(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179458
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】単層カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/162 20170101AFI20241219BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C01B32/162
B01J23/46 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098316
(22)【出願日】2023-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆浩
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB06
4G146BA11
4G146BA49
4G146BB09
4G146BB12
4G146BB15
4G146BB22
4G146BB23
4G146BC02
4G146BC21
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC42
4G169AA03
4G169BA02B
4G169BB02B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BD05B
4G169CB81
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169FB02
(57)【要約】
【課題】単層カーボンナノチューブをより簡便に得ることができるカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】単層カーボンナノチューブの製造方法は、エタノール32B中において、Ir(イリジウム)で形成された粒子52を表面側に担持した基板50の温度を昇温させて、粒子52から単層カーボンナノチューブCを合成する合成工程を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機液体中において、Ir(イリジウム)で形成された粒子を表面側に担持した基板の温度を昇温させて、前記粒子から単層カーボンナノチューブを合成する合成工程を備える、単層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記合成工程における前記基板の温度は、700℃以上、820℃以下である、請求項1に記載の単層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記合成工程を実行する時間は、5分以上である、請求項1又は請求項2に記載の単層カーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単層カーボンナノチューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Si(ケイ素)の基板の表面にFe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)のうちいずれかの薄膜を形成し、この基板をメタノール等の有機液体に浸漬したうえで加熱することによって中空多層のカーボンナノチューブを製造する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された製造方法は、所謂、液相法である。液相法は、装置が単純で、大気圧中でカーボンナノチューブを製造することができ、簡便である。しかし、液相法では、単層カーボンナノチューブを製造することが困難であり、簡便な液相法で単層カーボンナノチューブを製造する技術が望まれている。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、単層カーボンナノチューブを容易に得ることができる単層カーボンナノチューブの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の単層カーボンナノチューブの製造方法は、
有機液体中において、Ir(イリジウム)で形成された粒子を表面側に担持した基板の温度を昇温させて、前記粒子から単層カーボンナノチューブを合成する合成工程を備える。
【0007】
本発明によれば、従来、単層カーボンナノチューブを製造することが困難とされていた液相法によって、単層カーボンナノチューブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の単層カーボンナノチューブの製造方法の手順を示す概略図である。
【
図2】実施例1の単層カーボンナノチューブの製造方法に用いる合成装置を示す概略図である。
【
図3】合成工程における基板の温度を変更して作製されたサンプル1からサンプル3におけるラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図4】合成工程における基板の温度を変更して作製されたサンプル4からサンプル6におけるラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図5】合成工程を実行する時間を変更して作製されたサンプル7からサンプル9におけるラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図6】合成工程を実行する時間を変更して作製されたサンプル10からサンプル12におけるラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図7】粒子形成工程において、パルスアークプラズマガンの放電回数を変更して作製されたサンプル13、12、14におけるラマンスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
単層カーボンナノチューブの製造方法において、合成工程における基板の温度は、700℃以上、820℃以下であり得る。この場合、良好に単層カーボンナノチューブを製造することができる。
【0011】
単層カーボンナノチューブの製造方法において、合成工程を実行する時間は、5分以上であり得る。この場合、確実に単層カーボンナノチューブを製造することができる。
【0012】
次に、本発明の単層カーボンナノチューブの製造方法を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
<実施例1>
実施例1の単層カーボンナノチューブの製造方法は、先ず、基板50を洗浄する洗浄工程を実行する。基板50は、Siで形成されており、平板状をなしている(
図1(A)参照。)。基板50は、所定の抵抗値を有しており、電流を流すことによって発熱する。基板50の外形は、およそ5mm×30mmの長方形である。基板50の表面は、
図1(A)における上側の面である。
【0014】
洗浄工程では、基板50をアセトンに浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄して乾燥させる。次に、基板50をメタノールに浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄して乾燥させる。その後、基板50を純水に浸し、超音波洗浄機を用いて5分間洗浄して乾燥させる。これにより、基板50の表面に付着したごみ等の異物を基板50の表面から取り除く。こうして、洗浄工程を実行する。
【0015】
次に、洗浄工程を実行後、基板50の表面にSiO
2膜51を形成する酸化膜形成工程を実行する(
図1(B)参照。)。酸化膜形成工程は、基板50を所定温度に加熱した酸化炉内に所定時間配置して保持する。これにより、基板50の表面にSiO
2膜51を形成する。
【0016】
次に、酸化膜形成工程を実行後、SiO
2膜51の表面に粒子状のIr(イリジウム)を形成する粒子形成工程を実行する(
図1(C)参照。)。具体的には、パルスアークプラズマガン(アドバンス理工製 APD-S)を用い、基板50の表面に形成されたSiO
2膜51の表面に、触媒として作用する粒子状のIrを蒸着して粒子52を形成する。Irの蒸着を実行する条件は、放電電圧、放電回数、放電間隔であり、各々所望の値に調整することができる。
【0017】
パルスアークプラズマガンは、一回放電する毎にプラズマ化した粒子状のIrを複数放出する。放出された粒子状のIrは、SiO2膜51の表面に複数の粒子52として担持される。そして、さらにもう一回パルスアークプラズマガンを放電すると、SiO2膜51の表面に先に担持された粒子52に粒子状のIrがぶつかって一体化し、粒子52の粒径が大きくなる。つまり、パルスアークプラズマガンの放電回数を増やすと、その放電回数に応じて粒子52の粒径が大きくなる。
【0018】
放電電圧を100V、放電回数を8回、放電間隔を1秒とした。粒子52の平均径は、およそ1nmから3nmである。こうして、粒子形成工程を実行し、SiO2膜51の表面に粒子状のIrである粒子52を形成する。
【0019】
次に、粒子形成工程を実行後、基板50の表面に単層カーボンナノチューブCを合成する合成工程を実行する(
図1(D)参照。)。合成工程では、
図2に示す合成装置30が用いられる。合成装置30は、水槽31、反応槽32、冷却部33、温度検知部34を有している。水槽31は、上側が開放された容器である。水槽31には、水31Aが入れられている。水31Aの温度は、例えば、10℃である。
【0020】
反応槽32には、上向きに延び、上端が開放された複数の管32Aが形成されている。反応槽32には、有機液体であるエタノール32Bが入れられている。また、エタノール32Bには、Irで形成された粒子52が担持された基板50が浸されている。基板50における互いに反対に位置する端縁には、Cu(銅)で形成された電極板53が取り付けられている。各電極板53には、電線54が接続されている。各電線54は、管32Aを塞ぐ栓32Cを介して外部に引き出されている。外部に引き出された電線54の各端部は、例えば、公知の直流電源装置55に接続されている。反応槽32は、各管32Aが水没しないように水31Aに浸されている。
【0021】
冷却部33には、例えば、リービッヒ冷却管が用いられる。冷却部33には、流入口33Aを介して水が流入し、流入した水が流出口33Bから流出する構成である。この水には、例えば冷却された水道水が用いられる。
【0022】
温度検知部34には、例えば、公知の熱電対が用いられる。温度検知部34は、エタノール32Bに浸された基板50の表面に取り付けられている。温度検知部34に接続された電線34Bは、冷却部33を介して外部に引き出されている。外部に引き出された電線34Bは、例えば図示しない表示装置に接続されており、表示装置によって温度検知部34が検知した温度を表示し得る構成とされている。
【0023】
反応槽32には、栓32C、及び冷却部33が取り付けられていない管32Aを介してN2(窒素)が供給される構成である。管32Aを介して供給されたN2(窒素)は、冷却部33を介して外部に放出される構成である。例えば、反応槽32へのN2の流入量は、100sccmである。このように、合成装置30は構成されている。反応槽32に流入したN2は、冷却部33及び冷却部33が取り付けられた管32Aを介して外部に排出される。
【0024】
合成装置30を用いて、エタノール32Bを炭素源とした合成工程を実行する。基板50に直流電源装置55から直流電圧が印加されていない状態において、エタノール32B、及びエタノール32Bに浸された基板50の温度は、水31Aの温度とほぼ同じである。
【0025】
エタノール32Bに浸された基板50に直流電源装置55から直流電圧を印加する。これにより、基板50に直流電流が流れ、基板50自身が発熱し、室温から所定温度に昇温する。基板50が室温から所定温度に昇温する時間は、およそ10分である。基板50の温度は、流れる電流が増えるほど高くなる。そして、基板50の温度が所定温度になった状態を所定時間維持する。このとき、基板50によってエタノール32Bは沸騰して蒸気となり、この蒸気が冷却部33において冷却され、液化される。このため、エタノール32Bは、外部に漏れにくい。
【0026】
このように、エタノール32B中において、基板50の温度を所定温度に昇温することによって、各粒子52から単層カーボンナノチューブCが延びるように合成される(
図1(D)参照)。そして、所定時間経過後、基板50に対する直流電圧の印加を停止し、エタノール32B及び基板50の温度を室温まで降温させ、複数の単層カーボンナノチューブCが合成された基板50を反応槽32から取り出す。
【0027】
[合成工程における基板の温度についての検討]
図3、4に、実施例1の製造方法を用い、合成工程における基板50の温度を700℃、720℃、750℃、775℃、800℃、820℃の6種類に変化させて作製したサンプル1からサンプル6に対して、532nm、671nm、785nmの3種類の波長の光を照射した際に得られたラマンスペクトルを示す。各サンプルにおける、基板50を所定温度に保持する時間は5分である。なお、各サンプルにおいて、100cm
-1から500cm
-1の範囲のグラフを上段に示し、1100cm
-1から1800cm
-1の範囲のグラフを下段に示す。
【0028】
図3(A)、(B)、(C)、
図4(D)、(E)、(F)に示すように、サンプル1からサンプル6の各々において、1100cm
-1から1800cm
-1の範囲のグラフ(高波数領域)には、G-bandのスペクトルのピークが明瞭に現れている。このため、合成工程における基板50の温度を700℃から820℃にすることによって、単層カーボンナノチューブCが合成されていると考えられる。
【0029】
そして、
図3(B)、(C)に示すように、100cm
-1から500cm
-1の範囲のグラフ(低波数領域)の200cm
-1から400cm
-1付近には、複数のRBM(ラジアルブリ―ジングモード)のスペクトルのピークが現れている。以上の結果から、サンプル2とサンプル3に単層カーボンナノチューブCが成長していることがわかる。また、RBMのスペクトルのピークの位置から、サンプル2とサンプル3における単層カーボンナノチューブCの直径は、概ね0.7nmから0.9nmの間に分布していることがわかる。以上の結果から、合成工程における基板50の温度は、700℃以上、820℃以下にすることが好ましく、720℃以上、750℃以下がより好ましい。
【0030】
[合成工程における時間についての検討]
図5、6に実施例1の製造方法を用い、合成工程において基板50を所定温度に維持する時間を1分、3分、5分、10分、30分、60分の6種類に変化させて作製したサンプル7からサンプル12において、532nm、671nm、785nmの3種類の波長の光を照射した際に得られたラマンスペクトルを示す。各サンプルにおける基板50の温度は、720℃である。なお、各サンプルにおいて、100cm
-1から500cm
-1の範囲のグラフを上段に示し、1100cm
-1から1800cm
-1の範囲のグラフを下段に示す。
【0031】
図5(G)、(H)、(I)、
図6(J)、(K)、(L)に示すように、サンプル7からサンプル12の各々において、1100cm
-1から1800cm
-1の範囲のグラフ(高波数領域)には、G-bandのスペクトルのピークが明瞭に現れている。このため、合成工程において基板50を所定温度に維持する時間を1分から60分にすることによって、単層カーボンナノチューブCが成長していると考えられる。
【0032】
そして、
図5(I)、
図6(J)、(K)、(L)に示すように、100cm
-1から500cm
-1の範囲のグラフ(低波数領域)の200cm
-1から300cm
-1付近には、複数のRBM(ラジアルブリージングモード)のスペクトルのピークが現れている。以上の結果から、サンプル9、10、11、12に単層カーボンナノチューブCが合成されていることがわかる。また、RBMのスペクトルのピークの位置から、サンプル9、10、11、12における単層カーボンナノチューブCの直径は、概ね0.7nmから0.9nmの間に分布していることがわかる。以上の結果から、合成工程を実行する時間は、5分以上が好ましい。なお、合成工程を実行する時間は、長くなるにつれ単層カーボンナノチューブCがより良好に成長すると考えられる。このため、合成工程を実行する時間が60分以上であっても単層カーボンナノチューブCが良好に合成されると考えられる。
【0033】
[パルスアークプラズマガンの放電回数についての検討]
次に、パルスアークプラズマガンの放電回数について検討を行った結果を説明する。上述したように、パルスアークプラズマガンの放電回数を増やすと、その放電回数に応じて粒子52の粒径が大きくなる。このため、粒子52の粒径が単層カーボンナノチューブCの合成に及ぼす影響について検証した。
図7に実施例1の製造方法を用い、粒子形成工程においてパルスアークプラズマガンの放電回数を4回、8回、16回の3種類に変化させて作製したサンプルを用いて合成工程を実行し、532nm、671nm、785nmの3種類の波長の光を照射した際に得られたラマンスペクトルを示す。各サンプルにおける基板50の温度は、720℃であり、基板50を所定温度に保持する時間は、60分である。なお、各サンプルにおいて、100cm
-1から500cm
-1の範囲のグラフを上段に示し、1100cm
-1から1800cm
-1の範囲のグラフを下段に示す。放電回数が8回のサンプルは、
図6(L)に示すサンプル12と同一である。
【0034】
図7(M)、(L)、(N)に示すように、サンプル13、サンプル12、サンプル14の各々において、1100cm
-1から1800cm
-1の範囲のグラフ(高波数領域)には、G-bandのスペクトルのピークが明瞭に現れている。このため、粒子形成工程におけるパルスアークプラズマガンの放電回数を4回から16回にすると、単層カーボンナノチューブCを合成することができると考えられる。
【0035】
そして、
図7(L)に示すように、100cm
-1から500cm
-1の範囲のグラフ(低波数領域)の200cm
-1から300cm
-1付近には、複数のRBM(ラジアルブリ―ジングモード)のスペクトルのピークが現れている。以上の結果から、パルスアークプラズマガンの放電回数を8回にすると単層カーボンナノチューブCが良好に成長していることがわかる。以上の結果から、粒子形成工程におけるパルスアークプラズマガンの放電回数は、8回が好ましい。なお、粒子形成工程におけるパルスアークプラズマガンの放電回数を7回から10回としても単層カーボンナノチューブCが良好に成長すると考えられる。
【0036】
次に、上記実施例における作用効果を説明する。
【0037】
単層カーボンナノチューブの製造方法は、エタノール32B中において、Ir(イリジウム)で形成された粒子52を表面側に担持した基板50の温度を昇温させて、粒子52から単層カーボンナノチューブCを合成する合成工程を備える。この構成よれば、従来、単層カーボンナノチューブCを製造することが困難とされていた液相法によって、単層カーボンナノチューブCを得ることができる。
【0038】
単層カーボンナノチューブの製造方法において、合成工程における基板50の温度は、700℃以上、820℃以下である。この構成によれば、良好に単層カーボンナノチューブCを製造することができる。
【0039】
単層カーボンナノチューブの製造方法において、合成工程を実行する時間は、5分以上である。この構成によれば、確実に単層カーボンナノチューブCを製造することができる。
【0040】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1とは異なり、有機液体としてメタノールを用いてもよい。
(2)実施例1とは異なり、基板として、炭化ケイ素等を用いてもよい。
(3)パルスアークプラズマガンに限らず、Irを蒸着できる装置を用いればよい。
【符号の説明】
【0041】
20…Ir(イリジウム)
32B…エタノール(有機液体)
50…基板
52…粒子
C…カーボンナノチューブ