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特開2024-179404MEMS素子、MEMS素子の製造方法、およびMEMS素子の剛性を制御する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179404
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】MEMS素子、MEMS素子の製造方法、およびMEMS素子の剛性を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   B81B 3/00 20060101AFI20241219BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20241219BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20241219BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B81B3/00
B81C1/00
C23C14/06 A
C23C14/35 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098230
(22)【出願日】2023-06-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ACS Publicationsのウェブサイトで公開されたACS Applied Engineering Materialsにおいて発表
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】庄 超
(72)【発明者】
【氏名】吉川 元起
(72)【発明者】
【氏名】柴 弘太
(72)【発明者】
【氏名】南 皓輔
【テーマコード(参考)】
3C081
4K029
【Fターム(参考)】
3C081AA07
3C081BA11
3C081BA43
3C081BA44
3C081BA45
3C081BA74
3C081CA28
3C081CA44
3C081CA45
3C081DA29
3C081EA01
4K029AA06
4K029BA60
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC39
4K029EA02
4K029EA03
4K029EA04
4K029EA09
(57)【要約】
【課題】高い圧縮強度を有し、かつ、薄膜状態において初期応力を制御可能な材料を用いてMEMS素子の剛性を制御する方法、並びに、そのようにして剛性が制御されたMEMS素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るMEMS素子は、少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜と、少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜と、これらに挟まれたサスペンデッド構造体を備える。本実施形態に係るMEMS素子の製造方法は、サスペンデッド構造体を備えるMEMS素子用基体を準備することと、当該サスペンデッド構造体の一方の面に上記第1の薄膜を形成することと、当該サスペンデッド構造体のもう一方の面に上記第2の薄膜を形成することを包含する。上記第1の薄膜の組成と上記第2の薄膜の組成は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜と、少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜と、これらに挟まれたサスペンデッド構造体とを備え、前記第1の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成と前記第2の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成は同じであるかまたは異なることを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
前記第1の薄膜の初期応力は、前記第2の薄膜のそれと同じであることを特徴とする請求項1に記載のMEMS素子。
【請求項3】
前記第1の薄膜の初期応力は、前記第2の薄膜のそれよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のMEMS素子。
【請求項4】
前記第1の薄膜の初期応力は、前記第2の薄膜のそれよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のMEMS素子。
【請求項5】
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物、1種類の遷移金属とII族元素またはIII族元素との合金を含有する窒化物、または、2種類以上の遷移金属の合金を含有する窒化物からなる薄膜、あるいは、これらのうちの2種類以上の薄膜が積層してなる積層膜であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のMEMS素子。
【請求項6】
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ウラン(U)、およびプルトニウム(Pu)からなる群より選択される1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のMEMS素子。
【請求項7】
前記第1の薄膜が窒化チタン(TiN)からなり、前記第2の薄膜が窒化チタン(TiN)からなり、前記MEMS素子の剛性は、-1000N/m~1000N/mの範囲内であることを特徴とする請求項6に記載のMEMS素子。
【請求項8】
前記MEMS素子の剛性は、実質的にゼロであることを特徴とする請求項7に記載のMEMS素子。
【請求項9】
前記サスペンデッド構造体が座屈状態であることを特徴とする請求項7に記載のMEMS素子。
【請求項10】
前記第1の薄膜上に感応膜をさらに備えることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のMEMS素子。
【請求項11】
前記第2の薄膜上に感応膜をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載のMEMS素子。
【請求項12】
サスペンデッド構造体を備えるMEMS素子用基体を準備し、前記サスペンデッド構造体の剛性を測定することと、
前記サスペンデッド構造体の一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜を形成することと、
前記サスペンデッド構造体のもう一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜を形成することと、
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜の初期応力を測定することと、
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体の剛性を測定すること
を包含し、
前記第1の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成と前記第2の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成は同じであるかまたは異なることを特徴とするMEMS素子の剛性を制御する方法。
【請求項13】
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜を、マグネトロンスパッタリング法によって形成することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記MEMS素子用基体を準備する前または後に、前工程を行うことをさらに包含し、前記前工程は、
前記サスペンデッド構造体と同じ材料で作製された基体を準備し、
前記基体に対して1以上の成膜条件で前記第1の薄膜または前記第2の薄膜を形成し、
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜の初期応力を測定し、
得られた結果から、前記サスペンデッド構造体の剛性と、前記第1の薄膜および前記第2の薄膜の初期応力との関係を一定の形式で表現すること
を包含することを特徴とする請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物、1種類の遷移金属とII族元素またはIII族元素との合金を含有する窒化物、または、2種類以上の遷移金属の合金を含有する窒化物からなる薄膜、あるいは、これらのうちの2種類以上の薄膜が積層してなる積層膜であることを特徴とする請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ウラン(U)、およびプルトニウム(Pu)からなる群より選択される1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなることを特徴とする請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも前記第1の薄膜および前記第2の薄膜を形成した後に、付加的な工程を行うことをさらに包含し、前記付加的な工程は、付加的な構成要素が感応膜である場合において、前記第1の薄膜上および/または前記第2の薄膜上に、任意の感応膜材料を含む感応膜を形成することを包含することを特徴とする請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS素子、MEMS素子の製造方法、およびMEMS素子の剛性を制御する方法に関し、特に、少なくとも1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなる薄膜の初期応力によって剛性が制御されたMEMS素子、そのようなMEMS素子の製造方法、および上記薄膜の初期応力によってMEMS素子の剛性を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小電気機械システム(MEMS)において、構造体の剛性は、デバイスの性能に影響を及ぼす主要な要因の一つである。ここで、MEMS素子(MEMSデバイスとも呼ばれる。)の剛性という場合、広義には、当該素子(デバイス)全体の剛性を意味し得るが、本明細書では、文脈に応じて、当該素子(デバイス)を構成する構造体の剛性が意図されること、より具体的には、当該素子(デバイス)の主たる機能を発揮するために必要な部分(要部)を構成する構造体の剛性が意図されることが理解される。
【0003】
MEMSデバイスの剛性は、局所的な応力を導入することで制御することができる。例えば、引張応力は構造体を硬化させ、圧縮応力は構造体を軟化させる。こうした局所応力は、以下に挙げるような能動的または受動的な方法で導入することができる。
【0004】
能動的な方法としては、静電気、電熱、圧電などの様々な物理的機構を介して構造体に内部応力を発生させる方法が挙げられる(非特許文献1参照)。これらの方法は、応力を制御するために精巧な回路設計や構造設計を必要とするため、適用範囲が狭く、設計や製造にかかるコストも高くなる。
【0005】
受動的な方法としては、構造体を薄膜構造とする、あるいは、構造体に薄膜を適用することにより、薄膜が持つ初期応力(prestress)を利用して構造体に局所応力を発生させる方法が挙げられる。例えば、圧縮応力が加わった二酸化シリコンなどの薄膜材料は、座屈した梁や膜の作製に利用されている(非特許文献2、3参照)。このような薄膜初期応力を利用する方法は、比較的安価であり、広範に適用可能な剛性制御法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M L C de Laat et al., A review on in situ stiffness adjustment methods in MEMS, J. Micromech. Microeng., 26(2016) 063001.
【非特許文献2】Ruize Xu et al., Buckled MEMS Beams for Energy Harvesting from Low Frequency Vibrations, Research, Vol. 2019, Article ID: 1087946.
【非特許文献3】B. Haelg, On a nonvolatile memory cell based on micro-electro-mechanics, IEEE Proc. 1990, 172.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の薄膜初期応力を用いた従来のアプローチは、対象の構造体の剛性を調整しにくいという点が大きな弱点である。第一に、従来使用されてきた薄膜材料は機械的強度が低いため、効率的な剛性制御に必要な高い応力に耐えることができない。第二に、従来使用されてきた薄膜材料では、確立された成膜プロセスにおいて、その初期応力を制御するための有効なプロトコルが存在しない。
【0008】
本発明の目的は、高い圧縮強度を有し、かつ、薄膜状態において初期応力を制御可能な材料を用いてMEMS素子の剛性を制御する方法、並びに、そのようにして剛性が制御されたMEMS素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、以下のとおりである。
【0010】
[1] 少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜と、少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜と、これらに挟まれたサスペンデッド構造体とを備え、前記第1の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成と前記第2の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成は同じであるかまたは異なることを特徴とするMEMS素子。
[2] 前記第1の薄膜の初期応力は、前記第2の薄膜のそれと同じであることを特徴とする[1]に記載のMEMS素子。
[3] 前記第1の薄膜の初期応力は、前記第2の薄膜のそれよりも小さいことを特徴とする[1]に記載のMEMS素子。
[4] 前記第1の薄膜の初期応力は、前記第2の薄膜のそれよりも大きいことを特徴とする[1]に記載のMEMS素子。
[5] 前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物、1種類の遷移金属とII族元素またはIII族元素との合金を含有する窒化物、または、2種類以上の遷移金属の合金を含有する窒化物からなる薄膜、あるいは、これらのうちの2種類以上の薄膜が積層してなる積層膜であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のMEMS素子。
[6] 前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ウラン(U)、およびプルトニウム(Pu)からなる群より選択される1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のMEMS素子。
[7] 前記第1の薄膜が窒化チタン(TiN)からなり、前記第2の薄膜が窒化チタン(TiN)からなり、前記MEMS素子の剛性は、-1000N/m~1000N/mの範囲内であることを特徴とする[6]に記載のMEMS素子。
[8] 前記MEMS素子の剛性は、実質的にゼロであることを特徴とする[7]に記載のMEMS素子。
[9] 前記サスペンデッド構造体が座屈状態であることを特徴とする[7]に記載のMEMS素子。
[10] 前記第1の薄膜上に感応膜をさらに備えることを特徴とする[1]~[9]のいずれかに記載のMEMS素子。
[11] 前記第2の薄膜上に感応膜をさらに備えることを特徴とする[10]に記載のMEMS素子。
[12] サスペンデッド構造体を備えるMEMS素子用基体を準備し、前記サスペンデッド構造体の剛性を測定することと、前記サスペンデッド構造体の一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜を形成することと、前記サスペンデッド構造体のもう一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜を形成することと、前記第1の薄膜および前記第2の薄膜の初期応力を測定することと、前記第1の薄膜および前記第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体の剛性を測定することを包含し、前記第1の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成と前記第2の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成は同じであるかまたは異なることを特徴とするMEMS素子の剛性を制御する方法。
[13] 前記第1の薄膜および前記第2の薄膜を、マグネトロンスパッタリング法によって形成することを特徴とする[12]に記載の方法。
[14] 前記MEMS素子用基体を準備する前または後に、前工程を行うことをさらに包含し、前記前工程は、前記サスペンデッド構造体と同じ材料で作製された基体を準備し、前記基体に対して1以上の成膜条件で前記第1の薄膜または前記第2の薄膜を形成し、前記第1の薄膜および前記第2の薄膜の初期応力を測定し、得られた結果から、前記サスペンデッド構造体の剛性と、前記第1の薄膜および前記第2の薄膜の初期応力との関係を一定の形式で表現することを包含することを特徴とする[12]または[13]に記載の方法。
[15] 前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物、1種類の遷移金属とII族元素またはIII族元素との合金を含有する窒化物、または、2種類以上の遷移金属の合金を含有する窒化物からなる薄膜、あるいは、これらのうちの2種類以上の薄膜が積層してなる積層膜であることを特徴とする[12]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16] 前記第1の薄膜および前記第2の薄膜は、それぞれ、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ウラン(U)、およびプルトニウム(Pu)からなる群より選択される1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなることを特徴とする[12]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 少なくとも前記第1の薄膜および前記第2の薄膜を形成した後に、付加的な工程を行うことをさらに包含し、前記付加的な工程は、付加的な構成要素が感応膜である場合において、前記第1の薄膜上および/または前記第2の薄膜上に、任意の感応膜材料を含む感応膜を形成することを包含することを特徴とする[12]~[16]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い圧縮強度を有し、かつ、薄膜状態において初期応力を制御可能な材料を用いてMEMS素子の剛性を制御する方法、並びに、そのようにして剛性が制御されたMEMS素子およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の例示的な実施形態に係るMEMS素子の構成を示す模式断面図。
図1A図1に示す実施形態の一態様を示す模式断面図。
図1B図1に示す実施形態の別の態様を示す模式断面図。
図2】本発明の別の例示的な実施形態に係るMEMS素子の構成を示す模式断面図。
図2A図2に示す実施形態の一態様を示す模式断面図。
図2B図2に示す実施形態の別の態様を示す模式断面図。
図3】本発明の別の例示的な実施形態に係るMEMS素子の構成を示す模式断面図。
図3A図3に示す実施形態の一態様を示す模式断面図。
図3B図3に示す実施形態の別の態様を示す模式断面図。
図3C図3に示す実施形態の別の態様を示す模式断面図。
図4】本発明の別の例示的な実施形態に係るMEMS素子の構成を示す模式断面図。
図4A図4に示す実施形態の一態様を示す模式断面図。
図5】本発明の一実施形態に係るMEMS素子の剛性を制御する方法を示すフローチャート。
図6図5に示す剛性制御方法のフローチャートにおける前工程のステップを示すフローチャート。
図7図5に示す剛性制御方法のフローチャートにおける感応膜形成のステップを示すフローチャート。
図8】実施例におけるMSS素子の剛性の制御スキームを示す模式図。
図9】実施例における、DC反応性マグネトロンスパッタリングによるTiN薄膜の成膜方法の模式図。
図10】基体(Wafer)上に成膜された薄膜(TiN)の残留応力σの算出方法を示す模式図。R、t、tは、それぞれ、基体の曲率半径、基体の厚さ、薄膜の厚さである。
図11】実施例において、基板バイアスと薄膜の厚さを様々に変化させて成膜されたTiN薄膜の初期応力σを示す図。(a)膜厚:20nm、(b)基板バイアス:-120V。
図12】横軸を基板バイアス(V)、縦軸を薄膜の膜厚t(nm)とし、TiN薄膜(スパッタリング薄膜)が持つ初期応力σを示した図。
図13】ナノインデンテーション法による、MSS素子本体の剛性の測定について示す模式図。
図14】TiN薄膜を成膜する前(Before)、および、5通りの成膜条件(Batch 1-5)でTiN薄膜を成膜したMSS素子本体について得られた荷重-変位曲線を示す図。
図15】MSS素子本体の剛性に対する、TiN薄膜の総初期応力σp,total影響について示す図。
図16】オイラー・ベルヌーイ梁理論の非線形拡張のための、圧縮されたヒンジ付き梁の模式図。
図17】非線形梁理論において得られた式(S6)から計算された、異なる圧縮レベルにおける梁の荷重-変位曲線を示す図。
図18】剛性が制御されたMSS素子を用いた湿度測定(水蒸気検出)の概念図。
図19】PMMA層を形成した後の比較用のMSS素子(左側)、および、TiN薄膜上にPMMA層を形成した後のMSS素子(右側)の顕微鏡写真を示す図。
図20】MSS素子を用いた湿度測定試験に使用した湿潤窒素流の相対湿度のプロファイル(測定シーケンス)を示す図。
図21】(a)湿度測定試験で得られたMSS素子の出力を示す図。(b)(a)の結果から、各湿度ステップで飽和した出力を、対応する湿度に対してプロットすることによって得られた湿度応答曲線。(c)センシング膜が座屈したMSS素子と座屈していないMSS素子を用いて行った、湿度測定試験で得られたMSS素子の出力を示す図。(d)(c)の結果から、各湿度ステップで飽和した出力を、対応する湿度に対してプロットすることによって得られた湿度応答曲線。
図22】シミュレーションソフトウエアでのモデル設定について説明する図。
図23】(a)TiN薄膜の総初期応力σp,totalを変化させたときの膜中心変位とポリマー膨潤ひずみの関係をシミュレーションした結果を示す図。(b)(a)と同じ総初期応力下でのMSS素子の湿度応答曲線をシミュレーションした結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
【0014】
[MEMS素子]
本発明のMEMS素子は、サスペンデッド構造体を備え、当該サスペンデッド構造体は、少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜(以下、単に「第1の薄膜」ともいう。)と、少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜(以下、単に「第2の薄膜」ともいう。)とに挟まれている。ここで、上記第1の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成と上記第2の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成は同じであるかまたは異なる。
【0015】
本明細書において、「サスペンデッド構造体」とは、所定の形状を有する構造体であって、少なくともその一部が基部と連結されて(もしくは基部に固定されて)おり、少なくとも第1の薄膜が位置する側および第2の薄膜が位置する側に一定の空間が存在するものが意図される。ここで、「一定の空間」は、開放空間であってもよく、閉鎖空間であってもよい。なお、後述するように、第1の薄膜上、および/または、第2の薄膜上には、所望により、感応膜などが形成され得るため、そのような構成要素を含む場合には、適宜、当該構成要素が位置する側に一定の空間が存在するものと読み替えることとする。
【0016】
本発明の例示的な実施形態において、MEMS素子におけるサスペンデッド構造体は、ダイアフラムである。図1は、ダイアフラム構造を有するMEMS素子の構成を示す模式断面図である。
【0017】
図1に示すMEMS素子100は、ダイアフラム102を備え、ダイアフラム102は、その両端が基部104と連結されている。このようなダイアフラム構造は、典型的には、半導体素子技術分野で用いられるシリコンウエハなどの基板材料を加工することによって形成される。この場合、ダイアフラム102の材料は、基部104の材料と同じもの(例えば、シリコン)であり得る。
【0018】
ダイアフラム102は、第1の薄膜106と、第2の薄膜108とに挟まれている。言い換えると、MEMS素子100において、ダイアフラム102の上面には第1の薄膜106が形成されており、ダイアフラム102の下面には第2の薄膜108が形成されている。
【0019】
ここで、図1に示すMEMS素子100においては、ダイアフラム102と基部104の上面に第1の薄膜106が形成されており、ダイアフラム102の下面と基部104の側面および下面に第2の薄膜108が形成されているが、本実施形態においては、基部104に第1の薄膜106および第2の薄膜108が形成されていることは必須の要件ではない。
【0020】
例えば、図1Aに示すMEMS素子120のように、第1の薄膜106および第2の薄膜108は、それぞれ、ダイアフラム102の上面および下面にのみ形成されていてもよい。このような構造は、例えば、第1の薄膜106および第2の薄膜108の形成の際に、任意の手法により、基部104の表面にマスクを施すことによって形成され得る。
【0021】
また、本実施形態において、MEMS素子のダイアフラム構造は、図1および図1Aに示す態様に限定されない。例えば、図1Bに示すMEMS素子140のように、断面視において基部104の略中央付近に、ダイアフラム102を備える構成であってもよい。当然ながら、ダイアフラム102は、図1Bに示した位置よりも上側または下側に形成されていてもよい。加えて、図1Bに示すMEMS素子140において、第1の薄膜106は、基部104の上面および側面に形成されていてもよく、第2の薄膜108は、基部104の下面および側面に形成されていてもよい。
【0022】
本発明のMEMS素子において、サスペンデッド構造体の構成は、図1図1Aおよび図1Bを参照して説明したような態様に限定されず、サスペンデッド構造体は、少なくともその一部が基部に固定されていてもよい。
【0023】
図2は、本発明の別の例示的な実施形態に係るMEMS素子の構成を示す模式断面図である。
【0024】
図2に示すMEMS素子200は、サスペンデッド構造体202を備え、サスペンデッド構造体202は、その両端が基部204の上面に固定されている。このような構成を有するMEMS素子200においては、サスペンデッド構造体202は、その形状や寸法などによって、ダイアフラムと称される場合があり、両持ち梁と称される場合があり、これら以外の表現で称される場合もある。
【0025】
サスペンデッド構造体202は、第1の薄膜206と、第2の薄膜208とに挟まれている。言い換えると、MEMS素子200において、サスペンデッド構造体202の上面には第1の薄膜206が形成されており、サスペンデッド構造体202の下面(基部204の上面と接している部分を除く)には第2の薄膜208が形成されている。
【0026】
ここで、本実施形態においても、上述の実施形態について説明したように、基部204の側面および下面に第2の薄膜208が形成されていることは必須の要件ではない。
【0027】
例えば、図2Aに示すMEMS素子220のように、第2の薄膜208は、サスペンデッド構造体202の下面(基部204の上面と接している部分を除く)のみに形成されていてもよい。ここで、第1の薄膜206は、サスペンデッド構造体202の上面において、サスペンデッド構造体202の下面において第2の薄膜208が形成された範囲に略対応する範囲に形成されていてもよい。あるいは、所望により、図2Bに示すMEMS素子240のように、第1の薄膜206は、サスペンデッド構造体202の上面の全体に渡って形成されていてもよい。
【0028】
図3は、本発明のさらに別の例示的な実施形態に係るMEMS素子の構成を示す模式断面図である。
【0029】
図3に示すMEMS素子300は、サスペンデッド構造体302を備え、サスペンデッド構造体302は、その一端(左端)が基部304の側面に固定されている。このような構成を有するMEMS素子300においては、サスペンデッド構造体302は、その形状や寸法などによって、片持ち梁と称される場合があり、これ以外の表現(例えば、可動部、振動部など)で称される場合もある。
【0030】
サスペンデッド構造体302は、第1の薄膜306と、第2の薄膜308とに挟まれている。言い換えると、MEMS素子300において、サスペンデッド構造体302の上面には第1の薄膜306が形成されており、サスペンデッド構造体302の下面には第2の薄膜308が形成されている。ここで、所望により、あるいは、第1の薄膜306および第2の薄膜308を形成する際の製法上の事情などにより、基部304の上面、下面、および/または側面に、第1の薄膜306または第2の薄膜308が形成されていてもよい。
【0031】
ここで、図3に示すMEMS素子300においては、サスペンデッド構造体302の上面に形成された第1の薄膜306の上面と基部304の上面が略揃っているが、このことは、本実施形態において必須の要件ではない。例えば、図3Aに示すMEMS素子320のように、基部304の側面に対するサスペンデッド構造体302の固定位置が、図3に示した態様よりも上側とされており、サスペンデッド構造体302の上面と基部304の上面が略揃っており、サスペンデッド構造体302の上面に形成された第1の薄膜306の上面が、その厚さの分だけ基部304の上面よりも上に位置していてもよい。あるいは、図3に示すMEMS素子300において、第1の薄膜306の厚さが薄いことにより、第1の薄膜306の上面が、基部304の上面よりも下に位置していてもよい(図示は省略。)。また、基部304の側面に対するサスペンデッド構造体302の固定位置が、図3に示した態様よりも下側とされており、第1の薄膜306の上面が、基部304の上面よりも下に位置していてもよい(図示は省略。)。
【0032】
また、本実施形態において、サスペンデッド構造体302と基部304との固定様式は、図3に示した態様に限定されず、例えば、図3Bに示すMEMS素子340のように、サスペンデッド構造体302の一端の下面が、基部304の上面の一部に固定されていてもよい。あるいは、図3Cに示すMEMS素子360のように、サスペンデッド構造体302の一端の下面が、基部304の上面の全体に渡って固定されていてもよい。図3Bおよび図3Cに示す態様において、第2の薄膜308は、サスペンデッド構造体302の下面のうち、基部304の上面と接している部分を除く領域に形成され得る。
【0033】
なお、図3図3A図3Bおよび図3Cに示すMEMS素子300、320、340および360においては、いずれも、サスペンデッド構造体302と基部304とが別個の構造体として描かれているが、上述したシリコンウエハなどの基板材料を加工することによって、サスペンデッド構造体302と基部304とを一体的に形成することも可能であり、そのような一体型の構成であっても、本実施形態の概念に含まれ得る点に留意されたい。
【0034】
図4は、本発明のさらに別の例示的な実施形態に係るMEMS素子の構成を示す模式断面図である。
【0035】
図4に示すMEMS素子400は、外観が略平板状であり、サスペンデッド構造体402を備え、サスペンデッド構造体402は、その両端が基部404の側面に固定されている。このような構成を有するMEMS素子400は、その形状や寸法などによって、センサチップ(もしくは単にチップ)と称される場合があり、これ以外の表現で称される場合もある。
【0036】
サスペンデッド構造体402は、第1の薄膜406と、第2の薄膜408とに挟まれている。言い換えると、MEMS素子400において、サスペンデッド構造体402の上面には第1の薄膜406が形成されており、サスペンデッド構造体402の下面には第2の薄膜408が形成されている。ここで、図4に示すMEMS素子400においては、第1の薄膜406の表面(上面)と基部404の上面が略揃っており、第2の薄膜408の表面(下面)と基部404の下面が略揃っているが、このことは、本実施形態において必須の要件ではない。また、所望により、あるいは、第1の薄膜406および第2の薄膜408を形成する際の製法上の事情などにより、基部404の上面、下面、および/または側面に、第1の薄膜406または第2の薄膜408が形成されていてもよい。
【0037】
加えて、本実施形態において、サスペンデッド構造体402と基部404との固定様式は、図4に示した態様に限定されず、例えば、図4Aに示すMEMS素子420のように、サスペンデッド構造体402の両端が、連結部(固定部)405を介して基部404の側面に固定されていてもよい。ここで、図4Aに示すMEMS素子420においては、第1の薄膜406は、サスペンデッド構造体402、基部404、および連結部405の上面に形成されており、第2の薄膜408は、サスペンデッド構造体402、基部404、および連結部405の下面に形成されている。当然ながら、MEMS素子420において、第1の薄膜406は、サスペンデッド構造体402の上面のみに形成されていてもよく、第2の薄膜408は、サスペンデッド構造体402の下面のみに形成されていてもよい。
【0038】
なお、図4に示すMEMS素子400の断面視において、サスペンデッド構造体402および基部404の厚さは例示である。同様に、図4Aに示すMEMS素子420の断面視において、サスペンデッド構造体402、連結部405、および基部404の厚さは例示であり、例えば、サスペンデッド構造体402と連結部405の厚さは略同じであってもよい。
【0039】
次に、上述の各種の実施形態に共通して当てはまり得る特徴について説明する。
【0040】
本発明のMEMS素子において、サスペンデッド構造体は、真空条件下で体積収縮が生じにくい材料で構成されていることが好ましい。これは、サスペンデッド構造体に対する第1の薄膜および第2の薄膜の形成が、典型的には、真空条件下で行われることと関係する。つまり、サスペンデッド構造体に体積収縮が生じた状態で第1の薄膜および第2の薄膜が形成されると、真空条件から大気圧に戻る際に、第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力が緩和され、サスペンデッド構造体の剛性に対する所望の効果が得られない場合がある。そのため、より好ましくは、サスペンデッド構造体は、真空条件下で実質的に体積収縮が生じない材料で構成されているか、または、真空条件下で体積収縮が生じ得るものであっても、当該体積収縮が第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力に与える影響を実質的に無視できる材料で構成されている。例示的な実施形態では、サスペンデッド構造体は、金属、シリコン、およびこれらを組み合わせた材料から構成される。これに対して、一般に高分子材料と称される材料は、真空条件下で(急激に)体積収縮が生じ易く、上述した第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力の緩和現象が避けられないため、サスペンデッド構造体を構成する材料としては不向きであると考えられる。
【0041】
加えて、サスペンデッド構造体は、第1の薄膜および第2の薄膜よりも柔らかい材料であることが好ましい。この文脈においては、サスペンデッド構造体を構成する材料の弾性率が、第1の薄膜および第2の薄膜を構成する材料(窒化物または炭窒化物)の弾性率よりも小さいことが意図される。これにより、第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力をサスペンデッド構造体に対してより効率的に作用させることができる。但し、サスペンデッド構造体が第1の薄膜および第2の薄膜よりも硬い材料であっても、第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力をサスペンデッド構造体に対して作用させることは可能である。
【0042】
一実施形態において、第1の薄膜の初期応力は、第2の薄膜の初期応力と同じであってもよい。この場合、サスペンデッド構造体の剛性に対する、第1の薄膜の初期応力の作用と、第2の薄膜の初期応力の作用とが同じである(均衡する)と考えられるので、サスペンデッド構造体は、第1の薄膜および第2の薄膜が形成される前の状態(形状)を維持することができる。例えば、サスペンデッド構造体がもともと略平板状(平坦形状)であり、MEMS素子の用途などに照らし、その状態(形状)を維持することが望ましい場合には、第1の薄膜の初期応力は、第2の薄膜の初期応力と同じであることが好ましい。これにより、サスペンデッド構造体において意図されない過剰な曲げや破断(fracture failure)が生じるのを回避することができる。
【0043】
なお、本発明のMEMS素子の製造において、薄膜の形成に使用する装置の仕様等の事情により、第1の薄膜の初期応力と第2の薄膜の初期応力を完全に一致させるのが困難である場合があり得る。言い換えると、予め設定した初期応力の目標値に対して、製造上の不可避的な誤差が生じ得る。また、第1の薄膜の初期応力と第2の薄膜の初期応力が完全に一致していない場合であっても、上述した効果を得ることは可能であり得る。実際に、後述する実施例で使用した装置について、本願発明者らが様々な条件で薄膜の作製実験を行ったところ、初期応力の目標値に対する再現性は、約10%の範囲内に収まり、当該範囲内においては、実質的に同じ初期応力を有する薄膜として扱うことができることが確認された。そのため、本発明のMEMS素子においては、第1の薄膜の初期応力の値が第2の薄膜の初期応力の値と完全に一致する場合のみならず、第1の薄膜の初期応力の値が第2の薄膜の初期応力の値に対して±10%の範囲内にある場合も、両者の初期応力は同じであると扱うものとする。一方、第1の薄膜の初期応力の値が第2の薄膜の初期応力の値に対して±10%の範囲外にある場合には、両者の初期応力は異なると扱うものとする。
【0044】
本明細書において、第1の薄膜および第2の薄膜に関する「初期応力」とは、薄膜が発生する(薄膜内に生じる)面内力を意味するものとする。初期応力σは、残留応力σと薄膜の厚さtの積:σ=σ・tとして定義し、単位はN/mである。
【0045】
別の実施形態において、第1の薄膜の初期応力は、第2の薄膜の初期応力よりも小さくてもよい。この場合、サスペンデッド構造体の剛性に対する、第1の薄膜の初期応力の作用は、第2の薄膜の初期応力の作用よりも小さくなると考えられるので、初期応力が圧縮応力である場合には、サスペンデッド構造体は、一定程度下側に弯曲(変形)する(なお、説明の便宜上、第1の薄膜が位置する側を上とする。以下同様。)。例えば、第1の薄膜および第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体に対してさらに感応膜(受容体層とも呼ばれる。)を形成することが意図される場合、サスペンデッド構造体が下側に弧を描いた形状であると、その表面(第1の薄膜上)に感応膜材料を効率よく堆積させることができる場合がある。また、感応膜が形成された状態において、サスペンデッド構造体が下側に弧を描いた形状であると、感応膜内に生じる応力を補償することになり、そのような領域では外部刺激に対してより高い感度で応答することができる場合があるため、センサ素子としてのMEMS素子の性能の向上が期待できる。
【0046】
さらに別の実施形態において、第1の薄膜の初期応力は、第2の薄膜の初期応力よりも大きくてもよい。この場合、サスペンデッド構造体の剛性に対する、第1の薄膜の初期応力の作用は、第2の薄膜の初期応力の作用よりも大きくなると考えられるので、初期応力が圧縮応力である場合には、サスペンデッド構造体は、一定程度上側に弯曲(変形)する。例えば、上述の感応膜の形成が意図される場合、第1の薄膜上に感応膜が形成された状態において、感応膜内に生じる応力と外部刺激に対する応答が上述の場合と反対の傾向である場合には、サスペンデッド構造体が上側に弧を描いた形状であることにより、センサ素子としてのMEMS素子の性能の向上が期待できる。
【0047】
上述した、第1の薄膜の初期応力と第2の薄膜の初期応力との間にサスペンデッド構造体の状態(形状)に影響を及ぼす実質的な差がある態様において、その差が大きい場合、または、第1の薄膜の初期応力と第2の薄膜の初期応力とがいずれも比較的大きい値である場合、第1の薄膜第1の薄膜と第2の薄膜の初期応力の作用が座屈荷重を超え、サスペンデッド構造体は座屈状態となり、変形した状態で安定し得る。このような座屈状態のサスペンデッド構造体を備えるMEMS素子は、双安定構造を有する材料として、例えば、セルラー材料(cellular material)の分野への適用が期待できる。このように、本発明のMEMS素子は、メタマテリアル(meta-material)の分野への応用も可能であり得る。
【0048】
本発明のMEMS素子において、第1の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成と第2の薄膜を構成する窒化物または炭窒化物の組成は同じでもよく、異なっていてもよい。言い換えると、第1の薄膜に含まれる遷移金属M1と第2の薄膜に含まれる遷移金属M2は同じでもよく、異なっていてもよい。本明細書において、「遷移金属」とは、広義には、周期表において第3族元素から第12族元素の間に存在する元素が意図される。但し、典型的には、IUPAC分類に従い、第3族元素から第11族元素の間に存在する元素から、遷移金属を選択することが好ましい。なお、遷移金属M1および遷移金属M2は、それぞれ、1種類の遷移金属であってもよく、2種類以上の遷移金属の組み合わせであってもよい。
【0049】
ここで、1種類の遷移金属を含有する窒化物の非限定的な例を挙げると、概ね以下の通りである。
窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(CrN)、窒化モリブデン(MoN)、窒化タングステン(WNまたはWN)、窒化マンガン(MnN)、窒化鉄(FeN)、窒化銅(CuN)、窒化スカンジウム(ScN)、窒化イットリウム(YN)、窒化ランタン(LaN)、窒化セリウム(CeN)、窒化プラセオジム(PrN)、窒化ネオジム(NdN)、窒化サマリウム(SmN)、窒化エルビウム(ErN)、窒化ウラン(UN)、窒化プルトニウム(PuN)。ここで、上記窒化物について括弧書きで示した化学式は例示であり、初期応力を示すものであれば、それ以外の化学式で表されるものであってもよい。例えば、窒化鉄はFeNに限定されず、FeN、FeN、Fe16であってもよく、これら以外の化学式で表されるものであってもよい。
【0050】
これらのうち、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化クロム、窒化モリブデン、窒化タングステン、窒化鉄、窒化銅などの薄膜は、比較的高い圧縮強度を有し、かつ、後述するスパッタリング法をはじめとする成膜法におけるパラメータを適切に調整することにより、薄膜の初期応力を制御することが可能であるため、第1の薄膜および第2の薄膜を構成する窒化物として好ましく用いられる。
【0051】
また、1種類の遷移金属を含有する炭窒化物の非限定的な例としては、上述の窒化物の構成元素:チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、エルビウム(Er)、ウラン(U)、およびプルトニウム(Pu)からなる群より選択される1種類の遷移金属を含有する炭窒化物が挙げられる。例えば、当該遷移金属がチタン(Ti)である場合は、炭窒化チタン(TiCN)である。
【0052】
また、第1の薄膜に含まれる遷移金属M1と第2の薄膜に含まれる遷移金属M2がそれぞれ1種類の遷移金属である態様において、第1の薄膜および第2の薄膜は、それぞれ、1種類の遷移金属とII族元素(第2族元素および第12族元素)またはIII族元素(第13族元素)との合金を含有する窒化物であってもよい。そのような窒化物の非限定的な例としては、TiGaN、TiAlN、NbAlN、TiCaN、TiMgNが挙げられる。
【0053】
上述の、遷移金属M1および遷移金属M2がそれぞれ2種類以上の遷移金属の組み合わせである態様においては、第1の薄膜および第2の薄膜は、それぞれ、2種類以上の遷移金属の合金を含有する窒化物であってもよい。そのような窒化物の非限定的な例としては、TiScN、TiYN、TiZrN、TiTaN、TaZrN、TiLaNが挙げられる。
【0054】
あるいは、別の態様において、第1の薄膜および第2の薄膜は、それぞれ、上述の、1種類の遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物、1種類の遷移金属とII族元素またはIII族元素との合金を含有する窒化物、または、2種類以上の遷移金属の合金を含有する窒化物からなる薄膜のうちの2種類以上の薄膜が積層してなる積層膜であってもよい。例えば、第1の薄膜は、遷移金属M1aの窒化物薄膜と遷移金属M1bの窒化物薄膜の積層膜(ここで、遷移金属M1aと遷移金属M1bは互いに異なる遷移金属である。)であり得、および/または、第2の薄膜は、遷移金属M2cの窒化物薄膜と遷移金属M2dの窒化物薄膜の積層膜(ここで、遷移金属M2cと遷移金属M2dは互いに異なる遷移金属である。)であり得る。
【0055】
一実施形態において、第1の薄膜および第2の薄膜は、いずれもTiN薄膜であってもよい。ここで、そのような第1の薄膜および第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体の剛性は、実質的にゼロであってもよい。この文脈において、剛性が実質的にゼロであるとは、-10N/m~10N/mの範囲内にあることが意図される。あるいは、そのような第1の薄膜および第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体の剛性は、-1000N/m~1000N/mの範囲内であってもよい。本発明のMEMS素子では、第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力は、正の値から負の値(すなわち、引張応力から圧縮応力)まで、広範に渡って調整され得るため、これに対応してサスペンデッド構造体の剛性も広範に渡って制御され得る。これにより、本発明のMEMS素子は、カンチレバー構造のデバイス、エネルギーハーベスタ、クランプビームレゾネータなど、各種の用途に応じて剛性が制御されたデバイスとして有用である。
【0056】
MEMS素子(MEMS素子を構成するサスペンデッド構造体)の剛性の測定方法は特に限定されないが、例えば、静的な測定方法としては、ナノインデンテーション法や原子間力顕微鏡(AFM)などを用いる方法が挙げられ、動的な測定方法としては、サスペンデッド構造体の共振周波数を測定する方法などが挙げられる。
【0057】
代表的な実施形態において、本発明のMEMS素子は、ナノメカニカルセンサ素子である。ナノメカニカルセンサは、気相や液相中に存在する測定対象の物質(または物質群)を選択的に吸着・吸収する感応膜(受容体層)を有し、この吸着等によってセンサ中に引き起こされる各種の物理的パラメータの変化から分析を行うセンサである。ナノメカニカルセンサは、小型で簡単な構造であるにもかかわらず比較的高感度であること、また、感応膜を適宜選択することにより広範な測定対象物質に対応することができるという利点を有する。本願発明者らは、ナノメカニカルセンサの中でも、感応膜に測定対象物質が吸着等することによる感応膜の表面応力の変化を検出する表面応力センサに着目し、様々な測定対象物質に対して高い選択性を示す感応膜材料の探索などを行ってきた。また、本願発明者らは、従来の表面応力センサに採用されていた古典的なピエゾ抵抗式カンチレバー構造とは異なる、膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor、MSS)を開発し、高感度化、動作の安定性向上など、様々な用途に利用しやすい特徴の改善に成功している。なお、MSSの原理・構造などについては、必要に応じて国際公開第2011/148774号を参照されたい。以下では、本発明の理解を助けるために、ナノメカニカルセンサ素子の代表例として表面応力センサ素子を取り上げ、特にMSS素子に言及する場合があるが、そのことによって一般性を失うものではないことに留意されたい。
【0058】
実施例の項で図8を参照して説明するように、MSS素子(MSSチップ)は通常、構造的な対称性が高いため、上述の第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力によるサスペンデッド構造体の剛性の制御効果についての実証実験行う、および/または、基礎的な知見を得るために使用する構造体として適している。そして、そのようなMSS素子を用いて得られた実験結果および/または知見は、MSS素子とは異なる原理・構造などを有する表面応力センサ素子、ナノメカニカルセンサ素子、さらには、より一般的なMEMS素子に対して本発明を適用する際の指針として活用することができる。
【0059】
一実施形態において、本発明のMEMS素子は、第1の薄膜上、および/または、第2の薄膜上に、付加的な構成要素をさらに備えていてもよい。そのような付加的な構成要素は、例えば、上述の感応膜であり得る。言い換えると、本発明のMEMS素子は、サスペンデッド構造体が、第1の薄膜および第2の薄膜に挟まれた構造を有するが、そのことによってMEMS素子の用途が制限されるものではなく、第1の薄膜および第2の薄膜を有しない場合と同様に感応膜などの付加的な構成要素を設けることができ、サスペンデッド構造体に所望の機能を発揮させることができる。むしろ、本発明のMEMS素子は、サスペンデッド構造体が、第1の薄膜および第2の薄膜に挟まれた構造を有することにより、サスペンデッド構造体の剛性が制御されているので、デバイスの性能を向上させることができる。さらに、本発明においては、目的のデバイスに求められる性能を考慮してサスペンデッド構造体の剛性の目標値(もしくは目標範囲)を設定した上で、第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力を調整することで、サスペンデッド構造体の剛性が当該値(もしくは範囲)に制御されたMEMS素子とすることができる。
【0060】
[MEMS素子の製造方法]
次に、上述のMEMS素子の製造方法について説明する。
【0061】
本発明の一実施形態に係るMEMS素子の製造方法は、
・サスペンデッド構造体を備えるMEMS素子用基体を準備することと、
・当該サスペンデッド構造体の一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜を形成することと、
・当該サスペンデッド構造体のもう一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜を形成すること
を包含する。
【0062】
一実施形態において、MEMS素子用基体は、図1に示すMEMS素子100の、ダイアフラム102と基部104を備える構造体である。
別の実施形態において、MEMS素子用基体は、図2に示すMEMS素子200の、サスペンデッド構造体202と基部204を備える構造体である。
さらに別の実施形態において、MEMS素子用基体は、図3に示すMEMS素子300の、サスペンデッド構造体302と基部304を備える構造体である。
さらに別の実施形態において、MEMS素子用基体は、図4に示すMEMS素子400の、サスペンデッド構造体402と基部404を備える構造体である。なお、本実施形態において、MEMS素子用基体は、図4Aに示すMEMS素子420の、サスペンデッド構造体402と、基部404と、連結部405を備える構造体であってもよい。
【0063】
MEMS素子用基体のサスペンデッド構造体の一方の面に第1の薄膜を形成する方法、および、当該サスペンデッド構造体のもう一方の面に第2の薄膜を形成する方法は特に限定されないが、例えば、スパッタリング(スパッタ)法が挙げられる。スパッタリング法は、一般にコーティングや薄膜形成に用いられる、物理的気相成長(PVD)法の一種であり、真空中でプラズマを用いて成膜する技術である。なお、上述のPVD法と同様に乾式めっき法に分類される手法としては、化学的気相成長(CVD)法があり、熱CVDやプラズマCVDが含まれる。
【0064】
スパッタリング法は、その原理上、真空蒸着法と比べて、ターゲット(成膜材料)から飛び出した粒子(原子・分子)の運動エネルギーが大きい(5~10eV)ため、形成される薄膜の密着性が高く、また、ターゲットの材料選択の幅が広いという特徴を持つ。加えて、近年、スパッタリング法を実施するための装置も種々開発されており、比較的簡便に操作および成膜条件を調整することができる。そのため、スパッタリング法は、本発明のMEMS素子における第1の薄膜および第2の薄膜の形成に好ましく用いられ得る。本発明においては、遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなる薄膜の形成が意図されるため、不活性ガスと反応性ガスを混合・導入してスパッタリングを行う反応性スパッタリングである。スパッタリングの種類としては、代表的に、2極法、マグネトロン法が挙げられ、本発明においては、2極法よりも成膜速度が速い点でマグネトロンスパッタリング法が好ましい。
【0065】
スパッタリング法により形成された薄膜(以下、「スパッタリング薄膜」ともいう。)の特徴については、従来、薄膜の成長過程や構造形成の観点などから様々に研究が行われている。例えば、スパッタリング薄膜の応力は、基板に印加するバイアス電圧や膜厚によって制御することができる。スパッタリング薄膜の形成においては、スパッタリングによってターゲットから飛び出した原子・分子が薄膜の成長表面に入射する、および、スパッタリングに必要な不活性ガスイオンがターゲットなどで反射し、薄膜の成長表面に入射するため、そのような入射原子・分子・イオン自身が、あるいは、それらが目的の薄膜を構成する原子を格子間原子位置に押し込み、一種の釘打ち効果(atomic peening effect、原子レベルのピーニング効果)をもたらすとされている。そして、スパッタリング薄膜の応力は、スパッタリング条件によって、圧縮応力にも引張応力にもなり得、線形(もしくは準線形)の制御も可能であり得る。
【0066】
このように、第1の薄膜および第2の薄膜をスパッタリング薄膜とすることで、例えば上述した-1000N/m~1000N/mの範囲内でサスペンデッド構造体の剛性を制御すること、または、-10N/m~10N/mの範囲内でサスペンデッド構造体の剛性を実質的にゼロとすることが可能となる。もちろん、スパッタリング法以外の成膜法であっても、複数の成膜条件で予備的な試験を行い、サスペンデッド構造体の剛性と、第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力との関係を一定の形式で表現する(モデル化する)ことで、上述のMEMS素子(剛性が制御されたMEMS素子)を得ることができることが理解されるべきである。
【0067】
後述する実施例において具体的に示されるように、窒化チタン(TiN)は、上述の原子レベルのピーニング効果により、スパッタリング薄膜の残留応力を線形に制御できることが大きな特徴の一つである。従来、TiNなどの薄膜の残留応力制御性それ自体はよく研究されているが、本願発明者らが知る限りにおいて、マイクロ/ナノスケールのMEMSデバイスの剛性を制御する目的で、TiNなどの遷移金属の窒化物薄膜、あるいは、チタンなどの遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなる薄膜を適用した報告例はこれまでに無かった。
【0068】
本発明のMEMS素子が上述の付加的な構成要素をさらに備える場合において、当該付加的な構成要素を、第1の薄膜上、および/または、第2の薄膜上に形成する方法は特に限定されない。例えば、当該付加的な構成要素が上述の感応膜である態様では、インクジェット装置、ディスペンサー、スプレーコーターなどの塗布手段を用いて感応膜材料を薄膜上に塗布(堆積)させればよい。
【0069】
[MEMS素子の剛性を制御する方法]
次に、上述のMEMS素子の剛性を制御する方法について、図5図7を参照しながら説明する。
【0070】
本発明の一実施形態に係るMEMS素子の剛性を制御する方法(以下、単に「剛性制御方法」ともいう。)は、図5のフローチャートに示すように、
・サスペンデッド構造体を備えるMEMS素子用基体を準備し(S510)、当該サスペンデッド構造体の剛性を測定すること(S512)と、
・当該サスペンデッド構造体の一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M1を含有する窒化物または炭窒化物からなる第1の薄膜を形成すること(S520)と、
・当該サスペンデッド構造体のもう一方の面に少なくとも1種類の遷移金属M2を含有する窒化物または炭窒化物からなる第2の薄膜を形成すること(S530)と、
・当該第1の薄膜および当該第2の薄膜の初期応力を測定すること(S540)と、
・当該第1の薄膜および当該第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体の剛性を測定すること(S550)
を包含する。
【0071】
上述の剛性制御方法において、MEMS素子用基体は、上述のMEMS素子の製造方法について図1図2図3図4および図4Aを参照して説明したのと同様である。また、MEMS素子用基体に備えられたサスペンデッド構造体の剛性を測定する方法としては、上述の静的な測定方法(ナノインデンテーション法など)および動的な測定方法が挙げられる。なお、S510で準備されるMEMS素子用基体について、予め理論、シミュレーション、および実験のいずれかに基づいて、サスペンデッド構造体の剛性を推定するもしくは知ることができる場合には、S512のステップを省略し、当該推定値もしくは実験値を利用することも可能である。
【0072】
ここで、所望により、前工程を行うかどうかを判断し(S502)、必要に応じて前工程を行ってもよい(S600)。前工程は、所定の成膜法によって成膜される第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力を予め測定する目的で行われ得る。図6は、当該前工程のステップを示すフローチャートである。
【0073】
前工程は、
・基体を準備すること(S610)と、
・当該基体の表面に遷移金属を含有する窒化物または炭窒化物からなる薄膜を形成すること(S620)と、
・当該薄膜の初期応力を測定すること(S630)
を包含し、さらに、
・別の成膜条件で上記S610~S630のステップを行うかどうかを判断し(S640)し、必要に応じてS610~S630のステップを行うこと
を包含する。
【0074】
上述の前工程において、基体は、その表面に、少なくともS510で準備されるMEMS素子用基体のサスペンデッド構造体と同一の材料を有することが望ましい。また、基体は、外観が略平板状(平坦形状)であることが好ましく、これにより、基体の曲率を測定することで、その表面に形成された薄膜の初期応力を算出(推定)することができる。例えば、S510で準備されるMEMS素子用基体が、シリコンウエハを加工することによって作製されたものであれば、S610で準備する基体としては、シリコンウエハを用いることが好ましい。
【0075】
S620において、遷移金属は、遷移金属M1または遷移金属M2であることが意図される。
【0076】
S630において、基体表面に形成された薄膜の初期応力は、典型的には、基体の曲率を測定し、以下のStoneyの式を利用して残留応力を算出し、その値と膜厚から、上述の定義に基づいて算出される。
【数1】
ここで、上記式中、R、t、E/(1-ν)は、それぞれ、基体の曲率半径、厚さ、二軸弾性率である。
【0077】
S640においては、上記S610~S630のステップの反復の要否が判断される。ここでは、成膜法に応じて、特定の1または複数のパラメータについて異なる条件を設定し、S610~S630のステップを繰り返し行うことによって、当該パラメータの条件と薄膜の初期応力との関係を一定の形式で表現する(モデル化する)ことができると期待される。
【0078】
このように、前工程を行うことにより、実際にS510で準備されるMEMS素子用基体に対して第1の薄膜および第2の薄膜を形成する際の条件をより適切に設定することができ、ひいては、本実施形態の剛性制御方法によるMEMS素子の剛性の制御が、より効率的に行われると考えられる。なお、上述した前工程を行うかどうかの判断(S502)と前工程の実行(S600)は、図5に例示したようにS510およびS512の前であることは必須ではなく、S512の後であってもよい。
【0079】
図5のフローチャートに戻り、S512においてMEMS素子用基体に備えられたサスペンデッド構造体の剛性を測定した後、第1の薄膜および第2の薄膜を形成した後のサスペンデッド構造体の剛性について、目標値(もしくは目標範囲)を設定するかどうかを判断し(S514)、必要に応じて当該値(もしくは範囲)を設定してもよい(S516)。例えば、上述したように、目的のデバイスに求められる性能を考慮してサスペンデッド構造体の剛性の要件が定まるような場合には、予め目標値(もしくは目標範囲)を設定しておくことが好ましい場合がある。一方、作製した(剛性が制御された)MEMS素子を一旦(試験的に)目的のデバイスに適用するような場合には、必ずしもそのような目標値(もしくは目標範囲)を設定することは要しない。
【0080】
次に、S520において、サスペンデッド構造体の一方の面に上記第1の薄膜を形成する。第1の薄膜を形成する方法については上述したのと同様であるので、ここでは説明を省略する。後述する第2の薄膜を形成する方法についても同様である。
【0081】
ここで、第1の薄膜を形成した後、所望により、第2の薄膜を形成する前に第1の薄膜の初期応力を測定するかどうかを判断し(S522)、必要に応じて当該測定を行ってもよい(S524)。例えば、対象のMEMS素子用基体について上述の剛性制御方法を適用した実績があり、予め理論、シミュレーション、および実験のいずれかに基づいて、第1の薄膜の初期応力を推定するもしくは知ることができる場合には、S524のステップを省略し、当該推定値もしくは実験値を利用することができる。
【0082】
次に、S530において、サスペンデッド構造体のもう一方の面に上記第2の薄膜を形成する。
【0083】
次に、S540において、第1の薄膜および第2の薄膜の初期応力を測定する。ここで、S524として第1の薄膜の初期応力を測定した場合には、適宜、第1の薄膜の初期応力の測定を省略してもよい。また、上述のS524と同様に、対象のMEMS素子用基体について上述の剛性制御方法を適用した実績があり、予め理論、シミュレーション、および実験のいずれかに基づいて、第2の薄膜の初期応力を推定するもしくは知ることができる場合には、S540のステップを省略し、当該推定値もしくは実験値を利用することも可能である。
【0084】
次に、S550において、第1の薄膜および第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体の剛性を測定する。S550での剛性の測定方法についても、上述したのと同様に、静的な測定方法(ナノインデンテーション法など)および動的な測定方法を用いることができる。なお、典型的には、S550のステップは必須であるが、例えば、後述する付加的な工程を行うことが予め決定している場合には、S550での剛性の測定を省略することも可能である。あるいは、対象のMEMS素子用基体について上述の剛性制御方法を適用した実績があり、予め理論、シミュレーション、および実験のいずれかに基づいて、第1の薄膜および第2の薄膜を備えたサスペンデッド構造体の剛性を推定するもしくは知ることができる場合には、S550のステップを省略し、当該推定値もしくは実験値を利用することも可能であり得る。
【0085】
ここで、S516において剛性の目標値(もしくは目標範囲)が設定されている場合には、S550での剛性の測定結果(または上述の推定値もしくは実験値)と当該値(もしくは範囲)とを比較し、検証を行う。例えば、上述の前工程S600を行って得られた結果を基に、第1の薄膜および第2の薄膜の成膜条件が適切に設定された場合には、上記検証結果は良好であることが期待される。一方、前工程で用いた基体が、S510で準備したMEMS素子用基体のサスペンデッド構造体の材料と同一であっても、実際に作製されたMEMS素子において、サスペンデッド構造体の剛性の変化が、当初の想定と異なる場合などがあり得る。そのような場合には、上記検証の結果を考慮して、第1の薄膜および第2の薄膜の成膜条件をより適切に再設定することができる。
【0086】
S550の後、得られたMEMS素子は、その状態で、所望の用途に供することもできる。あるいは、所望により、付加的な工程を行うかどうか(付加的な構成要素を設けるかどうか)を判断し(S552)、必要に応じて付加的な構成要素を設けてもよい。図5では、具体的な態様の一例として、当該付加的な構成要素が感応膜である場合の、感応膜形成(S700)のステップを示した。
【0087】
図7は、上述の感応膜形成のステップを示すフローチャートである。
【0088】
図7に示す感応膜形成は、
・基体を準備すること(S710)と、
・感応膜を第1の薄膜上に形成するかどうかを判断し(S720)、必要に応じて感応膜を形成すること(S730)と、
・第1の薄膜上に感応膜を形成した場合には、感応膜を第2の薄膜上に形成するかどうかを判断し(S740)、必要に応じて感応膜を形成すること(S750)、または、第1の薄膜上に感応膜を形成しなかった場合には、第2の薄膜上に感応膜を形成すること(S750)と、
・感応膜が形成されたサスペンデッド構造体の剛性を測定すること(S760)と、
・感応膜を再形成するかどうかを判断し(S770)、必要に応じて感応膜を除去し(S780)、上記S720以降のステップを行うこと
を包含する。
【0089】
S710について、ここでいう基体は、サスペンデッド構造体に第1の薄膜および第2の薄膜が形成されたMEMS素子用基体である。
【0090】
S730およびS750において、第1の薄膜上および第2の薄膜上に感応膜を形成する方法については上述したのと同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0091】
S760での剛性の測定方法は、S550について上述したのと同様である。また、図7におけるS760についての「検証」についても、S550について上述したのと同様であるので、ここでは説明を省略する。但し、S700としての感応膜形成に関しては、感応膜の再形成の要否を判断し(S770)、必要な場合には、感応膜を除去(S780)し、再度S720以降のステップを行うことで、同一の基体を用いて、より望ましい態様で感応膜が形成されたMEMS素子を作製することができる。
【0092】
感応膜を除去する方法は特に限定されないが、例えば、感応膜材料に応じて、水や有機溶媒などの適切な溶媒を用いて感応膜が形成された部分を洗浄することが挙げられる。なお、基本的に、このような洗浄処理によって、第1の薄膜および第2の薄膜の性状が損なわれることは無いと考えられるが、感応膜の除去処理中に第1の薄膜および第2の薄膜に対して意図しない欠陥が生じないよう留意する。
【実施例0093】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではなく、その理解を助けるためのものであることに留意されたい。
本実施例では、上述した表面応力センサ素子としてMSS素子を用い、上記第1の薄膜および第2の薄膜として窒化チタン(TiN)薄膜を用いた。図8は、本実施例におけるMSS素子の剛性の制御スキームを示す模式図である。
【0094】
図8の左側は、MSS素子を含むセンサチップ(MSSチップ)の外観を示す模式斜視図である。MSSチップは、シリコン単結晶から切り出されたシリコンウエハから形成されたものである。MSS素子は、図中に「MSS」の文字が付されている円形部分(正方形等の他の形状でもよい)が、その周囲の枠状部に当該円形部分の上下左右4ヶ所で接続され固定された構造を有している。また、当該4ヶ所の固定部(固定領域)には、ピエゾ抵抗素子(Piezoresistor)が設けられている。このようなMSS素子の典型的な使用態様では、MSS素子に与えられた流体成分が上記円形部分の表面に塗布された感応膜に吸着・脱着することでMSS素子に印加された表面応力が上記4ヶ所の固定部に集中し、上記ピエゾ抵抗素子の電気抵抗変化がもたらされる。これらのピエゾ抵抗素子は、枠状部に設けられた導電領域によって相互接続されてホイートストンブリッジが形成される。このホイートストンブリッジの対向する2つの節点間に電圧が印加され、残りの2つの節点間に現れる電圧が、MSS素子から出力されるシグナルとしてMSS素子の外部に取り出されて所要の解析が行われる。すなわち、MSS素子において、上記円形部分は、上述のサスペンデッド構造体に相当する。また、上記円形部分は、MSS素子の要部を構成する構造体であるので、しばしば「本体」や「素子本体」などとも称される。このようなMSS素子の構造や動作については、例えば上述の国際公開第2011/148774号に詳述されているので、適宜参照されたい。
【0095】
本実施例では、上記円形部分(本体)の表面に感応膜が形成されていない状態のMSS素子を準備し、第1の薄膜および第2の薄膜としてTiN薄膜を適用することで、図8の右側に示すような、剛性が制御されたMSS素子を得ることを基本スキームとした。
【0096】
[TiN薄膜の初期応力の測定]
まず、上述の前工程として、基体にシリコンウエハを用いて、TiN薄膜が持つ初期応力を測定した。
【0097】
TiN薄膜は、DC反応性マグネトロンスパッタリング装置(CFS-4EP-LL(i-miller)、芝浦メカトロニクス)を用いて、3インチシリコンウエハ上に室温で成膜した。
【0098】
図9は、DC反応性マグネトロンスパッタリングによるTiN薄膜の成膜方法の模式図である。成膜対象物のシリコンウエハ(Wafer)と、ターゲットの金属チタン(Ti)は、真空チャンバー(図示せず)内に配置されており、真空ポンプで排気することによりチャンバー内は真空状態とされる。チャンバー内には、不活性ガスと共に反応性ガスが導入される。図中では、左側から不活性ガスのアルゴン(Ar)と反応性ガスの窒素(N2)が導入され、右側にガスが排気(Outlet)される様子を模式的に示している。ターゲットにはDC電源(DC source)が接続されており、シリコンウエハが載置される基板(Substrate)にはRF電源(RF power)が接続されており、基板に対して負のバイアス電圧(Neg. bias)を印加可能に構成されている。所定の電圧が加えられると、不活性ガスのアルゴンが放電してプラスイオン(Ar+)となり、ターゲット表面に衝突することにより、チタン原子が飛び出し、これが反応性ガスの窒素と反応することで窒化チタン(TiN)となり、ターゲットと向かい合うシリコンウエハ上に堆積する。このとき、アルゴンイオン(またはターゲットなどで反射する際に中性化したアルゴン原子)が薄膜の成長表面に入射する。このようにして、成膜対象物の表面にTiN薄膜が成膜される。
【0099】
本実施例では、DCスパッタリング電力は200Wであり、電界放出型走査電子顕微鏡(S-4800、日立ハイテク)での膜厚測定から推定される成膜速度は0.044nm/sであった。成膜の前に、3インチのチタンターゲットを60秒間スパッタリングして酸化物不純物を除去した。成膜中、シリコンウエハは20rpmで回転させた。窒素およびアルゴンの流量はそれぞれ1.6sccmおよび11.4sccmであり、チャンバー圧力は0.22Paであった。
【0100】
TiN薄膜が成膜されたシリコンウエハの曲率を、薄膜応力測定装置(FLX-2000-A、東邦テクノロジー社)を用いて測定し、上述のStoneyの式に基づいて薄膜の残留応力σを算出した。図10には、算出方法の模式図を示した。ここで、本実施例で用いた3インチシリコンウエハの場合、Stoneyの式におけるt、E/(1-ν)は、それぞれ、t=380[μm]、E/(1-ν)=1.805×1011[N/m]である。
【0101】
本実施例では、基板バイアスと薄膜の厚さという2つの成膜パラメータを様々に変化させて、上述の定義に基づいてTiN薄膜の初期応力σを算出した。結果を図11および図12に示す。
【0102】
図11(a)は、膜厚を20nmに固定し、基板バイアスを様々に変化させて成膜されたTiN薄膜の初期応力σをプロットしたグラフであり、図11(b)は、基板バイアスを-120Vに固定し、膜厚を様々に変化させて成膜されたTiN薄膜の初期応力σをプロットしたグラフである。なお、各条件での試行回数は3回以上である。
【0103】
図11(a)に示されるように、膜厚が一定の場合、基板バイアスが大きくなると、TiN薄膜の初期応力σは準線形に増加した。これは、スパッタリング薄膜において原子レベルのピーニング効果として知られる、高エネルギーイオンの照射強化による薄膜内欠陥濃度の増加により、TiN薄膜の圧縮残留応力が増加することが一因であると思われる。また、図11(b)に示されるように、基板バイアスが一定の場合、膜厚の増加に伴ってTiN薄膜の初期応力σは漸近的に増加した。これは、膜厚が大きくなると、TiNの異方性成長による引張応力によって薄膜の圧縮残留応力が減少することが一因であると思われる。つまり、スパッタリング薄膜の残留応力σと膜厚tは負の相関があると言える。なお、引張応力は正、圧縮応力は負という慣例に従い、初期応力は負と定義している。本実施例で得られた最小初期応力(-13.7N/m)と最大初期応力(-309.2N/m)は、それぞれ、-45Vと-180Vの基板バイアスで成膜した10nmと88nmの膜厚のTiN薄膜で生じた。
【0104】
図12は、横軸を基板バイアス(V)、縦軸を薄膜の膜厚t(nm)とし、TiN薄膜が持つ初期応力σを示した図である。ここで、黒丸印のプロットは、測定されたデータ点であり、これらを基に描かれた等高線を点線で示した。図12に示されるように、上記前工程により、スパッタリングにおける成膜パラメータと、スパッタリング薄膜(TiN薄膜)の初期応力σとの関係をモデル化することができた。
【0105】
[MSS素子の剛性の制御]
上述したTiN薄膜の初期応力の制御性を利用して、MSS素子の剛性を制御する実験を行った。MSS素子を含むセンサチップ(MSSチップ)は、NanoWorld AGから購入した。本実験で使用するMSS素子の初期剛性を同等にするために、平均剛性125.3±10.0N/mのMSSを20個選定し、後述する5つのバッチに分けた。
【0106】
<TiN薄膜の形成>
上述の前工程と同じ装置および手法により、MSS素子(より具体的には素子本体の円形部分)に、DC反応性マグネトロンスパッタリングにより、TiN薄膜を成膜した。TiN薄膜の成膜は、素子本体の上面および下面の両方に対して行った。素子本体の両面にTiN薄膜が形成されたMSS素子においては、TiN薄膜の初期応力による曲げモーメントをバランスさせることができる。これにより、素子本体が過剰に曲がることを抑制することができ、素子本体の剛性が最小となる初期の(TiN薄膜の成膜前の)平坦な形状に近い状態を維持することができる。
【0107】
加えて、本実施例では、素子本体上面のTiN薄膜の初期応力は、下面のTiN薄膜の初期応力よりも大きくなるように設計した。このわずかなアンバランスにより、素子本体は常に上側に弯曲(変形)する。このことは、上記顕微鏡を用いた高さプロファイル測定から確認された。このように素子本体が上側に弯曲していることで、後述するナノインデンテーション測定では、中立的な平面構成を経て素子本体(円形の膜状体)を押し込むことになるため、測定結果として、完全な剛性特性を得ることができるようになる。
【0108】
上述のTiN薄膜の初期応力の測定結果(図11図12参照)を考慮し、表1に示すように5組の成膜条件を選択した。成膜条件は、素子本体の曲げ方向に関する上記の要件を満たすように設計した。さらに、バッチ番号1から5の条件では、素子本体の剛性に関わる総初期応力σp,total(上面と下面から付与されるTiN薄膜の初期応力σの合計)は増加するように設計した。
【0109】
【表1】
【0110】
TiN薄膜を成膜した後のMSS素子を顕微鏡(レーザー走査型共焦点顕微鏡(VK-X1000)、KEYENCE社製)で観察したところ、いずれの成膜条件で得られた素子本体も、TiN特有のわずかな黄色味を帯びている様子が確認された。
【0111】
<ナノインデンテーション測定>
TiN薄膜を成膜する前のMSS素子、および、各バッチ番号の条件で得られたMSS素子について、ナノインデンテーション法を用いて素子本体の剛性を測定し、TiN薄膜の初期応力が素子本体の剛性(初期剛性)に与える影響を調べた。具体的には、ナノインデンテーション試験機(ENT-5、エリオニクス社製)を用い、図13に示すように、圧子(Indenter)としてダイヤモンドプローブを用いて、上側に弯曲した素子本体の上面(Top)側から下面(Bottom)側に向かって素子本体の中心を変位させながら、その反力を記録し、素子本体の柔軟性を特徴付ける荷重-変位曲線を生成した。
【0112】
図14は、本実験で得られた荷重-変位曲線の全データの中から、各バッチ条件の平均的な特徴を示すデータ(サブセット)を抽出した図である。図14に示されるように、バッチ番号1から5にわたって、TiN薄膜の総初期応力σp,totalが増加するにつれて、徐々に非線形になることが確認された。このような非線形性の変化は、素子本体の剛性の低下と関連しており、曲線の二階微分がゼロに等しく、素子本体が最小の剛性を示す変曲点での傾きとして評価することができる。実際に、図15に示されるように、TiN薄膜の総初期応力σp,totalの増加とともに、MSS素子本体の剛性が直線的に減少していることがわかる。さらに、この直線性は、素子本体の座屈状態を意味する負の剛性(-42N/m)まで維持されている。この線形関係は、構造力学および材料力学の分野においてよく知られているオイラー・ベルヌーイ梁理論によって定性的に理解することができる。
【0113】
<非線形梁理論>
ここで、上記実験で得られた、TiN薄膜の初期応力とMSS素子本体の剛性との関係の理解を深めるために、図16に示すようなヒンジ付き梁において、梁が延びる方向(軸方向)に対して横方向の集中荷重Fを受けたx軸方向に圧縮された場合を考える。変形プロファイルu(x)は、軸方向荷重項を追加したオイラー・ベルヌーイ方程式で解くことができ、梁が最初は平坦であると仮定することにより、次式を得る:
【数2】
ここで、E、I、M、Pは、それぞれ、弾性係数、面積2次モーメント、曲げモーメント、アキシャル荷重を表す。アキシャル荷重は、初期の軸方向圧縮Pと曲げ変形時に発生する引張の2つの成分を持つ:
【数3】
ここで、Aは梁の断面積を表す。式(S2)を式(S1)に代入すると、次式となる:
【数4】
u(x)が梁の第一座屈モードで近似できるような小さな変形を仮定すると:u(x)=u sin(πx/L)、ここでuは梁中心の最大変位(u=u(L/2))である。この中心点にのみ着目し、x=L/2とすれば、式(S3)は次のようになる:
【数5】
なお、このuの式において、第一項の係数はヒンジ付き梁の座屈荷重であり、それを
【数6】
とし、回転半径を
【数7】
として、項を整理すると、次のようになる:
【数8】
この式(S5)に、正規化表記としてw=u/r、f=FL/4Pr、および、p=P/Pを代入することで、式(S5)は以下のように単純化することができる:
【数9】
上記式(S6)を用いると、梁の荷重-変位曲線は、図17に示すように計算でき、図14に示した実験結果と類似していることが分かる。
【0114】
梁の剛性は、剛性が最小となる変曲点df/dw=0での傾きとして定義される。初期状態の平坦な梁の場合、最小剛性点は原点、すなわちw=0と一致する。剛性は、正規化変位wに関して式(S6)の一階微分をとることで計算され、w=0とすることで、次式が得られる:
【数10】
この式(S7)から、軸方向荷重がないとき(p=0)には剛性は1に等しく、軸方向荷重が増加し、梁の座屈荷重(p=1)を超えると剛性は0から負の値まで直線的に減少することが分かる。この式(S7)は、ここでの軸方向荷重が、上述の実験における基板からの反力に相当するため、上記実験で得られた直線関係(図15)と一致する。
【0115】
このように、上記実験で得られた、TiN薄膜の初期応力とMSS素子本体の剛性との関係は、公知のオイラー・ベルヌーイ梁理論の非線形拡張に基づいて予測される非線形荷重-変位曲線と首尾よく一致することが分かった。
【0116】
[剛性が制御されたMSS素子の特性の分析]
次に、上述のようにして剛性が制御されたMSS素子を湿度センサとして使用し、その機械的挙動を検討した。ここでは、MSS素子本体のTiN薄膜上にポリメチルメタクリレート(PMMA)を塗布することで機能化した。また、比較のために、TiN薄膜を成膜していないMSS素子本体にPMMAを塗布したものも準備した。なお、PMMAは、試料ガス中に含まれる水分(水蒸気)に敏感なポリマー(すなわち、感湿性ポリマー)であり、湿度センサ用の感応膜材料として有用な物質である。
【0117】
MSS素子の機能化には、インクジェットスポッティングを使用した。具体的には、PMMAを10g/Lの濃度でDMFに溶解し、インクジェットスポッター(LaboJet-500SP、MICROJET社)のピエゾノズルに装填した。上記インクジェットスポッターは、圧電アクチュエータに電圧パルスを送り、ノズル内に音響波を発生させてポリマー溶液を液滴状に押し出す方式である。液滴の速度は、27Vの単一矩形パルスを95μs使用することにより、6m/sに保った。MSS素子本体のTiN薄膜上(もしくはMSS素子本体上)に所定数の液滴を滴下した後、MSS素子を80℃に加熱しながら乾燥させることでPMMAの感応膜を形成した。なお、以下では、説明の便宜上、TiN薄膜を備えるMSS素子本体を、センシング膜と呼ぶ。
【0118】
MSS素子の湿度センサとしての実験のために、以下のようなガス供給システムを用いた。2台のマスフローコントローラ(MFC)(SEC-N112MGM、HORIBA)を用いて、1台のMFCからは一定量の水を収容したガラスバイアル内に乾燥窒素を所定の流量で送り込むことでガラスバイアル内のヘッドスペースの飽和水蒸気を送り出してミキシングチャンバの一方の入口に導入し、もう1台のMFCからは乾燥窒素を所定の流量で流してミキシングチャンバのもう一方の入口に導入することで上述の飽和水蒸気を含む窒素ガスを希釈し、様々な相対湿度の湿潤窒素流を生成した。MSS素子に与える全ガス流量は100sccmに固定し、湿潤流の湿度は湿度センサ(SHT21-D2CE3、SENSIRION)で測定した。すべての測定は、ベースラインを設定するための240秒間の乾燥窒素パージから始まり、湿潤流は、相対湿度を0%から81%まで42段階で上昇および降下させながら密閉された検出チャンバー内に配置されたMSS素子に送り込んだ。各湿度ステップ(湿潤流の供給区間)は90秒間に設定し、MSS素子の出力が各ステップで平衡に達することができるようにした。MSS素子の出力は、-0.5Vのバイアス電圧で測定した。
【0119】
図18には、本実験による湿度測定(水蒸気検出)の概念図を示した。図18の左側のグラフにおいて、「Dry N」は、上述の乾燥窒素パージに対応し、「Humidified N」は、上述の湿潤流の供給区間に対応する。図18の右側に示したように、PMMA(Polymer)に水分子が吸着すると、PMMA層は膨潤し、その下のセンシング膜が変形し、センシング膜を支持する4つの固定部に埋め込まれたピエゾ抵抗素子の出力(Piezoresistive output)(%ΔR/R)が変化する。センシング膜が柔軟になるとMSS素子は水蒸気に対してより敏感になるため、湿度に対する感度は、センシング膜の剛性に関する第2の特性評価指標となる。
【0120】
本実験では、PMMAによる機能化は、センシング膜の剛性が30.1、3.0、-7.8N/mであった3つのMSS素子、および、素子本体の剛性が95.5N/mであった比較用のMSS素子で実施した。比較用のMSS素子は実験結果を考察する上での基準となるものであり、TiN薄膜を有する3つのMSS素子は、上掲の表1のバッチ2から4の条件で作製したものである。なお、参考として、図19には、PMMA層を形成した後の比較用のMSS素子(左側)、および、TiN薄膜上にPMMA層を形成した後のMSS素子(右側)の顕微鏡写真を示した。
【0121】
図20には、本実験に使用した湿潤窒素流の相対湿度のプロファイル(測定シーケンス)を示した。MSS素子に与えられる湿潤流の相対湿度が上昇または降下すると、センシング膜上のPMMAが膨張または収縮し、ピエゾ抵抗出力が増加または減少する。具体的には、図21(a)に示すように、湿潤流の相対湿度の変化に対応して、ピエゾ抵抗出力が変化した。なお、図中には各MSS素子の剛性を記載しており、この記載順序と、ピエゾ抵抗出力を示すグラフの順序が対応している。また、1つの図で対比が可能なように、4つのグラフはそれぞれベースラインを減算処理した後のものである。
【0122】
ここで、各湿度ステップで飽和した出力(ピエゾ抵抗出力がほぼ一定となったときの値)を、対応する湿度に対してプロットすることによって、図21(b)に示すように、増加および減少するピエゾ抵抗素子の出力シーケンスを1つの湿度応答曲線として示すことができる。図中の丸印は、相対湿度が上昇するプロファイル(Increasing、図20参照)で得られた結果であり、バツ印は、相対湿度が降下するプロファイル(Decreasing、図20参照)で得られた結果である。
【0123】
これらの結果から、上述のセンシング膜を有するMSS素子では、素子本体の両面に形成されたTiN薄膜の初期応力の作用により、素子本体の剛性が、比較用のMSS素子よりも低く制御され、これにより湿度センサとしての感度が向上したことが分かった。従って、MEMS素子のサスペンデッド構造体に対して遷移金属の窒化物薄膜を適用することによる、サスペンデッド構造体の剛性制御の有効性が確認された。
【0124】
一般に、構造体の剛性がゼロ以下になると、構造体は座屈状態となり、これに伴って明確な機械的挙動が現れる。上述の実験では、センシング膜の剛性が-7.8N/mと負であるMSS素子は異常な挙動を示さなかったが(図21(a)参照)、これは、センシング膜上にPMMA層が存在し、このPMMA層によってセンシング膜の剛性が正の値に戻されているためであると考えられる。そのため、座屈による異常な機械的挙動を調べるには、上で使用したよりも大きな負の剛性を持つセンシング膜を使用する必要がある。そこで、上述の実験のために選定したものと比べてほぼ半分の初期剛性(68.7N/m)を有するMSS素子を選んで、次の実験に使用した。
【0125】
選定したMSS素子の本体の上面と下面に、上述したのと同じ装置および手法により、それぞれ-150Vと-70Vの基板バイアスで20nmのTiN薄膜を成膜し、TiN薄膜の総初期応力σp,totalを-125.6N/mに設定した。TiN薄膜の成膜後、センシング膜は座屈し、ナノインデンテーション試験機を用いた試験により、-105N/mという大きな負の剛性を持つことが確認された。
【0126】
この座屈したセンシング膜を、正の剛性(108.0N/m)を有する別のMSS素子のセンシング膜とともにPMMAで機能化し、上述したのと同じガス供給システムを用いて乾燥窒素流と湿潤窒素流を交互に与える実験を行い、各MSS素子の出力を測定した。結果を図21(c)に示す。なお、上述の図21(a)と同様に、図中には各MSS素子の剛性を記載しており、この記載順序と、ピエゾ抵抗出力を示すグラフの順序が対応している。また、1つの図で対比が可能なように、2つのグラフはいずれもベースラインを減算処理した後のものである。
【0127】
図21(c)に示した結果から、座屈したセンシング膜を有するMSS素子は、座屈していないMSS素子と比べて、ピエゾ抵抗出力に急激な変化が生じることが確認された。さらに、湿度が上昇するか下降するかによって、相対湿度が異なる場合に急激な変化が発生することが分かった。このヒステリシスは、図21(d)に示す湿度応答曲線でよりよく確認することができる。ここで、当該湿度応答曲線は、上述の図21(b)と同様にして得られたものであり、図中の矢印は、急激な変化が生じたことを示している。これらの矢印で示した突然のジャンプは、双安定な座屈膜のスナップスルー運動に対応し、座屈構造においてよく知られた現象である。これは、負の剛性が死荷重下で不安定であることに起因している。また、臨界閾値付近では、座屈した膜は湿度の変化に極めて敏感になる。従って、これらの特徴により、座屈したセンシング膜を有するMSS素子は、臨界閾値において特に高い信号対雑音比を持つ双安定閾値センサとして利用可能であると言える。
【0128】
<数値シミュレーション>
上述の座屈したセンシング膜の非線形湿度応答曲線を再現するために、COMSOL Multiphysics 6.0の構造力学モジュールを用いて、MSS素子のセンシング膜の変形を有限要素解析(FEA)でモデル化した。ここでは、センシング膜の変形を正確にモデル化するために、光学式膜厚計(OPTM-A1、大塚電子株式会社製)を用いてセンシング膜の厚さを測定した。具体的に、剛性が68.7N/mのセンシング膜の場合、膜厚は1.92μmと測定された。この結果を用いて、厚さ3μmのポリマー(PMMA)、厚さ20nmのTiN薄膜で被覆した厚さ1.92μmのシリコン膜、4つの固定ピエゾ抵抗ブリッジでモデルを構築した。膜厚以外のMSS素子の詳細な形状は、上述の国際公開第2011/148774号など、既報の通りである。
【0129】
ポリマーとセンシング膜は、固定端付近の誤差を減らすために、ソリッド要素として明示的にモデル化し、全体の形状は8000以上の四角形セレンディピティ要素で離散化し、すべての層の厚さ方向に3要素を割り当てた。ポリマー、TiN、シリコンのヤング率は、それぞれ、2.28GPa、400GPa、170GPaとし、ポアソン比は、それぞれ、0.40、0.325、0.28とした。なお、ここでは、MSS素子構造の対称性を考慮して、図22に示すように、全体の形状の4分の1のみをモデル化した。
【0130】
ポリマーの膨潤は、ポリマー中の等方性歪みεpolymerでモデル化した。TiNの初期応力はTiN薄膜の等軸応力として実装し、2つ(シリコン膜の上面と下面)の薄膜の初期応力の和が、総初期応力σp,totalを構成する。なお、初期応力は上記の非線形梁理論と同様に、基板からの圧縮軸荷重に直結している。ピエゾ抵抗出力は、ピエゾ抵抗ブリッジの上面の差応力を次式に従って平均化することによって得られる:
【数11】
ここでπ44(-138.1×10-11 Pa-1)はp型シリコンのピエゾ抵抗係数、σxx、σyyはシリコン表面の<110>方向と直角方向の応力である。収束を確実にするために、変位制御はグローバルな方程式ノードで実装されている。さらに、パラメータ・コンティニュエーションを有効にし、前のステップの解に基づいてソルバーに良い初期推測をさせるようにした。精度を確保するために、メッシュの細分化も行った。
【0131】
ポリマー膨潤時の初期応力膜の変形はニュートンラプソン法で解かれ、ピエゾ抵抗ブリッジに集中する差応力の結果が得られた(データは図示せず。)。また、ポリマー膨潤が進行した場合の膜中心の変位を図23(a)に、それに対応するピエゾ抵抗出力、すなわち湿度応答曲線を図23(b)に示す。湿度応答曲線は、上述の実験と一致するように、次第に非線形になる結果が得られた。しかしながら、-120N/mの総初期応力下では、モデル化した膜は座屈しないが、実際の実験では膜は座屈し、湿度応答曲線に急激なジャンプを示す点で、上記実験とは異なる結果となった。このシミュレーションにおける膜の剛性に関する過大評価の原因は不明であり、膜内の厚さのばらつき、ポリマー形状の単純化、またはTiN薄膜内の厚さ依存の応力勾配に起因する可能性があると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
構造体の剛性は、様々なマイクロ/ナノスケールの機械デバイスの性能を決定する重要な設計パラメータである。例えば、構造体の剛性がゼロに近い(もしくは実質的にゼロである)と、ナノメカニカルセンサの感度を大幅に向上させることができる。負の剛性は双安定性をもたらすため、そのような構造体は、メカニカルメタマテリアルの補整性(auxeticity)、双安定性MEMSのエネルギーハーベスタの広帯域化、マイクロロボットの大変形作動、ナノメカニカルメモリーストレージおよびスイッチなどに広く応用することができる。
【0133】
本発明は、マイクロ/ナノスケール・デバイスにおいて、従来の剛性制御方式に代わる低コストで効果的な方法を提供するものである。本発明の方法は、性能向上のために低剛性または負剛性を必要とする様々なMEMSデバイスに適用することができる。
例えば、ナノメカニカルセンサは、ガス検知やバイオセンシング用途で感度を高めるために低い剛性を必要とし、ダイアフラム圧力センサは、わずかな気圧変化を検出するために低い剛性を必要とし、MEMSベースのエネルギーハーベスタは、広い動作帯域幅のために負の剛性が不可欠である。このように、本発明、マイクロ/ナノスケール・デバイスの剛性を制御するためのシンプルな代替製造技術を提供するものである。
【0134】
上述の実施例では、MSS素子を用いて、TiNを蒸着することで、MEMSセンサ素子の剛性を正からゼロ、そして負の値まで広範囲にわたって精密に制御できることを実証した。剛性が低下すると、高感度化や双安定性などの機能性が発現し、デバイスの機械的挙動を大きく変化させることができる。本発明による剛性制御手法は、マイクロカンチレバーを含む様々なMEMSデバイスにも適用可能である。したがって、本発明は、ゼロに近い剛性や負の剛性を持つ構造体の作製に適用でき、様々なマイクロ/ナノスケールの機械デバイスの性能を大幅に改善し、優れた検出および作動機能を持つデバイスの作製の実現に貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0135】
100、120、140 MEMS素子
102 サスペンデッド構造体(ダイアフラム)
104 基部
106 第1の薄膜
108 第2の薄膜
200、220、240 MEMS素子
202 サスペンデッド構造体
204 基部
206 第1の薄膜
208 第2の薄膜
300、320、340、360 MEMS素子
302 サスペンデッド構造体
304 基部
306 第1の薄膜
308 第2の薄膜
400、420 MEMS素子
402 サスペンデッド構造体
404 基部
405 連結部(固定部)
406 第1の薄膜
408 第2の薄膜
図1
図1A
図1B
図2
図2A
図2B
図3
図3A
図3B
図3C
図4
図4A
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23