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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179433
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20241219BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20241219BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20241219BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20241219BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20241219BHJP
   F16J 15/324 20160101ALI20241219BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16C33/66 Z
F16J15/3232 201
F16J15/3204 201
F16J15/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098284
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】和久田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】宗吉 正樹
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE22
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE42
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA01
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB02
3J216AB29
3J216BA19
3J216CA01
3J216CA04
3J216CA06
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB12
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC24
3J216CC26
3J216CC39
3J216DA01
3J216DA02
3J216DA09
3J216DA11
3J216DA18
3J216EA07
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701CA14
3J701EA63
3J701EA70
3J701EA72
3J701FA11
3J701GA01
3J701XE40
3J701XE50
(57)【要約】
【課題】軸受の大型化や部品点数の増加をできる限り抑えつつ、内部に封入された導電性グリースを長寿命化し、確実な通電性能を確保する。
【解決手段】外方部材1及び内方部材2と、外方部材1の内径面と内方部材2の外径面との間の環状空間に周方向に沿って配置される複数の転動体3と、外方部材1と内方部材2との間に配置される三つ以上のシール部材20,30,40とを備え、シール部材20,30,40によって環状空間内に第1空間と第2空間とが形成され、第1空間に第1のグリースが封入され、第2空間には第1のグリースよりも導電性が高い第2のグリースが封入されている転がり軸受とした。転動体3は第1空間のみに配置されていることが望ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材(1)及び内方部材(2)と、
前記外方部材(1)の内径面と前記内方部材(2)の外径面との間の環状空間に周方向に沿って配置される複数の転動体(3)と、
前記外方部材(1)と前記内方部材(2)との間に配置される三つ以上のシール部材(20,30,40)と、を備え、
前記シール部材(20,30,40)によって前記環状空間内に第1空間と第2空間とが形成され、前記第1空間に第1のグリースが封入され、第2空間には前記第1のグリースよりも導電性が高い第2のグリースが封入されている転がり軸受。
【請求項2】
前記第1空間のみに前記転動体(3)が配置されている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記シール部材(20,30,40)のうち少なくとも一つは導電性を有する素材で構成された通電シールであり、前記通電シールは前記外方部材(1)と前記内方部材(2)の間を導通させている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記通電シールは前記第2のグリースに接触している請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記シール部材(20,30,40)は、前記転動体(3)の軸方向一方側に配置される第1シール部材(20)と、前記転動体(3)の軸方向他方側に配置される第2シール部材(30)と、前記第2シール部材(30)よりも軸方向他方側に配置される第3シール部材(40)とで構成され、前記第2シール部材(30)は前記第1空間と前記第2空間とを隔てている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記第2シール部材(30)は前記外方部材(1)及び前記内方部材(2)の一方に固定され、前記第3シール部材(40)は前記外方部材(1)及び前記内方部材(2)の他方に固定されている請求項5に記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記第2シール部材(30)が備えるシールリップ(34)は前記他方のシールしゅう動面(2b)にしゅう接し、前記第3シール部材(40)は前記他方の嵌合部(2c)に圧入固定され、前記シールしゅう動面(2b)と前記嵌合部(2c)は連続する同一円筒面で構成されている請求項6に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電食を防止する機能を備えた耐電食転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気自動車のモータや鉄道車両の主電動機等、電気を帯びる構造体付近に適用される転がり軸受として、電気絶縁性を有した耐電食転がり軸受が提案されている。耐電食転がり軸受は、電気的に外部に通じる軌道輪から転動体に電流が流れる状態である場合に、軌道輪等の金属製部品に電食現象が起こることを防止するものである。
【0003】
耐電食転がり軸受として、転動体にセラミックボールを適用することで、軌道輪に生じる電食を防止するものがある。しかし、セラミックボールは非常に高価格であるという問題がある。このため、セラミックボールを用いないで、内外の軌道輪間を導電性グリースを介して通電させる技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の転がり軸受は、外輪、内輪、転動体及び保持器を備えた軸受に隣接して外輪間座と内輪間座が配置され、その外輪間座と内輪間座との間の環状空間に導電性グリースを封入したものである。導電性グリースが、内輪間座の外周面及び外輪間座の内周面に接触することで、軸側に帯電した静電気が、導電性グリース、外輪間座を通じてハウジング側に通電されるようになっている。
【0005】
また、例えば、特許文献2に記載の転がり軸受は、メタルファイバやカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の導電性物質を含有した保持器を用い、外輪と内輪との間の環状空間に導電性グリースが充填されたものである。これにより、外輪と内輪との間の電位差の発生を抑えて軸受内部での充・放電を効果的に回避し、電食の発生を防止できるとされている。
【0006】
さらに、特許文献3,4に記載の転がり軸受は、導電性ゴム製のシールリングを備え、外輪と内輪との間の環状空間、あるいは、シールリング先端の凹部内に導電性グリースが充填されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-76427号公報
【特許文献2】特開2017-67111号公報
【特許文献3】特開2015-102200号公報
【特許文献4】特開2009-264401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、軸受性能と耐電食性能を両立させるために、転がり軸受に隣接して外輪間座と内輪間座を配置している。このため、転がり軸受の軸方向幅が大きくなるという問題がある。また、軸受ユニット全体の重量が増加し、部品点数が増加するという問題もある。
【0009】
また、特許文献2では、導電性物質を含有した保持器を用いているため、通常の保持器に対して強度低下が懸念される。また、保持器内に導電性物質が適切に配置されていない場合は、導電性能を発揮しないという課題もある。
【0010】
さらに、特許文献3では、導電性グリースの増ちょう剤としてウレア系化合物を使用するとともに、シールリングの導電性材料としてカーボンブラックを使用している。しかし、カーボンブラックはグリース寿命を短くし、潤滑不良や早期焼き付きにつながる懸念がある。また、特許文献4では、シールリップの凹部内に封入された導電性グリースが非常に少量であるため、軸受使用中の漏出や蒸発が懸念される。
【0011】
そこで、この発明の課題は、軸受の大型化や部品点数の増加をできる限り抑えつつ、内部に封入された導電性グリースの長寿命化と、確実な通電性能の確保を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明は、外方部材及び内方部材と、前記外方部材の内径面と前記内方部材の外径面との間の環状空間に周方向に沿って配置される複数の転動体と、前記外方部材と前記内方部材との間に配置される三つ以上のシール部材と、を備え、前記シール部材によって前記環状空間内に第1空間と第2空間とが形成され、前記第1空間に第1のグリースが封入され、第2空間には前記第1のグリースよりも導電性が高い第2のグリースが封入されている転がり軸受を採用した(構成1)。
【0013】
ここで、上記構成1において、前記第1空間のみに前記転動体が配置されている構成を採用できる(構成2)。
【0014】
また、上記構成1において、前記シール部材のうち少なくとも一つは導電性を有する素材で構成された通電シールであり、前記通電シールは前記外方部材と前記内方部材の間を導通させている構成を採用できる(構成3)。
【0015】
また、上記構成1において、前記通電シールが前記第2のグリースに接触している構成を採用できる(構成4)。
【0016】
さらに、上記構成1に対して、上記構成2,3,4の中から選択される任意の複数の要素を付加した態様を採用できる。
【0017】
また、上記構成1に対して、上記構成2,3,4の中から選択される単一の要素を付加した態様、又は、上記構成1に対して、上記構成2,3,4の中から選択される任意の複数の要素を付加した態様において、前記シール部材は、前記転動体の軸方向一方側に配置される第1シール部材と、前記転動体の軸方向他方側に配置される第2シール部材と、前記第2シール部材よりも軸方向他方側に配置される第3シール部材とで構成され、前記第2シール部材は前記第1空間と前記第2空間とを隔てている構成(構成5)を採用できる。
【0018】
構成5を備えた前述の各態様において、前記第2シール部材は前記外方部材及び前記内方部材の一方に固定され、前記第3シール部材は前記外方部材及び前記内方部材の他方に固定されている構成(構成6)を採用できる。
【0019】
構成6において、前記第2シール部材が備えるシールリップは前記他方のシールしゅう動面にしゅう接し、前記第3シール部材は前記他方の嵌合部に圧入固定され、前記シールしゅう動面と前記嵌合部は連続する同一円筒面で構成されている構成(構成7)を採用できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、軸受ユニットの大型化や部品点数の増加をできる限り抑えつつ、内部に封入された導電性グリースの長寿命化と、確実な通電性能の確保が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の一実施形態に係る転がり軸受の縦断面図
図2図1の要部拡大図
図3A図1の第1シール部材が軸受に装着される前の状態を示す断面図
図3B図1の第2シール部材が軸受に装着される前の状態を示す断面図
図3C図1の第3シール部材が軸受に装着される前の状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態は、各種の産業用機械や、電動自動車や鉄道車両等の各種の輸送用機械等に適用される耐電食転がり軸受である。特に、軌道輪が電気的に外部に通じて、転動体に電流が流れ得る状態で使用される用途に有効である。
【0023】
図1に示すように、耐電食転がり軸受10(以下、単に軸受10と称する。)は、軸心が一致した状態に配置された環状の外方部材1及び環状の内方部材2と、外方部材1の軌道面1aと内方部材2の軌道面2aに介在する複数の転動体3とを備えている。転動体3は、環状を成す保持器4によって周方向に沿って一定の間隔で保持されている。この実施形態は、転動体3として玉を用い、軌道面1a,2aを断面円弧状とした深溝玉軸受である。
【0024】
以下、外方部材1及び内方部材2の軸心に沿った方向を「軸方向」と称する。軸方向は、図1及び図2において左右方向に相当する。また、図1及び図2において、左方向を軸方向一方又は単に一方と称し、右方向を軸方向他方又は単に他方と称する。さらに、軸心に対して直角な方向を「径方向」と称する。径方向は、図1及び図2において上下方向に相当する。また、軸心周りの円周方向を「周方向」と称する。
【0025】
外方部材1は、環状等の形状からなるハウジング(図示せず)の内径部に固定され、回転軸を軸回り回転自在に支持する。なお、このハウジングに代えて、ギヤ等の内径部に外方部材1が固定される場合もある。また、ハウジングやギヤ等の内径部が、それらの部材と一体で外方部材1を構成する場合もある。以下、この実施形態では、外方部材1を外輪1と称する。
【0026】
内方部材2は、回転軸(図示せず)の外径部に固定され、回転軸と一体に軸回り回転する。回転軸は、例えば、各種機械や各種機器における駆動力伝達経路の回転部、具体的には、電動自動車のモータの駆動軸や、各種自動車のトランスミッション、ドライブシャフト、プロペラシャフト等の回転部で構成される。以下、この実施形態では、内方部材2を内輪2と称する。
【0027】
外輪1の内径面と内輪2の外径面との間の環状空間には、周方向に沿って複数の転動体3が配置されている。この実施形態は深溝玉軸受であるので、転動体3として鋼製の玉(ボール)を採用している。また、外輪1の内径面と内輪2の外径面に形成された軌道面1a,2aは、図1及び図2の縦断面に示すように、玉に対応した円弧状断面となっている。転動体3は、環状の保持器4によって、周方向に沿って所定の間隔で保持されている。保持器4は金属製であるが、これを樹脂製としてもよい。なお、外輪1や内輪2は金属製であり、それに接触するハウジングや軸を通じて電気的に外部に導通している。このため、外輪1及び内輪2は、装置の運転状態によっては電流が流れる状態である。
【0028】
外輪1と内輪2との間には、複数のシール部材20,30,40が取り付けられている。これらのシール部材20,30,40が空間を仕切るグリースシールとして機能することで、環状空間内に第1空間と第2空間とが軸方向に沿って並列して形成されている。
【0029】
この実施形態では、シール部材20,30,40は、転動体3の軸方向一方側に配置される第1シール部材(以下、第1シール部材20と称する)と、転動体3の軸方向他方側に配置される第2シール部材(以下、第2シール部材30と称する)と、第2シール部材30よりも軸方向他方側に配置される第3シール部材(以下、第3シール部材40と称する)とで構成されている。第2シール部材30は、第1空間と第2空間とを油密に隔てている。また、第1シール部材20は第1空間の軸方向一方の端部を油密に閉じ、第3シール部材40は第2空間の軸方向他方の端部を油密に閉じている。油密とは、油が漏出しない状態であることを意味し、液密を含む概念である。グリースや潤滑油等の潤滑剤は、第1シール部材20、第2シール部材30及び第3シール部材40によって、その空間内から外部へ漏れ出ないように保持される。
【0030】
第1シール部材20、第2シール部材30及び第3シール部材40は、それぞれ金属板によって形成された環状の芯金22,32,42と、ゴム材によって形成された弾性体部21,31,41とが一体となって構成されている。ゴム材は、ゴム弾性を有する材料(エラストマ)のことをいう。ゴム材として、例えば、ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。弾性体部21,31,41は、芯金22,32,42と一体に鋳込み成形され、弾性体部21,31,41と芯金22,32,42とが加硫接着により固着した状態になっている。
【0031】
芯金22,32,42は、周方向全周に連続する円環状の板状部材で構成されている。芯金22,32,42の素材は、弾性体部21,31,41よりも剛性が高い素材であればよく、この実施形態では鋼板を採用している。鋼板はプレス加工等が容易であり加工性がよい。なお、芯金22,32,42の素材は、軸受の仕様条件が許す限り、他の金属や硬質の樹脂等でもよい。
【0032】
第1シール部材20及び第2シール部材30の弾性体部21,31は、その外径側端に全周に亘る基部23,33を、内径側端に全周に亘るシールリップ24,34を備えている。外輪1の内径面にシール溝1bが形成されている。基部23,33がシール溝1bに圧入されることにより、第1シール部材20及び第2シール部材30が外輪1に取り付けられる。また、第1シール部材20及び第2シール部材30のシールリップ24,34は、内輪2の外径面2b(以下、シールしゅう動面2bと称する)にしゅう接する。シールリップ24,34が接触するシールしゅう動面2bは、周方向全周に連続する円筒面状である。
【0033】
第3シール部材40の弾性体部41は、その内径側端に全周に亘る基部43を、外径側端に全周に亘るシールリップ44を備えている。内輪2の外径面にフラットな嵌合部2cが設定されている。基部43が嵌合部2cに圧入されることにより、第3シール部材40が内輪2に取り付けられる。また、シールリップ44は、外輪1の内径面1c(以下、シールしゅう動面1cと称する)にしゅう接する。シールリップ44が接触するシールしゅう動面1cは、周方向全周に連続する円錐面状である。この実施形態では、基部43の内径面に芯金42が露出しているが、芯金42は弾性体部41に完全に覆われている態様でもよい。また、この実施形態では、シールリップ44は軸方向へ二つのリップが並列するダブルリップとなっているが、これを単一のリップからなるシングルリップとしてもよい。
【0034】
ここで、図2において、第2シール部材30は軸受の端部から転動体側へ入り込んだ奥の方に配置されている。このため、仮にシールしゅう動面1cが円錐面状(テーパ形状)ではなく円筒面状(ストレート形状)であると、その組込みが難しいという問題が生じる。具体的には、仮にシールしゅう動面1cがストレート形状の場合、第2シール部材30の基部33がそのストレート形状のシールしゅう動面1cを圧入状態で軸方向に移動する必要がある。このような工程は、よじれや切れの原因となる。そこで、この実施形態のように、シールしゅう動面1cをテーパ形状として軸受の奥行方向に徐々に狭まる形状とすることで、第2シール部材30が配置しやすくなる。
【0035】
また、仮に、第3シール部材40をテーパ形状の面(実施形態では外輪1の内面)に対して圧入しようとすると、その圧入される側の部材(実施形態では外輪1)の寸法管理や圧入自体が難しく、圧入した後もテーパ形状であるため抜けやすいという問題が生じ得る。そこで、第3シール部材40を圧入する側を反対側の部材(実施形態では内輪1)とすることで、第3シール部材40をテーパ形状の面に圧入する事態を回避できる。なお、これを内外逆にして、テーパ状のシールしゅう動面を内輪2に備える態様として、第2シール部材30を内輪2側(テーパ状のシールしゅう動面を備える側)に固定し、第3シール部材40を外輪1側に固定する態様としてもよい。この構成によれば、第2シール部材30が外輪1及び内輪2の一方に固定され、第3シール部材40は外輪1及び内輪2の他方に固定され、すなわち、第2シール部材30の基部33と第3シール部材40の基部43が互いに異なる部材に対して固定されることで、第3シール部材40の固定構造をより強固なものとしている。
【0036】
また、第2シール部材30が備えるシールリップ34がシールしゅう動面2bにしゅう接し、第3シール部材40が嵌合部2cに圧入固定されるようにした場合に、シールしゅう動面2bと嵌合部2cは連続する同一円筒面で構成されているとよい。シールしゅう動面2bと嵌合部2cが連続する同一円筒面であれば、両者の間に段差や屈曲、湾曲がないので加工の工程を分ける必要がない。また、シールしゅう動面2bの加工はシール面の処理であり、もとより寸法形状精度が安定している。このため、それに連続する嵌合部2cの加工精度も必然的に高いものとなる。なお、実施形態を内外逆にして、テーパ状のシールしゅう動面を内輪2に備える態様とした場合は、第2シール部材30のシールリップ34がしゅう接するシールしゅう動面は外輪1に、第3シール部材40が備える基部43が固定される嵌合部は外輪1に備えられることになる。
【0037】
図3A図3B図3Cに、それぞれ第1シール部材20、第2シール部材30及び第3シール部材40が軸受に装着される前の状態を示す。第1シール部材20、第2シール部材30のシールリップ24,34は、いずれもシールしゅう動面2bに対する締め代をもち、そのシールリップ24,34が屈曲した腰部25,35で支持されている。軸受への装着時(図1及び図2参照)には、シールリップ24,34の先端がシールしゅう動面2bに押し付けられて、腰部25,35には、シールリップ24,34からの弾性曲げ作用が負荷される。また、第3シール部材40のシールリップ44は、径方向へ向かって直線状に突出する形態となっている。軸受への装着時(図1及び図2参照)には、シールリップ44の先端が屈曲することで締め代を生じさせている。
【0038】
転動体3は、第1空間のみに配置されている。転動体3が配置された第1空間には、潤滑機能を有する標準グリース(以下、第1のグリースと称する)が封入されている。また、転動体3が配置されていない第2空間には、導電性を有するグリース、すなわち、導電性を有さない第1のグリースよりも導電性が高いグリース(以下、第2のグリースと称する)が封入されている。
【0039】
このように、グリースシールを3箇所以上に設定して、外輪1と内輪2との間の環状空間内に第1空間と第2空間を設定することで、標準グリースと導電性グリースの二種類を、互いに仕切られた別々の空間で用いることができる。これにより、軌道輪間の導通状態を安定させ、転動体3と軌道輪との接触部分等、金属製部品への電食現象を抑制できるようになる。
【0040】
また、転動体3を有する空間に標準グリースを封入することで、電食防止を危惧する必要がない標準的な軸受と同等の寿命を確保することができる。また、転動体3を有さない空間にのみ導電性グリースを封入する構成とすれば、転動体3によるせん断作用が生じないため、導電性グリースの機能低下を防止できる。すなわち、潤滑用のグリースと通電用のグリースを別々の場所で用いることで、それぞれのグリースが持つ機能を最大限に生かすことができる。また、通常の軸受に対してシール部材を追加するだけで耐電食機能が発揮でき、部品点数の増加を最小限に抑制できる。また、一つの軸受10内に全ての部品を収めることができるので、装置等への組付けに際して通常の軸受と同様の取り扱い方法とすることができる。
【0041】
導電性グリースとしては、例えば、増ちょう剤にリチウム石鹸、導電性付与剤にカーボン、基油にポリαオレフィンで構成されたもの、又は、増ちょう剤にポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene,略称:PTFE)、導電性付与剤に黒鉛、基油にフッ素油で構成されたもの、又は、増ちょう剤にウレア、導電性付与剤にカーボンナノチューブ、基油にエステル油で構成されたもの等が挙げられる。導電性グリースは、体積低効率が、5.0×10(Ωcm)以下であるものが好ましい。
【0042】
ここで、第1シール部材20、第2シール部材30及び第3シール部材40のうち、少なくとも一つを、導電性を有する素材で構成された通電シールとすると、耐電食機能をさらに確実なものにできる。すなわち、通電シールを通じて、外輪1と内輪2の間をより確実に導通させることで、転動体3と軌道輪との接触部分等への電食現象の抑制がより効果的である。通電シールとしては、例えば、シールを構成するゴム材や樹脂に、導電性繊維を含有させたものが挙げられる。導電性繊維として、例えば、カーボン繊維が挙げられる。
【0043】
ここで、通電シールは、導電性を有している第2のグリースに接触していることが望ましい。すなわち、導電性グリースが封入されている空間に通電シールが面していれば、導電性能をさらに向上させることができる。ここで、特に、第3シール部材40のみを通電シールとすることがさらに望ましい。一般に、カーボンブラックはグリース等の寿命を短くする場合があるが、この構成によれば第2のグリースは転動体3には接触しないため、これらの寿命短縮の危惧を解消できる。
【0044】
以上のような構成により、軸受10の周辺で発生した電気は、例えば、外輪1から内輪2へは以下の導電経路を辿る。なお、内輪2から外輪1への通電は、下記(1)~(3)と逆方向となる。
(1)外輪1→第2のグリース(導電性グリース)→内輪2
(2)外輪1→第2のグリース(導電性グリース)→通電シール→内輪2
(3)外輪1→通電シール→第2のグリース(導電性グリース)→内輪2
【0045】
上記の実施形態では、転動体3として鋼製の玉を採用しているが、転動体3を他の金属素材やその他の素材としてもよい。また、上記の実施形態では、軸受10として深溝玉軸受を採用しているが、軸受10の種別はこの実施形態には限定されない。例えば、アンギュラ玉軸受等の他の玉軸受であってもよいし、円筒ころや円錐ころ等を用いたころ軸受、あるいは、それ以外の転がり軸受であってもよい。
【0046】
また、上記の実施形態では、オイルシールとして第1シール部材20、第2シール部材30及び第3シール部材40の三つのシール部材を設定したが、外輪1と内輪2との間の環状空間内に、少なくとも第1空間と第2空間の二つの空間を設定するものであれば、シール部材の数は自由に設定できる。例えば、外輪1と内輪2との間を結ぶ四つのシール部材を設定してもよいし、五つ以上のシール部材を設定してもよい。
【0047】
また、シール部材の種別も自由に設定できる。上記の実施形態では、ゴム材等からなる弾性体部と金属製の芯金とが一体となったシール部材を採用したが、芯金を省略した弾性体部のみからなるシール部材も考えられる。
【符号の説明】
【0048】
1 外方部材(外輪)
2 内方部材(内輪)
2b シールしゅう動面
2c 嵌合部
3 転動体
4 保持器
10 耐電食転がり軸受(軸受)
20 シール部材(第1シール部材)
30 シール部材(第2シール部材)
40 シール部材(第3シール部材)
図1
図2
図3A
図3B
図3C