(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179428
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20241219BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20241219BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20241219BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F01P7/16 505F
F01P3/02 M
F01P3/02 P
F02D19/08 D
F02M37/00 341C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098277
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 倫行
(72)【発明者】
【氏名】平田 義治
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AB05
3G092FA50
3G092HB06Z
(57)【要約】
【課題】製造コストを低減し、且つ、暖機時間をなるべく短縮可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【解決手段】アルコールを含む混合燃料を用いる内燃機関の制御装置は、混合燃料のアルコール濃度を検出する濃度センサと、内燃機関のシリンダヘッド及びシリンダボディに形成された流路に冷却媒体を循環させる制御部と、を備える。シリンダヘッドには混合燃料の噴射口が配設される。制御部は、アルコール濃度が所定の閾値濃度以上である場合には、アルコール濃度が閾値濃度未満である場合よりも、シリンダヘッドが温まり易くなるように冷却媒体を循環させるように構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを含む混合燃料を用いる内燃機関の制御装置であって、
前記混合燃料のアルコール濃度を検出する濃度センサと、
前記内燃機関のシリンダヘッド及びシリンダボディに形成された流路に冷却媒体を循環させる制御部と、を備え、
前記シリンダヘッドには前記混合燃料の噴射口が配設され、
前記制御部は、前記アルコール濃度が所定の閾値濃度以上である場合には、前記アルコール濃度が前記閾値濃度未満である場合よりも、前記シリンダヘッドが温まり易くなるように前記冷却媒体を循環させるように構成された、
内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールを含む混合燃料を用いた内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルコールを含む混合燃料を用いた内燃機関を暖機する制御装置が知られている。アルコール濃度が高い混合燃料は低い温度では気化し難いという特性を有する。
例えば、特許文献1に記載の制御装置(以下、「従来装置」と称呼する。)は、上記特性を考慮して、低温時においては、温かい冷却媒体を内燃機関全体に循環させることにより内燃機関を温める。
【0003】
詳細には、従来装置は、温められた冷却媒体を保温した状態で貯蔵する蓄熱タンクを備える。従来装置は、蓄熱用ポンプを駆動して蓄熱タンクに貯蔵された冷却媒体を「内燃機関全体に形成された流路」に循環させる。これにより、内燃機関全体に蓄熱タンクに貯蔵された冷却媒体が循環するので、内燃機関全体が温められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
従来装置は、蓄熱タンク及び蓄熱用ポンプを備える必要があるので、製造コストが高くなる。更に、従来装置は内燃機関全体を温めるので、暖機時間が長くなってしまう。暖機時間とは、混合燃料の温度が「混合燃料が気化し易くなるまでの温度」になるまでにかかる時間である。
【0006】
本発明は前述した課題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、製造コストを低減し、且つ、暖機時間をなるべく短縮可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【0007】
本発明の内燃機関(30)の制御装置(以下、「本発明装置」と称呼する。)は、
アルコールを含む混合燃料のアルコール濃度を検出する濃度センサ(22)と、
前記内燃機関のシリンダヘッド(32)及びシリンダボディ(34)に形成された流路に冷却媒体を循環させる制御部(20)と、を備え、
前記シリンダヘッドには前記混合燃料の噴射口(33a乃至33c)が配設され、
前記制御部は、前記アルコール濃度が所定の閾値濃度以上である場合には(ステップ220「Yes」)、前記アルコール濃度が前記閾値濃度未満である場合よりも(ステップ220「No」)、前記シリンダヘッドが温まり易くなるように前記冷却媒体を循環させる(ステップ225乃至235)ように構成されている。
【0008】
本発明装置によれば、混合燃料のアルコール濃度が閾値濃度以上である場合には、アルコール濃度が閾値濃度未満である場合よりも、シリンダヘッドが温まり易くなるように冷却媒体が循環する。これにより、噴射口が配設されたシリンダヘッドが温まり易く00ので、暖機時間を短縮でき且つ製造コストも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置の概略システム構成図である。
【
図2】
図1に示したECUのCPUが実行する暖機制御ルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1実施形態に係る制御装置10は、
図1に示した構成要素を備え、車両VAに適用される。
【0011】
本明細書において、「ECU20」は、CPU(プロセッサ)、ROM、RAM及びインタフェース等を含むマイクロコンピュータを主要部として備える電子式制御装置である。ECU20は制御部とも称呼される。
【0012】
ECU20は、後述する開始条件が成立した場合、内燃機関30を温めるための暖気制御を実行する。
【0013】
ECU20は、濃度センサ22及び温度センサ24に接続されている。
濃度センサ22は、内燃機関30の燃料のアルコール濃度Calを測定する。温度センサ24は、内燃機関30を循環する冷却媒体の温度を表すエンジン水温Tenを測定する。ECU20は、これらのセンサ22及び24の測定値を取得する。
【0014】
上記開始条件は、エンジン水温Tenが所定の閾値温度Tth以下であり且つアルコール濃度Calが所定の閾値濃度Cth以上である場合に成立する。
【0015】
内燃機関30は、ガソリン及び「ガソリンとアルコールとを含む混合燃料」の何れかを燃料として運転可能である。
内燃機関30は、シリンダヘッド32及びシリンダボディ34を備える。本例の内燃機関30は複数のシリンダを有する。シリンダの上側はシリンダヘッド32内に形成され、下側はシリンダボディ34内に形成されている。
【0016】
シリンダヘッド32には、各シリンダに対応して噴射口33a乃至33cが形成されている。以下、これらを「噴射口33」と称呼する場合もある。
【0017】
燃料は、噴射口33からシリンダ内に向けて噴射され、シリンダ内で燃焼する。燃料が燃焼したときに発生する排気ガスは、排気管35を通って車外及び/又は後述するEGRクーラ42に排出される。
【0018】
シリンダヘッド32にヘッド流路36aが形成され、シリンダボディ34にボディ流路36bが形成されている。ヘッド流路36a及びボディ流路36bは、シリンダヘッド32及びシリンダボディ34が嵌合したときに各シリンダを冷却するための流路37a乃至37cを形成する。以下、これらを「流路37」と称呼する場合もある。
【0019】
流路37a乃至37cには、それぞれ、冷却媒体をヘッド流路36aに流さないようにするための弁39a乃至39cが設けられている。以下、これらを「弁39」と称呼する場合もある。これらの弁39は、開始条件が成立しない限り、開放されている。
【0020】
ECU20はポンプ40に接続されている。ポンプ40が順回転している場合には、冷却媒体は、シリンダボディ34に設けられた第1入口38aから流れ込み、流路37をシリンダボディ34からシリンダヘッド32に向かって流れる。そして、冷却媒体はシリンダヘッド32に設けられた第1出口38bから、「後述するEGRクーラ42、ヒータ44及びラジエータ46」へと排出される。なお、第1出口38b付近には、上記排気管35が設けられている。
【0021】
排気管35は、第1排気管35a及び第2排気管35bに分岐する。第1排気管35aは、排気ガスを車外へと排気する。第2排気管35bは、排気ガスをEGRクーラ42へと導く。なお、排気管35の分岐点には図示しない弁が配設されており、その弁は、エンジン水温Tenが閾値温度Tth以下である場合には、排気ガスを第2排気管35bへと流入させないようにする。
【0022】
EGRクーラ42は、排気ガスを冷却媒体により冷却する。EGRクーラ42の詳細は、特開2022-59219号公報に記載されている。エンジン水温Tenが閾値温度Tthよりも大きい場合にはEGRクーラ42に高温の排気ガスが流入しているため、冷却媒体は排気ガスを冷やす。このため、冷却媒体は温められる。エンジン水温Tenが閾値温度Tth以下である場合にはEGRクーラ42に排気ガスが流入しないので、冷却媒体は温められも冷やされもしない。
【0023】
ヒータ44は車室内を温める。ヒータ44の作動中にヒータ44を通過した冷却媒体は車室内を温めるために放熱するため、冷却媒体は冷やされる。ラジエータ46を通過した冷却媒体は冷やされる。
【0024】
サーモスタット48は、サーモスタット48を通過する冷却媒体の温度が所定の温度未満である場合には、EGRクーラ42及びヒータ44側を開放し、ラジエータ46側を閉塞する。上記温度が所定の温度以上である場合には、サーモスタット48は、EGRクーラ42及びヒータ44側を閉塞し、ラジエータ46側を開放する。開始条件の判定に用いられる上記閾値温度Tthは上記所定の温度よりも低い値に設定されている。
【0025】
シリンダヘッド32には第2入口50aが形成されている。調整弁50は、第2入口50aに流入する冷却媒体の流入量を調整する。上記開始条件が成立していない場合には、調整弁50は第2入口50aへの流路を閉塞するので、冷却媒体は第2入口50aへ流れこまない。
【0026】
(作動の概要)
上記開始条件が成立した場合、混合燃料は気化し難くなっている可能性が高い。上記開始条件が成立した場合にはサーモスタット48はEGRクーラ42及びヒータ44側を開放し、ラジエータ46側を閉塞している。このため、開始条件が成立した場合、EGRクーラ42には排気ガスが流入しないので、EGRクーラ42を通過した冷却媒体は温めも冷やされもしない。開始条件が成立した場合、ヒータ44が作動している可能性が高い。このため、ヒータ44を通過した冷却媒体は冷やされている可能性が高い。このような冷却媒体が流路37を循環すると、噴射口33aが設けられたシリンダヘッド32は冷やされてしまい、温まり難くなる。
【0027】
そこで、本実施形態では、上記開始条件が成立した場合、上記開始条件が成立しない場合に比べて、シリンダヘッド32が温まり易くなるように冷却媒体を循環させる。具体的には、上記開始条件が成立した場合には、ECU20は、弁39を閉塞して冷却媒体がヘッド流路36aへ流れないようにする。更に、ECU20は、調整弁50を開放することにより冷却媒体を第2入口50aへ流れこむようにする。調整弁50の開度は、アルコール濃度Calが高いほど小さくなる。例えば、調整弁50の開度を「30%」にすると、ポンプ40から吐出される冷却媒体の流量の3割が第2入口50aに流れこみ、7割が第1入口38aへ流れこむ。
【0028】
第2入口50aに流れ込んだ冷却媒体はヘッド流路36aを通過して第1出口38bから排出される。一方、開始条件が成立した場合には弁39が閉塞されているため、第1入口38aに流れこんだ冷却媒体はボディ流路36bを通過して第2出口50bから排出される。第2出口50bは、シリンダボディ34の上方に形成されている。
【0029】
以上により、上記開始条件が成立した場合、上記開始条件が成立しない場合に比べて、ヘッド流路36aに流れる冷却媒体の流量は少なくなる。このため、上記開始条件が成立した場合、上記開始条件が成立しない場合に比べて、シリンダヘッド32は冷やされ難くなるので、シリンダヘッド32は温まり易くなる。更に、蓄熱用ポンプ及び蓄熱タンクを備える必要がないので、製造コストを低減できる。
【0030】
(具体的作動)
ECU20のCPU(以下、「CPU」と称呼する。)は、
図2にフローチャートにより示した暖機制御ルーチンを所定時間が経過する毎に実行する。
【0031】
適当な時点が到来すると、CPUは、
図2のステップ200から処理を開始し、処理をステップ205に進める。ステップ205にて、CPUは、エンジン水温Tenが閾値温度Tth以下であるか否かを判定する。
【0032】
エンジン水温Tenが閾値温度Tthよりも大きい場合(ステップ205:No)、上記開始条件は成立しない。この場合、CPUは、ステップ210及び215を実行する。
ステップ210:CPUは、弁39を開放させる。
ステップ215:CPUは、調整弁50の第2入口50aへの流路を閉塞させる。
その後、CPUは、処理をステップ295に進め、本ルーチンを一旦終了する。
【0033】
エンジン水温Tenが閾値温度Tth未満である場合(ステップ205:Yes)、ステップ220にて、CPUは、アルコール濃度Calが閾値濃度Cth以上であるか否かを判定する。
【0034】
アルコール濃度Calが閾値濃度Cth未満である場合(ステップ220:No)、上記開始条件は成立しない。この場合、CPUは、ステップ210及び215を実行し、ステップ295にて本ルーチンを一旦終了する。
【0035】
アルコール濃度Calが閾値濃度Cth以上である場合(ステップ220:Yes)、上記開始条件は成立する。この場合、CPUは、ステップ225乃至235を実行する。
【0036】
ステップ225:CPUは、弁39を閉塞させる。
【0037】
ステップ230:CPUは、アルコール濃度Calに基いて、調整弁50の目標弁開度Vtgtを特定する。
詳細には、CPUは、図示しない弁開度マップにアルコール濃度Calを適用することにより目標弁開度Vtgtを特定する。弁開度マップには、アルコール濃度Calが高いほど目標弁開度Vtgtが小さくなるように、アルコール濃度Calと目標弁開度Vtgtとの関係が定義されている。
【0038】
ステップ235:CPUは、調整弁50の弁開度が目標弁開度Vtgtと一致するように調整弁50を制御する。
その後、CPUは、ステップ295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0039】
以上により、開始条件が成立した場合には、開始条件が成立しない場合と比べて、シリンダヘッド32に流れる冷却媒体の流量が少なくなるのでシリンダヘッド32は温まり易くなる。これにより、製造コストを低減でき、且つ、暖機時間も可能な限り短縮できる。
【0040】
開始条件が成立した場合には、開始条件が成立しない場合と比べて、シリンダヘッド32に流れる冷却媒体の流量が少なくなる構成であれば、上記実施形態の構成に限定されない。上記実施形態の構成と異なる構成である以下の第1構成及び第2構成を例示する。
【0041】
<第1構成>シリンダヘッド32にヘッド流路36aと異なるサブ流路(不図示)が形成されている。この構成の調整弁50は、サブ流路の入口に流入する冷却媒体の流入量を調整する。開始条件が成立した場合に弁39が閉塞され、第1実施形態と同様に調整弁50の開度は制御される。
【0042】
<第2構成>弁39の開度が調整弁50のように調整可能である。開始条件が成立した場合には、アルコール濃度Calが高くなるほど小さくなるように弁39の開度が制御される。この構成では、制御装置10は調整弁50を備えなくてもよい。
【0043】
(第2実施形態)第2実施形態に係る制御装置10は、開始条件が成立した場合、ポンプ40を逆回転させる。第2実施形態に係る制御装置10は、弁39及び調整弁50を備えなくてもよい。更に、シリンダヘッド32には第2入口50aが形成されなくてもよく、シリンダボディ34には第2出口50bが形成されなくてもよい。
【0044】
上記したように、第1出口38b付近には高温の排気ガスが通過する排気管35が設けられる。高温の排気ガスにより第1出口38b付近の冷却媒体は温められる。
【0045】
ポンプ40が逆回転すると第1出口38bから冷却媒体が流れこみ、冷却媒体は流路37をシリンダヘッド32からシリンダボディ34に向かって流れ、第1入口38aから流れ出る。このため、第1出口38b付近で高温の排気ガスにより温められた冷却媒体がシリンダヘッド32に流れこむ。これにより、開始条件が成立した場合には、開始条件が成立しない場合に比べて、シリンダヘッド32が温まり易いように冷却媒体が循環する。なお、開始条件が成立した場合、アルコール濃度Calが高いほど、シリンダヘッド32への温められた冷却媒体の流入量を増やすためにポンプ40の回転数を高めてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…制御装置、20…ECU、30…内燃機関、32…シリンダヘッド、33a乃至33c…噴射口、34…シリンダボディ、37a乃至37c…流路。