下点群テータとが上述した方法で取得されることにより、既設橋梁50に通じる道路を規制することなく既設橋梁50の測量を行うことができる。なお、路上点群データ取得工程(ステップS201)と路下点群データ取得工程(ステップS202)は、並行して行われてもよいし、路下点群データ取得工程(ステップS202)が先行して行われてもよい。
【0024】
(設計工程)
設計工程(ステップS102)は、設計支援システム20を利用して行われる。
図7に示すように、設計工程では、CIMデータに基づいて、新設床版設計工程(ステップS301)と既設床版設計工程(ステップS302)とが行われる。
【0025】
(新設床版設計工程)
新設床版設計工程(ステップS301)では、設計者は、設計支援装置21を操作して、新設床版に関する各種情報を入力する。具体的には、設計者は、新設床版の割付ルールのほか、新設床版が設置される全体の範囲、使用材料や鉄筋の配置といった新設床版の基本設計事項を入力する。また、設計者は、添接板の固定位置や新設床版の継ぎ手部分の非配置領域などを入力する。そして、上記各種情報に基づいて、設計支援装置21が新設床版の割付処理を実行する。割付処理の実行により、設計支援装置21は、各新設床版の形状や設置位置などを示す新設床版設計データを作成する。新設床版設計データは、サーバ100にアップロードされ、設計者、製作者、および、施工者の間で共有される。サーバ100にアップロードされた新設床版設計データに基づき、床版製作工程(ステップS103)では製作者によって新設床版が製作され、施工準備工程(ステップS104)および施工工程(ステップS105)では施工者によって新設床版の設置について施工準備および施工が行われる。
【0026】
(既設床版設計工程)
既設床版設計工程(ステップS302)では、既設床版の撤去に関する設計が行われる。既設床版は、搬送可能な大きさに切断されたのち、ジャッキアップにより既設桁51から切り離される。そして、クレーンなどを用いた揚重搬送により撤去される。
【0027】
撤去設計工程では、既設床版のカット割りのほか、ジャッキアップ時に使用されるジャッキアップ孔の形成位置、揚重時に使用されるワイヤが通される吊り下げ孔の形成位置などが設計支援装置21によって設計される。
【0028】
図8に示すように、既設床版設計工程では、カット割りルール設定工程(ステップS401)、カット割りシミュレーション(ステップS402)、位置条件入力工程(ステップS403)、位置決めシミュレーション(ステップS404)が行われる。
【0029】
カット割りルール設定工程(ステップS401)において、設計者は、設計支援装置21を操作し、既設床版をカットする際のカット割りルールを入力する。具体的には、設計者は、カット割りルールとして、既設床版の設置範囲や使用材料、既設床版のカット割り寸法範囲などの基本設計事項を入力する。また、設計者は、カット割りルールとして、カットライン条件を入力する。カットライン条件は、既設床版のカット時に、既設橋梁に設けられている添接板や排水桝などの付属物と切断装置とが干渉しないようにするための条件である。
【0030】
カット割りシミュレーション(ステップS402)は、カット割り条件の入力後、設計支援装置21に対して設計者がカット割り開始操作を行うことにより開始される。カット割りシミュレーションにおいて、設計支援装置21は、CIMデータとカット割りルールとに基づいて、既設床版のカット割りを行う。設計支援装置21は、カット割りシミュレーションの結果として、既設床版のカットラインの座標を含むカット割りデータを作成する。このカット割りデータでは、付属物と干渉しないカットラインでカットされた既設床版の大きさが上述したカット割り寸法範囲に収まるように調整されている。
【0031】
図9に示すように、カット割りデータは、既設桁51a,51b,51c,51dや対傾構55のほか、添接板56や排水桝58などを含め、カットライン59でカット割りされた既設床版であるカット割り床版60を表示可能な3Dモデルデータである。
【0032】
位置条件入力工程(ステップS403)では、設計者によって、ジャッキアップ孔および吊り下げ孔の形成位置に関する条件が設計支援装置21に入力される。位置条件入力工程において、設計者は、ジャッキアップ孔の位置条件として、カットライン59からの離れ寸法範囲やジャッキを支持する既設桁である支持桁のほか、ジャッキアップ孔の孔径、橋軸方向および橋軸直角方向におけるジャッキアップ孔のピッチ範囲などを入力する。また、設計者は、吊り下げ孔の位置条件として、カットライン59からの離れ寸法のほか、吊り下げ孔の孔径や形成数などを入力する。
【0033】
位置決めシミュレーション(ステップS404)は、位置条件の入力後、設計支援装置21に対して設計者が位置決め開始操作を行うことにより開始される。位置決めシミュレーションにおいて、設計支援装置21は、各カット割り床版60におけるジャッキアップ孔および吊り下げ孔の形成位置の座標を設定する。
【0034】
具体的には、設計支援装置21は、カット割りデータと位置条件とに基づいてジャッキアップ孔の形成位置に関するシミュレーションを行う。このシミュレーションにおいて、設計支援装置21は、各カット割り床版60に対して、対傾構55や添接板56、排水桝58などにジャッキ装置が干渉しない位置にジャッキアップ孔を設定する。
【0035】
図10は、カット割り床版60に設定されたジャッキアップ孔61の形成位置の一例を模式的に示す図である。
図10は、位置条件として、所定の離れ範囲が設定され、支持桁を51a,51bとした場合のジャッキアップ孔61の形成位置を示している。
【0036】
位置決めシミュレーションにおいて、設計支援装置21は、カット割りデータと位置条件とに基づいて吊り下げ孔の形成位置に関するシミュレーションを行う。このシミュレーションにおいて、設計支援装置21は、各カット割り床版60の重心位置を算出する。そして、設計支援装置21は、各カット割り床版60について、重心位置と位置条件とに基づいて、上面視における複数の吊り下げ孔の中心位置がカット割り床版60の重心位置に重なる位置であって、対傾構55や添接板56、排水桝58などに揚重用吊り下げ具が干渉しない位置に吊り下げ孔の形成位置を設定する。
【0037】
図11は、カット割り床版60における吊り下げ孔62の形成位置の一例を模式的に示した図である。
図11は、位置条件として、所定の離れ寸法範囲が設定され、形成数を4とした場合における吊り下げ孔62の形成位置の一例を示している。
【0038】
このようにしてジャッキアップ孔61および吊り下げ孔62の形成位置が設定されると、設計支援装置21は、カット割りデータに対して、各カット割り床版60におけるジャッキアップ孔61および吊り下げ孔62の形成位置を示した既設床版設計データを作成する。既設床版設計データは、サーバ100にアップロードされ、設計者、製作者、および、施工者の間で共有される。サーバ100にアップロードされた既設床版設計データに基づき、施工準備工程(ステップS104)および施工工程(ステップS105)において施工者による既設床版の撤去について施工準備および施工が行われる。
【0039】
本実施形態の作用および効果について説明する。
(1)上記実施形態によれば、既設橋梁50の3Dモデルとカット割りルールとに基づいて既設床版のカット割りが行われ、カット割り床版60を示すカット割りデータが作成される。これにより、既設床版のカットライン59の設計に要する時間が短縮できるとともに、施工現場において既設床版のカットをスムーズに行うことができる。その結果、リニューアル工事の工期を短縮することができる。
【0040】
(2)上記実施形態によれば、無人航空機22を用いて取得された路上点群データと移動ロボット25を用いて取得された路下点群データとに基づいて、既設橋梁50を再現可能なCIMデータが作成される。これにより、既設橋梁50に通じる道路を規制することなく既設橋梁50の測量を行うことができるため、リニューアル工事の工期を短縮することができる。
【0041】
(3)上記実施形態によれば、カット割りデータとジャッキアップ孔61の位置条件に基づくシミュレーションにより、各カット割り床版60におけるジャッキアップ孔61の形成位置が設計される。これにより、例えば、施工工程(ステップS105)においてジャッキアップ孔61の施工をスムーズに行うことができるため、リニューアル工事の工期を短縮することができる。
【0042】
(4)上記実施形態によれば、カット割りデータと吊り下げ孔62の位置条件に基づくシミュレーションにより、各カット割り床版60における吊り下げ孔62の形成位置が設計される。これにより、例えば、施工工程において吊り下げ孔62の施工をスムーズに行うことができるため、リニューアル工事の工期を短縮することができる。また、カット割り床版60の重心位置に中心位置が重なるように吊り下げ孔62が形成されるため、カット割り床版60の揚重を安全に行うことができる。
【0043】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、既設床版の撤去についての施工シミュレーションが行われてもよい。この施工シミュレーションは、3Dモデルに時間軸を与えることにより、リニューアル工事の施工手順を3Dモデルで視覚化するものである。
【0044】
施工シミュレーションに関する各種の処理は、サーバ100において行われる。施工シミュレーションは、設計者によって登録された施工手順ルールに基づいて行われる。施工手順ルールは、施工サイクルに関するルールである。施工手順ルールは、カット割り床版60の撤去と新設床版の設置とを1サイクルの施工として、1サイクルにおけるカット割り床版60の撤去数や撤去作業期間、新設床版の設置数や設置作業期間、開始日時や開始方向などについて規定したものである。施工シミュレーションにおいて、サーバ100は、CIMデータ、既設床版設計データ、新設床版設計データ、および、施工手順ルールに基づいて、カット割り床版60や新設床版などの3Dモデルの表示・非表示を行う。
【0045】
・上記実施形態においては、位置決めシミュレーションにより、各カット割り床版60におけるジャッキアップ孔61や吊り下げ孔62の形成位置を設定した。これに限らず、ジャッキアップ孔61や吊り下げ孔62の形成位置は、施工現場において施工者によって決定されてもよい。
【0046】
・上記実施形態においては、無人航空機22に搭載した路上撮像機23を用いて路上点群データを取得した。これに限らず、路上点群データは、例えば、既設橋梁50近辺に設置されて既設橋梁50の路上を撮像可能な撮像機を用いて取得されてもよい。また、路上点群データは、無人航空機22に搭載したレーザー計測器を用いて取得されてもよいし、既設橋梁50付近に設置されたレーザー計測器を用いて取得されてもよい。さらに、路上点群データは、撮像機による撮像結果とレーザー計測器による計測結果とに基づいて取得されてもよい。
【0047】
・上記実施形態においては、移動ロボット25に搭載した路下撮像機26を用いて路下点群データを取得した。これに限らず、路下点群データは、例えば、無人航空機に搭載した撮像機を用いて取得されてもよい。また、路下点群データは、無人航空機に搭載したレーザー計測器を用いて取得されてもよいし、既設橋梁50付近に設置されたレーザー計測器を用いて取得されてもよい。さらに、路下点群データは、撮像機による撮像結果とレーザー計測器による計測結果とに基づいて取得されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…支援システム、20…設計支援システム、21…設計支援装置、22…無人航空機、23…路上撮像機、25…移動ロボット、26…路下撮像機、27…移動機、28…架設部材、29…ローラー、30…製作支援システム、31…製作支援装置、32…カメラ、33…計測器、40…施工支援システム、41…施工支援装置、42…撮像機、50…既設橋梁、51…既設桁、52…下フランジ、53…ウェブ、55…対傾構、56…添接板、58…排水桝、60…カット割り床版、61…ジャッキアップ孔、62…吊り下げ孔、100…サーバ。