(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017942
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】チタン多孔質体の製造方法及び、チタン多孔質体
(51)【国際特許分類】
B22F 3/11 20060101AFI20240201BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20240201BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240201BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20240201BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240201BHJP
B22F 1/062 20220101ALI20240201BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B22F3/11 C
B22F3/10 C
B22F3/02 M
C22C1/08 F
B22F1/00 R
B22F1/062
C22C14/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120925
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅文
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018BA03
4K018BB02
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA09
4K018DA03
4K018DA31
4K018DA32
4K018HA08
4K018KA22
4K018KA38
(57)【要約】
【課題】チタン多孔質体を、ある程度簡易にして比較的低コストで製造することができるチタン多孔質体の製造方法及び、チタン多孔質体を提供する。
【解決手段】この発明のチタン多孔質体の製造方法は、シート状のチタン多孔質体を製造する方法であって、チタン繊維と、前記チタン繊維に対する質量比が0.05~0.30であるバインダー粉末とを含む原料粉末の乾燥粉末層を、加圧するとともに加熱し、当該バインダーで前記チタン繊維どうしが結合されてなるシート状の成形体を形成する成形工程と、前記成形体を300℃~450℃に加熱し、前記成形体中の前記バインダー粉末由来の成分を揮発させる脱バインダー工程と、前記脱バインダー工程の後、前記成形体を加熱し、前記成形体中のチタン繊維を焼結させる焼結工程とを含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のチタン多孔質体を製造する方法であって、
チタン繊維と、前記チタン繊維に対する質量比が0.05~0.30であるバインダー粉末とを含む原料粉末の乾燥粉末層を、加圧するとともに加熱し、当該バインダーで前記チタン繊維どうしが結合されてなるシート状の成形体を形成する成形工程と、
前記成形体を300℃~450℃に加熱し、前記成形体中の前記バインダー粉末由来の成分を揮発させる脱バインダー工程と、
前記脱バインダー工程の後、前記成形体を加熱し、前記成形体中のチタン繊維を焼結させる焼結工程と
を含む、チタン多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程で、前記乾燥粉末層の加圧及び加熱を、離型層上で行う、請求項1に記載のチタン多孔質体の製造方法。
【請求項3】
チタン繊維とバインダー粉末とを乾式で混合し、原料粉末とする原料混合工程と、
前記原料混合工程で得られる前記原料粉末を乾式で堆積させ、乾燥粉末層を得る粉末堆積工程と
をさらに含む、請求項1又は2に記載のチタン多孔質体の製造方法。
【請求項4】
チタン多孔質体であって、
炭素含有量が0.10質量%以下、酸素含有量が1.0質量%以下であり、
厚みが0.8mm以下であるシート状であり、
繊維状部分が互いに焼結してなる三次元網目構造の骨格を有し、空隙率が60%以上かつ90%以下であり、透気度が1000μm/Pa・s以上かつ20000μm/Pa・s以下であるチタン多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シート状のチタン多孔質体の製造方法及び、チタン多孔質体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン繊維その他の金属繊維を焼結させて製造されるチタン多孔質体等の金属多孔質体は、電池その他の様々な用途に用いられている。
【0003】
これに関し、特許文献1には、「金属繊維で構成された金属繊維不織布と、前記金属繊維不織布内に保持された抗菌、抗アレルギー成分と、を備えており、前記金属繊維不織布が、金属繊維を圧縮成形することにより得られるシート、又は金属繊維を含むスラリーを湿式抄造法で抄紙することにより得られるシートを、前記金属繊維の融点以下の温度で焼結することで、脱脂すると共に交絡して接触する各金属繊維を拡散接合することで得られる不織布状焼結成形体であることを特徴とする多機能シート」が記載されている。
【0004】
特許文献2には、「チタン粉末および水素化チタン粉末の少なくとも一方に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水および必要に応じて界面活性剤を混合してスラリーを作製するスラリー作製工程と、前記スラリーを第1の支持体上に塗布して成形体とする成形工程と、前記成形体を加熱乾燥して発泡させることによって発泡成形体を作製する発泡工程と、前記第1の支持体から分離して第2の支持体上に載置した前記発泡成形体を加熱して脱脂する脱脂工程と、脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱して、導電性を有する1次焼結体を作製する第1焼結工程と、前記1次焼結体を非酸化雰囲気で前記第1焼結工程よりも高い温度で焼結して多孔質チタン焼結体を製出する第2焼結工程と、を備えていることを特徴とする多孔質チタン焼結体の製造方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-6567号公報
【特許文献2】特開2009-102701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されているように、チタン繊維を含むスラリーを作製し、そのスラリーの液体を除去した後に、チタン繊維を焼結させる方法では、スラリーの作製ないし調整が容易であるとは言い難い。また、スラリーを作製してから、その後の処理を施すまでの間、時間的な制約がある他、所定のスラリーの組成や状態を維持すること等が必要になる。
【0007】
この発明の目的は、チタン多孔質体を、ある程度簡易にして比較的低コストで製造することができるチタン多孔質体の製造方法及び、チタン多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、スラリーを使用しない製造方法について鋭意検討した結果、チタン繊維及びバインダー粉末を所定の質量比で含む原料粉末の乾燥粉末層を、加圧するとともに加熱することを案出した。これにより得られるシート状の成形体は、上記の加圧により、その厚みが調整されたものとすることもできる。次いで、成形体を所定の温度に加熱すれば、成形体中のバインダー粉末由来の成分を揮発させることができ、その後、成形体中のチタン繊維を焼結させるべく加熱すると、チタン多孔質体を得ることができる。
【0009】
この発明のチタン多孔質体の製造方法は、シート状のチタン多孔質体を製造する方法であって、チタン繊維と、前記チタン繊維に対する質量比が0.05~0.30であるバインダー粉末とを含む原料粉末の乾燥粉末層を、加圧するとともに加熱し、当該バインダーで前記チタン繊維どうしが結合されてなるシート状の成形体を形成する成形工程と、前記成形体を300℃~450℃に加熱し、前記成形体中の前記バインダー粉末由来の成分を揮発させる脱バインダー工程と、前記脱バインダー工程の後、前記成形体を加熱し、前記成形体中のチタン繊維を焼結させる焼結工程とを含むものである。
【0010】
前記成形工程では、前記乾燥粉末層の加圧及び加熱を、離型層上で行うことが好ましい。
【0011】
上記の製造方法は、チタン繊維とバインダー粉末とを乾式で混合し、原料粉末とする原料混合工程と、前記原料混合工程で得られる前記原料粉末を乾式で堆積させ、乾燥粉末層を得る粉末堆積工程とをさらに含むことがある。
【0012】
この発明のチタン多孔質体は、炭素含有量が0.10質量%以下、酸素含有量が1.0質量%以下であり、厚みが0.8mm以下であるシート状であり、繊維状部分が互いに焼結してなる三次元網目構造の骨格を有し、空隙率が60%以上かつ90%以下であり、透気度が1000μm/Pa・s以上かつ20000μm/Pa・s以下であるというものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明のチタン多孔質体の製造方法によれば、チタン多孔質体を、ある程度簡易にして比較的低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るチタン多孔質体の製造方法は、シート状のチタン多孔質体を製造する方法である。この製造方法には、成形工程、脱バインダー工程及び焼結工程をこの順序で行うことが含まれる。
【0015】
成形工程では、チタン繊維及びバインダー粉末を含む原料粉末の乾燥粉末層を、加圧するとともに加熱する。ここで、原料粉末にバインダー粉末は、チタン繊維の質量に対して0.05~0.30の質量で含まれるようにする。成形工程では、バインダー粉末が溶融し、そのバインダーでチタン繊維どうしが結合されて、シート状の成形体が形成される。次いで、脱バインダー工程にて、上記の成形体を300℃~450℃に加熱し、その成形体中のバインダー粉末由来の成分を揮発させる。脱バインダー工程の後は焼結工程を行い、当該焼結工程にて成形体を加熱し、前記成形体中のチタン繊維を焼結させる。
【0016】
成形工程の前には、原料混合工程及び粉末堆積工程を行うことができる。但し、既に原料粉末又は乾燥粉末層が得られている場合等には、原料混合工程、又は、原料混合工程及び粉末堆積工程の両工程を省略することがある。
【0017】
(原料混合工程)
原料混合工程では、チタン繊維とバインダー粉末とを乾式で、すなわち液体中ではなく空気や不活性ガス等の気体中もしくは真空中で混合し、その混合粉末を原料粉末とする。
【0018】
チタン繊維としては、チタン多孔質体が所定の組成になるように、主としてTiを含むものを用いる。チタン繊維は繊維状であり、より詳細には、繊維長さが1mm以上であって繊維太さが0.01mm~0.10mmであるものとすることが好ましい。なお、繊維長さの上限は特段限定されないが、例えば10mm以下とすることができる。
【0019】
繊維長さ及び繊維太さを求めるには、走査電子顕微鏡(SEM)により任意の100本のチタン繊維の画像を撮影する。そして、その画像上にて、チタン繊維の端部間の直線距離を繊維長さとし、上記の端部間の中点で繊維長さに直交する方向に沿う幅の直線距離を繊維太さとしてそれぞれ測定し、それらの平均値を算出する。なお、途中で曲がっているチタン繊維については、端部間の最短距離を繊維長さとする。二股以上に分岐しているチタン繊維では、最も離れた端部間の直線距離を繊維長さとする。
【0020】
チタン繊維は、たとえば、チタン含有塊ないし板等に対してコイル切削法又はびびり振動切削法等を行うことにより作製することができる。この場合、球状ではなく繊維状の粉末が得られやすく、これをチタン繊維として良好に用いることができる。
【0021】
バインダー粉末としては、成形工程で溶解し、チタン繊維どうしを結合して成形体を形成できるものであれば、種々の材質ないし粒径のものを用いることができる。
【0022】
たとえば、バインダー粉末の材質は、メチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、エチルセルロース系、アクリル系及び、ポリビニルブチラール系からなる群から選択される少なくとも一種とすることがある。チタン繊維どうしを良好に結着するとの観点から、バインダー粉末はチタン繊維の太さよりも小さいサイズのものを使用することが好ましい。たとえば、バインダー粉末の平均粒径D50は、1μm~50μmの範囲内、また1μm~20μmの範囲内、また5μm~10μmの範囲内とする場合がある。平均粒径D50は、レーザー回折散乱法によって得られた粒度分布で体積基準の累積分布が50%となる粒子径を意味する。
【0023】
チタン繊維とバインダー粉末の混合方法や装置は、特に限らないが、たとえば雰囲気を制御せずに大気雰囲気下での乾式混合等とすることができる。
【0024】
原料粉末中のチタン繊維に対するバインダー粉末の質量比(バインダー粉末の質量/チタン繊維の質量)は、0.05~0.30とする。バインダー粉末に由来する不純物量を低減するとの観点から、当該質量比は、0.05~0.25とすることがあり、さらに0.05~0.20とすることがある。この質量比を0.05未満とした場合、バインダー粉末が少なすぎることにより、成形工程で成形体を形成することが困難になる。一方、上記の質量比が0.30を超える場合、過剰量のバインダー粉末を用いたことにより、最終的に製造されるチタン多孔質体の炭素含有量や酸素含有量が増大する。
【0025】
典型的には、原料粉末は、実質的にチタン繊維及びバインダー粉末からなり、ここでは乾式で混合されて得られるので液体としての水を含まず、さらに他の成分も含まないことがある。
【0026】
(粉末堆積工程)
粉末堆積工程では、上記の原料粉末を乾式(つまり、液体中ではなく空気や不活性ガス等の気体中もしくは真空中)で堆積させ、乾燥粉末層を得る。原料粉末を堆積させた後、必要に応じて形状を整えて、これを乾燥粉末層としてもよい。
【0027】
ここでいう乾燥粉末層とは、単にスラリー等の液体中で堆積させて得られる湿潤粉末層ではないことを意味し、意図的に乾燥させて水分を除去したものであるか否かは問わない。乾燥粉末層は水等の液体を実質的に含まないので、気体もしくは真空中にて原料粉末のチタン繊維及びバインダー粉末が重力の作用下で積み重なって互いに接触することで構成されている。
【0028】
原料粉末は、ある程度薄いシート状になるように調整しながら、振り落として敷き詰めることにより、乾燥粉末層とすることができる。あるいは、原料粉末をやや大雑把に堆積させた後、ヘラその他の摺り切り用具を使用すること等によって形状を整えて、シート状の乾燥粉末層を形成してもよい。
【0029】
乾燥粉末層は、原料粉末を離型層上に落下させること等によって堆積させ、離型層上に形成することが好ましい。それにより、乾燥粉末層を離型層ごと、次の成形工程に供することができる。離型層には、たとえば、ガラス繊維クロス製やセラミックス製、窒化ホウ素(BN)製プレートないしシートを使用することが可能である。なかでも、ガラス繊維クロス製、窒化ホウ素(BN)製のものが好ましい。
【0030】
乾燥粉末層ではなく、水等の液体を含む湿潤粉末層とした場合、その水が上記材質の離型層に弾かれることによって、シート状に粉末層を形成できないことがある。また、上記材質の離型層ではなく、ろ紙等の上に、水等の液体を含む湿潤粉末層を形成した場合、シート状に粉末層を形成できることがある。しかしこの場合は、成形工程での加熱及び加圧で成形体と離型層との接着をもたらし、成形工程後に成形体を破断させずに離型層から引き剥がすことが難しくなる。そのような不具合の発生を避けるため、液体を含む原料粉末や湿潤粉末層の場合、成形工程前に乾燥させて乾燥粉末層とすることが必要になり、工数の増大を招く他、そのための設備が必要になる。それ故に、原料混合工程や粉末堆積工程は、乾式で行うことが好適である。
【0031】
(成形工程)
成形工程では、乾燥粉末層を加圧するとともに加熱する。これにより、乾燥粉末層中のバインダー粉末の少なくとも一部が溶融し、そのバインダーでチタン繊維どうしが結合されて、上記の乾燥粉末層がシート状の成形体になる。
【0032】
ここでは、先述した特許文献1、2に記載されているようなスラリーの作製及び維持管理が不要になるので、チタン多孔質体の製造を、そのようなスラリーを用いる場合に比して簡略化し、また比較的低コストで行うことができる場合がある。
【0033】
乾燥粉末層は成形工程にて、たとえば大気雰囲気の下、100℃以上かつ200℃以下の温度で0.5時間~3時間にわたって加熱することができる。雰囲気や加熱温度及び時間はそれぞれ、諸条件を考慮して適宜変更され得る。
【0034】
成形工程での乾燥粉末層の加圧は、プレス機、圧延機その他の種々の加圧装置で行うことができる。加圧の方法によって加圧の時間は適宜調整すればよい。例えばプレス機を使用する場合、加圧時間は0.5時間~3時間、また0.5時間~1.5時間とすることがあるが、所期した厚みのシート状の成形体を得ることができれば、加圧条件も適宜変更することができる。例えば圧延機を使用する場合、加圧時間や加圧力でなく圧下率を規定することがある。一例では、圧延機を用いる場合、圧下率((圧延後の厚み/圧延前の厚み)×100)を20%~80%とすることがある。なお通常は、成形工程では加熱しながら加圧を行う。たとえば、加熱を開始した後に、その加熱を継続しながら加圧すること等により、加熱時間は加圧時間以上になる場合がある。加圧前に加熱を開始すると、その加熱で乾燥粉末層の形状がある程度維持される傾向があるので、その後に加圧を行う設備まで搬送することが容易になるといったような利点がある。
【0035】
成形体の厚みは、最終的に製造しようとするチタン多孔質体の厚みに応じて設定され得る。上記の加圧により、たとえば、厚みが0.1mm以上かつ1.5mm以下であるシート状の成形体とする場合がある。
【0036】
乾燥粉末層の加圧及び加熱は、離型層上で行うことが好ましい。そのようにすれば、成形工程後に得られる成形体を、離型層から容易に分離させることができる。また、加圧は、乾燥粉末層の上面と加圧装置の押圧面との間にも離型層を介在させた状態で行うことがより一層好適である。このようにすれば乾燥粉末層の上下両面が離型層で覆われるので、シート状の成形体を一層容易に形成することができる。
【0037】
(脱バインダー工程)
成形工程で得られた成形体は脱バインダー工程に供されて加熱され、そこに含まれるバインダー粉末由来の成分を揮発させる。脱バインダー工程での雰囲気は特に問わないが、大気雰囲気とすることが簡便であるから好ましい。
【0038】
ここでは、成形体を300℃~450℃の温度に加熱する。当該成形体を350℃~450℃に加熱してもよい。加熱温度を300℃未満とすると、バインダー粉末由来の成分の揮発ないし除去が不十分となり、チタン多孔質体の酸素含有量及び炭素含有量が増大し、また、チタン多孔質体を所期した厚さのものに制御することが困難になる。一方、加熱温度を450℃よりも高くすると、大気雰囲気下では成形体中のチタン繊維の酸化が進み、チタン多孔質体の酸素含有量が増大する。
【0039】
上記の加熱温度は、たとえば3時間~10時間、また例えば5時間~10時間にわたって維持することがある。
【0040】
(焼結工程)
脱バインダー工程の後、焼結工程で成形体を加熱し、それにより成形体中のチタン繊維を焼結させる。これにより、その焼結体としてチタン多孔質体が得られる。
【0041】
焼結工程での加熱は、真空等の減圧雰囲気下もしくは不活性雰囲気で行うことができる。これにより、加熱時のチタン繊維の酸化ないし窒化を抑制することができる。具体的には、加熱は、たとえば真空炉内で真空度を10-4Pa~10-2Pa又はそれよりも小さい値に到達させて減圧雰囲気下とし、あるいは、ヘリウム雰囲気やアルゴン雰囲気にて行うことができる。なおここでは、窒素ガスは不活性ガスには該当しないものとする。
【0042】
加熱時は、成形体を、たとえば850℃~1100℃の温度に0.5時間~6時間、また0.5時間~3時間にわたって維持することができる。なお、前記温度は900℃~1100℃としてもよく、950℃~1050℃としてもよい。この範囲内の加熱温度とすれば、多くの場合、チタン繊維の焼結が良好に起こるとともに、チタン多孔質体へのひび割れ等の損傷の発生が抑制される。但し、加熱温度や時間は、チタン多孔質体に求められる強度その他の特性や種々の条件に応じて設定され、上記の温度範囲に限らない。
【0043】
焼結工程では、加熱によって成形体の温度を上昇させた後に低下させることを、複数回繰り返してもよいが、製造効率の観点から1回のみとすることが好ましい。チタン多孔質体の製造においては、焼結工程の回数を1回とすることができる。
【0044】
(チタン多孔質体)
上記のようにして製造されるシート状のチタン多孔質体は、特に次世代電池のガス拡散層もしくは電極等の用途に適していると考えられる。
【0045】
チタン多孔質体はチタン製であり、実質的にTiからなるものである。チタン多孔質体のTi含有量は、たとえば99.0質量%以上、好ましくは99.3質量%以上である。Ti含有量は多いほうが望ましいが、99.8質量%以下となることがある。
【0046】
チタン多孔質体は不純物としてFeを含有することがあり、Fe含有量は、たとえば0.25質量%以下である。またチタン多孔質体には、たとえば製造過程に起因する不可避的不純物として、Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snが含まれる場合がある。Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snの各々の含有量は0.10質量%未満、それらの合計の含有量は0.30質量%未満であることが好適である。
【0047】
チタン多孔質体の酸素含有量は、1.0質量%以下であり、典型的には0.1質量%~0.8質量%、また0.1質量%~0.6質量%になる場合がある。酸素含有量が多すぎると、硬度が高く圧縮変形が起こり難くなり、上記の用途等で圧縮力が作用したときに骨格が破断するおそれがある。酸素含有量は、不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定する。
【0048】
チタン多孔質体の炭素含有量は、0.10質量%以下である。炭素含有量が多すぎるとチタン多孔質体が脆くなるおそれがある。炭素含有量は、燃焼-赤外線吸収法により測定する。
【0049】
シート状のチタン多孔質体の厚みは、0.8mm以下であり、たとえば0.1mm以上かつ0.8mm以下、また0.1mm以上かつ0.5mm以下、また0.1mm以上かつ0.3mm以下である場合がある。用途によっては、この程度の薄い厚みのものが求められることがある。なお、チタン多孔質体についての「シート状」とは、平面視の寸法に対して厚みが小さい板状もしくは箔状を意味し、平面視の形状については特に問わない。
【0050】
上記の厚みは、チタン多孔質体の周縁の4点と中央の1点の計5点について、例えばミツトヨ製デジタルシックネスゲージ(型番547-321)等の、測定子がΦ10mmのフラット型で測定精度が0.001~0.01mmのデジタルシックネスゲージを用いて測定し、それらの測定値の平均値とする。シート状のチタン多孔質体が平面視で矩形状をなす場合は、上記の周縁の四点は、四隅の四点とする。
【0051】
チタン多孔質体は、多数の繊維状部分どうしがその一部で焼結して構成されていることにより、内部に多数の空隙が形成された不織布状の三次元網目構造の骨格を有する。なお、チタン繊維ではなくチタン粉末を用いて製造されたチタン多孔質体は、スポンジチタン状の三次元網目構造の骨格を有するものになる傾向がある。
【0052】
チタン多孔質体の空隙率は、60%以上かつ90%以下である。空隙率がこの程度の範囲であれば、用途に応じた所要の通気性もしくは通液性を確保しつつ、高い耐圧縮性を発揮できるとともに、ハンドリング時の割れを抑制することができる。空隙率が60%未満である場合は、上記の用途で求められる通気性もしくは通液性が得られないおそれがある。一方、空隙率が90%を超えると、耐圧縮性が低下したり、ハンドリング時に割れが発生しやすくなったりすることが懸念される。
【0053】
チタン多孔質体の空隙率εは、チタン多孔質体の幅、長さ及び厚みより求められる体積及び、質量から算出した見かけ密度ρ´と、チタン多孔質体を構成するチタンの真密度ρ(4.51g/cm3)を用いて、式:ε=(1-ρ´/ρ)×100により算出する。
【0054】
チタン多孔質体の透気度は、1000μm/Pa・s以上かつ20000μm/Pa・s以下である。透気度がこの範囲内であれば、通気性もしくは通液性に優れたものであるといえる。透気度は、ガーレー式デンソメータにより測定する。
【0055】
チタン多孔質体は、その厚み方向に30MPaの圧力を3分間作用させて圧縮した後に除荷した場合の、その前後での厚みの変化の割合である不可逆変形量が0.2~0.3であることが好ましい。それにより、チタン多孔質体は、上記の用途等で圧縮力が作用したときに、所要の厚みないし形状が維持され得る。
【0056】
より詳細には、不可逆変形量Dcは、30MPaの圧力を作用させる前のチタン多孔質体の厚みT1と、当該圧力を作用させて除荷した後のチタン多孔質体の厚みT2を測定し、式:Dc=(1-T2/T1)より算出される値である。
【0057】
なお、不可逆変形量Dcを測定するには、予めチタン多孔質体の厚みT1を計測しておく。そのチタン多孔質体を二枚の平板等のそれぞれの平坦面間に厚み方向に挟み込み、それらの平坦面を互いに近づける向きに変位させることにより、当該チタン多孔質体に対してその表面上に均等に、厚み方向に30MPaの圧力を3分間作用させる。圧力を作用させた後は、その圧力を除荷する。その後、平坦面間から取り出したチタン多孔質体の厚みT2を計測する。ここでは、そのようにチタン多孔質体に圧力を作用させることが可能な種々の圧縮試験装置その他の装置を用いることができる。チタン多孔質体の厚みT1、T2を計測するには、チタン多孔質体の平面視の異なる位置の5か所(たとえば平面視が四角形のチタン多孔質体である場合は、中心とその周囲の四隅の計5か所)について厚みを測り、それらの平均値を厚みT1、T2とする。
【実施例0058】
次に、この発明のチタン多孔質体の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0059】
実施例1~4では、乾式混合で得られてチタン繊維及びバインダー粉末からなる原料粉末を離型層上に乾式で堆積させて乾燥粉末層とし、これを上下方向から離型層で挟み込みながら加圧しつつ加熱して、シート状の成形体を得た。成形のための加熱時間は0.5時間とした。次いで、大気雰囲気下で成形体を8時間加熱し、バインダー粉末由来の成分を揮発させた後、0.01Pa以下の真空条件にて焼結温度に1時間で加熱して、焼結体としてのチタン多孔質体を製造した。各条件を表1に示す。上記チタン繊維は、金属チタン(いわゆる純チタン)を原料として製造したものであり、繊維長さは3mm、繊維太さは30μmであった。なお、実施例2では、バインダー粉末の材質として、ポリビニルブチラール(PVB)ではなくポリビニルアルコール(PVA)を用いた。PVB及びPVAのいずれのバインダー粉末も平均粒径D50は5μmであった。
【0060】
比較例1では、チタン繊維の他にポリビニルブチラール(PVB)及び水を含むスラリー中で、ろ紙上にチタン繊維を堆積させ、湿潤粉末層を得たが、成形のための加熱後に成形体をろ紙から引き剥がす際に、成形体が破れた。
【0061】
比較例2、3では、脱バインダー時の加熱温度を変更したことを除いて、実施例1と同様にしてチタン多孔質体を製造した。
【0062】
比較例4では、チタン繊維に対するバインダー粉末の質量比を変更したところ、バインダー粉末の不足により、成形時の加熱で成形体を形成することができなかった。比較例5では、チタン繊維に対するバインダー粉末の質量比を変更したことを除いて、実施例1と同様にしてチタン多孔質体を製造した。
【0063】
上記のようにして製造したチタン多孔質体について、炭素及び酸素含有量、空隙率、透気度、不可逆変形量、並びに、厚みを測定した。その結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
表2に示すように、実施例1~4では、十分に少ない炭素及び酸素含有量並びに、所望の特性を有するチタン多孔質体を製造することができた。
【0067】
比較例2では、脱バインダー時の加熱温度が低すぎたことによりバインダーの残量が増え、その結果、チタン多孔質体の酸素含有量が多くなった。比較例3では、脱バインダー時の加熱温度が高すぎたことによりチタンが大気中の酸素を多く吸収したと考えられ、チタン多孔質体の酸素含有量が多くなった。
【0068】
比較例5では、バインダー粉末が多すぎたことにより、炭素及び酸素含有量が増大した。
【0069】
この発明のチタン多孔質体の製造方法によると、チタン多孔質体を、ある程度簡易にして比較的低コストで製造することが可能である。