(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179403
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】インクジェットインクおよび硬化膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20241219BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20241219BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20241219BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/101
C09D11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098229
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 桃子
(72)【発明者】
【氏名】大柴 武雄
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD21
4J039BB01
4J039BB02
4J039BB03
4J039BB04
4J039BC19
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE27
4J039CA01
4J039EA06
4J039EA36
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】アミン変性された重合性化合物を含む活性線硬化型のインクジェットインクであって、高い耐擦過性と、高い折り割れ耐性という特性を併せ持つ硬化膜を形成できるインクジェットインクを提供すること。
【解決手段】本発明の活性線硬化型のインクジェットインクは、活性線の照射により重合する重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)、およびゲル化剤(C)を含む。前記重合性化合物(A)は、アミン変性された重合性化合物(A1)を含み、前記光重合開始剤(B)は、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性線の照射により重合する重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)、およびゲル化剤(C)を含み、
前記重合性化合物(A)は、アミン変性された重合性化合物(A1)を含み、
前記光重合開始剤(B)は、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドを含む、
活性線硬化型のインクジェットインク。
【請求項2】
前記光重合開始剤(B)の含有量は、前記インクジェットインクの全質量に対して3質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
【請求項3】
前記アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量は、前記インクジェットインクの全質量に対して0質量%より多く20質量%以下である、
請求項1に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
【請求項4】
前記光重合開始剤(B)の含有量に対する、前記アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量の割合(A1/B)は、0より大きく8以下である、
請求項1に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
【請求項5】
前記光重合開始剤(B)の含有量に対する、前記アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量の割合(A1/B)は、0より大きく2以下である、
請求項1に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
【請求項6】
前記ゲル化剤(C)の含有量は、前記インクジェットインクの全質量に対して0.5質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
【請求項7】
前記光重合開始剤(B)は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドまたはジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドを含む、
請求項1に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のインクジェットインクを基材に付与する工程と、
前記付与されたインクジェットインクに活性線を照射する工程と、
を有する、硬化膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクおよび硬化膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上にインクを付与した後、紫外線や電子線などの活性線を照射して硬化させて硬化膜などを形成する、活性線硬化型のインクジェットインクが知られている。活性線硬化型のインクジェットインクは、通常、活性線の照射により重合する重合性化合物と、重合性化合物の重合を開始させるための光重合開始剤と、を含む。
【0003】
特許文献1には、重合性化合物としてアミン変性オリゴマーを含む、光硬化型のインクジェットインクが記載されている。特許文献1には、アミン変性オリゴマーの量をインクジェットインク中の0.5質量%以上とし、かつ他の重合性化合物および光重合開始剤の種類および量を適切に選択することで、インクの表面硬化性が向上し、かつ、タック性および耐擦過性に優れた塗膜(硬化膜)が得られる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にも記載のように、アミン変性オリゴマーなどのアミン変性された重合性化合物は、インクジェットインクの硬化性を高める作用を有する。これは、アミン変性された重合性化合物はアミノ基および重合性基の両方を分子中に有するため、アミノ基による水素引き抜きと、それに引き続く連鎖移動反応と、が生じやすいためだと考えられる。アミン変性された重合性化合物は、おそらくは上記の特性により高い反応性を有する。そして、これによりアミン変性された重合性化合物は架橋密度が高くて硬度が高く、そのため耐擦過性も高い硬化膜を形成しやすい。
【0006】
一方で、硬化膜の硬度が高まると、柔軟性が低くなる。そのため、硬度が高い硬化膜は、基材を折り曲げたときに割れを生じやすい(折り割れ耐性が低くなりやすい)。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アミン変性された重合性化合物を含む活性線硬化型のインクジェットインクであって、高い耐擦過性と、高い折り割れ耐性という特性を併せ持つ硬化膜を形成できるインクジェットインク、および当該インクジェットインクを用いた硬化膜の製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[1]~[7]のインクジェットインクに関する。
[1]活性線の照射により重合する重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)、およびゲル化剤(C)を含み、
前記重合性化合物(A)は、アミン変性された重合性化合物(A1)を含み、
前記光重合開始剤(B)は、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドを含む、
活性線硬化型のインクジェットインク。
[2]前記光重合開始剤(B)の含有量は、前記インクジェットインクの全質量に対して3質量%以上10質量%以下である、
[1]に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
[1]前記アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量は、前記インクジェットインクの全質量に対して0質量%より多く20質量%以下である、
[1]または[2]に記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
[4]前記光重合開始剤(B)の含有量に対する、前記アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量の割合(A1/B)は、0より大きく8以下である、
[1]~[3]のいずれかに記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
[5]前記光重合開始剤(B)の含有量に対する、前記アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量の割合(A1/B)は、0より大きく2以下である、
[1]~[4]のいずれかに記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
[6]前記ゲル化剤(C)の含有量は、前記インクジェットインクの全質量に対して0.5質量%以上10質量%以下である、
[1]~[5]のいずれかに記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
[7]前記光重合開始剤(B)は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドまたはジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドを含む、
[1]~[6]のいずれかに記載の活性線硬化型のインクジェットインク。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、下記[8]の硬化膜の製造方法に関する。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のインクジェットインクを基材に付与する工程と、
前記付与されたインクジェットインクに活性線を照射する工程と、
を有する、硬化膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アミン変性された重合性化合物を含む活性線硬化型のインクジェットインクであって、高い耐擦過性と、高い折り割れ耐性という特性を併せ持つ硬化膜を形成できるインクジェットインク、および当該インクジェットインクを用いた硬化膜の製造方法体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.インクジェットインク
本発明の一実施形態は、活性線の照射により重合する重合性化合物(A)と、光重合開始剤(B)と、ゲル化剤(C)と、を含む、活性線硬化型のインクジェットインク(以下、単に「インクジェットインク」ともいう。)に関する。
【0012】
インクジェットインクの硬化に使用できる活性エネルギー線の例には、電子線、紫外線、α線、γ線およびエックス線などが含まれる。これらのうち、紫外線および電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0013】
以下、インクジェットインクが含み得る成分および物性等について説明する。
【0014】
1-1.成分
1-1-1.重合性化合物(A)
重合性化合物(A)は、ラジカル重合性の化合物であってもよく、カチオン重合性の化合物であってもよい。これらのうち、ラジカル重合性の化合物が好ましい。
【0015】
ラジカル重合性の化合物は、分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する重合性である。カチオン重合性の化合物の例には、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物およびオキセタン化合物などが含まれる。
【0016】
重合性化合物(A)の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して1質量%以上97質量%以下とすることができ、30質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
1-1-1-1.アミン変性された重合性化合物(A1)
重合性化合物(A)は、アミン変性された重合性化合物(A1)を含む。アミン変性された重合性化合物(A1)の例には、アミン変性オリゴマー、反応性アミン共開始剤、反応性アミンシナジスト、アクリレート変性アミンシナジスト、アミンアクリレート、アミノアクリレートなどが含まれる。アミン変性された重合性化合物(A1)は、アミン変性オリゴマーであることが好ましい。アミン変性オリゴマーは、アミノ基と重合性基とを分子内に含む2量体または3量体以上の化合物である。アミン変性された重合性化合物は、エチレンオキサイド変性やプロピオンオキサイド変性などのアルキレンオキサンド変性された化合物あってもよいし、アルキレンオキサンド変性されていない化合物であってもおい。
【0018】
アミン変性された重合性化合物の分子量は特に限定されず、300以上3000以下であることが好ましく、400以上2000以下であることがより好ましい。
【0019】
アミン変性された重合性化合物が有する重合性基の種類は特に限定されず、ラジカル重合性の官能基であってもよいしカチオン重合性の官能基であってもよいが、アミノ基の水素引き抜きにより硬化性を高め、耐擦過性が高い硬化膜を得る観点からはラジカル重合性の官能基が好ましい。ラジカル重合性の官能基の例には、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基およびアリルエーテル基などが含まれる。
【0020】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリルまたはメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレートまたはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルまたはメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味する。
【0021】
アミン変性された重合性化合物が分子内に有する重合性基の数は特に限定されないが、硬化膜の硬度を高めて耐擦過性を高める観点からは、2個以上であることが好ましい。重合性基の数が多いほど、架橋密度を高めて、硬化膜の耐擦過性を高めたり、未反応の重合性化合物(A)を減らして断裁面における硬化膜の剥離を抑制したり、未反応の重合性化合物や未反応または反応後の光重合開始剤の硬化膜からのマイグレーションやブルーミングを抑制したりすることができる。重合性基の数が適度に少ないと、アミン変性された重合性化合物の分子量が高くなることによるインクジェットヘッドからの吐出性の低下を抑制することができる。
【0022】
アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0質量%より多く20質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましい。アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量が多いほど、硬化膜の耐擦過性を高めたり、断裁面における硬化膜の剥離を抑制したり、未反応の重合性化合物や、未反応または反応後の光重合開始剤の、硬化膜からのマイグレーションやブルーミングを抑制したりすることができる。アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量がより少ないほど、折り割れを生じにくくすることができる。また、アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量が過剰であると、アミン変性された重合性化合物(A1)により他の重合性化合物の反応が阻害されることがあるが、アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量を適度な範囲とすることで、架橋点が増えて硬化膜の柔軟性が失われることによる折り割れの発生や、上記反応阻害により生じた未反応の重合性化合物のマイグレーションやブルーミングを抑制することができる。
【0023】
1-1-1-2.その他の重合性化合物(A2)
重合性化合物(A)は、アミン変性された重合性化合物(A1)以外のその他の重合性化合物(A2)を含んでもよい。
【0024】
その他の重合性化合物(A2)は、ラジカル重合性の化合物であってもよいしカチオン重合性の化合物であってもよいが、ラジカル重合性の化合物であることが好ましい。
【0025】
ラジカル重合性の重合性化合物(A2)の例には、不飽和カルボン酸とその塩、不飽和カルボン酸エステル化合物、不飽和カルボン酸ウレタン化合物、不飽和カルボン酸アミド化合物およびその無水物、アクリロニトリル、スチレン、不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタンなどが挙げられる。不飽和カルボン酸の例には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸などが含まれる。これらのうち、(メタ)アクリレートなどの不飽和カルボン酸エステルが好ましく、(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0026】
単官能の(メタ)アクリレートの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、エトキシ化フェノキシ(メタ)アクリレート、アルコキシ化フェノール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-o-フェニルフェノールプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸およびt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0027】
多官能の(メタ)アクリレートの例には、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレートを含む2官能の(メタ)アクリレート、ならびに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートを含む3官能以上の(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0028】
カチオン重合性の重合性化合物(A2)の例には、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物およびオキセタン化合物などが含まれる。
【0029】
上記エポキシ化合物の例には、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3′,4′-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3′,4′-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサノン-メタ-ジオキサンおよびビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルなどの脂環式エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドなど)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどを含む脂肪族エポキシ化合物、ならびに、ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、およびノボラック型エポキシ樹脂などを含む芳香族エポキシ化合物などが含まれる。
【0030】
上記ビニルエーテル化合物の例には、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル-o-プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、およびオクタデシルビニルエーテルなどを含むモノビニルエーテル化合物、ならびにエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、およびトリメチロールプロパントリビニルエーテルなどを含むジまたはトリビニルエーテル化合物などが含まれる。
【0031】
上記オキセタン化合物の例には、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ノルマルブチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ベンジルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシブチル-3-メチルオキセタン、1,4ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタンおよびジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテルなどが含まれる。
【0032】
1-1-2.光重合開始剤(B)
光重合開始剤(B)は、の照射により上記活性線重合性化合物の重合および架橋を開始させる化合物である。
【0033】
本実施形態において、光重合開始剤(B)は、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(以下、単に「開始剤(B1)」ともいう。)を含む。理由は定かではないが、開始剤(B1)は、適度な硬化速度を有するため、重合性化合物(A)の過度な重合を抑制することができる。本実施形態ではさらに、ゲル化剤(C)が形成する、所謂カードハウス構造により重合性化合物(A)の移動が限定され、重合性化合物(A)の過剰な連鎖移動がさらに抑制される。これらの作用により、硬化膜の折り割れ耐性が高まると考えられる。
【0034】
開始剤(B1)の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
光重合開始剤(B1)の含有量に対する、アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量の割合(A1/B1)は、0より大きく8以下であることが好ましく、0より大きく5以下であることがより好ましく、0より大きく2以下であることがさらに好ましく、0.05以上1.5以下であることがさらに好ましく、0.1以上1以下であることが特に好ましい。割合(A1/B1)が大きいほど、アミン変性された重合性化合物(A1)の作用により硬化膜の耐擦過性が高まりやすい。また、割合(A1/B1)が大きいほど、連鎖移動反応により未反応の重合性化合物(A)の量を減らして、断裁面における硬化膜の剥離を抑制することができる。割合(A1/B1)が小さいほど、アミン変性された重合性化合物(A1)をより十分に反応させて、未反応の重合性化合物(A)による断裁面の剥離およびマイグレーションおよびブルーミングを抑制したり、これによる画像の光沢の変化を抑制したり、不十分な反応により硬化膜が脆くなることによる耐折り割れ性の低下や、硬化膜の表面での硬化が不足することによる耐擦過性の低下などを抑制したりすることができる。
【0036】
光重合開始剤(B)はさらに、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドまたはジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(以下、これらをまとめて単に「開始剤(B2)」ともいう。)を含んでもよい。これらの光重合開始剤は、開始剤(B1)と併用されたときに、重合性化合物(A)を効率的に重合させ、硬化膜の表面硬化性を向上させたり断裁面における硬化膜の剥離を抑制したりする。
【0037】
開始剤(B2)の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0質量%以上8質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
光重合開始剤(B)は、上記開始剤(B1)または開始剤(B2)以外の、その他の光重合開始剤(B3)(以下、単に「開始剤(B3)」ともいう。)を含んでもよい。
【0039】
開始剤(B3)は、分子内結合開裂型の重合開始剤であってもよいし、分子内水素引き抜き型の重合開始剤であってもよい。
【0040】
分子内結合開裂型のラジカル重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、および2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンなどのアセトフェノン系の開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、およびベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン系の開始剤、ベンジル、およびメチルフェニルグリオキシエステルなどが含まれる。
【0041】
分子内水素引き抜き型のラジカル重合開始剤の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、および3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系の開始剤、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントンなどのチオキサントン系の開始剤、ミヒラーケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノンなどのアミノベンゾフェノン系の開始剤、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、およびカンファーキノンなどが含まれる。
【0042】
重合性化合物(A)がカチオン重合性の化合物を含むとき、開始剤(B3)はカチオン系の重合開始剤を含んでもよい。カチオン系の重合開始剤の例には、光酸発生剤が含まれる。光酸発生剤の例には、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、およびホスホニウムなどを含む芳香族オニウム化合物のB(C6F5)4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、CF3SO3
-塩など、スルホン酸を発生するスルホン化物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、ならびに鉄アレン錯体などが含まれる。
【0043】
光重合開始剤(B)の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して1.5質量%以上12質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。光重合開始剤(B)の含有量が多いほど、インクジェットインクの硬化性をより高めることができる。光重合開始剤(B)の含有量が適度に少ないと、未反応または反応後の光重合開始剤の、硬化膜からのマイグレーションやブルーミングを抑制することができる。
【0044】
また、光重合開始剤(B)の含有量に対する、アミン変性された重合性化合物(A1)の含有量の割合(A1/B)は、0より大きく8以下であることが好ましく、0より大きく5以下であることがより好ましく、0より大きく2以下であることがさらに好ましく、0.05以上1.5以下であることがさらに好ましく、0.1以上1以下であることが特に好ましい。割合(A1/B)が大きいほど、アミン変性された重合性化合物(A1)の作用により硬化膜の耐擦過性が高まりやすい。また、割合(A1/B)が大きいほど、連鎖移動反応により未反応の重合性化合物(A)の量を減らして、断裁面における硬化膜の剥離を抑制することができる。割合(A1/B)が小さいほど、アミン変性された重合性化合物(A1)をより十分に反応させて、未反応の重合性化合物(A)による断裁面の剥離およびマイグレーションおよびブルーミングを抑制したり、これによる画像の光沢の変化を抑制したり、不十分な反応により硬化膜が脆くなることによる耐折り割れ性の低下や、硬化膜の表面での硬化が不足することによる耐擦過性の低下などを抑制することができる。
【0045】
1-1-3.ゲル化剤(C)
ゲル化剤(C)は、常温ではインクジェットインクをゲル状態にし、加熱するとインクジェットインクを流動可能な状態にする化合物である。ゲル化剤(C)は、基材に付与されたインクジェットインクを早期にゲル化させて、インクジェットインクのピニング性を高めることができる。
【0046】
ゲル化剤(C)は、インクジェットインクのゲル化温度より高い温度で、インクに含有される活性線重合性化合物に溶解し、かつ、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化する化合物であることが好ましい。「ゲル化温度」とは、加熱によりゾル化または液体化したインクジェットインクを冷却したときに、インクがゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度を意味する。具体的には、ゾル化または液体化したインクを、レオメータ(たとえばAnton Paar社製、MCR300)で粘度を測定しながら冷却していったときに、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
【0047】
ゲル化剤(C)は、インクジェットインクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化して、板状に結晶化したゲル化剤(C)によって形成された三次元空間に重合性化合物(A)が内包された構造を形成することが好ましい(このような構造を、以下「カードハウス構造」という。)。カードハウス構造が形成されると、アミン変性された重合性化合物(A1)が移動できる範囲も上記三次元空間の内部に限定される。そのため、ある空間に内包されたアミン変性された重合性化合物(A1)と、他の空間に内包されたアミン変性された重合性化合物(A1)と、の反応が抑制され、アミン変性された重合性化合物(A1)による連鎖移動反応も所定範囲内のみで生じることになる。これにより、過剰な架橋形成が抑制されて硬化膜が過剰に硬化せず、ある程度柔軟であり折り曲げたときにも割れにくい硬化膜が形成されると考えられる。
【0048】
カードハウス構造を形成しやすいゲル化剤(C)の例には、脂肪族ケトン、脂肪族エステル、石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、硬化ヒマシ油、変性ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、ヒドロキシステアリン酸、N-置換脂肪酸アミドおよび特殊脂肪酸アミドを含む脂肪酸アミド、高級アミン、ショ糖脂肪酸のエステル、合成ワックス、ジベンジリデンソルビトール、ダイマー酸ならびにダイマージオールが含まれる。
【0049】
脂肪族ケトンの例には、ジリグノセリルケトン、ジベヘニルケトン、ジステアリルケトン、ジエイコシルケトン、ジパルミチルケトン、ジラウリルケトン、ジミリスチルケトン、ミリスチルパルミチルケトンおよびパルミチルステアリルケトンが含まれる。
【0050】
脂肪族エステルの例としては、ベヘニン酸ベヘニル、イコサン酸イコシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸パルミチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸オレイル等のモノアルコールの脂肪酸エステル;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、およびポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の多価アルコールの脂肪酸エステルが含まれる。
【0051】
上記脂肪族エステルの市販品の例には、EMALEXシリーズ(日本エマルジョン株式会社製(「EMALEX」は同社の登録商標))、リケマールシリーズおよびポエムシリーズ(理研ビタミン株式会社製(「リケマール」および「ポエム」はいずれも同社の登録商標))が含まれる。
【0052】
高級脂肪酸の例には、ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸,ラウリン酸、オレイン酸、およびエルカ酸が含まれる。
【0053】
高級アルコールの例には、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコールが含まれる。
【0054】
これらのうち、カードハウス構造による折り割れ耐性の向上効果をより十分に得る観点から、ゲル化剤(C)は、脂肪族ケトン、脂肪族エステル、高級脂肪酸、および高級アルコールであることが好ましく、下記一般式(G1)で表される脂肪族ケトン、または下記一般式(G2)で表される脂肪族エステルであることがより好ましい。ゲル化剤(C)は、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0055】
一般式(G1):Ra-CO-Rb
一般式(G2):Rc-COO-Rd
【0056】
一般式(G1)におけるRaおよびRbは独立して、炭素数12以上26以下の、分岐鎖を有してもよい直鎖状の炭化水素基を示し、一般式(G2)におけるRcおよびRdは独立して、炭素数12以上26以下の、分岐鎖を有してもよい直鎖状の炭化水素基を示す。
【0057】
一般式(G1)および(G2)に示すゲル化剤(C)は、Ra~Rdの炭素数が12以上であるため結晶性が高く、かつ、上記カードハウス構造の内部に十分に広い空間を生じる。そのため、重合性化合物(A)の内包による対折り割れ性の向上効果がより十分に奏される。
【0058】
また、一般式(G1)および(G2)に示すゲル化剤(C)は、Ra~Rdの炭素数が26以下であるため、融点が適度に低く、インクジェットインクのゾル化温度を高めすぎない。そのため、吐出時のインクジェットインクの加熱温度を低くすることができる。
【0059】
一般式(G1)で表される脂肪族ケトンの例には、ジリグノセリルケトン(炭素数:23-24)、ジベヘニルケトン(炭素数:21-22)、ジステアリルケトン(炭素数:17-18)、ジエイコシルケトン(炭素数:19-20)、ジパルミチルケトン(炭素数:15-16)、ジミリスチルケトン(炭素数:13-14)、ジラウリルケトン(炭素数:11-12)、ラウリルミリスチルケトン(炭素数:11-14)、ラウリルパルミチルケトン(11-16)、ミリスチルパルミチルケトン(13-16)、ミリスチルステアリルケトン(13-18)、ミリスチルベヘニルケトン(13-22)、パルミチルステアリルケトン(15-18)、バルミチルベヘニルケトン(15-22)およびステアリルベヘニルケトン(17-22)などが含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、カルボニル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0060】
一般式(G1)で表される化合物の市販品の例には、18-Pentatriacontanon、およびHentriacontan-16-on(いずれもAlfa Aeser社製)、ならびにカオーワックスT1(花王株式会社製)などが含まれる。
【0061】
一般式(G2)で表される脂肪族エステルの例には、ベヘニン酸ベヘニル(炭素数:21-22)、イコサン酸イコシル(炭素数:19-20)、ステアリン酸ステアリル(炭素数:17-18)、ステアリン酸パルミチル(炭素数:17-16)、ステアリン酸ラウリル(炭素数:17-12)、パルミチン酸セチル(炭素数:15-16)、パルミチン酸ステアリル(炭素数:15-18)、ミリスチン酸ミリスチル(炭素数:13-14)、ミリスチン酸セチル(炭素数:13-16)、ミリスチン酸オクチルドデシル(炭素数:13-20)、オレイン酸ステアリル(炭素数:17-18)、エルカ酸ステアリル(炭素数:21-18)、リノール酸ステアリル(炭素数:17-18)、オレイン酸ベヘニル(炭素数:18-22)およびリノール酸アラキジル(炭素数:17-20)などが含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、エステル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0062】
一般式(G2)で表される脂肪族エステルの市販品の例には、ユニスターM-2222SL、スパームアセチ、ニッサンエレクトールWEP-2およびニッサンエレクトールWEP-3(いずれも日油株式会社製、「ユニスター」および「ニッサンエレクトール」はいずれも同社の登録商標)、エキセパールSSおよびエキセパールMY-M(いずれも花王株式会社製、「エキセパール」は同社の登録商標)、EMALEX CC-18およびEMALEX CC-10(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX」は同社の登録商標)、ならびにアムレプスPC(高級アルコール工業株式会社製、「アムレプス」は同社の登録商標)などが含まれる。これらの市販品は、2種類以上の混合物であることが多いため、必要に応じて分離・精製してインクに含ませてもよい。
【0063】
ゲル化剤(C)の含有量は、インクの全質量に対して、0.5量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上6質量%以下であることがさらに好ましい。ゲル化剤(C)の含有量が多いほど、アミン変性された重合性化合物(A1)により形成される架橋の密度を抑制して硬化膜の折り割れ耐性、耐擦過性を高めることができ、また、カードハウス構造に未反応の重合性化合物(A)や光重合開始剤(B)などを内包させてこれらのブルーミングを抑制し、これにより画像の光沢の変化を抑制することができる。
【0064】
1-1-4.その他の成分
インクジェットインクは、着色剤および分散剤、界面活性剤、重合禁止剤、および保湿剤などのその他の成分をさらに含有してもよい。
【0065】
1-1-4―1.着色剤
着色剤は、染料または顔料とすることができ、対候性が高い硬化膜を形成する観点からは顔料が好ましい。顔料は、形成すべき硬化膜や、硬化膜が集合してなる画像のなど色彩などに応じて、黄(イエロー)顔料、赤色顔料、青色顔料、黒顔料および白色顔料から選択することができる。
【0066】
黄顔料の例には、Pigment Yellow(PY) 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193などが含まれる。
【0067】
赤色顔料の例には、Pigment Red(PR) 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet(PV) 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange(PO) 13、16、20、36、などが含まれる。
【0068】
青色顔料の例には、Pigment Blue(PB) 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17:1、22、27、28、29、36、60などが含まれる。
【0069】
緑顔料の例には、C.I.Pigment Green(以下、単に「PG」ともいう。)7、PG26、PG36、およびPG50などが含まれる。
【0070】
黒顔料の例には、C.I.Pigment Black(以下、単に「PBk」ともい
う。)7、PBk26、およびPBk28などが含まれる。
【0071】
白色顔料の例には、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および水酸化アルミニウムなどの無機顔料が含まれる。これらのうち、酸化チタンが好ましく、白色顔料を小粒径化させる観点からはアナターゼ型の酸化チタンが、画像の隠蔽性を高める観点からはルチル型の酸化チタンが、それぞれ好ましい。
【0072】
着色剤の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
1-1-4-2.分散剤
顔料である着色剤は、分散剤により分散性を高められていてもよい。
【0074】
分散剤の例には、ヒドロキシ基を有するカルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびステアリルアミンアセテートなどが含まれる。
【0075】
分散剤の含有量は、顔料の質量に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0076】
1-1-4-3.界面活性剤
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、および脂肪酸塩類などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などのノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、および第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、ならびにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤などが含まれる。
【0077】
界面活性剤の含有量はたとえば、インクジェットインクの全質量に対し0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0078】
1-1-4-4.重合禁止剤
重合禁止剤の例には、N-オキシル系重合禁止剤、フェノール系重合禁止剤、キノン系重合禁止剤、アミン系重合禁止剤、ジチオカルバミン酸銅系重合禁止剤などが含まれる。
【0079】
重合禁止剤の含有量はたとえば、インクジェットインクの全質量に対して0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0080】
1-2.物性
インクジェットインクは、インクジェットヘッドからの射出性をより高める観点から、80℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましく、7mPa・s以上9mPa・s以下であることがより好ましい。
【0081】
インクジェットインクは、40℃以上100℃未満の温度でゾルゲル相転移することが好ましい。また、インクジェットインクのゲル化温度は、40℃以上70℃以下であることが好ましい。インクジェットインクのゲル化温度が40℃以上であると、記録媒体に着弾後、インクが速やかにゲル化するため、ピニング性がより高くなる。インクのゲル化温度が70℃以下であると、インク温度が通常80℃程度であるインクジェットヘッドからのインクジェットインクの射出時にインクがゲル化しにくいため、より安定してインクを射出することができる。
【0082】
インクジェットインクの40℃における粘度、80℃における粘度およびゲル化温度は、レオメータ(例えば、ストレス制御型レオメータ Physica MCRシリーズ、Anton Paar社製)により、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。具体的には、インクを100℃に加熱し、剪断速度11.7(1/s)、降温速度0.1℃/sの条件で25℃まで冷却したときの、粘度の温度変化曲線を得る。そして、40℃における粘度と80℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において40℃、80℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求めることができる。ゲル化温度は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPa・sとなる温度として求めることができる。
【0083】
1-3.調製方法
インクジェットインクは、上述した各成分を混合して、調製することができる。このとき、各成分の溶解性を高めるため、加熱しながら混合することが好ましい。
【0084】
なお、顔料と分散剤とを含む顔料分散液をあらかじめ調製しておき、これに残りの成分を添加して混合してもよい。このとき、顔料の分散は、たとえばボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、およびペイントシェーカー等により行うことができる。
【0085】
2.硬化膜の製造方法
上述したインクジェットインクは、インクジェットヘッドから吐出して基材の表面に付与し、その後、活性線の照射により硬化させ、上記基材の表面または内部に硬化膜を形成するために使用することができる。
【0086】
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式とコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型などの電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン社の登録商標)型などの電気-熱変換方式などのいずれでもよい。
【0087】
基材の種類は特に限定されない。通常の非コート紙、コート紙などの他、合成紙ユポ(「ユポ」は株式会社ユポ・コーポレーションの登録商標)、軟包装に用いられる各種プラスチックおよびそのフィルムを用いることができる。各種プラスチックフィルムの例には、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸ポリスチレン(OPS)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、二軸延伸ナイロン(ONy)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどが含まれる。その他のプラスチックの例には、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアセタール、ポリビニルアルコール(PVA9、ゴム類などが含まれる。
【0088】
なお、インクジェットヘッドから吐出されたインクジェットインクを基材に直接付与してもよいし、インクジェットインクを中間転写体に付与した後、中間転写体から転写して基材に付与してもよい。
【0089】
その後、付与されたインクジェットインクに活性線を照射して、インクジェットインクを硬化させる。
【0090】
活性エネルギー線の例には、電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線などが含まれる。これらのうち、紫外線および電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。紫外線は、360nm以上410nm以下にピーク波長を有する光であることが好ましい。また、紫外線は、レーザー発光ダイオード(LED)光源から照射されることが好ましい。LEDは輻射熱が少ないため、活性線の照射時にインクジェットインクを溶解させにくく、インクの溶解による光沢ムラなどを生じさせにくい。
【0091】
活性線として紫外線を用いるとき、1回の照射あたりの光量は、500mJ/cm2以上4000mJ/cm2以下であることが好ましい。
【0092】
3.硬化膜
上述した方法により、基材の表面に硬化膜を形成することができる。硬化膜は、画像のほか、各種パターン化された樹脂膜として使用することができる。
【実施例0093】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の内容に限定されない。
【0094】
1.インクジェットインクの調製
(ブラック顔料分散液の調製)
9質量部の顔料分散剤(味の素ファインテクノ社製、アジスパーPB824)、70質量部の重合性化合物(A2)(トリプロピレングリコールジアクリレート)、および0.02質量部の重合禁止剤(チバ・ジャパン社製、Irgastab UV10)をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレートで加熱しながら、1時間加熱攪拌した。上記混合液を室温まで冷却した後、これにC.I.Pigment Black 7(三菱化学株式会社製)(顔料)を21質量部加えた。混合液を、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーにて8時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して顔料分散液を得た。
【0095】
上記調製した顔料分散液と、以下の材料を用いて、活性線硬化型のインクジェットインク1~インクジェットインク19を調製した。
【0096】
(アミン変性された重合性化合物(A1))
A1-1:EBECRYL80(ダイセル社製、官能基数:4、重量平均分子量:1000)
A1-2:EBECRYL7100(ダイセル社製、官能基数:2、重量平均分子量:400)
A1-3:CN371(Sartmer社製、官能基数:2、重量平均分子量:1600)
【0097】
(その他の重合性化合物(A2))
A2-1:トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)
A2-2:ポリエチレングリコール#600ジアクリレート(PEGDA)
A2-3:3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(3PO-TMPTA)
A2-4:3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(3EO-TMPTA)
【0098】
(光重合開始剤(B1))
B1-1:エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(Omnirad TPO-L(IGM Resins社製))
【0099】
(光重合開始剤(B2))
B2-1:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(Omnirad 819(IGM Resins社製))
B2-2:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(DAROCURE TPO(BASF社製))
【0100】
(その他の光重合開始剤(B3))
B3-1:SPEEDCURE ITX(Lambson社製)
【0101】
(ゲル化剤(C))
ジステアリルケトン(花王株式会社製)
【0102】
上記の材料を、表1~表3に記載の割合で配合し、三本ロールにより十分に混合した。その後、30μmのポリプロピレンプリーツフィルター(株式会社ロキテクノ製)で濾過して、インク1~インク19を得た。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
2.評価
上記調製したインク1~インク19について、下記の評価を行った。
【0107】
2-1.対折り割れ性
付量が9g/m2である4cm×4cmのベタ画像を25℃、60%RHの環境下に24時間放置した後、ベタ画像を形成した面が山となり、かつ、各色のベタ画像に折り目が形成されるように、画像を長手方向に2つ折りにし、画像のひび割れ具合を評価した。
A:ひび割れが全く認められない、またはひび割れがほとんど認められない。
B:一部でひび割れが認められる
C:長いひび割れが認められる。
D:割れていないところがほとんどない。
【0108】
2-2.断裁面剥離
記録媒体(OKトップコート)に形成したベタ画像を押切で断裁し、断裁面にニチバンセロテープ(登録商標)を貼った後、上から指で荷重をかけながら往復させ、テープを剥がし、剥離具合を目視で評価した。
A:テープ側に剥離部分の付着が認められない、またはテープ側に断裁面のみの剥離部分の付着が認められる。
B:画像表面でも断裁面付近の剥離が少し認められる。
C:画像表面で断裁面付近から離れたところまで剥離が認められる。
D:テープを貼った大部分が剥がれる。
【0109】
2-3.爪擦り
記録媒体(OKトップコート)に形成したベタ画像表面を疑似爪(成形アクリル片)で250gの荷重をかけながら30秒擦り、剥がれ具合を目視で評価した。
A:剥がれが全く認められない。
B:一部で小さく剥がれることがある。
C:剥がれるが、擦った部分のほとんどが残っている。
D:擦った部分がほぼ全て剥がれる。
【0110】
2-4.紙面擦り
記録媒体(OKトップコート)に形成したベタ画像表面を500g/cm2の荷重をかけ、30往復した時の紙面への移り度合いを目視で評価した。
A:色移りが全く認められない、または色移りがほぼ認められない。
B:色移りが一部で薄っすら確認できる。
C:色移りが目視で確認できる。
D:擦った紙全体に色移りしていることが目視で明らかに確認できる。
【0111】
2-5.光沢性
形成した2cm×2cmの面積でドット率を20%、50%、70%、100%と変化させた濃度階調パッチ画像について、形成画像部と記録媒体の未印字部(白地部)との光沢感、光沢差を目視観察し、下記の基準に従って光沢均一性の評価を行った。
A:全てのドット率の画像において、濃度階調パッチ画像と記録媒体の未印字部との光沢差が、全く認められない
B:全てのドット率の画像で、濃度階調パッチ画像と記録媒体の未印字部との光沢差が、ほぼ認められない
C:一部のドット率の画像で、やや濃度階調パッチ画像と記録媒体の未印字部との光沢差が認められるが、実用上許容される範囲の品質である
D:全てのドット率の画像で、濃度階調パッチ画像と記録媒体の未印字部との光沢差が認められ、違和感のある画像である、または実用に耐えない画像である
【0112】
2-6.ブルーミング
記録媒体(OKトップコート)に形成した5cm×5cmのベタ画像を、40℃の環境下で1ヶ月間保管した。保管後の画像を目視観察し、下記の基準に従ってブルーミングを評価した。
A:画像表面に析出物が全く認められない。
B:画像表面に析出物がほぼ認められない。
C:画像表面に薄らとした析出物が存在しており、目視で確認できる。
D:画像表面が粉上の物質で覆われており、目視で明らかに確認できる。
【0113】
それぞれの評価結果を表4~表6に示す。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
表4~表6に示すように、アミン変性された重合性化合物(A1)、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドである光重合開始剤(B1)、およびゲル化剤(C)を含むインク1~インク15は、耐擦過性が高く、なおかつ硬化膜の耐折り割れ性が向上していた。